【ルーシィside】
その後精密検査など受けたが、特に異常は見られなかった。
だが、やはり記憶は戻らないまま時間は経った。
そして、体調もみるみると回復をして退院が目前に迫っていた。
「いつも花ありがとう、ウェンディさん」
「いえいえ、渡井が今できることといったら全然ありませんので」
ウェンディさんは毎日来てくれては、花の水を変えたりしてくれる。
時には、ルーシィとの冒険の数々についての話もしてくれる。
それは、夢のような話でもあり、でも私が実際に体験している不思議な話だった。
「よ、ルーシィ。そろそろ退院だな。おめでとう」
「ありがとう、グレイさん。グレイさんがこの時間帯に来るのは珍しいね」
いつもは、グレイさんは夕方に来る時が多い。
だから、昼に来るウェンディさんとは被らないか、すれ違うことが多かった。
「まぁいろいろあったんだよ。それよりいい知らせだ。ほらこれ、何かわかるか?」
「グレイさんそれって…?!」
グレイさんがポケットの中から出したのは小さなケース。
でも、まぁまぁ厚そうだ。
「…キーケース?」
いや、ただのキーケースじゃないはず。
ん?そういえば鍵ってなんだっけ…?
あ…!!
「精霊…?」
「正解」
グレイさんはにやにやしながらベッドに近づき鍵を差し出す。
どれを両手を伸べて受け取った。
そっと胸に抱きしめる。何もわからないのに、とても懐かしい。
「ルーシィさん、よかったですね。それが返ってきたってことはつまり…」
ウェンディさんが涙ぐんで言う。
あれ?これもしかして私言い忘れた、か?
「確かに、明後日退院だものね」
「え…え?」
二人は固まる。
これやっぱ言ってなかったやつか。
この話はエルザさんから聞いたからとっくに二人は知ってるものだと…。
「そう、明後日退院なんだ。二人とも今日まで来てくれてありがとう」
その顔は、あの時の顔ではなく喜びや安堵で満ち溢れていた。
そういえば、ナツさんを全然見なかったな…。
【グレイside】
なんだよ、もう知ってたのか。
そりゃあ、いつまでも鍵持っとくわけにもいかないから返すよな。
病院の玄関を出ようとしたときだった。
ルーシィの病室の下の外側に見上げるような形でナツが立っていた。
全然病院では見かけなかったけど…ここにいたのか。
「おいナツ」
「…グレイ。なんだよ」
「行ってやれよルーシィの見舞い」
あたりは薄暗くてもわかった。
ナツは拳を思いきり握り、下を向いていた。
確か、こいつが最初に見つけたんだっけ。
だから、その分会いに生きにくいってことか?
「俺には会いに行く資格なんてねーんだよ…」
「は?それってどーゆー…」
「俺のせいで、ルーシィがあんな目に…」
くるりと踵を返して闇へと消えた。
どういう意味だよ…お前のせいでルーシィがあんな目になったって…。