新版です。
前回受けたご指摘等を元に、再び一からスタートしたいと思い、更なる加筆修正版として連載をさせていただきます。
前スレは今後も番外編用や感想·意見用として残しますので感想等はそちらにどうぞ。
...今度こそ万人受けする書き方をせねば...
【初音 -前文-】
噎せかえる熱気、
ジリジリと体を焦がしていく日差し、
押し寄せる風の波。
世界は平凡で、退屈で、本当につまらない。
そう、つまらない。
なら、どうすればつまらなくなくなるのか?
そんな考えから生まれたのであろう、現代の遊戯は、本当にとんでもない革命だったのだろうと、俺は常々考えている。
50年前には存在していなかったものが、今流行していたり、あちこちで使われていたりする。
それは進化なのか、はたまた運命なのか。
まぁそんな厨二っぽいこと言い出すまでのことでも無いだろうが、実際、こうした「文化」によって救われている人も少なからず居るのではないだろうか。
居場所が無かった人、居場所が分からなかった人、居場所を失った人。
そんな人達の支えになっているのかも知れない。そのことをふまえれば、やはりこの文化が出来たのは運命なのではないだろうか。
一方で、勿論それを否定する人も勿論いる。
まぁ、物の「価値観」なんて人それぞれだ。何も否定するなと言う必要は無い。
それでも、
その文化には、
社会に旋風を巻き起こすことがある。
世界を平和にすることがある。
そして________
人と人とを、結ぶ力がある。
これはそんな下らない文化にドップリと浸かって色のない日々を過ごしていた俺が、ある夏を境に巻き込まれた、
ある、青春の物語。
【plorogue 1-1 -404 not found-】
「.....................何だこれは」
俺の眼前に広がっていたのは一面の野原。
...他に見渡しても何もない。何だここは。何故こんなところに居るんだ俺は。
そんなことを悶々と考えていると、不意に微かに機械音が聞こえてきた。
何の音だ?
そう考えるや否や、突然足元がガパッと開いた。
...あ、これがボルガ式か...。
いやまて、これ俺死ぬんじゃねぇの?
転生してスライムになったわけでもないしこれ落ちたら死ぬでしょ?
え、マジで何だこれ。って言うかなんだこれ!?
「...........ハッ」
......意識が完全に覚醒し、目の前に入ってきたのはどかっと置かれたデスクトップPC。
「...まぁ、そうだよな」
また変な夢を見てしまった。何か最近カオス過ぎますよ俺の頭。
どう使ったらあんなワケわからん夢になるんだ。そもそも草原に落とし穴ってあれか、とんねるずか。
そんなことを寝ぼけ眼のまま考えていると、ふと目の前のPCがバシュンッ!と言う音と共にナレーションを再生し始めた。
『【若人】再封印作戦は無事終了しました。皆さんのご協力に感謝します...』
「................あっ」
...その意味を、俺はすぐに理解した。
「やべぇやっちまった...」
現在の時刻は11:30。今俺がやっているオンラインゲームの緊急クエストの終了時刻である。
俺が前に時計を見たときは10:30だったので...まるっと一時間寝てたことになる。
更に重大なのが、今の今までやっていた緊急クエストが一週間に1、2回しか出ないやつだってこと。
それを思いっきり逃した。しかも寝落ちという後悔度率100%のパターンで。
「どわああああああああやっちまったあああああああああ」
「こらこら、あんまりはしゃいじゃダメですよ〜?」
そんなのひほほんとした声と共に、PCの向こう側にあるドアが音を立てて開いた。
【plorogue 1-2 -404 not found- 早速誤字。のひほほん→のほほん】
ドアの先には当然、声の主が立っている。
その主と言うのが...
「...んん?」
俺の通っている高校...北京浜高校の教師、水上 由奈(ミナカミ ユナ)先生だ。
...ここまで来て、俺はようやく自分がどういう状況に置かれているのか理解した。...いや、遅すぎる。逆に何で今の今まで気づかなかったのか。どんだけ緊急クエスト大事なんだよアホか。
「ありゃ〜、その顔だとまた寝て過ごしてたんでしょう? ダメだよ〜、いくら暇でも仮にもここは部活なんだから〜」
「勝手に決めておいてどの口が言うんですかもう...」
そう、ここは部室であり、今俺は部活中なのだ。
部活、と言うが、大したことはやらない。と言うかやる必要が無い。
何故ならば、この部活は俺が設立したわけではなく、顧問として位置付けられているこの先生が勝手に作り出した部活だからだ。
つまり俺は被害者である。俺は悪くない、社会が悪い。とはよく言ったもんだ。まさしくこれじゃねぇか。
そもそもの経緯は二年生に上がった時だ。
自己紹介カードとか言う小学生のころ誰もがやったであろう謎過ぎるあの制度を、何故か先生の命で書かされることになった。クラス全員。
そこには勿論、名前だとか、生年月日だとかを書く項目がある。
その中には、趣味・特技という項目も当然あった。当時俺は運動なんかも大してやることがなく、たまたまその時熱心にやっていたのがゲームだったので、それをそのまま書いた。
序でに今まで何かで表彰されたことはあるか、みたいな項目があったので、英検とか漢検とか、そういうのと並べてネタで「某太鼓ゲー県大会優勝」とか「某イカゲー甲子園 地区大会準決勝出場」とか色々書いてやったわけだ。
............誤算だった。今ほどあの頃の俺を恨みたいと思ったことはない。
結論から言うと、先生もヘビーゲーマーだった。
俺がネタ(だが事実)で書いた戦績を見て何か降りてしまったんだろう。そのままのノリでどう考えても自己満足の為に作られた部活です本当に以下略がまんま形になったようなこんなぶっ飛んだ部活を勝手に作られた。で勝手に部長にされた。
...これが4月の出来事であり、今は8月。未だに部員は俺だけ。
夏休みと言うこともあって、えもいわれぬ孤独感に満ち溢れている今日この頃である。
【plorogue 2-1 -Unclear error-】
「...それで、今日は何の用事なんですか? 部員が増えるってんなら大歓迎ですけど」
「いや、別に用事があるわけではないよ〜? ただ単に元気に活動してるかなぁってね」
俺も何だかんだで「部員増えたんですか?」というのも何回かは聞いているんだが、返ってくる答えはいつも大体こんな感じ。ギャグマンガ日和〜♪とは続かないぞ、決して。
まあ要するにこの人はアレだ、積極性がまるで足りない。
やっぱり自分で集めるしかないのか...と思ったことも勿論あるのだが、そもそも今までの人生を丸ごとサブカルに全振りしている猛者なんてそうそう居るもんじゃない。
もっと言えば俺の話題に着いてこれそうな奴がまるでいない。
どいつもこいつも口を開けばやれモンスターをストライクするだのパズルでドラゴンするだのグランブルーなファンタジーだの何だのってスマホゲーばっか。いやまぁ面白いやつもあるから別に良いんだけどさ?コンシューマー機もやれよと。
と言うこともあって結局断念。趣味の合う人としか基本つるまない俺からすれば、趣味が合わないだとか、こっちの話を聞いただけでドン引きするような人と付き合いを持つことははっきり言って致命的。
...まぁその結果あまり友人は増えはしなかったが、それでもそれなりに充実した生活を送れている辺り本当に首都圏は素晴らしいとつくづく思う。
