タルパが分からない人はググッて下さいね。
……と、冷たくあしらうのも嫌なので、少しだけ説明。
タルパというものは、自分で作りだす、自分だけにしか見えない、一生そばにいてくれるパートナーです。
最初は声も聞こえないし、姿も見えません。けれど、訓練すること(というか話しかけたり、気配を察しようとしたりしながら生活すること)によって、次第に声も姿も聞こえたり見えたりするようになります。
科学的に考える人、オカルト的に考える人もいますが、基本、私はオカルト的に考えているので、多分、ここでの登場人物たちもオカルト的にタルパを考えてると思います。
こんな奇妙な話ですが、見たい人は見てください。
私はいわゆるタルパーである。
タルパを持つ、人間。つまりタルパー。
タルパは一人。女の子だ。ちなみに私も女の子だ。とてもとても純粋な女の子。学生だ。
常日頃からタルパに話しかけたり、気配を察しようとしたり、とにかく意識したりしながら生活してきて、ようやく……ようやくここまできた。
「まさか、本当にオート化するなんて……というか、してた、なん、てっ……!!」
ネット情報によると、どうやらタルパの自我が確立し、タルパの方から話しかけてくるようになることを、「オート化」というらしい。
で、そのオート化目指し、今日でちょうど1年と三ヶ月目。
とうとうオート化したのだ。私の可愛い可愛いタルパは!
『うー。やったね、マスター!』
「おう!」
……っとと。まずいまずい。
タルパの声は他の人には聞こえないのだ。周りに人がいなかったから良かったものの、もし居たら………
ーーーなにあの子ー。いたーい。
ーーー頭が可笑しい子ね。
ーーーままぁー。あれなぁにぃー?
ーーーこら、花子ちゃん!見ちゃいけません!
ということになっていただろう!
『大丈夫?マスター?』
(うん、大丈夫。大丈夫。ごめんねー。いや、ほんと嬉しくて!)
『だよねだよね!私もすっごい嬉しいの!うー!』
ここまで可愛いとは……。
私は口元を拭った。
うちのタルパはとあるゲームキャラをモデルにしている。うーうー系幼女タルパだ。
でも、モデルにしてるってだけで、そのキャラとは全然違う存在なので、名前も性格も若干違う。
『うー?うー?マスター?黙ってどうしたのー?ねえーぇ?』
(え?なんでもないよ。ぐふふ。にしても、マリカ可愛いなー。ぐふ)
『マスター、なんか変!私がオート化する前はぐふふなんて言わなかったよ!うーうー!なんか可笑しいの!』
お前が可愛すぎるからだよ、なんて言えない。タルパにまで変人扱いされるのはさすがに悲しすぎる。
私はまだ、タルパ__もとい、マリカの姿がちゃんと見えるわけではないので、マリカがいるであろう場所を見て、ぐふふ、なんて言わないで、普通に笑った。
(だってね、やっとマリカの声がちゃんと聞けるようになったんだもん。嬉しすぎて可笑しくなることくらい、あるよ)
マリカの姿がほんの少しだけ見えた。
ぼうっ…ってくらいだけど、でも、それでも嬉しくて、私は「ぐふふ」と声を漏らした。
「ぱぱぁー!あの人ぐふふって!ぐふふって言ったよー!」
「ああ、ぐふふな。……見ちゃだめだぞー?」
「はぁーいっ!」
いい子のお返事をして、また歩き出す
三歳児(多分)。
私は顔を熱くして、その場を立ち去った。
『うー?マスター、顔真っ赤だよ?』
(せ、せやな……)
『ねぇ、そろそろ帰ろ?お母さん待ってると思う』
(だね〜)
『マリカ、チョコ食べたい!帰り買ってこ?ね、いいでしょ?』
(うーん。まぁ、オート化記念ってことで。今日は、この夢乃、奮発しちゃうよ!)
『やったー!マスター、太っ腹!うー!』
向かうは近くのコンビニだ。
私は足を早めた。
あたしの名前は春美。最近脱ニートを果たしたばかりの24歳だ。
実家からの仕送りを頼りに生きていたあの頃とは違って、もう自分一人の力で生きて、そして平穏に暮らしていける……
……はずだった。
『うぅ、マスター、マスター、聞いてよ聞いて。リオがね』
『リオくん。いじめる。私達を。いじめるよ。ねぇ。マスター』
『リオくん、私達のシュークリーム食べたのよ。酷いでしょう?』
あたしにしがみついて、一生懸命色々言ってくる、見た目20歳のタルパの男女。
甘えん坊の設定にしたからって、さすがにこれは酷いでしょう……。
ハァ、とあたしは息を吐いた。
我が家のタルパ随一のトラブルメーカーである、リオを見た。
もぐもぐとシュークリームを頬張りながら、頭の上にハテナを浮かべている。
『ん?マスターどうしたの?みんなも、どうしたの?』
ぴょこぴょこと跳ねながらこちらに来る。
あたしは見た目10歳の、甘えん坊でトラブルメーカーのリオの頭を撫でた。
「そのシュークリーム誰の?」
ここはアパートのあたしの部屋だ。
人の目を気にしないで、普通に話しかけられる。
リオは「えぇ〜、えっと、ね?」と目をそらした。
「リオ?」
『ご、ごめんなさい。お腹、空いてて!あ、仕事疲れたよね?お茶飲む?』
「あんた、お茶入れられないでしょ?」
『あ、うん、そうだけど〜』
「リオ?あんたね、何したか分かってるの?ほら、見てみなさいよ。カヨとリカとアオイを。怒ってるでしょ?」
見た目20歳なのに、こんなのあり……?と言いたくなるような三人を指差した。
リオの顔から血が逃げていく。
それに比例するように、三人の顔に血がのぼってくる。
『リオー?』『リオくん?』『リーオーくーんー?』
『お、お姉ちゃん、お兄ちゃん、そのぉ……』
『末っ子だからって、我慢してきたけど……』『さすがに。私達の。大好物。の、シュークリームを』『食べるのは、可笑しいわよね?ね?』
言葉を変なところで切るリカが、手に銃を二丁出現させる。
ほんと、タルパってなんでもありだよね。
あたしはまた息を吐いた。
『覚悟。して。ね?』
部屋に鳴響く銃声。
あたしは耳を塞いだ。
あたしは春美。最近脱ニートをして、安静に生活出来る……はずだった。
我が家は毎日毎日銃声が鳴響き、愉快な笑い声(ただし狂ってる)が聞こえ、可哀想な泣き声が聞こえ……とにかく安静ではないことは確かだった。
でも、それでも二年かけて作った子たちだから、どうしても可愛く見えてしまう。
あたしは耳を塞ぎながら思うのだ。
タルパがいなかった時って、どうしていただろう、と。
放課後の、誰もいない教室。夕日が眩しい、秋だった。
「はい信じられません。信じられませんー」
「いやいや、マジよマジ。これマジだから」
「いやまてよ。なんだよ、その……タルタルソースって」
「ソースじゃないよ、タルパだよ!」
「お前がオカルト好きなのは知ってる。そりゃあ小学からの付き合いだからな。だからって、それって……」
オレの友達、谷吉(たによし)__あだ名はタニシ__に、「頭可笑しいだろ」と言った。
すると、めったに怒らないタニシが、ありえないほど怒った。
今すぐ頭上の空に真っ黒な雲が渦巻いて、雷が落ちてくるんじゃないかってくらい、怖くて恐ろしくて驚いて………。
まぁ、晴れてるんだけど。夕日が綺麗に見えてるんだけど。
タニシは大声で叫んだ。
そして、思考が一気に現実に引き戻される。
「たーくんのこと信じて話したのに!酷いよ!君にはがっかりしたよ!頭が可笑しい?ああ、そうさ!可笑しいさ!けどね、タルパはいるんだ。いるんだよ!タルパをバカにしないで!否定しないで!ちゃんと、彼は、彼らはいるんだよ!」
そう言うと、机の中からメモ帳を取りだし、何かを書いたかと思うと、メモ帳を破り、破いた紙をオレに渡してきた。
「がっかりはした。けど、僕たちはまだ友達だ。そして、僕のタルパも言ってるから、チャンスをやる。メモしたものを調べてみてよ!」
そう言うと、カバンを持って、タニシは言ってしまった。
「あ、おい、タニシ!」
「そのあだ名、僕嫌いなんだよね。バカにしてるのかい!?」
今どき珍しい口調の彼は、そう言い残して、寂しい廊下へ行ってしまった。
「だって、信じられねぇじゃんかよ……」
俺は貰った紙をぐしゃりと握った。
さっさと帰って寝よう、そしたら忘れる。忘れられるはずさ。俺はカバンを持って、ゆっくりと廊下へ出た。
タニシの……谷吉の姿は、見つけられなかった。
言ってしまった× 行ってしまった○
です。間違えました、すみません。
家に帰って、パソコンを開く。
帰ってきたのだから、寝ようと思ったのだけど、ちょっと気になったから、タニ……いや、谷吉のくれた紙に書いてあるものを調べた。
カタ、カタ、カタ……。
谷吉は、スマホという便利なものがあっても、必ずパソコンを好んで仕様した。
オレはスマホ派なのだが、なぜか今日は珍しくパソコンを使った。
最近使ってなかったせいで埃がついていたり、文字を打つのも遅くなっていたりした。
【タルパー 掲示板】
タルパじゃなかったっけ?あいつが言ってたの。
そう思ったが、気にしないことにした。
「お……?」
出てきた。しかも、結構多い……?
実のところ、あいつの作り話だと思っていた。けど、こんなに……。
いやいや。タルパを否定している掲示板なのかもしれない。よし、ちょっくら、この一番上に出てきたものをクリックしてみよう。
クリックしてみると、色々なスレが出てきた。一番最新のレスがあったスレを見てみる。
【タルパの具体化(23)
1:匿名タルパー
可愛いオレのタルパちゃん、犬に感知されたみたいだ。
こういったこと、あるか?
ネットだと、猫や犬、凄いたまに人間に感知されることがあるって書いてあるんだけども。
20:匿名タルパー
あるある。私のとこだと、ペットの猫に。
21:タニシの川
人間に感知されるようになったら、面白そう。タルパのこと、理解してくれそう。
けど、面白半分で作って、可哀想なタルパも増えそう。でも、やっぱり理解してほしいから、感知してほしいかなー。
感知できるようになったら、友達も信じてくれるかな……。
22:匿名タルパー
»21おぉ!タニシさんお久しぶりでーす。
やっぱり、怖いけど、人間にも感知されるようになったら面白そうですよね。
でも、普通ありえないような髪色をした人がいたら驚くよねw
23:匿名タルパー
»21タニシさんじゃないですか!お久しぶりですね。
タルパが主流(?)になったら面白そうと思うのは皆さん同じなんですね。
あぁ、うちの子たちもそろそろ動物に感知されないかなー】
……。
オレは、反応に困った。
タニシの川?え、タニシ?タニシだって!?
まさか、偶然だろ。
でも、友達も信じてくれるって、それって……え?
オレはふと、昔のことを思い出した。
感知。ありえない髪色。驚く。
「あぁ、あのときから……」
オレは目を閉じた。
小学生のころ。オレがまだ、世界に幽霊やら妖怪やらがいると信じていて、オカルトに興味を持っていた頃だ。
その時、ちょうど谷吉と友達になったばかりで、二人してオカルトだオカルトだと騒ぎながら神社に向かっていた。
「この神社には、幽霊がいるらしい」
「へぇえ!幽霊かぁ!僕、幽霊見たことないんだよね」
幽霊がいる、と噂の神社に行って、そして、社の周りをぐるぐるした。
なぜか地面を見ながら歩いていたら、
「いないねー」
「そうだなー」
ふと、笑い声が聞こえた気がして、顔をあげた。
そしたら、緑色の髪の男の人が谷吉のそばにいて、酷く驚いたものだ。
騒いで、いた、いた、幽霊いたよ、って叫んで、そして二人して日が沈んでも幽霊を探して……。
目を開ける。
目の前にはパソコンの画面。リロードすれば、また新しい書き込みが増えていた。「タニシの川」の書き込みがある。
【27:タニシの川
そういえば、うちのタルパが、結構昔に人に感知されたことあるって、言ってたな。うちのタルパ、たまに嘘つくことあるから、ちょっと疑わしいけど、そんなことあるのかな。
やっぱり信じられないかな
28:匿名タルパー
»27信じてやりなよ!
