行こうよ、あやかし商店街!

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1:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/04/24(日) 09:28 ID:3uI

プロローグ


神隠し___それにあった子供は一体どこに行くのであろうか?

その質問に、僕はこう答える。

あやかし商店街だよ。

そう言ったら、君たちは笑うかもしれないね。でも、本当のことなんだから、しょうがないと思う!

だから、そのことを証明するため、あるお話を書いた。
このお話を読んでくれたらきっと分かってくれるだろう。
このお話は、いじめられっ子の女の子のお話。
君たちは創作だと言うかも知れないけど、いやいや、何を言ってるのか。
これは本当にあった話だよ。

……あ、ちょっとちょっとお客さん!
怪しいって思わないでよ!
店から出てくなら何か買ってからにしてよ!
ちょ、ちょっとお客さぁあぁん!?

__あ、ダメだよ!そっちのドアから出て行ったら!






ムクロですが、何か?(*´∀`)
……え、あぁ、はい。グロはないですよ。残念ですか?

わちゃわちゃしていて、時にはシリアスになるお話ですよ。
安心して下さいな。基本ほのぼのですよ。

42:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/05/03(火) 21:44 ID:3uI

>>41
上から目線?いえいえ、全然上から目線じゃありませんよ!
それに、途中まででも、充分嬉しいですよ!
具体的に言ってくれて、ありがとうございます!
頑張ります!頑張って完結させます!
感想ありがとうございます!!(*´∀`)

43:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/05/04(水) 11:49 ID:3uI

「あれまぁ、綺麗になったねぇ」

日曜日の昼下がり。駄菓子屋にやってきた団子屋のミツさんは、店内を見回しながらそう言った。
留美子が挨拶をすれば、ミツさんは挨拶を返してくれた。しかも、懐からべっこう飴を出して、留美子の手に握らせてくれた。

留美子がキャッキャッと喜んでいると、店の奥から店番さんがやって来た。

「あれ、ミツさんじゃないですか」
「ああ、店番さん、良かったじゃないかぃ!店も綺麗になっててさぁあ!」

いいねぇ、わたしんとこも改装しようかねぇ、と簡単にミツさんは言うが、これほど駄菓子屋が綺麗になるまでに、様々な苦労があった。

マリアや美佐子の魔法のおかげで、店内の床は剥げてしまい、地面が見えてしまっていた。
壁もまたそうで、店番さんは何日も何日も、やってくる冷たい風に泣きながら寝ていた。いや、寝れなかった。
商品のお菓子は棚と一緒に炭になってしまったし……。

それらを全て直したのは、店番さんと旦那だった。
どちらもそういった技術は皆無だったのだが、何日もやってれば慣れるもので、二週間たつと、見れる程度にはなっていた。
それからまた四週間……約一ヶ月立つと、それはもう、元の店内よりも綺麗な店内になった。
そして、そこからお菓子を発注して、新しく作った棚に並べて……。

そういえば、一昨日、旦那がやって来て、技術のテスト用紙を見せながら店番さんとこのような会話をしていた。

__見ろよ、高校生とは思えませんって書いてある!
__本当だ。凄いね、旦那!
__だろぉ!?120点とかありえねぇって!
__ある意味マリアと巫女……あ、違うね。美佐子さんのおかげだ。
__そうだな。
__で、いつ美佐子さんに告白するんだい?

旦那は耳と頬を赤く染めながら、帰って行った。懐かしい。一昨日のこととは思えないほど懐かしく感じる。

店番さんが懐かしいと思っていると、留美子がねぇ、と声をかけてきた。

「どうしたんだい、留美子ちゃん」
「これ、ミツさんがくれるって!」

留美子がべっこう飴を店番さんに渡す。
店番さんはべっこう飴を受け取ると、包み紙を開いて、飴を口の中に放り込んだ。
胸が焼けるほどの甘さが、口の中に広がる。けれど、甘いものが大好きで駄菓子屋をしている店番さんは、特に気にすることもなく飴を転がした。
唾液が甘い。

「ありらとうごらいます、ミツさん」
「舐めたまま喋るのは宜しくないねぇ、店番さんやぃ」
「宜しくないね、店番さんや」

ミツさんを真似て、留美子が言う。
それはとても微笑ましく、店番さんは自分が叱られているとは自覚せず、小さく笑った。
__その店番さんの頭に、痛みが走る!

「いったあ!」

突如頭に走った痛みに嘆いていると、店番さんの横に、カランと音をたてて金盥が落ちた。

ミツさんはおんや、と声をあげる。
店番さんの隣の金盥の隣に、人間の世界の学校の制服を着た少女が現れる。
最近、妖怪の世界の管理者になった魔女マリアだった。

マリアは頬についた髪を払うと、ミツさんと留美子に向かって手をふった。

「マリアさん!久しぶりですね!」
「久しぶりね、留美子、それとミツ」
「久しぶりです、マリア様」

管理者となったマリアは、以前よりもこの駄菓子屋に来るようになった。
また妖怪の世界にも来るようになり、自分で魔法教室なるものも作りあげてしまった。
彼女の夢は魔法使いを多く生産し、最強の魔女である自分に都合のいい世界を作ることらしい。
そのために、今着々と準備を進めている。

マリアは店番さんをチラリと見ると、鼻で笑った。
未だ頭をおさえ嘆く店番さんは、至極マヌケであった。

「今日はちょっと開拓使を派遣しに来たのよ。妖怪の世界は、開拓しがいがあるものね」
「開拓ですかぃ?」
「そう、開拓よ、ミツ。妖怪の世界は些か原始的過ぎるわ。貝塚が未だに増え続けているし。だから、開拓するの」

