鉄の獣と少年兵

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2:紅めだか:2017/01/29(日) 03:06

「少年よ、もう目覚めなさい」

夢の中で、少年に語りかけてくるものがいた。
それは固い皮膚に覆われた大きな大きな怪物だった。
怪物は少年の顔に息を吹きかけると、少年を無理矢理起こす。

「うるさいな、僕はギルトだっていつも言ってるだろ」

少年……もといギルトは無理矢理起こされたからか、不機嫌そうな顔をしている。
まだ寝ていたかったのに。と、言いたげな表情で怪物を睨み付けると、大きなあくびをする。

「そうだったな、ギルト。だが今は寝ている場合じゃないんだ」

ギルトの目をじっと見つめ、深刻な状況であることを伝えようとする怪物。
しかし幼いギルトは、なにも感じ取ることができなかった。

「どうしてだいエーラ、なにかあったのかい?」

ギルトが怪物(エーラ)に問うと、エーラは下を向きグッと拳を握りしめる。

「あの憎きタルザイン帝国の軍隊が、トワロック渓谷を越えてこの町までくるんだ」

エーラはそう言い、西にあるトワロック渓谷の方をちらりと見やる。
暗くてあまりよく見えないが、よく目を凝らして見ると遠くの方に黒煙があがっているのが確認できた。
ギルトは元タルザイン帝国の少年兵であり、帝国の手足となり戦った。
そんなある日、戦地の片隅に横たわる傷だらけのエーラを見つけた途端に、彼女をつれて軍から逃げ出したのだ。
帝国側は逃げ出した彼を反逆者と見なし、見つけ次第抹殺するようにと部下へ命じ、二人の居場所をどんどん奪っていった。

エーラの傷はすぐに治った。が、しかし心の傷だけはなかなか癒えなかった。
エーラはあの戦地で帝国軍に捕まり異形の容姿からか、はたまた種族の違いからか、兵隊達のいいサンドバックにされていたらしい。
そんな彼女を哀れんで、ギルトは彼女をこの小屋まで連れ出した。
そしてギルトはエーラが一般人の目につくことで、怪物―――――機械獣であることを悟られないように、彼女を電車として運用することにしたのだった。
はじめこそ怪我だらけになったものの、電車の飼い主である駅員による手当てや、ギルトによる応援を受け、今ではすっかり一人前(一匹と言う方が正しいが)になったのだ。

「ギルト、私は嫌だよ。また君と離れ離れになるだなんて」

エーラが不安そうにギルトに寄り添うと、ギルトは優しく彼女の頭を撫でる。
安心させるかのように、優しく優しくゆっくりと撫で上げた後、エーラの頬に軽くキスをする。

「大丈夫だよ、安心しな。エーラはオイラが絶対に守ってやっからな」

心優しい少年兵はそういい、心優しい鉄の獣に抱きついた。
鉄の獣は幸福だった。優しい彼と出会えたことで、心は満たされていた。
少年兵は不幸だった。優しい彼女と別れることで、心は荒れ果てていた。
二人の思いはすれ違っていた。けれど誰もそれに気がつくことはできないのであった。
なぜならそれは、二人の関係がそれまでずっとうまくいっていたから。


彼らが運命の決断をする時は、ゆっくりと近づいていた。


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