『こっちの名前は赤坂いおり。高3や。よろしゅう』
「ああ、よろしく。俺は」
『日向順平、やろ』
「……高尾、赤司。赤坂さんに俺の名前教えた?」
「いえ」
首を振って赤司が否定する。高尾は「やっぱしってんのかー」と感慨深いような顔をして頭の後ろで手を組んだ。
赤司に事情を説明しても良いかと目配せされ、『好きなように』と手をひらひら振った。赤司は日向と伊月に向き直って告げる。
「赤坂さんは俺達とは違う世界の人です」
「あ¨ぁ!?」
「ええっ!?」
二人してバッとこっちを見つめた。何でもないような顔をしていると、「マジで?」と日向が向き直って聞く。
「マジです。俺達の事を知っていた理由は、赤坂さんの世界では俺達は漫画のキャラクターだそうだからです」
『せや』
「些か信じられないな……」
『ん』
信じられないなと言った伊月にコミックス一巻とキャラブックを渡す。それを見るなりキャラブックを見て高2が驚き、漫画のタイトルを見て全員が目を見開く。
「……黒子のバスケ?」
「え、黒子が主人公なのかよ!?」
「影が薄い主人公か……ハッ!!
黒子(ほくろ)の黒子!」
「伊月ホントてめぇ一生黙ってろ」
「やっべぇ黒子とかサイコー!!」
これは信じるしかねぇな、と日向が苦笑いをしたところで、こっちの顔は強ばる。なんだ、この嫌な雰囲気は。
ばくばくと激しく高鳴る鼓動とだんだんと加速する呼吸。ぜっはっ、と目を見開き、冷や汗が地面にぽたりと落ちた。胸焼けのような感覚に胸の中心を服の上からぐしゃ、と握る。立っていられないぐらいの不快感に襲われ、膝をついた。何かが来る。勘だがそう感じとった。
そこでみんながこっちの異常を感じとり、屈み込み赤司がこっちの背中に手を置く。
「どうしたんですか赤坂さん!」
『赤司、わる、やべ……気っ持ちわり、なんか……来る』
来る。の瞬間、不快感や体の異常が吹き飛んだ。みんなは背を向けているから分からないだろうが、目が、合った。
そしてソレは、確かに口を動かした。
ミ イ ツ ケ タ
自分の呼吸がひゅっと短くなったのを感じる。身の毛がよだつ。ソレは裂けた口で笑って、余計に裂けさせる。瞳孔が開いたのが分かる。ぶわりと鳥肌と冷や汗が溢れ出た。血の気が引く。
『う、あ……わあああああああ!』
立ち上がって叫んだ瞬間赤司達が視線の先を見て、顔を青ざめる。そして、
「走れええぇぇぇぇええ!」
日向の叫びでみんな超真剣な顔で全力疾走だ。逃げろ。
あの、口の裂けたゾンビから。
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