カルとマヤの異世界記録

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1:なかやっち:2020/03/26(木) 12:56

小説として書いてしまっていたのでこちらに移しました💦

2:なかやっち(代理):2020/03/26(木) 13:34

魔耶(ふぁ〜…まぶしい…もう朝?…あれ?布団どこいった…?かかってないんだけど…)

パチッ(目を開ける)

真っ先に目にはいってきたのは、きれいな緑色をした草々と、朝日を反射してキラキラとかがやいている川の水だった。
川はとても澄んでいて、水中にいる魚は浮いているように見えた。
少し風がふいてきて、魔耶のまわりにある草がさわさわと揺れる…顔の近くにあった草が魔耶の頬を撫でるのを感じた。

自然が豊かだなぁなんてぼんやり考えていた魔耶は、初めて自分が外で寝ていること、ここが見知らぬ場所だと気づいた。そして一言。

魔耶「「ここどこ!!?」」

3:多々良:2020/03/26(木) 13:35

雲一つ無い、朝焼けの空の下。透き通るかのような気持ちの良い微風が吹き、目覚めには最適であろう数羽の鳥のサイゼ....(ゲフンゲフン)囀りが聞こえる。そんな場所で、彼女は目覚めた。
カルセナ「食らえぇ、スーパーキーックぅ!!」「...おわぁっ!!?」
夢の中で戦っていたカルセナは、現実で実際に行われた自分の蹴りに驚き飛び起きた。
それと同時に、数枚の木の葉がふわっと舞い上がった。
カルセナ「うおービックリしたぁ〜.........んで、ここはどこや....寝相悪すぎん?」
彼女は、自分の寝床から未知の世界へ移動していることをあまり気にしていない様子だった。むしろ、自分の寝相のせいだと思ってしまっているかの様である。
カルセナ「やだわぁ、帰ろ帰ろ。あと3時間は寝たいな....ぁ......?」
不意に顔から、朝日が遮られる。目の前に大きな影が見える。本の中でしか見たことがなかった故に、信じられなかった。「それ」は彼女に鋭い視線を向けた。

「ど....ドラゴン.....?」

彼女が目覚めた所は、小高い崖の上の、飛竜の巣だったのだ。彼女は愕然とした。
目覚めた反動で、自慢の帽子が地上に落ちてしまったことに気付かずにー。

4:なかやっち(代理):2020/03/26(木) 13:36

魔耶「うーむ、昨日11時までゲームしてたのが悪かったのか…?それとも、寝てる間に翼で飛んでいく能力を身に付けたのか…!?」
彼女はなぜ自分が外で寝ているのか、原因を突き止めようとしていた。だが思い付くのはくだらないものばかり…。
魔耶「あ、昨日酸っぱいお菓子たらふく食べたからか!?それとも…いや、もう思い付かん…」
どうやら彼女のミジンコ並の脳みそが限界を迎えたようだ。

魔耶「…とりあえず、人を探そう!なにか知ってる人がいるかもしれない!」
ようやくその場から離れることに決めたようだ。

彼女はテクテクと歩き始めた。
チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる。木々が微風によってさわさわと揺れている。
魔耶「ほんとうにのどかなところだな〜…ザ・自然って感じー(謎)」
魔耶「…ん?…うわっ!」
あたりをキョロキョロと見回しながら歩いていた魔耶は、上からなにかが降ってきたことに気づかなかったようだ。
突然暗くなった視界にあわてふためいていると…
???「ギャオオオォォォ!!!」
という、怪獣の咆哮のような声が聞こえた。
魔耶「え!なになに!?化け物!??」
暗くなった視界をどうにかしようと降ってきたなにかを手で取った。
また明るくなる視界にホッとしたのもつかの間……
??「ぎゃあぁぁぁ‼」
上から誰かの悲鳴が聞こえた。

5:多々良:2020/03/26(木) 13:36

カルセナ「っぶねぇー、ちょちょちょい‼す、ステイ‼ステイ‼」
飛竜の鋭い爪での斬撃を、あと数センチというところで躱した彼女はもはや命乞いをするしかなかった。彼女は一応未来を読むことが出来るのだが、パニックとなった今、そんなものは無いに等しいであろう。
そんなこんなしている間に、あっという間に彼女は崖っぷちまで追い詰められてしまった。
飛竜「グギャアァア‼‼」
凄まじい咆哮をあげ、目の前の者を一発で仕留めようとしているかのようなおぞましい殺意が籠った斬撃を、力強く溜めている光景を見せられた。彼女は実体のある浮幽霊なので飛ぶことも出来るが、こんなものを見せられてしまっては「逃げる」という選択肢も最早彼女の中では消えてしまっているだろう。足が竦む。顔面蒼白になる。頭の中が真っ白になる。目の前で今にもその爪を振りかざさんと、荒い呼吸をしている飛竜がいる。出来ることはただ一つ。
カルセナ「あ…ぁ……これアカンやつじゃね……?」
八つ裂きにされることを受け止める。……しかないと思ったが、彼女は元人間。人間は絶望という名の闇に飲まれると光を求める。どんなか細い光でもいい。最後にその光を求めて叫んだ。

カルセナ「「誰かああぁぁ‼た、助けてえぇー‼‼」」

6:なかやっち(代理):2020/03/26(木) 13:37

魔耶「なんか悲鳴聞こえたぁぁぁ!!?」
いきなりなにかが降ってきたり、咆哮や悲鳴が聞こえたり…と、一度に色々なことが起こったため、彼女は少しパニック気味になっていた。
しかし、少しパニック気味になっている頭でもこれだけは分かった。
魔耶(誰かが襲われているのか!?…絶対ヤバイ状況になってるよね…助けないと‼)
誰かを助けようという意思を持つことによって、魔耶の頭は少し冷静になった。

魔耶は自分の翼を広げ、思いきり地面を蹴った。

??「「誰かああぁぁ‼た、助けてえぇー‼‼」」
魔耶は金髪の少女が竜に襲われているのを確認した。
竜は鋭い爪を振りかざし、少女を八つ裂きにしようとしている。

魔耶「くっ…間に合えっ‼」
ヒュッ‼
魔耶は間一髪、恐ろしい爪に少女が切りつけられるより速く、少女を助けることに成功した。
竜はいきなり少女が消えたことに混乱しているようだ。
さっきまで少女がいたはずのところをじっと見つめていた。
少女「え…生きてる…!なにが…」
魔耶「細かいことはあとにして、とにかくここから離れよう‼」

…これが、カルセナとの出会いだった…

7:多々良:2020/03/26(木) 13:37

カルセナは混乱していた。
最後だと思った瞬間に、「助けて」と叫んだことは覚えている。だが、それから....?
飛竜の爪は確かに降り下ろされた。自身を八つ裂きにしようとした爪が。私は....死んでいるはずだ。
だが、その推測は大きく的を外した。今や見知らぬ少女に助けられているではないか。ふわふわとした茶髪の上から青い猫耳が付いた帽子を被り、背中の羽を大きく羽ばたかせているその少女は、何故だかとても心強く思えたのだ。
だがその心強さも束の間、一瞬のことで何が何だか分からなかったうえに、先程の恐怖と助かった安心感で意識が朦朧としてしまった。
カルセナ「うぇ.....??な、何が起こっ.......うぐぅ.....訳分からん.....」

???「ーもう大丈夫.....てあれ、おーい.....?」

薄れ行く意識の中、風を切る音と重なって、そんな声が聞こえた気がする。

8:なかやっち:2020/03/26(木) 14:16

魔耶は少女を抱えたまま、話しかけてみる。
魔耶「ーもう大丈夫……てあれ、おーい……?」
よく見たら、彼女は気絶していた。
魔耶「困ったな…聞きたいこといっぱいあったんだけど…どこまで飛べばいいんだよ〜」
そろそろ魔耶の腕に限界がきていた。
もう竜の巣からだいぶ離れただろうし、大丈夫だろう…と考えた魔耶は、真下に広がっている森の中へ急降下していった。

魔耶「よっと…」(スタッ)
魔耶「この子から聞きたいことがあるし、起きるまで待ってようかな。」
少しあたりを見回すと、日がおちはじめ、少しずつ山の影がのびていくのが見えた。
ここは森なので、もし夜になったら真っ暗になってしまうだろう。竜と遭遇したのだ、他にも恐ろしい生物がいないとも限らない。
魔耶「待ってる間暇だし、火をおこすための小枝でも集めてこようかな。」
彼女の言葉に反応するかのように、木々がざわざわと揺れた。

9:多々良:2020/03/26(木) 14:57

カルセナ「きのことたけのこだったら?たけのこに決まって.........」(パチッ)
目を開くと又もや未知の場所で、今度は木に寄りかかっていた。寝起きの目に、木と山の間から僅かに顔を出した夕陽が眩しかった。暫くぽや〜んと、遠くの空を眺めていた。
カルセナ「ここは....んー何か今日覚えて無いこと多いな.......って、あれっ!!?帽子は!?」
ふと気が付くと、頭の上がやけに物足りなかった。自慢の帽子が無い。かと思いきや誰が置いてくれたのか、すぐ隣に帽子が置かれていた。ぱっと気付けなかったのは、頭の中の事がこんがらがって周囲への注意力が欠けていたせいだ。きっとそうだと思いたい。決して、元々自分の注意力がなかったからということは無い.....はず。
帽子を手に取り、ぽん、と浅く被った。その瞬間、不意に近くでガサガサと物音がした。風の悪戯で発せられる音とは違う、生き物の気配。じっと目を凝らしていると、それは姿を現した。
その正体は野性動物でも怪物でもなく、先程助けてくれたと思われる少女であった。

10:なかやっち:2020/03/26(木) 15:15

魔耶「お、起きたね。大丈夫?」
話しかけたとたん、両手に持っていた大量の小枝がバラバラと音をたてて地面に落ちてしまった。
魔耶「あ、やべっ‼」
あわてて拾い集める。すると、その光景をみていた少女がアハハッと笑いながら話しかけてきた。
??「あなたは誰?」 
魔耶は少女の質問に、小枝を拾いながら答えた。
魔耶「私は彩色魔耶(さいしきまや)。君は…?」
??「私はカルセナ=シルカバゼイション」
魔耶「そっか。よろしくね、カルセナさん」
カルセナ「よろしく、マヤさん。」

11:多々良:2020/03/26(木) 16:14

カルセナ「助けてくれたのって、もしかしなくてもマヤさんっすか?」
立ち上がって、スカートの土を払いながら確認する。
魔耶「そうだよ、何か悲鳴がいきなり聞こえたから何事かと思ったら、まさか竜の巣に居たなんて」
大体の枝を拾い終わった魔耶はてくてくとカルセナに近づき、火を起こす準備を始めるかのような素振りを見せた。
カルセナ「それはそれは、ありがとね、命の恩人だぁ」
相手が命の恩人だと分かった瞬間、にこにこしながら帽子の鍔を手で軽く上げ、上機嫌な様子を見せた。そして、一番の疑問を問いかけた。
カルセナ「所で....ここはどこなの?」

12:なかやっち:2020/03/26(木) 16:39

魔耶「いや、それは私にも分かない。竜から逃げるために、あてもなく飛び回ったからね…」
そういってため息をつきながら火をつけようとする。
あたりはほとんど日が落ちかけていて、森の中は闇に包まれていた。

魔耶「カルセナさんは、なんで竜の巣なんかにいたの?」
魔耶は純粋に思ったことを聞いてみた。
カルセナ「あぁ、なんか目が覚めたと思ったらそこにいてね〜…まったく、ひどい目にあったよー」
魔耶「…君も気がついたらここにいたの?」
ボッという音とともにでた黒い煙が空の闇に溶けていく。
暖かい赤々とした火がまわりを照らし出す…

カルセナ「君もってことは、あなたも?」
魔耶「うん、そうなんだよね〜…無意識に空を飛ぶ能力でも身に付けたのかな〜」
カルセナ(そんなことありえないと思うけど…?)
カルセナ「そういえば、その羽は本物なの?ばりばり空とんでたよね」
魔耶「もちのろん、本物だよ!私は魔族だからね!」(フンス)
カルセナ「え、魔族…!?かっこよ。」
魔耶「かっこよって…反応薄っす…」

13:多々良:2020/03/26(木) 17:46

カルセナ「そんなこたぁ無いよ〜、良いじゃん魔族って。私にはない、魔力や権力があってさ.....あ〜あ、生まれ変わるならそう言う格好いいのが良かった。神様は意地悪だなぁ」
そう言いながら、カルセナの反応に顔を濁らせた魔耶の隣にごろんと横たわった。木々の間から、星がちらつき始め、本格的な夜に入った。
魔耶「....君は何か能力とか無いの?」
カルセナ「あるにはあるけどさ〜.....私じゃ使いこなせないようなものばっかだよ」
赤い炎がパチパチと音を立てながら、二人の顔を照らした。少しばかり静寂が続いたが、ふと思ったことを魔耶に質問した。
カルセナ「魔耶さんはさ〜、兄弟とか家族とかいるの?てか家どこ?」

14:なかやっち:2020/03/26(木) 18:13

魔耶「家は妖の山ってとこにあるよ。家族は…一応、姉がいるけど、かれこれ160年くらいあってないなー」
カルセナ「え、160年って…魔耶さん何歳なのさ…?」
魔耶「魔耶でいいよ。…正確な年は忘れたけど…大体300歳くらい?」
…カルセナが驚くかな、なんて思ったがカルセナはあまり驚かないほうらしい。
カルセナ「…まぁ、魔族っていってたしね。魔族は長生きなんだな〜…」
なんて言って、一人で納得している。
…まぁ魔族だって言ったときも、恐れるどころか「かっこよ」だしね。きっとそういう性格なんだろう。

…また静寂が訪れる。聞こえるのは焚き火の火がはぜる音だけだ……なんて思ったとたん、どこからか『ぐぅぅぅぅ〜』なんて音が聞こえた。
…私のお腹の音だ…
いままで気がつかなかったが、魔耶のお腹なペコペコだった。
魔耶「……お腹空いたな…空飛んで疲れたし、朝からなにも食べてないんだもの…」
カルセナ「…私も…結構空いたな…。ドラゴンやなんやかんやで忘れてたけど、そういえばなにも食べてないね…」

魔耶「…食材探し、しようか…」
カルセナ「…そうだね…」

15:なかやっち:2020/03/26(木) 18:17

訂正、魔耶のお腹な×
   魔耶のお腹は⚪

16:多々良:2020/03/26(木) 18:52

カルセナ「森だから、きのことか果物とかはあるかもね。いやまぁ、サバイバルしたこと無いから知らんけどw」
魔耶「普通はそうだろうな〜、特に人間とかはね」
カルセナ「元人間でーすーよ〜」
魔耶「で、どーする?別れて探すことにする?」
魔耶のこの言葉を聞いてドキッとした。カルセナは、自分が浮幽霊にも関わらず、本能的にお化けを怖がってしまうような奴だったからだ。
カルセナ「........っ」
魔耶「......?どうしたの?」
カルセナ「いっいや何っでも!!良いと思いまth.....」
魔耶「んじゃ手分けしよっかー。私はあっちの方探すから、そっちよろしくねー」
そう言い残して、魔耶は宵闇の様な漆黒の翼を広げ、飛んでいってしまった。
カルセナ「.....やっちまったなぁ........」
メンタルがお豆腐なカルセナであった。

17:なかやっち:2020/03/26(木) 20:01

魔耶「あー、夜の空は涼しいし、星もキレイだしで最高だな〜!きっとカルセナは木の実とかキノコとかとってくれるだろうし、私はお魚でもとってきたほうがいいかな?」
カルセナが実は幽霊が苦手などということは露ほども思わず、魔耶はのんきにそんなことを考えていた。
魔耶「お、ちょうどいいところに川発見〜。夜に魚いるかな?」
川を見つけた魔耶は、目的地に向かって飛んでいった。

魔耶「っとー、到着!お魚さんいるかな〜?」
木々が影になっているため、あたりは暗くてよく見えなかった。
魔耶は星の微かな光を頼りに、魚の姿を探しはじめた。

18:多々良:2020/03/26(木) 20:42

一方。
魔耶が向かった方向とは逆を目指して、孤独に森の中を歩いていた。
カルセナ「ひぃい怖い....いや怖いとか言ったら寄ってきそう.....わあぁ寄ってきそうとか言ったら更に寄ってきそおぉ!!!」(ガタガタ)
一人になった途端に心細くなった。魔耶といたときはむしろ、星空綺麗だなとさえ思っていたのに。そんな事を考えながら歩いていたカルセナは思い付いた。
カルセナ「あっそーだ、飛べば良くね?」
歩む夜道は、影が多く濃いほど恐ろしく感じる。つまり影の無い上空に移動すればー。
カルセナ「何で思い付かなかったかなぁ〜これを.....よっ、とぉ」
地面を軽く蹴り、自らの体を浮かせた。木々の上に出た時にはもう、恐怖は薄れていた。月明かりが照らしてくれたお陰でもあった。
カルセナ「....待てよ?上に出たのは良いけども、木々の生い茂る森の上空からどうやってきのことか見つけ出せば良いんだ.....?」  「.........戻るか。」
結局振り出しに戻ってしまった。今の時間ほど無駄なことはそうそう無いだろう....。

月と星の輝く夜は、まだまだ明けない。

19:なかやっち:2020/03/26(木) 21:28

魔耶「…?川の向こうに、なんかいる…?」
よくよく目を凝らして見てみると、魔耶のいる川岸の反対側に黒いものが見えた。
魔耶「動物かな?もし動物だったらお肉が食べられるじゃん!」
黒い影はゆさゆさと体を左右に揺らしている。多分歩いているのだろう。

ーと、黒いものが月明かりのしたにでてきた。
魔耶はこのチャンスを逃すまいと、なんの生物かを確認した。
しかし、その生物を見たとたん、魔耶の顔は真っ青になり、ガタガタと震えだした。
魔耶「あ…うあ…ぎ、ぎゃああぁぁぁ‼‼」
魔耶の悲鳴が聞こえたのか、その生物はゆっくりと頭をこちらに向けた。
月明かりが照らし出したその姿…
大きな体は硬そうな外骨格で覆われ、頭に生えた触覚が魔耶の居場所を探るかのようにチキチキと動いている。
体から6本の脚が生え、濃い緑色の体…
そう、魔耶の見つけた生物は、魔耶がだいっきらいな、巨大な虫だったのだ。

20:多々良:2020/03/26(木) 22:16

カルセナ「....何?何か今響いたよね.......魔耶の方から....?いやまさか、あの人に限ってそんなことはないか.....」
遠くから微かに聞こえた声のようなものを、カルセナは聞き逃さなかった。

魔耶に限ってー。

そう考えた。が、カルセナは脳内で今朝の出来事を思い返した。
今朝自分は、今聞こえたものと同じような悲鳴を上げた。生き物が悲鳴を上げるのは自分に危機が迫っているというサインである。今の声が魔耶のものだとしたら、現状もしかして彼女も同じような立場にいるのではないか。少しだけ、嫌な予感がした。気のせいであって欲しかった。でも。

これから起こりうる物語を、先読みしてしまった。

見えたのは、現実ではとても有り得ない巨大な昆虫。それに追いかけられる、悲鳴を上げる魔耶の姿。
カルセナ「魔耶......?」
瞬間、カルセナは体の向きを変え、再び地面を、今度は力強く蹴って魔耶のいる方向へと飛び始めた。魔耶よりは断然遅いが、それでも全力で、元々スタミナのない体で必死に飛んだ。

少し先で、地響きと共に鳥達が飛び去る光景が見えた。

21:なかやっち:2020/03/27(金) 10:16

魔耶がショックを受けて固まっている間にも、巨大な虫は川を渡り、着実にこちらに近づいてきていた。
魔耶「…ひっ…」
ショックのあまり、情けない声をだすことしか出来ない。
きっとこんな姿をカルセナに見られたら笑われてしまうだろう。
だが、彼女はそれぐらい虫が嫌いなのだ。

ガクガクと足がすくむ。震えと冷や汗が止まらないーー。
しかし、『このままだと殺される』と本能が感じたのか、体が勝手に後ずさり始めた。
魔耶(…!…一応、体は動く…!)
腰を抜かしていなかったのは不幸中の幸いだった。
このままじっと虫に殺されるのを待つより、逃げて少しでも悪あがきしたい。1分1秒でも生き延びたい。
魔耶はその場から走り逃げた。
虫はせっかく見つけた獲物を逃がすまいと、彼女のあとを追いかけた。

22:多々良:2020/03/27(金) 12:54

カルセナ「........!!見つけた....!」
やっとのこと、巨大な昆虫と魔耶の姿を見つけたが、ここから何をすれば良いのだろうか。
もしこのまま突っ込んで行っても、仮に魔耶へ向けていた敵意が自分に移ったとしても、魔耶程の力が無いであろう自分は返り討ちにあって終わりだろう。だからと言って、命の恩人が追われるのをこのまま見過ごす訳にもいかない。カルセナは無い脳で又もや必死に考えた。
あれだけ大きい昆虫をどうにか遠ざける方法....魔耶が助かる方法.....
相手が虫だったから幸いだった。カルセナは、以前害虫対策として、色々試行錯誤をしていたことを思い出した。こんなもので果たして追い払えるのか......可能性は低いが、行動に移さないと意味が無い。魔耶に向かって叫んだ。
カルセナ「魔耶!!こっち側に全力で飛んで来て!!強い匂いのハーブ畑があった!!」
何を言っているんだ、そんなもの効く訳が無いだろう、などと言われる事など百も承知だった。ついでに言っておけば、もしハーブ畑で昆虫が退散しなかったら自分が食べられることも覚悟していた。自分が駄目でも魔耶が助かればそれで良い。だからこそ発した言葉だった。

23:なかやっち:2020/03/27(金) 13:25

魔耶「!?…カルセナ…!」
150メートルほど先のところにカルセナが見えた。
後ろから追いかけてくる虫のせいで声は聞こえないが、手招きをしているのは見えた。こっちにこい、ということだろうか…?
だがもう巨大な虫はすぐ後ろまで迫ってきていた。
仮に飛んでいこうとしたとしても、地面を蹴って空中にいくまでに一瞬隙ができてしまう。
これだけ距離が近ければ、その隙にパクリといかれてしまうだろう。
魔耶「間に合うか…?」
朝から飛び回っていたのと、ごはんを食べていないのとで、魔耶の体力は限界だった。これ以上のスピードで走ることは不可能…
なんて考えて、走ることに意識を向けていなかったのが悪かった。

ガッ‼
魔耶「あっ!」(グラッ…ドサッ!)
地面の気の根っこかなにかに躓いて転んでしまった。
きっと虫はこの隙を逃さないだろう。
魔耶「ひっ…」
魔耶は死を覚悟し、目をつぶった。
カルセナ「魔耶ぁっ‼‼」
魔耶が殺されてしまう…カルセナもそんな未来を悟ってしまった…が、思いもよらぬ出来事が起こった。


魔耶「…………?」
虫がいつまでたっても襲ってこなかったため、魔耶はうっすら目を開けてみた。
魔耶の目に見えたのは、カルセナのすぐ横でもっさもっさとハーブを食べている巨大な昆虫の姿だった。

魔耶&カル「……はぁ!?」
虫はキツイ匂いが嫌いなはず…
この世界の常識は、もとの世界の常識と根本的に違うことを学んだカルセナと魔耶であった。

24:多々良:2020/03/27(金) 13:45

数時間後.....

カルセナ「いやーまさか、逃げるどころか食べるとは....言葉が出んかったわ.....」
魔耶「そうだねぇ....この世界は不思議だなー.....ありがとね」
カルセナ「うーん、私が行かなくても、あのまま走ってたら助かったかもね」
昆虫が食事をしている隙に、離れた草原まで逃げてきた魔耶とカルセナ。その頃の時間帯は深夜3、4時といった所だろうか。念のため、火種を持って来ていたのは良かった。
カルセナ「てか虫嫌いだったんすね。あんなにでっかい竜は平気なのに....意外だなぁ」
魔耶「小さい虫とかでも嫌だもん。あんな大きな虫無理無理」
カルセナ「にしても、腹減ったなぁ〜.....きのこ採ってくるの忘れてしまった....」
広大な草原に、二匹の腹の虫が鳴く声が聞こえた。
魔耶「今頃だったら、お腹いっぱいでぐっすり眠ってるはずなのにな〜ぁ」
カルセナ「ほんとだよ全く....」
魔耶の大きな欠伸が移ったのか、カルセナも続けて欠伸をした。
月明かりの中に小さく、飛竜の影がちらついた。雲一つない、満天の星はとても幻想的に見えた。

25:なかやっち:2020/03/27(金) 15:27

魔耶「…綺麗だな…。今日のごはんは、もう諦めるしかないね。探しにいってまた虫に襲われるのは嫌だし」
カルセナ「うん、そうだね…しょうがな…い……ね………」
魔耶「……カルセナ?」
隣からカルセナの寝息が聞こえる。疲れて眠ってしまったようだ。色々あったのだ、無理もない。
魔耶は能力で毛布を作り出し、カルセナにそっとかけた。

魔耶「…ほんと、なんなんだよ、この世界…」
魔耶は1人、満天の星空を眺めながら呟く。
そう言いながらも、この訳のわからない世界でカルセナと冒険するのは楽しいな、と心のなかで考えている自分がいる。

…考えごとをしていると、魔耶の瞼もだんだんおもくなっていった。
星々の明かりが閉ざされ、魔耶は夢の中へ誘われていったーー

26:多々良:2020/03/27(金) 17:20

その夜、カルセナは夢を見た。
一寸先も見えない暗い森の中、はっきりとした形が見えない、真っ黒な何かに追われる自分がいた。前にいた世界で、「背が高くて、何だか頼もしいね〜」などと言われた事があるのに、今の自分はどうだ。歯向かいもせず、ただ情けなく逃げているではないか。逃げても逃げても先は真っ暗で体力も限界、もう駄目だと「思った」。

あくまでもそう思っただけだった。突然、恐ろしいオーラを放っていた何かの気配が消えた。勇気を出して振り返ってみた。そこには、茶髪に青い猫耳の付いた帽子を被り、背中から頼もしく翼を生やした少女が後ろを向いて立っていた。

「ーもう、大丈夫。」

彼女はそう発した。途端に、目の前が明るくなった。街灯や焚き火の明かりとは違う、心が解き放たれるような灯り。その言葉がどれだけ嬉しくて、心強くて、ちょっぴり照れ臭くて、安心出来たのだろうか。何とも言えない気持ちで、心が埋め尽くされたーー。



カルセナ「って言う夢をこの世界で見れたら、めっちゃ雰囲気あるくね?あ、あと毛布ありがとねー」
魔耶「うん、そうだ....うーんそうか??」

恐ろしくも幻想的な夜はいつの間にか明けていた。空には清々しい程の朝陽が輝いていた。

27:なかやっち:2020/03/27(金) 18:47

魔耶「よし、良い天気!お腹も空いた!食料探しだぁ‼」
寝て疲れが吹き飛んだ魔耶はそう叫んだ。
もし彼女が人間であったら、数時間寝た程度で疲れが吹き飛ぶことはないであろう。
カルセナ「そうだね〜あと、人探しと街探しも忘れずにね〜」
魔耶「なんか他人事みたいだな…君も行くんだよ?」
カルセナ「わかってるって〜」
帽子をかぶり、ニカッと笑うカルセナだった。

カルセナ「あ、これ!この草、確か食べれなかったっけ?」
魔耶「うん、食べれるよー。」
魔耶は長年の経験を生かして、何が食べれるか、食べれないかを判断した。
一応山で暮らしていたのでそこそこの知識はある。
カルセナも本を読んで知ったようで、植物についての知識をたくさんもっていた。
カルセナ「もともと食べることは好きだからね〜。そういう本は結構読んでたよ〜」
ということだったので、食料集めは順調に進んだ。

28:多々良:2020/03/27(金) 19:14

魔耶「結構集まったね〜、まぁ、お肉が無いのは残念だけど....」
カルセナ「致し方無いわなこればっかりは。でも魔耶の力があれば動物とかも狩れちゃうんじゃないの〜?」
魔耶「狩れるやつは狩れるけど....無茶苦茶デカかったりするやつは流石にキツイかなー」
カルセナ「虫といい動物といい、魔耶にも無理なものがやっぱりあるのか〜....」
魔耶「そりゃあそうだ。」
集まった食材を抱えながらわいわいと話しているうちに、火を起こすにはもってこいな岩場を発見した。辺りには洞窟なども無く怪物に襲われる心配はなさそうだった。
魔耶「ここでご飯にしよっか?また火を起こさないと....」
カルセナ「よっしゃーこの世界で初めてのご飯だ!!あ、昨日火種は魔耶が集めてくれたから、今日は私が行くよー」
魔耶「おー分かった、迷子になるなよ〜」
カルセナ「迷子になるのは子供時代の私だけだわ!!んじゃ、食材準備よろしくー」
そう言いながらカルセナは、火を起こせそうな木材を探しに森へ向かった。
魔耶は平たい岩場で、食材の準備に取り掛かった。
風も殆ど無く、焚き火をしても消えることは無さそうだった。

29:なかやっち:2020/03/27(金) 20:01

魔耶「よーし、この世界で初めてのごはんだし、おいしくつくらなきゃね!」
魔耶は両の手を前につきだし、
魔耶「お鍋、包丁、まな板…召〜喚!」
と叫んだ。すると新品のようにぴかぴかな鍋、包丁、まな板がポンッと音をたてて現れた。
それを見てうんうんとうなずく魔耶。
魔耶「私の能力ってほんと便利だわ〜。魔力でできてるから丈夫だし、雑貨屋でも出そうかな〜!売れそうだと思うんだよね〜…あ、めっちゃ魔力を使うから無理だわ。うん、諦めよう。」
なんて1人で呟きながら食材の下準備を始めた。

30:多々良:2020/03/27(金) 21:37

やはり森の中は午前と言えど薄暗かった。が、至る所から木漏れ日が差し込みキラキラと反射していた為、綺麗だな、とも思えた。
カルセナ「さてっと、枝、枝.....おぉ、いっぱい落ちてた!」
調理となればそれ相応の量の枝を消費するだろうと考えた結果、帽子の中に枝を入れ、入らなくなったら更に手で持つことにした。
カルセナ「これで沢山持ってけるね〜、と」
運が良いことに、入って行った辺りには数え切れない程の量の枝が落ちていたお陰で、ちゃちゃっと拾い集め終わることが出来た。
カルセナ「ふいー、これだけありゃぁ、OKだよねぇ....あ、きのこだ」
沢山の枝が入った帽子を抱え戻ろうとすると、近くの木に怪しい色をしたきのこが生えていた。普通はこんなもの食べる余地も無いのだが、カルセナは生憎きのこには詳しくなかった。それに伴い空腹だったため、
カルセナ「やったぁ、ご飯増えたじゃんか」
2、3本根本からぶちっ、ともいで帽子の中に入れた。
カルセナ「さーてと、あっちは準備進んでるかな?」
そう言って森を抜け、魔耶が下準備を進めているであろう岩場へと戻った。

31:なかやっち:2020/03/27(金) 21:50

食材を食べやすい大きさにトントンと切っていると、カルセナが帰ってきた。
魔耶「お帰り〜。早かったね?」
カルセナ「いや〜、偶然枝がたくさん落ちてるところを見つけてね〜ラッキーラッキー。…ところで、準備はできたかな?お腹ペコペコだよ〜」
魔耶「もうほとんど終わってるよー。」
そういって、下準備の終わった食材をカルセナに見せた。
カルセナ「おー、良い感じだね!さっさと火つけちゃおうか」
カルセナは小枝がたくさん入った帽子を地面におき、火をつけようと中を覗きこんだ。
すると、途中で見つけたキノコが入っているのを見つけた。
カルセナ「そーいえば、途中でキノコ見つけたんだ〜これも食べようよ」
魔耶「あー…言い忘れてたけど、私キノコ苦手なんだよね…」
カルセナ「あれ、そうなんだ。弱点2だね。じゃあこのキノコは私が食べよっと」

32:多々良:2020/03/27(金) 22:10

中の枝を取り出して良い感じに組むと、火を着ける作業に取り掛かった。
カルセナ「こーゆーので火ぃ着けんの苦手なんだよね〜....」
何やかんやあって、魔耶の助けも借りて火が着いた。昨日晴れていたせいか枝はカラカラで、火はすぐに大きくなった。
魔耶「んじゃあ焼き始めよっか、まだ枝残ってるね?焼くものはそれで串焼きにして....茹でたりするものは私が作ったこのお鍋に!!」
魔耶は得意気に鍋を見せた。カルセナはまたも微妙に感じる称賛をしながら、枝にきのこを刺して焼き始めた。少しの沈黙を置いた魔耶は、まぁ良いだろう....。と鍋に具材をぽいぽいと放り込み、火の上に置いた。
カルセナ「ああ、醤油があれば良かったのになぁ〜」
魔耶「んだね、醤油どころか塩すら無いからねぇ」
きのこがパチパチと音を立てて、こんがりし始めている。そろっと頃合いだろう。

33:なかやっち:2020/03/28(土) 09:43

カルセナ「よーし、ただ焼いただけだけど、いただきまーす!」
魔耶「…あっ…ちょっ!!」
カルセナ「?…どうしたー?もぐもぐ」
魔耶「…いや…なんでもないや…」
よく見たらキノコはとても怪しげな色をしていた。魔耶はキノコが嫌いだったからキノコをよく見ていなかったのだ。
魔耶(いや、私はキノコを食べないからキノコについての知識はあまりないけど、カルセナが選んだやつだし…大丈夫だろう…きっとカルセナはキノコの知識があるんだよね…?)
カルセナ「うわぁ、なんかゴムみたいな味がする〜調味料で味を誤魔化せないから、ストレートにゴムが胃に…」
魔耶「ストレートにゴムって…」
面白い表現だな、といつもなら笑っていたと思うが、今は胸騒ぎがして笑えない…何がこんなに気になるんだ…?
カルセナ「…?魔耶…?どうした?具合でも悪いのか?」
魔耶「あ、あぁ、大丈夫だよ。ちょっと考え事…」

34:多々良:2020/03/28(土) 12:37

魔耶がこちらを見て微妙な顔をしているのを見て、少し気に掛けたが問題なさそうだ。きっと、さっきの鍋についてカルセナの反応を思い返しているのだろうと勝手に解釈した。
カルセナ「魔耶ほんとにきのこいらないの?めっちゃゴムみたいなシリコンみたいな味するけど」
魔耶「う、うん、そもそも嫌いだからさ〜....」
カルセナ「そっすかー、あ、もうお鍋の方も良い感じじゃない?」
魔耶「あー本当だ、じゃあ先にこっち食べよっかな」
カルセナ「多分美味しくなってるよ、魔耶が作ったお鍋だし.......ッ」
魔耶「....どうしたのカルセナ?」
カルセナ「う〜ん....ちょっと頭痛くなったけど、まぁ大丈夫でしょ。多分疲れてんのかな?」
魔耶はますます、カルセナが食べているきのこを怪しんだ。しかしカルセナは、一瞬痛んだ頭部を押さえたが、問題無さげにきのこを食べ進めた。だが、暫くしてーー
カルセナ「............。」
ずっと喋ってばかりだったのに、カルセナの口数が急に減った。
魔耶「あれ.....ちょっと、大丈夫....?」
魔耶が覗き込んだカルセナの顔は、いかにも具合が悪そうなものだった。
カルセナ「あのね....めっちゃ頭と腹が痛いの......。」

35:なかやっち:2020/03/28(土) 13:38

魔耶「…そのキノコ、ほんとに大丈夫なの?毒キノコじゃないよね…?」
カルセナ「わかんない…キノコには、詳しくないからさ…」
魔耶「えぇぇ!?知ってて食べたんじゃないの!?」
カルセナはキノコの知識がある…なんて、勝手に思い込んでいたのが悪かった。私が食べる前にストップをかけていれば…
自分の浅はかな考えを恨めしく思った。
カルセナ「ぐぅっ……うっ‼‼」(ドサッ)
一瞬カルセナの顔が真っ青になったと思ったら、そのまま倒れてしまった。やはり毒キノコだったようだ。
魔耶「ちょっ…カルセナッ‼」
軽く揺さぶってみる。カルセナはハァハァと荒い息をしながら腹をおさえていた。どう考えても重体だ。
もとの世界だったら医者を呼びにいくところだが、あいにくここは別の世界。医者どころか、人がいるかどうかさえ分からない。
魔耶「うぅ…ど、どうしよう…。魔法なんて使えないし…解毒の薬草なんて持ってないし…」
魔耶の能力は無機物をつくる能力だ。薬なんてつくれるわけないし、どんな毒かも分からない。
魔耶がどうしようかと考えている間にも、カルセナの毒は広がっているだろう。早く毒を抜かなければ手遅れになってしまう。だが、どうすれば…
魔耶「…カルセナ……誰かぁ…」
無力な自分を恨んだ。ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
魔耶「ごめんね…カルセナぁっ……」
もはやカルセナの死を受け入れるしかない…そう思ったときー


??「おや?そんなところで泣いているのは、誰だい?」
私のでもカルセナのでもない、知らない声がきこえた。

36:多々良:2020/03/28(土) 16:06

???「こんな辺鄙な所で、一体どうしたと言うのだ?.....いや、言わなくて良い、大体は察した」
泣き崩れそうになった私に声を掛けたのは、大きい槍の様な武器を持った者だった。
魔耶「お願いします!!出来るなら、カルセナを助けて.......」
相手の詳細を確認している暇は無く、カルセナの命が最優先であった為魔耶はその者に願った。
???「....承知した。近くに、私の隠れ家がある。ただの洞穴だがな....そこで治療する、着いて来い。その者は私が運ぼう」
お礼を言う隙も無く相手はカルセナを持ち上げ、少し先に見えるもう一つの岩場の洞窟に向かった。私もそれに続いて飛び立った。


???「この症状、まさかとは思うが....」
そう言いながらカルセナを地面に寝かせ、薬草を擂り潰した薬らしき物を手に取った。
魔耶「私も怪しいとは思っていたけれどその....変な色のきのこを食べたらそんな風に....」
???「....そうか。やはりな.....だが、これで大丈夫な筈だ」
カルセナの口に無理矢理と言わんばかりに薬を突っ込んだ。うぐっ、とカルセナは苦しそうな声を上げたが相手は気にしていないようだった。
魔耶「あ、あの.....ありがとう....貴女は....」
相手は地面に座り、壁に寄りかかって言った。
???「礼を言われる程では無い。私の名は、浄棲ニティ。お前こそ、名は何と申す?」

37:なかやっち:2020/03/28(土) 17:00

魔耶「私は彩色魔耶です。」
ニティ「そうか。よろしくな。…魔耶は羽が生えているが、悪魔なのか?それとも魔族か?」
そういって魔耶の背中に生えている漆黒の羽をまじまじと見つめる。
魔耶「あ、魔族です。といってもまだ300歳なのですけど…」
ニティ「ほう、魔族の中では若いほうだな。」
ニティはうむうむとうなずいた。確かに私は魔族の中では若いほうだ。大人の魔族だったら400歳〜500歳はいっている。
魔耶「魔族に詳しいのですか?」
疑問に思ったことを聞いてみた。普通の人間ならそこまで詳しいことは知らないはずだが…
ニティ「あぁ、大抵の種族のことは分かる。私は神だからな。といってもまだ修行の身なのだが。」
魔耶「神…?神は天界にいるのでは…」
ニティ「普通はな。私はまだ修行の身だ。こんな私が天界で暮らすなんておこがましい」

少しだけ沈黙が訪れる…と、ニティはいきなりスクッと立ち上がった。
ニティ「先ほどの様子を見るに、お前、朝飯の前にこいつが倒れて飯を食べれていないだろう?ここで会ったのも何かの縁だ。ご馳走してやろう」
カルセナをポンッと軽く叩き、私に向かって笑顔を見せた。

38:多々良:2020/03/28(土) 17:33

魔耶「わ....ありがとうございます」
ニティ「敬語など使わなくて良い、名も、気軽にニティとでも呼んでくれ。まぁ、「さん」くらい付けて貰っても構わないがな」
少し得意げに言うと武器を持ち、食料を調達しに行った。
魔耶「.....ここの世界にも、私達以外の人がいたんだ....」
魔耶はこの世界に来たばかりの時の様に、洞窟の外を見てポケ〜っとしていた。
ニティ「帰ってきたぞ」
魔耶「いや早ッ!!!」
先程出て行ったばかりのニティが、自身の背丈ほどある大きな豚を一匹担いで帰って来た。
ニティ「丁度近くに豚の群れが居たものでな。ここの森には、あらゆる生物が住んでいる為食料には困ることは無いが....凶暴な生物ばかり潜んでいる。この豚もそうだ。お前らも見掛けたりする事は無かったか?」
そう言われて魔耶は、昨日対面した巨大な昆虫のことを思い返した。今考えても背筋がぞっとするようなものだった。その間にも、ニティは豚を焼く準備を着々と進めていた。その手付きを、魔耶はじっと見ていた。
魔耶「.....慣れてるんですね、やっぱり」
ニティ「敬語を使わなくても良いと言っただろう、二度言う事は三度と無いぞ。勿論、長い間こんな所で暮らしていれば嫌でも慣れる」
棒に刺さった豚が、焚き火の上で焼かれ始めた。お肉を食べられていない魔耶にとって、それはそれはとても美味しそうに見えた。
ニティ「それにしても、魔耶の相方は起きる気配が無いではないか....あの薬はかなり速効性がある薬なのだがな.......水でも掛けてやろうか」

39:なかやっち:2020/03/28(土) 17:55

魔耶「一応病人だから!やめてあげて‼」
思わずつっこんでしまった。
私の必死さを見てか、ニティさんはクスクスと笑う。
ニティ「わかっている。冗談だよ。私もそこまで鬼ではない、自然に起きるのを待とう」
豚が焼けてきたようで、辺りに美味しそうな匂いが漂ってくる。
たった1日食べなかっただけで、こうも肉のありがたみが分かるものなんだと思い知った。
ニティ「そろそろいいか」
ニティさんは焚き火の上に固定されていた豚を外し、ナイフで食べやすい大きさに切り分け始めた。
すると…
カルセナ「「…肉の匂いっ‼‼」」
魔耶「うわっ!?」
いきなりカルセナが目を覚ました。…どうやら肉の焼ける匂いで起きたようだ。
…まあカルセナも変なキノコしか食べてないしね。お腹が空いていたんだろう。旗から見たら食い意地のはっている人にしか見えないけど。
カルセナ「…あれ?ここどこ…?なんで私寝てたの??」
ニティ「起きたか。ここで寝ていた経緯については、後で相方から聞くんだな」
私に向かってにこりと笑いかける。
ニティ「腹が減っただろう?さあ、食え。」

目の前に出された肉がとてもおいしくて、魔耶もカルセナもあっという間に平らげたのは言うまでもない。

40:多々良:2020/03/28(土) 19:27



カルセナ「ふんふん、成る程。つまり........私の自業自得っすね。まじで」
魔耶「いや〜、止められなかった私も何か悪い気がするけど....ニティさんが通り掛かってくれなかったら、今頃あなたが天界に「逝く」所だったんだからね?」
カルセナ「あはは、すまんすまん」
魔耶「もー、笑い事じゃ無かったんだってば......親の顔が見てみたいわ」
カルセナ「うちの家族見ても何も変わらんぞ」
こんな会話を繰り広げている二人を見て、ニティがクスッと微笑んだ。
ニティ「家族か........」
カルセナ「ニティさんの家族はどんな人なん?魔耶の家族は知ってるけど」
ニティ「私か....私の家族は今は居ない.......幼い頃に、突然行方不明になった。後から私を保護してくれた師匠に両親のことを知らされ、そこで初めて、亡くなっているということを知ったんだ」
これを聞いた魔耶は、んな事聞くなや!!と言わんばかりにこっちを見た。
カルセナも雰囲気を察して、やっべ....となっていた。
ニティ「まぁ別にそんなことどうだって良い。今こうして、笑えているのならな」
そう言って二人に再び微笑んだのだった。

41:なかやっち:2020/03/28(土) 20:00

ニティ「ところで、お前たちはどこから来たんだ?こんな危険な場所にいたから不思議に思ってたんだ」
魔耶「あー…えっと…違う世界から…?」
少し戸惑いながら言う。冗談だと思われるだろうか。
ニティ「おや、別の世界から来たのか?なるほど、そういうことか。てっきり家出でもしたのかと…」
カルセナ「信じてくれるの?」
ニティ「信じるもなにも…私は神だからな。色々な世界にもいっている。そういう者とも度々会うぞ?」
なるほど。ニティは修行で色々な世界を渡り歩いているらしい。そんな人からすれば、私達が別の世界から来ているなんて珍しくもなんともないだろう。
カルセナ「なーんだ、この世界の人じゃないのか〜」
魔耶「こら、失礼だぞ」
私はカルセナを軽く叱るがニティは気にしていないらしい。私達のやり取りを面白そうにながめていた。
ニティ「確かに私はこの世界の人ではないが、この世界にも人はいるようだぞ。前に街を見た。」
魔耶「…!」
有力な情報が得られた。その街にいけばこの世界について詳しく知れるだろう。上手くいけば、もとの世界に帰る方法も分かるかも知れない。
魔耶「ほんとう?どこらへんでみたの?」
ニティ「うーむ、前のことだからよく覚えていないが…確かここからまっすぐ北にいったところにあったと思うぞ」

42:多々良:2020/03/28(土) 20:53

カルセナ「マジかぁ、まさか今日になってたくさん人に会えるとは.....」
魔耶「ともかく行ってみる?行かないと進展しないからね〜」
カルセナ「そーだね、んじゃ、ちょっと行ってみますか」
魔耶「うん、ニティさん、色々ありがとう」
カルセナもそれに続けてお礼を言い二人が立ち上がると、ニティも立ち上がり握手を交わした。そして忠告をした。
ニティ「うむ、短い間だったがここ最近で一番満喫出来た時間だった。こちらこそ、礼を言う。それと、今から行くのであれば早めに向かった方が良い。恐らく、今が一番人に会える時間帯であろう」
魔耶「そうなんだ、じゃあ寄り道してられないね」
カルセナ「スタミナが持つかしら......まぁ大丈夫か」
ニティは二人を外まで見送った後、別れの言葉を残した。
ニティ「お前らが街まで安全に向かえる確率を上げておいた。私はまだ暫くここで修行を続ける。何かあったら、また何時でも戻ってくるが良い。旅の健闘を祈ろう」

こうして二人は、ニティから教えられた通り北へ真っ直ぐ飛び立ったのであった。

43:なかやっち:2020/03/28(土) 21:41

大体1時間ほど飛んでいただろうか。
太陽が真上にでてきたため、飛んでいると首がジリジリと焼かれた。
カルセナ「あっつ〜…」
魔耶「もうお昼どきだからね。今が一番暑い時間帯だよ…少し降りようか?」
カルセナ「そだね…焼け死ぬ。」
二人は地面に降りた。
太陽から少しだけ遠ざかったおかげか、さっきよりは暑くない。

二人は並んで歩きだした。
ずっとスピードをだして飛んでいたのだ、少しくらい歩いても間に合うだろう。
カルセナ「そーいえばさー」
カルセナが話しかけてきた。
カルセナ「私は羽ないからいいけど、魔耶は羽があるじゃん?もし人が見たら警戒するかもよ?」
…確かに、羽のことを考えていなかった。
カルセナはすぐ受け入れてくれたが、他の人はそうではないかもしれない。敵対視される可能性だってある。
魔耶「…そうだね。このまま街に入ったら大騒ぎになっちゃうかも知れないね。でも大丈夫だよ〜。」
カルセナ「?」
魔耶「見てて…」
そういって羽を目の前で消して見せた。
カルセナ「おおっ!すごっ!どうなってんの?」
魔耶「この羽は出したり消したりできるの。悪魔は消すことができないんだけど、魔族の私はこの通りよ。」
カルセナ「ほえ〜…便利だねぇ…」

ーーと、話をしながら歩いていると、道に看板が立ててあるのを見つけた。

44:多々良:2020/03/28(土) 22:04

カルセナ「あ、看板だー。何かさ、漫画の主人公が街へ向かって歩いてる道中にさー《危険!!この先魔獣注意!!》って書いてある看板あるくね?もしかしたらこれも.....」
そんな戯言を聞きながら魔耶は看板の文字を読み上げた。
魔耶「んな馬鹿なこと無いでしょ〜、ほら、《5km先、北街》だって」
カルセナ「あら本当だ....なーんだつまらん」
魔耶「つまらんって.....二回も命の危機に陥ってるのに、まだスリルを味わう気かよー」
カルセナ「大丈夫でしょ〜、だってニティさんに護られてるようなもんだし」
魔耶「まあそうだけどさ〜......」
再び二人はてくてくと呑気に歩き出し、雑談を始めた。
魔耶「てかずっと気になってはいたんだけどさ〜、髪飾りの何かふよふよしてるやつ何?」
そう言って魔耶は髪飾りを指差した。
カルセナ「これ?これねー、多分浮幽霊の要素だね」
魔耶「カルセナもそれ怪しまれるんじゃね....?あと幽霊のイメージって、足が透けてるイメージなんだけど......」
カルセナ「何か実体あっちゃってるよね〜、どうせなら壁をすり抜けられる様になりたかった......だって幽霊要素、寿命無くて空飛べるくらいだよ?あ、ちょっと体が軽く感じるのも」
魔耶「寿命無いのは良いこと.....うーん、無いのもあれか〜.....」
カルセナ「これに関しては、魔耶が羨ましいや」
魔耶「そうかな〜?」

やはり、お互いをあまり知らない同士で会話をすると話が発展するものだ。
歩いている時はずっと喋りっぱなしでいることが出来た。

45:なかやっち:2020/03/28(土) 22:30

魔耶「あ、なんか建物がある?」
話に花が咲いてきた頃、遠くのほうに建物の影があるのを見つけた魔耶。
カルセナ「…建物っていうか、あれ…壁じゃない?」
よくよく見ると、魔耶が建物だと思ったものは、山のように高くそびえ立つ壁だった。
魔耶「本当だ…なんだあの壁ー?」
二人で考えてみる…と、カルセナが思い付いた。
カルセナ「あれ、もしかして、ニティさんがここら辺は強い生き物がいるとかいってたじゃん。そういう生き物を街の中に入れないようにするための壁じゃない?」
魔耶「あぁ、なるほど〜」
そう考えれば納得できる。
あの高さも、巨大な生き物が入れないようにしたためだろう。
魔耶「じゃあ、あの壁の中に街があるのかな?」
カルセナ「そういうことになるね〜」
魔耶「なるほど〜。…よし、いってみようか‼」
そういって急に駆け出す魔耶。この世界で初めて見る街に少し興奮していた。
カルセナ「ちょっ、いきなり走るなよな〜」
あわてて追いかけるカルセナ。
この街で、どんな冒険が始まるのだろう。
新たな冒険を楽しみに、二人は壁で囲まれた街に向かって走っていった。

46:多々良:2020/03/28(土) 22:57



楽しげに巨大な壁まで走って行った魔耶だが、途中でピタリと足を止めた。
カルセナ「ん?どったの?」
魔耶「あの中に入れる様な門を見つけたけど....護衛っぽい人が二人いるんだよね.....」
門前を良く見ると、成る程、確かにそれっぽい二人がいる。
カルセナ「え〜、でもこの街に危険を脅かしにきた訳でもないし、武器も持ってないから通れるでしょー」
魔耶「そうかなぁ〜.....」
小さな不安を胸に抱きながらも門へと向かった。
やはり、護衛の二人は私達を簡単には通してくれなかった。が、要件を聞いてもらいボディチェックをした後、あっけなく通して貰えることになった。
カルセナ「何か....ゲームにあるような試練は無かったねぇ」
魔耶「ちょっと何かあるのか期待しちゃったわ〜」
門をくぐり抜けた先は、噴水のある開けた広場の様な所だった。大勢の人が街を歩き、少し先に見える商店街はとても活気があった。その奥には、壁の隅からでも良く見えるような、大きな時計台まであった。
魔耶「うわぁ〜、凄い!きれいな街!!」
魔耶は子供の様に目をキラキラさせて喜び、辺りを見回していた。
カルセナ「確かにこれは良い街だねぇ、楽しそうだな!!」
勿論、カルセナもわくわくした表情で広場を眺めた。
カルセナ「んで、どうします?情報収集早速しますか?」
魔耶「うーん、でもちょっと疲れたから一旦ここで休憩しない?」
カルセナ「うん、良いよー」
二人は噴水のそばにあるベンチに腰掛けた。子供の遊ぶ声が盛んに響く。

心地よい空間の中でまったりしていると突然、誰かに挨拶をされた。
???「こんにちは、あのぅ.....」
魔耶カル「「 うわっ!!? 」」
???「あっ、ごめんなさい、驚かせるつもりじゃ.....ただ、この街で見掛けない人だったから.....」

47:なかやっち:2020/03/29(日) 12:40

魔耶「い、いえ…大丈夫です…」
まだ心臓がドキドキしている。急に話しかけられるとは思ってなかった。
カルセナ「…あなたはこの街の人ですか?」
??「はい。この街で行う行事の司会進行の仕事をしている、花鳥ひまりといいます。」
ひまりはそういってペコリとお辞儀をした。
私達には興味本意で話しかけたらしい…悪い人では無さそうだ。
ひまり「あなた達は?この街の人ではないと思いますが…」
魔耶「私は彩色魔耶。んで、こっちが…」
カルセナ「カルセナ・シルカバゼイションっす。」
ひまり「そうですか。よろしくね、魔耶さん、カルセナさん!」
魔耶「呼び捨てで良いよ。敬語もいらないよ〜」
ベンチにおっかかりながらヒラヒラと手を振る。
ひまり「じゃあ魔耶とカルセナでいいかな。…魔耶とカルセナはどこから来たの?外国から?」
カルセナ「いや〜、実は別のせかi((…」
別の世界から来た、と言いかけたカルセナの口を手で塞ぐ。
魔耶(ばか!ニティさんは神だったからいいけど、普通の人にそんなこと言ったら引かれちゃうだろ‼せっかく話しかけてきてくれたのに!)
小声でカルセナに注意をする。
カルセナ(はっ!確かに‼)
カルセナもそのことに気づいたようで、あわてて言い直す。
カルセナ「そ、そうそう!外国から来たの‼めっちゃ遠いとこ!」
ひまり「へ〜、そうなんだ!旅人さん?」
魔耶「そうなんだよ〜旅人なんだ〜」
私達の不自然な行動はバレなかったようで、ひまりは笑顔で「そうなんだ〜」とうなずいた。

48:多々良:2020/03/29(日) 13:37

カルセナ(あっぶねぇ.....バレなくて良かった......)
魔耶(ほんとに、気を付けてよ〜.....)
ひまり「じゃあこの街のこと、もしかしたらあまり知らない?良かったら案内してあげるよ」
これを聞いて、二人は喜んだ。どうやら今日はついているようだ。
魔耶「本当に?ありがとう!!」
ひまり「それじゃあ着いてきて、あそこに時計台が見えるでしょ?あの真下まで行こう」
カルセナ「あー、あれずっと気になってたんだよね」
こうしてひまりを含めた三人は、空高く聳え立つ時計台を目指して歩き始めた。

ひまり「それにしても、さっき外国から来たって言ってたけどどこの国からここまで?」
カルセナ「えーっと、それは.......」
魔耶「あっ、ねぇねぇひまり!!あの大きな建物は一体何!!?」
カルセナの言葉が詰まったその時、魔耶のナイスフォローのお陰でひまりの気を逸らすことが出来た。魔耶の顔を見ながらありがとう、の合図としてコクンと頷いた。
ひまり「ああ、あれはこの街で一番大きな学校だよ。沢山の生徒がここに通ってるの」
学校だけではなく、その周りにも興味深い建物が沢山建っていた。
二人の冒険心がますます擽られたのは、到着した時計台を見上げた瞬間だった。

49:なかやっち:2020/03/29(日) 14:39

時計台は回りの壁と同じくらい高く、さまざまな宝石が埋め込まれていてとても綺麗だった。
時計台は午後の太陽の光を浴びてきらきらと輝いている。
ひまり「この時計台は、街のシンボルなの。綺麗でしょう?」
カルセナ「うん…凄い綺麗…新品みたいだね〜」
ひまりはうんうんとうなずく。
ひまり「この時計台は何百年も昔からあるらしいの。誰がつくったのかは分からないけど…大切なものなんだ〜」
時計台をうっとりと見つめるひまり。その様子を見るに、本当に大切なものなんだろう。
魔耶「製作者が分からないの?」
ひまり「うーん、何百年も昔だし…この時計台を作った人は自分の名前を彫ったりしなかったみたい。」
なるほど…そんなに昔につくられたものだから資料もないのだろう。ふーんと納得の返事を返す。

ひまり「じゃあそろそろいこうか。あなた達みたいな旅人にとってはとっても大事なところにいこう!」
カル魔耶「?」

ひまりの後に続くと、先ほどみた学校と同じくらい大きい建物があった。
中を除いてみると、たくさんの人がお酒をのみかわしたり話をしたりしている。
魔耶「ここは…?」
ひまり「ここはギルドっていうの。大体の旅人はここで仕事をしているわ」
カルセナ「どんな仕事?」
ひまり「色々ね。ギルドでは、依頼人の依頼を受けて、その依頼を達成すると報酬がもらえるの」
ひまりが私達に向かって笑いかける。
ひまり「依頼がモンスター討伐だったり、素材集めだったり危険な仕事が多いわ。でも、その分報酬も多い。だから、力自慢の冒険者達が集っているの」

50:多々良:2020/03/29(日) 16:33

魔耶「へぇ〜、確かに強そうな人がいっぱいいるね」
人々が装備している武器をまじまと眺めながら言葉を発する。
カルセナ「じゃあ、あの竜もいずれ討伐されたりするのかな.....」
この世界に来たばかりの頃を勝手に思い出して身震いした。
ひまり「あなた達もこの街に滞在するのだったら、こう言うのもお勧めよ?腕に自慢があるのならばね」
魔耶「いや〜、まぁ、そうだね....考えとこうかな....」
二人がたじろいでいると、一人の少女がひまりに近づいて来た。
???「お姉ちゃん、ちょっと.....」
ひまり「あ、丁度良かった、ちょっと紹介するわ。私の妹の花鳥みお。宜しくね」
みお「よ、宜しくお願いします」
カルセナ「よろしく〜」
魔耶「ひまり、妹さんがいたんだー」
ひまり「そう、双子の姉妹なのよ。それで、どうしたのみお?」
みお「あ....今日のお祭りの準備についてなんだけど」
ひまり「そう言えばそうだったわ。....そうだ、良かったら二人ともお祭り参加したら?今日の夕方五時くらいからさっきの時計台付近で開催されるの。沢山人も集まるし、そこならこの街の情報を集めるのも良いと思う。私は準備があるから、また後で会いましょう!」
そう言い残し、こちらに大きく手を振りながら妹のみおと共に街へと消えて行った。
魔耶「....お祭りかぁ〜、確かにそこならこの世界のこと、沢山知れるかもね」
カルセナ「良いじゃん参加しよ!!」
良い情報を聞けた二人は、時間になるまでもう少し街を散策することにした。

51:なかやっち:2020/03/29(日) 17:13

魔耶「にしても、ギルドねー」
二人でブラブラと歩きながら会話を始める。
カルセナ「なにか気になることでもあった?」
魔耶「いやそういうのじゃなくて、私達この世界のお金持ってないじゃん。だからそこで働くのもありかなって…たくさん人もいたから、情報も集まるかもよ」
カルセナ「魔耶の能力でお金つくれないの?」
魔耶「一応つくれるけど…そういうのは嫌なんですよ。それに、みたことあるやつじゃないとつくれないから…」
顔をしかめてもとの世界で使われていた硬貨をつくる。
ここは別の世界だ、もと世界で使われていた硬貨なんて使えないだろう。
カルセナ「そうなんだ…でも、怪物と戦うのは怖くない?私達もうすでに色々会ったけど、歯が立たなそうなやつばっかだったじゃん」
魔耶とカルセナは竜と巨大な虫の姿を思い浮かべて身震いした。
魔耶「う、うん。それなんだけど、もっと簡単な依頼を受ければいいかなって。私達でもこなせるような仕事、きっとあるよ」
カルセナ「そうかな〜」
…後ろからワイワイと人々の声がする。お祭りの準備をしているのだろう、あちこちに屋台の準備をしている人がみえた。
魔耶「そろそろいこうか?」
カルセナ「うん、そうだね。お祭り楽しみだな〜!」
二人は街の中心に向かって歩き始めた。

52:多々良:2020/03/29(日) 18:23

時計台へと続く四本の大通りは、粋を感じる提灯や色とりどりの飾りが装飾され祭りの開始を待ちわびているかの様だった。そして肝心の時計台と言えば、特設のステージの様な物が設置され、その前に沢山の机と椅子が運び込まれていた。
魔耶「思っていたより大規模なお祭りなんだね〜」
周辺をうろついていると、子供たちにお菓子を配っている女性がいた。
女性「はい、どうぞどうぞー!ほら、あんた達も特別にやるよ!!」
そう言って、二人に気さくな様子でお菓子の小包をくれた。
魔耶カル「ありがとうございます」
魔耶「あの、このお祭りってどんなお祭りなんですか?」
女性「ん?もしかして旅人かい?この祭りはね、大昔に時計台を創り上げた人物を祀って祝うっていうものさ。誰も、その人のことは知らないのにねぇ、変なもんだよ」
カルセナ「へぇ〜、そうなんですかー」
女性「まぁ、祭り自体は楽しいから、十分に騒いで来なね!」
魔耶「ありがとうございました、楽しんで来ます!」
会話を終わらせ別れると、またお菓子を配りに行ったようだ。
カルセナ「やった、お菓子貰っちゃったね〜」
魔耶「うん、それにしても、あんな事聞かされたらますます時計台を創った人が気になって来るなぁー」
カルセナ「まぁー、その内わかんじゃね??」
魔耶「いやいや、数百年の歴史があっても誰も分かんないんだから、私たちが分かる訳ないでしょー」
カルセナ「むぅ、確かに....未来じゃなくて過去が読めたら分かるのになぁ」
こうして雑談している間にも祭りの準備は着々と進められ、間もなく時計台が五時を知らせようと針を動かしていた。

53:なかやっち:2020/03/29(日) 18:40

二人はもらったお菓子を食べながら歩き回っていた。
お菓子は見たことないものだったがとても美味しく、思わず感嘆の声をあげてしまった。
魔耶「うーむ、美味しい!何でできているんだろ?」
カルセナ「さあねー。この世界では定番のお菓子だったりするのかな〜?」
魔耶「そうかもね〜」
と、お菓子について話し合っていると…
『カチッ…ゴーン…ゴーン…』
という音が聞こえた。どうやら5時になったらしい。
カルセナ「お、5時だね。なにが始まるんだろ?」
ワクワクしながらあたりを見回す。
すると、時計台の方から聞いたことのある声が響いてきた。
ひまり「5時になりましたので、ただいまより、北町時計祭を始めます!」

54:多々良:2020/03/29(日) 18:58

耳に入ってきた声は、先程会った双子の姉であるひまりのものだった。とてもハキハキとしていて、見ていて気持ちが良かった。
ひまり「本日も司会を務めさせて頂きます、花鳥ひまりと!!」
みお「花鳥みおです」
ひまりに続いて、みおも前に出てきた。
カルセナ「あの二人で司会やってんのか凄いなー、私だったら絶対無理だわ〜」
ひまり「さて皆さん、本日は待ちに待った時計祭でございます!この街のシンボルとして長年務めて貰っているこの時計台に感謝を込めて、そして未来を願って、今日は最高に盛り上がりましょう!!」
ひまりの挨拶が締まると同時に、町人からの盛大な拍手が鳴り響いた。
みお「それでは乾杯に移ります。皆さん今日もお疲れ様でした。明後日からはまたいつも通りの日々が送られますが....まだまだ頑張っていきましょう。それでは....乾杯!」
乾杯の合図と共にあちこちでグラスが威勢良くぶつかり合う音がした。
魔耶「おおー、遂に始まった感あるねー!」
カルセナ「ねー、いやーほんと楽しくなりそうだな〜」

55:なかやっち:2020/03/29(日) 20:07

すると、グラスの音と混ざって、屋台のおじさんやおばさんのハリのある声が聞こえてきた。
おじさん「みんな〜!うちの自慢の食材を使った料理、食べてってくれ〜!」
おばさん「今日は祭だから無料だよ〜!」
カル魔耶「「無料!?」」
お金がないから何も食べられないかも…なんて思っていたが、祭の屋台はすべてタダらしい。
これもこの世界の文化だろうか。それともこの街だけだろうか。
カルセナ「やったぁ!全部タダだって!」
魔耶「そうみたいだね!早くもらってこよう‼」
カルセナの目はきらきらと輝いて、興奮しているのが一目でわかった。
でも、きっと私も鏡で自分の顔を見たら…人のことを言える立場じゃなくなるだろう。そうはっきりと言えるくらい私も興奮していた。

カルセナ「ふ〜…食った食った!」
自分の膨らんだお腹をぽんぽんと叩く。
魔耶「みたことないのばっかだったけど、全部美味しかったね〜」
カルセナ「ねー!毎日お祭りにしてくれればいいのに‼」
ひまり「いやいや、そんなわけにはいかないでしょ」
いつの間にかひまりが隣に座っていた。

56:多々良:2020/03/29(日) 21:20

カルセナ「あ、ひまりサンじゃないすかぁ、司会は良いの?」
ひまり「最初の挨拶とかだけやっとけば、後は皆が勝手に盛り上がってくれるからね」
そう言うとひまりは、缶ジュースを二人に手渡して小さく乾杯をした。
ひまり「ふう、今回も上手く行きそうね〜」
魔耶「このお祭りはいつからやってるの?」
ひまり「う〜んどうなんだろう....私が生まれた時からずっとだからさ」
魔耶「やっぱこの街のものは歴史が深いね」
缶ジュースのプルタブに指を引っ掛け、プシュッという音を鳴らして缶を開けた。
魔耶カル(このジュースも飲んだことないなぁ....)
この街の食べ物は勿論、飲み物までも未知だという事に気付いた二人は感心しながらジュースを飲んでいた。ほのかにレモンの様な爽やかな風味が口の中に残った。
魔耶「はぁ〜.....何か....心地良いな」
カルセナ「そうだね〜......」
空が暗くなるにつれ、街中に飾られた灯りの装飾が華やかに煌めき出した。それに続き、祭で騒いだ熱気を癒すかの様な、少し冷たい微風も吹いている。まるで夢の世界に居る感覚だった。この時二人は、自分の世界のこと、生活のことをじわじわと思い返していた。

「......私、ほんとに帰りたいって思ってるのかなぁ」

小声で魔耶にそう発したのは、カルセナだった。

57:なかやっち:2020/03/29(日) 21:59

魔耶「!……」
カルセナの思いもよらぬ一言に言葉がでなくなった。
驚き、であろうか。
…いや、私が無意識に思っていたことを言葉にされたからかもしれない。そうでなければ、彼女に対して「いやいや、帰りたいでしょ?」なんていって否定していたかも知れない。
…いつの間にか、この世界を心地よいと感じていた。カルセナと旅をするのが楽しいと感じていた。…そう、気づかされた。


二人の微妙な空気を察してか、ひまりが「どうしたの?」と声をかけてきた。
カルセナ「あ、い、いや…なんでもない…」
あわてて笑顔を取り繕うカルセナ。
いつもの心からの笑顔ではない、無理やり笑っているような…そんな笑顔。カルセナのそんな顔を見るのは初めてだった。
ひまり「…きっと、疲れちゃったんだよ。宿を紹介してあげる。宿の宿泊費は私が払うから、今日はゆっくり休みな」
ありがたかった。ひまりにお礼を言って、宿に入る。休みたかったのもそうだが、何よりカルセナと話をしたかった。本当の気持ち、今の思い、そしてーーこれからのことを。

58:多々良:2020/03/29(日) 23:26

カルセナ「.....いやーごめんね、何かいきなりあんな事口に出しちゃって」
魔耶「カルセナは....」
カルセナ「ん?」
魔耶「この世界で私と出会って少ししか経っていなのに....ほんとに帰りたくないの?」
その言葉を聞いて、即座にカルセナが答えた。
カルセナ「うーん、別に、完璧に帰りたくないって訳じゃないよ....でも」
魔耶「この世界で冒険して、どんな危機も乗り越えて、ご飯を食べて、笑って.....今、カルセナは楽しい.....?」
言葉を遮るかの様に、魔耶が問いを繰り返す。思えば、そんな魔耶の表情は疑問の裏で悲しみを表している様に見えたし、少し寂しそうにも見えただろう。
カルセナ「それはもちろん、楽しいに決まってるじゃないか」
魔耶「カルセナ的には、どっちの気持ちが大きいの....?」
魔耶は恐らく、帰りたい気持ちの方が大きいだろう、と予測した。だが、カルセナから帰ってきた言葉は予測を大きく上回った。

カルセナ「それが決められないから私は今、魔耶と離れるのが嫌になってる。勝手に、この世界にまだ居たいと思ってしまってる....」

カルセナは、魔耶に自分の表情を悟られないよう少し俯きながら話を進めた。
カルセナ「....初めてこの世界に来た時、私はもう駄目かと思った。でも、魔耶が助けてくれた。導いてくれた。だから、魔耶に着いて行けば全ての道が開かれると勝手に思い込んで、私はただただ魔耶に着いて行った。....そうして行く内に、私は知らない間に、魔耶を自分のアイテムとして使ってしまっていたのかもしれない.....」
魔耶「カルセナ.....」
カルセナ「魔耶には無事に元の世界に帰って欲しい.....でも、一方で離れたくない私がいる。あんなに下らない理由なのにね......ッ...ごめん、全然関係無い話だったね」
そう言って帽子の鍔を限界まで顔の前に下げた。

59:多々良:2020/03/30(月) 08:56

訂正、経っていなのに→経っていないのに

60:なかやっち:2020/03/30(月) 11:46

魔耶「……」
言葉が詰まる。…なんて返していいか分からない。
すると、カルセナが質問してきた。
カルセナ「魔耶は…どう思っているの…?」
少し考えて、ゆっくりと答えを返す。
魔耶「…私は…私も、自分が帰りたいのか帰りたくないのか分からない…もとの世界でずっと過ごしてきた。私の家族だっている!けど…いまの暮らしも…続けたい!」
カルセナ「…魔耶…」
二人で見つめあっていると、ポロリと涙がこぼれた。
魔耶「!……」
必死に涙を袖でぬぐうが、涙が次から次へと溢れだす。
魔耶「…私は、カルセナがたとえ私を…彩色魔耶を道具だと思っていたとしてもかまわない!私もカルセナと一緒で楽しかったから…!」
カルセナ「…っ…!」
カルセナの目からも涙が流れる。
魔耶「この気持ちをどう言葉にすればいいのか分からない…でも、きっとカルセナと同じことを考えていた…!私もカルセナにもとの世界に帰ってほしい!でも…まだ一緒にいたい!」
自分の矛盾した考えは、言葉では言い表せないほど自分勝手で、自己中で、理不尽なものだった。
カルセナ「魔耶…っ…!もう、私、どうすればいいのか…分からないっ…」
カルセナが帽子を下げて顔を隠す。帽子のしたから涙が滴り落ちた。
魔耶「……私もだよ…っ…」
私も、自分のお気に入りである青い猫帽子を顔の前までもっていく。 


5分ほど、無言の時が訪れる。きっと、二人ともこれからのことを考えているんだろう。でも、こんな矛盾した考えを…どう解決すれば… 

カルセナ「ねぇ…」
カルセナがおもむろに口を開いた。
カルセナ「……じゃあさ、私も魔耶もまだ一緒にいたい、けど帰りたいって思ってる。だったら、帰る方法は調べて、ここに来た原因も調べて、いつでもここに帰ってこれるようにしよう。そうすれば…また、会えるでしょ?」
魔耶「!」
カルセナらしい、単純で、簡単で、それでいて難しい答え。
こんな答え彼女にしか思い付かないだろう。
魔耶「うん…うんっ…!そうだね、それしかない!名案っ!」
涙をこぼしながらカルセナに笑いかける。
カルセナも魔耶に笑いかける。
カルセナ「また、冒険できるね。」

61:多々良:2020/03/30(月) 13:40

魔耶「そうだね...!!絶対、冒険しよう!!」
涙を拭って魔耶が答える。
魔耶「その為に、明日からは徹底的に情報収集だね!」
カルセナ「....よし!二人で行けばどうって事無いね!頑張るぞー!!」
魔耶カル「「 おー!!! 」」
部屋の中に、二人の声が響き渡った。その日はもう夜遅くだったので、明日直ぐ活動出来る様、寝る事にした。
部屋の電気が全て消え夜の暗闇と完全に同化した中、温もりのある、二つの小さな声が聞こえた。

「「 おやすみ。 」」

二人はそれぞれ、今日あった事は勿論、短い間に作られた思い出や人の温もりを思い返していた。
祭で楽しんだ疲れか、話し合いから出た疲れかは分からないが、あっと言う間に深い眠りに落ちていた。



カルセナ「.....う〜、寒っ....」
魔耶「ん.....?あっ、ちょっと、私の布団取らないでよ〜」
カルセナは隣のベッドで寝ている魔耶の布団を勝手に引きずり出していた。
カルセナ「あ〜....ごめんごめん」
魔耶「ほんと、勘弁して欲しいわ〜.....」
窓からは冷えきった空気を温める、さんさんとした日射しが入り込んでいた。何処からか、小鳥の囀りも聞こえてくる。
いつの間にかとても気持ちの良い、快晴の朝になっていた。

カルセナ「それはそうと、おはようございます魔耶さん〜」

62:なかやっち:2020/03/30(月) 14:29

魔耶「おはよ、カルセナ〜」
ふわぁっ…と大きなあくびをする。
まだ眠い体に冷たい朝の空気が入ってきた。
カルセナ「むぅ…寝っむ…今日はこれからどうする〜?」
魔耶「そうだねぇ…昨日夕方に話してた、ギルドに言ってみようか。お金ないからね〜。情報収集もかねて。」
カルセナ「かしこま〜」

二人で宿から出てくると、
ひまり「あ、二人ともおはよう!ゆっくり休めた?」
という声が聞こえてきた。
魔耶「あ、おはようひまり。おかげさまでゆっくり休むことができたよ。昨日はごめんね〜…」
昨日ひまりと別れたころの気まずい空気を思い出す。
ひまり「ぜんぜん気にしてないよ!しっかり休めたみたいで良かった!」
カルセナ「天使かよ…」
カルセナの一言に、ひまりがクスリと笑う。
ひまり「残念、人間です♪今日はどこへいくつもりなの?」
魔耶「あー、実はひまりが言ってたギルドに入ろうかとね…」
三人でトコトコと歩きながら会話を進める。
ひまり「ギルドに入るの?いいと思うよ!冒険者には一番いい働き口だし、二人ともまあまあ腕がたちそうじゃない」
ははっ…と乾いた笑いをもらす。そこまで腕がたたないなんて言えない…!

63:多々良:2020/03/30(月) 15:03

ひまり「ギルドに入るにはまず、登録を済ませないとね〜」
そう言うと、奥にある受付口の様なものを指差した。
ひまり「あそこにあるカウンター見える?そこで必要な書類を書いて契約すれば良いよ」
魔耶「成る程ね、じゃあ行ってこよっかー」
カウンターに行きまだ契約していない事を伝えると、申請用の書類を差し出された。二人は、近くにある机の上で書類に記入し始めた。
カルセナ「名前と性別......あと生年月日と年齢だってよ。どうする?」
魔耶「まぁそれっぽく書いとけば良いんじゃない?どうせ分かんないだろうし」
そう言って、自分の外見位の年齢と生年月日をを適当に書き込んだ。
魔耶「あとはまぁ色々書いて.....趣味何て書いた?」
カルセナ「ギルドだからそれっぽく、ハンティングアクションゲームって書いたー。てか、趣味の欄要らなくね?」
魔耶「まぁ別に需要があるって訳では無いよね....」
こうして書類を書き終わった後、再びカウンターへ行き提出した。
登録完了後、一通り説明を受けた二人はひまりの元へ戻った。
魔耶「これで依頼受けて、達成出来ればお金の心配は無いかもね〜」
カルセナ「【命の危機がある可能性があります】って言葉を私は聞き逃していないぞ.....」
ひまり「でも、二人は晴れてギルドの一員なんだし、頑張ってね!胸を張って誇れる仕事なんだから!!」
ひまりは二人を前にして、ガッツポーズをする様な身振りを見せた。それに勇気を少し貰えた感じがした。

64:なかやっち:2020/03/30(月) 16:42

魔耶「うーむ、じゃあ簡単そうな依頼探してみようか。今日ご飯代くらいは稼がないとね」
カルセナ「そうだねぇ。あ、あと宿代も必要だ!」
ひまり「あら、宿代は稼ぐ必要はないわよ?」
ひまりが不思議そうな顔をする。
ひまり「ギルドに所属している人は、宿代がタダになる。さっき説明でそう言ってたわ。」
…そんなこといっていたっけ…長かったから後半聞き流してた…
カルセナ「あ、そう言えばそうだったね。じゃあご飯代だけだ。」
カルセナはしっかり聞いていたらしい。
私もしっかり聞いておけば良かった…!

ひまり「最初なんだし、ささっと終わるような仕事にしなさいな。一番簡単な仕事でも、2〜3日分のご飯代にはなると思うわ。」
魔耶「そ、そうなんだ。よし、簡単そうなやつを選ぼう!」
カルセナ「そうだねー。」

三人でクエストボードに近づいていく。クエストボードにはびっしりと依頼状が貼ってあって、選ぶのもたいへんそうだった。
魔耶「…?この依頼状に書いてある、AとかCとかの記号はなに?」
依頼状全てに、E.D.C.B.A.Sのいずれかのアルファベットが赤で書かれていた。ひまりに聞いてみる。
ひまり「あぁ、それは、受けられるクエストのギルドランクね。」
魔耶「ギルドランク?」
ひまり「月に1回ランク昇格試験っていうのがあって、それをクリアするとギルドランクが上がる。あなた達はいま入ったばかりだからEランク。昇格試験をクリアすれば次はDランクになって、ギルドランクDの依頼が受けられるようになるわ。」
まだ首をひねる私に、さらに詳しく教えてくれた。
ひまり「つまり、ギルドランクっていうのは…まぁクエストの難易度だと思えばいいわ。あなた達は今はEランクの難易度のクエストしか受けられないけど、試験を受ければもっと上のクエストを受けられる。」
カルセナ「つまり、今はこのEってかかれてる依頼しか受けられないと…」
カルセナがうんうんとうなずく。
ひまり「そういうこと。ギルドランクが高いほど報酬も豪華になるわ。でも、ギルドランクはSが最高だけど…Sの人はほとんどいないわね〜」
魔耶「?…どうして?」
ひまり「ギルドランクがあがるほど、危険な仕事になるからね。命を脅かしてまでSランクになんてなりたくないんでしょうよ。」
カルセナ「なるほどね〜…」

クエストボードを見つめる。Eランクで簡単そうな依頼…
魔耶「!」
いい感じのものを見つけた。
魔耶「ねぇ、この依頼どうかな」

65:多々良:2020/03/30(月) 19:04

カルセナ「何々〜?」
魔耶「ほら、これこれ」
魔耶が指を指している依頼を見ると、こう書いてあった。
【木の実、きのこ採集 E】
依頼内容を見るに、ある商店からの依頼らしい。成る程、きっと販売物に関係するものだろう。
カルセナ「2ボックス分の納品を達成条件とする.....このボックスってのは何だろう?」
ひまり「このギルドの入口付近に、背負えるような箱が沢山積まれているのを見たでしょ?2ボックス分ってのはつまり、それ箱二箱分ってこと」
カルセナ「なるほどねぇ〜、確かにそれなら簡単そうだし、初めての依頼に丁度良いかも」
魔耶「じゃあこれにしよっか」
ひまり「受ける時はその紙を取って、カウンターに出せばOKよ」
ひまりの説明を聞いて魔耶は、ボードから例の依頼が書かれている紙をひっぺがした。
カルセナ「ちなみに、どこでのお仕事?」
魔耶「んーと、これは森だね....あ、地図が描いてある。どれどれ」
その地図によるとこの街のの反対側、南にある森を示していた。
カルセナ「ん?この森ってもしかして.....」
魔耶「え?あっ......」

66:なかやっち:2020/03/30(月) 20:18

ひまり「…?どうしたの?受けないの?」
魔耶「あ、え、その…」
地図に書かれていた森を、カルセナと魔耶は知っていた。
思い出したくもない…緑色の外骨格をもつ巨大な虫の姿が目に浮かぶ。
ひまり「おーい?」
カルセナ「…いや、あの〜…この森には嫌な思い出がありまして…」
この森で死にかけたのだ、できることなら二度と行きたくない。ひまり「嫌な思い出…?」
カルセナ「実はかくかくしかじかで…」
あの森で起こった出来事をひまりに説明する。

ひまり「えっ、そんなことが…」
魔耶「そうなのよ。だからこの森あんまり行きたくないんだよね…」
はぁ〜とため息をつく。せっかくいいクエストを選んだと思ったのに…と、クエストボードに依頼を戻そうとすると…
ひまり「でも虫なら大丈夫だよ?あいつら夜行性だから。」
ひまりから思いもよらぬ情報が入った。
カル魔耶「!」
ひまり「多分あなた達がその巨大な虫に会ったのは夜中でしょ?昼間は出会わないもの。」
確かに思い返してみると、虫に襲われたのは真夜中だった。
でも…
カルセナ「なんでそんなことがわかるの?」
疑問を口にする。
ひまり「あら、この街では常識みたいなものよ。街の図書館に本もあるし」
…本もあるのか…
今はまだ朝。夜ではない。あの森は結構遠かったが、飛んでいけばそんなにかからないだろう。
カルセナと魔耶は顔を見合わせる。
魔耶「…行ってみる…?」
カルセナ「…覚悟を決めるか。」
こうして、再びあの森に行くことになったのだ。

67:多々良:2020/03/30(月) 22:41


魔耶「それじゃあ、行ってくるね」
ひまり「うん、気を付けてねー。いくら虫が夜行性だからと言え、あの森には危険な動物も沢山いるから」
カルセナ「そう言えば.....まぁ取り敢えず行かないと分からないしね。行ってきまーす」
大きな箱を背負った二人は、ひまりの見送りを後にして例の森へ向かった。
魔耶「とにかく動物には気を付けないとね....」
カルセナ「まー、魔耶なら大丈夫でしょ〜。もしかしたら、近くにニティさんも居るかもしれないし」
魔耶「まず危険な目に遭うかどうかも分からないけどね.....遭わない様に祈ろう」
カルセナ「そうだねー。いやーそれにしても、良いお天気ですな」
視界を遮る雲は無く、これが散歩だったらさぞかし心地の良いものだろう。
魔耶「本当、良い天気〜.....あ、そうだ。その箱に、毒きのこだけは絶対入れないでよ?」
カルセナ「おぉ〜?なかなか難しいぞそれは〜。私が食べたやつならともかく、他は分からんぞ〜?」
魔耶「むぅ.....これ毒きのこ入れちゃったら一発アウトだろうからなぁ.....」
その事を考えた魔耶は顔をしかめて頭を抱えた。
カルセナ「んー大体なら見た目で分かるものは分かんじゃね?多分」
魔耶「ほんと適当だなぁ......そんなんだから、あんな目に遭っちゃったんだよ〜....」
軽く溜め息をつく魔耶を見て、カルセナはむっとした。
カルセナ「あ、言ったな?今度魔耶のご飯に毒盛っといてやろー」
魔耶「やめい!死ぬわそんな事したら!!」
カルセナ「嘘です〜嘘嘘。そんなんする訳ないっしょ〜」
魔耶(こいつ.....やりかねないぞ......。)

そんな雑談をしている内に、目的の森が見えてきた。
やはりいつもと変わらず、木が鬱蒼と生い茂り上空からは確認しづらくなっている。

カルセナ「おっ、見えた見えた、トラウマの森〜♪」
魔耶「最低な名前だな......私らにとっては最適ではあるけどさ....よしっ、じゃあ任務開始かな!!」

68:なかやっち:2020/03/31(火) 10:33

カルセナ「よっと…到着〜」
魔耶「さーて、キノコ&木の実探ししますか〜…」
森の中を散策し始める魔耶とカルセナ。
木々の葉の間から朝の太陽の光が降り注ぐ。まだまだ夜にはならないし、多分虫の心配はないだろう。
そう思ってホッと安心する魔耶だったが…
カルセナ「おっ、これキノコだよ!入れとこ…」
早速カルセナがキノコを発見したらしい。
魔耶「まって、そのキノコ見せて!」
少々心配になってキノコを見せてもらう。カルセナは結構適当だからな…
カルセナ「こーゆーキノコ。大丈夫そうじゃない?」
カルセナが持っていたキノコは青と紫でグラデーションだった。てっぺんは尖っていて、あちこちに棘が生えていた…
いや、これを大丈夫だと思うカルセナの感性が大丈夫じゃない。キノコが自分から「毒あります。食べたら死にます」って言ってるようなものじゃん。こんな★the•dokukinoko☆みたいなキノコ逆に珍しいよ。虫がいないだろうなんて思って安心してた私がバカだったよ。カルセナがいる限り私は安心できないわ。
魔耶「…カルセナは、木の実探して。私がキノコ探すわ。」

69:多々良:2020/03/31(火) 14:41

カルセナ「あ、そう?んじゃあよろしく〜」
魔耶が呆れたかのような表情でそう言ったので、きのこ類は魔耶に任せることにした。
カルセナ「で、このきのこは?」
魔耶「……そこら辺に投げとけ。それ絶対毒きのこだから」
カルセナ「そうだったのか〜…ほいっと」
魔耶の指摘により自分が採ったきのこが毒だと認識したカルセナは、茂みにきのこを投げ、木の実がありそうな場所を探すことにした。
カルセナ「木の実と言ったらやっぱ木に生えてるもんかな?」
そう考えて上を慎重に見ていると、何か赤い実が沢山生っている木を見つけた。
カルセナ(あれ良さそうだな……んーでもまた毒だったらどうしよう…魔耶にばっか頼るのも悪いし………)
カルセナは、魔耶に聞いて安全に採る方法と、自分で食べて確かめる方法で迷っていた。だが、魔耶に迷惑をかけたくないと言う思いが勝り、思い切って食べてみることにした。
魔耶「カルセナ?何やってんの?」
赤い実を一つ採り、何かを考えているカルセナを不審に思い、魔耶が声を掛けた。
カルセナ「多分大丈夫だよね……」
次の瞬間、赤い実はカルセナの口に運ばれた。
魔耶「ちょっ!駄目だって‼」
カルセナ「……うっ」
魔耶は、カルセナが毒きのこを食べ苦しむシーンを思い出した。やっぱり任せてはいけなかったのだろうか。急いでカルセナの元へ駆け寄り、表情を確認した。
魔耶「何やってんの‼?……って」
少し様子が違った。
魔耶「ねぇ、どうしたの…?」

カルセナ「う……うまぁい…」

喜びに満ち溢れているカルセナを見て、ある意味呆れた。
魔耶「ほんっとに、世話の焼けるやつ……。」

70:なかやっち:2020/03/31(火) 15:31

カルセナ「いや、まじでウマイ!桃と梨が合体したような味がする!」
ひとりで感動してはしゃぐカルセナ。おいしいおいしいと言いながら食べ進めている…
魔耶「……ハァ…」
呆れてものも言えない。
もし毒だったらどうするんだ…てかなんで食べた?
すると、私の心を読んだかのようにカルセナが言う。
カルセナ「これが毒かどうか聞いて、また迷惑をかけたくなかったからさ〜」
なるほど…カルセナはこれ以上私に迷惑をかけたくなかったから…毒かどうかを私に聞かずに確かめる方法として、毒味という形をとったのか。
魔耶「いや、仮にそれが毒だったらさ、私に毒かどうか聞くより迷惑かかってたと思うんだけど?」
もしあの木の実が毒だったら、またニティさんのところまで運ばなければ行けなかった。その方が私にとって迷惑だと考えなかったのだろうか…
カルセナ「あ、確かに。」
考えなかったようだ。


魔耶「あ、このキノコ…いけそう。」
気を取り直して採取を進める二人。
カルセナはさっきの赤い木の実をひたすら籠に入れていた。
たくさん実っていたようで、これならカルセナの籠は満タンになるだろうと安心する。
…私はというと……嫌いで、あまり見たくもないキノコを選別していた。
知識がないので、魔族のカンで食べられるかどうかを判断する。たまに食べられそうなのはあったが、ほとんどは危なそうなキノコだ。なかなか籠がいっぱいにならない。
魔耶「う〜…キノコは嫌いなのに…だからと言ってカルセナに任せるのは危険だからなぁ…」
カルセナ「ん?なんかいった?」
どうやら独り言が聞こえたようだ。
魔耶「カルセナさんのキノコの選別センスが絶望的だなって。」
カルセナ「いや〜、そんなふうに言われると…///」
魔耶「褒めてないからね?」

なんて軽口を言いながら黙々と作業を続けること約1時間…私の籠もいっぱいになった。

71:多々良:2020/03/31(火) 16:05

カルセナ「ふう〜疲れた、そっちどう?」
魔耶「うん、何とかいっぱいにはなったけど....毒きのこが混じってたら怖いなぁ.....」
カルセナ「魔耶の感覚で採ったなら大丈夫だってー。私より優れてるんだから」
能天気な事を言うカルセナに魔耶は疑問を抱きながらも、取り敢えずは目的を達成したので帰ることにした。
太陽を見るに、今の時間帯は正午前くらいだった。
魔耶「あーお腹空いたなぁ....今日はどんなご飯が食べられるのかな」
カルセナ「私はさっき木の実食べたから、なから丁度良いんだよね......」
魔耶「だろうねぇ。ご飯楽しみだな〜.......(それにしても何だろう、何か疲れたなぁ.....)」
魔耶は、カルセナにはない謎の疲れが出ていた。きのこを探した疲れは勿論だが、それ以外の疲れ....。
恐らくカルセナに対する呆れから出て来たものだろうと推測した。
カルセナ「....どした?大丈夫?」
魔耶「あ、う、うん別に大丈夫....」

(そんな訳無いか。そうだよね....。)

こんな事を考えつつ、街にあるギルドへと向かった。

72:なかやっち:2020/03/31(火) 17:04

魔耶「う、ん?あれっ…」
街に向かって飛んでいると、最初はそんなことなかったのに…いきなりうまく飛べなくなった。真っ直ぐ飛ぼうとしても、右へ左へと勝手に違う方向に飛んでしまう。
疲れのせいかと思ったが、飛べなくなるほど疲れることはしていない…はず…
魔耶「ぐっ……!」
なんとか真っ直ぐ飛ぼうとするが、意識すればするほど翼は言うことをきかなくなっていく。

と、突然、魔耶の翼がまったく動かなくなってしまった。
魔耶「‼」
さっきまでは思い通りにはいかなくとも、一応動いてはいた。なのに今はピクリとも動かない。翼が動かなければ空は飛べない…!魔耶は下へ下へと落ちていく。
魔耶「…うぁっ!…カ、カルセナっ…!」
友に助けを求めるが、カルセナは私より前にいる。カルセナのほうが飛ぶスピードが遅いため、魔耶がカルセナに合わせるために前にいってもらっていたのだ。
それに、いまは急いで帰ってご飯を食べようと、スピードを出して飛んでいるときだった。風の音で私の声なんて聞こえないだろうーー


そんなことを考えていたら、地面に衝突した。
ドンッという強い衝撃が背中から伝わる。衝撃で一瞬息ができなかった。
魔耶「がっ、がはっ…げほっ…!………いっ…!」
痛みを感じて背中を抑える。骨にヒビでもの入っただろうか。
魔耶「…ハァ………カル、セ………」
…そこで私の意識は途絶えてしまった。

73:なかやっち 訂正:2020/03/31(火) 17:08

×ヒビでもの
⚪ヒビでも

74:多々良:2020/03/31(火) 18:44

カルセナ「ふぃ〜、やっと街見えてきたねー。これを納品すれば良いんだよね?」
街が見えてきた為、地面に降りようと速度を緩める。
カルセナ「いやーお疲れ様〜、ご飯ほんとに楽しみだねぇ」
積極的に魔耶に魔耶に問い掛ける。だが魔耶の反応が無い。
カルセナ「ちょっと無視しんといて?確かに、不意に迷惑掛けようとしたのは悪かったです、すみませんでした〜.....」
平謝りをしながら後ろを振り替えった。そこには居る筈の魔耶の姿は無かった。
カルセナ「あれ....魔耶.......?」
さっきまで後ろを着いてきていた魔耶が突然居なくなっていたことに戸惑いを隠せなかった。
カルセナ「.....怒って先に街行ったのかな.......」
探しに戻ったとしても、何処に行ったのか分からない。第一、どこで居なくなったのかすら知らない。カルセナはひとまず街へ戻る事にした。街にはひまりとみおが居る。きっとどちらかに会っている筈だ。そう思ってー。

ひまり「魔耶?さー知らない......みお見た?」
みお「見てない....」
ひまり「て言うか、二人で依頼受けにいったじゃん。森では一緒じゃなかったの?」
カルセナ「いやー森では二人で行動してたけど......いつの間にか居なくて」
ひまり「おかしい....それ絶対おかしいわよ、何かあったんじゃないの?」
そう言われても、心当たりが無い。ちょっと気まずい雰囲気になったとは言え、帰りは一緒に飛んでいたが、何にしろ前後別れて飛んでいたものだ。何かあったのでは、と言われても分かる筈が無い。同時に胸騒ぎがしてきた。先導する者が居なくなったからなのか、ただ単に魔耶が心配になったからなのか。大体の答えは後者だったが、もしかしたら前者も少し混ざっていたのかもしれない。

カルセナ(どうしよう......魔耶、どこに居るの?)

75:多々良:2020/03/31(火) 18:45

訂正、魔耶に×2→魔耶に×1

76:なかやっち:2020/03/31(火) 22:30

魔耶「………うっ…」
目を開けてみる。景色がぼんやりと霞んでみえた。
…体が…特に背中が、痛い。ずきずきと一定間隔で痛む。なんでこんなに背中が痛いんだろ…
少しだけ体を起こしてみようとしたが、体がピクリとも動かない。唯一動かせた頭だけ起こしてまわりを見渡してみる。
魔耶「ここは…草原…?」
なぜ自分は草原で寝ているのか、なぜカルセナが居ないのか…思い出すのに時間がかかった。
1分ほど考えてハッとする。
(そうだ、私は飛んでいて、途中で飛べなくなって地面に落ちて…)
そして、今に至るのだ。
…どれくらい、気絶していたのだろう。
どれくらい気を失っていたのか確認するために、限界まで頭を上にあげる。
太陽が私の真上でひかりを降り注いでいた。今はお昼時だろうか。だとすると、私は3〜4時間ほど気絶していたのか…?
魔耶「あっ…くぅっ…!」
限界まで頭をあげたせいで、背中がズキィと痛んだ。
魔耶「…どうしよ…」
体は動かせない、体に負担をかける大声や能力も使えない。
魔耶は、今自分が、恐らく人生で最大のピンチを迎えているのだと気がついた。
魔耶「え、やばくね…?」

77:多々良:2020/03/31(火) 23:28

カルセナ(この街に居ないんだったら....元来た道を探すしかない....!!絶対見つけてやるんだからね、魔耶....!!)  「ちょっと戻って捜してくる!!」
ひまり「え、ちょっ、ねぇ!!この木の実は!!?」
カルセナ「どこか端っこに寄せといて!!」
そう言って、脇目も振らずにその場を飛び立った。魔耶を捜しに行く為に。

ーそう、「その場」で「飛び立った」のだ。

ひまり「......ッ!!飛んだっ.......!!?」
みお「......!!!」
驚いたのはひまりとみおだけではなかった。周りの町人達もその光景を見て驚き、辺りは一気にざわつき始めた。後の事を考えないのが、カルセナの悪い癖だった。だが、そんな事も気に掛けず、カルセナは魔耶を見つけ出す為に空腹の体で、全速力で捜しに向かった。

カルセナ「魔耶が動いてなければ、そこにいる可能性があるのは....ここのルートな筈!」
何故居なくなったのかは分からないが、魔耶は何も言わずにわざと姿を消す様なやつでは無いことだけは分かっている。少し街から離れた地点から、大声で叫び始めた。

カルセナ「「 魔耶ーー!!!どこーーー!!? 」」

いつもは絶対に出さない、声が通らないカルセナにとっての本気の大声だった。
この大声を頼りにして、凶暴な飛竜が襲って来たって怖くない。
普段大声を出さなかったせいで喉が壊れたって構わない。
一番嫌なのは、この声に魔耶が反応してくれない事。二度と、会えなくなってしまう事。
それほどに、カルセナは魔耶の姿を求めていたのだ。
その眼に宿った光は、困ってしまった時に役立つ道具を探すかの様なものではなく、一緒にこの世界で生き抜いて行く、大事な大事な相棒を捜すものへと変わり果てていた。

魔耶は何処に居るのだろうか。無事で居てくれているのだろうか。
色々な想いを胸に抱き、見つけるまで捜し続けると言う事を自分自身に強く誓った。


カルセナ「絶対、ぜったい無事でいてよね......!!魔耶.....!!」

78:なかやっち:2020/04/01(水) 08:29

魔耶「……カル…?」
遠くからカルセナの声が聞こえたような気がした。
だが、あくまで気がしただけ。
もしかしたら、自分が助けを求めるあまり、勝手に幻聴をつくりだしてしまったのかもしれない。

(…助けを、求めるあまり…?)
…私は、無意識のうちに人に助けを求めていたことに気がついた。
もとの世界では、私は独り暮らしだった。だから自分のことは自分でやらなければいけなかった。けがをしたって、動物を狩ることだって、全部、自分で…。
でも、今は…?
ひとり動けず、他人に助けを求めているではないか。
確かにいまは危機的状況だが、自分で解決しなければ…!
他人に頼ってはいけない…自分で…!
(でも、体はまったく動かないし…どうすれば…)
言うことをきかない体を無理やり動かそうとジタバタしている魔耶。

ーと、こんどは幻聴ではない…!そうはっきり言い切れる、彼女の声が聞こえた。姿は見えないけど、声は聞こえる。
その声がどんなに暖かくて、優しくて、ぬくもりのある声に感じただろうか。
彼女の声を聞いただけで、少し体に力が湧いてくる。
そして、自分で解決!なんて言っていたのはどこへやら、
気がついたら大声で叫んでいた。
魔耶「カルセナ〜!!」
大声をあげて、背中がミシミシと音をたてたけど、構わない。
とにかくカルセナに、私の声が届いてほしかった。

79:多々良:2020/04/01(水) 12:03

カルセナ「魔耶ーー!!!」
大声で名前を呼んでは耳を澄ます、という行為を繰り返している内に、ある不安が頭を過った。
カルセナ(もしも魔耶が気絶してたり、声を出せない状況だったらどうしよう.....)
家の姉妹の中でもカルセナは、視力と聴力だけはずば抜けて良い方だった。しかし、もし魔耶が洞窟や森の中で倒れていたりしたら見つけようが無い。第一、このルートに居るのかどうかすらも怪しい。魔耶の姿が見えなくなる時間が増える毎に、カルセナが抱く不安も増えていった。
だが、その不安を切り裂くかの様な、助けを求める小さな声をカルセナは聞き逃さなかった。

???「「 ......!! 」」

カルセナ「....ッ!!魔耶!!?」
確かに聞こえた。この私に、迷惑を掛けてしまいそうな私なんかに助けを求めてくれる、優しい魔耶の声が。でも、その声はどこか苦しそうなものだった。
カルセナ「やっぱり何か怪我とかしてるんだ....!!魔耶ぁーー!!!どこに居るのーーー!!?」
声が聞こえる、と言うことはかなり近くに居ると言う証拠だ。残りの体力を全力で消費するかの様な勢いで、魔耶の姿を懸命に捜す。
声に導かれた先は、広い草原だった。大きな岩山を越え、いきなり開けた視界に少し耽ってしまったが、声の主はここに居る筈。と思い草原を一望すると、何やら青い影が見える。近付きながら目を凝らす。外見は世間で言う少女、茶髪の上から青い猫耳の付いた帽子を被り、背中には今は元気の無い、それでも尚且つ、威風堂々とした闇を纏ったかの様な羽。
見間違えようとしても見間違えられない。正真正銘、その姿はーー。

カルセナ「.......魔耶ぁっ!!!」

80:なかやっち:2020/04/01(水) 13:30

魔耶「カル、セ……げほっ。げほっ!」
息が苦しくなってげほげほと咳き込んでしまった。大声を出したせいで喉が痛い。おまけに背中もずきずきと痛む。
…私の声は、カルセナに届いただろうか。
届いていなかったら…という不安がちらりとよぎる。
姿が見えないのだ。それだけ遠くにいるということだろう。
いや、声が聞こえたなら近くにいるのか…?
…わからない。頭がうまくまわらない。考えがまとまらない…
魔耶「カルセナ…っはぁ…はぁ…」
あたりの景色がぼんやりと霞み始めた。
唯一動かせていた頭も重くなっていく。
また気絶してしまうのか…?カルセナには声が届かなかったのか…?

