ふっと笑いながら天王寺は続けて言った。
「まぁ〜、俺が簡単に湯槽に入らせるわけないだろ? 56番」
「それくらいわかっているさ、アンタがクズだって」
「クズで結構、俺はお前らが苦しむことさえ見られればいいんだ」
大熊さんはここに長くいるだけあって天王寺の事なんてお見通しなんだろう。
浴槽に入ってすぐ、ソフトクリーム風呂だってわかったのだから。
「そ、それにしても寒いなぁ.....」
天王寺や大熊さんが話していたから気付かなかったが、改めて寒いことに気付いた。
横の手摺から入ってきた男共も寒い寒いと言っている。
皆がそう言うと、天王寺はまたにやっとする。
コイツの前だったら強がっていた方がいいかもしれない。ずっと苦しんだり天王寺の考え通りのまま過ごしていると、なんだか天王寺に負けた気がして腹立つ。
――はい、時間だ風呂から上がれ!
椅子に脚を組みながら言う天王寺の声を聞いて、そそくさと脱衣場に向かう奴隷達。
俺もそそくさとタオルを絞って浴場に入る。
雑巾のようなタオルと竹籠を使って、皮膚やら毛やらを拭いていく。
シルクのような感触を求めている訳じゃないが、さわり心地が悪い。
仕方ないので、俺は黙々と皮膚を弾いた水分を拭き取っていった。
看守のおじさん? 帽子を深く被っていて素顔が見えないが雰囲気や声でおじさんなのは
理解した。その人にがちゃっと鍵を掛けられた。
少しずつ消えていく時間の感覚のせいで、今は何時か分からない。
おそらく、今は夜のゴールデン番組が放映中の事と思われる。
遊ぶものはないため、歯磨きをして、、、寝るしか.....
とはいえ、歯磨きをすることは出来ないため、部屋にあるトイレの水を、吸うようにして口に含ませる。
次に、ぐちゅぐちゅと咀嚼するように口腔に水をなじませる。
そして、べっと口に含ませた水をまた便器に戻す。
フッ素いりの歯みがき粉というものも、歯ブラシもないために口で水を濯ぐくらいしか出来ない。
トイレの水だから、汚いという気持ちはあった。
でも―― でも――
固くて綿も何もない汚い床で、俺は長いような、短いような1日を終えた。