愛菜華ちゃんと愛佳ちゃん

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧キーワード▼下へ
1:蒸しプリン:2015/10/03(土) 19:20 ID:xb2


「ああもう……なんでそんなに可愛いの?」

私には、好きな人がいる。

垂れ目と真っ白な肌が印象的な、男の子。
見た目に反して毒舌で、意外とずる賢い。でもそんな彼に垣間見える優しさに、私は惚れてしまったのだ。
彼は、誰に対してもまっすぐ喋ってきてくれる。そんでもって、根はお人好し。
彼と接していくうちに発見した数々の魅力に、私はもうハートをずっきゅんされていた。彼はしっかりと私の心臓のど真ん中を撃ち抜いてくれたのだ。いや、物理だったら死んでるけど。

「本当に、お前の隣の席になれてよかった……お前の近くになるために、今回の席替えは願掛けしてきたんだからな」

彼が、好きだ。
どうしようもないくらい好きなのだ。
息苦しくなって、それはもうトイレに行きたくなるぐらい。
……例えが悪かった。

「ごめん……ちょっと我慢できない。可愛すぎる、お前」

そんでもって、先ほどから私の回想中に流れる明らかにリア充なバック音声、略してBGOについて。
お答えしよう。

私の大好きな彼と私の親友のラブラブシーンだ。

ちょっと待て。

2:蒸しプリン:2015/10/03(土) 20:42 ID:xb2


そろそろピンクモードになり始めたBGOを耳にしながら、これまでのことを一気に思い返してみる。

いや、私にとってその行動が無意味であっても、今この文章読んでる人には必要でしょう?
突然「トイレしたくなりました」とか言われても意味わかん無いでしょ?そのトイレに行きたくなるまでの経緯を話さなくちゃ。
という訳で、話そうと思う。現状(トイレに行きたい)に至るまでの経緯を………

私と彼の接点は、「席が近かった」。ただそれだけ。
本当にそれだけなんだけれど、それにしても彼は私に頻繁に話しかけてきた。
「二時限目なんだっけ」とか「お前、顔の割には頭いいよな」とか。中には悪口も多少……いや、かなり含まれていたが。
こいつもしかして私に気があんのかなー………とか思っていた過去の私を全力でぶん殴らせてください。

その後、「烏丸ナメクジ」という大変不名誉な称号を頂戴したり、筆箱を頭の上に乗せられたり………
彼は私に「これは勘違いしちゃっても仕方ない」と誰もが納得するような接し方をしていた。

他の子にはやらないことを、自分にはやる。これ、乙女のずっきゅんポイントですよね。
ね、だから勘違いしちゃった私は悪くない。悪くないったらない。

屈託無く笑う彼を見たとき、心臓が大きく跳ね。
後押しに、担任に押し付けられたプリントを丸々ひったくっていった彼の背中を見たときに、とうとう本気で勘違いしてしまったのだ。
嗚呼恥ずかしい。「こいつも私のこと………」とか本気で思ってたからね。黒歴史や黒歴史。

取り敢えず、私と彼は毒吐き合いながらも楽しくやれる、所謂「友達」みたいな関係になっていた。

「このまま頑張ったら、友達以上の関係に発展……カモ!?」

とかいう浅はか且つ小賢しい考えを持っていたかつての私にかかと落としを見舞ってやってください。

私の幸せな期間も束の間、直ぐに席がえはやってきた。

また、近くの席になれたらいいな………なんて儚い乙女の願い、的なものを連想していると

「ゴリラが女の子の真似してる……キメェエエエエエ!!!」

と隣人に嘲笑されたので鳩尾に一撃をかましてやった。手応えは大きかったぞよ。南無。

……と、言うのは置いといて、なんと私の切なる願いは神に聞き届けられたのである。
なんと、彼の斜め後ろ!
隣でないとはいえ、グループ学習では必ず一緒になれるのだ。
やったわ!ご近所さんをキープよ!と無表情の裏側、内心サンバを踊っていたのだけれども………