あきらめてだんだん重くなっていく体に身を委ねようとした、そのとき。
霞んだ目に、この草原にはない色がみえた。
草原の黄緑色ではない。まったく違う色……黄色と水色。
その色は動いているようで、ヨロヨロと私に近づいてくる。
私は、その色に見覚えがあった。黄色と水色の帽子がトレードマークの彼女の姿が思い浮かぶ。
ずっと待ってた人。私にとって大事な人。
カルセナ「………魔耶ぁっ!!!」
魔耶「カルセナぁ…」

81:多々良:2020/04/01(水) 15:17

魔耶を見つけた瞬間の気持ちは、具体的に言葉では言い表せなかった。今すぐにでも言葉を交わして喜び合いたい。だが、歓喜に浸っている時間はどうやら無さそうだった。
魔耶「うぅ.....あ......」
殆ど動かず気絶しているかの様で、普段の様子とは見違える程に弱っていることはカルセナにも分かった。
カルセナ「魔耶っ!!どうしたの!!?....うぅん、聞いてる時間は無いよね....急いで街に行って診て貰わないと!!」
そう言って、魔耶をそっと背中に背負った。
カルセナ「少し辛いかもしれないけど.....我慢してね....!!」
そして、その場から飛び立ち再び街に戻った。近くのニティの所へ行っても良かったのだが、原因が分からない怪我なら病院へ行った方が確実だと思ったからだ。
飛ぶ時の重心が更に加わるので、何度も体の力を緩めて魔耶を落としそうになった。それでも何とか、街が見える距離まで戻って来る事が出来た。
カルセナ(今度は絶対....私が魔耶を助けるんだ....!!)
街に入る門の上を通り越し、時計台の下にゆっくり着地した。
辺りには騒然とし、一定の距離を置いてこちらを見る人達が沢山居た。きっと、カルセナが魔耶を捜しに行く際に飛び立った事がどんどん人々の間に流れ、一目見ようと集まって来たのだろう。そして今、背負っている魔耶の背中から羽が生えているのを見て、ますます騒がしくなった。その中で、カルセナは言葉を発した。
カルセナ「誰か....病院へ案内してくれませんか!?友達が危ないんです....!!」
それを聞いた人々は、一気に静まり返った。だが、案内すると名乗り出る者は出て来なかった。寧ろ二人を警戒しているかの様にも見えた。
魔耶「うっ.....ゲホッ、ゲホッ....!!」
カルセナ「魔耶.....!.......ッ!!お願いします!!誰か......ッ」
視線とプレッシャーに耐えきれず、それ以上言葉が出なかった。

ーもう良い、自分で探そう。病院を見つけて、それで診て貰えなかったとしてもーー私がどうにかしてやる。

そう考え、再び飛ぼうと足を曲げた時。

「「 病院はこっちよ!着いてきて!! 」」

良く見覚えのある少女が二人、そのうちの一人が声を上げた。

82:なかやっち:2020/04/01(水) 16:01

魔耶「ん…うぅん…?」
重い瞼を開けると、薄暗い、真っ白な天井が映った。
体の上に白い布団がかけられている。私は今、ベッドで仰向けになっているようだ。
背中になにか巻かれているのだろう、背中に違和感があったが、痛くはない。

そっと体を起こしてみる。すると、私の隣にカルセナがいるのを見つけた。私が寝ていた布団の上で、腕を枕にしてスゥスゥと眠ってしまっている。
魔耶「…ここは…?」
暗くてよく見えないが、白い壁、床、布団、ベッド。
病室のようだ。では、ここは病院…?
ひまり「あら、おはよう。」
魔耶「ひまり…?」
あたりが暗くて気がつかなかった。
魔耶「…ハッ!」
いままで気にしていなかったが、私はいま翼を出している!
ひまりにみられただろうか。慌ててごまかそうとする。
魔耶「あ、この翼はね、外国のオシャレで…」
ひまり「アハハッ。大丈夫よ、事情はカルセナから聞いたわ」
私の必死なごまかしをみてケラケラと笑うひまり。
魔耶「え…聞いたの…?どこまで…?」
ひまり「全部よ。あなたたちが異世界からきて、どんなことがあった、とかね」
魔耶「じゃあ、私の種族も…?」
ひまり「えぇ、魔族でしょう?」
魔耶「…正解…」
カルセナはすべてを話してしまったのか…
魔耶「…私が、怖くないの…?」
カルセナはすぐに受け入れてくれたが、ひまりは人間。
私みたいな化け物に対して恐怖心を抱いているハズ…
だが、私のそんな考えはみごとに打ち砕かれた。
ひまり「なんで怖がらなきゃいけないのよ…あなたが魔族なのはショックだったけど、あなたの性格はもう知ってるわ。あなたみたいな人…いや、魔族か…が私を襲ったりしないでしょう?だったら、怖がる必要なんてないわ」
…ひまりは思ってたより肝が座っているようだ…。
と、カルセナがもぞもぞと動き出した。

83:多々良:2020/04/01(水) 17:39

カルセナ「う〜....」
伏せていた体をゆっくりと起こして目を擦り、ぼやける視界に映る人物に目をやる。
カルセナ「....魔耶?.....あ〜魔耶、魔耶だー.....」
名前を何度も呼んで確認する。その様子は寝惚けている様に見えたし、自分にとって大事な人が元気を取り戻した事に喜んでいる様にも見えた。
ひまり「ちょっとちょっと、しっかり起きて話しなさいよ」
ぽや〜んとしているカルセナの頬を、ひまりがぺしぺしと軽く叩く。
魔耶「良いよ、無理に起こさなくても」
ひまり「駄目よそんなの、せっかくちゃんと喋れる時なんだから〜」
カルセナ「ん〜....ちょ、痛い痛い....。.....あっ!!魔耶っ!!!大丈夫!?」
はっ、と目が覚めたカルセナは改めて魔耶の起きている姿を見て、大丈夫か問い掛けた。
魔耶「うん、今は平気だよ。おはよ」
カルセナ「あっ、おはようございます........そーか、それは良かったぁ」
魔耶「ここまで運んでくれたのってカルセナでしょ?....ありがとね」
カルセナ「はぁ、いやいやそんな、滅相も無い.....」
急にお礼を言われて少し照れ臭くなった。少し視線を逸らす。
魔耶「....話したんだね、全部」
カルセナ「うん.......何か....嫌だった?」
魔耶「いーや、別に?逆に隠す事も無くなって、ちょっとスッキリした感じもするし....」
ひまり「他の皆は少し警戒しちゃうかもしれないけど....私達がしっかり説得しとくから、安心して」
魔耶「ありがとう、ひまり」
魔耶は視線をひまりから窓の外へと移した。結構時間が経ってしまったらしく、空は暗いが、それに負けじと街の灯りが輝いている。
少し雲がかかってはいるが、煌々とした満月はそれをも打ち消す程に綺麗だった。
再び魔耶は、窓の外から今度はカルセナに視線を送った。カルセナと目が合う。
魔耶「....カルセナ」
カルセナ「はいはい?」
はぁ、と一息吐いて、魔耶が言葉を口に出す。


魔耶「.....寝跡めっちゃ付いてる....」


カルセナ「.....へっ?」

魔耶の指摘にきょとんとしたカルセナを見て、ひまりは隣で軽く吹き出し、面白可笑しそうに笑った。

魔耶(どうなっても、世話が焼けるんだなぁこの人は....)

そんな事を考えていた魔耶だったが、急に自分達が受けていた依頼内容が頭を過った。

84:多々良:2020/04/01(水) 17:39

カルセナ「う〜....」
伏せていた体をゆっくりと起こして目を擦り、ぼやける視界に映る人物に目をやる。
カルセナ「....魔耶?.....あ〜魔耶、魔耶だー.....」
名前を何度も呼んで確認する。その様子は寝惚けている様に見えたし、自分にとって大事な人が元気を取り戻した事に喜んでいる様にも見えた。
ひまり「ちょっとちょっと、しっかり起きて話しなさいよ」
ぽや〜んとしているカルセナの頬を、ひまりがぺしぺしと軽く叩く。
魔耶「良いよ、無理に起こさなくても」
ひまり「駄目よそんなの、せっかくちゃんと喋れる時なんだから〜」
カルセナ「ん〜....ちょ、痛い痛い....。.....あっ!!魔耶っ!!!大丈夫!?」
はっ、と目が覚めたカルセナは改めて魔耶の起きている姿を見て、大丈夫か問い掛けた。
魔耶「うん、今は平気だよ。おはよ」
カルセナ「あっ、おはようございます........そーか、それは良かったぁ」
魔耶「ここまで運んでくれたのってカルセナでしょ?....ありがとね」
カルセナ「はぁ、いやいやそんな、滅相も無い.....」
急にお礼を言われて少し照れ臭くなった。少し視線を逸らす。
魔耶「....話したんだね、全部」
カルセナ「うん.......何か....嫌だった?」
魔耶「いーや、別に?逆に隠す事も無くなって、ちょっとスッキリした感じもするし....」
ひまり「他の皆は少し警戒しちゃうかもしれないけど....私達がしっかり説得しとくから、安心して」
魔耶「ありがとう、ひまり」
魔耶は視線をひまりから窓の外へと移した。結構時間が経ってしまったらしく、空は暗いが、それに負けじと街の灯りが輝いている。
少し雲がかかってはいるが、煌々とした満月はそれをも打ち消す程に綺麗だった。
再び魔耶は、窓の外から今度はカルセナに視線を送った。カルセナと目が合う。
魔耶「....カルセナ」
カルセナ「はいはい?」
はぁ、と一息吐いて、魔耶が言葉を口に出す。


魔耶「.....寝跡めっちゃ付いてる....」


カルセナ「.....へっ?」

魔耶の指摘にきょとんとしたカルセナを見て、ひまりは隣で軽く吹き出し、面白可笑しそうに笑った。

魔耶(どうなっても、世話が焼けるんだなぁこの人は....)

そんな事を考えていた魔耶だったが、急に自分達が受けていた依頼内容が頭を過った。

85:多々良 hoge:2020/04/01(水) 17:39

【二回書いちゃった....】

86:なかやっち:2020/04/01(水) 17:51

[ドンマイw]

87:なかやっち:2020/04/01(水) 18:12

魔耶「そうだ!受けてた依頼は…?」
カルセナ「あぁ、それね。大丈夫クリアしといたよ。」
カルセナの言葉を聞いてホッと一安心する魔耶。
魔耶「よかったぁ。毒キノコも混ざってなかったのかな。」
カルセナ「あぁ、それね…」
複雑そうな顔をして斜め下に視線をおとすカルセナ。
魔耶「え…?なに、どうしたの…?もしかして、混ざってた…?」
カルセナの顔を見て不安になる魔耶。
ところが、カルセナが発した一言で、不安が驚きに変わった。
カルセナ「あのキノコの中に超高級なキノコが入っててさ。依頼人がものすごく喜んでたって。私の集めてた赤い木の実もレアものだったらしいよ。」
魔耶「…え?はぁぁ!?」
思わず大声を出してしまった。通りかかったナースから嫌な顔をされたが、驚きで気にもとめなかった。
ひまり「いや〜、まさかあのキノコと木の実を採ってくるとはね。私も中身をみて驚いたわ」
魔耶「え、そんなに凄いの…?」
ひまりがクスリと笑う。
ひまり「あなたが採ってきたキノコは、あの森で採れるのは10年に一度だと言われてるわ。木の実は8、9年に一度くらいかしらね〜」
魔耶「えええっ!!そ、そんなに凄いやつ採ってきちゃったのか…」
またもや驚きの声をあげる。
偶然とはいえ、そんなことあるのだろうか…
カルセナ「まぁ、うちらの運が良すぎたんだね!」
カルセナが元気にそう言うが、ひまりの言葉に私もカルセナも納得せざるをえなかった。
ひまり「いや、いままでの運が悪すぎたから、ようやく幸運が訪れたんでしょ。プラマイ0ってこと。」
カル魔耶「な、なるほど…!」

88:匿名希望:2020/04/01(水) 19:35

カルセナ「そのお陰で報酬も少し多めに貰えたんだー」
そう言って胸ポケットから銀色に輝く硬貨を取り出して魔耶に渡して見せた。
その硬貨は、ちょっと前に魔耶が作ってみせた硬貨より一回り大きく、何かの模様が彫られていた。
魔耶「へぇー、まるで外国のお金みたいだね」
カルセナ「何か、この世界共通で使ってるお金なんだってさ」
ひまり「そうなの、便利でしょ?あ、あと魔耶の報酬は、この街の銀行口座に入ってるからね」
思い出したかの様に通帳を取り出して、魔耶に渡した。
魔耶「あぁ、ありがとう」
ひまり「それと、魔耶の怪我の現状なんだけど....背骨が圧迫骨折しそうになってたそうよ」
魔耶「うぅ....だから羽が動かなかったのか.....」
カルセナ「で、それいつ治るの?早く治って欲しいけど.....」
ひまり「通常なら3〜4週間で、骨が形成され始めるそうよ。早くても2週間は掛かるって言われたわ....」
魔耶「2週間かぁ....どうしようかな......」
少し凹む魔耶を見て、カルセナは心配した。
カルセナ「....でもそれって人間の骨折の場合でしょ?魔耶は魔族なんだし、もしかしたら回復スピードは普通の人間とは違うかもよ?」
ひまり「確かに....それは一理ある。でも、ここの病院じゃ魔族のデータなんて無いから分からないわよ。だから、そうである事を祈るしかないわね」
カルセナ「うー....早く治ると良いねー......」
魔耶「そうだねぇ.....」

ふと時計を見ると、夜の八時を回っていた。
ひまり「おっと、もうこんな時間....ごめん、私そろそろ帰らないと」
魔耶「うん、今日はお世話になったよ、ありがとう」
カルセナ「またね、ばいばーい」
ひまり「良いのよ、じゃあお先に失礼するわ。お大事にね」
そう言って、ひまりは病室を後にした。

89:多々良 hoge:2020/04/01(水) 19:36

【匿名になったぁぁぁ!!駄目だああぁ今日】

90:なかやっち:2020/04/01(水) 19:49

[誰だ貴様あぁぁー!!!!嘘ドンマイ!!]

91:なかやっち:2020/04/01(水) 20:16

魔耶「さて、どうしよう。あんまり動かない方がいいよね…でもお腹すいた。」
魔耶のお腹がぐぅ〜っと鳴った。朝から食べてないうえに飛んだり怪我したりでカロリーを消費したのだ、無理もない。
カルセナ「あ、じゃあなんか買ってきてあげるよ。なにがいい?」
魔耶「まじ?まぁ食べれたらなんでも…あ、キノコと苦いもの、辛いもの以外でお願いします。」
カルセナ「苦いものと辛いものも嫌いなのか……もしかして、お子様舌?」
カルセナのその一言にギクリとする。
…図星だった。
魔耶「…その通り…。」
ガックリと肩をおとす。
カルセナ「あははっ!じゃあそれ以外のなんか買ってくるね〜。飛んだり暴れたりするなよ〜」
魔耶「しないわ。」
カルセナの一言に真面目にツッコミを入れる。
カルセナは私のツッコミに笑いながら病室をあとにしていった。
魔耶「…はぁ。まさか地面に落ちるとは。いままでの人生で初めての経験だったよ。」
ひとりきりになった病室で呟く。
魔耶の人生の中で初めてのことというのは珍しかった。
大抵のことは300年も生きていれば経験できるからである。
魔耶「……まさか、もう飛べなくなるなんてこと…ないよね?」
少し不安になってきた。
いままで飛べなくなったことなんて一度もない。
人間の感覚で例えると、いままで歩いていたら急に歩けなくなったようなものだ。
考えれば考えれるほど不安になってくる。
魔耶「…ちょっとだけなら、いいよね…?」
ベッドから降り、足で床を蹴ってみると…
[ふわり。]
魔耶「あぁ、よかった。ちゃんと飛べる…」
ホッと安心のため息をつく。
カルセナ「……暴れたり飛んだりするなって言ったような気がするんだけど…」
いつの間にかカルセナが病室のドアをあけて、中を覗きこんでいた。
魔耶「えっ、カルセナ!?は、速すぎない!?」
顔を赤らめて彼女の方を見る。
「しないわ」なんて真面目に返していた自分を思い出して恥ずかしくなってきた。
カルセナ「いや、外に出たらめっちゃ人がいてさ。魔族をみてみたい〜だとか、飛んでるとこ見せて〜だとか言ってて、まったく店に行けそうになかったから帰ってきたのよ。」

92:多々良:2020/04/01(水) 21:00

魔耶「あ〜成る程ね、てかひまり達の説得力半端無いなー」
そっと窓の外を見る。確かにカルセナの言った通り、いつもは人通りが少ない筈のこの時間帯に沢山の人がいる。
カルセナ「全く、見せ物じゃないっつーのって思ったよね〜。んで、何で飛んでたのよ貴女」
魔耶「いや〜....何か、飛べなくなったらやだなぁーって思って....」
カルセナ「そんな理由か、流石にんな事ないでしょ〜。てかご飯どーしよっかな....」
病院の中に売店はあるが、とてもこじんまりとしたものだったのであまり良いものは無かった。だから外で買って来たかったのだが、あんなに人集られては買える物も買えない。

カルセナ「.....と言うことで、院内の売店のパンとかでいっすか?いくつか買ってくるからさー」
とてもお腹が空いていたが、それならば仕方無い。第一、買って来て貰う立場として文句は言えない。
魔耶「うん、別に良いよー」
カルセナ「ほんじゃー再度行って来ますわ。また暴れんなよー?」
魔耶「さっきも暴れてないわ。」
再びカルセナが出て行き、ドアのパタン、という音がした瞬間にまた病室は静まり返った。
魔耶「.......魔族を見てみたいなんて、人間に言われるなんてね〜....不思議な感じだ....」
安静にしてろと言われて暇なので、仕方無く魔耶はぼーっと窓の外を見ていた。最初は病院の前に沢山人が居たが、時間が経つと少しずつ減っていき、遂に誰の影も見えなくなった。

カルセナ「たっだいまー!!さぁ土産だ受け取れ〜!!」
病室に入って来ると、紙袋の中からパンを2つ程取り出し魔耶に投げつけた。
魔耶「ちょっ....!!食い物を投げるなバカー!!」
カルセナ「うむ、元気そうで何よりだ☆」
やれやれ....と思いつつ受け取ったパンを見てみた。一つはチョココロネの様なもの、もう一つは卵サンドだった。
カルセナ「全然無いだろうなーとか思ったら以外とあって良かったわ〜。それよりも廊下がめっちゃ暗くて怖かったぁ....」
そう伝えながら、カルセナも自分のパンを取り出して食べ始めた。
いつになったら浮幽霊の怖がりは治るのだろうか....と考えつつ、魔耶も卵サンドを食べ始めた。

カルセナ「はいこれ飲み物。んー....多分お茶だね」
魔耶「いや分からないの買って来んな〜....苦かったらどうするのさ」
カルセナ「まぁまぁ、何だっけ?毒薬変じて薬となるって言うしさ、大丈夫!!」
そう言うとカルセナは魔耶の前でグッドサインをして見せた。
魔耶「めっちゃ苦かったらお前の顔に掛けたるからな?」
冗談半分で言ったは良いが、どちらにせよ苦いのは嫌だ。苦くないお茶でありますように....。

93:多々良 hoge:2020/04/01(水) 21:03

【人集られては→人に集られては】

(こうして多々良は読み直しを今度からすることを誓った....)

94:なかやっち:2020/04/01(水) 21:41

恐る恐る一口飲んでみる。
魔耶「…うっ…!?」
カルセナ「…!?魔耶!?」
魔耶がぶるぶるとふるれながら俯いた。
苦かったのだろうか。それとも不味かった…!?
魔耶「…うまい。」
カルセナ「殴っていい?」
つい本音がこぼれた。
魔耶「へへっ、いつかのお返しだよ〜だ!それにしても、この飲み物おいしいなぁ。ちょっと酸っぱいレモン水、的な。」
カルセナ「まぁ、そんなに美味しかったならよかったよ」
はぁとため息をつく。魔耶も私があの木の実を食べたときはこんな気持ちになったのだろうか。
…こういうイタズラは、控えよう。心に誓うカルセナだった。

魔耶「はぁ、まあまあお腹はふくれたかな。」
カルセナ「ならよかったよ。調子はどう?」
少し腕をまわしたり、翼をいじったりしてみる魔耶。
魔耶「大丈夫そう。背中もいたくないし。」
カルセナ「そう。よかったぁ〜…」
魔耶「いやー、まだこの世界に来て3日?4日?くらいしかたってないのに、毎日なにかしらのトラブルに合ってるね〜」
この世界で起きた出来事を振り返ってみる。
カルセナ「そうだねぇ。最初のトラブルは私がドラゴンに襲われたやつだね〜」
魔耶「呑気にいわないでよ、ほんとにぎりぎりで…」
カルセナ「……?」
魔耶「……!……?」
そのあとはひたすらカルセナと話こんだ。


〜5日後〜
魔耶「ふー。治った!快調快調!」
私の骨の様子を医者に診てもらい、無事に退院することができた。
カルセナ「お医者さん驚いてたね。こんなに早く治るとは〜って!」
医者の反応を思い出して二人で笑う。
魔耶「あははっ、魔族はすごいって思われたかな?」
カルセナ「そうだろうねぇ〜」
人間なら2週間は必要な怪我をたった5日で治したのだ、そんな反応にはなるだろうけど…やっぱり面白かった。
魔耶「さぁ、4日もおとなしくしてて体が鈍ってるんだ。クエストでも受けよう!」
カルセナ「いいね〜!私も暇してたんだ!」
二人で話ながらギルドに向かって歩き始めた。

95:なかやっち hoge:2020/04/01(水) 21:43

[ふるれながらじゃなくてふるえながらです。]
私もしっかりよみなおししよう…!と心に誓うやっちであった。

96:多々良:2020/04/01(水) 22:47

町人「やぁ元気かい、魔耶さん?」
魔耶「あ、こんにちはー」
町人「なぁ、魔族ってのは何か特別な力があったりするのか?あるんだったらちょっと見せてくれよ〜」
魔耶「いや〜....今は忙しいので....すみません、失礼します〜....」
ひまり達が街全体に説得してくれたお陰で警戒はされなくなったが、飛んでいる姿や能力を見ようと、今度は色んな人が集まって来るようになってしまった。
カルセナ「おぉ〜、魔耶さん有名人じゃないすかー」
魔耶「振り切るのが面倒臭いから、その面で捉えると嫌だよ?てか、カルセナには何で来ないの?人間じゃないのに....」
カルセナ「ん?あぁ、だって私の「種族」は言ってないもん。見た目はほぼ人間に等しいしね〜」
魔耶「なっ....貴様....!自分の種族を隠して人様の種族をさらけ出したんか.....!!」
カルセナ「はっはー、人生言ったもん勝ちだからねぇ〜」
それを聞いて、魔耶はピクリと体を動かした。
魔耶「ふぅ〜ん、言ったもん勝ちねぇ.......」
カルセナ「?....何だよ?」
何故かニヤニヤしている魔耶を見てカルセナは不審に思った。
次の瞬間、魔耶は大きな声で叫んだ。

魔耶「「 すみませーん!!この人ー、人間じゃ無くて幽霊でーす!!正真正銘の浮幽霊でーーす!!! 」」

カルセナ「何ィーーーッ!!?」
魔耶の大声に耳を傾けた町人らは、付き人のカルセナが浮幽霊だという事を知りざわつき始めた。
いきなりのカミングアウトに、カルセナは動揺を隠せなかった。
カルセナ「ちょちょ、魔耶さん?ご乱心ですか!!」
魔耶「私は事実を言っただけだよ?人生言ったもん勝ち、って言うからね〜☆」
やられた。完っ全に、やられた。やっぱり魔耶は魔耶だ。
カルセナ「〜〜ッ.....早くギルド行きましょう魔耶サン.....」
魔耶「はいはい♪」
今までより急ぎ足になって、ギルドへ向かった。

カルセナ「ふぃ〜.....全く、ビックリしたなぁもう.......」
魔耶「それより、何か良い依頼あるかな〜?」
自分達のランクに合った、達成出来そうな依頼を、いつ見ても依頼状だらけのボードからじっくりと探す。
???「貴女達、こう言うのはどうかしら?」
不意に背後から声を掛けられる。声の主は毎度お馴染み、ひまりだった。何やら依頼状らしき紙を持っている。
カルセナ「あ、ひまりだ。おはよー」
ひまり「おはよう。魔耶が無事に退院出来て良かったわ」
魔耶「お陰様でこの通りだよー。で、どうしたの?」
ひまりは持っている紙を二人に見せた。
ひまり「そうそう、さっき貼って来てってお願いされたんだけどね。空を飛べる貴女達だからこそ、受けやすい依頼なんじゃないかって思って」

97:なかやっち:2020/04/01(水) 23:19

魔耶「空を飛べるから受けやすい仕事?どれどれ…」
ひまりが持っている依頼状をジーっと見つめる。
カルセナ「…荷物配達…お願いします…?」
カルセナが依頼状を軽く読み上げる。
ひまり「そうそう!街のお婆ちゃんからの依頼なんだけど、重い荷物を運ぶのが大変だから代わりに運んでくれっていう依頼だね。あなたたちは空を飛べるから歩いて持っていくより楽だろうし、街の人たちもあなた達の飛んでる姿が見られるじゃない♪」
魔耶「…街の人たちが喜ぶのはいいけど、飛んでる姿みて騒がれるのも嫌だなぁ…」
自分が飛ぶ姿をみてわいわいと騒ぐ人々が目に浮かぶ。
ひまり「まぁまぁ、そういわずにさ。街の人たちも一度飛んでる姿みれば満足するんじゃない?」
カルセナ「…まぁ、一利あるかな…?」
魔耶「いやいや、見てみなさいよ。ギルドの出入口を。」
私はギルドの出入口を指で指す。
そこには、私とカルセナを一目見ようと街の人々がギルドを覗きこんでいる光景が…
魔耶「…これをみて、1回空飛んだだけで満足すると思える?」
カルセナ「…思えないな。」
ひまり「え〜…せっかくいい仕事見つけたのに〜」
ひまりが膨れっ面をする。
…せっかくひまりが選んでくれたのに、やらないっていうのもアレか…ひまりには色々お世話になっているんだし…
ひまり「じゃあ他のにする?」
魔耶「いや、ひまりが選んでくれたんだし…やろうかな…」
カルセナ「…色々お世話になってるしね。」
ひまり「本当!?よし、出してくる〜!」
自分の選んだ仕事をやってもらえるのがよほど嬉しかったのか、ひまりは目を輝かせながらカウンターの方へ走っていった。

魔耶「…頑張るかぁ。」
ちらりとギルドの出入口を見ながら呟いた。

98:多々良:2020/04/02(木) 09:49


しばらくすると、ひまりが荷物を台車に乗せて運んできた。
ひまり「はい、これらがお荷物よ。体積が少し大きいけど、重さはそれほどでもないから頑張ってね」
カルセナ「段ボール箱2つ....何とまぁ、丁度良いことかね」
魔耶「だねー。で、これをどこに届ければ良いの?何か地図とか....」
ひまり「ええ勿論、預かってるわよ。はい、どうぞ」
懐から地図を取り出し、魔耶に渡した。
カルセナ「何そこー....地図が全然読めんわ.....」
魔耶「うーん....これを見るに、東側....かな?」
ひまり「そう、ここから東南に真っ直ぐ進んで行くと、今度は東街があるの。そこに住んでいる、依頼人の娘さんに届けて欲しいんだって。住所もそこに載っているから、ってさ」
地図の隅っこを見ると、弱々しい文字で小さく住所が書かれていた。
魔耶「分かった、んじゃあ......行くか」
カルセナ「おーし、頑張るぞー」
二人はそれぞれ荷物を抱えると、地図を持っている魔耶を先頭にその場を飛び立った。
すると、その光景を見ていた町人からわぁっ、と歓声が上がった。
カルセナ「わー凄い歓声.....空飛んだだけでこんな騒がしくなるなんてな〜」
魔耶「ね〜。この先が思いやられるなぁ....東街見えたら、飛ばないで歩こっか」
カルセナ「うんうん.....あ、あと置いてくなよー?先頭に行ってって言われても地図読めんからなー」
魔耶「まぁ真っ直ぐ行くだけだけどね....極力置いてかない様にします〜」
こうして、魔耶達の姿は北街から遂に見えなくなった。
ひまり「あんなに警戒されてた二人が、今は私達よりも人気者だねぇ。ね?みお」
みお「うん、凄い....」
暫く二人が飛び去った空を見上げていた。
ひまり「....さ、私達もお仕事しますか!!」
みおはその言葉にコクリと頷いて、ひまりの後に続いて行った。

99:なかやっち:2020/04/02(木) 11:27

魔耶「なにげに、北街以外の街に行くのは初めてだね。」
カルセナ「確かにそうだね。どんなとこなんだろ〜」
二人で空を飛びながら話し始める。
魔耶「北街とは文化が違ったりするのかな…」
カルセナ「美味しい食べ物、あるかもよ」
魔耶「食べ物の話かよ〜」
なんて話していると、街が見えてきた。あれが東街だろうか。
カルセナ「あれ、意外と近かったね?」
魔耶「そうだねぇ。ここら辺から歩こうか。」

二人で地面に降り立ち、テクテクと歩きだす。
魔耶「…北街みたいに、街を壁で囲ってないね?」
気がついたことを声に出す。東街は壁もなにもなく、いつ動物が街の中に入ってきてもおかしくない状況だった。
カルセナ「ほんとだ〜…大丈夫なのかな?」
カルセナも心配そうだ。
この世界にはドラゴンやら巨大な虫やら危険な生物がたくさんいる。そんな中で街になんの対策もされていないのはかえって不自然に思えた。
魔耶「…とりあえず入ってみようか。」
カルセナ「そうだね…。あ、あれが入り口かな?」
カルセナが指を指した先にあったのは、北街のようながっしりした造りではない、簡易的なテントのようなものがあった。
テントはこじんまりとした…門…?の横についている。あれが、この街の入り口だろうか…
頼りない門とテントを見て、さらに不安になるカルセナと魔耶。
魔耶「…行ってみようか。」
カルセナ「…うん。」

100:なかやっち hoge:2020/04/02(木) 11:32

>>94
(あれぇ、一部4日になってる…5日っす。)

101:多々良:2020/04/02(木) 14:38

魔耶「すみませーん....誰か居ますか....?」
テントの中を覗いて見るが、誰の気配もしない。
魔耶「んー?おかしいなぁ....」
カルセナ「休憩中とか?」
魔耶「そうなのかな....でもこ今の時間帯に休憩するか?」
テントの支柱に掛けてあった時計を見る限り、まだ午前10時過ぎだ。街が活発になるこの時間に、休憩するなどあまり考え難い。
カルセナ「....誰も居ないんだったら入って良いんちゃう?」
魔耶「うーん、一回あっちの様子を見てみよっか」
魔耶達は、街や人の様子を確認するべく奥へ進んだ。

東街の街並みは北街と比べ少し小さいもので、人々の気配が殆ど無かった。
魔耶「人、全然居ないね....」
カルセナ「ちょっと怖いなぁ.....まさかのゴーストタウンだったりしないよね....」
又もやカルセナのビビりが発症しそうになっていた。
魔耶「んなまさか....取り敢えず、依頼先の住所まで行ってみよ。もしかしたら人いるかも」
カルセナ「そうね....そーしよう」
地図の住所を頼りに、目的地まで足を運ぶ。その道中では勿論、人っ子一人とも会わなかった。
カルセナ「おかしくないかあんまりにも!!マジで誰も居ないやん!」
魔耶「まぁまぁ落ち着けって....あ、ほら、あの家じゃない?」
その家に人が居ることを願い、ドアをノックした。
少し待っても、返事は帰って来ない。
カルセナ「....入ってみる?」
魔耶「そうするしか無いか....」
そっと出入口のドアを開けた。ギイィ....とドアの開く音が家の中に響いた。
魔耶「ごめんくださーい、お届け物でーす」

102:なかやっち:2020/04/02(木) 15:46

「シーン…」
カルセナ「…誰もいない…やっぱりゴーストタウンじゃ…!?」
魔耶「いやー、そんなことないと思うが…」
ゴーストタウンではないと思うが…街にも家にも人がいないのは流石におかしい。
何かあったのだろうか…?
魔耶「とりあえず、お届けものは玄関の前に置いておこうか。」
カルセナ「うん、そうだね…」
カルセナは青い顔をしながら荷物を置いた。


家からでて街を散策してみる。
やはり、人の気配がない。
魔耶「なんで人がいないんだろ…?なにかに襲われたにしては、破壊の跡とか争った形跡とかがないし…」
カルセナ「むぅ……あ、あそこ!!」
カルセナがなにかを発見したらしい。
カルセナが指している方向を見てみると、街の中央にある噴水の陰に誰かがいた。ガタガタと震えているように見える。
この街の人かも知れない…
魔耶「……」
カルセナ「あ、お、おい!もし幽霊だったら…」
カルセナの浮遊霊とは思えない発言を聞き流し、そっと噴水に近づいていく。
魔耶「こんにちは。なにかあったんですか?」
震えている物体に話しかけてみる。すると…
??「ひ、ひぃっ!やめてぇ!!」
叫び声が返ってきた。声の主が顔をだす。
??「殺さないで!!」
声の主はまだ幼い少女だった。目に涙をため、恐怖の色を浮かべている。

103:なかやっち hoge:2020/04/02(木) 17:08

[はっ!浮遊霊じゃねぇ!浮幽霊かっ!1時間後に気づく私。]

104:多々良:2020/04/02(木) 18:43

【ドンマイww】

105:多々良:2020/04/02(木) 19:07

カルセナ「....何?ど、どうしたの....?」
幽霊じゃない事を悟ったカルセナが魔耶に近付く。
魔耶「人だよ、多分この街の子。大丈夫落ち着いて、私達は危険じゃ無いよ」
???「........」
魔耶がそう説得するが少女は無言で、震えが止まる様子は無い。
カルセナ「女の子....?一体何でこんな所に一人で....家族とか居ないのかな」
魔耶「分からない....とにかく、今は情報を聞くことは出来なさそう。落ち着くまで待とう」
カルセナ「それだったら、こんな得体の知れない街じゃなくて北街に連れて行けば....」
魔耶「いや、無理に刺激を与えない方が良いと思う。パニックになっちゃったら大変だし」
カルセナ「そっかー....」
二人は少女と一定の距離を取って噴水の縁に座り、少女が落ち着くのを待った。
周りを見渡しても、やはり誰も居なさそうだった。
魔耶「一体この街に、何があったんだろう.....」
カルセナ「この街を襲うより、北街とか襲った方が自分達にとって得ありそうなのにね」
魔耶「そんな事言うなー、失礼だろこの街に」
カルセナ「う、すいません.....」


暫くすると、後ろからか細くて少し震えた声が聞こえた。
???「.....悪い人じゃ....無いんですか.......?」
位置は変わっていないが、少なくとも震えはちょっとだけ収まっているっぽかった。
魔耶「うん、貴女に危害は加えないから。だから安心して」
???「......そう....ですか」
カルセナ「ねぇ魔耶、出来れば何か聞いてみようよ」
魔耶「そうだね......あの、その場所で良いから聞いてくれない?」
少女を見ると、小さく頷いていた。

106:なかやっち:2020/04/02(木) 20:35

魔耶「まず、お名前を聞いてもいいかな?」
??「私…めぐみと言います。」
カルセナ「めぐみちゃんかぁ。めぐみちゃんは、この街に住んでるの?」
めぐみが小さくうなずく。
不覚にも、その様子をみて(小動物みたいだ…)なんて思ってしまった。
めぐみ「あの…あなた達は…?」
魔耶「あ、そう言えば名乗ってなかったな…」
カルセナ「先に名乗るべきだったね〜。私はカルセナ=シルカバゼイション。長いからカルとかカルセナとかでいいよ〜。んでこっちのが…」
魔耶「こっちのとか言うなよー。私は彩色魔耶。よろしくね」
めぐみ「よ、よろしくお願いします…」
お互いに名前を言い合ったことで警戒心が薄れたようだ。
噴水の陰から出てきて、私達の横にちょこんと座る。
魔耶「めぐみちゃんのお父さんとかお母さんは?いないの?」
私の質問に、めぐみは俯いて首をふる。
カルセナ「そっか。お父さんとお母さんはいるんだね。今は何処にいるの?」
めぐみ「……分からないんです…」
めぐみの瞳から涙があふれる。
めぐみ「いきなり、消えちゃったんです…」
カル魔耶「消えた…!?」
私達の言葉にコクンとうなずくめぐみ。
めぐみ「街のみんなも、みんな…消えちゃって…」
カルセナ「消えたって…どういうこと…?」
めぐみ「みんないきなり…水色の光に包まれて…」

めぐみの話をかいつまんで説明してみると、こんな感じだ。

めぐみは人々がいなくなる少し前、街の子供達とこの噴水の近くで遊んでいたらしい。人々もたくさん通っていて、いつもと変わらない光景だったという。天気も雲ひとつない快晴だった。
…だが、時計が10時を回った頃…急に空が暗くなり、太陽の光は黒い雲に阻まれた。その雲は雷を纏っていて、街に雷が落ちたという。
何故かその雷は黄色ではなく水色の雷で、一瞬にして街が水色の光に包まれた。
そして、光が消えたころには、みんないなくなっていたという。

107:多々良:2020/04/02(木) 23:22

カルセナ「何それ.....にわかに信じられん....」
めぐみ「それで......何か良く分からないけど、人みたいなのが空に見えたんです....信じて貰えないかもしれないけど」
人の様なもの....?という事は、それが幻覚で無かったら、何者かが意図的にしたと言う事になるのか?だとしたら何が目的なのか?何故めぐみだけを取り残した?疑問は生まれてくるばかりだった。
魔耶「....どんな感じだったか、覚えてる?」
めぐみ「....分からない.......でも凄く怖かった事だけは、覚えてるんです....」
めぐみは思い出しただけで凄まじい恐怖に襲われる、嫌な記憶を植え付けられてしまっていた。
魔耶「.....カルセナ、やっぱり一度この子を北街に連れてこう」
カルセナ「へ?そりゃまた何で?」
魔耶「ここに取り残して行く訳にもいかなくなったでしょ?あと、東街を襲ったものの調査もしたい」
カルセナ「うぇ!?前半はまぁ賛成ではあるけど....私達が調べんの?絶対危険だって〜....」
魔耶「もぅ.....私達は何回危険な場面に遭遇したと思ってるの?今は運が回ってきてるし、大丈夫な筈。行動に起こさなければ物事は進まないんだから!ね?」
カルセナ「うぅ〜.....分かったよ〜」
魔耶「....と言う訳で、めぐみちゃん。今から安全な所に行こう?私達が付いてるから、心配しないで」
めぐみは暫く考え込んだ後、二人を信じたのか大きく頷いた。
魔耶「よし、決まり!!....じゃあカルセナ、めぐみちゃんをおんぶしてあげて」
カルセナ「.....あ、私?」
魔耶「カルセナの方が背高いし、私地図見ないといけないんだから」
カルセナ「地図って....真っ直ぐ飛ぶだけじゃ無かったっけ?まぁ良いや....」
めぐみの前にしゃがみこんで、小さな体を背中に背負った。
カルセナ「よい....しょっとー、ちょっと飛ぶけど絶対落とさないからねー。さぁ魔耶さん、先導お願いしますよ〜」
魔耶「よし、じゃあ戻ろうか」
そう言って地面を蹴り、二人は北街方面へと飛び立った。
上空まで上がると、めぐみは驚いた目で地上を見渡していた。

東街の奥の方には、黒く分厚い雲が掛かっていた。まるでそれは、めぐみを連れた二人を見送るかの様に見えた。
そんなものに二人は気付かず、北街へと真っ直ぐに、安定した飛行で向かって行った。

108:なかやっち:2020/04/03(金) 10:53

魔耶「ふぅ。着いたね。」
カルセナ「この街は無事なのにな…なんで北街…?」
道中は特になにもなく、無事に北街に着くことができた。
カルセナの後ろでめぐみが小さく「わぁ…」と言っているのが聞こえる。
魔耶「まぁ考えたって分かんないし…。めぐみちゃんをひまりとみおに預けといて、また東街に戻ろうか。なにか手がかりがあるかもしれない。」
カルセナ「せやな。りょーかい」
街の中央でスタっと降り立つ二人。それを見ていた街の人々の歓声が上がる
カルセナ「……人はちゃんといるね〜。元気いっぱいだぁ。」
呆れたような顔をしてあたりを見回すカルセナ。
私もその言葉に同意して、嬉しいような恥ずかしいようなため息をつく。
ひまり「お帰り〜。ファンのみんなにお出迎えされて羨ましいわ〜♪…あら、その子は?」
魔耶「いやー、実は…」
東街であった出来事をひまりに話す。
ひまり「そんなことが…!?やっぱりあなた達ってなにかしらのトラブルに合うのね…」
カルセナ「真顔でそんなこと言わないでくれよ…自覚してるから。」
魔耶「そういうわけで、この子頼める?」
カルセナにピタリとくっついているめぐみを指指す。
緊張しているようだ。
ひまり「分かったわ。めぐみちゃん、お姉ちゃんと遊ぼうか?」
流石司会者、子供の相手はなれているようだ。少し話しただけでめぐみはカルセナから離れてひまりの方へ行った。
魔耶「んじゃあ、行ってくる。よろしくね〜」
カルセナ「うちらが帰ってこなかったら成仏したと思って〜」
魔耶「縁起でもないこと言わないでくれよ…」
二人のいつものやりとりにクスクスと笑うひまり。
ひまり「えぇ、いってらっしゃい。気をつけて!」


カルセナ「ふぅ。また東街に戻るのか。なかなか疲れるな〜」
魔耶「そんなこというなよ。私だって疲れてるんだか…ら…」
カルセナの一言に文句を言おうと後ろを振り返った瞬間、北街の真上に分厚い雲がかかっているのが見えた。さっきまでは晴れていたハズ…!?
カルセナ「…?どうかした?」
私が後ろを見ながら固まっている様子を見て、カルセナも後ろを見てみる。
カルセナ「なっ…!うそ…」
めぐみの話が本当なら…!
魔耶「カル、街に戻ろう!!」
雷が落ちたら、みんな…!!
カルセナ「うん!みんながいなくなる前…にっ!?」
突然、あたりが水色に包まれた。

109:なかやっち hoge:2020/04/03(金) 10:55

[なんで北街…?じゃなくて、なんで東街…?っす。ついに混乱しはじめたか…(汗)]

110:多々良:2020/04/03(金) 12:09

魔耶カル「.........っ!!?」
突如放たれた水色の光を直視出来ず、思わず目を覆ってしまった。目を覆ってもなお、瞼を通り抜けて来る様な眩い輝きだった。そう思った途端、今度は目の前が暗くなり始め、やがて目の前が暗闇に閉ざされた。二人はそっと目を開けて北街を確認した。

一瞬の出来事だった。自分達に歓声を送っていた人々の姿は消え、東街の様な静けさが訪れていた。今回ばかりはめぐみも消え、めぐみを抱っこしていたひまりも、それを見ていたみおも居なくなっていた。そんな光景に、二人は唖然とした。
魔耶「.......嘘....」
カルセナ「えっ.......み、皆が....」
語彙力を失ってしまう程の衝撃だった。そんな二人を尻目に、黒い雲は南西へ進路を進め始めた。
カルセナ「あっ、魔耶!あれ!!」
魔耶「っ......!追いかけよう!!」
幸いにも雲のスピードはあまり速くなかった為、急いで追いかけた。

雲の後を追いながら、魔耶が呟いた。
魔耶「あの雲の中....と言うか側に、誰か居た。絶対見間違いなんかじゃ無い.....」
カルセナ「じゃ、じゃあめぐみちゃんの言ってた事は本当だったのか....?」
魔耶「恐らくね....何とかして、あれを止める事は出来ないのかな....」
カルセナ「あんな凄い現象を止める事なんて出来んのかなぁ....あの雲の真下に入ったら、一発アウトやん....」
魔耶「分かってる....何か、何か方法は....?」
そこから、暫くの沈黙が続いた。
カルセナ「う〜ん........そいつ捕まえる....とか...」
魔耶「捕まえる?どうやってそんな....」
カルセナ「ん〜....魔耶はその人影、いつ見えたの?」
魔耶「えっと.....雷が落ちた直後....かな?」
カルセナ「落ちる前には見てない?」
魔耶「見てない....てか、人影が無かった訳じゃなくて、ただ単に私が見てなかっただけだったな....」
そう。雷が落ちる寸前はカルセナに呼び掛けていた為、魔耶は雲を見ていなかったのだ。
カルセナ「じゃあさ、そいつが雷落とす寸前に出てくるって事にして、そん時に捕まえれば良いんじゃない?....って思ったんですがどうでしょうか....あまりこーゆーのは得意じゃないし仮定なんですけど....もしそれなら、魔耶サンのスピードなら行けるかな〜って....」
カルセナが魔耶の顔を伺いながら提案した。

111:なかやっち:2020/04/03(金) 12:59

魔耶「うーむ…たとえ雷が落ちる前に捕まえられたとしても、そのとき私に雷が直撃したら終わりなんだけどね〜…雷は光の速さだから流石に避けられん。」
カルセナ「じゃあ…どうするの?」
魔耶「…雷に、当たってみるか。」
カルセナ「…はぁ?」
魔耶の言っていることがわからなくて、一瞬頭が真っ白になる。
いやいや、当たったらどうなるのかも分からないのに。もしかしたら死んじゃうかも知れないのに。無謀すぎるよ。
魔耶「あ、安心して。私が当たるワケじゃないよ。私のつくったお人形さんに当たってもらう。」
魔耶の言葉にホッと安心のため息をつく。
カルセナ「んでも、そのお人形?を当ててどうするの?」
魔耶「ふふっ、これこそが私の能力の便利なとこですよ。私が能力でつくったものは操れるし、つくったり消したり自由自在だし、つくったものの大体の位置もわかるんですよ〜」
なるほど、本当に便利な能力だと感心する。
つまり、魔耶がやろうとしていることは……
カルセナ「人形を雷に当てて、街の人がどこにいったのかを突き止める!ってことだね。」
魔耶「そういうこと!」
魔耶は自分の考えがカルセナに伝わって嬉しそうだった。
魔耶「あの光がただ人々を消してるだけとは考えにくい。だってなんのメリットもないからね。だったら、光に当たった人はどこかにつれていかれてる、っていうのが一番あり得そうじゃない。だから、能力で人々がつれていかれてる場所を探り、助けにいく!」
カルセナ「って考えだね。よし、それしかない!それにかけよう!」
魔耶の言葉を引き継ぐカルセナ。
こうして、この作戦を決行することになった。

112:多々良:2020/04/03(金) 13:35


そうこうしている内に、遠くに街らしき影が見えてきた。方向的に、西街とでも言うのだろうか。
カルセナ「あっ、街じゃないあれ?魔耶!!」
魔耶「はいよ、西街の皆さんごめんなさい!でも後で必ず助けるから...!!お人形、召喚っ!!」
魔耶は、自分と似た羽を生やした小さな熊のぬいぐるみを作った。
カルセナ「わー可愛い〜」
魔耶「行けっ、熊さん!」
ぬいぐるみを全速力で飛ばし、西街へと向かわせた。
魔耶「さて、これで準備はOK.....巻き込まれない様に離れてよう」
カルセナ「おお、見過ごすのは何かやっぱ罪悪感あるなぁ....」
魔耶「仕方無いよ....雷が当たったら、直ぐに調査を進めるね」
カルセナ「お願いしますわ」

少し遠くで待つと、西街の真上に稲妻を纏った黒い雲が流れて来た。
魔耶「来るよ.....!」
その瞬間、西街に大きな音と共に水色の雷が落ちた。
魔耶カル「うっ.....眩しいっ....!!」
光が収まり目を開けると予想通り、やはり誰一人として西街に残っていなかった。
カルセナ「二回目見ても、やっぱ酷いものだなぁ....」
魔耶「だね.....じゃあこれから、調査を始めるね」
そう言い、魔耶は静かに目を閉じた。かなりの集中モードに入っている様だ。
魔耶「.....ここはどこ?結構暗い所だなぁ.....沢山の人がここで倒れてる。多分意識を失ってるだけだと思うけど....」
カルセナ「雲の中なのか、はたまた別のとこなのかね......」
魔耶「分からないけど....雲の中とは思えない様な.....何か、建物の中みたい」
カルセナ「はぇ〜....主犯はそこには居なさそう?」
魔耶「うん、動いてる人影は今のところ無し....かな」

113:なかやっち:2020/04/03(金) 14:47

その後10分ほど観察してみるが、特になにも動きはなかった。
魔耶「うー…なんも変化がないんだけど…」
カルセナ「扉とか窓とかないの?」
カルセナに言われて、壁の方へと視線を動かしてみるが…真っ暗でよくわからない。
魔耶「ダメだ〜…暗くて見えないよ〜」
カルセナ「むぅ…そうか…」

それからまた5分ほど経過した。
魔耶「…疲れた。」
カルセナ「頑張れよ〜」
暗くてなにも見えない部屋をずっと除きこみ、熊さんを操っているのだ。体力的にも精神的にも疲れてきた。
…と、そのとき。真っ暗であるハズの部屋に切れ込みが入った。
そこから黄色い光がもれていて、ずっと暗い部屋を見ていた魔耶にはとても眩しく感じられた。
??「ここの人間は西街の人間、だっけか?」
??「そうらしいぜー。さっさと運んじまおう。」
光をバックにして黒い二つの影が姿を表した。
服装は兵隊のようで、部屋にいた人を光あふれる部屋にせっせと運びだしている。声的に男だろう。
気づかれたら大変だと思い、近くで気絶していた人のフードに熊さんを潜り込ませた。
カルセナ「その二人が犯人かな?」
魔耶「いや、違うと思う。下っぱって感じがする。」
カルセナ「下っぱ…じゃあ、犯人は大きな組織なのか…!?」
魔耶「かもね。なにが目的なんだろ…」

114:多々良:2020/04/03(金) 16:23

カルセナ「まさかの大人数だとしたら....うー怖いなぁ....」
魔耶「今回ばかりはカルセナに同情するわ.....あっ、動き出したっ」
どうやら、ぬいぐるみ入りの服を着た人が運び出されている様だ。
カルセナ「マジ?何か見える?」
魔耶「フードの中に入ってるから、流石に見えないけど....声は聞こえる」
話し声をしっかり聞き、情報を漏らさない様に集中する。
???「....て言うかこんなに人間を集めるなんて、相当な趣味をお持ちだな」
???「馬鹿、聞き取られたらどうする。「あのお方」の手に掛かれば、お前なんか一捻りだぞ」
魔耶「....あのお方?私が見た人の事かな」
カルセナ「もしかしたらそいつも使いで、もっと上が居るかもよ」
魔耶「あー、そうかもね〜.....」

暫く運ばれ続け、着いた先を見た魔耶が声を発した。
魔耶「うわっ!?」
カルセナ「わっ!!ど、どうしたの?」
魔耶「何だろこれ....水の中......?」
運び込まれた先は、大きな倉庫の様な部屋にある液体の中だった。沢山のカプセルが並べられ、その中に液体が入っていると言う感じだ。その様子を見るに、実験室っぽかった。
魔耶「むむ....培養液か何かかもしれない.....一人一人カプセルに入れられてる」
カルセナ「え!?いや、こっわ!!.....つまり皆生かされてるって事?マジで何が目的なんだよ....」
魔耶「うーん.........あ、誰か来る!」
魔耶は急いで人の影にぬいぐるみを隠した。少しして、カプセルの前を二人の影が通り過ぎた。
???「....作業の方は順調に進んでいるか」
???「勿論でございます。現在、西街の人間を運び込んでいる所です」
???「ふん....宜しい、早急に完了させるが良い」
???「はっ、かしこまりました」
魔耶「....ちょっと偉そうな人がおる」
カルセナ「おー、黒幕だったら話が早いけど」

115:なかやっち:2020/04/03(金) 17:30

魔耶「いやね、こういう奴は上の中くらいの敵だったりするのよ、ゲームでは」
カルセナ「ゲームの話じゃねぇか。」

??「ふぅ、なかなかいい具合ではないか。これなら、きっとあのお方もお喜びになる。」
魔耶「だって!ほら、やっぱりゲーム的な感じになってるんだ!てゆーかあのお方とかマジベタだよね!私だったら…」
カルセナ「集中してろ。」
ゲームから離れない魔耶を無理矢理集中させる。いつもと立場が逆じゃないか…
たぶんいろんなことがありすぎて、一周回って興奮してるんだろう…と、適当に推測する。
魔耶「あ、すみません…。まだなんか話してる。」
再び耳をすます。
??「さて、実験体はこのくらいでいい。逆に多すぎるとめんどうだ。」
魔耶「この上の中くらいの人は女かな〜?声はそこまで低くない。」
カルセナ「ほう、なんか意外。悪=男って感じするのに。」
魔耶「そうか?」
??「さて…早速実験を…………?」
たぶん下っぱ「?…どうしました?」
??「この部屋から少しだけ魔力を感じる…ような…」
魔耶「!!」
足音がだんだん近づいてくる。
きっと、魔力とは熊さんのことだ…!
熊さんの少しだけある魔力を感じとったのか、この人!
??「ここら辺から…」
魔耶「わあぁぁ!」
見つかりそうになって熊さんを消してしまった。
カルセナ「!?…なになに、どうしたの?」
魔耶「ごめん…危なくなったから、熊さん消しちゃった…」
カルセナ「見つかりそうになったってこと?」
魔耶「うん……まさか魔力を感じ取れるとは〜…」
ガックリと肩をおとす。
魔力を感じ取るのは結構な努力が必要だ。しかも、こんな小さな魔力を感じ取れるなんて並大抵の努力ではできないだろう。
魔耶「もう少し情報が欲しかったけど…しょうがない、乗り込みますか…?」
カルセナ「場所は?わかるの?」
魔耶「大体の場所は覚えてる。」
少し不安を感じる。敵は大きな組織かも知れないのに、女二人で乗り込むなんて危険だ。
…でも、私達以外に街の人を救える人(?)はいないだろう。
カルセナ「…よし、敵をぶったおして英雄になってやりますかね〜」
魔耶「それでこそカルセナだ!!ひまり達を助けよう!」
カル魔耶「おー!」

116:多々良:2020/04/03(金) 19:00

カルセナ「まぁぶっ倒せる様な魔力も能力も運動神経も無いけどね。どうしましょ」
魔耶「おいおい....でも未来読めるやん?」
カルセナ「読めても運動神経ないと何も出来んからね〜」
魔耶「そうか....?んまぁ、何か思い付いたら言ってくれ」
カルセナ「りょー。じゃあ案内して下さいや魔耶さん」
魔耶「おぉ、魔力の位置的に多分こっちかな?後について来るんだな!」
カルセナ「あいあいさ〜」
そうして二人は敵の陣地へと潜入するが為、目的地へと向かった。
魔耶「ん〜....結構遠いかもしれない.....」
カルセナ「やべえな.....スタミナ持たんかもしれんわ」
魔耶「じゃあ途中で休憩挟みながら行こう。くたくたで敵地乗り込んでも返り討ちに合うだけだからね」
カルセナ「やったー、流石魔耶さーん」
向かっている途中に色々な事を相談....と言うより雑談した。
魔耶「はぁ〜、敵は一体どう言う能力使って来るんだろう....二人の能力でも敵わなかったらどうする?」
カルセナ「それは....どうしようかね.....ワンチャン助っ人呼べないかな?」
魔耶「いや誰呼ぶんだよー」
カルセナ「う〜〜......ニティさんとか?」
魔耶「こんな距離だよ?直ぐに来れないでしょ」
カルセナ「むぅ....神だからもしかしたらと思ったけど....」
魔耶「最悪、一度撤退するって言う手もあるからな.....まぁあんまり気にせず行こうかな....」
カルセナ「そうそう、魔耶サンならそんな敵ワンパンっすよ〜!」
魔耶「....何か馬鹿にしてる?」
カルセナ「まっさか〜♪」

そんなこんなで、魔耶が言う目的地に近い場所まで来ることが出来た。かなりの時間が掛かり大変だったが、休憩を何度か挟んだ事によって二人の体調に変化はほぼ無かった。

117:なかやっち:2020/04/03(金) 20:26

魔耶「なんか建物があるね。たぶんあそこだ」
カルセナ「ほう、そこまで大きくはないね?」
敵の基地とみられるところを発見した。
カルセナの言う通りそこまで大きくはない建物だ。一軒家を一回り大きくした感じで、入り口には見張りがついていた。
魔耶「見張りがいるな…どうしよう…」
カルセナ「あ、いい方法があるよ!」
カルセナがなにか閃いたようだ。凄く笑顔だったので嫌な予感がしたが…カルセナの案を聞いてみた。
…予想通り最悪な案だった。だが、やってみるしかないか…


魔耶「す、すみません…」
いつもの青い服ではなく、ただの少女のような格好をした魔耶は見張りに話しかけた。
見張り「あ?なんだてめえは?」
勿論警戒される。
魔耶「じつは私のペットがいなくなっちゃって…知りませんか?」
見張り「俺が知るわけないだろ!ガキはさっさと帰れ!!」
魔耶「そうですか…あ、熊三郎!」
そういって適当な方向に指を指すと、つられて相手もその方角をみた。
見張り「はぁ?…どこに?」
魔耶「ていっ」
視線を外した隙に、見張りに回しげりを仕掛ける。
見張り「ぐはっ………(バタッ)」
カルセナ「さっすがー!!」
魔耶「…乗るんじゃなかった、この作戦…ハァ…」
カルセナがおもいついた作戦とは、ただの少女のフリをして見張りに近づき、不意をついて倒すというものだった。
魔耶「しかも熊三郎って何だよ…」
カルセナ「熊三郎は熊三郎だよ。ねぇ、この人の服拝借しよう。そして侵入しよう。」
魔耶「はいはい。カルセナ用もつくっておくよ。」
自分は見張りの服を拝借し、カルセナには私がつくった、見張りの服そっくりの服を着てもらった。
カルセナ「いいねいいね!なんかスパイみたい!よし、侵入だぁ!」
魔耶「なんでそんなにテンションがあがってるのよ…」
でも、そんないつものカルセナを見て少し安心できた。
カルセナの後ろに付いていき、建物に侵入する。

118:多々良:2020/04/03(金) 23:20

中は意外と普通の作りになっており、二階へと続く階段は正面玄関の真ん前に位置していた。
カルセナ「この大きさの家みたいな所に、街の人達が全員入る訳無いよね....」
魔耶「もしかしたらこの地上の家はハッタリで、どっかに地下とかがあるのかも」
二人は不審な動きを悟られない様、ひそひそ声で話していた。
カルセナ「あり得るな〜....てか自分で言って気付いたけど、変装して気付かれないのってアニメだけじゃね?」
魔耶「まぁ、そうだよ。そりゃあねぇ....」
カルセナ「え、ヤバくね?」
魔耶「うん、かなりヤバい。いやカルセナが言ったんだからねこの作戦?」
と、先程の見張りの仲間だろうか。背後から急に声を掛けられた。
仲間(敵の)「おいそこ!!何やってんだ、今は仕事の時間だろ!!」
魔耶カル((やっべええぇ!!))
カルセナ「あ、す、すみません!!」
仲間「ったく、通りでそれぞれの部の人数が足りねぇ訳だ....にしては一人多い気もするが」
結構バレないものなんだなぁ.....二人はそう感じた。
魔耶「かっ.....数え違いですよきっと!!」
仲間「まあ良い、取り敢えずそこの金髪の野郎」
カルセナ「はっ、はい!!」(金髪の野郎って....)
仲間「お前はそっちの部屋で荷物運びだ、行け!!」
カルセナ「えっ、あっ....わ、分かりましたぁ.....」
突然の命令に戸惑い指定された部屋に向かいながら、魔耶をチラチラと見た。
それに対して魔耶は、大丈夫、と言うかの様な視線をカルセナに送った。
カルセナ(大丈夫だよね....また会える筈......)
そうしてカルセナは奥の部屋へと姿を消した。残った魔耶に、敵の仲間が命令した。
仲間「お前は地下で機械の点検だ」
魔耶「はい!あ、あの.....地下階段ってどこでしたっけ.....まだ、その、新入りなものでして〜....」
仲間「こんくらい早く覚えやがれ!!左の通路曲がってすぐにあるだろ!」
魔耶「すっ、すみません!!今すぐ向かいます!」

こうして、二人は離ればなれになってしまった。だが、気になっていた地下へ行けるのはラッキーな方だと、魔耶は思ったのだった。

119:なかやっち:2020/04/04(土) 11:39

魔耶「んーと…ここかな?」
階段から降り、辺りを見回してみる。
魔耶「…!?」
と、そこには思わず目を疑うような光景が広がっていた。
まず目に入ったのは巨大なカプセルで、中の緑色の液体と一緒にドラゴンが入っていた。
前に見た飛竜とは違う。翼はあるが飾りのように小さくて、大きな体は濃い緑色の鱗でおおわれている。
魔耶「なんで、ドラゴンを…?」
謎がより深まった。
3つの街の人々とドラゴン。こんなものを使ってなにをしようというのだろう。
??「ほんとですよね。こんなものを使って、あのお方はなにを企んでいるのやら…」
魔耶「!!」
いつの間にか、私の隣に少女がいた。
人間で表すと17歳くらいだろうか。
長い藍色の髪にちょこんとけもみみが生えていて、着物をアレンジした和風な服を着ている。
??「申し遅れました。火憐柚季(かれんゆずき)と申します。あなたのお名前は?侵入者さん。」
笑顔で侵入者と呼ばれて驚く。この人は敵のハズ。なのに、その笑顔には敵意が見られなかった。

…妖艶な雰囲気を醸し出すこの少女は一体何者だろう?

120:多々良:2020/04/04(土) 14:45

カルセナ「すみませ〜ん、手伝いに来ましたー....」
指定された部屋に入ると、そこでは男女問わず沢山の敵が荷物運びやその整理を行っていた。
カルセナ(わぁ広い部屋.....)
敵「おせーよ!何やってたんだ!!早くこっち来て、これ運べ!!」
カルセナ「はーい、分かりました〜」
運べと言われた箱を持ってみて驚いた。
カルセナ(よっ....!?何これ、めっちゃ重っ.....!!)
箱の重量感、そして感触や中身の音で大体察した。どうやら何らかの機械の部品だろう。
カルセナ(それにしても、こんなに沢山.....)
ともかく、他の人達が運び続けている方向へ箱を持って移動した。
カルセナ(いやマジで重いなこれ.....)
???「こんにちは、新入りさん」
不意に、近くで同じ仕事をしていた子に話し掛けられた。
カルセナ「はっ?あぁ、こんにちは....あの......?」
???「いきなりごめんなさいね。私の名前は.....って名乗りたいけど、生憎私達の階級では互いに名乗る事を禁じられているのよね」
カルセナ「あ、そうなんですか.....いやっ、そう言えばそうでしたね〜....」
知らない事を言われて、無理矢理誤魔化す。
???「貴女は何番?」
カルセナ「え?」
???「私達はコードネームで呼び合うでしょ?何番って言われたの?」
カルセナ「えーっとぉ....忘れました.....」
???「もう、忘れちゃったら呼べないじゃない!!因みに私は8番。適当に番号で呼んで良いよ」
カルセナ「あ、ありがとうございます....あの、番号って何か意味があるんですか?」
8番「ええ勿論。番号が小さくなっていく程、上の人達に実力が認められている証拠。この階級、約30人の中でも私は8番目に強いってことよ」
30人中8番目と言う事は、中々の実力者だ。カルセナはその子にますます興味を持った。
カルセナ(あわよくば、何か情報を聞き出せるかも.....)

121:なかやっち:2020/04/04(土) 15:19

魔耶「あっ、えっと…私は侵入者なんかじゃありませんよ?ど、どなたかとお間違いじゃないでしょうか…?」
今侵入者とばれるわけにはいかないと、あわてて誤魔化そうとする。
柚季「あら、そうだったんですか?ごめんなさいね。じゃあ、あなたは何番なんですか〜?」
柚季がにっこりしながら聞いてくる。
番号なんて分からない…誤魔化しようがない。適当な番号なんて言ったってすぐにバレるだろう…
魔耶「あー…えっとぉ、番号はぁ〜…」
それでもなんとか誤魔化そうとするが
柚季「やっぱり侵入者さんなんですね!お名前はなんですか?」
と遮られてしまう。
…だが、この人に敵意は無さそうだ。しょうがない…
魔耶「魔耶…彩色、魔耶です…」
柚季「まぁ、素敵なお名前ですね!魔耶さんはどうしてここにいるんですか?」
魔耶「あなた達が街の人を連れ去ったからですよ。みんなを返してもらいにきたんです」
軽く柚季を睨み付けてみるが、柚季はそれに気づいているのかいないのか「そうなんですね〜」なんて言っている。
しかも、にこにこの笑顔で。
柚季「あのたくさんの人たちは連れ去られた人たちだったんですね〜。なるほど、納得です。」
…?敵なのに、知らなかったのだろうか?
魔耶「いやいや、白々しい態度はやめてくださいよ。敵なのに知らない訳ないじゃないですか。それに、私は侵入者なんです。さっさと仲間に知らせたらどうですか?」
柚季「私はみなさんがやっていることに興味がありませんから。ただ誘われたからここにいるだけです。それに、たとえ私が知らせたって冗談だとでも思われるんじゃないでしょうかね。」
…なんでここにいるんだよ、この人…

122:多々良:2020/04/04(土) 17:24

カルセナ「えっと、8番さん....?さっき上の人達って言ってたけど、どんな人が居るんですか?」
8番「あら、まだ知らない?じゃあ説明してあげる。この組織は3段の階級で構成されてるの。私達が配属してる階級は一番下で、俗に言う雑用みたいなものね。この上の階級には、3人の幹部が配属している」
カルセナ「えっ、たった3人しか居ないんすか?」
8番「ええ。三人共女性の幹部で、人間離れした強さを持ってるわ。なんたって、ここのボス直属だからね」
カルセナ「へぇ....あっ、そうだ、ここのボスってどんななんですか?」
8番「詳しくは分からない....けど、見た目だけは知ってる。一回だけ見たことがあってね....」
カルセナ「やっぱり、強そうでしたよね....?」
8番「それがね.........直属の幹部とは違って何の圧も感じられなくて、言ってしまえば私達と同じ、ただの人間の少女に見えたわ」
一番上の立場なのに、三人の強い幹部の上に就いているのにそんな....何も気配を感じないとはどういう事なのか。
8番「わざと圧力を隠しているのか、それともそれが自然体なのか....私には見抜けなかった。それ程のお方よ」
これを聞いて、潜入したのを後悔するかの様な気持ちが頭を過った。
カルセナ(いやいやダメダメ、街の人達を助けるんだ....!!怖いけど....)
「あのー、その人達はどこに居るんですか?」
8番「普段は地下に居るわよ。フロアが4つあって、それぞれに幹部が一人ずつ配置されている。で、最下層の地下4階に私達のボスが居るわ。ボスは、滅多に地上に出てくる事は無いわね」
カルセナ(成る程、ボスは引き籠りか....じゃあどうにかして地下に行く方法を見つけないとな....)

123:なかやっち:2020/04/04(土) 17:59

魔耶「え、えっと…柚季さんはここではどういう役割を?」
侵入者がいたと知らせても冗談だと思われるほどの影響力。なのに地下でのんびりと話し、咎められてもいない。下っぱには見えないし…どういうことをしているのだろう。
柚季「なにもしていません。なーんにも。ここにいるだけです。一応かんぶ?って役割らしいんですけど、なんでしょうね?」
魔耶「えっ、幹部…!?」
目の前の少女が幹部だということにも驚いたが、幹部を知らないこと、幹部なのにここで侵入者とまったりと話をしていることにも驚いた。
魔耶「幹部なのに…こんな感じでいいんですか…?」
半分あきれながら言う。
柚季「かんぶってなにをすればいいのか分からないのですよ〜。他の人に聞いてみても、この部屋にいればいいとか言うし!」
魔耶「…他の幹部はいないんですか?いるんだったらその人をマネすれば…」
柚季「人のマネってなんか嫌なのですよね〜。他のかんぶは侵入者を追い出したりでもしてるんじゃないですかね?」
魔耶「…その侵入者がいまここにいるんですけど?」
自分を指差してあきれ顔で聞いてみる。
柚季「私は戦うのはイヤなんですよ〜。あなた悪い人じゃなさそうですし。」
…なんだ、この人。
幹部なのに侵入者と話し、仲間がやっていることに興味をもたず、あげくのはてに侵入者を悪い人じゃないという。
魔耶「…幹部から降格するんじゃないですか、そのうち。」
柚季「あら、それはないですね。こんな私でも戦いの腕は認められているので〜」
魔耶「でも戦わなかったら意味なくないですか?」
柚季「それもそうね〜。こんどからは戦うわ。たぶん。」
そのセリフは絶対やらないやつだろう…。 
…この人に敵意はないし、協力してもらうことは出来ないだろうか。いや、仮にも幹部だし…たぶんダメだろうが、ダメ元で聞いてみる。
魔耶「あの…街の人々を救うのに協力してもらえませんか?幹部なら力もあるでしょうし…」
柚季「うーん、そうすると他のかんぶに怒られちゃうからな〜。直接的には協力できませんけど、情報くらいなら話しますよ〜。暇ですし。」
魔耶「マジですか!」
あまり信用しないほうが良いのだろうけど、この人から悪意は感じられない。それに、もし敵であればすぐに私を捕らえたであろう。
よく分からない敵の陣地の中で情報が得られるなら有難い。

124:多々良:2020/04/04(土) 18:50

カルセナ「あのー、その地下に行く方法とかってあります?」
8番「え?地下に?別にあるけど....何しに行くの?」
聞き方がまずかった。何しに行くかなんて聞かれても、本当の事を言える筈がない。
カルセナ「あっ!えっとー、ちょちょっと気になっただけで....で、どんな方法っすか?」
8番「方法は二つあって、一つが階段から降りる方法。んでもう一つが....あそこにエレベーターが見えるでしょ?」
カルセナ「んー?あ、ホントだ」
8番「そこから降りる方法よ。でも、あのエレベーターは幹部達が持っているカードキーが無いと動作しないわ」
カルセナ「成る程....」(じゃあ階段が良いかもな....)
納得したその直後、急にエレベーターが動き出した。
8番「....っ?エレベーターが動いてる....て事は...!!」
カルセナ「?...何?どうしました?」
8番「幹部が来るわ....!」
エレベーターはこの階で止まり、ドアが開いた。そして、中に乗っていた者が姿を表した。
カルセナ「あれが......幹部?」
出て来た者は、黒いローブを羽織り口元を隠している、白髪の幹部だった。
その瞬間、周りの敵が、勿論8番さんもその者に対してひれ伏した。カルセナも慌てて周りに合わせて膝を突いた。
ちらっと頭を上げ、その幹部の目元を見たときはぞっとした。蛇の様な、異様に鋭い目をしていたせいだ。
ひそひそと、8番さんに話し掛けた。
カルセナ「あれ....何て人?」
8番「静かに...!!地下二階配属、杜亰 逸霊(もりみや いそら)....!!」
カルセナ「二階ッ....!?」
一階の幹部とまだ顔を合わせても居ないのにいきなり二階の幹部とご対面するなんて思ってもいなかった。
逸霊「.......違う....別物だ.....」
何やら独り言を言っている様だ。
逸霊「.....この中に、侵入者が居る....」
カルセナ(.....えっ?)
それと同時に周りの敵も静かにざわつき始めた。
逸霊「隠したって無駄だ、匂いで分かる......今出てくるならば、惨殺せず楽に死なせてやろう」
カルセナ(.....ど、どうしよう....どうやって乗り切ろうか.....)

125:なかやっち:2020/04/04(土) 20:21

魔耶「ほうほう、カードキーでエレベーターを…」
柚季「これですよ〜」
柚季が懐からカードキーを取りだして見せてくれた。
少し暗めの赤に、黒色のラインが入っている。
柚季「私はめったに使わないんですけどね〜」
魔耶「そうなんですか〜。あ、そういえばさっき番号がどーのこーのっていってませんでしたっけ?」
柚季と出会ったばかりのころ、番号を教えてとか言われた気がする。あれはどういう意味なのだろう?
柚季「うーん、その人の強さ?って言えば分かりやすいですかね〜。数が小さいほど強い。ってだけです。」
魔耶「はぁ、なるほど〜」
数字が小さいほど強いのか。もしまた聞かれたら、適当に20番とか言っておこう。
柚季「他にあります?」
魔耶「んじゃあ、あのお方?ってどんな方で、どこにいるんですか?そしてなにが目的なんですか?」
柚季「あのお方は…めったに顔を見せませんね。会っても仮面をつけているので素顔は見たことありません。目的は知りませんが、捕まった方々は地下3階にいましたね〜。あそこは実験室なので、なにか実験するつもりなんでしょうね。」
魔耶「幹部でも顔を直接みたことないんですね〜。っていうか、あなた本当に興味ないんですね」
同じ組織にいながら、目的も知らないなんてそうとうな変わり者だと思う。
柚季「あたりまえじゃないですかー。」
あたりまえなのか…!?なんてツッコミを抱いてしまうが我慢する。
柚季「そういえば、あなたは一人でここに侵入してきたんですか?だとしたらすごい勇気がありますね〜。」
魔耶「いいえ、友達と一緒で…あっ!」
柚季「どうしました?」
ずっと話しこんでいて、カルセナのことを忘れていた!
あの人無事だろうか…武器のひとつでもつくってあげるべきだったな…
魔耶「いえ、なんでもありません!情報ありがとうございました!友達のところに向かわなくては…」
柚季「あら、そうなのですか?たくさんお話ができて嬉しかったです!また会えたら会いましょう。」
魔耶「はい!ありがとうございました!」
手を振る柚季をあとに、階段をかけ上っていった。
(あ〜、結構情報も得られたし…早くカルセナに話そう。)

126:多々良 何か長くなった気がするなぁ.....。:2020/04/04(土) 23:17

逸霊「.....自分から名乗り出ないと言うならば、こちらから向かってやろう」
そう言うと、まるで最初から侵入者が分かっていた様にカルセナの場所へと真っ直ぐ向かって行った。
カルセナ(こっちに来る....!!どうしよう、考えろ私!!)
遂にカルセナの目の前に逸霊がやって来た。
逸霊「面を上げろ」
言われるがままにすると、逸霊はカルセナの顔に掌を差し向けた。
逸霊「このまま拷問されたくなかったら正直に答えろ.........お前が侵入者だな?」
カルセナはこれまでに無い、物凄い威圧感を感じた。自分より背丈の低い者に威圧されたことは無かった。怖くなって体が小刻みに震えた。降伏してしまったら、迎えるのは死。だからと言って、今逃げようとしても私のスピードではどのみち死。そんな結末の物語だって事、とうに読めていた。分かっていた。察していた。でも、未来は変える事だって出来る筈なんだ。
カルセナ(考えろ、何か考えろ私....!!)
逸霊「.....答えぬつもりか?ならばもう一度聞く、これが最後のチャンスだ.....お前は侵入者か?」
さっきより強く威圧されている様な気がする。今すぐ魔耶の名を呼んで、魔耶に助けて貰いたい。......ちょっと前のカルセナなら、そう思っていただろう。だが今は違った。
カルセナ(助かる方法は必ずある....!!魔耶に頼ってるだけじゃ、駄目なんだ!!!)
暫くの沈黙が続き、逸霊が溜め息を吐いた。
逸霊「......答える事が出来ないのならば仕方無い.....今回は特別に、貴様は私の糧となって貰う」
逸霊は掌を下げ、隠していた口元を露にした。そこには鋭い牙が、血肉を求めているかの様に光っていた。
カルセナが読んだその先の物語は、既に幕を閉じていた。もう何も考えられなくなり、心の中で自問自答を繰り返した。

「ーー駄目だ....何も思い付かない。魔耶とは違うなぁ.....もっと色んな勉強しとけば良かったかな.....。」
「そうだよ、もっとたくさん色んな事をしておけば良かったんだ。」
「だね....もっと魔耶と喋りたい事、沢山あったのに......。」
「沈黙なんて要らなかったね。喉が枯れるまで話せば良かったんだよ。」
「うん....最後に、魔耶に伝えたかったなぁ......色んな事。」
「最後って、何の最後?」
「人生の最後にさ。最初は、そうだなぁ....ありがとうとでも伝えたかった。」
「.......何もう諦めてんだよ。」
「.....え?」
「お前はもう、死にたいのかよ。」
「.......死にたくない......そうだよ、魔耶とまだこの世界を冒険したいよ。」
「....そうか」
「....うん」

『ーーなら、私が外に出てやる。』

逸霊「終わりだ。お前のその体、私の血肉にしてやろう」
そうして、逸霊の牙がカルセナの首に食い込んだ。ーーそう思った。
???「オイオイ、勝手にこいつの人生終わらせようとしてんじゃねぇよ」
逸霊(私の鋭い牙が......素手で止められている!?)
その瞬間、逸霊は糧だと思っていた人間から引き剥がされた。
逸霊「っ.....!!.....貴様、何者だ....先程の奴とは違う匂いがするな」
体制を立て直して見た糧の姿は、肌や髪の毛以外がとにかく黒く、何とも言えないオーラを纏っていた。

???「ふん、そうだな.....ま、心の住人....って感じか?宜しくな、厨二病ちゃんよォ」

127:なかやっち:2020/04/05(日) 10:02

魔耶「カルセナどこにいるんだろ?確か…どっかの部屋で荷物運びとか言われてたような…」
地下から1階へ戻ってきた魔耶はカルセナを探していた。
もし人に見つかったら怒られるか怪しまれるかすると思うが、ラッキーなことに人がいなかった。
魔耶「ほんとに人いないな…いいことだけど…もしかして、自分の仲間も実験すんの!?」
人が居なすぎてそんなことすら考えてしまう魔耶。

ーと、通りかかった近くの部屋からざわめきが聞こえてきた。
魔耶「ん?」
気になって部屋の中を覗いてみる。すると…
??「心の住人……って感じか?宜しくな、中二病ちゃんよォ」
そこには、幹部と思われる人と対人してるカルセナの姿があった。
その様子はいつもとちがい、肌と髪以外は全部真っ黒。なにかオーラのようなものも出ている。
魔耶「いや誰やん!!」
つい大声でツッコミを入れてしまう。
ざわめきにかき消されて聞こえないだろうと思ったが、ドアの近くにいた人のほとんどが私の方を向いた。
と、その人達につられてカルセナ(?)もこちらを向いた。
カルセナ「おい、突っ立ってないでお前も手伝え!」
…いつもと違う、威圧感のある声。
私が仲間だということは分かるようだが、誰なのであろう?カルセナなのか?
魔耶「誰だかしらないけど…正体ばらさないでよ…」
ハァ〜とため息をつきながら下っぱの服を脱ぎ、いつもの青い服になる。
幹部「くっ…侵入者だ!!捕らえろ!!」
敵「はっ!」
まわりにいた人達が立ち上がり、私とカルセナにじりじりと近づいてきた。
カルセナ「お前はザコの相手をしろ!こいつは私がやる…」
魔耶「了解。あとで事情を聞かせてもらうよ?」
カルセナ(?)の実力は知らないが、幹部を一人で相手しようとするなんてよほど腕に自信があるのだろう。なんか強そうだし、幹部の相手は任せよう。
魔耶「じゃあ、一丁やりますか!!」
双剣をつくりだし、まわりの敵に向かって突っ込んでいった。

128:多々良:2020/04/05(日) 11:15

カルセナ「さてと....お前の相手は私だ、厨二病」
逸霊「.....中々珍しいタイプの個体だな。良かろう、そのまま生け捕りにしてボスに献上してやる」
攻撃体制になったかと思えば、逸霊は髪の毛を伸ばし始めた。やがて、その髪の毛の先は蛇の頭に変化していった。
カルセナ「んん....何だ?気持ち悪ィ奴だなお前」
逸霊「言葉に気を付けた方が良い.......体を気遣う様ならばな!」
逸霊はカルセナに向かって蛇を飛ばして来た。噛まれる寸前でとっさに蛇を掴んだが、その力は強く、両手で押さえ込まないとすぐにでも攻撃して来そうな程だった。
逸霊「....良い判断だ。横に避けたら容赦無くお前に噛み付きに行かせていた」
カルセナ「遠距離でも自在に操れるってか.....チッ!!」
押さえている蛇と髪の毛をすぐさま千切った。蛇は髪の毛と離れると、暫くして消えていった。髪の毛の方はと言うと、千切れた部分からまた直ぐに蛇が再生していた。
逸霊「無駄だ。私が意識している限り、無限に再生し続ける」
カルセナ「本体をぶっ倒さねーとキリが無ぇって事だな....」
逸霊「御名答。まぁ、そこまでなら幼い子供でも簡単に分かるだろう....」
カルセナ「....そこまでなら?」
カルセナが疑問の表情を顔に出すと、逸霊は薄ら笑いを浮かべた。
逸霊「さぁ.....自分で確かめて見るが良い、他に何が隠されているのかをな。.....ただ、私にも情けと言うものがある。一つヒントをやろう........蛇には、気を付けるんだな」
カルセナ「ゴチャゴチャうるせぇなぁ、ぶっ倒す方法が分かってんだ。蛇に噛まれたって関係無くテメェを狙ってやるよ!!」
そう言って力強く地を蹴り、素早いスピードで逸霊に向かって行った。
逸霊「.....ヒントを与えたと言うのに、何と愚かな....」
当然、逸霊は向かって来るカルセナに三匹程の蛇を飛ばした。
一匹目、二匹目は何とか避ける事が出来た。が、三匹目の攻撃を左足に、もろに食らってしまった。
カルセナ「くっ.....!!思った程痛くは無ぇ...!残念だったな..........ッ!?」
逸霊「.....残念なのはこちらの方だ」
殴り掛かる瞬間突然、足の強い痺れで体制を崩してしまった。
カルセナ「ぐ....これは.....毒...?」
逸霊「目の前の標的に意識を奪われ、考察する事を忘れていた様だな。この蛇の牙には神経毒が仕込んである。誰が考えたって分かるだろうと思っていたが.....とんだ期待外れだ。実験には、お前の脳以外を使わせて貰うとしよう」
カルセナ(くそっ.....こいつは魔耶にばっか頼ってられねぇみたいだしな....どうにかしねぇと...!!)

129:なかやっち:2020/04/05(日) 11:44

魔耶は双剣でまわりの敵を片付け、遠い敵は弓に切り替えて打つ…を繰り返していた。
たくさんの熊さんは操りきれないし、大きいものをつくるとすぐに魔力がなくなってしまうからだ。人数が多い場合は熊さん単体だと倒しきれないし…
魔耶「…一人でこの量はキツイなぁ…」
いくら魔族といえども、何十人もの人間を一人で相手にするのは流石にキツイ。長期戦は不利であろう。
さっさと片付けてカルセナの加勢に行きたいのだが…
魔耶「っとぉ…」
目の前を剣の刃が掠める。
下っぱ「いくら強くても、この数相手は辛そうね?楽にしてあげましょうか?」
魔耶「遠慮しときます。…まだ死にたくないもので」
アレを使おうか…でも、アレはボスまでとっておきたい。
魔耶は巨大なオノをつくりだし、振り回した。
敵は数が多い。避けようとすれば仲間とぶつかってしまう。
そういう意味では、一人は戦いやすかった。
下っぱ「どうなってるんだ、あいつ!手ぶらだったハズなのに…」
普通の人から見れば、いきなり私の手元に武器が現れて猛威を振るっているように見えるのであろう。
戸惑っている敵の群れにオノを向け、なぎ倒す。
下っぱ「ひいぃっ…!」
わずかに生き残った下っぱも、戦意をなくし逃げていく。
他の仲間に加勢を求めに行っているのかも知れないが、ここまできたらもう後戻りは出来ない。その加勢ともそのうち戦うことになるのだ、追いかけたってしょうがない。
魔耶「ふぅ、視界がよくなったかな。」
ほとんどの敵が部屋から消え、部屋には私とカルセナ(?)と幹部だけになっていた。
カルセナはどうなったのであろう。二人が戦っている方を向く。
魔耶「!!」
カルセナが体制を崩し、左足を床につけていた。

130:多々良:2020/04/05(日) 13:41

魔耶「カルセナ!!」
カルセナ「魔耶....ッ!」
逸霊「....む、そう言えばあやつも奇妙な能力を使っていたな。今日こそはボスが喜んでくれそうだ」
そう言って逸霊は魔耶の方を向いた。
カルセナ「おい!!まだ勝負は着いてねぇだろ!魔耶には攻撃すんな!!ッくそ、落ち着け....!」
そう考えている間にも、神経毒は右足にまで回ってきた様で遂に立てなくなった。カルセナは意識を集中させた。

「ーーおい、テメェもやっぱり力を貸せ。」
「えぇ....そんな強いやつだったのあの幹部....。」
「そうだ、早くしろ!!また魔耶に迷惑掛ける気か!!」
「うぅ、分かったよ....。どうすれば良い?」
「両足が今動かねぇんだ。足に力を溜めろ。」
「力を溜めるってどうやって....。」
「それっぽくやりゃあ良いんだよ!自分で考えろ!!」
「うっ、了解です.....」

逸霊「お前の体も研究材料にしてやろう。これであの方に相当な力を授けられる....」
八匹の蛇が魔耶に向かって飛ばされようとした瞬間だった。誰かが逸霊の肩に手を置いた。
「覚えてなかったか?お前の相手は「私」だ。」
逸霊「なっ....!!?...ッぐはぁっ....!!」
強い打撃音と共に、逸霊の体が部屋の壁まで吹き飛ばされた。
逸霊「....ゲホッ、貴様.....毒で立てなくなっていた筈だ....なのにどうしてそこに立っている!?」
カルセナ「さっきの言葉、そっくりお返しするぜ。目の前の標的に意識を奪われ、考察をする事を忘れていた様だな.....何でだろうな。自分で確かめて見ろ!!」
逸霊「小癪な....お前を献上するのは止めよう。やはりそのまま私の糧となれ!!」
壁を蹴り、蛇と共にカルセナを捕食しようと迫ってきた。
カルセナ「....そう言えば、蛇は視界が狭いとか、首根っこ押さえると良いとか聞いた事あんなぁ」
逸霊「息絶えろッ!!」
噛み付かれそうになった瞬間、逸霊のスピードを上回る速度で後ろに回り首を押さえ、そのまま地面に突き付けた。
逸霊「がッ.....!!」
カルセナ「チェックメイトだ」

「....殺しちゃ駄目だよ。」
「何だと....?殺されそうになったのはどこのどいつだよ。」
「それはそうだけど....情報とか聞き出せるかもしれないし、首さえ押さえとけばもう大丈夫なんでしょ?」
「.......ケッ、勝手にしろ。私は少し寝る。あとはお前らで解決しやがれ。」
「....うん....ありがと。」

カルセナ「.....終わったよ、魔耶!」

131:なかやっち:2020/04/05(日) 14:15

魔耶「…お疲れ。もう意味わからん。」
軽く微笑みながら今思っていることを言葉にした。
だって、黒色のカルセナが戦っているかと思えば敵がこっちを狙ってくるわ、材料とか言われるわ、カルセナが敵を吹っ飛ばすわ、もとに戻るわで…。
カルセナ「そんなドストレートに言わないでよ。これでも頑張ったんだから。」
カルセナがしかめっ面をする。
その反応を見てやはりもとに戻ったんだと安心する。
カルセナ「んで、この人どうしよう?」
魔耶「縄でもつくって縛るか。」
能力で縄をつくって幹部を縛り上げる。
幹部はどうやら気絶してしまったようでぐったりとしていた。
カルセナ「大丈夫?縄かみちぎられない?」
魔耶「魔力で出来てるから大丈夫じゃね?知らんけど。」
カルセナ「ちゃんとしてくれよ…」
カルセナが不安そうに縄を見つめる。
魔耶「まぁ、こんだけ弱ってれば無理だろうよ。どうする?起こす?」
カルセナ「まぁ、そうだな…情報を得ないと…」

カルセナが幹部をツンツンとつついてみる。反応がない。
魔耶が軽く頬をペシペシしてみる。反応がない。
魔耶「…死んでたりしないよね?」
なんの反応もないので不安になってカルセナに聞いてみる。
カルセナ「殺しちゃだめって言ったから大丈夫だと思うけど…起きないねぇ。」
魔耶「言った?…まあいいや。自然に起きるまで待つか。疲れたし、どこかで休憩したい。魔力まあまあ使ったわ。明日筋肉痛だわこれ。」
カルセナ「魔力って使いすぎると筋肉痛になんの…!?」
魔耶「冗談です。3割くらい。」
…3割…?
まぁ、魔耶の言う通りここを離れないと敵の加勢や他の幹部が来るかも知れない。
この人を連れてどこかで休むのがいいだろう。
カルセナは幹部を担ぎ上げ、部屋を出た。

132:多々良:2020/04/05(日) 14:44

カルセナ「うーん、どっかに良い隠れ場所あるかなー?」
魔耶「そうだなぁ....あっ」
良い隠れ場所と聞いて、魔耶は柚季がいる地下一階を思い出した。さっそくその事をカルセナに話す。
カルセナ「....それ大丈夫か?んーでも、やってる事に興味が無い幹部ねぇ....なら別に大丈夫か....?」
魔耶「全然敵意も感じなかったし、ちょっと隠れさせて貰えるんじゃないかと思うけど....」
カルセナ「まっ、行ってみますか。魔耶がそう言うなら大丈夫だ」
そうして二人は地下一階へと向かった。

柚季「あらぁ魔耶さん、またいらっしゃったのですね〜。っと、あぁ、そちらの方が例の....」
魔耶「友達のカルセナです。すみません、ちょっとここに隠れさせて貰っても良いですか....?」
柚季「別に良いですよ〜。.....あれ?カルセナさんが担いでいる人はもしかしなくても....逸霊さんじゃないですかぁ?」
カルセナ(やっば、忘れてたっ....!!)
流石に味方がやられてしまっているなら、怒って攻撃してくるのでは。そう思ったのだが.....。
柚季「ふふ、まさか逸霊さんが負けるなんて思ってもいなかったですー。貴女達お強いんですね〜」
魔耶「....仲間がやられているのに、関心は無いんですか?」
柚季「だって死んじゃってる訳でも無さそうですし。先程魔耶さんに言った様に、私は皆さんがやってる事に興味が無いです。その人にも、別に興味はありませんから〜」
カルセナ(何だこの幹部.....)
そう思いながら、担いでいた逸霊を下ろし、壁に寄り掛からせた。
柚季「それにしても、何で連れて来たんですか?」
魔耶「いや、何か他に情報を聞き出せるかなって思いまして」
柚季「そうですか〜、まぁ上でほっといても処分されるだけですしねぇ」
カルセナ「....?どういう事ですか?」
柚季「私達幹部は、敵に負けちゃったらボスに強制的に処分されちゃうんですよ〜」
魔耶「処分って....幹部を辞めさせられるって意味の処分ですか....?」
柚季「いえいえ、もうそのままの意味ですよ。簡単に言うと、殺されちゃうって事ですかね?」

133:なかやっち:2020/04/05(日) 16:04

カル魔耶「!?」
こっわ…1回負けたら殺されるとか、どんなホラゲー?
カルセナ「な…なんでそこまでして、あのお方?の部下になるんですか?負けたら殺されるなんて…」
柚季「まぁ、人それぞれの理由がありますよね。私はただ暇だったので仲間になっただけですけど。」
そういって退屈そうに「ふわぁ…」と欠伸をする柚季。
魔耶「…暇潰しで殺されたら最悪じゃないっすか…」
柚季「まぁ、私はそもそも戦わないのでいいんですよ〜」
…あたりまえのように言ってるけど、この人なんで処分されないんだよ…。
カルセナ「戦わないのになんで幹部に…?」
カルセナが疑問を述べる。
確かに、この人は戦わないといいながらも幹部という立場にいる。なぜ…?
柚季「あぁ、それはあのお方が私の強さをしっかりわかっているからですよ〜。ちゃんと強いんですよ、私。戦えば。」
うふふっと笑いながら話す柚季。自分から強いと言うとは…よほど自信があるのだろうか。それとも冗談なのだろうか…
この人と会話してると分からなくなる。
魔耶「…戦えば、ですけどね。」
ボソリと呟いた。


しばらくまったりと話していたため、体力も魔力も大分回復することができた。
魔耶「ふー、これでもう一戦分はもつかな。」
カルセナ「そんなに一戦で疲れるものなの?」
魔耶「あったり前よ〜。つくってるものは全部魔力の塊みたいなものなんだから…」
私の言葉に、柚季が驚きの声をあげる。
柚季「それはすごいですね〜。魔耶さんの能力は魔力の質や形をかえる能力なのですか?」
魔耶「……?」
よく考えればそうなのであろうか?いままで感覚でものをつくっていたから分からない…
カルセナ「え、魔耶の能力はそういう仕組みだったのか…」
魔耶「うーむ、よく分からないけど…そうなのかもね〜?」
適当に返しておく。
まぁ、能力を使えてるんだから仕組みなんてどうでもいいや…と考えたゆえの発言だった。
ここが私の悪い癖なんだろうなぁ。

ーと、壁に寄りかかっていた幹部さんが動き出した。

134:多々良:2020/04/05(日) 16:58

逸霊「う....ぐッ.....」
カルセナ「わぁっ、起きたっ!」
魔耶「大丈夫でしょ、拘束されてんだから....」
逸霊「私はまだ....生きているのか....?」
意識は戻ったものの魔耶の言った通り、縄を引きちぎって襲って来る事は無さそうだった。
柚季「あ、おはようございます逸霊さん。相変わらず凄い牙ですね〜」
逸霊「柚季....?何を呑気にしている、さっさとそこの侵入者どもを排除しないか!!」
柚季「負けた人には命令されたくないですねぇ。しかも今貴女は、あの方に処分されるべき立場だと言うのに」
そう言われて、逸霊は黙り込んだ。だが、暫くして口を開いた。

逸霊「....どうせ何時かは処分されるんだ.......私も、お前もな」
魔耶カル「えっ....」
魔耶「何時かは....って言うのは、一体いつなんですか?」
不意に質問され、少し考えた後に出した答えはこれだった。

逸霊「......あのお方が、全ての力を手に入れた時だ」
カルセナ「全ての....力?」
逸霊「お前らもきっと見ただろう。街の住人を全て回収した様を」
確かに見た。それも、二回も。そもそも魔耶達はあの消えた住人らを返してもらう為にここに来たのだ。
逸霊「あのお方は、回収した人間共を駆使して、この世界で最強の存在になろうとしている。例え、様々な命を奪ったとしても....」
魔耶「そんな事を企んでいたのか....」
逸霊「私はこの命を消されても、力の一部として役に立てるのならばそれで良い。....情報は話した、私はここで処分されるのを待つ」
死を覚悟して目を瞑ろうとした逸霊に、カルセナが再び問い掛けた。
カルセナ「あっ、そう言えばもう一人幹部がいる筈じゃ....それはどんな人なんすか?」
逸霊「.......あいつの事か....私はもう何も言わない。そこの幹部に聞くんだな」

135:なかやっち:2020/04/05(日) 17:42

柚季「はーい、私のことですかね〜?」
逸霊の言葉に反応する柚季。
魔耶「なにか知ってるの?」
私の言葉にクスクスと笑う柚季。
柚季「あんまり詳しいことはわかりませんけどねぇ。あの人はあのお方の役に立とうと、日々研究を重ねています。その為、たくさんの薬を持っているので戦うととても厄介ですねぇ。」
カルセナ「厄介?」
柚季「はい、戦うときに投げつけてきたり、自分で飲んだり。体術戦には長けていませんが、薬を使われると大変ですね〜」
魔耶「随分詳しいですね?」
あれほど興味がないと言っていたのにもう一人の幹部についてやけに詳しい。
柚季「一度手合わせをしたことがありまして…強かったです〜。」
成る程、一度手合わせをしたから、戦いかたに詳しいのか。
逸霊「幹部で手合わせをするきかいがあってな。そのときに戦ったんだ。」
柚季「私は戦いたくなかったんですけどね〜。」
ムスッとして頬を膨らます柚季。
その様子をみて、よっぽど戦いたくなかった、というのがうかがえる。
カルセナ「その人はどこに…?」
柚季「地下3階ですね〜。戦うつもりなら気をつけてくださいね。あの人の戦術は少々特殊なので。」
確かに、薬を投げつけたりする戦術は特殊であろう。
魔耶「じゃあカルセナ、行く?」
カルセナ「うむ、行くしかないよね…」
少々不安を感じるが…ここまできたのだ。もう一人の幹部とあのお方?を倒して、みんなを助けなくては…!
魔耶「よーし、みんなを救えるまであと少し!行くぞ〜!」
カルセナ「おー!」

136:多々良:2020/04/05(日) 18:51

二人は地下三階へと続く階段をそっと降りていった。
カルセナ「ここで言っても遅いけどさー....私結構、薬とか催眠術とか効きやすいタイプなんだよね〜....」
魔耶「へー、そうなんだー」
カルセナ「....ヤバない?」
魔耶「まぁまぁ、直で食らわない限りかかる事は無いんじゃない?いざとなったらさっきのモード?みたいなのになれば良いじゃん」
カルセナ「いやーあれは何か....こう、凄い絶望感の中に居たからさ.....」
魔耶「成る程ね〜....つまり最終手段って感じかな?」
カルセナ「そうかもしれん。」
なんて雑談をしている内に、階段が終わった。地下三階は薬の匂いが漂っていて何とも言えない居心地の悪さだった。
カルセナ「うわくっさ....こーゆー匂い嫌いだわ.....」
魔耶「う.....確かにこれはキツイ....」


柚季「ーー魔耶さん達勝てますかね、あの人相手に」
逸霊「..........」
柚季「ちょっと、無視しないでくれます?」
逸霊「.....勝てる筈が無い。お前もあいつの実力を知っているだろう」
柚季「そりゃあ勿論ですよ〜。でも、あの人達が自ら行ったんですから、もしかしたら勝てるんじゃないですか〜?希望は捨てない方が良いですよ?」
逸霊「....はぁ、希望は捨てない方が良い、か.......私も最後の人生だ。だったら一周回って、あいつらに賭けてみるとしよう」
柚季「もし勝てたら、どうするんです?」
逸霊「....あいつらが勝ったら......あいつらと共に、あのお方に勝負を挑みにでも行くかな......そうだ、良く考えれば、いくらあのお方の為と言っても死ぬのなんかまっぴら御免だ。私にはまだやりたい事があるんだ」
柚季「ふーん....逸霊さんにしては珍しい考えですね〜.....私もそうしてみましょうかねぇ」
逸霊「......人の真似を嫌っていたお前にしては、珍しい考えだ」
柚季「暇だからそうしてみようって思っただけです〜」


地下三階をくまなく見渡していた二人は、ある影に気が付いた。
カルセナ「あ、見て魔耶、何か動いてる影が見えるよ....!!」

137:なかやっち:2020/04/05(日) 20:09

??「なにか上が騒がしいと思ったら…ネズミが入り込んでいたか。」
カルセナが見つけた影が動きだす。
…この声、どこかで聞いたような…?
??「他の幹部はなにをしているんだ。もしや、このネズミ共に負けたのか…?はっ、だとしたらお笑いだな。」
影が灯りの下に出てきた。
頭に歯車とネジのアクセサリーを付け、白衣のような服を着ている。片手にはフラスコを持ち、いかにも研究者って感じがした。
??「私は降魔雅(ごうまみやび)。幹部の一人だ。」
相手は自ら名乗り、怪しい薄ら笑いを浮かべた。

ーと、ようやくこの声を思い出した。
魔耶「あっ!この人、熊さんの魔力を感じとった…」
そう、私が熊さんをこの建物に送り込んだとき、聞こえていた声だった。
この人が熊さんの小さな魔力を感じとったのか…
カルセナ「あぁ、あなたが上の中って呼んでた人ね。」
カルセナも思い出したようで、ふーんと納得の声をあげていた。
…その思い出しかたはやめてほしいんだけど…
雅「私のことを知っているのか。サイン替わりに薬でもやろうか?」 
雅が手に持ったフラスコを軽く振る。フラスコの中には紫色の液体が入っていた。
カルセナ「うぇ〜。それ絶対毒じゃん。いらんわ。」
雅「さぁ、どうだろうな。飲んでみないと分からないだろう?」
見た目でもう毒だって分かりそうなものだと魔耶は思った。
雅「さて、お前らはどうしてほしい?選択肢をやろう。一、おとなしく降伏して、痛みもなく死ぬ。二、実験材料として使われる。三、私と戦って苦痛を感じながら死ぬ。さぁ、どれがいい?」
選択肢を出される。だが、そんなものは必要ない。答えは決まっている。
魔耶「四、君をぶっ倒してみんなを救う!に決まってるだろ!」
雅「ははっ、面白い答えだな。気に入った。実験材料として使ってやろう!」

138:多々良:2020/04/05(日) 21:17

雅は懐から数本の試験管を取り出し、軽快に手の中で回して見せた。すでに攻撃体制に入っている様だ。
カルセナ「どいつもこいつも実験やら研究やらってうるさいなぁ.....材料なんかになってたまるか!!」
魔耶「行こう、カルセナ!!」
カルセナ「おうよ!!」
魔耶の合図と共に、二人は雅に向かって左右から攻撃を仕掛けた。
雅「哀れなネズミ共め.....貴様らに、私の研究の邪魔などさせない....!!」
先程取り出した試験管を周りに放ると、魔耶とカルセナの周りで爆発した。
魔耶「ぐっ....!!」
カルセナ「わぁっ、爆発!?」
爆発の規模からは想像出来ない、強い爆風が二人を押し返した。何とか体制を立て直す事が出来たが、あの爆発物をまだまだ持っていると思うと、簡単に手出しは出来なさそうだった。
雅「どうした?もう手出しする勇気が失せたか?」
魔耶「....ちょっと驚いただけ。私達が、そんな簡単に諦めると思うなよ!!」
雅「ふふ、そうか......これを知っているか?」
又もや懐から、今度はカプセルの様な物を取り出した。カプセル自体は透けていて、紅色の液体で満たされている。
カルセナ「....?あれは?」
雅「バトラコトキシン、と言う「猛毒」だ。一滴でも体内に取り込んだら、死に至る程のな!」
薄ら笑いを浮かべ、そのカプセルを二人の前に投げた。地面に着いた瞬間そのカプセルが破裂し、中の猛毒が飛び散った。

139:なかやっち:2020/04/05(日) 22:07

魔耶「っ…!くっ!」
急いでカルセナと自分の前に壁をつくる。
間一髪、猛毒は壁に当たってびちゃりと床に飛び散った。
魔耶「っはぁ…はぁ…間に合った…」
なんとか猛毒を食らわずに済んだが、まだ雅が毒を持っていないとも限らない。毒を食らったら一発でアウトだ。どうにかしないと…
魔耶「カルッ!」
私は盾をつくりだし、カルセナに向かって投げた。
カルセナ「おっと…ありがとう、魔耶!」
これで毒や爆発は大丈夫であろう。
まだどんな薬があるか分からない、用心しないと…
雅「ふむ…猛毒を防ぐとは…面白い能力だな?」
顎に手をあてて、雅が話しかけてくる。
魔耶「ははっ、他の幹部さんにも言われましたよ…」
雅「見たところ、お前の能力は物をつくる能力…か?」
魔耶「そうなんじゃないですかね。」
敵に情報を与えてはいけないと、曖昧に返事をする。
雅「ふふっ、良いではないか。実験材料にピッタリだ。」
雅は満足そうに頷くと、なにやら黄色い液体が入った試験管を取り出す。
雅「これは私の薬の中でも最高傑作でな。投げるとあたりが底なし沼に変わる。」
カルセナ「そんな薬アリかよ‼」
思わず驚くカルセナ。
雅「私の薬は、私の閃きがあるかぎりどんなものでも作れるのだ。さぁ、ネズミ共。泥の中で許しを乞い、溺れてしまえ!」
雅は笑いながら床に薬を叩きつけた。
ゴポゴポという音がしたかと思ったら、そこから泥が涌き出てきてくる。

140:なかやっち hoge:2020/04/05(日) 22:38

てーせい。涌き出てくる。

141:多々良々良:2020/04/06(月) 09:40

魔耶カル「うわぁっ!!」
飛んで逃げる間も無く、二人の足が底無し沼に捕らわれてしまった。
カルセナ「ヤバいよこれ!あっと言う間に沈んじゃうよ!!?」
魔耶「落ち着いてカルセナ!飛ぶ力で上に上がってみよう!!」
魔耶の言う通り、全力で上に上にと飛んでみたが中々抜け出せなかった。
カルセナ「うわもう駄目だぁー!!誰か助けてー!!!」
自力では抜け出せない事を知ったカルセナは、パニック状態に陥ってしまった様だった。
魔耶「.......!!カルセナ暴れちゃ駄目っ!!さらに沈むだけだよ!!」
そうは言ったが時既に遅かった。どうにか抜け出そうとしてもがいたカルセナの体は、半分程まで取り込まれていた。
一方カルセナより落ち着いていた魔耶の体は、まだ膝程度の所までしか取り込まれてなかった。
雅「さぁどうだ?じわじわと死の恐怖に飲み込まれる気持ちは」
魔耶「くそっ....!!どうしよう....!」
考えている間にも、体がどんどん沈んでいく感じがした。
カルセナ「わっ!ヤバいっ.....」
魔耶「カルセナ!!」
先程下半身が完全に沈んでいたカルセナは、既に胸のあたりまで取り込まれていた。
魔耶も、もうすぐ下半身が沈み終わりそうだった。
魔耶(どうにかしないと.....考えてる時間なんか無いのに.....ッ!!)
雅「そこまで沈んだのなら、そちらの者はもう終わりだな」
二人を見て、何度も薄ら笑いを繰り返す。
魔耶「......ッ」
カルセナ「わあぁ、まだ死にたく無いっ....!!!」
魔耶「....!!嘘、もうそんな所まで.....!?」
魔耶から見えている部位は、もう首から上しか無かった。辛うじて手を出せている、と言う感じではあった。
カルセナ「やだっ、た、助けてっ!!!」
魔耶「カルセナぁっ!!!」
慌てて手を伸ばしたが届かない。引っ張り上げる事も許されなかった。

カルセナ「ゲホッ、魔耶っ!!..................ごめんねっ........」

そうして、カルセナの体は完全に底無し沼に沈んでしまった。

142:多々良 hoge:2020/04/06(月) 11:02

(何かすごい名前になってる.....)

