True End

葉っぱ天国 > 小説 > スレ一覧 101-キーワード▼下へ
1:匿名 hoge:2017/07/13(木) 19:14

注意事項
*ホラー系が苦手な方は閲覧を控えた方が良いです
*流血シーン有りです
*感想やアドバイスがありましたら、書き込んでくれると嬉しいです
*なりすまし、暴言、荒らしは厳禁

2:匿名 hoge:2017/07/13(木) 20:29

ドアノブに手をかけドアを開けると、やや耳障りな音がした。
視界に入ったのは、グレーの壁で囲まれた無機質な部屋だった。
小さな机と向かい合う2つの椅子しかない。
窓は無く、蛍光灯だけでは少し薄暗かった。
しかし、それらよりも目に留まったのは、2つのうち1つの椅子に座っている髪を2つ結びにし、眼鏡をかけている制服姿の女子だった。
俯いている彼女の名前を俺は呼んだ。

「萩野」

俺の声に気付いたのか、彼女は、

「あ……来てくれたんだね」

と声を漏らした。
萩野はクラスメイトであり、俺の恋人でもある大切な存在だ。
彼女の目は隈ができており、髪はボサボサだった。
無理もない。
あんな事件が起きたのだから。

「大丈夫か?寝てないだろ」

「大丈夫だよ。それに、そっちも寝てないでしょ?」

苦笑いを浮かべながら、答える萩野。
その顔を見ると、胸が締め付けられた。
側にいた警察官に促され、俺はもう一方の椅子に座った。


俺と彼女は警察署にて、取り調べを受けることになった。
あの事件の関係者、または生き残りとして。
お互い別々の場所で取り調べを行っていたが、彼女からの希望で、数時間後に二人で会うことが出来た。
正確に言えば、この部屋には一人警察官がいるが。
しかし、こうしてゆっくりと話し合える時間を取ってくれた警察には、むしろ感謝をしなければならない。
それに、警察署の外には事件を聞き付けた報道陣がいるらしく、しばらくは外に出られないだろう。

「あのね……警察に二人で会うことを要求したのはね、聞きたいことがあったの」

「聞きたいこと?」

俺がそう言うと、萩野は少し申し訳なさを含んだ困り顔をしながら、口を開いた。

「私……事件のこと、あまりよく覚えてないの」

その言葉に、俺は目を見開いた。

「……本当か?」

「うん。思い出そうとするけど、霧がかかったみたいにモヤモヤしちゃって……」

きっと、事件のショックで記憶が失われてしまったのだろう。
それほど、この出来事が彼女にとって苦痛だったと思うと、こちらが辛くなってしまった。

「だから、私と同じ生存者から話を聞けば、記憶を取り戻せるかな、って思ったの」

彼女は理解したが、俺はなかなか首を縦に振ることが出来なかった。
あの出来事を話して、萩野が全てを思い出してしまったら、彼女はさらに悲しむに違いない。
酷ければ、心を壊してしまうかもしれない。
困惑する俺に、彼女は察したような顔で言った。

「私は全てを受け入れるって決めたから、正直に話して。記憶が曖昧なまま、皆の死を見届けられないの」

彼女は真っ直ぐな瞳で俺を見つめると、俺は溜め息をつき、決心したように口を開いた。

「……わかった。全部話すよ。まずあの時、俺らは夜の学校の教室にいたんだ」

3:匿名 hoge:2017/07/13(木) 21:45

「それじゃあ、始めようか」

誰かの合図とともに、タイミングよく雷が鳴った。
外は大雨で今もシトシトと音が聞こえる。
連続する雷の音で、誰かが悲鳴を上げたが、それが誰かは分からなかった。
【2年A組】と書かれたこの教室は真っ暗なのだから。
この空間に今、俺を含めた8人の人間がいること以外、誰が何をしているのかは全くと言っていいほど、分からない。
教室を暗くしようって言ったのは……ああ、大槻か。
視覚を奪われ、聴覚が敏感になった状態での【犯人探し】は最適だと、彼は言っていた。


1週間前、クラスメイトの小倉が亡くなった。
背中にナイフが刺された状態の彼が、夜道で発見されたそうだ。
普通、クラスメイトが死んだら、悲しいと思うだろう。
ましてや、彼は自分達と同じ高校生なのだから、尚更だ。
しかし、俺と他の7人は違った。
俺達は彼をいじめていたのだから。
最初は些細なことでからかったり、陰口を言う程度だったが、それはエスカレートしていき、壮絶的ないじめに発展してしまった。
俺が属するこのグループは、良くも悪くも目立っていた。
いや、グループというより、リーダー格のあの二人と言った方がいいかもしれない。
とにかく、俺達は彼をいじめ続けた。
勿論、俺はやりたくてやってたわけじゃない。
ただ、彼を庇えば、今度は自分が標的になることを恐れていただけだ。
多分いじめを楽しんでいたのは、あの二人だけだろう。
自分を守るために、彼に対する罪悪感ばかりが募っていく日々を俺は過ごしていた。
そんなある日、彼が何者かに殺されたということを知った。
クラスに、俺達8人の誰かが犯人だと噂が流れるのに時間はかからなかった。
最初は絶対違うと思った。
まず、あの二人からすれば彼は自分のストレス解消の道具であり、ある意味欠かせない存在だった。
それに、罪悪感に耐えていた俺達だって、彼のお陰で自分は標的にされずに済んでいるのだ。
彼を殺害する理由など、なかったはずだった。

4:匿名 hoge:2017/07/14(金) 06:57

「本当にこの中にいたりして……殺人犯」

大槻のこの言葉が、全ての始まりだった。
8人しかいない放課後の教室では、先程まで喋り声で溢れていたが、それで一気に止んだ。
皆の顔が強張る。

「な、何言ってんだよ。俺達には彼奴を殺す理由なんてないだろ?」

すぐに俺は反論したが、大槻は俺達の顔を見渡すと、口を開いた。

「いや、案外いたりしてね。本当はいじめをやりたくなくて罪悪感ばかりが募っていく奴が、最終的に小倉……いじめの標的の存在を恨んで殺したかもしれない。いじめを楽しんでいた奴も、ふざけ半分でナイフで脅してみたら背中に刺さってしまったって可能性もある。それか、もともと小倉に何か恨みがあっていじめでストレス解消していたけど物足りずに、殺害した……ってことも有り得る」

彼の言葉で、心臓が激しい鼓動を打った。
額から冷や汗が流れる。

「この中にいるんだろ?殺人犯」

大槻の目は獲物を探る狩人のようだった。
この緊迫した空気の中、次に口を開いたのはいじめの主犯の西尾だった。

「んなわけねぇだろ!俺達の中にいるなんて信じられるか!」

怒鳴る西尾に対し、大槻は冷静に答えた。

「まあまあ、怒るのは後にして。【犯人探し】をするのが先だよ」

その声は少し上ずっていた。
まるでこの状況を楽しんでいるかのように。 

「犯人探し?」

一人の女子が彼に訊いた。

「そう。皆から小倉に関係する話を全て話して欲しい。この中に犯人がいるとしたら、何か矛盾点が生まれたりするかもしれない。そうすれば、この中に犯人がいるかどうか、わかるからね」