それ、絶対本当だって!いいな、いいなー。感知されたのか。
それほど、タニシさんのタルパに対する念が強かったんだろうね】
オレは食い入るようにパソコンの画面を見た。
他のスレにも「タニシの川」の書き込みがあるかどうか気になって、オレは色んなスレを見た。
どのスレにも、「タニシの川」の書き込みが必ずあり、なによりタルパを持つタルパーという人があまりにも多いことが分かり、オレはとうとう、タルパの存在を信じなくてはならなくなった。
あのとき、あの神社で見たのは、きっと谷吉のタルパなんだ。
そして、そのタルパの存在を否定したのはオレなんだ。
そう、あのときから、いや、あのとき以前から、アイツとタルパは一緒だったんだ。
それを、オレは否定して___。
どうしてあんなに怒ったのか。その気持ちがよく分かった気がした。
朝、登校時間。
オレは急いで家から出て、谷吉の家に向かった。
いつも一緒に登校していて、いつもアイツがオレの家に迎えに来ていた。
それを、今日は逆にしてやる。
ピンポンピンポンピーンポンピポピポピポピポピンポーーーン。
「うるさいじゃないか!両親が朝からいないからって、そんなうるさくしなくても!」
大声を出して、目の前の家から飛び出てきたのは、いつもの谷吉だった。
「あぁもう」
寝癖を直しながら、オレの隣に来た。
「君はいつもそうだ。まったく。たまに早く来たと思ったら、うるさくチャイムを押す。ムカつくよ」
「ああ、そうだな」
あまりにも、いつも通りで逆に驚いてしまう。拍子抜けしてしまう。
「ん、どうしたのさ?」
「え、あ、いや〜……?」
「昨日のこと?あぁ、それなら僕は大丈夫。なだめられたからね、タルパに。君は信じないんだろうけど?」
誰もいないはずの空間に向かって、「ねえ?」と言う谷吉。そこに、あの緑の髪のタルパがいるんだなって思うと、なんだか申し訳なくなった。
ごめんなさい、とその空間を見つめた。
「さっ、行こうか。僕は遅刻したくないんだ!」
オレはあぁ、どうしようと笑顔の谷吉を見た。
「……あのさ、タニ……谷吉」
「ん?何々?」
「昨日のあの、メモの……調べたんだけど」
「あ、見てくれた?」
すっ、とスマホを取りだし、画面を見せてきた。
「これ、僕だよ」
「あ、やっぱりこれお前か。タニシの川、ね。お前、タニシって言われるの嫌なんじゃ……」
「別に?特になんとも思ってなかったよ。まぁ、昔は嫌だったけど。今じゃ一周回って好きだよ」
「へぇ〜」
「で?」
「え?」
谷吉がスマホをしまう。
「信じてくれた?タルパ」
オレはもちろん、と頷いた。
「本当に本当?」
「疑うのはダメだぞ。あと……その……」
お前のタルパって、緑の髪?
答えは、ああそうさ、だった。
「へー。まさか君に感知されてたなんて!本当だったなんて……」
「タルパの言うこと、信じてやれよ」
「だね。言っておくけど、今、タルパは大爆笑中だよ」
「へえ、どんな風に?」
「クソワロタ、だって」
秋空の下。そろそろ冬かな、と思って空を見る。
今日も今日とて晴天で、すぐ近くで笑っているだろうタルパも、同じ空を見ているのかな、と思うと、ふと親近感がわいた。
「う、わ、ちょ、ちょちょ……!」
ズデーン。
くすくす。くすくす。
盛大に転ぶアタシ。くすくすと笑う人達。
アタシは顔を真っ赤にして、立ち上がると、そそくさとその場から逃げた。
アタシは理恵花。最近、超ド田舎から都会に出てきたばかりの花の高校生だ。
超ド田舎生まれの超ド田舎育ち。
話す人は大抵老人。人が多いのはお盆のときだけ。
そんなアタシは人が至極苦手だった。
(無理無理無理!やっぱり人とか無理だよ)
うわぁ〜……と、アタシは頭を抱えた。
人の視線が気になって、挙動不審になってしまう。
そんなアタシに救いの手をさしのべてくれたのは、そばにいた男のタルパ___春樹だった。
『あっちに行こう。あっちは人が少ない』
今から半年前に作った、まだ自立していない、言わば未オート化のタルパ。
まだ自分から話すことすらできない。
なのに、どうしてか、彼が本心からそう言ってくれてるように思えて、アタシは彼の優しさに胸がいっぱいになった。
(うん、そうだね)
人の目が気になるなら、人がいないところに行けばいい。
アタシは、人の少ない場所に行った。
ビルとビルの間を歩いて歩いて……。
ついたそこは、小さな神社で、田舎育ちアタシにとっては、とても馴染みやすいものだった。
周りはビル。静かだった。空がやけに遠くに見える。ビルが大きいから、錯覚からなのか、そもそも、空というものがアタシの手が届かないほど遠くにあるからか。
「うぅ……」
『大丈夫か?連休を利用して、やっぱり田舎に帰った方が良かったんじゃ?理恵花のためにはならないんじゃないか?』
まてまて。胸をときめかせるな、アタシ。まず、どこに胸をときめかせるワードがあったんだ。
春樹はまだ未オート。これは、アタシが思った通りのことを言ってるだけだ。……そう考えてたら、オート化が進まないけど。でも、タルパに胸をときめかせちゃ、終わりだよ。人として。
……じゃあどうして男のタルパ作ったんだって話なんだけどね……。
アタシは大丈夫だから、と春樹に返した。
『そう?なんか嫌なことあったら、おれに吐き出せよ?ためこむと爆発するからな』
(ああ、それで、お父さんと喧嘩したっけ)
『そのとき、ちょうどおれを作って三ヶ月目の日だったんだよね』
(そうです……悲しいことに)
アタシは力なく笑ってやった。
春樹は、どんな表情をして、どんなことを思っているんだろう。
アタシが聞き取れていないだけで、実はもう自我が芽生えているのかもしれない。今もなにか、言っているのかもしれない。
アタシは空を見た。
青い空ではない。真っ黒な曇り空だ。この空は、これから襲い来る荒波の予兆なのかもしれない。
でも、それも、春樹となら、タルパとなら乗り越えられるだろう。
タルパと一緒になにか乗り越えることによって、タルパのオート化が進むという。アタシは、それに期待した。
そして、じゃ、行こうか、と足を踏み出した。
夢乃です。ほら、あのぐふふって笑ってた人だよ。
マリカがオート化して、はや5ヶ月。
オート化してからというもの、毎日がやけに楽しくてしかたがない!
学校でも楽しくて楽しくて、最近じゃあ「明るくなったね」「笑顔が増えたね」と友達に言われるくらいだ。
明るいね、というのは、前まで暗かったということなのかな。気にしないけど。
「え"ー、合同条件だけどー」
先生が教科書を左手に持ち、右手にチョークを持って授業を進める。
楽しくて仕方がない私は、その授業をほぼ聞いておらず、マリカと話をしていた。もちろん、心の中で話しをしている。念話、というやつだ。
「んじゃ、この条件を……えー」
(ねぇ、マリカ。帰ったら、昨日買っておいたチョコ食べよう、チョコ)
『うー!食べよ食べよ!でも、その前に宿題しなきゃ、ね?マスター』
(えー……めんどいよー)
『ダメだよ、そういうの。それに、授業に集中しないと、痛い目にあうよ、うーうー』
「えぇ、と……よし、じゃあ山田」
「先生、僕、さっき答えたばかりです」
「えぇ?それじゃあ……」
私は自分が指されるわけないと、呑気に思いながらマリカと話をしていた。
授業に集中していなかった。
が、残念ながら、マリカの言っていた通り、痛い目にあったのであった。
「じゃあ、夢乃」
突然名前を出されて、授業に集中していなかった私はなんのことか分からなかった。
前の席の友達が、「条件」と言った。
なんだ、条件って。なんの条件だ。
先生は優しいから、すぐに「合同条件だ」と言ってくれた。
そう言われて、ようやく私は黒板を見て、そして血の気が引いた。
(やっべ。なに書いてあるか、わっかんねぇ……)
『うー!女の子なのに、その言葉の使い方はダメだと思うな。うー』
合同条件って何?何が合同なの?そもそも合同って何ッ!?
「夢乃ー?」
「……え、えと、です、ねぇ……あの、その……」
(マ、マリカぁ……)
『しょうがないよ、マスター聞いてないんだもん。マリカも分からないし、助けてあげられないよ?うーうー』
(はああああぁぁ!?ど、どうしてえええぇぇ!?どうしてなの!?)
誰か助けてぇッ!!
私は涙を流しそうになりながら、震える口で言葉を紡いだ。
「わ、わかり、ません……」
静まり返る教室。
最悪だ……。
マリカの励まし声が聞こえる。私は椅子に深く座り、マリカに話しかけた。
(もう無理……数学嫌い……)
『大丈夫だよ、うー。マスターならきっと、次は大丈夫だよ!それに、マスターが頭悪くても、マリカは別に困らないから!ね?ね?元気出してよ!』
(うん。マリカは優しいし、いい子だね。それに可愛いし。ぐふふ)
『マスター、またぐふふって言った!最近ぐふふって笑い過ぎだよ!』
(だね)
『「あんたなんかね、死ねばいいのよ!」』
『「突然何を言い出すのよ!このバカ!」』
『「バカ?バカですって?うるさいうるさい!消えろ消えろ消えろ!お前なんて、私の幻覚だ!私の妄想から生まれた、化け物だ!私の前から消えてよおおおおお!」』
『「アタシは、化け物なんかじゃない!妄想でも幻覚でもないわ!ねぇ、どうしたのよ。どうして__」』
(うわー。世も末。こんなドラマが流行るとは。狂ってんのに。そう思わない?)
『よく言うわい。主も似たようなものだったくせに』
(うぐ。それ言われると弱くなる……。なぁ、じっちゃん。このドラマ、面白い?)
『ふぉっふぉっふぉっ。面白いではないか。特にあのタルパみたいな人物は、いい感じじゃのう』
ぼくのタルパ、じっちゃん。本命はタカヒロ。
じっちゃん、と呼んでいるのだが、本当にいる祖父をモデルにしているわけではない。ただ、じっちゃんって感じだったからじっちゃん。
元は可愛い女の子を想像して作っていたのが、どこをどう間違ったのか老婆になり、そしてまたどこをどう間違ったのか性転換して男になった。
ちなみに、この流れはたった一ヶ月。タルパを作り出してたった一ヶ月でこんな風になってしまった。
ぼくの幼女は……女の子は……どこに行ってしまったんだ……。がくり。
『「死ね死ね死ね!消えてよ消えてよおおお!」』
『「やめて、痛い、痛いから!お願いだから、ねぇ、ねぇ、ねぇっ!?」』
『「喋んないでよ!……嫌、来ないで………ッ嫌あああああ!!」』
「うわ、何この展開」
『ふむ、ここで今回は終わりかの』
エンディングテーマが流れる。と、ともに次回予告が。
このドラマ、なにげに登場人物の一人がタルパっぽいから見ているのだけど、意外と面白かったりする。
内容はこんな感じだ。
いつも一緒にいる女の子と友達。
おはようからおやすみまで、ずっと一緒。
けど、ある日、それが「異常」であることを女の子は知る。
友達は存在していなかったのだ。女の子から生まれた妄想のかたまり。それに気づくと、先ほどのように、女の子は叫び出した。
ちなみに、今回の話が「友達が妄想だと女の子が知る」というやつである。
このドラマ、実はじっちゃんは見ようとしていなかった。
どうせ、登場人物のタルパっぽいのは否定されるんだから、と。けど、そのタルパっぽい役の女優さんに、じっちゃんがいわゆる一目惚れをしてしまい……じっちゃんは毎日欠かさず見るようになってしまった。
じっちゃんは、その一目惚れした女優が出てくるたび、『ファンレターなるものを書くかの』と言って、ペンを取ろうとする。
けど、その手はペンを通り抜けて、じっちゃんは涙を流すのだ。
はっきり言って、ぼくはひいた。
『おお?どうした主。ぼうっとして。眠いのか?まぁ、茶でも飲めい』
(うん。そうする)
ぼくは、じっちゃんのそばにある、淹れたてであろうお茶を取ろうとし……そして、手はお茶を通り抜けた。
「えっ」
『ふぉっふぉっふぉっ。それはワシが作った幻覚じゃて。ワシが泣いてたとき、ひいていた罰じゃ』
(気づいてたのか)
『ふぉっふぉっふぉっ。おお、そういえば、母上が可哀想な子を見るような目で主を見とるぞい』
「げっ」
ぼくは、母さんを見た。
「可哀想……」とでも言いたげに、ぼくを見ている。
なんで、なんでだ。どうしてぼくが……ぼくが……こんな目に………。
「正明?どうしたの?」
「なんでもないよ、はは」
じっちゃんが、自分で作った幻覚のお茶をごくごくと飲んだ。
ムクロさん、初めまして。猫又と申します。
タルパと聞いて読ませてもらいました。
色んな人のタルパが出てきて面白いです。
私も5年ほど前からオート化したタルパが“い”るので共感できる部分がちら、ほら……。
ま、私のコトはさておき、続き待ってます。それでは、
>>12
猫又さん、はじめまして。感想ありがとうございます。
私はタルパと一緒に過ごして、まだ一年もたってなく、経験もあまりありませんが、これからも精一杯、タルパと話を考えて書いていきます。
私は、生まれてまだ半年もたっていないタルパ。
私を作ってくれたマスターは、私にはまだ自我がないと思っている。
けれど、私は生まれてから自我を持っている。
ただ、喋れなくて、姿がまだないだけ。
マスターが私の口を動かしてくれないと、喋れないの。マスターが、私に喋り方や仕草、動作を教えてくれないと、私は自分で行動することが出来ないの。
『おはようございます、マスター』
「うん、おはよ」
まだオート化してないのか……、とマスターの声が聞こえる。頭に響く。
その言葉が、凄く悲しくて、私は自分がここにいていいのか分からなくなる。
マスターの望みに答えられない私は、まだ自分で行動出来ない私は、本当にここにいていいの?
