(※一応近世ですが途中で近代風になるかもしれません)
第1話:宇宙の山師
時は25世紀。人類は大規模な宇宙進出を開始し、太陽系を出て付近の星系に散らばっていた。
中には銀河系の方々に行って、そこで山を当てるものもいた。一つの星を丸ごと使うわけだから、成功すれば大富豪入りは確実だ。兆単位で儲けたものだって沢山いる。
100年前に星当てとして開催されたものが元になっている。
その反面、太陽系近辺ではなく遠くまで行くので事故率が高く、100周年を迎えた今日でも生還率は60%と低い。また、星というものは低密度で存在しているので、発見することも難しい。
一応、高性能AIが分析や案内をしてくれているので、必ず1人は発見してくるが、最も難易度の高い博打である。
ドイツ出身で今は日本に住んでいるヘルマン・シュミットはこの星当てに応募した。小さい頃から冒険が好きであり、単純でもあった彼にとって死亡率などはどうでもよかった。
彼は会社を辞めて、応募した。登山などで体を鍛えていた他、冒険のための勉強はしていたこともあって、全ての試験をクリアした。
その後、開催国の指示に従って遺書をしたため、生命保険に入った。保険金は全部遺族に入るらしい。
そして、船内での活動や万が一の際の行動などを2年間の研修で学んだ後、火星基地を出発した。
彼は方向の関係から日本人の上村昌三、イタリア人のアメデオ・フェラーリと共に搭乗している。
彼らは、超光速航法を行うため、仮死状態で船内に安置される。船自体も外から見えないようにされている(船体を黒く塗ることで宇宙に出れば知覚できない)。こうして目標の星系まで飛び立つのだ。
ところが、目標の星系に着いた時に宇宙ゴミが船体後部に命中した。AIが惑星の分析をしていたので避けきれなかったのだ。
3人は仮死状態を解かれる。被害拡大を防ぐための機能なのだが、いきなり起こされたので、3人は今の状況を全く理解できない。
上村が慌てて修理を始めたが、航行状況はどんどん悪くなっていく。アメデオは顔を真っ青に染めて、
「危険度4……緊急着陸せねば死んでしまいます!」
と叫んだ。すると後方から上村が、
「降りよう、降りればいつか助かるから」
と観念したように言った。シュミットとしては、死ぬよりも生きる方がマシだ。流石に死ぬしかない冒険はしたくない。
だから、彼のこれに賛同し、3人は宇宙船を地上へと着陸させた。
第2話:砂漠の巨人
着陸するや否やアメデオは勢いよく扉を開けようとした。肝心な惑星の分析結果すら見ずに。
彼の手がボタンにかかった時、危険だと感じたシュミットが大声で、
「待て! 惑星の分析の方はどうだ?」
叫ぶと同時にアメデオを突き飛ばした。
もし、この惑星の大気に有害物質が含まれていたりしたら扉を開けた途端、3人とも御陀仏になってしまう。実際、52年前に、世界最強の冒険家と言われたロバート・グリルスも大気に含まれていた微量な有害物質が原因で病死している。砂山のように脆い人間にとってちょっとしたミスは死に直結する。仮にこの惑星が無事であり、上陸できたとしても気の緩みは許されない。
「2人とも落ち着いて聞いてくれ……」
上村が声を低めて言った。只ならぬ雰囲気を醸し出している上村の声を聞いて、揉めている2人もパッと振り向く。
「まず、この惑星の重力は地球の10.454倍、公転周期は352日、自転周期は86320秒、窒素濃度は74%、酸素濃度は22%、アルゴン濃度は1.2%、二酸化炭素濃度は00.3%、光や水は充分。また、文明の存在も確認。気温は地球よりやや高め。どうも太陽活動が活発らしい。太陽系と違って。日数や1日の長さが大きく違うので、やや弊害はあるだろうが、生存は可能だろう。詳しいことは纏めてあるから各自取って行ってくれ」
言い終わると上村はニコッと笑って、
「じゃあ、降りようか」
