『 人が想像できる全ての事は、起こりうる現実だ 』
_>>2 まえがき
_>>3 序章
まえがき
小説なんて大層な作品ではなく、素人のチープな作文のようなものです。趣味を詰めこんだだけになる予定でして、現段階で大まかなストーリーさえ考えていないので、暇な学生の妄想帳と思ってスルーすることを推奨します。また恐らく、プロの方の小説の影響を受ける部分も多くなると思われますが、察したら長い目で見ていただきたく存じます。
#00 序章
秋の朝というのは、どこか心地よい。外気が冷たかった。ベタつく夏は正直嫌いだった。だからひやりとした自らの脚や手でさえも、本来憂鬱な筈の朝の微睡みに幸せをもたらす。自分でも、それはあまりに単純だと思った。
錆びた鉄階段の踊り場から、ぼんやりとゴミ捨て場を眺めていた。一心不乱に袋を漁るカラスは、あれでも頭が良いのだという。餌だか巣だか知らないが、毎朝毎朝、健気だ。少なくとも自分なら、こんな寂れたビルの麓より資源の豊富なコンビニなどをあたるが。
頬を撫でる風が爽やか過ぎて、甘ったるい金木犀の香りに多少の毒気さえ感じる。そこがまた気持ち良くて、だから秋は無意味に外に出てしまう。
ふと思う。今日は何か、良いことありそう。
#01
「あのさ、自分の仕事にちゃんと責任とかそういうの、ちゃんと持ってるわけ」
彼女は怒っている。それもかなりの度合いで。その証拠に『ちゃんと』という言葉が重なっていて、格好悪い。
「責任も糞もあったもんじゃねえだろ。逆にあんたは責任だとか考えながらあんな仕事してんのかよ。その方が人として気持ち悪いっつの。つーか怒るとあんた、顔酷いよ」
若干ムキになりながら、こちらも格好悪い返しをした。「怒ってないわよ」と怒鳴る女は、眉間の皺を自ら深く刻んで、わざとらしい溜め息をつく。
繁華街のネオンが女の白く脱色された髪を、紫に、赤に、ピンクに、代わるがわる染めている。その様子が下品に感じられたのは決して背景の店のせいだけではない。
紅い唇は林檎飴のようで食欲をそそるが、他のパーツは量産型で気味悪かった。
指で拳銃の形を作り、彼女の大嫌いな目をまっすぐ狙う。そのまま指先で瞼に軽く触れて、「あんた、本当バカなのな」と悪態つく。改めて、マジこいつ苦手だわ。
踵を返し、駅に向かう。女はまだ怒鳴っているが、自分は早く寝たかった。ひらりとふる手に、できる限りの悪意を込めて足を速める。都会は疲れるから嫌いだ。
ボロアパートの錆階段は、とにかく音が周りに響く。淋しげな金属音が閑散とした街に拡がって、そのまま戻って来ない。小さい頃から嫌いだった。足早に駆け上がって深い緑の扉を開く。久々に帰ってきたというのに、迎えも、挨拶すらない。兄が自室で寝息をたてて寝ているから、手を洗ってその冷たい水を兄の顔に軽く払う。黙って自分も部屋に入る。気分の悪い一日だ。明日からはまた仕事がある。憂鬱を煽る静かな夜だった。