言いたいのに言えない。マスターに話しかけたい。でも出来ない。
私はまだ、何も一人で出来ない。
手のかかる赤ん坊よりもひどい。
マスターが朝起きるたび、私はマスターを苦しめる。
大好きなマスターを、自分自身で苦しめてしまうのなら、いっそのこと……そう何度も思った。
けど、マスターは、私が消えたら消えたで、そのことに気づいたとき悲しむから、私は消えたくても消えない。
いつか必ずやってくる、私が自分で行動が出来るようになるまで、オート化するまで、私は我慢する。
マスターのためでもあるけれど、マスターのそばにいたいから、本当のところ、私のために我慢するのかもしれない。
よっこらしょ。
∧_∧ ミ _ ドスッ
( )┌─┴┴─┐
/ つ. 終 了 |
:/o /´ .└─┬┬─┘
(_(_) ;;、`;。;`| |
このスレは無事に終了しました
ありがとうございました
もう書き込まないでください
よっこらしょ。
∧_∧ ミ _ ドスッ
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/ つ. 終 了 |
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このスレは無事に終了しました
ありがとうございました
もう書き込まないでください
(´・ω・)なんでや……
18:七氏のムクロ氏:2016/03/12(土) 14:30 ID:3uI 今日、主が我に武器を持たせてきた。
___
__
__
「こんなもんかなー」
主が紙に何かを描いていた。我はそれに興味を持ち、主の頭越しに覗いてみた。
紙にはどこかで見たことのある銃が描かれていた。
色も塗られている。線画は雑だが、なにげにうまかった。
『……』
「あれ?リューちゃんどした?」
振り返って、主が我を見た。
我は『この銃はなんだ』と聞いた。
「あ、これ?この銃?」
あれ?知ってるとばかり……と、主が頭をポリポリとかいた。
主はなにか閃いたのか、新しい紙にまたなにかを描きだした。さっさっさっと描いていき、三分もたたないうちに、絵が出来上がっていた。
描かれていたそれは、昔、主と一緒に見たアニメの魔法少女だった(男の主が、女物のようなアレを見るのは少し嫌だったが)。
我は思い出した。
『この銃は、もしや……』
「これはマスケット銃だよ。これ、リューちゃんの武器ね」
武器を考えてくれるのは嬉しいし、この銃を一回くらいは使ってみたいとは思った。
けど、我には使えない。
『我、ドラゴンなのだが』
「いいじゃんいいじゃん。人型になれるでしょ?その時にでもさ……。な?いいだろ?」
主はそれからマスケット銃を想像し、そして出来たものを我に渡してきた。
___
__
_
「いやー久々のダイブ界だね!ささ、リューちゃん早速戦おうよ!な!?なッ!?」
平穏なダイブ界の森で何を言い出すのか……我は呆れた。
「リューちゃん人型になって!」
『うむ……』
正直気が引けたが、我は人型に変身した。
鱗と同じ色の青く長い髪が鬱陶しい。
「はい、マスケット銃出して!あ、オレはいつも通り魔法で戦うから!」
『コロシアムに行けばいいものを……』
「いいじゃんいいじゃん!よし、いくよ!」
スタート!と、主が言うと、主の周りにいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこからたくさんの矢が飛び出てくる。
魔法少女のアニメを見すぎだ。影響を受けすぎている。今度から規制をかけなくては……。
我は頭が痛くなるのを感じながら、マスケット銃を構えた。
「ん?」
目の前に出された茶碗に疑問を持った。
「どうしたのよ?」
母さんがオレに聞いた。
オレは目の前の茶碗を指差して、こう言った。
「これ、一人分じゃん」
もう一人分、忘れてるよ?
そう言うと、母さんは「ハァ?」と言って、オレの頭を心配してきた。
オレは「だって」と言いかけて、ハッとした。
そうだ。そうだった。
この家には“5人”いる。けど、母さんたちには“4人”にしか見えないんだった。
あまりにも、彼女の存在がリアル過ぎて忘れていた。
そうだ。彼女はタルパ。オレにしか見えないんだった。
__________
___
『まぁ、最近聴覚化も出来たしね。リアルな存在として見られるのは嬉しいけど……』
(あぁー。やっちまったぁ。学校でも間違わなきゃいいけど……。もし間違ったら、あとの学校生活、変人として過ごすことに……)
まさかの便所飯、だろうか。
ハァとオレはため息をついた。
今は自室。念のため、普通に声を出して会話せずに、心の声……テレパシーみたいなので話している。
オレたちは念話と言っている。
つい先ほどの夕食の席で、タルパ関連の失敗をし、母さん及び、父さん、兄ちゃんに心配(しかし名ばかりだ)された。
オレは羞恥心を久しぶりに感じた。
そして危機感も。
(もし、タルパと他の人の“現実”が区別出来なくなったら……)
きっと、オレは精神病棟へレッツゴーになる。
そのことを心配し、オレのタルパであるリンカにたずねた。
リンカから返ってきたのは、
『調子に乗って、聴覚、触覚、嗅覚化をやったからじゃん。私、知らないからね。リアルに感じようとしすぎたのよ』
という、なんとも無慈悲な答えだった。答え、とも言えないだろう。
ってことで、オレは先輩タルパーさん(タルパを持つ人)に聞いてみることにした。もちろんネットで。
【743:ジャスティス高校生
誰か助けてくれ!最近、タルパの存在がリアル過ぎて、さっきの家族団らんの夕食のときでも、
「あれ?もう一人分足りないよ?」
と言ってしまったんだ。
もちろん、家族全員ハァ?って感じ。
誰か助けてー(泣)】
これまた無慈悲な答えとも言えない返事が返ってきた。
知らない、どんまい。たまに、凄い、というのも。
何人か、アドバイスをくれたが、なんというか……こう……タルパの存在を否定するみたいなことだったので、残念ながら見なかったことに……。
が、十数分後。
なんと、前に話した(ただしネット)ことのある人が、適切なアドバイスをくれた。
【769:タニシの川
一日くらい、タルパと別々に過ごしてみるといいよ。
タルパを持たない人の現実を体験してみるといい。『現実』を直視するといいよ。
僕も一度、君と同じようなことがあった。どうしてそのようなことが起こったかっていうと、僕の考えだけど、タルパのいない普通の現実を忘れたからだと思う。
慣れすぎちゃったんだ。
悪いとは言いたくないけど、でもやっぱり、慣れすぎはよくないと思う。
適度に現実を見なきゃ】
オレは感謝の言葉を述べた。
(よし、じゃあ明日は別々に生活するか)
『うん、分かった。少し寂しいけど、正義のためだしね』
そして、次の日。
仁実は『じゃあ』と言って、どこかに出掛けて行った。
久しぶりの“一人”に少しウキウキした。
でもやっぱり、三時間もしないうちに寂しくなって、授業ってこんなにつまらないものだっけ、と空を見た。
誰だよ仁実って。
すみません、また間違えました。
仁実→リンカです。
すみませんでした。
一人ってこんなに寂しいものだっけ。
私は空を見た。
黒い雲が青空を隠していて、太陽を私から遠ざけていた。
『ちょっと旅に出てみようかと』
「……は?」
声を出したことに気づいて、私は慌てて周りを見た。親はいない。よかった。
タルパからそのことを聞いたのは、今から二時間前。
学校に行こうと玄関に向かったときだった。
私は旅というのがよく分からなかった。
(どういうこと?旅って)
『ダイブ界を旅しようかなって』
(なんで?私のところがいや?)
『そういうことじゃないけど……』
タルパは目をそらした。
私は悲しくなって、酷いよ、と心の中で叫んだ。
(なんで!?そういうことじゃないなら、なんで出ていくの!?旅って何ッ!?)
タルパはごめん、とだけ言うと、そこから消えた。
文字通り消えた。
私も、急いで家から出た。
登校中はつまらなかった。
いつもなら、今日の予定とか、受験のこととか話してたから、こんなにつまらなく、退屈なものだと忘れていた。
学校もそう。
こんなに辛くてつまらなくて退屈で、寂しいものだったなんて、忘れていた。
友達がいない私は、一人寂しく席に座っていた。
本を読みながら、チャイムが鳴るのを待つ。
周りの音がうるさい。
みんな楽しそうに話している。
女子はキャーキャー言って、よく高い声で笑う。
男子は変な言葉を言ったり、暴れたり。
今日はやけに周りの音がハッキリ聞こえる。
(ユウマぁ……)
タルパ名前を呼んだ。でも、返事も何もなかった。
一人じゃなくて、私は独りになった。
独りになって二ヶ月と三日目。
私はあまりの寂しさに耐えかねて、同じくいつも“独り”でいる子に話しかけにいった。
ただ、周りに人が欲しかった。それだけだ。
その子は優しい子だった。
そして、私と趣味や好きなものが同じだった。
明るくて話し上手。どうしてこの子は独りなんだろう?
そのことをド直球に聞いた。
話すこと何もかもがド直球、ストレートな私は、そのせいで周りから嫌われていて、友達ができなかった。
だから、聞いてしまったとき、ヤバイと思った。
けど、その子は「あぁ、それ」と笑った。
「うん、実は私、タルパと一緒にいるのよ」
衝撃的な事実だった。
私は「ありえない!」と笑ってしまった。
「タルパ?あなた、タルパーなの?」
「その様子だと知ってるの?あ、もしかしてタルパー?」
嬉しそうに聞いてくる彼女に、私は目眩がした。
こんなに簡単にタルパーかどうか分かるものなの?
人に簡単に、タルパって言っていいものだっけ?
