其ノ世界ノTrueEND. -prototype-

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1:越後:2017/06/30(金) 23:17

今後実際に執筆していこうと考えている作品のプロトタイプとなります。
VRMMOものです。お暇な方はどうぞ、暇潰しに使ってやって下さい。
感想、アドバイスも気軽にお願い致します。

2:越後:2017/06/30(金) 23:27

prologue[Epilogue is prologue]
時は2033年。
この年、全世界があるゲームの発売を待ち望んでいたと言っても過言ではないだろう。
『Garactical*HighEND-Online-』。
一作目が約十年前に発売されて以降、全世界で絶大な人気を誇っているゲーム、その5作目にして初のVRMMORPGである。
そのサービス開始が、目前に迫っていた。
今日は4月5日。時刻は午前9時前。サービス開始まで10分足らずに迫っていた。
既に購入を終えている者は、その瞬間を今か今かと待ち続ける。
だが、
そんな彼らも、
どんなメディアも、
世界中の全ての人々でさえ。
想像することの出来なかった方向へと、このゲームは進んでいくこととなる。

その刻<とき>は、ほんの1ヵ月先まで迫っていた。

3:越後:2017/07/01(土) 09:25

Chapter l [5-5]

この日、2033年5月5日。
『Garactical*HighEND-Online-』、通称<GHO>は、サービス開始から一ヶ月を迎えた。
やはり一ヶ月も建てばゲーム内の状況と言うのも固まってくるもので、このゲームに導入されているプレイヤーランキングの上位10人程は、完全に固定化されていた。
その中でも、特に1位の者はずば抜けており、2位との差も凄まじいものとなっていた。

                ◇

無機質な空間に、喧<やかま>しい金属音が響く。
GHOの舞台となっているこの空間は、宇宙のとある惑星を覆うように作られたコロニー、ということになっている。その惑星を目指しやってくる敵をコロニー内で倒し、侵入を防ぐのがこのゲームの第一目標だ。
「はぁ...ったく、そろそろデカイの来てもいいと思うんだがなぁ...。この一ヶ月同じ奴しかスポーンしてねぇんじゃないか?」
そんな目標に今最も貢献しているであろう人物。その彼が、溜め息混じりに呟いた。
αテスト、クローズドβテストの両方に参加、登録ID[00001]を獲得し、その実力から全プレイヤーの中で最も早く運営から二つ名称号を貰った男、ランキング1位、<原初の光輪(デフォルター)>、プレイヤーネーム[Begin]である。
「そろそろ帰るかなぁ...っと危ね、<撃鐵(ゲキテツ)>」
背後から襲い掛かった敵を軽々と避け、片手間に特殊攻撃を発動、あっさりと破壊してしまった。
開始当初は彼に嫉妬する者も少なくなかったが、今ではそんな者すらいなくなっていた。

4:越後:2017/07/01(土) 16:27

「...はぁ」
そんな状況が、正直彼はあまり気に入っていなかった。
針のむしろにされるならそれでもいいし、逆に崇められたりでもするのならそれでもいい。彼はそう考えていた。
が、今の状況はそのどちらにも当てはまらない。
彼が近づくと他のプレイヤーは恐れて逃げ出すか、咎めるような視線を送るだけ。
「つまらんなぁ...」
なんて、そんな言葉が彼の心情を物語っていた。
とその時、背後から足音が聞こえてきた。
何だ、誰かいたのか――そう思ったのも束の間、彼は異変を感じた。

足音が、随分と大きい。

「―――――!?」
慌てて振り替えると、そこにはある種恐ろしい形相をした人が走ってくる姿があった。
「ビ・ギ・ン・さ――――――――――――ん!!!!」
「うおあぁぁぁああああぁぁあああああッ!!?」
ビギンに飛び込んで来た人物。随分と明るい茶髪をバンダナで押し上げた中性的な少年。
プレイヤーランキング2位、[kai]だ。正直、ビギンは彼の顔が男子とは思えないと考えているのだが、本人が自称しているのでまぁそうなのだろうと思っている。
先述の通り、ランキング一位と二位の間は最早どうしようもない差がついているのだが、二位と三位の間はその更に数倍の差が開いていた。
よって、現時点のプレイヤーランキングは実質この二人が支配していることになる。
「で、何の用だお前...」
呆れたように、ビギンは言う。
「いや、別に何もないですけどね」
「無いのかよ...」
うんざりしたのか、ビギンは頭を垂れる。
無理も無い、実際、この二人の会話はいつもこんな調子である。故に、あまりビギンはカイの事が得意ではなかった。
そんなビギンの事など知る由もなく、カイは話を続ける。
「あ、でも一個確認が」
「何だよ...」