「あ、佐藤くんか。宜しくね。分かると思うけど、私 、川辺 愛菜華っていうの」
「川辺か………宜しくな」

ほんの短い間だったが、彼の表情が恍惚としたものに変わるのを私は見逃さなかった。

3:蒸しプリン:2015/10/03(土) 22:04 ID:xb2


彼の私の親友に対する想いを悟った時、私は地の底に突き落とされたような絶望と羞恥に見舞われつつも、身を引くことを堅く決意した。

確かに、私は彼のことが好きだ。上記したように、それはもう意味もなく尿意を感じるほどに。

でも、それくらい親友のことも好きだ。可愛くて優しくて、少し突っぱねてるけど。それでもこんな私に気をかけてくれる彼女のことが、大好きだ。
しかも、容姿完璧で気配りができて、それでいて調子に乗らない天然少女なんてなかなか存在しないよ?所謂彼女は高嶺の花って奴だ。その花の美しさは、男のみならず女までも虜にする………そのいい例がこの私だ。

そんな彼女とこのゴミクソな私を比べろと?冗談じゃない。
それは、生ゴミと女神を比較するようなものだ。意味もないどころかやる理由がない。
しかもそんなことしたら彼女のファンクラブに抹殺されてしまう。無論私が。

私は、彼も親友も好きだ。だから2人には幸せになってほしい。

と言うわけで、彼の隣は親友に捧げることにした。

………なんて口では軽く言っているが、そんなに簡単ではなかった。
ついつい彼に頼ってしまったり、会話に応じてしまったり。夜は毎日のようにまぶたの裏に彼の顔が浮かんできて、枕を濡らすだけの日々が続いた。

でも!
でも、人は変われる。
「何気なく彼を遠避けるような言動」や「会話流し」のスキルを身につけた私は、レベルアップついでに新しく「仲睦まじ気に話す彼らを微笑ましげに見つめながら茶を啜る」を身につけたのだ!(ただしこのスキル、なんらかの飲料を所持していないと発動できない。)
彼の言葉を巧みに躱す日々を送っていると、しばらくして彼の中で私の存在は薄れたのか、彼はわたしの親友と共にいることが増えてきた。

記述していなかったが、彼は結構容姿が整っている方だ。
おまけに誰にでも分け隔てなく接することのできるその性格から、女子のみならず男子にも人気がある。

そんな彼と親友のラブラブ疑惑が流れるまで、そう時間はかからなかった。

二人は、まさにぴったり。
容姿といい、その性格といい、皆から好かれるものが多い二人の関係は誰の障害を受けることもなく、寧ろ応援される形で発展していった。
グループ学習の時、「紙がない」と途方にくれる親友に躊躇いもせず自らのノートを破って渡した彼と、その彼に対して頬を染めながらも礼をいう親友の可愛さに悶えつつも、「これはもう決定だな」と隣人少年と顔を見合わせて苦笑した。

実はこの隣人少年、ここの席になる前にも隣の席だった人だ。
覚えているだろうか、私を「ゴリラ」と言って鳩尾に一撃を食らわされた彼の存在を。
実は彼も、私の親友に密かに恋心を抱いていたらしい。
然し、彼女が幸せそうに自分以外の男と話をしている姿を見た時、静かに失恋を悟る。相手の容姿や性格から、「彼女を奪う!」なんてことは思わず、しっかり自らの敗北を認めた。男のくせに。意気地なしだ。かく言う私も諦めたけどね。

最初は「またこいつと………」なんて思っていたが、ひょんなことから相手の事情を知り、それからは互いに近親間を覚えるようになった。
そしてついに結成したのだ、「2人を応援する委員会」を。因みに会長私でそいつ副会長ね。そこんとこ大事。

「ターゲット移動中!空き教室Aに向かう模様」
「先回りして2人が鉢合わせになるようにしろ」
「了解」

そして休み時間はケータイを利用し、二人の親睦を深める為の作戦を展開している。

4:猫又◆Pw:2015/10/03(土) 23:02 ID:vXA

 すみません。コメントうっても大丈夫ですか?

