随にフラグメント

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1:∵(何故ならば):2015/12/17(木) 20:06 ID:QLI

短編とか台詞とか。練習用とか趣味とか。なんか、そんな。

11:∵:2015/12/23(水) 03:00 ID:QLI

>>6続き

「剣を抜けよ。クロにとって俺を殺すことなんて簡単でしょ!?」
「ビャクヤ……」

 クロガネがちらりとこちらに視線を送った。「どうにかしてくれ」とすがるような目。私もどうしてよいか解らず、曖昧に目をそらした。
 ビャクヤがこんなことを言い出すことは、何となく予想していた。殺すことは生きることであると教えられてきた私達にとって、殺せないことは死に直結する。
 彼は、殺してでも生きることを恐れてしまっていたのだ。

「クロは俺のこと殺せないの? 仲間、だから?」
「違う……! 仲間意識で殺せないわけじゃ、ない……!」

 冷たい声色で問うビャクヤの目には、失望さえ伺えた。殺人機の様に育てられてきたクロガネが、殺すことを躊躇しているからだろう。
 私も、軽く嘆息する。クロガネが情に流されて人を殺せないなんて。ビャクヤの善くも悪くも人間らしい所に感化されたのか。
 私達、アサシンは“殺すことや死ぬことを恐れてはいけない。他人の言葉を信じてはいけない。情に流されてはいけない。ただ依頼に従って作業的に殺せ。人間性を捨てされ。殺すことは生きることだと言うことを忘れるなかれ。”
 ビャクヤの様に恐れることも、クロガネの様に情にほだされることも、アサシンにとっては不要なこと。アサシンには相応しくないこと。なのに。

「クロが殺せないならグレース。俺を殺してよ」

 うつ向いて表情の伺えないクロガネを、静かに見据えたまま、私にそう言った。
 ケットシー族の血が混じったビャクヤの猫目には、僅かな恐怖が携えられていた。
 嗚呼、この子は私が殺すことを信じて疑わないのだろう。人間性を捨てきれないビャクヤは、勝手に私を信用しているのだ。
 私の口から「それは出来ないわ」と告げられることなんて、予想もしていないのだろう。

「…………え?」
「勘違いしないでね。私はあんたを殺す正式な依頼でもない限り、殺そうとは思わない。それだけよ」

 それを聞くと、ビャクヤは自嘲気味に笑って言う。

「優しくしちゃダメ、殺し続けなくてはいけない、人を信用しないって、俺には難しいよ。」
「それはあんたが弱いから……」
「クロにも出来なかった。人間性を捨てきるなんて出来ない。そうしたら、壊れてしまいそうで……恐いよ」

 それから、ビャクヤは困ったように笑って私を見た。私の、一番嫌いな目で。

「クロもグレースも、取り乱してごめんね。部屋戻ろう」

 ビャクヤがそういったので、私も彼も、各々の部屋に足を進めた。

 ベッドと仕事道具が有るだけの部屋で、ビャクヤの困ったような顔を思い出す。苛立ちと共に。
 あの目に込められていたのは、同情。アイツは、私に同情したのだ。
 どういう意味だ。同情するのはこちらの方だ。恐怖を捨てきれなくて、殺す度に自分に怯えるような奴。アサシンになりきれないビャクヤの方が滑稽なのに。
 ベッドに腰かけて、苛立ちを押さえようと枕を殴り付けた。ぼふっと音をたてて、少し埃が舞う。

「…………………………」

 人間性を捨てきれない二人を考えて思う。それを失っている、私の方がおかしいのかも知れない。作業的に人を殺して、何も感じなくなってしまった私が。きっと仲間のアサシンを殺しても、何も感じない私が。誰よりも異端だったのか。
 そんな考えが頭を余儀って、足先が僅かに震えた。

12:∵:2015/12/23(水) 03:07 ID:QLI

#1とか#2とか、終わりって書き忘れた。
#1はなんか冒頭が書きたかったのと、雰囲気だけ描写したかっただけ。
#2は人間性を捨てたと思い込んでるだけで、最後には確かに自分に対する恐怖を抱いたっていう。