再び彼は全員の顔を見渡した。
その威圧を含んだ目に、反論していた西尾が溜め息混じりの声で言った。

「……わかった。だけど、犯人探しして何になるんだよ」

その質問に、大槻は少し間を開けて話し出した。

「……いじめを繰り返さないためだよ。仮に犯人が俺達の中にいたとしたら、【いじめていた奴が死んだ】【その犯人は自分の仲間にいた】って頭の中に叩き込まれるからね。トラウマに近いよ。殺人犯が自分の近くにいたんだから。だけどそうすれば、このことを思い出さないように、いじめはやらなくなる。少なくとも、俺達は、だけど」

5:匿名 hoge:2017/07/14(金) 21:06

彼の意見は理解することが出来た。
しかし、なかなか首を縦に振る者はいない。
それに賛成してしまえば、自分達の中に犯人がいると認めたようなものなのだから、当然かもしれない。
沈黙が続いた。
その空気に耐えきれなくなったのか、自分の席の椅子に座っている江川が口を開いた。

「いいんじゃないの?」

軽い口調で彼女はそう言った。

「こうやってジメジメしてるより、犯人がいるなら犯人を探す!いないと思うなら、私は楽しく過ごしたい」

もともと楽観的な性格の彼女の発言は、反感を買われるかもしれないが、この場では淀んだ空気を浄化してくれたような感覚になった。
そんな彼女を見つめながら、大槻は微笑した。

「江川らしい考えだな。別に俺は、疑心暗鬼になれとは言ってないし、思ってもない。ただ、過去を回想することで自分のしたことの重さに気付けるかな、って思ったんだ。ぶっちゃけ俺も、今回のことは反省してるし」

「犯人探し兼反省会……ってことかぁ」

大槻の言葉に、江川が相槌を打った。

「反対の奴、いる?」

大槻が言う。
反対する者はいなかった。
反省するためにそれに参加する人もいるかもしれないけど、俺の場合引っ掛かったのだ。
犯人の正体に。

一体誰が、何のために__

6:匿名 hoge:2017/07/14(金) 22:49

「もう、何でわざわざ夜の学校でしなきゃいけないのよ。しかも、こんなに暗くするなんて」

一人の女子の声で、今までの出来事から現実に戻ってきた気分になった。
声の正体は大槻の幼馴染みで、クラスのリーダー的存在である松下里奈だった。

「だから言っただろ。視覚を奪われた方が、より聴覚が敏感になるって。そうすれば、話の辻褄が合ってなかったり、何か可笑しい点があった時、気付きやすくなる。それにいつもと違う環境にした方が面白いかな……って思ってさ。放課後ここで話すにも、最終下校時刻があるから時間は限られてしね」

暗いため、彼が今どのような表情をしているのかはわからないが、その言葉や上ずった声からして、笑っているのだろう。
本当にコイツは反省しているのだろうか?と疑いたくなるほど、大槻はこの状況を楽しんでいるように思えた。


犯人探しをすると決めた日から2日が経ち、俺達8人は夜の学校に集まった。
場所を決めたのは、大槻だった。
本人曰く「友達を7人も泊めてくれる家なんてないだろうし、ファミレスとかだと周囲に話を聞かれる可能性がある」という考えらしい。
勿論、夜の学校に忍び込むのはやってはいけないことだ。
最初は皆反対していたが、8人が入れて、周りに話を聞かれない環境が良いという考えは全員一致していたため、渋々了解した。
しかし、教室に入ると同時に俺が付けた電気を、彼は突然消したのだった。
聴覚を敏感にするためとはいえ、女子……特に怖がりな松下からはかなりこのやり方は非難された。

7:匿名 hoge:2017/07/15(土) 12:53

再び、雷が轟音を立てて鳴った。
カーテンは全て閉めきっているが、それでも白い光を放っているのがよくわかった。
雷が白い光を放つ度に、一瞬だけ教室の様子が少しわかる。
俺達は四人ずつ向かい合う形に机と椅子を移動させ、そこに座った。

「何かあったら、この懐中電灯を使って」

大槻はあらかじめ用意しておいた懐中電灯を、机の上に置いた。

「それで……最初は誰から話すの?」

準備が整ったところで、名取が早速【犯人探し】を始めようとした。

「出席番号順とか?」

名取に続き、声を発したのは萩野。

「んー……じゃあ、笠原からで」

西尾の声に、名前を呼ばれた彼女は驚いたような声を上げた。

「……え?何で私?」

「向かいに笠原がいたから、なんとなく」

西尾のその言葉で、初めて彼の向かい側の席に笠原がいるということがわかった。
笠原は溜め息混じりの声で答える。

「別にいいけど……。本当に話していいの?タブーな話とかも?」

その言葉は、大槻に投げ掛けてるのだと思っていた。
しかし意外にも、返事をしたのは西尾だった。

「ああ……構わねぇよ」

その声は、投げやりのように聞こえた。
だが、それよりも気になったのは笠原が言った【タブーな話】だった。
俺には、そのことがいまいちよくわからなかった。
彼女は何か隠しているのだろうか。
いや、西尾は彼女の【何か】を察していたような感じがした。
もしかして、二人は何か秘密を共有しているのだろうか。

聴覚を研ぎ澄ましながら話を聞いていると、様々な考えが浮かんでくる。
話してる人の声色や間の開け方、話す速さ次第でその人の気持ちがよく伝わってくるからだ。
もし、誰かが嘘をついたら、見破れる可能性だってあるかもしれない。

「それじゃあ、話すね」

俺は目を軽く閉じ、笠原の話を聞くことに集中させた。

「実は私___」

彼女がそう切り出した時、外で雷が激しく轟いた。

8:匿名 hoge:2017/07/15(土) 15:02

私の中には、常に【本音】と【建前】がいた。
その性格は昔から変わらず、高校2年生になった今もだ。

「ねぇ、今日の放課後カラオケに行こうよ!」

緑が生い茂る中庭で、いつものグループと昼食を食べていた時、このグループのリーダーともいえる人物、友村紗代里がそう言った。

「いいね!」

彼女の意見に賛成する子の声が聞こえたが、私は申し訳なさそうな顔をしながら口を開いた。

「ごめん。今日塾があるからパス」

「そっかぁ……じゃあ、知花とはまた今度行こう」

紗代里は大袈裟に溜め息をついた。
端を持つ手を止めていた私は、再びそれを動かす。

塾があるなんて嘘だった。
私は単純に行きたくなかったのだ。
別に彼女達の事は、嫌いではない。
高2になった時、仲の良い子とクラスが離れ、友達作りに悩んでいた私に真っ先に声をかけてくれたのが紗代里達だった。
お陰でクラスにはなんとか馴染めたし、何か困ったことがあると紗代里は「大丈夫?」と優しく声をかけてくれた。

