貴女に沈丁花を

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1:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/14(木) 21:11

>見切り発車の小説<
>わずかな百合<
>表現能力の欠如<
>失踪しないようにがんばる<
>感想だけなら乱入どうぞ<



私より皆、儚い。
儚いから、美しい。
人って、そういうもの。
なら、私はーー、人じゃないね。

私はいつから存在していたんだろう。
老いもせず、死にもしない、存在。
あの人を見送ったのは、大体20億年前だったかな。
ーーーー最後の、人。

本当に、儚いね。
ああ、
良いな。

また、愛に触れられたらな。
なんて。私より長生きする人は、居ないのに。



少女は誰も居ない広野を歩く。
誰も居ない大陸を走る。
誰も居ない地球を眺める。
誰も居ない、この星系を。

そのまま、何年も、何年も。

2:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/15(金) 07:42

何年も過ぎた。

ある時、少女は建物の残骸の影に、沈丁花が咲いているのを見つけた。
······数億年も経っているのだから、何も残っているはずがない、 と思ったのは一瞬のこと。
数億年もあれば、一つ二つは文明が誕生してもおかしくはない、と。
完全徒歩移動だったため、最近は(と言っても数千万年単位だが)この大陸から出るのが面倒になったせいだ。
どうやら少女は今の自分にとって最大の娯楽──人、もしくはそのような存在の隆盛、そして衰亡を、幾多にわたり見逃したらしい。
そして──この星系には自分だけ、と一種の自己陶酔に陥っていたようだ。

しばらく少女は沈丁花の上で泣き続けた。
歓喜、後悔、絶望、自嘲。
それらを溶かし混んだ涙が、沈丁花に落ち続ける。
花が落ちても、少女はずっとそこにいた。

3:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/17(日) 10:03

(毎日が目標だったのにぃ)

また、長い時が過ぎた。
最初の沈丁花の木はもう枯れたが、その代わり、ある島の至るところに花が咲き乱れるようになった。
そう、少女が悠久の時を過ごす為に見つけた、大きな島。

少女には花の知識はほとんど無かった。せいぜい、雑草を抜いたりどこかから流れついたジョウロで水をやるだけ。流石に海水はやる訳にはいかず、ほとんど雨水であるが。

なんやかんやで、少女はこの暮らしを気に入っていた。
外の文明に興味は有るが、第一ここに来る為に不死身の力で海底を歩いてきたおかげで気力はもう無かった。
だから、このまま、肥大しきった太陽が地球を呑み込むまで。
ずっと、静謐に生きるつもりだった。

しかし、そんな時。
変化は流れ着く。

4:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 17:23

······

「何処だ、此処は?」

突然、そんな声が少女の耳を刺激する。
数億年の間、自然の音、動物の鳴き声ぐらいしか聞いてこなかった耳に、明確に入る。
数百年前にサメに食べられたのとは別の方向で、時を止める。
そして、その者たちは現れる。

「······誰か居るぞ」
「まあ、ここまで手入れされた島が無人な訳ないですよね」
「女?······まだ子供じゃねぇか」
「あら、珍しいですねブロウさん?あの見境なしはどこに行ったんです?」
「皆、そこまでだ。僕にはわかる。こいつは、ただ者じゃない」

少女は、突然現れた剣やら杖やらで武装した集団に訳がわからず、何か言おうとして──

「······ぁ······ゲホッッ!?」言えなかった。
当然である。この少女は、なんと数億年も口を利いていない。
鉄の味がする。口から血が溢れる。
しかし──倒れることは、身体が許さない。例え死んでも、死.ねない不死身だからだ。

5:子猫:2020/05/18(月) 17:25

すっ凄い!!語彙力高!!

6:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 17:28

ありがとう!
頑張ります!
(目標は1日一回投稿)

7:子猫:2020/05/18(月) 17:31

頑張ってください!!

8:水色瞳◆hJgorQc トリックだよ:2020/05/18(月) 19:04

>まさかの今日二回目<


>>4
少女が突然吐血したことで、まさに近づこうとしていた者たちは思わず思考を止めた。
ここで少女は痛みを無視して彼らを観察する。
手も足も二本。何やら耳の形が違う者も居るが、それもはるか昔に見た『人』と同じようにあるべき場所にある。体型も似ている。顔も。······

そして、少女は断定する。
ああ、人だ、と。
そして──思いもよらず、涙が溢れる。

「······っ、リリー、回復魔法だ」
「えっ、」
「僕には、この『少女』が敵には見えない」
「惚れたか?」
「誰が。······ああ、食べ物もあげよう。確か船に······」