...とまぁ変な語りはこの辺で置いておくとして、だ。
「いい加減誰か丁度良さそうな人とかどうにかして捕まえられないんですか」
「そうは言ってもね〜...先生も一応頑張ってはいるんだけどね〜」
「いやいやいや嘘つけぇ...」
...先生の今の言葉は「先生も忙しいんだから自分で何とかしろ」ってことですね分かります。
「いや、まぁ取り合えずちょっと暇だし一戦位相手してくださいよ」
「あ、先生そろそろ次の作業があるんだよね〜。ゴメン!また今度って事で!」
そう言って部屋を後にしようとする先生に向かって
「いやちょっと貴女顧問でしょ明らかに逃げようとしてるでしょ逃げないでくださいよちょっと待ってええええええええええ!!」
と絶叫するも当然待つはずもなく、叫んだ声は無慈悲にも閉められたドアに反響し、再びほぼ無音となった部屋に響いた。
【plorogue 2-2 -Unclear error-】
「はぁ...ったくもう...何なんだよあの先生...」
と愚痴を溢しながら、俺は改めて目の前の画面を見つめる。
2016年、8月4日。デスクトップの画面の表示にはそう書いてあった。
夏休みに入って4日目。まだ4日なのか、もう4日なのか、どちらかを選べと言われたら、俺は前者だ。
はっきり言って、俺はここ数日の時間感覚が完全に麻痺している。無理もない。
夏休みに入ってからの生活と言えば、ここで延々とPCの前に座り続け、午後になったら帰宅、昼食、家でゲームしたりアニメみたりしながら課題をやる。そんなもんだ。実に平凡。だからこそ時間感覚が狂うのだ。
...まぁ唯一平凡じゃないだろこれって部分を挙げるとしたらば「基本的に毎日深夜4時までは起きてる」って事くらい。あとたまに徹夜する。
まぁ徹夜するのも時間感覚が狂う原因なのかもは知れないが。
そんな誰に向けたかも分からない脳内モノローグを勝手に展開しつつ、画面に目を滑らせていく。
最近はネットの話題も平坦なもんだ。これといって面白そうなネタがあまりない。
とはいえ無いものは仕方がないので適当に掲示板で今季アニメの批評とかを書き込んでいく。
226:天空の城の名無しさん@実況は実況板で:2016/8/4(木) 11:23:48 ID:kn4Hm98n.net
しっかし何でこっち側にシフトしちまったかね。
正直二期作るんだったら前のユニットのままでよかったわ。
どう考えても前の奴らを貶すためのアニメになってるでしょこれ
227:天空の城の名無しさん@実況は実況板で:2016/8/4(木) 11:24:23 ID:beua4N35.net
>>226
ほんこれ
まぁこれを機に信者共が落ち着いてくれれば良いけど。何なの聖地巡礼って。
いろんな場所荒らして回るのが聖地巡礼なのかよ
229:天空の城の名無しさん@実況は実況板で:2016/8/4(木) 11:29:31 ID:aezD70qm.net
>>227
信者叩くスレじゃないだろ。
まぁ確かにこのアニメの信者ほどヤバい奴等なんて居ないだろうから気持ちも分からんでも無いがな。
これじゃ松厨のがマシ
...そう。これが俺の日常。いつもの俺。至って平常運転。
この生活さえ続けていれば大体生きていけそうなまである。つまりこの状態がベストなのだ。これ以上もこれ以下も望まなくていい。楽なもんだ。
そうこうしているうちに12時を回った。部活の終了時刻である。
と言うわけでさっさと荷物をまとめあげ、そのまま肩に背負い、部屋を出ようとした...瞬間。
僅かな音でノックの様な音が鳴り、一瞬間を開けてズバァン!!とドアが開いた。近くに居たから危なかったです。
「あっぶね...お、おい!? せめてこっちが返事するのを待って...」
という俺の説教に耳を傾けることもせず、「彼女」はこちらへと早歩きで詰めよって来て______
こう言い捨てた。
「へぇ...あんたが『英雄(ヒーロー)』ってゲーマー?」
「.....................え」
思えばここからだろう。俺の「日常」が崩れ去り、「青春」へと変わったのは。
【plorogue 3-1 -Date Lost-】
◆
今、俺「達」は街中を歩いている。
相変わらずのジリジリと焼けるような日差しだけではない。コンクリートからの反射、エアコンの室外機、ビルの窓からの反射やらなにやらで体感気温は実際より2、3ºcは高くなっているだろう。これがヒートアイランド現象か...。
だが、俺にとっての問題はそこじゃない。
今横に並んで歩いている、こいつのことだ。
突然目の前に現れたと思ったら突然着いてこいだもんな...何なんだよ本当に。
...因みに。
さっきこいつが話していた「英雄」ってのはまぁ...あれだ、俺の二つ名と言うか異名と言うか。そんな感じの物である。
とは言え、自分で付けた物ではない。もしもそうなら俺は今頃「何調子ぶっこいてとんでもねぇ黒歴史自給自足してんだ俺えええええええええ!!」と奇声を発しながら壁に頭打ち付けて死んでる。まぁ自分で付けたにしても他人が付けたにしても黒歴史に違い無いのだが。
勿論、そんな黒歴史が出来上がったのにもしっかりとした経緯がある。
...いや、黒歴史な時点でしっかりもクソも無いが。
まず、俺が今ホームにしているゲーセンがある。ホームってのはつまり自分が拠点にしている、一番よく行く場所の事だ。
まぁ、そこは元々酷い荒れようだった。なんと言うか、溜まり場と化している様な感じを想像してくればいい。連コ(連続コイン投入のネットスラング。後ろに人が待っているにも関わらず勝手に新しくクレジットを追加してしまうこと。これを禁止していることはもはや暗黙の了解)
とか台パン(ムカついた時に筐体をバンバン叩くこと。壊れる危険性あり)とか、そういう悪徳なゲーマーが普通に横行している状況だった。正直近づきたくない感じ。
しかし、何だかんだで家から一番近いゲーセンがここであり、それなりに品揃えも良い場所だったので、俺はどうしてもそこを諦めきれなかった。
そこで思い付いた。思い付いてしまった。
...こいつら全員ボロクソに叩きのめしてしまえば大人しくなるんじゃね?と。
その結果。
元々かなりゲームをやりこんでいたとは言え、最近やっていなかったので些か不安はあったものの、その辺は体が覚えてくれていたようだ。どうもあっさりと倒せてしまったのだ。
これでまぁ安全な遊び場は確保出来たわけだ。それでまぁこれからは暇な時に来るか...と思っていたのだが。
それを見ていた周囲のゲーマー達の唖然とした顔を見て、正直な話「やべぇやっちまった」と思った。
僅かな沈黙の後、突如として湧く取り巻き。
後から聞くに、その悪徳ゲーマーの奴らはジャイアン的な存在だったらしい。このゲーセン内で一番強く、誰も勝てなかったらしい。それをあろうことかあっさりと勝ってしまった。
となれば、後は大体分かるだろう。散々ワッショイされ、何故か神的な扱いを受け、気が付けば悪徳ゲーマーさん達は一回も来なくなっていた。追い出すつもりじゃなくてせめて俺が来たときだけ大人しくしててくれればよかったんだが、どうも居場所が完全に消えてしまったらしい。何か悪いことした。
...そんなわけでそれから1年ちょっと。未だにその逸話は語り継がれており、例のゲーセンのゲーマー達からは「英雄」と呼ばれ崇め奉られている。正直迷惑なんでやめていただきたい。
面白い。
デジタルもアナログも大好きな人です//
主はどちら?
