随にフラグメント

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1:∵(何故ならば):2015/12/17(木) 20:06 ID:QLI

短編とか台詞とか。練習用とか趣味とか。なんか、そんな。

2:∵(何故ならば):2015/12/17(木) 22:15 ID:QLI

#1 銀と、朱。


 年老いた街灯が不気味に点滅する、あぜ道。か細い灯の元、それだけが月の光を帯びて、不自然に鈍く輝いていた。
 百舌はいつも通り、学校の裏山で趣味に没頭した後、帰路に着こうとしていた。それは、何ら変わりない日常の断片。其処に突如現れた非日常。それが百舌の眼前にたたずむ、1年3組の山田 環……通称マッキーだ。
 マッキーはバスケ部らしい長身をわずかに強ばらせて、警戒するような視線をぶつけてくる。百舌も同様に、強ばった固い表情でマッキーを見つめていた。理由は明白だ。お互い、夜中の21時に誰かと遭遇することなど、想定外だったからだ。そしてお互いの右手には、中学生が持ち歩くには、余りにも異形なモノを握りしめていた。
 百舌は渇いた唇を軽く舌で湿らせてから、おもむろに口を開いた。

「こんな時間に、何してるん? ナイフなんて持って、さ……」

 そう言われて、マッキーは右手に握りしめた得物を横目で見て、一瞬隠すような素振りを見せたが、すぐに開き直った様に百舌の右手を見て、切り返した。

「お前の斧なんて随分汚れてるな。血だろ、それ」
「じゃあ、何の血だと思う?」
「狸だな」

 百舌はわずかに口角をあげて「せーいかい」と言った。

3:匿名:2015/12/17(木) 22:22 ID:QLI

あ、もし読者さんとかいるのか? いたら気軽に感想とかお願いします。
思ったことを切実に述べて頂ければと思います。

4:∵(何故ならば):2015/12/17(木) 23:03 ID:QLI

>>2続き

 百舌の趣味というのは、動物を殺すことだった。他人のペットを殺すのは犯罪であるし、飼い主を悲しませるのは胸が痛む。ならば所有者の存在しない、山の動物なら殺しても構わないはずだ。そう考えた百舌は、六ヶ月ほど前から時々裏山に斧を持って入り、動物を追いかけ回しては、殺した。死骸は土に埋めて隠していた。
 しかし、2週間ほど前から異変が起きたのだ。殺した後、埋め忘れた動物の死骸が、腹を切り裂かれて、臓器を引きずり出されていたのだ。胃袋も切り裂かれて、中身が溢れていた。明らかに人の手が加えられていて、自分の作った死骸に手を加えられるのは、何処か腑に落ちなかった。それと同時に、そんなことをする誰かの正体を、ただただ、確かめたいと思っていた。
 百舌もマッキーも、強ばらせていた表情を和らげて、それから笑いあった。
 きっと、マッキーも動物殺しの犯人を探し求めていたのだろう。動物の死骸を通して出来ていた、不思議で歪な関係の正体を。

5:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 06:57 ID:QLI

#2 暗殺者その1


 私が初めて殺したのは、たった一人の家族でした。
 毎日お酒と葉巻の臭いがして、仕事もしないのにお金を沢山使って、暴力的で、お母さんを死なせた。脂の塊みたいなどうしようもない豚。それが父です。
 お母さんが死んで、お金を稼ぐ人がいなくなってからは、私を使ってお金を稼いでいました。知らないおじさんに、いっぱい嫌なことをされましたが、我慢すればお金が貰えて、父は機嫌がよくなります。でも、いつも機嫌が悪いので、沢山殴られました。だから私は毎日怯えて生きていました。
 あの日は、料理をするために野菜を切っていました。慣れない包丁で、指を切らないように気を付けながらゆっくり切っていました。

「早くしろノロマ。売り飛ばすぞ」

 父はお酒を飲みながら、私を蹴りました。その拍子に、持っていた包丁が私の指を掠めたのです。痛い、と思って指を見ると、ポタポタと血が垂れて、野菜を赤く汚しています。
 包丁は、お肉やお魚や野菜だけじゃなく、人間だって切れるのです。人間だって、切れる、のです。

