【正味】自己満足【トリップする話】

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1:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 00:01 ID:PaI


 どうもおはこんばんにちはぜんざいです。前も言ったようにもうスレは立てねぇ! と宣言していたのですが、【正味】の方がごっちゃになってきてしまったので新しく作りました。
 あちらはいろいろ、こちらはトリップのみと分けさせていただくことにしました。勝手ですみません。
 ジャンル無節操、とりあえず自己満足しか無いので「あ、嫌だこれ」と言う方はブラウザバック! ぜんざいが小説を書くスレなので他様の小説カキコはお止めください。人が来ていただけるかすら分かりませんが雑談駄目絶対。感想は泣いて喜びます。多分なつきます。
 注意点ですが、ぜんざいは他サイト様でも「フレデリ・トリガー!」と言う小説を書かせていただいており、そこのキャラクターが出てきたりします。次から書こうとしているやつに早速出張って来ます。基本うちの子達の過去は暗い物や重い物が多い。アホの子も居ますが。
 上記もですが、それ以外にもオリキャラ登場するかもしれません。
 チートや最強、ハーレムや逆ハー等はオリキャラでは出来るだけ出しません。だって『主人公無双! そんでもって無敵! オマケにモテモテ!』とか面白くないじゃないですか。
 イラストの画像投稿も多分しますね。イメージ壊したくないわ馬鹿野郎! と言う方は見ない方が良いかと思われます。

 以上の点が「無理!」「やだ!」「好みじゃないなぁ」と言う方はお勧めできません。もう一度言いますここぜんざいの完全なる自己満足を書き散らす所です。

 こんな自己満足すら大空のように包み込んでくださる寛大な方はどうぞよろしくお願いします。



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2:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 00:52 ID:PaI

フレトリ→銀魂。とりあえずトリップしてくるキャラクター二人の設定です。今執筆しているフレトリより4年後。内容が今後どうなるか分からないので現在決まっている設定のみ。用語説明とか。

天使
人間をゴミとしか思っていない天界に住まう存在。大昔から敵対している。機械的な人工生物から人型まで。人間は食料的な思考を持つ。天使に付けられた傷は天使の血で作った薬でしか治らない。テラ強い。八代目四大天使と八代目ゼウスの上にもう一人いる。
悪魔
天使と敵対中の人間の味方。地獄に住み、その中で七王と呼ばれる七つの属性を司る王が武器シリーズとして現在最強ランク。契約するにはその七王に精神世界で勝利する他ない。圧倒的に死ぬ確率が高い。テラ強い。現在七王は一人を除き八代目を迎えており、基本的には七王より『八代王』と呼ばれる。次期七王は七王自身である武器の契約者。

人間
トリガー使いやフレデリ使いもいるが一般人もいる。基本的に一般人はトリガー使いフレデリ使いに叶わないものの余裕で両ともぶっちぎる強さを持つただの人間(化け物と呼ぶに相応しい奴)もいる。但しただの人間。
トリガー
誰もが持つ生命エネルギーが突出特化して特殊に変化し炎や雷等の様々な属性に変わった人間の持つ特異能力。トリガー持ちは目が深紅の色。何かしら属性に特徴がある。炎なら攻撃特化型、水なら攻撃型と回復特化型。雷ならスピード特化、雪なら重火器など。完全に天使に対抗するよう作られている。財閥や極道、マフィアや政治家、一門など大きな家の出が多い。
フレデリ
前世を持って生まれてきた人間の総称。固有能力を持つ。性格が丸々写っていたり違ったり人様々。前世が妖怪シリーズは激レア。目が紫。特化はトリガーとは違い様々。前世でポピュラーなのは偉人人間武器。

隠岐 快刻(おき かいこく)
高校二年生。左目の下の泣きボクロと、自身の雰囲気がハイパーにエロティックな神戸出身関西弁少年。纏う空気の所為かお陰か、口を開かなければエロさを無意識にどんどんとかもし出しているワイルドクール系イケメンだが、口を開けば突き抜ける程ハイテンションでギャップがとんでもなく酷い。雰囲気エロイケメン。とってもアホの子である。勉強は不安だが多分普通に出来る方に部類されると思われるアホの子である。彼女いない歴=年齢。
フレデリ使いなので目は紫。髪はキューティクルさらさらな黒に限りなく近い紫色。若干たれ目。右目を包帯で覆っている。銀魂の高杉さんに似てる(目の包帯は反対で高杉さんは泣きボクロ無いけど)。前世は激レア妖怪シリーズの『酒天童子』。なので酒を飲むことを義務とし政府から飲酒許可が出ている未成年。彼にとって酒は百薬の長で体に全く害が無い。日本酒が好き。彼の徳利は飲んでも飲んでも酒がなくならない特殊なものでそこだけ酒天童子の名残。顔は赤くなるが一ヶ月休まず飲み続けなければ酔わない。喫煙が駄目。
右目の包帯は前世で『烏天狗』に良薬になるとか言って無理矢理抉られ今世にまで影響した。生まれつき見えない。その所為で忌み子と呼ばれ親からネグレクトされ周囲から敬遠されて厳しい幼少期を過ごした。主人公の凪たちによりその一種のトラウマを克服。元気一杯。
真裏 宗近(しんら むねちか)
高校二年生。いつも綺麗な笑みを携える清楚系イケメンなハイパー思春期少年。快刻の親友。年がら年中思春期で、本当にただの男子高校生と変わらない。彼女いない歴=年齢。屋上でサボるのが大好きな新生アホの子。運動神経と顔にばかりいいところを持っていかれたのか勉強は全く出来ないホントのアホの子。その癖授業に出ない不良。
フレデリ使いなので目は紫色。髪は色素の薄い金髪で微かに天パ気味で寝癖ハネまくり。つり目で左目に第一期アニメ版のマスタング大佐のような黒い眼帯をつけている。ピアス空けまくり。前世は激レアな大煙管と言う狸の妖怪シリーズの一種。なので喫煙を義務とし政府から喫煙許可が出ている未成年。彼に実害はなく、煙管の煙を吸って息を吐けば酸素が吐き出され地球にわりと貢献している。相当な下戸で酒が駄目。
左目の眼帯は前世で『烏天狗』に良薬になるとか言って無理矢理抉られ今世にまで影響した。生まれつき見えない。その為所で忌み子と呼ばれ親から捨てられ周囲にいじめられた過去を持つ。似た者同士な快刻とすぐ打ち解けた。主人公たちのお陰でトラウマ克服。盛りまくり。

3:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 01:19 ID:PaI


快刻side

 天使が都市内に出現したとかで討伐に宗近のコンビで狩り出されへっとへとになって帰ってきた寮の自室。親にネグレクトされた俺は学園に引き取られる形で中一の二学期頃転校してきて寮暮らし。雰囲気でよお勘違いされる俺は右目のことも相まって暗かったような明るかったような気もするがまあようやく溶け込めたなって感じで。

 ばふりと備え付けのベッドへとダイブ。今日なんやものっそい疲れたわぁ。

 自然と落ちてくる瞼から最後に見たのは、無造作にソファに投げ捨てられた自分の通学鞄。……宿題って、出とったやろか?

**

 気が付くとふわりとした浮遊感、そして次の瞬間には耐えがたい激痛が体を襲う。え、なんなん!? 目を開く暇さえなく、俺の体はどうやら地面に叩きつけられたようだ。痛い。
 ゆっくりと上体を起こしてそして喉をついて出たのは「へげっ!」と言うなんとも間抜けな俺の声。頭にゴンッと何かが飛んできたのだ。
 頭を擦りながら涙目で飛んできた方を見れば明らかに何かを投げた態勢の銀髪天パのおにーさんと何かを避けた態勢のチャイナの女の子、それをソファに腰掛けながら端から眺める眼鏡の男。
 ……待って待って状況理解できひん。
 これは奴さんも同じようで、「誰おまええええええ!?」と天パのおにーさんが叫びをあげた。うるっさ!



「ちょ、そこの天パのオニーサンうるっさ! うるっさ!」
「何コイツ!? 大きい高杉!? でも包帯逆じゃね!? こんなバリバリ現代風な服アイツ着ねーだろ! 和服だろ女物の! それにしてもなんか全体的にエロいよこいつ!」
「失礼やな!? ってか高杉さんどちらさんですのん!?」
「関西弁だし! ギャップはげし!」
「うるっさ!」



 天パのオニーサンがわざわざ座り込んでいる俺のところまで着て叫び出した。うるっさ!
 そんな言い合いは眼鏡の彼が止めに入るまで続けられた訳であるが。



「……おい似非高杉。お前名前は?」
「やから高杉さんどちらさんやっちゅーねん。俺は隠岐 快刻言います、誰か知らんけど高杉さんちゃいます……って似非ってなん!?」



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4:ぜんざい◆A.:2017/02/17(金) 23:33 ID:PaI


「……つまり隠岐くん、お前は別世界から来たってことか?」

 問い詰めてきた銀髪天パに経緯を話せば彼は復唱するようにそう呟いてから「はん」と鼻で笑った。……え。俺今笑われたん?

「おいおい、別世界からとかどんな厨二病設定だよ病院行くか? 頭大丈夫か? えー? 目に包帯なんて巻いちゃってぇ!」
「なんやねん、このクソ大人げない大人」

 思い返せば厨二病な話だとも思うが、ゲス顔で罵ってくる大人が居るとは。ほとほと呆れた様に

「……反面教師やな……。こんな大人にはなりたないわぁ……」
「え、銀さん今貶された? 銀さん馬鹿にされた?」
「銀ちゃんだし当然アルね」
「銀さんですしね」
「お前らどっちの味方ァ!?」

 銀さんと呼ばれる銀髪天パは坂田銀時と言う様だ。銀髪やから銀時とか安直やなー。とりあえずと言うようになぜか手に持っていた徳利に口をつけてごくりごくりと喉を潤す。散々叫んだせいでカラカラだ。
 他に居たチャイナ娘は宇宙人、まあこの世界で『天人』と言う存在でその中でも最強の部類に入る夜兎と言う戦闘種族らしい。名前は神楽。神楽ちゃんな。で、眼鏡の比較的常識人のような男が志村新八、自分の家が道場でそこの当主らしい。えらくすごい人出てきたな見た目ごっつ普通やのに。
 三人の口汚い罵り合いを喉をごくごく言わせて酒を流し込みながら眺めていれば、神楽ちゃんが俺に気がついた。

「なんか酒臭いと思ったら、銀ちゃん! 快刻がなんか飲んでるネ!」
「なんだとぉ!? 酒!? お酒なのかぁ!!!?」
「(え、なんやこの銀さんの飢えた反応……)」

 銀さんはこちらに詰め寄り俺の徳利を奪っていった。普通の男子高校生の唯一の楽しみを……!(※普通の男子高校生は飲酒出来ません快刻くん)呆然と銀さんを見上げながら、「返してくださいやー」と両手を伸ばす。

「だーめ。お酒は二十歳になってから! というわけでこのお酒は銀さんがいただきます」
「あかん! ただ、酒飲みたいだけやこの人!」
「ちょ、銀さん! 人のものを勝手に!」
「銀さん! 今日の酒は……!」

 新八くんの静止も空しく、銀さんはグイッと徳利に口をつけて酒を煽った。ちょ、その中身、中身は!

