みんなおかしくなっていく。
今までは普通でつまらない日常だった。
───なのに、何で…。
>>2主人公(後からいろいろと登場人物増えるかもです)
「男!?」
私は思わず叫んでしまった。
レイラはぽかんと口を開けている。
口パクで「てっきり女の人だと」と
言っている。
優さんは男性だった。
言葉では言い表せないくらい
整った顔をしている。
七瀬君よりかっこいい、と思ってしまった。
屑だ、私。
「んで、何のよう?」
はっと我にかえる。
「この世界について何かご存じですか?」
優さんはうつむいてスマホを取り出した。
私もつられて取り出す。
圏外、ではなかった。
でもやっぱり電話をするのはやめよう。
きっと誰も信じてくれないだろうから。
「麗歌、お腹空いた」
レイラが私の袖を掴む。
可愛い、と思った。
「私お金ないわ今…」
そう言うと、レイラはむっと
頰をふくらます。
ふと優さんの方を見ると、
なぜか私の方をチラチラ見ながら
スマホをいじっている。
怖いくらいに真剣にスマホを
いじっている。
何か分かったのだろうか。
優さんは動きを止め、
スマホをパーカーのポケットに入れた。
「ここは君が創り出した世界、
とでも言っておこうか。
ま、そのうち元の世界へ戻れるよ」
と彼は言った。
「そのうちっていつよ!?」
レイラが優さんに殴りかかろうとしたので、
必死で止めた。
私が、創り出した世界…?
どういうことなのかさっぱり分からない。
私がこの世界にあるものを望んだわけでも、
誰かに会いたいとも思っていないのに
なぜ“私の世界”が生み出されてしまったのか?
「要するに、君の好奇心から生まれた世界
っていえば分かるかな」
私の好奇心から生まれたのであれば、
優さんも私が創り出したのか…?
急に恥ずかしくなってきた。
多分私の顔は真っ赤だろう。
そうこうしている内に、
空は明るくなっていた。
レイラは「来たわね」と呟く。
優さんもそれにあわせて頷く。
「来たって、何が」
私は宙に浮き、空へ吸い込まれた。
目が覚めた。
全身は汗でびしょ濡れになっている。
怖かった、ただそれだけだ。
着替えて外に出る。
「せっかく会った人もすぐにまた
会えなくなっちゃうんだよなあ…」
石を蹴る。
電信柱にコツンと当たる。
その瞬間に自分だけ
この世にいてはならない存在なのかなと思った。
周りが変わっていくのを感じ、
背筋が凍り付く。
いずれ私もその世界に巻き込まれ、
自分ではなくなるのだろうか。
時が経つのが早いな、と
改めて感じる。
その時が流れているうちに
何が起きてこうなったのだろうか?
「ん?」
悲鳴が聞こえた。
何かあったのだろうか。
嫌な予感がして一目散に
声がした方向から逆の方向に走った。
悲鳴が大きくなっていく。
「…気持ち悪い」
誰かが叫んでいるのであれば、
助けた方がいいのだろうか?
そのとき、後ろから叫び声が聞こえた。
後ろから…!?
『目の無い女』が叫びながら立っていた。
どれくらい走ったのだろうか。
気付けば知らない場所にいた。
耳をすませると、叫び声が耳に入ってくる。
「け、警察を呼ばないと…」
「もしもし?警察ですか?
目が無い人が追いかけてくるんですけど」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか?
イタズラなら切りますよ」
何度も説得したが、仕舞いには
切られてしまった。
なぜなら、女の声は聞こえるのに
一定の距離まで近付かないと姿が見えないからだ。
ブツブツ愚痴を言いながら家まで歩く。
どうせならもうあの女に捕まってもいいのでは?
そう考える自分がいる。
親も失い、地獄のようになってしまった日々は
もう過ごさなくてもいいのではないか?
「腰が痛い…」
背中を反らす。
あまり運動しなくなったので
体が鈍ってきたようだ。
「キャアアア」
悲鳴を無視する。
はやく家に帰りたい。
「麗歌様!なぜそんなにむあえぶえす!?」
バフォミンが来てくれたが、
焦っているのか、
正直何を言ってるのか分からない。
「ああ、なんかもう疲れちゃって」
適当に答えると同時に悲鳴が聞こえる。
「妙な雄叫び…」
バフォミンがボソッと言うと、
手から光を出した。
「おお…」
中二病かと思ったが、
まあ悪魔だからそれくらいできるだろうと
自分を安心させた。
悲鳴が近くなってくる。
バフォミンは光を向こうへ放った。
同時に目の無い女が現れる。
「あ」
一瞬申し訳ない気持ちになった。
「あ、ええ…」
女はあたふたしている。
バフォミンが横でフンと鼻で笑った。
「すみませんでした」
女はそれだけ言うと、
走り去ってしまった。
私は思った…
「何がしたかったんだ」と。
「ま、まあ一件落着したことだし、
帰ろうか」
そう言うと、
バフォミンと笑いながら
家に帰った。
「おかえり」
夜巡さんがエプロン姿で
玄関に来る。
「お風呂にする?ご飯にする?」
それとも、と言いかけたところで
「お風呂」と即答した。
バスタブに浸かりながら考える。
家の中なら安全なのではないか?
バフォミンもいるし、
化け物に会うこともない。
変な夢は見るが、
外よりかはマシだと思う。