その後、落ち着いた少女は彼らから様々なことを聞いた。
彼らは『勇者』のパーティーであること。
魔物の元凶である『魔王』を倒す為に旅をしていること。
この島には1日休むために立ち寄ったこと。

······だが、少女は物凄く久々に食べるパンや肉に夢中で、大体のことは聞き流していた。
魔法、勇者、魔王のことも、聞けなかった──否、聞かなかった。理解できる話ではなさそうだったからだ。

1日が明けて、彼らは旅立つ。
その時、少女はある贈り物をした。

「この花は一体?」
「······ゴールデンロッド、です。励ましと、感謝を込めて。」

勇者たちは微笑み、去ってゆく。また来ることを誓って。

9:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/18(月) 21:50

>>1
批評も受け付けています❗
(まだまだ続きますよ)

10:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/19(火) 12:49

>>8
次に勇者たちが島に来たのは、あれからおおよそ9ヶ月後だった。
時間感覚が長すぎる生のせいで破綻している少女にとっては、「もう来たんだ」という感想しか無かった。
だが、さすがの少女も彼らの顔つきの変化を感じ、認識を改めることにした。
勇者エイン以外、顔に傷が増えている。

少女が僧侶たるリリーに質問してみたところ、「あの人の戦闘センスは、天才です。」という。
だかその後盗賊のブロウに質問したら、「リリーのおかげさ。惚れてやんの」という答えが返ってきた。
それでいいのか、と思った少女だったが、勇者パーティーの士気は常に高いようだ。つまり、心配いらず見守れば良いだけだ。

勇者たちが去るとき、少女はまた花を贈った。
するとその返礼というべきか、魔法使いのネアが、
「実はねー、この近くにダンジョンが見つかったのー。だから、多分次からはもっと来れると思う!」と少女に話した。
「······だんじょん、?」
「あれ、知らないー?···うーん、じゃあ、今度いろいろ教えてあげるー」

お前勝手に、という視線がネアに集中するが、少女にとっては願ったり叶ったりだった。少し、この世界に興味を持ち始めていたのだ。
少女の瞳が輝きだすと、誰も何も言えなかった。
無論、ネアは片目を閉じた。

「じゃあ、またねー」
「······はい。また」

少女は勇者たちが去った後、鼻歌を歌い始めた。

11:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/19(火) 21:58

その後、2ヶ月。
時間感覚が正常になりかけてきたおかげで、少女がやや待ちくたびれてきた時だった。
勇者のパーティーが到着した。

「あー、いたいた。元気してたー?」真っ先にネアが声をかけてくる。
「元気以外になりようもないですが元気です」
「······??なら良いけど」

今回は、ネアが世界について色々教えてくれるということなので、少女は何処から持ってきたのかノートを用意している。

「ネア先生ー」
「いやー、てれるぜー」
「こいつに任せて良いのか」ブロウが割って入ってくる。
「魔法は私の専門だよー。それに歴史はアルストがいるしー」ネアは今まで一言も発していない盾使いに視線を向ける。
「······呼んだか?」
「じゃ、そういうことで。まず、魔法についてだけど······」

解説はとても分かりやすくなっていた。少女が要約したところによると、記録上の魔法の始まりは、数万年前の遺跡の陰から見つかった最高純度の『魔素』によって魔法の力が散りばめられた、ということだそうだ。またその時、負の感情によって作られた魔素が魔王を、そして魔物を生み出した。
魔法についてはあまりに複雑だったため、また少女がそのちしきを全く持たなかったため、ネアは三回に分けて解説することにした。···つまり、アルストの一人損である。

「ごめんねー、ー······あ、えっと、名前···」ネアが謝ろうとしたところ、今更だが名前を聞いていないことに気がついた。
「名前···ですか。『人類最後の悪ふざけ』ですよ」
「長い。···私が決めていい?」
「えっ?······いえ、こんな私に」
「ねぇ、何で貴女は自分をそんなに下げるの?···私たち、もう友達なんだからさ。···それに、名前ないと、不便じゃん」ネアの瞳が、言葉が少女の心を射抜く。照れ隠しなど、必要ないくらいに。

12:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/20(水) 18:49

少女がうなずくと、ネアは「えへー」と聞こえてきそうな笑みで、
「スミレ。どう?いい名前でしょー」
と、これからの少女の名前を言った。

「良いんじゃないかな?」エインが微笑む。
「同じくです」リリーも肯定する。
「悪くないな。まあ決めるのは本人だが」ブロウはあくまで彼らしく言う。
「······なるほど」アルストも呟く。