「Game Over者って、まだ出てないんですかね?」

5:越後:2017/07/02(日) 22:30

「...知らん。出てないんじゃねぇか? 特に情報もないし」
つっけんどんな態度で、ビギンは返す。
そう、このゲーム、サービス開始から一切ゲームオーバー者が出ていないのだ。
「いくらなんでもこの状況は異常」―――殆どのユーザーは、そう感じていた。
その為、一部では内部工作でも行われてるんじゃないのか、とか、ゲームオーバーされると都合の悪いことでもあるんじゃないか、等と噂されることも少なくなかった。
「んー、やっぱそうなんですかね〜、あ、ロビー着きましたよ」
「見りゃ分かるよ...ったく」
ビギンは大きく溜め息を吐き、ジト目をカイに向ける。
「...んじゃ、取り合えず一旦俺落ちるから」
「あ、了解です! また今度!」
「お前の中では『また』があるのかよ...」
そう最後まで疲れた様に話し、ビギンはこの空間から姿を消した。

そして、一人残されたカイは。
「...ふぅ...じゃあそろそろ自分も落ちるかなーっと―――――――――」
そう言って、インターフェースを表示しようとした瞬間。

コロニー内に、今まで無いような爆音が響いた。
「―――――――――――――――ッ!?」
距離からしてそこまで遠くない。
しかし、何だこれは。
今までと明らかに違う。
何が起きた?
ゲーム内の不具合か、それとも―――――。
「......ええいままよッ!!」
自分を奮い立たせるように叫び、カイはロビーを後にした。

6:越後:2017/07/03(月) 20:57

         ◆

7:越後:2017/07/03(月) 21:18

【すみません、>>6で誤爆しました。】
そして場面は変わり―――――
―――――東京都内某所。
簡素な住宅街の中に建つ、至って普通の一戸建て住宅。
その中で、一人の少年がベッドの上に横たわっていた。
「う...よっこいせっ...と...」
呻き声に近い声をあげ、少年はベッドから起き上がる。
その頭部に装着されている、何やら随分と機械的な真っ黒い物を外し、すぐ脇に置いた。
「あ"〜〜〜、今何時だ...まだ二時間はあるか。よし」
そう呟いて、少年は重い腰を上げた。

彼――ビギンの素性を知るものは、ゲーム内には殆どいないと言われている。
と言うのも、彼はアクセサリーとして、HMDと言う、顔の大半を多い尽くす装飾品を着けている。
視野が狭くなるといったデメリットは特に無いのだが、彼はそんな物を着けて只でさえ「正体が誰なのか」が非常に分かりにくいというのに加えて、一切の素性を明かそうとはしなかった。
そのため、彼は誰なのかを知るものは、まずいないと言ってもいいだろう。

そんな「彼の正体」こそが―――――この少年である。
整えられた黒髪に在日アメリカ人である母親譲りの碧眼。...しかし、余り目付きが良いとは言えない。
顔こそ少しやつれているが、彼は俗に言う「イケメン」、と言っても過言ではないだろう。
名前を、三ッ橋 幸斗(ミツバシ ユキト)。
そして今、[Begin]こと幸斗は――――――――――

「―――はぁ...学校行きたくねぇなぁ...」

―――――GWとも気づかず、ただただいじけていた。

8:越後:2017/07/10(月) 21:34

          ◆

「何...何が起きたのこれ...」
ロビーから駆け出し、轟音の鳴った方向へと向かっていたカイ。
その眼前には、訳も分からない場景が広がっていた。
粉砕された壁、
黒く焼け焦げたような床、
散乱する瓦礫、
そして―――――

