「正義の味方になりたいです!」
漫画を読み漁り、アニメにかじりつき。自分の夢を絵に描いて、ノートに詩を書きためて。寝転がってゲーム機をピコピコやっているわたしは、ヒーローになりたかった。
>>2
思い付きで書き始めた、話の流れもクソもない小説。
アドバイスや感想はいつでもどうぞ。嬉しいです。
不定期更新、失踪しないように頑張ります。
そんなに堅苦しいモノではないのでお気軽に。
ちなみに私の今年の七夕のお願いは「某国民的アニメの魔法少女になりたい」でした。
>>3-1000
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正義の味方(ヒーロー)になりたいって言ったら、無理だって一蹴された。
小学校での、形ばかりの進路希望調査に書いた将来の夢。もう少しで手が届く、そう思った矢先に私の足は震え出した。
中学三年生の夏。一人でこっそりと書いた七夕の短冊をポケットに忍ばせて、塾の夏期講座へ行った。
正義の味方になりたい、だなんて夢は叶えられないのだともう知っていた。
正義の味方になれる職業ってなんだろう。そう考えながらカバンをギュッと握りしめ、塾を出て家まで歩いていたその時だった。
「守りたいものがあるの?」
その人は唐突にそう言った。
無意識のうちに下を向いていた顔をあげると、綺麗な黒髪の男の人が立っている。
誰、と思う前に口を開いていた。
誰にも言ってこなかった、訊かれずにいたその一言。
「あります」
気付けば、下唇を噛んでいた。
「あります、守りたいんです。どうしても、守りたいんです」
そう私が答えたのを確認すると、その人は厚みのある冊子を手渡してきた。
「来年の春、待ってるよ」
その表紙には、聞いたことのない学校名が綴られていた。――幻生学園
なにかの詐欺に引っ掛かったのだろうか。……いや。私は、そうは思わなかった。
その日の夏期講座は上の空だった。
家に帰って、冷凍庫からアイスクリームを探し出すより先にボールペンを進路希望調査に走らせて。
気付いたら、漫画を手に取る前に教科書を開いていた。
梅の花が咲く季節。合格通知を手にしたとき、守りたいものが何なのか、一度も訊かれていないことに気が付いた。
入学にあたって書かなくてはいけない沢山の資料の中に、一枚、不思議な紙が混ざっていた。
和紙のように薄く、微かに茶色っぽさがある。
そっと手にとって蛍光灯にかざしてみた。すると、字が書いてあるのが確認できる。
――守りたいものを書きなさい
書いてはいけない気がした。しかし、私は書いてしまったんだ。なにかの糸に引っ張られるように、手が自然と動いて。
私の守りたいものは、
「 」
幻生学園は全寮制だった。
四月。忙しい両親と簡単な挨拶を交わした後、一人で電車へと乗り込んだ。
中学は自転車通学だった上、駅の近くに住んでいたわけでもないので、一人で切符を買うのは何気に初めてだった。
危なげなく目的の車両に乗り込み、チェック柄のボストンバッグを両腕に抱き抱えながら、ぼぉっと息を吐く。
――元気に、しているだろうか。
元気、じゃないから心配しているのか。一人で苦笑しながら、座席に背中と頭をくっつけた。
電車の椅子って固いんだなぁ、なんて気楽な感想。
……弟にも、ちゃんと挨拶すれば良かった。
次に会えるのは何年後だろう。長期休暇は家に帰れるかな。
なるべく前向きに考えようとしたけれど、会わないという選択をしたのは、私だ。
「今さら悔やんでも、しょうがないよね」
その後、何度か電車を乗り換え、無事に新たな生活場所へと辿り着いた。
地図とにらめっこ、事前にストリートビューとかで場所を確認しておけば良かったと何度思ったことか。
幻生学園は小高い丘の上にあったので、たくさんの荷物と共に足を動かした私は到着した時点で既にくたびれていた。
私立幻生学園と書かれた立派な門をくぐり、敷地内にある寮を目指す。
入学式は明日だけれど、登校に時間のかかる私は今日から寮で暮らすのだ。
高い高い場所にある太陽は、私の陰を濃く形作る。その割には暑さを感じなくて、なんだか不思議な場所だなぁと思うのだった。
「……すごい」
思わずため息がもれる。
異国を思わせる豪華な外装は、とても高校生が暮らす建物だとは思えなかった。
不思議な壁の紋様に、重厚なドア。
とても綺麗だとか、真新しいとか、そんなことはない。
むしろ、年季が入っていて、ところどころに塗装の剥がれや錆びが見える。
それなのに……それすらも計算されたデザインに見えてしまうのだ。
日本に、こんな場所あったんだ。
顔認証で小さな門を通過し、貰ったセキュリティキーでドアの鍵を開ける。