「······それって」少女は、ともすると泣き出しそうになる心を抑えて言う。
「うん。この前さ、いろんな花の意味教えてくれたでしょー。だから、私は···」
そうしてネアは笑顔のまま、「貴女に、この名前を授けるよ」。

スミレの花言葉は、「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」。
少女は──スミレはこの時、花が好きで良かったと、心から思った。





[ちょっとあとがき]
今回短くなりましたね。仕方ない、次回急展開だもの。

13:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/20(水) 19:39

それからというもの、勇者たちは1ヶ月に一回は島、に来るようになった。
スミレは、少しずつ今の世界について理解していき、それと比例して勇者パーティーの面々は歴戦の戦士らしくなっていく。無論、勇者エインを除いて。
ある時のことだった。勇者たちが一週間滞在する、ということでやや古くなった木の家を掃除するスミレの元に、手紙が風にのって届いた。

[スミレへ]
元気?私だよ、ネアだよー。
うれしいお知らせが三つあるんだけど、どっちから聞きたいー?

「何でしょうか」思わず反応してしまうスミレ。

まず一つ目ー。なんとー!あの人がー!(焦らすよー)リリーがね、エインに告白、成功して、付き合い始めたのー!わーぱちぱち!!

「本当ですか」

二つ目ー。なんとー!あの人がー!(何かごめんねー)エインが、魔王を倒したのー!わーぱちぱち!だけど私、久々に死にかけたよー!

「ネアさん······会いたくなってきちゃいました···」

三つ目ー。なんとー!そっちの島に、転移魔法がつながったのー!「わーぱちぱち!」
「え?」

スミレが振り向くと、なんとそこにネアがいた。わずかに顔が赤い。
「えへー、大成功!」
スミレとしてはそれどころではない、みるみる顔を赤くして、「···いつから、居たんですか」となんとか絞り出す。
「んー、······何でしょうか、の辺りから」
「······うぅ、ネアさんのいじわるぅ」顔を赤くして、ぽろぽろと涙を流しながら、ネアに抱きつく。
「わっ······あ、えっと、ごめん、怒った?」不安になるネア。
その腕の中のスミレは、精一杯の笑みで言う。「···いいえ。怒ってませんよ。······無事で、よかったです」


その後、時は流れて。
勇者エインはリリーと結ばれ。その仲間のブロウ、ネア、アルスト、そして大切な友達、スミレも皆、幸せな暮らしを送りました────






とは、ならなかった。

14:水色瞳◆hJgorQc さっさと授業戻れや:2020/05/21(木) 08:09

>>13
読点間違えました→[島、に]

15:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/21(木) 15:31

>>13
物語で語られる、『勇者の冒険譚』から、四年。あらゆる者が憧れる勇者とその仲間は、今。

「相変わらず素晴らしいな、この島は」
「スミレさんと出会ったのも、ここでしたよね」
「あの頃の俺らが団結できたのも、あいつのおかげだな······」
「なにブロウー。惚れた?」
「···(それはネアじゃないか)?」
「アルスト何か言ったー?」

ここは、とある海に浮かぶ島。そこには、常に色とりどりの花が咲いている。
その景色を見て、僧侶リリーの服を掴んでいる、まだ幼い子供が息を呑む。

「···ママ、ここ、凄く綺麗」
「でしょ?連れてきた甲斐があったよ」
「そういえば······アヤメはここに連れてきたのは初めてだったな」
「誰か住んでるの?」
「うん。本にも載ってないけどねー、私たちの、大切な友達が居るの」

その時だった。
アヤメを除く──つまり、勇者たち──その腕に、鳥肌が立った。

「──あなた、これ」
「······信じたくは無いな。うぅん、──全員、周囲を警戒しろ。アヤメ、この中に入りなさい」
「おいおい、何が起こったんだ、一体?」
「······え。おかしい、この気配。──そんなはず」
「──スキル発動、『守護神』。まさか、だが」

勇者エインの顔が、瞬時に鋭くなる。
それを見たアヤメは、訳は分からなかったが、咄嗟にそこにあった木の蓋を開け、その中に入り、



────直後。

「──フ。まさかそっちから来るとはな。さて。雪辱を果たさせてもらう」

「「「「魔王、カースモルグ···!」」」」
「何で?居るの!?」

死闘が始まる。

16:水色瞳◆hJgorQc マッハクオリティ:2020/05/21(木) 22:00

勇者達に、無数の岩塊が襲いかかる。

「のっけから飛ばすなぁ!くそが!」ブロウが吐き捨てた言葉は、しかしリリーの展開した障壁により届かない。
「『セイントプロテクト』。うっ、やっぱり強い······ネアさん?」そのリリーの視線の先には、青ざめた顔の魔法使い、ネアが。
「······え?あ、うん···あれ、何でだろー···魔力が、練れない?」
ネアの頭の中は真っ白だった。魔法を使うエネルギーとなる魔力を練るには集中が必要なのだが···今のネアは、それができない状態だった。