―――――拳程の大きさの血溜まりと、そこに浮かぶ小さな×マーク。

それは、サービス開始以来、初めての、

ゲームオーバー者の出現を現していた。

            ◆

「ふあ〜ぁ...あー、眠...」
約一時間程が経っただろうか、二度寝に耽っていた幸斗が寝ぼけ眼を擦りながらリビングへと向かっていた。
「おっはよーございまーす...って誰もいねぇよな、ははは」
扉を開けるやいなやよく分からない独り言を呟いてキッチンの前に立った。
彼は現在一人暮らしである。
別に何か家から出たい理由があったわけでもなく、ただ通う高校が家からあまりに遠く、その高校に寮も無かったので部屋を借りて住んでいる、それだけの話である。
「はぁ...今日朝飯どうすっかなぁ...」
と、まだ上手く回らない頭を使って何とか冷蔵庫の中にある奴やつで適当に作ろうと思ったが、肝心の中身が無かったので断念した。
「...生活能力無さすぎじゃないっすかね俺」
まぁ、この年代の最新型冷蔵庫なのでこのまま欲しいものを注文する事も出来るのだが、朝早くから宅配を頼むのも気が引ける。
1日が始まって早々、彼の生活は詰んでいた。

9:越後:2017/07/10(月) 21:52

と、その時、不意にインターホンが鳴った。
「何だよこんな朝っぱらから」
一つ文句でも入れてやろうかと、靴下ドリフト走法で玄関へと走っていって勢いよく扉を開けた幸斗だったが...そこに立っていた人物を見るとあからさまに肩を落とした。
「やほー、調子はどうかね〜?」
「おかげさまでバッッッッチリだよ...」
玄関先に立っていたその人物は、幸斗のはす向かいに建つ家の住人だった。
肩辺りまで伸びた明るい茶髪、一見不安になる程の白い肢体。しかしその表情は明るく、下手したら見た側が癒されるほどの笑顔。
幸斗の幼馴染で同校の少女、名前を神無月 舞[カンナヅキ マイ]。
その姿は、朝だというのに明らかに外向きの服着ていた。
「...何、これからどっか出掛けでもするのか」
幸斗が半目で訪ねると、たはは〜と笑って返す。
「いや、どうせ幸斗朝ご飯食べてないでしょ?」
「悪ぅござんしたねぇどうせ食べてませんよ」
「いやぁ...うちも今お姉ちゃんいなくてさー」
「え、何、ついでに俺の朝飯作ってくれるとかそういう話?」
細々と開けていた目を見開いた幸斗。が、その後に続いた言葉は、
「いや、一緒に食べに行かない?」
期待を見事に裏切るものだった。
「いや、まぁね、でしょうね、知ってましたよホントマジで」
ガックリと項垂れる幸斗を他所に、舞は元気よく右手を突き上げて急かす。
「ほらほら! そしたら直ぐ行く準備する! 着替えて着替えて!!」
「いや、俺行くって言ってないけど...いや、まぁ俺も困ってたしいいか」
半ば諦めたように幸斗は溜め息を吐き、着替えるために家の中へと戻っていった。

10:越後:2017/07/12(水) 20:48

「...あいつも相変わらずだよな」
なんて、誰もいない部屋で喋りつつ、幸斗は着替えていた。
何だかんだで、この二人は出会ってからそろそろ十数年は経つだろう。その間、二人の関係は完全に平行線上である。
と言うのも、二人ともお互いに恋愛感情を持っていないからだ。
物心が付いた頃から気づいたらいつもいる存在など家族も同然...そう考えている。
「...さて、行くか」
黒のカーディガンを羽織り、部屋の扉を開ける。
「っとと、やっべ」
ふとあることに気付き、扉を閉めて部屋の中に戻る。
机の上に置いてあるデスクトップPCの電源を待機状態まで落とす。
「...これでよし」
と、幸斗は呟き、部屋の外に出ていく。
恐らく、今急ぎの用事がなければ、はっきりと彼の目に写っていただろう。

ある「異常な事態」を中心に繰り広げられている、大炎上の形相を。

「はいよー、お待たせ〜」
間延びした声を上げながら、幸斗は家の扉を閉め、鍵をかける。
...いや、正確には鍵が「かかった」だろうか。このご時世、どの家もオートロックを採用しているのだ。
「お、来たね。さて、そんじゃ行こっか」
「おう」
と、二人はまだ静けさが目立つ住宅街を歩き始めた。