と言いつつ扉の前に立った。どうやら深刻そうに低い声を出したのは気をひくためだったらしい。2人もフッーと息を吐いて扉の前に立った。
3人は息を合わせて飛び降りた。足元の砂が撒き散らされる。彼らは降り立つや否や同時に息を吸い込んだ。
地球(都市部)の汚れた空気や火星、カリスト、タイタンなどの人工空気とは比べるだけで失礼なほど良い空気である。登山が趣味だったシュミットなどは懐かしさに目を潤ませている。
彼らは必要なもの−−−−拳銃や本、アルミホイル、金の延べ棒、翻訳装置などをリュックに詰め込んで再び大地を踏みしめた。
すると、前方に前方に毛むくじゃらのゴリラみたいな生き物を見つけた。見た感じ、ゴリラより80センチほど大きい。四足歩行のものや二足歩行のものもいる。地上の類人猿より人類に近いことからかなり進化しているのだろう。猿人や原人とはまた違うが。巨人とでも言おうか。
ジッと見ていると、こちらに気付いたのかこちらに近づいてきた。しかも喧しいほどの鳴き声を上げながらである。
シュミットは驚いて花火弾を自分達と巨人達の間に撃ち込んだ。柔らかい地面に着弾したので、いい具合に爆発が起こった。巨人達は周章狼狽してどこかへ逃げて行った。
>>2
訂正
砂漠の巨人 →草原の巨人
第3話:異星の都市
なんとか巨人を追い払った3人は一息ついた。いくら訓練したとはいえ初めての実戦はやはり緊張する。
巨人たちが戻ってこないうちに早くここを離れるべきだと思ったシュミットは、
「救助信号を出して、ここを離れよう。危険すぎる」
彼は冒険が大好きなのでもし一人だけならば、あえてここで野宿しただろうが、他の2人のことを考えるとそんなふざけたことは言えなかった。
すると、上村がゆっくりとした声で、
「その……救助信号なんだが……壊れていて使えない。それと……食料も持っていかれた。あるのは携帯食料だけだ。これでは3日と持たん……すまない」
深々と頭を下げる彼を見るとシュミットは怯えることも忘れて、
「この船の責任は我々3人だ。君一人のものではない。とりあえず、どこかへ行こう。文明もあるらしいしまだ希望はある」
と慰めた。アメデオも上村の背中をスリスリと摩っている。
上村は頭を上げて、
「ああ、ありがとう。それで、どの方向に行けばいい?」
「北に行こう! 困った時は北に行くのが一番いい!」
とアメデオが大きな声で言った。実際に道に迷った際は北に行くのではなく北を向くのが正しいのだが、地球に帰還できる希望がひどく薄れたせいか、間違えてしまった。他の二人もこの間違いを指摘するどころか、その言に従って北へと歩いて行った。
面白みのない草原を超え、歩く気力を直接削いでくる砂漠を踏破した。前方には仄かに光が見える。天頂に広がる星の明かりが少し減った気がする。さては、ここが都市か。
3人は嬉しさのあまり走り出した。ぐんぐんと明かりが近づいてくる。まるで3人の希望を表したような明かりが−−−−近づくとそれは街灯ではなかった。ただの篝火であった。頭がボケているせいか勘違いしていたのだ。
街灯があるなら修理ぐらいはと思ったのだが−−−−そんな希望はあっさり踏みにじられた。
3人が呆然と立ち尽くしていると門番らしい兵士が、
「お前ら浮浪者か? 浮浪者ならなら入れ」
と言ってきた。ちょっとあやしいが、ここで立ち尽くしていても飢え死にしかないので3人は門をくぐって都市に入った。
その刹那、血風が3人を襲った。
>>4
重大なミスが見つかったのでボツで
第3話:異星の都市
なんとか巨人を追い払った3人は一息ついた。いくら訓練したとはいえ初めての実戦はやはり緊張する。
巨人たちが戻ってこないうちに早くここを離れるべきだと思ったシュミットは、
「救助信号を出して、ここを離れよう。危険すぎる」
彼は冒険が大好きなのでもし一人だけならば、あえてここで野宿しただろうが、他の2人のことを考えるとそんなふざけたことは言えなかった。
すると、上村がゆっくりとした声で、