>>8
どうも有難う御座います。
俺はデジタル派ですなぁ。
デジタル見慣れてからアナログ時代の画面見ると汚くてびっくり。
あれですね。Wii UとかPS4に慣れてからWiiの画面見ると「当時は綺麗に見えたのに...」って言いたくなるそれと同じパターン。
...あれ、テレビの話じゃなかった?
..........まぁいいや(
【plorogue 3-2 -date lost-】
さて、ここで話を戻そう。今、俺はこの謎の少女と共に何処かへ行くため街中を歩いている。
ここまでを誰かに言えばあっ...(察し)が発動するのも秒読みの状態になるだろう。
そう。既に俺は「あの場所」へと向かうのであろう事を察している。なので、何としてもたどり着いてしまう前に阻止しなければならない。
何故か? 言うまでもない。
世間は夏休み。同級生や他校の生徒がゲーセンに屯(タムロ)するのは必然的。そんななかで俺の素性がバレたらどうなるか。
待ち受けるのは始業式で全校生徒から下される社会的な死である。
それだけは何としても阻止しなければならないのだ。
そしてそのためには一刻の猶予もないのだ。ともなれば早速行動起こそうじゃないか。
「あ、あ〜、そう言えば俺買い出し行かねぇとならねぇんだったな...悪いが今度にしてくれねぇか?」
「へ?まだ昼過ぎでしょ?夕食の買い出しなんてごまんと時間あるでしょ、いいから着いてきなさいって」
...作戦その1、消滅。何だこいつ凄い面倒臭いぞ。
となると誤魔化すのが無理ならもういっそのことはっきりと無理な理由を言ってしまった方がいいのかも知れんな...。
...うんk、それでいこう。これなら大丈夫だ、多分。
「あのさ...多分俺ら向かってんのってあそこだろ? 大通りのゲーセン」
「そうだけど何か?」
「俺実はかくかくしかじかであそこ行きたくないんだけど」
「どうせ学校で空気薄そうだし別に関係無いでしょ」
「酷いな君!?」
作戦その2、瓦解。さらっと酷いこと言われたんだけど泣きたいんだけど。
...まぁ存在感薄いどころか皆無だってことは否定しねぇけどさ...。
って、それどころじゃねぇ。早く別の方法を考えなければ..別の方法!? もう思い付かねぇぞ!? ええ...マジでどうすりゃいいんだこれ...。
「...........oh...」
悶々と考えている内にたどり着いてしまった。
派手な青い外壁、大きく打ち出された店舗名、窓から溢れ出す光。もはや何かを通り越して忌々しい気にすらなるほど、それこそ「親の顔より見た光景」と言っても過言ではないほど何度も見た光景だ。
そしてそれが目の前に見えると言うことは、俺の人生がもうすぐ終わるのであろうことを示している。
そんなこともあり、俺が建物の前で白目を剥いたまま固まっていると、謎の少女は入り口へと入りかけてこちらを振り返り催促した。
「ちょっと、何固まってんのよ。早く帰りたいんなら大人しく着いてきなさい」
「アッハイ...」
数えきれないほど脳内に浮かぶ不安を無理矢理押し潰し、俺は自動ドア...いや、地獄の門をくぐっていった。
【plorogue 4-1 -Not connect memory device- 格闘の価値観】
その瞬間に目の前に広がるのは、いつもの忌々しい光景である。
一人がふとしたことで俺の方に気付き、それが次々と連鎖し、次第に最早バリケードか何かと間違えそうになるほどの人の塊が出来上がっていく。
「「........................」」
そして一分と経たずに、現在に至る。
すっかりと俺達は包囲され、目の前の塊から口々に「おい、あの人が噂の!?」だの「お久しぶりです!【英雄】様!」だのと未知の戯言が聞こえてくる。
何がお久しぶりですだよ。わざと来なかったんだっての。
そして、俺達の後から入ってきたのであろう同年代程の人が俺を怪訝な顔で見つめながらそのまま奥へと流れていった。
あぁ、これはもう駄目だ、完全に死んだ。俺は始業式で全校生徒の前で魔女裁判に掛けられて死ぬんだ。
しかもあのジャージの柄見たことあるもの。緑色に白と紫のラインが入ってるやつ。あれ俺と同じ高校のじゃん。と言うかそれってあの人同じ学校ってことじゃん。
絶望、困惑、失意、虚無と多くのマイナスな感情が沸き上がり目眩を起こしそうになる中、何とか自我を保ち、先程から全く言葉を発さない(ブーメラン)隣の方を向いた。
...彼女も白目を剥いたまま固まってた。
え? あれ? だから俺さっき言ったじゃん? 想定以上だったってことなのか信じてなかったってことなのかどっちなの? 後者だったら俺泣くよ? というかもう泣いていいよね?