143:なかやっち hoge:2020/04/06(月) 14:05

(思いっきり笑ったんだけどww)

144:なかやっち:2020/04/06(月) 14:40

魔耶「カルセナぁっ!!」
雅「ははははっ!!仲間が沈んでしまったな!!どうする?許しを乞えばお前だけでも助けてやるぞ?もっとも、そのあとは私の研究材料になるのだがな!!」
…ショックで雅の声が耳に入ってこない。頭が真っ白になる。脳が機能しない。
私がショックを受けて固まっている間にも、体は沼に沈んでいっているのが感覚で伝わってくる。
下半身はほとんど沈んでしまっただろうか。
それを確認する余裕もない。

魔耶「……ごめん、カルセナ…。」
ボソリと姿の見えないカルセナに謝る。
私は静かに目を瞑り、動くことを止めた。
雅「遂に諦めたか!?はははっ、いいだろう!私がしっかりお前の最後を見届けてやろうとも!あはははっ!」
私の様子を見て高笑いをする声が聞こえる。
五月蝿いなぁ。私はーー


諦めるつもりなんてみじんもない!!
いきなり、魔耶の体からブワッと黒いオーラがでてきた。
オーラは彼女の全身を覆い隠す。
雅「なっ…!?」
雅が腕で顔をおおい、驚きの声をあげる。
10秒ほどたったであろうか。全身のオーラがサアァ…と晴れた。
雅「!!」
そこにいたのは、先程までの魔耶とは違う。目が赤黒色に変わり、頭から真っ黒の角を二本生やし、翼が一回り大きくなった姿の魔耶だった。
魔耶「ボス戦までとっておくつもりだったのに。ごめんね、カルセナ」
そういってため息をつく魔耶の姿は悪魔そのものだった。
雅「き、貴様…悪魔か!?」
魔耶「あははっ、違うよ。ただの魔族さ〜」
魔耶はさらに大きく、力強くなった翼を羽ばたかせ底なし沼からら脱出した。そのときに一緒に連れてきたのであろう、その手にはカルセナの手が握られていた。
魔耶「まぁこの姿は悪魔に近い状態になってるから、勘違いするのも無理はないね。」
私は雅に向かってニヤリと微笑んだ。

145:なかやっち hoge:2020/04/06(月) 16:02

(からら…wミスしてばっかだなw)

146:多々良 hoge:2020/04/06(月) 16:22

(誰にでもミスはあるさねw多々良々良みたいにな....)

147:多々良:2020/04/06(月) 17:00

視界が暗闇に閉ざされ息も出来ず、そのまま気絶した....筈だった。
急に誰かに手を取られ、底無し沼から引っ張り上げられた。突然視界に入った明るさ、そして息の出来る自由空間。その瞬時な入れ替わりに吃驚して目が覚めた。
カルセナ「....う.....ゲホッ、ゲホッ........」
まだ十分に酸素を取り入れられていない、重い頭を動かして握られた手の持ち主を見上げる。
そこには恐ろしい姿をした悪魔の様な者が、羽ばたきながら雅を見つめていた。
普段そういう姿の者を見たら、必ず怖がって、大声を出して逃げようとするだろう。その手から逃れようとするだろう。
でも、そんな素振りは見せなかった。握った手から伝わるものが、恐ろしさでも残酷さでもなく、この姿からは想像も出来ない様な、温かく、誰かを想う気持ちで溢れたものだったからだ。そして、その手を通して正体が分かった。いや、手を通さなくても分かる。
カルセナ「魔耶.....っ!!」
姿は変わっていても、感じる温かさは変わっていない。
魔耶「.....もう大丈夫だよ、カルセナ。」
それはまるで、魔耶とカルセナが初めて出会った時の光景と少し似ていた。
雅「魔族....!?....ふん、少しはパワーアップしている様だな。だがそれも無意味、何処までその足手まといと自分を庇いながら戦えるか、派手に実験してやろう!!」
そう言うと、序盤に出した試験管の数よりも数倍多い数を、自分の周りに浮かべ戦闘体制に入った。
カルセナ「魔耶.....私の事はどうでも良いから....あいつを倒して....!!」

148:なかやっち:2020/04/06(月) 17:30

魔耶「…ごめん、カルセナ。それは出来ない。」
魔耶はカルセナに向かって首をふる。
カルセナ「え…!?な、なんで?」
魔耶「だって、大切な親友をほおっておきながら戦うなんて出来ないよ。それにこの姿なら…」
雅の手から試験管が放たれる。
試験管は二人に向かっていき…全て魔耶によってつくられた壁に当たって爆発した。
魔耶「自分とカルセナを庇いながら戦うなんて朝飯前よ?」
雅「なっ…!あれだけの爆発を、防ぐとは…!」
雅が戸惑っている隙に、猛スピードで背後に回り込む。
魔耶「この姿だと私の全部のステータスが上がるんだ。魔力もね。」
巨大な鎌をつくりだし、雅の首元に当てる。
魔耶「チェックメイト、かな。」
雅「くっ…私としたことが…こんな奴らに…」
…カルセナは鮮やかな手際に感心するが、魔耶の言葉が引っ掛かるように感じた。
ハッ!と気づいて魔耶に聞いてみる。
カルセナ「私のマネ?」
魔耶「あ、ばれた?正解。」
さらりと答えられて、怒りよりも呆れが出てくるカルセナ。
「せっかくカッコいい感じだったのに台無しじゃ…」なんてブツブツ言ってる。
魔耶「テヘペロッ☆…んで、雅さん?まだ戦いますか?」
雅「…ちっ、お前みたいな化け物には敵いそうもないな。もうやめておこう。」
意外とすんなり諦めてくれた。有難い。
縄をつくりだし雅をぐるぐる巻きにする。
魔耶「一丁あがり!」
カルセナ「ん〜。ナイス〜。じゃあ、あなたのボスである『あのお方』の目的を教えてもらおうか。あなた本人の目的も。」
雅「……」

149:多々良:2020/04/06(月) 19:53

暫く沈黙を続けていたが、ようやく言葉を発し始めた。
雅「....あのお方の目的は、全世界の支配だ」
魔耶カル「.....!!?」
雅「この世にはいくつもの世界が存在する。この世界の他にも人間だけの世界、異生物が生息する世界、魔物の世界などとな....」
カルセナ「....て事は、私達の世界も.......」
魔耶「そうなるよね......信じたく無いけど.....」
二人の様子を気に掛ける事も無く、話を進めた。
雅「私の目的は、あのお方の力を向上させる事。その材料として、色々な生物をかき集めた」
カルセナ「でも、その人が全ての力を手に入れたら、貴女達は処分されちゃうんでしょ....?」
魔耶「そうだよ、しかも.....それだけの目的で、一体どれだけの人が犠牲になると思ってるんだ!!」
その瞬間、雅の表情が曇った。
雅「黙れ!!!それだけの目的だと....!?部外者ごときがほざくな!!あのお方が....蓬様が最強になるのであれば、私は何も悔いはしない!たとえ何千人もの命が消えようと、この身が滅びようとも!!」
カルセナ「よもぎ....様?」
魔耶「それが、貴女達の言ってたあのお方、って人ね....」
雅「私は世の上下関係に納得が行かなかった....何故妖怪が魔族や神の下に位置するのか....!!....そんな時、蓬様に出会った。あのお方の考えは素晴らしかった。上下関係を根本的に壊せるものだった....!だから私は、蓬様に着いて行く事に決めたんだ。それなのに....貴様らごときが、私達の邪魔をした!!私の完全な目的は、今ここで断たれたんだ!!!」
魔耶カル「..........」
雅「.....ふん、蓬様の所へ行くなら行くが良い。完全な力で無くとも、あのお方が貴様らに負ける筈が無い」

150:なかやっち:2020/04/06(月) 20:52

魔耶「…それはどうだろうね。まぁ、やるだけやってみるつもりだよ…。それじゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらいますかね。」
くるりと後ろを振り返り、階段に近づこうとする。
魔耶「…カルセナ?」
カルセナ「いや…なんでもない。ただ…ちょっとね。」
魔耶「…?まぁいいよ、行こうか。」
二人で階段を降りていった。


その後ろ姿を見ていた雅がはぁとため息をつく。
雅「…私も、もう殺されるのか。」
柚季「…音がしなくなったと思ったら…雅さんまで負けちゃったんですね〜」
振り替えると、同じ幹部である柚季と逸霊がいた。
雅「…なんだ?私をバカにしに来たのか。」
逸霊「普通ならバカにしただろうがな。私もあいつらに負けた身なのだ。バカになどできんな…」
柚季「私は負けてないですけどね〜。戦ってもいませんし。」
柚季がいつもと同じようにへらへらと笑う。
雅「戦っていないのは負けたのと同じようなものだ。あんな奴らに幹部が全員負けたのか…」
…なぜだろう。あんなネズミ共に、なぜ負けた?
逸霊「…なぜだろうな。きっと、あの部屋に片方しかいなかったら私は勝っていただろうと思える…二人でいるからこそ、あいつらは強いのだろう。」
柚季「あ、逸霊さんくさいセリフいいますね〜。友情って感じですね。素敵です。」
友情ねぇ…ははっ…
雅「私には到底理解出来ないものだな。」
柚季「私も理解できませんね。素敵なお友達がいないので。理解できるようになりたいですね〜。…そういえば、カルセナさんと何か話してませんでした?」
柚季が思い出したかのように言う。
雅「カル…?あぁ、あの金髪か。なんでもないよ。」
カルセナが別れ際に言った言葉を思い出す。
(カルセナ「私達には、上下関係なんてないよ。」)
私に向けて言った言葉だったのであろう。
…上下関係のない、友情…?
雅「やはり、理解できんな。」


魔耶「この部屋じゃない?なんかそれっぽい。」
カルセナ「ここだろうね。」
二人は重い鉄のトビラの取手にてをかけた。
カルセナ「いくぞ、ボス戦…みんなを返してもらうぞ!」
魔耶「お〜!」

151:多々良:2020/04/06(月) 21:49

ぐぐっと扉を押した。想像以上に重い扉だったが、ここで驚いていたらボス戦なんて出来ない。
二人は力を込めるために下を向いていたが、やっと扉が開いた為、顔を上げた。
その奥には狐のお面を被り、簪を刺して髪をまとめ、和風の着物を着た人物がこちらを振り返っていた。
カルセナ「わ....あれがボス....かな?」
魔耶「柚季さんが言ってた通り、仮面....てかお面?をつけてるから多分そうだよ、でも....」
その人物は身長が二人よりも低く、威圧感もまるで無かった。端から見れば、ただの幼い少女であった。
蓬「.....誰です?他の幹部はどうしたのでしょうか」
魔耶「当たり前じゃん、全員倒して来ましたよ!!」
そう言うと蓬は、小さく溜め息を吐いた。
蓬「そうでしたか.....ならば今から三人共、消しに行きましょう」
カルセナ「ま、待ってよ!!何で負けただけで殺しちゃうの!?」
蓬「負けた者は皆、醜くなってしまうのです。醜いものは存在してはいけない。だから私が消してあげるんです」
幹部を処分しに行く為か、蓬は扉へ向かって歩き始めた。
魔耶「納得行かない....そんな屁理屈通ってたまるか!!」
それを阻止するかの様に、扉の前に立ちはだかった。
蓬「邪魔しないで下さ........!?」
魔耶カル「.....?」
蓬「その羽.......貴女、種族は....?」
魔耶の黒い羽を見て、蓬が戸惑う。
魔耶「.......魔族だけど」
蓬「......ッ!!魔族......!?」
魔耶が魔族だと言う事を知って、かなり驚愕している様子だった。
カルセナ「....??何、どうしたんだろ....」
蓬はそんなカルセナを見て、再び同じ質問をした。
カルセナ「今は浮幽霊だけど.....元は人間だったよ?だから....何?」
蓬「人間......ッ!?」
元はと言えど人間だった、と言う事に対しても、同様に驚愕していた。
蓬「憎い憎い憎いッ....!!!何故魔族と人間が共に行動している....!!?消さなければ....今すぐにッ!!」

152:なかやっち:2020/04/06(月) 22:25

蓬は私達から一歩距離をとり、戦闘態勢に入った。
蓬「幹部を消すのは後にしましょう。まずは、この憎い魔族を八つ裂きにしないと気がすまないわ!!魔族なんかと共に行動する人間もね!」
魔耶「私なんもしてないんだけど…まぁいいや、私達が勝ったら街の人達を解放するって約束してよね。」
蓬「いいでしょう、私に勝てたらの話ですけどね…!」
蓬が動きだした…と思ったら、私の真ん前に移動していた。
魔耶「えっ!?速っ…」
蓬の姿を確認できた瞬間、魔耶は壁に叩きつけられた。
衝撃で破片がパラパラと落ちる。
魔耶「っ!…うぐ…」
危ない…悪魔状態じゃなかったら、今ごろ死んでいたかも知れない。
カルセナ「魔耶!?大丈夫!?」
魔耶「なんとか平気…」
壁から離れ、地面に着地して体制を立て直す。この状態でも感知できないとは…そうとう速いな、この人。
蓬「しぶといわね。流石魔族…といったところかしら」
魔耶「しぶとさだけが取り柄みたいなもので。」
蓬「ますます気にさわるわ。」
ーと、カルセナが動きだした。蓬に向かって蹴りを繰り出す。
蓬「あら怖い。でも、あなたの番はまだね。」
カルセナの鋭い蹴りを片手で受け止め、カルセナを押し返す蓬。
カルセナ「わっ!」
カルセナは押し返され、私の方に投げられる。
魔耶「おわ!カルセナ!」
このままだとぶつかる…!とっさに判断してクッションを私の上につくる。…そのせいで私が下敷きになるのだが。
カルセナ「うぐ…ごめん。」
魔耶「いいから退いてくれ…」
蓬「あらあら、ごめんなさいね。強く投げすぎちゃったかしら」
…悪いなんてみじんも思ってないだろうに。
カルセナがクッションから降り、私も立ち上がって蓬の方を向く。

153:多々良:2020/04/06(月) 23:52

カルセナ「やっぱボスってだけあって、相当強いなぁ....」
魔耶「だね....私の悪魔状態も、いつまで持つかな.....」
もう一回、攻撃してみよう。そして何か策を練ろう。そう思って身構えた時だった。

「ーー私達も加勢しよう。雅は来るか分からないがな」

聞き覚えのある声がした。思わず後ろを振り返ってみた。
そこには雅を除く、蓬の幹部である筈の二人、逸霊と柚季が立っていた。
魔耶カル「えっ....何で!?」
柚季「私は加勢するなんて言ってませんけど〜?」
逸霊「阿呆、ではお前はここに何をしに来たんだ。来たならば戦ってもらうぞ」
柚季「はぁ....分かりましたよ〜」
少し不満げに、でも少し嬉しそうに頬を膨らます柚季。
蓬「丁度良い所に....まさか自ら消されに来てくれるとは」
蓬の前に来た逸霊が跪き、話を始めた。
逸霊「蓬様、お取り込み中失礼します。蓬様にご用件が有りまして、ここへ参りました」
蓬「何です?貴女の様なプライド高き者が、命乞いにでも来たのですか?」
逸霊「....私は、貴女様に勝負を挑みに来たのです。それに関しては、柚季も同様です」
蓬「....何故そうしようと思ったのですか?」
逸霊「これまで私は、蓬様の力を尊敬していたかの様に思われますが、本当は圧倒的な力に怯えながら幹部を務めて来ました。ですが、この者達により気付かされたのです。どのような力を前にしようと、協力出来る仲間が居ればその力にも打ち勝てると言う事を」
今の今まで跪いていた逸霊がゆっくりと立ち上がった。
蓬「そうですか....で、それがどうしたというのです」
逸霊「簡単な事。この者達と協力し、貴女様を.....いや、貴様を倒して自由の身になってみせる....!!」
柚季「はーぁ....私も同様でーす」
逸霊の後ろで手を挙げる。
魔耶カル「二人共....!!」

蓬「....あぁ五月蝿い。憎い。鬱陶しい。そして、醜い。仲間が増えたからって、何ですか?仲間が居れば、打ち勝てる?そんな茶番劇は不要です。ただの幹部で、もうすぐ処分される予定だった醜い貴女達が加わったって、何も変わりはしない。私の力には到底及ばない。協力なんて、何も生みはしないのよッ!!!」

逸霊「そんな事は無い!!証明として、その面叩き割ってやる!」

154:なかやっち:2020/04/07(火) 17:35

逸霊が立ち上がり、蓬に蛇を向ける。
逸霊「いくら貴様といえども、神経毒は効くだろう…!」
蛇が蓬の喉笛を掻ききろうと、鋭い牙を剥き出して襲いかかる。
蓬「そんなの、攻撃が当たらなければ意味はないでしょう…!!」
蓬が軽く上に飛び蛇からの攻撃を避ける。…が
柚季「もう一人いること、忘れてません?これで意味があるってことになりますかね〜。」
柚季が、おっとりとした口調からは予想できないほど速く空中に飛び上がり、蓬に蹴りをいれた。
蓬「…っ!!」
吹っ飛ばされた先にあった壁に蹴り、体制を立て直す蓬。
魔耶「さ、流石ぁ…」
初めて蓬にダメージを与えた二人…見事な連携プレーだった。
カルセナ「幹部はやっぱり強いわ…」
逸霊「ふん、当たり前だ。…けど、これくらいじゃあまりダメージは与えられてないだろうな。」
柚季「そうですよね〜。こんな攻撃で倒せてたら苦労はしませんよ。」
二人の言う通り、蓬は何事もなかったかのように立ち上がった。
蓬「所詮協力なんてこの程度なのね…よくもまぁ、その程度の力で私に歯向かおうなんて考えたわね…!」
逸霊「たしかに、『まだ』この程度だろうな。私達はただの仕事仲間だ。なんの絆もない。…が、誠の友情で結ばれたもの達がいる。…だから私達は負けないな。」
逸霊はカルセナと魔耶の方を向いて微笑んだ。逸霊のそんな表情を見るのは初めてだ。
蓬「っ友情…そんなものは存在しないわ。この世界の生き物は全て自分勝手!自分中心にしか考えられない生き物ばかりよ!いいわ、そこまで言うなら、私にその友情とやらを見せてもらおうじゃないの。私の能力の前で…果たしてそんなものは存在するのかしらね!」

155:多々良:2020/04/07(火) 21:04

蓬が両手を魔耶達に向けると、魔耶達の胸の辺りから黒い靄の様なものが出て来た。
魔耶「うぐっ.....!?これは....」
カルセナ「何この煙みたいなやつ....!!」
蓬「あははっ!!絶望に飲まれるが良い!!」
向けていた両手を下ろすと、その靄の様なものは持ち主の周り取り囲み始めた。
柚季「きゃあっ!!」
逸霊「くそっ!!何だっ....!!?」
急いで手で払おうとしても掌を通り抜ける為、意味が無かった。その間にも、黒い靄はどんどん自分自身の体を取り囲んでいき、次第に皆の意識は薄れていった。
蓬「仲間だの協力だのとほざいていた貴女達には一番辛い、『仲間割れ』と言うのでもして貰おうかしら?誰が生き残るのかしらね.....」

やがて靄は晴れ、何も変わっていなさそうな皆の姿が見えた。......表面上ではの話だったが。
完全に自分の表の意識を無くし、心の闇に飲み込まれてしまっていた。
そして、数秒も経たない内に仲間内で戦いが巻き起こってしまった。
蓬「あっはっはっは!!ほぉら見た事!!そう簡単に仲間などと言った事を後悔しなさい!!」
高笑いしながら我を忘れた魔耶達を見つめていた時。ふと引っ掛かる者が居た。
蓬「あはは.........あ?」
記憶では、確かに闇に飲み込まれていた。それなのに、仲間割れをしていない人物。
カルセナの姿が目に映った。
カルセナ「ふわ〜あぁ......何だ.....まだ寝足りねぇな....ん?」
蓬「嘘.....私の能力を食らっておいてそんな事は....!!」
カルセナ「オイオイ、何でテメェら戦ってんだ?何だか知らんけど.....止めるか」
そう言って寝起きの体を伸ばすと、仲間割れが起こっている中心へと突っ込んで行った。
カルセナ「テメェら目覚ませ!!!何やってんだ!!」
蓬「....まさかこんな事になるとは、予想外だったわ....でも、もうその者達は止める事は出来ない!!一生闇に溺れて死ぬのよ!!」
カルセナ「掛けられた能力を解く方法が無ぇなんて事、それこそ無ぇだろ....うーんしかしどうしたら目が覚める....?....ここはいっちょ.....」
カルセナは暴れている魔耶の肩を掴み、動きを封じた。
カルセナ「おい!!テメェだけでも....目覚ましやがれッ!!」

魔耶のおでこに、思いっきり頭突きをかました。

156:なかやっち:2020/04/07(火) 22:30

ゴーンと鈍い音が響く。
魔耶「……っっ!……ぃいったぁぁあああ!!?」
魔耶の悲鳴が部屋中に響き渡る。
…どうやらカルセナはそうとう強く頭突きしたようだ。
魔耶「痛い痛い!なに!?頭割れた!?これ割れた!!?血出てない!!?」
蓬「………(汗)」
涙目になりながら頭をおさえつけ、しゃがみこむ魔耶。
おでこがズキズキと痛む…。
なにが起こったんだ…?蓬が何かしようとして、黒い靄がかかって…それで…
カルセナ「お〜。正気に戻ったか?」
そういって泣きそうな魔耶の顔を覗きこむカルセナ。
なんだかニヤニヤとしている…
魔耶「カ、カルセナ…?いや、違う。別のカルセナ…?」
カルセナ「正解だ。お前は大丈夫そうだな。」
…?訳がわからないが、なにかあったのだろうか…?
蓬「っ…!そんな醜い技で…!?私の能力が解けたと言うの…!?」
魔耶「能力…?醜い技…?」
カルセナ「よくわからねぇが、お前は能力であいつらと戦わせられてたぞ?」
カルセナが親指を後ろに向ける。
指の先では、柚季と逸霊が激しい音をたてて戦っていた。
魔耶「えっ!?二人共、なにやって…」
カルセナ「…あいつらにもやってみるか。」
カルセナがボソリと呟き、二人の方に歩いていく。
魔耶「え?な、なにをするの…?」
カルセナ「こうする。」
カルセナは二人を捕まえて、音が聞こえるほど強く頭突きをかました。
頭突きをされた二人は目を回しながらドサッと床に倒れこむ。
魔耶「…痛そう…し、死んでない…よね?」
カルセナ「死んではないと思うが、気絶しちまったみたいだな。お前は平気だったのに、なんでだろうな?」
魔耶「うーむ…悪魔状態でちょっと丈夫だったからかも…?」
っていうか、私にもあれをしたのか…どうりでおでこが痛いわけだ…
まだ痛みが残るおでこを右手で擦る。
蓬「ちっ…。…でも、人数は減ったみたいね。」
カルセナ「あぁ、そうだな。でも、お前なんて二人で充分だろ?」
カルセナが腕を前に突きだし、構えをとる。
魔耶「ふぅ…また最初に逆戻りってことか。」
魔耶も立ち上がって戦闘態勢を整える。
蓬「さっさと諦めればいいものを…!本当にしつこいわね…!」

157:多々良:2020/04/07(火) 23:20

カルセナ「....さっき、頭突きの事を醜い技って言ったな?」
蓬「ええ勿論。あんな技、醜い以外に何があると言うのか....」
カルセナ「でも、あれでテメェの能力は解除出来たんだぜ?何故だか分かるか?」
蓬「....あんな事は無い筈....あってはいけない事なのよ....」
蓬が質問に答えずとも、ぱっと回答を出した。
カルセナ「正解は、魔耶達とこいつ(本体の方)の間に情があるからでしたー」
そう言って、魔耶の肩をポンポンと叩く。
魔耶「.....どういう事?」
ドヤ顔をするカルセナを見て、自分の顔をしかめる。
カルセナ「....それっぽい事言っときゃあ良いんだよ」
蓬「情....ですって?」
カルセナ「あぁ、間に何かしらの良い感情があれば、あんなちっぽけな技でも目ぇ覚ます事が出来るんだよ。....まぁ私が言える事じゃねーけど.....つーまーりー、だ。私が何て言いたいか分かるか?」
蓬「.....仲間がいる事や協力は、不要では無い.....と?私が言っている事は間違っていると....?」
カルセナ「ピンポーン、大正解〜」
蓬「......大きなお世話。仲間なんて居ても、邪魔になるだけ。.....さらに醜くなるだけ。」
魔耶「そんなに、醜いものが嫌いなの....?」
蓬「当たり前。醜いものなんてこの世にいらない。私だって、もう死にたい。でも、私を馬鹿にした奴等、傷付けた奴等が許せない。だからまだ生きてるだけ。いずれは私も死ぬの。」
蓬は魔耶の質問に答えている間、お面の上からずっと顔を触っていた。
カルセナ「.....こりゃあ、面の下に原因がありそうだな....。おい魔耶」
魔耶「はいはい?言いたい事は大体分かってるけどさ」

カルセナ「....あの面、ぶっ壊すぞ」
魔耶「りょーかい。狙うは顔ね!」

158:なかやっち:2020/04/08(水) 18:32

カルセナが走りだし、先程と同じように蹴りを繰り出す。
蓬「こんな技効かな…………!」
蓬は一瞬受け止めようとしたが、先程とは違う威力の蹴りだと気づき右に避ける。判断を誤ったせいで、蓬の仮面の右側にカルセナの蹴りがかすった。
蓬「な、なに…!?威力もスピードもさっきと段違い…」
カルセナの急激なパワーアップに戸惑いを隠せない蓬。
欠けた仮面の破片が床にパラパラと落ちる。
カルセナ「こいつ(本体)の蹴りと一緒にすんじゃねぇよ。私の蹴りはそんな蹴りじゃねえ。」
カルセナ「…それに、そんな余裕で考え事してていいのか?」
カルセナの言葉に合わせるように、魔耶が蓬に向かって走りだした。悪魔状態による身体強化のお陰でいつもの何倍も速い。
魔耶「くらえっ!私特製双剣!」
蓬に向かってつくった双剣を振り上げる。蓬は少し判断が遅れ、双剣が仮面の右側に当たった。
カルセナ「とどめっ!」
カルセナが素早く蓬の懐に潜り込み、仮面を下から蹴りあげた。
蓬「……っ!」
仮面がカラカラと音をたてて床に転がる。
カルセナが落ちた仮面を踏み潰し、仮面は粉々にされた。
カルセナ「さぁ、これでもう仮面はねぇ!面を拝めさせてもら……」
カル魔耶「!」

159:多々良:2020/04/08(水) 23:33

お面が取れ、さらけ出された蓬の顔には見るだけで痛い、大きな傷跡が走っていた。
蓬「あぁ....!!見るな....私の顔を見るなぁ....!!」
顔を見られた蓬は、力が抜けたかの様に地面にへたり込み、両手で顔を覆った。
魔耶「傷跡......?」
カルセナ「何だ、ただの傷かよ.....もっとヤバいもんを期待してたがなぁ....」
蓬「黙れ!!!私がこの傷一つで、どれだけの苦労をしたか.....どれだけ醜い扱いをされたか、知らない癖に!!」
怒って叫んだかと思えば、次はボロボロと涙を流し始めた。
蓬「魔族がこんな傷を負わせなければ.....人間が私を貶さなければ!!私はこんなことはしなかった!!怒りに任せる事も無かったのに!!!......もう後戻りなんか......出来ない.....ッ!!」
暫く沈黙が続いたが、そこにぽつりと一つの声が入った。

魔耶「.....出来るよ」


泣き崩れていた蓬が顔を上げる。そこにはいつの間に近付いたのか、魔耶の姿があった。
魔耶「確かに、貴女のしようとした事は大罪だし、何よりも重い。....でも、今から心を入れ替えて沢山の人の為になれば、その罪の埋め合わせだって出来る筈。まだ、償えない罪になって無いんだから」
蓬「..........」
カルセナ「そーそー、魔耶の言う通りだ。お前はとにかく自分の闇に囚われ過ぎてる。こいつ(本体)と私みてーに、共存出来る様な関係になれよ。そうすれば、ちったぁ気が晴れるだろーよ」
蓬「...........私は.....」
柚季&逸霊「.....うぅ」
蓬が何か言い出そうとしたとき、気絶していた幹部達が目を覚ました。
カルセナ「.....起きるにしても今かよ....タイミング考えろっつーの」
魔耶「まぁ、良くね別に?何か問題があんの?」
カルセナ「.....いや、無ぇよ....」
柚季「あれ.....私は一体何を....?」
逸霊「......額が物理的に痛い....そうだ、何か黒い靄に囲まれて....」
起き上がった二人は、蓬の顔を見た。二人にとっても、顔を見るのはこれが初めてだった。
蓬「.....分かったでしょう....これで、何故私がお面を着けていたかが.....見られたら貶されるに決まっていた....」

160:雪りんご:2020/04/09(木) 19:37

面白いお話ですね!!!

161:なかやっち hoge:2020/04/09(木) 19:58

ありがとうございます😆✨

162:なかやっち:2020/04/09(木) 20:45

柚季「…わぁ、お面の下はそんな風になってたんですねぇ。何故貶されると思ってたんですか〜?誰にでもコンプレックスはありますよ〜」
蓬「……コ、コンプレックス…??」
柚季は相変わらずの天然言葉だったが、蓬は自分の醜い顔をただコンプレックスと言われたことに驚いた。
いままで、人間は自分の顔を醜いだの呪いだのと言ってきた。自分自身もそう思ってたし、それ以外の言葉では言い表せないと思い込んでいた。
…それを、コンプレックスだと…?
逸霊「私達がそんなもので動じるとでも?外見だけを見てあなたを貶す、と…?本気でそう思い込んでいたのか?」
蓬「っ…!だって、相手がどんな反応をするかなんて分からないでしょう!私は…」
カルセナ「…そうだよ、相手がどんな反応をするかなんて分からねぇ。人それぞれだろ?」
カルセナが二人の間に割って入る。
カルセナ「つまり、貶す人もいれば私達みたいにお前の顔を何とも思わないやつだっている。分かったか?」
蓬「…!」
…私は、ずっと魔族と人間全員を敵だと思ってた。私を醜いと言うから。私を貶すから。
…でも、全員を敵だと勝手に思い込んでいたのか、私は…?
彼女らのように、私を迎え入れてくれる人もいるんだ…。
魔耶「…私だって、人間に色々言われたことあるよ。まぁいじめられる対称じゃなくて、恐れられる対称だったけど。…でも、この世界に来て気づいたんだ〜。人間って一口に言っても、いろんな人がいる。真面目だったり、おもしろかったり、変わっていたり…。なにも知らずに嫌われるのを怖がるのは、なんか違うなって。」
そういってニッコリと微笑む魔耶。
どうして?私はあなたを憎んでいるのに。あなたを殺そうと思ってたのに。
…なんで、そんな顔ができるの…?
蓬の傷ついた顔からさらに涙がこぼれる。
その涙は、さっきの怒りや憎しみからの涙ではなかった。
自分を迎え入れてくれる、優しい人達に触れ合ったことによる感動の涙だった。
長い間誰の心も信じなかった自分が、こうも簡単に他人を受け入れるのか。自分でも驚くくらい、蓬の心は彼女らの温もりによってあたたかく満たされていくのを感じられた。
カルセナ「どうする?まだ戦うか?」
蓬「…いいえ…もう戦う必要なんてなくなったわ…あなた達のお陰で、大事なものを思い出せた気がする。…感謝するわ…」
蓬も私達に向かってニッコリと微笑む。
その顔はとても醜いとは言えないくらい眩しくて、あたたかかった。
そんな蓬の顔を見て一言呟く魔耶。
魔耶「…なんだ。そんな顔、できるんじゃん…」


その後、約束通り街の人達は開放された。
雅によると、蓬達は街の人達の生命エネルギーを全て魔力に変え、蓬の能力を使って魔族と人間を争わせようと目論んでいたらしい。
なんとも恐ろしい計画だったが阻止できてよかった。
街の人達も元の生活を取り戻し、これにて一件落着だ。

163:雪りんご◆:2020/04/09(木) 21:21

私より冒頭が面白そうだし♡

164:多々良:2020/04/09(木) 21:32


翌日二人は、前の様に人の声が飛び交い、賑やかな街の大通りを散策していた。
魔耶「いやー、すっかり元の街に戻ったね〜」
カルセナ「ああ、うん....そうね.....」
魔耶「ん?どうした?何か引っ掛かってるものでもあるのか?」
カルセナ「えぇっとね〜.....私達、ボス戦に行ったやん?で、その後に幹部の人達が来たとこまでは覚えてるんだけど....その後の事が全っ然記憶に無いのよね.....」
カルセナの話を聞くに、黒い靄に囲まれた後に意識を失い、気が付いたら街の人々が解放されると言う話になってたらしい。
魔耶(あのときに別のカルセナとコミュニケーション取れてなかったのかな....?)
カルセナ「不思議な事もあるもんですねぇ....」
魔耶「うん、ほんとだね....」

「「 おっはよ!!! 」」

魔耶カル「わあぁっ!!?」
声の主は、以前と変わらずに街の司会として活動しているひまりだった。どうやら調子が悪い様子でも無く、今日も元気に声を上げていた。
ひまり「あはは、突然ごめんね〜」
魔耶「ひまり!?あぁ、びっくりした....でも元気そうで良かった」
ひまり「?私はいつも元気だよ!!」
魔耶「....あー、そう言えばそうだったな〜」
解放した街の人々には、今回の事件の詳細は何一つ伝えない事にした。
言っても信じてくれるかどうか分からないし、余計に怖がらせてしまうだけだと思ったからである。
カルセナがご褒美やら何やらと少しうるさかったが、魔耶が上記の理由を説明したら何となく納得したっぽかった。

ひまり「今日は何する予定なの?」
カルセナ「うーん、何するー?」
魔耶「そうだな〜.....そろそろ、元の世界に帰れる方法をしっかり探してみる?」
最初に街に来たときに、何らかの情報収集は出来るだろうと思ってはいたが色々な事が起こりすぎた為、本格的に情報を求める行為は出来なかったのだ。今なら落ち着いているし、一歩くらい前進出来るチャンスかもしれない....。
カルセナ「あー確かに、何もやってなかったもんね〜」
魔耶「.......て事でひまり、何かそう言う情報手に入りそうな所あるかな....?」

165:なかやっち:2020/04/09(木) 22:39

ひまり「やっぱりギルドじゃないかな〜?……あっ‼」
急にひまりが大声を出すのでびくりとする。
カルセナ「な、なに…?」
ひまり「そういえば、ギルドのマスターがあなた達のこと呼んでたわ!伝えようと思ってすっかり忘れてた!」
魔耶「ギルドの…マスター…?」
名前的に私達がお世話になっているギルドのマスターなのだろうが…なぜ私達を呼んでいるのだろう?会ったこともないのに…
ひまり「とにかく、今からギルドにいってもらってもいい!?」
カルセナ「うむ…まぁしょうがないよね。行こう。」
三人で小走りしながらギルドへ向かう。

魔耶「ねぇひまり。マスターってどんな人なの?」
走りながらひまりに聞いてみる。会ったことがないのだ、どんな性格の人かを知っておきたい。
ひまり「うーん…なんか先のことを見通している人って感じ。名前が…えっと、めぐみさん…だったかな?」
カル魔耶「!!」
なんか、聞いたことがある名前のような気がする…?
いや、きっと名前が同じなだけだ。別人だろう。そもそも、彼女くらいの年齢の子がマスターをできるはずがない。
カルセナ「んと…年齢はいくつくらい?」
ひまり「私達と同じくらいよ。」
うむ…私とカルセナは100歳以上年をとっているのだが…まぁ見た目的にってことだろう。だとすると、16〜17ってところか。
どう考えてもあの子であるハズがない…のに、なんだろう。この違和感。
ひまり「はぁ…ついたわ。マスターの部屋に案内するわね」
考え事をしている内にギルドに到着したようだ。
ひまりの後に続いてギルドへ入っていく。

ギルドはいつも通りの賑わいで、大人の冒険者がわいわいと騒いでいた。
冒険者「おい…あ、あいつ…」
…と、騒いでいた冒険者の一人が私の方に指を指してきた。
…?
今は羽をしまっているからただの人間と同じような容姿のハズだが…。なんで指を指されるのだろう?
カルセナ「……あれ、もしかして魔耶気づいてない?」
魔耶「え?な、なにが…?」
カルセナが私の頭の上らへんに目線を送る。
魔耶は(なにかしたっけ…)と思いながら頭を軽く触ってみる。すると…
カツン。
なにか固いものに手が当たった。しばらく考えてハッと気づく。
魔耶「…あああっ!悪魔状態になったときの反動かっ!!?」
そう、戦いの最中に悪魔状態になった反動で角がしまえなくなっていたのだ。まったく気がつかなかった…
カルセナ「あははははっ!そんなに気づかないもんなんだね〜!」
魔耶「体の一部ですから…」
いままで気づかなかった自分が恥ずかしい…
なるべく冒険者に角が見えないように、手で隠しながらひまりの後に続いた。

166:多々良:2020/04/10(金) 18:52

ひまり「さ、ここだよ。私は外で待ってるから、ゆっくり話してきなね」
カルセナ「おー、ありがと〜」
部屋の扉はギルドの歴史を感じさせるかの様な少し古い、でもどっしりとした木製だった。
魔耶が部屋の扉をコンコンとノックする。
「はーい、どうぞー」
魔耶「んじゃあ......失礼しまーす」
ギイィッと音を立てて扉を開けた。目の前には机の奥にある椅子に座った、めぐみさんらしき人がいた。
風貌的には予想したより少し幼気があったが、マスターと呼ばれるくらいだからそれ相応の力を持っているのだろう。
それにしても、名前と言い雰囲気と言い、東街で出会っためぐみちゃんと似ている様な....そんな感じがした。
めぐみ「お久し振り....ううん、つい最近でしたかね....?」
魔耶カル「えっ?」
二人は当然の反応を返した。いくら雰囲気が似てるからと言って、恐らく初めて会った人に久し振りなんて言われる事は無いからだ。
カルセナ「えーと......」
どちら様ですか。なんて言い出しにくかった。もし会った事があるのだったら失礼極まり無いからであった。
めぐみ「ふふっ、私ですよ。貴女方に東街で助けて頂いた雛野めぐみです」
魔耶カル「ええぇーッ!!?」
余りにもびっくりして、大声を出してしまった。だって、東街で助けためぐみちゃんはもっと幼い子だった。でも今、目の前で東街に居ためぐみだと主張している子の外見は、もう少し年上。
魔耶「えっ?えっと....本当にあの時の....!?」

167:なかやっち:2020/04/10(金) 23:23

めぐみ「はい。東街で噴水の影に隠れて泣いていた、めぐみです。」
そういってニッコリ笑うマスター。
確かにあのめぐみに雰囲気は似ているし、細かいところまで知っているようだが…
魔耶「いやいやいや。たった1日でこんなに成長するはずないでしょう…?」
私達の知っているめぐみはもっと幼かった。
背の高さだって違うし…同一人物であるハズがない、と否定する魔耶。カルセナも横でうんうんとうなずく。
カルセナ「そうですよ。さすがにあり得ないっすよ…」
めぐみ「…まぁ信じられませんよね〜。無理もありません。実際にみてもらった方が早いですかね…少し離れてもらえますか?」
めぐみに言われて少し後ずさるカルセナと魔耶。
なにかするつもりなのだろうか…?
めぐみ「じゃあみててくださいね…それっ。」
めぐみがこちらに目線を送って合図を出した瞬間、彼女の体が白い煙におおわれた。
カル魔耶「!」
白い煙からでてきたのは、私達が東街で出会った少女の姿だった。茶色に近い金髪の髪、オレンジ色の目…間違いない、あの子だ。
めぐみ「私には能力がありまして。それが、自分自身の時を操るってものなんですね。つまり、お婆さんになったり幼い少女になつたりできるんです。」
カルセナ「自分自身の時…」
じゃあ、この幼いめぐみと、ギルドのマスターは同一人物なのか…?
魔耶「な、なんで東街にいたんですか…?」
カルセナ「どうして街の噴水の影に…??」
めぐみ「あなた達の疑問は順を追って説明しますね。まずはお掛けください。」


めぐみ「私の能力は自分自身の時を操る能力。時に干渉する能力です。だからなのか、ときどき予知夢を見るんですよ。」
ふかふかのソファーに腰掛けながらめぐみの説明を聞くカルセナと魔耶。
めぐみ「それで最近見た予知夢が、蓬さんたちの考えていた計画が成功する、というものでして。どうにかしなければと思い、私はお婆さんを装ってあなた達にクエストを依頼しました。」
魔耶「あのクエストの依頼主もあなただったんですか…!?」
めぐみ「はい。そしてあなた達が荷物を届けている間に、私は東街に到着し、噴水の影であなた達を待っていました。」
カルセナ「なんで私達を…?自分で解決してもよかったんじゃ…」
カルセナが疑問を述べる。
そう、彼女はこのギルドのマスター。私達なんかに頼らずとも、自分一人でなんとかなるのでは…
めぐみ「確かに頑張ればなんとかなるかもしれませんが、私はあなた達にやってもらいたかったのです。私が行っていたら、蓬さんは心を開いてくれなかったでしょう。魔族と人間…この二人に行って欲しかったのです。」
めぐみが私達を真剣な眼差しで見つめる。

168:多々良:2020/04/11(土) 09:29

魔耶「成る程.....そう言う事だったんですか.......」
めぐみ「私の勝手な解釈で、危険な目に会わせてしまった事は申し訳ありませんでした。お詫びと言っては何ですが、何か私にお手伝い出来る事がありましたら何でもやらせて頂きます」
カルセナ「おぉ、ありがとうございます〜。何かあるかなぁ、魔耶?」
魔耶「うーん....」
二人は暫く考えた後、ぱっと頭に浮かんだ案件にした。
魔耶「あの....私達、違う世界からここに来たんですけど....」
めぐみ「はい、ひまりさんに聞いていますよ」
魔耶「自分の世界に帰れる方法を提供して頂けませんか?何でも良いので....」
言葉を挟む隙もなく、にっこり笑って返答してくれた。
めぐみ「勿論、協力させて貰いますよ。可能な限りでね」
魔耶カル「ありがとうございます!!」
めぐみ「では私は、他の街でも情報を集める事にします。何か手掛かりがあったら直ぐにお知らせしますので....しばしお待ち下さい」

その後少しだけ話をして、再びお礼を言って部屋を出た。ギルドの真正面に戻ってくると、ひまりが他の旅人と話をしながら待ってくれていた。
カルセナ「お待たせ〜」
ひまり「お、二人共お帰りー。どう?何か話せた?」
魔耶「うん、元の世界に帰る方法に一歩近付けたかもしれない!」
ひまり「それは良かった!!早く帰れると良いね〜」
カルセナ「んだね〜。で、私達は何しよっか」
魔耶「そうだなぁ。情報収集兼ねて、また依頼受けに行く?」
三人がボードまで歩いている途中、ひまりが何かを思い出した。
ひまり「あっ....そうだ、ねぇねぇ!」
魔耶カル「?」
ひまり「明後日くらいに、月一回の昇格試験があるんだけど二人共参加してみない?」

169:なかやっち:2020/04/11(土) 11:12

魔耶「昇格試験…たしかギルドランクをあげるための試験、だっけ。」
正直色々なことがあってうろ覚えだったが、最初にクエストを受けたときにひまりがそんなことを言っていた気がする。
ひまり「そうそう。普通はギルドに入って半年くらいたった人達が受けるものなんだけど…あなた達なら大丈夫だと思って〜。」
ひまりが自身満々にそういい放つ。
カルセナ「…まぁ試験内容によるよね。どんな試験なの?」
ひまり「今月の試験は障害物競争ね。色々なモンスターを試験場に配置して、無事ゴールにたどり着く。それだけよ。」
魔耶「も、モンスター…?」
頭に巨大な昆虫の姿が思い浮かぶ。あんなモンスターがぞろぞろ出てくるのだろうか…?考えただけで鳥肌が立つ…
ひまり「モンスターといってもDランク昇格試験だから、そんなに恐ろしいモンスターはでないわよ。モンスターというより、狂暴な動物?と言った方が正しいわね。」
ひまりの言葉にホッと一安心した。
動物くらいなら私とカルセナでなんとかなるだろう。
カルセナ「競争って言ってたよね。1位にならなきゃDランクになれないの?」
ひまり「いいえ、障害物にやられないで見事ゴールできた人は何位でもDランクになれるわ。ただ、3位以内にゴールできた人は特別にCランクに飛び級できるの。」
成る程、だから競争なのか。
納得してふーんと頷きながら話を聞く魔耶。カルセナもうんうんとうなずいている。
カルセナ「どうする?魔耶、やってみる?」
魔耶「そうだね。どうせなら、S級になってこの世界からおさらばしたいねぇ。」
にやりとイタズラっぽく笑う魔耶。それにつられてカルセナもにやりと笑う。
カルセナ「いいねぇ。この世界に伝説として名を残してやろうじゃないか。」
カル魔耶「…よし、試験を受けます!」
軽い気持ちで試験に挑むことに決めたカルセナと魔耶だった。

170:多々良:2020/04/11(土) 14:12

ひまり「よしっ!決まりだね!!申込書は入会するときと同じように、カウンターにあるから書いてきなよ」
魔耶「へ〜、じゃあ書きに行こうか」
カウンターに束になって置いてある申込書を手に取って机に向かう。この時、ギルドに入るときの思い出がフラッシュバックされていた。
カルセナ「何か懐かしいような、最近のような....」
魔耶「色んな事起こると、時間の流れが速く感じるよね〜」
申込書の内容は、名前やランクの記入などのごく一般的なものだった。
魔耶「よし、えーと....?昇格試験で命を落としたとしても、ギルドは一切の責任を終えませんので十分にご理解とご了承をお願い致します....だってさ」
カルセナ「ひいぃ.....んでも、そう言うもんだよね....」
下に書いてある注意事項に少し怯みながらカウンターへと申し込みに行く。申し込みは直ぐに終わった。
ひまり「お帰り、これで試験に参加出来るね!」
魔耶「はっはー、死なない様に気を付けるよ〜」
カルセナ「また縁起でも無い事を....まぁ大丈夫かな」
気持ちを少し落ち着ける為に、大きく深呼吸をした。
空は晴れ渡り、髪を撫でる、優しく暖かい風が吹いていた。ここ最近は晴れが続いていて心地良い。
魔耶「平和だわぁ....平和ボケしそう....」
カルセナ「さっき試験申し込みしたとは思えんな....何か私達も情報探す?」
この北街は結構栄えてる為、大きな図書館や資料館などがちらほらとあるのだ。

171:安倍晴明◆:2020/04/11(土) 14:49

多々良さん、文才あるやん!

172:雪りんご◆:2020/04/11(土) 14:49

カルマヤの異世界記録

173:多々良 hoge:2020/04/11(土) 16:35

>>>171
あざす

174:雪りんご◆:2020/04/11(土) 17:51

あざすってなに?

175:なかやっち:2020/04/11(土) 17:54

魔耶「そうだね。めぐみさんに全部任せるっていうのも悪いし…」
いくら迷惑をかけられてしまったといっても、これは私達の問題なのだ。全部を任せっ切りにするのはダメであろう。
カルセナ「おっけー。きまりだね。どの建物からいこうか…?」
カルセナから言われてあたりをきょろきょろと見回してみる。
どれも結構大きい建物なので、正直どこに行ってもなにかしらの情報は得られそうだが…
魔耶「ん〜…じゃああそこにしようか。」
魔耶が指をさしたのはレンガらしきものでできた大きな図書館だった。
まわりが花々でかこまれていて、図書館というよりもおしゃれなカフェのような建物だ。
カルセナ「いいね。おしゃれだし、ここから一番近いのはあの建物だね〜」
魔耶「うん。あそこでいいかな?」
カルセナ「いいよ〜」
二人は図書館に向かって歩き出した。


魔耶「あ、角生やしたままなんだけど…だいじょうぶかな…」
ふと歩いている最中にそんなことを思い出す魔耶。
昨日の夕方くらいに悪魔状態になったはず…。今日の夕方まで角はしまえない。
カルセナ「なんか今更感があるけど…街の人たちは魔耶の正体知ってるから大丈夫だと思うよ?ただ、ちょっと視線を浴びせられるかもしれないけど。」
魔耶「それが嫌なんだよなあ…。なんでカルも変身してたのにペナルティがないんだよ〜?」

176:多々良:2020/04/11(土) 18:39

>>174
ありがとうございます、の略。

177:多々良:2020/04/11(土) 19:20

そう言われると、首を傾げて考え始める。
カルセナ「うーん、何でだろうね〜.....あれじゃね?」
魔耶「何さ〜?」
カルセナ「変身と言うか....入れ替わりだと思うんだよね.....だってもう片方が出てる時に外で何が起こってるか、表側に語り掛けて貰わないと分からんもん。その....説明しにくいんだけど....体が同じでも私とあいつは何か違う存在、みたいな....」
魔耶「ふーん....分かるような分からんような....もう一人の方に聞いてみれば?」
カルセナ「それがよぉ、こう言う平和な場所ではもう片方のやつね、語り掛けようとしてもいつも寝てるんだわ。自分な筈なのに腹立つわ〜....」
魔耶「ははーん....やっぱカルセナはカルセナ、か....」
何気無くボソッと呟く。生憎聞こえたらしいカルセナが魔耶の顔をじっと見る。
カルセナ「む、何だと?」
魔耶「何でもないで〜す。ほら、着いたよ」

外壁もそうだが、玄関もとても綺麗に整備されていた。やはり公共の建物だから、と言うのも勿論あると思うが、それ以上にしっかり整っていて、見ていてスッキリする。
カルセナ「わ、ほんとだ〜。綺麗だねぇ」
魔耶「ね〜。さすが北街の図書館、って感じだわ。さ、何か見つかるかな?」
カルセナ「これだけおっきい図書館だもん。他の世界の情報もきっとあるよ」
二人は玄関の扉の奥へと姿を消していった。雅が他の世界の事を知っていた様に、それ以外の誰かも違う世界に関する書物を残してくれている事だろう。そう願うしか無いのだ。

178:なかやっち:2020/04/11(土) 20:16

カルセナ「魔耶〜。なんかあったぁ〜?」
魔耶「うーむ…ない。」
二人はこの世界と別の世界に関する本を探していた。
受付の女性に聞いてある程度の場所は絞り込めたが、一向にお目当ての本が見つからない。
魔耶「文字ばっか見てて頭が痛くなってきたわ…」
ずきずきと痛むこめかみを押さえて俯く魔耶。
それもそのはず、図書館の大きな時計を見てみると、ここに来てから3時間は経過していた。
ずっと集中して本を探したり読んだりしていたのだ。頭も痛くなるだろう。
(…いや、頭が痛い原因はそれだけじゃないか…)
ちらりと梯子の上に乗っているカルセナを見る。
カルセナ「…ん?どうかした?」
魔耶「…なんでもなーい。」
思いだすと、またおでこの痛みがフラッシュバックしてくる。
…いくら敵の能力でおかしくなってたからって、頭突きで元に戻すのは酷いと思う。他の方法はなかったのだろうか?
まぁ、このカルセナに言ってもしょうがないからやめておくけど。

魔耶「そろそろ休憩しようか。疲れた。」
カルセナ「そうだねぇ。じゃあこの本を調べて今日は終わりにしようか…」
カルセナから一冊の本を手渡された。
その本は暗い赤色をしていて、題名のところが真っ白。傷や破れが多く、結構古い本だろうと予想できる。
魔耶「なにこの本?」
カルセナ「さぁ?適当に選んだ。」
…いかにもカルセナらしい。
魔耶「……まぁいいよ。取り敢えず読んでみよう…」
半分カルセナに呆れながら本を開く。
これだけ探しても見つかっていないのだ、この本にも期待はしていない…はずだった。

179:多々良:2020/04/11(土) 21:17

カルセナ「わぁ、めっちゃ掠れてるわ....何て書いてあるのかな〜」
魔耶「う〜ん.....読みづらい......」
本の見返しは無く、ちゃんと書籍化もされていないかの様な....それ程に読みづらいものだった。
魔耶「えーと.....けん..きゅうほ...うこく?研究報告書って事かな?内容は....」
じっくりと目を凝らして文字を読み取る。箇所によっては、完全に色落ちしている所もちらほらとあった。
カルセナ「あ、ここちゃんと読める。『5月13日....長かった。遂に見つけた。恐らく誰もこんな予想はしてなかっただろう。何せ、我々の世界とは違う景色をしているのだから。』....」
魔耶「どれどれ......『観察を続けた。私の出身との街並みが余りにも違う事に一瞬で気が付いた。異形な世界。私はこの世界を、「異世界」とでも名付けようか....。なお、異世界への往復方法は後日、この報告書にまとめるとしよう。』.....って」
二人は顔を見合わせた。
カルセナ「もしかして....」
魔耶カル「「 これに全部載ってる!? 」」
思わず少し騒いでしまった。図書館の係員に注意されたのは言うまでも無い。
カルセナ「へっへー、やっぱビンゴだったね〜」
魔耶「むぅ....今回ばかりはお手柄と言わざるをえないな.....」
そうして、手段が書き記してありそうなページを探してペラペラと捲っていった。所々に絵や図の様なものが描かれているが、何かはよく分からなかった。そして、それっぽいページを見つけた。このページは掠れや汚れが多い。
カルセナ「お、ここは!?えーっと.....『7...24日....私が異...界へ行けたのは、...る人...の協...があっ...から...。名...は何...言っ...だろう...。』んん....相変わらず読みづらい....」
魔耶「....ある人物の協力があった、とかじゃない?」
カルセナ「ああー、確かにそうかもしれんなー」
魔耶「....取り敢えずその本借りて行かん?宿でじっくり読めるようにさ」
カルセナ「おぉ、それは良い考えだわ。んじゃ借りてこっか」
先程二人に注意した係員の人から貸出のチェックを受け、図書館を出た。

本探しに夢中になっている内に結構時間が経っていて、少し空が焼けてきていた。二人は宿を目指して歩き出した。
魔耶「う〜.....疲れた.....結局今日は一ヶ所しか行けんかったな〜....」
カルセナ「そうだね〜.....大丈夫?ちょっと寝れば?」
魔耶「どーしよっかな....ま、宿に着いてから考えるわ」

180:なかやっち:2020/04/11(土) 21:56

魔耶「っ……!」
カルセナ「…魔耶?どうしたの?」
歩いている途中で、突然魔耶が立ち止まった。
俯いていて顔は見えないが…本を選んでいて、疲れてしまったのだろうか?
魔耶「…カルセナ…あのさ、ちょっと…もう歩けない…」
カルセナ「はぁ?」
魔耶は一言発したかと思えば、そのまま道の真ん中でしゃがんでしまった。
カルセナ「ちょっちょっちょ!!なに、どうしたの!?」
突然魔耶がしゃがんでしまったことに驚くカルセナ。
いくら疲れたといっても、歩けなくなるほどのことはしていないはずだが…
魔耶「あれだよ、あれ。悪魔状態の反動その2…」
カルセナ「反動って…角だけじゃなかったの?」
魔耶「実は、たま〜に筋肉痛になることがありまして〜…いまそれがきました。めっちゃ痛いんだけど。」
カルセナ「ええぇ…」
つまり、筋肉痛で動けなくなってしまったのか。
なんとも地味だけどいやなペナルティである。
カルセナ「しょうがない、おぶっていくか…」
魔耶「ありがとーございまーす…」
カルセナ「…なんかイラッとくるわ」
少し暗い顔をしながら魔耶をおぶるカルセナ。
魔耶「ぁ〜、マジで全身筋肉痛…動かしたくない。」
カルセナ「お前もう変身すんなよ…」
魔耶「あらぁ…変身してなかったら君は今頃泥沼のなかで溺死してるよ?」
…正論で返されてさらにイラッとくる。
まぁその通りなんだけど。

カルセナ「…そう考えると、私達、何度も死にそうな目にあってるねぇ。」
魔耶「…そうだね。そのたびにどちらかが助けてるね。」
ドラゴン、巨大な昆虫、毒キノコ、翼事件、泥沼、能力でおかしくなったとき…確かに、私達は全部助けてあってるなぁ。
魔耶「…カルセナと出会えてよかったよ。」
カルセナ「ん?なんか言った?」
魔耶「なんでもありませーん。」
この世界に来たときにカルセナと出会えてなかったら、私はここにいなかったかもしれない。こんな大冒険はできていなかったかもしれない。
今思えば、あのときカルセナと出会えたのは運命というやつだったのかもね。
魔耶「…ありがとう、カルセナ。」
カルセナ「こっちのセリフだっての。」
夕陽を背にし、笑いあう少女の声が赤く染まった空に響く。
彼女達の笑い声に反応したように暖かい風が吹き、二人の肌をくすぐった。

181:多々良:2020/04/11(土) 23:37

カルセナ「....さてと、着きましたよ魔耶サーン」
筋肉痛が辛そうな魔耶をベッドに寝かせた。
魔耶「ありがとー。私暫く動けんから....すまんけどあと何かよろしく〜」
カルセナ「へいへい、んじゃあ私は、またご飯か何か買ってくるわ。何が欲しい?」
ベッドから眠そうに答える。
魔耶「お腹空いたから.....おにぎり〜。あと何かの飲み物〜」
カルセナ「りょーかいよー。行って来まーす」
本をテーブルに置いて、店に向かう為部屋のドアから再び外へ出た。
魔耶「いてらー.....ふぅ、ほんとに代償が大きいなぁ.....帰って来るまで寝るか....」
そうして魔耶は、痛む腕で帽子をやっとこさ脱ぎ、眠りについた。


カルセナ「この時間帯は買い物してる人多いなぁ....売り切れてなきゃ良いけど」
街の中心部は、夕飯の材料や、夕飯そのものを買いに来たと思われる客でごった返していた。

男の子「お母さーん、オムライス食べたいー」
女性「オムライス?うーん、どうしようかなー....」
男の子「お願い!!ぼく良い子になってるからー!」
女性「そうね....じゃあ、今日はオムライスにしよっか!」
男の子「やったー!!お母さん大好きー!!」
不意に目に入った光景だった。お母さんに甘える男の子。別に珍しくも何ともないものだったのに、何故か胸の辺りがギュッと締め付けられる感覚に囚われた。昔を思い出すかの様な、思い出に胸が痛むかの様な。カルセナが小さい頃に、母が亡くなっていたからかもしれない。その思い出が、懐かしくて、寂しくて。
カルセナ「....お母さんねぇ....懐かしいわぁ」
幸せそうな親子を見た余韻に浸りながら店を目指した。向かった先の店もやはり混み合っていた。
カルセナ「わわ....人混み苦手....でも行かないと飯が無いからなぁ」
魔耶に頼まれたおにぎりの棚まで行くと、まだいくつか残っていた。
カルセナ「お、やった。あの人何が良いんだろ.....聞いてくるの忘れちった」
取り敢えず王道と思われる鮭と昆布、そして私のご飯、パスタを買って帰る事にした。
カルセナ「ふぃー、疲れた.........あ、飲み物忘れた....自販機でいっか」
少し寄り道して、自販機が沢山並んでいる道へ向かった。
カルセナ「飲み物も何が良いか分からんもんな〜....やっぱ未知だったわ、魔耶の事」

182:なかやっち:2020/04/12(日) 08:27



…暗い空間の中で、魔耶は独りたたずんでいた。
魔耶「…ここは…?」
なにもない孤独な空間…そこにポツンと立っている魔耶。
この空間…見たことないのに、知っている…?そんな気がした。
魔耶「……!」
遠くの方で小さな子供達が遊んでいるのが目に入った。
一人は縄跳びをし、一人はそれを見てすごいすごいとはしゃぎ、一人は縄跳びの回数を数え…
暗い空間の中で、そこだけが光りを放っていた。
…どうしてだろう。私は、あの輪の中に入りたいらしい。
体が勝手に子供達に向かって進みだした。
魔耶「っ…!い、いやだ…!」
意志とは関係なく進む体。
でも…私は行きたくない。この先の出来事を思い出したから。この先の出来事を知っているから…

魔耶「私も入れて〜」
子供達の近くまで来たとき、自分が小さい子のような声を発した。
その声に反応して振り替える子供達。
三人の目が、魔耶の漆黒の翼に向けられる。その目は縄跳びをしていたときのように輝いてはいなかった。
こちらを恐れるように…私の様子を伺ってるような…そんな目。
子供達「うわあぁぁぁ‼化け物が出たぁ‼‼」
突然子供達は叫びだし、駆け出した。
あっという間に輪はくだけちり、光りも消え、暗い空間に魔耶だけが取り残された。
魔耶「…え…?私、化け物じゃないよ…?」
自分を化け物だと言われて戸惑う、幼い魔耶。
…そうだ。これは…私の過去の出来事…
この暗い空間は、私の孤独ーーーー

183:多々良:2020/04/12(日) 14:39


カルセナ「うーんと....まあおにぎりだし、またお茶でいっかな?予備として何本かジュース買っとけば良いよね」
そう言って自販機に、この世界流通の硬貨をチャリンと入れる。ボタンを押すと、飲料が下にゴトンと落ちる。
現実で起こる選択も、自販機の様に簡単に選ぶ事が出来たら良いのに....。そんな事を考えながら、全ての買い物が終了したカルセナは、ゆっくり宿に戻る事にした。この世界に居ると、何だか時間の流れが速く感じる。もう日も落ちかけ、街の街灯や店の灯りが薄暗い北街の大通りを照らしてくれていた。
カルセナ「はぁ〜....やっぱ良いなぁこの街....何か落ち着くわ〜」
優しい灯りに仄めかされ、安心したカルセナの腹の虫が小さく鳴いた。
カルセナ「.....魔耶大丈夫かしら。筋肉痛は結構続くからなぁ〜....あ、でもあの人魔族だからすぐ治るかな?」
魔耶の心配を他所に、てくてくと道を歩き進める。

「ーーお母さん、待ってぇ〜」
「大丈夫、いくらでも待つから。」

「ねぇねぇ、あれ買ってよー」
「昨日買ってあげたばっかでしょ?ちょっとは我慢しなさい。」

「....お母さん」
「なぁに?」
「....大好き。」

ーー何故こんなにも思い出してしまうのか。さっきの親子を見たせいなのだろうか。
もう思い出さないって決めていた。余計寂しくなってしまうから。
カルセナ「....はぁあ、まだまだ駄目だなぁ私....」

気が付いたら宿に着いていた。建物に入り、魔耶が休んでいる部屋のドアを開ける。
カルセナ「ただいまーっ....て、あら....」

184:なかやっち:2020/04/12(日) 15:05

魔耶「…っはっ!…はぁ…はぁ…」
勢いよく体を起こしたせいで腰が痛くなる。
自分の手を見ると、汗でじんわりと湿っていた。タオルをつくって汗を拭う。
魔耶「…なんで、今になって…?」
ここ数十年はあの夢を見ていなかったのに。
異世界に来た影響だろうか?それとも、久し振りに悪魔状態になったからだろうか。
…考えても分からないなら考えたって仕方ないか。

カルセナ「ただいまーっ…て、あら…」
魔耶「あ、カルセナ…おかえり。」
ちょうどカルセナが帰ってきた。
魔耶「遅かったね?」
カルセナ「夕御飯の時間だったから混んでてね…。魔耶こそ、ずっと起きてたの?」
魔耶「うん。」
カルセナに対して嘘をつく魔耶。
いまさらあんな夢を見たと説明することになるのはいやだった。
カルセナ「…ふーん。体調はどう?」
魔耶「まぁまぁかな。歩いてた時よりはいたくない。」
カルセナ「そう、ならよかった。…おにぎりでもくらえっ!」
魔耶に向かっておにぎりが2つ投げられる。
魔耶「食い物投げるなってば‼」
まだ痛みが残る腕でなんとかおにぎりをキャッチすることに成功した。まったく、とりそこねたらどうするんだ…
カルセナ「うんうん、元気そうでなにより…って、このくだり前もやったな。鮭と昆布買ってきたぜ〜」
魔耶「おお、鮭はナイス。鮭は好きだ。」
カルセナ「昆布は?」
魔耶「普通かなぁ〜」
カルセナ「昆布も好きになれ。」
…カルセナと雑談していると、あんな夢のことなんか忘れてしまうくらいたのしい。
本当、一緒にいられてよかった。
カルセナ「ん?なにニヤニヤしてんの?」
どうやら無意識に顔がにやけてしまったらしい。カルセナが顔を覗きこんでくる。
魔耶「なんでもありませーん。鮭おにぎりが嬉しかっただけでーす。」
カルセナ「お気に召されたようでなによりですわ〜。」
二人でくすくすと笑いながらそれぞれのご飯を食べ始めた。

185:多々良:2020/04/12(日) 17:23

カルセナ「そう言えばさー」
魔耶「ん?どった?」
カルセナ「その借りてきた本に、誰かの協力を得た〜みたいな事書いてあったやん?」
魔耶「あー確かに....それっぽい事は書いてあったね〜」
おにぎりを貪りながらカルセナの問いに答える。
カルセナ「んで、その本めっちゃ古いやん。てことはさ....協力人物はすでにさ....」
魔耶「....あっ!!もしかして、もうこの世界には存在しない.....?」
カルセナ「そうなるくね....?」
困った....そう考えていたが、魔耶はある可能性を思いついた。
魔耶「でもでも、人間じゃなかったらワンチャンあるんじゃ....ほら、妖怪とかだったらさ」
カルセナ「......あー!!ほんとだ!じゃあ、その人が人間でない事を祈るしかないって事か....」
魔耶「それに、もしかしたら他の方法もあるかもしれないしね〜....モグモグ」
他にも色んな事を度々話しながら、夕食を終えた。窓の外はすっかり暗闇に包まれ、北街に夜が訪れていた。

カルセナ「ぐぁ〜.....飯食って風呂入ったらめちゃめちゃ眠くなってきた〜.....」
魔耶「昼寝とかもしてないもんね〜、明日の情報収集の為に早く寝たら?」
カルセナ「どーしよっかしら....まだ起きてたい気持ちもあるんだよなぁ....」
とか言いつつもベッドに寝転がって、寝る準備万端な様子だった。時折ちらっと、テーブルの上の本を見ていた。
カルセナ「その本ももうちょっと見てみたいしなぁ〜....」
魔耶「ちゃんと帰る方法載ってれば良いんだけどねぇ」
カルセナ「そんな上手くいくかなぁ〜....載ってたとしてもそっからまた色々しないといけないだろうし」

186:なかやっち:2020/04/12(日) 17:55

魔耶「そうかもね〜。なんで私達がこの世界に来ちゃったのかも知りたいけど…」
カルセナ「その本にぜーんぶ書いてあったら苦労しないよねー…」
魔耶「そうだよね…かかれてたとしてもヒントくらいじゃないかな…?」
テーブルの上の本をパラパラとめくってみる。
ところどころシミがついてたり掠れていたりでまともに読めそうなページが少ない。
カルセナ「まぁ今日は疲れたし、寝よう。眠いと頭も働かないよ〜」
カルセナが目を擦って大きく欠伸をする。
魔耶「そうだね…よし、就寝!」
魔耶の掛け声で部屋の電気が消された。
それぞれが自分のベッドに潜り込む。ベッドはフカフカでとても心地よかった。


魔耶(………)
先程見た夢を思い出す。私の幼い頃の…
またあの夢を見てしまうのではないか。その恐怖からか、なかなか寝付けなかった。
隣からはカルセナの寝息が聞こえる。カルセナはもうすっかり夢の中のようだ。
魔耶(カルセナも疲れてたんだろうなぁ。…どうしよ、まったく寝れない)
懸命に目をつぶって眠気がやってくるのを待ったが、いつまでたっても眠くならない。
魔耶「しょーがない。夜の散歩と行きますかぁ」
もう筋肉痛はほとんど治っていた。
ベッドからよいしょと起き上がり、そっとドアを押して宿から抜け出した。

夜の風はとても涼しかった。少し寒いくらいだ。
上を見上げると、満天の星が青と黒でグラデーションされた空に光を灯している。星が好きというわけでもない魔耶でもハッと息をのむくらい綺麗な星空だった。
魔耶「わぁ、星綺麗…この世界にきたばっかりのときも、こんな星空だったっけ。」
カルセナと一緒に見上げた星空を思い出す。
まだ日はそんなにたっていないのに、カルセナと出会ったあの日が遠い昔のように感じた。
魔耶「カルセナにはいっぱいお世話になったねー…なにかプレゼントでも買ってやろうかしら。」

187:多々良:2020/04/12(日) 19:21



カルセナはよく夢を見る体質だった。夢を見る事に対しては、別に悪くは思わない。
だが、最近見る夢の内容には少し嫌気が差すものもあった。

ーー特に何の変哲も無い我が家。家族の賑やかな声と、生活音が響く。外からは車の走る音や近所の住人の話し声も聞こえる。
ああ、とても良い環境だ。落ち着くし、心地が良い。
でもたまに、突然辺りが真っ暗闇に包まれる。自分の足も見えないくらいの真っ暗闇に。とても遠く離れた場所や、すぐ隣に居るのではないかと思ってしまう様な所から誰かの泣き声が聞こえる。
何が起こっているのか分からない。何がそこに居るのかも分からない。とても怖い。
そんな感情を抱くと、また辺りがパアッと明るくなって元の我が家に戻る。

ーーその夢が私に何を言いたいのか、何を伝えようとしているのかなんて分からない。

ただただ私は夢に操られて、夢の思うがままに動かされるだけ。

夢に弄ばれる、操り人形。

やっぱり夢って、見ない方が良いのだろうか。自分を脅かす、悪いものなのだろうか。


カルセナ「........う〜ん....」
また目が覚めた。明日に向けてしっかりと寝たいのに、私の体は何故か起きてしまった。ふと、魔耶のベッドに目を向ける。
カルセナ「....ありゃ....魔耶...?.......どっか行ったんかな....」

188:なかやっち:2020/04/12(日) 20:14

魔耶「……今日は寝れそうにないかな。」
満天の星空の下で呟く魔耶。
その顔は少し暗いものだった。星を眺めていたときの輝いていた表情ではない。
魔耶「…」
あの夢は、実際に起こったことだ。妄想や幻ではない、本当に起こったことー…
あの子供達は…いや、人間達は私のことを恐れている。
この街の人達はすんなり受け入れてくれたけど…
魔耶(…いや、本当にそうなのだろうか?)
もしかしたら、私が知らないだけで、本当は私のことを恐れている人達がいるのかもしれない。カルセナだって、本当は私のことをー…
夢をみたせいで、嫌なことを考えてしまう。
そんなことあるわけないのに。ちゃんと分かっているつもりなのに。
魔耶「はぁ〜ぁ…私って、嫌なやつかなぁ。」
カルセナ「そんなことないけど…」
魔耶「そうかなぁ………ん?」
自分とは違う声に反応して後ろを振り替える。
そこには、少し眠たそうなカルセナの姿があった。
魔耶「カル…い、いつからそこに…」
カルセナ「たった今だよ〜。魔耶、こんなところでなにしてんの?」
魔耶「ちょっと寝れなくてね…」
カルセナ「ふーん…」
カルセナが魔耶の隣に腰かける。
…わざわざ探しに来てくれたんだろうか。
カルセナ「んで、なんで自分が嫌なやつだと思ったの?」
カルセナが当たり前のように私に質問してくる。
魔耶「……実はね…」
先程まで考えていたことをカルセナに打ち明ける。あの夢のこと。自分を恐れている人達がいるかも知れないと考えたこと…

魔耶「…ってなわけですよ。これを聞いても、私は嫌なやつじゃないっていえる?」
少々不安になりながらもそう質問した。
こんな話を聞かされたら、どんな人でも嫌なやつだと思うだろうな…
カルセナ「…うん。いえる。」
魔耶「!?……な、なんで?だって、私は勝手にカルセナに恐れている〜だとか考えて…」
カルセナ「嫌なやつだったら何度も助けたりしないし、一緒に行動してない。それに、そんな過去があったんならそう思って当たり前だよ。」
魔耶「……」
そうなのだろうか…?そういうものなのだろうか…
魔耶「…カルセナはさ、前に私が羨ましいっていってたよね」
カルセナ「あぁ、この街に入る前にそんなこと言ったっけ」
街に入る前にした会話を思い出す。
魔耶「私はカルセナが羨ましかったよ。人間で、いじめられることも恐れられることもない。死んじゃったあとも自由に行動できて…」
…私は、魔族だから…そう続けようとしたが、それ以上の言葉が出てこなかった。

189:なかやっち hoge:2020/04/12(日) 20:15

[あ、恐れられている〜です。間違い多いっ…!]

190:多々良:2020/04/12(日) 20:43

カルセナ「.....ほんとにそう思う?」
意外な言葉だった。そんなことないよ、大丈夫だよ。そんな言葉が出てくると思っていた。
魔耶「え....?」
カルセナ「私、あの時は浮幽霊になって嬉しい事しか言ってなかったじゃん?」
魔耶「....そう言えば、そうだね......」
カルセナ「浮幽霊になってから嬉しい事もあったけど....でも、ちょっと寂しい事もあったんだよね....」
満天の星空を見上げながら話を続ける。
カルセナ「....誰にも、私の存在を気付かれなかった。すぐ近くに居たのに....家族は泣いてばっかで、私の声すらも届かなかった。.....普通に考えればそれは仕方無いって分かってたけど.....」
魔耶「.........」
カルセナ「だからこの世界に来れて良かった。私の声が届いて、私を見れて、私に触れる事が出来る存在。魔耶に出会った時、凄く嬉しかったんだ」
魔耶「カルセナ.......」
カルセナ「....あ、また話脱線しちゃった....すーぐ違う話に飛んじゃう」
そう言って、照れ隠しをするかの様に帽子を顔まで下げた。
カルセナ「.....魔耶を馬鹿にするやつなんて、許せないね。魔耶は魔耶なんだから....悪い奴なんかじゃ無いんだからさ....」
帽子で顔は良く見えないが、声で大体の表情は分かった。
魔耶「.....あははっ、そっか.....ありがと」
カルセナ「.......おぅよ」

二人を包む風は冷たくて悴んでしまいそうなものだったが、今の二人にとっては熱くなった頭を冷ます、丁度良いものだった。
沢山の星は相変わらず、夜空でキラキラと煌めいている。
急にカルセナがバッと立ち上がった。

カルセナ「....よしっ!!一緒に帰ろ、魔耶!こんな夜じゃあ風邪引きそうだしさ!」
魔耶を見るその目は、夜の風に対抗するかの様な、温かい目だった。

191:なかやっち:2020/04/12(日) 21:36

魔耶「…うん」
そうだ、私はなんてことを考えてしまったんだろう。
カルセナが私を恐れるはずないのに。私の正体を知ったときも…
魔耶「クスッ…アハハッ!」
カルセナ「?…なになに、どしたの?」
魔耶「いや…カルセナが言ったかっこよって言葉を思い出してね…カルセナが私を恐れるわけないわ。かっこよ、だもんね…!」
カルセナの言葉を思い出して大笑いしてしまう。
なんだか、私があれだけ悩んでいたことがその一言で全部洗い流されたような…そんな言葉だったのだと、今改めて思った。
カルセナ「あははっ、そういえばそんなことも言ってたねぇ。いや、あれ本音だからね?かっこいいじゃん魔族!」
魔耶「ははっ…幽霊もかっこいいよ」
カルセナ「幽霊は怖いじゃない?」
魔耶「大丈夫、カルセナはまったく怖いと感じれない。」
カルセナ「なんかそれはそれでモヤッとするわ…」
カルセナと話をして、私の悪夢がどこかへ吹き飛んでいってしまったような…そんな気がした。
彼女のおかげで今夜はぐっすり寝られそうだ。
魔耶「よっしゃ、寝るか」
カルセナ「寝るのに気合をいれてる人は初めて見たよ…」
ふたたび部屋に戻り、それぞれの布団に潜り込む。
魔耶「おやすみ、カルセナ〜」
カルセナ「おやすみ〜。」
瞼を閉じると、先程までまったく眠くなかったのが嘘のように、すぐ意識が暗闇の中へ沈んでいった。

192:多々良:2020/04/13(月) 17:17



ひまり「「おはよう、二人共っ!!!」」

ドアが勢い良く開く大きな音がしたせいで目が覚めた。
その音の元凶は、ノックも無しに部屋に飛び込んで来たひまりだった。
魔耶「.....うぅ〜ん......何だ何だ.......」
カルセナ「はっ.......あぁ朝だ〜....」
ひまり「急にごめんね!でも、朗報よ!!めぐみさんがまた二人に用があるって!」
寝起きのボサボサの髪を手で軽く整えながらそれに応える。
魔耶「えっ.....本当!?やっばい、早く準備しないと.....」
時計を見るともう八時を回っていた。昨日の夜、散歩しに行ったり話をしたりしたときの僅かな疲れが、こんな時間まで体を寝かせたのだろう。
二人は急いで、着替えなどの朝のルーティーンを済ませてギルドへ向かった。
カルセナ「めぐみさんかぁ〜....て事は、何か分かったのかなぁ?」
魔耶「こんな短い時間で分かるもんなのかね?」
カルセナ「まぁまぁ、うちらもちょっとだけ分かった事あったやん?きっとそんな感じでしょ」

ひまり「着いたよ!ほら、早く行ってきな!!大事な事だったら尚更ね!」
そう言って、大きく手を振って二人を見送った。それを見るに、今日はとてもご機嫌そうな様子だった。

193:なかやっち:2020/04/13(月) 18:19

魔耶「ひまりなんかいいことあったのかな。ご機嫌。」
カルセナ「さぁね…朝から元気で羨ましいわ…」
軽く話しながらめぐみのいる部屋の扉をコンコンとノックする。
カルセナ「めぐみさーん?入っていいっすか?」
めぐみ「カルセナさんと魔耶さんですか?どうぞー」
めぐみの一声に反応し、扉をガチャリと開けた。
めぐみ「朝早くからすみません。」
魔耶「いえいえ、大丈夫ですよ。…んで、なにか見つかったんですか?」
めぐみ「はい。旅人からいい情報が入りまして…まずはお掛けになってください」
そういわれて、二人で近くにあったフカフカなソファーに腰かける。ソファーは体が沈んでしまうくらい柔らかくて座り心地がよかった。
めぐみ「では、これをご覧になっていただけますか?」
私達が座ったタイミングを見計らって、めぐみが懐からなにかを取りだし机の上に置いた。よくよく見ると一冊の分厚い本だった。保存状態が良かったようで、破れや汚れが見当たらない。
カルセナ「…これは…?」
めぐみ「私は旅人さんにこんな話を聞いたんです。それから、この本を手渡されまして…この本の内容はそのお話に基づくものなので、先にそのお話を聞いてもらいましょうかね」


めぐみ「これは、この世界のある地域に古くから伝わるおとぎ話らしいです。」
めぐみはふぅと息を整え、一気に語り始めた。
めぐみ「昔々、とある王国に、みんなから厄介者扱いされている王子様が住んでいました。王子様はとてもやんちゃで、よく城から抜け出して森の中を駆け回っているような子でした。
そんな王子様に王様もお妃様もあきれ果て、国の民からもやんちゃ王子と呼ばれるほどやんちゃな王子様なのでした。

ある日王子様はまたお城を抜け出し、森で走り回っていました。
原っぱを走り、転げ回り、自由な時間を楽しみ……
すると、近くの湖の方から泣き声が聞こえてきました。いつもはそんな声が聞こえないので王子様は不思議に思います。そして、泣き声につられて湖の畔まで行ってみることにしました。

湖の畔で泣き声をあげていたのは見知らぬ少女でした。
畔でうずくまり、悲しそうに声をあげる少女。
王子はその少女に、なぜ泣いているのかと尋ねます。すると、少女は不思議なことを言い出しました。
『なぜ私はこんなところにいるのか分からない。こんなところ知らない。お家に帰りたい』と。
詳しく話を聞くと、どうやら少女はこことは違う世界から来たようです。
王子はここの世界のことを教え、少女は元の世界のことを教えてくれました。ずっとやんちゃ王子と呼ばれ、誰からも厄介者扱いされてきた王子にとって、少女と話した時間はとても楽しく感じました。いつしか少女も泣き止み、二人は話に花を咲かせました。

少女と話をしていたらすっかり日が落ちてしまいました。
辺りは暗くなり、森の中は真っ暗です。
王子はお城に帰ろうとしましたが、少女を置いてはいけません。少女はこの世界に住んでないので家も家族もないのです。
やんちゃな王子は、少女を元の世界に返してあげようと考えました。王子にとって初めての友達と呼べる存在。ずっと家族と離ればなれでこの世界で生活していくのは可哀想だと思ったのでした。
王子はこっそりお城に戻り、冒険に必要なものを揃え、少女を元の世界に戻すために冒険に出ました。」

194:多々良:2020/04/13(月) 19:23


めぐみ「....とまぁ、冒頭の物語はこんな感じです」
今自分がいる場所を知らない、別の世界から迷い込んだ少女。それを解決する為に動く王子。
このままスタンダードな童話の物語なら、二人が帰る方法もそこで見つかりそうだった。
魔耶「へぇ.....やっぱりそんな昔から、異世界って言うのは存在してたんだね〜....」
カルセナ「ねー。でもこんなに時間が経ってるのに、何で異世界へ行き来出来る方法が載った資料が少ないんだろう.....」
めぐみ「今の私の知識では分かりません........では、続きを....」

めぐみ「王子が最初に旅した場所は、何度も何度も遊び呆けた、見慣れた森。まずはここで何か見つかれば....そう思い、森の中を、少女を連れて冒険しました。少女を連れながら森を歩くのは中々大変でした。しかし、王子は困っている人を見逃せません。自分の足が疲れても、お日様が山の陰へと沈み始めても、少しずつ休みながら諦めずに探し回りました。

ですが森には何の手掛かりもありません。困ったな....。王子はそう溢しました。でも、少女をお家に帰してあげたい....その一心で、次の冒険先を考えました。

次に二人が向かった先は、城下町から遠く離れた広大な岩場でした。ここには絶対に行ってはいけない。王様とお妃様に固く言われていましたが、今はそんな事は気にしていられない。少女を助けるんだ。そう決心して、恐る恐る岩場を登り始めました。

登っている最中、少女に何か思い出せる事があるか聞いてみました。ですが少女は何も覚えていなかったのです。何も分からないまま、やっとこさ岩場の中腹らへんまで登り終えました。そこから見る景色はとても綺麗で、お城の一番高い窓から見るよりももっともっと高い場所でした。」

195:なかやっち:2020/04/13(月) 20:25

魔耶「高くて大きな岩場…場所のヒントになるかもね」
おとぎ話を聞きながらぼそりと呟く。
カルセナ「森にはなにもなかったんだよね。だから森を探すのは意味が無いのかな…」
めぐみ「このお話では王子達はたくさん歩いて散策しても見つからなかったから…そうですね。森にはなにもないと考えていいかもしれません。場所のヒントにはなりますがね…。では、続けます」


めぐみ「王子は綺麗な景色を見て、疲れが薄くなっていったように感じました。病は気からと言うように、体の疲れは精神の疲れによることが多いのかもしれません。
景色を見て元気を取り戻した王子様と少女は、高く険しい山をぐんぐん登り…ついに頂上までたどり着きました。

山の頂上になにか手掛かりはないかと探し回る王子達。すると、洞窟のなかでたき火をしていた一人の魔女に出会いました。魔女は事情を聞くと、王子達に向かってこう言います。
『この世界には、己が望む世界へと繋がる不思議な扉が存在する。だがその扉には鍵がかかっていて、鍵を見つけないと開かないんだよ。鍵はこの世界のどこかに3つ散らばっている。元の世界に帰りたいと願うのであれば、鍵を探してごらん。』
王子達は有力な情報が得られて大喜びし、心優しい魔女にお礼を言いました。

こうして、王子様と少女の大冒険が始まるのですーー」

めぐみ「これでおとぎ話は終わりです。」
いきなりの終わりに目をぱちくりする二人。
カルセナ「え、もう終わり?これからがいいところじゃん!」
魔耶「うん、その大冒険が聞きたいのに…」
お話の突然の終わりに文句を言う二人。
これでは、王子と少女がそのあとどうなったのかが分からないではないか。
めぐみ「まぁまぁ、落ち着いてください。おとぎ話は、ですよ。本のことを忘れてません?」
めぐみの言葉にあぁと納得する。そういえば本もあったな…
魔耶「でも、おとぎ話に全部入れちゃえばいいのに。少女と王子様はどうなったのか気になるじゃん。」
めぐみ「おとぎ話なのであまり長くては子供に読めないでしょうから…。それに、小さい子が自分なりにそのあとのお話をつくってみる、っていうのもおもしろいですよね。」
カルセナ「…なるほど、おとぎ話だもんね…そういうものか。っていうか、この話はただのおとぎ話なの?本当にあったことじゃないの?」
めぐみ「すこし事実とは異なりますが、実際にあったことに基づいて作られたおとぎ話らしいですよ。その実際に起こったことについてが、この本にまとめてあります。この本は物語にでてくる王子様が記した日記なんです。まぁ複製なので本物ではないのですが…内容はそっくりそのままです。」
なんと、実際の王子様が記した日記帳があるとは…と驚く二人。
もしかしたら、ここにすべてが記されているのかもしれない。どこで鍵を見つけ、少女は自分の世界に帰れたのか。どうしてこの世界に来たのか…
魔耶「…内容を、教えてくれる?」

196:多々良:2020/04/13(月) 21:18

めぐみ「....ええ、勿論です」
そう言って、先程机に置いた分厚い本と持ち替え、一番最初のページを開いた。
めぐみ「因みに私はこの日記帳、最初の数ページしか読んでいません。その後の事は、今初めて知る事になります」
ゆっくりと、日記帳の朗読を始めた。

めぐみ「....3月25日、今日も森の中でたくさん遊んだ......この辺は普通の日記ですね」

「....4月2日、湖の近くで、泣いてる女の子に出会った。お家に帰りたいのに帰れないらしい。どうにかして僕が帰してあげないと。」

「....4月5日、岩だらけの洞窟で、おかしな格好の人と話をした。この子がお家に帰るには、3つの鍵が必要なんだって。二人で助け合えば、必ず見つかるよね。絶対諦めないぞ。」

「....5月3日、たくさん歩いて、色んな所を探してみたけど全然見つからない。まだ一個も見つけてない。本当に鍵なんてあるのかな。.....お月様、どうか僕達に、少しでもお恵みをください。」


めぐみ「私はここまで読みましたが....後はどうなるんでしょうか....本当に帰る方法が載っていれば良いんですが.....」
魔耶「うーん....でもまだ先があるんだから、多分結構参考になることは載ってると思うけどなぁ.....」
カルセナ「なんか今んとこ怪しいけどね....」

197:なかやっち:2020/04/13(月) 22:01

めぐみ「続きを読んでみましょう。」
次のページをペラリとめくる。

「…5月8日、今日も鍵を探す。まったく見つからない。せめて手掛かりでもあればなぁ…」

「…5月20日、不思議な街にたどり着いた。僕達よりもずっと小さい人がたくさんいる街…。聞き込みをしたけど、みんな鍵のことを知らないみたい。あの人は嘘をついていたんだろうか?」

「…5月28日、やっと情報が得られた。あのおじさんが言うには、この街から北へ進んだところに大きな塔があって、そこに鍵があるんだって!はやく行ってみなくちゃ…」

「…6月2日、塔に来たものの、塔の中には大きな怪獣がいて入れない。もしかして鍵を守っているのだろうか…でも、あの子を元の世界に返してあげるって決めたんだ!怖いけど、行かなくちゃ…」

魔耶「王子よりもずっと小さい人たちの街…?」
カルセナ「なんだろうね…小人とかかなぁ。その街から北へ行くと塔があって、そこに鍵があるけど怪獣がいて…」
めぐみ「まだ幼いでしょうに、怪獣がいる塔に行くなんて勇気がありますね…すこし飛ばします。」
2、3ページをパラパラと読み飛ばして、日記の続きを語り始めた。

「…7月20日、鍵が1つ手に入ったし、あの人が言ってることは嘘じゃなかったんだ!これであの子は元の世界に戻れる…。2つ目の鍵も探さなくちゃ!」

「…8月1日、2つ目の鍵も手に入れられた。あの子が元の世界に帰れる日はそう遠くないだろうな。…でも、やっぱりお別れするのは寂しい…あの子には元の世界に帰ってほしいのに、帰ってほしくないって思っちゃう。僕って意地悪なのかな…」

「…8月18日、あの子と喧嘩してしまった。僕が帰らなくてもいいんじゃない?なんて言っちゃったから…。僕が悪いよね。でも、あの子が帰ったら僕はまた独りぼっちなんだよ。」

カル魔耶「っ……」
王子が思っていることは、私達が思っていたことと同じだった。
相手に帰ってほしいけど一緒にいたい…
魔耶達には王子の気持ちが痛いほど分かった。
だからこそ、王子が喧嘩したり、独りぼっちになるのを怖がったりする理由もなんとなく想像ができる。

198:多々良:2020/04/14(火) 17:38

「....9月2日、ようやく3つ目の鍵を見つけた。こんな不思議な所にあるなんて。でも良かった。これであの子はお家に帰れる。本当に良かった....だけど、何だろう....何か寂しいな。これで良いはずなのに。」

「....9月6日、最初に鍵のことを教えてくれたあの人に出会った。「鍵が全部集まったんだね。二人が良ければ、その鍵を使って違う世界への扉を開けてあげるよ」....って言ってくれた。....あいにく今日は決められなかったよ。明日、絶対明日で決めよう。」


めぐみ「.....ここから先は、白紙になっていますね。何故日記がここで途絶えているのでしょうか.....」
途絶えたページの後をペラペラ捲ると、白紙だと言う事を確認し、そのまま日記帳を閉じた。
魔耶「.....でも、それなりのヒントは得れたかも」
カルセナ「そうだね、色々場所の情報もあったしね〜」
めぐみ「この二冊、良ければお貸ししましょうか?少しの期間なら大丈夫なので....」
魔耶「それだったら......ちょっとだけ借りて行こうかな....?」
めぐみは二人に、童話と日記帳を手渡した。
めぐみ「私はこれから、その鍵の在りかを出来るだけ探ってみようと思います」
魔耶カル「お願いしまーす」
そうして部屋を後にした。
カルセナ「う〜......何か色んな所探さないといけないっぽいね〜.....」
魔耶「まぁ、そんな簡単にいくもんじゃないだろうし....仕方無いんじゃね?」
カルセナ「それはまぁ....せやな」

199:なかやっち:2020/04/14(火) 18:07

トコトコと宿までの道を歩きながらあの日記の内容について話してみる。
魔耶「…大きなヒントとしては『大きくて高い岩山の洞窟にいた魔女らしき人』、『鍵は3つで、怪獣が守っているかも…』ってところか」
カルセナ「うーむ、道のりは長そうだ…」
はぁとため息をつくカルセナ。
カルセナ「詳しい街の名前とかどこに鍵があったとかは分からないんだよね〜」
魔耶「うん、それが厄介だよね。場所が分かんないと探しようがないし…。めぐみの情報を待とうか…」
日記について話をしていたら、いつのまにか宿に着いていた。
二人で受付をそそくさと通り部屋に入る。
…すると、ある本が目に入った。
魔耶「あ、そういえば私達が見つけたこの本のこと忘れてた…」
そう、テーブルに置きっぱなしにされていたあの赤い本である。朝からめぐみに呼び出されたので、この本の存在をすっかり忘れていた。
カルセナ「あぁ…この本にもいい情報が載ってるかもね…!昨日は軽くしか読んでないし、しっかり読んでみよう。読めないかもだけど…」
童話や王子の日記とは違いぼろぼろで薄汚れた本をみて、すこしだけ不安が過る。
魔耶「うーん…読めることを祈ろう…」
二人で椅子に座り、テーブルの上の本を開いてみた。