「その……救助信号なんだが……壊れていて使えない。それと……食料も持っていかれた。あるのは携帯食料だけだ。これでは3日と持たん……すまない」
深々と頭を下げる彼を見るとシュミットは怯えることも忘れて、
「この船の責任は我々3人だ。君一人のものではない。とりあえず、どこかへ行こう。文明もあるらしいしまだ希望はある」
と慰めた。アメデオも上村の背中をスリスリと摩っている。
上村は頭を上げて、
「ああ、ありがとう。それで、どの方向に行けばいい?」
「北に行こう! 困った時は北に行くのが一番いい!」
とアメデオが大きな声で言った。実際に道に迷った際は北に行くのではなく北を向くのが正しいのだが、地球に帰還できる希望がひどく薄れたせいか、間違えてしまった。他の二人もこの間違いを指摘するどころか、その言に従って北へと歩いて行った。
面白みのない草原を超え、歩く気力を直接削いでくる砂漠を踏破した。前方には仄かに光が見える。天頂に広がる星の明かりが少し減った気がする。さては、ここが都市か。
3人は嬉しさのあまり走り出した。ぐんぐんと明かりが近づいてくる。まるで3人の希望を表したような明かりが−−−−近づくとそれは街灯ではなかった。ただの篝火であった。頭がボケているせいか勘違いしていたのだ。
街灯があるなら修理ぐらいはと思ったのだが−−−−そんな希望はあっさり踏みにじられた。
3人が呆然と立ち尽くしていると門番らしい兵士が、
「ウォーウンアヘールマン? アリ、ウォーウンアヘールマン、ビスリーネ」
と言って門を開けてきた。何を言っているかわからない上、翻訳機も反応しない。入れということなのだろうか確信は持てないが、ここで立ち尽くしていても飢え死にしかないので、3人は門をくぐって都市に入った。
折角異世界ごを作ったので使わなきゃ勿体無いですよね
8:伊168:2019/01/05(土) 18:20 第4話:分からぬ言語
門をくぐると血風が3人を襲った。しかし、近くには門以外に火が灯っていないので、何が起こっているのかは分からなかった。
ただ、少し先の道に人魂のように火が動いていることだけが見えた。耳をすまさずとも人の叫び声や罵声が聞こえる。
「シュミットさん、上村さん、どうします!」
アメデオが2人の裾を掴んで言った。目の前の状況を悪く捉えてしまったのか早口だ。一見平気そうに見える二人も正直、これ以上先に進みたくない。
「今日はこの辺で野宿だ。ただし泥棒に備えて交替で警備しよう」
目の前で起こっているのはおそらく暴動だと思った上村は安全策を取った。シュミットも現地人とはなるべく問題を起こしたくなかったので、これに賛同した。
翌日、3人は都市の端で起床した。地球と比較するのはおかしいかもしれないが、太陽の光が些か弱い。
それでも、昨日は見えなかったものが鮮明に見える。
シュミットは横に転がっている壺を見つめた。昨日、これを抱いて寝たような気がするからである。彼は好奇心に駆られて、飛び回っているハエを除けて中身をみた。
−−−−嗚呼……見るんじゃなかった
そう、中身は大量の排泄物だったのである。こんなものを抱いていたと思うと吐き気がよりこみあげてくる。
−−−−なんて汚い都市だ
3人は地面を見てため息をついた。見よ、地面にもびっしりと人糞が。
3人は門まで行って、門番の座っている椅子を見てみた。椅子自体はよくわからないが、椅子の下の一部分に人糞が溜まっていた。
−−−−椅子式便器だ
3人はここで、この都市の文明レベルを理解した。中世後期か近世だ。
3人はがっくりと肩を下ろして現地人と思わしき男に声をかけた。この都市の言語を身につけるためである。
「おはようございます」
と声を合わせて言って、お辞儀する。
「アァ……ヴォーロアットー!」
−−−−さっぱりわからない
翻訳装置が一切反応しない。かすりすらしていない。これでは詳しいことが一つもわからないではないか!
