初恋の相手は、ありえないことに男の人だった。
病に倒れてから、日常はただ時間が経過していくだけの退屈なものに変わってしまった。身体は思うように動かないし、思考もなんだか頭が重くて回りにくい。副作用のせいだ。俺の身体は、俺が思っていた以上にボロボロになっている。
外されることのない精密機器のせいでスマホまで没収されてしまって、することは何も無くなった。本なんて読んでいたら眠くなる。窓から見える空は真っ青なのに、もう寝てしまうのは勿体ない気がした。
そんな俺のもとを毎日訪れる人がいた。面会終了時刻ギリギリに、病室のドアを叩くその人は、仕事が忙しいはずなのに欠かさず病室に通ってくれている。
声帯が麻痺している俺の代わりに、その人は世間話とか、どうでもいい日常の一コマとかを一人で話してくれる。時にはリンゴを剥きながら、時には窓の外をぼうっと見つめながら。その横顔を見るだけで、元気が出てくる気がした。依然身体は動かないままだけど。
声が戻ったら、一番に話をしたい人。身体が動くようになったら、一番に抱きつきたい人。24時間取り付けられた器具のせいで、鼓動が早くなるのをリアルに捉えさせられる。あの人のことを考えるだけで、無機質な機械音の鳴る感覚がどんどん短くなっていく。
この感情はバレバレかもしれない。こんなに脈が速いのは勿論伝わっていて。別に心臓の病気ではないんだから。
でも、いつか、この口で、この声で。
"好きです"って、伝えるんだ。