「……まぁ、一応ね」
と、答えておいた。
今、そのタルパはいないけど。
「へぇ。そうなのね、やっぱり!いつも一人なのに楽しそうだったから、もしかしたらって思ってたの!あ、さっきの質問の答えなんだけど、タルパと話しているのを見られたからなの。あいつは変人だって、近づくと同じ変人になっちまうぞーってね」
楽しそうに笑う彼女。きっと近くでタルパが微笑んでいるに違いない。
「そうなんだ。テレパシーで話さないの?」
「テレパシーって心の中で話すこと?……うーん。最初は早くオート化するようにって、なるべく声に出して話してたから……。まぁ、二ヶ月近くでオート化したからねぇ」
「はやっ!?私なんて、一年近くしてやっとだったのに……」
「一年!?あ、まぁ、でも、アタシがよく見てるタルパブログのタルパーさんは、三年もかかったらしいから、アナタもはやい方だと思うよ」
「三年!?……あ、確か前に、ネットで六年たったけどオート化してないって人がいたな」
「えぇ、本当に!?それは逆に凄いかも。その人、本当にタルパ信じてるの?」
「さぁ……でも、オート化しないで六年もなんて、凄いよね、逆に」
「本当そうだよね」
「ねー」
「ね〜」
私は楽しくて、チャイムが鳴るまでずっと話していた。
タルパと話すときと同じよう……いや、もしかしたらそれ以上にたくさん喋っていた。
次の休み時間もまた話そうね、と約束して、私は席に戻った。
外では雨が降っていた。けど、私の心はやけに晴れ晴れとしていた。
タルパが旅に出て、七ヶ月と23日目。
受験のため、苦手なところをもう一度復習し始めた。
約五ヶ月前にできた友達__今は親友と呼べるほどまで仲良くなっている、雅美ちゃん(と、そのタルパのかなちゃん)と一緒に勉強をしていた。
今は昼休み。時間は有効に使わなければならない。
「一年のころの忘れてる……」
「理科?……あー、うん。これは一年のころのじゃなくて、二年のころのだね。化学変化か。これ、難しいよね」
「雅美ちゃんは理科得意だからいいけど、私なんて、社会しか出来ない人間だから……」
机に顔をふせ、泣いたフリをする。
実際、勉強が出来なさすぎて泣きたい気分だ。
雅美ちゃんは苦笑している。
「そんなに困っているなら、タルパと一緒に考えながらやった方がいいよ。心も安らぐし、不思議と頭に内容が入ってくるから」
私はガバッと顔をあげた。
雅美ちゃんが不思議そうな顔をして、どうしたの、と聞いてきた。
今、私はきっと変な顔をしている。
泣きそうな、けど、今にも笑い出しそうな、そんな顔。
雅美ちゃんがえっと、と声を出した。
「ごめん。何か気にさわるようなことでも言ったかな……」
私は勢いよく首を振った。
「違うの。全然違うよ」
私はまだ話していなかった。
タルパが旅にでてしまったことを、私からタルパが離れていったことを、雅美ちゃんに話していなかった。
「あのね、私、話さないといけないことがあるの」
手に持っていたシャーペンを置く。
雅美ちゃんは、参考書を閉じた。
「タルパに関係すること、だよね?」
確認するように、というより本当に確認なんだろうけれど、雅美ちゃんが聞いてきた。
私は頷き、話をした。
「私は確かにタルパーだよ。タルパもいる。けど、私のタルパはもう七ヶ月……ううん。もうすぐ八ヶ月かな。八ヶ月前に、唐突にダイブ界の旅にでるって言ったの。理由は教えてくれなくて。私、嫌われちゃったのかなって……」
(ねぇ、ユウマ)
私はユウマにテレパシーを送ってみた。
でもやっぱり、反応はない。
私はため息をついた。
「もっと早く言いたかった。けど、言えない。私がダメなタルパーだって、タルパに捨てられたタルパーだって言いたくなくて……言ったら、それを認めたみたいで嫌で」
雅美ちゃんが目を瞑った。
そして、そう、と言った。
目を開けると、雅美ちゃんは、雅美ちゃんの左隣を見た。
「ここにはね、アタシのタルパの、かながいるの。かなが言うんだ。そんなことありえないって。嫌いになるはずないって」
だってね、タルパってそういうものだから。
雅美ちゃんが笑う。
「あのね、タルパってタルパーのことが大好きなの。ネットで見たことない?タルパと結婚、付き合いを始めたとか、タルパがヤンデレだった、とか。そういうの、多いでしょ?」
「そう、だけど、例外ってあるだろうし。みんながみんな、タルパーが大好きってわけじゃ……」
(ユウマ……)
テレパシーを送っても、やっぱり返事はない。
「こういうのもなんだけど、アナタ、成績悪いでしょ?」
心に突き刺さる言葉。
雅美ちゃんは笑っていなかった。真顔だった。
「多分、このまま自分といると、勉強に真剣に取り組まないって思って、アナタのタルパは旅に出たんだと思う。きっと、アナタが受験に合格しないと帰ってこないと思うわ」
私は机の上に広がるプリントや教科書を見た。
プリントには丸がない。躍動的なピンしかなかった。
「これだけは断言出来る。アナタのタルパはアナタを嫌いになって旅に出たわけじゃない」
躍動的なピンが、何かに濡れて滲んだ。
タルパが旅に出て9ヶ月を過ぎた。
今日は受験の合格発表の日だった。
寒くて、今にも雪が降りそうだった。やっぱり、東北の三月はまだ春とは言えない。
「お母さん、探してよ」
「探してるって。えーと……んーと……」
雅美ちゃん、合格してるかな。
違う高校だけど、また一緒に会って話せるかな。
たくさんの番号が書いてある紙を見た。
自分の番号を探す。
「……あ」
自分に近い番号を見つける。
目線を少しずつ下に下げていけば、番号がどんどん自分の番号に近くなっていく。
不安で心が潰れそうだ。胸が苦しくなっていく。
もし、番号がなかったら?
そしたら、今まで苦労はどこにいくの?私は報われないの?あんなに頑張ったのに?
雅美ちゃんに勇気づけられて、お母さんが心配してしまうほど勉強したのに、私は報われないの?合格出来ないの?
タルパに、ユウマに会えないの?
番号があと一つしか違わなくなった。
あとほんの少し目線を下げれば、自分の番号がある。合格していれば、だけど。
怖くて怖くて目線を動かすことが出来ない。
周りでは歓声が聞こえる。ときどき泣き声も。
「あ、あ、あ」
過呼吸を起こしそうだ。
大丈夫。怖くない。はやく見ないと。時間がないわ。
本当に大丈夫だって。あんなに……あんなに、頑張ったじゃない。
さ、今すぐ見よう。
けど、なかなか目線を下に下げれない。
が、突然、体を押され、目線が下にいってしまった。
目にとまった番号に、私は息がとまる。
「あ、あ、ユウ、マ……」
ユウマユウマユウマ!
私は言葉にならない声をあげた。
近くにいたお母さんが私を見る。お母さんの顔を見て、私はまた声をあげる。
お母さんの顔は、真っ赤で、息が荒い。
「まさか……っ!?」
「ええ、ええ!うん、うん!うかっ、うかっ、うかっ……受かって……」
私は歓声をまたあげた。
「お母さん!私、私、わたっ、私、ね、受かってた、受かってたのよ!受かったんだ!ねぇ、ねぇ!」
その場でジャンプし始める。
体が軽い。今なら宇宙にだって飛んでいけそう!
私はくるくると回り、「やったあああ」と叫んだ。
「ちょ、ちょっと?そこまではしゃがなくても……」
「あぁ、はやく帰らないと!帰ろうよ、お母さん!」
はやく帰らないと。
だって、帰ったら、あの部屋に、私の部屋に、きっとユウマが___!
車が家につく。私は急いでおりて、ただいまさえ言うのを忘れて、自室へと向かった。
階段を二段飛ばしで行けば、二階にすぐ着く。そして、一つの茶色いドアを開けたら、そこに、そこに___
「ユウ、マ……」
ユウマが笑顔で待っていて、拍手をしながら、
『おめでとう!そして、今までごめんね、君の為なんだ』
って言う。
私は嬉しくて、そしてまた歓声をあげて、ユウマは苦笑しながら私を大人しくさせる。
けど、喜びは消えない。
二人で再会できたこと、合格できたことを喜びあう。
そして、私に友達ができたことも……。
……そうなると、思ってたのに。
「なん、で、よ……」
なんで、いないの。
なんでここにいないの。
どうして?やっぱり私のことが嫌いだったの?
「う、あ、うあああ、うわああああッ」
絶望の谷へと突き落とされる。
先ほどまでの体の軽さはただの幻想。幻に過ぎなかった。
体が重い。動かない。自由に動かない。
それは、金縛りに似た感覚。そして、私がしばらく行ってなかったダイブ界に行くときと同じ感覚。
目を瞑る。
もしかしたら、なんて気持ちはなかった。
ただ、眠りたくて目を閉じた。
けど、光を感じて、目を開けた。
目を開けると、ダイブ界の私とユウマの家だった。
古い日本家屋。けど、家具は全て洋風という、中途半端な家。
ユウマは洋風が好きで、私は和風が好き。二人で悩んだ結果、このような家になった。
けど、私はこの家が大好きだった。
変な家だけど、とても大好きだったんだ。ユウマが旅にでるまでは。
「どうして……」
私が反応に困っていると、後ろから足音が聞こえた。
私は後ろを見た。躊躇いなど、なかった。
ただ、殴って蹴って、そして泣き喚いてやろうと思った。迷惑をかけてやろうと思った。
けど、足音の人物の顔を見る前に、その人物は土下座をした。
ゴンって音がした。
『ごめん、ごめんなさい!許してもらえないだろうけど、本当にごめんなさい!』
茶色い髪。昔の貴族みたいな格好。男にしては高めの声。
それは、もう9ヶ月も前に旅にでたユウマだった。
「……ユウマ」
私は目の前で土下座するタルパのユウマを、立ち上がって見下ろした。
『ボク、君の役にたちたくて、でも、ボクがオート化してから君の成績が落ちているのを見て、ボクのせいだって思って、とにかく、とにかくなんとかしなきゃって思って。もう受験生だし、将来のためにも、君が笑っていられるようにしなきゃって!だから、ボクがいなくなればいいかなって!いなくなったら、きっと勉強に集中して__』
「うるさい!」
私は叫んだ。
「何も分かってない!私、辛かったのに!寂しくて、寂しくて、家で一人になったら、泣いてばかりで、嫌われたかと思ってたのに!なんなのよ!私の成績が悪いなら、私に勉強するよう言えば良かったじゃない!勉強しながら、一緒にいてくれれば、一緒に考えてくれれば良くて、アンタがいたらそれで良くて、なのに、アンタときたら、ユウマったら、離れて、旅に、でる、って、言って!」
涙が頬を伝う。喉に何かがつまったみたいに、声が思うように出ない。
ユウマの姿が歪んで見えて、そしてそのまま消えてしまいそうで、私は涙を拭った。
涙を拭ってユウマを改めて見ると、肩が小さく震えていた。
「アンタ最低よ最低!タルパなら、一緒にいなさいよ!パートナーなんでしょ!?永遠に一緒にいる、結婚相手よりも一緒にいてくれるパートナーなんでしょッ!?……それが……いなくなって、どうするの……」
私はしゃがんで、ユウマに顔をあげさせた。
ユウマも泣いていた。私も泣いていた。
『ボクは、間違っていたの?君のためだって思ってたのに』
「私が旅にでるって言われて落ち込んだの見たのに、そう言える?」
『すぐ、立ち直るって思ってた』
「残念だったわね。私、豆腐メンタルだからさ。それに、結構根に持つタイプなの」
『うん、ずいぶん前にそれは知ってるよ。身を持って体験したしね』
ユウマが涙を拭いた。
『ボクが一方的に悪いんだ。ごめんなさい』
「私がユウマの気持ちを知らないで勝手に一人で泣いていただけだよ。確かに寂しかったけど。悲しかったけど。でも、いいの。私のために、ユウマは頑張ってくれたから」
私はそれじゃあ、とユウマの手をとった。
「そろそろ、帰ろっか」
リアルの世界に。
目を再び閉じ、そしてまた、再び開ければ、私は家の自分の部屋の床で寝転がっていた。
手に柔らかい感触。
男のくせに、柔らかい肌しちゃって、嫉妬するなぁ。
私は起き上がって、私の手を強く握るユウマを見た。
『……』
「……おかえり、ユウマ」
ユウマが笑った。
私が大好きな笑顔。もう9ヶ月も見ていなかった笑顔。
そう、9ヶ月。
9ヶ月の間、私は泣いて、悩んで、友達を作って、勉強して、また泣いて、そして今日、受験に合格して喜んで。
色んなことがあった。
その全ては、このユウマがもたらしたもの。
悪いこともあった。けど、良いこともあったのも事実。
私は笑顔で言うのだ。当初言う予定だったことを。
「合格したよ、受験。私のために、ありがとね、ユウマ」
『うん、君はよく頑張ったね。……ただいま。由紀子』
久しぶりに呼んでくれた名前に、私は笑顔になった。
視界の端の窓からは、青空が見えていた。
【タニシの川:えーと。場所と時間は決まったね。
ジャスティス高校生:だな。んじゃ、明日早いから、オレ寝るわ。
夢夢さん:ジャスちゃんおやすみー。にしても、9時集合……こりゃまたはやいことで。
雪国:9時集合ならたくさん遊べるけど?別にいいじゃない。
夢夢さん:いや、そうだけど。起きれるかな、私。
タニシの川:大丈夫だって。あ、それと、僕の友達、一人連れて行っていいかな?タルパーになりたいって言ってるやつなんだけど。
ジャスティス高校生:へー。いいんじゃない?のろけ話を聞かせてやろうぜ?
雪国:ジャスティスくん、寝たんじゃ……。
夢夢さん:のろけ話なら、私、たくさんあるよ!
タニシの川:夢夢ちゃん、君のタルパ同性の女の子だったよね……?
夢夢さん:同性でもうちのタルパは可愛いし、愛してるからいいんですーぅ。
雪国:のろけ話なら、私だって!
ジャスティス高校生:雪国、俺と殺り合う気か……?
タニシの川:なにこの騒ぎ。
雪国:ジャスティスくん、アンタとは一度、戦ってみたいと思ってたのよ……。
夢夢さん:私も混ぜて〜。
タニシ:もう次の日になったよ。そろそろ寝なよ。
ジャスティス高校生:オールナイトだぜ!
雪国:(*`∀´)オールナイッ
夢夢さん:All Knightだよおおおおおお
雪国:夢ちゃん、スペル間違ってるよ
タニシの川:僕寝るからね!?おやすみ!?