多分、「ヴォーロアットー」がこの都市での「おはようございます」何だろうが、実用レベルが低すぎる。おはようございますだけで生きていけるわけがない。
とりあえず、このままあたふたするだけでは怪しまれるので笑顔で握手して別れた。別れるときも、
「スパーダ! ヴォーロレフ!」
とこれまたさっぱりわからないことを言われた。
一応、異世界語にはアルファベットのスペルを決めているのですが、読み方がわかりにくいためカタカナで表記しています。
10:伊168:2019/01/06(日) 19:04 第5話:酒場
3人はどうにかして現地語を学ばねばならぬと思った。一番手っ取り早いのは学校に通うことだろうが、一つも言葉を知らないので学校を見つけることは難しい。それに、入学できる保証がない。低俗な小説でよくある金をポンと渡せば即入学なんていうことは、ほぼありえない。
ならば一般人に教えてもらうことになるだろうが、話せてもちゃんと教えてくれる人を探すのは難しい。
生憎、3人とも勘がいい人間ではない。一人一人当たっていくしかないだろう。
少なくとも、「言葉」と「学ぶ」と「ありがとう」の三単語を知っておかないと教えてもらえる訳がないので、3人はジェスチャーに関するテキストを取り出して子供が通りかかるのを待った。
大人より子供の方が言葉を教えてくれる可能性が高いと習ったからである。
結構人通りが多かったので、子供を見つけるのにそれほど時間は掛からなかった。早速4、5人の子供たちの集団に近づいた。そして、足元の黄ばんだ石を拾い上げて必死にジェスチャーをした。
すると、ジェスチャーが伝わったようで子供達は歓声をあげながら、
「ヒーン!」
と言った。これはまじめに答えてくれそうだと思った3人は知りたい単語を矢継ぎ早に質問した。側から見れば3人の大人が5人の子供に積極的に話しかけているのは滑稽だったろう。
3人は紙を取り出して、そこに絵を書いた。石と違って「学ぶ」だとか「ありがとう」だとかいう物は転がっていないからである。
3人とも絵心はないが必死に書いたお陰か、なんとか伝わったみたいだ。それっぽい答えが返ってきた。
学ぶは「インペート」ありがとうは「スパーダ」というようだ。
3人はとりあえず、手前の酒場らしい店に入った。
中には沢山の男が談笑しており、壁に貼られている紙を見比べているものも沢山いた。ドアの奥の方には寝床もあった。中世後半から近世にかけての酒場に近い感じだ。
3人が座った席の隣では、やや立派な服を着た男たちが、
「パールヨハネスXII トールス ウン ディファイト ア ツェンターレスリア インペルオ ウン キール ア ノールスアシィ!」
「ホーディドゥ カイザーフランツ アレクト ア タイル」
どうでもいい会話であるが、シュミットはその言葉にひとつだけ分かる語を見つけた。他はさっぱりわからないが「カイザーフランツ」と言った所だけは聞き取れた。やや発音が違うが、大発見だろう。
3人は取り敢えず店主に勉強を教えてくれないかと片言で言った。店主は手を叩いて笑うと、3人を別室へ案内した。
>>10 ミス
「ホーディドゥ カイザーフランツ アレクト ア タイル」 →「ホーディドゥ カイザーフランツ アレクト ア タイル?」
案内された部屋はそこそこ広く、机や椅子、振り子時計、ベッドなどが置いてあった。3人もの男が勉強を教えてくれと言ったので、広い部屋が必要だと思ったのだろう。
設備は古いが、綺麗にしてあったので3人も満足であった。
3人が椅子に座ると、店主の男は右手を3人に近づけて親指と人差し指を擦り合わせた。
−−−−金を求めているのだな
だが、この都市に来たばかりであるので通貨など持っていないどころか知らない。とりあえず価値のありそうなものを出すしか無さそうだ。
