先ほどから気になっている彼女は一切反応という反応を見せてくれず、こちらをちらりと一瞥することはおろか、夕焼け空を縫い付けるような飛行機雲が浮かんでいる遠くの空を弛緩きった表情で見つめている。
「……ああ、今にも倒れそうだ」
まるで一つの劇のように、ひどく咳き込ませ「怠い、熱が出たかもしれない」ともう一度彼女に伝えるように言ったのだが、彼女はそれでも遠くのほうを見つめている。
男はとても不快な気持ちになり、「……君」と口を開いて肩を叩いた。
「……なんでしょう?」
「人が今にも倒れそうだというのに薄情な奴だな」
男は彼女に好意を寄せていたことなんてすっかり忘れ、顔を仏頂面にしていかにも不機嫌だというように喉の奥を大きく鳴らし、少し鋭い目でいう。
彼女は、一度男から視線を外し地面に投げかけた。
「うむ」腕を組み足を己の太ももの上に乗せ思考を巡らせ熟考させる。男女はどことなく顔を向けあったのだが、一切目は合わない。互いに口を開かないでいると、「……そうですね」と女が呟き薄気味悪い笑みを作った。