「……かっら!!! なにこれかっらぁあ!! 人間の飲める酒の辛さじゃねぇぞこれ!」
「あーあ、やから言うたのに」

 俺は座り込んだまま右手で額を押さえた。話を聞かない大人は本当に厄介だ。新八くんは「え、なになに」と疑問を声に出して俺に聞いてくる。

「……俺、前世がある言うたやんね」
「いや、もうその厨二設定良いから!」
「黙っとれやクソ眼鏡が!! エエから聞けボケ! このダボ!」
「クソ眼鏡!? っていうか口悪!」
「俺の前世は酒天童子、酒飲み妖怪やねん。やから俺の世界で俺は飲酒を政府から許されとったし、……俺の酒がぶっちゃけなんで辛いか言うと、まあアルコール69%以下は水としかおもえへんからやねん。やから有名な酒屋にアルコール度数70%から99.9%まで俺専用の酒を作ってもろて……まあそれが前世の俺から今の俺まで家に受け継がれとったその徳利に入れて飲めばさらにアルコール度数が上がっとる言うわけですねん。まあ徳利に入れれば酒は無限増殖して尽きることないです」
「……マジかよ。マジ話だったのかよ」
「せやからさっきから言うとるやろこの天パ!! 返せ俺の酒!」
「うおっ!」

 バッと銀さんから徳利を奪い返し縁に口をつけてぐいぐいぐいぐいと徳利を勢いよく傾けていく。その様子に他三人が引いているのにもちろん夢中で体内を酒で満たそうとするほどがばがば飲んでる俺は気付くわけもない。
 そして徳利から口を離して「っはぁー……!」と酒に濡れた唇を手の甲で拭う。体がなかなかに熱い。まあフラつくことは決して無いので気にも止めないが、俺の顔はきっと今赤らんで居るだろう。

「おいおい、あんな辛い酒そんなにがばがば飲んじゃ体にわりーだろ……」
「銀さん心配してくれとるんですか」
「流石にするよ!? めっちゃ辛かったもん!」
「そんな心配無用です。酒は百薬の長言いますやろ。その話、普通の人にとっては迷信ですけど、前世が酒天童子の俺にとっては事実なんで体に害は無いんですわ」
「なんだと!?」

 心底羨ましそうにする銀さんに苦笑いして俺は今後の身の振り方を考えることにした。
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5:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 12:03 ID:OEI


 同時刻、宗近side


 快刻とのコンビで今日も散々天使をぶちのめしてストレス発散をし終えたあと、俺たちは寮に帰宅して快刻の隣の部屋である俺の個室へと入った。
 生まれた時から左目の開かなかった俺は顔も覚えていない両親に現在の学園長、栂敷捺さんの家の前に捨てられていたらしい。そのときの年齢若干生後五ヶ月。それを拾ってくれた心優しき捺さんもとい母さんとは、血は繋がっておらず名字も違うものの、戸籍上俺の母に当たるのだ。え、母さん? めっちゃ美人ですよ何か? 勉強面に関しては思いやりの“お”の字もありませんよ何か?
 現在はこうしてその事情が公にならないように俺は寮に住んでいるのだ。偉くね? 俺偉くね? まぁ生徒と学園長が一緒に住んでるとなると結構な勘違いされそうだし? 周りは事情知らないもんね。凪たちには拷問大好き冷原くんに無理矢理吐かされました。あいつらは鬼か何かか。狸をいじめて楽しいのか。快刻は鬼だけどすっごく優しいんだよ! すっごく見た目がエロいのにね!

 いやいや俺は一人脳内でなんて快刻に失礼なこと考えてんだと首を振り、風呂に入るべくそのままその場所で制服に手を掛けた。
 俺は制服着崩しまくりな快刻と違い、制服はきっちり着る方だ、中等部からずっと。だって中高と制服のデザイン好きだもん。黒をベースに赤いテイスト。まあ制服は中高一貫だけどね。
 トリガー使いの瞳と同じ深紅の色のネクタイをしゅるりと外し、黒のラインに縁どられた赤のベストを脱ぐ。シャツのボタンを全て外して羽織る形のままネクタイとベストを持って脱衣場にいく。
 今日は本当に疲れたな。なんて溜め息を吐きながら煙管をくわえる。やっぱり俺キセル大好き。そう微笑んで噛み締めるように目を閉じた。
 すると次の瞬間体は謎の浮遊感に襲われ、俺はどさりと尻餅を着く。痛みにあわせて出てきたのは「へぐっ」と言う俺のクソ間抜けな短い叫びだった。

 かなり高いところから落ちたらしい。尻じゃなくて腰がいたい。なんだなんだ、床でも抜けたのか。でも俺そんなに重くないよ? 男子高校生の平均を辿ってるよ?
 そんな間抜けなことを考えながら「風呂入り損ねた」なんて周りを確認せず呟く。
 するとヒュッと何かが風を切る音が聞こえた。咄嗟にくわえていた煙管を口から離し、向かってきたものを煙管でガッと受け止めた。っょぃ。



「え。ちょ、ちょ、ただ床抜けて俺落ちてきただけでしょ。なんで俺刀向けられてるの? 俺の部屋の下ってこんな物騒な奴いたっけ……? あっ、ああ! 透か! とおるんか! 俺の部屋の下透だったね! ごめんね、修理費は俺が出すから、とりあえず俺風呂に入る前だったから服を着させて下さあ゙ぁ!?」



 謝りつつ目を開いて姿を確認しようとしたら最後変な声出た。だってここどこ。うぃんうぃんと音が鳴る機械的な一室、そこで派手な女物の着物を着崩した左目包帯巻いてる黒に近い紫髪が俺をくつくつと笑いながら見下ろしていた。
 そう、明らかに寮ではなかった。なんてこった俺はなんて恥ずかしい一人言を。

 というかこの人誰ですか。



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6:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 12:35 ID:OEI


 一方で快刻の万事屋での居候が決定していた頃。

 相手が刀を下ろしたので俺も煙管をくわえて立ち上がる。男を見れば彼も煙管を手に持っていた。と言うか、コイツ。



「……快刻じゃね? お前どうしたの煙管なんか吸って。なになに吸えるようになったの? でもお前煙管駄目じゃなかった? あれ、あの酒は? 酒瓶と樽の山はどこ? まさか酒やめた? 駄目だろお前は禁酒しちゃさー。酒飲むのはお前にとって生きることに必要不可欠でしょ、さっさと酒蔵ひとつ潰してきなよ、まったくもー。生きていくための義務でしょーが!
 っていうかこーんなに身長ちっちゃくなっちゃって。お前185あったよね。俺も180有るけどさ、俺より結構ちっちゃくなってない? 160ぐらい? 13の時の身長ぐらいじゃない? なになに幼児退行しちゃった? 可哀想にはぐっ」



 ドカッと鳩尾に蹴りをいただいた。何、快刻こんな暴力的だっけ?



「あのなぁ、俺ァてめえの知ってる人物じゃねぇよ」
「あっホントだ。関西弁じゃないしテンションも高くないしこっちの方がエロい。そもそも快刻が酒飲んでないとかあり得なかったわごめーんがふっ」



 再び蹴られた。彼は俺を蹴りつけたあと「いきなりなんもねぇとこから突然現れて……お前なにもんだ」と睨みつけられた。



「俺なんで初対面のオニーサンに睨まれてんのなんで? 俺普通に家帰って風呂入ろうとしただけなんだけど」
「俺を狙った暗殺者かもしんねーだろーが」
「ならむしろ俺も狙われる側なんだよ!? 奴(やっこ)さんが俺の目玉は良薬になるとか言ってさ、もう既にひとつ抉ってったろーに……」



 遠い目をして左の黒い眼帯を触った後に体育座りをしながら膝の間に顔を埋めた俺は「俺だって左目抉り出された時は痛かったんだよ……あの激痛をもう一度とかホント勘弁してよ俺目ぇ無くなっちゃうよ」と過去のトラウマを引きずり出してしまった。
 そしてそれにお構いなく降り下ろされる彼の刀。それを再び片手に握った煙管で受け止める。鈍い男が響いた。



「へェ……今のを受けるかガキ」
「俺のところは毎日が平和に戦争してますから、と言うか俺若干17歳のガキですよいきなり命狙うのやめていただけません?」
「相手にまるで切ってくれと頭を垂れたてめェが悪ぃんだろ?」
「ごめんなさい包帯のオニーサァン」
「それやめろ」



 彼は刀を鞘に戻して「俺は高杉晋助だ」と名乗った。……うちに高杉晋作の生まれ変わりなフレデリ使い居るけど晋作とは別人なのかな?



「晋助さんね。俺は真裏 宗近です」
「宗近な……ずいぶんとご大層な名前じゃねぇか」



 晋助さんは俺がここに来た経緯と俺の世界の話をすれば案外すんなり信じてくれた。曰くこの世界じゃそんなこともあるだろーよということらしい。か、かっこいい!
 そして俺はこの世界のことを教えてもらい、実際空にこの船が浮いているので信じる他なかった。



「気に入ったぜェ、真裏。……お前鬼兵隊入れ。俺の刀を受け止めた奴は久しぶりだ」
「嫌ですよ犯罪者はごめんですって。とりあえず居候ってことで」
「厚かましいなてめェは」



 俺のこの世界での生活権ゲットだぜ!



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7:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 20:52 ID:OEI


快刻side

 今日はこの世界の酒を購入して帰宅。いやー、見たことない酒がいっぱいいっぱいうへへへへ。
 両手に持った袋の中で酒瓶ががちゃんがちゃんと派手に鳴らしながら上機嫌で万事屋への道を辿る。
 銀時さんの家の下は大家さんかつスナックで店長しているお登勢さんのお店で、俺はまだ行ったことがないので今度訪ねよう。下やし。
 流石に現代風な服装は目立つと言われたのでフレデリを完全発動させたときの着流しを着用中。振り袖が邪魔なので肩まで布であげているけど。両手首の黒いリストバンドが目立つのなんの。

 銀時さんたちはいまだフレデリを信じていないようだが訂正もめんどうや。ほっとこ。

 カンカンと下駄が鉄製の階段で派手に高い音を鳴らし、視線が上がっていく。そこにいたのは「坂田サーン、オ登勢サンノ代ワリニ家賃ノ回収ニ参リマシタ。開ケテクダサーイ、イルノハワカッテマスヨ。坂田サーン、アホノ坂田サーン」と片言で話す猫耳の女性。下のお登勢さんの店で働くキャサリンさんである。



「キャサリンさん、どないしたんですか?」
「アア、隠岐サンデスカ。オ登勢サンノ代ワリ二坂田サンカラ家賃ヲモライニキマシタ」
「銀時さん……? 家賃払っとらんのですか? 俺でも寮の時はきっちり払っとったのに?」
「偉イデスネ」



 二人でそんな会話をして、中に入るのは無理そうだと察して一人スナックお登勢の中に入っていった。



「こんにちはー」
「おや、隠岐かい」
「ども。上がなんやごちゃごちゃしとるんで、酒ここで冷やしてエエですか」
「構わないよ、上じゃ銀時が飲んじまうさ」
「薄々感じとるんですけど、銀時さん駄目な大人ですわ」
「今ごろ気づいたのかい」



 カウンターの椅子に座りながらお登勢さんと会話して、瓶を一本開ける。上から聞こえてくる「ぎゃああああ!」と言う叫び声を聞きながらとくとくと杯に瓶を傾けてぐいと煽る。やっぱり酒は美味しいです。



「なぁに一人で楽しく飲んでるんですかー、ズルくないですかー」
「銀時さん、家賃払っとらんとかカスやん」
「もうちょっとやんわり包めよ! ダイレクトアタックすんなよ!」



 そういう銀時さんを無視して、かつストレスも溜まったので瓶をガッと掴んでラッパ飲みする。ごっくごっくと喉から音をたてて飲み込めば「てめっ、なんてもったいないことを!」と騒ぐ銀時さんに空になったそれを投げつけて新たな瓶を開ける。
 騒いでるけど知ったこっちゃない。そのまま五、六合連続で煽ってカウンターで突っ伏して眠ってしまった。



 突然ばしゃんと顔に水を掛けられてゲッホゲッホと蒸せかえる。えほえほと喉元を押さえながら「誰や水かけたん!」と怒鳴れば「俺だよ!」と銀時さんの声が返ってきた。



「銀時さん……なにすんねんボケぇ……」
「いつまでたっても寝てるからだろーが。ほら、仕事だ行くぞ」
「うぃーす」



 一旦万事屋へと戻ってびしょ濡れになった着流しを脱ぎ、とりあえず制服のシャツを着てカーゴパンツを履く。やっぱりいつも通りで落ち着くわぁなんて思いながら徳利を片手にバイクで颯爽と走り出していた銀時さんたちを追いかけた。



