「ああもう……なんでそんなに可愛いの?」
私には、好きな人がいる。
垂れ目と真っ白な肌が印象的な、男の子。
見た目に反して毒舌で、意外とずる賢い。でもそんな彼に垣間見える優しさに、私は惚れてしまったのだ。
彼は、誰に対してもまっすぐ喋ってきてくれる。そんでもって、根はお人好し。
彼と接していくうちに発見した数々の魅力に、私はもうハートをずっきゅんされていた。彼はしっかりと私の心臓のど真ん中を撃ち抜いてくれたのだ。いや、物理だったら死んでるけど。
「本当に、お前の隣の席になれてよかった……お前の近くになるために、今回の席替えは願掛けしてきたんだからな」
彼が、好きだ。
どうしようもないくらい好きなのだ。
息苦しくなって、それはもうトイレに行きたくなるぐらい。
……例えが悪かった。
「ごめん……ちょっと我慢できない。可愛すぎる、お前」
そんでもって、先ほどから私の回想中に流れる明らかにリア充なバック音声、略してBGOについて。
お答えしよう。
私の大好きな彼と私の親友のラブラブシーンだ。
ちょっと待て。
ただただ、悔しいと思った。
「応援しよう」とか言っておきながら、ずっと胸の中にあったこの思いを見て見ぬフリをしてきた。
結局、佐藤のことを忘れられない自分が。
「敵わない」と思っていながら、川ちゃんに嫉妬している自分が。
たかが、名前を呼ばれただけで。触られそうになっただけで。
揺らいでしまう、自分が。
______すごく、悔しい。
「我慢して、私。」
やっと、ここまで漕ぎ着けたんだ。2人が結ばれる時が来たんだ。
私なんかが邪魔してはいけない。
それは、大好きな2人の間を引き裂き、これまで2人をくっつかせようと努力してきた自分自身を裏切ってしまうことだ。
____だから、我慢して。
凍ってしまえ、私の心。
なにも感じられなくなるように。ただただ2人の幸せを願う傍観者となれるように。あの2人が描く「シナリオ」を壊してしまわないように。
それでも、あの2人が結ばれる時を考えると涙が出てきた。
幸せそうに笑う2人______
私はきちんと、「脇役」になれているだろうか。
引き立て役として機能しているだろうか。
「おめでとう」と言えるだろうか。
笑いあう2人に、心から手を叩けるだろうか。
今想像した未来___2人のハッピーエンドは、私が望んできたものと限りなく近いものだった。
ここから見える、私の教室で。
佐藤はきっと私を探すことなんて諦めて、川ちゃんと一緒にいるんだろう。
好きな本のこと、課題のこと_____2人の頭の中には、この2人をくっつける為に奔走している人物のことなど片隅にもない筈。
仲睦まじく、それこそ夫婦のような心弾む甘い会話をしているのではないだろうか。
………確実に、私の望む2人が幸せになれるエンドは近づいてきている。
とてもいいことだ。
それが最良。一番、良い結末。
それなのに。
………なぜ、こんなにも涙が溢れてしまうのだろう?
答えはわかっていた。
それが尚更悔しくて苦しくて、私はとうとう大声で泣き始めた。
「ねぇ、なにしてるの?」
ガタン!
大きな物音がして、面白いくらいに肩を震わせた彼女が振り返る。
一心不乱にやっていたからかわからないけれど、全然こちらに気がついていなかった。振り乱した長い髪の毛が、彼女自身の荒い呼吸によって揺れる。
少女のその顔には、驚愕と絶望と焦り。それぞれの色が濃く浮かんでいた。
あえて手元に口を当てて、悪役っぽい仕草をしてみる。
ゆっくりゆっくり、足を踏み出して。
「ね。火谷さん、なにしてるの?」
再度問いかけた私自身の声には、自分でも気づかないうちに愉悦と悪戯心が含まれていて。まるで、子供の悪さを見つけてしまったいたずらっ子のようだわ、と心の中で苦笑する。
「ひっ………」
怯える彼女の小さな背にしまわれた左手には、鋭く光る刀物が握られていた。
「ねぇ貴女、そこ川辺さんの席よね?」
「………」
窓際に追い詰められた彼女は、涙目でこちらに恐怖心を訴えかけてくる。
震えるだけで肯定も否定もしない彼女に苛立ちを覚え、私は今度は大股で彼女に近寄った。それだけで、面白いぐらいに反応してくれるのだからこれまた悪戯心を擽られる。
彼女を押し退け、彼女ぎ必死に隠そうとしているものをあっさりと一瞥した。
そこには、「死ね」だの「消えろ」だのという心無い暴言と共に、無残にも切り裂かれた川ちゃんの私物があった。中には大事な課題プリントや川ちゃんが大事にしている本も含まれていて、そういえば一昨日、一緒に登校中しているときに、「お揃いのキーホルダー、無くしちゃった………」と悲しそうに首を横に降っていた川ちゃんの姿を思い出させた。
「ねぇ、火谷さん」
多分、彼女だけじゃない。
川ちゃんを嫌っている人、佐藤と一緒にいることを妬んでいる人。
だからって、実力行使はないかな?