11:越後:2017/07/12(水) 21:11

「...あ、そう言えばさー」
歩き始めて数分も経たず、舞が話を切り出す。
「ほら、井上君っているじゃん?」
「あぁ、昌樹の事か?」
井上昌樹(イノウエマサキ)。幸斗と舞のクラスメイトである。
しかし幸斗はともかく、舞と昌樹が何かしらの事で一緒にいるのを見たことがない。ならば何故そいつの名前が話に出てくるのか、と、幸斗は頭の中で首を傾げた。
「今朝さ、井上君の彼女から連絡が来てさ〜」
「え!? あいつんなのいたのか!? 誰だよ!?」
慌てた様子で大声を張り上げる幸斗。
その様子を見た舞が小悪魔的な笑みを浮かべて顔を幸斗に近づけた。
「え〜? 秘密だよ、秘密♪」
と、そんな言葉を耳元で囁かれ、幸斗は体を仰け反らせた。
「だー! 分かった! もう聞かん! で!? どういう連絡だったんだよ!?」
幸斗が聞き返すと、舞は少し、ほんの少しだけ顔を曇らせ、不安気に言った。
「何か...一昨日の夕方から今朝まで一切連絡がつかないみたい。電話、メールは勿論『Our chat<アワーチャット>』の方も既読付かないらしい」
「アワーチャット...? あー、あれか、SNSか、あの最近出来たやつ」
「そうそう」と、舞。
ここで、また幸斗は首を傾げる。
あんなお人好しの昌樹が、ましてや自分の彼女なんかをそこまで塩対応するだろうか、と。
「...それ、普通に別れるフラグのやつじゃないんだよな?」
「多分。その日の学校までは普通に仲良かったっぽいし」
「どこで仲良くやってたんだよあいつ...。あ、でも待てよ、確かあいつも<GHO>やってたな...でもあいつ徹夜しない派っつってたから今朝まで連絡来ない程は入り浸ってないはず...」
「何ブツブツ言ってんのさ幸斗〜」
「ん、あぁ、悪い。いや、でもちょっと、な」
<GHO>の国内のID取得者、つまり全体のユーザー数は既に100万人を越えている。クラスメイトの数人やっていても何ら問題は無いのだ。
しかし、それが本気で彼女を放り出してまでやっているとすれば彼女いない歴=年齢の俺としては大変腹立たしいし、下手したら次に学校会ったら数発拳をいれるまである。
そんな事を悶々と考える幸斗だが、視界が開けたところでその思考は途切れた。街中に入ったのだ。
「さーて、それじゃこの話終わり! 何食べよっか?」
「はは...落ち着けよお前...」
斜め前を先行する形で歩く舞に付いていくように、幸斗も歩き始めた。

12:越後:2017/07/13(木) 20:52

その後は特に何事もなく、二人は当初の予定通り目ぼしいレストランで朝食を食べ、先程よりも騒がしさが増した街へと出た。
すると間もなく、喧しいサイレンの音が聞こえてくる。
「...? 何だ?」
見ると、救急車が目の前を走っていく。その後ろには何台ものテレビ局の取材車らしき物が追いかけているのが見えた。
「有名人の誰かでも亡くなったのかな。こんな朝早くから大変だね」
「あぁ...だな」
と、帰ろうとした瞬間、幸斗のポケットの中の携帯が震えた。
「今度は何―――――」
言いかけて、幸斗はそれ以上言葉を発しない。いや、発する事ができるほど状況の把握が出来る状態でなかった。
「どうしたの、幸斗?」と、舞が訝しげに顔を覗き込んでくる。そんな舞に対して、幸斗は言った。
「―――舞、お前ちょっと先に帰ってろ」
「え、何――――――ちょっ!?」
言うが早いか、幸斗は駆け出していた。
その方向には、先程の救急車が向かっていった場所、中央病院がある。
メールの内容はこうだった。

『井上が、部屋で倒れていた』

13:越後:2017/07/13(木) 21:44

どういうことだ?
何故倒れた?
だとしたらさっきの救急車に乗ってたのが昌樹だとでも言うのか?
ならば、ならばだ。
何故、「その後ろにマスコミが張り付いて」いた?
少なくとも何かしらの異常な状況が起こって倒れたのだろう。
だが、一体何だ?
...いや、あまり深く考えるのはやめておこう。
何か、凄く。
――――――不味い予感がするから。

          ◆

「ん〜...何だったんだろ、幸斗のメール...」
その頃舞は、元来た道を戻っていた。
「何か急ぎの用事っぽかったけど...何か今日の予定忘れてたりとかそういうのかな...ん?」
ふと上空を仰ぎ見ると、その空に一筋のまばゆい光が走った。
「流れ星...じゃないよね?」
夜も明けたばかりで、ここまではっきりと流れ星が見えることもそうそう無いだろう。いや、あるにはあるのだが、自分がそんな珍しい物を見られるほど運が良い訳ではない。自分に言い訳をして、視線を元に戻す。
「―――さてっと、じゃ、私も『一仕事』あるし、早く帰ろっと!」
最後にそう呟いて、舞は住宅街を駆けていった。