しかし、私と彼女達とは何もかもが違った。
このグループには容姿が優れている、成績が優秀、運動が得意、コミュ力が高い、彼氏がいるなど、何かしらステータスを兼ね備えていた。
そして、グループのリーダーの紗代里はその全てを持っていた。
……いや、正直成績の方はあまり芳しくないらしい。
だけど、大きな瞳にふわふわのロングヘア、スタイルの良い身体には女子の私でさえ、一瞬惚れても可笑しくなかった。
そんな容姿とは裏腹に、常に面白い話や顔芸などをして皆を笑わせたり、体育では持ち前の運動能力を発揮したりしていた。
また、他校に1つ年上の彼氏がいるらしい。
そんな彼女を羨ましく思ったが、同時に自分の平凡さに悲しくなってしまった。
成績と運動は良くも悪くもなく、顔も特別可愛いってわけじゃない。
コミュ力はどちらかというと低いだろう。
恋愛に関しては、彼氏どころか恋すらしたことがない。

それだけならまだ良かった。
しかし、5月に入った頃、私は圧倒的な私と彼女達の差を思い知ることになった。
彼女達と出掛けることになり、買い物を楽しんだ後、私達は近くのファーストフード店で休憩することになった。
他愛もない話をしていると、紗代里のポテトを掴む手が止まり、彼女は眉間に皺を寄せた。
彼女の視線は、ファーストフード店の向かいにある小さなアニメイトから出てきた中学生くらいの女子二人に向いていた。

「うわぁ……アニオタじゃん」

その声には、明らかに嫌悪感が混じっていた。
心臓がどきりと鳴った。

「何あれ。気持ち悪い」

他の女子も口を揃えて、彼女達を非難した。
勿論、二人の女子はそれが聞こえてないので、何食わぬ顔で別の方へ行ったが。
しかし、私の心臓は激しく鼓動を打ち続けた。
私は恐る恐る皆に質問した。

「あのさ……皆ってもしかして、オタクが嫌いなの?」

その言葉に、紗代里は、

「あったり前じゃん。単にアニメや漫画が好きって程度ならまだしも、オタクの度合いまでいくと流石に引く」

と答えた。
心臓の鼓動がさらに速くなる。
額から嫌な汗が流れた。
私の様子に気付いたのか、紗代里が私の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?大丈夫?」

彼女の言葉は、私には聞こえなかった。
やはり私と彼女達は、何もかもが違っていた。
何故なら、私は中学時代、自分でも認めるほどのオタクだったのだから。
受験を機に、アニメを見ることをやめたせいか、以前ほどアニメを見たいという欲はなくなっていたが、それでも時々ウォークマンでアニソンを聴いたり、好きな漫画家の新作情報などは毎月チェックしていた。

勿論、オタクを苦手とする人もいると理解はしていたが、まさか目の前にいたなんて、思ってもみなかった。
彼女達の言葉は、私の心を深く抉った。
彼女達に自分がオタクだとバレれば、即効ハブられるだろう。
幸い、高校に進学してからはアニメへの熱意が薄れたのか、それについての話題は一切出さなかったため、私に【アニメ好き】というキャラ付けはされなかった。
それに、中学時代の自分を知る人もここにはいなく、いつの間にか私は完全に普通の女子高生になっていた。

9:匿名 hoge:2017/07/15(土) 15:50

「そういえば、知花はオタクについてどう思う?」

一人の女子が、私に質問を投げ掛けてきた。

「あ……」

本当は私は元々オタクだった。
大声を出してそうアピールしたかったが、そうすれば一貫の終わりだ。
やがて私は意を決して、口を開いた。

「……私もだよ!オタクってキモいよね」

これは自分を守るためなんだ、と言い聞かせたが、私の心はズキズキと痛んだ。

「だよね」

紗代里の相槌など、聞こえなかった。

この日以来、彼女達といると一方的に居心地の悪さを感じてしまった。
しかし、このグループを抜けてしまったら、私は独りぼっちになるだろう。
一応、他のグループの人とも話したり、連絡先を交換したりはしているが、それぞれのグループの結束力は強く、他のところへ行くことは不可能に近い。
オタクとバレない限り、私には居場所があるが、精神的にはなかった。
……いや、1つだけあった。

昼食を食べ終え、教室に戻った私は自分の席に着くと、机にの横に引っ掛けてある鞄から、スマホを取り出した。
私はスマホで、【愚痴サイト】と検索した。
やがて、ハンドルネームや内容を書く画面が現れた。
ハンドルネームのところには「C.K」と打ち込み、早速内容を書く欄に文字を書き込み始めた。

あの日から2週間後、偶然にも私はこのサイトに出会った。
このサイトを利用してる人の書き込みを見ると、成績や親子関係、進路、会社の上司、中には私と同じ友人関係など、様々な愚痴が羅列していた。
最初は思いとどまったが、私は自分のイニシャルの【C.K】というハンドルネームで紗代里達への愚痴を書き込んだ。
最初は愚痴というよりは、「自分の性格を恨みたい」「何でアニメ好きになんかなったんだろう」「独りぼっちにはなりたくない」など、自分を責めるようなことを書いていたが、最近は違った。
書きたいことを全て書き終えると、誤字の確認もせずに、【投稿】を押した。

【[752]投稿日:2017/7/2(12:54) 投稿者:C.K
確かにマナーの悪いオタクだっているけど、皆が皆そうとは限らないのに、オタクに対して「消えて欲しい」「キモい」「社会の屑」は流石にないよ。あの人達の発言は、人種差別みたいなもの。酷すぎる。もし、私みたいに実はオタクって人がそれを聞いたら、傷付くだろうな……。本当、あの人達と友達やめたい】

10:匿名 hoge:2017/07/15(土) 20:50

いつしかサイトに書き込む内容は、前より激しくなっていた。
投稿した文章を読み直すと、私は無意識に溜め息が出た。
私は紗代里達のことを嫌いじゃないと思いたかっただけかもしれない。
独りぼっちになるのが怖くて、苦手な人と無理に付き合っている弱虫な自分を認めたくなかっただけだったかもしれない。
ちらりと、教室の後ろでクラスメイトと談笑している紗代里を見た。
彼女と話しているのは、松下さんだった。
紗代里と同じく、容姿端麗でコミュ力が高い彼女は、このクラスのリーダー的存在だ。
彼女は良くも悪くも目立っていた。
クラスを仕切ってくれるところは尊敬しているが、彼女に目を付けられれば、自分の居場所を奪われてしまうのだ。
あくまで噂だが、1年の頃に彼女はクラスメイトの女子を不登校にしたとも聞いている。

11:ひまり hoge:2017/07/16(日) 15:05

まあ、松下さんと関わる機会なんて滅多にないし、ぼっちってわけじゃないから、目を付けられることもないだろう。
その考えが脆くも儚く崩れていくことを、私はまだ知らなかった。