私はとうとう涙を溢れ出させた一少女の、その様を嘲笑った。
______だってそこ、私がいるべきだったんですもの。
聞いておきながら遅くなってすみません、猫又と申します。
ここまで読まませてもらいましたが、いやぁ! 面白い作品ですね。
最初は話し言葉が多くて正直「状況がよく分からん」と思っていたのですが。(スミマセンw)
主人公の独白(心の声)がとにかく面白い。
まるでトモダチに語るような、ちょっとトゲのある文章の中。思わず笑ってしまうよな考えや言い回しがポンポン飛び出して来て、主人公の内面にかなり引き込まれました。一方でストーリーはけっこう物悲しくて、そのギャップが主人公のフクザツな心境を一層際立出せている感じがします。
そこで質問なのですが、>>1 出てくる明らかにリア充なバック音声『BGO』って何の略なのでしょうか?
よかったら教えて下さい。それでは〜。
○追記
上の >>11 。いきなり場面が飛んでるような……? こういう場合、読者が混乱するので話を区切るか。どうしても無理なら大きな○で前の場面と区切ることをオススメいたします。では、
>>12
猫又◆pwさま
様々なご指摘と嬉しいお言葉、ありがとうございます。
>>11のところは、なかなか痛いところを突かれたっ………!と思っております。
私は文の書き方に癖がありまして、ご指摘いただいた通りの………まあ要は突然話がぶっ飛んでしまうという………なんとも、読んでいる方には読みづらい書き方をしてしまいます。
ので、突然話がぶっ飛ぶ時は追記の通りになんらかの記号(?)をつけるようにしてみます。
それから、BGOは(バッグ音声)という意味になります。
ので、文章は「明らかにリア充なBGO」ですね………今書いてて自分でも意味がわからなくなりました……スミマセン。
昨日の夜中から今日の朝にかけて、>>9まで一気に書きました。なので、文がよくわからない点も多々あると思います。
これからはちゃんと文を見直してから書いていきたいと思います。
それから誤字脱字、読みにくい点などありましたらドンドン教えて頂けると嬉しいです。
こんな拙い駄文ですが、読んでいただけていることに感謝します。
あったかいコメントを、本当にありがとうございました。
私だって驚いた。それはもう驚いた。驚きすぎて一瞬頭が白一色に染められているのが実感できたほどに。
あの後、ひとしきり泣き終えた私は未だに治らない嗚咽を必死み飲み込みながら座り込んでいた。
泣いている間に予鈴がなってしまったので、今戻っても怒られるだけだろうし………と諦めて待機することにしていたのだ。
今は先生方は皆校舎内にいるだろうし。もし私を捜索していたとしても、焼却炉の裏という隠れんぼのナイス隠れ場所なこのスペースに居座っている私を見つけ出すことはできないだろう。素晴らしいこの空間。良い感じに寝られるし、家出したらここに居候しようかしら。
なんて関係ないことを考えて一人笑っている私に、思いがけない来襲があった。
そう、睡魔だ。
最近は「佐藤と川ちゃん(以下略)」の作戦を練ってばかりで、夜もあまり寝ていなかった。
それとさっき号泣したのが相まって、私の睡眠欲求はMAXに達していた。