先程のマイナス感情四天王の上に悲壮が君臨しました。もう元気のかたまり無いんだけどどうしよう。
...結局、少女が我に返るまでにそれなりに時間が掛かった。
と言うわけで現在、ゲーセン内ブラブラしながら勝負に使う筐体決めております。
「あんた...いつもあんなんなの? 流石に想像以上だったんだけど」
「いつもは...まぁそうだな。いつもあんなん」
「うっへぇ...」
こんな感じで凄く適当な会話を交わしながら捜索を続ける。
と言うか何か引かれたんだけど。俺だって命懸けなんだぞここに来るの。下手したらどっかの議員さんよりよっぽど命懸け。
そして、後ろがさっきからガヤガヤしててうるさい。何事かって言ったらもう振り向かないでも分かる。
「何か着いてきてるし...」
さっきの人の塊がそのまま後ろから着いて来ているような感じだろう。想像しただけで気持ちが悪いので振り向かないでおこう...。
俺が一人で戦慄していると、少し前を進んでいた少女はお目当ての物(※ゲーム筐体です)を見つけたらしく、声を張り上げた。
【plorogue 4-2 -Not connect memory device- 格闘の価値観】
「お、あったあった〜。意外と奥の方にあるのねこれ」
「あぁ、そうだな」
お陰でゲーセン中練り歩く羽目になって後ろの取り巻きが増えました。何でこの系統は奥にあることが多いのだろう。
...と言うわけで、第一回戦は格闘ゲームである。恐らく誰もが知っているであろうあのゲーム。リュウとかベガとか出るやつね。
格闘ゲームと聞けば、大体の人は「え?ボタン押してりゃ勝てるもんでしょ?」とか「あぁ、知ってる知ってる、スマブラでしょ?」とか言いかねない。ところがぎっちょん、全くといっていいほどその予想とは違う。
他のゲームが「ボタン押してりゃ勝てる、身体能力なんざ必要無い物」とすれば、格闘ゲームは「反射神経と動体視力さえ使えば勝てる。が、使えなければ勝てない物」なのだ。
格闘ゲームの世界は、もはや*1Fごとの世界なのだ。
一瞬の気の緩みがそのまま敗北に直結する、戦争と似た境遇が、この画面の向こうに広がっているのだ。
...故に、トッププレイヤー達の戦いは見ているだけで興奮するような駆け引きが行われることが多い。全ゲームジャンル引っくるめても最も参戦難易度が高いと言えるだろう。
それを敢えて一発目にチョイスする辺り、余程自信があるのか、或いは意気がったただのバカなのか。
「ほらほら、何ボーッと突っ立ってんの、早く準備しなさいよ」
「お? お、おう」
考え事をしていたら叱られてしまった。
...いや、今のが考え事の範疇に収まるのかは謎だけども。
向かい合わせに置いてある筐体の椅子に着き、硬貨を入れる。直後、参戦時に流れる特有の画面が登場、対戦モードへと移行した。
「さて、と...それじゃ何を使いますかねぇ...」
そうぶつぶつと独り言を呟きながらキャラクターセレクト画面を見つめる。ここは相手がどう来るかも分からないし、慎重に決めなければならない。...彼女相手に本気でやる意味があるのか甚だ疑問なのは置いておくとしよう。とにかく集中だ、集中。
...集中しなければならんのだが。
「いやー、まさか【英雄】さんに会えるとはな〜、今日はラッキーだわ」
「しかも【挑戦者(プレデター)】さんまでとはなぁ...しかも対戦だぞ対戦!」
「俺【英雄】さんに一票」
「あ、んじゃ俺も」
「俺はどうすっかなー...【挑戦者】さんに賭けてみようかな」
...後ろがうるさい。凄くうるさい。しかも何なの【挑戦者】って書いてプレデターって。それ挑戦者じゃなくて侵略者じゃんか。
せめてこういうとき位は静かにしてほしいものなのだが...まぁ彼らに頼むこと自体間違っているのかも知れんな...。
そんな憂鬱な気分を滲ませながら決定ボタンを押し、画面が再び切り替わる。
そして...一回戦が始まった。
*1F···1フレームの略称。ゲームの動きはパラパラマンガのようになっており、それで言う「ページ」に当たるのがフレームである。フレームが一秒間に何回切り替わるかを表す単位をfpsと呼び、fpsの数値が高い程動きが滑らかに見える、ということになる。因みに、現在の最高出力では実質75fpsまで可能らしいが、これは要するに「1秒間に60ページ分パラパラマンガが進む」事をあらわしている。今回の話の流れの「1Fごとの世界」というのは(現行機種最高出力である)60fpsの内の1F、つまり60/1秒の使い方によって勝敗が決まるという意味である。
初めまして、読ませて頂きました…。
結論→ナ ン ヤ コ レ ハ
はい、もう。こういうやつ好物です。
文才の持ち腐れですよもう……。
羨ましい……。
神ですか、神々しいんですが、神((ry
前スレも途中まで読んでたんですが、私のおつむでは理解し難く…((失礼
さっきこっちにシフトしてきたのですが1文字1文字が輝いて見えます。神ですk((殴
……まぁそんな訳で応援してます、これからもお疲れの出ませんように…。
長文失礼致しました。
>>14
わふーい(/·ω·)/有難う御座いますですぞ!
シフトしてから感想が届くようになったあたり、やはり万人受けする書き方が出来るようになってきたのかなぁとひしひしと感じますなぁ(´ω`)
この作品はまだまだ始まったばかりですし、実の所前スレでさえも全体の10/1行ったか行ってないか位だったりします()
完結するまではとんでもない長丁場となりそうですが、何卒応援宜しくお願い致します(^^ゞ
信じられるか...この長さでまだプロローグの真ん中なんだぜ...
そして信じられるか...最終的には文庫本約3冊位になるらしいぜこの物語...(((
>>15
いやーもうね、気にしないで下され!
長々とした小説好きなもんで…(*ノωノ)
プ、プロローグの真ん中ですと!?
こりゃあ楽しめそうですぞ!(`・ω・)
【plorogue 5-1 -log out- 音楽の価値観】
ready...Fight!!というネイティブな開戦宣言と共に勝負が始まる。...序でに後ろの取り巻きも沸く。
相手のキャラクターは俊敏に動けるタイプのキャラ。対して俺はこのゲームの主役と言っても過言ではないであろう例の格闘家。
俺のスタイルとしてはまず適当に弾を撃って牽制するところから始める。モーションが終わるまで動けないため、大体20Fくらい無駄にしてしまうが、開戦直後ならそこまで問題は無い。
そしてそこを狙いに来るであろう相手に某アッパーカットを一発かませば後はこっちのペースに...
