いつしか、銃声は聞こえなくなり、風音と米兵の呻き声や罵声のみが塹壕内に響きわたるだけになった。日本軍は機敏で、大勢の米兵が殺到した頃には煙のように消えてしまっていた。いくつかの分隊は、悔しさを噛み締めながら負傷者の応急処置をしている。アーネスト・パターソン軍曹の分隊もその一つであった。だだ、彼の分隊は、死体の回収も行なっていたが。この分隊に所属しているジェラルド・ホランド一等兵は、頭を吹き飛ばされたムーア一等兵の死体を運ぶことになった。彼は、原型を留めていないムーア一等兵の頭に触れると、すぐに手を離して、口元を押さえた。飛び出した脳みそや、死体独特の臭い、血のヌメヌメっとした感触は、まだ軍人になって間もないホランド一等兵を嘔吐させるには充分であった。そんな彼を見かねて、この分隊の数少ない古参兵であるバトラー伍長は、
「ホランド一等兵、俺が変わるよ。ちょっと休んどけ」
と言って、彼の腕を掴んで、下がらせると、血まみれの死体を手慣れた様子で担ぐと、陣地の奥の方へ運んでいった。
死体や重傷者を見て吐き出したり、発狂する新兵は、ホランド一等兵だけではない。死体や重傷者と生身で触れることに慣れていないものは、本土でいくら大言壮語を吐いていても、嘔吐してしまうものだ。だから、パターソン軍曹は、新兵たちは軽傷者に回して、古参兵たちに死体や重傷者を任せることにした。ここペレリューでの戦闘では、古参兵すら1000ヤードの凝視をしているぐらいだ。新兵など、簡単にそうなってしまうだろう。ともかく、辛い作業から解放された新兵たちは、
「なかなか話がわかるじゃないか、うちの軍曹は」
などと軽口を叩きながら軽傷者たちの所へ向かった。
>>487
やあ(´・ω・`)
>>488でも見ていってくれ