「愛佳は最近本当に勉強熱心ね、偉いわ。………でも、無理して倒れちゃったりしたらお母さん心配だわ」
頬に手を当てて首をコテンと傾げるママンの姿が頭に浮かぶ。
ゴメンママン。来月の中間テストは、成績大幅ダウンよ………きっと。
ゆっくりと瞼が落ち、心落ち着く暗転に身が包まれた。
………そして、夢を見た。
やけにリアルな夢を。
リアルすぎて「気持ち悪りぃ」と身震いしたくなるほどのものだった。
それは、私たちの夢だった。
まず始めに、私が「2人を幸せにする」と決意した日から。
それからの私たちの行動が、コマ送りの映像のように流れた。
私の功績の裏で、2人はどのように進展していたのか。
実は休みの日に会っていたり、事故壁ドンしていたり……私の知らない2人の関係の発展具合が目に見えてわかった。
これまでのこと……舞台裏まで包み隠さず見た時、私は自然と安堵の息を零していた。
これでやっと、私の役目は終わる。2人はきっと、結ばれる。そう確信した。………まだ、不安の影は追いかけてきたけれど。
……何故かはわからないけどこの時、私はこの夢のことを信じて疑っていなかった。
____私が佐藤から逃げて、眠りについて…………
あ、今の私だ。
夢の中なのに………現実のようだった。
然し、映像はここで終わらなかった。
目覚めた私が起こす行動は、とでも信じがたいものだった。
続きの、映像。
そこには、川ちゃんへの嫉妬を自覚し受け入れてしまった私の姿があった。
憎しみで狂った私が起こした行動は、川ちゃんへの嫌がらせ。
机に悪口、上履きに画表はまだ序の口。
川ちゃんの大切なものを切り刻み、挙句に裏で暴行を加え……川ちゃんの心と体を傷つけていく自分の姿を見るのは、今までに与えられたどんな痛みよりも苦しかった。
最後に私は、断罪される。
大好きな、佐藤の手によって。
ついでに加えておくと、私は佐藤へストーカーまがいのこともしていた。佐藤の私物を盗んだり、盗撮したり、あれやこれしたり……
おかしくなった私は精神病院に入れられ、愛を確かめ合った2人は生涯を通して結ばれるのだ。
____嗚呼、なんて素敵なの…………私の頭パッパラパーENDがなければ。
「うふぇい!!」
目が覚めた私が、最初に思ったこと。
取り敢えず、トイレに籠らせてください。
うん、ちょっと落ち着こうか私。
「緊張してどうしても体が強張る時は、腹式呼吸をすればいいよ」
合唱コンクール直前に滴る手汗も気に止まらないくらい緊張でガッチガッチに石化している私の背を摩り、そう言ってくれた藤木先生のことを思い出す。
いやあ懐かしいなぁ。あ、でも私あの後結局吐いたんだっけ、副担任の河野の口臭が凄すぎて。
「今までの全力を尽くして!頑張ろう!!」
とか叫びながらラフレシアにも劣らぬ悪臭を生徒たちに撒き散らした河野のことは、悪い意味でもう一生忘れられない。たった数秒間だったのに、悪夢の時のように感じた。…うぷ、思い出したら吐き気してきた。
………取り敢えず今は河野のことは忘れて、呼吸に専念しようじゃないか。
はい、息吸ってー!
吐いてーー!
吸ってーー!
吐いてーー!
ハイ四行無駄にしたー!
