スレイブ・ヒーロー

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1:ジイカ (;`・ω・)つdice3:2019/07/18(木) 11:27

ダーリンドール・サーカスの招待状をお受け取りの皆様、こんばんは。
この度は裏演目のお披露目会へようこそ!
裏演目では好きな奴隷に金を賭け、勝ち負けに応じて配当を得ることが出来る競人も行っております。
虎と同じ檻に閉じ込めたり、ピラニアの餌食にしたり、殺し合いに発展することも。
いやぁ、人間の本性は面白いですね。

少々グロテスクな場面もございますが──Are you ready?

YES→>>02
No→出口へどうぞ

21:ジイカ:2019/07/22(月) 20:35

>>20
ありがとうございます!
感想などの書き込みむしろ大歓迎です

22:ジイカ:2019/07/22(月) 23:02

「さて、早速6番と7番は脱落したようですね。出血量が多いので持ってあと数時間といったところでしょうか」
「兵王院……っ! 本気でこのまま続けるつもり!? 死人が出てるのよ!?」
「あったりまえだのクラッカーだろう、21番。死ななきゃゲームは成立しない」

兵王院は折り重なる死体を蔑むように横目で見ると、呆れたような口調で言い放った。
二人とも骨が見え、肉片が飛び散り、虎の唾液に塗れた状態で放置されている。

「もうやだよ……出たいよ……っ」
「お、おい! と、取ってきたぞ! 鍵!」
「でかした!」
「ありがとう! ありがとぉぅう!」
「これで出られる……!」

大騒動の中、いつの間にか鍵を取ったのか若い金髪の男が手中に鍵を収めて勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
男性の周りは、まだ脱出できたというわけではないのに、既に安堵した様子で弛緩しきっている。
その勝ち誇ったような笑みを邪魔するようで申し訳ないけれど、一つ大きな問題があった。

23:ジイカ:2019/07/23(火) 07:43


「……檻の扉の前に、アクルックスがいるわ」

どんちゃん騒ぎを切るように、私は静かに言った。
射抜くように向けた視線の先は、檻の扉の前で未だ肉片の咀嚼を続ける白い虎──アクルックス。

「確かに……あの虎が檻の前にいちゃ開けらんねぇ……」
「つまりもう一人犠牲者が必要ってこと!?」
「冗談じゃねぇ! 俺は取った……鍵を取ったんだ! 囮ならまだ何もしてねぇ奴がやれ!」
「誰があの虎を扉の前からどける……?」
「あぁもう誰でもいい、虎がまだ大人しいうちに決めろよノロマ!」

私を含めた6人のうち2人が脱落、そして残りは4人。
その内1人の鍵を取った男性は鍵を開ける役目があるため、必然的に3人の中から虎を扉から遠ざける囮を選ぶことになる。
白髪混じりの中年女性と、眼鏡をかけた大学生くらいの若い男性だった。

「21番の人、最初の時から自分だけ虎に襲われずに済んでこっちを嘲笑っていたねアンタ」
「確かに、妙に落ち着いてるのも怪しいし……」
「……何が言いたいの?」

まずい、3人というのは、一番まずい構成。
2対1に持ち込まれてしまえば、こちらは完全に孤立してしまう。
共通の敵というのは恐ろしいもので、ある種の結託が生まれ、共通の1人を倒そうとする力が格段に強くなる。
心理学を噛んでいなくても、それくらいは28年積んだ経験でなんとなく察せる。

「気に入らないんだよ! 飄々としてるアンタが!」
「そうだそうだ! 俺達のこと、見下してるんだろ! クソ女!」

大学生がメガネのブリッジを押し上げ、私に指差しながら叫んだ。
気弱な青年の本性も、どうやら兵王院の手にかかれば剥き出しになってしまうようだ。

「さっきまで余計なことして目立ちたくないからって周りに流されてばっかりだったくせに、味方を得て自分が有利になった途端強気に出たわね。うちのノロマな部下にそっくりだわ」
「余裕そうじゃないか21番……君がやったらいいよ! 囮!」
「私が余裕そうに見える……? ふざけないで。怖いわけないじゃない!」

本当は私だって涙を流して助けを乞いたい。
つい昨日まで普通のOLだ、たまたま虎の習性を知っていたから少し落ち着いていられるだけ。
むしろ今まで慎重に分析できていたのが奇跡なくらいだ。
うっかり気を抜けば、眼球が萎むまで涙を流して助けを乞うだろう。

