黒歴史投げ場

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9:ヒツ◆.o:2018/12/11(火) 17:55

『無敵のカエルへの序章』

「あなたは死にました」

唖然として身動きの取れない俺の前に立ち、美しい肢体から溢れんばかりの輝きを放つ女は言った。

これは比喩表現ではない。

俺自身が説明したこの女の容姿も、この女の言葉も。

俺の記憶は混濁していたが、大型トラックがけたたましいクラクションを鳴らしながら、俺目掛けて突っ込んできた光景が目に焼き付いていた。もうあの大事故からの生還は絶望的だろう。
これが俺の最初で最後の臨死体験__否、俺は死んでいるので死亡体験?
まあ細かいことはどうでもいい。
痛みは覚えていないが、俺の死因はどうやら交通事故のようだ。

「私は人間達が言うところの女神。
ああ、貴方のいた時代はもう宗教が廃れているのでしたね。異空間から貴方達人間を見守る高次元生命体、とでも言えば分かりやすいでしょうか?」

女が口を開いた。女神なんていう非科学的な言葉、普段ならば真っ先に疑うだろうが、この現状だ。女の言葉を素直に呑み込み、コクリと頷く。
俺はこの展開に覚えがあった。
生前、勉強がダルくて高校を中退し、バイトも探さず惰眠を貪っていたニートの俺が、有り余る時間を潰すため読み漁ったラノベ。アレに書いてある通りの展開だ。

「ああ、わかったぞ、あんたの手違いで俺は死んだんだろ。それで俺はお詫びとしてあんたから超絶チート能力をもらって、異世界に転生してウハウハハーレムする。それならまあ手違いに関しては許してやっても..」
「何を甘ったれているのですか?」

女神は、きたる異世界ライフ浮かれていた俺にぴしゃりと言い放った。

「あなたは私の手違いで死んだ訳でもなければ、チート能力とやらを授けられる資格もありません。そもそも異世界に干渉するのは私達の間では禁じられていますから、例え手違いであったとしても、私の独断でそんなタブーを犯す訳にはいきません。」
「そ、そんな!じゃあこれから俺はどうなるんだよ!」

侮蔑の視線と共に現実を叩きつける女神に噛み付くように、俺は目を見開き腹についた贅肉をタプタプと揺らしながら抗議した。せっかく嫌な現実から逃げ出せると思ったらこれだ。俺はつくづくツイていない。

「ご心配はなさらず。転生は通例通り行います。ただ、あなたの生涯評価は最低ランクのFですから、人間には転生できませんね...。そうですね、脆弱な個体で同族に虐げられる事にはなりますが、豚なんかがおススメです」
「は?豚?誰がなるかよ!俺虐げられるのやだし!なんか他にねえのかよ!」
「あら。人間に食肉加工されるまでなんの責任も負わず呑気に生きていける辺り、あなたにはピッタリだと思ったのですが。」

声を荒げる俺に、女神の視線は冷たさを増していく。
弁明するが、俺はこんなカエル面の醜い容姿に生まれたせいで、散々虐げられてきた。性格が歪んだのもこのカエル面のせいに違いない。俺を産んだ両親は恨んでも恨みきれない。
俺は、もう日陰者として隅で震えながら生きるのは嫌だった。


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