一番無難だろうということで、3人はそれぞれ金の延べ棒を取り出した。すると店主の男は顎に手を当てて笑みを浮かべるとそれを受け取った。
それから、毎日閉店後に単語や文法、スペルを教えてもらうこととなった。
スペルは使っている文字がアルファベットに似ていたので簡単に覚えることができた。文法も、英語とはかなり違ったがなんとか覚えることができた。
あとは単語だけだった。しかし、あと一つとは言えど数が多い。それだけでなく店主の男が、「おはよう」だとか「あなた」などの日常的に使う言葉だけでなく「自由」、「友愛」、「革命」などの単語も変に先取りしてくるので日常会話ができるようになる頃には(あくまで自由主義など一部のみだが)専門的な話も少しだけできるようになっていた。
だがその一方で、日常会話にかける時間が削がれたせいか日常会話ができるようになる頃には教えを請うてから5ヶ月が経っていた。
3人が基本的な現地語を習得した5日後のことである。本来なら営業中であるのに、店主が部屋に入ってきた。いや、入ってきたのは店主だけでない。青色を基調とした軍服のようなものを着た男が3人も入ってきた。それぞれが銃を構えており、シュミットら3人は脅されているような気持ちになった。
「突然で悪いが、貴方々には我ら革命軍に入って欲しい」
店主は今まで聞いたことのない低い声を出して言った。入って欲しいとは言っているが、この口調や後ろの武装した男らを考えると強制されているようにしか思えない。
3人は、なるべく危険な行動は避けようと誓っていた。そして、軍に入ると死亡確率がぐんと上がる。本来なら断るべきなのだが、正直言ってこの状況だと断れば殺されるような気しかしない。そのため、3人は嫌々了承した。
すると店主は微笑って、
「ありがとう。君達のようないい体をした男が少なかったのだ。誰の指揮下の入るかは知らんがよく頑張ってくれ。そうだ、ついでに私の名前を教えておこう。革命軍中将、エストーベン(都市の一つ)司令官のアンドレ・ベルトランだ。あっ、言い忘れていたがまだ準備中だから下手な行動はよしてくれよ」
と言うと部屋から出て行った。
3人はいきなり革命だの何だの言われてただ呆然としていた。そして、底なし沼に引き込まれるような気分になった。
上は第6話:正体
14:伊168:2019/01/11(金) 22:35 第7話:国民の反感
3人は一週間のうちに大尉へ昇格となった。どうも、革命軍は農民だらけであるので、まともに武器を扱え、指揮を取れる人間が少ないから一気に大尉まで昇格となったらしい。
ベルトラン中将曰く、
「君たちは十分に会話できる上、そこらのゴロツキより紳士的で頭がいいから大尉がちょうどいい。働き次第ではすぐに佐官になれるだろうな」
正直、3人からしてベルトラン中将は「変なオッサン」それか「親切なオッサン」程度でしかない。人望がないわけではないのだろうが革命軍の中将閣下と一緒に暮らしているとは思えないのだ。
だから、そんな中将から太鼓判を押されても余り喜べない。
夜、3人がベッドに腰かけた頃、店主のベルトランが慌てて入室してきた。どうやら軍のことらしい。
さて、この中将が何を言いにきたかというと、
「海軍の数が少ないから誰か船乗りに自信のあるものはいないか」
ということであった。シュミットとアメデオはチラチラと目を合わせた後、同時に上村を指差した。
上村は宇宙警備隊所属で、この2人の安全のために配備されていたのだから、指さされるのも仕方ない。
上村もそれはわかっていたのか、肩を落としはしたが海軍に行かねばならないという現実をなんとか受け入れた。
それから1ヶ月後、このエストーベンの地から西に200キロ行ったところにある農村で農民が立ち上がった。
