季節は移り変わっている
気持は移り変わっている
儚い瞬間の中で少しずつ
新しい感情が創られている
___たくさんのおはなしの中へどうぞ
🥂
>>2
▼ 色々短編書いていきます
▼ 感想、アドバイス等はご自由にどうぞ
▼ 荒らし、なりすまし他はご遠慮ください
▼ 書き溜めているものなのでジャンル偏り気味です
▼ 基本登場人物の紹介は作中では書きません
よろしくお願いします、
>>2
文章おかしいところあったので訂正……
▼ 色々短編書いていきます
▼ 感想、アドバイス等はご自由にどうぞ
▼ 荒らし、なりすまし他はご遠慮ください
▼ 書き溜めているものなのでジャンル偏り気味です
▼ 基本登場人物の紹介は作中で書きます
【 泡の弾ける音 】
「 ねぇねぇ環葵……、これどうやって解くの……? 」
「 えぇ?またわかんないの?全くもう……。 」
全開になった窓から、風が吹き込んでくる。
がらんとした教室に、あたしと一人の男子が向かい合って座っている。
からっぽになった机と椅子が、あたしたちを冷たく見ているような気がする。
あたしの目の前で“わからない”だの“こんなの解けるわけない”だの喚いているのは、まぁ世間でいう腐れ縁と
いう関係にある、相庭春という奴だ。
名前からすると完璧に女子だが、男子だ。
とってもまったり、マイペースすぎる男子だ。
もちろん勉強はダメダメである。あたしがいなかったら多分、テストや模試は最悪の点数だったと思う。
だってあたしが教えてもあの点数なんだから………。
「 これはね、さっき教えたやつを使うの。こうやって……。 」
「 あぁ、なるほどなるほど……!そういうことか! 」
「 ………ほんとにわかってんの?一応受験生なんだからね?真面目に勉強しないと……。 」
あたしがびしっと言うと、春はたちまち小さくなる。
「 環葵、怖い……よ?僕だって自分が頭悪いことくらいわかってるんだから……。 」
あたしは小さくなった春を慰める。もちろん勉強させるためだ。
「 はいはい。今日もあと3ページ頑張ったらご褒美だから、ね?」
あたしが『ご褒美』という言葉を発すると、春の顔がきらきらし始める。
「 ほんと⁉あと3ページで!ありがとう! 」
あたしのいう『ご褒美』の正体。
それは、炭酸だ。
春は炭酸が大好きだ。炭酸水から味付きの炭酸まで、ありとあらゆる炭酸が大好きなのだ。
春は思えないようなスピードで3ページを終わらせた。
まぁあたしにすれば遅い方だが、春にすれば速すぎる方。
教室を出て昇降口まで歩く。
「 今日は何の炭酸にするの? 」
あたしが春に訊くと、春の目が輝いた。
「 うーん………。どうしよっかなぁ。暑いからレモンソーダも良いし、あ、炭酸水も美味しいよね! 」
なんで同意を求めるのだろう。
炭酸水なんて殆ど無味無臭。しゅわしゅわするだけではないか。
「 あぁ……うん、そうだね……。まぁあたしは炭酸水あんまり好きじゃないけど……。」
仕方ないので正直に答える。春は、そっかぁ、と伸びをしながら呟いた。
外は熱気でいっぱいだった。もう9月の終わりだというのに、暑くて仕方ない。
あたしたちは自転車に跨り、漕ぎ出す。暑いけれど、風は気持ち良かった。
「 ねぇ春、今日は海に行かない?天気も良いし。 」
あたしは、すぐ隣で自転車を漕いでいる春に問いかける。
あたしたちの通っている燕山( つばめやま )中学校は、海に近い。
もっとも、あたしたちの住んでいる町が海辺の町なのだ。
だから、学校から坂を下れば海に出る。
「 うん、良いよ。 」
春が同意する。
海辺にはコンビニがある。だからそこで『ご褒美』の炭酸を買うのだ。
自転車を漕ぐこと数分。海に付いた。
海には漣が打ち付けている。見るだけで涼しくなってくる。
コンビニに自転車を止め、店内に入る。思った通り冷房が効いていて、ものすごく涼しい。
店内の飲料売り場に行き、春が決めるのを待つ。
あたしもたまには飲もうかな、と気まぐれに呟いてみた。
春はすぐに反応する。
「 飲みなよ!美味しいよ、炭酸。 」
無邪気な顔であたしに笑いかける春は、どう見ても中学3年生とは思えない。
「 で、どうするの、今日は。あたしはぶどうにするけど。 」
そう言いながらあたしはぶどうソーダの入ったペットボトルを取り出す。
「 え、もう決めたの?んーと………じゃあ今日はレモンソーダにしよっと。 」
台詞からすると完全に女子だな、春は。あたしよりも女子っぽいのかもしれない。
あたしは会計に向かい、春は先に外へ出た。
お釣りと炭酸の入った袋を貰って、あたしは外に出る。
むわっとした熱気が身体にまとわりつく。
「 ありがとう、環葵! 」
あたしが春にペッドボトルを差し出すと、春は飛び上がった。
あたしと春は海まで降りた。気持ち良い海風にあたりながら、波消しブロックの残骸に腰掛ける。
波消しブロックは無数あり、どれも砕け散った破片が近くに散らばっていた。
ぱしゅっと炭酸の入ったペットボトルを開ける。
一口飲むと、たちまち炭酸のしゅわしゅわした泡が口に広がった。
「 ……ぷふぁ!あぁ〜、やっぱ炭酸さいっこー! 」
春が口元を拭いながら嬉しそうに声をあげた。
やめてよ、そのおっさんがビール飲んだあとみたいな感想。
言おうと思ったけど、春の嬉しそうな横顔を見ていると、なんだか悪い気がしてしまって、声が出なかった。
春は、炭酸が本当に好きなんだ。ビールが本当に好きなうちのお父さんと一緒で。
だからそういう風には言っちゃいけない。
春は大好きなんだ。そんな炭酸と春の気持ちを、あたしが抑えちゃダメだ。
「 久しぶりにあたしも飲んだけど、頭の中の嫌なこと全部飛んで行っちゃいそう。 」
あたしも声を上げる。炭酸のしゅわっとした爽快な味で、嫌なことは何処かへ行ってしまいそう。
「 でしょ!だから言ったんだよ。美味しいからって。 」
春はそう言いながらも炭酸を口に含む。これは意外と、あたしも炭酸に病みつきになりそう。
春とは家が隣同士だ。そのため昔から一緒に過ごしてきた。
幼稚園も小学校も一緒だった。小学校ではいつもあたしが勉強を教えていた。
中学校もそうだ。
でも高校生になると、どうなるかわからない。
勉強は教えられるけれど、あたしと春が同じ学校に行けるとは思わない。
春がすごく頑張って勉強すればそれも一理あるかもしれない。
でも………。
春がそれをするとは思えなかった。
あたしはずっと前から高校を決めていた。
私立蒼葉学園だ。お父さん一家は代々通っている名門校。
それなりに偏差値は高いし、ハイレベルな学校だ。
春がもしあたしと同じ学校に行きたいと言っても、はっきり言って無理なのだ。
何もかも適当にやってきた春は、受かるとは思わない。勉強すると思わない。
だから春と過ごすのは今年が最後だ。それもあと、5ヶ月。
春にはちゃんとした高校に行って欲しい。だからあたしが勉強をしっかり教えないといけないのだ。
あたしはそんな思いを巡らせながら、参考書の山を見つめた。
好きです…‼