          ◆

「――――――おい、昌樹......?」
ある病室。その中央に置かれたベッドに、井上が横たわっている。
「何だよ...お前どうしたんだよ?」
おどけたフリを見せて、幸斗は井上に語りかける。
「なぁ...意識はあるんだろ? おい...何とか言えよ、な?」
―――しかし、何も返ってこない。
いや、分かっているのだ。恐らく、絶対に返答など返ってこない。
何故ならその井上の表情が、明らかに「人間のものではなかった」からだ。
目の焦点は合わず、光も消え失せ、だらしなく開かれた口元からは涎が垂れている。
言うなれば―――「生まれたばかりの赤ん坊まで戻った」かのような顔。

「...どうなってんだよ、これ...!!」

間違いなく、
井上は、
はっきりと、
「死んでいた」。

【筆者後書:この段階でこの後の展開が分かったらあなたは読解力の塊です。】

14:越後:2017/08/17(木) 11:23

幸斗が昌樹の病室で座り込んでいると、やがて病室のドアが音を立てて開いた。
「あ...と、ご友人の方ですか?」
入ってきたのは恐らく医師の人だろう。眼鏡をかけ、白衣を着ていた。
「あ、はい。あの...こうなった原因とかってわかっているんでしょうか?」
幸斗がそう尋ねると、医師は無言で首を振った。
「残念ながらさっぱりです。脳機能にもまず異常は見られませんし、他に問題のある個所は全く...」
そんなわけがないだろう。
ここまでおかしな状態になっているというのに何の異常もないわけがないのだ。
幸斗はそう考えたが、この医師の様子を見る限り本人も突然現れた謎の症状に頭を悩ませているようだった。
「...一旦帰ります。ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「いえ、そんな...」
これは自分ではどうしようもないことだ、そう割り切り、幸斗は病室を出て行った。
「今日だけで同じような状態に陥った方は数人いらっしゃるようです。貴方もお気をつけて」
ドアを閉める寸前に聞こえたその言葉に、幸斗は戦慄した。

「今日だけで何人も、だと...?」

              ◇

「さっきよりも明らかに雰囲気がおかしい...?」
ロビーに戻ったカイは、その空気の変化に違和感を感じた。
人々が、慌ただしく駆け回っている。
「あの...何かあったんですか?」
近くにいたプレイヤーに、カイは聞いた。
「はぁ?あんた聞いてないのかい!?」

「さっき緊急イベントがはじまったんだよ。GHO史上初の、「名前付き」のエネミーだ」

15:越後:2017/09/09(土) 22:12

「名前付き...」
カイはたった今聞いたその言葉を復唱した。
このGHOのは多くの種類の機械生命体、エネミーが存在しているが、そのいずれにも名前というものが存在していない。
そんな中での、名前付き。
先ほどカイが体感した異常な揺れ、そして大きく開けられた壁の穴も、恐らくそのエネミーが原因だろう。そう考えた。
「どうしようかな...ビギンさん待つか...」
そう呟いた矢先、ビギンがログインした、という通知がインターフェースに表示された。
「ありゃ、噂をすればなんとやらだな」
カイはログインゲートの方向へと駆けていった。

「...へぇ、要はボスの登場ってことか」
カイから現在の状況を聞き終えたビギン(幸斗)が神妙な面持ちで言った。
「どうしました? 何か元気無いですね」
「いや、まぁちょっとな...」
今日で初めてゲームオーバー者が出たこと、それと同時とも言えるタイミングでこのイベント。
そして先程の昌樹の様子。
幸斗にはどうも、それらが全く繋がらない事だとは思えなかった。
「...取り合えず、そのゲームオーバーした奴の名前って分かってるか?」
ビギンが聞くと、カイは慌てた様にインターフェースを操作する。
「あ、はい。ええと...あった、『Prayer』ですね」
「ほうほう」
Prayer。一見すると「Player」の誤字と間違われるかも知れないが、これは「祈る者」という意味の単語である。恐らく掛けているのは間違いない。
そして、このGHOでは他人の使った名前は大文字小文字関係なく使えなくなる仕様である。
その事を考えると、このような簡単な言葉掛けの名前を使えている以上、少なくともオープンβ辺りからの参加者であることは間違いないだろう。
「...ん?」
と、ビギンはその横に書かれた文字に目をつけた。
「No.1...なんだこれ」
「あ、それは多分ゲームオーバーになった順番かと」
「うわ、そんなのも表示されんのか、悪趣味だな」
ビギンが吐き捨てるように言う。
「まぁ兎に角まずはイベントだ。さっさと終わらせてしまおう」
「そうですね、そうしますか」
その会話が終わるやいなや、二人はロビーを駆け出して行った。