200:多々良:2020/04/14(火) 19:19

カルセナ「どれどれ.....えーと?」
魔耶「最初の方はちょっと読んだから良いよね....こっからかな?」
そのページは、本の真ん中らへんに位置していた為か、保存状態は良かった。

「.....前ページに記述したある協力者とは、まるで魔女の様な、不気味な風貌をした者であった。確か、鍵が何とか.....なんて言っていたかな?」

「....色々な交渉を経て、魔女は私を異世界へと連れていってくれる事になったのだ。.....奇しくも、それ相応の代償は奪われてしまったが....」

魔耶「....これって、童話に出てた魔女のことかな....?」
カルセナ「ぽいね〜....絶対同一人物でしょ」
魔耶「だったらますます興味沸いてくるな〜.....何なんだろう、この魔女は....」
カルセナ「て言うか代償って.....私達が帰る時も、代償みたいなの払わないといけないのかな....」
疑問を抱きながら、ページを捲っていく。

「....具体的な魔女の話では、この世界に散らばる3つの鍵を集めれば、代償を払わずに異世界へ行けるらしい。だが、せっかちな私はすぐにでも異世界へと旅立ちたかった為、簡単に代償を払ってしまった。何と愚かな事をしたのだろうか.....」

魔耶「.....成る程ね」
二人は顔を見合わせた。
魔耶「.....カルセナは、さっさと代償払って帰りたい....?」
そんな質問をすると、微妙な顔をされた。
カルセナ「む、代償?払うかそんなん!帰るんだったら地道に鍵探してから帰ろ!!」
当然の答えだったし、魔耶もそう思ってると考えてこそのものでもあった。

201:なかやっち:2020/04/14(火) 20:24


「…代償のせいで、私は異世界に来れたの…同時に元の世界の……を失ってしまった。自分の名前、…、誕生日…自分のこ…わかるの…、……世…に関する……を思い出そうとすると……が途…れてしまう。…の名前や…は思い浮かぶの…、どこで……合ったのか…から…い。これからどうすれば…いのだ…う。改めて自分の愚かさを………」

ここから先はまたかすれて読めなくなっていた。
魔耶「あら…しっかり読めたのは一部だけだったね。これじゃあ内容がよく分からないわ…。代償について記されているんだろうけど…」
カルセナ「そこが知りたいんだってのに。なんで大事なことが分からないのかね〜…」
魔耶「自分で探せ、ってこととか?」
カルセナ「そうなのかな…」
いまいち納得いかないが、考えても分からないのなら考えたって仕方がない。
ため息をついて本を閉じる。閉じた拍子に本のページの間から埃がブワッと舞った。
カルセナ「…分かったことは『私』は魔女と交渉し、異世界に行けたはいいものの代償をはらうことになった…って感じか」
魔耶「そういうことだーね。まぁ代償を払えば鍵を探さなくてもいいってことが一番大きな発見かな。…払うつもりはないけど」
ぼそりと小さな声で付け加える。
ページがかすれていて代償の具体的なことは分からないけど、『私』はそれを失ってすごく後悔しているように書かれている。そんなに大事なものをやすやすと渡すわけにはいかない。
カルセナ「うーん、じゃあ特に重要なことは見つからなかったな。代償なんて払うつもりもないから関係ないし…」
カルセナの言葉に同意してうんうんと頷く。
魔耶「とりあえず…今の私達の課題は、鍵のある場所を探すことだね」
カルセナ「そういうことになるね。あと、ギルドランク昇格試験に無事合格することだ。いや、無事に生きて帰ること、かな」
そういってカルセナはにやりと笑った。

202:多々良:2020/04/14(火) 21:15

魔耶「あー、そう言えばそうだ!昇格試験あったなぁ....帰る方法ばっかに囚われてたわ〜。んで、いつだっけ....」
カルセナ「えーと確か.....」

ひまり「明後日くらいに、月一回の昇格試験があるんだけど二人共参加してみない?」

魔耶「ひまりが提案して、私達が受け入れたのが昨日だから....昨日で言う明後日は....」
魔耶カル「「 明日!? 」」
声を揃えて、明日が試験当日だと言う事を改めて感じさせられた。
カルセナ「うわー、近いって事は覚えてたけど、明日だったとは....」
魔耶「うまく行くと良いねぇ。死なない程度に頑張ろ」
カルセナ「せやな.....頑張ろう。」

時計を見ると、もう少しで正午だった。外は沢山の人々が出歩き、朝よりも遥かに賑わっていた。
カルセナ「お腹空いてない?お昼だし、取り敢えずご飯でも行きませんか」
魔耶「おぉ行こう行こう。普通にお腹空いたわ〜」
そうして本をまとめて机の上に置き、飲食店へと向かうべく再び宿を出発した。
お昼時故に、街にはそこら中に美味しそうな匂いが漂っていた。
魔耶「わ〜、良い匂い〜」
カルセナ「この街の食べ物美味しいよね.....良いなぁ....」

暫く歩くと、いたって平凡な飲食店を発見したのでそこに入る事にした。席もまだ余裕がある。
魔耶カル「お邪魔しまーす」
店員「いらっしゃいませー!!奥のお席どうぞ〜」
店員に勧められた席まで移動し、ふぅ....と椅子に腰を降ろした。

203:なかやっち:2020/04/14(火) 22:23

魔耶「メニュー発見。カルセナはなにがいいー?」
ミニテーブルの横にあったメニューを開き、カルセナが見えるように寝かせて置いた。
二人でメニューを覗きこむ。
カルセナ「知らないメニューばっかなんだが…ん〜…じゃあ、パスタにチーズをのせたみたいなやつにする」
魔耶「あ、これか。普通に美味しそうだわ〜。私は何にしようか…あ、これでいいや」
美味しそうな料理を見つけた。まぁ美味しければなんでもいいんだけど。
早速近くにいた店員に声をかける。
店員「はい、ご注文は?」
魔耶「これとこれお願いしまーす」
店員「かしこまりました。少々お待ちください!」

3分ほどたち、頼んだ料理が運ばれてきた。
カルセナ「おお、美味しそうじゃないか…!」
魔耶「うむ、この世界の食べ物は美味しいからな…きっとこれも美味しいよね…!んじゃあ手を合わせて…」
カル魔耶「いただきまーす!」
思っていた通り、料理はとても美味しかった。
元の世界とはまったく異なる料理なので新鮮に感じれる。
カルセナ「うまっ!やっぱうまいわ!元の世界でも食べれたらなぁ…」
魔耶「この料理のレシピでも覚えて帰りたいけど、多分食材とか根本的に違うんだろうなぁ」
カルセナ「あ、確かに。じゃあ料理はこの世界限定か…残念…」
少しガッカリとしながらも美味しい料理を食べ、ぺろりと平らげた。

204:多々良:2020/04/15(水) 16:26

魔耶「ふぅ〜.....めっちゃ美味しかったぁ〜」
カルセナ「うんうん、また絶対食うわ....ごちそうさまー」
席を立ち、勘定を済ませて外に出た。大通りにはまだ沢山の人が歩いていた。
カルセナ「いやー、本当に絶品だったねぇ。.....やっぱご飯食べた後はスイーツ食べたくないっすか....?」
魔耶「うん?スイーツだって?」
カルセナ「お願いしますよ魔耶さーん、んじゃせめてお菓子で....」
魔耶「んー、まぁ良いよ〜。ついでに何か買い溜めしとこっかね」
カルセナ「さっすが、話が早いわ〜」
こうして二人は、元居た飲食店から少し離れたお店へ向かう事にした。そこはこの前、沢山のお菓子が売ってるんだよ〜と、ひまりからオススメされた店だった。

魔耶「おっと....やっぱ子供連れが多いね」
カルセナ「ここのお菓子人気っすね〜。お菓子買いに来たかどうかは知らんけど」
雑談をしながらゆっくりお菓子売場へ向かった。通路に並ぶ長い棚には、ジャンルが色とりどりのお菓子が並べられている。
カルセナ「おおー!めっちゃ多いじゃん!!テンション上がるわ〜♪」
魔耶「どんくらいお菓子いる?」
カルセナ「めっちゃ。」
魔耶「具体的に言え。」
カルセナ「うぅーん、まぁ、それっぽい量買っときましょ」
魔耶「はいはい、んじゃ好きなの買いましょ」
他にもお菓子を買いに来ている子供達に気を付けながら物色した。まるでそのブースは、一軒の駄菓子屋かの様な大きさであった。

205:なかやっち:2020/04/15(水) 17:48

大きなお菓子ブースにところ狭しと並べられたカラフルなお菓子のパッケージを順にみていくと…
魔耶「はっ!」
魔耶があるお菓子に注目した。
カルセナ「…なんかあった…?」
魔耶のいきなりの反応に驚いて、質問してみる。
魔耶「はい…これほしいっす…!」
魔耶が見せてきたのは美味しそうな梅のグミだった。
だが袋には『激すっぱい‼』と書かれていて、すっぱさメーター80とも書いてある。…そうとうすっぱそうだ。
カルセナ「…ほんとにこれでいいの…?激すっぱいって書いてあるけど…?」
魔耶「それがいいんじゃないか〜。…私、すっぱいお菓子が大好きで…」
少し照れたように魔耶が赤面する。
カルセナ「へぇ〜。意外だなぁ。魔耶は辛いのとか苦いのとかはダメなのに、すっぱいのはいけるんだ?」
魔耶「自分でもよく分からないけど、そうみたい」
カルセナ「ふーん…」
まぁそういう私も、よく分からないけど好きなものとかあるからなぁ。魔耶の気持ちも分からなくない。
カルセナ(…さて、魔耶は欲しいものを見つけたんだし、私もなにかお菓子を…)
そう考えあたりを見回してみる。
カラフルなお菓子は見ているだけでも楽しかったが、私もなにか買いたい。
カルセナ「…!あ、これ…!」

206:多々良:2020/04/15(水) 18:48

あるお菓子を手に取って、魔耶に見せた。
魔耶「何それ....クランチチョコ?」
カルセナ「そうそう!これめっちゃ好きなんだよね〜。ドライフルーツ入りは勘弁だけど....いくらか買っとこ〜。魔耶も食ってみなよ」
さらっと魔耶に勧めながら、近くにあった籠にぽいぽいと投げ入れる。
カルセナ「さ、他にも何か探してみよー」
魔耶「キャラメルとか無いかなぁ.....」

一通り見回り、籠の中も、二人分のまぁまぁな量のお菓子で埋め尽くされた。
会計に向かい、ぱぱっと勘定を済ませて店から出た。
カルセナ「う〜....ん、良い買い物をしたわぁ」
魔耶「早く宿戻って、お菓子食べながら本読も〜」
カルセナ「良いねぇ、それなら飽きずに解読出来そうだわ」
宿へ帰る為、そこから歩き出した。午後の北街は買い物客が多く、店員の呼び掛けや街の人々の話し声で、わいわいと賑わっている。
カルセナ「おっ、林檎が安いっ」
魔耶「主婦か。てかもう買わんからなー」
カルセナ「分かってますわよ〜」
魔耶「いやだから主婦か。」
下らない会話をするのは時間の無駄。そう思われるが、それは意外にも無意識に、親しい友との仲をちょっとだけ深めてくれるものだった。

207:なかやっち:2020/04/15(水) 20:10

カルセナ「…なんか、いいね〜。平和にお買い物ができるって」
カルセナの言葉に同意し、うんうんと頷く。
魔耶「だよねぇ。まぁこの世界に来てからずっとデンジャラスすぎたからなぁ…。そう思うのも無理はない…」
そう、今まで平和に買い物なんてしていなかった。いや、できなかった、か。
一昨日まで1つの組織と戦っていたくらいだし…。
魔耶「それに、元の世界ではあまりこういうことしなかったからな。新鮮だぁ。…いや、160年前にしたっけか…」
カルセナ「年厚よ。…へぇ、魔耶元の世界でボッチだったり…?」
魔耶「いやいや!ちゃんと親友とかいるから!……まぁ、その子は仕事で忙しいからね。私と違って暇がないのさ〜!」
最後の一言を発しながらどや顔をする魔耶。
カルセナ「なんでドヤってるのよ…まぁいいけど」
魔耶の態度に少しあきれを感じながらもクスリと笑うカルセナ。
魔耶「む、笑ったな〜。そういうカルセナこそ、友達とかいるの?」

208:多々良:2020/04/16(木) 19:04

カルセナ「む〜ん......そりゃ人間ですもの、居たには居たけど.....大体は姉妹と遊んでたからな〜」
魔耶「へー、友達と遊ばんの?」
カルセナ「学校とかでは遊んでたけど、休日とかはずっと家に居たわ....」
魔耶「半、引きこもりやないか」
カルセナ「ばっか、これでも小さい時は死ぬ程外で遊んでたんだからなー!」
魔耶「昔は昔、今は今ってのを知ってるか〜?」
カルセナ「うぐぅ......」

そんなこんなで宿に到着した。外には他の宿客が出て話したり、自分の時間を満喫したりしていた。
受付の前をささっと通り、自分達の部屋にやっと戻ってきた。
魔耶「ふぅー、ただいま〜」
カルセナ「んじゃ、本解読しますか。お菓子食べながら」
魔耶「手ぇ洗えよ〜」
カルセナ「はーい」

暫くして、漸く、元の世界へ帰る方法を探すための読書が始まった。
魔耶「いやー、それにしても本の一冊一冊が分厚過ぎる....」
カルセナ「ご飯食べたばっかで寝落ちするかもしれん....」
魔耶「お菓子でも食って気分紛らわせば良いんじゃね?」
カルセナ「せやなー。お菓子の袋.....えーと、これは魔耶のか。はいよ」
店の袋の中に入っていた、魔耶の梅のグミを本人に渡した。

209:なかやっち:2020/04/16(木) 21:13

魔耶「やったぜ。定期的にすっぱいお菓子が食べたくなるのよ〜。あ、カルセナもいる?」
カルセナ「いいの?じゃあいただくわ〜」
魔耶からグミを1つ手渡され口に運んでみる。
すっぱいものはそこまで得意でもないが、お菓子なら大丈夫だろう……そんな考えでした行動だった。
カルセナ「モグモグ…………」
魔耶「うま〜い…このすっぱさがたまらないわ〜。…どう?カルセナ?」
カルセナ「…」
魔耶の言葉に返事を返さず、無言で俯くカルセナ。
魔耶「…カルセナ?」
カルセナ「……すっっっっぱぁぁ!!?」
魔耶「わっ!?」
カルセナが大声を出してすっぱそうに顔をしかめた。
カルセナのいきなりの大声に思わず驚いてしまう。
カルセナ「めっちゃすっぱいんだけど!?よくこんなの食べれるね…」
魔耶「え、そんなにすっぱいかなぁ??ちょうどいいくらいだと思うけど」
カルセナ「ち、ちょうどいい…?」
魔耶の言葉に驚きながら口直しのクランチチョコを開け、口に放り込む。
カルセナ「うぅ、やっぱこれだわ……いやぁ、すっぱかった…」
魔耶「あはは、そんなにか。ごめんごめん☆」
カルセナ「笑い事じゃないっての」

210:多々良:2020/04/16(木) 22:14

魔耶はその酸っぱいグミに夢中になりながら話をした。
魔耶「いや〜、この酸っぱさがクセになる〜」
カルセナ「......そうか?」
魔耶「うん、何かこう....言葉では表せない何かがあるよね.....」
カルセナ「分からんなー.....それ」
魔耶「分かると50倍美味しくなるぞ」
カルセナ「ははーん、そうなのか.........で、何の話だ?」
魔耶「.....へ?」
ずっと手元に向けられていた魔耶の視線がカルセナに向けられた。

カルセナ「いやだから、何か知らねーけど美味いのか?そのグミ」

さっきまで話していたカルセナとは明らかに雰囲気が違う。
イメージカラーを黒と言っても過言で無いような外見。そして、少し荒い言葉使い。間違い無い。
魔耶「違う....カルセナ......!?」
先日の戦いで対面した、もう一人のカルセナだった。だが今は戦闘などしていない。至って平凡な状況だった筈だが.....。
魔耶「え....な、何で今??」
カルセナ「知らねーよ.....急に、外に引っ張り出されちまってな.....私は寝てたってのに....」
魔耶「うーん......はっ、まさか酸っぱいグミのせいか!!?それともそのチョコのせい!?」
再び手元のグミに視線を落としたと思えば、すぐさまクランチチョコに視線を移した。
カルセナ「うーん、そうなのか....?まぁ何だって別に良いんだけどよ.....」

211:なかやっち:2020/04/16(木) 22:57

魔耶「ふーん…まぁ、君とも話しをしたいと思ってたのよ。あなたはカルセナ…ってことでいいのかな?」
カルセナ「カルセナではあるが、お前の知っているこいつ(本体)と混ざりそうだな…」
…そうか。どっちもカルセナだし、呼び方は統一しない方がいいのだろうか。じゃあ…
魔耶「うーん…黒い…カルセナ……ブラック……ブラッカルってどう?」
カルセナ「へぇ……まぁ呼び方はお前の勝手にしろ」
魔耶「了解〜。じゃあ君はブラッカルね。ブラッカルは、私のこと…彩色魔耶のことがわかるの?」
戦闘中に何度か名前で呼ばれていたし、誰だお前とかも言われなかった。それがずっと気になっていたのだ。

212:多々良:2020/04/17(金) 17:35

ブラッカル「あぁ。お前の事はこいつから聞かされたからな。『大切な仲間』....ってな」
魔耶「そうだったのかー.....てか何で二人共分離してんの?普通は一人だよね」
ブラッカル「そんな事言われても.....知らねーよ。こいつの感情の上下が激しいから別れちまったんじゃねーの?」
説明出来なさそうな質問の為、適当に答える。
魔耶「うーん....不思議だなぁ。まとめると.....二重人格って感じかな?」
ブラッカル「そんな感じか......あー、てかこれ、いつ戻れるんだよ....」
だるそうに帽子を脱いで机に置く。
魔耶「さぁー....君達の体の事なんて知らないもん。....明日には戻れるんじゃない?」
ブラッカル「あー....明日戻るかねぇ」
魔耶「あ、そー言えば明日試験やん」
壁に掛かっているカレンダーを見て魔耶が気付く。
ブラッカル「試験?」
魔耶「うん、ギルドの昇格昇試験。モンスターがうじゃうじゃ出てくるとか何とか....」
ブラッカル「ふぅ....ん。面白そうじゃねぇか。是非とも参加したいもんだ」
魔耶「戻ったらご愁傷様って感じだねぇ」
ブラッカル「はは、無理矢理外に出てやるよ」

213:なかやっち:2020/04/17(金) 18:13

魔耶「もとには戻れなくても外に出ることはできるのか…謎だなぁ」
ブラッカル「そうか?」
ブラッカルはガサガサとお菓子の入った袋をあさり、クランチチョコを取り出した。
ブラッカル「モグモグ……そういえば、お前のあの…角が生えてた状態。あれはなんだったんだよ。戦ってる最中だったから聞けなかった」
角が生えてた状態……
魔耶「…あぁ、悪魔状態のことかな…?私の切り札みたいなものだよ」
ブラッカル「悪魔状態…?それが正式名称なのか?」
魔耶「いや、適当に考えた名前だから正式名称ではないかも…」
あの姿にはあまりならないからちゃんとした名前考えてなかったな、そういえば。悪魔状態ってそのまんまだし。
魔耶「じゃあさ、悪魔状態をいい感じにネーミングしてよ。私がブラッカルって考えたみたいに」
ブラッカル「ほう、面白そうじゃねえか。悪魔状態ねぇ…」
そういって、ブラッカルは腕を組んで考え始めた。

214:多々良:2020/04/17(金) 21:58

ブラッカル「うーん....悪魔耶......とか」
魔耶「なーんじゃそりゃ。」
ブラッカル「なーんじゃそりゃって言われても、今はこれしか思い浮かばねぇんだよ.....くっそ、こいつのセンスの無さが移ったか....」
悩んだブラッカルは、髪を手でぐしゃぐしゃと掻き乱した。
魔耶「いやまぁ、ブラッカルみたいに呼びやすければ何でも良いけどさ....」
ブラッカル「て言うか、悪魔耶の時の変身も良く良く考えるとすげーよな」
魔耶「そうか?」
ブラッカル「だって、あんなに力が爆上がりするのなんて見たことねーから....魔力も相当のモンだったしよ。あんな能力を、魔族は全員持ってんのか?」
自分の事より魔耶の力に興味を持ち始め、問い掛ける。その目は本来表に出ているカルセナと似て、キラキラと目を輝かせているものだった。

215:なかやっち:2020/04/17(金) 22:24

魔耶「うーん…どうだろう?他の魔族の人にあったことがないからなぁ…。魔族って一口に言ってもいろんな魔族がいるし、できる人は少ないかもね?」
よくわからないので適当に返す。あれはもう…なんというか…感覚だからなぁ。
ブラッカル「へぇ、そうなのか。あれはどういう仕組みになってんだ?私達みたいに他の人格が出てきてるわけではないんだろ?」
魔耶「うん。私の人格はこれだけだよ。悪魔耶状態はねぇ…ちょっと説明が難しいな……まぁ、感覚って言えばいいかな?」
ブラッカル「感覚…?どういう感じなんだ?」
あらためてどういう感じかと聞かれると分からない。
どう答えればいいか解答に迷う。
魔耶「んっと……私の中には、人間に近い細胞と悪魔に近い細胞があるのよ」
ブラッカル「ほうほう」
魔耶「いつもは悪魔に近い細胞は静めてるんだけど…悪魔耶状態にするときは、悪魔に近い細胞を活性化させて、一時的に悪魔みたいな姿と力ができる、みたいな」
ブラッカル「ふーん…面白い仕組みなんだな。なんで反動とかがあるんだ?」
魔耶「よく分からないから予想だけど…いつもは静まっている悪魔の細胞を活性化させるから、すぐにその細胞を静めることができないんだと思う。だから角が残ったりするんじゃないかな」
この予想もあながち間違ってはいないと思う。
悪魔と人間では悪魔の方が強いように、細胞も悪魔に近いやつの方が強い。だから一度活性化すると、人間に近い細胞では静めるのが大変なんだろう。
ブラッカル「ほんとに面白い体してんな、お前。あの幹部達がお前を実験材料にしようとしてた理由がわかった気がする」
魔耶「君も相当…下手したら私より面白い体してると思うけどね?その言葉そっくりそのまま返すよ…」

216:多々良:2020/04/18(土) 16:05

ブラッカル「んなこたぁねーよ。だって私からこいつに切り替わっても、魔耶程戦闘力は変わらねぇし.....さすが魔族って感じだな」
机の上に肘を置いて顎を支え、やる気が無さそうに、でも感心する気持ちだけは持って応えた。
魔耶「そうかねぇ〜」
ブラッカル「ああ、今度お前ろ手合わせしてみてぇな」
魔耶「暇があったら出来るかもね。まぁ今は暇なんて無いけど......って、そう言えば忘れてた!」
急に姿勢をピンッと張ると、机の上に積まれた本に視線を向けた。
魔耶「本の解読.....ついうっかり話してしまった....」
ブラッカル「本....?そういやずっと分厚い本あんなぁ、って思ってだんだが、何だこれ?」
積まれている一冊の本を手に取って、まじまじと観察した。
魔耶「その事は知らんのね....えっと、何かこれらの本に、元の世界に帰れる方法の情報が載ってそうなんだよね」
ブラッカル「へぇー。そうだ、こいつ違う世界に来てたんだったっけな。何か分かった事あったのか?」
魔耶「ある童話によると、3つの鍵が必要だとか何とか....」
めぐみから読み聞かせられた童話を思い出して、情報を伝える。
ブラッカル「鍵だぁ?どっかに扉でもあるって言いたいのか?そんなら強行突破でも......」
魔耶「いやあの、物理的な話では無いような気がするのよね......」
ブラッカルの言う事に少し戸惑いつつ返答する。
ブラッカル「ふーん....そこらに関しては、少し面倒臭そうだな....」

217:なかやっち:2020/04/18(土) 16:57

魔耶「そうなのよ〜…だからもっと情報を集めようと思ってたんだけど、すっかり忘れてたわ…」
机の上に置いてある分厚い本を手に取り、パラパラとめくってみる。
ブラッカル「でも明日試験ってやつがあるんだろ?そのことについてはいいのか?」
魔耶「あぁ…」
確かに、明日試験があるのになにもしていないなぁ。必要なものとかはあるのだろうか…
魔耶「そうだね。なんかいるのかも知れないし、やらなきゃいけないこともあるかも……ひまりに詳しく聞いてこようかな。本は試験のあとでも大丈夫だし」
ブラッカル「ひまり……あぁ、あいつか。私も暇だし、一緒にいくよ」
魔耶「ひまりのこともしってんのね。んじゃあ、二人でひまりを探しますか〜」

218:多々良:2020/04/18(土) 18:33

そうして二人は再び宿を出て、ひまりを探しに街に出た。
大通りを歩いていると、周りの町人からちらちらと視線を向けられた。いつも魔耶と一緒に居る相方の姿が何かおかしいからであろう。
ブラッカル「.....何か周りの奴ら見てくんな.......何なんだよ」
少し不満気に、一人で愚痴を溢す。
魔耶「恐らく貴女だと思いますが........」
ブラッカル「なーんか言ったか?」
魔耶「いやなーんも。ひまりどこかなぁ〜」
時計台の近くまでやって来たが、ひまりの姿は未だに見かけていない。
ブラッカル「あれじゃね?家でだらだらしてんじゃねぇの?」
魔耶「そうかなー....家と言っても、どこにあるか知らないし.....」
その時、とある人物が不意に目に入った。
魔耶「あっ.......!!」
ブラッカル「ん、どうした?」
とことこと向こう側を歩いている少女。買い物に来たのだろうか、片手には可愛らしいデザインのバッグを提げている。
ブラッカル「.....あいつの事か?」
魔耶「みおだ.....みおなら案内してくれるかも」
ブラッカル「えーっと.......確かひまりの妹だっけか?それなら名案だ」
みおにひまりの居場所を教えて貰うべく、向こう側へと駆けていった。

219:なかやっち:2020/04/18(土) 20:23

魔耶「みお〜!」
みお「あれ…魔耶さんと…カルセナさん、ですかね…?どうしたんですか?」
魔耶「いきなりごめんね。実は…」
みおに、明日の試験のことについて知るためにひまりを探しているのだと簡単に説明をする。

魔耶「…そういうわけで、ひまりがどこにいるか知らない?」
みお「なるほど…姉なら家にいますよ。案内しましょう。私についてきてください」
ブラッカル「…悪いな、わざわざ」
みお「いえ、ちょうど買い物を終えて家に帰るところだったので…」
みおが手に持っている可愛らしいバッグに視線をうつす。遠くからではよく見えなかったが、バッグの中には夕飯に使うのであろう食材が入っていた。
みお「家はここからそう遠くないので」
魔耶「そっかぁ。ありがとうね。ちょうどみおがいてくれてよかったよ…」
みおが歩き始めたので、みおを先頭に二人も着いていく。
みお「お礼なんていいですよ。ついでですし。……ところで、あなたはカルセナさん…なんですか?」
みおが振り返り、ブラッカルをじっと見つめた。
ブラッカル「カルセナっちゃあカルセナだが…お前らの知ってるカルセナではねぇ。別の人格だからな…ブラッカルとでも呼んでくれ」
みお「別の人格…カルセナさんは第二人格をお持ちなんですね。わかりました。よろしくお願いします、ブラッカルさん」
みおが案外すんなりブラッカルを受け入れたため、かえって驚く魔耶。
魔耶「あれ、意外とすんなり受け入れるんだね…?別の人格だよ?もっとリアクションあるのかと…」
みお「…魔耶さんは魔族。カルセナさんは幽霊。これを知ってるのでもうなんでもありかな、と」
魔耶「…姉と同じく肝が据わってますぜ…」

220:多々良:2020/04/18(土) 23:03



話しながらしばらく歩いて、みおが立ち止まった。
みお「お待たせしました、ここが私達の家です。さ、中へどうぞ」
外見は洋風で、二人で暮らす分には十分な大きさの家だった。
魔耶「お邪魔しまーす」
ブラッカル「邪魔するぜ〜」
みお「だだいまー。ねぇ、お客さんだよー」
中に入って荷物を置くと、二階に居ると思われるひまりに声を掛けた。
少ししてドアの開く音が響き、階段をトタトタと降りてくる音がした。
ひまり「なぁに〜?今次のイベントの内容考えてたんだけど.....って、何だ魔耶達かぁ」
魔耶「忙しいときにごめんね、色々聞きたい事があってさ....」
ひまり「いやいや、大丈夫よ。みおが案内したのね。立ち話も何だし、そこの椅子にでも座ってよ。今紅茶を淹れるね」
4人掛けの椅子と机を指差し、紅茶を淹れる為かキッチンへと向かった。
魔耶「お構い無く〜」

紅茶の、透き通る様な香りが漂ってくると共に、ひまりとみおも席に着いた。
ひまり「そんで?わざわざこんな所まで来て何聞きたかったの?何でも言って」

221:なかやっち:2020/04/19(日) 10:00

魔耶「いやぁ、明日の試験のこと詳しく聞きたいなと思って…」
ひまり「あぁ、明日だもんね〜…わかった。具体的になにを聞きたいの?」
ブラッカル「持ち物とか、ルールとか、集合時間とか、場所とか…細かいことを聞いておきてぇな」
ひまり「そっか。じゃあ持ち物から説明…したいんだけど、その前に…」
ひまりがチラリとブラッカルの方を見る。カルセナの様子がいつもと違うことに気がついたんだろう。
ブラッカル「…ん?あぁ、私か?また説明すんのめんどくせぇなぁ。…私はこいつ(本体)とは別の人格の…まぁブラッカルと呼んでくれ」
めんどくさかったのかだいぶ説明を省いて自己紹介するブラッカル。自分のことを何度も説明するのは大変そうだなぁ…なんて他人事として考える。
ひまり「別の人格…ふーん…イメチェンでもしたのかと思ったよ」
魔耶「口調までイメチェンする人はなかなかいないと思うけどね…。んで、試験について教えてくれる?」
ひまり「了解〜。持ち物は…戦うときに使う武器とかだね。背番号も必要なんだけど、それは試験が始まる前に係の人が配ってくれるから用意する必要はないよ。細かいルールも試験が始まる前に説明があるからそこは省くね」
魔耶「武器かぁ…私は自分でつくるから問題ないかな。ブラッカルは武器いる?素手?必要だったら君の分もつくるけど…」

222:多々良:2020/04/19(日) 13:29

ブラッカル「あー、いや大丈夫だ。私は素手でいく」
魔耶に武器が要らない事を伝える。
魔耶「そう?なら良いか。えーと、集合時間とかは?」
ひまり「ギルドの前に、午前9:00に集合だった筈。そこから係の人が別の場所に案内してくれるから」
魔耶「成る程、確かに街の中で行う様なものじゃないもんね。9:00に集合....寝坊したらヤバイなぁ」
ブラッカル「遅くまで起きてなきゃ良い話だろ?」
魔耶「それはそうだ。」
正論に対して、うんうんと頷く。
ひまり「それで、ルールね。えーっと、どうだったっけな〜.....」
椅子から立ち上がり、近くの引き出しを開ける。中には資料と思われる、沢山の色々な紙が詰め込まれていた。
ひまり「近々のイベントだから、上の方に入ってる筈.....あ、あったあった」
そこから一枚の紙を取り出して魔耶とブラッカルに見せた。
魔耶「これがルール?結構書いてあるけど....」
ひまり「上のランクに昇格する試験だからね。規則とか、何かと多いのよ。一番上のこれを見て」
指差した文は、参加者の死においては一切の責任を負う事は出来ない。と書いてあった。
魔耶「あ、これ申込書にも書いてあったわ〜.....」
ひまり「そうだったの?貴女達よく即行で申し込めたわね.....」
ブラッカル「ふーん.....死なねぇように、せいぜい足掻けって事だな」
ひまり「えっと他には.....制限時間は10:00〜14:00の4時間。それまでにゴールまで辿り着けなかった参加者は、失格とみなす」
先程指差した忠告文の下の文を読み上げた。

223:なかやっち 久々に長く書いたわ:2020/04/19(日) 14:17

魔耶「ふーん…4時間もかかるとは思えないけど、そんなに長い道のりなの?」
ひまり「だいたい2〜3kmくらいだからそこまで長くないよ。ただモンスターに足止めされるから…」
ブラッカル「ふん、モンスターなんか全部ぶったおしてやるよ」
…流石ブラッカルさん。心強い。この人なら本当にモンスターを全部倒してしまいそうな気がするから不思議だ。
ひまり「…あと、多分飛ぶのはなしじゃないかなぁ。今まで飛べる人なんていなかったから分かんないけど、失格とみなされるかもしれないから飛ばないほうがいいよ」
確かに、飛んでいくのは近道をするのと同じだし、フェアではないか…
魔耶「わかった。飛ばないようにするよ。…他のルールは?」
ひまり「えっとね、他の参加者を故意に攻撃するのは禁止…だって。参加者が参加者に怪我をおわせた場合、反則と見なされる」
ブラッカル「なんだ、そうなのか?他のやつらもぶったおしていけば楽だと思ってたのによ」
ひまり「その役目はモンスターが担っているから…。昔は攻撃しても大丈夫だったらしいんだけど、そのせいで死者が増えるから禁止になったんだって。かすり傷を負わされたせいでモンスターから逃げられず、死んじゃった人とかもいるから…」
ひまりの言葉に身震いする。ほんの少しの妨害が、その人の命を奪うことにも繋がるってことか。
魔耶「な、なるほどね…怖いわ…」
ひまり「試験だから…そういうものよ。あとは特に大事ではないかな…」
重要なことは伝え終わったらしく、読んでいた紙をたたんでテーブルにおいた。
ひまり「他に質問は?」
魔耶「はいはーい。毎回の試験で、参加者と死者はどれくらいでるんですか?」
これは自分がやられるかもしれないという恐怖からではなく、純粋に試験がどれほど難しいのかを知るためにした質問だった。正直、ちょっと凶暴な動物くらいに負ける気はしない。ブラッカルもいるし。
ひまり「そうねぇ…参加者はだいたい60人前後。死者はそこまででないわ。参加者の死…とか書いてあるけど、そこまでギルド側も無責任じゃない。ちゃんと役員の人やマスターが参加者が死んでしまう前に助けに入るわ。まぁ、助けに入られた時点で失格になっちゃうけど…」
ブラッカル「意外と参加者少ないんだな?軽く150人くらいはいるのかと…」
ひまり「危険だからねぇ。Eランクでも結構いい仕事はあるだろうし…」
そういってひまりは席を立ち、私達に声をかけた。
ひまり「そろそろ夕飯の時間だから支度するわ。あなた達も食べていきなさいよ」
魔耶「まじですか!?ありがたい…」
ブラッカル「おぅ、せっかくだしいただいていくか」
ひまり「その代わり、しっかり手伝ってね」
カル魔耶「頑張りまーす」


二人で皿を運んでいる途中、いいことを思い付いた。
魔耶「いでよ!くまさん!」
手のひらの上にくまさんをつくりだす。
ブラッカル「…?なにをするんだ?」
魔耶「いやぁ、明日試験だから特訓しようかと…。昨日今日じゃ変わらないかもしれないけど」
そういってくまさんにお皿を持たせ、操ってテーブルまでお皿を運ばせる。
魔耶「細かい動作をさせれるようになれば、それだけ細かくくまさんを操れるようになるってことだからね。技の精度が上がるよ。修行修行」
ブラッカル「なるほどな。便利そうな能力だ……あ、そういえば」
ブラッカルが思い出したように言う。
ブラッカル「試験中、能力は使っても大丈夫なのか?」

224:多々良:2020/04/19(日) 15:26

ひまり「うーん、能力と言えど、その人自身の実力だからねぇ.....良いんじゃないかしら?それで失格になるのはおかしい話だしね」
魔耶「おー良かったぁ〜....能力無しだったら流石にキツイからさー」
ブラッカル「んー、まぁお前なら行けんじゃね?」
魔耶「んな無責任な.......」

魔耶のくまさんの分の働きもあって、夕飯の準備は手っ取り早く終わらせる事が出来た。
テーブルの準備をしていた間に、ひまりとみおが二人で料理を作ってくれていた。段々と、美味しそうな匂いが漂ってきた。
ブラッカル「あー、腹減った」
魔耶「あっれ?何か、宿でめっちゃチョコ食べてなかった.....?」
ブラッカル「それはそうだが.....別腹ってモンがあんだろ」
魔耶「分からんでもないけどさ....」
雑談していると、キッチンからひまりが出て来た。
ひまり「はいはいお待たせ〜!!いっぱい作っちゃったから、遠慮せずに沢山食べてね!」
両手に、先程の匂いの根源と思われる料理を持っている。それをテーブルの上にゴトッと置いて勧めた。
魔耶「うわ〜、めっちゃ美味しそう!!」
ひまり「ふふん、さ、冷めないうちにどうぞ!!」
魔耶カル「いただきまーす!!」
用意しておいた皿に料理を盛り付ける。
ブラッカル「あ、お前ちょっと多いぞ。よこせ」
魔耶「量そんなに変わらんでしょ!!てか取るなー!自分で盛れ!」
ひまり「まだキッチンにあるから喧嘩しないでよ〜」
変な事でギャーギャー騒いでる二人を止める。その表情は、少し困って、でもとても嬉しそうなものだった。

225:なかやっち:2020/04/19(日) 16:23



魔耶「…はぁ〜!美味しかったぁ…ごちそうさまでした!」
ひまり「お口に合ったようでよかったよ。…それに、いつもよりもにぎやかで楽しかったし♪」
ひまりがチラリとブラッカルの方を向く。
ブラッカル「はは、魔耶が意外と頑固だったぜ」
魔耶「君が私のご飯をとろうとするからでしょうが。かと思えば私のご飯を大盛りにしたりするし」
思い出しただけで吐きそうになるほど大盛りにされたご飯を思い出す。少し目を離したスキにやられるとは…
ブラッカル「あれ全部平らげたのはすごかったわ」
魔耶「お陰さまで…腹がはち切れそうですよ…」
ひまり「あはは!面白かったよ☆」
魔耶「面白さは求めてないんだよなぁ…少し食いざまししてから帰っていいですか…?」
ひまり「うんうん、しょうがないよね。たっぷりくつろぎな〜」
ひまりの言葉に甘え、ゴロンと床に寝転がる。
ブラッカル「ご飯のあとにすぐ寝たら太るぞ〜」
魔耶「誰のせいで寝たくなったのかわかりますか〜?…それに、私の能力は魔力をたくさん使うから。魔力使ってればめっちゃカロリー使うから。つまり太らない」
視線を手洗い場に向ける。そこではお皿を洗っているくまさんの姿が見えた。
魔耶「あー…くまさん増やすか。集中するから話しかけないでね〜」
新たなくまさんを2匹召喚し、お皿洗いをさせる。
3匹操るのは相当な集中力が必要なようで、起き上がって目を瞑っていた。
ブラッカル「同時に3匹が最高なのか?」
魔耶「そうだよー」
集中しているため、魔耶の返事はどこか投げやりな感じがした。
ブラッカル「ふーん…大変そうだなぁ」
ひまり「そうね〜。…聞きそびれていたけど、魔耶の能力はどんな能力なの?」
ブラッカル「魔力を形にして物をつくり、操る…って能力だったかな」
ひまり「へぇ…便利ね…私も能力がほしいわ〜。ブラッカルはどんな能力なの?」

226:多々良:2020/04/19(日) 17:05

ブラッカル「私か?まぁ....相手の戦闘能力を見極める....みてーな力は持ってるが.....」
ひまり「へー、それはそれで便利そうだけどねぇ。因みに、いつものカルセナの方は?」
ブラッカル「あぁ、こいつは未来を読む事が出来るって感じだ」
ひまり「皆すごい能力持ってるんだねぇ.....人間じゃなくなればそう言う能力手に入れられるのかしら」
そう言って、ソファーの背もたれにぐたっともたれ掛かる。
ブラッカル「.....いや、何だかんだ言って、やっぱり人間が一番良いと思うけどな」
ひまり「そう?うー....それなら良いんだけどね〜」
くまさんを操る為、集中している魔耶を見る。ブラッカルに人間が一番楽と言われても、やはり魔耶達の種族や能力が羨ましい様子だった。

魔耶「ッはぁあ.......っ!!」

目を閉じていた魔耶が急に動き出し、再び床にドテッと寝転んだ。
ブラッカル「どうした?何かあったのか?」
魔耶「.......もー疲れた。」
ブラッカル「あー大丈夫そうだな」
魔耶「馬鹿やろー、どんだけの魔力使うと思ってんだー。しかも今お腹いっぱいだしよぉー.....」
本当に疲れて来ているのか、気力無さげに返事をした。だが、くまさんを量産したお蔭で殆ど皿洗いは終わっていた。
ひまり「手伝ってくれてありがとう、残ったのは私達に任せて」
魔耶「りょーか〜い.....うおー....また疲労骨折するわ〜」
ブラッカル「何だまたって......まぁ確かに、表の方では色々あったらしいな」

227:なかやっち:2020/04/19(日) 18:09

魔耶「そうなんです〜。色々あったんです〜。飛べなくなったりして大変だったんだから…」
ブラッカル「飛べなくなるなんてことがあるんだな?」
魔耶「私は羽を使わないと飛べないから…羽に傷がついたり背中になんかあったりすると飛べないのよ。カルセナは羽なしで飛べるから羨ましいわ…」
ブラッカル「ふーん…羽があったほうがかっこいいと思うけどな?飛んでるって感じがするだろ」
私達の会話を聞きながら皿洗いをしていたひまりが振りかえる。
ひまり「私にしたらどっちも羨ましいけどね?空を飛んだり、能力を使ったり…あーあ、私も別の種族だったらなぁ〜」
魔耶「…私は普通がよかったけど…」
ひまり「…?どうして?」
魔耶「シンプル イズ ベスト!」
ブラッカル「普通が一番ってことだな」
…あれ?ボケたのに、ツッコミいれてくれないの…?なんかすんなり受け流された…
魔耶「そういうことっす…。いじめとか恐れられたりとかしないから、昔は私も人間だったらなって思ってたよ。今もね」
ひまり「ふーん…無い物ねだりってやつかな?」
魔耶「そうだねぇ」
三人でクスクスと笑い合う。


ブラッカル「さて、長居しちまったな。そろそろ帰ろう。明日の試験に遅れるといけねぇ」
魔耶「そうだね。了解〜。んじゃあひまり、みお、また明日ね〜!」
ひまり「もう帰るの?分かったわ。また明日、会場で会いましょう!」
ひまりとみおに見送られて家を出た。
外は日が落ちて薄暗くなっており、すでに星と月が出始めていた。
魔耶「ふぅ…やっぱりあの二人は優しいな…天使かな……そういえば、まだもとに戻らないね?」
ブラッカルに話しかける。もうそろそろ5時間近くたつのに、まだもとのカルセナに戻っていなかった。
ブラッカル「私に言われてもよ……まぁ、明日の試験とやらが終わるまでもとに戻る気はねぇが」

228:多々良:2020/04/19(日) 19:20

魔耶「あ、そっすか.....うわ〜、明日か.....改めて確認すると、ちょっと緊張するなぁ」
歩きながら、星がちらついている空を見上げる。
ブラッカル「どんな怪物が出てくんだろうな......ははっ、楽しみだ」
明日の試験、出てくるモンスターを想像して、軽く身震いした。
魔耶「楽しみ、ねぇ.....」
ブラッカル「....何だよ?」
魔耶「いやぁ、楽しみっちゃあ楽しみではあるけど....命を掛ける様なものだからさー」
ブラッカル「そーやって弱気になるからホントに死んじまうんだよ。ひまりが言ってたろ、危なくなったらギルドの奴らが助けに入るって.....強気になれ強気に」
フォローしつつ、魔耶の背中をバシバシと叩く。
魔耶「げふっ!ちょ、止め....!!吐くぞっ!!」
ブラッカル「あっはっは、そんだけの元気がありゃあ、明日は大丈夫だな!」
咳払いをして、魔耶は声を調えた。
魔耶「ゲホッ、ゲホッ.....ふぅ、全く....ホントに吐くかと思ったわ!!」
隙をついて、ブラッカルの背中にお返しする。良い音が大通りに響く。
ブラッカル「ってぇ〜.....怖えーなお前....」
魔耶「今日は解読やめて、さっさと寝よっかー。明日に備えて!」
痛がるブラッカルを他所に、元気に声を発する。
ブラッカル「....ふぅ。はいはい、早く寝ましょうね〜」

日が完全に落ちた頃、やっと部屋まで戻って来た。
テーブルの上には放置してある分厚い本と、お菓子が置いてあった。

229:なかやっち:2020/04/19(日) 19:57

魔耶「おー。帰ってきたぁ」
ブラッカル「背中いてぇなぁ……私はシャワー浴びてくる」
そういい残して、ブラッカルはシャワールームに入っていった。

魔耶「いってら〜…うー、お腹一杯すぎて吐きそう…」
チラリと散乱したお菓子を見つめる。
魔耶「こういうときは………すっぱいお菓子食べるしかないよね!」
元気いっぱいにそういい、ベッドの上であぐらをかきながら自分のお菓子を食べ始めた。
はち切れそうなはずだったお腹が簡単にすっぱいお菓子を受け入れる。
魔耶「やっぱすっぱいのは別腹だよ…」
すっぱいお菓子を受け入れるお腹を感じて、そう呟いた。
ブラッカルが言ってた別腹は本当にあるんだろうな…なんて考えてしまう。
もぐもぐと梅グミを食べながら、これからどうしようかと考え始める。
魔耶「うーむ…ブラックカルはシャワー浴びにいったから、暇だなぁ。ずっとこうやってお菓子食べてるのはつまんないし、本は読む気にならないし…」
そこで、明日の試験に向けて準備をすることにした。
宿に置いてあった紙とペンを取りだし、テーブルの上に置く。
魔耶「武器を考えよう!」
魔耶の能力は想像、創造しなければならない能力だ。頭の中でつくりたいものを想像し、それを創造する。ゆえに、ある程度武器などの構想を練っておいたほうが簡単につくれる。
…正直、あまりデザインセンスはないのだが。
魔耶「んっと…まずは双剣のデザインでも考えようかな…持ち手は持ちやすさ重視で、ここらへんはちょっと工夫でもいれてみようかな……」
魔耶は戦闘中に様々な武器をつくっては消しているので、それぞれの武器のデザインや使いやすさなどを考えなければならなかった。だが、彼女はそれを考えるのが好きだった。
魔耶「実際につくってもいいんだけど、魔力を使いすぎると大変だからなぁ…今日は皿洗いして疲れたし、構想だけにしておこうかな…」


そうして、ブラッカルがシャワーからあがるまで時間を潰して過ごした。

230:なかやっち hoge:2020/04/19(日) 20:06

[うわぁ、一部ブラックカルになってる…wブラッカルです。ごめんなカルさん…w]

231:多々良:2020/04/19(日) 20:55

ブラッカル「ふぅ〜......上がったぞー」
バスローブに着替えたブラッカルが、髪を拭きながら出て来た。
ブラッカル「......ん、何してんだ?」
テーブルに向かっている魔耶の側に近寄り、ちらっと様子を伺う。
魔耶「おぉ上がったかー、いやさ、明日つくる武器のデザインを考えてて....こう言うのは事前に構想練っといた方がやりやすいのよ」
ブラッカル「ほーん.....流石魔耶だ。こいつとは頭の出来が違ぇな」
笑いながら、ベッドに腰掛ける。一度テーブルの上にあるクランチチョコに手を伸ばそうとしたが、今日はまぁまぁ食べた、と言う事でもう食べない事にした。
魔耶「そんな事無いよ〜。あ、んじゃあ私も一回シャワー浴びて来よっかなー」
シャワールームに向かう、少し照れ気味な表情の魔耶が頭に残った。
少しして、シャワールームの戸が閉まる音がした。
ブラッカル「......さてと、いつまでこのままで居れるかね....」

ブラッカル「ーーおい、起きろ」
カルセナ「.......うぅん....まだ眠い......え、何?」
ブラッカル「お前に言いてぇ事がある」
カルセナ「....は?え?....何で私が『こっち側』に居るの....!?ちょっと!?」
ブラッカル「明日は昇格試験だ。それに伴って、明日の昼頃までお前の表面を借りる事にする」
カルセナ「いや話聞けって!!私が試験出たいんだけど!!?」
ブラッカル「んじゃあ、それだけだ。暫くそこで大人しくしてろ。心配すんな、魔耶には迷惑掛けねぇからよ」
カルセナ「ねぇ待って!?おーい!!出してーー.....」


ブラッカル「.....ま、こんくらい言っときゃあ良いだろ。....私も何かして時間潰すか」
そう言って、宿の備品である本を読んだりして時間を潰した。

232:なかやっち:2020/04/19(日) 21:16

魔耶「ふぅ。あがったで〜。…あれ?本読んでるの?」
ブラッカル「あぁ。暇潰しだよ」
魔耶があがったのを確認し、読みかけの本を閉じる。
ブラッカル「じゃあ寝るか?」
魔耶「ん〜…先寝てていいよ。もう少しだけ武器考えるから」
魔耶は再びテーブルに向かい、書きかけだった武器の構想を書き始めた。
ブラッカル「そうか…試験は明日なんだからな。夜更かししたら寝坊するぞ」
魔耶「なんか親みたいだな…わかってるって、すぐに終わるよ。…多分」
ブラッカル「なんか不安になるような言葉が聞こえたんだが…?…しょうがない、私も起きていよう」
魔耶「えぇ、寝てていいよ…?」
ブラッカル「お前が夜更かししないか見張ってるんだよ」
魔耶「むぅ…じゃあさっさと終わらせますかね…」


魔耶「…そういえばさ」
作業を始めて10分ほどたったころ、魔耶が話しかけてきた。
魔耶「ブラックカルって苦手なものとかないの?私は虫が苦手だったり、お子様舌だったりで弱点はたくさんあるけど…」

233:多々良:2020/04/20(月) 07:54

ブラッカル「んー........これといって特に......」
魔耶「えー、そんなことある?流石に苦手なものの一つや二つはあるでしょー」
ブラッカル「苦手なものねぇ........計算.....とか」
魔耶「計算?」
ブラッカル「基本的に頭使うみてーなのは嫌いなんだよ」
魔耶「あぁ、成る程......(脳筋だからなぁ....)」
ブラッカル「ま、簡単なやつなら解けない事もないけどな」
魔耶「ほほーん.....じゃ、問題でーす。7の4乗はいくつでしょーか?」
ブラッカル「な....7の4乗....?えーと、7×7=49で.....49×7が.....えー....」
出された問題を、頭を抱えて必死に考える。
魔耶「....もしかして分からん系のやつですか?わりきし簡単な方だと思うけど....」
ブラッカル「う、うっせぇ黙れ!!これだから頭を使うのは嫌なんだ.....」
魔耶「はっはっはー、頑張れ〜」


魔耶「.....ん〜、こんなもんかな〜?」
納得のいくデザインになったのか、大きく背伸びをする。
ブラッカル「おー、お疲れちゃん」
先程出された問題をすっぽかしてゴロゴロしている様子だった。

234:なかやっち:2020/04/20(月) 09:06

魔耶「はぁ…もう疲れたわ〜。寝よ寝よ〜…」
ブラッカル「あぁ、もう私も眠くなってきたからな…」
二人そろって大きなあくびをし、それぞれのベッドに潜り込む。
ブラッカル「電気消すぞ〜」
ブラッカルの一言で部屋の明りが消された。窓からさし込む月明りだけがわずかな光となる。
魔耶「…ブラッカルはさ」
魔耶が口を開く。
魔耶「…寝たら、もとに戻るんじゃない?」
ブラッカルが表に出てきてた時、いつも『まだ眠い』とか『寝たりない』とか言っていた気がする。つまり、寝てしまえばもとに戻るのではないかと考えたゆえの発言だった。
ブラッカル「…いつもはそうかもな。でも、今夜は大丈夫だと思うぞ」
魔耶「…?なんで?」
ブラッカル「あいつにしっかり言っておいたからな」
魔耶「あぁ…ちゃんと言ったのね〜…カルセナ残念がっただろうな〜」
特に感情を込めて言った訳ではないが、あのカルセナなら試験に出たかっただろうな、と予想できた。
ブラッカル「ははっ、ああ。出たがってたぞ。…まぁ私があいつの助けを求めなければならない状況になったら出してやるよ」
魔耶「そんな状況できるの?」
ブラッカル「さぁな。…でも、意外とあるかもしれねぇぞ。あの蛇幹部の神経毒にやられたときだって、あいつがなんとかやったから動けたんだ」
魔耶「へぇ…協力プレイだねぇ…」
ブラッカル「同じ『カルセナ』だからな。協力くらいするさ。…そろそろ寝よう。明日寝坊したら困る」
魔耶「了解で〜す。おやすみ〜」
ブラックカル「おやすみ〜…」

235:多々良:2020/04/20(月) 17:18



魔耶「.......う〜ん.....」
ぱちりと目を開ける。カーテンを閉めた筈の窓からは何故かさんさんと日が照っていて、小鳥の囀りもいつも通り聞こえてきていた。魔耶が目を覚ましたのは、それらのせいだった。
ブラッカル「よぉ、魔耶」
ゆっくりとテーブルの方向を向くと、ホットコーヒーを飲んでいるブラッカルが見えた。起きてはいるが、まだ着替えてもいない様子だった。
魔耶「うん....?あぁおはよー....起きるの早くね?」
時計が示している時刻は、まだ朝の7:40くらいだった。集合時間に間に合うには、8:00くらいに起きれば良いのだが....。
ブラッカル「まぁな......良く分からねぇけど、昨日何か魘されてあんま寝れなくてよ.....」
魔耶「ほへぇ〜......それは大変でしたねぇ......あ〜、疲れは取れたかな....?」
ベッドの上で背伸びと欠伸をする。
ブラッカル「私はちっと眠ぃけどな.....ま、仕方無ぇか......」
魔耶「ふぅ〜、今日がいよいよ試験か〜......今の内に体力温存しとこっと」
そう言って、またベッドに寝転がった。
ブラッカル「....?何するつもりだ?」
魔耶「二度寝して体力温存......」
ブラッカル「すんな。そしたらお前、寝坊すんぞ....」
魔耶「むぅ....そうかな.....」

236:なかやっち:2020/04/20(月) 20:07

ブラッカルに言われ、仕方なく体を起こす。
魔耶「私もコーヒーでも飲むかな。砂糖ドバドバ入れてめっちゃ甘ったるくしてやる…」
ブラッカル「甘すぎて目が覚めそうだな…そういえば苦いもの苦手なんだっけか?」
魔耶「だ〜いせーいかーい…お子様舌で悪かったね…」
少し暗い顔をしながらコーヒーを淹れ始める魔耶。「…ココアにすればよかったか…?いや、逆に眠くなりそう」なんてブツブツと呟きながらコーヒーに砂糖と牛乳を入れて甘さを調節している。
ブラッカル「ははっ、本当にお子様だなぁ。何年生きてるんだよ?」
魔耶「…かれこれ300年は生きてますねぇ…。言わないでよ。自覚してるから…」
ちょうどいい甘さに調節したコーヒーをテーブルに置く。
お子様舌を治したほうがいいのだろうか?…いや、あと500年あっても無理だろうな。…というか、そもそも努力をしないというのが目に見えている。
ブラッカル「そんなんじゃ大人になれないぞ」
魔耶「…もう人間の大人より長生きしてるわ」
淹れたコーヒーを口に運んでみた。
…うん、我ながら最高のできだと思う。苦さ控えめ、甘ったるすぎない甘み。いっそコーヒー職人にでもなろうかしら。
…なんて、朝だからか変なことを考えてしまう。
ブラッカル「…さて、どうする?まだ9時までには時間があるぞ?」
魔耶「そうねぇ…朝ごはんでも買いに行くか〜。朝の空気を吸えば眠気も覚めるだろうし」

237:多々良:2020/04/20(月) 21:16

ブラッカル「そうだな。んじゃ、少ししたら着替えるか」
飲み物を飲んで少しゆっくりした後、各々の私服に着替えて宿を出た。
朝の空気は昼間より少し冷たかったが、今はその方が心地良く思えた。
魔耶「うおぉ〜、朝の空気〜」
ブラッカル「天気も良いし、今日は絶好の試験日和だな」
魔耶「確かに、今日で良かったわ〜.....てか結構晴れるねこの世界」
ブラッカル「さーね。たまたまなんじゃねぇの?」
魔耶「もしくは晴れ女だったり.....」
ブラッカル「はは、有り得るかもな」
まだ完全に目覚めていない脳で考えた雑談をしている内に、大通りに位置する商店街までやって来た。
きっと仕事が朝早い人々の為だろう。朝早くにも関わらず、まぁまぁな店が営業を開始していた。
魔耶「うーん、朝ごはん何が良いかな〜?」
ブラッカル「腹は満たしておきてぇな.....ちょい多めに食うか」
魔耶「朝からそんな食えんの?」
ブラッカル「気合いで食えるだろ」
魔耶「(流石脳筋......)んー、取り敢えず歩いてってみるかー」
ブラッカル「だな。ちょうど良いの無ぇかな....」
二人は朝ごはんを調達する為、商店街を歩き始めた。朝も早いと言う事で家族連れの影は無く、一人で歩いている人が大半を占めている様だった。
魔耶「久し振りに早く起きたなぁ....こんなに朝と昼で違うんだなー」
ブラッカル「何が?」
魔耶「いやー、人口密度がさ」
ブラッカル「そうだなぁ....この街の奴ら皆、お前みたいな寝坊助なんじゃないか?」
冗談紛れで魔耶をからかう。
魔耶「む、言っておくけどねぇ、カルセナも同じ様なもんだったからね?知ってるかもしれんけど。あ、てかブラッカル、いつもはずっと寝てるって聞いたぞー。ブーメランだからなその言葉!」
ブラッカル「な.....こいつ言いやがったのか?!」
魔耶「ふっふっふ、自分の事は棚に上げるんじゃないぞー」
ブラッカル「くそ......」

238:なかやっち:2020/04/20(月) 21:43

二人で冗談を言い合っているうちに、とあるパン屋さんの前にたどり着いた。
魔耶「おぉ、パン屋さんじゃん。なんか買っていこうよ」
ブラッカル「そうだな。パンだけだと足りねぇかも知れねぇけど」
魔耶「ほんと、どんだけ食べるつもりなのよ…」
木製のドアをぐっとおす。そのひょうしにドアについていた小さなベルがからんからーんと音を上げた。
店員「いらっしゃいませー!」
店員のはりのある声が店の奥から響いてきた。
お店の中はところ狭しとパンが並べられ、パンの甘い良い匂いが漂ってくる。
ブラッカル「うまそうだな。魔耶はどれにする?」
魔耶「うん、めっちゃ美味しそう!どうしよっかな〜」
パンは色々な種類があって、どれも美味しそうに見えた。
美味しそうな匂いが魔耶の嗅覚を刺激し、自分を食べてとパンが自己主張しているように感じた。

239:多々良:2020/04/21(火) 17:42

魔耶「さて、それぞれ好きなの買いますか〜」
入り口に近くに置いてあるトングとトレーを持ち、店内のパンを選び歩く。
ブラッカル「....お、これ良いな」
そう言ってトレーに乗っけたものは、一般的にチョコロールと呼ばれるものだった。
魔耶「またチョコか....好きすぎでしょ」
ブラッカル「良いだろ、これが私の力の源だ」
冗談紛れn聞こえるが、本当はそうなのかもしれない。このブラッカルが出てきたのは、クランチチョコを食べた直後だったからだ。
魔耶「ふぅ〜ん....私は何にしよっかなー」
朝早くなので全てが焼きたてだったらしく、全部の種類のパンを食べたくなる程に香ばしい匂いを放っていた。
魔耶「んー....え、ブラッカル選ぶの早くね?」
ブラッカルのトレーには、数種類のパンが既に乗せられていた。
ブラッカル「いや、お前が遅いんじゃね?」
魔耶「そうかなぁ.....あ、これ美味しそう」

240:なかやっち:2020/04/21(火) 18:22

魔耶が見つけたのはクロワッサンだった。
ブラッカル「…お前はシンプルだよな」
魔耶「シンプルイズベストなんだって。…あ、ハチミツトーストだって!めっちゃ美味しそう…入れちゃえ」
魔耶は魔耶らしく、甘いパンをたくさん入れはじめた。…もう朝ごはんというよりおやつのようだ。
ブラッカル「…私も適当に選ぼう…」
二人がお会計をするころには、トレーは甘いパンとチョコのパンで埋め尽くされた。


魔耶「はぁ。いい買い物したぜ〜」
パンの入った袋を持ち、上機嫌そうな魔耶。
ブラッカル「ずいぶん嬉しそうだな?」
魔耶「いやぁ、もとの世界ではあんまりパンとか食べなくて…。だからこんなに自由にパンを選んで買えるってうれしいのよ〜」
ブラッカル「ふーん…あ、あとでお前のパンも味見させろ」
魔耶「え〜自分のあるじゃ〜ん」
ブラッカル「一口くらいいいじゃねえか」
魔耶「じゃあブラッカルのも貰うからね」
ブラッカル「しょうがねぇな〜」
魔耶「なによそれー」

241:多々良:2020/04/21(火) 21:35

ブラッカル「さーて、もうちょっと買いに行くかな〜」
魔耶「え、まだ買うの!?」
ブラッカル「ちょっとだけ買いに行かせてくれよ、パンだけじゃ足りねぇ」
魔耶「もう、しょうがないなぁ.....お好きにどーぞ」
ブラッカル「サンキュー、あっちの方見に行こうぜ」

そうして色んな店を回って、朝ごはんを食べに宿に戻る事にした。
ブラッカル「.....うん、こんだけありゃあ十分か」
魔耶「十分にも程がある....つられてちょっと買っちゃったじゃん」
ブラッカル「食えなかったら私が食ってやるよ」
魔耶「....いや、自分で食べますよー」
店を回り終えて時間が経ったお蔭で、街の人々の姿も増えてきた。大通りに面している店は、暖簾や看板を出したり掃除をしたり....と、それぞれ準備を進めている。
ブラッカル「.....お、あいつ強そうだな....」
ふと目に入ったその者は、ぱっと見ギルドのハンターだった。今日の昇格試験にきっと参加するのだろう。
魔耶「何、そうなの?」
ブラッカル「あーゆーのは大体で分かる。まぁ、負ける気はしないけどな」
少しドヤ顔を魔耶に見せる。
魔耶「ふ〜ん....もしかしたら負けちゃうとかあるんじゃないの〜?」
ブラッカル「馬鹿言え、私が負けるかっての」

242:なかやっち:2020/04/21(火) 22:08

魔耶「…ワースゴイジシーン(脳筋だからか…)」
ブラッカル「…なんか今失礼なことを考えなかったか?」
魔耶「いやまったく」
さらっとブラッカルの疑いをかわし、話題をすり替える。
魔耶「きっと、参加者はみんな腕に自信があるような人ばっかなんだろうね?」
ブラッカル「…そうだろうな。腕に自信がないのに参加するなんてただの死にたがりだろ」
魔耶「そうだねぇ…。やっぱ男の人が多かったりするんだろうなぁ。私達みたいな見た目15、6歳くらいの女の子なんて参加しないだろうね〜」
ブラッカル「はは、男ばっかだろうな。それも背が高くてムキムキだったり。…お前小さいからな〜。迷子になるなよ?」
ブラッカルの言葉にぴくりと体を反応させる。
魔耶「……」
ブラッカル「ん?どうした?」
魔耶「…なんでもない。…いこう」
急に魔耶のテンションが下がった。
…一見特に様子は変わっていないように見えたが、目だけは違った。いつもの暖かい目ではなく、氷のように冷たい目をしている。
ブラッカル「背のこと…き、気にしてんのか…?」
魔耶「…次その言葉を発したら全力で貴様を潰す」
ブラッカル「…」
いつもの温厚な魔耶とは声の高さも口調も違う。
本気で気にしてるんだな、とブラッカルは悟った。
ブラッカル「…良い勝負にはなりそうだがな…殺意満々で来られるのは流石に怖いからもう言わないよ」
魔耶「それならよろしい」
それから宿に着くまでは魔耶は普通に接してくれた。若干言葉にトゲはあるものの、ほとんどいつもの魔耶と変わらなかった。
…背が低い。これは禁止ワードなのだと学んだブラッカルだった。


ブラッカル「ふぅ…着いたな〜。よし、メシにしようぜ」
魔耶「うん。色々まわってお腹空いたよ…」
ちょうど魔耶のお腹がグーと音を鳴らした。
さっそく買ってきたパンの袋からクロワッサンを取り出す。

243:多々良:2020/04/22(水) 07:19

魔耶カル「いただきまーす」
二人共、各々のパンにかぶり付く。
魔耶「うんうん、やっぱ美味しいわ〜」
ブラッカル「やっぱシンプルイズベストってか?」
魔耶「そうですよー」
ブラッカル「ふーん.....こっちも中々いけるな」
魔耶「そりゃあ、美味しそうだもんなー.....ちょっとジュースジュース....ブラッカルいる?」
椅子から立ち上がり、冷蔵庫に入っているジュースを取りに行った。
ブラッカル「いや、いらねぇ。私食事中にあんま飲み物飲まない主義だからな」
魔耶「どんな主義持ってんの....?詰まっても知らんぞ〜」
ブラッカル「詰まらねぇよ」
硝子のコップにジュースを注ぐと、コポコポという音と共に爽やかな香りが漂ってきた。
魔耶「やっぱこれだね〜、このジュース好きなんだよな〜」
ブラッカル「そうなのか.....私はどっちかと言うと炭酸の方が好きなんだよなぁ」
魔耶「冷蔵庫にあったよ?炭酸」
ブラッカル「うーん、今はいらねぇな....」

食事をしながら雑談をしていたら、いつの間にかまぁまぁな時間が経っていた。
魔耶「あ、もうこんな時間じゃん!」
ブラッカル「んー?本当だ....んじゃ準備始めるか〜」

244:なかやっち:2020/04/22(水) 18:48

魔耶「そうだね…まぁ準備といっても、ただギルドに向かうだけなんだけど…」
ブラッカル「今のうちに武器つくっておけばいいんじゃねぇか?」
魔耶「重いから嫌。戦ってる最中につくればいいのよ〜そんなもの〜」
ブラッカル「まぁそうか…?」
残りのパンを急ぎ目に食べ終え、再び宿から出発した。


魔耶「ふぅ。お腹いっぱいパン食べたし、魔力も満タン!天気もいいし…最高のコンディションだね〜」
ブラッカル「そうだな。さっさとモンスターをぶっ倒して、ぶっちぎりの1位になってやるよ」
魔耶「…置いていかないでね…」
ブラッカル「はは、置いていくわけねぇだろ。もし魔耶が歩けなくなったとしても、おぶってゴールまで連れていってやるよ」
魔耶「…流石に歩けなくはならないかな…でも、頼もしいぜブラッカルさんよ。頼むね〜」
ブラッカル「任せとけ。…お、ギルドが見えてきたな」
ギルドの入口にたくさんの人だかりができているのがみえた。話しながら歩いているうちに、もうギルドの近くまで来てしまったようだ。…あの人だかりは、きっと参加者だろう。
ブラッカル「いよいよって感じだな。腕が鳴るぜ…!」
魔耶「こっちは心臓バックンバックンだよ…」

245:多々良:2020/04/22(水) 20:55

少し急ぎ足になってギルド前の人だかりへと向かう。近くまで寄ると、服装的にギルドの係員だろうか。その人に背番号を渡された。
魔耶「53か.....てことはブラッカルは?」
ブラッカル「54だ。つまり、今のところこんくらいの参加者が居るってことだな」
魔耶「もっと何百人とか居ると思ったんだけど.....以外と少ないねぇ」
ブラッカル「まぁ、街の一角レベルのギルドだからこんなもんなんじゃねぇの?」
魔耶「確かに、どこかにもっと大きくて専門っぽい所もあるのかな....」
ブラッカル「ま、それがなきゃこの世界の化物を倒す奴が居なくなるからな....多分あるだろ」
背番号を付けながら話す。と、そこへ一人の少女....お馴染みのひまりがやって来た。
ひまり「やっほー二人共!!」
魔耶「あ、ひまりおはよー。どうしたの?」
ひまり「いやー、今日は試験だからね〜。友をお見送りしようと思いまして」
ブラッカル「つまり応援か。サンキュー」
ひまり「いやいや〜、それにしても、やっぱ緊張してる....?」
二人の顔を覗いて問いただした。
魔耶「もうさっきから心臓がヤバいよ〜....破裂しそう」
ブラッカル「緊張てか.....ワクワクはしてっかな」
ひまり「ふふ、大体そう言うものだよね〜。でも緊張くらいなら全然大丈夫よ〜」
魔耶「....?何で?」
ひまり「毎年毎年、開始直前に怖くなってリタイアする人も少なくないからね」
ブラッカル「ふーん....とんだ腰抜けだな」

246:なかやっち:2020/04/22(水) 21:20

魔耶「うん…。参加するのは『腕に自信がありすぎて、もう勝てる自信しかない!』って感じの人ばっかだと思ってたのに…」
ひまり「見栄を張って参加したり、自慢するために参加したりっていう人もいるからねー」
ひまりが人だかりに視線を向ける。…参加者の中には、青白い顔をした人が数名見えた。緊張からなのか怖さからなのかは分からないが、その顔はまるで病人のように青白い。
ブラッカル「ははっ、怖いならでなけりゃいいのによ」
魔耶「人間には見栄ってものがあるんだよ、きっと。よくわからんけど」
ひまり「うんうん、人間ってそういうものだよ〜。…あ、そろそろ始まるかな?」
時計を見ると、9時になる1分前だった。
…しばらく見ていると、カチリと音がして長い針が9時を示した。

247:なかやっち hoge:2020/04/23(木) 06:53

[間違えたぁぁぁ!!!長い針じゃない!短い針です!]

248:多々良 hoge:2020/04/23(木) 07:09

【ドンマイw】

249:多々良:2020/04/23(木) 17:22

係員「皆さん、9時になりました。では、只今をもって受付時間を終了と致します」
時計台の鐘が鳴り終わると同時に、係員の案内が入る。人だかりの話し声が一気に静かになった。
係員「では、これから会場となる場所まで移動します。移動する際には、少し離れた所に機関車が用意されておりますのでそちらを使うことになります。ご理解の程宜しくお願いします」
一通り説明が終わると、一同が移動を始めた。
ひまり「あ、それじゃあ頑張ってね!武運を祈ってるわ」
見送るひまりを後に、係員に着いていく事にした。
魔耶「へぇ〜、機関車なんてあったんだ....中々ハイテクだなぁ」
ブラッカル「この世界は時代で言うとどんくらいなんだろうな」
魔耶「さぁ〜....でも機関車があるくらいだからね。結構発展してそう....」

暫く歩くと、小さな倉庫の様な所に到着した。
係員「はい皆さん、ここからは機関車に乗って頂きます。前の方から順番にお願いしまーす」
ぞろぞろと機関車に乗り込む。魔耶達も、空いている座席に座る事が出来た。
ブラッカル「ふぅ、一段落だな」
魔耶「そうだねぇ。ちゃんと体力温存しとかないと」

250:なかやっち:2020/04/23(木) 22:58

ほっと一息ついて窓の外を眺める。
これからモンスター達と戦うなんてとても考えられないくらいきれいな青空だった。
ブラッカル「しっかし、会場まではどれくらいかかるんだよ?ずっとこうやって窓の外を眺めてるなんて暇じゃねぇか」
魔耶「そうだよねぇ…」
機関車が動きだし、まわりの景色が動き始める。気がつけばもといた倉庫のような建物は見えなくなってしまっていた。
魔耶「体力温存っていったのにあれだけど…」
魔耶もずっとこうやっているのは退屈だと思った。せっかくの自由時間をボーッとしてすごすのなんてつまらないではないか。
…そう考え、手のひらの上にあるものをつくった。
魔耶「…トランプ、しようぜ!」
魔耶はついさっきつくった特製トランプを扇状に広げ、ブラッカルに見せた。
ブラッカル「おぉ!いいな!…だが、試験前に能力使ってて大丈夫なのか?魔力けっこう使うんだろ?」
魔耶「いやまぁ…そうなんだけど…会場までまぁまぁかかるだろうし、このくらいの大きさのならそこまで魔力使わないから大丈夫よ〜」
ブラッカル「ふぅん…まぁいいや。これでなにする?」
魔耶「なんでも。…別にトランプじゃなくてもいいけどね?小さいものならなんでもつくれるし」
ブラッカル「じゃあ……」


そうして、私達は会場に着くまで色々な遊びをして時間を潰した。楽しすぎて試験のことを忘れてしまいそうだったが、会場に到着して一気に現実に引き戻された気がした。
係員「到着しました。参加者の皆さん、機関車から降りてください。足元にはお気をつけて……」
ブラッカル「やっと着いたな。待ちくたびれたよ」
魔耶「うん…思ったよりも長かったねぇ……。でもそのお陰で魔力もほとんど変わってないし、これでよかった…のか…?」
係員「それでは皆さん、私に着いてきて下さい。会場までご案内します」

251:多々良:2020/04/24(金) 19:17

機関車から降りると、そこは広大な草原だった。成る程、ここら辺なら確かに戦うのにピッタリなロケーションだ。近くには岩山なども見える。
と、その時、遠くから何かの遠吠えが聞こえた。
魔耶「わっ、何だ何だ....?」
係員「申し遅れましたが、ここは、モンスターの巣窟とも呼ばれるかの様な危険な場所です。近いとは言え、もしかしたら、案内されている道中に襲われると言う事も覚悟しておいて下さい。その際には、私達係員も救助に務めますので....では、こちらです」
魔耶「うわ〜.....確かに、こんな所で固まってたら襲われそうだもんねぇ.....」
ブラッカル「ふん、良いじゃねぇか.....ワクワクしてくんな」

移動している最中、至る所から遠吠えが聞こえた。岩山の奥には、モンスターと思われるかの様な影も確認出来た。
魔耶「....これって試験受けてる時に、ギルドが配置したモンスター以外に襲われる事あんのかな....」
ブラッカル「さーな....ま、そこはちゃんとしてんじゃね?分からんけど」
魔耶「流石に対処くらいしてるかな....たくさん来られたらキリがないからなぁ....」
ブラッカル「んな事あっても、臨機応変に行こうぜ。でないと一瞬で餌にされちまいそうだ」
魔耶「想像しただけで怖いわ.....頑張ろか〜.....」

252:なかやっち:2020/04/24(金) 21:40


それからしばらく歩き、ある場所で係員が立ち止まった。それにあわせて参加者も立ち止まる。
係員「…到着しました。ここからのスタートとなります。12時からとなっておりますので、もうしばらくお待ちください」
案内されたのは、広大な草原の中にポツンと置いてある木製のゲートの近くだった。ゲートは横に長く、参加者が全員一列に並べるようになっているのだろうと勝手に想像する。
…このゲートをくぐったらスタートというわけか…
魔耶「ふぅ。緊張するなぁ…」
ブラッカル「いよいよだな。楽しみだ…」
魔耶「…ブラッカルって戦闘狂…?」
ブラッカル「なっ…!そ、そんなことねぇよ!ただ戦うのが面白そうってだけで…」
魔耶「それが戦闘狂なんだよなぁ〜」
ブラッカル「いや違うからな!私は…」
なんだかんだと必死に否定するブラッカルを見るのは面白かった。この調子なら緊張もある程度ほぐれるだろう。
その後2、3分ほどブラッカルをからかってみる。


係員「…あと一分で12時です。皆さん、このゲートに一列に並んで下さい」
係員の指示通り参加者がゲートの前で一列に並ぶ。
ブラッカル「一番で突っ走るぞ、魔耶!」
魔耶「了解!」
背を低くし、左腕と右足を前に突きだして走る準備をする。
係員「…5……4……3……2……1………スタート‼」

253:多々良:2020/04/25(土) 07:44

魔耶カル「行けーーッ!!!」
開始の合図と共に思いっきり地面を蹴る。空を飛べない分、思いっきり蹴った。参加者達が一斉に走り出した。
係員「ゴールはそのまま真っ直ぐ行った所にあります!方向感覚を失わない様お気を付け下さーい!!」
ブラッカル「成る程、強いだけじゃ立派なハンターになれねぇってか....魔耶、道は頼んだぞ」
魔耶「りょ〜かいよー」
二人は集団の先頭を走る事が出来ていた。まだ、モンスターの影は見えなかった。

....1km程走っただろうか。草原の奥に何やら沢山の影が見えた。
魔耶「....うん?何だ、あれ....」
目を凝らして見ると、それは牛や豚などの動物だった。
ブラッカル「ん?あんなの楽勝じゃねーの?そもそも倒さなくても....」
走って行くに連れ、群れに近づいて来た。動物達は、ゆっくりと参加者の姿を確認したその途端、こちらに向かって猛突進してきた。
ブラッカル「ッ.....んな訳無ぇか.....やるか、魔耶?」

254:なかやっち:2020/04/25(土) 11:56

魔耶「おうよ!…ただ全部倒すのは大変だし、後ろの参加者がすぐ通れるようになっちゃうから…避けれる奴は避けていこう!」
ブラッカル「…そうだな。了解!」
魔耶は双剣を、ブラッカルは拳をかまえ動物の群れに突っ込んでいった。
魔耶カル「おりゃあ‼」
道を塞ぐ動物だけ片付ける。横で威嚇している動物などは無視し、ただただまっすぐに突き進んでいった。
双剣と拳によって動物達の群れが真っ二つに別れる。
魔耶「結構いるなぁ…カル!ちょっと高くジャンプしてみて!」
ブラッカル「…?お、おう!」
ブラッカルが上にジャンプしたため、動物達がブラッカルの動きを目で追う。
魔耶はその隙を狙い、自分の背丈ほどありそうな大きなオノをつくって振り回した。
ブラッカル「おぉ!」
魔耶のまわりにいた動物が空中へと投げ飛ばされる。彼女のまわりに円形のスペースができた。
魔耶「はぁ…はぁ…ははっ、やっぱりこの技は疲れるわぁ…」
ブラッカル「あんな大きいオノ振り回してたんだもんな。そりやぁ疲れるわ…とにかくナイスだ!先を急ぐぞ!」
魔耶「おっけー!」
動物の群れを抜け、二人はさらに先へと駆けていった。


魔耶「後ろ、参加者が見えないね…?」
ブラッカル「あの動物達に苦戦してるんだろうな。能力を持ってない人間ならあいつらは大変だろうよ」
魔耶「そっかぁ〜。そろそろ半分くらいはいったかなぁ?」
…と、話していると、またもや前方に黒い影が見えた。動物だろうか。動いているように見える…

255:多々良:2020/04/25(土) 17:29

魔耶「ん?またモンスターかな?」
先程の動物達とは違い、群れでは無さそうだ。どうやら個体らしい。
ブラッカル「どれどれ....?って、おいおい、これ本当にここの昇格試験かよ....?」
二人の前に立ちはだかった「それ」の正体は。

まだ少し幼くとも、立派な羽や牙を備えたドラゴンであった。

魔耶「うえぇ!?あ、でもちょっと小さい....」
どうやら向こうはこちらに気が付いたのか、尻尾を振るわせてこちらに近づいて、大きな雄叫びをあげた。
魔耶「ぐぅ〜、五月蝿い〜っ....あれは倒さないと前行けないのかなぁ....?避けてくのは....」
ブラッカル「どっちかが囮になりゃあ良いけどな」
魔耶「やだわそんなん。仕方ない....やるか」
走っている途中に消した双剣を再びぽんっと出す。昨夜デザインしたかいがあったものだ。
ブラッカル「おい魔耶!!こいつは軽く失神させる程度で良いだろ!?」
魔耶「ん!?何で?......あ、そっか」
まだ後ろに沢山の参加者が居ることを思い出した。妨害として、後に残すつもりだ。
魔耶「良いよー!!」
ブラッカル「よっし、んじゃあそうだな.....あいつの足元、崩せるか?」

256:なかやっち:2020/04/25(土) 18:02

魔耶「…やるだけやってみるわ」
ドラゴンは、まだ幼いといえどもどっしりとした手足を持ち、簡単には体勢を崩せなそうだった。
それでもやってみるしかない。ブラッカルがわざわざ頼んできたんだ、なにかしらの作戦があるのだろう…
魔耶「いくぞ!」
双剣を手にドラゴンへと向かっていった。
それに反応しドラゴンもこちらの動きを目で追う。流石ドラゴンというだけあって、あまり隙がない。
魔耶(どうしようかな…双剣が効けばいいけど、ドラゴンの鱗って硬いらしいからな…攻撃が通らないかも。悪魔耶になるのは時間かかるし…)
考え事をしていると、ドラゴンの短くも太いしっぽが向かってきた。ジャンプして空中に逃げる。
魔耶(…攻撃を避けて不意をつく。んで転ばす。うん、この作戦しかないかな)
空中で一回転して地面に着地しドラゴンに向き直る。ドラゴンはすっかり戦闘モードのようで、鋭い爪と牙を剥き出していた。
魔耶「まだ幼くとも、ドラゴンはドラゴンか…」
ドラゴンの二回目の攻撃がきた。こんどはブレスのようだ。口から赤い炎を吐き出し、炎はこちらに向かってくる。
勿論今度も華麗にかわす…が、考え事などをして油断していたのがいけなかった。
魔耶「よっと、あぶな…………ッ‼‼」
炎を避けたと思ったら、避けた先にドラゴンが先回りをしていた。…見た目に騙されていた。このドラゴン、物凄く素早い…!
この隙を逃すまいとドラゴンの鋭い爪が降り下ろされた。
爪は私の左肩に直撃した。

257:多々良:2020/04/25(土) 22:14

魔耶「うぐっ...!!!」
ブラッカル「魔耶ッ!!」
攻撃を受けた魔耶が怯む。そんな魔耶に情を移す素振りも無く、ドラゴンは魔耶を仕留めようと再び爪を振りかざそうとしていた。
ブラッカル「チッ、くそっ.....!!」
走っていた足に急ブレーキを掛け、魔耶に向かって全力で地面を蹴って飛び立った。
魔耶程のスピードは無いが、普段のカルセナより脚力は強くなっていた。この速さなら魔耶を助けられる筈。そう思ってした事だった。
ブラッカル「間に合えッ!!」

容赦無く、ドラゴンの爪は魔耶に振りかざされた。
流石のブラッカルの脚力でも、ドラゴンのスピードには敵わなかった。

ーーそんな展開を誰が予想したのだろうか。

ブラッカル「....っと!!間一髪.....セーフだったな」
鋭い爪が振りかざされる直前に、見事に魔耶を抱えて回避する事が出来た。魔耶の安否を確認するべく、ドラゴンから少し離れる。
ブラッカル「おい、魔耶!!大丈夫か!?」

258:なかやっち:2020/04/25(土) 22:53

魔耶「っ……なんとか…生きてはいるよ。危なかったけどね…」
魔耶の左肩を見ると、青いはずの服が血で赤く染まっていた。爪がクリーンヒットしてしまったようだ…傷口が爪によって深く抉られている。
魔耶「いっ…!」
魔耶が左肩をおさえ、痛そうに顔を歪ませた。
ブラッカル「大丈夫…じゃねぇな…生きてはいるが、その傷の深さだと…」
左腕がもう使えない。…もしかしたら、一生…そう続けたかったが、それを言葉にする勇気はブラッカルにはなかった。
魔耶「っぅ……カルはドラゴンの相手して……応急処置くらいできるから…」
ブラッカル「でも…もし私が戦っている最中に、他のモンスターが現れたりしたら…」
魔耶「大丈夫だから…!…なんともないからっ…!私のせいでブラッカルまで怪我したら、試験クリアできないかもしれないから…!」
ブラッカル「っ…!」
魔耶のその瞳は真剣そのものだった。本当は怪我が痛くてたまらないだろうに。大怪我を負っていながら一人でいるなんて不安しかないだろうに。
ブラッカル「……わかった…!すぐにぶっ倒してやるから待ってろよ!」
魔耶を少し離れた木の下におっかからせ、ブラッカルは再びドラゴンと向き合った。



魔耶「っ…いたたっ…‼」
魔耶はブラッカルが少し遠くで戦っているのを見ながら応急処置を施していた。
布をつくり、近くにあった太い木の棒を拾い、腕に巻き付けて固定する。痛みは消えないが、腕を固定して動かないようにしたぶん先程よりましだ。
魔耶(…思ったより傷が深いなぁ…これは治るのに時間が掛かりそうだな…)

259:多々良:2020/04/26(日) 07:51

ブラッカル「....さて、どうするかな」
先程まで確認出来たドラゴンの攻撃パターンは2つ。爪とブレスだ。しかし、2パターンしかない訳が無い。きっと尻尾を俊敏に動かしたり、動物達の様に突進してきたりと、まだ色々あるのだろう。
ブラッカル「このまま突っ込んでってもやられるだけか.....出来れば一発でノックアウトさせてぇけど」
相手がもっと獰猛になる場合も考え、そうしたかった。その為には頭を狙わないといけない。だが何の考えも無しに頭へ攻撃しに行ってもダメそうだった。
ブラッカル「うーん、そうだな......ッおっと危ねぇ!!」
別の事をしながら考え事をしていると、反射神経が鈍ってしまう。
そのせいで、幸いにも体に傷は付かなかったが、爪が帽子に掠り地面に落ちてしまった。
ブラッカル「帽子.....今は仕方無ぇか。拾いに行ってる暇なんて.....」

???「「帽子ーーーっ!!」」

ブラッカル「......?」
魔耶「.......え....今の声の感じ.....」
???「早く拾いに行かんと〜!!大切なんだから!」
ブラッカル「な.......!!何だテメェ、何で出てこれた!?つーか出てくんな!!」
陽気な声の正体。それは紛れもなく、カルセナだった。体はまだブラッカルのものだが、口調などは出たり入ったり出来る様な状態であった。
カルセナ「良いだろ別に!!....って、ドラゴン!!?あれ、魔耶は!?」
ブラッカル「黙って大人しくしてろ!!今は試験中だし、魔耶はあのドラゴンに傷付けられて休んでんだよ!」
カルセナ「ちょ、魔耶大丈夫なの!?てか試験中!?んじゃあ取り敢えず、早くこのドラゴン倒してよ!!」
ブラッカル「だからそれを考えてた時に、お前が邪魔しに来たんだろーが!!」

魔耶「....何か一人で喋ってんな.....いや、二人か....?」
遠くから見ている魔耶にとっては、ブラッカルが一人で言い争いをしているかの様に聞こえた。
だが、確かにカルセナの声も聞き取れた。それを考えると二人と言う表現は間違っていないのだろう。

260:なかやっち:2020/04/26(日) 09:34

魔耶(あの帽子を落としちゃったから、それに反応してカルセナがでてきたのか…?)
ふと、カルセナと初めて会ったときのことを思い出した。森の中までカルセナを運んで、カルセナが目覚めたとき…一番に帽子を気にしていた。…そんなに大切なものなのだろうか…
魔耶(助けてくれたのはブラッカルだけど、まぁどっちもカルセナだしね。恩は返さなきゃ…)


カルセナ「…でも、帽子は取り返してよね!大事なものなの!」
ブラッカル「そんな余裕あるかよ!あの帽子がどんなものかなんて知らねぇが、無理だから諦めろ!」
カルセナ「えぇ〜!?あなたならなにかあるでしょ!必殺技とか!作戦とか!なんか思い付かないの!?」
ブラッカル「ずっと考えてるわ!……っと!」
ドラゴンのいきなりの攻撃をスレスレでよける。
ブラッカル「とにかく、もう出てくんじゃねぇ!おとなしく寝てろ‼」
カルセナ「えぇ!ちょっと待ってよ!状況とか魔耶のこととか色々教えてよ!」
ブラッカル「そんなの試験が終わってからでいいだろ!いいからさっさと………うん??」
カルセナ「…ん?」
二人でギャーギャー言い争っていると、あるものが目に入った。小さくて、茶色で、真っ黒な翼をもったかわいいぬいぐるみ…
ブラ&カル「あれは…」
二人はそのぬいぐるみに見覚えがあった。
ドラゴンは自分の方に向かってくる小さな物体をはたきおとしてやろうと鋭い爪を振り回すが、ぬいぐるみはドラゴンの攻撃をすいすいと避け、落ちているカルセナの帽子を奪い取った。

261:多々良:2020/04/26(日) 14:49

カルセナ「魔耶の人形だ!!」
ブラッカル「....ふん、良かったな。後でちゃんと礼言っとけ」
やがてぬいぐるみが持っている帽子は、カルセナの元へ届けられた。
ブラッカル「ありがとよ」
帽子を渡したぬいぐるみは、ささっと魔耶がいる方向へ帰って行った。
カルセナ「わぁい、やった〜!!」
ブラッカル「ん、やっぱ傷付いちまってんじゃねーか」
カルセナ「へぇ?....あっ、本当だあぁ!!!」
鋭いドラゴンの爪で、帽子の鍔に切れ込みが入ってしまっていた。
ブラッカル「あーあ、どうする?」
けらけらとカルセナを笑う。
カルセナ「......許せん、ドラゴンぶっ倒して!!」
ブラッカル「ま、そうなるわな。んじゃあテメェは大人しくしてろ」
カルセナ「む....分かった.....」
ブラッカル「....あ、そうそう。右足に力込めとけ」
カルセナ「何で??」
ブラッカル「良いから、私の言う通りにしときゃあ良いんだよ!早くしろ!!」
カルセナ「うわ怖っ.....分かりましたよ......」
少しして、カルセナの面影が完全に無くなった。
ブラッカル「ふぅ.....さてと、待たせたな。すぐ楽にしてやる」
そう言うと、ドラゴンの周りを飛び回り始めた。勿論、ドラゴンはその影を追うのに夢中になった。暫く影を目で追っていると、ブラッカルの動きが一瞬遅くなった。その隙を見逃す筈も無く、目の前の影に爪を振りかざす。
だが、その影はブラッカルでは無く、ブラッカルが脱ぎ捨てた左足のブーツだったのだ。本体はと言うと、ドラゴンの頭部に移動していた。
ブラッカル「へへ、判別能力は無かった様だな!食らいやがれっ!!」
ドラゴンの頭部に、全力の踵落としを食らわせた。

262:なかやっち:2020/04/26(日) 15:38

ドラゴン「グゥォオオオ‼」
ドラゴンはそのまま地面に倒れふし、白目をむいた。気絶してしまったのが遠目でもわかった。
ブラッカル「ーーっよっしゃあ!」
よろこんでガッツポーズをするブラッカル。そこにカルセナの面影はなかった。…帽子を取り返せたから寝てしまったのだろうか。
と、ブラッカルは急に私の方を向き、大きな声で叫んだ。
ブラッカル「魔耶ー!生きてるか〜!」
彼女の言葉にあははっと笑いながら返事を返す。
魔耶「…生きてるよ〜!」
ブラッカルは私の返事に笑顔を返し、とことこ歩いて私の近くまで来た。

ブラッカル「ふぅ。なかなか大変な相手だったよ。子供でもドラゴンはドラゴンだな」
魔耶「そのドラゴンに勝つあなたが怖いよ。…お疲れ様。ありがとね」
ブラッカル「ははっ、礼なんかいいさ。怪我大丈夫か?」
魔耶「あ〜…」
自分の左腕を見つめる。いまや木の棒を固定するための布まで赤く染まっていた。
魔耶「…まぁ大丈夫…だよ、うん。歩くのに支障はないし、能力も使えるし」
ブラッカル「そういう問題じゃないんだが…ま、歩けるなら大丈夫か。よし、いくぞ。辛くなったら言えよ」
魔耶「…うん」
二人でまた走り出した。腕は少し動かすだけで痛みが走るが、こんなことで音をあげていては試験に合格できない。我慢して走り続ける。

263:多々良:2020/04/26(日) 16:48

ブラッカル「まぁまぁ時間食っちまったな....後ろの連中がすぐそこまで来てなきゃ良いが」
魔耶「....多分大丈夫だよ。その為にドラゴンも残して来たし....」
ブラッカル「そうか.......おい、お前の傷、本当に大丈夫なんだろうな?」
少し腕を気にしながら走る魔耶を不信に思った。
魔耶「.....うん、大丈夫だって!ほら、今走れてるし.....ッ」
そうは言いつつも、やはり血で赤く染まった腕が痛々しく見えた。
ブラッカル「......無理すんなよ。....お前が倒れたら、またこいつが出てきて心配しちまうからな.....」
流石のブラッカルも、少し心配気に魔耶の様子を伺った。
魔耶「.....うん、分かってる」

それから、少しだけペースを落として走る事にした。それでも魔耶の腕は痛々しさを強調し続けた。だが、これで少しでも傷への負担が減ってくれたら.....そう思った。


ーーどれくらい走ったのだろう。二人共、色々な考え事をして走っていた為時間の感覚が良く分からなかったが、多分もう後半辺りには入っているだろう。
ブラッカル「.....ふぅ、一体どこまで走らせる気だ......」

264:なかやっち:2020/04/26(日) 20:09

魔耶「…道間違えたかなぁ…?」
ブラッカル「いやぁ、そんなこと…ねぇな」
ブラッカルがやけにはっきり否定したので、不思議に思う。
魔耶「…?なんでそんなはっきり言えるの?」
ブラッカル「あそこに看板があるからな」
彼女の視線の先には、木でできた看板がたっていた。
『この先ゴール地点。あと500m』
魔耶「あれかぁ。よくこの距離で見つけられたねぇ…」
ブラッカル「目はいいほうだからな。…あと500mか…もう少しだな」
魔耶「そうだね………ッ!」
ブラッカルの言葉にうなずいたとたん、軽く目眩がした。
グラリとバランスを崩して地面に座る。
ブラッカル「お、おい!どうした!?」
魔耶「いや…ちょっと目眩がしただけ…」
なんでいきなり目眩なんか……視線を落とすと、固定された左腕が目に入った。それを見てハッとする。
魔耶「まさか…血液不足…??」

265:多々良:2020/04/26(日) 20:57

ブラッカル「おいおい嘘だろ....!?」
改めて、魔耶の傷付いた左肩を観察する。
傷付けられた当初よりも血が溢れ出ている事はないが、それでも深い傷だった為、まだ血は止まっている様子はなかった。
ブラッカル「魔耶、立てるか....!?」
魔耶「う....ん...ちょっと....キツイかも.....」
意識がぐらついているのか、下を向いたまま話す。
ブラッカル「くそっ....!!....もう少し耐えろ、魔耶!!」
そう言うと、魔耶を背中にひょいと担いだ。
魔耶「ブラッカル....」
ブラッカル「直ぐに医者見っけてやるからよ....!!」
とは言え、参加者と共にここへ来ているのはギルドの役員だけ。出来ても、簡単な応急措置だけだろう。
魔耶「う....頭が....」
ブラッカル「しっかりしろ!!何とか意識保て!!」
魔耶「うん.....頑張る.....」
ブラッカル「もう少しでゴール出来っからよ!」
魔耶「....ありがとう」
ブラッカル「.....礼を言うのはこっちだ。....ありがとよ、魔耶.....中々こっち側の生活も楽しかったぞ」

「....後は頼んだぜ、私」
「....了解。」

魔耶「......え?」
ブラッカルの面影はいつの間にかすっかり消え、普段通りのカルセナの姿へと変わっていた。
カルセナ「絶対に助けるからね、魔耶!!」
魔耶「カル....セナ.....」
薄れて行く意識の中、似た様な光景が魔耶の頭を過った。

266:なかやっち:2020/04/26(日) 22:10

魔耶「なんか…助けられてばっか、だなぁ…」
意識をなんとか保とうとカルセナに話しかける。それで少しでも意識がもてばいいな…そう思った。
魔耶「虫のときも、背中怪我したときも…筋肉痛になったときも…」
カルセナ「私だって、魔耶にたくさん助けられてるんだから!帽子だって取り返してくれたし、今度は私の番なんだよ!」
魔耶「そ…っかぁ…ごめんね、いつも迷惑かけて…」
カルセナがはぁはぁと荒い息をしているのがわかった。私をおぶりながら全力疾走してるんだもんな、そりゃそうだ。
カルセナ「いってるでしょ、今度は私の番だって!迷惑かけてるのはお互い様なんだから!」
魔耶「ははっ……うぐぅ……そろそろ限界かも…。すごく眠い。…血液が足りないと、人は眠くなるのかぁ…あ、魔族か…」
視界が霞み、頭がどんどん重くなっていく。頭を起こしているのも辛くなって、カルセナの肩に頭をのせた。
カルセナ「待って‼あとちょっとだから…あっ!見えた!ゴールだよ、魔耶!しっかり‼」
ようやくゴールらしきゲートが見えたらしい。カルセナの言葉を聞いて、もう少し意識を保とうと努力した。
魔耶「う〜…はぁ…はぁ……!」
魔耶(…カルセナが私のために頑張ってくれてるんだ…!私が頑張らないでどうする!意識をしっかり保て!起きろ‼)
自分に心のなかで言い聞かせる。


カルセナ「あと…少し…‼」
重くなった足を引きずるようにして、カルセナの足がゴールのゲートを越えた。試験合格だ…!
だが、今はそれを喜んでいる場合ではない。魔耶を医者に見せなくては!
係員「おめでとうございます!一位でゴールしましたので、見事Cランクに…」
そこまでいいかけて、係員はカルセナの背中に傷を負った魔耶の姿があるのを見つけた。
係員「っ…!大変…!今医者を‼その人をこちらに‼」
カルセナは係員の言う通りに魔耶を預けた。魔耶はもう意識がないようで、目をつぶってぐったりとしている。

267:多々良:2020/04/26(日) 22:31

カルセナ「お願いします!!どうか....絶対助けてください!!」
係員「分かりました、安心して待っていて下さい!」
他数名の係員は、カルセナの姿がスタート時と変わっている事に気が付いていた。だが、今はそれどころじゃなかった。幸いにも、ギルドに医者が着いて来ていたらしい。血を調べた後、予め用意された血が、すぐに魔耶に輸血された。
意識のない魔耶の隣で、カルセナは心配そうに佇んでいた。近くには大きな火が焚かれていた為、モンスターは寄ってこなさそうだが.....いつ様態が変化するかなんて分からなかったからだ。
カルセナ「魔耶.......」
医者「そんなに心配しなくても大丈夫です。簡易的な応急措置がされていたお蔭でこの程度で済みました。.....この措置は、貴女が?」
カルセナ「....いや、魔耶が自分でやったものだと思います。私は何も.....」
医者「.....そうでしたか。....目覚めるまで、側に居てあげて下さい。それが今、貴女に出来る事です」
カルセナ「......はい」
黙って魔耶の顔をじっと見た。もっと他に何か出来る事はなかったのだろうか。そんな事ばかり考えてしまっていた。

268:なかやっち:2020/04/26(日) 22:50


魔耶「っう…ん…?」
カルセナ「…!魔耶っ!」
小1時間はたっただろうか。魔耶が目を覚ました。
魔耶「…あれ、カル…?えっと?なにがあったんだっけ?」
カルセナ「忘れたの?」
魔耶「ちょっとこんがらがってて……試験してて、ドラゴンに腕やられて、看板みて…そのあとは……えーっと〜…」
カルセナ「魔耶が血液不足になったから私がゴールまで運んで、今に至るって感じかな。…あぁ、よかったぁ…魔耶が死んじゃうのかと…」
魔耶「そうだったのね〜。あはは、大袈裟だなぁ。そんな簡単に死なないよ、魔耶さんは。私が死ぬのは…世界からキャラメルが消えたときだ」
カルセナ「なんだそれ…?」
思わず二人で笑う。
こういうやり取りができてよかったと、心の底から安堵した。
魔耶「カルセナ…ありがとう」
カルセナ「お礼なんていいって。帽子の恩を返しただけだから」
魔耶「うーん、そうか……っていうか、そんなにその帽子大事なのね。なにか理由でもあるの?」