24:ジイカ:2019/07/24(水) 00:43

「アンタどうやら虎の対処法を知ってたみたいだけど、なんで黙ってたんだい! 自分だけ助かろうって魂胆かい!?」
「卑怯者だな! 恥ずかしいと思わないのかっ」
「他の人を盾にしようとした貴方達がよく言うわね……!」

おばさんに図星を突かれたが、開き直ってしまえばなんともない。
確かに私は対処法を教えなかった。
みんな動かなければ、私が噛まれる可能性は格段に上がる。
倫理だとか良心だとか、そんな綺麗事で悪夢は終わらないのだ。

「つべこべ言ってないで、あんたが虎の相手をするんだよ!」
「わっ……!」

メガネ大学生の会話に気を取られていたせいで、背後から忍び寄る魔の手に気が付かなかった。
勢いよく突き飛ばされ、たたらを踏んで派手に転倒してしまった。
素早く見上げればアクルックスが唾液を垂らして私を見下ろしている。
口の周りの白い毛は赤く染まり、血が滴っていた。

「しまった……! あ゛っ!」

アクルックスに頭部を噛みつかれる。
幸い喰いつかれたのは髪をまとめたお団子の部分だが、それでも危険なことに変わりない。
お団子が解けて髪が唾液に塗れ、大我君から貰った簪が落ちる。
小さな桜のガラス細工が割れた。

25:ジイカ:2019/07/24(水) 17:13


「おら、さっさと行くぞ!」
「まっ、待って……! 待っでっ、あ゛あ゛っ!」

私が虎に襲われている隙に三人は鍵を開けて脱出し、再度檻に鍵をかけた。

とてつもない勢いで髪は引っ張られ、食いちぎられ、今にも頭皮が剥がれそうだ。
油断したら脳みそごとを持っていかれる!
項に生暖かい息が吹き掛かって、今にも噛まれそうだ。

「開けて! 開けでっ、あ゛……っ!」
「今開けたら虎が出ちまうだろ!」

そう、自分が助かればもう他人事。
私だってそうする。
わざわざ危険を冒してまで逃げ遅れたやつなんかきっと助けない……!

「いいザマだねぇ〜! 髪の毛喰われてるわ」
「たっ……助かった……僕は助かったんだァアア」

なんで、なんでこんなことになったんだろう……。
大我に始まってタイガーに終わるとか笑えない。
というか全部大我のせい……私、あいつにまだ復讐してない──あいつの思惑通りにことが運んだまま死ぬなんて、絶対に許したくない。

「生き残る……生き残ってアイツを殺してやるッ!」

ブチブチッと悲惨な音を立てて髪が抜け、一瞬だけアクルックスから体が離れる。
ポケットに入れていたアジの開きの存在を思い出した私は、なんとかアジの開きを取り出して虎の目の前へブラブラと揺らして見せた。

「アジの開きよ……髪の毛なんかより美味しいわ、食べなさい!」
「ゥヴゥ……ガウルルルッ……!」
「……い゛っ!」

アクルックスはアジの開きに鼻を近づけて匂いを確認し、食べられると認めると、アジの開きに喰らいつく。
その時少し親指の先を噛まれたが、幸い大した支障はなかった。

「大我君……あなたに助けられたみたいですごく癪だけれど……!」

私は虎がアジの開きに夢中になっている隙に、床に落ちた簪を掴み、そして──。

26:ジイカ:2019/07/24(水) 23:53


「ゥウガァヴァァッアアァ゛ッ!」
「……ごめんなさい、アクルックス!」

抵抗なく刺さる、柔らかい──眼球。
ゼリーにスプーンを刺すような手応え。
もう片方の眼も、滞りなく簪を受け入れて血を垂らした。
アクルックスは背をまげたり檻に噛み付いたりと、痛みに悶え苦しみ暴れている。
罪悪感に心をえぐられたが、こうするしかなかったと自分を納得させた。