店番さんが、また面倒なことを……と呟くが、マリアはそれを無視した。
人にとって面倒なことでも、マリアにとって楽しいものならば、構わない。
マリアは自己中心的だった。

44:ムクロ氏@太ももを影からこっそり見守り隊:2016/05/04(水) 17:33 ID:3uI

その日の留美子はご機嫌だった。
学校が終われば、留美子はいつも通り、決して速いとは言えない走りで駄菓子屋にへと向かった。

ご機嫌な留美子はご機嫌過ぎて、留美子の後をつけるものが三人いることに気づいていないようだ。
その三人は留美子をいじめるものたちである。
ご機嫌な留美子を絶望させてやろうと思い、後をつけているのだ。

留美子がある商店街に入っていく。三人は、あれ、と思った。

「どういうこと、留美子の家はこっちじゃないでしょ」

フリフリの洋服を着た、山田が言う。

「知らないよ。でも最近、あいつ帰るの遅いらしいよ」

山田の言葉に、眼鏡をかけた佐藤が応える。

「あ、変な店に入っていったよ」

話し合う二人に、ピンクのランドセルの斎藤が言った。

駄菓子屋に入っていった留美子を追って、三人も駄菓子屋に近づく。
駄菓子屋についている窓から、そっと中を見た。

「見てよ。留美子が高校生と喋ってる」

息を潜める、店内を見る三人。斎藤が言った通り、留美子は男子高校生と喋っている。
思春期の女子小学生三人組は、彼氏じゃないの、と言い合った。
残念ながら、その男子高校生には他に思い人がいるのだが……。

男子高校生と、店のものらしき人と、留美子が喋っている。そこに、どこから入ってきたのか、女の人もやって来た。
三人が気づかないうちに、ドアから入って行ったのだろうか。

「何話してんだろ」

斎藤が誰にともなく呟くと、それに佐藤が応えた。

「さあね」

短い応えだ。
山田はじぃと店内を見、そして、そうだ、と声をあげた。
すぐさま佐藤と斎藤に注意されるが、それを軽く流し、山田は未だ睨んでくる二人に提案した。

「あの中に入ろうよ」

たまたま見つけて入ったってことにしちゃえば、全然大丈夫だって!
二人はすぐに賛成し、三人はドアの前に移動した。

お化け屋敷に入るときのようにワクワクする。
山田がドアノブに手をかけた。

留美子はあたしたちを見てどう思うんだろう。どんな顔をするだろう。
すっごい楽しみ!
___子供故の残酷さだった。

ドアを開けると、ギイィッと木の軋む音がした。
店内にいた、四人の顔が三人組の方に向く。
留美子の目が見開かれるのが分かる。それを見て、三人組はいやらしい笑みを浮かべる。
わざとらしげに、斎藤が言った。

「あれ、留美子じゃん!」

それに佐藤が乗っかる。

「ほんとだ、ほんとだ、留美子じゃん!適当に来たところに留美子がいるとか、凄い偶然だよねぇっ!」

留美子が涙目になり、震え出す。そして、あたしたちから逃げるように退く。
___そう山田は思っていたのだが。
現実には留美子は目を見開いただけで、特に怯えた様子もなかった。

「えっ」

三人の声が合わさる。
すると、留美子が女性の手を引いて、こちらにやって来た。三人組は一歩退いた。

「これから、ちょっとお姉ちゃんと散歩に行くの。どけてくれる?」

お姉ちゃん、と言われて女の人は顔を真っ赤に染めた。
三人組は、留美子と女の人を通すために、その場から避けた。
留美子が嬉しそうに言う。

「ほら、お姉ちゃん行こうよ。怖くないって」
「いやだって、念を使えば行けるとしても、少し怖くて」
「行けると信じてはいるの?」
「まあね。でも少しこわ__ひ、引っ張らないでってば、うわっ!」

留美子と女の人が外に出る。
女の人は何十秒か固まると、とたんに跳び跳ねて、やったあと声をあげた。
そしてスキップで遠ざかっていく。
留美子はそれを追いかける前に、三人組の方に振り返って言った。

「私、いじめなんかに負けないよ」

いつもの泣きそうな顔ではない。自信に満ち溢れ、そして威圧感がある。

待ってよお姉ちゃん、と留美子が走る。
三人組はそれとは反対方向に駆け出した。
恐怖が体を動かしている。どうして、こんなに怖いんだろう。
山田はねばねばした唾液を飲み込んだ。

45:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 11:42 ID:3uI

旅人が野宿するには最適な野原。
周りにこれといって大きな森もなく___小さい森はあったが___狂暴な動物も出ないことから、この野原は旅をしている妖怪たちに重宝されていた。
今日もまた、その野原に旅の一団が通りかかった。

「最近じゃあ、故郷に帰ってねぇなぁ」
「あんたの故郷ってどこじゃ?」
「あやかし商店街だから、すぐ近くだあ」

懐かしい故郷の話をしながら、一団は野原を横切った。
今日は久しぶりに宿屋に泊まるから、野原は必要ないようだ。
そうして話ながら、野原を抜け、小さな森に入って行こうとしたそのとき、突然後ろで雷の音がなり響いた。

雷でも落ちたか、と一団が後ろの野原を見れば、そこには巨大な塗り壁らしきものが!

