「貴方は自分の演技力というものに過信を持ちすぎたようですね? はは、そんなもんで一つの舞台で踊るような演劇者の気持ちになられちゃ困る。演劇者は最後まで己の劇を通すものである。途中でやめたりするだなんてもってのほかだ」
にこりと、食事の後を珈琲で締めくくるように笑顔で最期を飾れば男は酒を飲んだように顔を真っ赤にさせ口をはくはくと何度も開け大きく狼狽える。
そして、震えながら指をさし「なんていやらしい奴だ! とても不愉快きまわりない! ああ、貴様のようなことを世間様は愚者と呼ぶのだな!」と大声で吐き捨てふんっと鼻を鳴らしベンチから立ち上がって、わかりやすく靴音を鳴らして踵を返した。
「……さて……愚者はどちらだろうか」
ぼんやりと、彼女は外套を見つめ、先ほどの出来事を頭の中で描かせた。
彼女は運よく追手に合わずに済んだ。
先ほどまで、路地裏で大きく銃声を響かせ、殺し合いを繰り広げていた。兄という立場を立ち続けている男から誕生日プレゼントとしてお揃いの外套を貰ったのだが、それは銃撃戦で赤い染みを作り馨しい匂いを放っていた。
丁度、立ち寄った姐さんと慕われている女、如月琴葉と視線が交り、背中に羽織っていた外套を見られ気まずさともまた訳が違うのだけれどもなんとなく重苦しい気おくれを感じて隠れるようにして顔をくしゃりと歪な形になるようにしかめた。
しかし、それでも思苦しく感じ彼女は彼方の地平線で橙色と紫色が争っているのを憎たらしく双眸を当て強く睨みつけたのだった。