13:∵:2015/12/23(水) 08:40 ID:QLI

#4 暗殺者その2

 “クロガネ”という、名称の由来ともなっているのが、刀身の黒い細剣である。
 仕事が終わると、まず黒い細剣の手入れをするのが日課だった。愛着が有るわけでは無い。強いて言うならば、自分と一緒に育ってきた、たった一人の家族____そんな存在だったから。

 その日の仕事を終えて帰って、血塗れの服を着替えた後、談話室のソファに腰かけて細剣を磨いていた。暫くすると、ビャクヤが音もなく近付いてきて(少しビビった)、神妙な顔をして言った。

「俺を殺して」

 一瞬何を言っているのか、意味が解釈出来なかった。ビャクヤの顔を凝視しながら、黙っていると彼は淡々と話し始めた。

「もう、誰かを殺すことが……傷付けるのが怖くなったんだ。頑張って殺してれば慣れるかと思ったけど、駄目だった。でも、自分で死ぬのも恐くてさ。俺のこと、殺してよ」

 僕は何も言えない。ビャクヤを殺すことなんて、考えたことも無かったから。

「待てよ、死ぬ必要なんか____」

 “殺すことは生きること”。その言葉が頭を余儀って、口を閉ざした。アサシンが殺せないなら、生きる価値なんかないじゃないか。それを一番理解しているのは、自分だった。
 でも、と話を継いだ。

「僕はビャクヤを殺したいと思わないし、直接的に殺さなくとも、アサシンとしてはやっていけるから____」

 だから、何だ? それは自分が殺したくない言い訳と、死んでほしくない口実じゃないか。今自分が、どれ程甘ったれたことを口走ったのか悟った瞬間、また言葉を失った。

「何それ、俺はもう殺すのは嫌なのに、殺しをしてでも生きろっていうの!?」
「……そう、じゃない__」違わない。
「クロが、今持ってる剣で貫いてくれれば一瞬だろ! お願いだから____僕を殺してよ!」

 聞きたくなかったし、認めたくなかった。ビャクヤが死にたがっていることも、自分が殺すことに躊躇してることも。

14:∵:2015/12/23(水) 12:29 ID:QLI

>>10 続き

 自分がテノールの命を握ってるも同然であることに、“最強”を殺すことだって出来てしまうことに。フォルテは自然と口角をあげた。何が最強だ。

「努力しても強くなれなかった……でも、俺はお前より強いんだ。だって、俺はお前を殺すことも生かすことも出来る! ザマァねぇな!!」

 ぱっと手を話せば、壁にもたれて力なく崩れ落ちた。荒々しく呼吸を繰り返し、時折咽せかえすテノールを見下ろして、嘲笑った。
 呼吸が整うと、真っ直ぐな酷く不快な目でフォルテを見据えて、口を開く。

「フォルテの“強さ”って言うのは、殺せる力のことなのか?」

 掠れた声なのに。大嫌いなテノールの言葉なのに。妙に胸を打つ響きがあって、ひどく動揺した。

「な、なにが……」
「逆に、ヒーラーとして人の命を繋ぐことは“弱さ”なのか?」

 そんな言葉なんか、聞きたくなかった。その一言一言が、余りにも核心を突いていたから。

「私はフォルテみたいに回復魔法が使えないから……救えなかった命が幾つもあった。“最強”なんて呼ばれても、誰かを護れないなら、なんて虚無なんだろうって____」
「止めろっ……!!」

 勢い余って、テノールの側頭部を蹴りつけた。更に、ろくに受け身も取れずに床に倒れたテノールの腹部に蹴りを入れると、小さく呻き、咳こんだ。
 なんとか体を起こそうとするテノールの手を踏みつけて、言い放つ

