Episode 1
人は誰でも幸せになりたがっている。
人が幸せになりたい思うのはごく自然なこと、幸せは人それぞれ違うものだが自分の人生をより良くしたいと言う点は共通するだろう。
そして俺は特にその思いが強いと自覚している。俺だけは幸せに生きて幸せに死んでやる。
人生は一度だけ、二度目はない。だからハッピーエンドで終わりたい、後悔とかしたくない、バッドエンドは見たくない。
最後の瞬間に『ああ、よかったな』と、そう思える終わりかた、それが俺の考える最高の人生ってヤツ。
俺がそう思うようになったのは俺の親族や近所の人に幸せなヤツがいないから、例を挙げると過労死、自己破産、離婚、詐欺、それに一家心中ととにかく幸せなヤツがいない。かくいう俺も2週間前に自宅が全焼してるし、今だって変な奴に襲われそうだし。
「やっぱ呪われてるんだな」
自嘲気味に呟き、俺は顎髭を生やした20代ぐらいの男へと視線を向ける。異形、それが真っ先に浮かんだ男の第一印象、この男の右腕は怪物のそれだ。夜の暗闇の中、街灯の光に照らされているせいか余計に怪物じみて見える。
彼の異様に大きな右腕は赤熱し湯気を立ち上らせている、その姿はまさしく茹で上がったシオマネキだ。
「……こいつに話が通じるとは思えないな」
こいつが何なのか俺にはさっぱり分からない、ただ一つはっきりしている事はこいつが人を殺したと言うこと、男の足元に転がる死体を見やり思案する、さてどうしたものか。
逃げる? 戦う? 助けを呼ぶ?
逃げる、自身の生存だけを考えるなら最良の選択。だが俺がここで逃げたら他の誰かが犠牲になる、もしそんなことがあれば俺は一生罪悪感に苛まれる、そんなのは嫌だ。
戦うと言う選択は愚の骨頂だろう、成人男性と喧嘩して勝てる保証はどこにもない、その相手が怪物の腕を持っているならなおさらに。
助けを呼ぶ、悪くないが一般市民にどうにか出来る相手なのか?
警察ならなんとか出来るかも知れないが警察に怪物が暴れていると通報してもまず信じてもらえない、信じてもらえたとしても到着するまでに殺られる可能性だってある。
それよりも今は相手を観察すべきだ、彼を知り己を知れば百戦殆うからずと言う言葉もあるくらいだ。相手をよく見ろ、そして見つけ出せこの状況を打開する策を。
見たところ怪物化しているのは右腕だけ、その右腕は筋肉が発達し左腕三本分の太さがある、色は見る者に熔岩を連想させるような赤。
口からは何か呻き声のようなものを漏らしているがこの距離では聞き取れない。
一歩、二歩、三歩怪物はゆっくりと俺の方へ歩みよる、数歩下がろうとしたその時だった。
「——っ!、——ガハッ」
奴の赤熱した拳が目の前にあったかと思えば凄い速さで遠ざかる、それとほぼ同時胸と背中に強い衝撃が走る。
吹き飛ばされ背後のブロック塀に叩き付けられたのだと理解するには数瞬の時間を要した。
Episode 1
人は誰でも幸せになりたがっている。
人が幸せになりたい思うのはごく自然なこと、幸せは人それぞれ違うものだが自分の人生をより良くしたいと言う点は共通するだろう。
そして俺は特にその思いが強いと自覚している。俺だけは幸せに生きて幸せに死んでやる。
人生は一度だけ、二度目はない。だからハッピーエンドで終わりたい、後悔とかしたくない、バッドエンドは見たくない。
最後の瞬間に『ああ、よかったな』と、そう思える終わりかた、それが俺の考える最高の人生ってヤツ。
俺がそう思うようになったのは俺の親族や近所の人に幸せなヤツがいないから、例を挙げると過労死、自己破産、離婚、詐欺、それに一家心中ととにかく幸せなヤツがいない。かくいう俺も2週間前に自宅が全焼してるし。
「やっぱ呪われてるんだな」
自嘲気味に呟き、目の前の空き地へと視線を向ける。
ここに2週間前までは家があったとは思えないほどきれいな空き地。季節が冬と言うこともあって雑草の類いはそれほど生えていない、そのせいで捨てられたゴミがよく目立つ。
なんか腹が立ってきた、今は空き地とは言え元は俺の家、勝手にゴミを捨てるな。
俺としては今すぐ拾って綺麗にしたいのだがゴミ袋は無いし、近くにゴミ箱も無い。それにそろそろ呼び出しがある頃合いだ。
「正午か……そろそろだな」
スマホの地図でここからあいつの学校までの最短ルートを確認する。あいつの学校は女子校だ。男の俺には無縁な場所、普段女子校なんて行かないから道はちゃんと調べておく、道に迷って無駄に体力を消耗する事だけは避けたいし。
見たところ最短のルートはアップダウンも少なそうで走りやすそうじゃないか。
とそんな事を思っていたらメールの着信音が鳴った、時刻は12時3分、予想通りだ。
メールの内容は『星学の校門前に今すぐ来い』
「了解っ」
俺はすぐスマホの電源を切ってジャージのポケットに突っ込む、靴紐をチェックし軽くストレッチ、どこかで鳴ったクラクションを合図に走り出した。別に走るのが得意とか好きと言うわけではない、なんとなく走りたいから走っているのだ。