「まぁ! 21番、虎の目を刺しましたわ!」
「クレイジーだ……」
「21番……なにをしている?」

兵王院は威圧感のある低い声で私に問う。
観客の至極楽しそうな雰囲気に水を差せて、私は心底嬉しかった。
調子に乗って、兵王院の真似をして涼しい顔をして言ってみる。

「失明させれば私の姿を捉えることもできないでしょ。血の臭いも充満しているし、嗅覚も宛にならない。あっ、鍵もってる10番の人」
「ぅあっ、は、はい……」

檻の外でガタガタと震えるメガネ大学生に声をかけると、今にも消えそうな声で返された。

「鍵開けてくれないかしら。あの状態なら一瞬開けても平気でしょ」
「ははははっ、はゐっ!」

なんとか開けてもらって脱出すると、兵王院がこちらに冷徹な視線を投げた。
が、すぐに笑顔を作ると、司会進行に戻る。

「……えー、予想外の展開となりましたが 今回の生存者は2番、10番、19番、21番! 過去最多数の生存数です! 換金はロビーにて行っております。それでは皆さん、よい週末を!」

幕が垂れ下がり、拍手と歓声が遮られる。
そういえば週末だったっけ、と、失いかけている曜日感覚に乾いた笑みを浮かべた。

27:匿名 hoge:2019/07/25(木) 12:38

ストーリーも面白い上、文章も上手で…影ながら尊敬しています、
いつも更新楽しみにしています…!

28:ジイカ:2019/07/25(木) 18:57

ありがとうございます!
割と淡々と進めすぎたかなと思っていたので、面白いと言って頂けて嬉しいです
これからも更新続けていきたいと思います

29:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 00:09

「ゔっ……助かった……ぁ」

幕が下がって静かになると、急に今までの恐怖心が一気に安堵に変わって、引き締めていた涙腺が崩壊した。
熱い涙が次々と頬を伝って落ち、床を濡らして水たまりを作っていく。
鼻水をすすって泣きじゃくっていると、再度黒服に取り囲まれた。
その奥には、冷めた表情でため息をつく兵王院。

「風呂に入れて檻に戻しておけ。臭くてかなわん」
「はい!」

彼の一言により、私達は再び檻に収容されることになった。




一応お風呂──シャワーで汗を流すだけだが入浴も済ませた。
水に触れる度、二の腕のバーコードの焼印が鈍く痛んだ。
鉄板を押し付けられた一瞬だけでなく後からもジワジワと痛み付ける焼印は、本当に拷問としてうってつけだと思う。

それから、虎に噛まれた髪が酷く絡まって血だらけだったため黒服の人に頼み、無事な所を残して切ってしまった。
床に落ちた唾液だらけの髪は、激しい死闘を思い起こさせる。

着る前までは胸元まであった長さは、今や肩につかないくらいになっている。
簪はもう捨てた。
失恋したし、簪は使わなくて済むし、髪を切るには丁度良かったのかもしれない。

30:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 14:14


──ガシャン。

看守のおじさん(お兄さん?)が鍵をかけ、重い扉が閉ざされる。
相変わらず帽子を深くかぶっていて表情が読めない。

「"エサやり"で帰還するならまだしも、簪でアクルックスの両目を潰したやつは初めてだな」
「でしょうね……」

虎の目を潰すようなやつがほいほい居たらたまったもんじゃない。
あの惨劇を見ての通り、大抵の人間はパニックになって何も出来ないか、他人を餌にして鍵を取るかだ。
まぁそれが一番効率の良い逃げ方だ。
私の時みたいな非常事態でなければ、それが正解だろう。

「あーでも……」

看守は何かを思い出したのか、去っていこうとする足を止めた。

「1年前に、ヘアゴムで虎の目を潰した男はいたな……」
「……えっ」

──私以外に、虎の目を潰したやつがいる?
私と同じ事を考えることができた人が他にもいた──?
しかも簪やナイフでもなく、ヘアゴムで……!?