夏休みまであと1週間となったある日のことだった。
紗代里がトイレに行ってる隙に、私は自分の席に座っていつものように、愚痴サイトと検索した。
今日もストレスをサイトにぶつけようとした時、私はあることに気付いた。
昨日私が書いた愚痴に、返信が来ていたのだ。

【[908]投稿日:2017/7/14(8:32) 投稿者:V.P
>>C.K
そんなことがあったんですね……。私も好きなものを友達に好きって言えないから、困ってます。お互い頑張りましょう。】

少ない文章だが、さっきまで重かった心が急に軽くなった。
やはり、友達に自分の本音をしっかり言えない子もいるんだ、と仲間が出来たような感じがした。
私は彼女に返信をするため、再び書き込みを始めた。

【[913]投稿日:2017/7/14(10:48) 投稿者:C.K
>>V.P
ありがとうございます。V.Pさんのお陰で、少し心が軽くなりました!】

本当はV.Pさんの境遇を聞きたいが、相手が不快になるかもしれないので、それはやめた。
お礼の返信はしたので、これっきり、私とV.Pさんとは喋ることはないと思っていた。
しかし昼休みになり、再びそのサイトを検索すると、私は目を見開いた。

【[916]投稿日:2017/7/14(11:42) 投稿者:V.P
>>C.K
それなら良かったです!もしよろしければ、チャットサイトでお話ししませんか?】

もう来ないと思っていた返信が、来ていたのだ。
しかも、チャットサイトで話す……彼女は私ともっと関わろうとしている。
私は即効返信をした。

【[918]投稿日:2017/7/14(12:34) 投稿者:C.K
>>V.P
いいですね!そうしましょう!】

その文章を投稿し、トイレに行った後、私はもう一度そのサイトをチェックした。
すると期待通り、返信はあった。
彼女はチャットサイトのURLを貼ってくれていた。
それを通じて私はそのチャットサイトに繋げると、【最新】の欄にV.Pというハンドルネームと【C.Kさん待ってます〜!】というメッセージがあった。
私は【返信】という欄に、メッセージを書き込もうとしたが、

「知花、お昼食べよう!」

と、紗代里の声が聞こえてきた。
返信はいつでも出来ると自分に言い聞かせ、諦めて弁当箱を抱えながら紗代里の方へ移動した。

12:ひまり hoge:2017/07/16(日) 15:38

それから、私はそのサイトで、彼女とたくさん話をした。
彼女は現在高3で、青森在住らしい。
本当は小説や漫画が好きだが、男性アイドルやオシャレが大好きな友人達に話を合わせていると、彼女は言った。
夏休みまでの日々、私達はその日起こったことや、タイミングが良ければリアルタイムで誰が何をしているかを書き込んだ。
その内容は紗代里達に対する愚痴も含むが、教室で誰かがこんな面白いことをやっていたとか、嫌いな科目の抜き打ちテストがあったなど、普通の学校生活に関係することをたくささん書いた。

夏休みに入ると、前以上に彼女とよくチャットをした。
スマホのやりすぎで、親に注意されるほどたくさん。

【今日は家族で、旅行に行きます!楽しみだなぁ(*´∇`*)】

【海に行ったら、日焼けしました……。皮がめっちゃ剥けます。助けて下さい(涙)】

【課題が終わりません。そして眠いです。】

【暑すぎて夏バテになりそうです(´゚ω゚`)】

【今日はたくさん勉強しよう!と気合いを入れたはずが、気付けば何もせずに夕方になってました。】

何の変哲もない会話だが、私はこれが楽しかった。
思ったことを話せる人が、私はずっと欲しかったのだ。
私はV.Pさんの存在に感謝した。

青森県か……。
冬休みにでも行ってみようか。
そして、一度だけ彼女に会ってみたい。
彼女はどんな顔をしているのか、すごく気になったのだ。

しかし、その希望は新学期の朝に打ち砕かれたのだった。

13:ひまり hoge:2017/07/16(日) 19:09

休みが終わったため、階段を上る足取りは重い。
2年の教室がある2階の階段を上り終えた瞬間、私の足がぴたりと止まった。

「おはよう。笠原さん」

そこには、松下さんと西尾君がいた。
絡みのない私に挨拶をするなんて、珍しい。

「お、おはよう」

私は挨拶をした瞬間、二人が笑みを浮かべたのを見逃さなかった。
嫌な予感がした。
松下さんは私の方に歩み寄ると、静かにこう言った。

「夏休みは楽しかった?C.Kさん」

その瞬間、私はまるで時が止まったかのように、凍りついた。
額から冷や汗が流れる。
何故、そのことを彼女は知っているのだろうか。

「そうそう。私前にも言ったけど、海に行ったら日焼けしちゃって、皮がめちゃくちゃ剥けちゃったのよ。今は大丈夫だけどね」

その言葉で、私はすぐにわかった。
V.Pさんの正体は、松下さんだということを。
しかしそれなら、何故彼女のハンドルネームは【V.P】なのだろうか。
【松下里奈】なら【R.M】になるはずだ。
私の考えを見透かしたように、彼女は含み笑いで言う。

「VはVillageで【里】、PはPine treeで【松】って意味よ。あんたも馬鹿よねぇ。クラスで起こったことをリアルタイムで書き込むなんて。クラスメイトが見たら、すぐにバレるわよ」

……終わった。
全てが終わった。

14:ひまり hoge:2017/07/16(日) 22:10

呆然とする私に、さっきまで黙っていた西尾君がこう言った。

「意外だな。お前が友達の悪口をネットに書くなんて」

きっと、二人は紗代里にそのことを言うだろう。
そして、それを知った紗代里達は私をハブり、私は独りぼっちになる。
すると、自然と私がやったことはクラスに広まり、私の居場所は完全に無くなる。
完璧なシナリオが、私の頭の中で完成した。
しかし次の瞬間、彼が口にした言葉は意外なものだった。

「このことは、友村達には言わないでやるよ」

その言葉に、私は目を丸くした。
言わない……?
どういうこと?
一瞬、安堵しそうになったが、絶対何かあると直感した。

「その代わり」

西尾君のその声で、私の予感は的中したと感じた。
間を開ける彼の次の言葉を、私は固唾を呑みながら待ち構えた。

「俺らのグループに入ってくれよ」

「……え?」

再び、私は目を丸くした。
その条件はあまりにも簡単すぎて、腰が抜けそうだった。
西尾君や松下さんのグループは、私が所属する紗代里のグループ以上に優れた人達が集まるグループだった。
運動神経抜群な西尾君と誰もが振り返ってしまいそうになる美少女の松下さん、冷静な性格で明晰頭脳な大槻君、高身長で切れ長な目が特徴のイケメン系女子の名取さん。
そして、このメンバーに時々加わっているのが、私ともそこそこ仲の良い光貴だった。
彼とは男子の中では一番仲が良く、唯一名前で呼べる存在だ。
彼はよく西尾君達と一緒にいるが、いつもというわけではなく、別のグループの男子とお昼を食べたり、帰る姿を何度か目撃している。
容姿端麗で頭も良いが、何故温厚な性格の彼が西尾君や松下さんのような気の強い人達と一緒にいるのか、疑問に思ったこともあった。
それを言っちゃえば、あまり目立ちたがらない大槻君や優しい性格の名取さんもそうなるが。