「な、なんだぁ!?塗り壁かぁ!?」
「いやちげぇ。ありゃあ、きっと狸か狐の仕業だべ!」

妖怪たちは恐怖を感じながらも、その『巨大なもの』に近づいていった。
赤信号みんなで渡れば怖くない、と言ったところか……あ、違うか。
そもそも、この世界に信号はないだろうし。

「これ、あれに似てるねぇ」

『巨大なもの』を触りながら、一人の妖怪が言った。

「あれって、なんでぇえ?」

それに、他の妖怪が聞き返す。
『巨大なもの』を触っていた妖怪はそれに応えた。

「南の港周辺の、洋館ってやつにさ、似てるんだよ、触り心地が」
「ああ、確かヴァンパイアたちが住んでたなあ」

ここからずっと南にある港。数ヵ月ほど前そこに行ったとき、一団はある洋館に泊めてもらった。
その港を管理しているという、西から来たヴァンパイア一族の洋館だ。
この辺では見たことのないもので洋館はできており、とても頑丈で、冷たい
雰囲気を持っていた。……ヴァンパイアたちは暖かかったが。

「んじゃあ、なに。これはヴァンパイアのものかい」

『巨大なもの』を指差しながら言う。
すると、上空から声が降ってきた。

「ちょっと、何をしているの」

一団が上を見ると、そこには一人の少女が浮かんでいた。
西の方で見るような服を着て、手には分厚い本を持っている。逆光でよく見えないが、色白らしかった。
少女は一団の前に降りてくると、退けて下さい、と言った。

「な、なんでぇ、お前は」
「魔法使いかぃ?」

少女はそれに首をふって言った。

「中途半端な人工魔女です」

じんこう?__と、一団は首をかしげる。
当たり前だ。この世界に『人工』という言葉はないのだから。
じゃあこの少女は人間の世界のものなのか、というと、まさしくそうである。
この世界の管理者となったマリアが連れてきた、魔女たちの一人。それがこの少女だ。
少女はマリアに一番気に入られていて、名前はエリーという。

「この度、開拓使としてここにやって来ました。このビルは開拓使の本部です。今から中の構造、窓、扉を作るので、少し退けてくれませんか。でないと、あなたたちの体が溶けてしまう可能性があるので」

一団たちが理解できない単語など色々あったが、聞いたら退きたくなる「体が溶ける」という言葉があったので、顔を真っ青にして十メートルくらい退いた。
一番の臆病者は、五十メートルも退いている。

少女__エリーは、手に持った魔導書を見ながら、舌がどうかしているんじゃないか、と思ってしまうような呪文を呟いた。
すると、ビルが雷に撃たれたように光り、爆発音をあげた。ビルの壁の一部が溶けていき、溶けた場所にガラスが張られる。
特に多く溶けたところには、重厚な扉が作られた。

妖怪の一団は目を丸くした。五十メートルまで退いた臆病者も、近くに寄って来て、扉やガラスを見た。

「すみません、この後もやることがあるので、旅を続けてもらえますか?あと、森の前にいる妖怪たちも帰らせてください」

見れば、森の前にはたくさんの妖怪が並んでいて、ビルを口をパカッとあけて見ていた。
マヌケな姿の妖怪たちのところに一団は走っていき、全力でもとの場所に帰らせた。
一団も、逃げるように妖怪たちについていった。

エリーは、驚かせ過ぎちゃったかな、とうなじを掻いた。

「エリーが敬語を使うなんて、怖いわぁ!」

後ろに現れたマリアの顔を見ることなく、エリーはビルに魔法をかけ続けた。
マリアが何やらべったりとしてくるが、気にせず作業を続けた。

46:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 13:51 ID:3uI

「結構発展してきた……のかしら?」

マリアは紅茶を飲みこんで、折った煎餅を口に入れた。
紅茶に煎餅……西と東の文化が、口の中で混ざりあう。少し微妙な気がしたが、マリアは気にしないようにして、折って小さくなった煎餅を、また口の中に入れた。

目の前で同じように煎餅を折って食べる留美子は、そうだね、と頷いた。
留美子の近くにはランドセルの代わりにリュックが置いてある。
今日は土曜日。午前中から留美子はこの駄菓子屋に来ていた。

「確かに発展してきたかも。今じゃ自転車が大流行してるしね」
「自転車だけじゃないよ」

店の奥から、紅茶とほうじ茶二杯をお盆に乗せた店番さんがやって来た。
紅茶をマリアが、ほうじ茶を留美子がもらい、余ったもうひとつのほうじ茶を、畳の上に正座した店番さんが飲んだ。

「自転車だけじゃなくて、もっと都市部の方に行けば、車だってあるんだ」
「都市部?都市部なんてあるの?」

留美子は自分が知っている妖怪の世界を思い浮かべた。
確か、森や野原、集落ばかりで、都市部と呼べるような大きな街はなかったはずだ。

それにマリアが、それね、と紅茶を早くも飲み干して言った。

「都市部っていうのは、開拓使本部がある、元々野原だった場所。留美子も知ってるはずよ。まだもう少し暑かったときに、そこに皆でピクニックしに行ったじゃない」

それを聞くと、留美子は納得した。

発展させるための組織が、マリアの生み出した魔女たちによって結成されているのは知っている。
そして、そのリーダー的存在であるエリーという少女が、広く続く野原に、組織の本部としてビルを作ったことも知っている。
そのビルは、日本で言う国会議事堂。その周りが発展していくのは必然だ。