それは、このエストーベンや農村を統治しているロンス王国の国王エリック12世が、
『実戦的軍事演習を行うため指定の農村は兵糧を納めるように』
と布告をしたことにより、この村の男たちが怒ったからである。これだけなら良かったのだが、付近の町の知識層もこれに賛同して、1000人程度の大人数で王都まで抗議の行進を行ったのだ。
これにエリック12世は縮みあがった。今までまともな民衆反乱など経験したことがなかったので、免疫がなかった。だから、精神的ダメージが大きかった。
ありえないほど過剰な対応をしたのだ。それは、
「フェルナンド・デル・クレメント近衛大将に討伐を命じよ」
というものだった。
この命令にクレメント大将は頭を抱えた。彼は昔、近衛兵だった頃にベルトランと同期であった。彼が退役するまでの間、彼から色々な本を紹介されていたし、よく議論もしていた。
兵棋演習では100戦100勝でも政治に関する議論になるとそうはいかなかった。多分、政治に通じている人間なら常識レベルのことだろうが、ベルトランに教えてもらったことは全て画期的かつ魅力的であった。最初は、抵抗があったが、聞いているうちに感化されたのだ。
それでも彼はベルトランと違って君命は鉄よりも重いものと考えていたので、絶望して退役したりはせず近衛大将まで上り詰めたし、今こうして悩んでいるのだ。
彼ら民衆はまだ暴れていない。今まで納税を怠っていたわけでもない。国民として当然の抵抗権を行使したまでだ。今の憲法では認められていないが。
とにかく彼らは悪ではないのだ。だからこれを殺めることは理不尽であるので、やりたくなかった。しかし、君命に背くことは忠義に反する。それは騎士道精神に反する。
騎士こそ廃れてしまったがその精神は歩兵や砲兵に脈々と受け継がれているのだから違反することは家名を剣で傷付けることになる。
どちらも大切なことだ。悩んでいるうちにいっそのこと、民衆たちは暴動でもすればいいのにと思ってしまう。すぐにかぶりを振ってその非道な願いを打ち消すが、悩みだけは消えなかった。
悩んでいるうちに次々と催促が入る。これが彼の心を更に締め付けた。
第8話:大将の決断
「将軍、5ベクタル(5分)ごとに催促が来ています。ご英断を下す時かと思います」
悩むクレメント大将の後ろからフレデリック・パストゥール少将が、飽くまで意見のみを発し続ける国民らを申し訳なさそうに見ながら言った。少将は参謀長である。
少将は若くして将官に上り詰めたので、天才といわれている。しかも、彼の家は貴族ですらない。一応、金持ちではあるが平民が尉官以上になることすら稀にも関わらず、尉官どころか将官にまで上り詰めた上、他の貴族将官よりも若い(無論、少将より若いものや同年齢のものもいる)のだから紛れもなく大才である。
しかし、多少の悪口を言われたぐらいで怯んでしまったり(これは幼少の頃の話であるが)、今まで喧嘩をしたことがなかったりするので、精神的耐性があるかどうか不安であった。
別に軍人になるには喧嘩や悪口に耐性がないと絶対に駄目であるというわけではない。しかし、この国では昇進に比例して国王から受ける我儘も多くなるので、人並み外れた精神力が必要だった。
我儘にも程度があるが、それまでの功臣の多くが一斉に退役したらしいので、相当なものだったろう。
今回も、国王がビビり腐って、早くしろと粋り立っているから、5分ごとに催促などという非常識甚だしいことが起こっているのである。そして、少将はついに折れてしまったのだ。
クレメント大将は振り向きもせず、ゆっくりと指揮刀を鞘に納めながら、
「いや、彼らが暴れない限り攻撃はしない」
と言った。そして、少将を一瞥した。
大将の言わんとしていることを感じ取った少将は、後ろにいる男に、
「もういいらしい。ゆっくり休め」