269:多々良:2020/04/27(月) 07:07

カルセナ「あぁ、これね.....昔、お母さんから貰った帽子なんだ〜。私が小さいときに、病気で亡くなっちゃったけどね....」
頭から帽子を取って、それを見つめる。鍔にはドラゴンに付けられた、少し大きな切れ込みが入っていた。
魔耶「そうなんだ.....だからあんなに.....」
カルセナ「うん、まぁこれが無いと死ぬみたいな事は無いんだけどね....」
魔耶「その帽子の傷....」
カルセナ「.......大丈夫!!これも仕方無いよ!」
くるっと帽子を一回転させてから、再び頭に帽子を乗せた。
そのときの表情は、怪我をしている魔耶の前だからか、無理矢理笑顔を作っているかの様に見えた。
魔耶「カルセナ.....」
カルセナ「街に帰ったら何とかして直して貰う事にするよ!....はぁ、所で、もう一人の私は何でこの帽子大切に思わないんだろうな〜.....同じ自分なのにさ」
魔耶「さぁ....何でだろうね?聞いてみれば?」
カルセナ「.......何も返事返って来ないわ。んー、よく考えればこの状態が普通なのか....魔耶にも私みたいに、もう一人の魔耶がいるのかな?」
魔耶「あはは、もしかしたら居るかもね。カルセナみたいに簡単に飛び出しては来ないと思うけど」

帽子の話題から逸れ、他にも色んな話をした。
暫くして、他の参加者の姿が見えてきた。ここの試験を乗り越えた者達である。

270:なかやっち:2020/04/27(月) 09:55

魔耶「うわぁ…痛々しい…」
思わず呟いてしまった。
帰ってきた参加者の中には、魔耶と同じように怪我をしている人、火傷を負っている人(多分ドラゴンにやられたのだろう)がたくさんいた。
カルセナ「魔耶もそうとうな深手じゃない…痛々しいよ…」
魔耶「…そう?でももう処置されてるから大丈夫よ。こんな傷4日くらいあれば治るって!」
カルセナ「普通ならそんなに早く治らないって…魔族すげぇ〜」
魔耶「人間の基準で考えてるからでしょ〜。悪魔の基準にしたら、4日なんて遅いってなるよ」
カルセナ「はぁ…な、なるほど?」
人間の基準だと早いけど、悪魔の基準だと遅いのか…
カルセナ「そう考えればそうか…無意識に人間の基準として判断してたわ…」
魔耶「元人間だもんね。そういうものよ」
カルセナ「そういうものかぁ〜。…魔耶には、悪魔に近い細胞と人間に近い細胞があるっていってたよね」
魔耶「うん。そうだよ?」
カルセナ「魔族ってみんなそうなの?」
魔族って、もっとこう、魔族の細胞があるのかと思っていた。人間には人間の細胞、悪魔には悪魔の細胞、魔族には魔族の細胞…って感じで。実際のところどうなのだろう?
魔耶「あ〜…ちょっと秘密打ち明けてもいい?」
カルセナ「…?秘密?」
魔耶「うん。実はね、私…」
そこまでいいかけたとき、係員が大声で叫んだ。
係員「無事試験に合格できた参加者の皆さん、おめでとうございます。これより再び機関車にお乗りいただきます。私に着いてきてください!」
魔耶「…また今度にしようか。んじゃあいこう!」
カルセナ「う、うん…」
魔耶の秘密がどんなものか知りたかったが、しぶしぶ係員のあとに続いた。

271:多々良:2020/04/27(月) 10:36


係員「お疲れ様でした!それではお乗り込み下さい!治療が必要な場合、最前列のギルドの係員にお申し付け下さいね!」
行きと同じように、機関車にぞろぞろと参加者達が乗り込む。二人も後に続いて空いている席に座って一段落ついた。
カルセナ「ふぅ、やっと終わったのかな.....?フルで参加したかったなぁ〜....」
魔耶「そうだね、次回からは参加出来るんじゃない?」
全員が乗ったのか、機関車が動き出した感覚がした。
緊張感が抜けた車内は、参加者達の体験談や武勇伝を語る声でがやがやとしていた。
魔耶「はぁ〜.....無事に帰れたって、ひまりに報告だね....」
左肩を押さえながら、溜め息を吐く。
カルセナ「そうだね〜.....そう言えば、さっき話そうとした秘密って、何?」
心に残るモヤモヤを解決しようと、魔耶に問う。

272:なかやっち:2020/04/27(月) 11:16

魔耶「あぁ…」
あまり他の人に聞かれたくないため、少し声を潜めて言う。
魔耶「私ね、魔族って言ってるけど、実は悪魔と人間のハーフなんだぁ〜」
カルセナ「…!?え、えぇっ!?」
魔耶「ちょっちょ!声大きいから!」
カルセナ「いやだって、魔族…えぇ!?」
魔耶「落ち着け!」
カルセナの声によって少しだけ注目を浴びてしまったため、カルセナをなだめて落ち着かせる。


魔耶「普通魔族っていうのは、人間や妖怪が悪魔から力をもらって変化したものなんだよ。それが代を重ねていって、いろんな進化を遂げて、悪魔と人間や妖怪の中間くらいの種族ができる。悪魔との直接的な血のつながりはない。…はずなんだけど、私はちょっと違ってね〜…悪魔と人間が結婚してできちゃったって感じ☆」
カルセナ「できちゃったって感じ☆じゃないよ…。なるほど、だから細胞に偏りがあるの?」
魔耶「そうなんじゃない?普通の魔族だったら魔族の細胞があるんじゃないかなぁ。悪魔耶になれるのも、悪魔の血をもってるからなんだよ。ブラッカルには嘘をついちゃった。本当は、普通の魔族だとできないと思う。」
それを聞いてはぁ〜納得する。
カルセナ「なんで魔族って言ってるの?本当は少し違うじゃない」
魔耶「え〜?…悪魔と人間のハーフでーすなんて言うのめんどくさいじゃん。そこまで大きな違いはないし、容姿もそこまで変わらないしね」
カルセナ「あぁ、それだけの理由なのね…」
魔耶らしいな、と思った。
魔耶「…とまぁそんなわけで、私はそういうよくわからない種族なんですよ」

273:多々良:2020/04/27(月) 11:43

カルセナ「よく分からない.....成る程〜....そうだったんだねぇ」
魔耶「まぁそんなおっきい秘密でも無いんだけどさ」
カルセナ「いやいや、タメになりましたよ〜」

それから二人は色々な話をして、挙げ句の果てに疲れて眠ってしまっていた。

係員「皆様、到着致しました!!それでは降車して、ここから、北街に戻ります!」
魔耶「.....ん、到着....?」
カルセナ「ふぇ....?あ、駅まで帰って来た感じ....?」
二人して大きな欠伸をした。
窓の外では、燃えている様な大きな夕陽が沈もうとしていた。
魔耶「うぅ〜.....疲れた....」
カルセナ「今日は安静にして、宿でゆっくり休みましょ」
魔耶「そうだね〜....」
参加者達に紛れて機関車を降り、北街へとことこと歩いて帰った。

274:なかやっち:2020/04/27(月) 12:49

ギルドに着くと、そこには見慣れた二人の姿があった。
みお「おねぇちゃん!みて!」
ひまり「…?………ッ!カルセナ!魔耶!」
ひまりは私達の姿を確認し、こちらに走ってきた。
魔耶「はは、ただいま〜っ……!?」
ただ二人にお帰りと言うのかと思ったら、ひまりは走ってきた勢いのまま二人を抱き締めた。
カルセナ「うぇ!?ひ、ひまり!?」
ひまり「よかった…無事で…今回の試験はかなり難しいって聞いたから心配だったの…」
魔耶「ちょ、私、怪我人…痛い痛い…はーなーしーて〜…」
ひまりは魔耶の言葉を聞いて驚き、二人をはなした。
ひまり「怪我したの!?大丈夫!?」
しっかりと魔耶の姿を見て、その左腕に包帯が巻き付けてあるのを発見した。
魔耶「いろいろあってね…まぁ、それはまた今度話そう…」
ひまり「うわぁ…けっこうな深手じゃない…でも、無事で本当によかったわ…!」
カルセナ「そんなに心配してくれてたんだね…ありがと、ひまり。カルセナと魔耶、ただいま帰還しました!」
ひまり「あははっ!…お帰りなさい、二人とも!」
みお「無事でなにより…です」
魔耶「えへへ〜。左腕は無事じゃないけどね〜」
はにかんだ笑いを浮かべながら、四人でギルドに入っていった。


係員「…それでは、これから閉会式を行います。1位〜3位までにゴールした方々!前へどうぞ!」
カルセナ「えっと…うちらかな…?」
二人でおずおずと前にでた。
おそらく3位に入ったのであろう、巨漢な男の人も前に出てきた。
係員「今回、より難易度の高い昇格試験だった中、見事上位に入賞した三人にCランクバッチをお渡ししたいと思います!」
そういって金属でできた三角形のバッチを渡された。バッチの中央には大きくCと刻まれている。…Cランクの証みたいなものだろうか。
係員「これよりあなた方はCランクです。おめでとうございます!」
係員の言葉が言われると同時に、まわりから大きな拍手が起こった。ひまりとみおもにっこりと笑いながら拍手をしている。
係員「これで閉会式を終わります。皆様、今日は本当にお疲れ様でした!」

275:多々良:2020/04/27(月) 14:24


魔耶「....ふぅ、疲れた〜」
閉会式を終え、のそのそと宿に戻っている途中だった。
ひまり「うふふ、今日はゆっくり休みなね」
カルセナ「そうしようそうしよう」
ひまり「ところで....カルセナ、元に戻ったのね?」
カルセナ「え?あぁ、知ってんの?」
魔耶「昨日の昼過ぎくらいからずっとブラッカルのままだったからねぇ」
カルセナ「そうだったのか〜....うちの奴がご迷惑おかけしました〜」
ひまり「いやいや、楽しませて貰ったわよ」
昨夜の事を思い出し、くすくすと笑う。
カルセナ「何で入れ替わったのか覚えてないんだよね....」
魔耶「さぁ?きっと試験受けたすぎて飛び出てきちゃったんじゃない?」
カルセナには本当の事を言わない事にした。その方が少し面白そうだったからだ。

ひまり「....さ、二人共お疲れ様!!また明日から依頼頑張ってね!!」
魔耶「ありがとひまり、みお。そっちもね〜」
カルセナ「ばいばーい」
宿の前で二人と別れた。暫く遠ざかっていくひまりとみおを眺めていた。

276:なかやっち:2020/04/27(月) 15:14

魔耶「…ふぅ、部屋行こうか?」
カルセナ「そうだね〜。ベッドにぼふってしたい…」 
カルセナの謎の願望に笑いながら部屋に入った。

魔耶「1日もたってないのに、なんか久しぶりに感じるわ…」
カルセナ「だね〜。よっしゃ‼ベッドだぁ‼」
先程の言葉通りベッドに勢いよく飛び乗るカルセナ。
魔耶「埃がたつからやめい…」
カルセナ「え〜。ふかふかなベッドがあったらぼふってしたくなるじゃんか〜」
魔耶「分からんでもないけどさ」
昨日のお菓子がまだ残っているのを見つけ、ひとつだけ取り出して食べる。うん、美味しい。 
カルセナ「あ〜!魔耶ばっかりずるい〜!私のお菓子は?」
魔耶「はいはい、ここにあるから食べ……あっ」
カルセナ「…?どうしたの?」
魔耶「いや…」
カルセナのクランチチョコを見て、昨日の出来事を思い出した。カルセナがチョコを食べたら、またブラッカルがでてくるのかもしれない。…あげないほうがいいのだろうか…。ブラッカルも疲れているかもしれない。
魔耶「お、おやつよりご飯だよ!お昼食べてないからお腹空いてるでしょ?夕御飯買いにいこうよ!」
カルセナ「あぁ…そういえば…じゃあもう少しやすんでから行こうか」
魔耶「うん、そうしようそうしよう(ほっ…)」

277:多々良:2020/04/27(月) 17:57


カルセナ「....ん?何これ?」
テーブルの上に置いてある、剣のイラストが目に入った。
魔耶「これ魔耶が描いたやつ?」
魔耶「んー?あぁ、そうだけど....」
カルセナ「....めっちゃ上手いじゃん!!流石だなぁ〜....私もこんな風に描けたら良いのに」
魔耶「そんな事無いって、ただの剣のデザインだよ」
カルセナ「私ほんとに何の才能もないからさー。羨ましい.....」
冷蔵庫から出した飲料水をちびちび飲みながら話す。
カルセナ「私の才能、全部こいつに取られたんじゃないか....?」
首を傾げ、もう一人の自分、ブラッカルを疑う。
魔耶「流石にそれはどうなのかねぇ.....ま、戦闘で言ったらあっちかもしれないけど....」
カルセナ「ですよねぇ〜、ちょっとくれないかな....あ」
だらだらと話している内に、六時を知らせる鐘が時計台の方から鳴り響いた。
魔耶「良い時間帯かな?」
カルセナ「んだね、買い出し行きますか」

278:なかやっち:2020/04/27(月) 18:23

宿から出て街中をぶらぶら歩く。
魔耶「…うーん…」
カルセナ「ん?どうかしたの?」
魔耶「いや…この世界に来て、自炊したことないなって。買ったもの食べてるか、だれかから奢ってもらってるかだから…」
カルセナ「あぁ〜…確かに…」
料理をしようとしたときもあったけど、そのときは私が変なキノコ食べちゃってできなかったしなぁ…
カルセナ「…じゃあ、今日の夕飯は自分たちで作ろう!材料買って!」
魔耶「お、いいっすねぇ。なに作る?」
カルセナ「うーむ…シンプルにハンバーグとか…?」
魔耶「いいねハンバーグ!よし、今日の晩御飯はハンバーグに決定!」
カルセナ「…え?適当に言ったんだけど…採用しちゃうの?」
魔耶「だってハンバーグ食べたいし…あとはご飯とお味噌汁があれば最高」
肉汁たっぷりのハンバーグと白いご飯を思い浮かべて、空腹のお腹がぐぅと鳴る。
カルセナ「…んじゃあ、ハンバーグの材料買おうか。なにがいるんだろ…」

279:多々良:2020/04/27(月) 19:02

魔耶「ふっふっふ、私、これでも元居た世界では自炊してましたからね....大体は分かりますよ?」
カルセナの横でふんっ、と胸を張る。
カルセナ「おお!んじゃ、お店向かいながら何が必要なのか教えてよ〜」
魔耶「良いですとも。ま、まずはやっぱりお肉だよね。.....pork or beef?」
カルセナ「I like a pork.」
魔耶「だったら豚肉のミンチかな。あと、玉葱とかパン粉、卵と....あ、にんにくもちょっと入れると美味しいけど....」
カルセナ「なら入れときましょ」
魔耶「えーと、後はまぁもろもろ、お店に行って買い足せばいっかな....」
カルセナ「成る程成る程....お味噌汁何にする?」
魔耶「うーん、何が良いかな〜.....」
カルセナ「スープって言う手もありだよね」
魔耶「確かに、それでも良いかも....どーしよっか〜」

いつもの飲食店通りを過ぎ、八百屋や精肉店の建ち並ぶ大通りにやってきた。
少し時間は遅いものの、沢山の買い物客で賑わっている。

280:なかやっち:2020/04/27(月) 20:23

魔耶「んっと…手分けしたほうがいいかな?」
カルセナ「そのほうが早く買い物終わるか…そうしよう。必要なものを教えてくれ〜」
魔耶「じゃあ、カルセナはお肉買ってきて〜。私は八百屋いってくるから」
カルセナ「りょーかい!」
魔耶は八百屋、カルセナは精肉店に別れて行動することにした。


魔耶「玉ねぎは必要不可欠だよね〜。でも玉ねぎ切ると涙がでるからなぁ…そこは頑張るか。あ、人参も欲しいなぁ。あとはにんにく…」
軽く呟きながら食材を買いそろえる魔耶。なるべく艶があって、色の濃いいい感じの食材を選ぶ。
魔耶「…なんか懐かしい感じがするわ、こういうの。まだこの世界にきてそんなにたってないのに…不思議だなぁ〜」
左手が使えないためくまさんにカゴを持たせ、右手を使って食材を選ぶ。
魔耶「ふぅ。必要なものはこのくらいかなぁ…?」

281:多々良:2020/04/28(火) 09:06


カルセナ「えーと精肉店、精肉店.....あそこでいっかな?」
魔耶と別れた場所から一番近い店を選んだ。人にぶつからないように、少し小走りで向かう。
店主「はぃ、いらっしゃい!!」
カルセナ「えーと、豚肉のミンチだったよね....?それください」
店主「はいよ、何g必要なんだ?」
カルセナ「え?あ、えーと.....」
そう言えば魔耶に聞いたのは材料だけで、何g必要だとか、そう言うのを聞いておくのを忘れていた。
店主「....?もしかして分からないのかい?」
カルセナ「あのー....2人分のハンバーグ作ろうとしてるんですけど....」
少し申し訳無さそうに言う。
店主「あぁ、そう言う事なら....粗びきで200g位が妥当だよ」
カルセナ「おぉ!じゃあそのまんまの量ください!」
店主「そうかい、ありがとね!」
代金を払い終わったとき、不意に大きな音でお腹がなる。
カルセナ「(やっべ、恥ずかし....)」
店主「なぁあんた、もう100gおまけしてやろうか?」
ニコニコと笑いながら問い掛けてくる。
カルセナ「えっ、良いんすか?」
店主「あんたみたいな育ち盛りはいっぱい食べなきゃいけないからね!ほら持ってきな!」
気前良く、プラス100gの豚ミンチを差し出してくれた。
カルセナ「ありがとうございます!!(まぁもう育たないけど....)」

282:なかやっち:2020/04/28(火) 11:24

魔耶「疲れた疲れた〜。右手だけだと大変だね〜」
と言いつつ、つくったくまさんに買ったものを持たせ、自分は手ぶらで歩く魔耶。 
…と、歩いている途中でアクセサリーショップの前を通りかかった。ウィンドウに飾られた綺麗なアクセサリーに目を奪われる。
魔耶「わ、綺麗……。…そういえば、カルセナになにかプレゼント買ってやろうとか思ってたんだっけ。いや、まぁ自分でつくればいい話か。…あの人が欲しがりそうなもの…?」
お店のウィンドウに飾られたアクセサリーを睨みながらカルセナが欲しそうなものを考えるが、まったく思い付かない。
魔耶「…あの人の好きな色とか好みとかまったくわからないからなぁ…あれ?私ばっかり情報晒してない…?」
お子さま舌とか、キノコが苦手とか、おにぎりの具は鮭が好きとか…私のことは晒しているけど、カルセナのことはまったくわからない。
魔耶「むぅ…それはちょっとずるいよな…会ったら問い詰めてやる…」
子供「お母さん!みてみて!ぬいぐるみが動いてる!」
魔耶「…ん?」
子供の指は私のつくったくまさんを指していた。
…そうだ、普通にいつもの感覚でくまさん使ってたけど、ここ別の世界だったぁ…急いでくまさんを消し、荷物を右手で持つ。
母親「…?ぬいぐるみが動くわけないでしょう?早くお家に帰ってご飯にするわよ」
子供「ほんとだって!そこに…あれ?いなくなってる…」
母親「変な子ねぇ…」
子供「ほんとにほんとにさっきはいたんだもん!」
母親「はいはい。早く帰りましょ。今日はからあげよ〜」
子供「え!?やったぁ!」
そんな親子の会話を聞きつつ、胸をドキドキさせながらそそくさと立ち去った。
近くにあったベンチに座り、安心のため息をつく。
魔耶「そうだ…完全に元の世界の感覚だった…。ただでさえ魔族だってしれわたってるのに、ぬいぐるみを操れるなんて知られたら…」
想像して身震いする。ただ凄いと思われるだけならまだしも、珍しいということでなにかしらのトラブルに合う可能性がある。
魔耶「…自重しよう。うん」

283:多々良:2020/04/28(火) 14:58

カルセナ「ふぃー、良い買い物したわぁ〜....えーと、魔耶は.....」
300gの挽き肉が入った袋を持ち、買い物をしている、あるいは既に買い物を終わらせ、先に待っているであろう魔耶の姿を探す。
カルセナ「えー....あ、居た居た。魔耶ー!!」
ベンチに座っている魔耶に手を振る。
魔耶「お、来た来た....何だか随分ご機嫌そうだなぁ....買えたー?」
カルセナ「勿論!ついでにおまけしてもらったよ〜♪」
魔耶「おお!!それはありがたい!....んじゃ、帰りますか」
ゆっくりとベンチから立ち上がり、宿に帰る事にした。
魔耶「ふぅ、疲れた〜」
カルセナ「試験終わった後だもんね.....それ持とっか?」
魔耶「いえいえ、そんなに貧弱じゃないですよ〜....あ、そうだ」
歩いている途中で、カルセナに色々問い詰めようとしたのを思い出した。
カルセナ「ん?どった?」

284:なかやっち:2020/04/28(火) 18:06

魔耶「好きな色、食べ物、その他もろもろ!教えてください」
カルセナ「んんん?いきなりなにを言うかと思えば…なにそれ…?」
魔耶「いやぁ…私の情報は晒してるのに、カルセナのことはまったく知らないなぁ〜って思って」
まぁ本当はプレゼントの参考にしたいだけなんだけど。
カルセナ「なんだそんなことか。いや、私もそこまで魔耶について知らないと思うんだけど…」
魔耶「そう?色々話したくね?」
カルセナ「まぁ色々知ってるけど…誕生日とか好きな食べ物とか、そういうことは知らないよ」
魔耶「あれ、言ってなかったっけ…?じゃあ二人で個人情報公開し合うか」
カルセナ「言い方よ…w」
というわけで買い物は少し休憩して、二人で情報交換をし合うことにした。

魔耶「言い出したのは私だから私からいこうかな。
彩色魔耶っす。魔族(悪魔と人間のハーフ)で、かれこれ300年は生きてますね〜。能力はつくる程度の能力、誕生日は5月8日で牡牛座、血液型はA型です!好きな食べ物は甘いもの、鶏肉とかかな。嫌いなもの…はもう知ってるからいいか。好きな色は緑と青の中間色です。…こんな感じでいいよね?」
カルセナ「おぉ〜、いいと思う。…本当はこういうことって初めて会ったときにやるものだと思うけどね」
魔耶「うちらが初めて会ったときはドラゴンに襲われてたから…それどころじゃなかったでしょ。…んじゃあ、こんどはカルセナの番ね」

285:なかやっち hoge:2020/04/28(火) 18:13

(あれ、違うわ…買い物はもう終わったんだぁっ!ってことで、[というわけで買い物は少し休憩して]じゃなくて[というわけで宿に向かいながら]にします。ちゃんと読まないからこんなことになるんですよまったく…⬅誰やん)

286:多々良:2020/04/28(火) 18:53

カルセナ「おうよ。えーと、カルセナ=シルカバゼイションです。元々は人間だったけど、訳あって浮幽霊になっちまいました。アメリカ生まれだけど、日本語は得意中の得意だよ〜。物語を先読みする能力を持ってまーす」
魔耶「何かややこしい能力名だねぇ」
カルセナ「こっちの方が....何か格好いいじゃん?えー、誕生日は1月21日の水瓶座。年は.....うーん、多分110歳くらいだと思う.....好きな色は水色系かな。好きな食べ物は....お菓子?特にチョコ系が好きでーす」
魔耶「成る程成る程、良いじゃ〜ん?」
カルセナ「そっか、なら良かった....あ、因みにもう一人の方は.....えーと名前....」
魔耶「ブラッカルで。」
カルセナ「ぶ、ブラッカル??んまぁ良いか....こいつは何か良く分かりません」
魔耶「分かんないのに紹介しようとしたんかい....」
カルセナ「むぅ....あ、魔耶さ、こいつとちょっと位一緒に過ごしたでしょ?何か分からんかった?」
魔耶「え?あ、うーんと.....」
そう言われて、ブラッカルと過ごした時間を思い返す。
魔耶「うーんと....カルセナと同じで、チョコが好きそうだったかな?あと、肉弾戦が強いのと.....あー、あとね、ちょっと性格悪いかもしんない」
苦笑しながら、記憶の中にある情報をカルセナに話す。
カルセナ「あー.....性格悪いのは私も分かる。そんなもんかな、私についての大まかな情報は」
魔耶「うんうん、何かと知れたから良かったわ」
カルセナ「いやいやこっちこそ、情報提供ありがとうございます」

287:なかやっち:2020/04/28(火) 20:12

魔耶(うーん…水色系が好き、か…じゃあ水色にするとして〜…形どうしよ)
カルセナ「なに魔耶?考え事?」
魔耶「うん…」
カルセナ「どんなこと考えてたのさ?教えてよ〜」
魔耶「ちょっと教えられないかな〜。今度教えてあげるよ」
せっかく物を渡すんだ、サプライズにしておきたい。そのほうが面白いしね。
カルセナ「え〜。今度教えてくれるなら、今教えてくれたっていいじゃん」
魔耶「今はダメなの〜。…ほら、宿についたよ」
ちょうどいいタイミングで宿に着いたため、話題をそらす。
話題をそらされてカルセナは少し不満そうな顔をしたが、私の後に続いて宿に入った。


魔耶「んじゃあ、レッツクッキング!」
カルセナ「イエーイ!」
時計を見ると6時30分になっていた。うまくいけば8時前に食べられるであろう。
宿にある料理台と調理器具を借りる。 
カルセナ「…魔耶、左手使えなくね?」
魔耶「…あっ。…くまさんしょうかーん」
自分の左手変わりとしてくまさんを召喚する。
魔耶「これでよし、と。よし、料理しようか〜」

288:多々良:2020/04/28(火) 21:42

カルセナ「ハンバーグとその他でじゃんけんしない?」
魔耶「うん?別に良いけど....負けた人がその他でね」
カルセナ「んじゃ行くぞ!!最初はグー、」
魔耶カル「じゃんけん、ぽんっ!!」
結果は、魔耶がチョキ、カルセナがパーだった。
カルセナ「あぁくっそー!!最近じゃんけん弱いんだよなぁ.....」
魔耶「あっはっは、じゃあよろしくね〜」
カルセナ「は〜い....」
負けた理由を考察しながら、宿に常備してあった炊飯器の釜に買ってきた米を入れてとぎ始めた。
カルセナ「お米、硬めで良い?柔らかい方が良い?」
魔耶「うーん、特に硬くしろとか柔らかくしろとかは無いかな.....お任せするわ」
カルセナ「おっけー」
魔耶「さてと、私も下準備するかな〜....」
店の袋の中から野菜を取り出し、くまさんを操りながら切り始める。
魔耶「むむ....ちょっと難しい.....」
カルセナ「....大丈夫?」
ちらちらと魔耶の様子を伺う。
魔耶「親じゃないんだし、大丈夫。その内慣れるでしょ」
カルセナ「ほーん....なら良いけど」
少しして、とぎ終わった米入りの釜を炊飯器にセットし、ボタンを押す。ピッ、と言う音がして、炊飯器は自分の仕事を始めた。

289:多々良 hoge:2020/04/28(火) 21:44

【「親じゃないんだし、大丈夫。」←日本語おかしくね....?「親じゃないんだし、心配しないで。」に変えるわ。】

290:なかやっち:2020/04/28(火) 22:18

魔耶「…ふぅ。左手が使えないと不便だなぁ。聞き手じゃないだけましだけど…」
少々戸惑いながらも、野菜を切り終わることに成功した。
カルセナ「お疲れ様〜。大変そうねぇ…」
魔耶「おう…。ドラゴンにやられたのが悪かったな、うん。…さて、お肉お肉〜」 
袋から豚のひき肉を取り出す。思っていたよりズシリとしていたので少し驚いた。
魔耶「おぉ…こんなにたくさん買ったの…?」
カルセナ「いったでしょ、オマケしてもらったって。最初は200gだったんだけど…店主さんが『育ち盛りなんだからたくさん食べな!』っていって、100gオマケしてくれたのよ〜」
魔耶「なるほどなるほど……カルセナ浮幽霊なんだからもう育たないじゃん」
カルセナ「いやまぁそうなんだけど…言いづらいやん…。せっかくオマケしてくれたのに…」
魔耶「まぁそうか…ありがたくいただこうか〜。………私の育ち盛りっていつだろう…」
カルセナ「いきなりどうしたのよ…」
魔耶「いや…私は今300歳じゃない。人間でいうと15歳なんだけど…そうすると、今が成長期ってことになるのかなぁ」
カルセナ「どうなんだろうね…?魔族のことなんてわからんよ…」
魔耶「私もわからん」

291:多々良:2020/04/29(水) 07:46

カルセナ「まぁ、魔耶は死んでないしちょっとくらい成長するんじゃない?」
魔耶「成長するように祈るか〜....」
挽き肉ボウルに入れ、こね始める。これが思ったより重労働だ。
魔耶「あ〜....じゃん負けがハンバーグにすれば良かったかなぁ〜」
カルセナ「もう遅い遅い。頑張ってこねろ〜」
魔耶を軽く励ましながら味噌汁の下準備をする。
カルセナ「そう言えば、味噌汁ってあんま飲んだ事無いなぁー....」
魔耶「そうなの?....あ、そっか」
カルセナ「アメリカでは馴染みが無いからさ」
魔耶「じゃあ、逆に何飲んでたの?」
カルセナ「うーん.....飲んでてもスープ系かなー.....お米はちょっと食べてたけどね」
魔耶「へぇー.....食文化やっぱ違うんだなぁ」
カルセナ「そう言う魔耶こそ、そっちの世界では何か普通と違う食べ物とかあったりしたの?美味しいものとか」
目を輝かせながら、魔耶の顔を覗き込む。
魔耶「え〜?うーん.....」

292:なかやっち:2020/04/29(水) 12:23

少々悩む。私が普通だと思っているものが珍しかったりするかも知れないからなぁ…っていうか、前の世界ではあまり外食しなかったし。
魔耶「ん〜…あ、そうだ」
カルセナ「?」
魔耶「私の世界では色んな国が存在してるんだけど…年に2回くらい?すべての国の料理人が一ヶ所に集まって料理大会みたいなのをしてるのよ。個々に屋体をだして、お客さんは食べ比べをして、どの料理が一番美味しいかを評価する」
カルセナ「ふんふん。国ごとに料理が違うの?」
魔耶「そうそう、自分の国の料理を出すの。だから知らない料理がたくさんでるんだよ。みんな美味しかったなぁ…」
過去に食べた美味しい料理の味を思い出す。
カルセナ「すご…そんなのがあるんだ…魔耶の世界行ってみたいわ」
魔耶「はは、頑張ればこられるかもね?私はカルセナの世界に行ってみたいけど…あ、英語話せないわ」
魔耶の言葉に二人で笑い合う。

…そうこうしているうちに40分が経過した。あたりにハンバーグの美味しそうな匂いが漂っている。
魔耶「…よっしゃあ!完成っ!」
カルセナ「お疲れ〜」
一足先に料理を作り終えたカルセナが、ソファにおっかかりながら言葉を掛けてきた。
魔耶「うむ。なかなかの重労働だったわ…。左手の大切さがよくわかりました」
カルセナ「あはは、そんなにか…w」
魔耶「そんなにだよ〜。体力と精神力どっちも使ったんだから。…よし、良い感じにお腹も空いたから早く食べよう!」
カルセナ「そうだね〜。さっさと盛り付けて運んじゃお〜」

293:多々良:2020/04/29(水) 14:44

各々好きな分だけ自分の皿に盛り、余った分も調節して盛り切った。
あっという間に、テーブルの上に美味しそうな料理が並んだ。
魔耶「よし、んじゃあ....」
魔耶カル「いただきますっ!!」
手を合わせて、この食事を待ち望んでいたかの様に大きな声を出した。二人共、最初に手を付けたのはハンバーグだった。
カルセナ「もぐもぐ.....うん!美味しい〜!!」
魔耶「我ながら、中々良い出来栄えだわ〜....もぐもぐ....」
カルセナ「それにしても、ハンバーグ久し振りに食べたなぁ」
魔耶「それは私もだよ、こっちに来てからは全然違うもの食べてたからね」
カルセナ「うんうん、北街の料理も美味しいけど、やっぱ馴染みがある料理も美味しいよねぇ」
挽き肉を多めに貰えた事もあって、1人につき2つのハンバーグを作る事が出来た。
がつがつと食べ進める。
魔耶「ご飯との配分むずいな....美味しいから良いや」
カルセナ「美味しいと、ついそれに夢中になっちゃって後のご飯忘れちゃうんだよね....」

294:なかやっち:2020/04/29(水) 17:12

魔耶「そしておかず全部食べたあとにご飯だけが残るっていうね…」
カルセナ「そうそう。ご飯だけで食べるのちょっとキツいよね」
魔耶「めっちゃ分かる」
久しぶりに食べたハンバーグがとても美味しくて、二人ともペロリと平らげてしまった。


魔耶「あぁ美味しかったぁ〜…ご馳走さまでした!」
カルセナ「ご馳走さま〜」
いっぱいになったお腹に満足感を感じながら、ベッドにゴロンと寝転がる。
カルセナ「魔耶、ご飯食べたあとにすぐ寝たら太るよ〜」
魔耶「能力使うとカロリーがめっちゃ消費されるからいいの〜…って、この流れ昨日もやったな」
カルセナ「え?やったっけ?」
魔耶「やったじゃん。ほら、ひまりん家で…って、あれブラッカルだったわ」
カルセナ「ブラッカル…あぁ、もう一人の私ね」
お皿を洗いながら、カルセナが納得したように言う。
魔耶「そうそう。…やっぱりどっちもカルセナなんだねぇ…。あ、皿洗いくらいやるのに〜」
カルセナ「え〜…じゃあ交代でやろうよ。自分のお皿は自分で洗うって感じで」
魔耶「はーい」
返事を返しながら自分の左手を見つめる。もうほとんど痛みはなくなっていて、触ると痛いなくらいの感覚だった。
…あれ?普通だったらまだズキズキと痛みがあるはずなのに。治るの早すぎないか?
魔耶「…?」
カルセナ「魔耶〜。こうたーい」
魔耶「あっ、はーい」
…気のせいか。魔族だからな、少しくらい回復が早くたって不思議じゃないよね。
自分の変な考えを振り払うように、皿洗いに集中した。

295:多々良:2020/04/29(水) 18:18

カルセナ「そう言えばさ〜」
魔耶「ん、何?」
カルセナ「どっちもあんま驚かなかったけど....この世界って凄い不思議じゃない?ドラゴンみたいなモンスターはいるし、変な事件は起こるし....」
魔耶「そうだね〜」
洗い物中の手をカチャカチャと動かしながら応える。
カルセナ「ドラゴンなんて本でしか見た事ないし....怖いけど、そう言うのって、何だかワクワクするんだよね」
魔耶「それは....私もだよ。こんな世界生まれて初めて見たもん」
カルセナ「それもあるかもだけど......私の場合多分あれだな」
魔耶「....あれ?」
そう言うとカルセナは、魔耶の方向を向いて、
カルセナ「魔耶がいる事っ!」
にこりと笑い掛けた。洗い物をしている魔耶の手が一瞬止まった。
魔耶「な...何?いきなり.....」
カルセナ「こんな世界に1人で来ても、今ほど楽しくないと思うんだよね〜。やっぱ最初に魔耶に会えて、良かったなって感じ」
魔耶「それは....ありがとね」
率直に自分の気持ちを放つカルセナに、魔耶も笑みを返した。
カルセナ「今度ご飯でも奢ってあげるわー」
魔耶「ほんと?んじゃあお言葉に甘えちゃおうかな〜....」
くすくすと笑いながら話し続ける。気が付くと、自分の食器を全て洗い終わっていた。
カルセナ「ふぅ....ん、あれ?魔耶、もう左手使えるの?早くね?....あ、でも魔族だからって言うのもあるのかな.....」

296:なかやっち:2020/04/29(水) 18:50

魔耶「!……さ、さぁね。よし、疲れたから早く寝ようよ。あ、先にシャワー浴びなきゃか?んじゃあ行ってくる〜」
自分の思っていたことを言われ、少し焦りながら…逃げるようにシャワールームに入っていった。


魔耶「…はぁ」
一人きりになった空間でため息をつく。
魔耶(ちょっとカルセナから逃げるように来ちゃって申し訳ないなぁ。………左手使っちゃってたけど…やっぱりおかしいよね?回復が早すぎると思うんだけど)
あらためて怪我をした左手を見つめる。包帯をしているため、怪我の状態はよくわからない。
…スルスルと包帯をとって左肩を見てみた。
魔耶「…っ…‼?」
怪我をしたはずの左肩は、まだ少しのキズはあるものの…今日怪我をしたとは思えないくらい回復していた。
魔耶「はぁ…!?な、なにこれ…いくら魔族でも、これは…あり得ない、でしょ…」
何度か瞬きをして確認するが、やはり怪我の状態は変わらない。
魔耶(こんなに回復してるなんて…この回復力は、悪魔くらいなんじゃないか?)
魔耶「……あれ、私悪魔だっけ…?…いやいや、ハーフハーフ。私はハーフなんだから。回復力は悪魔と人間の中間くらい、のはず…」
でも、やはりこの回復量はおかしかった。いくら魔族であろうとも、これは…
魔耶「…なんなんだよ〜…」
訳が分からなくて、思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。

297:多々良:2020/04/29(水) 19:31


カルセナ「...?まぁ、良いか....」
一息ついて、ベッドに寝転ぶ。薄暗い天井をじっと見ながらボーッとしていた。
カルセナ「疲れた....お腹いっぱいになると、何でか眠くなっちゃうね。ちょっと寝ようかな....ちょっと、ね.....」
殆ど参加していないとはいえ、試験で出た疲れも多少あったが為に、すぐ深い眠りに落ちてしまった。

???「.....おかしい」
カルセナ「....うん.....ん?ここは.....あれ、今日は起きてたの....?」
眠い目を擦りながら確認したその者の姿は、魔耶がブラッカル、と呼んでいる人物だった。
ブラッカル「....今目ェ覚めたばっかだけどな」
カルセナ「....で、何かおかしいとか言ってなかった?何が?」
『向こう側』でブラッカルが溜め息を吐く。
ブラッカル「.....魔耶だ」
カルセナ「....え?ま、魔耶....?」
じわじわと溢れ出る動揺を、カルセナは隠しきれなかった。
カルセナ「で、でも今さっきまで、魔耶は何の変わりも無かったよ....??」
ブラッカル「外見はな。だが、さっき魔耶から感じたのは違った。あんなの魔耶じゃねぇよ」
カルセナ「......どう言う事?」
ブラッカル「は?」
パッと投げ掛けられた言葉に、疑問の表情が浮かぶ。
カルセナ「魔耶は魔耶でしょ」
ブラッカル「まぁそれはそうだが.....あいつは違ぇっての。だから今の内に、あいつをどうにかした方が良いと思うぜ。親友であれな」
その言葉を聞いた瞬間、カルセナの表情が曇った。
カルセナ「.....それこそ、おかしいでしょ?」
ブラッカル「.....あぁ?」

298:なかやっち Longlong.:2020/04/29(水) 20:33

魔耶「あがったよ、カル……って、あら?」
部屋に戻ると、カルセナがベッドの上でスースーと寝息をたてていた。寝てしまっているようだ。
魔耶「カルセナ〜、あがったよ〜。カル〜?………まぁいっか」
カルセナを起こすことは諦めて、隣のベッドで自分もゴロリと横になる。

魔耶(……)
一人になれたんだ、この傷のことについて冷静に考えてみよう。…今日はなにをしたかをまず振り返ろう。
魔耶(今日したことは…甘めのコーヒー飲んで、試験で怪我して、輸血してもらって、ハンバーグつくって、お風呂入って…)
…当たり前だが、怪我が早く治るような行動なんてしてない。
魔耶(本当なら怪我が早く治るのは良いことだけど…こんなに早いと流石に怖いというか…)
普通に考えて不気味だ。
魔耶「…あーあ…訳わから〜ん…寝るか」
とうとう考えることを放棄し、寝ることにした。考えてもわからないし、怪我が早く治るのは不気味だけど悪いことではないし。
魔耶「今日は色々あって疲れたし。おやすみ〜……」



??「……だめだよ…。もう、これ以上は…」
魔耶「…?」
知らない声が聞こえる。
??「これ以上したら…戻れないよ。変わっちゃうよ」
魔耶「…なにをしたらだめなの?なにが変わっちゃうの?」
知らない声に向かって疑問を問いかける。が、??には声が聞こえていないのだろうか。私のした問いかけに答える様子はなかった。
??「だめだよ。これ以上やったらだめだよ…」
魔耶「だからなにが?…私のあの傷のことと関係があるの?」
??「…だめだよ…変わっちゃうから…君が君じゃなくなっちゃうかも…」
魔耶「聞いてる〜?聞こえてないの〜?」
??「……もう戻れないから…」
意味が分からないことを言う声に少しイライラした。
魔耶「ねぇ!なんのことをいってるの?」
少し大声で言ってみる。すると、ようやくまともな答えが帰ってきた。
??「君のことをいってるよ」
魔耶「私がなにをしたらだめなの?」
??「悪魔に関わること」
魔耶「え…?悪魔になんて関わってないよ。っていうか私が悪魔と人間のハーフなんだから…」
??「悪魔状態にならないで。もうならないで」
魔耶「悪魔耶のこと?なんで?」
??「君の細胞が変わっちゃう。性格が変わっちゃう。今の君がいなくなっちゃう」
魔耶「…??私がいなくなる…?」
??「君の人間の細胞はどんどん悪魔の細胞によって侵食されてる。また悪魔状態になったら、君は悪魔になっちゃうよ」
魔耶「あ、悪魔になる…の?悪魔になったらどうなっちゃうの?」
??「君がいなくなるよ」
…訳が分からない。悪魔耶になると、私が私じゃなくなる…?
魔耶「もう何度かなっているじゃない。どうして今更?」
??「もう分かってるでしょ。今日わかったでしょ。もう君が人間でいられる時間は少ないよ」
また会話が噛み合わなくなった。
魔耶「どういうことなの?私は人間じゃないじゃん」
??「僕は君に変わらないでほしい。でも、もう一人の君は外に出たくてしょうがない。暴れてる。もし友達のことを大切に思うなら…もうなっちゃだめだよ」
魔耶「友達…?カルセナのこと?もう一人の私…??」
??「君が悪魔になりたいなら、僕は止めないけどね…」

299:多々良:2020/04/29(水) 22:05


ブラッカル「....何だ?私の言っている事が不満なのか?」
カルセナ「当たり前でしょ。魔耶をどうにかした方が良い....って、魔耶の事どう思ってんの?」
ブラッカル「....良いか、魔耶は確かに大切な仲間だ。但し、お前にとっては、な」
カルセナ「私にとって...は....?」
ブラッカル「私が魔耶を守ってやったり、一緒に協力してやってる理由が分かるか?」
カルセナ「それは....仲間だから」
ブラッカル「魔耶の事を大事に思ってる、お前のご機嫌を取る為だよ」
カルセナ「......ッ!!」
背中がざわっとするのを感じた。驚きのあまりか、言葉が出てこない。
ブラッカル「私の力は、本体の活力がメインとなってつくられる。だから私は、その活力を切らさない為に、お前の大事な存在である魔耶と協力してやってる。つまり、だ。お前が魔耶の事を大事に思ってなければ、私にとって魔耶はどうでも....」
カルセナ「「 魔耶を馬鹿にするなよッ!!! 」」
台詞を言い終わる前に、カルセナが怒鳴った。
ブラッカル「....ったく、ゴチャゴチャうるせぇな....テメェは黙って私の言う事を聞いてりゃ良いんだよ!」
カルセナ「やだね!!誰が聞くもんか!!」
ブラッカル「テメェが私の言う事を聞いて損した事あったか!?幹部にやられそうになったときも、試験で一発決め落とす前も!!つーか、まずそれらの場面で私が出てなかったら、どうせテメェはもうここには居なかったんだよ!!分かったか!?」
カルセナ「それとこれとは訳が違う!!それら場合の話と、今の、魔耶の状況をどうするかなんて話は関係ないじゃん!!魔耶は私の大事な仲間なんだから!!ちゃんと守ってよ!!」
ブラッカル「そうか、1つ言い忘れてたけどな、大事なものと命だったら私は後者を優先するからな!!こっちはテメェの事を考えて言ってやってんだ!!この話を聞かねぇんだったら、もう窮地に追い込まれたって助けてなんかやんねーからな!!」
カルセナ「ふん、助けて貰わなくたってどうにかするよ!!魔耶の事は自分で考える!!」
ブラッカル「ッ....あーそーかよ!!じゃあ勝手にしろ!!」
激しい言い争いの末、ブラッカルは舌打ちし、背を向けて喋る事を止めた。
カルセナも同じく背を向けて、この夢から覚める事を決めた。


カルセナ「....う.....ん、魔耶....もうあがってたのか....」
ベッドで寝息をたてて寝ている魔耶が視界に入る。窓の外は暗闇に包まれていた。
カルセナ「....私も、シャワー浴びて来るか」
ゆっくりとベッドから立ち上がり、バスルームに向かった。

300:なかやっち:2020/04/29(水) 22:44

魔耶「っ…うーん…?」
謎の夢から覚め、現実に戻ってきた。体を起こす。
魔耶「……なんだったんだろ、あの夢…なんか…すごく大事なことを言われた気がする…」
??の言っていることは意味が分からなかったが、辛うじてわかったことはすごく重要なことだった。
魔耶「確か…悪魔耶になると私は悪魔になっちゃって、別の私になる。…ブラッカルみたいな感じになるのかなぁ…」
もう一人のカルセナを思い浮かべる。私の中にも、もう一人の私が存在しているのだろうか…。
魔耶(とにかく、これから先は悪魔耶にならないほうがいいのかな。…細胞が悪魔に侵食されちゃう、か…)
…ようやく、この傷の疑問が解けた。私の体は今…悪魔に近づいていってるんだ。そう考えれば辻褄が合う。あの夢は真実を語っていたんだろう。
魔耶(じゃあ本当に…私が悪魔になっちゃったら、私はいなくなるの…?他の誰かが私になるの…?)
…不意に、涙がボロリとこぼれた。…その涙は、怖さと不安からの涙であった。
魔耶「私…いなくなっちゃうの?まだカルセナと冒険したいのに…いつか、この世界から消えちゃうの?カルセナと会えなくなる時が来るの?」
涙は次から次へと溢れてきて、止めようと思っても止めることができなかった。

301:多々良:2020/04/30(木) 07:15


シャワーの水音が響き、湯気の立ち上るバスルームの中で一人考え事をする。
カルセナ「(あいつの言ってる事はおかしい.....だから、これで良かったよね....)」

「あんなの魔耶じゃねぇよ」

ブラッカルに言われた事を思い返す。魔耶が魔耶でない....?どう言う事なのかさっぱり分からない。魔耶の身体に何か起こっているとでも言うのだろうか。外見では分からない、何かがーー。

「お前が魔耶の事を大事に思ってなければ、私にとって魔耶はどうでも....」

思い返しただけでも、自分の事しか考えてないかの様な発言にいらっとする。だが、大事なものを守ってくれるという点に関しては、どうも引っ掛かる部分がある。試験中、大事な帽子を落としたときには真っ先に拾いに行ってくれなかった。私にとっては、命より大事な帽子であると言うのに。
カルセナ「.......」
蛇口をキュッと捻り、シャワーを止める。常備してあるタオルを手に取り、髪の毛を拭き始める。
カルセナ「(....魔耶をどうにかしろなんて言われたって、今の私には何も出来ないし......)」
ネガティブな考えばかり頭に浮かんでくる。
いや、駄目だ。まだ何も事件は起こってないし魔耶も普段通りだ。こんな顔をしていたら不審に思われる。いつも通り、笑顔でいよう。
嫌な思考を無理矢理振りほどき、気持ちを整える。ささっと寝間着に着替え、魔耶のいる部屋へと戻った。

302:なかやっち:2020/04/30(木) 10:14

魔耶「…どうすれば、いいんだろ…」
??は、日々私の細胞が悪魔の細胞によって侵食されていると言っていた。つまり…悪魔耶にならなくても、いずれは悪魔になってしまうということだ。
悪魔耶になるとその時期が早まってしまうというだけで、いずれは…
魔耶「っ……」
友達のことを大切に思うなら……カルセナのことを大切に思っているなら…変わってはいけない。つまり、私が変わるとカルセナになにかしらの被害があるということだろうか。
魔耶(…いつ変わるかも分からない…ずっとカルセナと過ごしていれば、いやでもそのときはやってくるはず…。カルセナを、傷つけてしまうかもしれない…)
確かに私はカルセナと一緒に過ごしていたいと思ってる。でも、そのせいでカルセナが傷ついてしまうのは…私の願っていることではない。不本意だ。
…ここから、離れるべきだろうか。カルセナから離れて、北街から離れて…。
魔耶「………」
カルセナ「ーーあがったよ〜」
魔耶「…‼」
急に聞こえたカルセナの声に驚く。色々なことを考えていた頭が、一気に現実に引き戻されていった感じがした。
カルセナ「魔耶?起きてたんだ…って涙目じゃん‼なになにどうしたの!?」
魔耶「…カルセナ……」
また涙が溢れてきた。
カルセナにこのことを打ち明けるべきだろうか……。本当は、全部話してしまいたい。全部話して、二人で解決策を探して、この気持ちをすっきりさせてしまいたい。
…でも、心配させてしまうだろうか。私から離れていってしまうかもしれない。私のことを恐れてしまうかもしれない…。それは、自分から別れを切り出すよりももっと辛い。
魔耶「…なんでも、ないよ」
私は自分でも分かるくらい無理矢理な笑顔をつくった。

303:多々良 バカ短けぇ。:2020/04/30(木) 11:15

カルセナ「魔耶......?」
魔耶「ほんとに、何でもないから....!ッ」
何でもない筈が無い。普段通りならば、魔耶が理由なく泣いている事はないといっても良いのに。
気持ちを振りほどいた頭の中に、又もや嫌な考えが入ってくる。
カルセナ「......話して」
魔耶「....え?」
ブラッカルから言われた事を脳裏で再生し、魔耶の状況を理解する為に話を聞く事を求めた。
それに、安易なものだったが、確かに誓ったのだ。魔耶の事は自分で考える、と。
カルセナ「なんかあるんじゃないの?....魔耶が良ければ、話して欲しいな...」
近くの椅子に座って、魔耶を見る。
話をするかどうかは魔耶の勝手だ。ただ、出来るだけ魔耶の情報が欲しかった。今はこの世界を出る情報よりも大事なものに思えたのだ。

304:なかやっち:2020/04/30(木) 11:58

私はカルセナのまっすぐな瞳を見つめた。彼女の瞳は、私がどんなことを話しても受け入れてくれそうな目だった。
…その瞳を見て、カルセナには話そうと思った。ゆっくりと話しだす。
魔耶「……私、今日怪我したじゃない」
カルセナ「…?…うん、ドラゴンにやられたやつ?」
魔耶「それ。……その傷の回復がすごく早かったのよ」
カルセナ「そうだね。皿洗いのときにはもう使えるようになってたね。…でも、それって魔族だったからじゃないの?」
魔耶「確かに私は魔族だけど…それでも、異常に早かったの。悪魔と同じくらい早かったの」
カルセナ「…それで?」
カルセナはその続きが知りたくて、話を先へと促した。
魔耶「おかしいなって思ってたんだ。そしたら、夢を見た」
カルセナ「どんな夢?」
魔耶「知らない声が、私に言うの。『君の細胞は悪魔の細胞に侵食されてる。このままだと、君は悪魔になっちゃう。別の君になっちゃう』って…。傷の治りが早かったのも、きっと私の体が悪魔に近くなっていってるからなんだよ。私が完全に悪魔になったら、今の私の人格はいなくなっちゃうんだ。…いつか、私はこの世界から消えちゃうんだよ…。別の私になっちゃうんだよ…ッ」

305:多々良:2020/04/30(木) 14:07

絶え絶えな声で、魔耶は真実を話してくれた。その目には、溢れんばかりの大量の涙が溜まっていた。
魔耶「もうどうしたら良いのかな、私......ッ」
カルセナ「.........」
ブラッカルの言っていた事は本当だったらしい。だが、言われた通りにしようとは思わなかった。
魔耶「......こんな事言ったって、何の役にも立たないよね.......ごめん...」
謝られることなんか無い。むしろ何も考えれていない、私が謝りたいくらいだった。
カルセナ「....ッ、大丈夫!!」
魔耶「....?」
何が大丈夫なのだろう。自分で言った事が一瞬、良く分からなくなった。魔耶の泣いてる顔を見たくない。恐らく、そういう思いから出た言葉だった。
カルセナ「きっとどうにかなるよ!私達がこの世界に来て、乗り越えられなかった事は無いんだからさ!だから、大丈夫.....ッ」
確信も無かった。言葉を並べていく程、自分の言った事の無責任さがじわじわと伝わってくる。でも今は、これが最善の策だ。ここで黙り込んでも、否定しても結果は悪くなる一方なのだから、そう考えた。もう一人の自分に何と言われようとーー

.....ブラッカルも、今の私と同じ気持ちだった?
同じ様に、自分が思う『最善』を貫きたかった?

....でも、魔耶の事はどうでも良いと言わんばかりの発言をしていた。
.....やっぱり向こうが間違っている筈だ。私は魔耶を、そうとは思ってないんだから。

カルセナ「だから....泣かないでいて、魔耶....」

306:なかやっち:2020/04/30(木) 15:12

魔耶「……ありがとう、カルセナ……。そうだよね。きっと、大丈夫だよね…」
カルセナのその言葉から、本気で私を心配してくれているのだとわかった。…これ以上カルセナを不安にさせたくない。そう思って、この言葉を放ったのだった。…本当は大丈夫なはずがないと分かっているのに…。
魔耶「まだ時間はあるだろうからね…この世界なら解決策も見つかるかもしれないし…」
思っていることとは裏腹の言葉が自分の口から出てくる。もしかしたら、私は強がりなのかもしれない。
時間がどれくらい残されているかなんて自分でも分からないし、私の特殊なケースを救う方法がこの世界にある確立は0に等しいだろう。
カルセナ「そうだよ。きっとなにかしらの方法はあるよ。諦めたらおしまいなんだから、希望を持っていようよ…!」
魔耶「…うん」
彼女が私を勇気づけようとしてくれているのがわかった。
魔耶「カルセナがいてくれて良かったよ。…出会えて良かった。ほんとに、ありがとう……」
カルセナ「はは、泣かないでよ」
魔耶「いいじゃん。これは嬉し泣きなんだから…」
…確立は0に近いかもしれないが、足掻けるだけ足掻いてみよう。今の私が私でいられる時間を…カルセナと過ごせる時間を大切にしよう。そう思った。

307:多々良:2020/04/30(木) 22:27

カルセナ「取り敢えず、今日のところは寝て、また明日にしよう」
魔耶「そうだね、もう良い時間だもんね」
少し安心感出た途端、考え疲れた体が大きな欠伸をした。
二人とも今日は良く眠れるか心配だったが、気持ちを落ち着かせて寝る事にした。
魔耶「おやすみー」
カルセナ「ん、また明日」
部屋の電気が、パチッと消えた。


カルセナ「....またここか」
いつもブラッカルと話をしていた場所。『向こう』には、いつもなら居る筈のブラッカルの姿は見えなかった。無理もない。あんな喧嘩をしたのだから。
カルセナ「それにしても、喧嘩して話すことないってのに....何でここに来させられるんだろ」
何か理由があるのだろうか。あったとしたら、何をさせようとしているのだろうか。
カルセナ「相変わらず、私の夢は意味分からないのばっかだなぁ....一回目ぇ覚めるのは嫌だけど、早く抜けよっと....」

「......して」

カルセナ「....ん?何か聞こえた様な......まさかね。ここに私とあいつ以外居るわけないし」
念のためもう一度耳を澄ますが、やはり何も聞こえやしなかった。
カルセナ「空耳かぁ....」
何も無い事を確認して、この夢から覚める事にした。

カルセナ「.......ふぅ(....まだこれだけしか経ってないのか....)」
枕元の時計を見て、まだ数十分しか経っていない事に気付く。
カルセナ「(そりゃそうか、あんだけしか滞在しなかったしね)」
隣のベッドには、疲れきった顔でスヤスヤと寝ている魔耶がいた。
カルセナ「(......もっかい寝るか)」
再び布団を肩まで掛け、眠りに就いた。

308:なかやっち:2020/04/30(木) 23:15

気がつくと自分は真っ白な空間の中にたっていた。白すぎて床も壁も分からないくらい真っ白な部屋に、たった一人で。
…私は確かに眠ったはず。宿にいたはず。ではこれは…
魔耶「……夢?」
でも夢にしてはずいぶんはっきりとしているし、自分の考えがあやふやではない。ここはどこであろう?
??「…こんにちは〜」
不意に後ろから声をかけられた。反応して振り向く。
??「初めまして、かな?私は君のことを知ってるけど、君は私のこと知らないよね〜」
魔耶の後ろにいたのは、鋭い角と大きい漆黒の翼を持った…自分だった。その体は複数の鎖で繋がれている。
魔耶「…わ、私…?」
??「そう。私は君だよ。君は私。…まぁ、私は君の悪魔の部分なんだけどね」
口調といい、声の高さといい、鎖に繋がれた私は自分とまったく同じだった。
魔耶「あなたが悪魔の…私…?」
??「そーそー。まぁ悪魔耶とでも呼んでよ」
魔耶「悪魔耶…」
悪魔耶「うんうん。自分と話すのって変な感じだね〜?」
魔耶「…」
私の沈黙は気にしていないのか、悪魔耶はそのまま言葉を続けた。
悪魔耶「やったぁ。君に会えたってことは、もうすぐ私が外にでられるってことだよね。君と私の立場が変わって、君は鎖に繋がれる。あぁ、楽しみ〜」
魔耶「っ…!」
立場が変わる…私が、鎖に繋がれる…?
魔耶「な、なにそれ!なんで私が繋がれるの?なんで君が外に出られるようになるの!?」
悪魔耶「え〜。簡単なことじゃない?人間の君がいままで外にいたから、今度は私の番!ってこと!」
魔耶「なっ…!……外にでて、なにをする気なの…?」
悪魔耶「うーん…色々やりたいことはあるけど、まずはね〜…あっ!」
いきなり悪魔耶が驚いたような声を出した。
悪魔耶「もう朝だよ。続きはまた今度ね〜」
悪魔耶がそう言うと、あたりの景色が歪みだした。
魔耶「まってよ!まだ聞きたいこと…が………?」
目覚めたばかりの体に朝日が眩しかった。

309:多々良:2020/05/01(金) 07:29

魔耶「......はっ!!...もう、何なんだよ.....」
夢の様な空間から目覚め、少し溜め息を吐く。
カルセナ「....あ、魔耶。おはよー」
魔耶「え、あぁ、おはよ....」
キッチンからひょっと顔を出したカルセナに挨拶を返す。それでも魔耶は、昨日の夢の事が気になって仕方がなかった。
カルセナ「何か悪い夢でも見てたん?」
魔耶「え?」
カルセナ「いや、何かちょっと魘されてたから」
魘される程の夢では無かった気がするが、現実の魔耶はどうやら少し苦しんでいたらしい。
魔耶「うん、まぁねー.....てかカルセナ、起きるの早いね」
カルセナ「あー....何か良く眠れなくってさ....」
魔耶「そっちこそ、何か悪い夢見たんじゃないの?」
カルセナ「別に悪い夢、ではないんだけどね〜......まぁ、取り敢えずご飯食べれば?何故かパンとか買い溜めしてあるし」
ブラッカルが出ているときに沢山買ったものだ。その中の1つを頬張りながら魔耶に朝食を勧める。
魔耶「んー、そうだね.....んじゃ食べるわ」
寝起きの体を起こして、キッチンへと向かう。
窓からは木々を萎えさせるかの様な、冷たい風が吹いていた。

310:なかやっち:2020/05/01(金) 07:57

カルセナ「…んで、今日はなにする?」
魔耶「…なに、って…?」
パンを頬張りながら、質問を質問で返す。
カルセナ「今日やることだよ。やらなきゃいけないことたくさんあるじゃん?」
魔耶「あぁ…そうだね。元の世界に帰る方法を探す、私の状況を解決する。大きく分けて2つだけど、どっちを優先するかだね」
カルセナ「優先順位は魔耶のことだけど…。元の世界に戻る方法はその次でいいよ」
カルセナが私にむかって笑いかけてきた。それに反応して私も微笑みを返す。
魔耶「ありがとう。…んで、私の状況を良くするために、今日なにをするか考えなくちゃか…」
カルセナ「そゆことそゆこと。今日なにをするかっていうのは、そーゆー意味」
魔耶「あ、そういう意味ね。うーん…図書館に行くか…誰かに情報を聞き出すか…」
カルセナ「誰かに聞く………あ、はいはーい!良い案がありまーす!」
その場でカルセナが勢いよく手を挙げた。
魔耶「んー?なんか思いついた?」
カルセナ「うん!…ニティさんのところ、行ってみない?」

311:多々良:2020/05/01(金) 10:47

魔耶「あぁ〜....確かに、あの人なら色々知ってるかもだしね」
カルセナ「ね!だから、準備終わったら行ってみよう!!ほら、多分まだ岩場にいるだろうからさ」
魔耶「んじゃあそうしよっかー」
朝食を食べ終わった後、いつもの通り、歯磨きや着替えを済ませ、宿の外に出た。
カルセナ「...よし、行こ!」
魔耶「おー、確か向こうの方だったよね」
北街方面とは真逆の、南を指して確認した。
カルセナ「自分で言ってなんだけど、居るといいなぁ.....何か心配性発生しちゃう....」
魔耶「大丈夫なんじゃない?きっと居るよ」
そうして二人は飛び立ち、ニティが居るであろう岩場へと向かった。

魔耶「.....何か懐かしいなぁ、こっち方面」
冷たい風を翼で切りながら、この世界に来たばかりの時を思い出す。
カルセナ「あんまり日にち経ってるような感じもしないのにね〜」
魔耶「色々あったから、自然と懐かしくなっちゃうのかな」
気分良く空を飛んでいる内に、目的の岩場が見えてきた。
カルセナ「あっ、あそこじゃない?」
魔耶「ホントだ〜、意外と早く着いたね」

312:なかやっち:2020/05/01(金) 11:27

二人でスタっと地面に降り立ち、岩場に向かって歩いていく。
魔耶「カルセナが変なキノコ食べちゃって、ニティさんに助けてもらったんだよね。あのときは本気で心配したなぁ〜」
カルセナ「……これからは、気を付けます」
魔耶「あはは、ほんとだよ〜。………って、あれ?」
魔耶が驚いたような、不思議がっているような声を出した。
カルセナ「…?どしたの?」
魔耶「いや、なんか羽がしまえな…あっ、しまえた」
魔耶の漆黒の翼がシュッと小さな音をたてて消えた。
カルセナ「……」
魔耶「……」
魔耶が翼をしまってみせてくれたときのことを思い出す。彼女は『悪魔は翼をしまえないけど、魔族の私はこの通りよ』なんて言っていた。…つまり、翼がしまいにくくなっているってことは…
魔耶「…急いで情報を集めたほうがいいのかもね」
カルセナ「そうみたいだねぇ…」


ニティさんがいた岩場に到着し、覗き込んでみる。
カルセナ「ニティさ〜ん?いらっしゃいますか〜?」
すると、奥から懐かしい声が聞こえた。
??「誰だ?…いや、声を聞けば分かる。久しいな。なにか用か?」
この口調…声の高さ…間違えようがない。いてくれて良かった。
魔耶「ニティさん!」
ニティ「二人でここに来たのか。立ち話もなんだ、入れ」
岩場の奥からニティさんが顔を見せた。一週間程度会っていなかっただけなのに、彼女をみるのがとても久しぶりに思えたのだった。

313:多々良:2020/05/01(金) 12:18

見慣れた岩場の、洞窟内の地面に座る。
ニティ「....うむ、二人共、少しは成長している様じゃないか」
魔耶「見ただけで分かるの?」
ニティ「勿論、それ程おおっぴらに気をさらけ出していれば、見抜くのは容易い事だ」
そう言うニティからは、これっぽっちも覇気がしなかった。きっと自分の実力を相手に見抜かれない様、隠しているのだろう。
ニティ「互いに、仲間に対する執念が強くなっているな」
カルセナ「そりゃ、色々あったからねぇ.....」
ニティ「カルセナよ」
カルセナ「へ、はい?」
ニティ「お前の執念は人一倍だな。それ程思いが強くなっているのだろう」
カルセナ「あ、そうなんすか.....」
きっとそれには、ブラッカルの分の気持ちも入っている。でないと人一倍になんてそうそうならないだろう。
ニティ「そして魔耶」
魔耶「はい....?」
ニティ「お前もカルセナと同じ様な成長を遂げている....が」
魔耶「が.....?」
ニティは、少し顔を歪めて魔耶に伝えた。
ニティ「何か....自分で自身の異変などに気付いた事はないか?」
魔耶はドキッとした。そこまで見抜かれる程、侵食されて来ていると言う事なのか。

314:なかやっち:2020/05/01(金) 13:15

魔耶「…分かります?」
ニティ「あぁ。前にはなかった邪悪な気がかすかに感じられる」
やっぱりそうなのか。あの夢は本当で、私は…。
もしかしたらという小さな希望を持っていたが、あの夢は真実を語っていたんだ。
カルセナ「…今日はそのことについて相談しに来たんだ」
ニティ「なるほどな…。確かにこれは簡単な問題じゃなさそうだ。詳しく教えてくれ」
魔耶「……はい。実は…」
それから私は語り続けた。昨日の試験のこと。傷の治りがおかしかったこと。夢をみたこと。このままだと悪魔になってしまうこと。…たまに辛くなって声が止まることもあったが、分かっていることは全て語った。


ニティ「…魔耶は悪魔と人間のハーフだったのか…。そんな種族は初めて知った」
カルセナ「神様なのに?」
ニティ「あぁ。神様なのに、だ。普通なら悪魔と人間が結婚するなんてありえない。悪魔は人間のことを下に見ているからな。…それに、たとえ結婚したとしても子供ができるなんて……確立はとても低いだろう」
魔耶「……」
私はニティさんとカルセナの会話をぼんやりと聞いていた。…やっぱり、こんな種族…普通じゃないんだ。
カルセナ「…魔耶?」
私の様子をおかしいと感じたのであろう。カルセナが声をかけてきた。
魔耶「……が…った」
カルセナ「…え?」
魔耶「普通が…よかった…」
つい、思っていたことを口に出してしまった。
魔耶「私も普通の種族だったら…こんな状況にならなかったのに。なんで私は…普通になれないの…?どうして私は、生まれたの…?」
なんで、なんでばかりが浮かんでくる。
辛かった。苦しかった。訳の分からない状況に追い込まれた自分の心はもう修復できないほどにボロボロになっていて。自分のおかれている状況を脳みそは理解したくなくて。
魔耶「どうして…?私は、ただ普通でいたいのに……普通でいたいだけなのに……ッ」
カルセナ「…魔耶……」
魔耶「…っ…………ごめん、ちょっと…外の空気吸ってくるね……」
この場にいるのが気まずくなって、私は外に出た。じゃないと、このやり場のない怒りと悲しみを二人にぶつけてしまいそうで怖かったから。溢れてくる感情を抑えられそうになかったから。

315:多々良:2020/05/01(金) 15:47

ニティ「....やはり、重要な問題だったな」
カルセナ「.......」
ニティ「....もし」
カルセナ「....?」
ニティ「仮に、もし魔耶の体が全て悪魔の細胞で覆われてしまったら、恐らく後戻りすることは出来ないだろう....」
深刻な顔でカルセナに伝える。
カルセナ「....それは分かってるけど...」
ニティ「....私の神としての役割は、今いる地を見守る事だ。魔耶が悪魔になってしまった場合、私が対象せざる負えない状況になる。だから出来るだけ、そんな事にしたくはないが....あの様な形は初めてだからな....どうしたものか」
目の前で燃え盛る焚き火に、薪を放り込む。その薪を取り込んで少し炎が強くなる様子を、カルセナはじっと見ていた。
カルセナ「.....悪魔の細胞と、うまく合わさる事は出来ないのかな.....」
自分の意識の中で暮らす、ブラッカルの様に。
ニティ「....それは難しいだろう。真逆の関係である種族の細胞と調和出来る事はほぼ有り得ない」
カルセナ「そっか......」
暫く沈黙が続き、洞窟内に聞こえるのは森の動物達の鳴き声と、焚き火の燃える音だけだった。
その沈黙を破るかの様に、ニティが軽く溜め息を吐いた。
ニティ「.....仕方が無い、何百年も戻ってなかったがな....」
カルセナ「?」
ニティ「私が.....天界へ向かい、情報を探しに行こう」

316:なかやっち:2020/05/01(金) 17:57

魔耶「っ……はぁ…」
嫌なことばかりが頭に浮かぶ。…だめだなぁ…私。
魔耶(…感情を抑えないと…。落ち着け、自分…)
自分は悪魔と人間のハーフだと知らされたときも、人間の子供に恐れられたときも…ここまでの動揺はなかった。こんなに気持ちが落ち着かない時間は生まれて初めてだろう。
魔耶(…自分が消えちゃうから…?いや、それもあるけど…)
なぜここまで動揺してしまうのか。原因はわかっていた。
…カルセナともう会えないということだ。カルセナはいつも私と一緒にいてくれて、どんなときも私を見捨てようとなんてしなくて……命の恩人であり、大切な親友だった。
魔耶「…やだなぁ。まだこの世界でカルセナと過ごしてたいのに…」
まだ消えたくない。300年も生きててワガママかもしれないけど、もう少しだけ生きていたい。
魔耶「っ……」
涙が頬を伝うのが分かった。
…心が弱くなっているからだろうか?最近の私は、泣き虫だな…。

317:多々良:2020/05/01(金) 19:00


カルセナ「....天界に?」
ニティ「あぁ、上には私より博識な賢者が沢山居る。特に、私の師匠とかがな」
カルセナ「師匠なんて居たんだ....」
ニティ「勿論。その他にも私の古き友や、天界の主である大天使様がいらっしゃる。それだけの人材があれば、何か必ず有力な情報が得られる筈だ。情報だけあっても、行動には起こせぬ確率が高いと見込まれるが....」
カルセナ「いや大丈夫、ありがとう。...あ、じゃあ魔耶に.....」
ふと、外の空気を吸いに行ったときの魔耶の表情を思い出した。
きっと、一人になりたいが為に外に出た。気持ちを冷ます為に、外に出たのだ。
そんな今、魔耶を呼びに行ってしまって良いのだろうか......。
ニティ「.......どうするかは、お前次第であるぞ。無論、私は口を出す事は無い」
少し姿勢を崩すと、壁に掛けている槍の様な武器を手に取り、先を指でそっと撫でる。
しかし、鋭くも温かい視線はしっかりとカルセナに向けられていた。
カルセナ「.......私は....」
そう言い残してスッと立ち上がり、洞窟の外へ魔耶を探しに向かった。
その背中を、先程と変わらない目で見送った。
ニティ「......良い仲間だ。もしかしたら彼奴等には、確率など関係無いのかも知れないな....」

318:なかやっち:2020/05/01(金) 20:29

魔耶「…!」
…後ろから誰かの足音が聞こえてきた。カルセナだろうか…?
急いで涙を拭い、気持ちを整える。カルセナにこれ以上心配をかけさせたくない。
カルセナ「…魔耶〜?」
やはり、カルセナだ。カルセナの声だ。
魔耶「…カルセナ…?ここだよ」
カルセナ「ん〜?あ、ここか」
木々の葉の間からカルセナが顔を出した。
カルセナ「ふう。結構遠くまで行ってたのね〜。………落ち着いた…?」
魔耶「…なんとかね。ごめん、急にいなくなって…」
カルセナ「いやいや、昨日今日で色々あったもんね。そうなるのは当たり前だよ。むしろそうやって感情を抑えられるのがすごいと思うけどね〜?私だったら怒鳴り散らしてたかも…」
魔耶「それはないでしょ…。…ニティさんは?」
カルセナ「ニティさんはね、天界に戻って情報を集めてくれるって。神様達に聞いて回ってくれるんだよ。きっと悪魔にならない方法だって見つかるよ!」
魔耶「…!」
ニティさんが、私のために…。
天界なら有力な情報が得られるだろうか。私は、元に戻れるのだろうか…?
魔耶「…そっか。お礼言わないとなぁ。…少しだけ希望が見えたような気がするよ」

319:多々良:2020/05/02(土) 07:44

カルセナ「取り敢えず、あっちに戻ろ」
魔耶「うん....そうだね」
カルセナは魔耶を引き連れ、ニティが居る洞窟へと戻った。

魔耶「あの、カルセナから聞いたよ。....ありがとう、ニティさん」
ペコリと頭を下げる。
ニティ「いやいや、別に良い。まぁ、その代わり少し時間が掛かってしまうが....出来るだけ早く戻って来れる様にはする。その間、お前は絶対に悪魔状態にはなるでないぞ。良いか?」
魔耶「....分かった」
ニティ「カルセナ、お前もしっかりと見守っておけ」
カルセナ「はーい」
ニティ「......それでは、私は直ぐ様天界へと向かう事にしよう」
武器の先端で焚き火を指すと、微かな青い光と共にシュウッという音がして、何も無かったかの様に火が消えた。

洞窟の外で、一時的な別れの言葉を交わした。
魔耶「じゃあ、気を付けて」
ニティ「うむ、行ってくる。....お前等の拠点は、北街で合っているか?」
カルセナ「そうだけど....」
ニティ「ならば、情報を集め終わり次第そちらに向かおう。その方が効率も良いだろう」
魔耶「ありがとう」
ニティ「......安心しろ、お前等に乗り越えられない壁は無い筈だ」
そう言って二人に会釈をすると、天界へと向かって行った。

320:なかやっち:2020/05/02(土) 09:15

魔耶「…じゃあ、北街に帰ろうか」
カルセナ「そうだね。こっちもできるだけ情報をあつめよう!」
魔耶「うん。頑張ろう…!」
まだ少しの不安はあったが、ニティさんの『お前達に乗り越えられない壁はない』という言葉をもらって少し元気がでた。
魔耶(そうだよね。私一人だと無理でも、二人なら…まだ希望はあるんだ。きっとまだ時間もある。私が諦めてどうするんだ…!)
少しでも諦めていた自分を情けないと思った。私の為に頑張ってくれている人がいるのに、私が諦めたらその人達に申し訳ない。
カルセナ「魔耶?行くよ〜?」
魔耶「あ、はーい」
二人で再び北街に戻るべく飛び立った。まだ朝の空気はひんやりとしていたが、その冷たさは魔耶の頭を目覚めさせてくれているような気がした。

321:多々良:2020/05/02(土) 11:55

街へ戻っている最中、少し話をした。
カルセナ「で、私達はこれからどうする?」
魔耶「何もしない訳にもいかないしね〜....この事について自分でも調べてみたいな」
カルセナ「そうだねー....んじゃ、また図書館にでも行ってみる?」
魔耶「最初はやっぱりそこだよね....情報は限りなく少ないだろうけど....」
カルセナ「じゃあ、そうしますか〜」
図書館と聞いてふと、借りた本の事を思い出した。
魔耶「....前に借りた本って、貸出期間いつまでだっけ?」
カルセナ「あー、そう言えば色々あって忘れてた....」
魔耶「もうそろそろじゃない?」
カルセナ「でもまだ解読しきって無いよね.....でも、今の件の方が先だもんな」
魔耶「....それなら、ついでに返しとこ?」
カルセナ「だね〜」

そんなこんなで北街が目前となった。図書館に向かう前に、二人は宿へ本を取りに行くこ事にした。

322:なかやっち:2020/05/02(土) 14:04



魔耶「本、本…あ、あった」
本は宿のテーブルに置いたままだった。本を手にとって宿から出る。
魔耶「カルセナー。取ってきたよ〜」
カルセナ「お、ありがとう。早速返しに行こうかー」
魔耶「はーい」
二人で図書館に向かって歩きだした。宿からそう遠くないので、そこまで時間もかからないだろうと予想する。
図書館までの短い道のりで二人は会話を始めた。
魔耶「う〜…最近色々あって疲れたなぁ…。こういう時は糖分が欲しくなるんだよね」
カルセナ「わかるわかる。考え疲れた時は糖分だよね〜。まだ宿にチョコが残ってるよ?いる?」
魔耶「チョコもいいけど、私がいま欲しいのはキャラメルなんだよ〜」
カルセナ「ほう?理由は?」
魔耶「キャラメルを食べるとなんか…元気が出るんだよね。どんな時でもキャラメルがあれば生きていける」
カルセナ「ふーん…魔耶そんなにキャラメル好きなのね〜」
魔耶「カルセナの力の源がチョコなら、私の力の源はキャラメルだよ」
カルセナ「…私の力の源ってチョコなの…?」
魔耶「え、前に自分で…あ、それブラッカルだった〜」
ふと、ブラッカルは自分の状況を知っているのかどうかが気になってカルセナに尋ねてみる。
魔耶「ねえ、ブラッカルは私の今の状況知ってるの…?」
もし私が悪魔になってカルセナに危険が迫っても、ブラッカルならなんとかしてくれるかもしれない。もしブラッカルが知らないのなら、知らせておいてほしいが…。

323:多々良:2020/05/02(土) 14:58

カルセナ「あー、知ってると思うよ?」
魔耶「そっか、それは良かった....」
カルセナ「でも、あいつ酷いんだよ!!魔耶の事を変に言いやがって〜....だから今絶賛喧嘩中!」
魔耶「え....そうだったの?てか話したんだ...」
カルセナ「うん。あいつが言った事に私が口出ししたら何か怒って、もう助けてやらないみたいな事言われたからさ〜....本当に、短気で嫌なやつ!!」
昨夜の出来事を思い出しながら、不満気に愚痴を溢す。
カルセナ「....ところで、魔耶が会ったもう一人の自分?との関係はどんな感じなの?流石に協力出来る、なんて事はないかもだけど....」
自分の状況と重ね合わせて、魔耶に問い掛ける。

324:なかやっち:2020/05/02(土) 15:23

魔耶「うーん…カルセナとブラッカルみたいに口調が違ったりはしてなかったな。性格はよくわからんけど、ほとんど私だったね」
カルセナ「え〜…じゃあ協力できたりしないかなぁ?あいつ(ブラッカル)みたいに嫌な奴じゃないかもしれないじゃん」
魔耶「それは…どうだろうね」
魔耶は彼女が言っていた言葉を思い出した。外に出るのが楽しみだとかなんとか言ってたのに、そのチャンスを不意にするなんて嫌だと思うだろう。まだよく性格も分かんないし…
魔耶「…まあ次会ったら説得してみるよ。期待はできないけど…」
カルセナ「うんうん。…あ、着いたね」

325:多々良:2020/05/02(土) 17:22

前と変わらない綺麗さを保った、大きな図書館に到着した。
魔耶「はぁ〜....何かしらがあるといいけどな....」
カルセナ「ま、探してみよっか」
魔耶「だね〜」
中に入り、受付の人に借りた本を返した。

魔耶「....そういうジャンルの文献は、どこにあるんだろうねぇ」
広い図書館の中、限りなく近いものを求めて探し回る。
カルセナ「こんだけ広いんだもん、どっかにあるでしょ」
魔耶「てか、ジャンル的にはどーゆー風なものなのかな」
カルセナ「う〜ん......魔術系統?」
魔耶「そんなんあるかなぁ〜....取り敢えず全部回ってみるか....」
手分けをして、ありとあらゆる本棚を端からチェックする事にした。
カルセナ「....あ、お菓子の本だ〜。美味しそう....いやいや、こんな事してる暇じゃないわ」
魔耶「....今んとこ無いか....そりゃ、そんな簡単に見つかったら苦労しないよね」

326:なかやっち:2020/05/02(土) 18:53

ふと先ほど返した本を見つけた時のことを思い出した。
…確か、カルセナが適当に選んだ本がそれだったんだよね…
魔耶「頑張れカルセナ、君にかかってる」
カルセナ「まって一人で勝手に考えて勝手に自己解決しないで。どういうことよそれ…?」
魔耶「いやぁ、さっき返した本はカルセナが偶然見つけた本だったじゃん。だから今回もカルセナが適当に選べば見つかるんじゃないかな〜って」
カルセナ「あれは偶然だったんだよ…?今回もそんなことが起こったら、私超ラッキーガールじゃない。偶然の意味わかってる…?」
魔耶「むう…それもそうか…。でも私運がないからな〜。見つけられる可能性が高いのはカルセナだと思うよ」
カルセナ「私もそこまで運があるわけじゃないと思うけどなあ…」
魔耶「私よりはあるよ、きっと」
カルセナ「むしろ最近色々な目にあってる魔耶のほうが見つけられるんじゃない?」
魔耶「そうかな…。プラマイゼロ?」
カルセナ「プラマイゼロ」

327:多々良:2020/05/02(土) 19:30


....まぁまぁな時間が経っただろうか。二人はまだ、需要がありそうな書籍を見つける事が出来ていなかった。
カルセナ「うおぉ〜.....無いなぁ.....」
魔耶「今回ばかりはちょっと大変かもね....」
しかし、諦める訳にもいかない。この間にも、魔耶の悪魔化は僅かながらも進んでしまっているのだろうから。
カルセナ「....何かそれっぽいもの見っけた〜?」
魔耶「う〜んとねぇ.........この妖怪辞典と〜」
カルセナ「ほぉ....」
魔耶「あと、黒魔術の本的なやつ」
二冊の本をテーブルにドサッと置く。これまた、どちらも分厚い本だった。
カルセナ「あっち側は無さそうだったよ」
魔耶「本当に無いんだねぇ、こーゆーの....黒魔術の本とかに、何かの情報とか載ってたりしないかな」
カルセナ「黒魔術って、どんなの?」
魔耶「見る限りはねー.....悪魔召喚とか、呪術とかかな?」
カルセナ「当たり前だけど、怖い系ばっかですね.....悪魔召喚ねぇ.....。悪魔召喚してみて、どうすれば良いか聞き出せば?」
冗談混じりで魔耶に提案する。
魔耶「普通、侵食されてる相手に聞くもんかねこれ....」

328:なかやっち:2020/05/02(土) 20:01

魔耶「…っていうか、そもそも私魔法なんて使えないし…」
カルセナ「え、使えないの?魔耶ならなんやかんやでできそうだと思ってたんだけどな〜」
魔耶「私をどんな奴だと思ってたのよ…。私は魔力をものに変える、これだけ」
カルセナ「魔力を使ってものをつくってるんでしょ?そんな感じで魔法も使えないの?」
魔耶「…」
カルセナ「…魔耶?」
…カルセナの言葉で嫌な記憶が蘇ってきた。
魔耶「…私の魔法を習おうとしたときの失敗談、聞きたい?」
カルセナ「え、なにそれ?聞きたい聞きたい!」
私は軽くため息を吐きながら話し始めた。
魔耶「私を育ててくれた人は魔法をよく使っててね。それを見て私も魔法使いたいって思ったのよ。それで、特訓をすることになった」
カルセナ「育ててくれた人…?親?」
魔耶「いや、親の知人だった人。私の親は私が生まれてすぐに死んじゃったらしくてね、覚えてないや。…んで、特訓してときに私はすごいことに気がついちゃったのよ」
カルセナ「どんなこと?」
魔耶「私に魔法の才能が全くないってこと」
カルセナ「え、なんでそう思ったの…?」
魔耶「私は幼い頃から能力が使えてたみたいでね。魔法を使うために…例えば炎をイメージして、それを出そうとするじゃない?でも私は魔法より能力を無意識に使っちゃってて…何度やっても、固形の炎をつくっちゃうのよ」
カルセナ「それは…能力の才能がありすぎるのかな…?w」
魔耶「そうかも…wどうやってもできなくて、仕方なく魔法を諦めました。…カルセナは、魔法使えたりしないの?」

329:多々良:2020/05/02(土) 22:08

カルセナ「使える訳ないじゃないっすか〜。ただの人間から転生?した、ただの浮幽霊なんですから。未来を読む事しか出来ません」
魔耶「そっかー....」

少し休憩しようと図書館内にある休憩所まで向かい、そこにあったソファに腰掛けた。
魔耶「カルセナの能力って、人間の頃からあったものなの?」
カルセナ「いんや、能力は無かったけど....人間だった頃は展開を予想すんのが得意だったからなぁ....」
魔耶「ふーん、じゃあ浮幽霊になって初めて、そう言う能力を手に入れたって感じか〜」
カルセナ「そんな感じ。何か、自分の年の分だけ未来を読めるっぽい。内容は忘れたけどこの前、めっちゃ限界まで未来を読んでみたことがあってさ」
魔耶「て事は.....110年先まで読めるって事?」
カルセナ「そゆこと。ま、滅多にこの能力使わないけどね〜」
魔耶「そりゃまた何でさ」
カルセナ「えーだって、先の事分かっちゃったら生き甲斐無いじゃん。まぁ既に死んでるから生き甲斐って言わないけど」
魔耶「確かに....それはそうだなー」
話しながら、窓の外をちらっと見た。近くにある公園では、小さな子供達がはしゃいでいる姿が見えた。
魔耶「うーん....中々重労働だなぁ」
カルセナ「そうだねぇ〜......魔耶って、元の世界に居たときは何して過ごしてたの?」

330:なかやっち:2020/05/03(日) 09:31

魔耶「ゴロゴロしてたよ、うん」
キッパリと言い放つ。
カルセナ「ええ…なんかやることなかったの?」
そんな私に少し呆れながらも、カルセナが質問してきた。
魔耶「お金は欲しかったから月一くらいでつくったもの売ったりしたかな。丈夫だから結構売れたのよ〜?」
カルセナ「お店をもってたの?」
魔耶「いやいや、知り合いのお店を月に一回借りてただけよ。…まあほとんど自給自足生活みたいなものだったからそこまでお金は必要じゃなかったかな。料理道具とか必要なものは自分でつくれたし…たまーに街に降りていって食材買ったりしてたけどね」
カルセナ「ふーん…他に何かやってた?」
魔耶「あとは〜…うーん……あ、たまーにお仕事のお手伝いをしてましたよ」
カルセナ「なんの仕事?」
魔耶「街のパトロール…みたいなの。私を育ててくれた人は結構偉い人でね〜。風紀の管理?を任されてて、ちょっとでも街でトラブルが起こったらすぐ駆けつけられるように街でパトロールしてるの。たまに私もそれを手伝う」
「ほとんどはひったくりを捕まえたりとかだからつまんないけどね」と付け足しておいた。
カルセナ「へえ…すごいことしてるんだねえ…警察みたいなかんじか」
魔耶「そんな感じ。…でもほとんどの時間は家で能力を使った遊びとか、散歩とか、ゴロゴロしたりだとか…そんな生活だったからさ。この世界でカルセナと冒険できて、今とっても楽しいんだ〜」
カルセナ「あはは。私も楽しいよ」
魔耶「ありがと〜。…カルセナはどんなことしてたの?」

331:多々良:2020/05/03(日) 09:51

カルセナ「えーとねぇ.....そう言われると、浮幽霊になってからは魔耶と同じような生活をしてたかも....」
魔耶「ゴロゴロしたりとかって事?」
カルセナ「そうそう、マンションの屋上とかでさ。あと.....家族見守ったり?」
魔耶「へぇ〜、良いことしてんじゃん」
カルセナ「少なからず、悪霊ってもんがいたからねぇ.....でも、良いことだけしてたとは言い切れんな」
腕を組んで考える。
魔耶「....何してたのさ」
カルセナ「うーん......悪戯したり、ちょっと食べ物盗ったり....あ、でも家族からだから!店からは盗ってないからね!?」
少し慌てながら魔耶に強調する。
魔耶「ほぉ.....まぁ、家族からなら百歩譲って許そう」
その言葉に、ほっと安堵の溜め息を吐く。
カルセナ「....てか、何で私はそのまま成仏しなかったんだろうね〜」
魔耶「あれじゃない?まだこの世界に残りたいって気持ちが強かったとか....」
カルセナ「あー、ありそう....ま、あのまま成仏したら魔耶と冒険は出来なかったって事で。別にいっか〜」
ソファにずるずるともたれ掛かって時計を見ると、図書館に入って本を探し始めた時間から2時間程経っていた。

332:なかやっち:2020/05/03(日) 13:16

魔耶「…そろそろ2時間くらいか…お腹すいた。なんか食べない?」
カルセナ「食べてる場合じゃないと思うけどね〜」
魔耶「お腹空いてたら脳みそも働かないよ。腹が減っては戦はできぬ!ってね」
その言葉を聞いて、カルセナが私に質問する。
カルセナ「…なんか最初と比べて危機感薄れてない?自分が消えるかもしれないってときに…」
魔耶「え、そうかな…?…カルセナと話して気持ちが楽になったからかなぁ。あとは、二ティさんが解決方法を探してくれてるってのもあるけど。…も、もう泣いたりしないから!今思い返せば恥ずかしいことを…」
あんなに大泣きしていた自分を思い出して赤くなる魔耶。
元の世界では滅多に泣かなかったのに…この世界に来てもう何度も泣いてるなあ。なんか恥ずかしい言葉も言ってたし、すっごく恥ずかしい。
カルセナ「あはは。恥ずかしがれるってことは元気になったってことだね。よかった〜」
魔耶「たしかに元気は元気だけど…そ、それよりご飯だよ〜。なんか食べに行こ!」
カルセナ「はいはい。ちょっと疲れたし、なんか食べて回復しよう」
二人は図書館から出て、二時間ぶりに外に来た。新鮮な空気を肺いっぱいに吸えて心地よかった。

333:匿名希望:2020/05/03(日) 14:45

二人して、大きな深呼吸をして落ち着いた。
カルセナ「ふぅ〜......んで、何食べに行きます?」
魔耶「いつもの所で良いんじゃない?あそこなら何でもあるし」
カルセナ「そうしよっかー」
お昼と言う事もあり、大通りは沢山の人が歩いていた。恐らく、家族連れが多いだろう。
魔耶「いっつも賑わってて、良いねぇ〜」
カルセナ「人混みはあんま得意じゃあ無いんだけどね....ま、すごい静かっていうのよりは良いけど」
魔耶「だよねー....あれ?さっきの図書館、いつも私達が行ってるお店と近いんだー」
カルセナ「え?あ、ホントだ〜。ラッキーだったね」
そう喜びながら、店に入る。
店員「あ、二人共、いらっしゃいませー!!」
聞き慣れた店員の声が店に響く。何度もこの店に通っているおかげで、店員に顔を覚えられていた。空いている席は、まだあった。
魔耶「あー、お腹空いてきた〜」
カルセナ「今日はどうしよう....」
メニューを見ながら、注文を考える。
カルセナ「.....んじゃ、日替わり定食にしよっかな。魔耶はどーする?」

334:なかやっち:2020/05/03(日) 15:53

魔耶「…じゃあ私もそれでー。苦手な食材が入ってたらカルセナにあげるわ」
カルセナ「好き嫌いしてると大きくなれないぞ」
魔耶「…それは身長のことを言ってるのかな?つまり私が小さいと…?」
魔耶がいつもとは違う笑顔を見せる。なんというか…顔は笑っているのに、本当は笑ってないような…私に圧をかけてるような…そんな笑顔。
カルセナ「い、いや別にそういうわけじゃ…っていうか、気にしてんの…?」
魔耶「別に気にしてなんかいないし〜」
少し不機嫌そうな顔をしながらも、クスリと笑って店員を呼ぶ魔耶。

店員「ご注文をどうぞ!」
魔耶「日替わり定食二つお願いしまーす」
店員「日替わり定食二つですね、かしこまりました。少々お待ちください!」
カルセナ「…デザートも欲しいねぇ…」
魔耶「私も…キャラメルが足りない…。またお菓子買いに行くか」
カルセナ「お、いいねえ。チョコ買いだめしてやろー」
店員さんが料理を運んで来てくれるまでの待ち時間ができたので、二人で会話を始めた。

335:多々良:2020/05/03(日) 18:28

魔耶「買いだめしすぎると全部食べれなくて、消費期限切れちゃうぞ」
カルセナ「程々によ、程々に」
魔耶「ま、程々って人それぞれだもんなぁ.....」
カルセナ「そうそう。....あ、そう言えばさー、今日の新聞の広告にあったんだけど、何かこの北街に新しいお菓子屋さんがオープンしたらしいよ〜。知ってた?」
魔耶「そうなの?知らんかったー。今日の朝新聞見るの忘れてたからなぁ....」
カルセナ「後で行ってみない?デザート調達も兼ねてさ」
魔耶「よし、行こう」
カルセナ「やった〜、良かった割引券持って来といて」
魔耶「....て事は、どっちにしろ行こうとしてたのね」
カルセナ「そうでーす」
すぐ近くの厨房からは、二人の会話を押し退けるかの様な声や物音が聞こえる。とても活気があった。
魔耶「....元気だねぇ、このお店は」
カルセナ「何もかも、元気が一番だよ。うんうん....」
独り言の様に魔耶に言い、自分で頷いた。

336:なかやっち:2020/05/03(日) 20:58

魔耶「…元気が一番、か…。そうだよね、どんなときにでも元気は大事だよね……よし!」
カルセナ「ん?なになに、どしたの?」
魔耶「えへへ。さっきも言ったけど、より気持ちを奮い立たせるためにカルセナの前で今誓います。私、もう泣かないようにします!」
元気よく手をあげて、少し語尾を強調する魔耶。
カルセナ「…それはいいことかもしれないけど…無理して辛いのを我慢しないでよ?そっちのほうが魔耶が泣いてるよりももっと辛いから」
魔耶「分かってるよ。無理するつもりはない。…ただ、後ろ向きに考えて泣いてるよりは前向きに…ポジティブにいこうかと思ってね。カルセナをこれ以上心配させたくないし、泣いてる暇があったらそれを解決できないかを考えないと」
カルセナ「…なるほどね。ほどほどに頑張って」
魔耶「ほどほどに頑張ります」
カルセナと話していて、心が朝よりも強くなったような気がする。でなければこんな発言はできなかったであろう。
…もう泣かない。明るく、前向きに生きる。たとえ悪魔になる一秒前になったって、笑っててやる。


店員「お待たせしました!」
店員の元気な声とともに料理が運ばれてきた。

337:多々良:2020/05/03(日) 22:14

魔耶カル「あ、ありがとうございまーす」
店員「ごゆっくりどうぞ〜」
腹ペコだった自分の目の前にたった今、温かい料理が並んだ。
魔耶「お、今日は生姜焼きかな?美味しそう!」
カルセナ「だねー、早速食べましょうか」
魔耶カル「いただきまーす!!」
手を合わせ、元気良くいただきますの挨拶をした。
ほかほかのご飯と、肉汁が染み出ている生姜焼きを頬張る。
カルセナ「もぐもぐ.........あー、うまぁ〜い.....」
魔耶「活力沸いてくるねぇ〜、このメニューなら.......もぐもぐ....後半も頑張ろう!」
カルセナ「おぅよ!!絶対に見つけてやる!」
空っぽの胃にご飯が入った事で、やる気がどんどん満ち溢れてくるのが分かった。魔耶の言っていた、『腹が減っては戦は出来ぬ』と言う言葉は本当なのかもしれない。

カルセナ「....所でさ〜」
魔耶「ん?どうしたの?」
カルセナ「図書館は全部探すつもりではあるけど.....何も手掛かりなかったらどーする?次はどこに頼る?」
少し頭を傾げながら、飲んでいた水の入ったコップを置く。
魔耶「あー.....どうしよっか.......ま、その時考えれば良いんじゃないかな?ニティさんにも頼む事は頼んであるし」
カルセナ「そっかー、だったら別に良いか....」

338:なかやっち:2020/05/03(日) 22:31

魔耶「とにかく、食べ終わったらまた図書館に行かないとね。…あの図書館だけで何日…何週間かかるか…」
カルセナ「そんなにかからないでしょ。そういうジャンルのところだけ探せばいいんだから…全部の本を見ていくわけじゃないんだよ?」
魔耶「あ、確かに」


カルセナ「あー美味しかったぁ〜」
お店から出て、カルセナが満足そうに息をはいた。
魔耶「ね〜。常連になっちゃうわ……。…さて、図書館行こうか?」
カルセナ「ストップ!その前に、なにか忘れていないかね?」
カルセナの突然の言葉に首をかしげる。なにかあったっけ…
魔耶「ん〜?なにが…あ、デザート?」
カルセナ「うむうむ。図書館の後だといいやつが売り切れてるかもしれないし…」
魔耶「…たしかにそうだねぇ。じゃあちょっと行ってみよっか〜。場所分かるの?」

339:多々良:2020/05/04(月) 07:18

カルセナ「えーっと、時計台のすぐ近くだった筈....新しいお店だから、多分見れば分かるよ」
魔耶「へぇ、じゃあ行こっか〜」
書籍探しは少し休憩し、新しいお菓子屋へと足を進めた。
魔耶「カルセナはどんなスイーツが好きなの?」
カルセナ「うんとねー、私チーズケーキがめちゃくちゃ大好きなんですよ〜。あとチーズタルトとか.....」
魔耶「ほうほう、チーズ系か〜。逆に嫌い....と言うか苦手なものとかある?」
カルセナ「苦手なもの.....生クリームを使ってるお菓子かなぁ....ドライフルーツもあんま好きじゃないな」
魔耶「ふ〜ん、意外と好き嫌いあるんだね」
カルセナ「生クリーム食べると気持ち悪くなっちゃって......」
魔耶「成る程ね.....チーズ系のお菓子あると良いね」
カルセナ「まぁ流石にあると思うけど.....そう言う魔耶はどんなのが好みなの?やっぱりキャラメルとか?」

340:なかやっち:2020/05/04(月) 08:21

魔耶「キャラメルは好きだけど、スイーツとなると…チョコケーキとかが好きかなぁ…」
カルセナ「お、なんで?」
魔耶「キャラメルは固形のほうが好き…というか、ドロッとしたやつはなんかやなんだよね。…嫌いなものはカルセナと同じくドライフルーツ系。あとは…モンブランかなぁ」
カルセナ「ほうほう。チーズケーキは?」
魔耶「チーズケーキも好きよ。生クリームは大好きです☆」
カルセナ「えー、生クリーム食べたら気持ち悪くならない?」
魔耶「ちょっとそれはよくわかんない…」
二人で好みのスイーツを話し合っていると、いつのまにか時計台の近くまでやってきていた。

341:多々良:2020/05/04(月) 11:50

魔耶「あ、ここら辺じゃない?時計台近くって言ったら.....」
カルセナ「だよねぇ、えーと....」
目的の店を探すため、キョロキョロと辺りを見回す。
カルセナ「....あっ、あれだ!!」
指差した店の外見は洋風で小綺麗な建物、そして入り口に『新オープン!!』と貼り紙が貼られていた。
魔耶「あ、ほんとだ。それっぽいね」
カルセナ「早速行きましょぜ〜」
軽快に店内へと足を進める。ドアを開けると、カランという小さな鐘の音が鳴った。
正面から奥へと続く硝子のケースの中には、ずらっと色とりどりなスイーツが並べられている。そのケースの上には、ケーキなどの生菓子だけでなくクッキーやラスクの様なお菓子も並べられていた。新しくオープンしたからか、まぁまぁな人数の客が買いに来ている様だった。
魔耶「おぉ〜!綺麗なお店!」
カルセナ「甘い匂いがして最高だ〜......全部美味しそうだし」
魔耶「だね〜、じゃあ各自好きなの見定めますか〜」