『ビル=国会議事堂→東京=都市部』という公式が留美子のちゃちな頭に出来上がっていた。

「車、走ってるんだ……」
「と言っても数台だよ。試験に合格する妖怪が少なすぎるし、まず、そんなもの必要ないって言う妖怪が多すぎる」
「楽だよ、車」
「運転する側は大変らしいわよ。……紅茶おかわり」

はいはい、とマリアから可愛らしいティーカップを受け取り、再び店番さんは店の奥に消えた。

マリアは何枚かの煎餅をせっせと折る。
それを見ながら、留美子は珍しく、非常に珍しく、まともなことを言った。

「でも、発展し過ぎたら、環境悪くならない?人間の世界では、地球温暖化って騒がれてるし」

煎餅を折る手を休め、マリアは留美子の顔を見た。
珍しく真面目なその顔に、マリアは驚いたが、それを顔に出さず応えた。

「大丈夫よ。魔法を使ってるから」
「でも、魔力が……」
「大丈夫と言ったら大丈夫よ。環境とか温暖化とか、魔法でちょちょいのちょいよ。魔法は基本、念で自然を操ってるんだから」

魔法とは便利だ。
留美子はそう思って、残り一口のほうじ茶を飲んだ。

駄菓子屋の外でチリンチリンと、自転車のベルを鳴らす音が聞こえる。
風鈴よりも聞くようになったその音に、留美子は寂しいような、嬉しいような、よく分からない感情になった。

47:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 15:59 ID:3uI

季節が変われば、人間も妖怪も関係無しに成長する。
気づけば季節は春になっていた。
夏は川に、秋は森に、冬はあやかし商店街内で、留美子は仲間たちと楽しく過ごした。
けれど、それは妖怪の世界でのこと。
人間の世界では、留美子はいじめに耐えて耐えて、そして今日____



「ねぇねぇ、あの人達、どの子の親類?」
「美形揃いねー。あ、あの制服って……」
「あの高校のよね?」
「そうよ!やっぱりそうだわ!頭良いのね〜。誰かのお兄さんとその友達?」
「親戚でしょ〜」


今日は素晴らしい門出の日であり、親は涙し、子供の成長に喜びや寂しさを感じる日である。
子供も友と慣れ親しんだ学舎との別れを惜しみ泣く。そしてその涙を越えて、次の世界へと踏み出す。
誰もが通る道、儀式___今日は、留美子の通う小学校の卒業式だった。

留美子は両親の目に涙を浮かばせて家を出た。
学校に着くと、いじめっこたちに色々と暴言を吐かれた。けど、それももう終わり。今日で終わりなのだ。
それに、留美子は心が強く、いじめなぞには屈しない人間となっている。
留美子は惨めな自分に別れを告げるこの卒業式を、心待ちにしていた。

心待ちにしていたのだが……___
少し、いや凄く、恥ずかしい。

ゆったりとした音楽に合わせるように、卒業生もゆっくりと赤いカーペットの上を歩く。
その時間はとても苦痛だった。

卒業式会場に入った瞬間、目に飛び込んで来たのは、異色の集団。
この場にそぐわない若さを持った集団は、留美子が歩き出すと、泣きだしたり、喜びの声をあげたり……。
近くにいた親御さんたちの、あのグョッとした顔と言ったら……!

留美子は顔を真っ赤にして、下を向いた。

「留美子、顔を上げなさいよ〜」

誰のせいだ、誰の!
感動の卒業式が、音を立てて崩れた気がした。


卒業式に来ていた異色の集団は、あやかし商店街にいるはずの仲間たち。
旦那と店番さん、美佐子にマリアにサトリ姉妹。
特に美佐子とサトリ姉妹は、普段着ない洋服を着ていた。

嬉しいのだが、恥ずかしい。
留美子は未だ聞こえる、顔を上げなさい、というマリアの言葉に涙を浮かべた。

48:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 16:30 ID:3uI

卒業証書授与。
出席番号順で名前を呼ばれて、壇上に上る。

留美子は恥ずかしさにも慣れ、気づけばいつも通りのすました表情に戻っていた。
そろそろ留美子の名前が呼ばれる。
留美子は特に高鳴ってもいない胸に、深呼吸をして空気を入れた。

__この卒業証書は、惨めな自分への卒業証書だ。

留美子は壇上に上って卒業証書を受けとる、いじめっこの斎藤を睨んだ。

あいつは元々私の友達だった。けど、そんなの見せかけで、ただのお遊びだった。
友達になるなんて、『いじめ』というお遊びの一貫に過ぎなかった。
けど、その遊びはいち抜けるね。
私は、もういじめられる可哀想な子なんかじゃない!

留美子の名が呼ばれる。

名前を呼んだ担任もまた、私をいじめた。見て見ぬフリをして、挙げ句の果てに、朝のホームルームでこう言った。

__みんな仲の良いこのクラスも、今日で終わりです。

留美子はこの日のためだけに綺麗にされたイスから立ち上がった。
歩き出すと、隣に座るいじめっこの一人である佐藤が、足を掛けてきた。
飛び出た足を踏み、留美子は壇上に続く階段の前に立った。

殺気染みたものを感じるが、それを無視して階段を上る。
たった三段の木の階段を、噛み締めるようにゆっくりゆっくりと上っていった。

壇上に立つ。目の前に白髪が残り少ない校長先生がいる。
名前を改めて呼んでもらって、卒業おめでとう、と言われる。

留美子はそれを受けとる時、走馬灯に似たものを見た。

いじめられた記憶。それはそれは酷かった。
何メートルも引きずられたこともあった。
給食に、ゴミを入れられたりしたこともあった。
日常的に暴力をふるわれた。
泣くだけの毎日だった。
家に帰って、何度カッターを握りしめたことか……!

