いつもと変わらない街並み。
いつもと変わらない人々。
いつもと変わらない日常。
……変わらないまま、時が過ぎていた。
と、言うより、過ぎる時すらその場所には存在しないのである。
全ての時が、止まっているのだから。
「……はあっ、はあっ!」
全てが止まった世界で、ただ一人動いている少女がいた。
その少女は、腰にバックルを巻き、肩や脚に防具のついた青色の戦闘服に身を包んでいる。
「誰か、誰かいないの?誰か、止まっていない人は……!」
その少女は、探していた。
手に持ったもう一つの同じバックル……タイムドライバーを託せる人間を。
「居るはずないだろ?俺らが全部止めてんだから」
「くっ……また、あなた!」
少女を嘲笑い、立ちはだかる若い青年。
長丈の服を着た青年の隣には、怪獣をそのまま小型化したような異形の怪物が従えられていた。
「ぐるるるる……」
「ま、負けないんだからっ……勝って、明日を取り戻してみせるんだから!」
少女は、戦闘用手袋で覆われた両手をしっかりと構え、戦闘態勢を取る。
「やれ」
青年の合図で、怪人が少女に襲いかかった。
そして少女も、怪人に向かって飛びかかり、そして………!
光が、彼女たちを包んだ。
「きりーつ、れーい!」
その合図で、静かだった教室が一気にざわつき始めた。
生徒たちは一斉に立ち上がり、机を片付けて教室を飛び出して行く。
「こらー!教室も廊下も走るなよー!?」
やんちゃな小学生の彼等を受け持つこの教師。
注意はするがそこまで怒ってはいない。
「ふぁあ……疲れた!帰ったら……寝よう!」
ランドセルを背負い、教室を後にする一人の少女がいた。
名札には、今川あすかと書かれている。学年は四年生。遊び盛り真っ盛りの時期だが、彼女はとても眠たく、早く帰りたかった。
なので、学校を出る足取りもゆっくりであった。
街は、今日も賑わっている。
道ゆく人々は皆笑顔で、犯罪など起こらない。至って平和な場所。
そこを歩くあすかもまた、笑顔である。
「うにゅ……寝そう……」
人混みを小さな身体で潜り抜けるあすかは、いまにも寝てしまいそうなほど眠かった。
そこで彼女は、ある場所に寄ることにした。
人々の笑顔が集まり、あんしんして休憩できる場所……
公園である。
公園は、遊ぶ子供達でいっぱいだった。
あすかの知った顔も何人かいる、馴染み深い場所。
その中にあるベンチに座り、彼女は……
「眠い……少し、寝よう……」
うとうとし始め、そのまま目を閉じた。
やがて寝息が聞こえ始めたが、人並みの音にかき消されていった。
「……はっ!」
ノンレム睡眠……そんな言葉をあすかは知らないが、
夢を見ないまま、彼女は目を覚ました。
何時間寝ていたかもわからない。
十分、一時間、それ以上かもしれない。
先ほどまであった疲れは、すぅーっと消えていた。
「うー……寝過ぎたかな。ふらふらする」
寝起きのだるい身体をゆっくりと起こし、あすかは立ち上がった。
そこで、彼女は気付く。
「あ……あれ? なに、これ……」
あすかは、目の前で起きている出来事に驚きを隠せなかった。
人も動物もみな、時間が止まったように動かない。
ちょんちょんとつついてみても、なにも反応がなかった。
よく見れば、時計の針も進まないままで……
あすかは気づいた。時間そのものが止まっていることに。
「なんで……どうして……?」
自分以外の全てが止まっている。体験したことのない超常現象。
その場に、立ち尽くすしかなかった……。
「それはね、俺が時間を止めたからだよ」
「え……?」
何もかもが動かない、なにも聞こえなくなった空間で、若い男の声が聞こえてくる。
あすかは声のした方を向いた。
「俺はラノーマ。なんで君だけ時間が止まってないの?」
長丈の服を着た、青年。ラノーマと名乗ったその青年は、
不思議そうにあすかを見ていた。
「……ま、それだったら、力づくでやるだけなんだけど」
ラノーマは、指をパチンと鳴らす。
するとその背後から、怪人が姿を現した。
「ひっ……!」
鋭利な爪、強靭な身体。テレビドラマで見る怪人そのものだった。
「よし、やれ」
「ぐるるるる!」
ラノーマが手を下ろすと、怪人は爪を振りかざしながらあすかに襲いかかる。
「あ……いや……」
このままでは、死ぬ。あすかは確信を持ってそう思えた。
その時だった。
あすかやラノーマの目の前に、大きな光が現れる。
「うわっ……」
「何だ?」
眩しさに目を背けるあすか。すると直後、横目に人影が映る。
「たああっ!!」
その人影は、怪人に拳を向け、思い切り殴りつけた。
怪人は衝撃に悶え、後ずさる。
「あれ?ここ……どこ?」
「えっ?」
目の前で怪人を攻撃したのは、自身より少し年上に見える少女だった。
青い戦闘服を着ていて、腰には腕時計のようなベルトを巻いている。
その少女は、いま自分が置かれている状況を飲み込めていないらしい。
「だ、だれ……?」
あすかは、キョロキョロとしている命の恩人に、名を尋ねた。
「え、時が動いてる人なの……?私はサキミラ。あなた、早くここから離れるの!」
サキミラと名乗った少女は、あすかに逃げるよう促す。
「で、でも、みんな、時間が止まってて……」
「大丈夫!私は、その時間を動かすために戦ってるから!」
そう言ってサキミラは、腕時計型ベルトの上部に付いたスイッチを押した。
すると、時計のアナログな針がぐるぐると回り始める。
「break time!」
ベルトからは、英語の音声が流れる。
それと同時に、サキミラの右足に力が蓄えられた。
「くっ……」
ラノーマは、今から起きるであろう出来事を予測し、ゆっくりと後ずさった。
そして……
「てやああああっ!」
空中で大きく一回転し、怪人に向かってキックを繰り出すサキミラ。
……その時だった。サキミラの身体が発光し、変身が解けたのは。
「って、きゃああっ!」
必殺キックが決まる直前、サキミラは地面に落下した。
「へえ……」
その様子を笑いながら見るラノーマ。まるで弱みを握ったかのようだった。
「だ、大丈夫?」
「なんで、変身が……」
サキミラに駆け寄るあすか。
当のサキミラは、変身解除が起きたことにかなり困惑している。
「ぐるるるる……」
怪人が、生身の状態になったサキミラや、戦えないあすかに迫る。
「う……戦えなきゃ……ダメなのに……!」
サキミラは唇を噛んで悔しがった。
自分どころか、後ろの少女の命も危ない。
戦えなくなって、どうしようもなくなっていた。
「これ……」
後ろにいたあすかは、サキミラの懐から落ちたある物を拾っていた。
「お腹に、当てればいいの……?」
あすかは、サキミラが落とした物……もう一つのタイムドライバーを拾い上げ、自分の腹に当てた。
何がそうさせたのかはわからなかったが、直感的にそうしようと感じたのだ。
バックルから帯が伸びて、緩めでもなくしっかりと、あすかの身体にドライバーが装着される。
「え、ドライバーが起動した? あなた、まさか……」
その光景を見て、サキミラは驚いた。
同時に、彼女の目に希望の光が戻る。
「……これを使って!」
「なにそれ?」
サキミラは、あすかに時計のようなパーツを手渡した。
渡された瞬間、時計から文字が投影され、音声が鳴る。
「gendai!」
「げん……だい?」
ゲンダイ 時計からはそう聞こえた。というか、あすかにはそう解釈するしかなかった。
「このトランスクロックを、ドライバーに接続するの!そうすれば、この状況を抜け出せる!」
「わ、わかった。やってみる!」
腰に巻かれたタイムドライバー。そして、トランスクロックゲンダイ。
それらを手にしているあすかは、覚悟を決めた。
「ぐるるる!」
目の前に迫ろうとしている怪人に向かって、高らかに叫ぶ。
「へんしんっ!」
「clock set!」
トランスクロックをベルトにセットすると、その叫びに応えるように
ベルトからも音声が鳴った。
「change Time!」
あすかの身体を、光が覆っていく。ベルトから放たれている物であった。
光が消えると、あすかは自身の変化に驚く。
「え、なに、この格好……」
白を基調とした、動きやすさを重視している戦闘服。
肩や脚には、ピンク色のアーマーが装着されている。
不思議と、身体が軽くなっているのがわかった。
この格好なら、なんでも出来る。そんな気がしていた。
「go! future! ashita girl!」
ベルトから流れる、新たな音声。
アシタガール……それがこの姿の名前だと、あすかはすぐに気付く。
「こいつ、なんで変身を……!?」
ラノーマは、あすかの姿を見て苦い顔をしている。
ヒーローは潰したはずなのに、新たな存在が出てきたのだから。
「まあいい……倒すんだ!」
「ぐるぉぉ!」
怪物は再度、こちらへと向かってくる。
相手が変身していようがしてまいが、その爪を大きく振りかざして。
「ふー……」
鋭い爪が迫ったその時、あすかは小さく息を吐いていた。
ふたばちゃん!
小説開始おめでとう🎉
しかも面白い!
これからも頑張ってね!
「はあっ!」
次の瞬間、あすかが動いた。
それも、爆発的な速度で、一気に間合いを詰める。
その勢いは、まるで彼女だけ時間が加速しているかのような、そんなスピード。
瞬時に相手の大きな鋭い爪を受け止めると、今度は脚を使ったキックが飛び出す。
「ぐぉぁっ!」
これまた、時間が加速したかのような恐ろしいスピードで命中したキックは、怪人を大きく吹き飛ばした。
「なんて……強さなの……」
その光景を見ているサキミラは、唖然としていた。
まさか自分よりこの力を使い熟しているのではないか?そう思いながら、戦いを見守る。
「さっき、こうやってたよね?」
あすかは、先程サキミラがやっていたのと同じように、
アナログ時計のような形をしたトランスクロックの上部スイッチを押した。
「break time!」
その音声とともに、針は回り始める。
あすかの右足にも、パワーが蓄えられ……
「それで……こうだッ!」
あすかは大きくジャンプすると、怪人に向かって足を突き出し、光を纏った飛び蹴りを繰り出した。
「ぎゃおおおおおおっ!」
キックが命中すると、怪人は大きな悲鳴を上げて、爆散した……。
「何なんだ、お前。覚えてろ……」
あすかに向かって捨て台詞を吐き、ラノーマは消える。
暫くすると、止まっていた時間が動き出した。
……その後。
賑やかさが戻った公園のベンチに、二人の少女が座っていた。
一人は、子どもらしい華やかな格好をして、
もう一人は、流行を先取りしたような未来的な服装をしていた。
「まさか!私は時間を超えちゃったの?」
「うーん……そっちが2050年から来たって言うなら、そうなんじゃないかな?」
サキミラはあすかに尋ねた。今は何年なのかを。
するとあすかは答えた。2019年であることを。
「それで、未来ってどうなってるの?あの人は誰なの?」
あすかは聞きたいことがたくさんあったので、たくさん聞いた。
だがサキミラも頭がいっぱいで、すべてには答えきれない。
「か、簡単に説明するわ。私のいた時間では、全部止まって、簡単には戻せないほどなの。
それをやったのが、ストッパーっていう三人組で……あいつもそうよ」
「そうだったんだ。そこで、変身して戦ってたんだね」
「私の世界を元に戻すためにね……。ねえ、あすか」
サキミラは改まったように、あすかに尋ねる。
その言葉の続きを聞いて、あすかはとても驚くのだった。
「……お願い!ストッパーを倒すために、一緒に戦って!」
はい、ここまでが一話で。これ以上は構想しておりません。
こんばんは、猫又と申します。
時間戦士 アシタ☆ガールズ、読ませていただきました。
読んでみた感想ですが。
……すばらしい。
あすかとサキミラの戦闘シーンもそうですが、冒頭の言い回しがとても良い。
日常の風景から、時が止まっている非日常へ一瞬で切り替える。
「過ぎる時すらその場所には存在しないのである。 全ての時が、止まっているのだから」
この切り返しにしびれました。
一話完結風にしてしまったので、
戦闘後の日常シーン(>>7)に詰め込んでしまった感はありますが、
それでも十分に読み応えのある作品でした。
(……いやホント、美味い。じゃない、上手いので、もう少し続いてほしい気もします)
指摘できる点があるとすれば、少しハイレベルなおせっかいですが2点
まず本編(>>2)の始まり方。
あすかより先に「この教師」と書いてしまってるので、え、教師が主人公? と一瞬思ってしまうこと。
あと、唐突にセリフ「きりーつ」から入っているため、場所が少々ふわっとしていること。
この2つを解決するために、
「ざわつく小学校の廊下をランドセルを背負い、歩く一人の少女が居た」
と書いてみてはどうでしょう?
すると場所も分かりますし、
「教師」も「ざわつく小学校の廊下」、背景の一部になって、
【あぁ、なるほどこの子が主人公なんだな】と読者がすんなり物語に入れるかと思われます。
もう一つは冒頭とのつながり。
最後にも書かれますが、サキミラは(>>1)から(>>4)に飛んでいるんですよね?
これも本編と冒頭が切り離されているため、すこーし分かりにくい。
>>4 の登場演出を次代を超えてきた風にする(時計が浮かび上がる)とか、
まるで冒頭の戦闘を思わせる描写(戦いつかれてる)とかを入れると、分かりやすいかなとは思いました。
あと、もうちょっと書いてほしいなーという所はありましたが、
本作品はアクションものですのでテンポも大事です。あまり書き込むとかえって読者を飽きさせてしまうので、このテンポがちょうどいいと思います。
(「ドリームガーディアン シリーズ」の時から思ってましたが、ふたばさんはテンポの良く文章をまとめる才能がありますし、それを十分に生かせているなと感じました)
なにはともあれ、面白い作品をありがとうございました。
次回作や続きがあればお待ちしております。それではー
思ったより人気が出たので、二話目以降を執筆させていただきます。
「戦う……」
時間を止める敵と、戦ってほしい。急なサキミラの申し出に、
あすかは戸惑いの表情を見せる。
「無理なお願いだってわかってる。でも……ベルトを使えてるし、実際とっても強かった!