そして、それを見逃す魔王ではなく──
闇の腕が、
障壁を全て闇に引きずり込み──
アルストが咄嗟に構えた盾を弾き──
エインが振り下ろす聖剣を間一髪で避け──
密集陣形の中から、ネアだけをもぎ取っていった。

「なっ────────」
「何かあったのかぁ?こう簡単に拐われるとは」魔王が、戻した闇の腕、そこに握られたネアを眺めて言う。
そして、ネアは──
「······スミレを」彼女のことを考えていた。
「誰のことだ?」
「ここにいた、私達の親友を!どこにやった!?」
「ああ、母か」
「はっ?」
「みじん切りにして、海に捨てたよ」


[ちょっとあとがき]
すいませんでした

17:水色瞳◆hJgorQc 前半スミレ視点、hoge注意:2020/05/22(金) 07:48

·····························。



。やっぱり、死.ねないんだ。あれだけされても。
体はしっかり痛いのに。心も粉々にされたと思ったのに。
···確か、あいつは、私のことを母と呼んだ。···何で?私、何かしたっけ。

────『数万年前の遺跡から見つかった最高純度の『魔素』──』

───え?

『またその時、負の感情によって作られた魔素が魔王を、そして魔物を生み出した。』
『しばらく少女は沈丁花の上で泣き続けた。
 歓喜、後悔、絶望、自嘲。それらを溶かし込んだ涙が────』

直後。
少女の脳裏に、理解の電流が走った。

「······はぁ」ごぽっ、と音がする。
······うん。多分、全部わかった···
────早く。戻らないと。 
みんなと、あの人が危ない。


スミレは、無意識のうちにネアを他から分けていた。それは······恐らく気づいていないだろうが、愛ゆえである。


────────────────────


「······ふざけてやがる」ブロウは嘆く。
「俺らはどんだけ、あいつに依存してきたんだよ······!?」

彼の周囲には、動かない、仲間たちが倒れている。アルストも、リリーも。そして、下半身を潰された、ネアも。──エインは?──消えた。謎の波動に呑み込まれて。最後まで、無傷だった。
そして、ブロウは?
────立ち尽くしていたところを背中から、無数の刃に刺されて、終わりである。

「こんなものか」後には、魔王のつまらなさそうな声が残るのみ────

「────え」いや。
今、少女が、そこに戻ってきた。

18:水色瞳◆hJgorQc 小説書けや:2020/05/25(月) 08:26

広がる景色を前にして、スミレは立ち尽くすことしかできなかった。悲鳴すらも、気づかぬうちに喉の中に飲み込まれていた。

「──────っ、ぁ、」必死に口を動かしても、それは声ではなく音になる。

と、言うより。同じ状況を目の前にしたとき、誰が冷静でいられるだろうか?
───それでも、何かに操られるようにして、スミレは歩き出す。

確かに殺したと思っていた魔王はひたすら首を傾げて、「······なぜ生きてる」と呟き、また攻撃を加えようとしたが、その時、スミレの周りに闇の魔力が生み出す特有の空間の歪みを感じた。
「これは何もせずとも堕ちるな。長かったものだ」

そんな魔王を完全に無視して、スミレはついにたどり着く。本当に大切な人、ネアの元に。

「ネア、さん?」その目は開かない。
その、大分軽い体を抱く。反応はない。永遠に。
「───ぇ。ネア、···そんな、そんな······お願い、目を開けてよ」
何もないことを理解しているのか、それとも逆か。少女の叫びは止まらない。
「ねぇ、ねぇ、ネア······愛してるから···お願いだよ······!」

───ここで、またスミレの脳裏にとある景色が蘇る。
『魔力を練るには集中が大切なんだけど、感情も影響するんだよー。強い感情ほど、たくさん練れる。だけど、暗い感情で練ると······』
(そうだ。このどうしようもない感情で魔力を練れば、魔法が使える······ふ。ふふ。)
ぐるり、ぐちゃぐちゃと。どす黒い魔力が集まり────その時。