……見かけによらず、最新のセキュリティシステムが導入されていた。
おずおずと足を踏み入れると、開けた空間が広がっていた。
「こんにちは! 今日からここに入る新入生?」
きょろきょろと辺りを見渡していると、唐突に声をかけられる。
……先輩、だろうか。スラッとしたモデル体型の美人さんが目の前に立っていた。
「は、はいっ。新一年生の今島です」
敬語を使ったのは久しぶりだ。これでも、一年間最上級生やってたもんなぁ……と、中学校での日々に想いを馳せる。
ほんの数週間前まで当たり前だった日々なのに、今では遠く感じられた。
「今島さんね。わたしはここの寮長をやっている三年の瀬川麻衣。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
瀬川先輩……寮長は、私を部屋に案内してくれた。
「今島さんの部屋は、二階の一番角の二人部屋。同室の子はまだ来ていないはずだから、早めに荷解きをするといいわ。細かいルールは入学式の日の夜にあるオリエンテーションで説明があるけれど、困ったことがあれば言ってちょうだい」
寮長の話を聞きながら歩いているうちに、いつの間にか部屋についていたようだ。
「ここが、今島さんの部屋」
くるりと振り返った先輩は、部屋の施錠システムと間取りを簡単に説明した後、颯爽と去っていった。
普通に歩いているだけなんだろうけど、どこかオーラがある人だ。
部屋の扉には、『112 今島/氏原』と書かれたプレートが掲げられている。
同室の子は、氏原さんと言うのだろう。
荷解きを終え、道中のコンビニで買ってきたお弁当を食べ。くつろぎつつ明日の入学式の準備をしていると、いつの間にか外は暗くなっていた。
夜ご飯はどうしよう。休日の食事は各々に任せられているらしいので、一足先に食堂のご飯を味見させて頂こうか。
二段ベッドの上にごろんと横になり、天井を見つめてみる。
寮と聞いてビジネスホテルみたいな窮屈な部屋を想像していたけれど、実際はそうでもない。勉強机は二つあったし、身なりを整えられる洗面所のような場所もあった。クローゼットや本棚もあったので、持ってきた服や漫画を早速並べてしまった。
今日から、三年間、ここで、ヒーローを目指す。
そのために頑張ってきたのだ。正義を貫くヒーローになって、私は、今度こそ守るんだ。守りたいものを、自分の手で守れる、カッコいい自分になるんだ。
腹筋を使って起き上がり、ベッドから降りようとしたその時だった。
ガチャ、と控えめな音がして、ドアが開かれる。
開かれた隙間から入ってきた女の子と、バッチリ視線がかち合った。
同室の子かな。今日はまだ顔を合わせないだろうと思っていたので、ほんの少し反応が遅れてしまった。
会釈をして笑いかけると、ひょいっとベッドから飛び降りる。
それを見ていた彼女は、セミロングの髪にメガネをかけ、どこかピンとした雰囲気を身に纏っていた。
「はじめまして、わたしは氏原さやか。よろしく、ええと……」
「あかり。今島緋里。これからよろしくね、氏原さん」
私は元より人見知りしない性格で、フットワークも軽い方である。
氏原さんの醸し出す独特の雰囲気に少し緊張はしたものの、笑顔を作って握手を求めた。
「さやかでいいよ。よろしく、緋里」
翌日。窓から溢れ出る太陽の光に起こされた私は、いつもより早く顔を洗った。
まだすやすやと寝息をたてる同室の彼女を起こさぬよう窓を開けると、真新しい朝の香りがした。
昨日のうちに身支度は済ませてしまったので、時間にはかなり余裕がある。
入学初日くらい、お洒落をしてみようか。
学校に行くだけなのにお洒落だなんて……と思うタイプの私だが、たまには女の子らしい朝を過ごしてみたいもの。
パリッとした制服に身を包み、ポニーテールを結おうとしていると、
「貸そうか、ヘアアイロン」
さやかの声。まだ寝ていると思っていたのに、早起きだ。
「あ、おはよう。朝、早いんだね」
「緋里の方が早かったのに」
変なの、と可笑しそうに笑いながら手渡されたヘアアイロンを受けとる。
昨日の夜、眠くなるまでたくさんお喋りしたおかげか、さやかとは結構仲良くなれた。
同室の子と上手くやっていけるか、気の合う友達が出来るかは少なからず心配していたので、一安心といったところか。
三年間友達と一緒に生活すると考えると、どうしても胸がうきうきした。
この後どうする、食堂にご飯食べに行こうよ。他のみんなより先に食堂のご飯を食べれるなんて、贅沢だよね。
そんな会話をしながら支度を終え、一緒に部屋を出る。
食堂でおにぎりを頬張ってから並んで学校に向かうと、既にたくさんの人がいた。