あなただって、現代の時間を守りたいはず。だから……!」
「げんだいの、時間を……」
あすかは、時間が止まっていた時のことを思い出した。
何も聞こえない。静寂。感じるのは寂しさだけの世界
そう思うだけで、心が震えてくるのを感じた。
「うん……わかった。私、戦うよ!一緒に!」
その震えを止めるには、敵を倒すしかない。
悟りを開いたあすかは……そう、心に誓うのだった。
「ところで、さ。あすか。頼みがあるの……」
サキミラは、改まったようにあすかに言葉を投げかける。
「なあに?何でも力になるよ!」
「えっと、泊まる場所……無いかしら?」
公園を出て数分、住宅街を歩く。
その中の一軒家が、あすかの家であった。
サキミラに、泊まる場所を求められたあすかは、
自分の家へ招待することにしたのだ。問題は、それが認められるかどうかだが。
「ただいま、お母さん!」
あすかは、持っていた鍵で家のドアを開ける。
ガチャリと音を立てて、奥行きのある空間……玄関が現れた。
「あー……私、どうしたらいいの?」
「ちょっと、待ってて!」
ついに家にお邪魔することになる。不安がるサキミラに、あすかは
待機を指示して、一人家の中へ入って行った。
そして、数分後。
廊下をトコトコと歩く足音が聞こえ、サキミラが振り向く。
「あなたが、サキミラちゃんね。あすかの母よ」
「あ、よろしくお願いします。サキミラです」
あすかの母は優しい表情でサキミラを迎えてくれた。
長髪をポニーテールでくくっていて、おしとやかな印象を彼女に与えている。
「えっと、ホームステイなのよね?外国から大変だったでしょう。さ、上がって上がって!」
「わ、ちょ、ちょっと!」
多少強引に手を引かれ、サキミラはあすかの家へと招待されることとなった。
ホームステイなどと言った記憶は、サキミラにはなかったが……。
「ここがね、私の部屋だよ!」
家に上げたサキミラを、あすかは自分の部屋へと案内した。
多少の荷物をベッドの上に放り捨てると、あすかは手を広げて部屋を見せる。
「おー……」
女の子らしいレースなどの装飾がなされ、色もピンクでまとめられた部屋であった。
あすかの部屋を見て、サキミラは関心の言葉を漏らす。
「ところであすか、ホームステイってどういうこと?」
「あー……ごめんね、説得するんだったら、りゅうがくせいって言うのが一番かなって」
「……わかったわ。なら、しばらくお世話にさせてもらうわね」
ホームステイという言葉の真意を理解したサキミラは、あすかのベッドに腰を落ち着ける。
「はー……何でかしら?途中で変身が解けるなんて」
サキミラは先ほどの戦いのことを思い出していた。
「だよね。私が変身しなかったらどうなちゃってたんだろ」
あすかも同様の回想にふけっていたが、少し別のベクトルに考えが寄っている。
「ねえあすか、ここで変身してみてもいい?」
「えっ?」
……部屋を少し整理し、場所を広く取り、変身スペースが出来上がった。
サキミラは部屋の真ん中に立つと、手に持ったタイムドライバーを腹に当てる。
しゅるるるという音と共に帯が巻かれると、サキミラはトランスクロックを構えた。
「お願い、起動して……変身!」
願いながら、トランスクロックの起動スイッチを押すサキミラ。
しかしクロックは、うんともすんとも言わない。
「やっぱり……解けただけじゃなくて、変身もできなくなってる」
「なんで!じゃあ、私がやる!」
あすかも、自分の荷物からタイムドライバーとトランスクロックゲンダイを取り出す。
しかし……
「ダメよ。自分のはただの実験だし、あなたは大事な時に変身するの。いい?」
「う、うん」
サキミラに止められ、渋々やめるのだった。
そして、その夜。
夕飯などを終えた二人は、寝る準備をしていた。
「ふぁ……ところでさ、学校とかどうするの?ホームステイ何だから、ごまかせないかも……」
「えー!あすかが自分で言ったのに……いいわ、こっちで考えとくから。心配してくれてありがとう」
床に、もう一つの布団を敷き終わったサキミラは、そのまま入ろうとする。
「あれ?二人で寝るんじゃないの?」
「えっ?」
それを見て不思議そうにするあすか。
さらにそれを聞いて困惑するサキミラ。
「ほら、一緒にベッドで寝よ?」
「あー……いいのかしら、これ……」
あすかの純粋な笑顔に耐えきれず、サキミラは布団を置いてベッドに上がり込む。
その後は、とても早かった。
枕に転がった途端、サキミラはすぐに寝てしまったのだ。
それを見たあすかもまた、眠りにつくのだった……。
……次の日。
「ふああ……こんなに眠れたのも、久しぶりかも」
サキミラは、あすかより早く目を覚ましていた。
外はまだ暗く、目覚まし時計もなっていない。針は五時を指している。
「あすか……ごめん、こんなことに巻き込んじゃって……って、ん?」
まだ眠るあすかに、小さく謝罪の言葉を掛けるサキミラ。
ふと、ベッドの隅に大きな箱のような物体が見えた。
「これは……ええ……なんで?」
困惑から来る静けさが、辺りを包み込む。
そしてそのまま、夜はふけるのだった。
「おはよー!サキミラ……あれ?どうしたの?」
目覚ましで起きたあすかは、部屋の隅で震えて固まるサキミラを見つける。
何をしているのだろうと思っていると、
「あすかぁ!時空が歪んでるの!大変よー!」
「え、ええ……どういうこと?」
サキミラは、箱のような物体……黒色のランドセルをあすかに見せる。
それと、名札も。
「なになに、6年……今川 咲……って、うちの学校じゃん、これ!というかランドセルなんて、昨日まであった?」
「なかったから!……私が時間を超えたから、時空が歪んで、多分その、辻褄合わせをしたと思うのよね」
「つじつまあわせ?なにそれ……」
目を点にして不思議そうにするあすかに、咲……もといサキミラは、
丁寧な説明を始めた。
「つまりはね、私がここに居ても変じゃないように、色々な事が変わってるってことなの。多分」
「へえ……じゃあ、一緒に学校に行けるんだ!やったぁ!」
「え、あ、そうね……。うーん……」
その後二人は、さらなる変化に驚くことになる。
「ママ、おはよー……」
「お、おはようございます……」
リビングに降りたあすかとサキミラ。
すでに食事が並べられていて、母親も椅子に座っていた。
「あすか、咲、おはよう。咲の方は、どうしてそんなに改まってるのかしら?
いつもはすっごく甘えてくるのに」
「え、え?あ、え……?」
あすかの母は、サキミラの事を咲と呼んだ。
しかも、あたかも最初から家族であったかのような接し方である。
「あすか、お姉ちゃんと一緒に食べなさいね」
「はーい……え?」
お姉ちゃん。自分の母親から飛んできた言葉が、サキミラに対してだと理解するのに、少し時間を要した。
そして思い出す。名札に、何が書いてあったかを。
「今川……咲……え、えええええっ!」
今川あすかと今川咲。歪み出した時空で、奇妙な共同生活が始まるのである。
「はあぁ……」
学校へと歩くあすかとサキミラ。
しかし今は咲となっているせいで、彼女からは大きなため息が漏れる。
そんな彼女を気遣ってか、あすかは少し距離を置いていた。
「サキミラ……」
いきなり、他人の姉とされてしまったのだ。戸惑っても無理はない。
自分も戸惑ってしまうだろうと、あすかは同情していた。
「今川さん、おはよう!」
「あ、おはよー!」
クラスメイトの一人が、挨拶をしてくる。
表情を切り替え、あすかは笑顔で返事をした。
「あ、お姉さんの方も、おはようございます!」
「……」
「あれ?」
挨拶をしたクラスメイトの中では、彼女は今川咲である。
だがこうやって急に話しかけられても、戸惑うサキミラは返事が難しかった。
「ごめんね!お姉ちゃんね、今日ちょっと気分が乗らないみたいで……」
「そうだったんだ。じゃあまた後でね!」
クラスメイトの女子は、一足先に学校へ向かって行った。
「あすかぁ!どうしたらいいのぉ!」
「うーん……」
昨日までは、頼れるお姉さんだとあすかは思っていたが、
今のサキミラは……妹負けした姉であった。
上の子というものを知らないので、あすかもどう接していいかよくわからない。
「と、とりあえず……がんばって!」
もうどうしようもないので、とりあえずサムズアップで返すあすかであった。
「学校、かあ……」
一人残されたサキミラは、他の生徒が上がっていくのを見て、
自分も渋々教室を目指すことにした。
階段を上がる時は、かつんかつんという音を立てながら、ゆっくり教室へ向かうサキミラ。
同級生や下級生であろう生徒たちは、どたどたと駆け上がっていくのだが。
「思い出しちゃうな、未来の話。……ううん、今はこの時代で、咲として生きるの。やって見せる!」
自身の生きてきた時間の話を思い出すが、それを機にサキミラは吹っ切れたようだった。
その後の足取りはとても軽く、彼女の表情も和かであった。
教室に着くと、サキミラと同じくらいの背丈の子供たちが、ざっと十数人程確認できる。
「ここが、私の教室かぁ……人がいっぱい」
人数に押されていると、彼女に向かって生徒の一人が話しかけてきた。
その生徒は男子で、清楚な雰囲気の少年である。
「やあ、咲ちゃん。おはよう!」
「あ、おはよう……」
男の子と下の名前で呼び合うほど、この人とは親しい仲なのだろうかと、
サキミラは思った。
勿論のこと、記憶はない。
記憶がないので、とりあえず挨拶で返答するしかなかった。
……何かあると思えば、その少年はそのまま生徒の波へと戻っていく。
何だったんだろう?と、思うサキミラであった。
「はーい、じゃあ朝の会を始めるわよ!日直ー!」
しばらくすると、担任であろう女教師が入ってきて、
学校生活が幕を開ける。
これからどうなるのだろうか。不安しかない彼女の今後はどっちだ。
「だ、だるい……学校って、こんなに……」
「サキミラ、大丈夫?」
昼休み。あすかとサキミラは、廊下で会っていた。
初夏の陽気のおかげで、少しばかり暑い場所になっているが。
「問題は全部わかるけど、それを一から学び直すなんてね、つらいわ!」
サキミラ曰く、未来ではすでに修学済みなので、学校の勉強は全てわかっている。
それ故に、授業を聞くのが退屈で仕方ないのだ。
彼女をなだめながら、あすかは微笑む。
「でも、誰かと一緒って、いいでしょ?寂しくなくて」
「うん。ずっと、一人だったから……不思議な感じがする。楽しいね!」
サキミラも微笑み返し、実際感じていた学校生活への楽しさをあらわにした。
……一日の授業が終わり、放課後。
「帰ろ!お姉ちゃん!」
「おね……それはまだ慣れないかなぁ」
時折、姉妹っぽさを見せてくるあすかに、サキミラはまだ戸惑う。
今はあすかとそう言う関係なんだと思っても、慣れない。
「帰ったらね、おやつ用意してくれてるって!やったね!」
通学路を歩きながら、あすかはサキミラに楽しそうに話しかける。
「おやつ、何だろ?楽しみ!」
慣れないが、それでもサキミラは内心とても楽しい思いでいっぱいだった。
戦わずに、この日常がずっと続けばいいのに……など、考えてしまうほどに。
その考えは、思わぬ形で実現することになる。
「どけぇーっ!」
閑静な住宅街に、男のものと思われる怒号が響き渡る。
「なに!?」
「あすか、後ろ!」
驚いたあすかとサキミラ...…振り向くと、手に鞄を持った大柄な男がこちらに迫っているのが見えた。
なにが入っているのだろうか、その鞄は妙に分厚いものであった。
「どけっ、ガキどもぉ!」
男は、あすかたちを避けるのではなく強引にタックルをして吹っ飛ばすつもりらしい。
「あすか!」
「え、サキミラ……」
サキミラはあすかを横に突き飛ばすと、男の前に立ち塞がる。
すぅっと片足を突き出し、そのまま……
「なっ!?どわああああっ!」
勢いづいていた大柄な男は、突き出された足につまづき、転がるようにしてこけた。
物凄い悲鳴をあげながら。
「このガキ、何しやがる!」
すぐさま起き上がる男。あすかはその手に、きらりと光るものを見ていた。
それが何か分かったのと、男がサキミラに向かって走り出すのは、ほぼ同時であった。
「サキミラ!刃物だよ!逃げてぇ!」
男が持っているのは、小さめでツヤのあるナイフ。
逆上し、殺意を持ってサキミラへと突進する男。
あすかはそれを見て、叫ぶしかなかった。
「ふっ!」
サキミラは器用にステップを踏み、刺突を横に避ける。
「やっ!」
素早くナイフを持った手を掴むと、後ろに捻り、
男を体重で押し倒した。
「ぎゃ、ぎゃあああああっ!」
反動でナイフを手放す男。肩関節が外れかかるほどの衝撃が走り、
とてつもなく痛いようだ。
落ちたナイフを見て、あすかは唖然としていた。
「え、サキミラ……すごい……」
体格も、力も凄そうな男を、簡単に倒してしまった。
今何が起こったのか、あすかにはまだ理解しがたい。
「……じゃあ、怪人だったら勝てるかな」
「___え?」
その時だった。サキミラたちの耳元に、囁くような声。
「ぐるるるる!」
「……って、きゃあっ!」
気がつくと、押さえていたはずの男が怪人になっており、
サキミラを突き飛ばした。
「サキミラ!」
あすかは、すぐ様倒れた彼女に駆け寄る。
どうやら、大した傷ではないらしい。
「やあ!また会いにきたけど……今度は倒されてくれるのかな?」
そうして現れたのは、先日遭遇した青年……ラノーマだった。
「残念ね、またあすかがあんたを追い払うわ」
「え、わたし?あ……うん、やる!」
立ち上がったあすかは、変身できないサキミラの代わりにタイムドライバーとトランスクロックゲンダイを持つ。
「行くよ、変身!」
「gendai!」
ドライバーを巻き、トランスクロックを起動。
「clock set!」
ドライバーにクロックをセットし、そのまま左手を顔の前に構え、右手でスイッチを押した。
「change time! go future! ashita girl!」
音声が流れ、大きな時計が目の前に投影される。
それを通過した瞬間、あすかの身体にスーツと鎧が装着された。
「よし……やってやる!」
「よし、やって___」
変身したあすかが、怪人に向かって駆け出そうとしたその瞬間。
「あれ、あすか……?」
サキミラは見た。あすかが止まるのを。
動きどころか、彼女の時間が止まるのを。
「なっ、何で!ラノーマ、あすかの時間を……!」
「ちょっと強めにしたら、割と簡単に止まったね。君も同じように止めてあげよう」
ラノーマは手を突き出し、さらに周囲の時間を止めようとする。
このままでは、サキミラも巻き込まれてしまうかもしれない。
だがサキミラには、変身する力はなかった。
「このまま、時間が止まってれば……」
未来。時間という概念がなくなった未来。
変わらぬ日常のまま保存された世界。
サキミラは望んだ。日常がずっと続いていればいいと。
しかし……
「このまま時間が止まってたら、楽しくないっ!」
懐から、タイムドライバーとトランスクロックを取り出す。
起動しないと分かっていても、彼女を駆り立てるものがあった。
今の楽しい日々を、守りたい_____
「あすかは、私が救って見せる!」
勇気を振り絞り、彼女はトランスクロックのボタンを押した。
「mirai!」
「は、起動した……!いけるっ!」
未来。その音声と共に、タイムドライバーへトランスクロックミライをセットする。
「clock set!」
両手をクロスし、そのままボタンへ降ろし___
「変身!」
「change time! protect future! ashitagirl!」
時計の張りが回りだし、トランスクロックから大きな時計が投影される。
サキミラをスーツが覆い、全身各部にプロテクターが形成されていった。
「なんだって……?」
「できた、出来たっ!やああああっ!」
サキミラはそのまま、怪人に飛びかかっていく。
こんにちは、ここまで読ませていただきました。
感想
もう、本当に本を買って読んでいるみたいです…すばらしい…
これからが楽しみになります!