...何で弾をジャンプじゃなくてガードで捌いてるのこの人。普通そこはジャンプで飛びながら攻めこんでfirst attack(最初に攻撃した方に出るテロップ)狙う所じゃないの?
これじゃ牽制紛いの誘い出しのつもりがまんま牽制になってるじゃねぇか。ってか試合が進まない。
...いや、でもガードしたり攻撃をしたり受けたりするとゲージが貯まって必殺技を放つことも出来る。それを狙ってるのか...?
兎に角、ゲージが貯まる前にガードを破ってしまった方が良いだろう。
そう考え、保険として弾を撃ちつつ相手キャラの方へ向かう。なんだこのダサい絵面。
十分近づいてからアッパーカット。これもガード。回し蹴り、これもガード。
それをちょっと続けるとガードクラッシュ(ガードのし過ぎでガードが崩れ、大きな隙を与えてしまうこと)を恐れてか、今度は怒涛の小パンチ攻め。
何だこいつ...地味にウゼぇ...。
若干頭に来たしこっから本気で行く。先ずは先程同様弾撃ちで相手にガードさせる。その際に空く僅か3、4Fほどの予備動作を狙いすかさず強パンチ。その後はまぁ適当にコマンド技決めて、最後はゲージ技でK.O。我ながらよく出来たパターンだと思う。並より少し強い位の奴相手だと大体これで勝てる。...それはつまりこの少女がその程度だってことなのだが。
「あれ、おかしいわね...大体ここに居た人達はこっからの展開で勝てたんだけど...その前にやられるとはなぁ...」
筐体挟んだ向こうからそんな声が聞こえてくる。いや、あなた舐めすぎでしょう。ここの人達と俺の間にどれだけ差があると思ってんだ。数倍はあるぞ多分。だから崇拝されて困ってんだよこっちは。
「...............はぁ...」
まぁまず、だ。この一戦戦っただけで分かった。
...彼女あんまり強くない。
【plorogue 5-2 -log out- 音楽の価値観】
◆
2ラウンド目。特にリザルトなどか出ないのもあり、基本1ラウンド目と2ラウンド目の間はそんなに時間が無い。
つまり、悔しがるだとか、勝ち誇るような時間を取らず、如何に早く次のラウンドへ調子を崩さずに持っていけるかが意外と大事なのだ。
...が、しかしだ。
調子を崩さないどころか戦法までそのまま2ラウンド目に持ち越してくるのは如何なものなのかと思うんですよね。
そう、彼女、全くさっきと戦法が変わってない。2ラウンド目だし変えてくるかと思ったのだが、変えたとすれば小パンチハメを小キックハメにしただけ。寧ろ劣化しているという始末。
勿論、どっちが勝つかなんてたかが知れていた。
周りが沸く。リザルトの画面が筐体に映る。時間短縮のため、その後も続くアーケードモード(要するにVS.CPU)放置プレイ、サクッと1クレジット(1プレイ分という意味)を消化。そのまま彼女がいるのであろう向こう側の筐体に向かう。
...当の本人は何かガチャガチャとレバーを動かしていた。
「何やってんのお前」
そう率直に聞くと、彼女は白けた感じで答えた。
「いやー、何かレバーの調子がおかしくて弱い技しか出ないのよねー」
「嘘つけコラ」
「チッバレたか」
何がバレたか、だよ。騙せるとでも思っているのか。大体パンチ、キックの大小はボタンの方なんだからレバー関係ないし。バレバレだ。どんだけ強情なんだこの人。
「...まぁ、それで次は何をやんの?」
「ん、あぁ、じゃあ...次は音楽ゲームの方かなぁ...」
そもそも何回戦までやるのかすら知らないのだが...まぁ恐らく三回戦位ろしておこう。その中での二回戦。それさえ勝てば三回戦をやる必要が無くなる訳だ。そこに音ゲー。これまた勝負に出たもんだと思う。
音楽ゲームとは、誰もが知っているであろう某太鼓ゲーなどをジャンルとして纏めたものだ。
何も太鼓だけではない。今や海外産のものやネットで扱われているクローンゲームなどを含めればざっと20種類以上はあるだろう。
しかもほとんどのゲームが毎年大きな規模の大会を開いているのは勿論のこと、何と会社の垣根を超えた四社合同大会が行われることもある。
実は現在最も勢いのあるゲームジャンルなのだ。
勢いがあるともなれば、勿論プレイヤーも腕利きが多い。そこら辺のゲーセンに行ってみれば、大体何処にでも「なんだコイツ」と言いたくなるようなトンデモ音ゲーマーが居る。それほどまでに人気があるのだ。そして、物によってはエグい難易度もある。
...そんな音楽ゲームだが、彼女が選択したのは細長く黄色に光る筐体だった。鍵盤のようなデバイスがあり、それを画面奥から流れてくるアイコンの通りに叩いたり、スライドさせたり、両脇にあるセンサーに反応するように手を上げ下げしたりするゲーム。
現在音ゲー界1インフレが早いと言われている物だ。...さっきも言った気がするが、本当に自信があって筐体を選んでいるのか、はたまたただのバカなのか本当に分からない。
そんなことを考えていたら、いつの間に既にマ選曲画面に移っていた。あれ、俺無意識にプレイ始めてた。こいしでも乗り移ってんのか俺には。
「それじゃ、曲はこっちで決めていいわね?」
そんな健気な声が横から聞こえてくる。半分呆れたように俺がゆっくりと頷くと、数秒経って曲が選択された。それを見て思わず「はぁ?」と声を上げてしまった。何故ならば...
