>>36,38 【嘲笑う標的】
俺には超能力がある、と言って、信じる人間はどれぐらい居るだろう。
例えば俺の両親でも、こんなこと信じないだろう。
例えば俺の親友でさえも、信じてくれる訳ない。この能力は、きっと誰にも言えずに、俺だけの知るものとして消えていくのだろう。
俺が手に入れた能力。それは超能力というよりも、呪いの様なものだった。
俺が相手に対する、負の感情。たとえば、怪我をしてしまえ、だとか、死んでしまえ、だとか。そういった感情を、どんな形で相手に訪れるのか、それを事細かに想像するだけ。
それだけで、想像した通りの事が相手に起きる。どんなことでも。
この能力に気付いたのは、つい最近だった。
社会人になりたての俺。そんな俺についた上司は、本当に嫌な奴だった。
周りからの評判も悪いのに、社長などには良い顔をしていて、そのくせ俺には嫌がらせをするような奴。
そいつに言われた、「居ない方がいいんじゃないのか」という言葉は、今でも脳裏に焼き付いている。
それを言われた時は、s子までの怒りを感じて居なかった。けれど時間がたてばたつほど、苛立ちは大きくなった。
帰り道、クラクションを鳴らした大型トラックを見て、思ったのだ。
「あいつなんて死んでしまえばいい」と。
城氏が引かれる所を想像して、少しだけ苛立ちが落ちついた。何度も何度も、その上司が死ぬ所を考えた。
そして次の日、上司は会社へ来なかった。
そして知らされた上司の他界の知らせ。大型トラックに轢かれる、不慮の事故。
まるで俺が考えたままの、死に様だった。
「…ほんと、すっきりしたなあ」
俺は一人、つぶやき、笑みをこぼした。そしてゆっくりと立ち上がり、家を出た。太陽光が目にしみて、目を細める。
近くのコンビニへ行く途中、親友が信号の前で立っているのを見つけた。
「あ、おーい!!」
声を掛けようとしたとき、親友の背中を誰かが押した。いや、正確には誰もいない。けれどまるで押されたかのように、前のめりに倒れこんだ。
俺はすぐに親友の元に走って、助け起こした。その瞬間に、スピードを落とさないまま、目の前を車が通り過ぎた。
もし、俺が、助けていなかったら、親友がどうなっていたか。考えただけでも、ぞっとした。
「おい、大丈夫か!?」
俺が大きく親友に問いかける。親友は、がたがたと体を震わせていた。
「誰かに、背中を、」
誰もいなかった。そんなことを、伝える事は出来なかった。
とりあえず、病院に付き添って、少しだけ落ちついた様子の親友を、なだめた。
「危ないから送ってやるよ」と、俺は帰路へついた。
そして、さっきの信号。また赤く光っている信号機の前で、立ち止まる。
「本当に危なかったよなぁ。」
俺がそう言うと、親友は言った。
「あの時、俺、聞こえ…たんだ。」
「…え?」
「聞こえたんだ…!!お前も、おまえもこいって、おまえもこいって!!」
怯え、震え、泣きながら、親友がわめいた。
そして次の瞬間、親友は目の前から消えていた。何かに引っ張られるように、車道へと、引っ張られていった。
大きなクラクションが鳴った。鈍い音がなった。向かいで待っていた人達から、悲鳴が上がった。
俺は何もできず、立ち尽くす事しかできずにいた。
ああ、気付いてしまった。
俺はあの時、想像してしまったのだ。
「もし轢かれていたらどうなっていただろう」と。
この能力は、負の感情を読み取っていたんじゃない。ただ、人間が死ぬ場面を想像しただけで、それが現実になるのだ。
俺が手に入れたのは超能力なんかじゃない。悪魔の力だ。
「俺が、殺した、の、か?」
体中から気持ちの悪い汗がわき出した。一歩後ずさりすると、クシャ、と、何かを踏んだ音。
地面を見ると、白いユリの花が飾られていた。
置かれたユリの花。思い出した。ここは、上司が轢かれた場所だ。
微かになる、風の音に紛れて、声が聞こえた。
「次は、お前だ」
その声は、俺を、嘲笑っていた。
ありがとうございますm(__)m✨
ホラーのゾクゾクとする怖さがあり超能力者というSFの話も上手く入っていてすごく楽しく読めました、最高です!