15:ひまり hoge:2017/07/16(日) 23:03

「で?どうするんだ?」

西尾君の言葉で、私は今、グループに入るか入らずに居場所を失うか、選択を迫られているところだということを思い出した。
答えは決まっていた。

「うん。入る」

私の言葉を聞くと、松下さんは手を差し出した。

「よろしくね」

まるで私の答えを予想していたかのように、彼女は握手を求めてきた。
最初は戸惑ったが、私も彼女の方へ手を差し出すと、握手を交わした。
まるで、契約のように。



お昼を知らせるチャイムが鳴った。
私が四時間目の授業で使った教科書やノートを片付けようとした時、

「知花、お昼食べよう!」

いつものように、紗代里は私をお昼に誘ってきた。
私は首を縦に振ろうとした瞬間だった。

「ごめんね紗代里。知花は私達と食べるから」

突然、後ろから松下さんが声を発した。
下の名前で呼ばれたことよりも、お昼を彼女達と食べることになっていることに対しての驚きが大きかった。

「え、そうなの?」

目を丸くする紗代里。

「じゃあ、そういうことで」

松下さんは私の手を掴むと、引っ張った。

「あ……また今度食べよう!」

私は紗代里にそう言うと、松下さんが行こうとしているところへ視線を向けた。
予想はしていたが、そこには西尾君と名取さんがいた。
後ろから紗代里の声が聞こえてきたが、私はそれを無視した。

16:ひまり hoge:2017/07/17(月) 00:24

「あ、笠原さん。こっちこっち」

手招きをしてくれたのは、名取さんだった。
彼女は、抱えていたお弁当箱を机に置くように促した。

「あ、ありがとう」

名取さんは私がグループ入りすることを知っているのだろう。
しかし、彼女は私が紗代里達の悪口をネットに書いていたことなどは、知っているのだろうか。
彼女の口から聞きたかったが、聞く勇気などなく、私は黙って席に着いた時だった。

「あれ、何で笠原がここにいるんだ?」

突然、背後から誰かの声が聞こえてきた。
振り向くと、そこには右手に飲み物、左手に菓子パンを持っている光貴がいた。 
その後ろには、同じくコーラを片手に持った大槻君もいる。
二人は売店に行っていたのだろうか。
次の瞬間、私はふと気付いた。
光貴は私がグループ入りしたことを知らないと。

「あ……それは……えっと……」

どう説明すればいいかわからなかった。
【グループに入ることになった】と答えれば、その理由を聞いてくるのが、最も自然な流れだろう。
しかし、そうなれば私が紗代里達の悪口をネットに書き込んだことがバレてしまう。
仲の良い彼にそれがバレてしまうのは、避けたかった。
私が困惑していると、助け船を出してくれたのは松下さんだった。 

「あ、ごめんごめん。言うの忘れてたけど、私知花と仲良くなったんだ。グループ入れてもいいよね?」

語尾に力が込められているのは、明らかだった。
本当のことを彼に話さなかったのは、ありがたかったが。
しかし、そんな彼女に臆した様子も見せず、彼は、

「別にいいよ。笠原とは仲良いし」

と言うと、席に着いた。
彼のお陰で、心が少し軽くなったのは気のせいじゃないはずだ。
私はこれからの不安と微かな嬉しさを胸に、箸をつまんだ。

17:ひまり hoge:2017/07/18(火) 21:01

それから、私は松下さん達のグループと一緒にいることが多くなった。
お昼は毎日一緒に食べるようになったし、帰りも彼等と帰ることが日課になった。
最初は少し戸惑ったけど、名取さんや時々グループに加わる光貴は優しくしてくれたり、勉強が分からなくなった時は大槻君が丁寧に教えてくれたりした。
本人からの希望で、松下さんのことは里奈、名取さんのことは沙也と呼ぶようにもなった。
だけど、楽しかったのは最初だけだった。

西尾君と里奈が私の弱味を握っていることをいいことに、私にこき使い始めたのだ。
喉が渇けば飲み物を買いに行け、彼等の荷物が多いわけでもないのに鞄を持たせられるなど、やられることは大したことではないが、日に日にストレスが溜まった。
何度も逆らおうとしたが、きっとそうすれば私の秘密はバレてしまうだろう。
グループを抜けることなんて、もってのほかだ。

涼しい季節になった時のことだった。
9月の下旬、10月の上旬に一人ずつメンバーが増えたのだ。
一人目は萩野真帆。
比較的大人しい性格で、クラスでも地味なグループに属していた子だ。
二人目は江川莉子。
彼女は、表情豊かでパワフルな性格が特徴だ。
光貴のように特定のグループには属していないが、クラスの人気者で、先生からも慕われている。 

二人が入ってきた時、私は彼等が二人とたまたま仲が良くなったため、グループに入ってきたのだと思っていた。
特に江川さんは。
今考えると、なんて馬鹿馬鹿しい発想だと思うが。

二人が入ってからも、西尾君と里奈の私への扱いは変わらなかった。  
前より、エスカレートしてる気もした。

しかし、そろそろ限界が近付いてきたある日、転機が訪れた。
小倉君が転校してきたのだ。

18:ひまり hoge:2017/07/20(木) 20:59

「よろしくお願いします」

笑みを浮かべながら、小倉君は軽く頭を下げた。
彼は父親の転勤のため、隣の県から引っ越してきたらしい。
先生に促され、指定された席に移動していく小倉君をちらりと見る。
無造作な髪と整った顔立ちは、まるでテレビに出てるアイドルのようだった。
さっきから、周りの女子が騒がしいのもそのせいだろう。
ここまでの彼に関しては、格好いいなくらいの印象だった。
しかし、席に着こうとした瞬間、小倉君が発した一言で、私の思考は停止した。

「もしかして、お前……西尾か?」

中央の席に座っている西尾君を指しながら、彼は目を見開いて言った。
すると、さっきまで黙っていた西尾君も、目を丸くしながら口を開いた。

「え……?ていうことは、やっぱりお前……」

クラスメイトは、二人に視線を注ぐ。
話から察するに、二人は知り合いなのだろうか。 

「え!?本当か!?久しぶりだな!!」

嬉しそうな顔をする小倉君。
西尾君も、最初は驚いたような顔をしていたが、徐々に顔を綻ばせた。
今にも、二人が会話を始めようとした時、その二人に割って入ったのは沙也だった。