「やめなさい。それは、違うものだ」そんな聞き覚えのある声と共に、パキン、とスミレの魔力が消え失せる。

「───厄介な。あと少しだったというのに───やはり殺しきれんか」
怨嗟の声を上げた魔王と、解放されたスミレは同時に言う。
「「勇者、────エイン」」

19:水色瞳◆hJgorQc [溶ける愛]hoge:2020/05/26(火) 22:09

「「勇者───エイン」」
その瞬間、······時が停止した。


「な、なんで、貴方だけ」スミレは礼より先にそれを聞く。「まさか───」
「いや······ちょっと、筋違いだが愚痴を言わせてくれないか?間接的に、君のせいで仲間が死んだんだが」
「え?」
「······まあいい。で、だ。······そうか。そこまでだったのか······」
「え?あの、勝手に自己完結しないでください」
「じゃあ、単刀直入に聞く。ネアのことを、どう思っている?」エインの目は、ただただ優しく。

スミレは、思案に沈む。
(あぁ───そうか。忘れていたよ。ずっと感じていた、この気持ちは、······)さっきまで、正気を失っていたのは。
(ネアを、愛していたから)
そうだ。───無意識でも、愛してるからなどと口走るくらい。

「私は······ネアのことを、愛しています。大好きです。同性?そんなのは、どうでも良いんです!」
想いがあふれた。
そして、また。
「あ、ああ、うっ、ひっく······あああ、ああああぁああぁ!あぁああぁああぁあああっ!」抑えられない激情が、爆発した。

対するエインは、ゆっくりと微笑む。そして、
「よく言った。さて。その想いがあれば······君は幸せになれる。······これに、見覚えは?」

スミレは、涙を流しながらそれを見て、
「───それ。沈丁花······」
忘れもしない。もう何年前か忘れたが、その木の下で、おもいっきり泣いたのだ。その時の感情により、魔王と勇者が誕生したと言っても過言ではないのだが、
「なぜ、ここに?」
「あの闇の空間の中に沈丁花があるとはね。でも···これで、何とかなりそうだ」エインは事実を淡々と呟く。
「······そうか。魔王はこれがあったから、生き返って······あっ」
「やっと気付いたか。······さあ。始めるぞ。僕がしばらく魔王を引き付ける。···時が止まっていると魔法は使えないからな」


そして時は動き出す。エインの顔には死相が浮かんでいるが。勇者は決して諦めない。
スミレの目には決意が。愛は、最後に必ず勝つのだ。

「···勇者。身代わりになろうとする心は素晴らしいが。勝てるとでも?」
───「まあ僕一人では無理だろうな。今の力では」
「······?」
「なあ、知ってるかい。僕が、傷を受けない───いや、攻撃をひたすらかいひする理由を」
「何が言いたい?」
「お前ならわかるはずだ。···いや、力が宿ってすぐに解放した身にはわからないか。······僕が攻撃を受けたら───」
そして、勇者はおもむろに聖剣を持ち上げ。

────自分の左の肩口を、斬った。

「これまで、周囲に害があるから封じてきた、力が、解放されるんだ!
······さあ、こい。時間稼ぎ、身代わりどころか。────お前を倒してしまうかも知れないぞ?」


[ちょっとあとがき]
初の1000字突破。
シーズン1、残り2話

20:水色瞳◆hJgorQc [僕のオレンジの木]:2020/05/28(木) 07:34

次回の更新はストーリーから一時的に外れます。

21:水色瞳◆hJgorQc:2020/05/29(金) 08:52

その人族の少女は孤児だった。大切な人も居なければ、生きる希望もなかった。
非常に重度の辱めを毎日受けながら、どうして十二歳まで生きられたのかは、誰にもわからない。そもそも、もう分かることが出来ないと言った方が正しいか。
いや、話を戻そう。
彼女が十二歳の時、王国のみならず、世界を大飢饉が襲った。それは魔王の仕業だったが────一番最初に影響を受けたのは、少女が居る街だった。
食料の得やすい港町ということが悪く働き、立て続けに盗賊(にならざるを得なかった者)達が街に侵入した。
そこからはもう、あっという間に誰も、何も残らず、空虚な建物たちとゴミ箱の中に居た少女だけが残った。

この時点でも凄まじい記録だが、ここからは、更に想像を絶する苦難を少女は味わうことになる。




「うん、まああながち間違ってはないかなー。」
やあ誰かさん。私はネア。家名は覚えなくていいよー。死者はむやみに語らないから。
で。今のは、他の人から見た生い立ちでいいんだよね?······あぁ、そうかー······本出されてるんだー······やだよー私。誰もこんな生い立ち聞いても喜ばないよね?それこそシャーデンフロイデの人でもない限り。
でさ。この空間まで来て、何の用かなー?
え?
生き返ってほしい?
······スミレが、望むんだったら、いいけど。でも貴方スミレじゃないよね。屁理屈?
良いもん別に。もう、私の愛した人は居ない。

あの子は天国に行ってるんだろうな。
私は行けないなー。ちょっと、······昔に、やり過ぎちゃったからね。
幸せに、なってね?
私が愛したんだからー。
まあ、同性の私が言っても意味ないけどね。











え?