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8:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 22:44 ID:OEI


「私的にはぁー、何も覚えてないんだけどォ、前になんかシャブやってたときにぃアンタに助けてもらった的なことをパパから聞いてー」
「シャブ? 覚えてねーな。あー、あれですか? しゃぶしゃぶされそうになってるところを助けたとかなんかそんなんですか?」
「銀時さん! 失礼やで! 女性に!」
「ちょっとォ、マジムカつくんだけどー。ありえないじゃんそんなん」
「そーですねしゃぶしゃぶは牛ですもんね」
「失礼や! この人めっちゃ失礼や! あかん大人や! ちゅーかこの人どちら!?」
「それな」
「ちょ、銀さん。隠岐さんはまだしも。アレですよ、春雨とやりあったときのシャブ中娘ですよ」
「あーハイハイ、あのハムの!」
「豚からハムに変わっただけじゃねーかよ!」



 ファミレスの一室にて。そんな会話を聞きながら神楽ちゃんに酢昆布を与えてちょいちょい突っ込みを入れつつ失礼極まりない事ばかり言ってる銀時さんを冷めた目で眺めながら俺はこのファミレスのキンキンに冷えたビールを飲んでいた。
 女の人にハムとかデリカシー無さすぎて俺泣きそうやねんけど銀時サァン。まあ確かに? 顔ぱんぱんのハムスターみたいな体型してはるけど受ける人には受けるやろ。俺はちょっと……おん、宗近と取り合いしとる女の子居るからごめんやわ。根本で言うと生理的にあかん。すまんぶっちゃけたごめーん。



「もうマジ有り得ないんだけど! 頼りになるって聞いたから仕事持ってきたのにただのムカつく奴じゃん!」
「お前もな」



 即座に返す神楽ちゃんに「何をををををを!」と叫ぶお客さんに「店内やで、静かに」とビールを注いだコップを傾けながら告げれば「アンタマトモそうだなとか思ってたけどなんで昼から酒飲んでんの!?」と怒鳴り返された。なんなんこいつ。そんな苛つきをぶつけるようにずいぶんとなれてしまった、鼻をほじって最高に無礼な態度を取る銀時さんにビール瓶を投げ付けた。「なんで俺いきなり瓶投げられたの!?」とか知らんわ八つ当たりや。



「この人はアル中なのでほっといていいですよ。すんません。あの、ハム子さんの方はそのあとどーなんですがぶぇっ!」
「どこの誰がアル中やっちゅーねんクソ眼鏡ボケコラカスゥ、いてこますぞア゙ァン」
「アンタどこのチンピラ!?」
「ただの真面目な生徒や」
「どこが!?」
「眼鏡アンタフォローに回ってるみたいだけどハム子じゃないから、公子だから!」



 まあ要するに。
 彼女、もとい公子さんはシャブ中だったのだがなにやら痛い目を見たらしく懲りたらしい。そして彼氏(居ったんやな)がヤクの売人やっとって、一緒に足を洗おうとしとったらしいんやけど彼氏サンがもう引き返せへんとこまで足を突っ込んどったらしく、とある組織さんに追われとるから助けてくれ言うわけや。

 とりあえず。銀時さんは受けるみたいやで、その依頼。エエ金づるとかなんとかげふんげふん。



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9:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 23:10 ID:OEI


 宗近side


 俺はあのあと服を着て晋助さんに着いていく形で幹部のところへ紹介するべく行こうとしたのだが……まあ、俺の好奇心が勝った。ドヤァとドヤれるものでもない。



「晋助さん晋助さん! あれスゴくね!? スカイツリー!?」
「タワー見たぐれぇではしゃぐんじゃねェよ宗近」
「ごめん晋助さん! 俺流石にこんなデカくて大きいの初めてなんだよね! 初体験だよ!」
「おいやめろ誤解が生まれる」
「って船だよ! あの空の船全部晋助さんのでしょ権力者怖いね!」
「うるせェ静かにし「晋助さんあれ何!?」テメェ黙ってろ!」
「げふっ!」



 半ギレした晋助さんに渾身の力でぶん殴られて気絶した俺は彼に制服の首根っこを掴まれて引き摺られる形で移動している。途中で気が付いたのだがここで何か言うと斬られそうな雰囲気なので大人しく引きずられておいた。そろそろ尻がいたいけど。ズボンが心配。
 すれちがう人々に変な目で見られるが笑って手をひらひら振る。なんか不思議なものを見る目で俺じろじろ見られてたんだけどなんなの超失礼とか思って笑っとこう。なっ、涙なんて出てないんだからね!(笑)

 引きずられつつ煙管吸いながら流れる景色を眺める。晋助さんが通れば「総督!」とか声を掛けて挨拶していく人がたくさん居て、なんか母さんみたいだと思った。いや、母さん男じゃないけど。別にこんなにエロくないよ!? とても凛々しいよ!? カッコいいから憧れるよ! ……なんと言うかこうさ、人に慕われてるところが似てるなぁって。

 そこで襖が開いた音がして晋助さんが俺をそのまま引きずって中に入った。え、お、俺そのまま!? そのままなの!?
 ちなみに言うとここは鬼兵隊の一部と幹部を引き連れてやって来た旅館らしい。以前までは京に居たとか。ねえ晋助さん京ってどこ? ごめん俺お馬鹿なの。



「拾った」
「へぶっ」



 晋助さんにそんなことを言われながら俺は地面に投げ捨てられた。酷い!



.

10:ぜんざい◆A.:2017/02/18(土) 23:49 ID:OEI


 打ち付けた腰を擦りながら起き上がるとそこには三味線持ったグラサンの男前とピンクの着物なのかよくわからんセクシーな服着たパツキンオネーサンと目が死んでる侍が居ました。
 訳がわからなくなって晋助さんを見れば綺麗なお見足を俺の背中辺りまで振り上げてゲシッと裸足の裏で蹴りつけてきた。真っ白くてとても綺麗な足でした。まあ、あの子の方が俺は好きかな、足も胸も良かったよね。それに俺男の足を見る趣味はないし。女の子可愛いよね((



「包帯巻いてるオニーサァン、蹴るのはやめてぇえ」
「その呼び方と喋り方をやめろ」
「うぃっすごめんなさい斬らないで俺はただの一般人なの」



 刀を出されれば黙る他ない。俺は「晋助さんに拾われたらしい居候することになった真裏 宗近ですよろしく」とへらりと笑いながら告げた。
 告げれば突然パツキンオネーサンに発砲された。慌ててくわえていた煙管を手に持ちカンッと弾く。そのまま晋助さんを見れば彼はなんでもないように煙管吹かしてた。アンタァ……人が攻撃されてんのに……ズルいぞ! ごめんこんなこといってる場合じゃない。



「ねぇねぇ晋助さん、なんで俺こんなに初対面の人に攻撃されるの? 俺のこのイケメンフェイスが駄目なの? 雰囲気かな? それとも態度? ねえなんで教えて晋助さん」
「知るか、強いて言うなら性格だナルシスト」
「俺別にナルシストじゃないよ!? 晋助さん酷くなゔぁうっ!?」



 再び飛んできた銃弾をすれすれでイナバウアーするみたいに良ければどさっと尻餅をついた。なにこれ俺今日よく尻餅つくね。
 彼女は銃口からのぼる煙をフッと消しながら「晋助様ああああああ!」と俺を指差しながら叫んだ。うるっさ。この美人さんうるっさ。



「なんすかこのガキは! 晋助様なんすかこのガキは!」
「うるせえ来島ァ」
「へらへらしてるわりに銃弾を弾くわ避けるわなんなんすかこのガキは!」
「あっ! 晋助さんあれなに!? 明らか人外居るんだけど!? 仲間!? 俺と同類かな!? 妖怪!? ねえ晋助さんあれなに!?」
「てめェはうるせェ!」



 俺は晋助さんに怒鳴られしぶしぶ黙る。それでもそわそわそわそわと首を周囲に動かして目がキラキラと輝いているのが俺でも分かった。それだけこの世界は俺の好奇心を擽ってくれやがるのだ。
 とりあえず晋助さんに「説明しろ」と促されたので事情を話すことにした。



**


「と言う訳でしてね」
「信じられる訳ないじゃないっすか! そんな突飛な話!」
「おっ、俺の存在全否定!?」



 パツキンオネーサン、もとい来島また子さんに存在を全否定されて激しくブロークンハートな俺。まさしく砂になりそう。



「だとよ厨二」
「俺高二です高二。中二は卒業しました。似非厨二ならウチにちゃんといるよ晋助さん」
「うるせえ黙れ」



 厨二と言うかなんと言うか、と目隠しをした右手包帯巻き巻きなあいつを思い浮かべる。あれは厨二と分類するのかしないのか……難しいところにいるやつだ。「俺の天腕がうごめく!」「天眼が疼く!」とか言ってたけど本当に天腕うごめいてたし天眼疼いてたし。あれは本人のキャラ作りだから素は普通に男子高校生だし。
 晋助さんから厳しい突っ込みをいただきながらどうにか納得してもらえた。
 一番の影響は晋助さんの「俺は事実だとして受け止めてるけどな」の一言だった。なんなんだよいったい。



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11:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 17:46 ID:OEI



 現在、銀時さんが太助と言う人物が奴さんに追われて頭ぶった切られそうになったところで登場し、予定になかったハム子さんがコンテナから飛び降りて銀時さんが瀕死ですどうぞ。



「うう、メス豚が邪魔しやがって……オイ作戦変更だ、連中残して戦線離脱するぞ!」
「あいあいさー」



 あらかじめ撤退するべく銀時さんの腹に巻いていたロープを引っ張る。現在俺は酒を入れていないので普通と何らかわりない腕力だ。神楽ちゃんすごぉい。



「あってめ何一人で逃げようとしてんの!?」
「わりぃが豚を二匹しょって逃げる作戦なんざ用意しちゃいねぇ、ハム子お前が勝手な真似すっからだ!」
「ふざけんな! パフェ何杯食わせてやったと思ってんだよ! きっちり働けや!」



 体型豚型二人が銀時さんの足に引っ付き、三人で引っ張る縄にドスンと重量が掛かる。そして銀時さんが「内蔵出る」的なことを言うから神楽ちゃんが本気にして「離せ!」と銀時さんに飛び付きながらそう叫んだ。
 あ、あかん! とか思って慌てて徳利の酒をプハッと飲み込み、手を伸ばすも縄は耐えられなかった新八くんの手をすり抜けた。結果、俺の指はソレを掠め、勢い付いていた俺はそのまま落ちた。
 どしゃあと言う銀時さんたちのようにはなりたくなかったので宙で回転して体制を整えすたっと着地する。
 上から新八くんの「ヤバイ早く逃げて!」と言う声と共に襲い掛かってくる奴さん。神楽ちゃんは無言で番傘の先を相手に向けて発砲。そっから銃弾出るんやすごっ!



「ケッ。結局俺たちゃコイツが一番向いてるらしーな。ついてこいてめーら。強行突破だァァ!!」
「銀時さん珍しくかっこええ!」
「一言余計なんだよテメェは!」



 「オラどけどけどけどけェェ!!!」と敵さんを薙ぎ倒していく銀時さんと神楽ちゃんに倣って俺も素手で相手をしていく。ズボンの中に入れていないのでシャツが翻っているものの動きやすいので気にしない。



「おお、アンタら二人やれば出来るじゃん! ホクロの方ヤベッ惚れそっ!」
「すんません俺好きな子居るんで!!!」
「快刻はシャツ体に乗せてる感じだから元々エロいのに余計エロいんだよ! って言うか素手のくせしてなかなかやるな快刻! いやほんとにやべーから止めてハム子! それよりこれなに!? どゆこと!? たかがチンピラ一人の送別会にしちゃ豪勢じゃねーか!? どーにもキナコ臭ーなその陰毛頭!!!」
「銀時さんそれ言うならキナ臭いやで!」



 そして「俺は陰毛頭じゃねえ!」とアフロのカツラをはぎとった太助さんの頭には明らかヤクと思われる白い粉がガムテープで貼ってあった。……ハgげふんげふん、坊主さんやったんですね。

 そのあと俺が酒をさらに入れてふはははと拳で『じゅうりん』しました。久々暴れて楽しかったで!