事も無げに言って去ろうとする看守を、私は「待って!」と叫んで引き止めた。
周りの奴隷達の視線がこちらに向く。

「その人って……その人って誰だか分かる!?」

看守は再び歩き出すと、「12番」とだけ小声で言い残して、フラフラとどこかへ行ってしまった。

「12番……奴隷番号ね」

丁度私の21番をひっくり返した、正反対の12番。
けれど考えることは同じ、否、私以上……。
生きているかまだ分からないが、ヘアゴムで虎の目を潰せるくらいの機転があればまだ生きているだろう。

一体どんな人なのか、どういう方法でヘアゴムを使ったのだろうかと考えている内に、疲れ果てたのか深い眠りに落ちてしまった。

31:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 15:54

──翌日。

けたたましいベルの音と共に、全員が眠い目を擦って起床する。
目覚めは最悪だ。
床は固くて背中は痛いし、寝違え気味だし、二の腕も火傷で痛い。

「早くしろ! 7時から労働だ!」

どうやら刑務所のように時間管理が厳しく、労働や雑務もあるらしい。
窓が無いため時間感覚が全く分からないが、会社の通勤よりしんどい。
そういえば会社はどうなっているんだろう、そもそも行方不明届けは出されたのだろうか。

「21番、朝食許可」

昨日の看守のおじさん(お兄さん?)とはまた違う、ガタイのいい看守さんが一人一人以上がないかチェックしてから食堂に通される。
中には不許可の人もいて、なにが基準なのかはよく分からない。

食堂に入ると、相変わらず貧相な食事を受け取り、空いている席を探す。

「あのアクルックスの目を簪で刺した……」
「やっばー!」
「すげぇ〜……」

一緒に檻に入れられた奴隷でも話したのだろう、昨夜の噂が既に広まっていた。
感激の眼差しとも嫌悪の眼差しとも取れないような視線を受け、身を縮めながらお盆を置いた。
私が席に着くと、両隣の奴隷が逃げるようにしてその場を立ち去る。

どうやら怖がられているらしい。


「いただきます……」

小さい茶碗一杯の白米とタレも辛子も無い納豆、大根だけの味噌汁、水道水。
今回は持ち帰れる食材は無さそうだ。
兵王院は納豆が嫌いなはずなのにどうして頻繁に朝食に納豆が出るのだろう。

寝起きでぼーっとしながら納豆を混ぜていると、隣の席にお盆を置く音がした。
チラリと横目で見れば、長髪をサイドで緩くまとめた男性が「いただきまーす」と手を合わせている。

「……お前、あのアクルックスの目を刺したんだって?」
「……そうだけど」

虎の事でこれからもこんな風に声をかけられるのだろうかと思うと、気だるさが更に増す。

「まさか俺と同じことを考えるやつがいたとはな」
「なっ……!」

納豆をかき混ぜる手が止まり、箸を落とす。
彼の手の甲に刻まれたバーコードを見れば、そこにはあの数字があった。
──2018120312、つまり。
2018年12月3日に奴隷にされた12番!

「ヘアゴムで目を潰したっていう……」
「ん? 俺の事知ってるのか? 有名人だなぁ……」

ヘアゴムと言うからてっきり女性だとばかり思い込んでしまっていて、必要以上に驚愕していた。
先入観は捨てなさいと兵王院に言った先、自分も先入観に囚われていることに恥を知らされる。

「根性、人情、俺、童条《どうじょう》! このサーカスでマジシャンやってる童条雅一《がいち》とは俺の事」

語呂のいい自己紹介についていけず、私は「はぁ……」と軽く頷くしかない。
この暗い奴隷達の中にも、こんなハイテンションな人がいたとは。

「私は……志賀葉 美渦。21番」

とりあえず自分も名乗った方が良いだろうと思って軽く自己紹介し、落とした箸を拾う。

32:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 15:59

「そういえば、どうやってヘアゴムで虎の目を……?」
「パチンコ」
「……は」

せっかく拾った箸を、再度落としてしまう。
突然自分の職業(パチスロメーカー勤務)を言い当てられたのかとたじろいだ。

「丁度パチンコ打った帰りにさ、落ちてたパチンコ玉を5個拾ってさ。その直後に拉致されたんだよ。後から知ったけど、姉貴の連帯保証人にされてた」
「連帯保証人……」

私は担保としてだが、童条も同じく理由も分からないまま連れていかれたらしい。
彼氏に裏切られたばかりの私は、似た境遇の童条に同情した。
今のは洒落ではない。

「私も担保として拉致されたから、似たようなものね」
「お前も?」
「まぁその……彼氏に……」
「あぁ……」

童条に同情される。
重くなった雰囲気を拭おうとしたのか、彼は続けた。

「まぁ、そんで"エサやり"に参加させられて。ポケットに入れてたからそのまま持ち込んだパチンコ玉とヘアゴムで、即席パチンコを作った。即席とはいえ至近距離から打てば目ん玉は潰れる。視力を奪って鍵を取ったって寸法だ。それからはマジックが出来たからマジシャンとして生かせてもらってる」
「パチンコ玉は一つ約5.7g……弾丸に数グラム劣るとはいえ、ヘアゴムで勢いをつければ目を潰すことはできる……!」