...一曲目から最高難易度である13+が選ばれていたからである。
>>18の誤字があまりに多すぎるので本スレで訂正。
前スレのものに加えて
・リザルトなどか→リザルトなどが
・恐らく三回戦位ろしておこう→恐らく三回戦位としておこう
これらの誤字も追加致します。本当に申し訳ありません。
【plorogue 6-1 -stelth mode- 結果の価値観】
「...ちょっと待った」
「何よ」
この少女は何の躊躇いも無く一発目から最高難易度を選ぼうとしているが、はっきり言ってこれはマズイ。
一曲目から13+と言うことは二曲目、三曲目も13+を選ぶつもりだろう。それはマズイ。絶対にマズイ。腕がぶっ壊れる。
たかがゲームごときで腕が壊れるわけないだろうと思うかも知れないが、残念ながら事実だ。
実際、この筐体を作った会社が稼働させているもう一つの音ゲーには、「その譜面に執着し過ぎて肩を壊した人が続出した」ことに由来して「肩バーン」なんて呼ばれる譜面もある。
...音ゲーを舐めてはいけない(戒め)。
まぁしかしあれだ。一曲目に最高難易度やって、二曲目には少し低めの物を選ぶのかも知れない。そう考え、俺は彼女に尋ねた。
「...これから何プレイするつもりなのか聞いていいか?」
「いいけど」
「一曲目」
「FD」
「二曲目」
「エンドマーク」
「三曲目」
「怒槌」
「お前バカなの?」
最悪だ。全部13+だ。どんな地獄始めようとしてんだこの人。だがあくまでも俺は挑戦を受けた身。相手が難しい物を入れてくるのに俺が「もうちょっと簡単なやつを...」とか言ったら試合に勝っても勝負に勝てない。ここは従うしかなさそうだ。
...さらば、俺の腕。
◆
一曲目、FDと呼ばれている曲。
前半からかなりの密度でノーツ(太鼓で言う「ドン」「カッ」に当たるもの)が降り注ぐ。一応13+最弱とは言われているが、まぁ難しいもんは難しい。中盤に休憩地帯のようなものはあるが、そこでも結構ノーツは落ちてくるので、ほぼ休憩にはならない。
極めつけに終盤からラストにかけての数の暴力。延々と法則性が掴みにくいノーツが続く。
...が、まぁ特に問題は無い。
音ゲーも結局は反射神経と動体視力。格ゲーと根っこは同様だ。
滑り落ちてくるノーツの豪雨を全て捌き、あっさりフルコンボ。余裕である。
相手との差は僅かなもんだが、まぁ一曲目で体力も万全、13+最弱だったらこんなもんだろう。
...問題はこれからだ。
【plorogue 6-2 -stelth mode- 結果の価値観】
二曲目、エンドマーク。
多くの面倒臭い配置が重なっている上、曲の長さが尋常じゃない。かなり長い。確か3分程だ。基本的な音ゲーの曲の長さが大体2分くらいとすると、1分長いということになる。この1分だけで大違いなんだ。死ぬほど体力使われてもまだまだ続く地獄に「もう...ゴールしてもいいよね...?」と一体何人が言わされたことか。知らないけど。
...がまぁここも伊達にやっていない。余裕でAll Justice(太鼓で言う全良)を達成し、三曲目の怒槌。
「怒槌」は、この音ゲーの中で一番最初に設定された13+でありながら、未だに最強クラスに鎮座しているとんでもない曲。
地味に速くて捌きにくい乱打やら何やらで兎に角プレイヤーの腕を殺しに来る。
流石の俺でも13+三連チャンはキツすぎる。何とかフルコンは出来たものの、精度がかなり落ちてしまった。
こうなると結構勝負が危うくなってくる。あんだけ自信満々に最高難易度選んでたんだし、実力ありそうだし。負けてもおかしくはないよな...そう思いながら恐る恐る相手の画面を見る。
.........................................あれ?
...彼女、フルコンすら表記が出てない。
あるぇ〜? おかしいぞ〜? さっき自信ありげだったあの威勢は何処に行ったの〜?
と言うかさっきもこんなパターンだったような気がして止まないんだが。
まぁ、まずあれだ。さっきのあれから今のこのザマ。この2つを足して導き出される答えなんて一つしか無い。そう。
「お前ゲームそんな上手くないだろ」
「はひゃっ!?」
例の取り巻きどもから二つ名を貰っている辺りを鑑みると少なくともここの輩よりは強いようだが、ここの連中と俺を一緒にしてもらってじゃ困る。自分で言うのもなんだが、俺とこいつらじゃあ天と地程の差があるのだ。だからあいつらを基準に自分が強いかどうかなんて決めない方がいい。無意味だから。そんなことを言ってやると、それっきり彼女は動かなくなってしまった。
まぁ仕方がないだろう。自分達より強いからってだけで今後ろにいる奴等に「絶対に貴女なら【英雄】さんにも敵いますよ!」とか口走っちまったんだろうなってことは大体予想できるので心中御察しする。
まぁとにかく、結果として俺の勝利で終わった。やっぱり三番勝負だったようで、先程ので俺が二勝、勝ち越しが決定したためこちらの勝利、と。
...なんと言うか、勝った割にモヤッとするというか、釈然としないというか、腑に落ちないというか、何とも言えない勝負だった。
【plorogue end -shut down- 始まりの価値観】
「さて、と...」
まず、勝負がついたことでますます熱気が強くなっているここから脱出するのが先決だろう。
下手したら外より暑苦しいように錯覚するほどの空間だ。早く外に出ないと熱中症になりそうだ。
...だと言うのに。
俺がさっき放った言葉がよっぽどショックだったのか、或いは予想だにしてなかった言葉を掛けられて驚いているのか、彼女は未だ呆然としたままだった。まずこれをなんとかしなくちゃいけない。このまま彼女を放っていったら取り巻きに質問攻めされそう。最悪俺の評判関わりそうだしとにかく連れていかなければ。
しかしだからと言ってさっき入り口に入った直後の時と同じように意識を戻させるのにはまた数分は掛かる。あまり時間は掛けたくない。となると...。
...ええい、ままよ。後々こいつらに何かしら言われても気にするもんかってんだ。
そう決意し、半ば強引に彼女の手を引き、外へと押し出た。
「ふぅ...良かった、囲まれる前に出られた...大丈夫か?」
出入口から少し離れた場所まで逃げ、彼女に尋ねた。
しかし、その尋ねた相手である本人は質問に答えようとせず、先程の膠着とはまた違う意味を宿しているような、そんな顔でこれまた呆然としていた。
「...? どうした? さっきの熱気に当てられてどっか悪くしたとか...じゃねぇよな」
俺が心配して近付くと、彼女は氷が溶けたかの様に突然動いた。
「へっ!? あぁ、いや、何でもない、何でもないから!?」
...何故疑問形。本当にどうかしてしまったんじゃないかと思ったが、その考えは続けられた言葉で一蹴された。
「ま、まぁ今回はボロ負けだったけど、別にあのジャンル以外だったら絶対にあんたを打ち負かせるんだから、今度こそじゃ覚悟しておきなさいよ!!」
そんな負けて尚変わらない態度に俺は苦笑しつつ、
「あぁ、まぁ精々覚悟しとくよ」
と、その改めて行われた宣戦布告を真っ正面から受けてたち、俺達はそれぞれ逆の方向へと帰路を辿った。
...待った。
また今度?
まさかまたあの部室に押し掛けにくるつもりなのか?