けど、辛い記憶のあとは楽しい記憶だった。
あやかし商店街での日々。
髪飾り屋の照る坊主や、団子屋のミツさん、石屋のサトリ姉妹に天狗の天女。
巫女と呼ばれる美佐子と、店番さん、旦那にマリア。
他にもたくさんの妖怪がいる。
みんな留美子を甘やかし、楽しませ、いじめでついた傷を癒してくれた。

色んな事件だってあった。
元々妖怪の世界を管理していた元怨霊の女神。その女神が暴走した。
彼女の記憶を見たとき、留美子は辛くて仕方がなかった。そして、その彼女が消えたときも____。


右手を出し、卒業証書を掴む。


__けど全部、いい思い出。

最近になって、妖怪の世界は近代化していった。
となると、学校ができるだろう。その学校では、これと同じような卒業式が行われるかもしれない。
そしたら、妖怪の生徒たちは、今の留美子のような、晴々しい気持ちを抱くに違いない。


左手も出して、卒業証書を掴む。


夢みたいだった。あやかし商店街なんて。
楽しかった。嬉しかった。
あんな素晴らしい人たちに出会えて、本当に嬉しくて嬉しくて仕方がなくて、毎晩寝るのが怖かった。
朝起きたら、あやかし商店街なんてありません、って誰かに言われるのが怖かった。


そして一歩下がり、頭を下げる。
下げたら、電気の明かりで光っている床が、暗くなった。
涙が滲んで、特に高鳴ってもいなかった胸が、苦しくなる。


私、あやかし商店街の人たちに出会えて、本当に良かった……!


頭をあげるのに時間がかかる。
それがいかにマヌケに見えたとしても、別にいい。
留美子は今、惨めな自分から卒業したのだから。

49:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 17:10 ID:3uI

涙の卒業式を終えて、慣れ親しむこともなかった教室に戻ってくると、そこにはたくさんの親御さんたちと、妖怪たちが教室の後ろに立っていた。
もちろん、その『妖怪たち』というのは、先ほどの卒業式にもいたいつものメンバーである。
留美子は涙を拭いて、席についた。
幸運なのかは分からないが、留美子の席は黒板近くにあった。

担任教師がゴホンと咳払いをする。

「えー、皆さん。今日まで六年間、お疲れ様でした」

せんせー、という泣き声がたくさん上がる。担任はそれに応えるように鼻をすすった。

「このクラスは、楽しいクラスでしたか。わたしは、とても楽しいクラスでした……」

留美子は唇を噛んだ。
楽しい?何が?このクラスが?このクラスが楽しい?先生も?
それってつまり、やっぱり、先生もいじめ楽しかったってこと?
留美子はハッとし、その気持ちを抑えようとスカートを握りしめた。

この日にしか着ることのない、フリフリした、どこかのアイドルみたいな洋服。
服がしわくちゃになっても、留美子は気にすることなかった。気持ちを抑えられれば、それで十分。
けど、その辛い思いをキャッチしたものがいた。

___サトリ妖怪の聡子だ。

聡子は担任をじろりと睨むと、大きく咳払いをした。
視線が聡子に集まるが、聡子はそれを気にせず、ぼそりと呟いた。

「いじめてたくせに」

聡子が立っていた近くの席に座る生徒が、興奮して我を忘れていたからか、聡子の呟きを聞くと大声で叫んだ。

聡子はこれを待っていた、とでも言うようにニヤリと笑った。

「んなわけないじゃん!いじめなんてしてないし!」

視線を前に戻し始めていた生徒たちも、ええっと反応してその生徒を見た。
その生徒は佐藤だった。留美子をいじめていた子供だ。

佐藤はみんなの視線に気づくと、ハッと我に返った。

「えっと〜……」

弁解しようとしても遅かった。
親たちが騒ぎ出す。口々に、いじめ、という単語を発している。
これにヤバイと感じた担任は、佐藤と代わるように弁解した。

「いえいえ、い、いじめなんて、なにも、ないですよ!!」

取り乱し、言い訳をし始める担任を、誰が信じようか。

留美子は聡子を見やった。
聡子はそっぽを向いて、留美子の顔を見ない。
留美子は感謝するべきか、そうでないか迷った。
ここでいじめのことを告白すれば、いじめたやつらに復讐できる。
でも、それでは自分が惨めな人間だったと告白するようなもの。
留美子の頭の中は真っ白になった。

教室内はいじめという単語に埋めつくされた。
担任も、留美子を除く生徒も、皆取り乱している。
その中で、マリアが一歩を踏み出した。
マリアに視線が集まる。

留美子はマリアを見た。マリアも留美子を見た。
留美子の母親が、娘を案じてか留美子と名を呼んだ。

マリアの口が開く。

「それで、貴女はどうしたいの」

留美子は目を瞬かせた。

「貴女、卒業できたと思ってる?」

頷くと、マリアは嫌悪という感情で顔を染めた。
留美子はいけないことを言っただろうか、と首をかしげた。

「留美子、貴女は愚か者だわ。紙切れ一枚、貰っただけで自分から卒業できたと思ってるの?……頭が弱すぎるのよ、この甘ったれッ!!!!」

教室が、魔女の威圧がいっぱいになる。
シンと静まり返った教室には、マリアの怒号が響きわたった。

50:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 17:36 ID:3uI

「惨めな自分と卒業なんか出来やしない! 今まさに、何も言えないでいるお前は、ただの惨めな人間だ!
そうやって生きていくつもりかッ!?お前はその程度の人間かッ!?
このマリアが認めた人間が、こんな甘ったれた人間の小娘だったとは、見る目が落ちたってことかねぇッ!!
ええ、どうなんだ。何か応えてみろ、人間の小娘えッ!!!!」