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12:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 18:39 ID:OEI



 現在俺たちは神楽ちゃんが商店街のくじ引きで当てた宇宙への旅四名様のお陰で船のゲートへと訪れていた。なんか定春がサングラスの土佐弁の男に拐われたもう楽しめないとか言っていますがもりもりご飯を船の中で食べてます。銀時さんもです。新八くんの「お前らの人間性を疑うわ」という言葉に激しく同意。

 そして地球は青かったとかバカゆうとったらテロが起きた。言うかハイジャックが起きた。今年は厄年か? 俺厄年なん? なんなん? 俺そんな日頃の行い悪ないやろ神さん! 銀時さんらと居るからか!? そうなんやな!?
 俺今銃つきつけられとるんやけどそうなんやな!?



「これよりこの船は我々革命組織『萌える闘魂』がのっとった! 貴様らの行く先は楽しい観光地から地獄へと変わったんだ! 宇宙旅行などという堕落した遊興にうつつを抜かしおって、我らの星が天人が来訪してから腐り始めたのを忘れたかァ!! この船はこのまま進路を地球へと戻し我が星を腐敗させた元凶たるターミナルへと突っ込む! 我らの血肉は燃え尽きるが憎き天人に大打撃をくわえることができよう! その礎となれることを誇りとし死んでいけ!」



 そう怒鳴る男を神楽ちゃんは蹴りあげ、銀時さんは蹴り飛ばし俺はちょうど酒を飲んでいたので銃口を握り潰してコッと凪ぎ払うように拳を軽く振るえば男は脳震盪を起こして沈む。
 その騒動に気が付いたもう一人が銃を持って駆けてくるのだが新八くんがお椀を顎にぶつけたのでノックアウト。
 このエリアのテロリストは伸したものの他にも居るだろうと警戒する俺とは別に沸き立つ乗客と調子に乗る銀時さんたち三人。頭弱いんやろか。
 俺は一応こういう事態に二、三度巻き込まれたことがあるので知っている。こういう場合テロリストはこんな数人ではない。
 ほら。銀時さんたちの後ろで銃を構えた男が一人。



「……あれ?」
「ふざけやがって、死ネェェ!!」
「遊戯は終わりやで」



 男が引き金へと指を掛けたときには俺は既に動いていて奥へと向けてつきだそうとした銃をパンっと腕で軌道をずらし、ザッと足を地面につけて急停止してから男にボディブロー。
 どさりと倒れる男を冷ややかな目で見下ろした。問題起こしてくれよってからに。



「テロリストさん」
「快刻無駄にエロかっけぇなテメェ!」



 銀時さんに叫ばれた瞬間扉が勢いよく開いたのでそれを利用して壁キックならぬ扉キックしてもう一度壁キックののち新八くんの隣に降り立つ。
 ドアの向こうにたっていたのはあのサングラスつけた土佐弁の男。今だ頭に定春を噛みつかせていた。
 出血しとりますけど大丈夫なん?



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13:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 19:47 ID:OEI

宗近side

「あれっ、晋助さんじゃん。今日どこ行ってたの?」

あれから数日、ここ、旅館での生活も慣れて来た頃だ。みんな戦争だなんだとか言ってるけど基本いい人だ。今日、晋助さんは幹部の人を引き連れて昼間、どこかに行っていたが、何をしているかはノータッチ。だって、なんとなく予想はつくからね。
 俺が縁側のような和風なベランダで煙管吹かして居れば晋助さんが入ってきて目を丸くする。彼の手には一合の陶器の酒瓶と御猪口があって、まんま快刻やんと苦笑する。掠める酒の香りで、快刻の飲んでいた激辛なものではないと区別が出来た。外戸だが香りは嫌いではない。俺がこちらの世界に来た原因は薄々分かっている。とある天使の液体攻撃だ。被っても何もなかったからまあいいかと快刻と二人してほっておいたのだ。なら、快刻も恐らくこちらへ来ている。……親友に会いたいな。なんて柄にも無いことを思った。

「知りてェか?」
「好奇心で。まあだいたい予想はついてるけどね」
「言ってみろ」
「幕吏の皆殺しとか?」
「あァ。料亭で会談してた幕吏十数人殺してきた」
「っはー! そりゃまた豪快に殺ってたねえ!」

ヘラっと笑ったあとに煙管を吸って外へ向けて煙を吐き出す。煙の色は白いものの、酸素だと言うのだからホント俺の体どうなってんの。

「宗近、お前年幾つだ」
「えー、17ー」
「はん。未成年が喫煙ねェ」
「あれ?晋助さんそんなこと言っちゃう人?」
「今ぐらい黙れ」

晋助さんは御猪口に酒を注いでちびちびと味わっている。そういうところを見てこの人は大人で、やっぱり10も年が離れてるんだなー、なんて実感して快刻を思い浮かべる。アイツ一見味わってないようにがぶ飲みするけど、意外に味をきっちり覚えてるからなぁ。フッと漏れた俺の笑みを晋助さんは一瞥し、綺麗に真ん丸な月を見上げて「なんで皆殺しにしてきたと予想がついた」と問い掛けてきた。

「予想がついたって、そりゃあ俺も前世で同じことをしたことがあるからだね」
「そりゃまた」
「あ、さっきの俺と同じこと言ってるー。
まあ、俺が生まれた時はまだ日本鎖国しててさ。ぺリー……ここじゃ天人か。その来航見てないの、ガキ過ぎて。まあこんなこと関係してないんだけどさ。……そのときから既に日本と天使間の争いって酷くって。そこで、人間の能力を強化するために……イレギュラーな存在の俺ら妖怪からその能力を抽出できないかって……幕府が妖怪取っ捕まえて妖体実験始めて。一番に裏切ったのは烏天狗の一族さ、幕府側に付いた。俺らの住処を密告した。そっからは仲間が次々居なくなった。生き残った俺も……まぁ幼馴染みだった烏天狗にこの左目、抉り抜かれてね、良薬になるとかなんとか。俺一応リーダー格だったからそれに他の妖怪もキレちゃってさ、俺ら妖怪と話のわかる人間と共闘して晋助さんがしてたみたいなことして……結果的に幕府をぶちのめして協力してくれてた人間たちが新しく官僚になり俺の世界は俺が生まれた時にはそりゃもう平和平和、一部を覗いてちょー平和。こんなわけで何してるかだいたい予想ついちゃうんだよねー」
「難儀な話だな」
「でしょー?」

ふはーと煙管を吸った息を吐き、そのままぺらぺらと俺の世界の話を聞かせる。世界を救った英雄たち、それの息子娘の双子が俺の友達、異常なくらいでかい学園都市、天界と地獄。めっちゃ暗かった傷まみれのイケメンが不死で親父に人体実験受けてたとか、俺と、晋助さん似の酒豪とが静かに水面下で取り合ってる無口な眼鏡のショートカットの女の子の事とか。

「楽しげだな、そっちは」
「ふっへへへ、楽しいよー学校。晋助さんは何がしたい?」
「あァ、俺はな、俺は、全てを破壊する」

そう呟いて何かを誤魔化すようにグイと酒を煽った晋助さんは俺を見てフッと嘲笑し「お前はどうだ」と月夜を見上げながら聞いてきた。

「まあ、晋助さんらしくていいんじゃない?」
「…ふん」

14:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:17 ID:OEI

やっとイラストを書く気になりました。各自10分クオリティなので雑なの許してください。隠岐くんの泣きぼくろを書き忘れた…。


隠岐
http://he10.net/up/data/img/17881.jpg
真裏
http://he10.net/up/data/img/17881.jpg

 イメージ崩したくない! と言う方は見ない方がいいかと思われます。


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15:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:20 ID:OEI

すいません二つとも同じものでした。

出なかったのでもう一度!

隠岐
http://he10.net/up/data/img/17881,jpg
真裏
http://he10.net/up/data/img/17882.jpg

16:ぜんざい◆A.:2017/02/19(日) 23:45 ID:OEI


 出なければまた言ってください。

宗近side


 晋助さんは近々新江戸のかぶき町付近で祭りがあるからそこへ向かうらしい。「何!? 祭り!? 晋助さん祭りあんの!? 俺もいく!」と晋助さんに同行することとなった。



「あっ、万斎さん! 祭りだって! 祭り! 晋助さんが! 祭り!」
「そうでござるか、晋助は無類の祭り好きでござるよ、それにしても語彙力が乏しいな」
「テンション上がってるんだよ俺! 祭りと言えば綿菓子でしょ? りんご飴とフランクフルトと、チョコバナナホルモン焼きはし巻きたこ焼きいか焼きお好み焼き焼きそばだよね! ラムネも飲みたいな! 唐揚げバーとかさ! なんか祭りと全然関係無い食べ物とかとかとか! うへへ」
「見事に食べ物でござる、まったく食い意地のはった……」
「男子高校生なんて飯と女の子と遊ぶことしか考えてないんじゃない? あと射的とかもしたいじゃん?、流石に金魚すくいはやらないケド」
「はっはっは、確かにお前ほどの年の子供ならそれしか頭にないでござるなぁ」
「俺だって敵を斬ることとかちゃんと考えてるよ」



 頭の片隅にとどめとかないと俺の世界じゃすぐ首飛ぶからねぇ、としみじみ笑ってから煙管を吸って「じゃね」と足を進める。後ろで万斎さんが何を思ったかなんて知りません。
 そして前方に見つけたるは武市さん。フェミニストと言う名のロリコンだってまた子さんが行ってました。俺とは同志に当たるのか? いや俺はロリコンでもフェミニストでも決してない。ただの健全な男子高校生だ。



「武市さーん」
「おや、真裏くんですか。どうしました?」
「やっぱ武市さんってロリコンだったりする?」
「違いますよ、私はフェミニストです。いきなり失礼ですね」
「はっははは!」



 そんな会話を終えたあと、俺はさらに奥へと進む。何してるのかって? 散歩だよさんぽー。



「似蔵さんじゃん、こんにちは」
「今は夜だ」
「じゃあこんばんはだね。なになにどうしたの、黄昏ちゃって、何かあった?」
「いや、別にどうと言うわけでもない」
「へぇー」



 そのまま俺は煙管をくわえたまま歩みを進めて、さて自室へと戻るかと言うところでまた子さんと出会した。



「こんばんはまた子さん」
「アンタッスか、真裏」
「そうそう俺俺。どしたの」
「いや……晋助様が祭りに行くっていうんでつれてってほしいと頼んだんスけどねぇ『留守番してろ』って言われたんスよ」
「ごめんそれ原因俺だわごめーん」
「……あぁ、なるほど」
「ちょっとやめてよその荷物を見るような目。俺そんな役立たずじゃないって」
「あたしは真裏が戦ってるとこ見たことないんすよ」
「実際こっち来てから戦場出てないし? 無理もないですけど? 流石の俺もやるときはやるよ、相棒が居ればの話だけど」
「やっぱり役立たずに分類されるっすね」
「オネーサン今その言葉すっごく俺の心に突き刺さったよ泣きそう」



 レッツゴー新江戸歌舞伎町!



