深夜、朦朧とした頭で書き散らかす。
誰もいらないと思うけど、著作権はありません。
ネタなりパロディなり、なんとでも。
どこかで間違う物語
竹馬
りんご、りんご、論語、ロンド。
言葉あそびをしたくなるほどの、退屈はよいものである。
親が死んで、遺産が入った。贅沢をしなければ、一生働かずに生きていける程度に。
そしてオーギュスト・デュパンにさえなれそうなぐらい、今は退屈だ。
あそびを開発しては飽きる日々が続く。
こんな遊びはどうだろう。
美しくなる遊び。
善良な乙女たちに、惚れられる限り惚れられてみるのだ。
ひとつ、ドン・ファンになってみよう。
哲学者のカイヨワによると、遊びには三種類ある。
しりとり的なるものと、かくれんぼ的なるものと、コイントス的なるものと。
このドンファン遊びは、謎めいた女という生き物の実際に迫るという意味ではかくれんぼ的なるもの
だと言えるし、最終的には女次第なのだから、コイントス的なるものでもあると言えるだろう。
下手すれば「しりとり」でもあるかもしれない。
映画のDVDを借りてきた。
様々な俳優の、美しい演技を観察して、ノートにまとめた。
かたわら、食事を減らして、体重を減らした。
俳優の研究が大方出来上がった頃に、服屋に行き、床屋へ行き、銭湯に行った。
風呂をあがって、鏡を見ると、これが自分かと思うほど美しかった。
思い上がっているのではない。鏡に映るような「美」など、かりそめの美にすぎない、という
ことくらい自分でもわかっているのだから。映画を見ながら、美学の研究もしたものだ。世阿弥の「花伝書」、柳宗悦の美学、川端康成の「末期の目」……。
僕は女の子の読むような、胸がムカムカするような漫画や小説も読んでいた。
女の子に惚れられたければ、女の子の夢になるべきだと考えたからだ。
コンテキストにインターネット掲示板である「葉っぱ天国」に書き散らかされていた、
「私の恋は叶うのかしらん」を選んだ。
まずはその小説に出てくるヒロイン(という言い方であっているのだろうか)、杉下輝になりきり、
夢のように、朝、食パンをくわえて走る少女、町田レミリに……衝突した。
レミリのことは、適当に選んだ。別に、可愛ければ誰でも良かった。
「っ……いってえ」
無論、いってえ、なんてガラではないのだが。
「す、すいませんっ」
と、レミリは慌てて謝り、遅刻しそうな葉っぱ学園にすっ飛んで行った。
そして、葉っぱ学園の制服を、僕は今着ている。学校なんて、もう行かなくてもいいはずなのだが、
レミリと関係性を持つためには、去年やめた学校というものに、再入学するのがよいと
考えた。
「今日から、このクラスの仲間になる、杉下輝くんです」
「杉下輝です……よろしく」
女子どもがきゃあっと叫ぶ。ボソボソと、格好いい、とかイケメン、とか聞こえてくる。
ゲエッ。少し見ただけで、格好いいとか言ってしまう女子たちの浅はかさにムカムカした。
そして、その嫌悪感は、結局僕自身が、ひどくつまらない精神でもって、浅はかに格好良くなっちまったということに対する、自己嫌悪から来ているのだろうと思う。
窓辺で、目をキラキラさせている、町田レミリと目があった。正確には、目を合わせた。
その目は、海のように青くて深いのだった。もしあの目に指を突っ込んだら……?
僕はレミリと相思相愛になった。
クラスでもお嬢様的なキャラ、江坂香も、僕のことが好きみたいで、
香はレミリをいじめ始めた。
レミリの上履きに、自分のうんこを入れた。嫌がらせである。
そして、僕の上履きにも、彼女のうんこが入っていた。これは変態的な愛情である。一種のスカトロジーであると思われる。精神分析学的に言えば、
普段は上品なお嬢様だからこそ、自分の下品さを、愛する人にさらけ出したい、ということになろうか。
全く、犬のようだ。
香は、こっそりこの嫌がらせを続けていたが、僕はすぐに気がついて、
香を告発し、自白させた。みんなの前で、
「このうんこ野郎!」
と僕が言うと、お嬢様キャラから一転、「うんこ野郎」と言うあだ名がついた。次の日、
ものすごいリストカットの跡をつけて、学校にきた。
それから数日後、香は、いや、うんこ野郎は自殺した。自業自得である。
僕は罪の意識で悩んだふりをいていた。
レミリは心配して言った。
「もう、愛し合うだけじゃないの。何が問題なの」
「僕が、うんこ野郎、いや、香を殺したのかな」
「いいや、違うと思う」
「それはわからない」
ある日、僕たちは、温泉旅行に行った。海の綺麗な、小豆島のホテル。
レミリは、親に適当な嘘をついたらしい。今夜、一緒に眠ることになっている。
横のレミリの心臓のドキドキが聴こえてくる。
僕たちは部屋でゆっくりお茶を飲んだ。
「ちょっと、散歩に行こうよ」
僕たちは海岸を歩いた。
僕はとつぜん叫んだ。
「か、香……!」
海の向こうに、香の亡霊が見えるふりをした。
「輝くん、香ちゃんなんて私には見えないわ!」
「あそこにいるじゃないか……」
「輝くん!」
僕はレミリを突き放し、香のいる方へ、いや、香のいない方へ走った。
「香!悪かった!許してくれ!」
と叫びながら、瀬戸内海に飛び込んだ……ふりをした。
影でレミリの慟哭を聴きながら、さあ、次の女だ、と思った。
同じようにやって、僕は結局五人の女の子と、出会い、愛し合い、消えた。
さてある日、五人の女の子たちが偶然出会い、喫茶店で話し合い、僕のことを調べ始めた。
僕は六人目の女の子を見つけたところだった。そこに、五人の女の子が僕を取り囲んだ。
逃げようとしたけど、逃げ道はなかった。
「もともと、遊びだった」
僕はそう言って、「楽にしねる薬」を懐から取り出して、飲んだ。
苦しくて、気持ちがよくなる。ふらりと倒れた僕を、五人の「ヒロイン」が受け止めた。
罵られるかと思っていたら、みんな泣いているのだった。
「別に、あなたをさばこうとは、誰も思っていませんよ」
と、レミリが言った。
「あなたは、あんまりいい人だっただけなのよ」
「本当にそう」
「退屈が、あなたをおかしくしたんです」
「かわいそう」
消えかけて行く意識の最後に、こんないい子たちと、夢を見ることができて、
僕は本当に幸せだったと思った。
ところで。
物語の神メタフアランナを、狂気の神ジカザンシュタインが切り裂いた。
以来すべての物語は「断片」となった。
ああ、われわれはもう、断片を寄せ集めることでしか、物語を読むことができなくなった。
収集の神ドゥルーズカムガタリは言っている。
「集めよ、そうされば、メタフアランナをよみがえらすことができるだろう」
ということで。
髄小説だ。
18:竹馬:2017/08/20(日) 19:08 行進だ、行進だ。
どとどとどとどと行進だ。
ジャンヌ・ダークひきいる正義の軍隊の行進だ。
前へ、前へ、そして止まるな。
引き留める父母はすでに振り切った。
迷うな、前へ。
行進だ、行進だ。
思うな。
行進、行進、行進。