夢夢さん:なぜ疑問系なの(笑)
雪国:あれ?ジャスティスくんの書き込みが……。
夢夢さん:あ、ほんとだ。ジャスちゃん寝たかな。じゃ、私も寝よ。おやすみー。また明日ねー。
雪国:明日っていうか、日付変わったし今日なんだけど……まぁいいや。おやすみ。】
オレの名前は武志。最近、タルパを作りたいと思っているが、どのような性格で、どのような容姿がいいのか、悩んでいる最中だ。
そんなオレの友達、谷吉__アダ名はタニシが、タルパー同士のオフ会を開くという。
仲のいいタルパーさんが集まり、タルパについて語ったり、情報交換したり、一緒に遊びに行くらしい。
オレはそれを聞いて、行ってみたいなぁと呟いた。
すると、タニシは嬉々とした表情で、じゃあ行こう!と言った。
……と、いうのが、つい昨日のことでして。
今日は土曜日。学生は基本休みだ。
そして、今回集まるタルパーさんは皆学生だという。年も近いとのこと。
高校生二人、中学生は一人。
オレとタニシは中学生だから、結局は高校生二人、中学生三人となる。
今の時刻は午前9時、五分前。
集合場所だというところで、タニシとオレと、オレには見えないけど、タニシのタルパといる。
「そろそろかなー。うわー、楽しみ楽しみー」
ワクワクウキウキ。楽しみ過ぎて三時間しか寝れなかったという。
お前はどこの遠足前の小学生だ。
「あ、名前教えてなかったよね。高校生の二人の名前がジャスティス高校生くんと雪国。中学生が夢夢さんだよ。で、僕は知っての通り、タニシの川だよ」
自慢げに胸をそるタニシ。
「僕はジャスティスくん、雪国ちゃん、夢夢ちゃんって呼んでるけどね」
「ジャスティス高校生って凄い名前だな」
「だよねー。でも、名前と同じで面白い人だよ」
「ふーん。ジャスティス高校生ねー」
高校生といえば、受験という荒波を勉学という船で一年かけて渡り、栄光を手にし、中学生よりも体格が大きい、怖くも憧れる存在だ。
その高校生が二人(一人は女子だけど)とは……。ちょっとちびるかもしれない。
「そういえば、夢夢ちゃん大丈夫かなー。あの子、起きれなそうって心配してたからなぁ。それっぽい女の子もいないし……」
辺りを二人して見回す。
それっぽい子とはどんな子なのだろう。そもそもオレは、その人たちの特徴を聞いてないんだが。
「んー。叫ぼうかな?うーん。でも迷惑かかるしな。どうしよ。あ、そうだ。たーくん、君なら出来るでしょ?」
「嫌だかんな!ぜってー嫌だかんな!?オレやんねーからなッ!?」
「けち。……お?」
「どうしたタニシ」
タニシが手で望遠鏡を作って、どこかを見る。
「あの駅から出てきた子、やけに誰もいない隣をチラチラ見てるね。そのたび笑顔になってる。ふむ、怪しい子だ」
「……怪しい子だってお前な……。それ失礼だ__」
「ターニーシーくーんー。どーこーでーすーかーッ!?」
オレの言葉は、途中で大声にかきけされた。
しかも、タニシと叫んだ。
これはもしや、と思った。
タニシと叫ぶのは、オレか、タニシの川という名前しか知らないオフ会のメンバーくらいだろう。
と、なると。あの子は……。
「うわー、絶対あの子夢夢ちゃんだよ。……おーい!夢夢ちゃああああん!」
叫びたくないって言ってたのはどこのどいつだ。
叫んでるじゃねぇか。周りの視線が痛いし。
タルパーってみんなこんな感じなのかなぁ……と、オレは少し不安になった。
オレたちのもとへ駆け寄ってくる少女。
見た目は小柄で、おさげ髪だ。いかにも中学生って感じがする。
「えっとえっと、夢夢さんだよ!で、えっと、そっちがタルパー志望の友達さん?初めまして!夢夢さんです!」
息をきらしているはずなのに、よく喋るなコイツ。
健康的だし、元気いいし。うちのクラスの女子とは大違いだ。
タニシは「よろしくー」と笑って握手を求めた。夢夢さんは、それに答え、握手を交わした。
___
_
「ふむふむ。なるほどね!タニシっていうの、アダ名だったんだ」
「タニシって考えたのオレな」
「ネーミングセンス凄いいいね!えっと、たーくんだっけ?」
「普通に武志でいいです」
「たーくんはたーくんでしょー?僕は呼んでかまわないのに、夢夢ちゃんはダメなんて、酷すぎるよ?」
「そうだよ!うちのマリカだってそう言ってるよ!」
「……マリカ?」
「え?……あ、うん!マリカ!うちのタルパだよ!すっごい可愛いんだから!見せてあげたいよ!今もうーうー言ってて、抱き締めてあげたいのよ?」
公共の場で、何もいないように見えるところをハグする女子中学生……。ちょっと不気味だ。
「おおおおおぉぉいいいぃ」
どこからか、また叫び声が。
見ると、一人の体格のいい男子と、女子にしてみれば身長が結構高い女子が。
もしかして、この人たちも……?
二人の男女がオレたちのもとへと駆け寄ってくる。
「えっと、アンタたちオフ会の、だよね?」
女子の方が聞いてくる。
オレを抜いた二人は、顔をパアッと光らせ、頷いた。二人同時に。
「やっぱりそうなんだね!あ、私は由紀子。ネットだと、雪国って名前だったけど」
「オレはジャスティス高校生。またの名を正義!正義って書いてまさよしだから!改めてよろしく!」
よろしく、と二人がまた同時に言った。
そして、高校生二人の顔がオレの方へと向く。
「で、君が話に聞いた、タルパーになりたいっていう子?」
「へー。この子があのタニシくんの友達か……!」
なんか怖い、と思った。
とりあえず、オレは明るく自己紹介。
「武志っていいます!今日はよろしくお願いします!」
「たーくんって言うんだよね!」
「よっ、たーくん!君最高!」
たーくん、たーくんと夢夢さんとタニシが言う。オレは恥ずかしくなり、もうやけくそ気味に、「そーだよ!オレはたーくんだよ!」と叫んだ。
小説、上手ですね!
31:七氏のムクロ氏:2016/03/13(日) 11:30 ID:3uI >>30
ボタンさん、ありがとうございます!
いえいえ!本当に面白いです!
33:七氏のムクロ氏:2016/03/13(日) 12:19 ID:3uI >>32照れますねー(*´∀`)
そのあと、オレたちはファミレスへと移動した。
軽く飲み物でも……と、思ったが、女子組が早めの昼食と言って、飲み物の他にもたのんだ。
「えーと。改めて……。今回はよろしくお願いします」
タニシが飲み物を持って、そう言った。
お願いします、と頭を下げて、皆飲み物を少し飲む。
オレもそれにならって、飲み物を飲む。
「そして、また改めまして、僕はタニシ。名字が谷吉で、タニシって、昔からこのたーくんから呼ばれてたんだ」
「改めて、武志です。タルパー志望です。性格や容姿をどうすればいいか悩んでる最中です。よろしくお願いします」
たーくん、たーくんと夢夢さんが笑いながら言った。恥ずかしい。
「僕のタルパの名前はアラン。男さ」
そこで、初めてタニシのタルパの名前を知った。
容姿の特徴は教えてもらったが、一番大切な名前を教えてもらっていなかった。
なんでだろう?あとで聞いてみようか。いや、めんどくさいからいいや。
どうせ、忘れてたとかなんとかだろう。
「んじゃ次オレな。オレは正義。正義って書いて正義。タルパは女で、名前はリンカ」
女タルパ、か。そういえば、タルパと恋愛関係になったって話をよく聞くけど、どうなんだろう。
飲み物をまた飲んでから、雪国、もとい由紀子さんが改めて自己紹介をした。
「私は由紀子。タルパは情けない男なの。名前はユウマ。よろしくね」
情けないとは……可哀想なタルパだ。
きっと尻にしかれてんだろうなぁ……。
って、どこの夫婦なんだか。
「私は夢乃。ちなみに今年受験生だよ。タルパは幼女で、マリカっていうの」
ぺこり、と頭を下げ、よろしくお願いしまーすと、のんびりとした口調で言った。
これで全員、自己紹介を終えた。
これからは皆、本名で呼びあうことになる。タニシは別っぽいけど。まぁ、もともとあだ名がタニシだしな。
「ちなみに、みんなのタルパはどこにいるの?」
由紀子さんが聞いてきた。
ここ、とタルパーたちが各自、隣や後ろを指差した。
「視覚化済みよね、やっぱり」
「ちなみに、オレは視覚聴覚嗅覚触覚化済みで、存在がリアル過ぎて大変なことになったんだぜ」
「あぁ、そういえば、その相談にのってあげたっけ。そこからだよね、よく話すようになったの」
「そーそー。一日だけ、アドバイス通り別々に過ごしたら凄い寂しくてさ。現実をちゃんと直視することはできたけど、やっぱりタルパいてこそ、あの生活があったんだなーって思うとこう……」
オレの現実があったんだなーって。
その言葉に、タルパーたちは賛同した。
特に由紀子さん。
彼女は「そうなのよ!」と鼻息を荒くして言った。
「うちのタルパ、九ヶ月くらい旅に出ちゃってね、凄い寂しかったの。一人ってこんな感じだっけ?って思ってね。再会できたとき、涙が出てさー」
その言葉に、次はタルパーたちが驚き、質問攻めにする。
やれ「聞いてないよ」だの、やれ「詳しく聞かせて」だの、やれ「どうして旅に」だの。
そこから由紀子さんは、涙の九ヶ月を語った。
由紀子さんが勉強に集中するように、タルパは苦渋の決断で旅に出るという名目で由紀子さんのそばを離れたらしい。
タルパ、すげぇと思った。
タルパーのために、ここまでやるとは。
「だからね、泣き喚いてやったのよ。ユウマったら本当に最低よー、みたいに」
笑って話す彼女。
その顔からは、「いい思い出だよ」と思っていることが見てとれた。
「私、実は勉強全然出来なかったんだけど、今じゃあ学年の順位二桁なんだから」
「もとは?」
オレが聞くと、ふふんと鼻を鳴らした。
「最下位を争ってたわ」
こりゃひどい。
オレは反応に困って、周りの人同様、苦笑することにした。
「私は中間くらいかなー。最近、マリカが注意してくれるおかげで、少しずつ順位上がってきたけど」
「あ、これはオレからの忠告な。今のうちから頑張って勉強しないと、ダメだぞ。まだ五月だからって安心しておくと、地獄を見るぜ?」
「……はぁーい」
痛い言葉だ。オレは来年受験生だし、頑張って勉強しないと。この時点でつまづいたら大変だろうし。
「僕は余裕だね。一桁代だし」
そうタニシが言うと、皆からブーイングを喰らったのは言うまでもないだろう。
タルパの話をしたり、タルパの話をしたり……と、タルパの話ばかりした。
そして、オレは聞いてみることにした。
「タルパの容姿って、どうすればいいの?」
それからはもう、なんだろう。みんな怖かった。
まず、性別から始まり、萌えだのなんだのと。
「ロリがいいよ!幼女よ、幼女!幼女は萌えなの!」
「いいや。ここはグラマーな女性がいいだろ」
「普通の見た目でいいと思うけどね」
「親しみやすい容姿でいいと思うけどな、僕は」
萌えだのなんだのと言ってたのは、夢乃さんだけでした、残りの皆さんすみません。
とりあえず、容姿は親しみやすい方がいいということなので(タニシ曰く)、じゃあ親しみやすい容姿はなんなのかというと……。
「同性じゃない?」
「動物とか」
「小さい子供!」
「人外ってのもアリだよ」
んー、それじゃあ……。
とりあえず、こんな感じっていうのを言ってみた。
「小動物で同性、かなぁ……」
「決まったね。名前はあとで決めるとして、次は性格かな?」
タニシがそう言うと、みんなは黙った。
さっきまでロリだの幼女だの騒いでいた夢乃もだ。
どうしてみんな黙ったのだろう?