………そんな風に現実から目を背けていたらとうとう鐘が鳴ってしまいました。
渋々重たい腰を上げ、窓に映った自分の姿を一瞥する。
髪はボサボサで服装も所々乱れており、強く擦ったせいか瞼は赤く腫れあがっている。
ようやく視界も元通り、それと同時によく現実も見えてきたように気がする。
身なりを整えながらも、先ほどの夢のことを考える。
ちょっと、ついさっきまでは寝ぼけてたけど………
目が覚めてよかった。なんだ、ただの夢じゃん。気にとめる程のものでもなかった。
最近は生活スケジュールが川ちゃんと佐藤を中心に回っていたと言っても過言ではないぐらいだったからなぁ。なるほど、これは夢に出てきてもおかしくはない。
いやあ、それにしても精神病院で目を血走らせながら暴れる私の姿は、我ながらトラウマになりそうなほど怖かった。ヤバいあれ。絶対明日夢に出て来るパティーンだわ。
なんて一人で考え事をしているうちにも、時間は刻々と迫ってくる。
「やべ」なんて独り言を漏らしながら靴を履き直し、まだ気乗りしない教室への道のりを駆けた。
「ね、みんなで勉強会しない?」
「「勉強会?」」
私と青山の声が綺麗に重なり、奴との争いの渦中にあった卵焼きが動きを止めた私の箸と箸の間からころりと転がり落ちたのが同時だった。
____声にならない悲鳴が、私と青山の口から零れる。
「っあああああっ!!私の卵焼きがああああ!!」
「っあああああっ!!俺の卵焼きがああああ!!」
これまた綺麗に重なった声に、我ながら苛立ちを覚える。真似してんじゃねえよゴラ。
悲壮にくれる私たちを、川ちゃんがクスクスと笑う。
「本当に仲良しね、トリ丸ちゃんと青山くん。___まるで夫婦みたい」
「やあよ!こんな奴と生涯を共にするなんて!こいつと結婚するぐらいならゴリラと同じ布団に寝たほうが___」
「黙れ烏丸ナメクジ」
仄かに怒りを含んだ声が、私の口をふさぐ。
これまで存在を忘れられていた……ゲフン、会話に参戦してこなかった佐藤だ。
「ごめん、そんで川ちゃん、勉強会って?」
「うん、私と佐藤くんで話をしていた時に考えたんだけど……この四人で勉強会って楽しそうじゃないかなあ、って。」
シャーペンを頬に当て、可愛らしく微笑む川ちゃん。いやあ、和みます、癒されます。
「ん?まて青山、ベンキョーってなんだ?」
「バッカ、ベンキョーってお前、『便を強化する』で『便強』だろ?要は大を固くすりゃあいいんだよ」
「固くって…それ便秘じゃん。肌荒れの元、乙女の大敵。なんでそんなことしなくちゃなんないのよ」
「思うだろ?な?俺も便強は人生に必要ないと思うんだ……そう。勉強なんていらないんだ……ふふふ」
「だから黙れって」
あ、やべ。本格的に怒るやつや。
_____
中途半端なんですけどこのへんで失礼します
「……と、いうわけだ。
明日17時半に烏丸ナメクジの家に集合。絶対にお泊まりセットを忘れるな。以上だ。なにか質…」
「ハイ」
「早いな」
佐藤が言い終わる迄もなく私の右手が上がった。我ながら恐ろしく速いスピードだったと思うが、こればっかりは私も引くことはできない。これは自らの矜持や自尊心に関わることだからだ。
「なんで私の家なんですか」
「この4人の住まいの中間地点にお前の家がある。理解できたか?」
「いえ全くもって。
……だいたい、皆平等な距離だからってうら若き一人暮らしの乙女の家に泊まるか普通?」
「うら若き乙女(笑)……ってお前!一人暮らしなのか?」
驚いたように目を瞠る青山に、私ははたと首をかしげる。
「そういえば、言ってなかったっけ……?」
「私は知ってたけど」
「うん。川ちゃんは知ってるよね。」
川ちゃんのお母さんと私のお母さんは幼馴染で、保育器の中からの付き合いらしい。昔からとても仲が良く、よく『イケメソ』について語り合っていたそうな。
でも、私のお母さんが大学に通うため一り暮らしを始めた途端急に会う機会が少なくなってしまう。
更に、サークルで出会ったナマズ顔の青年……私のお父さんと結婚したお母さんは、父の実家に嫁ぎ、とうとう会うどころか親元に帰ること自体が難しくなってしまった。
「ああ、小百合とまたお話できないかな……」
でももう会うことはない、と故郷を恋しく思っていたお母さんに、ある奇跡が起こる。
なんと、川ちゃん一家が私たちの街に引っ越してきたのだ。
小学校で始めての授業参観で再会した二人。
感動と神様の優しい小細工に号泣しながら、二人はその日夜まで飲み明かした……という逸話まである。
更に川ちゃんのお母様、中性的な顔立ちをしたイケメソの心をしっかり掴んでいらっしゃるのだから流石である。