5:蒸しプリン:2015/10/03(土) 23:34 ID:xb2


私の大好きな、いや、大好きだった彼……佐藤 直人と、私の親友……川辺 愛菜華のラブラブ作戦から早3ヶ月。

なんの運命かわからないけれど、私、宮ちゃん、佐藤と隣人少年こと青山 李咲は、何度席替えをしても必ず近い席になった。
宮ちゃんと佐藤に至っては「これ絶対わざとだろ」なレベルの確率で隣同士。まぁ周りも応援してるから何も言わないし。私と青山にとっても好都合だから良いんだけどね。

それからなんと、私と青山の練る数々の作戦の殆どが成功していた。
まず、「登校中ばったり鉢合わせ作戦」。
私はいつも宮ちゃんと登校するため、二人の登校時間・場所を合わせるためにわざと普段と違う道を行ったり、「ゴッメーン★忘れ物しちゃったから先行っててっ!?」的なことを繰り返し、宮ちゃんを誘導。
道でばったり出会った二人はそのまま肩を並べ談笑しつつ、学校へと足を進める……というシナリオである。

これをはじめに考案したのは私で、夜鍋して練ったこのナイスアイディアに我ながら素晴らしいと自画自賛したものだ。
一方青山は「タイミングと位置的に、上手く行きそうにもないが……」と不服顔だった。が、会長権を使って黙らせた。
青山の不安をよそに、次の日無理やり決行したこの作戦はとても上手くいった。曲がり角で偶然かち合うという王道なものだったが、成功した後はなんともうまく行きすぎて「あらあらなんて偶然!まるで運命の赤い糸で惹かれあった2人のようだわ!」と物陰から手を叩いた。その側で「人工的な『偶然』だからな」と呟く青山にラリアットを食らわした。

そんな風に、私たちの少しやりすぎ?な「佐藤&宮ちゃんラブラブ作戦」は、今のところいい感じ。
2人の関係も、いい感じ。

さて、そろそろか?そろそろだな?
愛の告白タイムは………

「くっくっくっ…」とほくそ笑む私を見た佐藤が振り返り、「笑い方気持ち悪いぞ、烏丸ナメクジ」と吐き捨てた。
久しぶりに聞いたその声が私に向けられていたのが嬉しくて、そしてその声もすぐ隣にいる存在に向けられてしまうんだろうなー、と考えた時。

少し、ほんの少しだけ。
胸の奥が、痛くなった。

6:蒸しプリン:2015/10/03(土) 23:35 ID:xb2

>>4

猫又◆pwさん

はい、全然大丈夫です。

7:蒸しプリン:2015/10/03(土) 23:56 ID:xb2


ちょおおおおおおっとすとおおおおおおおおっぷ!!!!!

宮ちゃん!?宮ちゃんて誰??
誰宮ちゃん?

すみません、本当にすみません。

「川ちゃん」です。
なんの勘違いかわからないけど宮ちゃんにしていました。

混乱してしまった方、本当に済みませんでした!!!

8:蒸しプリン:2015/10/04(日) 00:30 ID:xb2


「ねぇ、佐藤くん……」
「ごめん川辺、ちょっと用事あるから後でいい?」

おっと、休み時間中に「廊下でばったり作戦」を決行しようと思ってたのに。無理っぽいわ。
ポケットから携帯電話を取り出し、手早く青山にメール。「作戦は中止」………っと。
パタンと小気味好い音を立てて二つ折りにされた携帯(ガラケー古いとか言うな殴るぞ)を手早くしまうと、メモ帳を取り出して新しい作戦を考える。

……次は、スーパーばったりとかどうだろう。レベル上がったら大型ショッピングセンターとか………出会う確率が低ければ低いほど、人は運命を感じるよねっ。

誕生日ドッキリなんかもいいかも。
そういえば、そろそろ川ちゃん誕生日だよね。
その日にサプライズ……例えば佐藤からの告白とか、愛を込めたプレゼントとか。
その両方どっちもは……いいかもしれない。
涙もろい川ちゃんのことだから、突然のサプライズに驚きと、喜びとで大きく見開かれた目から、たちまち涙が溢れて‥

「私も……ずっとずっと、佐藤くんのことが好きだった………」
「……!そっか。……うん。ありがとう。………っと、それからお願いがあります」
「うぅっ……ぐすっ……なに?」
「これから……その、付き合うんだから。
…………名前で呼んでほしいな、みたいな」
「……!……はいっ直人くん!」
「!………ちょっと、可愛すぎる……」
「?ふぇ?何ですか?聞こえません」
「もう!可愛すぎ!」
「え?ええ?」
「もう………我慢できない。これは俺からのプレゼント。」

chu❤︎

「誕生日おめでとう、愛菜華。
俺を好きになってくれてありがとう。
俺と出会ってくれてありがとう。

………生まれてきてくれて、ありがとう。」

みたいな感じで……

次々と浮かんでくる案をしっかりメモ帳に記録しつつ、はたと手を休めて考える。

そういえば、さっきから佐藤が動かない。普段は休み時間のたびに川ちゃんと図書室へ行ったり、他のクラスに遊びに行ったりしているのに………

『ごめん川辺、ちょっと用事あるから後でいい?』

そういえばさっき、佐藤はこんなことを言っていた。
用事……?
じゃあなんで動かないんだ?