だれ?


本当に?


そうかー。
ちょっと私、頑張ってくるね。





[ちょっとあとがき]
シーズン1、残り2話。

22:水色瞳◆hJgorQc:2020/06/01(月) 21:49

スミレは、不思議なことに───本当に不思議なことに、ひどく落ち着いていた。
魔法のことなどほとんどわからない。しかし、何か言葉で言い表せない力が、自分の体を駆け回っている。
沈丁花の若木を植えて、ネアの体をそっと、その前に横たわらせる。

「······愛する人。私は、信じるよ」


────そのとき。

ピピッ。という電子音と共に、脳内に声が響く。
『全ての感情を確認しました。
世界観をダウンロードします』


訳がわからなかった。

(世界観を、ダウンロード?え?何で?私───)
頭が混乱する。しかし、その直後。脳内に、とある景色が流れ込んできた。



『遺伝子改造できたかー?』
『完璧。あ、少し追加いいか?』
『なんじゃい、もう俺ら全滅まで時間無いんだから簡潔に頼む』
『流石にこの子を不死身だけで送り出すのは良心が痛む。······もしかしたら、この先永い永い時が経って、次の人類が文明を建てるかも知れない。そうなった時の為に、一工夫加えようぜ』
『乗った。で?どんな風にだ?』
『ひとまずなんか、世界観ダウンロード付けよう。ゲーム世界の応用だ』
『魔法世界でも出来るのかよ······まぁ、良いが。さ、さっさとやるぞ。』


ああ、そうだ。
『人類の最後の悪ふざけ』────
科学に埋め尽くされていた時代に生まれた、人類の産物に、
────科学技術が関わっていない訳がないのである。


スミレの体を、オレンジ色の0と1が覆っていく。まるで、ドレスのように。

「······そういうこと、か。少し、見直したかも」
呟き、頭脳を回転させる。
ここまで頭が回るようになったのも、
こうして感謝の気持ちが涌き出るようになったのも。
全ては─────


「スキル、蘇生『沈丁花』。······すごい、世界って、広い。」


世界には、本当に数多くの魔法が存在する。攻撃、回復、増強など。
スミレは、頭に入ってきた大量の魔法の情報に目を回しながら、世界の広さに思いを馳せた。
そして。
(ネア、一緒に色々なところに行こうね。お願いだよ。)

蘇生魔法『沈丁花』。リストには、そんなものはなかった。しかし、
(強い愛情。相手の後悔。絶対的な、意志。決意。今の私は、ネアのためなら何でもできる)


エインは、肩越しにその光景を見た。
「やっぱり、魔法を作っただけあるな」

「じゃ、そろそろ僕が限界だ。頼んだよ。······絶対善意領域、『サンクチュアリ』」

エインの体から光が溢れる。そしてそれは、今にも彼に止めを刺そうとしていた魔王を包み込み。

停止させた。

『(がッ······小癪、な)』



そして、その時は来た。



[ちょっとあとがき]
次回百合注意。
シーズン1、あと一話(ニスレ分)

23:水色瞳◆hJgorQc hoge:2020/06/03(水) 21:21

百合注意



(ネア視点)
なんとなく、そんな気はしていた。
でも、まさか。伝説の魔法使いでも構築できなかった蘇生魔法を私に使って、しかも成功させるとは。

「うーん、これは頭が上がらないよ······わひゃっ!?」

私が目を開けてすぐ、女の子が抱きついてきた。感触でわかる。スミレしかいない。

「ネアぁぁ······よかった、よかったょぉ···」

······丁寧口調はどこへやら。······でも。こっちの方が、可愛い。うん、すっごく。

「ぎゅーっ」よーし、さらに強く抱き返してやろうー。
「あっ、ネア、ふぇっ」······反応すごい可愛い。

うん、本題戻らないとね。


「スミレ、ありがとう。愛してる」感謝と、私の精一杯の愛を返すよ。これでも多分、足りないけど。
「ネア······こちらこそありがとう。愛してるよ」
「いやー、私何もしてないけど」「違うの!この世に生まれてきてくれて、······私なんかを好きになってくれて、ありがとうって。···ううー、恥ずかしい······」
私もだよ。
でも、何だろう、この気持ち。これが、幸せって言うのかな。
······あれ、なんか、意識が。