アドバイス
本当に上手いのですが、一つだけ。もう少しだけ、登場人物の表情を書いてもいいかな、と思いました。
すばらしい作品をありがとうございました!これからも頑張って下さい!
批評を依頼して頂いたと云うことで、僭越ながら批評させて貰いまッス。
先ずは良いところからですが、
冒頭の部分から衝撃的な事実(世界の時が止まっていること)を入れてるのにも関わらず、切り返しとシナリオ管理、登場人物の扱い方が上手なので読者が内容を理解しにくくなる「置いてけぼり」感がないッス。
内容としてはよくある「魔法少女モノ」だなと感じましたッスけど、テンプレやセオリー通りに進んでいくだけではなく、ギャグ要素、シリアス要素などの様々な要素をしつこくならない程度に上手く取り入れているので、「見ていて疲れる」、「読む気がなくなる」ということがなく、「次の展開が楽しみだな!」と素直に思える様なつくりになってると思うッス!
後は何と言っても戦闘描写ッスね!繊細な動きと大胆な動きで表現を切り替える、主人公達が優勢の時にスピーディーに進む描写だけではなく、主人公が窮地に陥った時のハラハラドキドキとする描写もキチンと取り入れられてるところが好感を持てるッス!バトルモノでよくあるんスけど、主人公達が敵を圧倒している時は行動の描写が上手く出来てるのに、予想外のハプニングなどが起きて主人公達がピンチになった途端に表現が杜撰になる方ってソコソコ居るッス......なのに表現力を保ったまま書き進められるのはスゴいことッスよ!
次に改善点ッスけど、まぁ辛口コメントとはいえ素晴らしいところが余りにも多いのでこじつけっぽくなっちゃうかもですが....
先ず一つ目は>>2の「この教師、注意はするがそこまで怒ってはいない」というところ。正直、初めて拝見した時は「えっこれ教師が主人公なの?」と思っちまいました。
その次の展開で主人公じゃないって分かりましたが、最初にややこしい書き方をしてしまうと読者の読む気を削いでしまうッス。この小説の見所は「意外性」ではなく、「王道」というところに重きを置いていると思うッス。だからこそ、最初に勘違いする様な発言をして読者を離れさせてしまうのはもったいないと思うッス!
次はまた>>2の「きりーつ、れーい!」ッスね、最初の展開では完全に「時の停まった空間に居る」という不思議体験をしていたのに、唐突に次の展開で学校での号令に入ったので「ん?」と一瞬疑問に思いましたッス。場所の切り替えをしっかり描くことは結構大事ッス。
最後に、>>1から>>4が繋がってることを示唆する描写が弱いかなーと。書きたいことは何となく分かるんスけどね......これも書いてる作者目線なら分かるかもしれませんが、読者にとっては分かりにくいッス。「読者に読みやすく」は小説を書いていくアクターの中でも最重要のことだと思うッス。これを怠っては、物書き失格、ッスよ!
とまぁ、こんなところですかね。散々書きましたが、この作品は期待値120%で挑んでも充分御釣りがくる作品ッス!自信を持って、これからも頑張って下さい!それでは私はドロンッ!しますね!
22:ふたば◆r.:2019/08/20(火) 20:51 ___先程までサキミラが縛り上げていた男は、怪人へと姿を変えた。
引き締まった肉体に、刺々しい皮膚となり、当人とは区別がつくわけもない程変化してしまっている……。
「やああっ!!」
変身したサキミラは、怪人へ飛びかかる。
瞬時に懐へ突っ込むと、握り拳を腹に打ち込んだ。
「ぐお……ぐ!?」
小さく悶える怪人。しかしサキミラの攻撃は終わらない。
手を器用に使って反転すると同時に足を打ち込み、
起き上がればまた蹴りを放つ。
サキミラの身体能力をフルに活かした完璧な攻撃である。
「だあっ!」
最後は、顔面に拳を一発。
「ぐああああっ!」
怪人は大きく吹き飛ばされると、転げてしまった。
それを見たサキミラは、トランスクロックのスイッチを押す。
「break time!」
音声と共に、サキミラの右足が発光し、力が蓄えられた。
「今度は決めるわよ!だあああああっ!!」
大きくジャンプすると、そのまま足を突き出し……怪人に向かって蹴りを放つ。
「ぐるううううう!……あ、あれ?」
必殺の蹴りが命中した怪人は、爆発四散して人間の姿に戻るのだった。
アドバイス貰ってんだから
お礼くらい言うのが常識じゃない?
>>23
大丈夫ッス!あちらのスレで言って頂いたのでれ
「でれ」って何やねん。「で!」でしたね
26:ふたば◆r.:2019/08/21(水) 08:27 「またか……」
そう言い残し、ラノーマは姿を消した。
すると時間が動き出して……
「___はっ!? ……あれ、終わってる?」
戦闘前から時間を止められていたあすかは、怪人もラノーマもいなくなっていることに気付いて、
きょろきょろと辺りを見回す。
「おい、大人しくしろ!」
「は、はあ……」
あすかの目に飛び込んできたのは、警察官が先程の男を捕まえている光景だった。
結局あの人は何をしたんだろう?そう思っていると
「あすか!よかった、ちゃんと動いてる……よかったぁ」
後ろからサキミラに声をかけられる。
元に戻ったことに安心したのか、サキミラは表情がゆるゆるにゆるんでいた。
「サキミラ……もしかして、変身できたの?」
「うん。多分、あすかのおかげかな」
「えっ?」
自分のおかげと言われても、ピンとこないあすか。
サキミラは誤魔化すように笑顔を振りまきながら、二人でその場を立ち去るのだった。
「ただいまー!」
勢いよくドアを開け、自分の家に戻ったあすかとサキミラ。
テレビの音がするので、一番先にリビングへと寄った。
「あら、二人ともおかえり……って、ニュース見て!二人とも、大丈夫だった!?」
「え?」
「まさか……」
帰ってくるなり、母親は少々青ざめた顔でテレビのニュースを見ていた。
なんで?と思う二人だったが、薄々気づいている。
その薄々は、テレビを見て確実なものとなるのだった。
「えー、繰り返しお伝えします。1時間ほど前に発生した銀行強盗事件ですが、
犯人が検挙されたとのことです。女児に捕まえられたなどと供述しており……」
あすかたちはそこまで聞いた後、すぐさま自室へ駆け上がっていった。
「はー……大変な一日だったね」
「そうね。学校も疲れたし、色々ありすぎよ……」
部屋に戻ったあすかとサキミラ。
彼女たちは一日を振り返り、ぐだーっとしていた。
「ねえ、あすか。敵も、やろうと思えばあなたの時間を止められることが分かったわ。
だから……一緒に戦えるように、そばを離れないで欲しい。わかった?」
サキミラは、あすかの時間が止まったことを不安視しているようだった。
「うん、わかった。一緒に動くんだね。あー……なんか、本当にお姉ちゃんみたい」
そんなサキミラの想いを受け止めたあすかは、その中に姉妹愛のようなものを感じている。
サキミラはそれを聞いて、少し顔を赤らめたりした。
「おねえ、ちゃ……うん、悪くないのかもね……」
満更でもない様子。受け入れたのか、赤らめた顔はすぐに落ち着いた。
「よし、そろそろご飯だよ!行こ、お姉ちゃん!」
「あ、ちょっと!そんなに手を引いて行かないで……」
時計も六時を回る頃。夕食の時間を察したあすかは、
サキミラと共にリビングへ戻っていく。
___同じ頃。雨の降る森に、一人の青年が立っていた。
「くそっ、どうしたらいいんだ……!」
ラノーマである。あすかたちに二回も敗北している彼は、焦りをあらわにしている。
「……なんだ?」
短い距離を早い感覚で往復していると、突然目の前の景色が歪み始めた。
彼は少し驚いたが、その表情はすぐに笑顔に変わる。
「......へえ、ここが過去なの?」
「らしい」
歪みの中から、1組の男女が現れた。
一人は奇抜な髪型の女で、男の方はまとまった感じになっている。
「アンナチュラ、パラドックス、ようやく会えたね______」
ラノーマは、二人の名を呼んだ……。
「ふわああ……ん、今何時なんだろ?」
寝起きのあすか。外はまだ暗く、その手は側にあったアナログ時計に伸びていた。
「五時かぁ。もう少し寝ようかな」
隣ではサキミラが、すやすやと寝息を立てている。
「すぅー……すぅー……」
「サキミラ、もう少しだけ、おやすみ」
サキミラに一声掛けると、
あすかもまた、眠りに落ち___
「二人とも、起きて!ニュースを見るのよ!」
母の声が聞こえたのは、そのあとすぐの話。
大慌てで上がってきた母親は、テレビを見せたいらしい。
「なに……?」
「ど、どうしたの?」
重たいまぶたをこすりながら、二人はリビングへ赴く。
「えー、大変朝早いですが現場から速報です。通勤、通学中の人々が皆、
固まってしまったように動きません!」
テレビで流れるニュースは、とんでも無いことを報じている。
人々の時間が止まっていく。サキミラはゾッとした。
「そんな、これ……」
「三人とも、揃ったっていうの?くっ!」
サキミラは手荷物を抱え、突然家を飛び出した。
「え、待って、お姉ちゃん!」
それを追いかけて、あすかも家を出る。
「はっ、はっ、なに……?」
「みんな、止まってる?」
ニュースで見た場所は割と近所だったので、あすかたちはすぐに駆け付けることができた。
そこで待っていたのは、道行く人々がすべて止まっているという異様な光景。
「これじゃあ、私の未来と一緒じゃないの!」
サキミラは思い出す。
全てが止まり、自分しかいなかった未来の出来事を。
そんなことが、あすかの世界にも起きているのだ。
「見たかね、これが大停止……お前の未来に起きた出来事だ」
呆然と立ちつくす二人の前に、男が現れる。
その男に、サキミラは見覚えがあった。
「パラドックス!未来だけじゃなく、過去の世界までこれを起こそうって言うの!?それに、どうやって来たの!?」
パラドックスと呼ばれた男は、けたけたと笑いながら周りの景色を眺めていた。
「ははは……俺だけではない。アンナチュラもいるぞ」
「え、じゃあ、やっぱり三人が揃ったのね!」
アンナチュラという、新たな名前も飛び出してくる。
しかし、この場所にはパラドックス一人らしい。
「……これは、デモンストレーションに過ぎない。行け!」
パラドックスが手をかざすと、止まっていた人々が皆、怪物に変貌する。
「ぐるおおお!」
「ぎゃおおお!」
怪物は一斉に動き出し、街へと放たれた。
近くにいた人々、野次馬たちに襲い掛かる。
「な、なんだ?うわあああ!」
絡まれ、押し倒されていく人々。
「これじゃあ、未来と同じ出来事が起きてしまう!あすか、止めるわよ!」
「う、うん!」
その様子を黙ってみていられないあすかとサキミラは、タイムドライバーとトランスクロックを持った。
「gendai!」「mirai!」
ボタンを押し、ドライバーへ装填する。
「clock set!」
「変身!」「変身!」
掛け声とともに、二人はクロックのスイッチを押した。
「change time!」
クロックの針が回りだすと、巨大な時計が投影され、
二人の身体をスーツが包む。
「go future! asita girl!」「protect future! asitagirl!」
変身を終えたあすかとサキミラは、一斉に走り出した。
「た、助けて……!」
道を歩いていた女性。怪人に掴まれ、鋭利な爪を胸元に突き付けられている。
「ぐるるるるる」
怪人はいつでも、女性の命を奪える状態だった。
そしてついに、その爪を引き、突いて___
「させるかーっ!!」
「ぐぎゃあ!」
その時だった。あすかが、怪人に体当たりをした。
スーツの力で限界以上に引き上げられたその力で、屈強な肉体を吹き飛ばしたのだ。
「大丈夫ですか!?」
その隙にサキミラは、女性を避難させる。
女性はその場を離れながら、戦うあすかの姿を見た。
「だあっ、てやあっ!」
急激に加速しながら、的確にパンチやキックを怪人に対して打ち込んでいく。
「とりゃああああっ!!」
最後はアッパーで、怪人を消し飛ばした。
「こっちも負けてられないな……」
サキミラもまた、怪人と対峙しているところであった。
強化された皮膚に、ノコギリのようなブレードの腕が特徴の怪人である。
「ソイツは、中々手強いぞ?」
パラドックスは、余程この怪人に自信があるらしく、
サキミラにアドバイスを送った。
「やあああっ!」
サキミラが仕掛ける。加速しながら距離を詰め、怪人の顔に拳を打ち込む。
「どう?……えっ?」
「ぎゃあおおお!」
怪人はビクともせず、そのまま腕を振り回し、胸のアーマーにノコギリの刃をぶつけた。
「うわああっ!!」
とてつもない衝撃。
サキミラは痛みと勢いに耐えきれず、大きく吹き飛ばされてしまう。
「っ! 今は、パラドックス1人だけど、あと2人が来たら……」
先ほど名前が上がった、アンナチュラという人物。
それにラノーマまで来れば……と、悪い想像が頭をよぎる。
みんなを救うには、早く敵を倒さなければならない。
「心配するな、これはまだデモンストレーションと言っただろう。しかし、お前はここで死ぬがな?」
「くっ……」
ここで死ぬわけには、いかなかった。
何か貴方の小説ピンときません。ごめんなさい
確かに、凄く文才があるんですが
ただ格好良い言葉と台詞をつらつら書いているだけに感じるんですよ…もう少し、って感じ?