一人納得して頷いていると、童条が「へぇ」と感心したように声を漏らした。

「詳しいな……普通パチンコ玉の重さなんて知らないだろ。俺も知らずに使った」
「パチスロメーカー勤務なのよ」

そういえば、会社は本当にどうなっているのだろう。
私の曜日感覚が正しければ、今日はコラボ先との大切な打ち合わせがあったはずだ……。

33:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 16:00


そんなことを思い出しながら味噌汁を啜っていると──

「なぁ美渦」
「なっ、なによ……」

志賀葉さん、志賀葉さんと呼ばれ慣れすぎたせいで、下の名前で呼ばれて反応が遅れた。
彼氏ですら志賀葉さんで、良くても昔雀荘でみうちゃんと呼ばれたくらいの記憶しかない。
童条はちょいちょいっと、手招きし、私は耳を貸した。

「俺と組んで、兵王院飛直を倒してみねぇ?」
「……は!?」

囁かれた一言に、私はついに箸を折った。
安っぽい枝みたいな箸は、ポッキーみたいに呆気なく折れる。
隣のコンビニ行かない? みたいな軽いノリでの誘い。

「俺はずっと、お前みたいなやつが現れるのを待ってたんだ! 知略に長け、土壇場で勝てるやつ……!」
「いや、私は偶然簪が頭にあったからで、そんな知略に長けてるとか持ち上げられるほどじゃ……」
「俺と組もう。俺が弾丸でお前がパチンコ……俺たち奴隷があの皇帝を討ち落とすんだ!」

あまり大声だと看守や黒服に聞かれかねないため小声で話しているが、そこにはそびえ立つ山のように動くことのない信念が聞いて取れた。
彼は──童条は、本気で奴隷が皇帝を討てると信じているらしかった。

「何も持たない奴隷が、皇帝を討てるわけないでしょ……」
「いいや、持ってる。俺達には頭がある。どんなに金品身ぐるみ奪われても、知略だけは奪えない」
「だから、私には知略なんてそんな……」

今回はたまたま運が良かった、ただそれだけ。
大我君から貰った簪を付けていたのと、虎の対処法を本で読んでいたこと。
もしそれが無かったらどう対処していたか、検討もつかない。
恐らく他の人と同じく、他人を犠牲にしていたか犠牲にされていたか。

「ヘアピンや簪を付けていたのは他に何人もいた。虎の対処法を知っていたやつもいた。けど全員餌になった。結局道具や知識があっても、それを生かせなきゃ意味が無い。偶然じゃない……お前は勝てる力があったから勝てた!」
「やめて……」

童条の話術は巧い。
もしかしたら……もしかしたら私も兵王院を倒せるんじゃないかって、こいつは一瞬、私に思わせやがった。

34:ジイカ◆Es:2019/07/26(金) 20:52

「悪いけど私は……」
「12番、21番!」

黒服に番号を呼ばれた。

私は協力できない。
そう言おうとした時、タイミング悪く言葉を遮られた。
まるで断るなと警告するように。

「帝王がお呼びだ、ついてこい」
「て……帝王?」

なんとなく兵王院だということは察せたが、ここでは彼のことを帝王と呼ぶのだろうか。
さっき童条が皇帝と呼んだのも、比喩ではなく本当に皇帝として崇められているからなのかもしれない。
それなら私達の奴隷という立場も頷ける。
ここはひとつの帝国として成り立ちつつあるのだろう。

兵王院に名指しで呼ばれたということは、なにかあるに違いない。
恐らく昨日の、アクルックスの目を刺したことについての処理だろう。
また顔を踏まれたり焼印だのされたりするのかと思うと、恐怖で鼓動が早くなる。

「番号指定か……やな予感しかしねぇな」
「そうね……うずうずするわ」
「……美渦(み"うず")だから?」
「違うわよ! なんかこう、うずうずするのよ、うずうず……!」

童条は本当に話が巧みだと実感させられる。
彼と会話していると、不思議と恐怖がいつの間にか静まっていくのだ。


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