「スミレ、ちょっと眠るね。また、後でね」
「うんっ。······大丈夫?」
「私が彼女置いて逝くと思う?」
「······いじわる」

大丈夫だよ。絶対、幸せになろう。スミレ、頑張れ······魔王に、勝って、


────────────────────
(視点戻り)
ネアが静かに寝息をたて始めたのを見て、スミレは息を吐く。
「······おやすみ。」
そのまま数秒寝顔を堪能していたが、

「······まだ、終わってない、よね」

振り向いた先には、ちょうど今光の結界を解除した魔王の姿が。

「よくも······やってくれたな」
その体から、瘴気が溢れ、

世界を覆っていく。

相対するは、0と1の衣に身を包んだ、少女。
その顔は、真剣である。



────さあ。
終わりの時は、すぐそこだ。



[ちょっとあとがき]
次回シーズン1最終回。
(エピローグあるかも)

24:水色瞳◆hJgorQc いくよ。hohe:2020/06/04(木) 21:48

世界が終わろうとしている。史上最悪の″人災″────魔王によって。
もはや、唯一の希望は魔王に相対する少女のみ。
だが、その事は一人を除いて誰も知らない。人類は何も知らないまま、滅びるのか?


────さあ。
少女の体が縦に割られ、死なない。一瞬で復元される。
頭を裂かれた。だが、死なない。
そこでようやく少女が一歩を踏み出し、
今度は三枚におろされるが、死なない。

いい加減魔王も気付く。
「······な、それは、何だ······」
少女の顔は苦痛で染まっている。だが、屈する気配などなく、
「私は、死なないよ。心も。ネアがいる限り」
「ならあの小娘を────」「させない」

静かに眠るネアの周りを光の障壁が囲む。そしてその一部が、ネアの中に入っていく。

「······ちっ」魔王は舌打ちをすると、
「なら。ここでお前を根本的に破壊してやる───母よ?」



────────────────────
(スミレ)
体が粉々になる感触。溶かされて、戻って、そしてまた悪循環。
前後左右がわからなくなり、五感が消えて、痛覚もなくなったと思えばまた戻ってきて心を苛む。
けど、まだ。まだ、それだけ?
私は、まだ死なないよ!心も、体も!というか出来ない、ネアを置いて行くって。

······でも、どうしてあの魔王を倒そう?私には魔法の知識は無限にあるけど、慣れてはいない。
どうする?さすがに愛の力だけじゃ勝てる自信、ないよ?······いや、本当に何でも出来そうなんだけど。
······
············

待って。
今の私は、善?
魔王は、純粋な悪?
もし、あの沈丁花が魔王の抵抗力を支えていたとしたら?あの沈丁花───今は浄化されてるけど、ひょっとしたら、私に対抗するためのもの?

だったら、そうか。
私は、何もしない。
待つよ、その時まで。




────────────────────

変化は突然だった。突如、魔王が停止し───光に蝕まれていく。

『ガッ───グッ、ぐぁっーーーー、な、何が』

「ふふ。やっと。やっとだ。」少女の体は血液で真っ赤に染まっていた。しかし、絶対的な五体満足でそこに立っている。

『何を、何をしたァァァ!?』
「簡単だよ。私の善に、お前の悪が敗れたの。······長かったよ」
『······何故だ。なぜ、お前が善の心を持っている!?』
「皆から、もらったの」そうして、少女は何やらモニターらしきものを創作して、
「『ディフュージョン』。もう、あの頃の私は、私じゃない」
『何故、』「お前がやっていることは!あの頃の私と同じ───自己陶酔だよ!」
電子音が鳴る。多くの魔法が、少女の手持ちから解除されていく。

魔王はそれを、恐怖しながら見ることしか出来ない。何せ、少女の後ろには、巨大な光球が形成されていくからだ。

「だから。もう。さよなら、魔王───過去の私。『ディフュージョン・オーバードライブ』」






島が。
世界が。
真っ白に覆い尽くされる。
それらは、瘴気を一掃していき、
水を浄化し、
魔物を殲滅し、
民に救済を与え、
大地を潤していき──────
そして、花が咲く。


少女は。


精根使い果たしたスミレは、最後の力を振り絞ってネアの体を家へと運ぶ。柔らかい草でできたベッドの上へ、優しく、優しく横たわらせ、

「······しばらく、おやすみなさい。大切な人」

そして、今度こそ。ぼてりと、床に倒れ、
その目は閉じられる。
長い眠りに落ちてゆく。



そして、世界は平和になった。

25:水色瞳◆hJgorQc エピローグ:2020/06/06(土) 16:20

平和になってから、五十年後の世界。
その、花であふれる島で。

「······不死身って、凄いね」
「ネア······ごめん、嫌だった?」
「いやー、全然。というか、前に言わなかったっけ、彼女置いて死にたくないって」

不死身の二人は、和気あいあいと話をしている。
片や勇者パーティーの魔法使い、片や世界を救った真の英雄。
だが、そこには争いの陰など微塵もない。あるのはただ、幸福だけである。