342:なかやっち:2020/05/04(月) 14:04

カルセナ「そうだね…あ、チーズケーキ!買っちゃお〜」
自分の好物を見つけ、嬉しそうにチーズケーキを取りに行くカルセナ。
魔耶「早速お目当てのものを見つけたか…私はどうしよっかな〜?色々あるから迷うわ〜」
順番にケースを覗いていく。抹茶ケーキに、ロールケーキに、ミルクレープに…どれもきれいで美味しそうだった。
魔耶「うーん……あ、あった!チョコケーキ〜♪…ん、ショートケーキもある…。」
チョコケーキの隣にはショートケーキが置いてあった。…どっちも好きだからなぁ…。魔耶の心がふたつのケーキの間で揺れる。
魔耶(チョコケーキの隣にショートケーキを置くとは…私を迷わせる気満々な配置。…まさか、両方買わせようというお店の魂胆か…!?)
カルセナ「…魔耶、なんか変なこと考えてる…?」
いつのまにか戻ってきていたカルセナが、私の表情を見て呆れたような声を出す。
魔耶「いんやまったく。チョコかショートかで迷ってて…どっちがいいかなぁ?」
カルセナ「どっちも買えば?」
魔耶「ん〜…ケーキは賞味期限あんまりもたないから一つに絞りたいんだよね…そんなに食べきれないし…」
カルセナ「ふーん……あ、これにすればいいじゃん」
カルセナが指を指したのは、普通のケーキの半分しかない小さなケーキだった。値段も半分だ。
カルセナ「これのチョコとショート買っちゃえばどっちも食べれるじゃん?」
魔耶「……天才っ…!」

343:多々良:2020/05/04(月) 15:45

カルセナ「ふっふっふ、選択の神と呼んでくれたま..」
魔耶「あとは何か美味しそうなものあるかな〜♪」
カルセナ「おいっ!」
魔耶「ん?何よ?」
カルセナ「.....何でもないっす。」
先程のやり取りは忘れ、他のお菓子も見ることにした。
カルセナ「何か、シェア出来るようなお菓子とか欲しいなぁ....」
魔耶「ケースの上のお菓子とかどう?クッキーとかあるし」
カルセナ「そうだねぇ....あ、これとか?」
目をつけたものは、角砂糖の様に四角い形をしているクッキーだった。一口サイズで食べやすそうだ。
カルセナ「うーん、プレーンとチョコ.....どっちが良いかなぁ」
魔耶「........あ、ねぇねぇ、こっちにそのミックスがあるよ〜?」
魔耶が、少しずれた所に置いてある籠を指差して教えてくれた。
カルセナ「え?ほんと?じゃあそっちの方が良いな....それにするわ」
魔耶「お買い上げありがとうございま〜す」
カルセナ「何か、借りを返された気分だわ.....」
楽しそうに他の商品を見ている魔耶の顔を見て、カルセナも笑う。
カルセナ「.....うん、私はもう良いかな〜。魔耶どーする?」

344:なかやっち:2020/05/04(月) 18:50

魔耶「私ももういいや〜。早く食べたい…」
カルセナ「せっかちだなあ…じゃあ魔耶の分もまとめて買ってきてあげよう。二人で並ぶよりも効率がいいじゃない」
魔耶「感謝感激…んじゃあ外で待ってるわ〜。よろしくね〜」
カルセナ「おう」

魔耶「どっか座れるところないかなあ〜」
お店から出た魔耶は休憩できる場所を探していた。ベンチか何かはないかとあたりを見回す。
…すると、見慣れた影が視界の端に映った。
魔耶「ん?…あれは…」
少し小さめの帽子に、赤と白の服装…
魔耶「ひまり〜!」
ひまり「…あら、魔耶?」
時計台から少し離れたところにひまりがいた。

345:多々良:2020/05/05(火) 08:20


魔耶「......〜!」
カルセナ「(....ん?何か言ったか?)」
店の外で魔耶が何かを口にし、手を降っている様子が見えた。
カルセナ「(....あぁ、誰かいたのかな)」
店員が、白く小さな紙の箱でケーキを梱包してくれている間、ボーッと色々な事を考えていた。
1つは、魔耶の事。
自分で魔耶に大丈夫、などと言ってはいる。ニティさんも情報を集めに行ってくれている。それでも、心の中に不安という文字が残ってしまっていた。これまで出会った事もない異変。簡単に解決も出来ないであろうものに、不安感など消せる筈が無かった。....でも、今は全力を尽くすしかないのだ。魔耶を助ける為に。
そしてもう1つは、ブラッカルの事。
もう考えたくもない。仲直りなんて、あいつと出来る訳がない。そう思って思い出さないようにしているのに、頭の中で考えてしまっている。何故だろうか....今の自分には分からなかった。だから、これからも出来るだけ思い出さないようにするだけだ。

店員「....お待たせしました〜!」
カルセナ「....あ、はい、ありがとうございます」
ケーキの梱包が終わった様だった。

346:なかやっち:2020/05/05(火) 10:29

小走りをしてひまりの元に行く。
ひまり「今日は一人?カルセナはいないの?」
魔耶「カルセナはスイーツ買ってくれてるよ。ほら、そこの新しくオープンしたお店で」
カルセナがケーキを買っているであろうお店を指で指す。
ひまり「…あぁ、あそこね。私もこれからいこうと思ってたのよ。………ところで、魔耶?」
魔耶「ん?なに?」
ひまり「今日の朝宿まで迎えに行ったのに、なんでいなかったのよ?そのあとギルドにも行ったけどいなかったし…。どこにいってたの?」
魔耶「…!」
ひまりからジーッと見つめられて焦る魔耶。
どうしよう…ひまりに伝えるべきだろうか……でも、ひまりとみおまで巻き込みたくないなぁ…
魔耶「え、えっと、あの〜…」
なんとかひまりを納得させる答えを発しようとしていると…
カルセナ「…魔耶〜買ってきたよ〜?…あ、ひまりじゃん」
いいタイミングでカルセナが来てくれた。ケーキを買い終わったようだ。そのお陰で話をそらすことに成功する。
魔耶「つ、ついさっき見かけたから声をかけたのよ」
カルセナ「そうなん?偶然だね〜。ひまりもケーキ買いに来たの?」
ひまり「そうそう。私甘いものが大好きなのよね〜。あ、じゃあ私も今から買ってこようかな。一緒に食べようよ」
カルセナ「オーケーオーケー。そこら辺で待ってるね」
ひまり「うん。じゃあササッと買ってくるから〜」
ひまりがお店に向かっていき、私とカルセナがその場に残された。

347:多々良:2020/05/05(火) 16:01

カルセナ「いってら〜.....ふぅ、何話してたの?」
魔耶「いや、別に何も.....今の私の状況知られたくなくて、つい話逸らしちゃった」
カルセナ「?むしろ知られた方が良いんじゃないの?あわよくば協力も....」
魔耶「いやさ、ひまりとかみおとか巻き込みたくないなぁって思って....」
その顔からは、ひまり達を想う意識が滲み出ていた。
カルセナ「成る程....そーゆー事ね。まぁ、魔耶が言うならそれは合ってるな」
魔耶「どうだかねぇ.....所で、どこで食べよっか」
カルセナ「ここら辺に何かそう言う休憩スペースがあったっけ?あるならそこらで良いとは思うけど」
魔耶「そう言うのに関してはひまりの方が詳しそうだし、戻ってきたら聞いてみよ」
カルセナ「だね〜」

のほほんと雑談をしている内に、店の出入口からひまりが顔を覗かせた。
ひまり「ごめんごめん、お待たせ〜!!」

348:なかやっち:2020/05/05(火) 17:22

魔耶「おかえり、早かったねぇ。急かしちゃった?」
ひまり「ううん、買うものはとっくに決めてたから〜」
カルセナ「ほう…なに買ったの?」
ひまり「えへへ、これこれ〜」
ひまりが袋から取り出したのは、カップの中に入ったかわいらしいイチゴタルトだった。
魔耶「わ、美味しそう…!」
ひまり「でしょでしょ!?私いちご好きなんだー。チラシに載ってて、ひとめぼれ☆」
カルセナ「へー、ひまりいちごが好きなんだ?たしかにそんな感じするわ〜。…んで、どこ座りましょう?」
ひまり「んーと…あ、時計台の後ろにベンチがあるからそこで食べよっか」
カル魔耶「はーい」

349:なかやっち hoge:2020/05/05(火) 17:26

(あれ、カップに入ったいちごタルトってなんやねん…。最初カップケーキかアイスかにしようと思ってたから間違えちゃった…w
『ひまりが袋から取り出したのは、かわいらしいイチゴタルトだった』に訂正。暑さで頭がショートしたか…w)

350:多々良 分かる。最近いきなり暑くなったよね....:2020/05/05(火) 18:12

三人で時計台の後ろへと移動する。
見ると、丁度良く影が出来ていて、燦々と降り注ぐ日光が直に当たる事はなかった。
腰を降ろし、ふぅと息を吐く。
魔耶「あ〜.....この場所気持ち良いね」
ひまり「でしょ?中々オススメの隠れスポットよ。....さ、悪くならない内に食べよ!」
一同「いだだきまーす」
カルセナ「はい魔耶、これ」
魔耶が選んだ2つの小さなケーキを箱から出し、手渡す。
魔耶「ありがとー。2つも違う種類が食べれるなんて贅沢だわ〜」
ひまり「ふふふ、欲張りじゃん?」
魔耶「違いますー、悩んだの!そしたら丁度良いのをカルセナに見っけて貰ったからさ」
美味しそうにチーズケーキを食べているカルセナの顔の方を向く。
カルセナ「もぐもぐ.....うまぁ〜!!もぅほんと最高......Thank you チーズケーキ....」
ひまり「大好きなんだねぇ、チーズケーキ」
カルセナ「ケーキの中で一番美味しい。Best。Best of cake に輝いて良いよこれは....」
魔耶「あはは、何か英語飛び出してるし....」
カルセナ「あぁ、美味しすぎてつい.....二人のも美味しそうだね....お味はどうですか?」

351:なかやっち:2020/05/05(火) 20:10

ひまり「超美味しいよ!イチゴタルト大正解だったなぁ〜♪」
魔耶「うん、チョコとショートも美味しい…!甘すぎない生クリームが絶妙…最高ですね…」
カルセナ「…魔耶は感動すると敬語になるのかな?」 
カルセナに言われて今までの言動を振り返ってみる。初めてキャラメルを食べたとき…梅グミを食べたとき…
魔耶「…たしかにそうかも…」
そんな私達を見て笑うひまり。
ひまり「あははっ!二人とも普通にリアクションできないの?」
カルセナ「私一応外国人だから…しょうがないね」
魔耶「…無理っすね。感動すると敬語になるくせがあるのかな〜」
ひまり「二人とも面白いわ〜。こういうの何て言うんだっけ…あ、そうそう、似た者同士!」
魔耶「ん〜…?似てるかなぁ?」
カルセナ「まぁたまに意見が一致することもあるけど…」
ひまり「ずっと一緒にいたから性格が似ちゃったんじゃない?結構似てるとこ多いと思うよ、二人とも。第三者の目じゃないと分からないかもだけど」
魔耶「そうかねぇ…」

352:多々良:2020/05/05(火) 22:51

カルセナ「まぁほら、ペットは飼い主に似るって言うもんねー?」
魔耶「はっはー、どっちがペットだと言いたいんだ?」
目以外が笑っている顔でカルセナを見る。
カルセナ「う....別にまだ何も言ってないっす....」
魔耶の視線に一瞬たじろぐ。こんなやり取りをもう何回しているのか....。
ひまり「あははっ!!あーあ、面白いなぁ。二人が来てから、笑う事が更に増えたわ」
魔耶「そりゃどうも。もぐもぐ.....」
顔を直して、再びケーキを頬張る魔耶。その左隣で、口に気を付けるのを忘れていた事を少し悔やむカルセナ。右隣で、笑顔を絶やさずに二人を見るひまり。
この世界にいる間、この光景がずっと続けば良いのに。それなら平和でいられるのに。日常茶飯事である当たり前の出来事でも、色々な考えが浮かんでくるものだった。
そんな考えを遮るかの様に、時計台の、午後2時を知らせる鐘が北街に鳴り響いた。
魔耶「.....う〜、ここは中々大音量だねぇ....鐘が」
ひまり「そりゃあ、この時計台から鳴ってるからね。....そう言えば、この時計台の中ってどうなってるのかな〜」
カルセナ「あれ、ひまり知らないの?」
ひまり「うん、多分だけど....かなり長い間、この時計台に出入りした人はいないと思うわよ」
魔耶「へぇ〜......手入れとかしないのかな」
ひまり「こうして動いてるから、問題はないだろうけどね」
カルセナ「ふーん......ふぅ、ごちそうさま〜」
あっという間に、ぺろりとチーズケーキを平らげた。

353:なかやっち:2020/05/05(火) 23:11

魔耶「私もごちそうさま〜。満足満足」
続いて魔耶もケーキを平らげ、満足そうな顔をする。
ひまり「あ、二人ともはやーい。もっと味わって食べなよ〜?」
魔耶「え…結構味わって食べたつもりだったんだけど…」
ひまり「ほんとに〜?」
カルセナ「ほんとに〜。……さて、図書館に戻ろう…」
魔耶「あっ」
カルセナ「あっ」
ひまり「…図書館…?」
カルセナがうっかり図書館というワードを口にしてしまった。…なにをするのかと聞かれる前にごまかさないと…
魔耶「そ、そうそう!図書館で料理本借りてこなきゃね!」
カルセナを横目で見て、話しを合わせろと目で訴える。それに気づいてかカルセナもあわてて話しにのっかった。
カルセナ「う、うんうん!最近料理にはまっちゃってさ〜」
ひまり「へぇ…そうなの…あ、だから今日の朝いなかったの?料理本探しに図書館へ行ってたの?」
魔耶「実はそうなんだ〜。なんかもう朝一番に探しにいきたいくらい料理にはまっちゃって〜」
カルセナ「そーゆーこと〜。…んじゃ魔耶、行こっか〜?」
魔耶「そーだねー。じ、じゃあひまり〜またね〜!」
ひまり「え、えぇ…」
いきなり様子がおかしくなった二人の姿を見送りながら、ひまりは一人ベンチで首をかしげたのだった。

354:多々良:2020/05/06(水) 08:48


カルセナ「....ふぅ〜、危ない所だったぁ〜」
魔耶「全く、気を付けて欲しいわ....ま、あれで誤魔化せたなら良いけどね....」
小走りで時計台から離れ、頃合いを見計らって歩き始めた。
カルセナ「いやー、ナイスフォローだったよ魔耶」
魔耶「いえいえ、どういたしまして」
ずっと時計台の後ろにいたから気付かなかった。午後になると、太陽がより強く日光を浴びせてくる。加えて街の活気もあったせいで、まぁまぁ蒸し暑い。
カルセナ「あ〜......ちょい暑いなぁ....」
帽子を脱いで、それで自分を扇ぐ。
魔耶「そうだねー、さっさと図書館に入っちゃお」
少し早歩きで図書館に向かう。小走りした分もあって、結構早く図書館に着いた。

図書館内で一息つく。
魔耶「.....はぁ、ここなら外よりは良いねぇ」
カルセナ「だねぇ、んじゃあ本探し再開しますか〜」

355:なかやっち:2020/05/06(水) 09:30



魔耶「………眠い…」
本を探し初めて1時間ほどたった頃、魔耶がぼそりと呟いた。
カルセナ「うーむ、ご飯食べたばっかだもんねぇ…」
魔耶「うん、ご飯食べたあとにずっと座ってるんだもん。眠くもなるよ〜……。…カルセナ、なんか眠気を吹き飛ばすくらい面白いことして」
カルセナ「むちゃ言うなよ〜」
…眠いなぁ…瞼を閉じたらすぐ寝れちゃいそうなくらい眠い…。軽く頬を叩いて眠気を覚まそうとする。
魔耶「寝てる場合じゃないってのに〜。むー…」
カルセナ「コーヒーでも買ってこようか?」
魔耶「…苦いのは嫌い」
カルセナ「小さい子供みたいなこと言ってんなよ〜」
魔耶「だって嫌いなんだもの〜。あと小さいは禁句」
軽くカルセナを睨む。
カルセナ「あ、ごめん。…ん〜……眠気を覚ます方法…あっ」
魔耶「…?なに?」
カルセナ「お化け図鑑見つけた〜。怖いのみれば眠気も覚めるんじゃない?」
カルセナが手に持っているお化け図鑑の表紙にはカラーのお化け達がたくさん描いてあり、少しリアルということも相まってとても怖そうだった。
魔耶「……もうお化け…幽霊は見飽きてるよ。っていうか、カルセナお化け苦手じゃなかったっけ」
カルセナ「う…うん、苦手ですけど…イインジャナイカナーと…」
魔耶「ははっ、お化けが苦手な幽霊にお化け図鑑を読むことを薦められるとは…人生って面白いわ」
カルセナ「いきなり人生の面白さを説く、彩色魔耶(魔族)」
魔耶「べつに魔族が人生の面白さを説いたっていいじゃない。100年そこらしか生きていない人間に説かれるより信憑性があると思うんだけど〜」
カルセナ「…まぁたしかにそうだけど…元人間の前でそれ言う?」
魔耶「あ、ごめん…」
…やっぱり楽しいな、カルセナとのこういうやり取り。なんの心配もなく、下らない話しをずっとしていたい。昨日みたいにシリアスな話しなんてもうしなくていい。…なんて、少し考えてしまった。
魔耶「…変なこと話してて眠気も覚めた気がするよ」
カルセナ「そう?それは良かった〜」
魔耶「あと2時間くらいは粘ろうか」
カルセナ「了解でーす」

356:なかやっち hoge:2020/05/06(水) 09:33

(『100年そこらしか生きていない人間』じゃなくて、『100年そこらしか生きられない人間』の方がいいか。訂正)

357:多々良:2020/05/06(水) 13:36


約2時間後....

魔耶「.....うぅ〜、疲れた....」
カルセナ「ね.....何かそれっぽいものあった?」
二人共、疲労困憊した様子で結果発表をする。
魔耶「あっちの棚にありそうだったから探したんだけど......有力な情報が載っている本は一切無し」
カルセナ「そうか〜....こっち側も、そう言う感じの本は無かったよ」
魔耶「やっぱ難しいなぁ....悔しいけど、今の所はニティさんの情報を待つしかないのかなぁ....」
カルセナ「....取り敢えず、宿に帰る?」
魔耶「....そうだね」
のそのそと図書館を後にする。空に浮かぶ太陽は、既に傾きかけていた。
カルセナ「あーあ、何か特別なとことかじゃないと、情報という情報は無いのかな〜....」
魔耶「特別なとこって?」
カルセナ「例えば、ニティさんが向かった天界とか....あと....うーん...あの人達に聞く....?」
魔耶「あの人達......あー。いや〜、難しいんじゃない?それは....」
二人が思い浮かべたのは、前に事件を起こした蓬達の事であった。
カルセナ「そっかー。確かに、遠いしなぁ....もっと身近に良い情報落ってないか〜」
魔耶「はは....そうだったらこんな苦労してないよ」
カルセナ「うん、そだねぇ....」

358:なかやっち:2020/05/06(水) 15:14

魔耶「…ギルドマスターに聞くっていう手もあるけど…」
カルセナ「あー…いや、めぐみさんにはもとの世界に帰るための情報を探してもらってるからなぁ〜」
魔耶「そっかぁ。流石にちょっと頼りすぎか…」
二人で情報を持っていそうな人を考えたが、やはり思い浮かばなかった。
魔耶「ねぇ、実はピンチだったりする?」
カルセナ「あれ今更??」
魔耶「いやぁ…なんか危機感薄れちゃって〜。自分が消えちゃうなんて、現実味がない話というか…」
…少しだけうつむいてカルセナの視線から顔を外す。
カルセナ「…そうだろうね…私も、明日自分が消えるってなったって実感わかないだろうなぁ〜…」
魔耶「…」
せめて、いつ私が消えてしまうのかくらい知っておきたい。余計に不安になってしまう。…いつ自分が消えるか分からない恐怖と不安が重なって………
魔耶「っ!」
自分の両の頬を思いっきり手で叩く。
カルセナ「わ!なに、どうしたの!?」
魔耶「…ポジティブにいくって決めたのに、なんか嫌なこと考えちゃって…リセット‼」
カルセナ「……はは、魔耶らしいや」
半分呆れたように、半分面白そうにカルセナが呟いた。

359:多々良:2020/05/06(水) 19:03

魔耶「嫌な事は忘れちゃわないとね!あ、着いたじゃん」
時間の流れは早い。話している内、あっという間に宿に着いた。
ささっと自分達の部屋へと向かう。

カルセナ「....たっだいまぁ〜」
魔耶「ただいま〜。帰ってきたぁ〜」
そう言って、魔耶はベットに転がり込む。疲れ果てた体がほぐされるかの様な気分になった。
魔耶「ベットこそ真の我が家って感じ....」
カルセナ「疲れたときはそうだよねー。まだ夕飯時まで時間あるし、私も休もっかな....」
魔耶「そうしろそうしろー。私は寝るぞー」
がばっと掛け布団を顔の位置まで掛けた。かなり疲れている様だ。
魔耶「お休みー」
カルセナ「ん、お休み〜......私も魔耶に続くか」
帽子をテーブルの上に置いてから自分のベットに座り、そのまま倒れ込む。
カルセナ「.....お休みっと」
掛け布団を掛けずに、眠りに就く事にした。

360:なかやっち:2020/05/06(水) 20:06



悪魔耶「また会ったね。いらっしゃ〜い」
再び目を開けたとき、見えたのは鎖に繋がれた悪魔耶の姿だった。心なしか前よりも鎖の数が減っているように思える。
魔耶「…またここかぁ…。私は眠るとここへ来ちゃうの?」
悪魔耶「そうなんじゃない?まぁ今だけだろうけどね〜」
悪魔耶がニコニコと笑いながら問いかけに答える。
魔耶「ふぅん……あのさ、私の体を浸食するの、やめる気ない?」
今度会ったら説得してみようとカルセナに約束したのだ。それを今、口にしてみる。
魔耶「私まだ消えたくないし…君はなんで外に出たいの?」
悪魔耶「…」
悪魔耶が考え事をしているような表情を見せる。
悪魔耶「こんなところに私がずっといたいと思う?外の方が楽しそうじゃん。だから私は外にでたい。…外に出て……いや、やめとこう。とにかく、私は君を浸食するのをやめる気はないよ」
魔耶「……」

361:多々良:2020/05/06(水) 21:58



カルセナ「....またかぁ」
感じ慣れた空気、いつもの空間。行きたくなくとも、一度はここへ来てしまうようだった。
カルセナ「もう来る必要無いと思うんだけどなぁ......あっ」
遠くを見て、思わず口に出る。そこで背を向けていたのは、紛れもなくブラッカルだった。
声は向こう側に聞こえている筈だが、こちらを向く素振りを一切見せない。
カルセナ「....そりゃそうか。だって喧嘩してるもん....」
「...お願い........り....して」
カルセナ「.....え?何....?」
前にも聞いた事がある様な声だ。もう一度耳を澄ます。
「.....仲直り....して」
今回は空耳なんかじゃない。はっきりと聞こえる。
カルセナ「....仲直り?あいつと....?....と言うか、誰?」
声は、正体を現すことは無さそうだった。質問をしても黙られてしまう。
カルセナ「......無理でしょ...だってあいつは、魔耶の事....」
「......早まっちゃっただけ」
カルセナ「....え?」

362:なかやっち:2020/05/07(木) 09:15

魔耶「」

363:なかやっち hoge:2020/05/07(木) 09:16

(間違えて書き込む押しちゃいましたあああ!!超スーパーミラクルダイナチックウルトラ土下座)

364:なかやっち:2020/05/07(木) 09:43

魔耶「…まあそうだろうとは思ってたけど…ほんとに、君は何をしようとしてるの?何が目的…?」
悪魔耶「うーん…今言うとダメだから言わなーい。昨日言おうとしてたんだけど…やっぱりやめとくよ。君が鎖に繋がれる直前になったら教えてあげる」
魔耶「…」
悪魔耶「…まあ、一つだけ君に言っておくなら」
魔耶「…?」
悪魔耶「私が死んだら君は死ぬ。君が死んだら私は死ぬよ」
魔耶「っ…‼」
当然の衝撃告白に瞳孔が大きく開かれる。
…だから、私は消えるんじゃなくて鎖に繋がれなきゃいけないのか…?私を生かしておかないと自分の命が危ういから…??…なぜか驚きと衝撃の中でそんなことを考えた。
悪魔耶「…だから、私をどうにかしようとしてるなら私だけを封じなきゃいけないよ。そんなことできないだろうけど」
魔耶「…な、なんで…そんなこと…こんなタイミングで…?っていうか、君をどうにかしなきゃって…私がやっていること、わかってたの…?」
悪魔耶「早めにいっておかないといけないことだったからさ。私を止める方法として、この空間で私を…なんてことにされたらたまんないし…。あと君がやってること知ってるのかって?うん、知ってるよ。君の外の世界での様子は全部伝わってきてる。…君が大事に思ってる人のことも、ね」
魔耶「…!……カルセナに手を出したら…許さないから…!」
悪魔耶「はは、どうだろうねえ。私が外に出たら君と私が会うことなんて二度とないんだから、君が私の行動を止めることなんてできないと思うけど。……ん?」
魔耶「な、なに…?」
悪魔耶「現実で、君のところにお客さんが来たみたいだよ?…んじゃあまたね。もう会う回数は少ないだろうけどー」
魔耶「わ!ちょ、まだ…」
昨日と同じように空間が歪み、私は夢の世界から現実に放り出された。


魔耶「むう…悪魔耶と別れるときはいつも歯切れが悪い……」

365:多々良:2020/05/07(木) 12:21


声は、少し間を空けて会話してくる。
カルセナ「....何が?早まっちゃっただけって言われても.....」
「....魔耶ちゃんの事、大切でしょ?」
カルセナ「うん」
「....だから、気持ちが入りすぎちゃって、こんな風になっちゃったんだよ」
カルセナ「何?どっちが....?」
「....どっちも。二人は一心同体だからね。気持ちも同じになるんだよ」
カルセナ「....それが分かった所で、仲直りなんて出来ないって....」
「....何で二人は喧嘩出来ているの?」
カルセナ「え?それは....あいつが魔耶を悪く言ったから....」
「....それは違う。聞いているのは、何で『出来ているのか』だよ」
カルセナ「.....分からない」
「....感情があるからだよ」
カルセナ「感情....?」
「....感情があるから喧嘩出来る。だから、仲直りだって出来る筈。過去の嫌な発言は一旦忘れて、仲直りしてみなよ」
カルセナ「.....うん」
そう簡単に出来るものなのだろうか。多少の疑問と不安を持ちながら、ブラッカルの方を向く。

366:なかやっち:2020/05/07(木) 12:44

独り言のようにポツリと呟く。…すると、それに反応するかのように玄関口からトントンという音が聞こえた。
魔耶「わっ!…な、なんというタイミング…誰だろ」
玄関へ歩いて向かっていく。その間もトントンというノックの音が絶え間なく続いていた。

玄関の扉を開け、ノックをしている人物を確認する。
魔耶「はーい…どちら様…………ッ」
??「…夕飯時にすまないな。あと遅くなってすまない。…まだ悪魔化はそこまで進んでないようだな。安心したぞ」
魔耶「…に、ニティさん‼」
そこにいたのは今朝天界に行ってしまったはずのニティさんだった。少し安心したような、それでいて険しさもある不思議な表情を浮かべている。
魔耶「早かったねぇ……なにか分かったの…?」
ニティ「……分かったには分かったが…とりあえず中に入れてくれるか?部屋の中で話そう」
魔耶「あ、はい…」
ニティさんの表情からはなにも読み取れない。この問題が解決できるのか、できないのか……不安を抱きながら魔耶はニティを部屋に招き入れた。

367:多々良:2020/05/07(木) 17:20


カルセナ「.....あのさ」
そっと声を掛ける。
カルセナ「ねぇ、ちょっと、聞いてくんない....?」
そう促すと、ブラッカルは嫌々こちらを見た。
カルセナ「.....昨日の事なんだけど....あの.....何とか和解出来ないかな....」
暫く沈黙を貫いていたブラッカルだが、漸く口を開いた。
ブラッカル「.....よく分からねぇ声に唆されて、適当な事ほざいてんじゃねぇ。何が和解だ」
カルセナ「えっ......そっちも声が....聞こえるの?」
この質問に応えず、話を進める。
ブラッカル「....私とテメェは一心同体。声の言ってる事は、あらかた間違っちゃあいねぇ」
カルセナ「そう、だから私は、仲直りしようと....」
ブラッカル「さっきの言葉の意味が分かるか?」
カルセナ「....え?」
ブラッカル「一心同体って事はだ。まだ、私達は駄目って事だ。私も、今はお前が嫌いだ」
言っている意味が良く分からない。まだ、駄目....?今は嫌い....?
カルセナ「....何で?どういう事....?」
ブラッカル「言われた事をそのままやるだけじゃ、何も解決しねぇんだ。....本当に和解してぇんだったら、自分を変えてからもう一度来やがれ」
カルセナ「え?ちょ、ちょっと、何か教えてよ!!」
ブラッカル「うるせぇ、聞いて楽しようとすんじゃねぇよ!こんくらい自分で考えられんだろ!.....じゃあな」
何の前触れも無く、強い眠気が襲って来た。また対応を間違えたのかなぁ.....。それとも、今回は大丈夫なのかな.....分からない.....な。


カルセナ「....うぅ....ん」

368:なかやっち:2020/05/07(木) 17:55

ニティ「…カルセナは…?」
部屋に向かっているとき、ニティさんが質問してきた。
魔耶「あ、夕飯まで少し時間があったからついさっきまで二人で寝てて…カルセナはまだ起きてないよ」
ニティ「…そうか。あやつはお前の相方だからな、できれば二人で聞いてほしい」
魔耶「…分かった。部屋に行ったら起こす」
ニティ「あぁ。そうしてくれ」


カルセナ「…うぅ…ん」
魔耶「ん?あ、カルセナ。いいタイミングで起きたね」
ちょうど部屋に入ったとき、カルセナがゆっくりと体を起こすのが見えた。
カルセナ「…いいタイミング…?あれ、ニティさん…?」
ニティ「寝起きのところ悪いな」
カルセナ「いや、それは別にいいけど……なんでニティさんが部屋に…?まだ夢の中…?」
魔耶「寝ぼけてんの?朝のこと忘れた…?」
カルセナ「朝…今日の…あっ!な、なにかわかったの?」
ニティ「…あぁ…まぁな。とりあえず座れ」
ニティさんに言われ、ニティさんと向かい合うように二人で並んで座る。
魔耶「…じゃあ、お願いします」

369:多々良:2020/05/07(木) 19:07

ニティ「あぁ。収集してきた情報を理解して貰う為、取り敢えずは天界の仕組みについて話そう......この世には、この世界以外にも様々な世界がある事を知っているか?」
魔耶「うん、聞いた事はあるよ」
ニティ「天界は、その多種多様な世界が全て繋がっている。つまり、他の世界に行く事や、他の世界の情報を集める事も容易な環境....と言う訳だ」
カルセナ「成る程成る程....」
ニティ「さて、本題はここからだ。私はそれを利用し、非人間的なもの....言わば悪魔や妖怪などの生物がさ迷っている世界で噂されている、微かな情報を入手してくる事が出来た」
魔耶「え、本当!?」
いかにも、今までで一番有力そうな発言を聞き、一瞬目を輝かせた。
ニティ「まぁ待て。それが本当の話かどうか、信じるのはお前達次第だが.....信憑性はあると思われる」
カルセナ「へぇ〜.....早速、話してちょうだい」
ニティ「分かった。....これは、魔耶....お前に関係深いものだ」
魔耶「わ、私に....?」
今からされる話と自分が関係深いとは....魔耶は驚いた様子で、静かに息を呑んだ。

370:なかやっち:2020/05/07(木) 20:31

ニティ「…お前は、親に育てられたわけではないようだな。育て親のことを聞いてもよいか?」
魔耶「……?」
なぜ今そんなことを聞くのだろう。…理由は分からないが、とりあえずなにかしら言ったほうがいいのだろうか。
魔耶「…私の育て親は、族に言う閻魔様…だね。地上と地獄の管理、魂の管理が主な仕事だよ。私の親とは知り合いだったらしくて、親が死んで身寄りがなかった私を育ててくれた」
カルセナ「え、閻魔様…!?魔耶、閻魔様に育てられたの!?」
魔耶「そうだよ?あ、言ってなかったっけ…ごめんごめん。……それで、それとこれとなんの関係が…?」
ニティ「その閻魔が悪魔と人間のハーフの子を育てているって噂があったんだ。…やはりお前のことのようだな」
…別の世界で…?私のことが噂に…?
魔耶「…噂の内容を詳しく聞いてもいい…?」
ニティ「あぁ。それを話すために私はここへ来たのだからな。…その噂では、閻魔がその子供の中にいる悪魔を封じ、子供は人間と悪魔のハーフとして存在できている、と」
魔耶「……え、閻魔様が…私の中の悪魔を、封じていた…??」
そんな素振り、見せたことなんて…
ニティ「…お前の中の悪魔が出てきたのは、この世界に来てからだろう?」
魔耶「た、確かにそうだけど…。…ってことは、悪魔がでてきた理由って…!」
ニティ「…お前がこの世界に来て、閻魔と離れてしまったからだろうな。封印が弱まってしまったのだろう」
…辻褄は合う。私がこの世界に来て悪魔状態になってしまったから封印が弱まった…。私が幼い頃に悪魔状態にならなかったのは、閻魔様が封じ込めていてくれたから…
カルセナ「…魔耶を育ててくれた閻魔様が魔耶の中の悪魔を封じていた…ってことは、封印する方法があるってこと?」

371:多々良:2020/05/07(木) 21:37

ニティ「勿論だ。しかし、そう簡単に出来るものでは無い。再び封印するとなれば悪魔の方も学習し、何とかして封印されぬ様に足掻くだろう。....たとえ、宿主の体がどうなろうとな」
嫌な光景が頭の中に浮かぶ。表情がつい堅くなる。
ニティ「....すまぬ、恐怖を与えるつもりは無かったのだが....表現が悪かったな」
魔耶「....いや、それが正しいと思う......あの、その封印の手順とかって分かる?もしかしたら、出来るものかもしれないし....」
ニティ「残念だが、手順までは聞き出す事は出来なかった....大天使様にもお伺いしたのだが、詳しくはご存知無かったのだ」
魔耶「そっか......」
カルセナ「どうしようね.....何か、違う種類の封印とかは出来ないのかなぁ?」
魔耶「うーん、例えば?何か思い付くものでもある?」
カルセナ「いやー、封印っていうのか分からないんだけど....ブラッカルいるじゃん?」
ニティ「ぶらっかる....とは何だ?」
カルセナ「魔耶がつけた、もう一人の私の名前っす」
ニティ「二重人格....なのか?まぁ良い、話を進めてくれ」
カルセナ「んで、通常モード?今の私ね。これの時は、あいつは何か違うスペースで格子みたいなの張られてて、出てこれないようになってるんだよねー....」
魔耶「試験の時はまぁ出てたけどね....」
カルセナ「あれは、あれじゃん.....チョコ食ったから.....いやその原理知らんけどさ。だから、魔耶もそんな感じに出来ないのかなーって。キャラメル食ったら出てきちゃうかもしんないけど.....」
苦笑しながら、二人に案を出す。

372:なかやっち:2020/05/07(木) 21:59

魔耶「…好物で出てきちゃうなら、苦手なもので封印ってことか…?」
ニティ「ふむ…悪魔の苦手なものを使って出てこないようにする、というのはいい案かもしれんな」
魔耶の言葉にうんうんと頷くニティ。
カルセナ「…でも、悪魔の苦手なものってなに?魔耶の苦手なものだったら知ってるけど…」
魔耶「私に無理矢理キノコを食わせる気か!?」
カルセナ「そんなことしないわ…。でも、悪魔の苦手なものがわからなきゃこの案は使えないよ。本人が教えてくれるわけないし」
魔耶「むぅ…閻魔様に聞けたらいいけど、今別の世界にいるし…あ、でもその封印方法はもう効かないかもしれないのか…だったら意味ないな」
二人で頭を悩ませる。吸血鬼は十字架やにんにくが苦手とか聞くけど、悪魔は分からないなぁ…。
魔耶「…でも、私と好物が同じだったら、キャラメル食べたときにブラッカルみたいに出てきてたはずだよね?」
カルセナ「…確かに…」
ニティ「…食べ物より悪魔が本能的に苦手だと感じるものが効果的だと思うぞ。それか封印できる能力の持ち主を探す、とかな」

373:多々良:2020/05/08(金) 07:44

魔耶「成る程.....悪魔が本能的に苦手なものって....何なんだろうねぇ」
カルセナ「うーん、パッと見つけるのは難しそうだね〜」
魔耶「あと、能力者を見つける.....この世界に、そんな事出来る人いるかなぁ?」
カルセナ「まー多分、全くいない事はないんじゃない?どっちが良いかな....」
ニティ「この二つの選択肢に限られている訳では無い。己で新たな選択を切り出すのもありだぞ」
魔耶「ニティさんは何か思い当たるものとか、人物とかっていたりしない?」
問い掛けに、腕を組んで考え始める。
ニティ「ふむ、そうだな.....天界には封印術たるものが無くは無かったが....それで封印出来るのかは不明であると共に、実際に使用している者を見た事が無い。私の師匠も封印術専門ではないし....」
魔耶「そっか.....」
ニティ「役に立てなくてすまないな」
魔耶「ううん、色々教えてくれてありがとう。前進する事は出来たよ」
カルセナ「後は私達で解決出来たらしよう」
ニティ「....そうか。それなら良かった。ではまた、何かしらの情報を手に入れたら伝えに来るとしよう」
テーブルに手を付き、立ち上がる。
魔耶「お願いしまーす」
そうして、ニティは宿を出て元居た岩場へと帰っていった。

374:なかやっち:2020/05/08(金) 09:26

魔耶「…うーむ…」
カルセナ「…困ったねぇ。情報はもらえたけど、その肝心の封印方法が分からないからなぁ…」
魔耶「どうしようね…また図書館かな」
カルセナ「また図書館だね〜」
二人で今日の図書館での疲れを思いだし、はぁとため息をつく。
魔耶「…夕飯にしよう。考え疲れた」
カルセナ「そだね。…また自炊?」
魔耶「気力がおきないからなんか買ってこよ〜。これからつくったら9時になっちゃうよ〜」
ちらりと時計を見ると、今は8時前だった。そうとう長く話し込んでしまったらしい。
カルセナ「それもそうね。なに買ってくる〜?」
魔耶「食えればなんでも〜。あ、苦手なものはなしで」
カルセナ「それじゃあ大きくなれ…おっと。じゃあ外行くか」
魔耶「…そうね」

375:多々良:2020/05/08(金) 13:12

靴を履き、外へ出た。大通りの街灯がつき、暗い夜道を仄かに照らしてくれていた。
カルセナ「スーパー....と言うか、あっちの商店で良い?」
魔耶「うん、良いんじゃない?何でもあるしね」
そこへ向かう為、とことこ歩き始めた。
カルセナ「はぁ、早く解決策が見つかると良いねぇ〜」
魔耶「ねー、いつ悪魔化するか分からないし....頑張らないと」
カルセナ「出来る限りはやりたいよね.....店行ったら、何買いたい?」
魔耶「んー、今はどうだろうなぁ....取り敢えず、手軽に済ませれるやつが良いかな。カルセナは?」
カルセナ「私はあっさりした麺類が食べたい」
魔耶「麺好きだねぇ....つけ麺とか、冷麺とかならあっさりしてるんじゃない?」
カルセナ「それ良いな....あったらそうしよっと。あと、お菓子の買い足しも....」
魔耶「また?十分食べてたような....」
カルセナ「う、まぁそうですけど.....てか、そろそろ金銭的にやばいんじゃない?依頼受けないと....」

376:なかやっち:2020/05/08(金) 13:42

魔耶「そうねぇ…もしかしたらクエスト中にいい情報が得られるかもしれないし」
カルセナ「そうそう。Cランクになったんだし、一回くらい受けておきたいじゃん」
魔耶「危険な仕事が多そうだね〜」
カルセナ「まぁそうだろうけど…うちらなら大丈夫だって!」
魔耶「その自信はどこからくるのよ〜。ブラッカルには頼れないんでしょ?私も悪魔耶になれないし…」
…まぁ、もしカルセナの身に危険が迫ったら…自分のことよりもカルセナの身を優先したいけど。
カルセナ「…そっかぁ…。…ブラッカル…」
魔耶「…ん?どうかしたの?」

377:多々良:2020/05/08(金) 14:52

カルセナ「あ、いや.....まだ駄目だとか、今は嫌いだとか、また変な事言われちゃってさー....もう訳分からんのよ」
魔耶「ふぅん....考えるのが難しいの?」
カルセナ「うん....次来るときは、自分を変えてから来いって....何か違うのかなぁ、今の私....」
魔耶「んー、何だろうね....他には何て言われた?」
カルセナ「えっと.....最初に言ったのはブラッカルじゃないんだけど、私とあいつは一心同体って事かな?」
魔耶「成る程.....二人は一心同体で、ブラッカルはカルセナの事が今は嫌い....と」
カルセナ「まぁ、そう言う事だね〜.....何でかな?....って、そうだ。自分で考えろって言われたんだった.....聞かないでおくわ」
魔耶「あ、そうなの....?ならまぁ良いけど......お店見えてきたよ」
明かりがついているその商店は時間帯が遅いせいで殆ど人気は無かったが、まだ開店している様だ。
カルセナ「ほんとだ。さーて、ご飯選びますかね〜」

中に入ると閉店間際なのか、惣菜コーナーなどに値下げした貼り紙で値段が記されていた。
だが、その中の殆どが売り切れている状況だった。
魔耶「えーと、私達が欲しいのはこっちの方かな....?」

378:なかやっち:2020/05/08(金) 15:37

おにぎりやお弁当などが売られているコーナーに行ってみる。こちらも売り切れているものが多く、商品がまばらに置いてあった。
カルセナ「…少ないね」
魔耶「少ないねぇ…。ま、私はおにぎりでいーや」
あまり人気がなく売れ残ったのであろう具材のおにぎり達を眺める。その中に一つだけ梅があり、ひょいと手にとってカゴに入れた。
魔耶「梅がいた!ラッキ〜。…カルセナは麺類がいいんだっけ?」
カルセナ「うん。適当に探してくるわ〜」
魔耶「お〜。じゃあ私はおやつコーナーでお菓子を漁ってきまーす」
カルセナ「…魔耶もお菓子買うんじゃん」
少し前にした会話を思いだし、反応するカルセナ。
魔耶「まぁついでってやつよ。…もしかしたらもう来れないかも知れないんだからさ?」
カルセナ「縁起でもないこと言うなよ〜」
魔耶「あはは、冗談冗談。そんなことこれっぽっちも思ってないから〜。んじゃ、行ってきまーす」
カルセナ「チョコあったら教えて〜」
魔耶「了解でーす」

379:多々良:2020/05/08(金) 16:33

棚に並べられている数少ない商品を見て回る。
カルセナ「うーん.....こんなに売り切れてたら、麺類なんてもう残ってないかもなぁ....ま、念には念を、ちゃんと見ておきますか」
商品がどう並べられているか、曖昧な記憶を頼りに目当ての物を探す。しかし、一周回って見てもやはり売り切れていたのか、見当たらなかった。
カルセナ「ちぇ.....んじゃあどうしよっかな....いざここの場所で決めるとなると、結構迷うタイプなんだよなー私....」
食べたいご飯を考えようとしても、他の商品に目が行ってしまって考えが逸れてしまうのだ。
カルセナ「こう言う時に、ビシッと決められる人羨ましい....どうすれば迷わずに決める事が出来るんだろうなぁ....」
ご飯を決めるごときで少々時間を食ってしまう。悩んだ挙げ句決めたのは、売れ残ったパンとスープだった。
カルセナ「最近パンばっか食べてる様な気もするけど....こればっかりは仕方ないよねぇ.....」
それらを手に取って、魔耶の所へ向かう事にした。

380:なかやっち:2020/05/08(金) 17:20

魔耶「……お菓子が、少ないっ…!」
やはり他の商品と同様、お菓子も売り切れているものが多かった。特に王道のチョコやグミはほとんどない。
魔耶「…キャラメル…いてくれ…梅グミでもいい……!」
神に祈りながら目当てのお菓子を探し始める。半分悪魔の私が神頼みをするなんて変な話だが…。

…しかしその神頼みもむなしく、10分ほどたっても目当てのお菓子は見つけることができなかった。きっともう売り切れてしまったんだろう。
魔耶「…私の力の源〜…キャラメル…売り切れちゃったのかなぁ…」
カルセナ「……魔耶〜、お待たせ…って、お菓子少なっ‼」
パンとスープを手に持ったカルセナが戻ってきた。売れ残ったお菓子の量に驚いている。
魔耶「カルぅ…キャラメルがない…」
カルセナ「あらら…売り切れちゃったんだろうね…。ドンマイ」
魔耶「むぐぅ…明日の糖分がないではないか…」
カルセナ「一日くらいなら大丈夫でしょ…チョコあった?」
魔耶「ほとんどないよ…」
カルセナ「えぇ…チョコもかぁ…とりあえず美味しそうなお菓子探そう。売れ残ったお菓子の中にいいのがあるかもよ」
魔耶「あるかねぇ…」

381:多々良:2020/05/08(金) 17:56

目を凝らしながらゆっくり棚を物色する。
カルセナ「残り物には福があるって言う言葉を聞いた事があるし....うーん」
魔耶「せめて酸っぱいお菓子が欲しい....」
カルセナ「....あ、ラムネ。....でも別にいらんな....」
魔耶「ちっちゃいスナック菓子とかは?」
カルセナ「口の水分奪われるからあんまりいらん。うー、何か目ぼしいものないか〜」
棚の横を通りすがったとき、あるものに目が行った。
食べると口の中に爽快感が溢れる、タブレット的なお菓子だった。
カルセナ「お!!私これにしよっかな〜、ミントは好物なんだよねぇ」
魔耶「そうだったのか〜、そこ酸っぱそうなのある?」
カルセナ「うーん、ミントはあるけど、酸っぱそうなのはないなぁ....酸っぱいの人気なんじゃない?」
魔耶「そうかぁ....」
それからまた少しお菓子を探す。
カルセナ「....あ、魔耶ー、これはこれは?」
そう言って魔耶に見せたものは、個包装になって種が抜かれている、梅だった。
カルセナ「おにぎりも梅だったからどうなのかって感じだけど....それとも、お菓子の梅は嫌いですか?」

382:なかやっち:2020/05/08(金) 18:44

魔耶「いや、好きよ。梅系は大好き〜。…カルセナさん、ナイス!」
カルセナ「あ、気に入ってもらえたならよかったです…。んじゃあ買おうか」
魔耶「はーい。お腹空いた〜」
カルセナ「もう少し我慢しなさい」
魔耶「お母さんみたいだなぁ…」
カルセナ「魔耶が子供っぽいこと言ってるからでしょ」
魔耶「これでも300歳でーす」


会計を終え、お店から出てきた二人。その手には買ったばかりの夕飯が入った袋が握られていた。
魔耶「…お母さん、ねぇ…」
カルセナ「…どうかした?」
魔耶「いや…私お母さんのこと覚えてないからさ、母ってどんな感じなんだろうな〜って。さっきは何となくでふざけて言ったけど…カルセナは人間のとき家族がいたんでしょ?どんな感じの家族だったの?」

383:多々良:2020/05/08(金) 19:25

カルセナ「うーんとねぇ....至って平凡な家族かな。上から最強、怠慢、鬼才、鳥好き、ギャンブラー、SNSな姉達がいたよ。あと私の下に妹が一人」
魔耶「それ平凡なのか....?てか姉妹多いな〜、両親は?」
カルセナ「お父さんは優しい人だったよ。めっちゃ強いけど。お母さんはね〜、色んな所に連れてってくれてたなぁ....妹が産まれてから暫くして、持病が悪化しちゃったみたいで....それから5年も経たない内に亡くなっちゃった」
家族の事を思い出しながら憂鬱に浸る。身内の事を想うと、心が満たされていく様な感覚になった。
魔耶「どっちも優しい人だったんだね〜....良いなぁ」
カルセナ「えへへ、この帽子もお母さんから貰ったやつなんだよね〜」
魔耶「あぁ、だからあんなに大事にしてたんだ....」
カルセナ「忘れてたけど、この帽子も早く修復してくれる所見っけないと....どこかにそーゆーお店あるのかな?」
試験で、ドラゴンに付けられた帽子の傷を触りながら考える。
魔耶「そうだね、今度探してみよ」
カルセナ「うん。......そう言えば、魔耶ってお姉ちゃん居るとか言ってなかったっけ?お姉ちゃんはどんな人柄してるの?」

384:なかやっち:2020/05/08(金) 20:31

魔耶「……イジワル。ドがつくほどのS」
カルセナ「…わぉ…」
魔耶「…あの人は私が小さい頃にはもう一人で暮らしててね。滅多に顔を合わせたりしなかったんだけど…たまーに会ったときには私のつくったくまさんを消したり、いたずらしてきたり…最悪の人柄デスネ」
姉が過去にしてきたいたずらを思い出して嫌な顔をする魔耶。
カルセナ「へぇ…ちょっと会ってみたいかも…」
魔耶「止めといた方がいいと思うけどね…。まぁあの人が今どこにいるかなんて知らないけど」
カルセナ「姉妹なのに?」
魔耶「姉妹なのに。ときどき閻魔様のところに来たりしてるけど、私から姉に会いに行ったことなんてないし…っていうか会いになんて行きたくない」
カルセナ「そんなにか…仲よくないの?」
魔耶「さぁね。少なくとも私はあの人のこと嫌いだよ。あの人が私をどう思ってるかなんて分かんないけど…旗から見たら仲良し姉妹ではなさそうだね〜」
カルセナ「ふぅん…それはそれで楽しそうだけどね」
魔耶「いたずらされてる側は楽しくないよ…。…カルセナは姉妹とどんな感じなの?仲はいいの?」

385:多々良:2020/05/08(金) 21:52

カルセナ「基本的に仲悪くないかな。逆に私、姉妹に甘やかされて育ったし....」
魔耶「じゃあ喧嘩とかは全然しなかったって事かー....」
カルセナ「うーん、実際そう言う訳でも無いんだよね....ルファ姉とは全然仲良くなかったし。....私がちっちゃい頃、ルファ姉の私物にちょっかい出してたからだけど」
魔耶「ルファ姉....名前?」
カルセナ「あ、うん。本当はルファイって言うんだけどね。ルファイ姉って呼ぶの面倒臭いから略して呼んでる。私も、魔耶がたまに呼ぶような呼び方されてたし」
魔耶「んー?何か違う呼び方してたっけ.....」
これまでカルセナの名前を呼んだときの事を思い出す。が、名前を呼びすぎて来たからか、無意識に出ているものだからか中々思い出せない。
カルセナ「最近それで呼んでないからねぇ。ほら確か、カルって言ってたじゃん」
魔耶「あぁ〜、それかぁ。微妙に名前長いからね....」
カルセナ「まぁ何とでも呼んでくれ。そんな感じでした、うちの8人姉妹は」
魔耶「へぇ〜、平和なお家だったのねぇ」
カルセナ「だから私は、平和ボケしすぎて死んじゃったのかもしれん」
けらけらと笑いながら魔耶に言う。
魔耶「どんな死に方したのかはあんま触れないけどさ....人間として生きてたかった気持ちもあるんじゃないの?」
カルセナ「それもあるけど....浮幽霊になってなかったら今はなかったと思うよ?ほんと、この旅が出来て良かったわ....」
ぐんっ、と背伸びをしながら魔耶を見る。
魔耶「....そうだね」
カルセナ「今まで何回か言っちゃってるけどね.....あー、お腹空いた〜」

386:なかやっち:2020/05/08(金) 22:15

魔耶「私も〜。さっさと宿に…あっ」
…カルセナは帽子が大事、か…
カルセナ「…?どした?」
魔耶「いーいのが思いつきました〜。カルセナ、ちょっとだけ目をつぶっててもらっていい?」
カルセナ「なにさいきなり…いたずらとかしないよね?」
魔耶「しないしない。いいからつぶって〜」
カルセナ「…わかったよ…」
前々から考えていたカルセナへのプレゼント…先程思い付いたものを頭の中で思い浮かべ、手の中で形にする。
…どんな反応するかな。センスがなくてちょっと申し訳ないけど…

魔耶「…いいよ、目開けて〜」
20秒ほどたっただろうか。魔耶の声が聞こえ、ゆっくりと目を開けた。
カルセナ「いきなりなんなのよ〜。なにが……」
目を開けてまず目に入ったのは魔耶のニコニコとした笑顔だった。そして次に見えたのは…
魔耶「いつもありがとね、カルセナ。これからもよろしく」
魔耶の手のなかには小さなブローチがあった。黄色と水色を基調とした帽子を型どった…私の帽子のブローチだ。帽子の上にはちょこんと魔耶のくまさんが乗っていて可愛らしい。
魔耶「えへへ、前からカルセナになにか渡そうと思ってたんだけどなかなか思い付かなくて…今思い付いたからつくってみた。…どうかな…?」

387:多々良:2020/05/09(土) 08:19

カルセナ「うわぁ.....ありがとう....!」
魔耶の手からそっと小さなブローチを受け取る。金属の冷たい感触が手のひらを通して伝わってきたが、そこには間違いなく、誰かを想う温かさも入り交じっていた。
カルセナ「....あ、あれ?」
小さな熱い水滴が不意に頬を伝う。自然と目から涙がポロッと溢れ、次から次へと止まらなかった。ブローチが視界の奥で歪む。
魔耶「わ、もう、いきなり泣かないでよ〜」
カルセナ「泣こうとして...泣いてる訳じゃないよ.....」
確かにこのまま泣きっぱなしな訳にもいかない。涙を腕で拭い、込み上げる感情を何とか抑え、笑顔をつくる。
カルセナ「....へへ、本当にありがと。魔耶....こちらこそよろしく」
魔耶「うん、喜んで貰えて良かった〜」
カルセナ「可愛いデザインだね....魔耶だと思って大事にするよ!」
魔耶「そうして下さいな」
カルセナ「これは.....そうだな〜。帽子にでも付けておこうかな?」
キラキラと光る星空にブローチを翳す。
魔耶「帽子に帽子のブローチ付けるの?」
カルセナ「良いじゃないか別に〜」
二人でクスクスと笑いながら宿に帰る。その姿を、街灯と月明かりがずっと照らし続けていた。

388:なかやっち:2020/05/09(土) 09:21

魔耶「…梅うまいっすね〜」
カルセナ「うむ、パンもなかなか…スープが体に染み渡ります」
魔耶「食レポ…!?」
カルセナ「ちゃうわ」
宿でいつもより遅めの夕食をとるカルセナと魔耶。ちょっとした会話をしながらご飯を食べ進めた。
魔耶「パンとスープって…外国人って感じするわ〜。麺類なかったの?」
カルセナ「外国人ですからねぇ…麺類なかったのよ〜」
魔耶「それはドンマイって感じだねぇ…。私だったらおにぎりと味噌汁を選んでいたな」
カルセナ「和風…」
魔耶「味噌汁は美味しいんだぞ〜。最近になって味噌汁の良さに目覚めてさ〜」
カルセナ「ふーん…外国人はスープだからなぁ…」
魔耶「もうそれは…人生の5割損してる」
カルセナ「味噌汁を飲まないというだけで人生の半分も…!?」
魔耶「まぁ冗談だけど」
カルセナ「知ってる」
二人で笑い合いながらなんてことのない会話をする楽しい時間。…魔耶はこの時間が好きだった。ずっとこの時間が続けばいいのに…なんて思うほどに。


魔耶「ごちそうさまでした〜」
カルセナ「おにぎりだけで足りた?」
魔耶「うむ。まぁまぁかな…。あとはお菓子で補う」
カルセナ「体に悪いんじゃないか?それ…」
魔耶「どうだろうねぇ。さーて、皿洗いだ〜。くまさんしょーか〜ん」
いつものようにくまさんをつくり、皿洗いをさせる。今日は二匹を操るつもりだ。
カルセナ「…今思ったんだけどさ、その能力があれば永遠にこたつで過ごすことも可能なのでは…?」
魔耶「…今さら気づいたか…そう、この能力があれば永遠にこたつで過ごすことも可能なのだよ」
カルセナ「すげぇ〜」
魔耶「でしょ〜?自分でもいい能力だと思うわ〜。魔力がすぐになくなるのがマイナスな点だけど……カルセナの能力はなにか使ったりしないの?魔力とか…精神力とか…?」

389:多々良:2020/05/09(土) 12:20

カルセナ「魔力は使わないけど....精神力はまぁ使うよ。集中したりしないといけないからね〜」
魔耶「へぇー、でも軽い方じゃない?良いなぁ〜」
カルセナ「魔耶はハイリスクハイリターンだけど、私はローリスクローリターンなんですね」
魔耶「ほんとにローリターンなのか?だって未来読めるんだよ?」
カルセナ「それはそうだけど....先の事が分かっても対処出来る様な力は持ってないし....魔耶の能力の方が素早く対処出来たりして良いと思うけどなぁ....」
魔耶「そうか〜....?ま、お互い様って感じだね」
ぬいぐるみを操りながら話す。
カルセナ「.....そう言えば、魔耶の能力ってつくった物に命を宿す事は出来ないの?操れるだけ?」

390:なかやっち:2020/05/09(土) 15:02

魔耶「命なんて宿せないよ〜。操るだけだね。命宿せてたらわざわざつくったもの消したりしないよ〜」
カルセナ「まぁそうか……っていうか、なんで戦うときとかなんかするときとかにくまさんなの?」
魔耶「可愛いから」
カルセナ「…それだけ?」
魔耶「や、もう少し理由はある」
カルセナ「ほう?その理由とは?」
魔耶「んっとねぇ…まず可愛いものが好きだから、手足があるやつのほうが操るときに便利だから、可愛いからかな」
カルセナ「3分の2可愛いじゃないですか…」

391:多々良:2020/05/09(土) 15:21

魔耶「ま、そう言いなさんな.....よーし、終わった〜」
キッチンでは聞こえていた水音が途絶え、魔耶が操っていたぬいぐるみが消えた。
カルセナ「お疲れ〜」
魔耶「良い仕事したわぁ〜。よっ、と」
ベッドに腰掛ける。ごろんと転がろうか迷ったが、取り敢えず座るだけにしておいた。
カルセナ「今日はゴロゴロしないのね」
魔耶「なんとなくね。取り敢えず座った」
カルセナ「その方が良いぞ。多分」
魔耶「確信はないだろうに....」
カルセナ「食後にすぐ寝たらステーキになるって言うじゃん」
魔耶「何で既に調理済みなのよ....牛じゃない?」
カルセナ「あ、そっか。まぁ似たようなもの.....だよ」
魔耶「どうだかねぇ〜」
端から思えば下らない会話に聞こえるが、この何気ない会話は、二人にとっては大事なコミュニケーションの一環であった。
カルセナ「今日はシャワーどっちが先に使う?じゃんけんでもしますか?」

392:なかやっち:2020/05/09(土) 16:29

魔耶「んじゃあそうしようか。勝ったほうが先に入れる、ね」
カルセナ「了解!いくよ〜?さーいしょーはグー!」
カル魔耶「じゃーんけーんポンッ!」
結果、魔耶がグーでカルセナがパーだった。カルセナの勝ちだ。
魔耶「負けちゃったぁ。じゃあカルセナ先ね」
カルセナ「意外…普通言い出しっぺが負けるのに…」
魔耶「私じゃんけん弱いから…そのせいかな?」
カルセナ「へぇ…まぁいいや。さっさと入ってきまーす」
魔耶「行ってらっしゃーい」


カルセナがシャワーを浴びにいき、魔耶は一人になった部屋の中で考え事をしていた。
魔耶(…悪魔耶だけを封印する方法、か…)
悪魔耶は夢の中で「私だけを封印するなんて無理だ」と言っていた。自分自身もそう思う。私ごと封印するのならまだしも、一つの体の意識の内の一つを封印するなんて…
魔耶「…私はどうなるのかねぇ…」

393:多々良:2020/05/09(土) 17:16


蛇口を捻り、適温なシャワーを頭から浴びる。
カルセナ「....ふぅ〜、体に染み渡るわぁ〜.....にしても、どうしたらブラッカルは許してくれるのかな.....」
考えても考えても、今の脳じゃ答えは出てこなかった。いや、そもそも正確な答えがあるのかすらも分からない。
カルセナ「....ええい、今夜もっかい行ってみて、どう言われるかでまた考えよう」
頭をわしわしと洗っているとき、ふと戸の奥の、帽子がある脱衣場を見る。
カルセナ「....あのプレゼントは嬉しかったなぁ。すごい感動しちゃった」
受け取った瞬間、心の中に魔耶の優しさや温かさが流れ込んできた様な感覚に陥ったのだ。今日は何か、心が満たされるような事が多かった気がする。
カルセナ「されてばっかじゃ申し訳ないなぁ.....私も今度、魔耶にお返ししよっかな。ご飯とか」
北街の飲食店で、良い店があるか考える。今度ひまりでにも聞いてみようか。魔耶が喜ぶ様な、美味しいお店があるかを。

394:なかやっち:2020/05/09(土) 17:45

魔耶「…先のことなんて考えたって仕方ないか。私の能力じゃ未来なんて分かんないんだし…」
…カルセナの能力があれば、私の未来は分かるのだろうか。私が悪魔になっているのか、なっていないのか…
魔耶(…いや、そもそも私にそれを知る勇気なんてないか…)
私には未来を知る勇気なんてない。そう考えると、カルセナのほうが私なんかよりよっぽど勇気があるのかもしれない。未来を見る覚悟を持つことができるのだから。
魔耶(幽霊を怖がるのに、未来は怖くないのか…へんなの〜)
だが、自分はそのカルセナを最も信頼しているのだ。

395:なかやっち hoge:2020/05/09(土) 17:46

[やっべ、途中であげちゃった…まぁいいや(雑)]

396:なかやっち hoge:2020/05/09(土) 17:46

[変なとこで切れてるけど気にしないでくださーい]

397:多々良:2020/05/09(土) 19:17

体の泡を流しているときに、ある事に気付く。
カルセナ「ん?そう言えば魔耶の好きなご飯系って何なんだろう....お菓子とかは知ってるけど.....後でさりげなく聞いてみようかな〜....」
暫くして全て流しきったので、再び蛇口を捻って温水を止め、脱衣場に手を伸ばしてバスタオルを取る。そして、頭からしっかりと拭く。髪の毛を拭いているときに顔に掛かる水は、今日流した涙よりは全く熱くはなかった。
カルセナ「....ふぅ、上がったら何か飲み物でも飲もうかな.....まだ炭酸飲料あったっけ」
冷蔵庫の中身を思い出しながら寝間着を着る。
カルセナ「お待たせ〜」
こう声に出しながら、魔耶のいる部屋へと戻る。

398:なかやっち:2020/05/09(土) 22:10

魔耶「…あ、あがった?意外と早かったじゃない」
カルセナがあがったのを確認し、寝かせていた体を起こす。
カルセナ「結局寝てたのね…早かったかな?…まぁシャワーだし…」
魔耶「シャワーだから…なのか…?なるほどわからん」
カルセナ「そのくらい理解できないと立派な大人になれませんよ!」
魔耶「もう人間の大人より長生きー…って、これ前もやったなぁ」
カルセナ「もっとバリエーションを増やしてみなさいよ」
魔耶「バリエーションっていったって…なかなか思い付かないわ〜。んじゃあ私も入ってきまーす」

399:多々良:2020/05/10(日) 08:48

カルセナ「おー、いってらー」
魔耶がシャワールームに行ったのを確認すると、キッチンにある冷蔵庫を開ける。
炭酸飲料があるのか、目でくまなく探す。すると、他の飲料の中に紛れて1本だけ未開封のまま残っているものを発見した。
カルセナ「ラッキー。また依頼受け終わったら買い足したいなぁ」
それを手に取り、冷蔵庫を閉める。蓋を開けるとプシュッという爽快感のある音が鳴った。一口ぐいっと飲む。
カルセナ「これこれ、やっぱシャワーの後は炭酸ですわ〜」
そのままベッドの方に向かい、腰掛ける。ふと、近くにある窓の奥を見る。
すっかり闇に包まれ、仄かな街灯の灯りにしか頼る事の出来ない北街の大通りには、当たり前かの様に人の気配は無かった。
その更に奥、北街の外壁の奥を見る。小さな三日月が顔を覗かせているが、生命の存在は感じられない。飛竜でさえも静まる時間帯なのだろうか。
カルセナ「....そう言えば最近飛竜をプライベートで見てないなぁ....危機感薄れてきちゃう。....そもそもそう言う化物がいなけりゃあ、危機感なんて持つ必要ないのにねぇ」
そのとき、魔耶と初めて出会ったときの事を思い出した。あれは、私が飛竜を前にして叫んだから起きた出来事である。この世界に来るとき、もしあそこで目が覚めなかったら、叫ぶ必要が無い状況だったら、魔耶とは出会えなかったのかもしれない。
カルセナ「.....未来って些細な事で大きく変わっちゃうもんな....そこんとこは、飛竜に感謝って感じか。攻撃してきたのは許さんけど....」
外を見ながら、大きく息を吐いた。遠くで、飛竜か何かの遠吠えが聞こえた様な気がした。

400:なかやっち:2020/05/10(日) 09:32

脱衣場で上着を脱いだとき、ふと左肩の包帯が目に入った。包帯をしているといっても左肩を固定するためにしていたものなのだが。
魔耶(…今どんな感じになってるんだろ…)
気になって肩に巻かれた包帯を取ってみる。スルスルととっていき、ほどかれた包帯が床の上で山をつくった。
包帯を取り終え、怪我の状態を視認する。
魔耶「…!」
…傷はきれいさっぱり消えてしまっていた。まるで最初から怪我なんてしていなかったかのようにきれいな自分の肌だった。
魔耶「…2日で治るなんて…悪魔ってすごいなぁ…」
自分の中にいる悪魔に対する少し皮肉をこめた発言だったが、それに反応する者はいなかった。
…自分の中の悪魔はいつ出てくるのだろうか。いっそのこと、ブラッカルのようにONOFFが切り替えられたらよかったのに。
魔耶「……まぁいいや。さっさとシャワー浴びてすっきりしよう」

401:多々良:2020/05/10(日) 12:37


カルセナ「さーて、寝るまでの間何しよっかな〜....」
取り敢えず、部屋の中をうろつく。元の世界ならば遊び道具が沢山あって暇を潰す事が出来たのだが....生憎この世界にはそう言う物があるのかすらも分からない。
カルセナ「むー....本当に暇だなぁ....歌でも歌うか〜....?」
自分に提案しつつ、どんな歌があったか思い出す。
カルセナ「そう言えば、良く歌ってたやつあったなぁ....懐かしい.....」
そっと歌を口ずさむ。よく家族の誰かしらと、2パート合わせて歌っていた。こうやって歌っているときは、自然と自分の意識の中に入る事が出来る。
カルセナ「(あいつはこの歌知ってるのかな....同じ私だし、思い入れある歌だから知ってて欲しいけどな〜)」
そんな事を一瞬、心の中で思った。続けて歌っていたそのとき、頭の中に自分が歌っているパートとは違う、もう1つのパートが流れ込んできた。
カルセナ「....あれ?」
驚いて歌を止める。
カルセナ「......今のは...?」

402:なかやっち:2020/05/10(日) 13:31

シャワーを終え寝間に着替えていたとき、どこからか綺麗な歌声が聞こえてきた。
魔耶「…カルセナ…?」
聞こえてくる声はカルセナの声のように聞こえる。聞いたことのない歌だったが、なんだか懐かしく感じるような…暖かいような…いい歌だった。
魔耶「いい歌…ってか、カルセナ歌うまいな〜…」


寝間着に着替え終え部屋に入ろうとしたとき、カルセナの歌が突然途切れた。聞いていたのがばれてしまったのだろうか…?
部屋の扉を開け、中を覗きこむ。
魔耶「カルセナ〜?ただいまあがりましたー…」

403:多々良:2020/05/10(日) 15:35

カルセナ「わっ!?魔耶!?」
扉からひょこっと現れた魔耶に驚く。歌を聞かれるのが恥ずかしかったからだ。
魔耶「何故そんな驚くのよ....」
カルセナ「あ、あぁ....別に何も....いきなり来たからちょっとビックリしちゃいまして....」
魔耶「ふ〜ん、そっかー」
魔耶には何となくの理由が分かっていたが、あえて言わなかった。
カルセナ「(....何だったんだろう、また空耳みたいなものなのか....?)」
その声は自分とそっくりだけどちょっぴり低い、聞き覚えがある声だったのだが....。
カルセナ「(....まぁ、いっか)」
魔耶「さてと、ジュースジュース〜」
先程のカルセナの様に、キッチンへ向かい冷蔵庫を開ける魔耶。1本のジュースを取り出してゴクゴクと飲んでいた。
カルセナ「よっ、良い飲みっぷり〜」
魔耶「飲み会かっての。美味しいわー、これ」
カルセナ「あんまり普通のジュース飲まないからな〜。炭酸ばっかりで」
魔耶「1つのものに集中しすぎるなよ〜」
カルセナ「分かりましたよ〜」

404:なかやっち:2020/05/10(日) 16:30

魔耶「…まぁ、炭酸をたくさん飲みたくなる気持ちはわからんでもないけどね」
カルセナ「…え?魔耶、炭酸飲めたの?」
魔耶「逆に飲めないと思ってたの!?」
カルセナ「だって魔耶が炭酸飲んでるの見たことなかったし…」
…確かにこの世界で炭酸飲んでなかったような…じゃあそう思われるのも仕方ないか…?
魔耶「炭酸くらい飲めるわ。むしろ強炭酸大好きだわ」
カルセナ「ほぇ〜。炭酸に強いんだねぇ」
魔耶「強い…のかな?…でも飲みすぎるとお腹がふくれるからあんまり飲まないんだ。ご飯が食べれなくなったら困るし」
カルセナ「あー。炭酸ってお腹ふくれるよね〜」
魔耶「うむうむ。カルセナは炭酸の中でもなにがいいの?私はサイダーが好きです。あとジンジャーエールとか」

405:多々良:2020/05/10(日) 18:45

カルセナ「すっきりしたやつだったら何でも好きだよ〜、あと果物系とか。....ただ、ジンジャーエールは前に飲み過ぎて胸焼けした事があったんだよね....」
魔耶「ええ?そんな事あんの?」
カルセナ「ほら、あの....あんまジンジャー得意じゃないから....喉にきましてね」
魔耶「そう言う事ね....じゃあやっぱ私がさっき言った事は間違ってないね」
カルセナ「ごもっともですわ」
飲んでいた炭酸飲料を近くの棚の上に置き、ベッドにうつ伏せになる。
カルセナ「あぁ〜、頭が疲れた〜....」
魔耶「文字ばっか見てたもんね、今日は....明日は何をしよっか」
カルセナ「本格的に、魔耶の悪魔化を止める方法でも探します?苦手なものとかを....」
魔耶「まぁそう言っても、ジャンルが広すぎるからなぁ....何かに絞れれば良いんだけどさ」
カルセナ「確かに....それをどうするかだね」

406:なかやっち:2020/05/10(日) 19:52

魔耶「…それに、もうお金がない」
机に置いてあった財布を手に取り、軽く振ってみる。チャラチャラと小銭の音がした。
カルセナ「それはやばい…食べていけないじゃないの…」
魔耶「うむ…悪魔になる前に餓死するかもしれん…だからクエストも受けないといけないぞ」
カルセナ「やること盛りだくさんだ〜」
魔耶「ほんとにね…」
ため息をついて財布を机の上に戻す。
カルセナ「まぁ食料問題は外でなにかしら採ってくればなんとかなるし…申し訳ないけど、ひまりとかに頼るって手もあるしね」
魔耶「なるほどね。あとはまぁ…私がなんかつくって売るか…」
カルセナ「でもお店がないぞ〜」
魔耶「うーむ…確かに…それに、一日でつくれる量には限度があるからな〜」
カルセナ「魔力だもんね。やっぱりつくりすぎると疲れるの?」
魔耶「うん。魔力を使いすぎると体力がなくなる。あと疲れすぎて動けなくなる」
カルセナ「一日にどのくらいの量をつくれるの?」
魔耶「ん〜…ベッド一個分くらい」
カルセナ「…多いのか少ないのかわかんないな」

407:多々良:2020/05/10(日) 22:11

魔耶「まぁ、思ってるよりは多いよきっと」
カルセナ「ふーん、中々大変なんだね〜......ふあ〜ぁあっ、欠伸が....」
ご飯を食べて、二人共シャワーを浴び終わったら少し遅い時間になってしまっていた。
魔耶「本当だー、明日に備えてもう寝る?」
カルセナ「うん....私はもう眠いし、寝るよ〜」
魔耶「んじゃあ私も寝よっかな....部屋は暗い方が良いしね。あ、炭酸ちゃんと冷蔵庫に仕舞っときなよ?」
カルセナ「へいへーい....」
ベッドから立ち上がり、飲みかけの炭酸飲料を持ってキッチンへ向かう。冷蔵庫の右側に入れパタンと戸を閉めた後、すぐにベッドに戻り寝転ぶ。
魔耶「んじゃ、お休み。また明日〜」
カルセナ「はい、お休み〜.......」
部屋の照明が消え、一気に闇に包まれる。掛け布団を被り、カルセナは、今日あった色々な出来事を思い浮かべた。そして、魔耶がシャワーを浴びているときに歌った懐かしい歌を頭の中でゆっくり再生しながら眠りに就いた。

408:なかやっち:2020/05/10(日) 22:50

魔耶「…寝ちゃえば、一日に何回でもこれるのか?」
悪魔耶「そうみたいだねぇ。いらっしゃい」
いつものように、目の前には鎖に繋がれた悪魔の自分がいた。ニコニコと愛想よく笑っている悪魔耶も相変わらずだ。
魔耶「…やっぱり、鎖…減ってるよね?」
悪魔を封じている鎖を指差し、問いかけてみる。
悪魔耶「あ〜、気づいちゃった?そうそう、最近鎖が外れてきててね。つまり封印が解けかけてるって証拠だよ」
魔耶「…」
封印が解けかけている…つまり、それは魔耶にとってタイムリミットが少なくなっていることを意味している。
悪魔耶「はは、君と私が入れ替わるのもあとちょっと、かな。もって五日ってところ?」
魔耶「あと、五日…?」
悪魔耶「まぁあくまで私の勝手な推測だよ。もっと早いかもしれないし、もっと遅いかもしれない。…あ、また鎖がとれた」
魔耶の見ている前で、悪魔耶の翼を封じていた鎖がガチャンとはでな音をたてて落ちていった。すると…
魔耶「……ッ!?あぐぅっ…‼いっ……!?」
いきなり魔耶の背中に痛みが走った。ギシギシと背中が軋む。まるで背中の骨を無理矢理変形させられているみたいな痛み。
…そんな私の様子を顔色ひとつ変えずに見つめ、声を発するもう一人の自分。
悪魔耶「…翼が自由に動かせるようになったから、君にも影響がでちゃったんだね。起きたときを楽しみにしてなよ」

409:多々良:2020/05/11(月) 13:39


カルセナ「.....?まただ....」
今は自分は歌っていないにも関わらず、どこからともなく、あの歌の下パートが聞こえてくる。
まぁ、そんな事はどうだって良い。今はブラッカルに用があるのだ。早足でブラッカルが居るであろう方向へと向かう。それに伴い、歌声も近くなってきていた。
カルセナ「....あっ....!?」
闇の中に光る金髪を見つけた。それは確認するまでもなく、ブラッカルの姿だった。これまで背中を向けていた筈だが、今日は何故か正面を向いて座っている。そして何より驚いた事。
カルセナが大好きで、懐かしい、あの歌の下パートを上機嫌そうに歌っていたのだ。
カルセナ「......知ってたんだ、その歌....」
ブラッカルは、カルセナの姿を確認した途端、ぴたりと歌を止めた。
ブラッカル「....当たり前だろ。前に言った事を覚えてねぇのか」
カルセナ「....私達は、一心同体.......」
その言葉を言った瞬間、唐突に色々な気持ちが込み上げてきた。ブラッカルと喧嘩した時の怒り、魔耶と過ごし、プレゼントを貰った時の喜び、いつ魔耶が悪魔化するのかが分からない時の不安、家族を思い出し、歌を歌った時の少しの哀しみと懐かしさ。そして、自分の目の前に立ちはだかる壁を乗り越える辛さ。その壁を打ち破るには、ブラッカルと仲直りするにはーー。
ブラッカル「....で、どうしたってんだ。何か思い付いた....」

カルセナ「「 ごめんっ!!! 」」

頭の中で考えるよりも先に、この言葉が声に出てきた。

410:なかやっち:2020/05/11(月) 14:49



魔耶「ぐっ……お、きた…とき…?」
痛む背中に苦痛を感じながら、悪魔耶の言葉を繰り返す。
悪魔耶「そう。起きたとき。この空間の中で君が痛みを感じてるってことは、現実でもなにかしらの変化が起きてるってことだろうからね」
魔耶「…っ…現実で…」
悪魔耶「うんうん。早速起きて、見てみなよ。自分にどんな変化が表れてるかさ」
悪魔耶がそういい放った瞬間、また空間が歪み出した。空間の白色と悪魔耶の黒色が混ざりあって渦をつくる。
悪魔耶「…またね。君の反応が楽しみだよ」

411:多々良:2020/05/11(月) 17:45


ブラッカル「........」
話す事を止めて、カルセナをじっと見始めた。
カルセナ「ごめん!!....最初からこう言えば良かった....!!」
少し俯きながら、それでも目線はブラッカルへと向けながら話す。
カルセナ「....ブラッカルの言った事は間違ってる。絶対に間違ってる筈だけど.....もっと詳しく質問すれば良かったかな....」
相変わらず、ブラッカルの視線はカルセナから外されていなかった。
カルセナ「.......ごめん」
完全に足元に視線を落とす。
ブラッカル「.......お前」
カルセナ「.....?」
ブラッカル「...魔耶から何か貰ったみてぇだな」
カルセナ「...あぁ、これ....?」
帽子を指差す。そこには、魔耶から貰ったブローチが輝いていた。それに視線を向ける。
カルセナ「.....そう言えば、ブラッカルは私と一心同体なんだよね......なのに、帽子は大事じゃないの....好きじゃないの?」
ブラッカル「......好きじゃねぇ。私はその、帽子に籠る念みてぇなのに封印されてる様なもんだ」
カルセナ「....そう...か.....」
ブラッカル「....でも、ちょっとだけ嫌いじゃなくなった」
その言葉を聞いて、足元に向けてた顔を上げる。ブラッカルが何故か照れ臭そうに視線を反らす。良く見ると、ブラッカルの帽子にも色は違うがブローチらしきものがついていた。
ブラッカル「...ふん、中々良い奴っぽいな.....魔耶って奴は。.....こっちこそ、早とちりして悪かった....」
瞬間、ぱぁっとカルセナの顔が明るくなる。涙ぐむのを堪えて、笑顔をつくる。
カルセナ「ッ.........でしょ!!もっと語ってあげようか!魔耶の事!!どうでも良くなんかないんだからな!」
ブラッカル「ッ...う、うるせぇこっち来んな!!用件が済んだんだから終わりだ!!まだ、完全に信じれるなんて言ってねぇんだからな!」
照れ顔を見られたくないからか、夢から早く覚めさせる為か、全力で突き飛ばされた様な気がした。

412:なかやっち:2020/05/11(月) 18:26


魔耶「…っ‼…はぁ…はぁ…」
夢の空間から放り出され、痛みと驚きで飛び起きる。どうやら現実の私も痛みに悶えていたらしく、汗びっしょりになってしまっていた。
魔耶「…はぁ……はぁ………な、なんだったの…?」
あらい呼吸をしながら夢の中でいきなり起こった出来事を思い返す。夢の中では耐えきれないほど痛かった背中の痛みは現実に戻ってきたと同時に消えてしまったらしく、もう痛みはなかった。
…が、代わりになにか違和感のようなものを感じた。いつもとは違う…なにかが違う感覚がある。
…なんだろう、この違和感は。痛みとは違う、慣れないような…落ち着かないような…そんな感じがする。
おそるおそる後ろを振り返り、自分の背中を確認してみた。
魔耶「……翼…?」
違和感の正体は自分の翼だった。
…なぜ、違和感を感じるのだろう?翼なんて生まれてからずっとついてるし、特になにか変化があるわけではないのに…?
魔耶「…?………っ‼」
…寝ぼけていた頭がようやく違和感に気づいた。自分に問うように違和感の正体を口に出してみる。
魔耶「…私、寝るときは翼しまってる…よね…?」
そう。私はいつも寝るときに翼はしまっている。翼をだしていると寝返りがうちづらく、寝にくいからだ。
…どうして翼が出てしまっているのだろう?先程の痛みと関係があるのだろうか…?

413:多々良:2020/05/11(月) 19:55

カルセナ「.......ん....」
重い瞼をゆっくりと上げる。壁側に寝返りをうっていたせいか、目が覚めて一番最初に視界に飛び込んできたのは壁だった。
カルセナ「(ちゃんと仲直り.....出来たよね....)」
夢でした事は幻ではない。そんな事を実感し、不思議と嬉しくなった。昨日まではずっと喧嘩していたと言うのに。
壁にそりながらのそっと体を起こす。振り向くと、魔耶が体を起こしている様子が見えた。どうやら魔耶も目が覚めているらしい。
カルセナ「....おはよぉ〜、魔耶」
魔耶「あぁカルセナ....おはよう」
少したじろいでいるかの様な挨拶だった。少し違和感を覚え、魔耶の様子を観察する。
沢山の汗をかいているが、嫌な夢でも見たかの様に思えた。あとは翼がちゃんと生えていてーー。
カルセナ「......あれ?魔耶って......」
魔耶「ん....何....?」
カルセナ「.....いや、何でもない.....」
こう言う事も、たまにはあるのか....?そう思って、いつも寝るときにはしまっている筈である、翼の事は別に聞かなくても良いと判断した。

414:なかやっち:2020/05/11(月) 21:15

魔耶「はぁ…なんか夢の中でいきなり背中が痛くなってね…そのせいで汗かいちゃった」
カルセナに説明しながら額の汗を拭う。
カルセナ「へぇ…だからそんなに汗かいてるのね。今は背中大丈夫なの?」
魔耶「うん。痛くはない…けど…」
カルセナ「…けど?」
魔耶「…なんか…いや、やっぱりいいや」
翼のことを言おうと思ったが、もしかしたら今日は翼をしまい忘れていたかもしれない。それか、痛みで翼がでてきてしまったのかもしれない。そう思って言わないことにした。
魔耶「…あー、汗がひどいわ…ちょっとシャワー浴びてきていい?」
カルセナ「…ん。いってきなさい」
魔耶「ありがとう。いってまいりまーす」

415:多々良:2020/05/11(月) 22:06

そう言い、部屋に置いてあるタオルと着替えを持ってこの部屋を出て行った。
カルセナ「.....うーん、やっぱり何かおかしいよね.....まさか、悪魔化が進んでるとかは....無いかなぁ.....」
魔耶の事を考えながら、ベッドから降りようとする。
カルセナ「......うん?頭が......ッ」
突如、まるで夜通し起きていた時の様な眠気に襲われた。瞬きをすればするほど眠気は増していく。そうして謎の睡魔に負け、再びベッドに仰向けで倒れ込んだ。


ブラッカル「.....おい、起きろ」
カルセナ「......うぅ....あれ、何でまたここに....?」
目を覚ました場所は、ブラッカルが居るいつもの空間。
ブラッカル「私が呼び戻したんだよ。寝起きだったから出来た事だ....それよりも」
カルセナ「うん....?なぁに?」
眠い目を擦りながらブラッカルと視線を合わせる。
ブラッカル「....魔耶の悪魔化が急に深刻化している。もってあと3、4日程にな」
カルセナ「......えっ?....う、嘘ッ......だって、今はあんなに普通に....」
普通にしている。果たしてそうなのだろうか。もしかしたら、自分が気付いていないだけかもしれない。魔耶がそれを隠しているのかもしれない。実際、自分もついさっき悪魔化を疑ったばかりだ。
ブラッカル「いよいよ平和ボケしてらんねーぞ。どうするかは、もうお前に託した。私がやれる事っつったら、お前のやりてぇ事を手伝ってやるだけだ」
カルセナ「........魔耶....」

416:なかやっち:2020/05/11(月) 22:51


一人シャワーを浴びながら考え事をする。シャワーから出るお湯が魔耶の髪を濡らし、前髪から水が滴った。
魔耶(…あと、4日…か…)
…この4日という数字は悪魔耶が私と入れ替わるまでの日数だ。もっと言うなら、私がこの世から消えるまでのタイムリミット…
魔耶(…あと、4日しかない…ほんとに解決策なんて見つかるの…?)
魔耶の心の中は不安でいっぱいだった。
確かに、カルセナとはどんな困難も乗り越えてきた。ドラゴンだって異変だって乗り越えてきたんだ。今度の壁も乗り越えられる…そう思ってた。昨日までは。
…でも、いざちゃんとした数字が分かると考えが変わってしまう。
魔耶(…あと4日で解決策を探して、実行して、元の自分に戻れる…?もしその解決策にたくさんの準備が必要だったら?貴重な植物を取りに行かなければならなかったら?…4日で、足りるわけないじゃん…)
…だから、本当はずっと言いたくなかったけど…それを頼みたくなかったけど…カルセナに、あの話をしよう。今話さないといけないことだから。手遅れになってしまう前に対策を打たなければいけない。
魔耶「…やだなぁ。自分から言わなきゃいけないなんてね…」
…覚悟は、出来ている。悪魔化していると知った日からうすうす感じてはいたのだから。

417:多々良:2020/05/12(火) 13:17


カルセナ「....ねぇ」
ブラッカル「何だよ」
カルセナ「魔耶は、一回悪魔になったら本当にもう戻れなくなるの....?」
ブラッカル「あぁ、そうなる可能性が高いな。だから何だ、分かりきった事だろ」
カルセナ「いや、その.....悪魔だけを倒せば、魔耶が戻ってくるんじゃないかなって.....」
ブラッカル「.....それは無理だ」
一度溜め息を吐いて、説明する。
ブラッカル「魔耶の中の悪魔っつーやつは、魔耶が生まれた頃から居るんだろ?」
カルセナ「うん、だからその悪魔を、閻魔様が封印してたって言ってた」
ブラッカル「閻魔程の力を持った奴が、わざわざ悪魔を倒さなかった理由が分かるか?」
カルセナ「......何?」
ブラッカル「....本体のバランスが崩れるからだ。きっと、魔耶が生まれつきで持っていた悪魔の力を閻魔は無くしたくなかったんだろ」
カルセナ「....魔耶の事を想って?」
ブラッカル「多分な。何れにせよ、悪魔を倒しちまったら倒しちまったでまた厄介な事が起きかねねぇ。それ以外の方法を考えるしかねぇよ」
カルセナ「.....そうか....封印も出来るか分からないしなぁ....ブラッカルみたいに出来れば良いのに....」
ブラッカル「私は封印術なんてもんは使われてねぇ。あいつの強い念があって....」
その瞬間、うっかり口を滑らしてしまったかの様な目付きをし、そのまま口を閉じた。
カルセナ「.....ん?....あいつって?....気になる、はぐらかさないでよ」
ブラッカル「.......チッ、仕方無ぇな....あいつってのは....」

418:なかやっち:2020/05/12(火) 13:48

魔耶「…ん?」
服を着ようとしたとき、翼を出しっぱにしていたことを思い出した。このままでは翼が引っ掛かってしまって服を着れない。
魔耶「はぁ…そうだった。…なんで翼でちゃったんだろ…痛みで出てきちゃったのかなぁ?」
服を着るために翼をしまおうとする。
魔耶「…よいしょ……って…あれ…?」
いつものように翼をしまいこんだ…はずだったのだが、なにかに妨害されているかのように翼がしまえなかった。
…なんとか翼をしまおうとするが、しまえない。
魔耶「……えぇ…?なんで翼がしまえないの…?昨日まではしまえてたのに…」
……私の悪魔化は、もうそこまで…?
魔耶(…もしかして…夜の背中の痛みの原因は、これ…?)