留美子はマリアを凝視した。
あのマリアが、自分を叱ってくれている。あのマリアが、叱っている……!
マリアは怒ることはあったにせよ、『叱る』ことはしなかった。
そして、留美子は親に『叱られた』ことがなかった。もちろん、両親以外の大人にもだ。

留美子は『叱られて』、ようやく自分という人間が分かった。

自分で勝手に満足して、現実と向き合わない。自分の感情を『複雑』と称しては、本当に抱いてた感情から逃げて、本音を言わない。
__自分は、自己満足してばかりの人間だったのだ。

自己満足で卒業?……ああ、確かに怒るよね。マリアさんも叱っちゃうはずだ。

留美子は眉と目尻を下げて、自嘲した。

「私、バカだよね、やっぱり」

マリアはそれを聞くと、そうよ、と優しい声で言った。
マリアは振り向いて、妖怪たちを見た。

「あなたたち、何をしてるの」

妖怪たちはマリアの言葉に体の緊張を解した。
店番さんが先頭をきって、留美子のもとに向かってくる。
聡子が近くに来ると、留美子はありがとうと、小さな声で言った。聡子はそれだけで嬉しいのか、頬を桃色に染めてそっぽを向いた。

「それで、どうすればいいのですか、マリアさん」

里美がマリアに聞く。
マリアはすぐに応えた。

「あの汚れきった人間たちから、留美子を守りなさい。きっと何かしてくるわよ」

旦那は腕捲りをして、気合いを入れた。
店番さんはいつも通り、のんきに微笑んでいる。
サトリ姉妹は力を解放した。
美佐子は、いつでも魔術が使えるように念を作りあげている。

マリアは留美子の手を引いて、立ち上がらせた。

「さあ留美子。貴女もそろそろ卒業しなさい」

留美子は目を両親に向けた。
二人とも、何が何だかわからない、という顔をして留美子を見ている。
留美子は久しぶりにちゃんと見た両親の姿に、涙が込み上げてきた。

私が知らない間に、二人はあんなに老けてたんだ。

そんなに老けるまで、私のために働いていた。私は幸せものだ。
ありがとうございました、お父さん、お母さん。
ようやく卒業できるよ。

深呼吸をして、留美子はクラスメイトたちを見回した。
親に弁解しに行っていた担任は、いつもとは違う留美子を見て、脳内の言い訳リストに、たくさんの言葉を付け足した。責任から逃れるために。

仲間たちが、留美子の背中を押した気がした。
留美子は表情を固くして、声を出した。
普段大声を出さない留美子が叫ぶ。
クラスメイトたちと担任は、責任という名の化け物がやって来たのだと悟った。

人を呪わば穴二つ。
じゃあ、人をいじめれば___?

「……私はッ!!」

私は……___!!
留美子はねばねばになった唾を飲み込んだ。

51:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 18:13 ID:3uI

「私は、このクラスの人達と先生に、いじめられていましたッ!!」

それは違う、と口を開きかけた担任は、首が絞められるを感じた。
苦しくなり、咳をすれば、その感覚はなくなった。
担任は視線を感じ、辺りを見回すと、高校生くらいの女がこちらを睨んでいるのが分かった。
まさかな……と思いつつも、担任は冷や汗をかき、どんどん増えていく親たちの視線に怯えた。

「私が友達だと思ってた子たちは、友達のふりをしていただけで、それもいじめの一貫で………私は、暴力だってふるわれてましたッ!!他にも暴言は当たり前!!酷いときは、髪の毛を切られることもありましたッ!!」

溢れる涙を拭っても、新しい涙は溢れてくる。
留美子は涙を拭うことは無駄なのだと分かり、拭う手を下ろした。

髪の毛を切られた、という発言に親たちは「ありえない」と言った。
特に、留美子の母親は嘘よ、と叫んだ。

「どうして留美子が、留美子がなんでッ……嘘よ嘘よ嘘よおおお……ッ!!」

留美子がいじめられていたと信じたくない。その思いが溢れていた。
その周りにいた他の親も、自分の子供が酷いいじめをしていたということを信じたくなくて、嘘だと泣き崩れる人も現れるほどだった。

「校庭を引きずられたときもありました。他にも、たくさん……。私は、ずっとずっといじめられていて、それで、先生も助けてくれなくて!!」

挙げ句の果てには!!

