随にフラグメント

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6:∵(何故ならば):2015/12/19(土) 11:22 ID:QLI

>>5続き

 いつも通り、背の高い手頃な木によじ登り、夜の山林を見渡す。メデューサ族特有の蛇眼は、人間の発する赤外線を認識し、サーモグラフィのように写しだす。獲物を狩る為の……アサシン向きの眼である。
 50mほど離れたところに、それは写し出された。
 今日のターゲットは3人。全員ソーサラーであり、さしていきる価値もないクズだそうだ。
 都合よく山でキャンプを張り、見張りも付けずに眠っている。

「見張りが居ようと、全員寝てなかろうと、関係ないけどね……」

 慣れた手つきで弓に矢をつがえて、狙いを定めーーーーーー射る。生き死にも確認せず、すぐに次の矢をつがえ、射る。そしてまた、射る。
 蛇眼はけして視力はよろしくない。私の眼では流れる鮮血や死に顔を確かめることはできないが、サーモグラフィでピクリとも動かず、青くなってゆく3人を見たところ、ミッションは成功のようだ。
 あれから13年。息を吐くように人を殺し、他人の言葉を全く信用しない。冷酷で機械じみている。人間性なんて、微塵もなくなっていた。
 アサシンに人間性など、必要無かったのだから。なるべきして、私は人間性を切り捨てていったのだ。

「殺すこと、は、生きること」

 自分に言い聞かせるようにぽつりと呟いた。今になってどうして昔のことを思い出したのだろう。馬鹿馬鹿しい。早く依頼人に報酬を貰って、本部に帰ろう……。

 他のアサシン達の集う談話室の戸に手を掛けたとき、中から金切り声が響いた。

「俺を殺してよ!」

 内心同様しながら、控えめに戸を開くと、白い綿雲のような髪の少年(と言っても彼はドワーフ族であるため、年齢よりも見た目が幼いのだが)、ビャクヤが喚いていた。その向かいには、茶髪に紫の瞳をもった長身の男、クロガネが顔をひきつらせて、ビャクヤを凝視している。
 私は軽く部屋を見回した。アサシンはあと一人いるはずだが、仕事か何かで出掛けているらしい。


∵:2015/12/23(水) 03:00 ID:QLI [返信]

>>6続き

「剣を抜けよ。クロにとって俺を殺すことなんて簡単でしょ!?」
「ビャクヤ……」

 クロガネがちらりとこちらに視線を送った。「どうにかしてくれ」とすがるような目。私もどうしてよいか解らず、曖昧に目をそらした。
 ビャクヤがこんなことを言い出すことは、何となく予想していた。殺すことは生きることであると教えられてきた私達にとって、殺せないことは死に直結する。
 彼は、殺してでも生きることを恐れてしまっていたのだ。

「クロは俺のこと殺せないの? 仲間、だから?」
「違う……! 仲間意識で殺せないわけじゃ、ない……!」

 冷たい声色で問うビャクヤの目には、失望さえ伺えた。殺人機の様に育てられてきたクロガネが、殺すことを躊躇しているからだろう。
 私も、軽く嘆息する。クロガネが情に流されて人を殺せないなんて。ビャクヤの善くも悪くも人間らしい所に感化されたのか。
 私達、アサシンは“殺すことや死ぬことを恐れてはいけない。他人の言葉を信じてはいけない。情に流されてはいけない。ただ依頼に従って作業的に殺せ。人間性を捨てされ。殺すことは生きることだと言うことを忘れるなかれ。”
 ビャクヤの様に恐れることも、クロガネの様に情にほだされることも、アサシンにとっては不要なこと。アサシンには相応しくないこと。なのに。

「クロが殺せないならグレース。俺を殺してよ」

 うつ向いて表情の伺えないクロガネを、静かに見据えたまま、私にそう言った。
 ケットシー族の血が混じったビャクヤの猫目には、僅かな恐怖が携えられていた。
 嗚呼、この子は私が殺すことを信じて疑わないのだろう。人間性を捨てきれないビャクヤは、勝手に私を信用しているのだ。
 私の口から「それは出来ないわ」と告げられることなんて、予想もしていないのだろう。

「…………え?」
「勘違いしないでね。私はあんたを殺す正式な依頼でもない限り、殺そうとは思わない。それだけよ」

 それを聞くと、ビャクヤは自嘲気味に笑って言う。

「優しくしちゃダメ、殺し続けなくてはいけない、人を信用しないって、俺には難しいよ。」
「それはあんたが弱いから……」
「クロにも出来なかった。人間性を捨てきるなんて出来ない。そうしたら、壊れてしまいそうで……恐いよ」

 それから、ビャクヤは困ったように笑って私を見た。私の、一番嫌いな目で。

「クロもグレースも、取り乱してごめんね。部屋戻ろう」

 ビャクヤがそういったので、私も彼も、各々の部屋に足を進めた。

 ベッドと仕事道具が有るだけの部屋で、ビャクヤの困ったような顔を思い出す。苛立ちと共に。
 あの目に込められていたのは、同情。アイツは、私に同情したのだ。
 どういう意味だ。同情するのはこちらの方だ。恐怖を捨てきれなくて、殺す度に自分に怯えるような奴。アサシンになりきれないビャクヤの方が滑稽なのに。
 ベッドに腰かけて、苛立ちを押さえようと枕を殴り付けた。ぼふっと音をたてて、少し埃が舞う。

「…………………………」

 人間性を捨てきれない二人を考えて思う。それを失っている、私の方がおかしいのかも知れない。作業的に人を殺して、何も感じなくなってしまった私が。きっと仲間のアサシンを殺しても、何も感じない私が。誰よりも異端だったのか。
 そんな考えが頭を余儀って、足先が僅かに震えた。


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