419:多々良:2020/05/12(火) 16:13


ブラッカル「私達、つーか.....テメェの母親の事だよ」
カルセナ「えっ.....?お母さん?....お母さんが、ブラッカルを封印してるって事??」
ブラッカル「....正確には少し違ぇが....ま、そんな所だ。お前の中に残る親の念が、私を邪悪な存在と認識してここに閉じ込めてんだろうな。良く言うだろ、死んだとしてもずっと心の中に居るとか」
カルセナ「そうだったんだ....じゃあもしかして、あの声も.......いや、そんな事言ってる場合じゃないよ!魔耶の悪魔化、どうやって止めよう....」
そう言うと、ブラッカルがきょとんとした顔でカルセナを見た。
ブラッカル「お?珍しいな。お前が執着せずに、気持ちを切り替えるなんて」
カルセナ「だって......大事な人を二人も失いたくないもん....」
ブラッカル「....成る程な、そりゃそうだ。ま、さっきも言ったように、私はお前のやる事をやるだけだからな」
カルセナ「何か情報収集とか手伝ってくんないのー?」
ブラッカル「無理だろ....こっからあんま出れねぇんだから。二人で考えろ、私は知らねぇ」
そんな事を言うブラッカルに、少しムスッとした顔を見せる。
カルセナ「もー、こんなとこで性格の悪さ出してくんなよー!!何か考えといてよ?私も全力で考えますからー!!」
ブラッカル「へーへー。分かったよ......ん、そろっと魔耶が来んな。お前、起きてた方が良いんじゃねぇか?」
カルセナ「呼んだのはそっちの癖に.....んじゃあ行くね、バイバイ」
ブラッカル「あー、何か思い付いたらまた言うから。それと.....」
カルセナ「....?」
ブラッカル「........いや、やっぱ良い。早く行け、早くしねーと来るかもしれねーぞ」
カルセナ「もう、何なん....」
呆れた様に言い返して戻るカルセナの背中を、ブラッカルはずっと見ていた。
ブラッカル「........頑張れよ。死んでも、負けんじゃねぇぞ....」

カルセナ「......ふぁ〜......まだ魔耶は来てない....か」

420:なかやっち:2020/05/12(火) 17:00


魔耶「…悪魔耶の鎖がとれて、それと同時に背中が痛くなったんだよね……。…じゃあ、悪魔耶がどこかの部位を動かせるようになったら…その部位が痛くなるのかな…」
…でも、それで悪魔化の進行状態が分かるかもしれない。痛いのは嫌だけど、それで今の状態が分かるなら…
魔耶「…はぁ。これもカルセナに報告しなきゃ。あの話と一緒に話しちゃおう…」
深いため息をつき、能力で服をつくった。いつも上着の下に着ている白シャツの背中に翼を出すための穴を開けたデザインだ。この服なら着やすいであろう。
魔耶「上着は着れないけど…まぁしょうがないか」

カルセナがいるであろう部屋の扉のドアノブに手をかけ、ガチャリと開ける。
魔耶「…カルセナ〜、あがったよ。…待たせちゃった…?」

421:多々良:2020/05/12(火) 18:09

カルセナ「あっ、魔耶....全然大丈夫だよー」
魔耶「そう、なら良いけど.....」
ゆっくりとベッドに腰掛ける。シャワーを浴びた後にも関わらず、魔耶の背中から翼が出たままになっているのを見て、本当に悪魔化が進んでいるんだという事が実感出来た。
カルセナ「魔耶さ.....悪魔化の件、大丈夫....?」
大丈夫な訳が無い。しかし、どんな言葉を言えば良いのか良く分からず、少しまどろっこしい質問をしてしまった。単刀直入に問い掛けるのも、ちょっと気が引けた。
魔耶「あー.....それね......」
座ったまま、斜め上らへんの空間を見ながらふぅ、と小さな溜め息を吐いた。
カルセナ「まぁまぁ時間経っちゃってるし.....どうなのかなって....」
本当は知っている。魔耶の悪魔化が進行している事も、魔耶が魔耶でいられるタイムリミットも。自分とは違う、魔耶の表現が聞きたかっただけなのかもしれない。

422:なかやっち hoge:2020/05/12(火) 20:07

魔耶「…ちょっと、まずいかな…羽もしまえなくなっちゃった」
苦笑いを浮かべて自分の足元をみる。
カルセナ「…だから、ずっと羽出してたのね。いつから…?」
魔耶「気づいてたのね。…昨日の夜からかな。気づいたのはさっきだけど。…それに、私が悪魔になるまで、あと4日くらいだって…もう一人の自分に言われた」
カルセナ「…そっか…」
魔耶「……だからさ、カルセナに言わなきゃいけないことがあるの」
下へと向けていた視線を上げ、カルセナの瞳を見つめた。

423:多々良:2020/05/12(火) 21:58

カルセナ「....な、何.....?」
これまでとはうって変わった魔耶の真剣な眼差しに、ごくりと息を呑む。
魔耶「ずっと言わないとって思ってたけど、すぐには言い出せなかった....大事な事」
魔耶は、視線をカルセナから外すかの様な素振りは全く見せなかった。今までこんな魔耶を見たことが無い。それ程重大で、言い出しにくい事なのだろうか。
カルセナ「.....うん、分かった。聞くよ.....」
そう言うと魔耶は、一呼吸置いてから話し始めた。
魔耶「ありがとう......あのね」

424:なかやっち:2020/05/12(火) 22:21

魔耶「…単刀直入に言おうかな。…今日から三日後の夜、カルセナには私をこの世から消してほしい」
カルセナ「…え…?」
カルセナが混乱したような、私の言葉を理解できないような表情を浮かべた。…もちろんそんな反応になるだろうなとは思っていたが。
カルセナ「…な、なんで…なんで私が、魔耶を…」
魔耶「はは、ざっくり言い過ぎたね。詳しく説明するから聞いて」


魔耶「…さっき、あと4日くらいがタイムリミットだって言ったの、覚えてる?」
カルセナ「もちろん…」
魔耶「…もし私が悪魔になったら…カルセナを傷つけるかもしれない。もちろんならないように解決策を探すけど……もし、だよ。解決策が見つからなかったら?…そしたら、手遅れになる前に対策をうたなきゃでしょ」
カルセナ「…」
カルセナは魔耶の言おうとしていることがなんとなく分かった。…でも、それを考えたくなかった。
そんなカルセナの思いを知らない魔耶は、話を続ける。
魔耶「私の中の悪魔がどんなやつかなんてよくわからない。どんなことを企てているかなんてわからないでしょ。…だから、私が悪魔になって罪を重ねる前に…この命を摘み取ってほしい。……もちろん、無理にカルセナがやる必要はないよ。カルセナが無理そうだったら私がそこらへんのモンスターの巣にでもいくか、ニティさんに任せるかすればいい」
魔耶はまるで他人事のように淡々と話しを続けた。…感情的になってしまったら、また泣いてしまいそうだったから…。
魔耶「まだはっきりとはわからないけど、きっとあと4日に近い数字で私はいなくなる。どっちにしても私は消えるんだよ?だったら、私は人間に近い…今の状態のまま消えたいから…」

425:多々良:2020/05/12(火) 23:19

カルセナ「.......やだ......そんなの、おかしいよ........」
魔耶だって、苦渋の決断だったのだろう。そうするしかないのだろう。でも、そんな事、少しも考えられなかった。
沢山協力し、笑い合い、これまで触れ合ってきた魔耶を、今までの時間を、全て闇に葬るなんてーー。
魔耶「.....ごめん。でも、カルセナやひまり達....皆が傷付かない様にする為には、そうするしかないの....」
カルセナ「...............から」
小さな、消え入りそうな声でボソッと呟く。
カルセナ「...諦めないから......絶対、助かる方法を見つけるから.........だから......」
言葉を重ねて行く内に感情がこもる。瞼がじんと熱くなるのが分かる。
カルセナ「.......もっと一緒に居ようよ、魔耶....お願い......大事な人をまた失っちゃうなんて、もう嫌だよ.....」
勝手に涙がこぼれ落ちる。泣こうと思ってないのに、泣きたくなんてないのに。これは、魔耶を不安にさせてしまう悪い涙なのに。それに加え、どこまでも勝手な自分を、懲らしめてやりたかった。こんな事を言ったって、解決には繋がる筈が無い。それなのに言葉に出してしまう自分は、前に比べ全く成長していない。泣きたいのは、魔耶の方であるだろうに。本当に情けない。
魔耶「........カルセナ......」
カルセナ「.......こっちこそ、勝手に泣いちゃってごめん.....我儘だって事は、分かってる........」
窓の外では、この世界に来てからは見たことが無い、雨が降っていた。それも寂しそうな、しとしととした雨だった。

426:なかやっち:2020/05/13(水) 13:18

魔耶「……本当は、この話を最期までしたくなかったんだよ…カルセナが嫌がるだろうと思ってたから…」
再びカルセナから視線を反らし、申し訳なさそうに顔を背けた。
魔耶「私だってもっとカルセナと一緒にいたいよ…。それに、三日の夜までに解決策が見つかればこんな話は忘れていい。……でも、これから私がどうなるかわからないから…今言わなきゃいけなかったんだよ…。…ごめんね、辛い話して…」
カルセナ「…魔耶…」
魔耶「…ありがとう。大事な人に泣いてもらえて、私は今とっても幸せだよ」
カルセナ「っ…あたりまえ、じゃん…親友が死んじゃうのに泣かない人なんて…いないでしょ…」
魔耶「…そっか」
幼い頃から化け物扱いされていた自分のために、涙を流してくれる人がいる。昔では考えられなかったことだなぁ。
魔耶「…辛いけど、もし三日目の夜までに解決策が見つからなかったら…私は消える。それはもう決めたことだから…カルセナがいくら嫌がっても、私はやるから」
決意するように言い放ったあと、カルセナの涙で濡れた瞳を見つめて軽く微笑みかけた。
魔耶「私にとっては自分の命なんかより…カルセナの、皆の命が大切なんだ」

427:多々良:2020/05/13(水) 17:30

魔耶の小さな笑みを見て、少し気が楽になった様な気がした。このままではいけない。魔耶より悲しんでいて、どうするんだ。
カルセナ「........うん、ごめん....ありがとう.....」
鼻を啜りながら袖で涙を拭った。こんな姿、あいつに見られたらなんて言われるだろう。....いや、そんな事、今は気にしなくて良い。
カルセナ「......私、魔耶よりも、もっともっと頑張るから....!だから魔耶も、悪魔になっちゃう日までは一緒に頑張ろ....!!」
魔耶「......そうだね、一緒に頑張ろっか....」
期間をいつまで延ばせるか、はたまた延ばせないかもしれない。でも、出来る限りこの体で居れるよう、自分のままで居れるように努力しよう。そう決心した。
魔耶「.......話は終わり、朝ごはん食べよ!」
カルセナ「.....うん、そうしよう!....今日は雨降っちゃってるし、買ってあるもの食べよー」
先程の話を今は忘れようとしているかの様に、ベッドから素早く立ち上がってキッチンへと足を進める。

428:なかやっち:2020/05/13(水) 18:13

カルセナ「なんやかんやでお腹空いたわ…」
戸棚を漁り、なにを食べようかと悩んでいるカルセナ。
魔耶「そうね〜。昨日今日で色々あったし…考え疲れたし…糖分が必要ですねこれは」
カルセナ「チョコパンならあるぜ?」
魔耶「お、ナイスチョコパン。じゃあそれいただきます」
カルセナ「あいよ〜」
魔耶「ありがと〜。……む、これは牛乳が必要だな」
席を立ち、冷蔵庫の中に入っている牛乳を取りに行く。ハンバーグをつくったときに使った牛乳がまだ残っていたはずだ。
カルセナ「魔耶牛乳なんて飲むの?」
魔耶「なんてとはなによ。私牛乳大好きなんだからね〜。甘いもの×牛乳は相性バッチリなんだからな〜。特にこういうチョコパンとかは牛乳が必須アイテム」

429:多々良:2020/05/13(水) 21:00

カルセナ「そうなのか〜....パン食べるときも私は飲み物あんま飲まないんだよねぇ」
魔耶「よくそれで詰まらないな....」
カルセナ「気合いで押し込んでるからね....私は何にしよっかなー....」
続けて戸棚の中身を漁る。
魔耶「クリームパンは?生クリームじゃないし、いけんじゃない?」
カルセナ「確かに....丁度良い量だな.....んじゃ、これにしよっと」
クリームパンを掴んで戸棚を閉め、テーブルまで向かう。キッチン側の椅子を引いてそこに座った。
魔耶「よーし、これで完璧〜....」
片手に牛乳、もう片手にチョコパンを持った魔耶が、カルセナが引いた椅子と向かい合っている椅子に座る。
魔耶カル「いただきまーす」

430:なかやっち:2020/05/13(水) 21:33

魔耶「…うまいわ…糖分大事」
カルセナ「魔耶…さっきから糖分しか言ってないよ…」
魔耶「む、そんなことない…はず…」
言葉を言いながら前の発言を振り替える。
魔耶「……気のせい気のせい」
カルセナ「間があったように感じましたけど」
魔耶「む〜…しょうがないじゃーん。私の源は糖分なんだからさ〜」
カルセナ「ふーん…じゃあ、もし世界から糖分が消えたらどうなる?」
魔耶「生きていけなくなる」
カルセナからの問いかけに即答する。…我ながら最低の答えだなぁ…
カルセナ「…はは…そんなにか…」
魔耶「そんなにだ。カルセナだって、この世からチョコが消えるってなったらそうならない?」

431:多々良:2020/05/14(木) 07:20

カルセナ「流石に生きてけなくなるって事は無いけど....もう死んでるし。でも、無くなったら最悪だな」
魔耶「でしょー、どうか無くならないで欲しいわ」
カルセナ「まず無くなる事はないんじゃない?」
魔耶「まぁ、そうか〜」
甘いチョコパンをもぐもぐと頬張る。
魔耶「ん〜....牛乳牛乳.....」
喉に詰まる前に、即座に牛乳を流し込む。
魔耶「ぷはぁ〜....やっぱ合うね〜」
カルセナ「牛乳流し込んじゃったら、パンの味消えない?」
魔耶「その前にちゃんと味わってますし....詰まるよりかはマシだよ」
カルセナ「ふーん....ちゃんと歯磨きしとけよー?それは歯磨きをしないと確実に虫歯になるぞ」
魔耶「勿論ですとも」
カルセナ「....そういや魔耶って、牙とかあんの?魔族ってどうなのかな....」

432:なかやっち:2020/05/14(木) 18:41

魔耶「うーむ、普通の人間よりは鋭いかな。悪魔になったらもっと鋭くなるかもね」
軽く口を『いー』の形にする。魔耶の人間よりは鋭めな牙が見えた。
カルセナ「へぇ〜。流石魔族って感じだねぇ」
魔耶「そうかな〜…そういうカルセナの、幽霊らしいところはないの?」
カルセナ「…幽霊らしいところ…?」
魔耶「そうそう。カルセナは幽霊なのに実体もってるし…幽霊怖がるし…そんなカルセナに幽霊らしいところはあるのかな〜って」

433:多々良:2020/05/14(木) 19:12

カルセナ「馬鹿言え、あるわ!まず、空飛べるでしょ?それと、人に気付かれないでしょ?あと、暗いとこでも良く見える....」
魔耶「ちょいちょい、2つ目は怪しくないか?と言うより、既に見えてるし....」
カルセナ「前の世界では気付かれなかったんだけどなぁ〜....実体はあるけど見えない透明人間みたいな感じでさ。....てか、この世界に来てから何か色々変わっちゃったんだけど.....本当は他にも、お腹空かなかったり、いつも少しだけ浮いてたりしたのよ?」
魔耶「そうなんだ....じゃあ結構不便になっちゃった感じ?」
カルセナ「不便....では無い。むしろ人間時代を思い出せて、楽しいっちゃ楽しいかな....そう言えば、何で私実体あっちゃってんだろう.....普通、ゴーストって実体無いよね?」
魔耶「うん、カルセナは何か違うよね....」
カルセナ「何が原因なんだろうか....そもそも、良く成仏しなかったなぁ私....」
魔耶「未練があると、成仏出来ないって話は聞いた事あるけど」
カルセナ「多分それだなー。でも、また元の世界に戻っても、未練増えちゃったから更に成仏出来なくなるな」
魔耶「未練増えたの?」
カルセナ「魔耶が恋しくなるかもしんない....分からんけど」
魔耶「何じゃそりゃ」
カルセナ「中々消えないもんだよ?そう言う体験ない?」

434:なかやっち:2020/05/14(木) 19:49

魔耶「ん〜…死んだことないからわかんないかな〜」
カルセナ「えー…いきなりなにかが恋しくなることないの?」
魔耶「キャラメルは常に恋しいけど?」
カルセナ「そういうことじゃないんだよなぁ…」
カルセナのあきれたような反応を見てクスリと笑う魔耶。
魔耶「はは、冗談だよ冗談。…私ももとの世界に帰ったらカルセナとこの世界が恋しくなるかもね〜。カルセナの気持ち、わかるよ」
カルセナ「そう…ありがとね。……キャラメルはほんとに冗談か?」
魔耶「…二割くらいは冗談…」

435:多々良:2020/05/14(木) 21:48

カルセナ「流石キャラメル好き.....もぐもぐ...ごちそうさま〜」
食べ終わると、パンの包装紙を備え付けのゴミ箱に捨てに行った。
魔耶「ごちそうさま。朝にしては丁度良い量だったかな〜.....」
空のコップを流し台に持って行くと、今回は自分で洗い始めた。
カルセナ「あ、自分で洗ってる」
魔耶「コップ1つだけですから〜....流石にこれだけにくまさんを召喚するのは魔力の無駄遣い!」
カルセナ「まぁそっか〜....さて、今日はどうします?解決策真剣に探さないと、そろそろやばいし....」
魔耶「うーん....図書館以外にどこか当たれる場所はあるのかな....」
カルセナ「んー....詳しい人のところとか?でもなー.....あんまり思い浮かばない....かなぁ....」
二人で頭を悩ませる。部屋に響き渡るのは、流し台の水音だけとなっていた。

436:なかやっち:2020/05/14(木) 22:16

魔耶「ゆうてここの世界で出会った人少ないしね…」
いままで出会ったことのある、接点の深い人物を思い出してみる。
カルセナ「確かに…んっと、まずはニティさんでしょ?次にひまり、みお、めぐみさん、あとはあの異変メンバー…くらいか」
魔耶「一番情報をもってそうなのはニティさんとめぐみさん、異変メンバーだけど…異変メンバーに協力なんてしてもられるのかねぇ…」
カルセナ「かってに敷地に入って暴れたもんね」
魔耶「その言いかたはやめてよ。仕方なかったんだから〜。…んでも、まぁ…間違ってはいない、けど…」
カルセナ「挙げ句のはてに暴力を…」
魔耶「ぐっ…せ、正当防衛だからセーフセーフ。…んでも、流石にそんな人達には頼れないか…?」
カルセナ「昨日の敵は今日の友みたいな展開にならないかなぁ…いくだけ行ってみようよ。なにかしら情報がもらえるかもしれないじゃない」
魔耶「…そうね。じゃあ行ってみるか。まだあの基地にいるのかなぁ?」

437:多々良:2020/05/15(金) 19:29

カルセナ「そんなコロコロ変えるようなもんじゃないでしょ〜。きっと居るよ」
魔耶「そっか、じゃあ手っ取り早く準備して向かいますか」
その後、素早く各々の準備を済ませて基地へと向かう事にした。

宿の外へ出ると、先程より小雨になってくれていた。これなら飛び立てそうだ。
魔耶「えーっと......確かあっちだったかな」
カルセナ「魔耶が言うなら大丈夫よ」
魔耶「さぁ、どうだか。途中で雨がどしゃ降りにならない事を祈ろう....」
いつもの調子で軽く地を蹴り、ふわっと空へ飛び立った。僅かに顔に当たる小さな水滴が、考え事をして熱くなった頬を冷ましてくれる。カルセナは、バサバサと羽ばたく魔耶の翼を見ながら問い掛けた。
カルセナ「....普通に飛べる?悪魔化が進んで来てて、もしかしたら....って思ったんだけど....」

438:なかやっち:2020/05/15(金) 20:39

魔耶「…うん。特に飛びにくいとかそういうことはないかな」
カルセナ「そっかぁ…ならいいけど…」
魔耶「…飛べなくなることはないと思うよ…?悪魔だって飛べるんだから。悪魔ができないことは出来なくなるかもしれないけど、悪魔でもできることはできると思う」
カルセナ「ふーん…じゃあさほど大きな変化はしないのか…?」
魔耶「…ちょっと角が生えるくらいじゃないかな?」
カルセナ「充分大きな変化じゃないですかヤダー」
なんて軽く会話をしながら、前に基地があったはずの方向へと飛んでいく。少しずつ見覚えのある景色が見えてきて、やはりこの方向であってるんだと安心した。

439:多々良:2020/05/15(金) 21:19

魔耶「....こーやって飛んでると、気持ち良いねぇ」
少し肌寒くはあるが、上空から周りの景色を眺めるのは悪いものではない。
カルセナ「そうだね〜、もう少し天気良くあって欲しかったけど」
魔耶「まぁ、飛ぶと暑くなるし丁度良いかもよ?」
カルセナ「確かに....後の事を考えると今の方が良いかもな〜」
魔耶「そうだよ〜」
ゆっくりと雑談をしながら、それでも速度は落とさずに目的地へと向かう。
魔耶「....はぁ、何かしらの有力情報あると良いなぁ....」
カルセナ「あれだけの組織だし、少しくらいあると思うけど....今の私達には、祈る事しか出来ないからね」
魔耶「もしくは別の解決策を考える....かな。と言っても、あんまり思い付かないもんな〜」
カルセナ「取り敢えず、聞いてみるだけ聞いてみよ」

その後、暫く飛んでいると、見覚えのある建造物が顔を覗かせた。
魔耶「.....あっ!あれだ!」
カルセナ「うん?....あっ、ほんとだー」
魔耶「流石にこのまま入るのはあれかな.....」
カルセナ「だからと言って侵入も....どうする?」
魔耶「周りに誰か居たら良いんだけど....そんな事ないかなぁ」
カルセナ「うーん......」

440:なかやっち:2020/05/15(金) 22:07

魔耶「……まぁ…とりあえず降りてみよっか。誰かいるかもしれないし…」
魔耶の言葉で、二人は蓬達がいるであろう建物に向かって降りていった。建物の入り口が近づいてくる。

カルセナ「…ん、また見張りの人がいるじゃん」
魔耶「え…あ、ほんとだ。事情話せば入れてくれるかな…」
前に来たときと同様、入り口には見張りが立っていた。…ひとつ前と違うことをあげるとすれば、見張りが一人から二人に増えていることくらいだ。
魔耶「…なんか増えてない?」
カルセナ「だね……」
…もしかして、私達が簡単に進入してしまったから見張りを強化したのだろうか…いや、これ以上深く考えるのはやめておこう。私達のせいなんかじゃない…はず。

441:多々良:2020/05/16(土) 08:13

カルセナ「じゃあちょっと行ってみようか.....?」
魔耶「うん......」
そっと見張りの前に姿を現す。当然、警戒されている様だ。
魔耶「あの〜、すみませ〜ん.....」
見張りA「何だ、お前等は」
魔耶「少し急用があって、あの.....柚季さんや逸霊さんとかに聞きたい事があるんですけど....」
見張りA「.....!?何故お前等が幹部の名を知っている!!何者なのか答えろ!!」
構えていた剣の切っ先を二人に向ける。
見張りB「...!!待て......こいつらまさか、あの時の......ッ」
見張りA「.....何だ?」
見張りB「幹部達が負けた話を聞いただろ!!その時に居た侵入者だよ!!」
見張りA「な....何だと!!?じゃあどうしろってんだ....」
二人の見張りが私達をどうするかで相談している。それを私達は黙って見ていたが、不意に後ろから、何者かに声を掛けられた。

???「あれ?もしかしてそこに居るのは、魔耶さんとカルセナさんじゃないですか〜?」

聞いた事のある、天然口調でほわっとした声。気配もしなかった後ろを振り向く。そこに居たのは紛れも無く、幹部の1人である柚季であった。

442:なかやっち:2020/05/16(土) 09:20

カル魔耶「…柚季‼」
柚季「お久し振りですね〜。わざわざこんなところまで来るなんて…なにかお困り事でもあるのでしょうか?」
…流石幹部というだけあって、鋭い。瞬時に見抜かれるとは…
魔耶「……まぁそんな感じなんだけど…中に入ってもいいかな?他の幹部達にも相談と情報収集したいからさ」
今事情を話すよりもいっぺんに話したほうが楽だし都合が良い。見張りの前であんな話したくないし。
柚季「?……わかりました〜。見張りさん達、カルセナさんと魔耶さんを入れてあげてくれませんか〜?」
見張りA「っ…し、しかし…」
もちろん戸惑う見張り達。当たり前だ。前に基地を荒らした侵入者を招き入れるなど、見張りの意味がない。しかしわざわざ幹部にお願いされてしまっている。普通なら幹部が私達を追い払おうとする立場であるのに…
見張りとしてのプライド。絶対な幹部の発言。この二つの間で彼らの心が揺れているのが透けて見えるようだ。
柚季「大丈夫ですよ〜責任は私がとりますから〜」
見張りA「……本当に大丈夫なんですか?こいつらは前にここに来て基地を荒らした、侵入者なんですよ」
見張りB「また今回もなにを企んでいるのやら…」
見張りの視線が私達に向けられる。なんにも企んでないんだけどな…まぁそう思われるのも無理はない行動しちゃったからしょうがないっちゃあしょうがないんだけど。
柚季「大丈夫ですって〜。なにかあったら私が対処しますから。…それに、私の友人らを疑うのはやめてほしいですね」
珍しく、柚季が怒ったようにしかめ面をした。いつもニコニコした表情を浮かべている柚季の初めて見せた顔だ。
流石にこれ以上はやばいと感じたのか、ついに見張りも折れた。
見張りA「…わかりました。失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません。お通りください」
柚季「それでいいのですよ。さぁカルセナさん、魔耶さん、どうぞ中に」
カルセナ「…初めて柚季さんの幹部らしいところを見た気がするよ」
魔耶「…ね…」

443:あんあん:2020/05/16(土) 09:35

https://www.youtube.com/watch?v=bQvoT3roxFI

鬼滅の刃の声真似動画です! !
似てますか??

444:多々良:2020/05/16(土) 17:35

柚季に案内され、建物の中へと入る。前に来た頃とは何も変わっていなかった。
柚季「こちらへどうぞ〜。どうせなら、幹部達がいる所が近い方が良いでしょう」
そう言って地下へと誘導する。二人はそれに従順に従い、階段を降りていく。
柚季「.....さ、どこかしらにでも座って下さい」
カルセナ「じゃあ、お言葉に甘えて....よっと」
機械の一部だろうか、何もなく丈夫そうな場所だったので、そこに腰を下ろした。
柚季「さて、今回はどんなご用件ですか?」
朗らかな笑顔を向けながら、こちらの用件を聞いてきた。
魔耶「えっと....どう話せば良いかな.....まぁ、まずは....」
細々と、余す所なく魔耶の悪魔化について説明する。それを聞いている柚季の表情はころころと変わっていたが、話し終わる頃には元の笑顔へと戻っていた。
魔耶「.......と言う訳で、悪魔化を鎮める為の解決策を探していて.....何か思い当たるものありませんかね....」

445:なかやっち:2020/05/16(土) 18:08

柚季「うーん…すみませんが、私はあまりそういうことに詳しくはないので…。そういう人体のことは雅さんのほうが詳しいと思います」
魔耶「…そう、ですよね…自分で言うのもなんですが、こんなのレアケースだと思うので。ありがとうございました」
柚季の回答に少しガッカリしたが、いい情報も得られた。雅なら詳しいかも、と。
柚季「お力になれず申し訳ないです…。その代わり、というわけではありませんが私にできることならなんでもしますよ」
カルセナ「ありがとう。…んじゃあ、雅が今どこにいるか分かる…?」

446:多々良:2020/05/16(土) 20:57

柚季「雅さんなら、恐らくいつもの.....地下3階で実験でもしてると思いますよ〜。行ってみたらどうです?」
カルセナ「今行っても大丈夫なんすかね......」
柚季「うーん、まぁ大丈夫でしょうけど.....何なら着いていきましょうか〜?」
魔耶「ん〜.......んじゃあ、よろしくお願いします」
二人だけで行ったら、何らかの理由を付けられて相手にされない可能性もある。だが、同じ幹部に着いてきて貰っていれば少しでも違いはあるだろう。そう考えた。
柚季「了解でーす。早速行きましょうか」
再び柚季の後に続く事となった。地下2階を通り越して、地下3階へと降りる。
前にも嗅いだ事のあるおかしな匂い、言わば薬の強い匂いが漂ってきた。
カルセナ「う.....ここはやっぱ変な匂いだねぇ.....」
魔耶「慣れるしかないよ、こればっかりは....」
奥に見える部屋に向かって柚季が呼び掛ける。
柚季「えーっと....雅さ〜ん?お客さんですよ〜」

447:なかやっち:2020/05/16(土) 21:42

すると、聞き覚えのある少し低めの声が部屋から聞こえてきた。
雅「………客?あとにしてくれないか。私は今忙しいんだ」
柚季「まぁまぁ…そんなこと言わないでくださいよ〜。せっかく二人が訪ねてきてくれたんですし…それに、後じゃだめです。大事なことのようなので〜」
雅「…二人…?客とは誰なんだ?」
柚季「カルセナさんと魔耶さんです。…それに、これは雅さんにとって興味深いことかもしれませんよ?」
雅「……ちっ、入れ」
柚季の言葉に興味をそそられたのか、雅が部屋に入ることを許可してくれた。三人で部屋の中に入る。
…部屋は相変わらず薬品のにおいが漂い、色々な生物が緑色の液体に浮いていて薄気味悪かった。だがこの際そんなこと言ってられない。っていうかそんなこと言ったら追い出されてしまいそう。
魔耶「お邪魔しまーす。お久し振りです…」
雅「できれば二度と会いたくなかったがな。…で、何の用だ。さっさと用件を言え」
カルセナ「…ひどい言い種ですなぁ…」
雅「私はお前らに構っているほどの暇がないんだ。…わざわざ私の実験を中断させたんだ、さぞかし興味深い話なんだろうな?」
魔耶「…はは、どうですかね。少なくとも簡単には解決できないような話ですが。……じつは…」

448:多々良:2020/05/16(土) 22:27

柚季にした様に、雅にも同じ事を話した。
魔耶「....と言う事なんですけど......」
雅「....ふん、どんな酷い話が来るかと期待していたものだが....少しは調べがいがありそうだな」
顎に手を掛けて、魔耶の話を聞く。
魔耶「この事について、何か知っている事とかありますかね.....何でも良いので」
雅「....どうだろうかな。過去にその様な事例があったのならば、覚えている筈だが....生憎そんなものは、記憶には無い」
魔耶「....そうですかー......」
がっくりと肩を落とし、項垂れている様に見えた。
柚季「....ほんとに初めて見たんですかー?何か似たような事とかは無かったんです?」
雅「私の記憶に無いだけ、と言う可能性は極めて低い.....が」
元居た部屋をちらっと見る。
雅「私の部屋には、実験を記録したもの以外にも様々な文献がある。もしかしたら、その文献の中に1ページくらい有力情報が混ざっている事も、無くは無いだろう」

449:なかやっち:2020/05/16(土) 23:10

カル魔耶「……!」
雅のような研究者が持っている本なら図書館の本よりも有力な情報が見つかりそうだ。それに、ある程度のジャンルに絞られているだろうから探しやすいかもしれない。
魔耶「そ、その文献を見させてくれませんか?お願いします!」
雅「……別に見させてやってもいいが……そのかわり、私の研究の邪魔になるようなことはするな。あと文献は丁重に扱え。ほんの少しでも汚したりしたら…どうなるかはわかっているな?」
魔耶「は…はい…」
カルセナ「…は、はーい…やっぱ怖いわ、この人…」
雅「…ふん、じゃあ私は研究に戻るぞ。邪魔するなよ」
そういって雅はまたもといた場所に戻ってしまった。
柚季「愛想ってやつがないですねぇ、雅さんは。…さて、それじゃあ文献とやらを漁ってみますか」

450:多々良:2020/05/17(日) 07:59

柚季が先導してそっと部屋に入る。部屋の中の棚には、様々な薬品が並べられていた。その隣に、沢山の文献があった。殆どのものは保存状態があまり良くなかったが、それでもギリギリ読めそうだった。
3人で静かに情報を探す。それっぽいものを見つけて、手に取っては読み、情報が得られなかったら再び棚に戻す。そんな作業を続けた。

カルセナ「.....あった〜?それっぽいの....」
ひそひそ声で問い掛ける。
魔耶「うーん、今のところ無いかなぁ.....惜しい様なのはあるんだけど....」
カルセナ「そうかー....」
やはり難しいものか....そう思い、情報探しを再開しようとしたそのとき、柚季が話し掛けてきた。
柚季「魔耶さーん、こんなのはどうですかね〜?」
1冊の本....と言うより、書類を纏めただけの様なものを持っていた。どうやら雅の研究報告書らしきものだった。
魔耶「えっ....?どれどれ.......」
柚季が指を栞代わりにして挟んでいるページを見る。そこには、悪魔についての色々な事が書き留められていた。

451:なかやっち:2020/05/17(日) 11:18

魔耶「…!悪魔について、色々書いてある…」
カルセナ「えっ!本当!?見せて見せて!」
カルセナと一緒に研究報告書を覗きこむ。
文字が小さくて読みづらかったが、やはり悪魔のことを記してあるようだ。
内容を声にだして読んでみる。
魔耶「タイトル…『人ならざるもの、悪魔について』」
カルセナ「ほんとに悪魔についての内容なんだね…悪魔について、ならなにかいい情報が載ってるかも!」
魔耶「うん…そうかもしれない…!…続き読んでみるね…」
少しだけ胸に期待を抱きながら続きを読み進めた。

452:多々良:2020/05/17(日) 12:43

魔耶「悪魔とは.....人間の恐怖心、邪心などから生まれたものと推測される....悪事を好んで行う.......これはまぁ、良いかな....」
次の項目を探す。見つけた所には、雅が実際に悪魔関連の何かを体験したかの様に、色々と書いてあった。
魔耶「えっと....再び悪魔が解き放たれたときの為、まだ付け焼き刃ではあるが、自己流の対処法をここに記す....」
カルセナ「それ、何か凄い有力そうじゃない....?」
魔耶「うん、そうだね.....悪魔を閉じ込める為には、何かの物体へと封印する事が有効だと考察した。その悪魔が、もしも自分と関係深いものであったなら、自身が思い入れのある物体が良い。それなら、自分自身の思い入れで、より強靭となった封印で悪魔を閉じ込められるだろう...」
カルセナ「封印ってワードが出てきたね....どこかに封印方法書いてあるかな....」
魔耶「分かりやすいのがあると良いけど....」
ペラッと次のページを捲る。
魔耶「悪魔の封印手順....あった!えーと.....封印するとは言っても、悪魔は悪魔。身を封じられる事を安易に受け入れる筈がない。封印する手始めに、どうにかして悪魔を弱らせる必要がある....だって」
カルセナ「弱らせるって言ったって....魔耶の悪魔は魔耶の中にいるんでしょ?どうすれば良いのかな....」

453:なかやっち:2020/05/17(日) 16:18

魔耶「…ちょっと危険すぎる方法なんだけど…一回、悪魔を外に出してみる…とか…?」
真っ先に頭に思い浮かんだ案を口に出してみる。案の定カルセナにはとてもショックを受けたような顔をされた。
カルセナ「えっ…で、でもそんなことしたら…魔耶がもとにもどれなくなるんじゃ…!?」
魔耶「…まだ入れ替わったばかりの頃だったら、早めに悪魔を封印すれば戻れるんじゃないかなぁ…根拠はないけど」
カルセナ「…流石にその案は危険だって…。どうなるか分からないんだよ?…それに、そうしたら私が悪魔を攻撃して弱らせなきゃいけないじゃん」
魔耶「いやいや、悪魔の相手をカルセナ一人に任せたりしないよ。いざとなったら戦えそうな人におねがいしてまわればいいし。…柚季さんはどう思う?この案」

454:多々良:2020/05/17(日) 17:35

魔耶からの問い掛けに少し首を傾げて考える。
柚季「うーん....まぁ、魔耶さん本人が言ってるのであれば良いと思いますよ。ご本人の意思を尊重するのは大事な事ですし」
魔耶「ありがとう。....だってさ。だから、大丈夫だよ」
カルセナ「うー.....心配だけど......時間がないし、それくらいしか無いのなら仕方無いのか.....分かったよ」
魔耶「....うん、じゃあお願いね。えーと....肝心な封印方法は.....抵抗が殆ど出来ないくらいに弱らす事が出来たら、私が作り出した『あれ』を使って、物体に封印する。保存場所と用途は、もし、この書を何者かに読まれてしまったときの為、記さない事とする.....って」
カルセナ「えっ....んじゃあどうするの....?」
魔耶「うーん....これはもう、あの人に....」
柚季「雅さんに頼んでみれば良いんじゃないですか〜?」
話を割るかの様に、今まさに魔耶が言おうとしていた事を提案してきた。
魔耶「うん、だから....そうするしか無いのかな〜って....」
柚季「一回言ってみれば、もしかしたら教えてくれるかもしれませんよ?」
カルセナ「.....じゃあ、ちょっと怖いけど....言ってみる?」
魔耶「だね......」

455:なかやっち:2020/05/17(日) 20:02



魔耶「…えーと…雅さん…?ち、ちょっと聞きたいことがあるんですけど〜…」
恐る恐る実験中の雅に近づき、声をかけてみる。実験の邪魔をするなと言われていたため、どんな反応をされるかと内心ドキドキしていた。
雅「……またお前らか。なんだ?」
実験をまたもや中断されたためだろうか、少し不機嫌そうに魔耶達の方向を向く。
カルセナ「…この研究報告書をみたら、悪魔のことについて色々と書かれてたんです。でも肝心なことが記されていなくて…だから、これを書いた雅さんに直接お尋ねしたいな〜と…思いまして…」

456:多々良:2020/05/17(日) 20:45

引きぎみの魔耶達からそう聞かれ、少し時間をおいて応える。
雅「....それか......新たな情報入手の為ならば仕方が無い、特別に教えてやる。....柚季、お前は聞くんじゃない。離れていろ」
二人の後ろから距離をとって見ていた柚季に注意する。
柚季「別に聞いたって、悪用なんかしませんよ〜。もしかして私の事、そう言う風に思ってたんですか?それに、離れたって、私には全部聞こえちゃいますけどね」
雅「...はぁ.....」
大きな溜め息を1つ吐いて、部屋のある壁をグッと押した。するとその壁は、金属音が混じった様な、少し不快な音を立てながら180°回転した。何やら小さな引き出しが出てきた様だ。雅がそこから取り出したものは、無色透明でキラキラと光る水晶の欠片の様な、とても綺麗なものだった。
魔耶「それは......」
雅「これがそこに書いてある、私が作ったものだ。封印結晶と言い、一切の穢れを持たない物質から出来ている。どう作ったかは企業秘密だ」
カルセナ「へぇ.....綺麗....それで、どうやって使うんですか.....?」

457:なかやっち:2020/05/17(日) 21:24

雅「…封印するには物質が必要だと書いてあったろう?この封印結晶をその物質と触れさせればいい。そうすればその物質は悪魔を封印するためのよりしろとなる」
魔耶「なるほどなるほど…その物質って、なんでもいいんですか?」
雅「物質ならなんでもいいぞ。まぁ、その研究報告書にも書いてある通り、思い出深い物の方がいいだろう。なんせお前の体の中にいる悪魔らしいからな、よっぽど思い出深い物じゃないと封印できないかもしれん」
カルセナ「…ふーん…魔耶、そういう思い出深い物ある?」
魔耶「………うーん…」
腕を組んで少々考えてみる。思い出深い『場所』とか『思い出』とかならすぐに思い付きそうだが…物となるとすぐには思い付かない。
視線をさげ、しっかり考えようとしたとき。
魔耶「んーと……あっ、ペンダント……」
うつむいたときに目に入ったのは、いつも身に付けている赤いペンダントだった。
魔耶「…このペンダントなら、いけるかもしれない」
カルセナ「…あぁ、そういえばいつもそのペンダント着けてるよね。思い出深いものなの?」
魔耶「うん。このペンダント、私が初めてつくった物なんだよね〜。まだ幼い頃だったからつくったあとは魔力切れで倒れちゃったらしいんだけど…閻魔様にも友達にもたくさん誉めてもらえて、嬉しかった記憶がある」

458:多々良:2020/05/18(月) 19:46

カルセナ「へぇ〜....それならいけそうだね」
魔耶「だね....じゃあ、これにします」
ペンダントを手のひらに乗せ、雅に見せる。
雅「....ならばこれを、先程私が言った様に使ってみろ」
封印結晶を魔耶に手渡す。魔耶は、雅から言われた様に、ペンダントに封印結晶を触れさせた。すると、結晶が砕け散り目を刺すかの様な眩い光となってペンダントに吸い込まれて行った。
魔耶「わぁ.....!!す、凄い.....」
カルセナ「眩しかった〜.....」
雅「これで、封印する物体の準備は整った。封印方法についてはだな.....」
魔耶「....やっぱり、悪魔を封印するものだから難しかったりするんですかね......?」
雅「聞いてからでないと分からないだろう。難しいかどうかは、聞いてから考えろ」

459:なかやっち:2020/05/18(月) 20:17

雅「…で、肝心の封印方法だ。始めに、悪魔を動けなくなるくらいにまで弱らせる」
魔耶「…それって、物理的に攻撃するんだよね?悪魔は回復力が高いし、全ステータスも高いから…まずそこで苦労しそう」
自分が悪魔状態になったときを思い出しながら意見を述べる。
魔耶が悪魔状態になったときは全ステータスが飛躍的に上がっていた。もし悪魔が外に出たとしたら、その悪魔は悪魔状態のときと同じくらい…もしくはそれ以上の力をもっているだろう。
雅「…そうだな。もしかしたら精神的な攻撃も必要になるかもしれん。悪魔の体力は多いからな、真っ正面から戦えば先にこっちの体力がなくなるだろう」
カルセナ「えぇ…精神的な攻撃ってなによ…罵倒を浴びせればいいの?」
雅「そうだな…悪魔が嫌がる物を使うとか、だろうか。罵倒なんぞ浴びせたって意味ないと思うぞ」
魔耶「ふーん…ここでも、悪魔の苦手なもの問題か…それは後でじっくり調べなきゃな。……それで、次の手順は?」

460:多々良:2020/05/19(火) 19:50

雅「弱らせる事が出来たら悪魔の額に、悪魔を入れる物体を触れさせる。....それで終わりだ」
意外と呆気ない説明に、二人できょとんとした顔を見合わせる。
カルセナ「あ、え...それだけ?」
雅「あぁ、そうすれば悪魔は自然と物体に吸い込まれ、封印されるだろう」
魔耶「弱らせた後は思ったより...簡単そうなんだけど.......」
雅「まぁ、悪魔が本当に何も抵抗出来ない状態ならばな」
その一言に、何らかの疑問を抱く様に再び前を向く。
雅「悪魔は悪魔.....だ。何が起こるか分からん。封印される直後に突然変異し、更に凶暴化しても何もおかしくはない」
魔耶カル「........」
悪魔を封印するシーンを思い描き、ごくりと息を呑む。再び封印する事は決して甘くないという事実を、改めて悟った。

461:なかやっち:2020/05/19(火) 20:10

雅「…封印の手順はわかったか?」
雅の言葉で、頭に思い浮かべていたシーンが振り払われる。
魔耶「あ、うん…ありがとうございました」
カルセナ「ありがとうございました…。いい情報が得られたよ」
雅「そうか…まだ調べものがあるんだろう?さっさと調べてこい。私は大切な実験を早く再開したいんだ」
柚季「…雅さん、ほんとはこういうこと知ってたんじゃないですか〜。なんでさっき教えてくれなかったんです?意地悪ですよ〜?」
少々不機嫌そうに、でも面白そうに柚季が質問する。
雅「……ただ忘れていただけだ。そんな研究したのは何百年も昔だからな」
魔耶「そんな昔に…なぜ悪魔の研究なんかしたんですか?もしかして…昔悪魔関連でなにかあったとか?」

462:多々良:2020/05/20(水) 17:15

雅「.....ある....が、お前達3人に話す義理は無い。用が済んだならば、早く去れ」
魔耶カル「....はーい.....」
雅が話を止めて実験を再開し始めたので、仕方無くここを去る事にした。

柚季「....うちの雅さんが、すみませんね〜」
魔耶「いやいや、かなり良い情報や封印方法が得られたから良かったです」
カルセナ「戻るんなら早く戻って、今度は悪魔を倒す情報集めでもしないとね」
魔耶「そうだねー」
柚季「頑張って下さいねー、何かあったらまた協力しますよ」
魔耶「うん、そのときはよろしくお願いしまーす」
柚季「はーい、それじゃあ....」
魔耶カル「さよならー」
二人が飛び立って暫くした後、柚季は再び雅の元に戻った。

柚季「...なーんで話さなかったんですか?話したって良い内容でしょうに」
雅「....何だ、またお前か。他人にペラペラと話す様なものじゃない....ただそれだけだ」
柚季「....もしかして、話してる暇があったら少しでも有力な情報を集めに行って欲しい....とか、そんな感じでした?」
雅「......五月蝿いな、実験の邪魔だ。暇なら見張りでもしていろ」
柚季「....ふふ、素直じゃないですね〜....」
少しご機嫌そうに、雅に聞こえない様に笑いながら地下3階から上がった。

463:なかやっち:2020/05/20(水) 18:45



魔耶「ふぅ…。いい情報が得られたから、ちょっとだけ心にゆとりができたよ」
空中でほっと安心したようなため息をつく魔耶。その首には、悪魔を封印するためのよりしろとなったペンダントがかけられていた。
カルセナ「うん、よかったぁ…。なんの情報もなかったらどうしようかと…」
魔耶「そうだね〜…まだ100%悪魔を封印できるってなったわけじゃないけど…それでも、確率は格段にあがったよね?」
カルセナ「うんうん。この調子でいけばもっと良い情報が得られるよ!」
…励ましてくれてるんだろうな。カルセナの明るくて前向きな言葉を聞いて、自然と微笑みがこぼれる。
魔耶「そうかもね……ありがとう、カルセナ」
カルセナ「なにを今さら〜。毎日感謝されてる気がするよ?」
魔耶「だって〜…カルセナがいなかったら、私は一人で途方に暮れてたかもしれないじゃん。こんな良い情報は見つからなかったかもしれない。…だから、ありがと」
そう言うと、カルセナは照れくさそうに魔耶から顔を背けた。
カルセナ「そんなことないって…それに、まだまだこれからなんだから!魔耶が絶対悪魔にならないってなるまではお礼なんか言わないでよ〜」
魔耶「あはは、ごめんなさーい」
カルセナのお陰で光明が見えてきた気がする。…彼女には感謝してもしきれないなぁ。

464:多々良:2020/05/20(水) 21:56

カルセナ「街に戻ったら....お昼過ぎくらいかなー?」
魔耶「どうだろうねー....てか、今何時かも見てきてなかったわ」
いつの間にか雨は止み、太陽が顔を出していたので、それを見る限りはカルセナの言う通りかと思われる。
カルセナ「時間に困ったときは腹時計活用すると良いよ〜」
魔耶「腹時計ねぇ....日に寄って結構なズレがあるけどね」
カルセナ「まぁ、大体こんくらいって思うときで良いんじゃない?」
魔耶「適当か。....時間分かんなくて困る事なんて、最近はあんま無い気が....」
カルセナ「損は無いですよ」
魔耶「それはそうですね....てか、凄い蒸し蒸しする......」
雨が上がった後直ぐに気温が上がり始めた為、コンディションはあまり良くなかった。
カルセナ「それは分かる〜.....背中すんごい汗かいてるもん。街に着くまで耐えますか....」

465:なかやっち:2020/05/20(水) 22:59

魔耶「はーい…。もう半袖でいいかも…」


それから暫く飛び続け、ようやく北街の大きな壁が見えてきた。出入り口の近くに着陸する。
カルセナ「あー…ようやく着いたって感じだねぇ…」
魔耶「うん…。冷たいものとか食べたい」
カルセナ「…アイス、とか?」
魔耶「いいねぇ…お金ないけど」
もうすっかり顔馴染みの兵隊さんと挨拶を交わして門を通り抜ける。
中の街はいつもと同じく活気があって、まるで一人一人が蒸し暑さを無理矢理吹き飛ばそうとしているかのようだった。
魔耶「うー…到着…」

466:多々良:2020/05/21(木) 20:03

カルセナ「あちぃー.....お腹空いたなぁ.....」
魔耶「ね....ご飯食べに行こう....って言っても、お金あんま無いし、暑いから....取り敢えず宿戻らん?」
カルセナ「そうだね、賛成でーす」
パタパタと手で顔を扇ぎながら、早足で宿に戻る事にした。
魔耶「普段雨降らないせいか、この人混みのせいか....雨降った後に晴れると、めちゃめちゃ暑いねぇ」
カルセナ「本当にねー.....暑いって言ったら暑く感じるから、言わん事にしない?」
魔耶「それが果たして効果あると良いけど....分かった〜」

だるそうに歩き続け、やっとの事宿に到着した。
魔耶「早く入っちゃお〜」
そそくさと、日が当たらない空間へ移動する。外に居るよりかは、大分マシであった。

467:なかやっち:2020/05/21(木) 20:41

カルセナ「おー…外よりはマシって感じだね…」
魔耶「うむうむ。流石我が家だね」
カルセナ「勝手に宿を家にするんじゃない。…んで、これからどうしようか?」
カルセナに言われ、少し考える。やりたいこと、やらなくてはならないことがたくさんあった。
魔耶「うーむ…とりあえずお昼ご飯は食べたいなぁ。宿になにか残ってたっけ?」
カルセナ「パンがあとちょっとだけあったはず」
魔耶「パン食べてばっかだな〜…。またお金稼がないとね」
カルセナ「そうねぇ…餓死する前にクエスト受けないと」
魔耶「ね〜。危険すぎないけど報酬は高い!みたいなクエストないかな〜」

468:多々良:2020/05/21(木) 21:12

カルセナ「何か、レアなもの探す依頼とかあったら良いけどね〜。それなら、危険すぎず、報酬は安すぎずって感じなんじゃない?」
魔耶「確かに〜....ご飯食べ終わった後、依頼のボード見に行ってみる?」
カルセナ「そうしよっかー」
昼食後にやる事を決め、戸棚を開ける。そこには、3種類のパンがあっただけだった。
カルセナ「....ほんとに餓死しない様にしないとね........どーする?どれ食べたい?」
3種類のパンを両手に持ち、魔耶に見せる。
魔耶「うーん....微妙なラインナップですね....んじゃあ、私から見て右のやつー」
カルセナ「はいはい....はいよっ」
一番右、メロンパンを選んだ魔耶にそれを投げ付ける。
魔耶「わっ、また投げやがったなー。落としてたらどーすんだ」
カルセナ「まぁまぁ、魔耶なら取ると思ってたし....取れたからオッケー?だよ〜」

469:なかやっち:2020/05/21(木) 21:47

魔耶「むぅ…食べ物は大事にしなさいよ〜。私だってキャッチ失敗することくらいあるんだからね」
カルセナ「あはは、気をつけまーす」
カルセナの軽い態度に苦笑しながら、メロンパンと一緒にいただくために牛乳を取りに行く。
魔耶「牛乳ももうないなぁ…買ってこなきゃ…」
カルセナ「飲み物なくても食べれるようになれば?私みたいに〜」
魔耶「無理だよ〜。絶対喉に詰まる」
カルセナ「意外といけるかもよー」
魔耶「いやいや、無理だからね。……んで、カルセナはなににするの?」

470:多々良:2020/05/22(金) 07:27

残った2つのパンを見て考える。
カルセナ「どーしよっかな〜....このバターパンにしよっかな」
そう言いながら残りの1つを戸棚に仕舞う。
魔耶は中身が少なくなった牛乳の容器を冷蔵庫に入れ、いつもより少ない量の牛乳が入ったコップを持って、カルセナと共にテーブルへ向かった。お互い、椅子を引いて向かい合って座る。
魔耶「んじゃあ....いただきまーす」
カルセナ「いただきまーす」
パンをもぐもぐと頬張る。この光景も、何度見ただろうか。
魔耶「うん、美味しいわ〜」
カルセナ「流石にこれだけじゃあ足りなくなってきたかも....お店の定食とかが恋しいなぁ。魔耶はそれで足りるの?」

471:なかやっち:2020/05/22(金) 19:46

魔耶「まぁ、うん。私そんなに大食いじゃないし。どっちかというと少食…っていうか、お腹いっぱい食べることが少ないかな?」
カルセナ「…??どゆこと…?」
彼女の頭にはてなマークが浮かぶ。
魔耶「えっと…たくさん食べれるっちゃあ食べれるけど、そこまで無理をして食べたりしないってこと。腹八分目で留める感じ」
カルセナ「ほぇ〜…まぁお腹いっぱい食べると、運動したときに色々トラブルが起こるからね」
魔耶「そゆことそゆこと。食べるときは食べるけど、今はこれで足りるかなぁ…。カルセナはどっちかというと大食い…?」

472:多々良:2020/05/23(土) 07:47

カルセナ「うん。沢山食べないと大きくなれないぞ〜って言われて、凄い食べさせられてたから....そのせいで大食いになっちゃったんだろうなぁ」
魔耶「もう十分大きくなってる様な....」
カルセナ「そうかな?それだったら、昔の努力は無駄じゃ無かったって事になるな〜」
魔耶「今努力する必要は無くなったけどね....」
カルセナ「まぁ、あれだよ.....癖?大食いの癖が付いちゃったって感じ?」
魔耶「成る程納得〜」

雑談をしながらちまちまとパンを食べていたが、遂に食べ終わった。
魔耶「ふぅ〜、ごちそうさま〜」
カルセナ「ごちそうさまー....あー、やっぱ足りないなぁ。ま、仕方無いか」

473:なかやっち:2020/05/23(土) 14:31

魔耶「まだ食べ物があるだけマシだろ〜。早く仕事しないとね」
カルセナ「そうだねぇ…あっ」
この流れなら、魔耶の好きな食べ物が聞けるかもしれない…そう思ったカルセナは、魔耶に質問してみることにした。
魔耶「…?なに?」
カルセナ「いや…魔耶はお金が手に入ったらなにか食べたいものある?」
魔耶「えー…キャラメルとか食べたいけど…」
カルセナ「そういうのじゃなくて…料理?」
魔耶「あー、料理かぁ。…んっと…とり肉…?」
カルセナ「料理じゃないやん…」
魔耶「とり肉を使った料理なら全部好きよ。特に唐揚げとか。…カルセナはどんな料理が好きなの?」

474:多々良:2020/05/23(土) 17:02

カルセナ「私も鶏肉系は大好きだよー。あと、やっぱりパスタかな」
魔耶は鶏肉が好き、という良い情報を聞けた。これを元に美味しいお店を探すとしよう。
魔耶「カルセナっぽいねぇ〜。....そんじゃあ、行こっか」
カルセナ「おー」
各々の準備を済ませ玄関へ向かい、ガチャッと扉を開けた。外に漂う蒸し暑さは一向に退いてくれる気配が無い。
魔耶「むー、今日いっぱいはもうこんな感じなのかな〜....」
カルセナ「そうかもしれないねぇ....早く見に行っちゃお」
午後になって人通りが更に増えた大通りをてくてくと歩く。
魔耶「お願いします〜、何か良いクエストありますように....」
カルセナ「取られてる可能性も無くはない.....」
魔耶「それもありそう....どうかな〜?」
ギルドの広場が姿を覗かせた。ボードには、相変わらず沢山の依頼が貼り付けられている。

475:なかやっち:2020/05/23(土) 17:52

魔耶「うわぁ…相変わらずびっしりじゃないですか…」
ほとんど隙間がないクエストボードを見て苦笑いを浮かべる。
カルセナ「探すのも大変そうだねぇ…。今はE,D,Cランクのクエストが受けられるんだっけ?」
魔耶「そうそう。その中で簡単&報酬の多いクエストを探さなきゃね」

クエストを一枚一枚見ていき、条件に合ったクエストを探す。やはりこれが大変だった。
魔耶「…ランクごとに分けちゃえばいいのに。そうすれば簡単に見つけられるじゃん…」
カルセナ「確かにねぇ…。まぁ今そんなこと言ったってしょうがないけどさ。………ん?」
魔耶「…?いいのあった?」

476:多々良:2020/05/23(土) 19:22

ある依頼状に目が留まった。
カルセナ「この、『遠方宅配依頼 ランクD』とか.....」
魔耶「遠方宅配....?宅配系の依頼結構あるのね....字からして、遠い所に荷物を届けたりすんのかな?でも、何で1つ高いランクなんだろう」
カルセナ「んー....遠いから....とか?」
魔耶「あるいはモンスターが大量にいる所に届けるとか.....ま、そんなとこに届け物がある人なんてあんまり居ないだろうけど」
カルセナ「うん....この依頼は、クエスト内容がそこそこ楽だから報酬金は微妙だなぁ....もっと良いのがないか探してみない?まだまだいっぱいあるし」
魔耶「了解、もう少しだけ探してみるかー。出来れば近場が良いけどね....」

カルセナが、がさがさと手で依頼状を掻き回す。探している内に、ポロッとピンが外れ、1枚の依頼状がボードから離れた。
カルセナ「あっ、落ちちゃった」
意思を持っているかの様に、魔耶の足元までひらひらと舞い落ちた依頼状を魔耶が手に取る。
魔耶「取れる程掻き回すなよ〜?」
カルセナ「ごめんごめん、ありがとー。....あ、因みにそれはどんなクエスト?」

477:なかやっち:2020/05/23(土) 19:55

魔耶「んっと…」
カルセナに向けていた視線を手の中の紙切れに移し、内容を声に出して読み上げる。
魔耶「『貴重品を取り返せ ランクD』…これもDランクだね」
カルセナ「…貴重品を取り返す…?どゆこと?」
魔耶「えーっと…大事な物をモンスターに取られちゃったから取り返してほしいってことみたい。簡単…ではないけど難しくもないかな?報酬はそこそこだね」
カルセナ「ふーん…それは相手にするモンスターにもよるかな…モンスターの情報は書いてある?」
魔耶「うん。ちょっと大きめな鳥型のモンスターだって。貴重品が金属だったから、盗られちゃったみたい」

478:多々良:2020/05/23(土) 22:03

カルセナ「へぇ〜....それとか良いんじゃない?モンスターはちょっと怖いけど.....」
魔耶「さっきのやつよりも報酬金は高いしね....じゃあ、これやってみよっか」
手に取った依頼状をボードに戻さず、カウンターに持っていく事にした。受付嬢らしき人に申し出ると、例の取られた貴重品の写真と、一部に赤ペンで丸が付けられた地図を渡された。どうやらそこら辺が、モンスターが居ると思われる場所らしかった。

カルセナ「....ちゃんとした場所は言われなかったね〜。何か、何とかの洞窟〜だとか....」
魔耶「多分、情報収集とか観察とかして見っけろってことじゃない?」
カルセナ「こっちも情報収集忙しいんだけどなぁ....」
魔耶「今日は良い情報が手に入ったから良しとするよ....そうと決まれば、もう向かっちゃう?」
カルセナ「そうだね、早い方がお互い良いだろうし.....えっと、ここはあっち方面かな....?」
地図を見ながら北西を指差す。

479:なかやっち:2020/05/23(土) 22:38

魔耶「うんうん、あってるあってる。それじゃあ…早速、レッツゴー!」
大きな翼をはためかせ、勢いよく空中に飛び立つ。
カルセナ「わ、ちょっと…待ってよ〜」
続いてカルセナも空中に飛び立ち、魔耶の隣に並んだ。
カルセナ「もう…そんなに焦らなくてもクエストは逃げないぞ?」
魔耶「善は急げってやつだよ、カルセナさん。それにもう午後だから…急がないと帰りが遅くなっちゃうし」
カルセナ「まぁそうか…?んでも、帰り急いで来れば大丈夫でしょ。歩いて帰る訳じゃないし」
魔耶「いやいや、もしかしたら飛んでる最中に幽霊やらモンスターやらでるかもよ〜?」

480:多々良:2020/05/24(日) 07:56

カルセナ「ひっ......幽霊だけは本当に勘弁.....」
魔耶「仲間を怖がるなよ〜」
カルセナ「怖いものは怖いんです.....うぅ、こっちが鳥になっちゃうわ......」
少し鳥肌が立ってしまった腕を擦る。
魔耶「そういや、どんな感じのモンスターなんだっけ?私達が討伐....と言うか、探しているのは」
カルセナ「さー....どんなんだろう....モンスターの写真とかも、くれても良かったのにね」
魔耶「ほんとにねー......あれ?」
ふと、見ていた地図が風で捲れ、裏側が見えた。そこには、怪鳥らしきモンスターの写真が貼り付いている。羽を広げ、鋭く尖った嘴が何よりも際立っていた。
魔耶「もしかして、これじゃない....?」
カルセナ「ん、どれどれ〜?......あー、ほんとだ!そうかも......」

481:なかやっち:2020/05/24(日) 09:28

魔耶「…思ってた以上に怖いんだけど…」
カルセナ「…うん、怖い。こんな嘴につつかれたらひとたまりもないね」
魔耶「怖いこと言うなよ〜…こいつを相手にしなくちゃいけないのか…」
怪鳥と向き合っている自分の姿を想像して身震いする。情報によればそこそこ大きいらしいし、できれば対峙したくない。
カルセナ「…まぁ、無理矢理戦うこともないでしょ?盗られたものを取り返したらいいだけなんだし」
魔耶「そっかぁ…出会ったら即襲われそうだけどな…。出会わないように祈るわ」

482:多々良:2020/05/24(日) 11:46

カルセナ「そうだね〜.....上手く行くと良いね」

それから暫く飛び続け、目的地周辺くらいの場所まで行けた。
魔耶「んー、地図によるとこの辺かな〜」
カルセナ「あ、あのぅ....」
魔耶「うん?」
カルセナ「何かさっきからずっと変な鳴き声してるよね.....」
実は、目的地周辺に着く前から、ギャーギャーとおかしな鳴き声が聞こえてきていた。
魔耶「うん、そうだねぇ....多分、ここらはたくさんモンスターいるのかもね....てかカルセナ、さっきよりビビってる....?」
カルセナ「被害妄想が凄いんです....襲われたらと思うと、怖くてね....」
魔耶「もっと怖いドラゴンとかと立ち向かった事あったじゃん.....まぁ怖いのは分かるけど....」
カルセナ「うぅ〜、でも幽霊の方が怖いから....大丈夫....うん....」
少しビクビクしながらも、自分を奮い立たせた。

483:なかやっち:2020/05/24(日) 12:45

魔耶「…ほんとに大丈夫か〜?手繋ぐ?」
カルセナ「大丈夫だって…手繋ぐとか子供扱いしてる?」
魔耶「ソンナコトナイヨ〜…んじゃ、降りよっか」
ずっと空中を飛んでいたはいいものの、木が生い茂っていて下の様子がわからなかったため下に降りることを提案する。
カルセナ「わ、わかった…。…魔耶、いきなりどっか行ったりしないでね…?」
魔耶「カルセナを置いていくなんてことしないよ…じゃ、降下開始…」
顔に緊張を浮かべているカルセナと共にゆっくりと下へ降りていく。ギャーギャーという声が近くなっているような気がして、魔耶の顔にも緊張と警戒の色が浮かんだ。

484:多々良:2020/05/24(日) 13:00

カルセナ「ち....近くなってる....鳴き声が....」
魔耶「でも、真下にいるって訳では無さそうだから.....まだ大丈夫かな」
カルセナ「て言うか私、武器という武器が無いんですけどどうすれば良いんですかね.....」
魔耶「何かつくってあげよっか?まぁいざとなったらブラッカル出てきてくれるんじゃない?」
カルセナ「んー、今のところ良いけど.....出てきてくれるかねぇ....あいつ。気まぐれだからな〜......」
二人でそっと地面に足を着く。回りには何も居ない。
魔耶「.......さて、どうしようか....」
少しトーンを抑えて話す。
カルセナ「もしその鳥モンスターがいても、盗られたものを持ってる確率は低い....よね」
魔耶「確かに....巣とかに行けばあるかも。じゃあ、もしそのモンスターが居ても持ってなかったら、追いかけてみる?」
カルセナ「うん.....そうするしか無いよね....」

485:なかやっち:2020/05/24(日) 13:31

魔耶「とりあえず…武器は構えておいても損はないかな」
いつものように双剣をつくりだし、握り締める。怪鳥を見つける前に他のモンスターに襲われたりしたら…という慎重な考えからだった。
カルセナ「…魔耶って、色んな武器使うよね」
魔耶「…え?あ…うん。色々使えれば便利だし、攻撃に色んなパターンができるからね。基本は双剣だけど」
カルセナ「へぇ…その武器の使い方?戦い方とかって、独学なの?」
魔耶「…まぁ半分はそうかな。もう半分は他の人に習ったりして身につけたって感じ」
カルセナ「ほうほう」
魔耶「…カルセナは使える武器とかあるの?ブラッカルは素手で戦ってたけど、カルセナもそんな感じ?」

486:多々良:2020/05/24(日) 15:26

カルセナ「うーん....そんな感じと言われればそんな感じなんだけれど....」
魔耶「けれど....?」
カルセナ「私は素手で戦える様な身体能力は持ってないからさ....魔耶みたいに武器をつくる事だって出来ないし、魔法だって使えないし.....ただ未来を読めるだけ」
魔耶「そうなのか.....でも、未来読めるならまだ良いじゃん?」
カルセナ「前にも言った事あるかもしれないけど、私には未来は読めても、それを瞬時に活用する力がないからあんまり意味が無いんだよね.........はーぁ、どうしたものか〜....」
内心では、もっと1人で戦える様になりたい。魔耶やブラッカルの力を借りずとも、自分で対処出来る様になりたいと思っている。だが、今はそれを実現する事が出来ない。そんな事は分かりきっていた。だからこそ悩んでいた。

487:なかやっち:2020/05/24(日) 16:09

魔耶「うーむ…でも、能力は人それぞれじゃない。戦い向けの能力もあれば生活に便利な能力だってある。私の能力はグレーゾーンだったけど、ちょっとだけ工夫をして今の形に落ち着いた。…だからさ、カルセナの能力だからこそできるようなことがきっとあるよ」
落ち込んでいるような、悩んでいるような顔をしたカルセナに笑いかける。だが、それでもまだカルセナの心は晴れていないようだった。
カルセナ「そうかもしれないけど…でも、戦いが出来なくちゃ意味ないじゃん。いつも魔耶とブラッカルに頼ってなんかいられないし…」
魔耶「無理に戦うことなんてないと思うけどなぁ…」
カルセナに聞こえる程度の小さな声で呟くが、そんなことを言ってもカルセナの表情は変わらなかった。私達に任せっきりなのは嫌なようだ。
…そこで、カルセナにある提案をしてみる。
魔耶「…じゃあさ、今度修業でもする?一緒に」
カルセナ「修業…?」
魔耶「そう、修業。能力を使った戦い方を研究したり、実践してみたりするの。私だって修業もなしにこんなんなった訳じゃないからね〜」
カルセナ「でも、魔耶に迷惑なんじゃ…?」
魔耶「そんなことないよ〜。むしろ、私もそろそろ修業して新しい技とかを研究しないとって思ってたんだ〜。この世界は危険が多いからね。……どう?」

488:多々良:2020/05/24(日) 18:10

予想の斜め上を行く魔耶の意見に少したじろぐ。だが、魔耶がそう言ってくれている。ここはひとつ、努力してみる価値はあるだろうと思わせてくれた。
カルセナ「....うん!!賛成....!」
魔耶「....ふふ、じゃあ、私が無事で居られたらそうしよっか」
カルセナ「そんな縁起でも無い事言わないでいてくれ.....」
魔耶「だいじょぶだいじょぶ、悪魔になんか絶対飲み込まれないから!.....それにしても、中々姿が見えないね〜」
会話をしながらも、着々と足を進めていた。鳴き声は聞こえてくるのだが、一向に姿が見えないのだ。
カルセナ「うう〜ん.....でも、鳴き声は近くなっている様な.....」
魔耶「もうちょっと先なのかな、居る場所は....」
カルセナ「そうかもね.....」

489:なかやっち:2020/05/25(月) 20:32



…それから5分ほど散策してみたが、やはり怪鳥の巣どころか姿さえ見えなかった。
カルセナ「見当たらないねぇ…」
魔耶「ね…。声は聞こえるのに…警戒してるのかな?」
カルセナ「それか油断したところをパクっと…?」
魔耶「怖いこと言わないでよ〜。…まぁ、ありえなくもないけどさ…」
雑談しながら棒で藪を突き、覗き込んでみる。やはり怪鳥の姿は見えない。
魔耶「声は近くなってるような気がするのに…どこにいるんだろ〜…」
カルセナ「ね〜。………って、うん…?」
魔耶「…?どうかした?」
カルセナ「いや…あそこ、なにか落ちてない…?」

490:多々良:2020/05/25(月) 21:15

少し遠くに見える、フワフワとしていて軽そうな物体を指差す。
魔耶「ん〜?何だろ....ちょっと見に行ってみよっか」
カルセナ「うん....」
とことこと近寄ると、それは大きな1枚の羽根だった。
魔耶「羽根....?何の鳥の羽根だろう.....あ、もしかして!」
地図の裏にある怪鳥の写真と、その羽根を見比べる。
カルセナ「どうしたの〜?...まさか.....」
魔耶「この羽根と目的のモンスターの羽の特徴が一致してる....!!」
細かい模様などもしっかり見たので、間違いは無いだろう。しかも、その周辺には2つ3つ程度の足跡らしきものもある。
カルセナ「えー!?やった!!遂に手掛かり見っけた!!」
魔耶「でも、ここに羽根が落ちてるって事は、近くにいるって事だよね....」
カルセナ「わっ....そうじゃん......」
歓喜が零れ出た口を慌てて押さえる。

491:なかやっち:2020/05/26(火) 20:19

魔耶「んっと…足跡はこっちがわ向いてるから、多分この先にいるよね…そこまで古くもなさそうだし…近くにいるかもしれないから、慎重にね」
足跡から怪鳥が行ったであろう方向を探り、指を指す。指の先には獣道のような通路があった。…おそらく、長年の間、モンスターや動物達の通路として使われているんだろう。
カルセナ「う、うん…気を付けます…」
魔耶「おう。……それじゃ、行きましょうか」
木々の影で薄暗くなっている獣道に足を踏み入れる。この先に怪鳥がいるのか、巣があるのか、はたまた何もないのか…期待と不安を胸に、二人は進みだした。

492:多々良:2020/05/26(火) 21:32

カルセナ「うわー....圧倒的大自然....って感じ」
足に触る草や、じっとりとした空気に少し戸惑いを表す。
魔耶「そりゃあそうだろうな....生前は都会にでも住んでたのか?」
カルセナ「都会っちゃ都会の方に住んでましたよ....でも逆に、普段都会暮らしだったからこういう所に来ると何か楽しいわ....怖いけど」
魔耶「はっはー、今の内に堪能しておけー」
カルセナ「堪能出来る様な環境でも無いわ.....」
そのまま前へ進んでいると、また抜け落ちた羽根が落ちていた。
魔耶「あ、まただ。やっぱこの辺にいるんだな〜....」
カルセナ「いやぁー、近くなってるって事か....?うぅ、鳥肌が.....ヤバい、こっちが鳥になっちゃう....」

493:なかやっち:2020/05/26(火) 22:21

魔耶「さっきも言ってたぞそれ…」
カルセナ「だってぇ…鳥肌止まんないんだもん…」
魔耶「だからって……あれ、なんか広いところにでたね」
会話の最中に、獣道を抜けて草原に出れた。急な景色の移り変わりに少し混乱する。
カルセナ「え、獣道の先は草原…?なんもなかったじゃん…!じゃあ怪鳥はどこにいるのさ?」
魔耶「…私に聞かれても困るんだけど……ここらへんに巣でもあんのかな…」

494:多々良:2020/05/27(水) 17:19

キョロキョロと辺りを見回して巣を探そうと試みていたとき、またあの声が聞こえた。
魔耶「.....あっ、またこの声....ほんとに、どこから聞こえてるんだよ〜....」
構わずに巣を探す。
カルセナ「それっぽいものは無いねー....てかさっきの声、めちゃくちゃ近かった様な気がするんだけど....」
魔耶「確かに、これまでも近かったけどさっきのは特にね....」
ギャーギャーと声がする。まるで、すぐ側に居るのでは無いか、と思える程の声の大きさだ。
カルセナ「はぁ〜....声の発生源探ってみる?」
魔耶「だね....えーっと........ん?」
耳を澄ませていると、にわかに信じがたいある異常に気付いた。
カルセナ「どうしたの?」
魔耶「何か....地面から聞こえる様な......」
カルセナ「えぇ?だってモンスターは鳥でしょ?んな馬鹿な〜」
魔耶「この世界では常識は通用しないんだぞ、もしかしたらっていう可能性も.....」
カルセナ「鳥が地中に住むって可能性?む〜、想像がつかん....」

495:なかやっち:2020/05/27(水) 18:40

魔耶「いやまぁ、私も想像つかないけど…虫がハーブ食べる世界だし、あり得なくもないかな〜と…」
しっかりと確認するために、地面に耳を当ててみる。やはり地中から怪鳥と思われる声が聞こえてきていた。
魔耶「うん、やっぱり…土のなかにいるわ」
カルセナ「マジかぁ…ほんっとーに、この世界では私達の常識が通用しないねぇ」
魔耶「そうねぇ…いや、そういう鳥もいたっけ……?…まぁいいや。多分ここら辺に入り口があるんだろうし、探してみようよ」
カルセナ「…いや、それより地面掘ってみた方が早くない?」
名案と言うようにカルセナが帽子をピンッと指で弾く。
魔耶「まぁそれでもいいけど…着いた瞬間鳥が待ち構えてるかもよ?」
カルセナ「入り口探しましょうぜ」
魔耶「切り替え早いな…」

496:多々良:2020/05/27(水) 22:07

魔耶「ま、早速それっぽいとこ探しますか。地中に居るって事だし、どこかに穴でも空いてるのかな....」
カルセナ「だとしたら分かる気がするけど.....何かで隠したりしてんのかもね」
広い草原を見渡す。見当たるものは、大きな岩の数々と、背の高い雑草だけだ。
魔耶「うーん....岩の下....とかありそう....」
カルセナ「隠し場所にしては最適ですね.....入り口がそこだとして、そんな重い岩動かせるかな〜」
魔耶「道具を使う事は出来るけど....力が足りるかは分からない....」
カルセナ「んー、どうしよっかー....こう言うのに至っては、すんごい頭硬いからな私.....」
大きな岩を動かす方法を必死に考える。しかし、普通に持ち上げる、ずらす等の考えしか浮かんでこなかった。

497:なかやっち:2020/05/28(木) 19:49

魔耶「うーん…キツいけど、岩の斜め下を掘って傾かせてみる、とか?」
カルセナ「あぁなるほど…そんなことできるのかな…?」
魔耶「やってみるしかないよ〜…今はこれくらいしか思い付かないし…」
魔耶も必死に知恵を絞るが、やはりそれ以外の方法は思い付かなかった。
魔耶「…あとは岩の下を掘ってみるとかか…?」
カルセナ「なるほどねぇ…でも、その両方の案、掘ってる最中に私達が岩に潰されちゃうんじゃない…?」
魔耶「え?…あ…」
カルセナ「考えてなかったのね…」
魔耶「うぐ…やっぱり私の頭じゃいい案が思い付かないわ…カルセナ、なんかいい方法ない〜?」

498:多々良:2020/05/28(木) 21:45

魔耶にそう言われ、腕を組み直して再び考える。
カルセナ「うえ〜....??そうだなぁ〜........」
岩を退ける方法、岩を無くす方法.....。ここで、とある事を思い付いた。実現は難しいが.....。
カルセナ「....岩を壊す....とか.....?」
魔耶「大胆な方法だね.....でも、安全性はそれが一番かも」
うんうんと魔耶が頷く。
カルセナ「そうだとしても、出来るかどうかって言う話だよね.....どうしよう、魔耶どうにか出来たりする?」
魔耶「岩を壊せるかって事?うーん.....」

499:なかやっち:2020/05/28(木) 23:15

魔耶「…流石に無理!」
カルセナ「まぁ、そりゃそうか…」
いくら魔族であるといっても、流石にこんなに大きな岩を壊すことは不可能だと思われる。能力を使ったとしても、こんな岩を壊せるほどの威力のあるものなんて思い付かないしつくれない。
魔耶「ブラッカルが壊せたりしないかな…」
カルセナ「いやいや、あいつでもこれは無理でしょ…」
魔耶「そりゃそうか…素手だしね…岩の前に拳が壊れちゃうか…」
他になにかいい案はないだろうか…二人で腕組みをし、脳みそを振り絞る。
……と、そのとき、カルセナから無茶ぶりを言われた。
カルセナ「…一回でいいからさ、頑張って壊そうとしてみてよ」
魔耶「え、えぇ…?無理だって〜…」
カルセナ「もしかしたら意外といけるかもよ?」
魔耶「流石にキツいって…武器作っても、壊すには自分の力でやんなきゃいけないんだからな〜。こんなか弱い少女一人で壊せると思ってんの…?」
カルセナ「いやぁ、今悪魔に近い状態なんでしょ?ならいけるかな〜って…」
魔耶「む…確かに…いやでも、いくら悪魔でも…」
カルセナ「まぁまぁ、やってみるだけやってみてよ。ね?」

500:多々良:2020/05/29(金) 17:18

魔耶「うー、分かった〜....」
そう言うと、岩を壊すのに最適な武器を考え始めた。
魔耶「やっぱりハンマーかな〜....でも、重いから持てるかどうか....取り敢えずつくってみるか」
いつもの様に頭の中で武器の大体の形を描き、魔力を使ってハンマーをつくりあげた。
カルセナ「おー、格好いい〜」
魔耶「さ、持てるかな.....せーの、よっと!!」
全力で力を込める。やはりかなりの重量があるハンマー、そう簡単には持ち上がらない。いつもならそうだったのだが......。魔耶が思った程の重量は無く、意外と簡単に持ち上げる事が出来た。
カルセナ「すご!!力持ちすぎるなー!」
魔耶「う、うん.....」
岩を壊す第一歩が完了し、安堵の溜め息をを吐いた。だがその溜め息は、悪魔化が進行している証を、この目で見る事が出来てしまった事に対しての溜め息でもあった。

501:なかやっち:2020/05/29(金) 22:52

魔耶「…んじゃ、いくぞ…」
自身の背丈もありそうな大きなハンマーを振りかざし、勢いよく降り下ろす。
カルセナ「いけー!」
巨大なハンマーが空気を切り裂き、岩に当たり、そして…
カル魔耶「……‼」
なんと、二人の目の前で固そうな岩は大きな亀裂を入れ、砕けちってしまった。これには思わず目を見張る。
魔耶「嘘………え、私がやったんだよね…?」
カルセナ「…そうだよ!魔耶すごい‼こんなおっきな岩を…」
魔耶「……はは」
信じられないという思いと悪魔化が深刻だと認識したのとが同時だったため、魔耶はどんなリアクションをとればいいのか分からなくなってきた。

502:多々良:2020/05/30(土) 19:13

カルセナ「うーん、でもこの岩の下には何にも無いね〜....」
魔耶「きっと他の所にあるんじゃないかな?」
カルセナ「じゃあ、お願い出来ますか....?」
魔耶「りょーか〜い」
取り敢えず手当たり次第に岩を壊してみる事にした。モンスターには申し訳無いが、そうでもしないと見つけられないのだ。
どんどんと岩を壊して行く。そうして、4つ目の岩をたった今破壊した。
魔耶「ふぅ.....どうだ....?」
カルセナ「.....わぁ!!魔耶、大きい穴が空いてるよ!!」
魔耶「ほんとだ....て事は、ここが入り口....?」

503:なかやっち:2020/05/30(土) 20:08

カルセナ「そうかもね…行ってみようよ!」
魔耶「了解でーす。待ってくださーい……明日筋肉痛だなこれ…」
ずっと持っていた重たいハンマーを消し、カルセナに続いて暗い穴の中へと入って行った。


魔耶「…わ、思ってたより広い…」
中に入ってみて、思わず呟いてしまう魔耶。
穴の中は意外にもスペースがあり、二人で並んで歩けるほどだった。
カルセナ「そうねぇ…怪鳥はこのぐらい大きいってことか…?」
魔耶「たしかに…え、じゃあすごく大きいじゃない」
カルセナ「いやまぁ、怪鳥が広めにつくっただけでそこまでは大きくないって言う線もあるけど…」
魔耶「そうだったらいいけどな〜…」

504:多々良:2020/05/31(日) 10:43

カルセナ「....あのさ....」
魔耶「ん?」
カルセナ「仮に鉢合わせしちゃって、戦うとするじゃん?」
魔耶「まぁ、戦いは避けられないかもね....」
カルセナ「でも、ここで戦っちゃったらめっちゃ危険じゃない....?」
通路の天井を見て不安を胸に抱く。当然、通路は土で出来ていた。もし崩れて来たらと思うと、心配せずにはいられない。
魔耶「確かに......んーじゃあ、モンスターと出会うか、盗品を見つけたらすぐ穴から出る?」
カルセナ「モンスターを1匹ずつ対処するのは面倒臭いけど、仕方無いね....」
魔耶「モンスターも仲間を呼ぶかもしれないし、思ってるよりは面倒臭くないんじゃない?」
カルセナ「そうだね、頑張るか〜.....」
少しずつ奥へ進んで行くと、段々と暗くなってきた。地中の穴の中なのだから、そうなるのは当たり前の事だった。
カルセナ「......うー、暗いなぁ.....私全然奥の方見えないんだけど....魔耶は見える?」

505:なかやっち:2020/05/31(日) 17:38

魔耶「私も全くみえないよ〜…明かりを持ってくるべきだったな…」
目を細めて先の様子を伺うが、やはりなにも見えなかった。これでは依頼の貴重品とやらも見つからないかもしれない…怪鳥に鉢合わせしないうちにさっさと帰りたいのだが…
カルセナ「能力で明かりつくれたりしないの?ぱぱっと!」
魔耶「おいおい、私の能力はそこまで有能じゃないぞ…この能力は魔力を形にしてものをつくるだけで、個体じゃないものとか細かい部品が必要なものはつくれないの〜」
カルセナ「なるほど…つまり、炎をつくるとか懐中電灯をつくるとかはできないってことか」
魔耶「そゆことそゆこと。この能力、一見便利そうでもできないこととか弱点とかはいっぱいあるんだから」
カルセナ「ほう、弱点なんてあるの?例えば?」
魔耶「うーん…結構大きな弱点といえば………って、いくらカルセナでも自分の弱点は教えられないわ」
カルセナ「むーケチ〜」
魔耶「はは、私にだって秘密の一つや二つありますよー。…っと、ここ分かれ道だねぇ…」

506:多々良:2020/05/31(日) 20:18

二人の目の前に、二つに別れた道が現れた。
カルセナ「あ、本当だ....どうしよう、明かりも無いし....」
魔耶「流石に二手に別れるのは危険だと思うんだよね.....どっちかに行くしかないかな」
カルセナ「うーん、どっちが正解なのかな.....」
魔耶「分からない....あ、そうだ」
カルセナ「うん?何か思い付いた?」
魔耶「こう言うときこそカルセナの出番でしょ?」
カルセナ「....?私に何か出来るかなぁ....?」
魔耶「右に行った場合の未来と左に行った場合の未来、読んでみてよ!」
カルセナ「え、えぇ....?やってみるわ.....」

507:なかやっち:2020/05/31(日) 20:57

多少戸惑いながらも、目をつぶって集中するカルセナ。
…彼女は自分の能力をローリスクローリターンなんて言っていたけど、私はカルセナの能力がとても便利だと思う。使いようによっては、日常でも戦闘でも役に立つハイリターンな能力だ。…カルセナはそのことに気づいていないようだが。
魔耶「…どう?見えた?」
カルセナ「ん〜と…今左いった場合の未来見てる……あ、途中で行き止まりだわ。広いスペースがあるだけで、他にはなんもないな」
魔耶「ほうほう…んじゃあ右行こっか。行き止まりのとこに行ったってしょうがないし」
カルセナ「はーい」

508:多々良:2020/06/01(月) 20:32

そうして、右へ向かって歩き始める。奥へ進むにつれ、どんどんと光が届かない世界へと変わっていく。
魔耶「ほんとに居るのかな〜....まだ出会ってないし....鳴き声もしなくなったしさ」
反響するにも関わらず、耳を澄ましてもあの奇妙な鳴き声は殆ど聞こえない。
カルセナ「うーん、警戒してるのかな..........あ、ここからもう全然見えないや....」
これから進もうとしていた道は完全に光がシャットアウトされ、何も見えない宵闇が広がるだけだった。
魔耶「む、ほんとだ....でも、盗品を探さないといけないし......どうしよう」
カルセナ「んー......おびき出してみる....とか」
魔耶「え?モンスターを....?」
カルセナ「う、うん....怖いけど....」
魔耶「モンスターをおびき出したって、盗品が見つからないと意味は無いんじゃない?」
カルセナ「そうだけど....その前に、本当にここにいるのか確かめるにはそうするしかないんじゃないかなって....もしここが巣だったら、後で明かりを持ってくるとか出来るし....」

509:なかやっち:2020/06/01(月) 21:40

魔耶「…まぁ、それもそうか…怖いけど、やるしかないか…」
カルセナの案に少々不安を抱きながらも承諾し、右の手を前につきだした。
カルセナ「…?なにする気?」
魔耶「いやぁ、楽器でもつくって鳴らせば出てくるんじゃないかなーって…いいかな?」
カルセナ「あぁ、そういうことね…いいと思う」
魔耶「あざーす。…んじゃ、ベルでもつくりますかね…」
頭の中で描いたベルの輪郭を魔力をつかって現実に出す。魔耶の右手に大きめのベルが握られた。
カルセナ「…んじゃあ…鳴らす…?」

510:多々良:2020/06/02(火) 23:41

カルセナ「う、うん....」
ゆっくりとベルを振り上げ、そして振りかざした。
ベルは、カランカラン....と暗い穴全体に光を灯すかの様な綺麗な音色を立てた。大きなベルだった故に、音も大きかった。
魔耶「......どうかな....」
カルセナ「....すぐには来ないのかな?もうちょっと鳴らしてみれば?」
魔耶「そうだね....よっと」
立て続けにベルを鳴らした。

魔耶「....うーん、まだ来ないなぁ....腕疲れた〜」
カルセナ「お疲れ〜、頑張れー。.......?」
魔耶「いくら警戒してると言えども、流石に来なさすぎじゃ.....ん?どうかした?」
穴の奥を見つめながらボーッとしていたカルセナに声を掛ける。恐らく、細かい未来をちまちまと読んでいたのだろう。
カルセナ「......ヤバい....かも......」
魔耶「えっ....?何が....」
カルセナ「....ッ、一旦出よう魔耶!!ここにいちゃ危ないっ!!...気がする!」
魔耶の腕をがしっと掴んで出入口に向かった。魔耶の持っていたベルが、乾いた音を立てた。

511:なかやっち:2020/06/03(水) 16:16

魔耶「なに…?な、なんなの…⁉」
ガラガラと音を鳴らしていたベルを消し、カルセナに問いかけた。
カルセナ「いいから、今はとにかく走って!早く出口に…!」
魔耶「……わ、わかった…」
いきなりこんな状況となり混乱している頭でも、カルセナはなにかヤバイ未来をみてしまった…ということだけはわかった。どんな未来がみえたのかはわからないが、カルセナのこの慌てようは普通じゃない。今はカルセナについてここを出ることが得策であろう。
魔耶「…ど、どんな未来がみえたの…?」

512:多々良:2020/06/03(水) 21:20

カルセナ「えっとね....」
魔耶に説明しようと喋り始めた途端、後ろから聞き覚えのある、おかしな鳴き声がした。その声は、二人を追いかけているかの様に近付き、どんどんと大きくなってきている。
魔耶「この鳴き声.....まさか....!!」
何かを察し、魔耶も全力で出入口に向かう。少し先には、仄かな光が見える。二人が入って来た出入口から差し込んで来ている日光だ。
カルセナ「もうちょっと....間に合え〜っ!!」
足の力を振り絞り、光を目指した。

そうして、目の前が眩しい光に覆われた。
魔耶「うっ......外だ!!」
カルセナ「やった.....出れた....」
一息つこうとした瞬間、後ろの穴から何かが真上に飛び出した。バッと振り替えるとそこには、写真よりも恐ろしく、鋭い嘴を持った大きな鳥型のモンスターが空中で羽ばたき、こちらに警戒の眼差しを向けていた。

513:なかやっち:2020/06/03(水) 22:14

魔耶「ッ…!こ、こいつが…」
カルセナ「…写真よりも怖いね…」
二人で怪鳥に向き直る。怪鳥のランランとした鋭い瞳孔で睨み付けられ、完全に自分達のことを敵対視してるのだと理解できた。…勝手に巣にはいったのだから当たり前といえば当たり前だが。
魔耶「…流石に逃がしてくれるなんてこと、ないよね…」
カルセナ「そりゃそうでしょ…あの目を見ればわかるよ。殺意しかこもってないもん」
魔耶「…うん、殺る気満々だな……戦わなきゃダメかぁ…」
はぁとため息をつく。なんとなくクエストを受けたときから平和的には終わらないだろうなと予想していたけど、やはりこうなってしまうのか…。
カルセナ「今の魔耶なら大丈夫だって!気絶させる程度まで攻撃して、ゆっくり貴重品ってやつ探そう!」
魔耶「今の私でもどうだろうねぇ…まぁ、やれるだけのことはやってみようじゃないか。早くクエストクリアして、悪魔の問題を解決しなきゃな」
カルセナ「うむ、それでこそ魔耶だ」
魔耶は双剣を、カルセナは拳を構えて怪鳥と向き合う。怪鳥はこちらの出方を伺っているようで、攻撃する様子もなく彼女らの動きを観察していた。勝手に巣に入られて怒っている割には冷静な判断だ。…一筋縄ではいかないであろう。

514:多々良:2020/06/04(木) 21:02

魔耶「....さて、どう行こうか....」
巣から出てきたときの身のこなしを考えると、こちらから攻め落とすと言うのは難しいだろう。
何故ギルド側は、こんなにも凶暴そうな怪鳥を相手にした依頼をランクDに設定したのだろうか。自分達の基準が甘いのか、はたまた相手が団体でないからなのか....だが、今はランクなど関係ない。目の前の敵に集中する。
相変わらず様子を伺っている様だったが、二人がこのまま動かない事を察したならば、襲ってくる確率は大いにあるだろう。
カルセナ「む〜.....未来読むの難しいよ〜.......」
怪鳥や自分達が行える動作など、星の数程ある。その全ての未来を読み、攻略法を探すのはとてつもなく難しい事だった。
魔耶「取り敢えず真っ正面から突っ込んでも負けるよね.....」
カルセナ「うん、未来読まなくても分かるわ.....どうする....?」

515:なかやっち:2020/06/04(木) 21:58

魔耶「どうするっていっても…どうしよう…」
正面から行ったら確実にやられてしまう。かといってここでじっとしていたら襲ってくるかもしれない。やはり様子見をしている隙にこちらから行くべきなのだろうが…どう攻めたらいいのであろう?
カルセナ「……未来も読みきれないし、どうしたらいいんだろ…」
頑張って未来を読もうとしてるカルセナだが、やはり未来を読むのは難しいようだった。カルセナの能力に頼ることはできないめあろう。
魔耶は必死に頭を回転させ、策を練る。
魔耶(正面から行ったらやられちゃうだろうし、やみくもに突っ込むのは危険だよなぁ…こっちの動きを観察してるから攻撃しても避けられる確率が高い。…なんとか隙をつくれれば…)
魔耶「……二手に分かれて攻撃するか…能力で人形をつくって不意をつく…今考えられるのはこの二つかな…」
とりあえず思い付いた作戦をカルセナに伝える。魔耶とカルセナで別方向から攻撃し一人に集中できないようにするか、能力でつくった人形を動かして隙をつくる…今思い付くのはこの二つだ。

516:なかやっち hoge:2020/06/04(木) 22:00

『できないであろう』です。さーせん…w

517:多々良:2020/06/05(金) 22:26

カルセナ「前者は良いと思うけど.....後者は大丈夫なの?今もそうだけど、能力たくさん使っちゃったら悪魔化が進行しちゃったりとか......」
魔耶「まぁ、可能性は無くないけど......」
カルセナ「じゃあ、二手に別れようよ。纏まってやられたら大変だしさ」
魔耶「うん、りょーかい」
少しだけ話し合って、改めて怪鳥の方を向く。二人がわずかながら動いたりしていたので、怪鳥はまだ警戒しながら飛んでいるだけだった。
カルセナ「.....じゃあ魔耶、私が頑張って隙をつくるからね!」
魔耶「さっきも聞きましたよ〜....よーし.......行けっ!!」
合図を聞き、二人同時に地面を蹴った。

518:なかやっち:2020/06/05(金) 23:07

魔耶(あんまり能力使わないほうがいいのか…なるべく双剣だけで戦って、カルセナの援護をしよう)
走りながら自分のやるべきことを考える魔耶。カルセナが攻撃に集中できるように、自分はできるだけ怪鳥を引き付けよう。そう考えカルセナとは逆の方向に走っていく。
怪鳥は相変わらず空中でバサバサと羽を上下に動かしているが、目は二人を交互に追っていた。
魔耶(うんうん、意識が分散してるね。作戦通りだ)
魔耶「私はカルセナに合わせて援護するから!どんどん攻撃して、隙つくって!」

519:多々良:2020/06/06(土) 15:51

カルセナ「うんっ、ありがと!!」
魔耶が怪鳥の意識を逸らしてくれている隙に、出来るだけそれに近付くように飛ぶ。
カルセナ(ただのパンチやキックじゃあ効かないよなぁ.....どうしよう.....)
今の状況下において、攻撃方法を考えている時間でさえ勿体無く思えた。また、あいつに頼るしかないのだろうか.....。

カルセナ「.......ねぇ、起きてる?」
ブラッカル「....?...ん〜....何だよ.....」
カルセナ「また力貸してくれない....?」
ブラッカル「はぁ....私はテメェの道具じゃねぇんだぞ」
カルセナ「ごめん!お願いだからさ、今は.....」
ブラッカル「......ったく、分かったよ.....今だけな....」

520:なかやっち:2020/06/06(土) 18:05

怪鳥の狙いをカルセナに向けさせまいと走っていた魔耶だったが、途中でカルセナの様子が変わったことに気づく。
魔耶「…?カルセナ…?いや、あれは…」
魔耶の視界に入ったのは、髪と肌以外が真っ黒になったカルセナ…いつものカルセナとは違うが、見覚えのある姿だった。
魔耶「ブラッカル…?」
ブラッカル「…よぉ、魔耶とは久しぶりだな。…つっても数日くらいか?」
名前をボソリと呟くと、真逆の方向にいるブラッカルに話しかけられた。
…いつも見ている顔なのに久しぶりと言われるのは変な気分だ。中身は違うけども…

521:多々良:2020/06/07(日) 11:25

ブラッカル「....んで、出たは良いもののどういう状況だ?」
魔耶「え....それは分かんないのね....」
周りの景色などを見て、大体を把握する。
ブラッカル「んー....取り敢えず、こいつぶっ飛ばせば良いのか?」
カルセナからブラッカルになった事で、違和感を感じ取り更に警戒している怪鳥を指差し、魔耶に確認する。
魔耶「そゆこと、私が気を引くから攻撃して!」
ブラッカル「よし....んじゃあ、ちょっと体動かすか!」
軽く体を伸ばすと、隙を窺うかの様に怪鳥の周りを飛び始めた。カルセナであったときよりも素早い動きだった。
ブラッカル(狙うんなら頭が良いが.....入り込めるかどうかだな)

522:なかやっち:2020/06/07(日) 13:54

と、ようやく怪鳥が地面に降り立った。様子見は止めた、ということだろうか…だとすると、怪鳥はこれから攻撃を始めるのだろうか。
ブラッカルが攻撃に集中できるように、怪鳥の注意は自分に向けなければいけない。どうすれば怪鳥の注意が自分に向くだろうか?
魔耶(能力使えば簡単なんだけどな…)
ここは大声でもだそうか…それとも、能力を使ってしまおうか…
魔耶(でも今悪魔になったら困るしなぁ…ブラッカルなら悪魔に勝てるかもしれないけど、まだ悪魔の苦手なものとか見つけてないし…でも、くまさんで怪鳥を引き付けられれば…)
…あまり気は進まないが、能力を使うとしかないか…。大きなものをつくるわけではないし、きっと大丈夫だろう…と思いたい。
掌に意識を集中させ、可愛らしいくまのぬいぐるみを思い浮かべる。

523:多々良:2020/06/07(日) 15:56

ブラッカル「....ん?何やってんだ....?」
魔耶が手先を気にしている様に見えたかと思えば、そこに、ぽんっと少々小ぶりなぬいぐるみが現れた。
ブラッカル(成る程な、あれで気を引くつもりか.....あいつは能力使って大丈夫なのか?)
地上近くまで下降したブラッカルは、魔耶の動きを見守る。怪鳥の気があっちに向いたら、一気に片を付けるつもりだ。
魔耶「さて....こっち見て貰えるかな?」
ぬいぐるみを、怪鳥にやられない程度の所まで移動させ、少し鬱陶しい位に動かす。予想通り、怪鳥はぬいぐるみを気にしている様だ。
ブラッカル「ふぅん....何かちょろい鳥だな....そろそろやっちまうか?」
出来れば一発で終わらせたいが、前の試験のときみたいに、そう易々と出来るものでもない。だから、それを達成する為、あらゆる神経を張り巡らせる。

524:なかやっち:2020/06/07(日) 17:21

魔耶(…能力使っちゃったけど、大丈夫そうだな…特になんの違和感もないし)
くまさんを操り、怪鳥の目の前で右へ左へと移動させる。怪鳥が攻撃してきてもヒョイと軽々避けさせるため、怪鳥が怒ったように嘴をカチカチと鳴らした。
魔耶「よしよし、完全にくまさんに夢中になってるね」
これでブラッカルは簡単に攻撃することができる筈だ。
…肝心のブラッカルはというと、怪鳥を一発で仕留める気なのか集中している様子が見受けられた。

ブラッカル「……よし、いくぞ…」

525:多々良:2020/06/07(日) 19:50

足に力を入れ、怪鳥に向かって一直線に飛ぶ。魔耶が操るぬいぐるみに夢中で、ブラッカルの気配には気付いていない様だった。
一瞬にして、怪鳥の頭部へと近付く。ようやく殺意か何かを感じ取ったのか、怪鳥がブラッカルの方に振り返った。
ブラッカル「今気付いたって遅いぜ!!喰らえッッ!!!」
全ての力を足に込めて、怪鳥の硬そうな頭部を横から蹴った。
魔耶「えっ!?横!!?」
踵落としをするのだろうと思っていた魔耶は、驚きの声をあげる。
怪鳥「「 ギャアァァァ!!! 」」
かなりの衝撃が加わったせいで怪鳥は蹴られた方向に大きく飛び、そこにあった岩に激突してしまった。どうやら今は、衝撃で目を回してしまっている様だ。
ブラッカル「....っしゃあ!!見たか!!おーい魔耶、お前は何とも無ぇか?」

526:なかやっち:2020/06/07(日) 22:51

魔耶「うん、大丈夫………ッ?」
ブラッカル「…?どうかしたのか?」
魔耶「…なんか、右目が…痛いんだけど…」
右手で目を押さえる。ズキズキとした痛みが走っていて、思わず顔をしかめた。
そんな私の様子を見て首を傾げるブラッカル。
ブラッカル「ゴミでも入ったんじゃねぇか?」
魔耶「ん〜…どうだろ…」
ブラッカル「ちょっと見せてみろよ」
魔耶「…はい…」
痛みをこらえ、閉ざしていた右目を開く。
ブラッカル「どれど…れ…って、あれ…?」
魔耶「ん…どうかした…?」
ブラッカルは少し混乱したように考え込んだあと、私にある質問をしてきた。
ブラッカル「…お前の目って…両方赤かった、のか…?」
魔耶「…えぇ?右目は青だよ?」
ブラッカルは何を言っているのであろう。カルセナより少ないとはいえ、カルセナの次に長く私と一緒に過ごしているのだ。そのくらい質問しなくてもわかるのではないだろうか?
魔耶「いきなりなんでそんな質問するのさ?」
ブラッカル「いや、だって…お前の右目…」

ブラッカル「赤くなってるぞ…?」

527:多々良:2020/06/09(火) 00:16

魔耶「......えっ?」
自分に無い情報を告げられ、一瞬頭の整理が追い付かなくなる。
魔耶「な、何で.....?」
ブラッカル「何でって言われても.....知らねぇよ」
魔耶「嘘でしょ.....まさか....」
能力を使う事で悪魔化が進行する可能性は大いにあったが、まさかこんなにも分かりやすい変化が訪れるなんて....。
ブラッカル「.....?まぁ良い、怪鳥はぶっ飛ばしたし、後はお前らで考えた方が良いだろ。....私は寝る、じゃあな」
そう言って、ブラッカルの面影は徐々に消え失せていった。そうして、いつも通りのカルセナが魔耶の目の前に現れた。
カルセナ「....ん、モンスターはもう居ないのか....?」
魔耶「....あ、あぁ、ブラッカルがあっちに蹴り飛ばしてくれたよ....」
カルセナ「そっかー。じゃあ、手っ取り早く貴重品を見っけて.......あれ?何か魔耶....目の色変わってない....?」
魔耶「........そうみたい....」
カルセナ「....それも、もしかして....悪魔化してる証拠...なの....?」

528:なかやっち:2020/06/09(火) 20:41

魔耶「そう…なのかも…」
自分の右目を押さえる。もう痛みはないが、悪魔化が進んでしまったという精神的ダメージがあった。
カルセナ「魔耶……大丈夫…?」
魔耶「…うん。さっきは右目が痛かったけど、今はなんともないよ。まだ時間はあるみたいだね」
カルセナを安心させるために、自分に言い聞かせるために言葉を発し、軽く笑い掛けた。
カルセナ「……そういうのじゃ……いや、やっぱなんでもない。なにかあったら言ってよ?」
魔耶「?…うん、ありがと。……じゃあ、怪鳥が気絶しているうちに灯り取ってこないとね」
カルセナ「ん……あぁ、そうね。…でも、片方は怪鳥を見張ってた方がいいんじゃない?灯りを取ってきているすきに怪鳥が復活してて、また戦うことになったりしたら嫌だよ?」
魔耶「確かにね…んじゃ、そうしましょうか。どっちが灯り取りに行く?」

529:多々良:2020/06/09(火) 22:14

カルセナ「うーん....」
双方の状況を考えて、決断を下す。
カルセナ「....私が怪鳥を見張ってるよ。魔耶は灯りを持ってきて」
魔耶「分かった。でも、見張り大丈夫....?ずっと怖がってたりしたから.....」
カルセナ「うん、大丈夫。いざとなったらまたあいつが出てきてくれるかもだし、魔耶にあまり....その....能力を使わせちゃう事が無いようにさ」
両方とも赤く染まってしまった魔耶の目を見つめる。
魔耶「....ん、ありがと。じゃあ、すぐ持ってくるからここはよろしくね?」
カルセナ「了解!!」
そう言って、怪鳥が倒れている側にある岩の上に座った。魔耶が灯りを取りに飛んで行ったのを見送りながらーー。

530:なかやっち:2020/06/09(火) 22:53



魔耶「……ッは〜…」
カルセナと別れて10分くらいはたっただろうか…魔耶は一人、空中でため息をついた。
魔耶「…また悪魔化進んじゃったなぁ…これじゃあ、悪魔になるのがちょっと早まるかも…」
魔耶が言っているのは、先程の右目の件についてだ。
まさかほんの少し能力を使っただけでこんなことになるなんて…自分の考えが甘かったことを後悔する。…が、今さら遅い。時間を巻き戻すことなんて出来ないのだから。
魔耶(後悔先にたたずってやつか…もっと慎重に行動すべきだったなぁ…。カルセナにも心配かけちゃったし、気を使わせちゃったし…申し訳ない……)
後先考えずそのときの直感で行動する。やはりこういうところが自分の悪いところだろうな…。
もう過ぎてしまったことはしょうがないと諦めるしかない。…でも、反省してまた同じ過ちを繰り返さないようにすることはできる。これからはもう少し先のことを考えて行動することにしよう…そう思った。

魔耶「…さて、早くカルセナのところに行かなきゃいけないんだから。さっさと灯り取ってこないとね」

531:多々良:2020/06/09(火) 23:55


カルセナ「....流石にまだ起きないかな.....?」
時折倒れている怪鳥の様子を窺いながら、ほっと空を見上げる。多少の雲はあるが、今の天気は世間で言う晴れであった。もうすぐ日が落ちて夕暮れになると思うと、今過ごしている全ての時間がとても憂鬱に感じられた。
そう思うのも無理はない。時間が進むと言う事は、着実に魔耶の悪魔化が進んでしまうと言う事なのだから。
カルセナ「はぁ.....どうすれば悪魔化を止める事が出来るのかなぁ.....ねぇ、どう思う....?」
先程怪鳥を蹴り飛ばしたブラッカルに語り掛ける。が、返事は無い。いつもそうである。本体が危険な状態、または戦闘体制になっていないときは、元々居なかったかの様に存在を薄め、ずっと寝ている。
カルセナ「....そんなに寝る必要あるかね....でも、本来は封印されてる奴っぽいから、これが正常なんだろうけどさ....」
伸ばしていた背中と首が疲れたので、仰向けでごろんと岩の上に寝転がり、頭を支える為に後頭部付近で両手を組む。
カルセナ「......私にもっと、出来る事があったら良かったのに....」

532:なかやっち:2020/06/10(水) 15:42



それから一時間半後、魔耶はカルセナのもとに向かって飛んでいた。その手にはオレンジ色の暖かい光を放つランタンが握られている。ギルドの係員に頼んでみたところ、快く貸してくれたのだ。
魔耶「買わなきゃいけないかな〜なんて思ってたけど、ギルドで借りられてラッキーだったなー。もうお金がなかったからありがたい…」
ほっと一息つき、ギルドの職員に感謝した。…まぁ、本当はこういう道具を持っていってからクエストに向かうべきなんだろうけども…生憎、魔耶達はまだ数回程度しかクエストを受けていなかったため、そういうことは知らなかった。これからは気を付けるとしよう…。

魔耶「ん、ここら辺だったっけ…」
それからしばらく進み、見覚えのある地点まで来ることができた。出発したところはこの辺りだったはず…。
カルセナと合流するため、降下してスタッと地面に降りたった。辺りを見回して彼女の面影を探す。
魔耶「なんか目印でも付けるべきだったなぁ…カルセナ〜?どこ〜?」

533:多々良:2020/06/10(水) 19:39

カルセナ「.....ん?」
何処からか、名前を呼ぶ声が聞こえる。横になっていた自分の体を起こす。幸いにも、怪鳥はまだ起きていない様だ。これだけ大きな怪鳥が、これだけの時間気絶しているなんて、もう死んでしまっているのではないか....などと思ってしまう。もしくは、ブラッカルがそれだけ強力な蹴りを放ったのか....。そんな考えを片隅に置き、声の主を探す。
???「.......〜」
カルセナ「うーん....?どこかな....あっ!おーい、ここだよ〜」
遠くに見えたのは、紛れもなく魔耶だった。ここからではよく見えないが、魔耶の手に何かが握られていた。
魔耶「.....お、いたいた。ごめーん、お待たせ〜」
小走りになってカルセナの元へ駆け寄る。カルセナも岩から降り、魔耶の元へ向かう。
カルセナ「いやいや大丈夫だよー。灯り持って来れて良かったね!」
魔耶「これであの巣の奥まで探しに行けるね〜。そっちこそ、怪鳥は起きたりしなかった?」
カルセナ「うん、ずっとあそこで寝てたよ〜」
魔耶「それは何より.....んじゃ、ぱぱっと探しに行っちゃいましょっか」
カルセナ「りょーかーい」

534:なかやっち:2020/06/10(水) 20:13


二人で再び巣のなかに潜り、貴重品を探し始める。仄かな明かりを放つランタンを持っているというだけでも、先程とは安心感が違った。
カルセナ「…あ、そういえば、そのランタンどうしたの?買うお金なんてなかっただろうし…」
魔耶「あぁ、うん。最初は買うしかないかな〜なんて思ってたけど、ギルドに行ったら職員さんが貸してくれてね。お金なかったからありがたかったよ」
カルセナ「へぇ…ギルドで借りられるんだ〜。便利だねぇ」
魔耶「ねー。流石ギルド…」
北街の中では大きい方に分類される建物だし、きっとあの街の中心的存在なんだろうなぁ…なんて思う。…実際、ギルドがなかったら街の人は狂暴なモンスターを恐れて暮らす日々だっただろうしね…。

535:多々良:2020/06/11(木) 21:32


魔耶「....さてと、戻って来ましたね〜」
少し前に危険を察知し、探索を断念した場所まで帰って来た。
カルセナ「こっから先にあるのかな?早く見つけて帰ろ〜、魔耶〜」
魔耶「うんうん、暗くなっちゃうしね」
洞窟を照らす頼もしいランタンを片手に、行けなかった洞窟の奥の探索を始める。
カルセナ「こう言うのは、一番奥に置いてあるって言うのがオチだよなぁ....」
魔耶「そうじゃなかったらどうする?」
カルセナ「そうじゃなかったらって.....例えば?」
魔耶「意外と手前の方にあったり....もしくは、そもそもここじゃなくて違うところにあるとかね」
カルセナ「前者はありがたいけど.....後者は嫌だなぁ.....わざわざ怪鳥を倒したって言うのに....」

536:なかやっち:2020/06/11(木) 22:57

魔耶「そうだねぇ…ま、不吉なこと言っちゃったけど、きっと奥にあるよ。パパッと探しちゃいましょ〜」
カルセナ「はーい」

魔耶「…あ、カルセナ〜!なんか穴があるよ〜?」
それからしばらく歩き、そろそろ長い道のりの終盤に差し掛かっていたであろう…というときに、魔耶がカルセナに話しかけた。
カルセナ「ん〜?…あ、ホントだ。通路の横に穴があいてる…」
魔耶が見つけたのは、通路の途中にあった横穴だった。分かれ道があったり通路の途中に穴があったり…なんだか蟻の巣のようだ。
魔耶「穴の中はよく見えないねぇ…行ってみる…?」
カルセナ「うーむ、そうだねぇ…貴重品とやらがあるかもしれないし…行ってみようか」
魔耶「了解でーす」