「先生は今日、仲良いクラスって言って、このクラスは楽しかったと言ってッ!!」

留美子は歪んだ顔をした担任を見た。
担任はビクリと肩を震わせ、一歩後ろに下がった。

「それって、いじめが楽しかったってことですか、先生ええッ!!??」

留美子の口を塞ごうと、担任が走ってくる。
それを、店番さんが足をかけ、そして担任が前のめりに倒れてガラ空きになった背中に、旦那が腰を下ろした。
同じように、店番さんも旦那の隣に腰を下ろす。ブイサインをマリアに送る。
マリアは微笑みを店番さんに向けた。
店番さんと旦那も、同じように微笑む。
その二人の下で、担任は暴れた。

「俺は担任だ!教師だ!そんなことしない!いじめなど、決して……ッ!!」
「そんなの嘘だよッ!!!!私は何度も先生に助けを求めたけど、全然助けてくれなかったッ!!!!」

留美子は倒れている担任を睨み、だから、と声をあげた。

「だから私も貴方を助けないッ!!そのまま苦しみを味わってればいいッ!!」

マリアが笑い声を必死で抑えている。
マリアにとって、この状況は非常に嬉しいものだった。
もちろん、留美子の成長が見れたこともあるが、このような汚い人間が泣きそうになっているのは見てて楽しい。面白い。

マリアはキヒッと笑い声を漏らした。

「じゃあなんだ!!俺がお前を助けて、なんになる!?もっと酷いいじめになる可能性もあったんだぞ、えぇッ!?」
「酷いいじめになったとしても、手をさしのべることもしないで、笑って見てるような人間なんて、先生になっちゃいけないッ!!!!教師という役職への冒涜だッ!!!!ねぇ、人の不幸は蜜の味なんですか、先生!!!!私の不幸は美味しかったですかッ!!!???」

担任の唖然とした表情を見ると、留美子は次にクラスメイトたちを見た。
クラスメイトたちは、こちらを見た留美子に震え上がって、卒業式で流した涙とは、まったく違う、別の涙を流した。

「あなたたちもどうです!?私の不幸、美味しかったですかッ!?」

留美子の辛い日々。それらを美味しいって言うのなら………___!!
留美子は近くの席の女の子の顔を見た。女の子はヒッと声をあげる。

「そうやって、泣けば解決できるの!?ねぇ、じゃあ今まで私が流した涙で、あなたたちは何か解決してくれたのおッ!?」

女の子が声をあげて泣く。

留美子は他のクラスメイトに、再び顔を向けた。

52:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 18:44 ID:3uI

「私の不幸が美味しかったのなら、あなたたちは、人でなしだッ!!いつまで人間の皮を被ってるんだ、この化け物おッ!!!!」

ダンッと音をたてて、いじめっこの佐藤が立ち上がる。

「うるさいんだよ、さっきからッ!!!!いじめられるあんたも悪いんだよッ!!!!このバァアアァカッ!!!!」

すぐに帰れるように机の横にかけてあったランドセルを掴みとると、それを留美子に向かって投げた。
それを読み取っていた聡子は、飛んできたランドセルを掴むと、それを投げ返した。
ランドセルが、佐藤の顔面に当たる。

「そうやって暴力で、力で解決しようとしてるから、お前らは最低なんだ!!私は、お前ら大っ嫌いだ!!」

近くの席の山田が、先ほどまで座っていた椅子を持ち上げて、それを留美子に落とした。
さすがにそれに反応できなかった妖怪たちは、息を飲んだ。
椅子が、留美子の肩に当たり、留美子はその衝撃で倒れる。

留美子を見下ろしながら、山田が静かな声で言った。

「いいよ、別に。最低でも嫌いでも」

山田の両親は自分たちの娘のその姿に震えた。とても、自分たちの娘だとは思えなかった。

こんな恐ろしい子を、私達が……ッ!?

母親は目眩を起こしてふらついた。

「調子のんじゃないよ、グズったれ。黙ってよ、うるさいから。せっかくの卒業の日を無駄にしてくれちゃってさ。あんたの卒業?ハッ、勝手にやってればぁ?」

留美子は、自分に乗っかる椅子を退かして、立ち上がった。
椅子が派手な音を立てた。

「可哀想な人。そんなんだと、いつまでも卒業できないね」
「卒業したけど?あんたと違ってね」
「自己満足っていうんだよ、それ」
「……死んじゃえば」
「ごめんね、私死なないから」

美佐子が、留美子の肩に手をおくと、肩の痛みが消える。
耳元で、美佐子が応援する言葉を言う。
留美子は姉の言葉に励まされ、山田だげてなく、この教室にいる人間たちに言った。

「私はいじめられていました。自分を可哀想な人間だと思って、いじめを解決するための行動を起こしませんでした」

だから、私は惨めで愚かで最低な人間のままだった。
山田がうっせぇ、と言うが、それを無視して、留美子は言う。

「でも、今は解決しようとしてる。巻き込んでしまったのは、確かに悪い。けれど、これは責任なんです。責任を取る日が来たんです」

山田から数歩離れて、留美子はみんなに頭を下げた。
腰を折って、綺麗に整えられた髪を前に下げ、全てを終わらす。

「この日、この時に、こんなことをしてしまってごめんなさい。そして、ちゃんと責任を取ってください」

最初に動いたのは誰だったか分からないが、クラスメイトたちが留美子のもとにやって来て、頭を下げて謝った。

みんな泣いていて、そして留美子も泣いていた。
担任も謝罪する。
号泣しながらの謝罪は、留美子の心に響き、留美子は本当にごめんなさい、と呟いた。

パチパチパチ、と拍手が聞こえる。
見れば、妖怪たちが拍手をしている。
マリアは近くで拍手をする里美に泣きついた。
本当は怖かった、そう言って。

「卒業おめでとう、留美子」

妖怪たちが、そう言った。
留美子はそれに、涙笑いで応える。

「ありがとう、みんな」



騒ぎを聞き付けてか、多くの他クラスの生徒や他の教師が教室の外に集まってきている。
留美子の卒業式は、終了だ。

53:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 21:50 ID:3uI

__春というものは、何度巡ってきても飽きないものだ。



僕は物語を綴った筆をクルクルと回した。けどすぐに、筆はポトリと手から落ちる。
僕はもともと、ペン回しなんて器用なものできないから、しょうがないね。

筆を机の中に無造作にしまい、出来上がった自作の本をカウンターに持っていく。
駄菓子の種類が増えた、僕の店。誰もいない、いつも通りの店内だ。
でも、本を捲ると、その『いつも通り』がやけに『非日常』に思えてしまう。