31
たしかに私もそう思った。
文才はまああるけど
面白さがないっていうか。
ギャグ?っていうような面白い場面も
入れたら良いと思いますよ。
ただ真面目な小説じゃ読み疲れます。
「わた、しは……!」
再び、怪人の刃が迫る。
サキミラの喉めがけ、その腕を振り下ろし……
あと数センチ。
そこまで来たところで、彼女は動いた。
___しゅんっ。という風切音。
ステップを踏むような加速で、怪人の一撃を避ける。
「おりゃああああっ!」
刃の射線を切り、それを腕から掴み上げるサキミラ。
そしてそのまま、肩を極めて捻り倒した。
ぼきん!骨が折れるような音。
「ぎゃ、ぎゃああああおおおおお!」
怪人の自慢の刃は、粉々に砕け散ってしまった。
「何だ?何がお前をそんなに駆り立てる?」
その様子を見て、サキミラを凝視するパラドックス。
サキミラは、強気な表情で答えた。
「私は今から、あすかと学校に行くんだ!その時間の邪魔は、絶対させない!」
トランスクロックのスイッチが押される。
サキミラの全身から、右腕にエネルギーが収縮し、力が蓄えられた
「break time!」
倒れる怪人に、サキミラは加速しながら近づき、右手を全力で振り下ろす。
「これからの未来を、絶対掴むんだぁーっ!!」
エネルギーが怪人の胴体を貫き、怪人は爆散するのだった。
「はあっ、はあっ」
その場に、へたり込むサキミラ。
「サキミラ!こっちは終わったよ……って、そっちもどうにかなった!?」
あすかが駆け寄る。あすかの方も怪人を倒してきたらしい。
「う、うーん」
「あれ、何してたんだ?」
怪人にされた人々は、倒されたことで元の姿を取り戻していた。
逃げ惑う人々からも、恐怖の表情は消えていく。
「ふ、いいデモンストレーションだったよ。また会おう……」
その光景を見ていたパラドックスは、くやしがる様子もなく姿を消した。
「よし、ご飯食べて、学校行こ!」
「うん、そうね……」
変身を解いた二人は、家に帰っていくのだった。
相変わらずの文章力ッスね!見ててとっても清々しいッス!ギャグもシリアスもほのぼのも一緒に楽しめて、今推してる小説ッス!支援ッス!(謎の熱量)
35:Dreadnought:2019/08/24(土) 13:46 よし、勝ったぜ!
綺麗に流れがまとまっている。また、キャラクターの断固たる意思がはっきりと表現されていた。ただ、ちょっと体言止めが多いのが気になった。
>>32
だよね。読んでて肩こる。だからってギャグ過ぎんのもどうかな、って思うけどさ
「なあ、今朝のニュース見たか?」
「えっ、なになに?」
朝の学校。廊下で、生徒の男女二人が話している。
男子の方は、とても興奮しているようだった。
「怪物を、女の子二人が倒して回ったんだって!かっこいいよな、俺らと同じくらいなのに!」
「女の子?誰なの?それ」
「動きが速すぎて、顔が見えなかったんだと。でも、ヒーローみたいな格好してたのだけは見えたらしいぜ!?」
「へえー?」
二人は知らなかった。
そんなヒーローが、すぐ近くを通っていたことを。
……とても、ゆっくりと歩いていることを。
「はー、お母さんに言い訳するの大変だったわね」
「うん。でも、どうにかなって良かったよ」
朝早くから、家を飛び出したあすかたち。
帰ってくると、母親からの質問責めにあっていた。
しかしどうにか潜り抜け、こうやって無事に登校してきている。
表情はとても、疲れているが。
「あー!体育あるのに、もう疲れたよぉ〜!」
あすかは叫んだ。身体の痛みを、声に変えて。
「慣れたら痛くなくなるわよ……私も大変だったもの」
スーツを着ながらでも、戦闘には大きな負荷がかかる。
怪人を何体も倒していたので、あすかの身体は既にクタクタであった。
「もうー!わたしのからだはボドボドだぁー!」
「ボドボドって何?」
「違う、ボロボロだぁー!」
嘆くあすか。
それでも学業は大事。
あすかはサキミラと別れ、自分の教室を目指した。
オンドゥル語wwww
39:新見川すみれ◆96:2019/08/24(土) 19:43オンドゥル語草。早速ギャグ要素ぶっこんできたッスね....
40:ふたば◆r.:2019/08/25(日) 09:49 教室に着くあすか。
朝の会までは少し時間があるので、彼女はランドセルを置いて自分の机で一息着こうと考えていた。
「ぐでー……ってしたい!けど!」
しかし、それができない理由があった。
彼女にはどうしようもない理由が。
「今朝のニュース見た!?」
「ヒーローがいたんだって!」
「僕も会いたいなぁ!」
……教室の中は、生徒たちのがやがや声で覆い尽くされていた。
皮肉にもそれは、あすかたちの活躍が噂になったものであるが。
もうすぐ朝の会が始まってしまう。このままでは眠れない。
「うー!こうなったら意地でも寝るんだから」
あすかは机に突っ伏し、目を瞑る。
「___よーし、朝の会始めるぞ!日直!」
直後、担任の声がした。
ダメだったと諦めるあすか。今日は午後まで、このまま乗り切れるのか。
不安しかないまま、学校生活が始まるのだった。
「この問題、わかる奴ー?」
授業が始まった。今は社会の時間で、
黒板には地図記号とそれに当てはめるための名称が書いてある。
「なんだっけ、これ」
教科書を見ながら、あすかも必死に考えた。
正解したいという思いが強くなり、思考速度が加速する。
「うーん……は! はい!」
わかった。そう確信したあすかは、手を上げた。
「よし、では今川!」
担任もそれ見て、彼女を指名する。
椅子を机に収納し、てくてくと黒板に向かうあすか。
その時だった。
「あ、あれ? なんか、めまいが……」
えっ。と、一番思ったのは本人である。
急に回る視界。よろける身体。
どんどん下に向かって落ちていく。そしてそのまま……
「おい? 今川、いま______」
担任の声すら途切れ、あすかの視界は暗転した。
駆け寄る生徒たちの足音も、聞こえない。
「……あれ? なんで、保健室に」
目が覚め、最初に飛び込んできたのは白い天井。
あすかはここが、保健室であることがすぐにわかった。
だが、なぜ自分は寝ているんだろう?
それは、隣にいた人物が教えてくれた。
「今川さん、疲れてたの?教室で突然倒れるなんて……」
保健室の女性教諭だった。
あすかのことを、しっかりと見てくれていたらしい。
彼女から理由を聞いて、あすかは目を点にした。
「あ、倒れちゃったんだ、私。はい……ちょっと、疲れてました」
白状するあすか。しかし、理由までは言わなかった。言えるはずがない。
「大丈夫?早退するなら……」
「いや、平気です!少し休んで、教室に戻ります!」
早退するわけにはいかない。今休んで、後半の授業に備えたいと思った彼女は、
保健室で一息入れることとした。
「そろー……」
廊下を通り、教室へ戻るあすか。
人目を避けるように、そろそろと歩く。
急に保健室入りしたので、あまり目立ちたくない思いがあったのだ。
「そろ……あれ?」
妙だと思った。避けるような人目がない。
どういう事なのだろうと考えるあすか。
人目がないなら、そのまま歩いてしまおう。
そう思い、歩く足を早めていく。
てくてく、てくてく。聞こえるのは自分の足音だけ。
なぜ?頭に疑問が過ぎる。
その答えはすぐに現れた。そう、現れたのだ。
「あーら……止まらない人間がいると思ったら、貴女だったのね?」
髪を蛇のようにカールさせた、奇抜な女。
あすかを見て、不気味な笑いを浮かべる。
「良いわ、直接止めるしかないようね」
その女は、自身の手をあすかに向けた。
「止めるって、まさ___」
あすかは、気がついた。
だが気がついたときには、もう遅かった。
「やめなさい!!」
その時、廊下にもう一人の声が響く。
同時に、女が膝から崩れ落ちた。
「っ……! お前、なんでここに居るのよ!」
「そんなの、私が聞きたいくらいなんだけど?」
ゆっくりと歩きながら、あすかの隣まで並び立つのは、サキミラだった。
「おねえちゃ……サキミラ!」
「あすか!ごめんだけど、学校の時間が止まってるの!」
「え!?そんな……」
これで納得。先ほどから少し気づいていたが、人がいなかったのは、時間が止められていたからだったのである。
それをしたのは……目の前にいる奇抜な髪型の女。
「アンナチュラまで……。あすか、こいつは___」
何かを説明しようとしたサキミラ。しかし、アンナチュラと呼ばれた女の方が先に動いていた。
「___アタシはね、こんな姿にも“なれる”のよ?」
その女は、自身の身体を変異させていた。
全身を黒い強化皮膚が覆った、怪物人間である。
奇抜な髪型すら、カチカチの皮膚に生まれ変わっていた。
「くっそ……あすか!変身するわよ!」
「う、うん!」
「変身!」「変身!」
トランスクロックをドライバーにセットし、ボタンを押す二人。
針が回り、ベルトから投影された時計を潜り抜け、スーツを装着する。
「go! future! ashita girl!」「protect future! ashita girl!」
音声が鳴り終わると同時に、変身も完了した。
「ヒャハハハ!」
狂った声を出しながら、怪人と化したアンナチュラが迫る。
ターゲットは……あすか。
「防いで!」
「うん!」
硬質化した拳を、あすかは腕のプロテクターで抑え込んだ。
アルファニウムという鉱石で作られた装備は、あすか自身にダメージを与えることなく衝撃を吸収する。
「こっちの番だよ、てやああ!」
もう片方の手で、顔面に一撃を喰らわせた。
「くうううっ!?」
窓ガラスを突き破り、校庭まで落ちていくアンナチュラ。
それを追い、二人も飛び降りた。
「___あすか、強い!これなら……」
サキミラは、あすかの強さを見た。
アンナチュラが相手でも、この子とならきっと戦える。
そう信じながら、アンナチュラの方を見る。
「いやーね……。ストッパーの中でも、一番強いのよ?アタシ!」
ゆっくりと立ち上がったアンナチュラ。
もう一度突進を繰り出してくる。
「きゃっ!」
顔を狙われているのを察知したあすか。
唯一プロテクターが付いていない部位なので、もう一度腕で防ごうと構えた。しかし、
「さっきのが本気だと思ったのかしら!」
ばりん。そんな音を立てて、右腕のプロテクターが砕け散る。
アンナチュラの本気の攻撃は、超硬な鉱石ですら割ってしまうのだ。
「そんな、わっ____」
プロテクターが割れ、白のスーツがあらわになる。
耐衝撃性能は悪くないが、今更それが通じるような強さの相手ではない。
あすかはそのまま、腕を掴まれた。
「あすかを離してっ!」
サキミラが突っ込む。このままではあすかが危ないからだ。
その時、彼女は見えなかった。アンナチュラの顔がにやけていたのが。
「この、離してよ……って、うわあああああああ!?」
アンナチュラを振り解こうとしながら、あすかは見た。
サキミラが自分に向かって突っ込んでくるのが。
そしてそのまま、自身の腕を_____
ぐちゃり。何かが潰れ、飛んでいく音がした。
チッ、チッ、チッ、チッ……
針が回る音。それと共に、意識すら回っているような気がした。
「……はっ!?」
サキミラは、ぱっと目を開けた
隣りにはあすかがいて、目の前にはアンナチュラの怪人体がいる。
「ヒャハハハ!」
アンナチュラが、あすかに迫る。
サキミラが“何も言わずとも”、あすかはその腕で攻撃を防いだ。
「てやああっ!」
「くうううっ!?」
あすかのカウンターが決まり、校庭まで落ちるアンナチュラ。
二人はそれを追い、飛び降りる。
「サキミラ……?」
「だ、大丈夫。戦いに集中して!」
「うん……」
あすかは、急にぼーっとしだしたサキミラを心配した。
サキミラはそれに心底感謝していたが、そのぼーっとする理由がわからずにいた。
わからないまま、次の一撃が迫る。
「いやーね……。ストッパーの中でも、一番強いのよ?アタシ!」
あすかに飛びかかるアンナチュラ。
それを思わず、腕で防ぐあすか。
「っ……! だめえっ!!」
何が、駄目?そんなの、わからない。
わからないが、なぜかそうした。
「だあああっ!」
あすかの目の前で、ぐるりと回るサキミラ。
そしてそのまま、アンナチュラの胸部に蹴りを喰らわせる。
「ぐああーっ!!」
苦しそうな声を出して、吹っ飛んでいくアンナチュラ。
「あすか、大丈夫?」
「あ、ありがと、サキミラ……」
守られた。そう思ったあすかは、サキミラにお礼をした。
サキミラは何故だが、とてもホッとする思いでいる。理由はわからなかったが。
「二人になったら、中々強いのね。次はラノーマに向かわせようかしら……?」
アンナチュラはむくりと起き上がると、そのまま姿を消していた。
同時に、時間が動き始める。
「はああ……また疲れた!ぼどぼど!」
変身を解いたあすかは、その場にぺたりと座り込んだ。
戦闘で体力を使い、どっと疲れが流れ込んでくる。
「だから、ボドボドって何よ……」
あすかに手を貸しながら、苦笑いするサキミラ。
だが本心、彼女は笑ってはいなかった。
「ぐでーってしたい時、あるよね。それは多分、今の私」
「あすか、誰に言ってるの?」
帰り道。サキミラと共に帰るあすかは、独り言を呟きながらいまにも寝そうな状態だった。
「だってさ!あの後50m走だったんだよ?もう限界、歩きたくない……」
そうしてそのまま、道に座り込んでふーっと目を閉じていく。
やがて行き着くのは、夢の中だろう。
「え、あすか!そこで寝ないで!そんな……」
サキミラは少し呆れ顔になりながら、
「もう、しょうがないなぁ」
こちらの時間に慣れていなくて、自分も疲れていたはずだった。
しかし彼女は、あすかをランドセルごとおぶり、ゆっくりと帰り道を歩いて行く。
「そうだ、私は……」
道を歩きながら、サキミラは何かを思い出したようだった。
だが、それを口にすることはなかった。
「___あすか、ごめん」
唯一口にしたのは、背中で眠るあすかへの謝罪の言葉。
それが何を意味するかは、サキミラにしか分からない。
「やったー!休みだー!」
誰もいない自室で、あすかの声が響き渡った。