「それでも、それは結局成功者の妄言だっ! 強くなければ、誰も救えない……っ」

 なんにも、出来やしないのだ。

15:∵:2015/12/25(金) 23:47 ID:QLI

#5 宵の口日記

×月11日(金)
 空気が澄んでいて、息は白かった。空は夏と違って雲一つなく星や半月がくっきり見えて、ずっと見ていたいと思った。寒くなければ、な。
 どうせ親が帰ってこようとなかろうと、俺がベッドにきちんと収まっているかどうかなんて気にするはずがないので、こうして深夜徘徊を楽しんでいるわけだ。
 今日がその記念すべき初徘徊だから日記にしてみた。
 人気のない住宅街を彷徨いた。猫を見つけたので追いかけたが、見失った。
 それ以外、特になにもなくて、でも詰まらないとは思えない。明日もやろうと思った。

×月12日(土)
 今日は空が雲っていて、星は見えない。その代わり、空気は暖かくて風もなかった。
 また住宅街をうろうろして、猫を追いかけた。白サバ猫だった。杉田という人の家に逃げてしまったので、それ以上は追いかけられなかったから、俺も流石に諦めるしかない。
 帰りに黒いコートを着た少年とすれ違った。こんな時間に何をしているのか。相手からすれば、俺もこんな時間にって感じだろうが。
 その少年の横顔が、同じクラスの山田に見えて振り替える。髪型や背丈も、そんな風に見えたが、実際はわからない。わからないけど家に帰った。

16:∵:2015/12/28(月) 19:32 ID:QLI

#6 右と言われたらソイツを殴る

「君は狂っている」

 放課後の教室で、全く知らない男子にそう言われた。
 意味が分からない。訳わかめ。どうして私にそんなこと言うのか。
 ムカついたので、その男の左頬を殴り付ける。繰り出した拳は綺麗にめり込んで、彼は衝撃に耐えられずに投げ出された。机や椅子を巻き込んで、騒音と共に。
 それでも、倒れた椅子にもたれて、彼は立ち上がる。なんのために?

「ほら、狂っているよ」

 男は頬を擦りながらそう言って笑った。何をヘラヘラしているのか。ムカつく。
 その容貌といい性格といい、彼は妙に私の心を逆撫でする。何だか声にも腹が立ってきた。なんと言うか消えてほしい。

「チェストォォォ!」

 威勢の良い掛け声と共に、もう一度拳を振り上げる。
 男は避けるどころか拳に吸い付くように当たりに来た。ナンダコイツ。

17:∵:2015/12/29(火) 01:30 ID:QLI

>>13続き



 ____結局、グレースも僕もビャクヤを殺さなかった。
 ビャクヤは死んでしまいたい思いを抱えながら、自分の部屋に戻って行く。
 その後ろ姿をぼうっと眺めて、僕は自嘲ぎみに微笑んだ。
 僕は、いつから人間ごっこをするようになったのか。父の教えにただ従うだけで良いのに。アサシンとして育った以上、淡々と仕事をこなす殺人機であれば良いのに。
 嗚呼、なんて不甲斐ない。
 僕は細剣を片手に、ビャクヤの部屋の戸を開けた。表情は携えず、自分の意思を殺し、機械の如く。
 虚ろな眼のビャクヤは、僕を見据えて呆けていた。彼はそこにいるのに、意識だけが切り離されている様に思えた。

「さっきは悪かったな、弱気な言い訳ばかりして」

 ビャクヤの猫眼の瞳孔が、一瞬だけ開いた。驚いているのだ。しかし、それは確かに一瞬で、今は困った様に微笑んで、立ち尽くしていた。

18:∵:2015/12/30(水) 03:41 ID:QLI

#7 色の亡い街

 アルビノ。それは一つの罪の名称である。

19:∵:2016/01/08(金) 02:47 ID:QLI

◆救われない世界と防具屋店主
◆祭囃子ノ化ケ隠シ

20:∵:2016/01/08(金) 03:01 ID:QLI

◆**されたかった
◆赤い靴の子鹿

21:∵:2016/01/24(日) 20:44 ID:QLI

#8 幸せな結末

 例えば。赤頭巾はお祖母さんのお見舞いに行って、変装していた狼に食べられてしまいました。終わり。
 例えば。白雪姫は悪い魔女に騙されて、毒林檎を口にして、死んでしまいました。終わり。
 例えば。日々酷さを増していくいじめと、喧嘩ばかりの両親。学校にも家にも居場所を無くした私は、耐えかねて屋上へやって来ました。死ぬためです。

