憂え、新時代の日の出を

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28:水色◆Ec/.87s:2022/06/18(土) 15:13

数分。
瓦礫の間に入り込む等して夥しい足音をやり過ごしたエルザ達は、自分達が敵の後ろにいる事を確認した。
既に敵は拠点を半包囲し、何やら叫んでいる様子。挑発か、降伏勧告か。······だがどちらにせよ、無駄に広い拠点は寂として無反応である。
その隙に······エルザは銃を構えた。
「······何を······?」
危ぶむ水夫の声に、エルザは不敵な笑みを作り、慎重に狙いを定める。
「差は10倍以上。普通に戦ってたら勝てないってね······だからこうする。さ、皆も構えて。なるべく豪奢にみえる人······つまり。指揮官を狙うんだよ」


拠点の奥の方に控えていた組は、突如として響く銃声を聞いた。その直後────今までこちらを罵っていた敵の声が突然消える。そして、何やら騒ぎ出した。
「よしきた!······ラスク君とその他数名!松明を数本持って敵に投げて!くれぐれもアジトの建物には当てないようにね」
早速提督の指示が飛ぶ。丁度待機していた掘っ建て小屋には、火のついていない松明が山と積まれていたので、命令を受けた者は30秒とかからずに行動に移る。
投げられる松明と共に、即座に上がる爆炎。かねてプラスチックが撒いておいた液体に次々と引火し、敵の集団を大混乱へと突き落とす。自然とそれらは火の上がらない場所に固まるものの、······丁度そこへ砲弾が飛んでくる。
運悪く直撃して即死する者、衝撃と爆炎によってなぎ倒される者、悲鳴を上げて逃げ惑う者────一瞬にして地獄絵図が形成された。

「逃げる敵は追わないように!倒れてる人は救助して勧誘するんだよ!」
ひとまずの勝利の光景を見下ろしながら、提督はひとまず息をついた。あれだけ居た敵が、見る影もなく四散している。
今回の大殊勲者であるエルザが戻ってくるのを見ると、彼女は両手を広げて迎えた。
「おかえり。······どうだった?」
「いやまあ何とも。最初はなかなか無茶だなーと思いましたけどね······」
そんなこんなで話し込んでいると、一人の水夫がこちらにやって来るのが見えた。カリナにつけた水夫だった。
「1000人以上の大軍がこちらに来ますよ。······第1波は撃退したみたいですが······今度は本軍がそのまま来るみたいです」

······地獄はまだ終わらない。


水色◆Ec/.87s:2023/03/10(金) 00:22 [返信]


「······1000人ねぇ」
報告を聞いた提督は一瞬呆然としたようであった。
「どうします?流石に2度も同じ手は通じないでしょう」
「まあね。じゃああの手でいくよ」
不敵な笑みを浮かべるエルザの言葉を聞いて、再び水夫や幹部やらに指示を出していく提督。
しかし、
「君はここに留まってて」
一礼して戻っていこうとする水夫に対しては、この場に留まるように言うのであった。




「救助活動は一旦中止!目がいい人は見張り台へ!近付いてる方から順次片付けてくから!」
「流石に剥ぎ取った服を着るのはちょっと抵抗あるけど。そうも言ってられませんよね」
「服着るだけじゃダメだよぉ〜。汚れてたり傷ついてたりする雰囲気も出さないとね」
提督の声が響く中、エルザとプラスチックはとある小屋の中で何やら着替えを始めていた。後者は第1陣を追い返してから1杯呑んだようで、手つきが若干怪しくなっていたが、ともかく。
その着替える服が、バルサス・シンジケートの構成員から鹵獲したという────いわゆる偽装用の服だったのである。
「これを着て数人の水夫と一緒に敵陣に入り込む。それで機を伺って引っ掻き回す作戦だね〜。ちょっと手駒足りないけど」
「あと10人いたら、って軍師さんが嘆きそうだけど」
「それは禁句なんじゃないかな······?」
軽口のような何かを叩き合いながら着替えを済ませる女2人。エルザはともかく、プラスチックも参加するあたり、彼女も戦闘にはかなりの自信があるようである。
「ま、居ない人の事を話しても始まらない······私たちは暴れるだけです。行きますよぉ!」


アジトの一角から、バルサス・シンジケートの服を着た水夫が7、8人程飛び出していく。さも必死そうな様相をして。
「向こうは看守に回す人手すらないのか······」
「集めてても30人くらいだろ。手が足りるとも思えん」
「流石にさっきの3倍ほど居れば大丈夫だろ······と、時間だな」
海賊のアジトを望む、1000人程の軍勢。その中心には、護衛に護られた数名の男が集まっていた。何やらフラグらしい会話が聞こえるが、どうやら今すぐ仕掛けはしないらしい。時間だ、との声を受けても、軍勢には動く気配がない。
────まるで、何かを待っているかのような────
「遅いな」
と、苛立った声が響く。




その、直後。
掘っ建て小屋の一角から、炎が吹き出たのである。


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