#00 序章
秋の朝というのは、どこか心地よい。外気が冷たかった。ベタつく夏は正直嫌いだった。だからひやりとした自らの脚や手でさえも、本来憂鬱な筈の朝の微睡みに幸せをもたらす。自分でも、それはあまりに単純だと思った。
錆びた鉄階段の踊り場から、ぼんやりとゴミ捨て場を眺めていた。一心不乱に袋を漁るカラスは、あれでも頭が良いのだという。餌だか巣だか知らないが、毎朝毎朝、健気だ。少なくとも自分なら、こんな寂れたビルの麓より資源の豊富なコンビニなどをあたるが。
頬を撫でる風が爽やか過ぎて、甘ったるい金木犀の香りに多少の毒気さえ感じる。そこがまた気持ち良くて、だから秋は無意味に外に出てしまう。
ふと思う。今日は何か、良いことありそう。