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17:ぜんざい◆A.:2017/02/20(月) 23:33 ID:OEI


 快刻side

 先日の宇宙旅行の件から無事帰宅してはや三日。生きててよかった。

 誰も気づいていないようだが一応俺は天使との戦いのあとすぐに帰宅したからその時の怪我など治療していない。天使につけられた傷は、治癒能力を持つトリガーかフレデリか、それか天使の血を混ぜた薬でしかなおらない。天使からの攻撃を受ければそこの身体の治癒活動が停止してしまうのだ。血液は多少なりとも固まるらしい。
 なぜ俺がいまこんな話をしたかと言うと、まあ……俺の鳩尾辺りには大きく刃物で突いた傷跡が在るのだ。もちろん天使からの攻撃のせいで。幸い痛みには親からのひどい虐待のおかげで慣れている。けれども痛いものは痛い。
 そして俺は今治療する術を持っていない。ここまで言えば分かるだろう、俺今地獄に居ます宗近助けて。宗近の煙管の煙には種類があり、いつもスパスパ吸っているのは通常の物だがそこに念を込めればいろいろ変化する優れもの。但し自分には効かない。俺の酒もそんな感じなので自分には効かない。
 俺はべったり血に濡れた包帯を風呂場でひっ剥がして患部に分厚いタオルを巻いて入浴。染みるなんてもんじゃないがよしとしよう。
 俺がよく酒を飲んだあとに寝ているのは体力温存の為でもある。俺は酒飲んでも眠くならない人間なのだ。はーっはっは……やめよか、悲しなるわ。



**


 それからは宇宙での疲労が溜まっていたのか三日も寝てしまっていたらしい。俺は銀時さんに銀時さんの隣の部屋を与えられており、そこで寝起きをしているのだがいくら邪魔されないと言えど流石に寝過ぎた。
 うぅんとわしゃわしゃ髪をかきあげながら襖を開ければそこではお登勢さんから平賀さんと言う歌舞伎町一の発明家の騒音騒ぎをどうにかしてほしいと言う依頼を承っている銀時さんたち他三人の姿が。



「……なにやっとんねん……あんたらおはよぉ」
「おーぅ完全に寝起きだな快刻ぅ、今昼だぞコルァ」
「どうしたんだい隠岐、珍しいね」
「三日も寝てたアル」
「疲れてたんですか?」
「……多分な。……銀時さん俺の徳利……どこや……」
「冷凍庫だ冷凍庫」
「……冷蔵庫な、冷蔵庫……冷凍庫ぉ!!? あんたどないなとこ入れとるんやシバき回すぞ!? 俺の酒! どないしてくれんねんドカス!」
「俺すっげー怒鳴られてんだけど!? すっげー怒鳴られてんだけどなんで!?」
「冷凍庫に入れた銀時が悪いね」
「流石お登勢さんやな」
「大人を敬え!」
「年下のことを考えてから言えや天パァ!」
「ゴメナサーイ(しまさかマグネット風に)」



 とりあえず冷凍庫(ホンマに入れとった)から中身が凍って、すっかり冷たくなった徳利を引ったくって再び布団へ逆戻り。宗近ぁ、助けてぇぇえ。



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18:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 00:10 ID:OEI


 それから三日後、なんか江戸で鎖国解禁二十周年記念祭をやるらしくて、あの発明家の平賀さんはそれの出し物の為にガシャコンガシャコン騒音ならしてたらしい。それには将軍も来るらしいから出来上がらなかったら切腹ものらしいと逃げ帰ってきた銀時さんたちは言った。とりあえず手伝いを頼まれたようだ。俺は居候なだけで万事屋ではないので「お前も働け」と言う言葉をノータッチエースで「俺関係無いもん」と叩き返してやった。誰が金を支給しとるんやと思っとるねん。
 現在俺の財布は天使の討伐時の報酬でたんまりだ。十年は遊んで暮らせそうなぐらいにはな。
 まあ、祭りは今日らしくて、布団から起きれば既に手伝いにいっているのか銀時さんたち三人組は居なかった。
 とりあえず遊びに出向こうかと制服のシャツにカーゴパンツを履きいつも通りの服装で外へ出た。空は西がうっすらと赤くなっていた。どんだけ惰眠貪っとったん俺……。


**

 祭り会場に行けば上へ下への大騒ぎ。流石鎖国解禁二十周年と言うべきか、天人入り乱れての人が多い。

 たこ焼きを口にしながらまあまあやななんて呟いて辺りを見渡す。射的のところでチャイナの女の子がおじさんに向かってコルク銃発砲してるなんて見とらんし知らんわぁー。
 新たに“ビール瓶一本”片手に一人寂しく歩いていれば、浴衣を着た綺麗なお姉さん三人に絡まれた。と言うか声を掛けられた。おおお、これが俗に言う逆ナンなんやな! とかはじめての体験にふおおと感嘆していたのも束の間もう押しが強いのなんの。



「いや、やから俺一人で回りたいねんって」
「なになにー? 傷心中なのかな包帯くぅん」
「お姉さんたちが慰めてあげよっか?」
「こんな色男、断るなんてもったいないことしたのねぇ」
「(まだフラれてへんわバカ野郎!)あの、お姉さんらなぁ」



 ちょっと対応に困って強めに出ようとしたその時だった。後ろから肩を組まれて「ごっめーんお姉さんたち、コイツ迷ったくせにちょろちょろしてて見つかんなかったんだよね、ツレで来てるから悪いけど諦めてくんない?」と聞き覚えのある声が聞こえた。
 ふわりと鼻腔を掠めた煙管のアイツ特有の微かに甘い匂い。いろいろと慣れたような口調、視界の端をちらつく金髪。



「えっ、あ、友達で来てたんだぁ」
「ごめんねー」
「い、行こっ」



 そそくさと逃げ去る様に行ってしまったお姉さんたちに安堵しつつ肩に組まれた腕を外して姿を見れば、そこには想像通りの人物がヘラっと笑って居た。



「宗近や! 宗近やんお前も居ったんやな!」
「あれ、快刻気付いてない? 俺たちここに来る前天使の液体攻撃受けたじゃん、原因多分あれだよ」
「えっ、そうなん?」
「お前ホントこういうとき頭まわんねーなー」
「勉強が冷原よりできねぇやつに言われた無いわアホ! アホ、そう、お前なんかただのアホや!」
「おまっ、俺より成績良いからって酷くね!?」



 宗近も宗近でお世話になっている人が居るらしく、その人と一緒に来たから俺もそこへ挨拶に連れていくつもりらしい。宗近がお世話になっとる人、どんな人なんやろ。と澄ました顔して考えた。



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19:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 00:32 ID:OEI

宗近side

 るんるんと快刻の無駄なく筋肉のついた二の腕を引っ張りながら晋助さんの待つところへと向かう。相変わらず酒を片手にしていたが、徳利ではなかった。どうしたのかと聞けばお世話になってる人が冷凍庫に入れてしまい飲める状態じゃないらしい。
 可哀想に。なんて思いながら口にくわえた煙管を軽く噛む。15年来の相棒だ、手放すことは出来そうにない。快刻は仕方ないとして。



「あっ、焼きそばやん、あそこエエ匂いするわ、きっと美味いやつや!」
「えっ快刻そんなに言っちゃう? 言っちゃう? なら美味しいのか! 早く買いに行こうぜ!」
「えぇ〜、俺向かいの出店の焼き鳥食いたいんやけど〜」
「先に焼きそばだって! その次に焼きとrあっ! 隣にイカ焼き屋めっけ! いい匂いだ! 美味しいやつだ!」
「なんやと!? はよ行くで宗近!」
「アイアイサー! うへへへへ!」



 二人してひゃほーとか言いながらめぼしい出店を巡る。快刻は本日四本目のビール瓶に取り掛かっている。片手にはイカ焼き。お前はどこのおっさんだよ。まあ見た目がエロいのでそちらが勝ってそんなこと一切感じさせないが。
 日焼けを知らないみたいに絹のような白い肌、炎天下の中汗ばむ(ここでは私服に見える)制服、髪の先から滴る汗、微かな吐息。お前はどこの星のエロ王子ですか快刻くん。君はもう歩く18禁だよ見ろよ周りの女性が俺たちに視線を釘付けだよ。まあ俺もよく清純派な顔をしていると言われるのでそれも有るのだろうけど。
 性格さえ見なければ完璧にエロいワイルドクール系イケメン(だが突き抜けるほどハイテンション)と清楚派顔の金髪(かつ脳内ピンクの年中思春期)の俺、流石に注目されるだろうよ。

 そこから俺たちは晋助さんの待つ橋へと向かった。快刻も満足したようで何より。俺は片手にりんご飴を握りながら聞いた。祭りの最後はりんご飴と決めているのさ。



「快刻お前さ、天使に鳩尾突かれて無かった?」
「突かれたわ。酒は自分には効かへんし、包帯巻いてほったらかしやねんけど、宗近居るし」
「へいへーい」
「はよ治せ。最近疲労で酒飲んだらすぐ寝てまうし、普通に二、三日寝てんねん」
「快刻が酒飲んで寝る!? ヤバイそれはヤバイ!」



 わりと快刻がギリギリ危ないラインに立っていたので慌てて煙管を口にくわえて煙で治療。快刻の顔色を見るに完全回復したらしい。そりゃ肌も日焼けを知らないような肌になるわ。
 そんなこんなでやっと俺たちは晋助さんと合流した。



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20:ぜんざい◆A.:2017/02/21(火) 23:36 ID:OEI

高杉side


 どこかをほっつき歩いてた宗近が戻って来た。その傍らには、初めて見る男。俺に似てなくも無いが、少し違う。

 黒に近い深い色みの紫髪、鋭くも流したタレ目。どこか近寄りがたい空気を纏い、色気を存分に晒し出す。シャツのボタンは第三まで開けられ、それに左目元の泣きボクロ、なぜか若干蒸気した頬。言わずもがなクールな色男が宗近に腕を引かれてやって来た。
 宗近が人混みの奥で「晋助さぁん! やっぱ俺の相棒こっちの世界来てたわ!」と笑顔で声を張り上げ俺に教える。周りと頭ひとつ抜き出た二人は目立つ。多分そうなのではないだろうかと予想はついていたが、あまりにも予想していた奴とイメージが離れすぎている。もっとこう、バカっぽいやつを予想していたのだが。



「その色男が相棒か」
「あ、やっぱ? やっぱり? 絶対晋助さんはそう言うと思ったわー」



 妙ににやにやしている宗近を内心怪訝に見ながら色男の方を見ればうろうろと視線だけが辺りをさ迷っていた。そしてちらりと宗近を一瞥し、ちょうどその時宗近もコイツを一瞥したのでにやっと笑ってから「この人が俺の世話になってる高杉晋助さんね」と指差して紹介した。おい指差すんじゃねェよ。



「あのなぁ宗近……人のこと指差したらあかんやろ? 教えられへんかったか? ホンッマ……学園長が見たら本気でシバキ回されんで、マジで」
「ごめんもうしない、もうしないから母さんには言わないで!? あの人容赦を知らないから! お願いホント頼む俺死ぬ殺されるぅう!」
「うっさ! 宗近うっさ! すんません高杉さん、このドアホ敬語も使われへんしめっちゃ鬱陶しかったんちゃいますか? このドアホ」
「なんで二回言った!? なんでお前ドアホって二回言った!? しかもシカト!? フルシカトなの!?」
「あぁ、俺隠岐 快刻言います、よろしく高杉さん」
「お願い快刻話を聞いて!」
「お前は黙っとれやニコチン野郎!」
「なんだとこのアル中が!」
「はァン!!? もっぺん言うてみぃ!!」
「いーよ何回でも言うよこのアル中!」
「そーやで俺は酒が大好きなんや! なんか問題でもあるか!」
「ない!」
「ならよし!」



 口調と性格と表情が見た目を裏切った。見た目のクールなイメージを破ってハイテンションが出てきた。無表情を貫くのかと思えばびっくりするぐらい表情が豊かで俺を煙管をくわえたまま軽く固まる。
 その様子に気が付いたらしい宗近はにやにやと笑みを深めてうへへと笑った。



「快刻って雰囲気イケメンなんだよねー、みんな最初は晋助さんみたいな反応するんだよねー! それ見るのが楽しくて仕方なんだよねー!」
「てめえ静かにしてろ!」
「おわあ」



 ドゴッと気持ちよく宗近の尻を蹴れば快刻が物珍しげに驚く。
 ビール瓶に入ったビールをグイと煽った快刻に少し固まり、ああコイツは宗近が確か酒天童子だとか言ってたなと一人納得してフーと煙管の煙を吐き出した。



「宗近、そっちおってうるさないですか?」
「うるせェ通り越して喧しいなァ、こいつァ」
「だってさー、晋助さん艦隊持ってるんだよ!? 驚かない訳にはいかなくない!?」
「そら驚かない失礼やな! 俺も晋助さんとこに厄介になってまおかな」
「宗近よか快刻の方が楽みてぇだしな。別にかまやしねぇよ」
「「やたー」」
「じゃあ俺今世話になっとるとこに挨拶してきますわ」
「またあとで! ここ来いよ!」
「んー!」



 居候が一人増えたな。



.

