私だけしか入れない
誰一人として通さない楽園
そう、これは
不特定の者に告ぐ警告の一種だと言うことを──
>>2 本編
「はあ、やだなあ」
私は公園で一人ブランコに腰掛けながら、キャリーバッグの中の荷物を整えていた。
家出ではなく単に一人暮らしをすることになったのだが私には1つどうしても納得ができない不満があった──
「りいり集団生活すんの苦手なんだけど!」
それはアパートに住もうと思っていたにも関わらず寮で暮らすことになってしまったことからだった。
その地域に身寄りがある者の家に住まわせて貰う以外に考えるとそう妥協するしかなく、実質、いや実際に一人暮らしではないかもしれなくてとてもショックだったが致仕方ない。
ちなみにその寮ではご飯は一緒に食卓を囲み食べるしお風呂も共有らしい。
「文句言うならやっぱり着いてからだよねぇ…地図はっと」
キャリーバッグをごそごそと探し漁ってみる───だが最悪の事態に気付いてしまった。
「あれ?あれれ?」
混乱する気持ちを抑えながら改めて今まで見たところをもう一度探してみるも地図は無かった。
「えぇ…嘘ぉ、りいりどうなっちゃうのよーーっ!」
公園中に木霊したこの声はきっと近所中に響き渡ったはずだ─
「どうしたら良いんだろ……りいりにできること、って…」
思考を巡らせているとちょうど公園の中にあった公衆電話になんとなく駆け寄った。
中に入り受話器を手に取るもまず電話番号すら覚えていなかったのでこの案はボツにする事にした。
私は深くため息をつくとまたなとか行動しようと思い至りながら気力がなくなってきている私自身に気付いた。
「何も思いつかないや」
近くにあったベンチまで駆け寄ると瞼が自然と重くなる。どうやら体が一旦の休息を求めているみたいだった。
空はまだ青く澄みきった空が広がっている、ちょっとばかり昼寝をしてもいいだろう。
何か重要なことを忘れているような気がしたがまあ……
「考えなくていいや」
すると自然と耐えきれなくなっていき視界は暗闇の中へと落ちていった──
俺は3月に中学を卒業したばかりだ。
そして春からは高校生活が始まる──が、そんな俺にも一つ悩みがあった。
悩みというのは果たして、俺にも初恋と言う感情を抱くことが出来るのだろうかと言う事である。
そう思い始めたのは卒業式前の高校入試が終わった後のとある日の話である──
「お前って好きなやつできたことある?」
「いきなりなんだよ」
「お前の恋バナ聞いた事ねぇなって思ってさ。いつも俺の話聞いててつまんなそうだから申し訳ないんだよ」
突然の友達からの言葉に体全体が硬直した。
ちゃんと相槌を打って聞いていたはずなのにいつからそう思われていたのだろう?
友達が好きな女子のタイプについて語っていたときはなるほどなと理解したように頷いた筈だし、友達がその好きな女子と付き合った時にも驚嘆して祝福したはずなのに──
あの会話を得てからその友達とは連絡を絶った。
その理由は俺にはまだよく理解できず仕舞いで終わってしまった。
いつも通る人気のない公園をいつものように歩いて行こうとすると珍しく誰かが居るのが見えた。
そのままつっ立って眺めているとどうやらベンチに座っているのは女子らしい。
するとちょうど後ろにちょうど小学生女子2人が通った。
「この公園さー、幽霊出るらしいよ」
「え?じゃああのベンチに居るお姉さんって……」
そう噂話を繰り広げると小学生女子2人チラッと俺の方とベンチに座っている女子の方を見ながら顔を見合わせている。
まさか──とは、思うが。
あのベンチに座っている彼女こそ本物の噂通りの幽霊なのかもしれない。
視線を気にせずこっそりと俺は公園の中に入っていき、恐る恐るベンチに近づいて行った。
くるくる、くるくるとまるでお人形のように廻るステージ上の私が───
幸せそうに笑みを浮かべながら踊っている様子が見える横に、一人見慣れない男が立っている。
私と年齢が寧ろ近い気がしなくもなく気がついたら無意識のうちに話しかけてしまっていた。
「あなたは……」
しかし何も答える事なく無言のまま顔を近づけてこようとしてくるのが分かった。
「!?!?!?え、ちょ………?」
なんとその男には顔がなかったのだ。思わず口をぽかんと開けてしまう。
これは一体何を訴えかけているのか、重要なメッセージなのか。
するといつの間にかその男は視界から消え去っていたのだった。
忘れきれずにどういう意味だったのかと考えながらゆっくりと重い瞼を開けてみる。
目の前には……見知らぬ制服姿の少年が立っていた。
私は今、初めて見る少年と見つめ合っている───
それを確信するとみるみるうちに恐怖で体が震えてきた。
「い、いやあああああああああああああああ!!!」
ベンチから立ち上がり彼が立っている方向から目を逸らすと自然と叫び声が出てきてしまった。
「こ、来ないでえ」
「はあ?なんで俺嫌われて…」
「あんたが今りいりにしていた行動を考えなさいよ!」
「いや、まじでわかんねえって」
「今のよ!レディーの寝顔をずっと見つめてるなんて…それも初対面のレディーに!いったいどういうことなんだよ!?」
言い終えてスッキリするとはあ、と深くため息をついた。
でもちょっと言いすぎたかも──
私はもう一度チラリと様子を伺うように視線を戻してみた。
すると、私は予想外の展開に目を丸くしてしまう。
なんと彼は───私が持っていたはずのキャリーバッグを手にしていたのだ。
「…なんで………っ」
怒りが沸き起こってくると耐えきれず私は彼の方に近づいて行く。
抑えきれずに気付けば行動してしまっている私が居たのだ。
「ねえ、どうして持ってるのよ……それりいりのだから。返して!」
「じゃあついて来いよ」
相手は真面目な顔で言って退けているものの私は本気だった。私のことを馬鹿にしているのだろうか?
「どういう事……?」
彼は私の独り言を無視して公園から出て行こうとしている、しかし落ち込んでいてもしょうがない。
下を向いてでもついて行くしかないのだ。
私のキャリーバッグを持ってまるで逃げるように走っていく彼を追いかける。
思ったより彼はとても足が早かった。
「はあ、はあ、……早すぎるって!」
その場で立ったまま私は息を整える。
「早く行かなきゃ見失っちゃう〜〜!」
少し休憩するとまた走れる体力が戻ってきた気がする。
しかし非常に喉が渇いていた。
あれ───
頭がくらくらする──
私はいつの間にかバタッと倒れていた。思えば視界もだんだんと暗くなっていくような。
空無調ホリズライツェ - カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16817139556301224792
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