「そっか」

 私はその瞬間、あることに気が付きました。
 食後のお酒を飲んで、大きないびきをかいて眠っている豚をじっと見つめて考えます。
 包丁は、切るためにあったのです。
 父の喉に当てて、横にスライドさせれば。噴水みたいに、凄く血がでて、部屋中燃えるような赤に彩られていきます。私も、真っ赤に染まります。
 可笑しな声をあげながら、血を吐いていた豚は、すぐに動かなくなりました。命が終わったのでした。私は人を殺したのです。
 普通の人ならば、その瞬間恐ろしい恐怖に震えることになるそうですが、私は違いました。
 心の底から、安心しました。もう痛くされない、嫌なことされない、怯えなくていい。私は、私は自由を手にしたのです。こんなに嬉しい事が他にありましょうか! 私はずっと父を殺したくて仕方がなかったのです。
 包丁には、ベッタリと血が着いていて、なんだかそれが宝石のような美しいモノにみえました。
 だから何度も何度も何度も何度も何度も何度も……父だった脂の塊を、包丁で貫きました。
 その時からなのでしょうか。私に人間性というものが失われたのは。それとも、もっともっと前に、私は人間じゃなかったのかも知れません。

6:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 11:22 ID:QLI

>>5続き

 いつも通り、背の高い手頃な木によじ登り、夜の山林を見渡す。メデューサ族特有の蛇眼は、人間の発する赤外線を認識し、サーモグラフィのように写しだす。獲物を狩る為の……アサシン向きの眼である。
 50mほど離れたところに、それは写し出された。
 今日のターゲットは3人。全員ソーサラーであり、さしていきる価値もないクズだそうだ。
 都合よく山でキャンプを張り、見張りも付けずに眠っている。

「見張りが居ようと、全員寝てなかろうと、関係ないけどね……」

 慣れた手つきで弓に矢をつがえて、狙いを定めーーーーーー射る。生き死にも確認せず、すぐに次の矢をつがえ、射る。そしてまた、射る。
 蛇眼はけして視力はよろしくない。私の眼では流れる鮮血や死に顔を確かめることはできないが、サーモグラフィでピクリとも動かず、青くなってゆく3人を見たところ、ミッションは成功のようだ。
 あれから13年。息を吐くように人を殺し、他人の言葉を全く信用しない。冷酷で機械じみている。人間性なんて、微塵もなくなっていた。
 アサシンに人間性など、必要無かったのだから。なるべきして、私は人間性を切り捨てていったのだ。

「殺すこと、は、生きること」

 自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。今になってどうして昔のことを思い出したのだろう。馬鹿馬鹿しい。早く依頼人に報酬を貰って、本部に帰ろう……。

 他のアサシン達の集う談話室の戸に手を掛けたとき、中から金切り声が響いた。

「俺を殺してよ!」

 内心同様しながら、控えめに戸を開くと、白い綿雲のような髪の少年(と言っても彼はドワーフ族であるため、年齢よりも見た目が幼いのだが)、ビャクヤが喚いていた。その向かいには、茶髪に紫の瞳をもった長身の男、クロガネが顔をひきつらせて、ビャクヤを凝視している。
 私は軽く部屋を見回した。アサシンはあと一人いるはずだが、仕事か何かで出掛けているらしい。

7:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 18:17 ID:QLI

#3 嫉妬>憧れ


 ーーーーーーいつの間に“最強”なんてふざけた称号を手にしたのだろう。コンクリート性の高い天井と長い廊下に、無機質な円柱が無数に立ち並ぶB3資料室付近にて。フォルテが、古い友人と出くわして最初に抱いた感想である。
 出来ることなら、しばらく会話などしたくはなかった。しかし、無駄に広いこの空間ですれ違っては、流石に無視する訳にもいかない。
 小さく溜め息を着いた後、気さくに笑顔を作って「久しぶりじゃん」なんて口にした。元々水路だったB3内に、明るく努めた自分の声が反響した。
 人見知りの彼、テノールが普段から目深に被り続けているフードをはずして「フォルテか。こんな所で……奇遇だな」と、口元を綻ばせて言った。出来るだけ人と目を合わせようとしないテノールのフード下をおがめるのは、彼が気を許した相手だけである。
 何度も目にした銀髪と赤眼。そして前髪に隠れた右目。フォルテにとっては、どこか複雑な気分だった。