21:ぜんざい◆A.:2017/02/23(木) 23:53 ID:OEI

快刻side

 銀時さんたちにとある人にこれから世話になるから今までありがとうと告げれば金ヅルが! って叫ばれた。
 酷いと思わん? なぁ酷いと思わん? 人のこと金ヅル扱いやで酷いと思わん?
 待ち合わせ場所にてイチゴ飴を貪っていた宗近にそう告げれば「え、お前金持ってたの?」とキョトンとされた。そうだったこいつ普段財布持たない人種だった。金方面では高杉さんにお世話になっていたらしいホント何やっとん宗近。高杉さんの懐の深さに感激中な俺。

 だがしかし、今現在その高杉さんの姿が見えません。なぜでしょう。



「晋助さんなら知人めっけたから挨拶してくるってさ」
「律儀な人なんやな」
「あの人凶暴だからね言っとくけど。何度蹴られ殴られたか」
「それはお前が悪いんやろ」
「そうだけど」



 直後、背後で爆発が起きた。何やら将軍様めがけてロボットが襲いかかっているらしい。もしかして平賀さんだろうか。なんにせよ俺たちはここで待機だ。



「俺あの暴動の中に突っ込んで行きたい」
「その気持ち分かるけど今回はやめとこな、真撰組さん出とるらしいから」
「はーいおかーさん」
「誰がお母さんや誰が!!!」



**

 戻ってきた高杉さんは俺たちを見てフッと笑ったあと、「お前ら二人、受け入れが出来なくなった」とニヒルな笑顔で告げられた。



「はァン!?」
「おい唾飛ばすな宗近! それより、高杉さんそれあんまりですやん!」
「近々でけぇことやるんだよ。俺の船は関係者以外立ち入り禁止にならァ。わりぃが駄目だ。快刻の世話になってたとこ行きゃいいだろ」
「もう別んとこ行く言うて来たんやけど……」
「ちなみにどこに世話になってンだてめぇ」
「万事屋さんですわ」



 俺がそう告げれば高杉さんは目を微かに見開いたあと、俺の見た限りのニヒルな笑みへとすぐ戻して「そうかァ……」と手で顎を押さえてくつくつと笑う。



「ふん、まあそういうわけで無理だ。ことが落ち着きゃふらっと出会うだろうよ」
「まあ、関係者事情ならしゃーないですよね。わかりました。けどアイツをどないかしてください」



 ようやく船に乗れる! と意気込んでいたのにそれが出来なくなって落ち込んでる宗近を。
 俺がそう言うと高杉さんはふん、と鼻で笑って「時期がくりゃ乗れるだろ」と背を向けて歩いていった。後ろ手に手を振る高杉さんはかっこよかったです。まる。おいおい作文かいな。
 宗近はとりあえず、万事屋さん下ネタ酷いでと教えると目をキラキラさせて話題に飛び乗ってきたのでさほど面倒ではなかった。



.

22:ぜんざい◆A.:2017/02/24(金) 20:37 ID:OEI


 翌日、少し気まずい気持ちを抱えながら万事屋の扉の前へと立っていた。
 ふう、と息を吐いて引き戸に手をかけようとしたとき、宗近が要らんことを呟く。



「何、お前柄にもなく緊張してんのー? 酒天童子ともあろう者がー? へーふーんほー」
「……黙れ喫煙バカ!!」
「はァン!? だったらお前は飲酒バカだろーが!」
「もっぺん言うてみろやコルァ!!」
「何回でも言ってやるよバカ! 飲酒バカ!」
「ならお前はアホの子や!」
「言ったなお前!」



 ぐるると威嚇し合い額を付き合わせて低レベルな言い争いを繰り返していれば扉がガラリと開き「ぎゃーぎゃーうるせー!」と銀時さんが怒鳴り散らしてきた。アンタもそこそこや!



「あん? なんだよ快刻かよ。どした、依頼か?」
「いや、俺が世話になるはずやったとこ急遽用事が入ってあかんなったんで。もっかいここで厄介になるかと。一人増えて」
「増えたの!? いやいやいやいや無理無理無理無理これ以上人は」
「なんか白くてデカイのいるじゃん!」
「あっコラ!」
「バカ! なにしてんだ宗近!」



 無遠慮にずかずかと万事屋兼銀時さん家に勢いよく侵入した宗近は靴を脱ぎ捨てそのままにタタタと定春に駆け寄ってもふもふしている。噛まれへんかな、大丈夫やろか。とひやひやはらはらして見ていれば定春もなついていたので良いかと解決。



「……さぁて快刻くん。あの金髪誰だよテンションたけーな」
「相棒やで、アホの子やけど」
「アホの子かよ」
「誰今俺の事アホの子っつったの!」
「銀時さんやでー」
「はぁ!?」



 ご厄介になります!



.

23:ぜんざい◆A.:2017/02/24(金) 23:02 ID:OEI

宗近side



「改めまして、真裏 宗近でーす。これから厄介になりまぁす、よろしく〜」



 ソファに座ってヒラヒラと手を振りながらへらへら笑ってる俺の隣で「正直すまんかった」と坂田さんに謝罪して顔に影を落としているのが快刻。ちょ、快刻酷くね? それはなくね?



「俺まだ認めてねーけど。ねえまだ認めてねーんだけど!?」
「まあまあ、良いじゃないですか銀さん」
「なんで新八が我が物顔してんのぉおお!? なんでお前そんなこと言ってんのおお!?」
「おおおおお! 俺こんなに普通に会話してて叫ぶ人久々だ! 凪みてぇ!」
「宗近、銀時さんと凪じゃ意味合いちゃうわ。アイツはほんまに苦労人やけどこの人ただ自分がめんどいからやで」
「わぁクズだな!」
「笑顔で銀さんクズ呼ばわりされたんだけど!?」



 ぎゃんすか喚く銀さんを放って快刻と二人して定春をモフる。



「いやー、ふかふかだな〜! 兵器型天使もこんだけ癒しになれば切り捨てないのにな〜。人型はダメだ、アイツらは破壊しか運んでこなかった」
「アイツら見た目だけやもんなぁ、やらかそうなん。普通に前、レーザー砲で透の首すぱーんて飛ばしとったしなぁ」
「あれは笑ったよねぇ」
「いや笑えねーよ!? なにモフりながら物騒な話してんの!? どんだけ過酷な学校生活過ごしてんの!?」
「そーでもないで〜? 大抵は英雄さんらがその地区ごと焼け野原にしたりしなかったりやから」
「それなんて破壊!? 守る側なんだろ!?」
「信じてへんくせによぉ言うわ〜」
「るせぇ!」
「えっ、銀さん信じてないの!? マジか! じゃあなに、快刻も存在否定されちゃった系な?」
「いや、疑わしい目で信じてはもらった。なにお前疑われたん?」
「えー? 俺最初の人には「こんな世の中だ、そんなこともあんだろーよ」とかかっこよく認めて貰えたけど〜? 部下の人には「あり得ねーっす! そんなわけあり得ねーっす! でたらめっす!」って俺の存在完全否定されたんだけど〜?」
「喋り方ウザイアル」
「女の子だ! あー、んんっ。……ちょっとこっちおいでぇ?」
「すんません銀さん警察呼んでもらえます? この万年思春期エロボ喫煙バカは一回捕まった方がエエ思うんですわ俺」
「お前なかなか言うね、銀さんビックリだわ」
「コイツアホの子なんで」
「誰がアホの子だ誰が! この雰囲気勘違い残念ハイテンション歩く18禁飲酒バカ!」
「黙っとれ××××(ピー)が!」
「うるさいわこの××××(ピー)!」
「眼帯厨二病××××(ピー)!」
「××××××××(ピーー)!」
「お前らピーピーうるせぇ! 銀さんもそんなピーピー言わねーよ!」



第一部完

24:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 09:57 ID:gAY

もっかい「フレトリ」→「銀魂」トリップ。上の話とは繋がってません。
 注。フレトリ設定が今は小説にしていません。現段階で決定している編の設定を使います。
 今回飛ぶのは風紀委員長です。七王(炎の王)継承後。現在九代王としてフラフラしてたところ。炎の王は代々短命らしく(と言っても数百年は生きる)、炎の王だけは吹雪で十代め。成人して成長ストップ。

人物紹介。

黒鉄 吹雪(くろがね ふぶき):21歳

 世界の政治、財界、権力を握る13の表の家、表十三家のひとつ黒鉄家の長男。中学三年の時にトリガーもフレデリも持っていない一般人だと言うことで人前で勘当されて自ら出ていった元風紀委員長。
 実はその時既に炎の王「イブリース・イトシェル」と契約を交わしており、トリガー持ちと言う訳でも無かったが家が嫌で勘当てしばらくまで黙っていた。イブリースにそれは可哀想だと、六歳の契約した直後この世でトリガーとしてすごく珍しい『拒絶』のトリガーを貰った。
 こう考えると、吹雪は六歳で七王最強と言われるイブリースに勝利したこととなる。しかもトリガーもフレデリもなんの能力も無しに。言っておくが吹雪くんは本当にただの一般人だった人です。(七王との契約の際、彼らと精神世界で戦うことになるのだが、今まで千人一万人が挑戦しても成功者はたった数人)実力が化け物染みたただの一般人だった人だ。六歳だ。
 マイペースな性格で、話し方はどこぞの復活の風紀委員長。一人称俺。甘いものが結構好き。どこぞの復活の風紀委員長とは違い恐怖政治はしない。元々風紀委員長と言う座自体無理矢理押し付けられた形で就任していた。基本的に日本刀ではなく四節棍棒を使用。継承してから己である日本刀。
 昼寝が好きでよく屋上で姿を見かける。黒鉄家の格が堕ちてざまぁとか考えてる。綺麗な顔をした黒髪青年。炎の王を継承したので殺されるまで死なない。だが吹雪は怪我を拒絶すればきれいに治るのでほとんど不死。トリガー使いなので不老。頭脳明晰沈着冷静。
 補足だが、それぞれの属性の王を継承すれば右の肩甲骨辺りの皮膚に小さくそれぞれ属性の漢字が書かれる。炎なら「炎」雷なら「雷」。そしてその属性のトリガーも受け継がれる。ちなみに威力アップ。
 銀魂の世界にトリップしてからはイブリースではなく本名の黒鉄吹雪を名乗っている。当初なにここ、えー、みたいな感じだったけど吉田松陽さんに出会って行動を共にしている。
 服装はトリップしてくるその時普通に普段着だったのでワイシャツに赤と白のジャージの上を肩に羽織って下はカーゴパンツ。現在は目立つから、と着流し。
 銀時と高杉と桂がなついてくれてるので可愛くて仕方ない。表には出ない、表情があまり動かない。時々剣の相手をしたりとか勉強も塾で教えたり。基本屋根(瓦)の上で寝てる。
 自身の炎の王としての正装は特に決まっておらず、継承のもうひとつの証のコートを羽織ってりゃ良いだろ。って言う。本当に大事なときは九代目イブリースだった明智秀鶴(あけち ひでかく)から渡された狩衣の『先代の炎の王としての正装』を着る。
 周りからは冷たいように見えるけど優しい人と言う印象。



.

25:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 14:29 ID:gAY


 気が付けばそこにいた。はく、と口を動かして辺りを見回す。確か俺は家で読書に勤しんでいたはずだ。なんで屍まみれの戦場に立ってんの俺。どうした俺。
 本の代わりと言うように持っているのは元明智秀鶴現俺な日本刀『杯』。そして脇に抱えているのは継承したコート。



「……待ってわかんないこれ」



 静かに呟けば「何が分からないのですか?」と返答が来た。振り向けばそこには刀を携えた長髪の男。



「これは貴方がやったのですか?」
「……いや、違う。気が付いたら立ってたんだ」
「無意識下でやったんですね」
「いや、やってない。俺は汚れてないし、刀も血に濡れてない。俺はさっきまで部屋で本読んでたんだけど、気が付いたらここにいた」
「……珍しいことも有るのですねぇ」



 にこにこと笑う彼を横目に「……これからどうしよう」と呟いて死体の山に腰を掛ける。そうすれば彼は俺にいった。



「行き場がないなら私と来ますか?」
「……あんたと?」
「近々松下村塾寺子屋を開くつもりなんです。どうですか? 講師として来ませんか?」
「……」



 さしのべられた手を、取った。



「私は吉田 松陽です、これからよろしくお願いしますね」
「……俺は、……黒鉄 吹雪」
「吹雪くんですね、頼みますよ」
「……よろしく、先生」



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26:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 15:15 ID:gAY



 人の屍の上で、烏を横目に握り飯を口に運ぶ銀髪の少年がいた。
 そいつの頭に吉田は撫でるように手を置く。



「屍を食らう鬼がいると聞いて来てみれば、君がそう? またずいぶんと、かわいい鬼が居たものですね」



 吉田がそう告げれば銀髪のガキはそこを飛び退き自分の背丈にはずいぶんとあわない大きさの太刀をゆっくりと抜き去り頬についた米粒を舐めとる。その刀は刃こぼれが酷いし、血は付着して切れ味がひどく悪そうだ。それでも少年はそれを使って生き延びたのであろう。酷く、悲しい子だ。



「それも屍から剥ぎ取ったのですか。童一人で屍の身ぐるみを剥ぎ、そうして自分の身を守ってきたのですか。大したもんじゃないですか。
だけど、そんな剣、もういりませんよ。人に怯え、自分を守るだけの剣なんて捨てちゃいなさい」



 吉田はそう言って銀髪のガキにポイッと自分の刀を投げ渡す。雑か。おいこら雑か。
 重さゆえか受け取ってふらつくガキは体勢を整えたあと、吉田を不思議そうに見つめた。それを端から傍観する俺。



「くれてあげますよ、私の剣。そいつの本当の使い方を知りたきゃぁついてくるといい」



 ガキは吉田を見つめて、動かない。俺はソイツに歩み寄り、腰を屈めて服の袖でそいつの顔についた血を拭った。



「嫌じゃないなら、おいで。あの人、結構不器用なんだよ」



 そのガキの頭をくしゃっと撫でて背を向けた。



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27:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 16:36 ID:gAY



 あれから。あの少年はついてきてとある村にて『松下村塾』は開かれた。金のない子供に文字や剣術を教えて侍として生かすらしい。
 吉田松陽、俺と世界とは少し違った人物、ここはパラレルワールドかなにかだろうか。
 ここは江戸で、天人と言う宇宙から来たものを認めず戦っている攘夷戦争の真っ只中のようだ。
 それでも少しずつ俺たちは前へと進んでいた。
 あの銀髪のガキは坂田銀時。甘いものが存外好きでどこで覚えたのだろう下ネタが酷い。大層な悪ガキで授業はサボるわ昼寝はするわ、昔の俺と行動がそっくりだ。鼻をほじるのはいただけないが。



『銀時、久々に俺と試合しようか』
「やだよ、吹雪は手ぇ抜くし、それなのにつえーし俺瞬殺だし」
『ごめん、お前の古傷抉ったな』
「この人分かってて言ってる、分かってて言ってる!!」
『代わりと言っちゃアレだけど、ぜんざいを作ってきたよ』
「食うぅういぇい!」



 縁側からそう呼び掛けるとたたたとあのときに放られた吉田の刀を抱えながらこちらへやって来た。年の離れた弟が出来たようで少しむず痒い。
 甘味好きな銀時はすぐに飛び付いてきて「どこどこ俺のぜんざい」と俺の着流しの裾を引っ張る。あの子と似た髪色に少し泣きそうになりながら「道場だよ、みんな多分先に食べてる」と告げた。



「俺より先に!?」
『サボってたお前が悪いんだぞ』
「へいへーい」



 鼻をほじりながら道場の方へ駆けていく銀時を眺めて、無意識に言葉が漏れた。



「……雪」



 それを聞くものは誰もいない。



.

28:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 17:17 ID:gAY



 しばらくして、塾に子供が道場破りに来た。いい試合をしていたが銀時に負けて気を失い、俺が部屋へと運んで布団に寝かせた。
 頬に湿布を貼って、安らかに眠る黒っぽい紫の髪を撫でる。この髪が無償に右目を包帯で覆った彼に似ていて笑みを溢した。これくらいの子供が一番可愛らしい。彼は確か武家の子では無かったか。桂と言う幼くして当主になった子と一緒にいるのをよく見かけたが。
 目が覚めた彼に「まだ寝てろ」と声を掛ければ「いい」と返され、やっぱり可愛くないと溜め息を吐く。その前に額に乗せていた冷えたタオルを水につける。水はずいぶんと温くなっていた。



「まったく、寺子屋に道場破りなんて聞いたことが有りませんよ。怪我がこれぐらいですんでよかった」
「俺は弱いやつとしあうのに飽きただけだ……ホントはアンタかこの人、どちらかとやりたかった」
『……俺?』
「あの銀髪と一試合やってるのを偶然見た。ただ、あのときは本当に瞬殺で何をしたか分からなかったから」
『……もっと手を抜こうかな』
「ははは、あの銀時とあれだけやりあったのですから、充分スゴいですよ」
「でも負けた」



 布団の上でうつ向きながらそう告げた彼の顔は悔しげで、年相応に見えた。この子はきっと親に反抗して自由に生きたいんだろうな。



『吉田、ちょっと立つ。温いから、桶の水代えてくる』
「はい、わかりました」



 立ち去る前に彼の頭を撫でてから、桶を持って一旦その場を離脱した。後ろからあの子供が不思議そうな目をしてこちらを見ているとは知らずに。

**


 戻ってくれば吉田が「悩んで迷って君は君の思う侍になればいい」と彼に背を向けて穏やかな庭を見て告げていた。
 俺は気にせずその子供の側に腰を下ろして桶を畳に置く。すると、「アンタはどう思う」と子供が聞いてきた。



「……どういう人間が侍なのか」
『…なかなか、難しいな……』



 俺がそう告げれば子供は怪訝に首をかしげて眉をしかめた。それにどうかしたのかと思いながら敢えて触れず、彼の頭を去る前にしたように撫でる。



『お前、こうやって頭を撫でてもらった覚えがなかなか記憶にないんじゃないの』
「……」
『俺もそうだったよ』



 ふいと逸らされた視線に苦笑してそう告げれば奇妙なものを見るような表情で俺を見つめてきて、黙っている。
 俺は気にせず先程の答えを口にした。



『侍かなんて、人それぞれだよ。確かに、根本では吉田の言うように自分の思う侍になればいいのさ。
他人から見れば悪いことをしているようなのかも知れない、それでも自分が正しいと思ったことをすればいい。手出しは要らない、口出し無用、自由奔放、在り方なんて人それぞれなんだから』



 頭に乗せていた手を動かしてくしゃくしゃと頭を撫でると擽ったそうに俺を見つめてきて、少し俺は微笑む。



『お前、名前は?』
「……高杉 晋助」



.

29:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 17:44 ID:gAY

高杉side

 あれから俺は毎日のように銀時に戦いを挑んだ。
 先日も負け、一昨日も負け、昨日も負け、今日も負けた。
 日に日にぼろぼろになっていく俺は通っている講武館と言う塾で後ろ指を指されている。
 ぼろぼろになるのは俺が弱いから。でも、怪我をしたとき決まって手当てしてくれるのは吹雪さんだった。



『また負けたのか』
「負けた」
『お前も懲りないな、なかなか』
「俺が勝つまで、ここに来る」
『信念があるのは良いことだ。でも自棄だけは絶対に起こすなよ』
「……わかった」



 まったく、なんて言いながらこの人は手当てをしてくれるのだ。お人好しなのかなんなのか、でも、いい人だ。ほら、今日もこうして菓子を渡してくる。



『今日はケーキだぞ』
「……けーき…」
『外国の菓子だ、俺が作ったからどうとも言えないけどな。俺がよく作るやつだ』



 甘い香りが漂う。三角に切り分けられた真っ赤な苺の乗った生クリームがたっぷりと塗ってある柔らかそうなそれ。吹雪さんはそこの部分を銀紙で包んで俺に渡してきた。
 それを受け取ってから白いクリームが指につかないように銀紙部分を持って、先にぱくりぱくりと口に運んでいく吹雪を真似て先端に食い付いた。



「!」



 ベタつくような甘さだが嫌いではない。中の苺がみずみずしい。スポンジと呼ばれるものが存外柔らかくて、そのスポンジの間に挟まれたクリームの中からも苺が出てくる。甘い。美味しい。初めて食べたものだった。
 食べ終えた頃には吹雪さんはわしゃわしゃといつかのように頭を撫でて『怒られないうちに帰った方がいい』と案じてきた。


**

 家に帰ればクソ親父から竹刀で殴られて「次に問題を起こせば勘当だ、飯は与えない」と言われた。口から垂れる血を手で拭って、その後神社の境内で夕日に目もくれず前を見つめた。そこで桂が「婆め、俺はツナマヨは食わんといったはずなのに」とぶつくさ言いながら握り飯を持ってきた。聞いてたのかコイツ。桂に何か見つかったかと言われ、見つからなかったと告げてから俺はあいつらより強くなりたいと伝えた。



「ああ、そうだ高杉」
「なんだよ」
「黒髪の人からこれを預かってな。俺も食っていいらしいが、なんなんだろうな」



 そう言って桂が俺に渡したのは、小さな箱だった。開けてみれば昼間食べたものとは違う、茶色のケーキが2つ。



「甘い匂いだな」
「……ああ、ケーキって言うらしい」



.