と優しく言った。さっきまで手を額に当て、汗を流しながら報告を上げていたこの男は魔導師である。テレパシーを使っていたのだが、脳が刺激されることや王宮魔導師の高圧的な言い方に不安を覚えて疲れ果てていた。
彼はため息すらつかずにどこかへフラフラと行ってしまう。
以後も数時間、近衛隊の兵士は、その紅顔を汗に染め、手を汗にふやけさせるまで警戒していたが、ついに農民や知識人らが暴動を起こすことはなかった。
近衛隊の者やクレメント大将はこの結果に満足し、安堵したが、納得しないものがいた。国王である。
国内の法律では暴動を起こさないものに武力を行使することは禁止されているが、この国王は無知と高慢から、
余は法である。
と嘯いていた。この男の驕誇自尊にどれほどの人間が失望させられてきたことか。
兎も角この国王は自分自身が絶対であると思っていた。確かにこの国は絶対王政であるが、だからといって国民を必要以上に苦しめる驕奢に耽ることは大間違いである。先人が血と肉で作り上げた国力を便壺に捨てる道理がどこにあろうか。
この暗愚さを今回も遺憾無く発揮したのである。首席大臣のアンリ=カトリーヌ・シャネル枢機卿の反対を押し切ってクレメント大将とパストゥール少将を更迭したのである。
第9話:バラスコ将軍
首都での抗議から2日後の事である。3人はベルトラン中将に是非来いと言われたので、酒場のカウンターに出た。
どうやら、革命軍の少将が来るかららしい。重要な話があるようだ。
いつもなら呑んだくれ供で一杯になっている店内も、今日ばかりは素面だけで埋まっていた。そして、異様に空気が張り詰めている。
中将はカウンターの中央にいる男の方へ一目散に向かっていった。おそらく、彼が革命軍の少将なのだろう。年は中将と同じくらいだろうか。中将に比べて鼻が低く、唇が青く、肌が青白い不気味な面をしている。こう比べて見ると中将はそこそこ美形だ。
「あ、紹介しよう。ハインリヒ・バラスコ少将だ」
3人はバラスコ少将の並々ならぬ不気味さに若干怯えつつも軽く挨拶をした。大尉如きが少将に会えるとはこの軍は大丈夫なのかと思ったが、突っ込んではいけない気がしたので、3人は黙って話を聞くことにした。
バラスコ将軍は呻くような口調で訳のわからないことを話し始めた。どうも将軍は普段からこのような話し方をしているらしい。
ベルトラン将軍は、今後のためになるだろうと言っていたが、日常会話と政治に関する単語くらいしか習っていない2人には所々わからない単語があるばかりか、ベルトラン将軍のようにわかりやすくゆっくり話してくれず、訛りらしいものも入っているのでさっぱり理解できなかった。
正直言って、聞く意味すら感じられないほどだ。だが、そんな中にもわかる内容があった。
「そういえば、近衛大将のクレメントが更迭されたようです」
というものだ。しかし、理解できたところで3人にとっては意味を感じられないことであったが。
だが、3人とは違う反応をしたものもいた。今までたまに酒を飲みながら薄い反応しかしていなかったベルトラン中将である。突然立ち上がって、
「そんな! フェルナンドが!?」
と言って天を仰いだのだ。3人はもちろんのことバラスコ少将にも何のことかわからないことであったが、クレメント将軍の名前がフェルナンドであることとベルトラン将軍とクレメント将軍には面識があることだけわかった。
結局、バラスコ少将が一人でトボトボ帰って行くまで、3人は特に有益な話しを聞けぬままであった。
ただわかったことは、革命軍が様々な面で危ない軍隊であるということだけである。
まず将官が明らかに少ない。これだけで軍隊としては相当まずい。相対的に見て海軍より大規模な陸軍ですらこの有様なのだから海軍はもっと酷いものだろう。
そんな予想は不幸にも的中した。海軍には将官が1人しかいなかったのだ。