あれから数日。ストッパーの襲撃もなく、平和に学校生活を過ごして……
今日からは、土日休みである。
「お母さん、出掛けたわよ?」
「え、ほんと!?」
身支度を済ませたサキミラが、自室へ戻ってきた。
とても動きやすそうな格好をしているのを見て、あすかは少し妙に思った。
「という訳で……あすか、特訓よ!」
______少し広めの庭に、ベランダから出た。
「とっくんって、何するの?そもそもなんのとっくん?」
「戦いのための特訓よ。あすか、ちょっと体力なさすぎるわ」
「う……」
連戦で、スーツの運動量に耐え切れず二度も倒れたことを思い出すあすか。
サキミラの言葉はごもっともである。
「しょ、小学生に無理言わないで欲しいかな!」
「違うわね。基礎体力を身につければ、日常的にもかなり楽になるはず。そう思わない?」
「それは……うん」
体力をつければ、運動しても疲れにくくなるのは知っていた。
その機会が巡ってきた……そう思えば、あすかは納得。
「よし、とっくんしよ!」
___間合いを取り、向かい合わせに立つ二人。
「まず、どれだけ動けるか調べるわ。同じようにステップして!」
「うん!」
サキミラの、足取り軽いステップ。
1秒1秒に無駄がなく、攻撃を避ける動作としては最もスムーズな形。
「わ、はやい……」
あすかは真似しようとするが、どこかでつまずき、遅れてしまう。
「よし、大体わかったわ。特訓メニューは……」
遅れる動きを克服すべく、一時間ほどの特訓が始まった。
筋トレなど、あすかの身体には慣れないものばかり。
「はっ、はっ……」
だが、あすかは頑張っていた。
乗り越えれば、強くなれる気がして。
「___はい、休憩!あすか、お疲れ様!」
特訓が終わった。休憩に入ると、あすかはその場に倒れ込んだ。
「ぐでええっ……。み、水!」
「あすか!あ、ヤバい……」
ただならぬ疲労を感じ取ったサキミラは、すぐさま天然水を持ってくるのだった。
もっと評価されるべき(嘆願)
48:Invincible :2019/09/05(木) 21:28小説は気迫で続けるんじゃ。頑張れ、待てばそのうちアイデアが天から降ってくる。
49:Invincible :2019/09/05(木) 21:29というわけで頑張ってください。そして評価されろー
50:ふたば◆r.:2019/09/06(金) 23:19 「ふー、疲れたぁー」
特訓を終えたあすかとサキミラ。
二人は家を出て、公園へリフレッシュに来ていた。
「あすか、いい動きしてたと思う。ごめんね急に。でも……」
「わかってるよ。私が強くなれば、もっと戦えるんでしょ?」
特訓疲れが顔に出ているあすかだが、笑顔は崩さなかった。
そんなあすかに、サキミラは複雑な表情をする。
「強くなってくれなかったら、あなたは______」
サキミラの声は、乱入してきた声にかき消された。
「あすかちゃーん、おねえさーん」
二人を呼ぶ声。振り向くと、同じ学校の少女が立っている。
「あれ?そっちも遊びにきたの?」
「そうです、おねえさん!」
ハキハキとした敬語で喋る少女に、あすかも笑顔で答えた。
「私たちね、特訓してきたの!」
「とっくん!?あすかちゃん、なんの?」
あすかと話すと、急に敬語を崩した。
学年が近いので、フランクになってもおかしくはないが。
「えっとね……筋トレとか!」
「すごーい!おねえさん、あすかちゃんはスポーツを!?」
「え?うーん、ちょっと違うなぁ」
目を輝かせる少女に、サキミラは何を言っていいかわからない。
「あ、そろそろ行かなきゃ!ばいばいですー!」
少女は去っていった。同時に、サキミラに安堵感が生まれた。
読みやすくはあるけど、ちょびっと内容が薄味になっちゃってる気がするッス(¶ω¶)
52:ふたば◆r.:2019/09/08(日) 11:41 「よし、そろそろ帰って、お昼にするわよ!」
そう言って時計を見ていたサキミラ。針は十二時を指していた。
「あれ、サキミラ……自分で作れるの?」
「何言ってるのあすか!どーんと任せておきなさい」
料理の腕を疑うあすかに、サキミラは胸を張って見せる。
くるくると一回転し、ぴしっとポーズをとった。
手をつないで、公園を後にする二人。
その時だった。
「―――家族団らん。姉妹愛。悪くないね」
青年の声。それと共に、周りの時間が止まる。
「あなたは!」
「ラノーマ……!」
周りの時間停止に巻き込まれなかった二人は、
目の前に立つ青年に敵意を向けた。
「アンナが勝手なこと言うから、こっちも来ざるを得ないんだよ。てことで……」
二人からの敵意をいっぱいに浴びながら、ラノーマは止まっている一人の男性に近づく。
ラノーマが手を触れると、男性の姿が豹変していった。
「ぐるるるる……」
硬質化した皮膚に、両手の鋭い爪。どんな物質でも切れそうなものが五枚連なっている。
「あすか……戦える?疲れてない?」
「だ、大丈夫!」
敵の姿に気落ちすることなく、二人はタイムドライバーを装着し、クロックを持った。
「変身!」「変身!」
「わ、なにこれ……新しい武器?」
スーツを装着したあすかとサキミラ。
彼女らの手元に、見たことのない装備が転送されていた。
「これ……銃ね。拳銃みたいな形してる」
「と、とにかく、使ってみようよ!」
白色の装甲に覆われ、デジタル表示がついた自動拳銃のような武器。
引き金を引けば弾は出るのだろうかと思い、あすかは怪人に銃口を向ける。
「ぐるるるる!」
引き金を引かせまいと、怪人は爪を振りかざしながら猛スピードで迫ってきた。
「うわあっ!」
発射する前に、あすかはその攻撃を避けざるを得なかった。
しかし……
「こっちを忘れてない?はああっ!」
ターゲットから外れていたサキミラが、引き金を引く。
チッチッチ……
銃身から時計が浮かび上がり、光弾が放たれた。
「ぐぉぉ!」
あすかに気を取られた怪人は、弾を防ぐこともできず全身にダメージを受ける。
「すごい……」
「でも、ちょっと肩が痛いわね」
反動も強いらしく、サキミラは少し腕を押さえていた。
「やるね。ならちょっと、本気を出そうか」
戦いを眺めていたラノーマは、怪人に近づくと、
かざした右手を発光させる。
「何をしてるの!?」
サキミラは迷わず、不審な動きをするラノーマに弾を放つ。
が、その光弾は届かず……
「ぐるぅぅ!」
光弾は、怪人の爪に引き裂かれていた。
「サキミラ、来るよ!」
あすかの声が聞こえると同時に、
怪人は猛スピードで二人に近づいた。
「くうっ!」
金属が擦れるような音。サキミラの唸り声。
怪人の爪を受け止めたが、装甲に突き当たったのだ。
「離れろぉ!」
密着する怪人を放そうと、掴みかかるあすか。
力任せに引き剥がし、顔面を殴りつけた。
きーん!
またも、金属がぶつかる音。
「え、かたいっ!」
あすかのグローブ装甲が、怪人の皮膚に弾かれた音だった。
その硬さに困惑している隙に、怪人はあすかの顔を爪で切りつける。
「うわあっ……!」
無数の傷が出来るあすか。
顔を狙われたことがなかったため、経験したことのない痛みが彼女を襲った。
戦闘シーンの手が込んでて好き
55:ふたば◆r.:2019/09/08(日) 22:25 「つっ……!」
傷は浅かったが、確かな出血を感じるあすか。
顔の擦り切れた部分からは、赤い血がたれていた。
「あすか!……このっ!!」
あすかの負傷に怒りを見せたサキミラは、銃を怪人へ放つ。
一瞬注意が逸れたすきに、二人は距離を取った。
「うう……」
「大丈夫?傷は浅いから、心配しないで」
ヒリヒリとした痛みで声を出すあすかを、必死になだめるサキミラ。
「おねえちゃん……いたいぃ……」
それも虚しく、あすかは目に涙を浮かべるほど、心にもダメージを受けているらしい。
サキミラは悟った。本物の姉でなくても、今のあすかには助けを求める人物が必要なのだと。
それが今の、自分___
「このデジタル表示、もしかして……!」
ドライバーからクロックを外し、デジタル液晶部分にかざす。
時計の針が回り出し、デジタル部分にもカウントが現れた。
10
9
8
時間はどんどん進んでいく。
「あすか!私と同じように!」
「え、あ、うんっ!」
あすかも、クロックを銃にかざす。
3
2
1
そして0になった時、二人は引き金を引いた。
「change time!」
銃から流れる音声。そして撃ち出される時計。
投影された時計が、二人の姿を変化させていく。
「わ……」
「これ、バイザー!?」
スーツの上から、さらに装甲を装着。それでいて尚且つ、軽い。
頭部にはバイザーが装着され、顔全体を保護する設計になっていた。
「サキミラ!なにこれ!凄い!」
重装備かつイメチェンした格好に、あすかは驚きを隠せない。
それはサキミラも同じこと。
「この銃、変身させる効果があったなんて。これなら……!」
握る手に、大きな力を感じる。
その力なら、きっと怪人を倒せるという希望が、あすかたちにはあった。
「パワーアップ?そんなもの、こっちだってもうやってんだよ!」
ラノーマがキレ気味に叫ぶと、足音を金属のようにかちかちと言わせながら、
怪人が二人に迫る。
「ぐるるるるひゅうう!」
奇声をあげる怪人。大きく爪を振りかざし、あすかを狙っていた。
そして五枚の爪が、あすかの顔面を捉える。
しかしバイザーに突き当たり、金属音が響いた。
「もう……痛くない!」
より分厚くなった金属のバイザーは、あすかの顔をしっかりと守る。
痛みを感じなかったあすかは、そのまま反撃に出た。
「やあああっ!」
力づくで爪を退かせ、空いた顔面に掌底を打ち込む。
「ぐおお!!」
当たった部位から、火花が散る。
そして砕けるような音。
より強固になったグローブは、怪人の皮膚を傷つけるに至ったのだ。
「まだまだ!」
そのまま銃口を向け、光弾を撃つ。
撃った弾は三発。全弾命中。
「ぎゃあおおおお!」
悲鳴をあげながら、怪人は痛む部位を抑えていた。
「何だよ!お前、さっきまで泣いてた癖に!」
急に強くなったあすかに向かって、ラノーマが叫ぶ。
その活躍は、彼をさらにキレさせるに至った。
「今は、泣いてない!」
少々暴論をかましたあすかは、ドライバーからクロックを再度取り出すと、
スイッチを押して銃身にかざす。
「brake time!」
100
200
300
400……
音声とともに、デジタル表示のカウンターの数字が上がっていく。
……1000
そこまで上がった時、あすかは引き金を引いた。
「はあっ!」
「million shot!」
圧縮された光弾、およそ1000発。
それが猛スピードで、一気に撃ち出される。
「ど、どわあああああああ!」
「あすか!抑えて!銃を!」
1発でも強い反動が、一気に1000発襲ってくるのだ。
あすかはサキミラの声を聞いて、何とかリコイルコントロールを図る。
光弾が命中するたびに、次々と爆風が起きる。
「ぎゃ___」
怪人は悲鳴をあげていたが、爆風にかき消されて彼女たちには聞こえていなかった。
そして全弾が命中し終わったその時、怪人は人間に戻っていた。
「何だ、何なんだよお前ら!」
ラノーマは、苦言を呈しながら消える。
あすかたちも、変身を解いた。
「はー……お、終わったぁ!」
全身をプルプルと震わせながら、あすかは座り込んだ。
「あすか、大丈夫?特に、肩」
「う、うん。へいき……」
平気と言っておきながら、彼女はまだ震えていた。
「あすか……?」
「あ、だ、だい……じょ……ぶ……」
段々と震えが強くなり、言葉が途切れてくる。
「う、う、わあああああん……」
「あすか!……だよ、ね。怖いよね、怖かったよね。ごめん、あすかに、こんなこと……」
ついに、あすかは涙を流した。出せる限りの声で、泣き出した。
そんな彼女を見て、サキミラは心に思う。
___妹に、これ以上戦わせたくない。
時空に歪みから生じた姉妹愛以上の何かが、サキミラに生まれ始めていた。
「はあっ……はあっ……」
あれからまた、数日が経ったある日の明朝。
まだ薄暗さが残る公園の物陰に、一人の少女がいた。
「まだ、こんなじゃ……!」
少女は自身の手よりも大きな拳銃を手に持ち、
使われていない廃材へと射撃を繰り返す。
ドンと音がするたび、少女の身体が飛び跳ねる。
的は大きく外れ、まったく命中していない。
「あすか、あなたは私が守って見せる!」
少女―――サキミラは、あすかの事を想いながら、射撃を繰り返すのだった。
―――数時間後。
「サキミラ、かなり眠そうだけど……」
「平気よ、たぶん……ふわぁ」
学校へ向かう二人だが、あすかはサキミラの様子を見てとても心配そうであった。
あくびを繰り返すサキミラは、心配を駆けさせまいとふるまっている。
「大丈夫よ。だって、あなたのお姉ちゃんだもん」
「お姉ちゃんって……学校いる時とかだけでいいんだよ?それ」
「私がそうしたいから、そうするの」
サキミラはここ最近、姉であることをとても強調している。
時空のゆがみから生まれた、変な関係であるはずなのに。
少し違和感を感じるあすかだが、そこで止まっていた。
「さ!急いで学校行って、ちょっと寝るわ!」
「寝るの!?」
あすかの手を引き、駆けだすサキミラ。
目的が目的でなければ、良い光景だったかもしれないが。
「これで何百回目?勝ったり負けたり、色々だけどさ」
雨が降る森の中に、二人の男と一人の女がいた。
「焦るな、ラノーマ。もう時期だ」
「へえ。それ前も聞いたけどね、パラドックス」
「アンナチュラ!お前も原因の一つではないのか?」
ストッパーの三人はそれぞれ、表情様々に言い争っている。
「だったら、パラドックスが出なさいよ。累計では多いけど、"今”では
あんまり戦ってないじゃないの」
「仕方ないな。では今度こそ、あの二人を殺し……」
パラドックスと呼ばれた男は、虚空を握りつぶすように手の形を作る。
そして、
「タイムドライバーを、破壊する」
タイムドライバーが敵に狙われる展開になるのは予想外でしたね....敵方の登場シーンも増えてきて、とても面白くなってきたと思います!期待です!