30:ぜんざい◆A.:2017/02/25(土) 22:13 ID:gAY

吹雪side

 ある日、俺がショートケーキを大量生産して道場に差し入れに行ったときだった。途中、吉田と合流して道場へと入る一歩手前で立ち止まる。



「すげー! あの銀時に勝つなんてすげーよ!」
「よく頑張ったよお前!」
「な、馴れ馴れしくすんじゃねえ! 俺とお前らは同門か!?」



 晋助が周りに取り囲まれやんややんやと言われている最中だった。どうやらようやく銀時に一本取ったらしい。そこで、吉田が中へと入った。



「おや、違うのですか? てっきり私はもう入ったのかと思ってましたよ。だってあんなに毎日熱心に稽古に……いや、道場破りに来てたから」
『……ふはっ』



 後ろで両脇に大皿構えてた俺は堪えきれず少し笑いを漏らすと晋助を取り囲んでいた子供たちがいっせいに笑い出した。それに恥ずかしそうに顔をしかめた晋助。そこに「おいぃ!!」と怒鳴り声が混じる。声のする方を見れば壁に持たれかかって晋助を指差す銀時の姿があった。



「なにアットホームな雰囲気に包まれてんだ!!!! ソイツ道場破り!!!!! 道場破られてんの!!!!!!! 俺の無敗伝説(処女膜)ぶち破られてんのぉお!!!!!!!!」



 喚く銀時に『下品だぞ』と告げて敗けを認めたくないところに苦笑する。そこへいつの間にかやって来ていた長髪ポニーテールの少年、桂が「みんなでおにぎり握ろう!」と銀時の肩に手を置いた。もちろん銀時が黙っている筈もなく、「てかお前誰よ!? なんで得体の知れねー奴の握ったおにぎりなんて食わなきゃなんねーんだ!」と再び吠える。だが、桂は「誰が食べていいと言った! 握るだけだ!」と反撃する。「それなんの儀式!?」と叫んだ銀時は、うん、まあ悪くはない。
 そこへ吉田が「もう食べちゃいました」と返すからみんな大爆笑だ。あんたはもうちょっと空気を読めよ。

 きょろきょろと周りを見渡した晋助は少しうつむいてから声をあげてみんなと一緒に笑い出す。
 それを一瞥してから俺も微かに笑って、『差し入れだぞ、一人一個な』と両手に抱える大皿を地面に置いた。わぁっと歓声をあげて駆け寄ってくるから素直に少し嬉しい。銀時は真っ先に飛び付いてきて予想通りだったが、晋助も駆けてきてひとつ大粒な苺の乗った物を素早くかっさらって行ったのを見て気に入ってくれていたのかと笑う。後ろで居心地悪そうにしていた桂も手招きで呼び寄せてひとつ渡した。



「……俺もいいんですか?」
『構わないよ、食べればいい。ほら、晋助んとこ行っておいで』
「ありがとうございます! 俺、桂小太郎です!」
『俺は黒鉄 吹雪、よろしくな』



.

31:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 11:57 ID:gAY

快刻宗近連載番外編
【煙草は一箱に一、二本は馬糞みたいな匂いのする奴が入っている】
宗近side



「……というわけで。賛成三人と一匹反対二人、快刻の慈悲を加えても少なかったのでぇ、この議案は可決されましたぁー。えー、万事屋は今日から一週間禁煙ね」



 無情にも銀さんから告げられた言葉に固まった。背後に落雷が落ちた気がする。心なしか視界が暗い気がする。震えて泣きそうになりながら快刻を見ればバツが悪そうに視線を背けられた。ねえ、こっち見てよ。



「待って待って待って待ってぇぇ!!! それは駄目! ダメだよ! 俺の生き甲斐! 生命維持! 銀さぁぁぁん! 俺! 死ぬ!」
「るっせーな! 新八も珍しく俺らと同票なんだよ! 諦めろ! たった一週間だ! 死なねーよ!」
「まあ、宗近さんには悪いんですけど、副流煙になっても嫌ですし」
「部屋煙たいネ、飯マズアル」
「わふっ」
「俺の! 吸って吐いた息! 酸素!」
「三人とも吸う前の煙のこと言うてんねんて、諦めや宗近」
「かっ、快刻ぅぅぅう!」



 最大の理解者にすら見捨てられて、うわああああと快刻に必死にすがる俺。それを見て「ニコチン依存かよ」と冷めた目で見てくる銀さん達ギルティマジギルティ。
 そのまま銀さん達三人にポイッと万事屋から放り出された。運悪くそこは地面がなくて一階へと落下する。
 いたたた、と腰を押さえていれば「吸いたいなら外で吸いな」とピシャッと扉を閉められた。
 閉め出しを食らいました。

 そこから路上でも店に入っても公園でもトイレでも吸えなくてちょっとキレ気味な俺がいる。異空間から大剣『煙切(えんきり)』を出して暴れたいのを止めるように電柱に頭をがんがんとぶつけて血を垂れ流しにしていれば向かいの電柱でも同じことをしている人がいた。あちらも俺に気がついたようであぁアイツも吸ってたなって顔してくれやがりました。



「……土方さぁん」
「万事屋の、金髪……」
「真裏 宗近だってば……」
「どうなってんだァ? どこもかしこも禁煙禁煙って……いつの間にか喫煙者(オレたち)の居場所がどこにも無くなってるじゃねーか」
「吸うなって言われたら余計に吸いたくなる。もうだめだ限界だよこのままじゃ俺……」
「オレは……」



 そこで二人して見付けたのが喫煙所。そこで慌ててかけより土方さんは煙草を、オレは煙管を取り出して一服する。別にオレは灰皿とか要らないしね。
 すると土方さんが煙草の灰をトンと落としたところで大爆発。咄嗟に俺は煙管をバトンの様に回転させて爆風を防いだがモロに食らった土方さんは地面に横たわりながら煙草の箱が燃え尽きていた。うわ、悲惨。



.

32:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 18:27 ID:gAY

本編

 翌日も晋助は松下村塾へと顔を出した。隣にはにこにこ顔の小太郎も一緒に。



『来たんだ』
「あぁ」
「……ダメでしたか?」
『いや、何も。銀時なら道場で寝こけてる筈だ、奇襲仕掛けてこい』



 そうやって二人の頭を撫でて『後で稽古をつけてやろう』と告げてから着流しの裾を揺らしながら立ち去った。



**

 冷えたぜんざいを持って道場を覗けばそこではぎゃいぎゃいと仲良さげに怒鳴り合う銀時と晋助、それを笑いながら眺めている小太郎がいた。



『……お前ら、なにしてんの』
「あっ、吹雪ィ! 今日はぜんざいか!? ぜんざいだなひゃふー!」
『待て待てなんだそのテンション』



 駆け寄ってきた銀時にぜんざいを手渡しながら二人を手招きしてそれを渡す。



「……吹雪師匠が稽古をつけてくれるのか?」
「……師匠か」
「ぶはっ!!」
『……師匠とか柄じゃないけど、お前らがそれでいいならね。銀時、シゴくのはお前からだ』
「大人げねーぞ!」
『躾も師匠の務めだぞ』



 銀時の頭をわし掴んでお互い構え、瞬殺すれば二人がドン引きした目で俺を見ていた。そんな目をしなくとも次はお前たちの番さ。


 結局全員伸したもののまた来ると言って帰っていった晋助たち二人に微笑んだ。笑うなんて、俺もずいぶん丸くなったものだ。


**

 そのあとから晋助は来なくなった。恐らく父に来るなと注意されたのだろう。何者かがこの塾のことを近所の子供を集めて幕政批判、国家転覆、怪しげな教えを説いていると噂にしたらしい。妬みかひがみか、はたまた晋助への嫌がらせか。
 今日の昼、晋助が外から塾を眺めていた。そこからの会話を聞いてしまって、今日の夜役人が来るらしい。
 ……一肌脱ごうか。吉田松陽には、松陽には、恩がある。



.

33:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 19:01 ID:gAY

高杉side

 深夜、俺がとある屋敷の角に背を預けて役人が来るのを待っていれば、桂が「こんな夜更けに遊び歩いていいのか、今度こそ勘当されるぞ」とほざきながらやって来た。



「心配いらねェよ、どうせ明日には勘当される身だ」



 脳裏に昼、講武館の坊どもを叩きのめした光景がよぎる。桂に特待生を取り消しされるぞと言い返せばゆとり教育にはあきていたと台詞が返ってきた。おまけに銀時のところへ逃げるよう伝えたらしい。



「名門講武館きっての神童と悪童が組むんだ、役人の足止めぐらい容易かろう」



 そういってのこのこやって来た役人を見て、桂と顔を見合わせる。そこへ「名門の二人? 笑わせるな」と銀時が腰に真剣、肩に木刀を担ぎながらにやっと笑いながら姿を表す。おいおい桂、あいつらはもう逃げたんじゃなかったのかよ。



「松下村塾の悪ガキ三人だろ」
「お前は!」
「なぜここに! 逃げろといったはず!」



 そう怒鳴れば銀時はそりゃ松陽と吹雪の話だろとぶっきらぼうに返された。いわく、俺と松陽と吹雪は流れものだから居場所なんてどうにもなる。でも俺たちは違うからこれ以上関わるな、らしい。



「士籍を失いてェのか」



 そう告げた銀時の声は冷たくて、でもしっかりと俺たちを案じていることはわかる。
 そんな、戻る居場所があれば、俺はここに来ていない。あったとしてもここに来ている。



「何より士籍などという肩書きが必要なものには、もうなる気はない」
「もしそんなもんがあんなら、誰に与えられるでもねェ。この目で見つけ、この手で掴む」



 そうして桂と共に銀時の両隣へと腰に指した木刀を抜きながら告げれば銀時はもう何も言わなかった。ただ、「そうか、じゃあもう何も言わねェ」とだけ、告げて。



「おいそこの童ども、こんな夜更けに何をやっている。貴様らどこの家の……」



 役人のそんな声を遮るように、俺達は言い放つ。
 あの人たちに教わりたい。あの人たちの作るもんを一緒に食いたい。あの人たちの言う侍になりたい。あの人たちと強くなりたい。あの人たちと離れたくない。コイツに負け越したままじゃ居られない。



「松下村塾、吉田松陽、黒鉄吹雪が弟子。坂田 銀時」
「同じく、桂 小太郎」
「同じく、高杉 晋助」



 三人で各々に木刀を構えて、叫ぶ。



「「「参る!!」」」



 俺たちに動揺を隠せない役人は「なんだこのガキども!」と声を張り上げる。目の前の敵が刀に手を掛けたときだった。


『おい』
「抜かないでください」



.

34:ぜんざい◆A.:2017/02/26(日) 19:51 ID:gAY

高杉side



「そのまま剣をおさめていただきたい、両者とも。どうか私に、抜かせないでください。どうか……王様に抜かせないであげてください」



 役人の背後に居たのは、いつも通りの松陽先生と、何やら赤い狩衣を纏って上からコートなるものを羽織った吹雪師匠がいた。なんだ、あの吹雪師匠の姿は。見たことがない、あんな、足が鋤くんで震えるような殺気を振り撒く師匠なんて。それに、王様ってなんだよ……。
 そんな疑問を口にする前に、吹雪師匠は瞬間移動でもしたのか一瞬で俺たちの目の前に来ていた。



「私のことを好き勝手吹聴するのは構いません。私が目障りならどこへなりと出ていきましょう」



 そうして引き腰な役人の間を歩いてきた松陽先生は「ですが」と言葉を止める。止めた瞬間、吹雪師匠がチンッと刀を鞘に納めきる。そこで、パキィンと役人の刀の柄が折れた。



「剣を私の教え子達に向けるのならば、私たちは本当に国家位転覆しても構いませんよ」
『命が惜しければ、王(俺)の前に立つな。雑兵風情が』



 そう告げた二人の雰囲気は普段のものとはエラく違っていて背がゾクリと粟立ち唖然とする。



「やれやれ、教え子は巻き込まないようにみんな家に返したつもりでしたが、こんなところにもまだ残っていましたか。悪ガキどもが」
『危ないだろ、相手は真剣だぞ、斬れるぞ』
「でもすみません道場破りさん。破るにも」
『……道場も学舎もなくなったよ』



 申し訳無さそうにする松陽先生と吹雪師匠に俺たちは笑って告げる。



「心配いらねェ。俺が破りてェのは道場じゃねェ。アンタたちだよ、松陽先生、吹雪師匠」
「先生、師匠。我等にとっては、二人が居るところなら野原であろうと畑であろうと学舎です」
「それに、先生の武士道も師匠の武士道も、俺たちの武士道もこんなもんで折れるほどヤワじゃないだろ」



 そう告げれば驚いたような顔をする先生と、いつも通りの無表情ながら照れ臭そうにする師匠に自慢気に二人で鼻を鳴らす。
 フッと笑った先生は「そうですか、では早速路傍で授業をひとつ」と人差し指を立てて口を開いた。吹雪師匠の顔が酷いものになったので本能的にヤバいと悟る。



「半端者が夜遊びなんて100年早い」



 先生の拳骨ひとつで俺たち三人は地面に埋まった。



『……よく来たな』
「松下村塾へようこそ」



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