見目のみならず内面まで一点の曇りもない鏡のように美しく磨かれている川ちゃんのお父様。
料理がお上手で、愛らしい顔立ちと強い発言力のギャップにまた惹かれる川ちゃんのお母様。
その二人の愛の結晶がこの私の目の前にいる美少女……と、そういうわけだ。
因みに私の面食いお母さんになぜナマズ君を選んだかと尋ねると、失恋して泣いているときにそっとフローラルが香るハンカチを差し出してくれたから……だそうだ。そのとき、お母さんの目にはナマズの顔が少女漫画のヒーローのように見えたらしい。私にはどんな欠陥品のメガネをかければそう見えるのかが全く以って理解できないが。
多少話は逸れたが、まあそんな訳で私たちは家ぐるみで仲の良い家族だった。
……今はもう過去のことになるけれど。
「……‥トリ丸ちゃん」
「いいのよ川ちゃん」
なるだけ気丈な笑みを心がけつつ、私は複雑そうに目を伏せる川ちゃんを見る。
取り敢えず、頭にはてなマークを浮かべるこいつらに何かと説明を施さなければ。
「一人暮らしだったなら、何故そうと言わない」
「一人暮らしってっても……同居人的なのが週一に来るからなあ……
……うーん、微妙なラインや」
「同居人?どういうことだ?」
「えっとだねー……」
何かとがっついてくる佐藤と青山を軽く躱しつつ、ふと、この光景に既視感を覚える。
が、それは続いて青山の繰り出す質問攻撃のせいで、よく考えられない。
「自分で『家出してやるー!』みたいな感じで出てきたみたいな感じか?」
「いや、どっちかっていうと親が出て行った……?みたいな。」
「子供に家残すって…すげえ親だな」
「……」
うん、やっぱりデジャヴ。
背景、みんなが口を開くタイミング、耳に入ってくる騒音まで。
まるで、二度も同じ映画の鑑賞をしているような……何故?
「あ、あと烏丸お前ーー」
「お前は次に、『3時間目に机飛び越えた時、スカートめくれてたぞ』という!!
……ってうぎゃおべっやあああああ!!!」
「うるせーよ!!……てかよくわかったな」
私でも分からない。何故、分かったのだろう。
少し頭が混乱するが、それ以上に恐怖の感情が強い。
まるでこの世界を司る何かに触れてしまったような……少し、気味の悪い心地だ。
が、この既視感の正体はすぐに分かった。
「夢……!」
ついさっき見た、あの不気味な夢だった。
ああ、確かにそうだ!
合点がいった。
先程見たやけに現実味のある夢……その内容が今現実として私の目の前にある。
あの時は第三者のように客観的な目線で見ていたから、今目に映るこの光景はまるで自分が物語の中に入ったような錯覚に陥ってしまう。
なんとも不思議且つ不気味な感覚。
でも……
「……嘘でしょう」
信じられない。
こんなこと、普通にある筈がないじゃないか。
……いや、先走りしすぎて決めつけるのはあまり良くない。
たまたま川ちゃんたちの夢を見てしまった可能性もある。最近はずっと「ラブラブ作戦」のことで頭がいっぱいだったから。きっとそうだ。そうに違いない。
「烏丸」
……それにしても何だろう。本当にデジャヴ。
どっちが事実なの?どっちが虚像なの?
たまたま、たまたまあの夢を見ただけかもしれない。でも、本当にあの夢の通りになっていたら……目の前の、まるで台本を読んでいるかのような夢との一致具合が、とても気持ち悪い。……いや、もしかしたら本当に台本を読んでいるのかも……
「烏丸」
ぐるぐるぐるぐる、不安定な気持ちになる。混乱する。
取り敢えず誰か、違うって言って。
気味が悪いの。この悪寒の走るような感覚。まるでこの世界には台本があって、皆その通りに動いているような……私たちが自分の意思で決めたと思っていることはもう既にそうなると決まっていた……ああ、変だ。頗る怖い。お願い誰か。
「か・ら・す・ま!!」
「おひっ!」
思わず肩を大きく震わせて、妙な奇声を発してしまう。
慌てて振り向くと、そこには奇異な物でも見る様な目をした青山がいた。
「あ……」
「どーしたんだよお前。急にブツブツ言い始めて……」
「そーだよトリ丸ちゃん。顔色も悪いし…」
川ちゃんの言う通り、きっと今の私は酷い顔をしている。
心臓が強く動悸し、そして何よりさっきから体の震えが収まらない。
「あ、あーうん。なんか武者震いしちゃって」
「一体なにに挑もうとしてるんだよお前は」
「乙女の絶対領域に踏み込もうとする下賎な輩たちとの己の誇りをかけた剣戟」
「安心しろ、動物園のゴリラを襲おうとする奇特な奴なんてなかなかいないから」
数秒後、青山の横腹に綺麗な右ストレートが決まる。