と、疑問を抱いた俺に、去り際の彼女は更なる追い討ちを掛けてきた。
· · · · · · · · · · · · · ·
「それじゃ、また明日宜しくね、七ッ木光介君」
「..................は?」
振り返った時には彼女は駆け出していて、その姿はもう声は届かないであろう場所まで離れていた。
...ちょっとまて。一回情報を整理しよう。
彼女が俺の話を聞いたのはこのゲーセンのはず。
そしてここの輩は誰一人として俺の本名は知らない。ここまでは確定だ。
ならば。
何故彼女が俺の名前を知っているのか。
一体何を思ってあんな言葉を掛けたのか。
...となるとだ。
「マジかよ...」
あぁ、そう言うことだろう。
「は、ははは...」
渇いた笑い声を上げ、虚空を見上げる。
天気は快晴。照りつける太陽が忌々しくこちらを睨んでいる、一点の曇りもない青空が広がっていた。
...2016年、8月4日。
この日俺は、一人の少女と出会い、これから巻き起こる出来事も知らずに、一つの物語へと繋がる歯車を動かし始めたのだった。
plorogue fin.
And,go to the next episode now.
おぉう…面白いの枠を越えましたね?
プロローグ終わったんですか……。
な、なんか(´ーωー`)サシミ
まぁそんな訳でこれからも応援してるッス。なんか上からですいません。
あ……連レスすいません。
>>22
「plorogue」じゃなくて「prologue」だったような希ガス………。
>>24
おうふ...思いっきり間違ってた...orz
>>25
いえ……(*´∀`)イエイエイエイエ
こちらこそお役に立てて喜ばしい限りで御座います……。
【episode1 1-1 -500 Internal Sarver Error- 暮らしの価値観】
「...」
朝。
日は既に完全に昇っており、窓から差し込む光と煩く鳴く鳥が不協和音を奏でていて物凄く喧しい。
...また徹夜してしまった。
何てこった。いくら何でも生配信を一から十まで見切るのには限界があったんだろうか。
某フラワーなナイトのガールなゲームの公式生配信やら怪獣映画の最新作の公式生配信やら。
色々と見て回りその度に青い鳥でツイートしまくってたら気が付いたらめっちゃ論争状態と化してた。ネット議論に終わりはないって本当だな...。お陰で色々楽しめたけど。取り合えず怪獣映画の監督さんは早くロボットアニメを完結させてください。
まぁ何にせよ、朝になったわけだし下のリビングに降りるとする。朝飯作んなきゃなぁ...。
俺、七ッ木 光介は一人暮らしだった。
一人暮らしを始めた理由は至って単純。親元を離れたかった、それだけである。
別に親が死別しただとか、そういう深刻な事が原因なわけではない。寧ろ今ピンピンしてるだろう。連絡はあまり取ってないから分からないが。
まぁしかし、特に一人暮らしだからと言って不便は無いし、重い腰を上げてバイト始めてみた結果、仕送りが無くてもある程度は普通に暮らせるようになった。
ってな事もあって俺のこの生活はまぁまぁ順風満帆と言って良いほどに自分のなかでは充実した生活を送れていた。
...のだがぁ...
トン、トンと階段を降りてくる音が聞こえてくる。さっき敢えて一人暮らし「だった」とひょうげんした理由はこいつにあるのだ。
キィっという戸の開く音と共に、その声は静かな部屋に静かに佇んでいた俺の耳を貫いた。
「あ、お兄ちゃん起きてたんだ! おっはよ〜!!」
快活な声を発しながらその少女は俺の懐に思いっきりタックルの如く飛び付いてきた。不意討ち過ぎてラグビー選手もビックリやで。
飛び付いたまま頑として動こうとしないその姿は「お前は猫か何かか」と言いたくもなるがまぁ置いておくとしよう。
「あぁ、おはよう、文香」
...こいつは俺の妹、七ッ木 文香(アヤカ)である。
俺が一人暮らしを始めたのは高校一年生に進学した時からなのだが、こいつはその丁度1年後に突然やってきて、何故かそのままの勢い気が付いたら住み着いていた。理由を聞こうにも未だに教えてくれていないので多分一生教えてくれないだろう。...大体理由は大体察してるんだけどよ。
そしてもうひとつこいつ関連で厄介なのが...
「今から朝飯作るが何か食いたいもんあるか?」
「ん〜...別に私お兄ちゃんが作った物であれば何でも食べるよ〜!」
「あぁ、そうかい...」
何故か、本当にこればっかりは未だにメカニズムが謎過ぎるんだが、何故かだ。
俺が実家居たときは大していい関係とは言い難い感じだった俺とこいつなんだが、こいつがこっちに引っ越して来たとき、何故か...所謂ブラコンと化していた。今もこんな調子だし、何を血迷ったのか気が付いたら俺の布団に潜り込んできてたこともあったりする。率直に言うと鬱陶しい限りなのだが...妹よ、お前何があったんだ。
【episode1 1-2 -Internal Sarver Error- 暮らしの価値観】
◆
朝飯も食べ終え、早速部活へ行く準備を始める。...行きたくねぇなぁ。
必要最低限の持ち物(タブPC、有線LANケーブルの予備、諸々の追加プログラムを仕込んである外付けユニット三台、総重量約17kg)をバッグに詰め、外を出ようとした。
...が、何故か文香がついてこようとしている。
「...え、待って、何でお前がついてきてんの?」
「え〜、たまには遊びに行くくらいいいじゃん? 私お兄ちゃんがどんな事やってるかとか見たこと無いしさ!」
そう嬉々として語る妹であるが...俺、別に学校でもこことやってる事変わんねぇんだよな...。
「...まぁ迷惑掛けねぇようにな...」
「やた〜!」
一度決断すると梃子でも動かんこいつの事だ、断った所でどうせついてくる。なのでやむなく同伴を許可した。...甘過ぎるなぁとも思わんでもないが、実際断っても無駄なので致し方ないと思う。
通勤ラッシュの時間もまぁまぁ過ぎた今の時刻は9:30過ぎ。閑散とした住宅街に、蝉や鳥の鳴き声が響く。蝉は嫌いだな...鳴き声聞いてるだけで暑苦しくなってくる...特にひぐらしなんかは鳴いたら嫌な事件が起こりそうで本当に嫌いだ。
かといって少しでも涼しい気分になろうと虚空を見上げて風を感じようとすると今度は天空から円形の物体が☆富竹フラッシュ☆をかましてくるので逃げ場が無い。
一刻も早く部室に入らないと死ぬ...。だから夏は嫌いなんだぁ...。
...因みに。
「う...うぅ...どうしよ...あんな事言うんじゃなかったぁ...うぐぅ......」
...今例のブラコンさんは俺の後ろをついてきているわけなのだが...俺が後ろを向くと、案の定項垂れていた。何か心なしか涙浮かべてるようにさえ見えるんだが。そんなにか。
「ったく...ほれ、小銭あるから自販機で何か買ってこい」
「あ、ありがとお兄ちゃん...」
まぁ兎に角、こいつは物凄い暑がりだったりする。人間が生活する適正温度と言われている25°cを一度でも越えるともうアウト。なのである意味適正温度越えているかどうかの指針にもなるっちゃなるが、いくらなんでも俺はそこまで非道じゃない。こいつがヤバくなり始めたら温度下げよう、って程度。
...あれ?それじゃあ結局指針になってね? まぁいいか。
と、無駄すぎる思考に頭の回転をフル活用していたら、気が付くと学校が目前に迫っていた。
ここまでくればもう知らん。今暑くなろうが部室に入ればこっちのもんだ。
「...よし、ちょい早歩きすっからついてこいよ〜」
「え、うぇっ!?」
まず涼もう、とにかく涼もう。そう考えて足早に部室へ向かった俺であったが...