16:越後:2017/09/10(日) 13:01

【感想を下さい(迫真)】

ビギンとカイの二人は、ブロック同士を繋ぐ通路を慌ただしく通過していた。
「んで!? その爆発が今回のボスのせいってのは確かなのか!?」
「恐らく多分!」
「それ信憑性薄いぞおい!?」
ビギンは先程までの大問題など気にしてもいない様子で会話を続ける。
ここまでイレギュラーな事が起こっている中、貴重な仲間であるカイの調子を鈍らせたくなかったのだ。
「あ、ほら! 出ますよ、ブロック1152!」
イベントゾーンに該当されているブロックの入り口が見え、二人は更にスピードを上げた。
重そうな鉄の扉がガシュッっと音を立てて開く。その中では、本来そこにあるはずの景色が既に消え去ってしまっていた。
「おいおい......マジかよこれ」
ブロックの中央にそびえ立つ巨大な制御タワーが無惨に砕け、その破片が周囲を漂っていた。足元がおぼつかない。どうやら制御機能が壊れたせいで重力制御がままならない状態になっているらしい。
「これは〜......マッズイですよね〜......」
カイが冷や汗を額に浮かべた。
「で、肝心のボスってのは何処に......?」
ビギンが周囲を見渡す、すると、遥か上――――目測にして数百mはある――――に、見覚えのない影を見つけた。
「あいつか......―――うぉぁっ!?」
呟くと同時、その影からレーザーのようなものが放たれる。それも何発もだ。
ビギンは慌てて横方向に避ける。しかし、レーザーは着弾点で大爆発を起こし、その反動でビギンの体は宙に持ち上げられてしまった。
「うっは、こりゃあ想像以上だな」
「ちょ、ビギンさん大丈――――夫そうですね......」
はぁ、とカイが大きなため息をついた。理由などこの場においては一つしかない。

ビギン――つまり幸斗の目が、これほどまでに無いほど爛々と輝いていたからだ。

17:越後:2017/09/10(日) 21:53

「あ〜あ、スイッチ入っちゃった...」
こうなると彼はもう手のつけようが無い。虫捕りでクワガタを見つけた時の子供のような、そんなテンションになってしまうのだ。
恐らく、何を言っても通じない。
「ちょっとー、ビギンさーん、無理しない程度に頑張ってくださいねー」
「オーケーオーケー! 行くぞボス野郎!!」
宣戦布告の如く叫ぶと、ビギンは剣を抜きつつ壁や塔の破片を蹴りあげ、ボスエネミーと同じ高さまであっさりと登っていった。
「へぇ...名前は<銀翼>か...金とかもその内出るのかねぇ!!」
と、再び叫ぶと、銀翼がガパット口を開いた。先程は遠すぎてあまり姿が見えなかったが、銀翼、と名のついたこのエネミーは鳥のような形をしていた。
―――はぁ、成る程。さっきのビームはこっから出たんだな? じゃあそっからぶっ壊しにかかるか――。
そう思った矢先、銀翼の足元まで登り詰めたビギンは、ある光景に目を疑った。

銀翼の足元には、今まで挑んだプレイヤー達の物なのであろうゲームオーバーの証――血痕がそこかしこにあったのだ。

更に、今現にHPが0になろうとしているプレイヤーが一人、銀翼に踏みつけられていた。
「あ............が...........」
口元から留めなく血が溢れだしている。このままではあと数秒も持たないだろう。
「―――――くっそ!」
ビギンは咄嗟に銀翼の足に斬りかかる。
『座標値より3回転と推測:縦斬り――――エフェクトアーツ、再現ノルマ達成を確認。特殊効果付加を実行』
瞬時にインターフェースに反応があり、スキルが発動される。
『Code-Moon-』
細長い剣先が青白い光を放ち、炸裂した。


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