「はいはい。感動の再会もいいけど、これからHR始まるから後にしてね」

はーい、と返事をして席に着く二人。
私は視線を窓の外に移した。
先生は今日の授業変更や連絡などを言っているが、私の耳にそれらは入らなかった。
あの二人はどのような関係なのだろうか。
彼はどんな人なのだろうか。
そのことしか頭になかった。
第一印象は優しそうな人だったが、西尾君の知り合いともなると、不安がよぎる。
きっと、西尾君は小倉君をグループに入れるつもりだ。
もし、西尾君みたいに気が強いタイプなら、私のストレスはもっと溜まるかもしれない。
いや、情緒が不安定になっても可笑しくないだろう。
私は西尾君が彼を紹介するまで、その考えが脳内にこびりついて離れなかった。

19:ひまり hoge:2017/07/21(金) 13:03

里奈達とお昼を食べるのは完全に、日常と化していたが、今日は違った。
小倉君がグループに加わったからだ。

「小倉は、小学校の頃の友達だったんだよ」

そう言って西尾君はコーラをあおる。

「おい。【だった】だと、今は友達じゃないみたいだろ」

「悪い悪い」

不機嫌そうな顔をしながら言う小倉君と、それを適当に流す西尾君。
その二人の様子を見る限り、彼等はとても仲が良さそうだ。

「へぇ……そっかぁ。よろしくね!」

そう言って、彼に手を差し出したのは江川さんだった。
そんな彼女に対して、嬉しそうな笑顔を浮かべながら、応じる小倉君。
見たところ、悪い人ではなさそうだ。

「趣味は何?」

「テニスかな」

「得意科目は?」

「英語と古典。文系は大体得意だな」

「彼女いる?」

「いないよ」

ごく普通の質問と彼の回答を、私は右から左に聞き流す。
お弁当の中身が空になったことに気付くと、私は席から立ち上がり、自分の席に戻ろうとした。
その時だった。

「あ、そうだ。知花、麦茶買ってきて」

そう言って、里奈は私の手のひらに500円玉を置いた。
またか、と思ったが、私はそれを表情に表さなかった。

「わかった」

お弁当箱を自分の机の横に掛けてある鞄に入れると、500円玉を持って売店へ向かった。

20:ひまり hoge:2017/07/21(金) 14:40

小倉君が転校してきてから、1週間が経った。
彼はすっかりクラスに馴染み、私達のグループの一員として定着した。
しかしある日、それは崩壊へ向かった。

「笠原。これ先生に渡しといてくれ」

放課後を知らせるチャイムが鳴った時、西尾君は私に3枚のプリントを渡した。
内容からして、数学の先生に渡せばいいだろう。

「え?何か用事あるの?」

「特にねぇけど」

その言葉や偉そうな態度に、私は拳を握り締めながら、じっと彼を見た。
そんな私の様子が勘に触ったのか、西尾君は眉を寄せた。

「何だよ、その態度」

【ふざけるな】と、叫び散らしたいほど、私のストレスは溜まっていた。
これ以上、彼や里奈の言いなりになっていたら、可笑しくなりそうだった。
私は唇を噛み締めると、

「別に」

と素っ気なく彼に背を向けて、教室を出て行こうとしたその時だった。

「プリントくらい自分で出せに行けよ」

背後から声がした。
振り向くと、そこには小倉君がいた。
唖然とする私と西尾君とは反対に、いかにも機嫌が悪そうな顔をする小倉君。
彼は、私の秘密をきっと知らないから、そんなことが言えるのだろう。
沈黙が流れたが、それを破ったのは西尾君だった。

「は?別にいいだろ」

苛ついた様子を隠そうともしない声だった。

「いいわけない。お前と松下ってこの前から、笠原をこき使ってるだろ。友達……ましてや、女子にそんなことするなんて酷くないか?」

名前を呼ばれた里奈が、こちらをちらりと見る。
私は彼女から目を逸らした。

「いいや。俺のお陰で笠原だって、救われてるんだぞ」

今、西尾君が言ったのはきっと、私の秘密のことだ。
確かに、西尾君や里奈が口外しないお陰で、今もこうして教室にいられるのかもしれない。
しかし、当然そのことを知らない小倉君は、納得いかないような顔をした。

「も、もう私のことはいいから」

私は険悪な二人の空気を和らげようと声を出したが、小倉君はそれを無視した。

「だからって、こきを使うのは可笑しいだろ。笠原の気持ちも考えろよ」

「うるせぇな!事情も知らない奴に、偉そうに言われたくねぇよ!」

西尾の怒声と机を叩く音が教室に響く。
さっきまで会話していたクラスメイト達は、一斉に黙り込み、こちらの様子をちらちら見ている。 
皆の視線が自分達に注がれてることが恥ずかしくて、気分が悪くて、怖く、私はとうとう教室から勢いよく出て行ってしまった。

21:ひまり hoge:2017/07/21(金) 19:17

どれくらい走っただろう。
息を切らしながら、私は廊下の柱に寄りかかった。

「なんなの……小倉君」

ぽつりと呟いた。
その言葉には、自分を庇ってくれた嬉しさというよりは、呆れが強かった。
いくら事情を知らないとはいえ、西尾君と友達だった彼なら、西尾君の性格は熟知してるはずだ。
なのに、彼にあのような態度や言い方をした小倉君に、呆れてしまった。

「……あれ?」

私の中に、一つの違和感が芽生えた。
昔から西尾君があのような性格なら、今のように仲が悪いはずだ。
しかし、小倉君が転校してきた日は、二人ともとても仲が良さそうだった。
私は目を閉じながら、考えを巡らせる。
そこから、導き出せる答えは___

「笠原!」

「知花!」

声がした方に振り返ると、そこには小倉君と紗代里がいた。
二人とも、呼吸が荒かった。
走ってきたのだろうか。
しかしそれよりも、私は紗代里がいることに驚いた。
最近では紗代里とはほとんど話していない。
私が里奈達のグループに入ってしまったため、向こうも距離を置いていた。 
しかし、何故……?

「知花、大丈夫!?」

「あ……」

私の肩を掴みながら、真剣な顔をする紗代里。
そんな彼女の目を、私は逸らした。

「知花。なんか最近、可笑しいよ。里奈や西尾君のグループに入ったり、二人にこき使われてたり……」

「それは……」

話したかったが、私はなかなか口に出せなかった。
口に出してしまえば、自然と私が紗代里の悪口をネットに書き込んでいたことがバレてしまう。
私は俯きながら、力なく答えた。

「……何でもないの。私はただ、本当に里奈達と仲良くなっただけで、こき使われてなんかないの」

苦しすぎる言い訳だった。
当然、二人は「はい、そうですね」と納得しなかった。
すると突然、紗代里が、

「あ!ヤバい!」

と声を荒げた。

「今日塾あるんだった!遅れる!」

そういえば、紗代里は毎週火曜日は塾だったな、と思い返した。
鞄を取りに行くため、紗代里は走って教室へ行こうとした。
しかし、その前に彼女は私の顔を見ながら、

「心配事があったら絶対言ってね。知花を傷付ける奴は、誰だろうとぶん殴るから!」

そう言って、教室へ走って行った。
廊下に残されたのは、私と小倉君だけとなった。

22:ひまり hoge:2017/07/22(土) 13:11

「……本当に、何があったんだ?笠原」

真剣な眼差しで私を見つめる小倉君。
私は唇をぎゅっと噛み締めた。

この1週間で、小倉君がすごく優しくて良い人だということはわかった。
しかし、まだ会って数日しか経ってない人に事情をぺらぺら喋ることに、私は躊躇いを感じた。
彼のことを全く信じていない訳ではないが……。