そして、
「お二人さん、お茶入りましたよ」

「あ、アヤメちゃん。······相変わらず年とらないね」
「そりゃ、聖女と勇者の娘ですからね?あと、一応あそこで私も余波を受けたんですよ」
そこでアヤメは一息つき、
「不死身とまではいかないにしても、あと数千年は生きられますね」
「······本当に大丈夫なの?」
「何言ってるんですか姐さん。この幸せな世界にずっと居られるだけで、これ以上の幸せはないですよ。さ、おやつにしますよ。先に入ってますね」
そう言ってアヤメはずっと変わらない木の家に入っていく。


「ネア、私達は」
「そうだねー······五十年、か。お墓参り、する?」
「しないとね。······私が今生きている···ネアと生きているのも、あの人達のおかげだから」



勇者パーティー。ネア以外、その生き残りは居ない。その体は、この島に眠っている。

「改めて······ありがとう」
「あっちでは、こんな事にならないように、幸せになるんだよー」

二人は短い間手を合わせる。
そしてその後、手を繋ぐ。
「じゃあネア、行こう」
「うん。······私達も、どんどん幸せにならないと、ねー」
「ふふっ。うんうん!」





貴女に沈丁花を
シーズン1、
おしまい。

26:水色瞳◆hJgorQc あとがき:2020/06/06(土) 16:29

シーズン1のあとがきです。



はい、水色瞳です。
シーズン1終わりました。シーズン3まである予定ですがね。
書くこと無いな······えっと。
静かにこの小説を見てくれている方々、本当にありがとうございます。あなた方のおかげで水色瞳は生きています。これからもできることならよろしくお願いしますね。

さて、そうですね、シーズン2は>>150から始めようと思います。そこまでどうか、幸せになった彼女たちの日常に付き合ってやってください。

27:水色瞳◆hJgorQc スミネア:2020/06/07(日) 00:26

「ねぇー、スミレって料理できるのー?」
「えっ?うん、まあできる······よ。まあ数億年くらい作ってないけど」
「それってどうなのー?」
「今から作ってあげるよー」
「大丈夫かなー······」
数分後。
「できたよ。ピザトースト」
「······おー、パンに、色とりどりの具材が······」
「ネアのために、真心込めました。······うん、パンは自家製じゃないけど」
「いやいや······充分すぎるよ。······うん、おいしい!」
「よかった。······え?な、なに?」
「これこれー。エインとリリーがよくやってたやつー。やってみたかったの。はい、あーん」
「えっ、あ、うん······」
スミレの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「ほらほらスミレ、自分の分も作らないと駄目だよー。私のをあげるー」
「(······あぁ、ネアに手料理作ってあげるのに必死で自分の分作ってなかった······本当だ、おいしい)······ありがと。」



「······ネアの手料理もいつか食べてみたいな」
「うーん······下手だよ?」
「愛があれば大丈夫だよ。どんなものでもいいからさ。······今度は私があーんしてあげるね」

28:水色瞳◆hJgorQc:2020/06/11(木) 00:23

[時間軸、シーズン1終了後数年]
毎度のことながら百合注意
お出かけ回は何話か続きます。





今日も三人はゆるゆるまったりと過ごしている。
ある時、スミレが目を輝かせてネアに聞いた。

「ねぇネア、大陸ってどうなってるの?」
「······大陸、うーん、スミレ知ってるんじゃないー?」

その後スミレは数分かけて大陸は地味に動いているということを説明することになった。
無論今の時代のネアは知らないので、当然ながら仰天する。

「えー、そうなんだ······なんか、すごいねー。大地も生きているんだ。···あ、大陸の話?えーっと、」
ここでネアは唐突に気付く。これは、デートなのでは?と。

「······あー、スミレは本当かわいいなー」ぎゅーっと彼女の体を抱き締める。
「ふふ、気付いた?······楽しみにしてる」

29:水色瞳◆hJgorQc:2020/06/12(金) 18:08

お知らせです。
シーズン2開始を>>26であった150から>>70からにします。

30:マフユ◆7U:2020/06/14(日) 09:13

すごい!文章と話がすごい面白いね!これからも頑張ってね!


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