59:ふたば◆r.:2019/09/12(木) 23:05 「……であって、だからこの部分がこうなるの。はい、これでこの問題を解いてみて。えっと、今川さん!」
「あ、はいっ!」
学校。サキミラはクラスメイトの一人として、授業を受けている最中だった。
回答を指名されると、すたすたと黒板に向かう。
「えと……こうでしょうか?」
意外と六年生の問題が不安なサキミラは、緊張しつつも、答えを書いた。
「ええ、正解。ちゃんと勉強してるわね」
担任が褒めると同時に、クラスから小さな拍手が起こる。
「ふー……なんとか、ね」
ため息をつきながら、サキミラは自分の席へ戻った。
隣の席の少女が、目を輝かせていることを知ったのは、そのすぐ後の事。
「咲ちゃん!すごい、今の問題解いちゃうなんて」
「そう、普通よ?普通」
内心ひやひやだったのは、隠し通さなければならない気がしていた。
サキミラはここ数日、この少女と仲良くなっていた。
名前を玲奈と言う少女は、初めての友達だ。
昼休み。
サキミラは珍しく、あすかとではなく玲奈と一緒に校庭にいた。
「ふいー、暑いねぇー」
玲奈は時折、額から流れる汗を拭う。
雨の時期が終わり、7月に入ろうとしている季節。温度も上がって来ているのだ。
「玲奈、やっぱり教室に戻る?」
「そうしよっかぁー……」
5分ほどしかその場にいなかったが、暑さで特にすることもないので、二人は教室に戻ることにした。
___同じ頃。
校舎の屋上に、一人の影。
「始めるか」
そう呟くと、その男は建物全てをロックオンするように、手をかざす。
「さて、あの二人……どう動く?」
静寂が、校舎全体を包み込む。
直後男は、その場から消えていた。
______二人が異変に気がついたのは、そのすぐ後のこと。
「サキミラ!時間が、止まってる!」
「ストッパーか……こんな時に出て来られても、困るのに!」
あすかたちは、廊下で合流していた。
お互い焦り、慌てていたが、一瞬で表情を戻す。
「はぁー……玲奈。すぐ、戻してあげるから!」
「れいな?」
「友達よ……頑張らなくちゃ」
友のことを思うサキミラ。
あすかは心配そうにそれを見ながら、静寂に包まれた校舎を走り出した。
「ぐるるるる……」
「ぎゃおおお……」
校舎内には、怪物が多数彷徨いていた。
あすかたちは無駄な戦闘を避けるべく、息を潜めてゆっくりと……
「ねえ、やっぱり倒しちゃった方が……」
怪物になっているのは、生徒や先生達なのだ。
それを解っているので、あすかはやはり戦いたがっていた。
「駄目。連戦は体力使うから」
「でも、放っておけない!」
サキミラの言葉を振り切り、タイムドライバーを装着する。
そしてクロックを持ち、変身の構えをとった。
「もう、しょうがないんだから」
そんなあすかに少し呆れ顔をしながらも、サキミラも構えた。
「変身!」「変身!」
「change Time!」
___怪人達を退け、二人は校舎の屋上へたどり着いた。
「はぁ、はぁ……」
「誰も、居ないわね。じゃあ、ストッパーは……?」
疲れながらも、辺りを見回す。
しかし、人影は見当たらない。
「サキミラ、上___」
上。そういった瞬間、あすかの声が途切れた。
「がっ!」
人影が、あすかに向かって落下してくる。
それが胴体を直撃し、彼女は声にならないうめきをあげた。
「あすか!……あんたは、パラドックス!」
「甘いな、不意打ちに対応できないとは」
あすかを倒して、地に足をつけたパラドックスは、
相変わらず二人を嘲笑うような表情であった。
「まずは……こいつからだ」
「があっ、うわああああっ!」
倒れるあすかを、さらに踏みつける。
圧迫され、あすかの悲鳴は止まらない。
「こいつっ! あすかを離しなさい!」
サキミラは怒り、パラドックスへと向かっていく。
「邪魔だ。こいつらの相手でもしていればいい」
接近に気付いたパラドックスは、二体の怪人を呼び寄せた。
「ぐるる」
「ぎゃお……」
怪人達が、サキミラに立ち塞がる。
「くっ、あすか……」
目の前で、あすかが傷ついている。
こいつらを倒して、早く助けに行かないと。
サキミラは、拳銃を構えて、クロックをかざした。
「3、2、1……change Time!」
カウントが終了し、引き金を引くと、
サキミラに更なるアーマーとバイザーが装着される。
「ほう?」
「あすか!今助けてあげるから!」
「どけぇ!」
銃口を怪人達に向け、発砲するサキミラ。
光弾が次々と撃ち出され、命中する。
「ぐるぅぅぅ!」
しかし怪人も、受けたダメージの割には消耗している感じがない。
ドスドスと音を立てて、サキミラに体当たりを仕掛ける。
「ふっ!」
側転をし、右へ避ける。
が、その先にはもう一人の怪人が待機していた。
「がおおおおっ!!」
「え、しまっ___」
脇腹に、鋭い蹴りが炸裂。
ボディアーマーのお陰で飛ばされはしなかったものの、
伝わってくる振動でサキミラは動きを止めてしまった。
「ああああっ……」
蹲り、立ち上がることが出来ない。
「あ……さき、みら……」
激しく攻撃され続け、消耗し切ったあすかだったが、
ずっとサキミラの心配をしていた。
「アイツはもう動けないな?……では、ピンクの方……死んでもらおうか」
パラドックスは、強引にあすかのドライバーを掴むと、
とてつもない力で接続部から引き剥がした。
「えっ……?」
ドライバーが外され、あすかは変身が解ける。
「あ、あすか……きゃあっ!」
サキミラも再度攻撃を受け、ドライバーが外れたことにより変身が解けてしまった。
「そん、な……があああっ!」
真っ先に仕掛けられたのは、サキミラ。
怪人に胴体を掴まれると、生身の身体に拳の一撃が入る。
「う……げほっ!」
内臓を損傷したのか、吐血してしまう。
「サキミラ!やめて、やめ____きゃあああっ!」
あすかも、もう一体の怪人に頭から持ち上げられた。
そして胸元を突かれ、それはあすかの身体を貫き……
「あ……あす……か……」
サキミラは、ボロボロの身体であすかに近づく。
しかし彼女は、もう既に事切れていた。
「そん……な……また、死なせて……」
悔やんだ。
二度もあすかを死なせてしまったことを、サキミラは悔やんだ。
……彼女には、解っていた。
二度ではなかった。ここに来るまでに、何度も、何度も繰り返していた。
どうして、今まで忘れていたんだろう?
こんな死の間際になって思い出したことを、サキミラは更に悔やむ。
「また、時間を戻す気か?」
「ええ……あすかは死なせない。何度だってやり直す!ドライバーの力で……」
その時、二つのドライバーとクロックが起動し、
時計の針が戻り始める。
「これで、また______」
時間を戻して、あすかを救う。
サキミラはゆっくりと目を閉じて、その時を待った……。
がしゃん。
「……えっ?」
耳をつんざくような音。
ハッとして目を開けるサキミラ。
「これで、戻せなくなったな」
見ると、二つのドライバーは、
パラドックスの手によって破壊されていた。
時計の針も止まり、時空の変化が起きない。
「う、嘘……これじゃ……もう……助けられ、ない……」
サキミラは、全てに絶望し切ったような顔をしながら、
目を閉じた。
命が消えていくのを感じている彼女は、もう目を開けることはないだろう。
___時間は、もう動かない。
えっえっこんなに残酷な描写があるなんて……!
覚悟してなかったからSAN値削られましたわ
これからの展開に手に汗握りますね
「これで、これで我々目的を達成できる!
さて……ここからすべての時間を止め、我々の未来を作る……」
パラドックスは不気味な笑みを浮かべ、屋上から周りを見回す。
全てのものが、小さく見える。普通の人間など、取るに足らない存在。
ストッパーこそが時間を止め、頂点に立つ。
「二人を呼ばないとな……お前たち、頼んだぞ」
二匹の怪人に、ラノーマ達を呼んでくるよう命令する。
「ぐる!」
怪人達は、律儀に校舎のドアを開けていった。階段を降りていくつもりらしい。
……ドアを開けたその瞬間、怪人達は一斉に弾けた。
砕け散った。
「む?」
ドアの向こうから、何者かが歩いてくるのが見えた。
パラドックスが目を凝らすと、それはあすかやサキミラと同じような鎧の戦士。
スーツ、鎧共にグレーで、バイザーが顔を覆っており素顔は見えない。
「お前、誰だ?」
その戦士は、パラドックスの問いにこう答えた。
「___私はここには、“来なかった”」
身につけているタイムドライバーと、クロックが起動。
針が逆方向に回りだす。
「な、それは______」
時空が歪む。全ての物事が、巻き戻っていく。
「……咲ちゃん。あなたを絶対に死なせない。妹も、何度だって」
鎧の少女は、静かにそう呟いた。
シ、シリアスだ....心痛ひ....
66:ふたば◆r.:2019/09/21(土) 18:30 「……あれ?」
暗い部屋……自室。
眠っていたあすかは、温かい温もりを感じて目を覚ました。
というより、暑すぎる気がした。
「ふにゅ。誰かに、抱きしめられてる?」
思わず、変な声を出してしまう。
しかし、今この状況で、あすかを抱きしめている人物は多分一人しかいない。
「サキミラ……」
いつもは隣同士で寝ているサキミラが、今はなぜかあすかを抱きしめている。
どういう事だろう?と、少し不思議に思う。
手探りでサキミラに触れようとした。
すると、ほんのりすべすべで、温かいものが手に触れる。
彼女の、ほっぺただった。
「あすか……私が……守るから……」
「えっ?」
寝言が、聞こえてくる。
あすかのことを思いながら、夢を見ているのかもしれない。
少しだけ、嬉しくなりながら……あすかはもう一度眠りについた。
じりりり……目覚ましの音が響く。
「んぅ……」
小煩いその音で、あすかは目を覚ました。
止めなければと思い、手を伸ばそうとする。
「あれ、腕が動かない。なんで?」
全体的に身体が重く、腕を伸ばすことができなかった。
なぜ?しばらく考え込む。
……その間にも、目覚ましは鳴り続ける。
もうそろそろ小煩いどころの話ではない。
「もう、この、うごけぇ!」
考える暇はなかったので、あすかは身体を大きく広げて思いっきり起き上がった。
「あ、出来た!」
起き上がれたので、そのまま目覚ましに手を伸ばし、止める。
ごつん。そんな音が、目覚ましを止めると同時に聞こえた。
「え?」
床の方を見ると、思いもよらぬ光景が広がっていた。
「いたた……あれ、あすか?おはよう……」
「ちょっ、サキミラ!?」
サキミラがシーツごと、ベッドから転落していたのだ。
彼女は頭をさすりながら、ゆっくりと起き上がる。
あすかは気づいた。自分が落としてしまったのだと。
そう……起き上がった瞬間に。
「ごめん、目覚ましを止めようと……ふぇっ?」
もじもじとしながら謝るあすか。
そんなあすかを、サキミラは急に抱きしめたのである。
「あすか……!また、私は!何度も、何度も……ごめんね」
「サキミラ!?何で、そっちが謝るの?うう……」
伝わってくる温もりが意外と温かいので、あすかは身を委ねる他ない。
しかしやはり、サキミラの言葉の意味はわからないままだった。
「……よし、準備しよっか」
しばらくその時間が続いた後、サキミラは気持ちに整理をつけたように身支度を始めていく。
「う、うん」
少し困惑しながらも、あすかも一緒に準備を始めた。
「あすか!急がないと!」
「う、うんっ!」
通学路を駆ける二人。
急ぎ足は、少し過剰なほどだったが。
なぜ、急いでいるのか。
___それには、とある理由があった。
「もう!今日に限って私が日直だったなんて……」
簡単な理由だが、学生にとってこれは死活問題。
日直ともなれば、学校には朝一番に登校して教室を整理するなどの仕事が待っている。
「えっと、あすかはゆっくりでいいのよ?」
「いや!一緒がいい!」
「何で?」
「何となく!」
そんな会話をしながら、二人は学校へと急いだ。そして……
「___はー!着いた!間に合ったっ!」
8時ジャスト。学校へ到着。
サキミラはすぐ靴を履き替えると、急ぎ足で教室へと上がっていった。
「よかった、間に合って……ぜぇ、ぜぇ……」
普段そこまで走らないので、あすかはその場にしゃがみ込んでしまう。
息をするのもやっとな程だ。
「あ……何だろ、いしきが……」
目の前が、ぼんやりとしてくる。
ボーッとする。回っているようにも見えた。
いわゆる、めまい。そう思った。
疲れたからだろうか。あすかはそうやって解釈すると、もう少し休んでいようと考える。
「だ、大丈夫?」
そんなあすかを心配する声が、後ろから聞こえてきた。
振り向くと、短髪の少女が立っていた。
名札には、6年の文字が記されている。
「あ……だ、だれ?」
目を回しながら、あすかはゆっくりと返事をした。
少女はあすかを支えながら、
「咲ちゃんのクラスメイトよ。加古 玲奈(かこ れいな)って言うの」
れいな。と名乗った。サキミラと同じクラスらしく、
どうやらあすかのことも知っているらしい。
「くらくらする……何だろ?体力おちちゃった?」
「まさかぁ!まだ若いんだから……って、自分も何だけど。立てるかな?」
「うん。どうにか」
肩を貸してもらい、あすかは立ち上がった。
「……へえ。お姉ちゃんと、けっこう仲良しなんですね」
「うん!ずっと前からね」
他愛ない会話をしながら、あすかと玲奈は廊下を歩いていた。
時折驚くあすか。くすくすと笑う玲奈。普通の光景である。
「教室、ここだった?授業もあるし、ちょっと寝てても良いと思う」
少しばかり歩いて、四年生の教室へたどり着いた二人。
玲奈はあすかを心配して、少しアドバイスを送った。
「ありがとうございます!休んだ方がいいのかなぁ……」
あすかはそれを聞いて、自分の体調と心の中でせめぎあったりしている。
「ふふっ、じゃあね!」
やはりその様子をくすくす笑い、玲奈はいなくなった。
教室に入ったあすかは、せめぎ合いの解答を行動で示すことにした。
「よし、寝よう!おやしゅみぃ……」
机に伏せると、あすかは一瞬で眠りにつく。
どこぞの怠け者と同レベルであろうその速度を見ていた人間は、まだ誰も来てはいなかったが。
___屋上。
人が、3人いた。
その3人は皆、苦しげな表情を浮かべながら、何かを悩んでいる。
「……何で、もう一人が出てくるんだよ!」
「知らないわよ。戦士は3人いたってことでいいんじゃないの?」
「尚更問題だろ!」
言い争っている男女は、ラノーマとアンナチュラルであった。
そんな二人を見ながら、パラドックスが口を挟む。
「……どうやら、あいつはかなりイレギュラーな存在らしいな。
これまで、一度も出てきたことはなかった。何か条件が?」
疑問を口にすると、ラノーマが挙手した。
「二人のドライバーを壊したから?」
「成る程。だから、巻き戻せる3人目って訳ね。……どうするのよ」
「簡単なことだ。一番強いお前が、そいつを殺せばいい。な、アンナチュラル」
指名されたアンナチュラルは、急に背筋に寒気を感じる。
「わ、わかったわ……任せなさい」
口ではこう言っているが、内心寒気が止まらなかった。
嫌な予感がする。勝てるのか?戦闘能力ですら未知数なのに?