「本当に何でもないの……そっとさせて」

その言葉を最後に、私は逃げるように走った。
目的地はないが、とにかく一人になれる場所を探し求めた。

この時、彼に正直に話してれば、こんな結末にはならなかったのかもしれない。
いや、もはやこれは逃れられない運命だったかもしれない。

もう、今更後悔したって遅いんだ___




「なあ、最近小倉調子乗ってないか?」

23:ひまり hoge:2017/07/22(土) 18:04

「え?」

あの日から、2週間経ったとある放課後のことだった。
小倉君を除いたいつものメンバーで教室で談笑していたが、その声は西尾君の言葉で、静まり返った。
あの日以来、西尾が小倉君に対してあまり良く思ってないことは明らかだった。
会話どころか、目すら合わせようともしない二人に、私達は見て見ぬふりをしていたが、それも限界だったようだ。

「調子乗ってる、ねぇ……まあ、最近も何も、私はもともと小倉君のこと気に食わなかったけどね」

里奈の言葉に、私は思わず目を見開いた。
里奈と小倉君は二人で話すことは少なかったが、お互いとても楽しそうに話していたのに。

「ちょっと待ってよ!里奈と小倉って仲良さそうだったよね?何で?」

私の考えを代弁してくれたのは、江川さんだった。
彼女の表情は、戸惑いに満ちている。
里奈は彼女をまるで鼻で笑うかのように、答えた。

「はぁ……馬鹿じゃないの?表では楽しそうにしてたけど、裏では小倉君のことを嫌ってたんだからね。そんなことも分からないわけ?」

「うるさいなぁ!馬鹿って言った方が馬鹿なんですけど〜」

「まあまあ、落ち着いて」

里奈と江川さんの間に割って入ったのは、沙也だった。

「大体、西尾と里奈が小倉君のことを気に食わないのは、わかったけど、何がしたいの」

沙也はそう言ったが、なんとなく全員がその答えをわかってるような気がした。
西尾君がゆっくりと口を開いた。

「何って、いじめるに決まってんだろ」

予想通りの答えに、私の額から嫌な汗が流れた。
私達に沈黙が流れたが、数秒後、それを破ったのは江川さんだった。

「……はぁ?」

彼女の表情や口調から、西尾君に対する嫌悪感が感じられた。

「何だよ」

「いくら気に食わないからって、流石にそれは無くない?幼稚かよ」

私は心から、彼女を応援した。
きっと、それは私だけではないはず。
ちらりと、萩野さんと光貴の様子を見る。
二人とも口には出してないが、江川さんに期待を込めたような視線を送っていた。

「……何よ。嫌な奴を排除して、何が悪いわけ?とにかく、私と西尾で決めたの。彼奴を徹底的に痛めつけるってね。文句ないよね?」

里奈の視線は、大槻君と沙也に向けられた。

「……別に」

「……ちょっと待ってよ。いじめなんて……」

沙也が困惑したような表情を浮かべながら、そう言った時、彼女の声は西尾君によってかき消された。

「異議ある奴」

短いが威圧されたその言葉に、声を上げる者などいなかった。
満足そうな顔をする西尾君と里奈。
反対に、暗い表情をする私達。
しかし、江川さんだけはまだ、その瞳に希望を残していたことを、私はまだ知らなかった。

24:ひまり hoge:2017/07/24(月) 20:00

「あとは皆の知ってる通り、小倉君をいじめて、その後誰かに殺された……って感じかな」


この出来事を笠原の視点で、上手く描くことが出来た。

25:ひまり hoge:2017/07/24(月) 21:14

外ではまだ、豪雨と雷が続いている。
しかし、誰もが笠原の話に神経を集中させていたため、雷の轟音で驚く者などいなかった。
全員が彼女の話を頭の中で整理しているのか、沈黙が流れる。
しかし、しばらくすると、誰かが呟くように言った。

「ちょっと待って……」

この声は江川だ。

「何か、可笑しい気がする……」

「どういうこと?」

松下は彼女に訊くと、

「話自体は特に可笑しくないんだけど、なんか……違和感がある。わからない?光貴」

と、俺に話を振った。

「別に、どこも変じゃない気がするけどなぁ」

本当に、違和感は何も感じなかった。
彼女が友村のグループに属していたことも、西尾や松下から嫌なことをされてたことも、真実だ。
笠原が友村達の悪口をネットに書き込んでいたことは、かなり意外だったが。

「でも、わざわざ自分がこのグループに入った経緯まで言う必要はなかったんじゃねぇのか?」

いつもより低い西尾の声。
自分や松下のことを俺達に明かされたのを、良く思っていないのだろう。

「確かに、それは関係ないと思う。だけど、仮に私達の中に犯人がいるとしたら、動機は予測しにくい。だから、小さなことでもいいから、皆に情報を伝えた方が犯人の意図や手掛かりを掴めるかもしれないでしょ?それに……」

「それに?」

松下が復唱する。

「これまでのことを、自分一人で抱え込むのがもう嫌だったの。もうこの機会に、後先考えずにすべてを話してしまおうと思ったの。あの時、小倉君に話した方が一番良かったのかもしれないけど」

笠原は、自嘲するような溜め息をつきながら、そう言った。

「……じゃあ、次は誰が話す?」

タイミングを見計らったのか、大槻がそう言った。
その時だった。

「なんか……息が……苦し……い」

笠原の弱々しい声が聞こえた。

「大丈夫?」

「窓開けようか?」

萩野と江川の声が聞こえる中、苦しそうに咳き込む笠原。
段々、彼女の様子が心配になってきた。

「……息が……でき……な……」

一言一言言うのも一苦労な様子の彼女の声に、俺達の不安はさらに強まった。

「ちょ、何で息が出来ないんだよ?」

「わか……ん……ない」

「もういいよ!無理して喋らなくていいから!」

「一旦、教室の電気付けるよ!」

名取の声とともに、彼女が机から立ち上がる音がした。
しばらくすると、彼女はカチッとスイッチを押したが、電気は付かなく、陰気な雰囲気を纏った教室のままだった。

「何で電気が付かないの!?」

苛々した雰囲気の彼女の声と、やけになって連続でスイッチを入れているのか、カチカチという音が聞こえた。
もしかしたら、雷のせいで停電になったのかもしれない。
すると、俺はさっき大槻が机に懐中電灯を置いていたことを思い出した。