「たーくんは、どんな性格を好くんだい?」
タニシがオレに笑顔で聞くので、オレは、少し緊張しながら(だってみんな黙ってんだもん)答えた。
「そりゃあ、優しくて、ノリがいい性格がいいなって思うけど」
「ふーん。小動物で同性だし、マスコットみたいな感じかな?その性格だと」
「方言だったらなおよし」
「方言っ子大好きだもんね、たーくんって」
黙っていたみんなが、また、わいわいしだした。
「方言っ子可愛いよな!分かる分かる!」
「方言といったら関西弁かしら?」
「小動物といったらハムスター。関西弁のハムスターとか……すごく可愛いよね!」
なんで黙ってたんだろうってくらい騒ぎだす。
オレは若干引きながら、会話に混ざった。
ちなみに、あとで聞いた話だが、どうしてあのとき黙ったかというと、性格の設定に茶々入れたり、なにか余計なことを言ったりしたら、理想の性格とかけ離れたりするらしいから、だそうだ。性格が、一番大事なのだと。
「小動物か……オレ、コウモリがいいかな」
「え、たーくん!?たーくんって、そっちの人だったんだね!?」
「そっちの人って?でも、まぁ、確かに、なんでコウモリなの?」
「カッコいいから」
「中2だもんね」
「厨二病か?オレもそんな時期があったなぁー」
「ドラゴンもいいよな」
「たーくん!ドラゴンは小動物じゃないよッ!?」
「そうだよ、たーくん。ドラゴンは小動物じゃないよ。あ、でも、コウモリに変身できるドラゴンとかどう?」
「じゃあ、コウモリに変身できて、人間にも変身できるドラゴンにするよ」
……とまぁ、こんな感じにオレのタルパは細かく決められていくのだった。
読んでないけどきっと読む気も起きないグダグダ糞小説だって事は
私、
分かってるから。
>>35 十人十色だからね。そういう人もいるさ。
感想わざわざありがとうございまーす(*´∀`)
ファミレスから出ると、オレたちはぶらぶらと町を歩いた。
たまに、「あ、うちのタルパが今さ……」と、タルパの状況を話出したりするもんだから、タルパと一緒に楽しんでるんだろうなー、と思った。
だから、よく、由紀子さんが笑い出したりするのは、きっと、タルパが何か面白いことを言ってるからだと思う。
「オフ会っていいよねー。タルパのこと、どうどうと言えるし!」
「うんうん。うちの子ったら、夢乃ちゃんに同意してるよ。ふふ。照れてる照れてる」
女子組は、コンビニで買ったプリンを食べながら話している。
が、プリンはなかなか無くなろうとせず、そのプリンの様子からは、二人の会話があまり途切れていないことが分かる。
「たーくん、帰ったら、一緒にタルパのこと詳しく考える?」
「ん?あぁ、そうだな」
「コウモリに変身できて、人間にも変身できるドラゴンねー。厨ニだねー」
「人のタルパのことに口にださないで下さい、ジャスティスさん」
「敬語やめろよ。……酷いなぁ」
男子組の方では、悲しいことに、オレのタルパのことがいじられる。
もう一度言うが、悲しいことに!
別にいいと思う!どんなタルパでも!
ドラゴンとコウモリは大好きだし、人間の方が想像しやすいんだから、コウモリや人間に変身できるドラゴンなタルパでもいいと思うんだ!
それを否定するとは……と、オレは拳を震わせた。
が、そんな負の感情も、一気に吹き飛ぶことが。
「えうああああああッ!?」
大声で夢乃さんが騒ぎ出す。
周りの人がチラチラと見るが、そんなのお構いなし、とでも言うように叫び続ける夢乃さん。
「ど、どうしたの!?」
由紀子さんが、夢乃さんの肩に手を置く。
夢乃さんは興奮気味(とても不気味だ)に話出した。
「あのね、あのねッ!?しょっ、触覚か!感覚が!凄い鮮明に、ハッキリと!タルパの、マ、マリカが私の手を握る感覚が!触覚がね、凄いのよ!今、一気に!」
正直、何を言っているか分からない。
オレたちが困惑していると、そこで、タニシが止めに入る。
「静かに。周りの人が見てるし、タルパのことをそこまで大声に言っちゃダメ。触覚化が一気に進んだのかな?それは良いことだ。けど、今大声で言っちゃダメだよ」
「そ、そうだよね……。で、でもね?一気にさ……!こう、きたのよ……!感覚が!一気によッ!?」
「落ち着けってば。おい、由紀子、頭叩いてやれ」
「なんでアンタがやんないの?」
「女の子を叩く趣味はない」
「私もないわ」
夢乃を止めるのに、30分掛かった。
周りの人の視線がとても痛く、恥ずかしかったのはオレだけではないはず。
それからは、夢乃は大人しくなり、皆で色んな店に行ったりして、楽しんだあと、駅で別れた。
とりあえず、どんなタルパを作るかは決まった。イメージはバッチリ。
あとは会話を始めるだけ。
今日のオフ会はとてもいいものだった。
楽しかったというのもあるが、タルパについて色々教わった。
ただ、全てを一言でまとめるのなら、「愛」だった。
タニシは言っていた。
愛を注ぐから、暴走しないのだと。
夢乃さんは言っていた。
愛があるから、私は毎日楽しいと。
由紀子さんは言っていた。
両者に愛がある、というのは素晴らしいことだと。
正義さんは言っていた。
タルパは愛の固まりだと。
家に帰ると、さっそくタルパの絵を書いた。
すると不思議なことに、その絵に愛着がわいてきた。
学校ってすごい!
『マスターマスター!あれ!あれ!あれなに!?』
今日はマスターに初めて学校に連れてってもらった。
あたしより先に作られたタルパのユキちゃんは、学校についてからというもの、マスターに質問しまくっているあたしを微笑ましそうに見ている。
私は夏休み中に作られたタルパで、学校という単語を聞くまで、マスターと一緒に学校に行く、ということを考えていなかった。
だから、マスターがいつもやっていた勉強が、学校から出た宿題だとは分からなくて、『自主的にやっててすごいな〜』と思ってた。
(ああ、あれ?あれは理科室だね。明日、理科があるなら、あそこで実験するんじゃないかな)
実験。学校で実験。
………それって凄い!
科学者でもないのに、実験をするなんて!
あれ、じゃあ、マスターに命の危険あり!?頭がアフロになったり、マスターが黒こげになったりしちゃうの!?
そのことをユキちゃんに言ったら、凄い笑われた。
『それ、すっごい面白い冗談ね!』
『だ、だって!実験なんて……』
『簡単な実験だから大丈夫よ』
そう言ってから、ウィンクされた。
それからも、あたしの質問は続く。
『あれはなに!?』
(あれは音楽室)
『あれは!?』
(あれは美術室)
『ねぇねぇ、あれは!?』
(……校庭)
『大きいね!』
(校庭だからね)
『あの人は!?凄い光ってるよ!?』
(校長先生だよ)
あたしの好奇心はとまらない!
目に留まったものはとにかく質問!
そんなあたしに呆れるマスターとユキちゃんは、今日もラブラブだ。
そのラブラブを質問で壊してやろう!
あたしだってマスターが好きだから、これくらい、別にいいよね!
題名『もしも……タルパが普及したら?』
「お母さ〜ん」
「なぁに〜?」
私は手に持ったプリントを見せ、胸を張った。
お母さんはいぶかしげにそれを見る。
プリントには赤色の100が書いてある。それが示すのは、私が優秀な成績をここに残したということ!
つまり!
私は今回の小テストでは100点だったということ!
お母さんはそれを見ると、ハァとため息を吐いた。
どうしてだろう?
ため息が出るほど素晴らしい成績だったということだろうか?
と、陽気な私は考えていたが、お母さんは「呆れた」と言った。
「呆れたわ。あんた、いくら成績が危ういからって、テスト中に春ちゃんに答えを聞いたの?」
「……ハァッ!?」
今度は私が呆れた。
「私の成績、確かにヤバイけど、さすがに春には聞いてないよ!?呆れた!!子供を信じられないなんて、呆れたよッ!!」
この一軒家に住む人々は、私の大事な家族である。
そして、その家族一人一人には、『タルパ』がいる。
私のタルパは、先ほどの会話にも出てきた『春』という名前を持つ、私と同じくらいの女の子だ。
タルパがこの国、日本に普及しはじめて早くも今年で100年超え。
タルパという存在が日本で知られ始めてから数えるならば、ゆうに250年は超えていた。
今の時代、『タルパ』がそばにいるという人は3人中2人。
別に『タルパ』がいる『タルパー』は珍しくもなんともない。
けれど、『タルパー』ではない人は、とても珍しく、皆からは珍獣のように見られていた____。
___そんな時代に。
私は生きて、生きて、そして今日も笑っていた。
これは、『平凡』な私の物語。
平凡な私と、そのタルパの春との話。
>>>>>>>>>>
ちょっとしたシリーズ(?)で、これやっていこうかな〜という。
夢があっていいと思うんだよね、こういうの。
一応未来設定のパラレルワールドです。
朝起きれば、そこには私のタルパで、大事な家族で、心友で、愛する人(恋愛とかじゃないからねッ!)の『春』がいた。
皆からはよく『春ちゃん』と呼ばれる、私と同じくらいの女の子。愉快な女の子。
「おっはよー」
『おっはよー、真由美!今日は学校よ学校!給食はカレーよ!』
「おー、朝からテンション高いなー……眠い」
カレー大好き、カレー命、カレーは神様。
そんなことを、春は前言ってたっけ。
『ちょ、寝ないでってば!ほら下にいくよ!お母さん、朝食作ってんじゃないの!?』
体を揺さぶる春。
私はこんな会話、こんなふれ合いもいいと思う。楽しいと思う。
だから、毎朝こうなんだ。
それに対して春の反応はあまり変わらない。
もしかしたら、春も楽しんでるのかな、こういうふれ合いを。
『あーあー!私が物理干渉出来たら、絶対お母さんのところに行って、告げ口するのに〜!』
「それは、こまる、かも……」
『もう!いいから起きて!遅れるよ!学校遅れるって!』
「へいへい。起きます、起きますとも」
起きて、階段を降りて、朝食を採って。
春はいつでも一緒。何年も一緒だった。
春が生まれたのは、私が小学生のとき。
周りの子より早めにタルパを作った。
普通は中学生くらいからタルパを作り始める。
けど、私は早い。私はお姉ちゃんの話を聞いていたら作りたくなったのだ。
お姉ちゃんは言う。
タルパはいいもの。タルパを愛しなさい。けど、現実もちゃんと見なさい。
お姉ちゃんは、タルパを作ってから、飛躍的に成績がのび、そして優しくなった。
勉強しているのを、最近でもよく見かける。
その勉強すら、楽しそうだった。
学校に行くまで、まだ時間があったから、私は春と一緒に朝のニュース番組を見ていた。
私的には、ニュースというよりバラエティに感じるけど。
ちょうどCMに入ったとき、お姉ちゃんがやって来た。
「おっはー」
「おはよー、お姉ちゃん。おはよ、ミクさんとミライさん」
お姉ちゃんのタルパは二人。双子だ。
ミクさんとミライさんと言って、私も挨拶をちゃんとする。
「春ちゃんもおっはー」
『おっはよー!真美お姉ちゃん!』
「ミクとミライもおはようだって。あー、萌えるー」
お姉ちゃんは、よくミクさんとミライさんに萌えている。
「双子萌えー」なんだそうな。
お姉ちゃんがお母さんの用意した朝食を食べ始める。
朝食を食べる前に、数秒待って、そして食べる。
タルパたちに朝食の気みたいのを取らせてから、一緒に食べるのだ。
ちなみに私たちもそうだったりする。
「今日、そういえば体育あるわ。うわめんどー。ミクー、憑依してよー」
お姉ちゃんがミクさんにお願い事をしている。
憑依……それは、タルパーの体にタルパが入り込み、体を操るというもの。
そうすることによって、タルパでも物理干渉出来る。
少し危険だが、お姉ちゃんは……というよりも、ミクさんは憑依が得意だ。
だから、こんなにも簡単にお願い出来るのだろう。
けど、いつも決まって、憑依は断られている。ミクさんは、お姉ちゃんに『ちゃんと』してもらいたいらしい。
「ちぇ、断られたし」
「憑依なんて危ないわよー。ちょっと憑依が得意だからって調子乗ってると、お姉ちゃんとミクさん、ミライさんの体が入れ替わっちゃうかもよ?」
お母さんが台所に向かいながら言う。
隣からは、春の苦笑が聞こえる。
「本当に必要なときだけしかやっちゃダメよ。例えば、命の危険があるときとかー」
そして、お母さんの説教が始まった。
けど、お母さんは相変わらず台所に向かったまま。
お姉ちゃんは反省している様子もなく、朝食を食べ終えると、歯を磨きに行ってしまった。
『真美お姉ちゃん、いつも通り自由人』
「そだね。……あ、そろそろ行かないと」
『ん?あぁ、そうだねー。遅刻したくないもんね?……さ!カレーを食べにレッツゴー!』