綴った物語から、はや25年。
僕もいい年になった。最近来なくなった旦那も、美佐子さんも、僕と同じくらいのいい年齢だ。

時がたつのは早い。
あの全盛期だった頃を忘れぬよう、すっかり一人前になったサトリ姉妹の力を借りながらこの本を完結させてみたものの、どうも虚しさが溢れてくる。

忘れないよう、とは言ったものの、忘れた方が良かったのかもね、と僕は笑った。

「こんな虚しい思いをするなら、忘れた方がいいに決まってるさ」

この呟きを、誰も拾ってはくれない。
僕はため息をついて、店の隅にある、三畳の畳の上に腰を下ろした。
畳の上には、古い木のテーブルがある。
よくみんなでテーブルを囲んで、お茶を飲んだものだ。

懐かしんでいると、ギイィッと出入り口であるドアが開いた。
開いたドアの隙間から、物語当時の留美子と同じくらいの少女が顔を覗かせている。
僕はカウンターに行き、その子に手招きをした。

少女がとてとてと、運動が苦手な人間だと分かるような足どりでこちらにやって来た。

「いらっしゃい。君は何をしにここに来たん___」
「神隠しにあうってホント?」

僕の言葉を遮って、何を言うかと思えばそれか……。
僕は少し考えてから、少女の問に答えた。

「神隠しね、神隠し……そうだね、会うかもしれないね。そして、神隠しに会った子供はどこに行くのであろうか、という問いにこう答えるよ。
あやかし商店街だよ!ってね」
「あやかし商店街ぃ?」

聞き返す小さなお客さんに、僕はそうだよと頷く。

「でも、君たち人間はそう言ったら笑うかもしれないね。でも、本当のことなんだから、しょうがないと思う!」

久しぶりに、楽しいかも。

僕は自作の本を少女の目の前に置いた。
ドンッと音が、その本は分厚めなのだと証明してくれる。
少女はそれを不思議そうに見やった。
これ何、という目だ。

「だから、そのことを証明するために、あるお話を書いたんだ。これは、あるいじめらっこの女の子のお話。
君たち人間は創作だろうって言うかもしれないけど、いやいや、何を言ってるのか。これは本当にあったお話だよ」

表紙を捲ると、少女はうわあ、と声をあげて一歩ずつ、ゆっくりと後退したかと思うと、踵を返して、走って行ってしまった!

「あ、ちょっとちょっとお客さん!怪しいと思わないでよ!店から出てくなら何か買ってからしてよ!ちょっとお客さぁあぁあぁん!?」

少女は、2つあるドアのうち、自分が入ってきたドアではない方を開けてしまった。
僕はヤバイと思い、カウンターから出てその子を追った。

「ダメだよ!そっちのドアから出ていったら!」

ドアノブを回し、ドアを開けると、そこには少女と、少女を驚いたように見つめる美佐子さんの姿があった。

「あ、えと……」

少女が挙動不審になっている。
その少女を見て、美佐子さんは大声をあげた。

「あんた、留美子のところの……!!」
「み、美佐子おばさん、久しぶりです……」

僕はとても良い予感を覚えた。
また、あの静かな駄菓子屋が賑やかになる予感。しかも、昔の面々も一緒に賑やかに騒ぐ予感。

僕はとりあえず、少女に言った。

「ようこそ、あやかし商店街へ!」

54:ムクロ氏@太もも大神:2016/05/08(日) 22:01 ID:3uI

〜あとがき〜

やったー!完結だー!グロなしほのぼのとか三人称とか苦手過ぎるー!
とにかく完結したー!

ここまで読んで下さった方々、どうもありがとうございました!
今回のお話は、基本ほのぼの、たまにシリアスな内容で、しかも、前作に登場したマリアも乱入してのお話でしたが、皆様、ついて来れましたか!?
ついて来れなかったのなら、私の力量不足です。多分善処します。

……ところで。
話は変わりますが、どうやら私はグロなし、しかも一人称でないと疲れてしまう性質のようです(あ、性質と書いて「たち」です)。
ですので、次の作品を書くとなれば、多分、グロあり疑心暗鬼ありグログロありの一人称になると思われます!
その時は、どうか苦情など書かずに、そっとブラウザバックして下さい。
ムクロ氏という名を、セピア色に染め上げちゃって下さい(消してもいいですよ?)

まあ、なるべく、そうならないようにしたいんですがね!!
……とは言っても、無理な気が……いえ、なんでもありませんよ、大丈夫です。
そう!なんでもないんですよ!
だから、こんなあとがき忘れちゃって下さい。私の発言なんて忘れちゃって下さい。



それでは、私の発言を忘れた方々、さようならさようなら〜。
また次の作品でお会いいたしましょう〜(スマイル)


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