「なんでこんなトコ……あー、人混み嫌いだからか。ここなら滅多に人なんか来ないもんな。サイキョーの人はやっぱ違うなぁ」

 思わず含みのある言い方をしてしまった。テノールの顔色を伺ったが、ただ苦々しく笑っていた。

「“最強”なんて、誰がいい始めたのだろうな。ただ、目的がはっきりしているだけなのに……」

 口元が引きつる。一言、一言……。本当に不快である。そんな嫌味なんて。聞きたくないのに。

8:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 18:33 ID:QLI

こっちだと全ダッシュがわからない。
今はーーーーでやってるけど、___が正しいのか。

9:∵:2015/12/19(土) 22:33 ID:QLI

>>7続き

 なんとなく、吹っ切れてしまった。フォルテは感情を抑える気も無くして、全て吐露する。

「兄貴だっけ? 悪魔を殺すためだろ。やっぱ悪魔を殺せるのは悪魔ってことなんだなぁ。人間には手に余るもんな」

 実際にテノールの魔力の糧となっているのは、悪魔の母から得た、悪魔の血であった。
 まさか友人であるフォルテからそんなことを言われるなんて、想像もしていなかったのだろう。テノールは、しばらく固い表情で、黙ってフォルテを見つめていた。
 それからちょっとして、やっと口を開いた。今まで聞いたことのない、冷ややかな声色で。

「つまり____何を言いたい?」
「何怒ってんだよ? お前の強さを称賛してんだけど」

 少し間をおいて、嘲笑を浮かべ、皮肉たっぷりに「バケモノじみた強さだって」と、告げてやる。
 フォルテが言い終わらない内に、目に見えてテノールは殺気立っていた。いつ切りかかってくるかと、フォルテは身構えた。しかし、テノールが魔力を解放する気配は全くなかった。
 あれ? と思ってテノールの顔を改めてちゃんと見た。苦々しい笑顔を浮かべ、少しだけ寂しそうな目をしていた。

「私は半分と言えど、悪魔だ。わかっているからこそ、お前には言われたくなかったよ。……じゃ」

 テノールはそれだけ言い残して、フードをかぶり直しつつ、立ち去ろうと足を踏み出す。
 ____違う。……違う、だろ。

「待て、よ」

 呟くように口から溢れた。ほとんど意識せずに口を開いていたように思う。
 テノールはフォルテの横を通り過ぎようとしたところで、僅かに聴こえた言葉に反応して、立ち止まった。その顔にはもう、表情はなかった。

10:∵:2015/12/20(日) 16:24 ID:QLI

「昔っから、どうしてお前は、そうなんだ……ッ」

 同じ村で育って、ハイアリンクの中で一番良く彼のことを知っていた。どうしようもなく強くて、ヒーラーの自分には越えられないこと。そしてその強さに醜く嫉妬して、嫌悪感を抱いている、自分のことも。誰よりも知っていた。
 テノールが消えてしまえば、いい。フォルテは、ずっと心の何処かでそう思っていた。その激情が、どうしようもなく溢れてくるようだった。
 不意にフォルテは、彼の喉元に掴み掛かっていた。
 本人でさえ、予想も意識もしていない動きだったためか、テノールは完全に油断していて、抵抗する間もなく、コンクリートの壁に叩きつけられる。

「は、……ッぐ、」

 空気を吐き出す音と、呻き声。焦りと怒りの要り混じった赤い目で睨み付けて、フォルテの両腕を引き剥がそうともがく。
 “最強”と言えど、それは戦場に置いてであり、テノールがどんなに凄い魔法使いであろうと、この状況を打破する腕力は持ち合わせていなかった。
 それでもこのまま呼吸が出来ないのであれば、テノールは死んでしまう。苦し紛れにフォルテの腕に爪をたてて、ガリガリと引っ掻いて抵抗した。
 腕に幾つもの爪痕が出来て、血が滲み始めたが、それもあまり気にならなかった。テノールの苦しげな表情を見て、そこに優越感を抱く自分が居たからだ。
 今まで、テノールの顔を見るたびに、どこか後ろめたいような、歯がゆい、複雑な心境になっていた。それがどうしたことか。今目の前で、自分の手で弱っていくコイツを見ていると、心が晴れやかになっていくのである。


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