疑問はそれだけじゃない。

先ほどから感じている「違和感」。
なんとも言い難いけれど、誰かに見られているような……そんな感じがするのだ。
ちらっとそちらに目を向けると……お、おや、おやおやァ?こちらに向いてる筈のない顔がありますねぇ。
幻覚でしょうか?

「烏丸ナメクジ」

おまけに、聞き覚えのある声で幻聴まできましたか。

そうですかそうですか。とうとう末期ですか私。

9:蒸しプリン:2015/10/04(日) 01:21 ID:xb2


「おい、烏丸ナメクジ。聞いてんのか」

聞いてません聞いてませんなにも聞いてません。
というか聞こえません。本来聞こえる筈のない声なんでなにも聞こえません。

私が全力で無視を決め込んでも、幻聴はしつこかった。
いつまでもいつまでも「烏丸ナメクジ」「烏丸」「ナメクジ」……

あ、やべえ眠くなってきた。
一種の催眠術だろうか。
一定のリズムで「烏丸ナメクジ」「烏丸」「ナメクジ」と順序良く言われ続ければ、きっと誰でも……そう、不眠症の人でも眠くなれる筈。タブンネ。
私の場合それが好きな人の声なんだから、尚更………

「愛佳!」
「うぃっ!」

突然大きく呼ばれた自分の名前に驚いて奇声を発しつつも、伸びてきた腕を咄嗟に避ける。
腕は、私の頬を掠めて机の角に当たった。
痛みに、悶えのたうちまわる幻覚。

よし、今のうちだ!
私はメモ帳をしっかり握りしめて、極秘スキル「逃げる」を選択した。
普段このスキルは、つまみ食いがばれた後などの命の危険に陥っているときにしか使わないのだけれども。どうやら私の五感は無意識のうちに相手から放たれる殺気を目敏く察知したようだった。

休み時間とはいえ、大きな物音は結構人の目を引く。
ので私は素早く、音を立てないように椅子を引いてすぐさま走り出した!
背後でも私と全く同じ行動をしている幻覚さんがいて、私は幻覚さんの執念深さに恐怖を覚えた。
え?待って私本当になんかした?

因みに私には足の速さはないが、持ち前の瞬発力というものがある。
それのおかげか、今は其れこそ風のように校舎を跳ね走っている。
先生たちもびっくらこいて、皆同様に「ざ、残像だ………」などと口を開けたまま突っ立っている。こらこらダメじゃないですか、お口を開けっ放しにするなんて。せんべい入れますよ?

上手くスタートダッシュを切れなかった幻覚さんは、机たちに阻まれて今まだ教室を出たばかり。
ふっ、甘いね。私のように障害物(机)を飛び越えて行こうとは思わなかったのかい?
背後に幻覚さんの影を捉えながら、私は必死に走った。

「ふぅ………はあ、ふっ……」

膝に手をついて、呼吸を整える。

ここまでくれば、幻覚さんはもう来ない。
壁にもたれかかって、上を見上げる。

_____ふと、つい先ほどまでのことが頭に浮かんだ。

教室を出る前、追いかけっこがはじまる前。

私が微睡みの中で考えたこと。
あの時私、なんて思った?

『____好きな人の声なんだから』

「……まじか」

ようやく、この思いに終止符が打てたと思ったのに。
思いを封じ込めて、2人を応援しようと思えていたのに。

『愛佳!』

激しい運動とは明らかに別の理由で、心臓が動悸する。
理由もない尿意。
熱くなる頬。

そっか、私は………

「まだ、好きなのか………」


続きを読む 全部 次100> 最新30 ▲上へ
名前 メモ
画像お絵かき長文/一行モード自動更新