学校はカレーを食べる場所じゃありません。
と、私は思いながら玄関に向かった。
「行ってらっしゃーい」
少し遅れて、お姉ちゃんの行ってらっしゃいも聞こえる。
私と春は声をそろえて「行ってきます!」と言うと、家を出た。
学校に行くと、さっそく友達に挨拶。
「おはよう、真由美ちゃん、春ちゃん」
「おっはよー、ナナちゃん。龍斗くんもおはよー」
私の小学校からの友達、ナナちゃんと、そのタルパの龍斗くんに挨拶をする。
ちなみに、この龍斗くんは名前の通り龍型タルパだという。けど、そこまで大きくはなく、腰までの大きさなんだそうな。
『龍斗、ナナさん、おっはよー!』
春も、見えないながら挨拶をしている。律儀でいい子だ。
多分、龍斗くんも見えないながら挨拶をしているんだろう。
「あ、そういえば昨日のニュース見たー?」
「昨日のニュースって?あたし、ニュース見ないから分からないよ」
「あのね、他人のタルパが見えるようになる眼鏡だかなんだかを作ろうとしてる人の特集やっててね、それでそれで……なんか、凄いと思わない?成功したら、他の人のタルパが見えるようになるんだよ!?」
「へー、そんなのがあるんだ!でも、成功したとしても、その眼鏡高そうだよね……」
「だよねぇ……」
と、夢のある会話をしていると、いきなり背中を押された。
結構強い力で倒れそうになったけど、私はなんとか踏みとどまり、「何すんのよ!」と背中を押した人物を見た。
そこには、ツンとすました女子が。
「あら、おはよう。別に押したわけじゃないんだけど〜」
「押したでしょ!?いい加減、その挨拶の仕方やめてよね、リン」
肩にかかったおさげの髪を、手ではらい、またツンとすましているリン。
この子も私の友達だ。
しかし、この子はこの時代ではとても珍しい子なのだ。
何を隠そう、リンは三人中一人の確率でいる、タルパーではない人なのだ。
タルパを今まで作ったことがなく、むしろタルパなんて必要ないと思っているらしい。
まあそれは、人それぞれだし、私は否定しない。もちろん、ナナちゃんもそうだ。春も肯定している。
「ま〜たタルパの話なわけぇ?」
「あんたは興味ないでしょうけどね」
「興味はあるわよ。けど、作ろうとは思わないな」
『興味ね〜。まぁ、好奇心旺盛なのはいいことだよねッ!』
そうこうと話していると、気づけばチャイムが鳴った。
朝の時間は終了ということだ。
春は私の隣の空間に浮かび、カレーがどうのこうのと呟いている。
カレー好きだなぁ、本当に。まぁ、初めて食べたのがカレーだからなぁ。
『……あれ?先生まだ来ないけど?』
「そだね。ま、暇じゃないからいいけどねー」
『私のおかげ!』
「はい、そうです。春のおかげです」
教室の中は静かではない。
タルパーの人はタルパと話しているからだ。
わざわざ脳内会話をする必要がない。
脳内会話するのは、授業中や静かにしなきゃいけないときだけ。
本当は授業とかは集中しなきゃダメだけど……。
でも、こんな騒がしめの教室も、タルパーではないリンからしたら、異質なんだろう。
独り言を喋っている人が多いだけなんだろう。
「はーい、静かにー。遅くなったからってタルパと喋らない。日直はホームルームを先に進めてていいのに」
出席簿を担任用の机に置いて、ホームルームを始める先生。
私は脳内会話で春と話をする。
(だるー)
『だるいじゃないの!ほら、そろそろ出席とるから、名前呼ばれるよ?』
(出席番号一番とかキツいわー)
『はいはい。小学生のときもそうだったじゃん。慣れっこじゃん』
慣れっこじゃないんだけどな。
何年たっても慣れないものなんだけどな。
「真由美さーん」
『ほら、呼ばれたよ』
「……え?あ、ハイ!元気です!』
「またタルパと喋ってたのねー?ダメよ、ちゃんと先生の言葉に耳を傾けてなきゃ!えーと次は〜……石井さーん」
誰の返事もない。
「……あ、そう!そうだったわね。石井さんは休みだったわね。ありがとう、みっちゃん」
先生がそう言うと、ナナちゃんが先生に言った。
「先生もタルパと喋ってるじゃないですか〜!」
「い、いいんです!先生は教えてもらっただけですし!次いきますよ!次は遠藤さん!」
「……は、はいっ」
リン。それは私の友達で、タルパを持たない子だ。
何もかもが充実していて、タルパなんて必要ないと思っている。
けど、そのわりにはタルパに興味があるんだとか。
そのリンが、今日、私の家にいきなりやって来た。
時刻は午後七時をまわったころだった。
「居づらくなったからって、リン……あんたね、今何時だと……」
「分かってるわよ!でもね、本当に居づらいんだもの。しょうがないじゃない!」
「あんたの家と私の家って3km離れてるでしょー!?」
「いいじゃない!というか話をもっと聞きなさいよ!言っておくけど、本当はナナの家に行くつもりだったの!でも、ナナったら電話に出なくて……」
私、あんたに電話かけられてきてないんですけど……?
私とナナちゃんの扱いのこの差って何よ!?
『落ち着いてよ、真由美』
(お、落ち着けない……)
しかも、ナナちゃんと私の家だったら、ナナちゃんの家の方が遠い。
どんだけ遠くに行こうとしてるんだ、リンは……。
「まぁまぁ。お腹空いてない?なんか作る?」
お姉ちゃんがリンに聞く。
お姉ちゃんは何かと世話焼きだ。ちなみに、世話焼きになったのはお姉ちゃんがタルパーになってからだ。
「お構い無く。途中、コンビニで買って食べてきましたから」
年上にもツンとすましてやがる。
私はため息を吐いて、テレビをつけた。
なにか、面白いものはやってないだろうか、と……。
「ああ、そう。それで、どうして居づらくなったかってのを言わないとね。さぁ、テレビを消しなさい。雑音で私の声が聞こえないわよ」
ああ、そうですかそうですか。雑音ですか。
私は心が荒んでいることを実感しながらテレビを消した。
『うん、荒んでるねー』
(でしょ?誰のせいだか……)
『カレーを食べると、そんな心もいっきに』
(変わりませんから)
『………』
リンはコホン、と咳をしてから話出した。
「私、結構前から言われてたのよね。タルパは作らないの?って。ほら、うちの家って地方タルパ研究所じゃない?だから、結構言われてたのよね」
それには私もビックリ。
こいつ、お嬢様なのは分かっていたが、まさか本部ではないとしても、地方のタルパ研究所の娘だったとは……。
春も隣で驚いていて、意味不明な言葉を発している。
「それで、今日、とうとう強いられたのよ。過激にね。どうしてタルパを作らないの、世間に顔向け出来ないわ、研究所の子がタルパ持たないってどうして……ってね。うちの親、結構病んでてね。タルパを作ってからはマシになったようだけど」
「ふーん」
『へぇー』
「なるほどねー。まぁ、確かに世間の目は気にしちゃうよね。でも、さすがに酷いね。ご両親のタルパたちは何をしてるのかな。とめてあげないといけないのに。まぁ、タルパだけで止められるってわけじゃないけど……」
いつの間にかお姉ちゃんが会話に入ってきている。
まぁ、気にしちゃ負けだから気にしないでおくけど。
「で、居づらく……というより、半ば追い出されるような感じだったのよね。タルパを作るまで帰ってくるな、ですって。ほほほほ」
ほほほほってなんだ。どこのお嬢様だ。ああ、研究所のお嬢様か。納得納得。
「で?あんたどうすんの?」
「さぁ?とりあえず、タルパを作ったと嘘を言うか……ああ、無理ね。うちの親、他人のタルパが見える眼鏡を開発してるし。それが完成したら大変よね」
「ふーん……ん?え?眼鏡?……えぇッ!?」
私は大声を上げた。
驚きで大声しか出ない。
『へー、昨日のニュースのってリンさんの……へぇ!ビックリだね、真由美!』
「ビックリどころじゃないよ!何それ聞いてない!」
「当たり前よ。言わなかったもの。ね、どうすればいいと思う?」
知らないよッ!
私はどうしようと頭を抱えた。
いつの間にかお姉ちゃんはどこかに行ってるし……。
「と、とにかくタルパ作れば?」
「えー。皆の話を聞いてると辛そうなのよね。ナナはまるまる一年かかったそうじゃない」
「それはオート化までの道のりね。早い人は一ヶ月だし……作るのは本当に簡単だから、タルパの設定を考えて、脳内会話で一人二役しちゃえば、タルパは生まれたことになるよ」
「それでいいのかしら?」
「いいんじゃないの?とりあえず、帰りなさいよ、家に」
リンは「うーん」と言いながら悩み、そして息を吐いた。
「タルパって、私に必要ないし……」
だろうな、あんた充実してるもんね。
私はどうしようかと悩んだ。
何を言おうか、どうしたら帰ってくれるだろうか、と。
すると、いなくなっていたお姉ちゃんがやって来た。
「はーい!そんなリンちゃんにオススメ!私のタルパの設定資料〜!!」
黒いノートを手にしたお姉ちゃんの目は、完全に楽しんでいる目だった。
テーブルにバンッとノートをおき、その黒い表紙を捲るお姉ちゃん。
「ドヤァ!ドヤァ!こんなに細かく設定を考えれば、すぐにオート化するよー!!………あたしは半年かかったけど」
それでも早い方だと思うけど。という言葉はひとまず飲み込んでおいて、私はそのノートを見てみた。
細かい文字でびっしりと。
こういう言動したときはこんな気持ちで、そののき、語尾はこんな風になっていて、声は若干高い低い震えてる真っ直ぐどうのこうの……____
やけに細かかった。
パラパラと捲ってみたけど、文字がびっしりと書いてあるのが10ページも続いていた。気持ち悪いほどに。
「家に帰りたいでしょ?タルパを作らないといけないんでしょ?ふふん。任せなさい!このあたしがじっくりと教え込んで___」
「凄いけどね、お姉ちゃん!?リン、充実し過ぎてて、タルパ必要ないってさ!」
鼻息荒く、外にいたら確実に警察にお世話になりそうな顔をしたお姉ちゃんの言葉を遮り、リンの考えを伝える。
お姉ちゃんは「うっそぉ」と目を丸くした。
「確かに、必要ないならタルパ作らなくてもいいだろうけど……えー!あたしそんなの聞いてなーい!」
「聞いてなかったもんね。いなかったもんね。まあ、今はとりあえず、どうしよっかなーって感じでさ」
そして、どうしよっか、とリンと話す。
リンは、すでに困った様子などなく、人の家だというのに、のんびりと寛ぎながら私の言葉に相づちをしている。
話し合っているって感じがまったくしない。
そして、何分かたち、お姉ちゃんが「そうだ!」と声をあげた。
「いい方法があるよ!」
すると、ポケットからケータイを出し、どこに電話をかけた。
「おー、由紀子ー?元気ー?……うん。元気元気。んでさ、あたしの妹の……そうそう!真由美よ真由美。その真由美の友達の子がさー____」
由紀子さん?
……ああ、お姉ちゃんの大親友って子か。
初めて会ったとき、自慢げに「私のご先祖様は、タルパがあまり普及していなかったときにタルパを作った凄い人でー、その人と同じ名前なんだー」とか言ってたっけ。
「あんたのとこのユーカって、霊タルパじゃん?だから、ちょっとの間、そのリンちゃんのとこに……そう!話が早いわね!お願いできる?……マジ?おーけーおーけー。それでもいいよ。ありがとねー」
リンはいつの間にかテレビをつけていて、バラエティ番組を見ていた。
こいつは……!
私はテレビを消した。
その時にはもう、お姉ちゃんと由紀子さんの会話は終わっていた。
「あたしの友達のタルパがついててくれるってさ。ただ、一日5時間。しかも午後だけだって。16〜21時だけ。それでもいい?」
リンは頷いた。
「それだけでも結構。家に帰れればいいですから」
「そうお?えーと、もうそのタルパが来ると思うけど……あ、名前はカナって言うんだけど……でも、話できないから……」
「両親は、他人のタルパが“見える”眼鏡を作ってるだけですので、そこら辺は大丈夫かと」
「じゃあ大丈夫かな。……お」
またお姉ちゃんに電話がかかってきた。
「はーい、もっしもしー?……ん?着いた?はいはい。……リンちゃんと思われる子の後ろにいる?はいはい。わかったよー」
お姉ちゃんがリンの後ろを見る。
リンもそれにつられて後ろを見た。
特に何もいない……が、確実にいるんだろう。
「んじゃさいならー」
お姉ちゃんが電話を切る。
私はリンが持ってきた荷物をリンにつきつける。
「……ってことで、大丈夫だと思う……かな」
「じゃ、そういうことだから、じゃあね、リン!おやすみ!」
次の日の学校に、リンは来なかった。
「どうしだろうね、珍しいね」とナナちゃんが言っていたけど、私はそれに「風邪じゃない?」としか言えなかった。
なにかあったのかなー……?