「……終わり」

 快晴の空の下、私はなんの迷いもなくフェンスを乗り越えた。
 吹き付けるは、湿気を含んだ夏の風。梅雨の終わりを告げている、清々しいほど心地よい。
 下を見れば、気が遠くなるほど遠くに見える地面。きっと冷たくて、容赦のないアスファルト。
 ここに来て足がすくむのは、生きることにすがっているのではない。本能的に死を拒んでいるのだ。
 馬鹿みたいに高鳴る鼓動と徐々に乱れている呼吸に、自嘲ぎみの笑みが溢れる。
 生きることが苦痛なら、死を望むことは免れない。生きる理由を無くしたのに、死を恐怖するのなら、どうすればいいの? 道はない。ならば早く死ね。そうするしか、ないのだから!
 ズルリと地を離れ、振り上げた右足は、宙を踏みつけて。重力は無慈悲に脚を引っ張って。後、一息なのに。後ろ手に掴んだフェンスをゆっくり手放して。

22:∵:2016/03/14(月) 13:29 ID:crQ

「赤頭巾は森の狩人に助けてもらうし、白雪姫は王子様のキスで目を覚ます。それじゃあ君は?」

 突然の声に驚いて振り替えると、見覚えのある少年。同じ学校の制服に身を包んで笑っていた。

「何しに来たの」

 今にも泣きそうな私は、声を震わせて尋ねた。彼がなんのためにここへ来たのか分かっていたから。止められることが、死ねないことが怖くて仕方がなかったから。
 彼はやはりというか、当たり前のようにゆっくり此方へ歩み寄ってくる。嫌だ、止めないで、止めないで。

「来ないで!」

 相変わらず震えた声で叫んだ。
 フェンスを強く握り締めた両手から、ゆっくりと力を抜いていく。その指先も酷く震えていて、冷たかった。

「……このまま死ぬの?」
「お願い。止めないで」
「止めないよ」

 ドクン、と自分でも解るほどの心音。
彼がまた、ゆっくりと近寄ってきて口を開く。

「ヒーローは常に遅れてやってくるものさ」

 彼の両手が私の肩を掴む。彼の手も僅かに震えていた。

「死にたいのに、死ねないんでしょう? 僕と言うヒーローが手伝ってあげるから、安心して」

 恐怖にひきつった顔の私に優しく微笑みかけると、彼は軽く私の肩を押した。

「でも、物語の素敵な事は、だいたい最後の方に起こるんだよ」
「___えっ……?」

 彼の手が離れたかと思うと、次の瞬間には何故か抱き締められていた。押し退けることも出来ないくらいしっかりと。

「君は、遅れてやって来たヒーローが幸せにするんだ。君の望んだ命の終わりなんていう、偽物の幸せじゃない」

 私は馬鹿みたいに泣いていた。嗚咽を溢して、子供みたいに。

「僕が、君を幸せにするヒーローになるから」

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……はっきり言おう。貴様は未熟だ!

23:∵:2016/03/15(火) 20:54 ID:crQ

>>18 続き

 命は罪で、存在は災い。白い髪や人よりも色素の薄い肌と瞳は、悪魔の象徴と言われた。忌み嫌われ、姿を見られれば石を投げられた。
 居場所なんて何処にも無い。勿論誰にも必要とされない。こんな扱いを受けるくらいなら死んだほうがマシだって。わかっているくせに何かにすがりついて生きようとした。黒い布を目深に被り、姿を隠しながら、常に周り人間に怯えながら。
 僕は人間の真似をする白い悪魔で。それは酷く滑稽なものだった。


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