...あれ、何か忘れてるような。
【episode1 2-1 -403 ForBidden- 証明の価値観】
「よっしゃ着いた...はー涼しい...」
「うっ...く...はぁ...はぁ...ううぅ...」
足早のはずが気が付けば全力疾走へとクラスチェンジし、思い切り昇降口の引き戸を開けて本日のお勤め開始。文香も若干遅れて昇降口に入る。
...と同時に吹き荒れる冷房の風と突然吹き出す汗。昇降口限定とは言え廊下にも冷房が入っている辺り流石比較的新しい校舎だ。
それにしても登校しただけでここまで汗だくになるとは相変わらず夏はとんでもない。やっぱり夏は嫌いだ。誰がなんと言おうと嫌いだ。海に行くにもこの内陸じゃあ面倒だしプール行くにしてもそんな仲の友達居ないし。まず外に出たくないもんだ。それでも何だかんだで毎日外出しては居るんだけどなぁ...。
と勝手に思考して勝手に憂鬱な気分になりながら廊下を歩いていく。
そしていつもの部室の前に立ち、ドアノブを捻ろうとして手を止める。
...何か音がする。
中から音が聞こえている。
いや、あの時確かにああ言われたけどまさかなぁって一生懸命に振り払おうとしてたんだけどその矢先に「本当でしたー!!」って言われても困るんだけど。
「...? お兄ちゃ〜ん、入らないの? 開けるよ?」
「え、あ、ちょ、おま」
静かにパニック状態になる兄の事情など露知らず、文香は俺の目の前で堂々と部室の扉を開けてしまった。
そして目に入ったのは_____
「本当に来やがったこいつ...」
膝に来た。力が抜け、空気に膝カックンでもされたのかと疑いそうになる程華麗に、されど儚く、俺は地面(ウレタン樹脂製)に崩れ落ちた。
目の前に、つい昨日あったばかりの奴が居る。しかも何故かくつろいでる。
「あら、約21時間ぶりね。案外遅くて来ないのかと思ったわよ、もう...」
「...そもそも来いと言った覚え無いんだけどな」
俺の人生の歯車、昨日を境に狂いに狂ってませんか、神様。
【Episode l 2-2 -403ForBidden-証明の価値観】
...数分が経ち。
相も変わらず少しばかり蒸し暑い部室の椅子に、向かい合って俺と秋宮は座っていた。
文香は扇風機の前に座ってぐったりとしている。大丈夫かこいつ...。
「さて、話を聞こうか君」
「いきなり何を改まってるのよ」
的確なツッコミを入れられてしまった。
仕方ないだろ! お前のせいで俺の夏休みがよくわからんことになってんだよ!!
「...まぁいいわ、別に今日は入部しに来たとかそういうんじゃないし」
「え? あれ? そうなの?」
なんと言うか肩透かしを喰らった気分になったがそもそも俺が早計だった気もしないでもないので黙っておく。
とは言え、なら何故来る必要があるのか。まだ何かしらで戦うつもりだとでもいうのか。
そんなことを考えていると、秋宮はおもむろに鞄からスマホを取り出した。
「今日はこの件で、ちょっと助けがほしくてね」
そう言って机の上に出されたその画面には...LINEの画面が写っていた。
「...これがどうかしたか...ん?」
言いかけたところでその画面の異様さに気付き、言葉を止めた。
そこは...一昔前であれば、『学校裏サイト』とでも言われていたかのような、要は随分と黒々しいものだった。
「...もう気づいたみたいね。そう、これは所謂裏サイト。愚痴とかが行き交うようなグループ」
「それを何で俺に見せる?」
「...これ」
と、画面をスライドさせていく秋宮。
そこには―――――――「美乃」という人物への、熱烈な批判が飛び交っていた。
【Episode l 2-3 -403ForBidden-証明の価値観】
「何だ...これ...こんなもんこの学校にあんのかよ...黒っ」
「やっぱそう思うわよね...」
しかもその内容の酷いこと酷いこと。
「キモい」「うざい」なんてテンプレート発言は勿論のこと、「今日机荒らしてやったwww」とか「いっそ明日捻っちゃおうよwww」なんて具体的な事まで書かれてる。
俺はその美乃という人物は知らないんだが、ここまで言われてると流石に同情する。
いや、そりゃ相手の方も見ず知らずの奴に同情されたくなんかないだろうけど。
「それでお前は俺にこれを見せてどうしたいん...いや、大体分かった。つまり―――」
「そこに書かれてる『明日捻る』ってのが今日なのよ。」
「で、それを止めてほしい、と」
「そう言うことよ」と、重々しい面持ち(言ってて噛みそう)で頷く。
まぁ、目的は分かった。
が、だ。
何故それを俺に頼みに来るのかってのと、何故秋宮がそれを止めようとするのかってことだ。
いや、前者は俺が「そういう系」に強そうだからなんだろうが、後者が分からん。
「...何故お前がその事を気にするんだ?」
そう率直に聞くと、秋宮は明らかに呆れて言った。
「...それ、私達のクラスの事なんだけど」
「え°」
拍子抜けし過ぎて本来付かないはずの半濁音が付いてしまった。俺もどう発音したのか分からん。
え、てか何、俺の秋宮同じクラスだったの? 知らなかったわやべぇわ。
「考えてもみなさいよ、私達のクラスでこんなことになってるのはっきり言って雰囲気的に最悪じゃない。何とかしたいって思うのが人として普通でしょ?」
「...その言い方だと少なくともお前は参加してな...ハブられてるんだな」
「ちょっと、何で言い直したのよハブられてなんかないわよ」
はいはい...取り合えず確信した。
俺の人生に神なんていねぇ、と。