……なぜ、ここまで不安に思うのかも、彼女自身が分かっていなかった。
「昼休みだー!お姉ちゃんどうしてるかな?」
授業をしっかりと受けることのできたあすかは、給食を終えて休み時間を満喫しようとしていた。
ひとまず、サキミラのいる教室へと向かうことにした。
軽快で楽しげなステップを踏みながら歩くあすかは、何故かとても機嫌が良い。
「あの人……かこさんもいるかな?」
玲奈のことも考えていた。朝知り合ってからと言うもの、あすかは彼女に夢中である。
廊下を歩き、校舎の反対側へ。
六年生の部屋はすぐそこだ。
「……ここかぁ!緊張しちゃうかも」
組みの番号もあっている。ここで間違いない。
しかしあすかは、急に固まってしまう。
緊張しているのだ。私用では滅多に来ない、上級生の教室だからである。
「よし、失礼します……!」
小さく挨拶すると、あすかは教室の引き戸を開いた。
「……あ……?」
教室の中の光景が、目に入ってくるあすか。
言葉を、失った。
「ふふ……もう観念して死になさいよ、あんた」
「クラスまで巻き込まれて、諦められる訳ないじゃない!」
倒れる生徒たち。机がバリケードのように積まれている。
その中心に、銃を構えるサキミラとアンナチュラが対峙していた。
「くっ……って、あすか!?」
「サキミラ!今助けるから!」
あすかは教室に駆け込むと同時に、ドライバーを装着する。
「変身!」
スーツを装着し、アンナチュラに飛びかかっていく。
「あすか!あなたはこれ以上戦っちゃダメ……!」
戦おうとするあすかを、サキミラは______
「うわっ!……サキミラ!?なんで、なんで!」
「あらあ、仲間割れかしら?」
光弾が、あすかに命中する。
サキミラが放ったものだった。
スーツのおかげでダメージは少なかったものの、あすかは教室の外に弾き出された。
「変身……」
サキミラは一人、ドライバーを装着してクロックを起動する。
その身が鎧に包まれていきながら、彼女は教室の鍵を閉めた。
「あー……何してるの?あたしと一人で戦うつもりかしら」
「そうよ。死ぬのは、私だけでいい!」
サキミラは、その手に銃を構える。
クロックをかざし、頭部にバイザーを装着した。
戦闘準備は完了、と言ったところだろうか。
トントンと軽く足を鳴らすと……
「はあああっ!」
銃口をアンナチュラに向け、連射を始めた。
キュインキュインと光弾が飛び出す音が、教室中を支配する。
「ふふっ、やる気は十分ね。相手になってあげるわ!」
彼女も怪人体になると、向かってくる光弾を全て叩き消した。
それと同時に、サキミラに接近する。
「あはははっ!」
「くうっ!」
硬質な拳が、サキミラに命中。
しかしサキミラも、右腕の二重装甲で抑えた。
「やああっ!」
空いている左腕で、アンナチュラの胴体を殴りつける。
それだけでは終わらず、バックスピンを掛けた回し蹴りをぶつけた。
「ぐあああ!」
後退り、よろけるアンナチュラ。
サキミラは追い討ちをかけるように、銃口を向けた。
そこにクロックをかざして、必殺技を発動させる。
「break time!」
1
10
100……
カウンターが上がっていき、1000まで達した。
「million shot!」
サキミラの精密で強靭なリコイルコントロールで、
千発の光弾が放たれる。
サブマシンガンのように連射されていくそれは、
アンナチュラに傷を増やしていく。
「ぐっ、ぐううっ!」
「はあああああっ!!」
このまま押し切れる。そう信じたサキミラは、撃ち続けた。
撃ち続けて……終わった。
教室は、白煙に包まれていた。
「か、勝った……?」
アンナチュラの声は聞こえない。死んでいなくても、戦闘不能にはなっているのだろう。
そう信じて、サキミラは変身を解く。
「……よかった。あすかを、守れた……戦わせないで、済んだ」
サキミラには見えていなかった。
煙の中から隙を伺っていたのだ。
その腕が、彼女に伸びて……!
「は……うっ!?」
「ふふ、隙を見せたわね」
アンナチュラは、生き永らえていた。
その腕でサキミラの首を掴むと、ぎりぎりと締め上げる。
「が……そん、な……」
変身を解いてしまったので、この状況を打開する力はない。
ドアの鍵も閉めてしまった。あすかは入ってこれない。
……終わったのは、自分の方である。
サキミラはそう悟った。
「あすか……ごめん……」
薄れゆく意識の中、あすかの名前を呼んだ。
がっしゃーん!
ドアが、爆音を立てて弾け飛んだ。
「なっ、なに______」
サキミラの首を締め上げながら、アンナチュラは音のした方向を見た。
すると同時に、視界が揺れる。
手の力が抜け、サキミラが落ちる。
何が起きた?何者かに、突き飛ばされた……?
アンナチュラの目の前には、息を荒げながらサキミラに寄る知らない少女の姿があった。
「ごほっ……な、なんで、なんで!玲奈、あなたが……!」
「間に、あったぁ……ようやく、巻き戻さないで、助けられる!」
突然現れた加古 玲奈に、驚きを隠せないサキミラ。
なぜ、この子がここに?そう思っていた。
「サキミラ!この人……」
あすかも、遅れて教室に入ってくる。
何かを言おうとしたが、その前に……
「ただの人間が、あたしを突き飛ばそうなんてぇぇぇぇぇ!」
起き上がったアンナチュラは逆上し、
玲奈に向かって襲いかかる。
「……」
しかし玲奈は、目を瞑った。
「失せろぉぉぉぉぉ!」
拳を振りかざし、玲奈を吹き飛ばそうとするアンナチュラ。
……その攻撃は、当たることはなかった。
「なっ……ああああっ!?」
大きな悲鳴をあげ、アンナチュラは投げ飛ばされる。
あすかやサキミラが、助けたわけではない。
「何、今の……」
「玲奈!」
驚く二人。
玲奈自身が、勢いを利用してアンナチュラを受け流したのだ。
サキミラは疑問に思った。なぜ、玲奈にこんな力が?
……それに、ドアを吹き飛ばしたのは?
その答えは、すぐに示された。
「time driver!」
「えっ!?」
聞くことはなかった、タイムドライバーの起動音。
その音の出所は、玲奈の所持している物であった。
「二人は……私が守る……!」
「Kako!」
起動するクロック。音声は、過去。
玲奈はそれを、2人と同じ型の拳銃にかざす。
「10、9、8……」
カウントが始まると共に、銃を天に向けた。
「……3、2、1。 change time!」
カウントが終わると、勢い良く引き金を引く。
「変身!」
高らかに叫ぶと、玲奈の身体にスーツとアーマー、それにバイザーが形成される。
完成したその姿は、グレーのアーマーの戦士。
「get! future! ashita girl!」
未来を掴む……その音声が、グレーの戦士が何であるかを示していた。
「玲奈……なんで、変身を……?」
呆然としながら、サキミラは変身した玲奈に問いかける。
しかし彼女が答える前に、アンナチュラが動いた。
「しゃあああああ!笑わせんじゃねえぞぉぉぉぉぉ!」
二度も大打撃を食い、アンナチュラの怒りはマックスに達している。
そのまま、玲奈に向かって飛びかかった。
「はあ……やあっ!」
相手の拳が当たる寸前に、玲奈の拳が命中。
そのスピードは、尋常ではないほどだった。
それ故に、威力も大きい。
「ぐが……げほおっ!」
地に膝をつき、アンナチュラは口から唾液を吐き出す。
吹き飛ばされなかった代わりに、恐ろしい量のダメージが蓄積していた。
「すごい!」
「なんてパワーなの……」
あすかとサキミラは、その光景にとても驚いていた。
自分たちより、遥かに強い戦士
それが今、目の前にいるのだから。
「……」
玲奈は無言で、クロックのスイッチを押す。
彼女の両足に、エネルギーが蓄えられていく。
動けなくなったアンナチュラに狙いを定めると、加速して一瞬で近づいた。
「な……!」
「……消えて」
冷たく吐き捨てると、右足を剣のように突き出す強烈なキックを放つ。
「がっ。ぎゃああああああ!」
光剣が、刺さった。アンナチュラの胴体に刺さり、その強靭な肉体を貫いた。
彼女はとても大きな悲鳴をあげ、爆発。
……ひとかけらも残すことなく、消滅したのだった。
「あ、え?」
終わった?勝った?あすかは、目の前の状況を理解しきれない。
しかしアンナチュラが消えたことで、なんとなくそれが見えてくる。
「玲奈……何で、あなたが?」
サキミラは再度問いかけた。
なぜドライバーを持っているのか。なぜ変身できるのか。なぜここまで強いのか。
いろいろなものを一言に込めて。
「……えっと、一旦離れよう。みんなが起きる前に」
周りで気絶する生徒たちを見ながら、玲奈は教室を出た。
歩む方向は、屋上。
確かに屋上なら、何を話しても気づかれない。
そう思い、2人もその後を追った。
______屋上に着くと、一足先に玲奈が待っていた。
既に変身を解いていて、普段着であった。
「咲ちゃん……あすかちゃん……どこから、説明しようか?」
玲奈は難しそうな顔をしながらも、笑顔だけは崩さない。
「何から聞いていいかわからないわ……そっちの自由にして」
「わかった。……じゃあ、説明する。全部」
___始まりは、すごく前の話だった。
あすかちゃんと咲ちゃんは姉妹で、私はその友達で。
いつも仲が良かったの。
でもある日、世界中の時間が止まった。
止まらなかったのは、私達だけ。
そこにストッパーが現れて、全員を殺そうとした。
……みんな、死んじゃったんだけど。
でもその瞬間、タイムドライバーが現れたの。
そして、時間を巻き戻した。
巻き戻っても、世界はまた止まった。
だけど……変身する力を私達は手に入れたの。
変身して、ストッパーと戦ってた。
……その間に、関係ないことで死んじゃって、何回も時間が戻ったんだけど。
「……待って、色々分かんない」
サキミラは、玲奈の話を聞きながら頭がこんがらがっていた。
「お姉ちゃんは、本当のお姉ちゃん……?」
「そう、あすかちゃん。サキミラって呼んでるその子は、本当に咲ちゃんで、
あなたのお姉さん」
「そうだったんだ……」
あすかの方は、なんとなく物分かりが早かった。
同時にとんでもない事実を突きつけられる事になる。
……サキミラが、本当に姉だったということ。
「あすかが死ぬ記憶。私が死ぬ記憶。幾つかある。
それも全部、時間が巻き戻ったからなの?」
「うん。ドライバーは、運命を維持するためのもの、なのかな」
サキミラは思い出していた。
自分があすかを死なせたこと。自分が死んだこと。幾つもあった。
「お姉、ちゃん……わたし、覚えてないの。そういう記憶が、ない……
なんで?」
あすかは不安になっていた。
自分が何度も死んでいたこと。そもそも時間が巻き戻っていること。
色々なことを突きつけられ、限界に達しようとしていた。
「あすかちゃん。あなたはちょっと特殊なの。時間が巻き戻るたびに、
あなたはその前の記憶を全部失う。そして、一緒に______」
玲奈は、あすかに説明しようとした。
しかしその前に、
「もう……だめ……」
「あすか!?しっかりして、あすか……!」
サキミラの目の前で、あすかが倒れる。
呼吸がわずかにある程度で、意識をほとんど消失してしまった。
「どうしよう……あすか、意識が戻らない!」
焦るサキミラ。あすかは倒れ、目覚めないままだった。
それを見ていた玲奈は、小さくつぶやく。
「……これだけは、やっぱり起こってしまうのね……」
ハッとそちらの方を向いたサキミラは、「どういうこと!?」と、
焦り混じりの声で玲奈に聞く。
「さっき言い忘れたんだけど。時間が戻る前の記憶……ないでしょ?」
「う、うん。でも、どうして?」
「そっか……。なら、それも含めて話すね」
___玲奈は、新たに話を始めた。
……巻き戻り始まって、ストッパーが襲ってくるようになった。
なんで持ってるのかわからないベルトを一番使ってたのは、あすかちゃんだったの。
みんなを守れる力だって、必死に戦ってた。
だけど……ある巻き戻りの後、
あすかちゃんは今みたいに意識を失った。
戻ることはなかった。
だけど、死んだわけじゃないから、巻き戻りもしなかった。
「え、じゃあそのあすかは、どうなったの?」
サキミラの問いに対し、玲奈は続けた。
______咲ちゃんが、自殺したの。
それで巻き戻せば、あすかは元に戻るんだって。
ダメだった。何度巻き戻しても、同じタイミングであすかちゃんは倒れてしまう。
それが、変身のしすぎで消耗したってことに気づいちゃって。