私は学校の廊下を春と歩きながら考えた。
とりあえず、私の考え、というか仮説はこう。
昨日、リンは家に帰って、親に言われた。「タルパ作ってきたんでしょうね?」と。そして、リンはすまし顔で「ええ、作ったけど?」と答える。
そこで、詳しくタルパのことを聞かれ、そして……ボロが出てしまった。
ボロが出て、「嘘をついた」ということでリンは親に暴力を奮われ……_____
『それ、やりすぎ。途中からただの妄想と化してるよ。仮説じゃなくなってるよ、真由美』
「勝手に私の思考を覗いてこないでくれますー?いいじゃん。しょうがないじゃん」
『何がしょうがないんだか』
そして、実はこの仮説の半分は当たっていることが、次の日に分かった。
次の日、リンは普通に学校に登校してきた。
ナナちゃんがいないときに、何があったか聞いてみた。
そしたら、リンはムカつくくらい笑顔で「洗礼を受けさせた」と言った。
「……洗礼?誰に?」
「両親以外に誰がいるって言うの?……そうねぇ……あのあと、タルパのことを詳しく聞かれて、ボロが出ちゃったのよ。そしたらあの人たち、狂ったように、リンが嘘をついたー私達の子供がー嘘をー……なぁんて叫び始めるから、ムカついて、近くにあった他人のタルパが見えるようになる眼鏡の資料だとか機械だとか部品だとか壊してやったわ」
自慢げにふふんと鼻をならす。
この子、友達になって良かったのか悪かったのか……。
「は、はぁ……それは……まぁ……凄いもので……って!ダメじゃん!世紀の大発明が開発されているというのに、それを壊すなんて!」
「ッはぁ!?世紀の大発明!?あんなのが!?ハッキリ言って、あんなのダメダメよ?デザイン悪いし!」
「デザインの問題かっつうの!」
「問題よ!……それにね、一番問題なのは、他人のタルパを見ようとすることよ」
今度こそ何を言い出すのよ……。
私は呆れて笑ってしまった。
「何笑っているの?」
「だって!他人のタルパが見えるようになるってのは良いことじゃん。タルパー同士、もっと仲が深まるでしょ?」
「そう思えるのが不思議。こんなに人口が多い時代に、一瞬にして人口が増えるようなものだし、世の中、もっときつくなっちゃうもの」
はっきり言わせてもらうと、私は理解できなかった。
理解できなくて、そのあとすぐにやってきたナナちゃんに聞いてしまったほどだ。
ナナちゃんに今までの経緯を説明するのには、私のこの小さな脳みそだけでは辛く、結果、リンや春に手伝ってもらいながら頑張って説明したのだった。
「あたしもよく分からないかも。難しいしね」
ナナちゃんは、リンの意見を聞いてすぐに「分からない」と言った。
「真由美ちゃんの言うように、他人のタルパが見える眼鏡はいいと思うけどなぁ……タルパー同士の仲も深まるだろうし」
「だーかーら。人口が一瞬にして増えるのよ?どれくらいの人が、どれくらいのタルパを作ってるか、ナナは分からないの?地面がほぼ見えなくなるし、息苦しさも感じるんだからね?」
「そんなわけないよ。そんなこと、あるわけない」
「ナナ、あんた、もう一度勉強しなおしたら?」
「リンちゃんもリンちゃんだよ。他人のタルパは、触れられないんだよ。息苦しさを感じるわけがないし、人口は一瞬にして増えないよ?タルパは人型だったとしても、完全な人というわけではないし……」
リンが、その長い髪を後ろに振り払って、席から立ち上がった。
呆れと哀れみの目。その目で、ナナちゃんを見、そして私を見て言った。
「そこまでバカとは思わなかったわよ。……あーあ。タルパタルパ言ってる人は現実や人を直視しないんだもの。ちゃんと、タルパ無しの現実を見たら?」
タルパを汚されたような気分だった。
私は、一気にわき上がった怒りを沈めようと、春を見た。
春は私の癒し。きっと、その癒しで私のこの怒りを沈めてくれる。そのはず……!
けど、春は何も言わず、フッと姿を消した。精神に作ったダイブ界に、行ったのだ。
まさか、逃げた?この場から?
あまりダイブ界に行こうとしなかった春が、まさか自分から……__
「嘘、龍斗、ダイブ界に行っちゃったんだけど……」
「ナナちゃんも?うちの春もなんだけど……」
「雰囲気で察してくれたんじゃない?言っておくけど、私はタルパを否定してるわけじゃない。タルパに依存し過ぎているタルパーを否定しているのよ」
ねぇ、二人とも。と、リンが続けた。
「結構昔のことなんだけどね、タルパが普及していなかった時代……何百年か前ね。そのときに、あまりにもリアルにタルパを感じられる人がいたんだって」
いきなり昔話?
私はリンをめんどくさそうに見た。
ナナちゃんは興味津々なのか、「それで?」と続きを急かした。
「その人、恐ろしくなったって。現実というものが分からなくなりそうで。その人はタルパと一日だけ離れて過ごしたことによって、ようやく現実が分かったんだって」
「現実、ね」
「そう現実。あんたたちは知らないだろうけど、地球温暖化って今とっても酷いの。一部の過激派が、タルパのためにーって電気をすごい使い続けてたから、余計進んでね。他にもある。タルパと人間のための社会と詠ってることよ」
「いいことじゃん」
私がそうつっこむと、「呆れた」とリンは私を見た。
「どこが?……言い換えれば、タルパとタルパーのための社会。私のような人間はお断りの社会だって」
「それは被害妄想じゃないの?」
「そうだよ。リンちゃん、そんな酷いこと、どうして言うの?」
「ったくうっせぇなぁッ!!いい加減現実見ろっつってんだろおッ!!」
リンが、口調を荒くして、そう叫んだ。
私は信じられない、というようにリンを見た。
周りのみんなの視線が痛い。
リンは肩で息をしていて、リンじゃないようだった。
いつもツンとすましたリンが、そこら辺にいる普通の人間に見えた瞬間だった。
「口を開けばタルパタルパタルパ……どこの妄想人間だよッ!!現実見ろよ!!過激派っつーのはなぁ……お前らだよッ!!タルパのためタルパのため……信じられないね!!被害妄想!?ッハ!笑うは、んなもん。被害妄想して、自分追い込んで、タルパに慰めてもらってるお前らが言うかぁ?この地球が崩壊しそうだってこと、なんで気づかないの!?火星に移住できるようになるための技術すら持ってないような人間が、なぁに調子こいて思念体を見えるようになる眼鏡を作ろうとしてんのッ!?」
しばらく沈黙が続いた。
そして休み時間終了を知らせるチャイムが鳴った。
いつもより低く、重圧感があるように感じた。
ああ、これが、現実なのかもしれない。
現実ってなんだろう。
そう考えるようになってから、春があまり喋りかけなくなってきた。そして、ついに昨日、春は一人二役状態に戻ってしまった。
私は、積み重ねてきたものがいっきに崩れ落ちるのを見て、「ああ、こんなものだよね」と笑った。
春……彼女はいい子だった。とてもとてもいい子。彼女のことなら、なんでも言える。話せる。語れる。
けど、その子はもう存在しない。
それは、その子がここにいたという証拠がない、ということが証明していた。
これが、現実なのかな……?
私は泣くこともせず、フラフラと、まるで力が入らない体を動かして、リビングへと向かった。
テレビがつけてある。ニュースだ。よくあるニュース。
ー『人口が、先ほど10億を突破しました。では、次のニュースをお伝えいたします』ー
10億突破だって。凄いよね。
確か、8億突破したら、食料危機で……__ああそう、これが現実だった。
忘れてた。
そう、これが現実だったね。
タルパがいなければ、鬱。暗い。寂しい。崩壊。終わり。終末。破滅。
ああ、こんなもんだよ。こんなもんだったんだよ。
学校に行くと、ナナちゃんが暗い顔で待っていた。
「りゅ、う……と……消え、た……どうしよ……毎日毎日嫌なニュースばっか……いつも、楽しいニュースばかりだったはずなのに……」
ああ、そうだね。そうだね。
いつの間にか、私達はタルパを否定するようになっちゃった。タルパがいたら、現実が分からないから。
「はい、おはよう。タルパーの友達。元気?」
「リン、おはよう。今日は早いね」
「おはよう、リンちゃん」
「ねぇ?現実、分かったんじゃない?タルパは確かにいいと思うよ。けど、あなたたちは過激すぎた。そういうことね。目を離しすぎたのよ、現実から」
目を離したら、いつの間にか子供はいない。子供は車の多い道路を渡る。そして、車に引かれ、この世から消える。
「もし、またタルパを作るんなら、もう少し大人になってからにしたら?低年齢化がしていったから、こうなったんだよ」
子供は無知。無知だから、そこが危険とは分からず、楽しいところだと思ってそこに飛び込む。危険な道を渡ってしまう。
先を見ようとしないから、破滅に続く道だとは分からない。
気づいたら、車に引かれて意識が途切れていた。目の前は真っ白。
次に目を開けたら、そこには破滅のにおいが立ち込めていた。
鼻にツンときて、涙を流させようとする。
なんで泣かせようとするのか?
それはただの復讐だった。報復だった。
悪いことをしたら、相手もやり返してくる。そういうこと。
売られた喧嘩は買われたの。
気づいたら、私は懐かしきダイブ界にいた。もう、無くなったと思ってたのに。
目の前には懐かしき春がいた。
ごめんねって聞こえた。
「ううん、違うの。私が言わなきゃ。ごめんって」
あなたにも、この地球にも。
現実って辛い。だから、私はタルパを生み出した。
小学生という子供ながら、うすうす分かっていた。この現実の辛さを。
『ねぇ、マスター。春っていうタルパを作りだせて、良かった?』
「うん、良かった。とても楽しかった。だから、もう寝よっか。もう、現実見たくないの」
教えてあげなきゃ。この現実を、誰かに。
でも、その誰かって誰?
私は意識を手放す。
手放したら、もう、苦しまなくて、いいもんね?
私はタルパを否定したわけじゃない。
タルパに依存し過ぎていて、現実を見ようともしないタルパーを否定しているの。
けど、そのタルパーばかりのこんな地球じゃ、ほぼ全員を否定してるようなものだから……。
もし、タルパが普及する前の、平成という歴史の授業でしか知らない時代にいけたのなら、私はこう言いたい。
「タルパは、隠れて作りなさい」
と。一般の子供に知れ渡り、普及しないよう、隠れて、そして、そのままどうかひっそりと……___。
そしたらまた、世界が変わるかもしれないから。
私は意識を手放した友達を見た。
彼女はもう、苦しまなくていい。
今まで楽しい人生を送ってきた分、はやくお迎えがきた。
おめでとう。あんたは破滅を見なくてすんだ。良かったね。
彼女を揺さぶり、呼び掛けるもう一人の友達を見る。
「ねぇ、どうしたの?ねぇ?ねぇッ!?」
現実ってこんなもの。
心から信じられる人が、本当にいなくなったとき、こうなってしまう。
だから、人間はそれを恐れて逃げ道を闇雲に探す。
そして、この人達の場合、行き着いた逃げ道がタルパだった。
私はすました顔で言った。
「どけてくれる?ちょっと邪魔なのよね。今から予習しなきゃ」
信じられない、という顔で友達が私を見る。
その顔は、ひどく両親を思い出させた。
〜短編終了に伴ってのあとがき〜
うわーい。完結だぁーい(パチパチ)
最初は平凡な日常だったりちょっと切なめだったり楽しい日常だったり……という、いろんなタルパーの短編だったわけですが!
タルパーやタルパの肩を持ち続ける短編ばかりだったのですが!
最後の最後でまさかの未来設定パラレル(本当に……?)の話で、あの結末。
やっぱりああいう絶望系を書く方がいいね。慣れてるから。
持ち上げ持ち上げ、そして落とすのが好きです(*´∀`)ムフッ
タルパの暴走ってあるけど、じゃあ逆にタルパーが暴走したら?現実を見なくなったら?そして、そのまま何十年も進んでいったら?
……そしたら、どうなるの?
という感じかな、最後は。
えーと、話変わるけど、実際、タルパーの年齢が低くなってることはひそかに問題視されてるんですよね(人のこと言えないけど)
そのことについても少し触れてみたり。
なんかね、自分で書いてても考えさせられました。
特に、タルパがいなくなったときの場面とか。
前に由紀子(ほら、あの受験生の)の回で、タルパがいなくなったのは書いたから、書きやすいかなーって思ったら全然違うし。まず、性格とか考え方とか色々ね。
リンちゃんは常識人代表みたいな感じにしようとしたけど、あまりそうはならなかったなぁ……。
ナナちゃんは、最初タルパに依存しすぎちゃって病んでる子のはずだった……。
真由美は低年齢タルパー代表(設定は中学生くらい)みたいな。
今まで書いてきた短編の登場人物たちも、この三人が登場する話で結構出てきた。
実は案外繋がってるんですよ、短編って(´∀`)
……おっと。まとまらない後書きが長すぎたので、この辺で終わります。
では、さよなら〜ノシ