「大丈夫だ!懐中電灯があるぞ」

俺は手探りでそれを探すと、それらしき物に手が触れた。
それを掴みスイッチを押す。
しかし、明かりが付くことはなかった。

「何で付かないんだ!?電池が切れてるのか!?」

「いや、今日替えたばかりのはずなんだけど」

持ち主の大槻が答える。
何でなんだ……。

「ちょっと!知花、大丈夫!?意識ある!?」

松下の声とともに、頬を軽く叩く音が聞こえた。
彼女の声に応じる笠原の声は、一切聞こえない。

意識不明の笠原と、付かない電気。
突然の出来事に、誰もがパニックとなった。

26:ひまり hoge:2017/07/24(月) 23:02

「そうだ。救急車……!」

萩野のその言葉に、ハッとなった。
何で、すぐにそうしようという発想に至らなかったのか、自分達を不思議に思ったが、このような非常事態ならば、仕方ないことなのかもしれない。
萩野がスマホを手にすると、電源を入れようとしたが、一向に付く様子はない。

「何で……」

力ない萩野の声。
スマホで救急車を呼べないのなら……。

「俺、公衆電話探してくる!」

確か、職員室の近くに公衆電話があったはずだ。
それを使えば、救急車を呼ぶことが出来るだろう。

「光貴!?」

江川の驚いたような声を無視して、俺は勢いよく教室の扉を開けた……はずだった。
俺の目が点になった。
目の前の扉は、いくら力を込めても開くことはなかったのだ。
もう一度、力を入れて開けようとしたが、やはりそれはびくともしない。

「どうして……」

この扉は鍵を掛けられないようになっている。
俺は目を軽く閉じた。

笠原が原因不明の呼吸困難。
明かりが付かない電気と懐中電灯。
電源が付かないスマホ。
開かない扉。

まるでこれでは、笠原を助けさせないために、誰かが仕組んだようだ。
いや、笠原をこのような状態にするのは過程の中で、本当は別の目的があるのかもしれない。
どちらにしろ、誰かが意図的に仕組んだことだと考えた方が自然だ。

「私達、閉じ込められたってこと……?」

萩野が不安そうに呟く。
そうだ。 
扉が開かないとなると、俺達はここから出られない。
完全に教室に閉じ込められてしまったようだ。

「それよりも、今は知花を助ける方が最優先だよ!」

名取の声が教室に響く。

「里奈、なんとかならない?」

名取は、松下にそう訊ねた。
松下の親は医者で、本人も多少の心得はあるらしい。
こんな状況の時、頼もしい存在だと思ったが、

「……こんな暗いところじゃ、危ないから心臓マッサージも出来ないわ」

彼女は観念したような声で、そう言った。
すると、松下は椅子に座っている笠原の胸に手を当てる。

「う、嘘……」

彼女の驚愕したような声色に、嫌な予感がした。

「どうしたんだ……?」

しばらく黙っていた西尾の声。

「……動いてない」

「え?」

「心臓が動いてない……脈も……」

力ない松下の声に、衝撃が走った。
笠原が……死んだ?
信じたくはなかったが、松下が嘘をついてるようにも感じられない。

「何かが可笑しい」

誰かがそう呟いた。
この声は、大槻だ。

「だよね……さっきまで普通に話してたのに、いきなり呼吸が出来なくなって死ぬなんて……」

「いや、そこじゃない。それに、死に至るのは別として、突然呼吸が苦しくなるのは有り得ないことじゃないしね。俺が言いたいのは、電気とかスマホとか懐中電灯が付かなかったり、扉が開かないことだよ。電気は停電、スマホは充電切れって可能性があるけど、電池を替えたばかりの懐中電灯や扉は絶対に可笑しい。まるで、誰かが笠原を助けさせない……死んでもらうために、仕組んだみたいなんだよ」

やはり俺と同じ考えの人はいたようだ。

 

27:ひまり hoge:2017/07/25(火) 19:49

「……そんなの、酷すぎるよ。何が目的でこんなこと……」

泣いているのだろうか。
萩野のその声は、涙混じりだった。
再び、大槻が声を上げる。

「そこなんだよ。誰がっていうのも気になるけど、何が目的でこんなことをしたのか、ってのが重要な気がする。ただ……」

「ただ?」

松下の声。

「それだと矛盾してるところがあるんだよ。仮に、これは誰かが意図的に仕組んだことだとする。そいつは笠原を助けさせないために色々仕掛けるとするよ?でも、よく考えてみて。笠原が死ぬことは誰も予測出来なかった。勿論、仕掛けた奴も。だったら、そいつの行動は別のことが目的だったと言った方が正しいんじゃないかな」

彼は一度溜め息をつくと、再び口を開いた。

「でも1つだけ、笠原を殺すために仕組んだって言っても、可笑しくない説もあるよ」

「何なんだよ……」

苛立ちが募ったような西尾の声。

「毒だよ」

「毒?」

俺は訝しげに訊く。

「そう。誰かが笠原に毒を仕込んだ食べ物や飲み物を体内に入れさせて、殺したって可能性がある」

俺は、犯人探しをする前後の彼女の様子を思い出す。
彼女は誰かから、飲み物や食べ物を受け取ったり、持参してるような様子はなかった。

「だとすると、一体いつ毒を摂取したんだ?」

俺は独り言のように呟く。

「わからない。でも、皆でここに集まる前に、誰かが毒を摂取させたと思う。勿論、効くのが遅くなる毒でね。まあ、これはあくまで俺の考えだけど。死因が毒死だとは限らないし、本当に突然呼吸困難になった可能性もある」

彼がそこまで言うと、沈黙が流れた。
大槻の考えを聞く限り、俺は毒殺の説が有力なような気がした。
そもそも、仮に仕組んだ奴が笠原を殺す気は全くなかったとしても、偶然いくつかの仕掛けが原因で笠原を助けることが出来なかったと考えるのは難しい。
それに、笠原を殺す以外に目的が考えられないのだ。
電気、懐中電灯、スマホが使えなく、閉じ込められた環境で一晩過ごしても、翌日になれば先生が来る。
すぐにその環境から解放されてしまうのだ。
それだと、その行動は全く無意味だ。
ならば、人を殺すために、このような状態にさせた方が正しい考えな気がする。
そうなると、誰が何故彼女を殺したのか、ということになるが。
一瞬、彼の顔が脳裏に浮かんだ。
しかし、俺はその考えをかき消すように、首をブンブンと振る。
……彼奴はもう死んだんだ。笠原を殺すなんて、有り得ない。
俺の額から嫌な汗が流れ、それをタオルで拭くと、名取が不安そうな声で言った。

「毒殺とか目的とかもいいけど、これからどうするの?私達、閉じ込められたままなんだけど……」

28:かわた◆P2 hoge:2017/07/25(火) 20:22

ひまりの小説面白い。


続きを読む 全部 次100> 最新30 ▲上へ
名前 メモ
画像お絵かき長文/一行モード自動更新