「だから……玲奈と咲ちゃんであすかちゃんを守るって決めた」
あすかちゃんの意識が戻らないまま戦い続けて……私たちの時間は何年分も過ぎていった。
そうやって数十年分経って。
いつしか私達は、なんで戦ってるのかすら忘れていた。ただ、時間を動かすことだけを考えていた。
でも、奇跡が起きた。時間が、巻き戻ったの。
「え、じゃあ!私はずっと、未来で戦ってたんじゃなくて……」
「そう、ずっと、時間の止まった現代で戦い続けてた。そして巻き戻りが起きて、
私達は、あすかちゃんが何も覚えていない時空に辿り着いた」
「そんな……」
サキミラは悟った。あすかとの出会いも。なぜドライバーが使えたのかも。
全てが過去の出来事から繋がっていたのだ。
「咲ちゃん。この時空で終わらせないといけない。次誰かが死んでも、今こうなったあすかちゃんは起きないよ」
「わかってる。自分で死んでもダメなら、もう死なない……」
自分が自殺したこともある、玲奈はサキミラに言った。
どんな思いで死んだのか。彼女には想像がついていた。
……時間を戻して、あすかを守るため。それだけである。
「戦いを終えたその時……あすかちゃんは、起きる気がする。絶対起きる!だから……」
「うん。あすかの明日、私達が掴んで見せる!」
もう彼女は迷わない。
あすかを助けるために、力を尽くそう。そう誓った。
「……前は、ずっと巻き戻すだけだった。でも今は新しい未来に近づいてる気がするの。奇跡って、信じたほうがいいのかもね」
「______ほう、アンナチュラを倒したか」
男の低い声。
そして前方に、ずどーんという大きな音が響き渡る。
「パラドックス……!」
男……パラドックスはニヤリと笑っていた。
そばには怪人たちが1、2、3、4……
「え、あれ……?数、多すぎない?」
「50は超えてるみたい!……やるよ、咲ちゃん。あすかちゃんのためにも」
50を超えて、100はいるかもしれない。
そんな怪人集団を前に、サキミラと玲奈はドライバーを構えた。
拳銃型のアイテムを持つと、そこにクロックをかざす。
「変身!」「変身!」
2人は同時に、銃の引き金を引いた。
怪人たちに向かって行きながら、全身に鎧が形成されていく。
「やれ」
パラドックスの声で、怪人たちも動き始めた。
……戦いが、始まる。
___その頃。
「うわ……1人も残っちゃいないな」
ラノーマは、校舎を歩き回っていた。
パラドックスが全校生徒を怪人にして回ったので、生身の人間は残ってはいなかった。
「この教室もか……なんだよ、こっちにも駒をとっておいてくれてても……ん?」
ラノーマは、六年生の教室に足を踏み入れた。
机がバリケード状になっているが、生徒たちはいない。
そこに、あるものを見つけた。
「何だこれ。怪人の、右腕……?」
「はああっ!」
「たあっ!」
あすかを守りながら、2人は戦い続ける。
雪崩れるように襲いかかる怪人たちは、一向に数を減らさない。
「はっはっは!アンナチュラを倒した力はそんなものか!」
怪人に指示を送りつつ、パラドックスは屋根の上で静観している。
そんな彼にサキミラはキレ気味になり……
「うっさいなあっ!」
ギュン!と、光弾を放つ。
パラドックスに怒りを向けて。
「くっ!……面白い。俺も出よう。はああああああっ!」
光弾を受けたパラドックスは、どこかスイッチが入ったらしく、
自らも臨戦体制になり襲いかかってきた。
「咲ちゃん!ここは私が!」
「わかった!」
その相手は、玲奈が務めることとなる。
「ふんっ!」
下側からの、鋭いアッパー攻撃。
玲奈はそれを、ガードで受ける。
「今川あすかは目覚めんぞ?二度とな!」
「何を……うわっ!」
玲奈は、パラドックスの言葉に一瞬動揺を見せる。
そこで力が抜け、もう1発拳を命中させられた。
バイザーを持ってしても、顔面への強烈な一撃は、
彼女を吹き飛ばすには十分な攻撃だった。
「お前にも教えてやろう!
……そこの少女は、二度と起きない!俺たちを倒したとしても!」
「何ですって……!パラドックス、詳しく教えなさい!」
玲奈が吹っ飛ばされたのを見て、サキミラもパラドックスに攻撃を仕掛ける。
「だあああっ!」
一呼吸いてからの、強烈な回し蹴り。
遠心力のついた非常に重い攻撃。
「はあっ!」
パラドックスはそれを受け止めると、足首をギリギリと締め付ける。
「ふ……あいつはこの時間でも、何度も変身した。その蓄積ダメージは、
巻き戻さなければ絶対に消えない!
だがな、それをするとどうなるか……」
「どう、なるの!」
拘束を解き、サキミラの右ストレートが炸裂。
パラドックスはそれすらも避け、言い放った。
「俺たちとの戦いは、永遠に終わらんぞッ!」
「えっ……」
追撃しようとするサキミラだったが、パラドックスの言葉に手が止まる。
「つまり……この戦いも無意味ということだ。残念だったな」
止まったサキミラを、怪人達が取り囲んだ。
なす術もなく、捕まり……組みつかれていく。
「咲ちゃん、振り解いて!咲ちゃ……え、何で?」
助けようとする玲奈だったが、サキミラの表情がそれを拒む。
なぜ?理由が全くわからない。
「もう、いい……疲れちゃった。あすかを助けられないなら、もう死んじゃってもいい」
「そんな、それじゃ私たちの頑張りは」
「無駄、だったんだよ……」
ベルトに、怪人の腕が迫る。
このままでは、破壊されてしまう。
だがサキミラは、もう抵抗しなかった。死ぬ気であった。
絶望していた。あすかを助けられないことに。
助けても、戦いから逃れることはもうできないということに、気付いてしまったのだ。
「このっ、早く、離れなさい……!」
サキミラを助けるために、玲奈が向かう。
しかし間に合わない。本当に、終わり______
「___ぐあっ!なぜ、お前が……」
「え……?」
怪人達の動きが、止まった。
パラドックスがふらつき、倒れた。
急に何が起こったのか、理解できない2人。
その背後にいた人物を見て、驚く。
「あすか……!」
変身したあすかが、パラドックスを攻撃したのだ。
そもそも意識は戻らないはずだ。そう思っていたサキミラは、
あすかに急いで駆け寄った。
「お姉ちゃん……いいよ。私のことは、もう」
「あすか、それって……」
「______へえ、パラドックスまで倒したなんて」
2人の会話を遮るように、低い声が響き渡った。
「え、あなた……ラノーマなの?」
「そうさ。ラノーマだ。怪人になったけど」
ラノーマを名乗る怪人は、怪鳥とも呼ぶべき醜い姿になっており、
本人の面影は一切なかった。
「……よくも、よくもアンナチュラをぉぉぉぉぉ!」
ラノーマは翼を広げると、叫びながら光弾を屋上にぶっ放した。
「う、うわっ!」
「いきなり何よー!」
怪人達すら爆風に巻き込んでいき、辺りは火と煙に包まれていく。
怪人が全て消え去り、パラドックスも消えた。
残ったのは、あすか達と、ラノーマのみであった。
「ごほっ、あすか。あいつ、仲間のパラドックスまで……」
「あの人、アンナチュラのことを言ってたから、もしかして」
煙に巻かれ咳をしながらも、サキミラはラノーマの発言を分析していた。
あすかも同じく、彼の言葉を考えていた。
「ああ、そうだよ。アンナチュラを殺したお前らを、絶対に許すもんかァ!」
ラノーマはさらに逆上し、今度はあすか達に狙いを定めて爆裂光弾を放つ。
「はあっ!」
それを次々と撃ち落としていく玲奈。変身後のサキミラでも反動を感じていたというのに、全く気にしていない精密な射撃で、光弾は消え去る。
「こっちだって、3人でまた、学校生活を送るの!だから……絶対に勝つ!」
サキミラはラノーマの方を向くと、拳銃から光弾を放った。
「はあっ!!」
放たれた光弾は、真っすぐにラノーマの方へ飛んでいく。
「アアアアアアアアア!こんなものォ!」
奇声を挙げながら、ラノーマは怪鳥の翼で弾を全てかき消していった。
……が、そこに油断が生まれていたのだ。
「こっち」
「よ!」
あすかと玲奈の連携が炸裂。
飛び上がり、左右からの連続射撃。
「なにっ……ぐああああああ!」
翼を燃やされ、ラノーマは地に伏せた。
「が……ぐうっ……! くそっ、くそっ、時間をとめて、自分たちだけの世界を作るはずだったのに……!」
ラノーマは舌を噛みながら、とても悔しい表情をしている。
それに少しばかり、涙も流していた。
サキミラは思った。怪人でも、涙を流すことがあるのかと。
あすかは思った。人を想う心があったのかと。
玲奈は思った。誰かのために力を尽くすことができるのかと。
だが……
「倒さなきゃ、いけない……」
あすかが、ラノーマに銃口を向けていた。
すぐにでも発射できるところだ。
誰も止めなかった。誰もいないのだから。
ラノーマも、命乞いをしなかった。
だから、あすかは_____
撃った。
必殺技を放ち、撃ち尽くした。
ラノーマは、弾けるように消えてなくなった。
……これで、全てが終わったのだ。
クライマックスか!?
82:ふたば◆r.:2019/09/28(土) 20:42 ……直後、変身が解除され、あすかが倒れた。
力尽きるように崩れ落ちる彼女を、サキミラが受け止める。
「あすか……」
「おねえ……ちゃん……もう、巻き戻さなくてもいいよ……わたし、
思い出したの。お姉ちゃんがお姉ちゃんだった時のこと。
もうそれだけで、わたしは十分まんぞくだから……」
あすかの呼吸が、どんどん小さくなる。
意識が戻らなくなるだけではない。死ぬことを暗示しているようだった。
パラドックスの言う通り、限界が来たのだ。
「ダメよ……それじゃあ私は、何のために戦ってきたの!あすかを、妹を助けるためだったのに……!」
サキミラはあすかの手を握り、必死に呼びかける。
彼女の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
「お姉ちゃんは……明日に向かって、すすんで……わたしはずっと……それを願ってたから……」
「あすかちゃん……せっかく、奇跡が起きたと思ったのに……いや!死んじゃ、いや……!」
玲奈も、あすかに呼びかけた。
死なないで、死なないでと。心の中でも叫んでいた。
その願いを跳ね除けるように、あすかの目がどんどん閉じていく。
「ありがとう……わたし、みんなの明日を……守れ______」
あすかはゆっくりと目を閉じ、手からも力が抜けた。
そして完全に、動かなくなった。
「あすか……あすかぁぁぁぁぁ!うわああああああん!」
サキミラはついに、大声を出して泣いた。妹の名を呼びながら、泣いた。
時空の歪みでも何でもない、実の妹のために。
二人の変身が解けると同時に、あすかの体が光の粒子に包まれていく。
「あ……」
「ドライバーも、消えていく……」
あすかと一緒に、3人のタイムドライバーも粒子に包まれていた。
そして発光し、消え去った。
……学校の騒がしさが、二人の耳に入ってくる。
全て終わったのだ。全て。時間が止まることも、もうない。
「咲ちゃん……タイムドライバーって、あすかちゃんの願いそのものだったんじゃないかな」
「えっ?」
「みんなで生きたいって言う、願いの形だったのかもしれない。叶わなかったけど」
空を見上げながら、玲奈は呟く。
サキミラも同じように見上げながら、返事をした。
「ううん。私たちは確かに、同じ時間を生きたよ。いっぱいいっぱい。
あすかは、疲れちゃっただけなんだよ。だから……休ませて、あげようっ……!」
二人は抱き合い、しばらく涙を流した。
泣き疲れるまで、泣き尽くしたのだった。
___20年後。
「……はい、強盗容疑ね。器物破損もあるわね」
「く、くそおっ!」
白昼の街中……。
一人の女性刑事が、犯人を捕まえていた。
肩を極めつつ、軽やかに手錠を掛ける。
「お疲れ様です!今川刑事!」
「はい、しっかり取り調べしなさいよね」
駆けつけた他の警官に引き渡され、犯人は連行されていった。
今川と呼ばれたこの女性は、サキミラ……咲である。
あの戦いから、咲は警察官になることを夢見た。
あすかの守った明日を、今度は自分で守れるようになりたいと。
「みんな、あなたのことを忘れちゃったよ。あすか。
でも、私と玲奈は、ちゃんと覚えてるから……見てくれてるかな、ふふっ」
上を見上げ、独り言のように言う咲。
空は雲のない青空で、日差しも少し眩しい。
___頑張って
そんな声が、彼女に聞こえた気がした。
終わり。
泣けた…
俺もこんなふうに書いてみたいなぁ
泣けて頂けてとても嬉しいです