537:多々良:2020/06/12(金) 19:37

魔耶が見つけた横穴へと入る。少し道が続いたが、やがて目の前に広い空間が現れた。
魔耶「うわぁっ....なにこれ....」
そこには、声を出して驚いてしまう程の、大量の貴重品と思われるものが乱雑に落ちていた。
カルセナ「うわ〜.....ここにたくさん貴重品があるって事は、探してるやつもここにあるかもね....」
魔耶「て事は.....この中からそれを探し出せってことだよね....」
カルセナ「うん....大変だけど、そういう事だね....」
改めて辺りを見回す。ランタンの光が届く範囲内に見える貴重品だけでも、数え切れない。
魔耶「うう.....仕方無い、やるか....」
カルセナ「いつ見つかる事やら....」
そうして二人は、1つのランタンを頼りに大量の貴重品を漁り始めた。

538:なかやっち:2020/06/12(金) 20:24


魔耶「ん、これは…いや違うな…」
乱雑に置かれた物の中を漁る二人。
この大量の貴重品の中からたった1つの依頼品を探すなんて…地道すぎる作業だ。似ている品も多いし……自然とため息がこぼれる。
カルセナ「……こんなにたくさんある物の中から依頼品を探すなんて…日がくれちゃうよ…」
魔耶「ほんとにね〜…。あの怪鳥、貴重品を盗む習性でもあるのかな?」
カルセナ「うーむ…鳥は、綺麗なものとか光る物とかを集めるって聞いたことあるから…そうなんじゃないかな。…っていうか、そうじゃなかったらこんなに集めてないでしょ…」
魔耶「まぁ、そうか…迷惑な鳥だなぁ…」
カルセナ「ほんとにね〜。いつかギルドに討伐依頼がきたりして」
魔耶「そしたらランクDではすまないだろうね」
カルセナ「C,Bはいくだろうね…。そもそも、なんでこのクエストはDランクなんだろ?結構苦労するクエストなのに」
魔耶「さぁねぇ…。ギルドの考えてることはよくわからん」
なんて雑談をしながら、貴重品の山を漁るカルセナと魔耶。目当ての品はなかなか見つからない。

539:多々良:2020/06/13(土) 12:22

カルセナ「うぅ〜.....何かめんどくなってきた〜....」
あまりにも量が多い為、不満を溢す。
魔耶「まぁまぁ、頑張れよー。ここで諦めたら怪鳥を倒した事も水の泡だぞ?」
カルセナ「む、確かに.........頑張れるだけ頑張ってみるかぁ....」

それから、かなりの時間が経過した様に感じた。
魔耶「これでも無い.....えっと....違うなぁ....」
カルセナ「うーん.....ここら辺はもう無いかな.....」
疲れはかなり出てきているものの、貴重品を真剣に探していた。
カルセナ「うわぁ〜、やっぱ見つかんないよ〜」
魔耶「ね....そろっとこの部屋全部見終わるし......さて、ここは...と」
今まで探していた場所とは別のところを見る。
魔耶「ここにあってくれ〜.....!!でないともうキツイ....」
ジャラジャラと貴重品の山を漁る。

540:なかやっち:2020/06/13(土) 14:21



カルセナ「…ん…?あ、これ…!」
カルセナの声に反応して振り返ってみると、彼女の視線がある物に注がれているのが見えた。作業していた手を止めて彼女の方を向く。
カルセナ「依頼品と似てない…?」
魔耶「え、本当…!?見せて見せて!」
カルセナに近づいていき、その手の中にある金属の貴重品を見せてもらった。
魔耶「わ、ほんとだ…。特徴は一致してる、と思う…」
カルセナ「だよね…これなのかな?」
魔耶「いやでも似てるだけってこともあるだろうし…依頼品だけにしかない特徴とかないのかな…?」

541:多々良:2020/06/13(土) 18:15

カルセナ「うーんとね....これにはイニシャルが彫られてるけど....どう?」
魔耶「どれどれ....えーっと....」
カルセナが持っている貴重品と、写真の貴重品を見比べる。
魔耶「.....あっ、ある!!同じ部分に同じ文字が!」
カルセナ「て事は.....」

魔耶カル「「 やったーー!!! 」」

外まで聞こえてしまう位の大きな声を出して喜ぶ。
魔耶「長かった〜......やっと見つけられたね!」
カルセナ「魔耶の言った通り、諦めなくて良かった〜」
魔耶「いや〜お手柄だったねぇ。....んじゃ、早く帰ろ!きっともう暗くなってるだろうしさ」
カルセナ「おー!」

542:なかやっち:2020/06/13(土) 20:04



魔耶「…はーぁ、見つかってよかった〜」
帰りの飛行中、ため息混じりに…そして嬉しそうに呟く魔耶。
カルセナ「ねー。大変な依頼だったけど、その分達成感がすごいわ…」
魔耶「うんうん。今日のご飯が美味しく感じられそうだ」
カルセナ「そうだねぇ…。あ、今日のご飯はどうしようか?自炊?」
魔耶「あ〜……疲れたから…買いたいな…」
カルセナ「はは、そっか。じゃあ買ってこないとね…今度こそ麺類が残ってればいいけど…」
どうやら、カルセナは前にお店に行ったときに麺類が無かったことを引きずっているようだ。
そんなに麺類が好きなのか…流石外国人。
魔耶「どうだろうね〜。依頼品見つけられたから、そこで運を使い果たしちゃったかもよ?」
カルセナ「嫌なこと言わないでよ〜…」
魔耶「えへへ、冗談だって。まだそんなに遅い時間じゃないし、きっと残ってるよ」
カルセナ「…だといいけどねぇ…」

雑談していると、ようやく北街の大きな壁が見えてきた。

543:多々良:2020/06/13(土) 23:07

魔耶「お、戻って来た」
カルセナ「何か久し振りに感じる....」
魔耶「真剣に長時間探してたからねぇ....その分久し振りに感じるのかもね」
カルセナ「うんうん.....あ、そう言えばこの貴重品ってどうすれば良いんだっけ?」
胸ポケットに入れていた貴重品を取り出し、暗くなった空に翳す。
魔耶「確か、ギルドの人に渡せば届けてくれるんじゃなかったっけ?」
カルセナ「あぁ、そうだったか〜」
何て事を話している内に正門へたどり着き、そこから街へと入る。
魔耶「ただいまぁ〜.....よし、じゃあ取り敢えず、ギルドに向かおっか」
カルセナ「だねー、報酬金しっかり貰わないとな」

544:なかやっち:2020/06/14(日) 09:37

魔耶「ほんとだよ〜。じゃないと餓死しちゃう…」
カルセナ「でも魔族(悪魔)なら食べ物なくてもしばらくは生きていけそうじゃない?」
魔耶「えー…どうだろ…実験なんてしたことないし…」
カルセナ「やってみればー?」
魔耶「私に生死をさまよえと言っているのか…?」
カルセナ「はは、冗談に決まってんじゃ〜ん」
魔耶「ほんとかなぁ…」

と、雑談していたとき、不意に後ろから声が聞こえた。
??「ーー魔耶!カルセナ!」
カル魔耶「「わっ⁉」」
??「あはは、脅かし大成功!」
いきなり聞こえた声に振り返り、声の主を探す。…といっても、大体の見当はついていたのだが。
魔耶「ひまり…いきなりやめてよ…」
カルセナ「ほんとに…心臓に悪いわ…」
二人がそう言うと、いつも通りの明るい笑顔で謝る彼女。
ひまり「えへへ、ごめんごめん!偶然二人が歩いてたのを見かけたからさ〜。何してたの?」
カルセナ「クエストクリアして、今ギルドに帰るとこ。ひまりは?」
ひまり「私は夕飯の買い物の帰りだよ〜。そっか、二人ともクエスト受けてたんだ?大変だねぇ…」
魔耶「お金なくてね…」
ひまり「そっか〜」
流れで自然とひまりが会話に加わり、三人でギルドに向かいながら話し始めた。
ひまり「二人とも、なんか最近忙しそうだね?あんまり会わないし…」

545:多々良:2020/06/14(日) 13:36

ひまりの何気無い一言を聞いて、少しドキッとする。
魔耶「!....そ、そうかな?確かに、最近は話したりしてなかったね〜」
ひまり「何か特別な用事でもあったりするの?」
魔耶「いやいや、会わなかったりしてたのは多分偶然だよー....」
それは、真実をあまり隠しきれていない、見え透いた嘘だった。
カルセナ「そんな毎日会うものでもないしさ....ね〜」
ひまり「....ふーん、そっか....ま、何であろうと頑張ってね!」
魔耶「あ、うん、ありがと....」
上手く誤魔化せた....そう思い、一息吐いたところで、ギルドが見えてきた。
カルセナ「あ、ギルド見えた〜」
魔耶「ほんとだ、ささっと返して、早く晩御飯買いに行こっか」
カルセナ「そうだねぇ、もうお腹ペコペコだわ.....」

546:なかやっち:2020/06/14(日) 14:31

ひまり「はは、お疲れさま〜。…じゃあ、私ここで待ってるね。二人で行ってきて〜」
カルセナ「ん、そう?…じゃ、ささっと行ってきますね〜」
ひまり「うん。いってらっしゃーい…」
小走りでギルドに向かっていった二人を見送り、一人ため息をつくひまり。
ひまり「…嘘が下手だなぁ。友達なんだから、もっと色々話してくれてもいいのに…」
ひまりが言っているのは、先程の魔耶達のことであった。あの二人は明らかに何かを隠している様子だった。流石のひまりもそれが分からないほど鈍感ではない。
それは、誰にでも1つや2つの隠し事はあるであろう。でも、ひまりは二人のことを大切な友達だと思っているのだ。なにかあるなら話してほしい。
ひまり「…それに、魔耶の様子が明らかに変わってるじゃん。あんなので誤魔化せると思ってるのかしら…。はぁ、全く…」
自分から聞こうとは思わない。…きっと、自分には話したくないほど重要で大切なことなのだろうから。だから、今の自分は彼女らのことを見守るしかないのだ。
ひまり「…こういうときに、能力とかがあったら…人間じゃなかったら…その秘密を知ることが出来るのかな…」

547:多々良:2020/06/14(日) 22:48


カルセナ「....危なかったねぇ〜....」
魔耶「うーん....あれで誤魔化せたかは分からないけどね....」
多少の不安を抱きつつも、ギルドのカウンターまで歩き、受付の係員にクエストの事を伝える。
魔耶「あの〜....盗まれた貴重品を取り戻すっていうクエストを受けたんですけど....」
係員「はい!えーと....こちらですね?では、盗品は手元にありますか?」
カルセナ「えっと.....これでーす」
ポケットから、怪鳥から取り戻した貴重品を取り出し、受付に提出する。
係員「ご確認致しますので、少々お待ちください!」

係員「......お待たせしました、確かに盗品だったものですね!ではこれは、依頼人の方にギルドからお返し致します!」
魔耶カル「お願いしまーす」
係員「....それでは今回の報酬金です、しっかりご確認下さい!お疲れ様でした!!」
そうして、報酬金の入っているであろう封筒を受け取った。

548:なかやっち:2020/06/15(月) 17:18

魔耶「…うん、これで当分はもつんじゃないかな?」
カルセナ「うんうん。じゃあ、これからは魔耶の問題に集中できるね!」
魔耶「そうだね。さっさと悪魔の嫌いなものとやらを見つけなきゃ」
お金の問題がひとまず解決できたこと、今日で有力な情報と封印方法を知れたことで二人の心にはゆとりができていた。
あとは悪魔の苦手なものを見つけるだけで問題が解決する。…悪魔を弱らせることができるかどうかは別だが。
カルセナ「もう一息、頑張ろう!」
魔耶「うむうむ。…あ、そうだ。この世界には温泉とかってあるのかな?」
カルセナ「??……ありそうっちゃありそうだけど…いきなりどうしたの?」
魔耶の突然の問いかけに首を傾げる。
魔耶「いやぁ、この世界に来てからシャワー生活ばっかりじゃない」
カルセナ「そういえばそうね」
魔耶「だからさ、もしこの問題が解決できたら…温泉入りたい!」

549:多々良:2020/06/15(月) 22:24

カルセナ「おおー!!行きたい行きたい!」
温泉に入った回数がとても少なかった為、大きく喜ぶ。
魔耶「じゃあ決まり!また目標が増えたね!」
カルセナ「そうだね、楽しみにしとくわ〜」
何て雑談をしながらギルドの出入口付近に向かう。そこでは、笑顔のひまりが待っていた。
カルセナ「あっ......」
魔耶「....ん?どうかした?」
カルセナ「あえ....いや、何でも?」
悪魔化の件が終わった後の話をしていたのに加え、ひまりを見て思い出した。魔耶の好きなご飯がありそうな飲食店を探す予定だったのだ。最近ひまりと会って居なかった為、忘れかけてしまっていた。後でこっそりと聞き出してみようか....
魔耶「ふーん....ま、いっか。ひまりお待たせ〜」

550:なかやっち:2020/06/15(月) 23:03

ひまり「ん、早かったね?」
魔耶「まぁ確認と報酬貰っただけだしね〜。……それじゃあ、これから買い出しに行かないと…」
疲れた体の毒をだすようにため息をつく。
ひまり「私も家に帰らないとだな〜。……二人とはここでお別れかな?」
魔耶「そうだねぇ。じゃあ、早速買い出しに……」
カルセナ「……あ、魔耶。私ひまりに聞きたいことがあるからさ。先に買い出しに行っててくれない?」
自分の言葉を遮るようにカルセナに言われて、少し驚く魔耶。
魔耶「え?あ、うん…いいけど……あとで追い付ける?」
カルセナ「うん、大丈夫大丈夫。たいした用事じゃないからさ、すぐに追い付くよ」
魔耶「…そっか。じゃあひまり、またね〜」
ひまり「えぇ、また。………で、カルセナ?何の用なの?」

551:多々良:2020/06/16(火) 19:19

カルセナ「あ、あのね....前に、魔耶にプレゼント貰ったんだよね」
帽子に輝くブローチを指差す。
ひまり「へぇ〜、良かったじゃない!可愛いねぇ」
カルセナ「で、このお返しと言うか....感謝を込めてと言うか....そのー、魔耶に美味しいご飯奢ってあげたくてさ....何か美味しいお店無いかな?」
ひまり「そう言う事ね。魔耶の好きな食べ物とかって分かる?」
カルセナ「確か.....鶏肉が好きって言ってたよ」
ひまり「鶏肉....そうねぇ.....」
暫く顎を支えて考える。
ひまり「.......あっ!そうだ!良いところがあるわよ!」
カルセナ「本当!?どこどこ?」


カルセナ「.......成る程〜、ありがとうひまり!!」
ひまり「いやいや、それよりも、早く魔耶に追い付きなね?」
カルセナ「ん、分かった!それじゃあね〜!!」
ひまりに大きく手を降りながら、魔耶の歩いていった方向へ走って向かった。

552:なかやっち:2020/06/16(火) 20:08


魔耶「カルセナがひまりと二人で話したいって…私、カルセナになんかしたっけ…」
わざわざ自分を先に行かせたのだ。私に聞かれたくないこと、ということだろう。…なら、話しのテーマは自分に関することなのではないかと推測できる。
魔耶「うーーん…」
ここ数日で自分がカルセナに対してやらかしてしまったことはあっただろうか。…もしかしたら自分が自覚していないだけで…ということも考えられる。
魔耶「わざわざ二人で話してるんだしな…私、カルセナに何やらかしたんだよ〜…」
カルセナ「……なんもやらかしてないけど…」
魔耶「いやぁ、もしかしたら私が気づいてないだけかも…………って、うん…?」
違和感に気づいて、素早く後ろを振り向く。
魔耶「か、カル…⁉早かったね…」
カルセナ「…気づくの遅くない?」
魔耶「いやぁ、考え事してたからさ……」
後ろには、綺麗な金髪に水色と黄色の帽子を被った浮幽霊……カルセナの姿があった。…いつの間に……
カルセナ「……で、なんかやらかしたがどーのこーの言ってなかった?」
魔耶「あー…えと、その……カルセナがひまりと二人で話してたから……私がカルセナになにかやらかしちゃったのかな〜…と……」

553:多々良:2020/06/17(水) 22:33

カルセナ「そう言う事ね.....別に何もやらかされて無いから安心しなさいな」
魔耶「そうか....なら良かったわ」
カルセナ「それよりも、早くご飯買いに行こー」
魔耶「だねー。まぁまぁ遅い時間だしね....」
二人が向かう店は長時間の営業をしているので問題は無いが、その他の小さな商店等は早く閉まってしまう所もあるそうだ。
魔耶「うぅ〜ん.....疲れた〜....」
カルセナ「そうだね〜....何か、前の魔耶程じゃ無いけど、足が痛いわ.....筋肉痛かな」
魔耶「そうなの?.....あー...」
そのとき、ブラッカルが怪鳥に喰らわせた強い蹴りを思い出した。
魔耶「....多分筋肉痛だね」
カルセナ「やだわー....早く治れ〜っと......魔耶は今日何食べたいの?」

554:なかやっち:2020/06/19(金) 20:05

カルセナに言われて少々考える。
魔耶「うーん…別に食べれればなんでもいいけども……強いて言うなら、そば…?」
カルセナ「おぉ、和風だな…」
魔耶「私はうどんよりそば派ですからね〜。今はあっさり系が食べたい気分だし」
カルセナ「魔耶のことだから、またおにぎりかと思ったのに」
魔耶「いや、まぁおにぎりがダメというわけじゃないけどさ…今はそばの気分なの!」
カルセナ「ほうほう…」
別におにぎりが食べたくないわけではない。でも、今はおにぎりよりそばが食べたい気分なのだった。我ながら気分屋だと思う。
魔耶「……ん、でもこの世界にそばなんてあるのかな…?」
カルセナ「あ〜……あるかな…」
魔耶「……まぁ、なかったらおにぎりでいいや」
カルセナ「結局おにぎりか」
魔耶「いやいや、なかったら、だからね。カルセナは何食べたいの?」

555:多々良:2020/06/19(金) 22:09

カルセナ「そりゃあ勿論パスタ!!あれは美味しい。体力満タンになるよ〜」
魔耶「そんなにか....じゃあ、そっちこそパスタ無かったらどうする?」
カルセナ「むぅ.....パスタが無かったら....麺類かな。麺類だったら何でも受け付けるぞ」
魔耶「そっかー、お互い目的のご飯があると良いね」

暫く歩き続けると、見慣れた店が二人の前に姿を現した。
時刻は夕方、やはり多くの買い物客がその店を訪れている様だった。
魔耶「わ、お客さんいっぱいいるなぁ....」
カルセナ「ほんとだ〜.....ま、大丈夫っしょー」
他の客を気にしながらも、店内へと足を進める。目的のコーナーにも、そこそこの人数がいた。
魔耶「あのくらいだったら、売り切れるなんて事はそうそう無いかな?」
カルセナ「前に、結構遅く来たときもいくつかあったしね〜」

556:なかやっち:2020/06/19(金) 23:17

魔耶「そういえばそうだったね。まぁほとんど売り切れてたけども…」
カルセナ「それでもあの時間帯にあれだけ残ってればいいほうでしょ」
魔耶「そう…なのかな…?」
多少の疑問を抱きつつも、そういうものなのかと割りきって納得しようとする。…向こうの世界では遅い時間に買い物にいくことなんてほとんどなかったからな…
魔耶「…よし、じゃあ各々の食べたいやつ探しますか〜。まぁまぁ人がいるから、別れたほうが動きやすいでしょ」
カルセナ「あー、確かにそうね…じゃ、そうしましょうか。パスタ探しの旅に出てきます」
魔耶「おう…あ、選び終わったらお菓子コーナー行っててね。お菓子買いたいし、ここで待ち合わせても他の人の邪魔になりそうだから」
カルセナ「なるほど…了解でーす。…じゃ、またあとでね〜」
そう言うと、カルセナはパスタを探しに目的のコーナーへと向かっていった。
魔耶「はーい……んじゃ、私もそば探しに行きましょうかね〜。そばあるといいけど…」

557:多々良:2020/06/20(土) 10:49


カルセナ「.....えーと、パスタパスタ〜....」
この街には麺類が好きな人が多いのか、たまたまだったのかは分からないが、カルセナが向かったコーナーにもたくさんの人がいた。
カルセナ「わぁ....これ取れるかな....」
取り敢えず、人が退くまで待とうと思い、他の客の邪魔にならない程度に辺りをうろうろし出した。コーナーの端から端まで歩いてみたりもした。
そうして、少しずつ人が少なくなってきた。
カルセナ「ふぅ、お目当てのものは残ってるかな〜....」
商品が並んでいる棚の前に軽く屈んで物色する。
カルセナ「う〜ん.....あっ!」
左から商品を見ていたら、あるものに目が留まった。
カルセナ「カルボナーラだぁ!!」

558:なかやっち:2020/06/20(土) 12:52


魔耶「…やっぱり、ないのかな…」
魔耶は今、そばを探して色々なコーナーを歩き回っていた…のだが、そばの姿は見当たらなかった。
この世界にそばは存在しないのだろうか…それとも、単に売り切れてしまっただけなのだろうか。異世界から来た魔耶にそれを知るすべはなかった。
魔耶「ぐむむ…おにぎりとかはあるくせに、そばがないのは痛いぞ……まぁ、ないならしょうがないか…別の探そ…」
そばが食べたかったが、ないなら我慢するしかない。そう思い、そばへの未練を断ち切る。
魔耶「…おにぎり探すか…」

559:多々良:2020/06/20(土) 15:31


カルセナ「良かった〜、前無かった分嬉しさがあるなぁ....」
喜びを声に出しながら、カルボナーラを手に取る。
カルセナ「さて......えっと、お菓子のコーナーに行ってれば良いんだよね」
主食のコーナーを一人離れ、反対側のお菓子コーナーへと向かう事にした。

カルセナ「(....それにしても、悪魔の嫌いなものって何なんだろうなぁ)」
悪魔を封じ込める事が可能なものは見つかった。しかし、苦手なものの見当が未だにつかない。タイムリミットも刻々と近付いている。少しでも良いから、何か見つからないだろうか。
カルセナ「(悪魔ねぇ.......まず、悪魔ってどんなやつなんだっけ....)」
昔、好んで読み漁っていた書籍を思い出しながら考える。
カルセナ「(....魔耶の中の悪魔ってのは、私が思ってるものとは違うのかな?)」
悪魔に侵食されているのは自分ではなく、魔耶。きっと、本人にしか分からない恐ろしさや脅威、情報等があるのだろう。
カルセナ「(私じゃ、完全に助ける事は無理なんだろうな....せめて支えになるようなものが思い付けば....)」

560:なかやっち:2020/06/20(土) 17:44


魔耶「…あ、おにぎり」
ため息をつきながらウロウロしていると、おにぎりのあるコーナーに着いた。
魔耶「ここで偶然出会うとは…今晩はおにぎりで決まりだな。何にしようかしら」
おにぎりは前に来たときよりも色々な種類が売れ残っていた。少し屈んで、梅、鮭、昆布、ツナマヨ…と順番に物色していく。
魔耶(前は鮭だったっけ…今日は何の具がいいかな…)
……数分悩んだあげく、今日はあっさりしたものが食べたいからと梅おにぎりに決めた。ヒョイとおにぎりを手に取る。
魔耶「よしよし。…ん、でもこれだけじゃ足りないかな…?お味噌汁とか探してみよっと」

561:多々良:2020/06/21(日) 11:36


カルセナ「.....あ、ここかな?魔耶の言ってたお菓子コーナーは」
考え事をしている内に、いつの間にか到着していた。
多少数は減っているが、それでも色々なお菓子がずらっと並べられていた。
カルセナ「チョコ大好きだからな〜....何か良いのあるかな」
....そう言えば、カルセナはチョコが大好きで、辛いものなどは嫌いだ。それはもう一人のカルセナ、ブラッカルにも言える事だった。
カルセナ「(....魔耶が嫌いなものと、魔耶の中の悪魔が嫌いなものは一致して無いのかな....それだったら簡単なんだけど....)」
だが、そう言う訳にもいかないだろう。カルセナとブラッカルの好き嫌いが一致しているのは、体も心も共に共存出来ているからだと思われる。しかし、魔耶と魔耶の中の悪魔は真逆の関係。一致している確率はかなり低い。
カルセナ「やっぱり、悪魔が本能的に嫌がるものを探さないとなのかなぁ」

562:なかやっち:2020/06/21(日) 13:09


魔耶「…よし、これくらいあれば足りるでしょ」
ようやく今夜の晩ごはんを選び終え、お菓子コーナーに向かう魔耶。その手には梅おにぎりとお味噌汁、お茶が握られていた。
魔耶「そばがなかったのは残念だ……さて、カルセナはもうお菓子コーナーにいるのかな?」
色々なコーナーを歩いていたが、カルセナの姿は見ていなかった。きっと魔耶がそのコーナーに行くより早く選び終えたのであろう…と予想する。
魔耶「もうお菓子選んでるのかもね……ん、あそこの金髪はカルセナじゃないか?」
お菓子コーナーが見えてきたとき、お菓子が並ぶ棚の前にいる金髪の人の姿が視界に入った。考え事をしているのか、ボーッとしている。魔耶の視線にも気づいていないようだ。

563:多々良:2020/06/21(日) 18:57

カルセナがいるお菓子コーナーへ足を進め、そっとカルセナに話しかける。
魔耶「....カルセナ?」
カルセナ「えっ、うわっ!!な、何だ魔耶か....」
魔耶「どうしたの?やけに不注意だったけど」
カルセナ「あー......悪魔の事について考えてた」
魔耶「そう言う事か....何か思い付いた?」
カルセナ「うーん....悪いけど、何にも....」
魔耶「そっか....まぁ、着実に探し当てていこっか。それより、お菓子どーしよっかな〜」
カルセナ「.....?」
魔耶「.....ん、だからどうしたのよ」
カルセナ「いや.....何にも思い付かなかった事に対しての反応薄いなぁって思って....」
魔耶「ネガティブに考えちゃったらマイナスになっちゃうからね....あんまり深く考え込まない様にしてるの」
カルセナ「なるほどね〜....」

564:なかやっち:2020/06/21(日) 20:04

魔耶「…さーて、そんなことよりキャラメル探ししなきゃ!前はなかったからね…」
カルセナの前に並んだお菓子を覗きこみ、目当ての物はないかとキョロキョロする。
カルセナ「…そうだね。私もチョコ欲しい」
魔耶「チョコねぇ…君も私と同じくらいの甘党だな〜」
カルセナ「魔耶の場合キャラメル党でしょ?」
魔耶「ひっくるめて甘党でいいの!甘いのは大体好きだし!」


カルセナ「…大分お菓子買っちゃったね…」
買い物を終えて宿に帰っている途中、カルセナがボソリと呟いた。カルセナの言葉を聞いて、魔耶は右手に持っている袋に視線を移す。
魔耶「そうかな?…まぁ、買いだめってやつだよ」

565:多々良:2020/06/21(日) 21:53

カルセナ「そうか〜?一杯お金使っちゃうと、今度の........」
流れ出て来るかの様に発していた言葉を詰まらせる。
魔耶「ん?今度の....何さ」
カルセナ「あっ、いや、今度のご飯買えなくなっちゃうよ〜って言うね.....」
魔耶「ふぅ〜ん.....まぁそうだねぇ」
少し何かを誤魔化したかの様な話し方だったが、魔耶は特別気にしない事にした。
カルセナ「うん、そうだよ.....」

少々の間をおいて、空を見上げる。ラメを散りばめたかの様な点々とした星の間に、小さな半月が顔を覗かせていた。どこからか、夜行性の動物であろう声がする。風に乗って、良い匂いが漂って来る。辺りは本格的な夜に向けて静まろうとしていた。
魔耶「.....はぁ。私達、どのくらいこの世界に居るんだろうね」
カルセナ「さぁ....?でも、あの日から結構経ったよね」
魔耶「あの日?.....あぁ、あの日ね」
カルセナ「そうそう、私達が出会った日」
魔耶「何だか昔に感じちゃうなぁ.....魔族にとってはちょっとの時間、に該当するのに」
カルセナ「色々あったからね.....今だって、問題解決し終わってないしさ」

566:なかやっち hoge:2020/06/21(日) 22:44

魔耶「そうだね……まぁ、すぐ解決するよ、きっと。この世界で安定した暮らしを送れるようになれば、日々の流れも早く感じるようになるよね」
カルセナ「……」
魔耶「…カルセナ?」
カルセナの口数が少なくなったように感じ、後ろを振り向く。魔耶の視界に入った彼女は帽子で顔を隠していて、表情が分からなかった。その状態のまま、彼女が言葉を発する。
カルセナ「…魔耶…なんて言ったらいいか分かんないけど…私、今すごく不安なんだよ…」
魔耶「…不安…?」
カルセナ「うん。…もしだけど、魔耶がいなくなっちゃったらって…なんか…考えちゃって…」
魔耶「…」
カルセナ「魔耶が一番不安なのはわかってるけどさ…もっと私にできることがあったらいいのに…って、いつも考えちゃって…魔耶の支えになるようなものとか、あったらいいのに…って…」
魔耶「………なにいってんの」
カルセナに言われて、自然とそれに反応した言葉が口から出た。魔耶はその言葉を止めようとはせず、そのまま喋り続ける。
魔耶「カルセナにできることなんてたくさんあるし、たくさんしてもらってる。それに、支えになるようなもの…なんて、もうあるよ」
カルセナ「……もうある…?どこに…」
魔耶「私を支えてくれてるのは…カルセナだよ」
カルセナ「え…?わ、私…?」
魔耶「うん。君」
魔耶はカルセナを指差すと、にこりと笑いかけた。
魔耶「私も不安なんてない…って言ったら、嘘になる。本当は不安でいっぱいで、今すぐ泣きたいくらい。そんな私がさ、なんで笑顔をつくれるか分かる?」
カルセナ「……わかんない…」
魔耶「…君がいるからだよ。君との思い出があるから頑張れるし、君がいるから笑顔でいようと思える。カルセナがいてくれるだけで、十分なんだよ、私にとっては」

567:多々良:2020/06/22(月) 22:53

カルセナ「.....魔耶....」
並べられた言葉は、体を悪魔に犯されているとは思えない様な温かさを感じた。
カルセナ「......ありがと」
魔耶「そっちがお礼言ってどうするのよ。むしろこっちが言いたいくらい。ありがとう....ってね」
カルセナ「うん.....」
俯いた顔を大きく上げて、魔耶を見る。
カルセナ「...私、頑張るよ!この世界にいる間、魔耶と沢山の思い出を作れるように!!」
魔耶「そうだね、一緒に頑張ろ。....さ、もうお腹の減りが限界だよ、早く帰ろう!」
そう言って、魔耶が宿に向かって駆け出した。
カルセナ「あっ!待ってよー!!」


魔耶「.......ふぅ、良い運動をした」
カルセナ「もう今日の依頼で運動し終わってるのよね....はぁ、はぁ...」
魔耶「んじゃあ手洗って、それぞれのご飯食べよっか」

568:なかやっち:2020/06/23(火) 22:39

カルセナ「はーい。…あ、魔耶は何買ったの?」
魔耶「ん?…あぁ、おにぎりだよ。そばなかった〜」
そばが見当たらなかったことを思いだし、ため息をつく。
カルセナ「あらら…それは…ドンマイ」
魔耶「うーむ…まぁしょうがないっちゃあしょうがないよね。別の世界なんだし」
カルセナ「それもそうか…」


二人とも手を洗い終わり、テーブルに向かい合わせになる形で座った。二人の前にはそれぞれの選んだ美味しそうな晩ごはんが並んでいる。
カルセナ「あー、お腹すいた〜」
魔耶「そうだねぇ…んじゃ、早速食べましょうか。手を合わせて〜…」
カル魔耶「「いただきまーす!」」

569:多々良:2020/06/24(水) 22:25

魔耶がおにぎりに食いつき、カルセナはパスタを啜る。
魔耶「うん.....美味いわ。疲れた体に染み渡る」
カルセナ「だね〜.....美味しすぎて一瞬で食べ終わっちゃいそう」
魔耶「ちゃんと噛めよ〜」
カルセナ「私なりに味わってますよ....所でさ」
少し言い出しづらそうに話す。
魔耶「....ん、何?」
カルセナ「魔耶のタイムリミットって、あとどのくらいかな....」
能力を使ってしまった事などを考え、予測し直す。
魔耶「......あと2日弱くらいかな」
カルセナ「明日どこに行って情報収集する?図書館はもう探し尽くしたし.....」
魔耶「そうだなぁ.....うーんと.....」

570:なかやっち:2020/06/25(木) 16:58

魔耶「……聞き込み、とか…?」
唯一頭に思い浮かんだ案を発する。
カルセナ「あぁ、なるほど…でも誰に聞き込みするの?街の人が悪魔のことを知ってるなんて思えないよ」
魔耶「そうなんだよねぇ…情報を持ってそうで、まだ訪ねてない人いるかな?」
カルセナ「うーん…ニティさんにはもう聞いたし…幹部にはいろんな情報もらえたし…」
モグモグと晩ごはんを食べ進めながら、考え込む二人。
情報を持ってそうな人で、関わりのある人…誰かいただろうか…

…あの人ならば、どうであろう?
幹部達をまとめあげ、街の人をさらい、前に異変を起こしたあの人…
魔耶「…蓬さんは…?」
あの人は魔族と関わりがあるようだった。もしかしたら悪魔についてもなにか知ってるかもしれない…そう思った故の発言だった。

571:多々良:2020/06/26(金) 00:06

カルセナ「あぁー、確かにまだ聞いてなかったね」
魔耶「色んな事知ってそうだしさ....結構良いんじゃないかなって」
カルセナ「てことは、明日またあそこに行く感じ?」
魔耶「そうなるね....まぁまぁ遠い道のりだけど、それでも良い?」
カルセナ「うん、情報がありそうならばどこだってOK!」
魔耶「よし、それじゃあそうしよっか」

暫くして、食事に終符止を打つ二人の言葉が聞こえた。
魔耶カル「ごちそうさまー」
魔耶「美味しかったわ〜」
カルセナ「うむ、満足満足」
後始末をして、カルセナがソファにぐだっと座り込む。
魔耶「食後に寝ると牛になるんじゃなかったのかー?」
カルセナ「寝転んでないからセーフ」
魔耶「そう言うものなのかねぇ....」
カルセナ「うんうん。....今日のお風呂、魔耶さん先に入ります?それとも後が良い?」

572:なかやっち 短くてスマソ。:2020/06/26(金) 20:23

魔耶「あー…どっちでもいいけど…じゃ、先に入らせてもらおうかな。いい?」
カルセナ「いっすよ〜。ごゆっくり〜」
魔耶「ありがと。ササッと入ってきまーす」
カルセナ「うん……うん?」
『ごゆっくり』という言葉をかけたはずなのに『ササッと入ってくる』…という矛盾した言葉を受け取って変な反応をするカルセナ。そんな彼女の反応を横目に、魔耶はクスリと笑ってシャワールームに向かった。

573:多々良:2020/06/26(金) 23:19

そうして、シャワールームの扉の閉まる音がした。
カルセナ「.....ふぅ〜。どうしたものかねぇ....」
いかなるときも、ずっと魔耶の悪魔化について考えていたカルセナ。依頼を達成し終わった後だからか、どっと疲れが出てきた。
カルセナ「ぜんっぜん思い付かないなぁー.....だからと言って、ブラッカルに頼ったら何か怒られるからな....」
ソファから立ち上がり、自分のベッドに寝転ぶ。前に魔耶に言った警告を忘れているかのようだった。
帽子を脱ぎ、仰向けになった自分の顔の上にそっと乗せ、暗闇を作る。活動等をしているときの暗闇は恐ろしいが、考え事をしているときの暗闇はとても落ち着くものだ。
カルセナ「...........」
特に独り言も言わず、黙って考える。端から見たら、眠っている様にも見えるだろう。
カルセナ「(はぁ........早くこの事件を解決して、魔耶と温泉行きたいな......)」

574:なかやっち:2020/06/27(土) 12:51


『ザァアアア…』
魔耶「…はぁ〜…シャワー浴びてるだけで疲れまで流されちゃうよ…」
シャワーを浴びながら満足げに呟く魔耶。
温かいお湯が、泡と今日一日の疲れを流してくれているようでとても心地がよかった。
魔耶「…でも、やっぱりたまにはお湯に浸かりたいよね…この世界にきてからシャワーばっかだし…」
確かにシャワーも気持ちいい。だが、魔耶は前の世界ではお風呂に入ることが多かった。だからか、シャワーよりお湯に浸かるほうが好きなのだった。
魔耶「あーぁ、早く温泉行ってみたいな」
自分の今おかれている状況を解決することができたら…そしたら、カルセナと一緒に温泉に行くと決めたのだ。今は解決まであと一歩というところだが、きっと解決できると信じている。だから、温泉にもきっと行ける。
魔耶「…じゃあ、頑張るしかないよね」

575:なかやっち hoge:2020/06/27(土) 12:53

訂正…
魔耶「…じゃあ、頑張るしかないよね」

魔耶「…そのためには、頑張るしかないよね」

576:多々良:2020/06/27(土) 21:36


どのくらい経っただろうか。ゆっくりと体を起こしたかと思えば、近くの窓から外を眺める。
月には少し雲がかかっている様だったが、本来の輝きを失っていると言う事はなかった。
カルセナ「綺麗だなー......」
この世界で、あの月を眺める事が出来るのはあと何回くらいなのだろうか。
二人してずっとこの世界に居続ける訳にもいかない。お互い、それぞれの事情がある筈だ。しかし、仮に元の世界に帰る事が出来るようになったとしても、今のままではきっと離れられない。未練を残しすぎている。
今すぐに帰らないともう戻れない。そう言う状況に陥ったとしても、今は別れ方を知らない。きっと、何て言えば良いのか、分からず仕舞いになってしまうだろう。
そんな事が無い様に、二人で冒険をしている。思い出を未練として残すのではなく、一筋の輝きとして忘れない様にするために。この世界の、煌々と輝く月よりも輝かしい思い出をつくる為に。

カルセナ「.......あれ?流れ星かな.....?」
空の奥で、二筋の光が見えた。流れ星に祈ると願いが叶う。子供の頃に教えられた事を信じて、カルセナは強く祈った。
カルセナ「どんな壁だって、乗り越えられますように」

577:なかやっち:2020/06/27(土) 22:17


魔耶「ふぅ、すっきりしたぁ。カルセナ〜、あがったよ……って、なにしてんの?」
ドアの取っ手を回すと、カルセナが両手を組んで夜空を見上げている光景が目に入ってきた。
魔耶の質問が聞こえたのか、カルセナがゆっくりこちらを振り返る。
カルセナ「…あぁ、魔耶。空見てたら流れ星があってさ、願い事してたの」
魔耶「ほう…そういうことね。…なんてお願いしたの?」
カルセナ「…これからどんな困難の壁がきても、乗り越えられますように…ってね」
魔耶「はは、なるほどね。カルセナらしいよ」
困難を乗り越えられるように…か…
魔耶「…じゃあ、せっかくだし、私もお祈りしてみようかな」
そそくさとカルセナの隣に移動し、夜空を見上げる。
うっすら雲があるが、むしろそれが風情を感じさせてくれるようだった。絵のように綺麗な、素晴らしい星空であった。
カルセナ「いいね。流れ星がきたら、願い事を祈るんだよ」
魔耶「はーい」


魔耶「よし、お願い完了!」
カルセナ「うんうん。……ちなみに、魔耶はなにをお願いしたの?」
魔耶「……これからの生活が、楽しくて、かけがえのない大切なものになりますように…ってね」
魔耶は少し照れくさそうに笑い、そう言った。

578:多々良:2020/06/28(日) 19:29

カルセナ「あはは、それこそ魔耶っぽいよ〜。.....そんじゃ、私浴びてくるね」
魔耶「はーい、ごゆっくり〜」
着替えやタオルを持って魔耶の元から離れ、シャワールームへと向かった。

カルセナ「.......あ〜、良いお湯ですな」
頭の天辺からシャワーを浴びる。疲れがほぐれていくかの様で、とても気持ちが良かった。
カルセナ「.....そういや修行って、どんな事すんのかな」
依頼を受けている最中に、今の事件が無事に解決したら強くなる為に修行をしないか、と魔耶に誘われた。
カルセナ「アス姉(カルセナの姉)が修行だの特訓だの言って鉄棒振り回してたけど....あんな感じの事すんのか.....?」
何はともあれ、自身が強くなれればそれで良い。今はそう思っていた。

579:なかやっち:2020/06/28(日) 21:17


魔耶「…さーて、なにしよっかなー…」
カルセナがシャワーを浴びに行ってしまったため、魔耶は一人部屋の中で呟いた。
いつもなら能力を使って暇潰しでもするところだが、今は能力を使うことができない。つまり、今魔耶は暇をもて余しているのだ。
魔耶「能力が使えないとこんなに不便だなぁ…ほんと、なにしてよう?これじゃあくまさんをつくって遊ぶこともできないよ〜…」
暇を潰せるものはないかと、部屋をグルリと見渡してみる。だが、目にはいるのは、買ったものが乱雑に置かれたテーブルとベッドくらいだった。
魔耶「…おやつでも食べてましょうかね…」

580:なかやっち hoge:2020/06/28(日) 21:19

訂正
「能力が使えないとこんなに不便だなぁ」

「能力が使えないとこんなに不便なんだなぁ」
(最近ミスが多いぜてへぺろ)

581:多々良 更新遅くなった.....すまん。:2020/06/30(火) 21:17


カルセナ「......あ、また無意識に出ちゃった」
シャワーを浴びながら、自然と鼻唄を歌っていた。心地が良いと、ついついそうなってしまう。
カルセナ「....はぁ〜、今頃家族は何してんのかな....悪霊に取り憑かれたりしてないかね....」
日にちが経てば経つほど、元の世界に残っている家族の事が心配になってしまう。自分が居た頃は、ずっと家族の側で見守っていた。だから、いざ離れるとなるとやはり寂しさが胸に残る。
カルセナ「.........よっと」
蛇口を捻り、シャワーを止める。脱衣場に手を伸ばし、バスタオルを取って頭を拭き始めた。バサバサという音と共に、溜め息が混じって聞こえた。

582:なかやっち 大丈夫よ〜:2020/06/30(火) 23:01


魔耶「キャラメル美味し……ん、おかえりカルセナ〜」
小腹を満たすためにキャラメルを食べていると、ドアの影からカルセナの姿が現れた。風呂上がりだから、いつもよりも髪の毛がしんなりしてる。
カルセナ「うん…あ、おやつ食べてたのね」
魔耶「そうなのよ〜。能力使えないと暇潰しができなくて…普通の人って、こんなに暇な時間をもってるんだね」
カルセナ「なんか上から目線だな……まぁいいや。私にもなんかちょうだい」
魔耶「ん〜」
袋を漁り、カルセナのおやつと思われるチョコをヒョイと投げてよこした。
カルセナ「ちょ、ちょ…うおっと」
魔耶「ナイスキャッチ〜」
カルセナ「全く…人に投げるなって言いながら、魔耶だって投げてるじゃん…」
魔耶「あはは、ごめんごめん…」
悪戯っぽく笑いながら、カルセナに視線を向ける……と、魔耶の顔からいきなり笑顔が消えた。カルセナの目を見たせいであった。
魔耶「……カルセナ、勘違いだったら悪いんだけど…」
少々躊躇いがちに問いかけてみる。
カルセナ「……?なに?」
魔耶「なんか、いつもよりも悲しそうだね…?なにかあった?」

583:多々良:2020/07/01(水) 21:52

カルセナ「.......えっ」
魔耶にそう問われ、心の中で慌てて答えを探る。しかし、「答え」と言う言葉は上辺だけで、正しく言い表すのだとしたら「言い訳」に値するものだったかもしれない。
カルセナ「べ、別に何も......疲れたのかな....?」
魔耶「ふぅん.....まぁいっか」
何とか誤魔化せた。疲れが溜まっているのと言うのも事実だった為、嘘は吐いていない筈であった。もう少し髪を良く拭こうと、魔耶の横を通り過ぎてベッドに腰掛けた瞬間、再び魔耶の声が聞こえた。
魔耶「なんて、なる訳ないでしょ」
その言葉を聞き、瞬時に魔耶の方向へ振り向く。
魔耶「いつもの疲れてる顔じゃないよ。カルセナが良いなら、何かあったのなら、何でも話して」
カルセナ「.......そんなに重大な話でもないんだけどね.....ちょっと、家族の事を思い出して、恋しくなっちゃって....」
魔耶「....そう言う事だったのね」
カルセナ「うん......私なんて、もう皆からは見えないのに....何でこんな気持ちになっちゃうんだろ」
肩に掛けていたバスタオルを、両手でぎゅっと握りしめる。

584:なかやっち:2020/07/01(水) 23:20

魔耶「……それは、君が家族を愛していて、大切に思ってるから、だよ」
悲しそうな表情を浮かべたカルセナに、ポツリと言う。
魔耶「じゃなきゃ、そんなこと思わないもん。カルセナは、家族を心の中でずっと大切に思ってるんだよ」
カルセナ「…大切に…?」
魔耶「うん、そうだよ。………死んでも家族を思ってるなんて…優しいな、カルセナは。きっと家族もカルセナみたいな人に見守ってもらえてて、幸せだよ」
そう言ったあと、「私にはよくわかんないけどね」と付け足しておいた。
魔耶は生まれてすぐに親を亡くし、親の友人であった閻魔様達に育てられた。唯一血の繋がった家族も、魔耶を置いて居なくなってしまった。だから魔耶にはよくわからなかった。そう感じることのできるカルセナが少しだけ羨ましい…そう感じたのもあったかもしれない。
魔耶はカルセナに言葉を伝えたあと、自分の状況を思いだし、少しだけ寂しそうな顔をした。
魔耶「……ごめんね、私の問題なんかに付き合わせちゃって…そのせいで元の世界に帰るのが遅くなってるよね…。君は、大切な家族がいるんだもんね。家族のことを想うのは当たり前だよ」
カルセナは見守らなきゃいけない家族がいる。なのに、私にはそんな人いない。一人暮らしだし、友人や閻魔様にも毎日会うわけじゃない。だから、例え数年家を空けていたって、心配されることも心配することもない。
だから、私は、この世界でゆっくり過ごしてしまっていた。あわよくば、ずっとカルセナと一緒にいたいなんて…なんておこがましかったんだろう?カルセナには大事な家族がいるのに、自分の都合ばかり考えてた。もしかしたら、カルセナはずっと帰りたいと思っていて、私に無理矢理付き合わされる形になっていたのかも…
魔耶「…ほんと、ごめんね…」
今の私は、ただカルセナに謝ることしか出来なかった。

585:多々良:2020/07/03(金) 23:03

カルセナ「っ.......!」
痛かった。魔耶の、たった一言の謝罪が。今一番苦労しているのは魔耶なのに、謝らせてどうするのだろう。寂しさと申し訳無さで頭の中がぐらついた。
カルセナ「...謝らないでよ.......また魔耶と、離れたくなくなっちゃうじゃん......ッ!」
少し濁ったその言葉は、元の世界に戻りたい気持ちとまだ魔耶と一緒にいたい気持ちが混ざり、矛盾しているかの様に読み取れた。
魔耶「カルセナ.........」
顔はこちらを向いているが、カルセナの目には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。
カルセナ「そんな顔しないでさ........もっといつもみたいに元気な魔耶で居てよ.....!....謝らないでよ.....ッ」
それ以上魔耶の顔をじっと見ている事が出来ず、俯いてしまった。目に溜まった涙が一粒、カルセナの手にポツッと落ちた。
魔耶にこんな顔、もう見せない様にしようとしていたのに。弱いメンタルは卒業しようと決めていたのに。いざ向き合うと、やっぱり難しかった。

586:なかやっち:2020/07/04(土) 17:51

魔耶「…カルセナ…」
泣かせるつもりはなかったのに…カルセナの涙なんて見たくないのに…自分の軽はずみな発言を恨んだ。カルセナを泣かせてしまったのは、自分の言葉なのだ。
カルセナは帰りたい気持ちと帰りたくない気持ちの間で揺れているようで、辛そうな表情を浮かべながら涙をこぼしていた。そんなカルセナの顔を見て、魔耶も心が締め付けられたような感覚に陥った。
魔耶「そう、だよね…ごめん…いきなり変なこと言って…」
魔耶もカルセナから視線を外し、俯いた。
カルセナ「だから、謝らなくてもいいってば…魔耶には、いつもの魔耶でいてほしいの…!」
魔耶「……」
私は、いつもそんなに笑っていただろうか。自分だと分からないが、きっと、カルセナから見たら私はたくさん笑っていたのだろう。前の世界ではそんなに笑うこともなかったのに…
魔耶「…私はさ、カルセナが羨ましいよ。見守るべき…大切にするべき家族がいて。私には、そんな人いないから…。だから、勝手に、ずっとカルセナとこの世界で過ごしたい、なんて思ってて…カルセナには大切な家族がいるのにさ…」

587:多々良:2020/07/04(土) 21:21

カルセナ「.......魔耶だって....」
俯いたまま話そうとしたが一旦区切り、タオルで涙を拭う。そして、再び魔耶の方を向いた。
カルセナ「魔耶だって、元の世界での大切な人.....いるでしょ....?」
魔耶「....私は長い間一人で暮らしてたし、カルセナ程じゃ.....」
カルセナ「...........嘘」
魔耶「......?」
カルセナ「魔耶を育ててくれた閻魔様とか....お姉さんとか.........一緒に暮らしてなくたって、大切な人でしょ....?」
魔耶「......そう....だけど」
カルセナ「だったら.....立場はおんなじだよ.....それぞれ想ってる人がいるじゃん」
魔耶「.........うん」
俯かせていた顔を少しだけ上げる。
続けていた会話に間が空き、もう一度顔を落とそうとした。しかし、カルセナの言葉がそれを止めた。
カルセナ「......魔耶は今大変なのに...タイムリミットがもうすぐ迫ってるのに、こんな話にさせちゃった。....いつもの魔耶で居てって言ってる割に、私が出来てなかった.......私こそ、ごめんね」
先程と違った、はっきりとした口調で謝罪の言葉を述べる。魔耶を見る目は涙で多少腫れていたが、その顔は暗く落ち込んだものではなく、まるで大事な約束を守ろうとしている子供の様な、キリッとした顔だった。

588:なかやっち:2020/07/04(土) 22:27

魔耶「…ううん、大丈夫だよ。…これで、仲直り、だね」
ようやく魔耶もしっかりと顔をあげ、カルセナと二人で微笑み合った。
カルセナ「喧嘩してた訳じゃないけどね」
魔耶「はは、まぁそうなんだけどさ〜?」
魔耶の言葉に自然と笑みがこぼれ、二人で大きな声で笑った。暗闇が広がる街の中に、二人の少女達の暖かな笑い声が響く。
笑い合いながら、魔耶はこう考えた。「今は、元の世界に帰ることとかそんなことよりも、カルセナと一緒に笑っていられる…今を大切にしよう」…と。もしかしたら、元の世界に帰るのはすぐの未来かもしれない。遠い未来かもしれない。でも、どちらにしても別れはやってくるのだ。だから、今は別れを惜しむよりも今を楽しみたいな…

589:多々良:2020/07/05(日) 09:41

カルセナ「.....はぁ〜、ちょっとタオル置いて来るねー」
魔耶「うん、行ってらっしゃーい」
ベッドから立ち上がり、脱衣場の籠に濡れたタオルを置きに行く。
カルセナ「(....やっぱり、こうやって笑ってる方が楽しいに決まってるよね)」
そんな事を考えながら、魔耶のいる部屋へと戻る。
カルセナ「ただいまー」
魔耶「おかえりー」
カルセナ「うーん.....まだ眠くなるまで時間あるかな.....」
一秒刻みで針がカチコチと音を立てている、壁掛けの時計を見る。
魔耶「そうだね.....私も、もうちょっと起きてても良いかも」
カルセナ「何しよっかな.....何か調べる?それとも違う事する?」

590:なかやっち:2020/07/05(日) 10:42

魔耶「うーん…調べるっていっても、資料とかなにもないし…能力も使えないからカードゲームとかもできないし…」
改めて、能力が使えないことを不便だと感じる魔耶。早くこの問題を解決できれば能力も使えるのに…と、ため息をつく。
カルセナ「そうだよねぇ…じゃあなにしよう…」
魔耶「うーん…………雑談?」
散々悩んだわりに、普通の答えを出す魔耶。そんな魔耶の意見にカルセナも賛成する。
カルセナ「お、いいねぇ。お菓子食べながら雑談しよっか」
魔耶「うんうん。あ、カルセナにお菓子渡したよね?」
カルセナ「うん、貰ったよ〜」
魔耶「よしよし。んじゃ、どんなこと話そっか?」

591:多々良:2020/07/06(月) 20:40

カルセナ「う〜む......何がいっかねぇ」
話題を二人で考える。話すことがないのは少し困るが、良い意味で捉えれば、それはこれまで沢山話してきたという証にもなっているだろう。
魔耶「.....何か、美味しいお店とか....?」
カルセナ「お店.....あ、そう言えば、うちら北街でしかご飯食べたことなくない?」
魔耶「確かに、他の街のご飯食べたこと無いかもねー」
カルセナ「ここと他の街はご飯の種類違うのかなぁ?」
魔耶「もしかしたら、この街にはないご飯屋さんがあるかも....!?」
カルセナ「あったとしたら、是非とも食べてみたいなぁ〜。この世界のご飯めちゃくちゃ美味しいから」
魔耶「だよねー、元の世界のご飯だって勿論美味しかったけど、この世界のご飯も格別だったな」
カルセナ「お土産に持って帰りたいくらいだわ〜」
魔耶「何も持って帰れないかもよ〜?移動手段とか代償みたいなのによっては」
カルセナ「うーん、そうだったら残念だな.......」

592:なかやっち:2020/07/06(月) 23:10

魔耶「まぁ…もしそうだったら、ここでたくさん食べていけばいいんだよ〜。そして、その味を覚えて帰る」
カルセナ「なるほど…そういう策もあるね」
魔耶「うんうん。ここの世界の料理はほんとに美味しいから、今のうちにしっかり堪能しとかないと!」
もしこの世界にまだまだ色々な料理があるのであれば、元の世界に帰る前にしっかりと食べていきたい。でないと、あとで後悔してしまいそう。そのくらいここの料理は美味しいのだ。
カルセナ「そうだねぇ…。どうせだから、この世界の料理全部食べて帰ろっか」
魔耶「お、この世界でグルメ旅でもします?」
カルセナ「そんな感じのことしたいね〜。それなら、まずはこの街の料理を制覇しなきゃだ」
魔耶「じゃあ、制覇目指してがんばりましょうか!お金もコツコツ稼がなきゃね」

593:多々良:2020/07/07(火) 22:37

カルセナ「だね〜。いつかまた、昇格試験も受けたいね」
魔耶「お金稼ぐには報酬が高いやつやんないとだもんね....修行したりしたら、受けてみるのもありかもよ?」
カルセナ「あー、そう言えば修行とか言ってたな〜。私が続けられるかね.....」
魔耶「そんな根気ないか....?ま、内容によるか」
カルセナ「頑張りまーす.....強くなって帰ってやる〜」
魔耶「そうそう、その意気だ」


結構な時間話していたせいか、二人とも話の間に欠伸を挟む様になった。
魔耶「ふわぁ〜.....」
カルセナ「....そろそろ寝ます?」
魔耶「うん.....私はもう眠いな....」
カルセナ「んじゃあ、電気消しちゃいますか」

594:なかやっち:2020/07/07(火) 23:16

魔耶「ありがと〜。じゃ、おやすみ、カルセナ…」
カルセナ「うん、おやすみ…」
暗くなった部屋で目を閉じると、クエストの疲れからであろう、どっと眠気が押し寄せてきた。魔耶はその眠気に身を任せるまま、夢の中へと落ちていった。



魔耶「…ここに来るのも慣れてきたな…」
いつもの見慣れた空間。あたり一面真っ白で、壁と床の境界線も分からない部屋のような場所。そこにポツンと座っている、自分とよく似た姿の悪魔。自分と違うところは、黒くて長細い角が生えていること、羽が少し大きいこと、目が赤黒いこと、鎖に繋がれていることくらいだろうか。
悪魔耶「…いらっしゃい。君も、もう時間が少なくなってきたんじゃないかな?だってほら、鎖がこんなに少なくなったもん。前はこの倍以上はあったのにさ」
魔耶「…!そんなに減ってるの…?」
悪魔耶「うん。最初よりも全然少ないね」
魔耶「…もう時間が少ないみたいだね…」
悪魔耶「そーだねぇ。そろそろ、諦めてもいいんじゃない?なにか企んでるみたいだけどさ、どうせ無駄だと思うよ?」
思いがけない悪魔耶の言葉に驚き、信じられないという顔で彼女を見つめる。
魔耶「き、気づいてたの…?っていうか、そんなのやってみないと分からないじゃん‼」
悪魔耶「気づいてたっていうか…君の行動は大体伝わるからね〜。君が何処にいってどんなことをしたかくらいは把握してるよ。あと、そんなのやってみないと分からない、だっけ?そんなの分かるよ。だって、ただの人間や神が悪魔を倒せると思ってるの?たとえ私と同じくらい強くたって、あっちに殺意はない…私を弱らせようとするだけでしょ?そんなの全力じゃないじゃん。こっちは心おきなく全力でいけるのに」
魔耶「……ッ…」
悪魔耶「人を救おうとする覚悟と、私の本気。果たしてどちらが強いかな?」
そういって、悪魔耶は私と全く同じ笑顔で微笑んだ。

595:多々良:2020/07/08(水) 21:30



カルセナ「....おはよ」
影すら見えない程の真っ暗闇の中、カルセナは声を掛けた。相手はここの住人、ブラッカルだ。
ブラッカル「.....よぉ。....魔耶の様子はどうだ」
カルセナ「第一声が心配って、やっぱり魔耶の事好きなんじゃ〜ん」
ブラッカル「う、うるせぇな!!それよりどうだって聞いてんだろ!」
照れた様に顔を帽子の鍔で隠す。帽子には、以前魔耶から貰ったブローチが、光の差さない真っ暗闇の中で唯一の輝きを放っていた。
カルセナ「あぁ....大まかな変化は、目の色が変わった事くらいだと思う.....私達が気付いてないだけで、他にもあるのかもしれないけど」
ブラッカル「ふーん......タイムリミットってのは...何時だ」
カルセナ「......あと2日くらい....?」
ブラッカル「......本当か?....能力使っちまったりしたんだ、最初に魔耶に言われた日数だけで計算するもんじゃねーぜ」
カルセナ「て、ことは.......」
ブラッカル「.....もって1日半くらいだろうな」
カルセナ「そんなに....短いの....!?」
まるで余命を聞いたかの様な気分になり、一瞬目眩が生じる。悪魔化の日まで、本当に時間が無いのだ。
ブラッカル「いよいよ後はねぇぞ。明日には、どうするか決心しねぇと手遅れになるだろうな」

596:なかやっち:2020/07/08(水) 22:37


魔耶「…そんなの、人を救おうとする覚悟の方が強いに決まってんじゃん…!」
悪魔耶「…ふぅん?なんでそう思うの?」
魔耶「だって…人を傷つけるよりも、救おうとする覚悟をもつほうが難しいじゃん…!カルセナは、自分の危険を承知で私を助けようとしてくれてる…!そんなカルセナが、人を傷つけることしか考えてない君に負けるわけないよ!」
悪魔耶にはっきりと自分の考えを伝え、睨み付ける。
すると、悪魔耶は、魔耶がさっき言ったことなど意に介していないかのようににっこりと笑った。てっきり怒るか不機嫌になるかなんて考えていた魔耶は少々面食らった。
悪魔耶「…なんだ、そんなのただの精神論じゃん。なにかすごい作戦があるのかなんて期待しちゃったのに〜。どんなことを考えてるか、なんて関係ないよ?強さと結果、これが戦いにおいて全てでしょ。だから、強い私のほうが勝つ。これだけのことじゃない?」
魔耶「……!」
悪魔耶「君も半悪魔なんだからさ、そんな人間みたいな考え捨てなよ。人間特有の『愛』とか『絆』とか…そういうの聞くと、苛々するんだ。いざ自分が危険に晒されたら、そんな綺麗事言えないのにさ」
魔耶「……じゃあ、君とは分かりあえそうにないね…。私は、『愛』とか『絆』は本当に存在すると思ってる。確かにそれは綺麗事なのかもしれいけど…でも、私は、その綺麗事に何度も救われたんだよ!」
魔耶の言葉は本当だった。カルセナとの『絆』のお陰で私は今生きているし、カルセナのお陰で今の私でいられている。カルセナだけじゃない、閻魔様や、親友の満空…色んな人との『絆』で、私はここにいるのだから。だから、悪魔耶の考えは間違っている。
そう伝えると、悪魔耶は変わらぬ笑顔で微笑んだ。
悪魔耶「…そっか。じゃあ、私は早く外に出なきゃね。君のその価値観がどれだけくだらない戯れ言だったか、早く教えてあげたいよ。…んじゃ、もう時間だから、またね」
悪魔耶の変わらぬ笑顔…つまりそれは、悪魔耶の考えは変わっていない、私の言葉が全く届いていないということだと気づいた。同じ自分なのに、どうしてこんなに考え方が違うのだろう?…視界がぼやけていくなかで、そんなことを考えていた。

597:多々良:2020/07/09(木) 21:23


カルセナ「.....そっか....そうだよね...」
拳をぎゅっと握り締め、震えた声を出す。その声は泣いているのではなく、怯えていた。魔耶が悪魔になるのが怖くて、魔耶が戻ってこられなかったらどうしようと思ってしまって。
ブラッカル「.........」
暫く無言のブラッカルだったが、おもむろに立ち上がってカルセナと面を合わせる。
そして、目にも止まらぬ速さで右手をカルセナの頬に打ち付けた。

カルセナ「「 ......いったぁあッ!!!? 」」

数秒経って、やっと叩かれた事に気付く。
カルセナ「な.....何すんの!?」
ブラッカル「「 しっかりしろ!! 」」
カルセナ「.....え?」
ブラッカル「くよくよすんじゃねぇ!気を強く持て!!そんな心構えじゃ、魔耶を救える筈がねぇだろ!ったく、声を聞いて一瞬で分かったぜ」
カルセナ「.........」
叩かれて赤くなった頬をそっと手で覆う。まだ鮮明に、ピリピリとした痛みが残っていた。
ブラッカル「さっきのはお祓いだ。テメェの馬鹿みてぇな心の弱さのな」
背伸びをした後、再び地面に座り込んで大きな欠伸を見せた。
ブラッカル「あーあ、これでエネルギー使っちまった。もう寝る。体力温存する」
そうして、あっという間に眠りに着いてしまった。頭をだらしなく垂らして寝息を立てている。

カルセナ「.......ありがと」

598:なかやっち:2020/07/09(木) 23:16


魔耶「…ん…毎回、目覚めが悪いなぁ…」
さっきまで横たわっていた体を起こし、いつも見るあの夢(?)に対してため息をつく。あの夢は、悪魔耶は、毎回歯切れの悪いところでいなくなってしまうのだ。もっと言いたいことや聞きたいことがあったのに…
憂鬱な気分を抱えながらも、寝起きの体をグッと伸ばす。まだ外は暗く、朝には見えなかった。
魔耶(…時間で言うと、夜中の1時か2時くらいかな…?)
チラリと横に視線を移すと、カルセナがすぅすぅと寝息をたてながら気持ち良さそうに寝ていた。流石に今起こすのは悪いだろう。
魔耶「…しょうがない、一人で夜散歩といきますか…。考えたいこともいっぱいあるしね」
魔耶は今目覚めたばかりにも関わらず、眠気を感じていなかった。今は夜中だし、カルセナもまだ起きないだろう。少しくらい散歩に抜け出したって問題ない筈だ。
魔耶「…じゃ、いってきますか…」

599:多々良:2020/07/11(土) 06:12


カルセナ「........う..ん...」
ブラッカルと別れ、現実世界でゆっくりと目を開ける。まだ外は真っ暗な状態だった。
カルセナ「(あれ.....魔耶は......?)」
気付くと、隣で寝ていた筈の魔耶が見当たらなかった。
カルセナ「(......トイレかな...)」
一度目が覚めたとはいえ、時間帯で言えば深夜。もう一眠りしようと、カルセナは再び目を閉じた。

カルセナ「...また......?」
今日一度会ったのに、しかもあいつは寝ている筈なのに、また同じ空間に立っていた。少し遠くに見えるブラッカルは相変わらず寝ている様だ。
カルセナ「...来てもする事ないんだよな....」
この空間に来させられるには何か理由がある筈。と言うか、そうでないと意味がない。
カルセナ「......そう言えば、この空間って他にも何かあったりしないのかなぁ.........ちょっと歩いてみよ」
行けど行けど真っ暗闇が続く可能性が高いが、他にやる事も無いので取り敢えず探索してみる事にした。

600:なかやっち:2020/07/11(土) 13:04


魔耶「…あー…涼しい」
宿をそっと抜け出すと、涼しい夜風が頬に触れた。少し寒いくらいの風に触れ、寝起きの頭と体が冷やされた。
宿を離れ、考えごとをしながらブラブラと暗い街中を歩き始める。
魔耶「……はぁ…まったく、悪魔の私にも困ったものだよ…」
誰もいない道の真ん中で呟く魔耶。
魔耶「同じ私なのに…なんであんなに考え方が違うんだろ?私が人間に近いから…?それとも、悪魔特有の考え方なのかな?あれは…」
人間がよく言う『愛』『絆』が綺麗事だと、聞いてて苛々すると悪魔耶は言っていた。私はそうは思わない。『愛』や『絆』が綺麗事なのだったら…存在しないものだったら、私は今ここにいないはずだ。カルセナが私を何度も助けようとしてくれていたのだから。それを『愛』『絆』と言わないなら、なんと言えよう。
魔耶「…そういえば、悪魔って悪事を働いたり、人の不幸を見たりするのが好きだとか聞いたことあるなぁ…。じゃあ逆に、親切にしたりとか、人の幸福を見たりするのは嫌いなのかな」
それなら考え方が違うのにも納得がいく。同じ自分でも、悪魔耶は悪魔の本能的にそれが嫌いで、私は人間に近いからそれが好きなのかも…
魔耶「…ま、ただの憶測だから、あいつのことなんて知らないけどさ」

601:多々良:2020/07/12(日) 09:07


カルセナ「うーん.....」
いくら歩いても変わりの無い景色に、倦怠感が出てきてしまっていた。
カルセナ「本当に何にもないのかなー.....てかこれ移動してるよね?」
ブラッカルの姿が遠退き、見えなくなったので移動はしている筈だが....カルセナにとっては同じ所で足踏みをしているだけの様に感じた。

カルセナ「そろっと起きたくなってきたわ..........ん?」
足を動かしていると、ふと目線の先にあるものが見えた。星の様に仄かな光を放つ、白い点。興味をそそられ近付いてみると、その大きさは蜜柑1個分程度のものだった。動く事もなく、ただ空中で静止している。
カルセナ「何だろうこれ......」
少しばかり神秘的に感じた故の思い込みかもしれないが、その物体から何か引力の様なものを感じた。
好奇心のせいか自然とそれに手が伸びる。近付けば近付く程、引き寄せられる力は強くなっている様に思える。
カルセナ「.........うっ!!?」
指がその物体に触れそうになった瞬間、一瞬にして強い頭痛が走り、手を伸ばす事を止めさせた。
カルセナ「な....何なの....?触っちゃ駄目なのかな.....?」
触ろうとしていた物体は、変化なくそこに止まっている。
カルセナ「....この事、あいつは知ってるかな......」
この正体を知りたい。自分の中にあるもの位、把握しておきたい。そう思うと居ても立ってもいられなくなり、歩いて来た方向とは真逆、ブラッカルが居る方向へと走り出した。

カルセナ「(......そう言えば、あれ触ろうとしたとき...あいつの声が聞こえた気が.........いや、気のせいかな)」

602:なかやっち:2020/07/12(日) 10:07


魔耶「…お、そろそろ明るくなってきたかな?」
ぶらぶらしていたら、いつの間にか結構な時間が経っていたらしい。
道沿いにある民家が太陽の光によって照らされていく。ずっと暗い街中を歩いていた魔耶はつい目を覆った。
魔耶「…わぁ…」
覆った手を下に下げると、そこには神秘的な景色が広がっていた。
街は光と影がくっきりと映し出され、境界線ができていた。後ろに視線を向けると、川に流れている水が太陽の光を反射してキラキラと光っている。街中にある雑草でさえも、朝露を宝石のように輝かせている。
前と後ろの景色が一枚の絵のようで、魔耶は後ろにも目があればいいのにと思った。それくらい、この景色は美しかった。
魔耶「すごい…街の朝ってこんな感じなんだ…初めてみた…」
山に住んでいた魔耶は、街で寝泊まりすることなんてなかった。だから、街の朝の風景を見たことなんてなかった。
初めてみる人工物と自然が合わさった朝の景色に感動する。
魔耶「…いつもと同じ景色なのに、朝ってだけでこんなに違うんだ…不思議だな…」

603:多々良:2020/07/12(日) 18:13


カルセナ「「 起きてっ!! 」」
走っていた足を止め、暗闇の中で叫ぶ。
ブラッカル「......ん、何だよ.....こっちはまだ寝てたってのに....」
少し不満げに目を擦る。胡座をかいている足の上に肘を置き、片手で顎を支えるような体制になってカルセナを見つめる。
カルセナ「....ハァ、ハァ、ちょ...ちょっと待って.....」
ブラッカル「相変わらず体力ねぇな.....」
カルセナ「.......ふぅ、あの....ちょっと聞きたい事があって」
ブラッカル「聞きたい事だぁ?....ま、何でも良い。言ってみろ」
カルセナ「うん.....あのさ、さっきまでこの空間を探検してたんだけど....変なものがあって」
ブラッカル「.....変なもの?」
そのワードに反応したのかピクッと手を動かし、背筋を僅かに伸ばす。
カルセナ「そう、えっと.....仄かに光ってる球体?みたいな......このくらいの大きさの」
記憶に残っているその物体の大きさを手で表す。それと同時に、ブラッカルの目付きが変わった。
ブラッカル「......触ったりしたか?」
カルセナ「えーと...気になったから触ろうとしたんだけど、そのときはいきなり頭痛がして....結局触るの諦めちゃった」
そう言うと、ブラッカルは立ち上がってカルセナの目の前で言葉を放った。いつもより険しい目付きで、焦っている様にも見える。
ブラッカル「......次にそれを見っけても、絶対に触るな....関わるんじゃねぇ」
カルセナ「.......え?」

604:なかやっち 短い。:2020/07/12(日) 18:35


魔耶「…さーて、いい景色も見れたし、そろそろ帰りましょうかね〜。…カルセナ起きちゃったかな…」
朝の景色にしばらく見とれた後、自分が何も言わずに宿を抜け出したことを思い出し、回れ右をした。
もしカルセナがもう起きていたら、私がいないことを心配するかもしれない。あの人早起きだし…せめて書き置きでも残しておくべきだっただろうか?
そんなことを考えながら、明るくなった道をスタスタと歩く。
魔耶「…さすがにそんな早起きじゃないか?ま、お腹空いたし、どっちにしても早く帰った方が良さそうだね」

605:多々良:2020/07/13(月) 21:45


カルセナ「な、何で.....?もしかして、あれが何か知ってるの....?」
まるで元から知っていたかの様な注意に、そう問う。
ブラッカル「......いや....とにかく、変なもんには関わらねぇ方が身の為だ」
カルセナ「.....らしくない...」
ブラッカル「......あ?」
カルセナ「ほんとに知らなかったら、もっと興味を持つ筈でしょ?だって、私なんだから」
核心をついた疑問。それを聞いたブラッカルは小さく溜め息を吐いて目線を逸らしたが、そんな態度を取ってもなお否定し続けた。
ブラッカル「....知らねぇって」
カルセナ「嘘!!ぜーったい知ってるじゃん!何で今目線逸らしたんだよー!」
ブラッカル「たまたまだよ」
カルセナ「んじゃあ溜め息は?」
ブラッカル「お前が疑い深いからだ」
理屈を述べて話を逸らそうとするブラッカルに、カルセナの不満であり好奇心でもあるおかしな気持ちが高まっていった。
カルセナ「む〜.......んじゃあ、もっかい行って確かめて来る!」
ブラッカル「ちょ、ちょっと待て!さっき私が何て言ったか覚えてねぇのか!?」
謎の物体のある方向へと歩き出したカルセナの肩を慌てて掴んで止める。
カルセナ「だったら教えてよ!そしたら多分行かないから」
ブラッカル「!.......はぁ....分かったよ.....だが、取り敢えずお預けだ。もう外は朝だ、一旦起きた方が良い。私もまた寝る」
カルセナ「やっぱ知ってたんじゃんか......じゃあ、また後で」

606:なかやっち:2020/07/13(月) 22:20


魔耶「ただいま〜…」
ようやく宿に到着し、部屋のドアを開ける魔耶。
適当にぶらぶら歩いていたつもりだったが、思ってたよりもずっと遠くまで行ってしまっていたようで、帰るのに20分ほどかかってしまった。
魔耶「…カルセナ〜?起きてる…?」
心配を顔に浮かべながらそっと部屋を覗くと、布団に潜っている金髪の少女の姿が見えた。それを見てほっとする。
魔耶「よかった…まだ起きてなかった…もし起きてたら心配されちゃったからかもだからね、よかったよかった」
安心した表情で台所のテーブルに移動し、そっと腰かける。
魔耶「…とりあえず、カルセナが起きるまでまちましょうかね…牛乳でも飲んでよっと」

607:多々良:2020/07/15(水) 19:14


カルセナ「.........う」
ゆっくりと目を開けて近くの時計を確認する。窓から入る光を見て、早朝であることは間違いないと思った。
カルセナ「(....まだ6時半くらいか....)」
もう一度眠ろうかと、魔耶がいる筈のベッド側に寝返りをうつ。
カルセナ「(......あれ?魔耶いない....?そう言えば、昨日も..........って)」
ベッドの向こう側を見ると、キッチンに見慣れた人影があった。それは間違いなく、魔耶だった。
カルセナ「(いるじゃん.....)」
魔耶「....あ、カルセナおはよー」
明るい笑顔でカルセナに挨拶をする。
カルセナ「ん、おはよ〜.....朝早いね......」
魔耶「あー....何か目が覚めちゃってね」
カルセナ「そっか.....ん〜....よく寝た」
むくっと起き上がって背伸びをし、目を擦る。
カルセナ「魔耶はよく寝れた....?夜に起きてた....よね?多分...」

608:なかやっち:2020/07/15(水) 21:19

魔耶「え…?あ、バレてた?」
唐突に自分が起きてた事実を言い当てられ、どきりとしながらも照れ笑いを浮かべる。
カルセナ「夜にちょっとだけ目が覚めたんだけど、そのときに魔耶がいなかったからさ…。最初はトイレにでも行ってるのかと思ったけど、ずっと起きてたの?」
魔耶「…うん、そうだよ。なんか眠れる気がしなくて、ずっと外で散歩してたんだ〜」
ここで下手な嘘をつくよりも正直に言ったほうがいいだろうと判断した魔耶は、ありのままをカルセナに話した。
魔耶「普通なら外に行くときはカルセナに声掛けるけど、君が熟睡してたからさ。起こすのも悪いと思って、勝手に外に行っちゃった。…その件については反省シテマス」
牛乳を口元に持っていき、軽くうなだれる魔耶。
カルセナ「ふーん…まぁ、別にいいけどね。私寝てたし…ただ、今度から書き置きくらいは残しておいてね」
魔耶「はーい…」

609:多々良:2020/07/17(金) 21:08

カルセナ「私も何か食べるか飲むかしよっかな.....」
ベッドから降り、髪を少し整える。
魔耶「牛乳美味いぞー」
カルセナ「あんま飲まないからな〜」
冷蔵庫まで向かい、何を食べようかと考えていたとき、ある事を思い出した。

「明日には、どうするか決心しねぇと手遅れになるだろうな」

カルセナ「(そうだ.....)」
突き付けられた現実から逃れ、いつまでもこんなのほほんとした生活を送っている訳にはいかない。魔耶と、どうするか決めないといけないのだ。
カルセナ「........」
魔耶「....?どった?」
手を止めて呆然と立ち尽くしているカルセナに魔耶が声を掛けた。
カルセナ「....あ、あぁ...ちょっとね...」

610:なかやっち:2020/07/17(金) 22:18

魔耶「…?」
立ち尽くしたままのカルセナの様子を見て不信感を抱くが、起きたばかりでまだ意識がぼんやりしているのかもしれないな、と考え、そのときはあまり気にしなかった。…が、魔耶が声をかけたあとも、カルセナは考え事をしているかのような真剣そうな顔つきでその場にいる。流石の魔耶も異変に気づいた。
魔耶「…なによ?なにか言いたいことでもあるの?」
もう一度声をかけてみる。今度は曖昧に誤魔化されないよう、はっきりと言ってみた。
カルセナ「……あのさ、ちょっと…二人で決めたいことがあるのよ…話、聞いてくれる?」
魔耶「うん、もちろんいいよ。……んで、その内容は?」

611:多々良:2020/07/19(日) 10:19

カルセナ「...魔耶の悪魔化のことなんだけど......」
魔耶「......!!」
カルセナ「もう決めないと....手遅れになっちゃうって.....」
魔耶「......うん。私も、自覚してる...私の中の悪魔もそんなこと言ってた」
首から提げたペンダントをぎゅっと握る。
カルセナ「悪魔を封じ込める方法は分かったし、その準備も出来てる。後は戦うか何かして弱らせるだけ....あ....ねぇ、魔耶の悪魔ってどんな感じで出てくるの?」
もし、出てきたときに本体とは別々になるのであれば良いのだが...ブラッカルの様に、魔耶の意識を乗っ取って出てくるのなら、痛め付ける事は出来ないと考えた故の質問だった。

612:なかやっち:2020/07/19(日) 14:06

魔耶「…多分、私の意識だけが消えて、悪魔耶の意識が出てくるんだと思う。…君達と同じような感じかな」
悪魔耶の今までの言動を思いだしながら、カルセナに伝える。彼女は悲しそうな表情で「…そっか…」とため息混じりに言った。
カルセナ「…じゃあ、どうやって攻撃すればいいんだろ…もし魔耶の意識を取り返せたとしても、魔耶の体にダメージが残っちゃう…」
魔耶「……」
確かに、と思わず声を出しそうになる。魔耶はそんなこと全く考えていなかった。
意識が違っても、体は同じ。つまり、悪魔耶にダメージを与えれば、自分の体が傷つくのだ。悪魔を封印したら、その残ったダメージは自分にいくのだろう。
…それを踏まえ、私は一つ気になる点ができた。
魔耶「…そもそも、カルセナは悪魔(私)を攻撃出来るの…?」
カルセナ「………!」
いくら悪魔と言っても、魔耶は魔耶。容姿はほぼ同じなうえに、体は一つ。この世界でずっと同じ時を過ごしてきた自分を、カルセナは攻撃出来るのだろうか…そんな疑問を抱いた。

613:多々良:2020/07/19(日) 15:44

カルセナ「......多分出来ない.....魔耶に攻撃するなんて、私は考えたことないもん...」
魔耶「.....だよね」
カルセナ「.....あいつは分からないけど」
魔耶「.....あいつ?もしかして、ブラッカルのこと?」
カルセナ「う、うん.....」
魔耶「えっ、私を攻撃しようと考えた事があるってこと....??」
一瞬戸惑う魔耶を見て、語弊を生まない様に少し焦って説明する。
カルセナ「あ!!いやいやそうじゃなくて.....!あいつ結構無差別だから、そう言うの関係ないかなって.....だから、いざとなったら任せるつもりでいたんだ。今回ばかりは頼るの許してくれそうだし.....」
魔耶「そっか......それなら....」
カルセナ「...でも、本当にどうすれば良いのかな....魔耶を傷付けたくないし.....」

614:なかやっち:2020/07/19(日) 18:09

魔耶「…でも、他に弱らせる方法なんて思い付かないし…精神と体力どっちも疲弊させなきゃ、封印なんてできないよ…」
カルセナ「そしたら魔耶が…」
魔耶「…うん…これはしょうがないからね。このぐらいしなきゃ悪魔を封印するのは難しいってことなんだし。…勿論攻撃したカルセナを恨んだりなんてしないし、悪魔の回復力は凄いから…だから、大丈夫だよ」
封印に失敗すればどのみち私は消えてしまうのだ。だから、体の傷がどうこうなんて言ってられない。むしろ、悪魔相手に手加減してたらカルセナの身が危ないのだ。本気でやってもらわないと困る。
魔耶「…だからさ、傷つけたくないって気持ちは分かるけど…でも、これ以外の方法なんてないと思うからさ…私を救うためだと思って…ね?」
カルセナ「……」
カルセナがなにか反論しようと口を開くが、結局なにも言わずに俯いた。無理もない。もし私とカルセナが逆の立場だったら、私もカルセナを攻撃なんてできないだろう。

615:多々良:2020/07/19(日) 20:27

カルセナ「.........分かった。...魔耶を信じるよ」
決意を固め、今一度魔耶の顔を見る。カルセナをじっと見ている瞳の色は変わっていても、前持った意思は変わっていない様だった。
魔耶「ありがとう、カルセナ。心置き無くやっちゃって、そうして私の悪魔に...勝って」
カルセナ「....うん、約束する。絶対....絶対に、また冒険出来る様にしようね...!」
魔耶「....あはは、お別れの台詞みたい」
カルセナ「ごめんごめん、そんなつもりじゃ.....」
申し訳無く、照れ臭そうに頭を掻く。
魔耶「.....じゃあ、実行は今夜....もしかしたら、早くて逢魔が時ぐらいになるかな。そのときには場所移動しておいた方が良いね」
カルセナ「そうだね、戦える様なところ.....向こうの、離れた草原とかかな....」
初めて北街へ来るときに通過した、岩場や森の近い草原。そこならば誰の事も気にする事なく戦えるだろう。
魔耶「うん.....じゃあ、そこにしようか。取り敢えずカルセナ、着替えて来たら?」
カルセナ「ん....あぁ、そう言えばそうだった....んじゃそうする」

616:なかやっち:2020/07/19(日) 21:28



カルセナ「…んで、今日はなにするんだっけ?」
着替え終わったカルセナが、コーヒーを啜りながら尋ねてきた。
魔耶「えっと…あ、そうそう、蓬さんのところに行こうって計画だったよ」
昨晩の会話を思い出しながら答える。確か、悪魔の苦手なものを探るために蓬から情報を得られないか、という会話だったはず。
カルセナ「あー、そういえばそんなこと言ってたね。じゃあ、今日は蓬さんのところに訪問して…悪魔の苦手なものを突き止めるのか」
魔耶「そゆことそゆこと〜。……あっ、そうだ」
魔耶がなにかを思い出したように手を叩き、首を傾げているカルセナにペンダントを手渡した。
魔耶「下手したら今日悪魔になっちゃうかもだから…一応、念のため、カルセナがペンダント持ってて。念のため、ね」

617:多々良:2020/07/22(水) 19:46

カルセナ「ん、分かった....じゃあ預かっとくね」
ペンダントを受け取り、大事そうに胸ポケットに仕舞う。
魔耶「ありがと。....ふぅ」
大きく息を吐いて、椅子の背にもたれ掛かる。
カルセナ「....どーしたの、まさか緊張?」
魔耶「いや〜?.....緊張というか、安心...かな」
カルセナ「はぁ、安心.....緊張させるつもりはないけど、今の状況で安心出来るの....?」
コーヒーの入ったカップを両手で包み込むようにして魔耶に問う。
魔耶「逆に、凄い緊張が〜...ってなる状況でもあるのかな....?」
カルセナ「えー、私だったら結構そわそわしちゃうけどな....魔耶はどうしてそんなにリラックスしてられるの?」
魔耶「...カルセナの事を信用してるからって言うのが一番の理由。そりゃあ、全く緊張してないって訳ではないけど....でも、今は緊張感より安心感が勝ってるの」
カルセナ「へぇ〜.....お役に立ててるのか分からないけど、嬉しいわ」

618:なかやっち:2020/07/22(水) 21:07

魔耶「ふふっ、お役に立ててますよ〜。カルセナがいなかったらどうなっていたか…」
柔らかく微笑みながら飲みかけの牛乳に視線を落とす。そんな彼女の微笑みは、安心と信頼がまざったような感じがあった。
カルセナ「運命ってやつかねぇ…私も魔耶にいっぱい助けてもらってるから、むしろ私がその言葉を魔耶に言いたいよ」
魔耶「そっか。…ありがとね、カルセナ」
カルセナ「こちらこそ、ありがと〜」
二人の視線が合い、カルセナと魔耶の表情に微笑みが浮かぶ。

魔耶「…さて、そろそろ朝ごはんでも食べない?お腹空いちゃったよ」

619:多々良:2020/07/23(木) 08:51

カルセナ「うん、そーしよっか。戸棚とかに何かあったっけ?」
魔耶「どうだろう....前に買ったパンがあった気がする」
そう言って立ち上がり、キッチンの奥の戸棚をガサガサと漁る。
カルセナ「その戸棚パン多いな....」
魔耶「よく買い置きしてるからね....えーっと、食パンやらクリームパンやら、色々あるけど」
カルセナ「じゃあ今日は〜....トーストにでもしようかな」
魔耶「オッケー、ここのトースターに入れとくよ〜」
カルセナ「ありがとー。あ、4分でよろしく」
魔耶「りょうかーい」
トースターに食パンを入れ、タイマーをセットすると、ジリジリと焼き始める音が聞こえてきた。
カルセナ「魔耶は何にすんの?」
魔耶「ん〜.....どーしよっかな」

620:なかやっち:2020/07/23(木) 12:53

もう一度戸棚を覗きこむ。
しばらくパン達とにらめっこをしたあと、クリームパンを手に取った。
魔耶「ん、これにする〜」
カルセナ「…甘党だねぇ」
クリームパンを選んだ魔耶に、カルセナが一言呟く。そんなカルセナの一言に笑顔を返す魔耶。
魔耶「当ったり前よ〜。甘い物こそが私の力の源なんだから」
カルセナ「まぁ、分からなくもないけども…甘いものばっかとってると太るぞ〜」
魔耶「む、大丈夫だよ。能力使ってれば糖分も消費されるもん」
カルセナ「今は能力使えないじゃん」
魔耶「…あっ…ま、まぁ、一日二日くらい大丈夫大丈夫」
カルセナ「ほんとかねぇ…」
魔耶「本当だってば〜」

621:多々良:2020/07/23(木) 20:24

クリームパンを片手にカルセナがいるテーブルへと戻り、椅子に座る。
カルセナ「魔耶先食べちゃって。私もうちょっとかかるし」
魔耶「そう?じゃあ、お先にいただきまーす」
手を合わせた後、袋を開けてクリームパンを口に運ぶ。一口かぶり付くと、中からとろっとした濃厚なクリームが溢れ出し、一瞬で口の中がポップな甘さに包まれた。
魔耶「....わ〜、やっぱ甘いもの最高.....」
カルセナ「中々美味しそうに食べるねぇ」
魔耶「だって美味しいんだもん。牛乳牛乳〜....」
中身が減ったコップに牛乳を注ぎ足し、それをぐいっと飲む。
魔耶「....っはぁ〜...濃厚なクリームが通った甘い口の中をリフレッシュさせるかの様なすっきりとした牛乳....良いわぁ」
カルセナ「食レポみたいになってるけど.....」
魔耶「最高すぎてついつい....」
そんな調子で魔耶が食べ進めていると、キッチンから食パンを焼き終わった音が聞こえてきた。
魔耶「むむ、焼けた」
カルセナ「あー、魔耶見てたら更にお腹空いた〜....早く食べちゃおーっと」

622:なかやっち:2020/07/24(金) 19:21

カルセナがトーストを皿にのせると、香ばしいパンの焼けた匂いがふんわりと漂ってきた。
魔耶「美味しそうですね…」
カルセナ「魔耶にはクリームパンがあるじゃん」
魔耶「いや、まぁ、そうなんだけども…いいきつね色だなーって」
カルセナ「ああ、そーゆーことね。うん、いい感じに焼けたわ」
魔耶「流石だね〜。今日から君はパン焼き名人だ」
カルセナ「なんだその称号は…」
魔耶の言葉に呆れながらも、軽く微笑んでパンを口に運ぶ。
焼く前とは違うカリッとした食感と、甘くて香ばしいパンの香りが口に広がった。美味しいパンを味わい、自然とカルセナの表情に笑顔が広がる。
カルセナ「ん〜!美味しい‼」
魔耶「それは良かったわ〜」
カルセナ「ただ焼いただけなのに、なんでこんなに美味しいんだろ…パンを発明した人はきっと天才だな」
魔耶「はは、そんなにか…。…あ、バターとか付ける?確か冷蔵庫にあったと思うけど…」

623:多々良:2020/07/26(日) 18:34

カルセナ「あ、ほんと?んじゃ付けよっかな。取ってくるわ」
再び席を立ち、冷蔵庫を開ける。
カルセナ「うーんと.....あった!」
端っこにぽつんとバターの容器が置いてあった。パン屋で買い物をした際に買ったものだ。
カルセナ「お、何かジャムみたいなのもあるじゃん」
魔耶「それイチゴジャムだった筈....それも付けんの?」
カルセナ「一応持ってくわ」
そう言ってバターとジャムの2つを取り出し、席へ戻った。
カルセナ「ふぅ、何か席を立つこと多いような.....忙しいな」
魔耶「事前に準備しとけば良かったねぇ」
カルセナ「ま、良いでしょう」
食べかけのトーストにバターを塗り、その上から更にジャムをかける。
魔耶「わ、甘そう」
カルセナ「魔耶の大好きな甘々だぞ。再びいただきまーす」

624:なかやっち:2020/07/27(月) 20:34

バターとジャムで更に甘くなったトーストをパクリと食べる。
先程のほのかな甘みとはまた違う、人工的な甘さのジャムとバターが口のなかで溶け合う。あまりの美味しさに思わず目をつぶった。
カルセナ「ん〜、美味しい‼ジャムとかつけるだけでも全然違うね!」
魔耶「うんうん、ちょっとしたアレンジでも一味違うよね〜」
カルセナ「そうそう。パンになにかをつけるって革命的な考えを世に広めた人、誉め称えたい…」
魔耶「あー、分かるわ〜。パンにチョコとかクリームとか、本当に革命的な考えだよね」
カルセナ「分かってくれる?」
魔耶「分かってあげますとも〜」



カル魔耶「「ごちそうさま〜」」
パンについて語り合いながらも、美味しいパンを食べ終えた二人。テーブルの前で手を合わせ、完食の言葉を示した。

625:多々良:2020/07/29(水) 20:57

魔耶「さてと、色々済ませてから、蓬さんを訪ねる準備しますか」
カルセナ「おー」
それから洗い物をし、歯を磨いたり顔を洗ったりなどの身支度を素早く完了させた。

宿の外に出ると、燦々と輝く太陽が空に浮かんでいた。北街の人々も活動を始めているようだった。
魔耶「んー、今日も暑くなるかもね....」
カルセナ「干物化する前に行きましょ〜」
魔耶「干物て......ま、そうだね。早く行くか」
いつも通り軽快に地を蹴り、大空へと飛び上がる。上昇する際に顔に当たった風が涼しかった。
カルセナ「ふぅ〜....朝は気持ちが良いですなぁ」
魔耶「うんうん、昼間の上空は死ぬほど暑いからな〜」
カルセナ「....何か進展あるといいな、魔耶の悪魔についてのこと」
魔耶「何も収穫無しでも、聞きに行かなかったよりは良いと思うよ」
カルセナ「確かに....それはそうだ」

626:なかやっち:2020/07/29(水) 22:20

魔耶「ま、あの人のことだし、きっと何かしらの情報を得られるって」
カルセナ「うん、そうだよね…だといいけど…」
カルセナが少し不安そうな表情を浮かべたため、魔耶はカルセナを元気付けようと笑って言葉をかけた。
魔耶「カルセナが私より心配してどうすんの〜。ポジティブにいきましょ、ポジティブに」
カルセナ「…あ、ごめんごめん。そうだよね、ポジティブにいかなきゃ…!」
魔耶「うんうん。悲観するよりも、明るく前向きに考えた方がいいよ」
その後「どう考えたってその先の未来は変わらないんだから、どうせなら明るくいかなきゃね〜」と付けたし、カルセナの表情を伺う。さっきよりも明るくなったカルセナの表情を見てホッとした。
魔耶「…そういえば、私が話したのはクエストのとき以来だけど、最近ブラッカルとは話した?」

627:多々良:2020/08/01(土) 16:41

カルセナ「あぁ〜.....話したよ、昨日の夜」
魔耶「へぇ〜、どんな事話したりしてたの?」
カルセナ「どんな事?うーんと......」
腕を組んで昨日の会話を思い出す。
カルセナ「えっと.....話した内容では無いんだけど....」
昨日あった出来事を、全て魔耶に話してみた。

魔耶「.....謎の光る物体かぁ、何なんだろう?」
カルセナ「私も分からないわ.....今度話す〜みたいなことをあいつに言われたけど」
魔耶「もしかして、すごいものかもよ?」
カルセナ「まっさかー、私の中にすごいものがあるとは思えないな〜。面白かったら良いけど」
けらけらと軽く笑う。
魔耶「面白かったら良いのか.....」
カルセナ「魔耶こそ、昨日は悪魔と話した?」

628:なかやっち:2020/08/02(日) 09:35

魔耶「う〜ん…話したっちゃあ話したんだけど…どっちかというと、『自分達の意見を主張しあった』って感じかな…」
カルセナ「…?どういうこと?」
魔耶「実は…」
カルセナに、昨日の夜悪魔耶と話した内容を伝えた。

悪魔耶が絆や愛をくだらない綺麗事だと貶したこと、魔耶の言葉に全く耳を貸さなかったことまで話すと、カルセナはう〜んと顔を傾げた。
カルセナ「…一応悪魔耶も魔耶なんでしょ?なのに、そんなに考え方が違うものなのかな?」
魔耶「私もそこは疑問に思ってた。でも、悪魔耶は悪魔だから、そういう点に対しては人間の私とは考え方が合わないのかも…って思った。悪魔特有の考え方みたいなものかと…」
カルセナ「あぁ、なるほど…悪魔と人間では、根本的に考え方が違うのか…」
魔耶「多分ね。私が何を言っても耳を貸してくれなかったし、その考え方を変えることは難しそう」

629:多々良:2020/08/03(月) 07:53

カルセナ「そうか〜.....んじゃあ、説得は効かないってことか」
魔耶「多分そう言うことだね。蓬さんのとこで何か見つかると良いな〜」
カルセナ「だね、期待はしておこう」


それから暫く飛び続け、段々と見覚えのある建物がくっきりと見えてきた。
魔耶「....お、着いたんじゃない?」
カルセナ「あー、ほんとだー。長かった〜」
魔耶「今回はスッと入れるかな....流石に大丈夫だとは思うんだけど」
前回ここを訪れたとき、見張りに止められかけたのだ。そのときは幹部の1人で知り合いでもある、火憐柚季のお陰で入ることが出来たが....。
カルセナ「取り敢えず行ってみないと始まらないって言うし、行こうよ」
魔耶「うん、了解」

630:なかやっち:2020/08/03(月) 13:22

カルセナの言葉の同意し、そっと建物の近くに着地した。建物の入り口には以前と同じように二人の見張りが見える。
カルセナ「やっぱり見張りはいるよね…」
魔耶「そりゃそうだよね…どうしよ…普通に行って大丈夫かなぁ?」
前回はたまたま近くにいた柚季のおかげで中に入れてもらえたが、今回もそう都合よく柚季と出会えるとは思えない。見張りに入れてもらえればいいのだが…昔この建物で暴れたことがある二人を入れてくれるだろうか…
カルセナ「まぁ下手に変装なんかしたら怪しすぎるし、普通に行った方がいいでしょ」
魔耶「む、確かに…入れてもらえるものも入れてもらえなくなるか…」
カルセナ「うんうん。じゃ、行ってみましょう」


カル魔耶「あの、すみません…」
見張りA「ん?なんだ、ここはガキが来るところじゃ…」
以前と同様、見張りに追い返されそうになるかと覚悟したカルと魔耶だったが、二人を追い返そうと言葉を発した見張りをもう一人の見張りが止めた。
見張りB「お、おい待て。こいつら、あの二人だぞ」
見張りA「あの二人??」
見張りB「ほら、昨日柚季さんが言ってただろ?この二人は建物に入れてやれ、って…その二人じゃないか?」
見張りA「あぁ、そういえばそんなこと言われたな…確か、茶髪で青っぽい服を着たやつと、金髪で黄色と水色の帽子のやつ、だったか。……お前たち、特徴に合ってるな」
魔耶「あ、はい…えっと、魔耶とカルセナです。今日は蓬さ…会いたい人がいまして。入れてくれませんか?」
前回幹部の名前を言い当てたら逆に不審がられたため、名前は伏せ「会いたい人」、とだけ言った。
見張りA「ふーん…ま、幹部の言うことは絶対だ、通してやる」

631:多々良:2020/08/04(火) 19:30

魔耶カル「ありがとうございます」
見張りに軽く会釈をし、扉を開けて中に入る。
魔耶「....ふ〜、取り敢えず入れたー。このまま地下4階まで降りてって良いかな....?」
辺りをキョロキョロと見回す。しかし幹部たちの姿はなく、ただ変わらぬ内部の景色が広がっていただけだった。
カルセナ「知ってる人いなさそうだし、良いんじゃ........ん?」
魔耶「...?どうしたの?」
視線を向けている方向は、恐らく手下あろう人たちがせっせと働いているところ、その中の1人に向いていた。
カルセナ「あれー....あの人見たことあるなぁ.......あっ!!」
魔耶「まさか、こんなとこに知り合いが居たりとか?」
カルセナ「....そのまさかだね」

???「......あれ!?おーい!」
二人が視線を向けていた何者かがこちらに気付き、近寄って来た。
???「もしかして、前に私が新入りさんと勘違いした侵入者さん?」
カルセナ「あぁ....そうです....久し振りっちゃあ久し振りだね、8番さん」
彼女の正体は、前に二人が侵入した際、カルセナが話した事のある手下の1人だった。
8番「えへへ、まさかこんなとこで出会えるなんてね!あ、そーだ、名前聞いてなかったけど....」
カルセナ「あー、私の名前がカルセナで....んでこっちが...」
魔耶「魔耶でーす。初めまして」
8番「うん、よろしくね〜。....で、何しに来たの?また侵入しに...とか?」
カルセナ「違う違う、えーと....ちょっと上層部の人に用があるんだけど....」
魔耶「どうすれば良いかなって思って。そのまま降りてっても大丈夫かな?それとも何か...やらないといけないことあったりする?」

632:なかやっち:2020/08/04(火) 20:46

8番「んーん、特にやらなきゃいけないことはないから普通に行ってもいいと思う。あ、部屋に入る前にノックと自分の名前を言ってね」
カルセナ「そっか、それくらいなら楽でいいね。教えてくれてありがと」
8番「このくらいお安いご用ってものよ。あ、じゃあ私は仕事に戻るからまたね!暴れたりしちゃだめよ〜」
魔耶「分かってますよ〜…うん、またねー」
8番は魔耶達に忠告をすると、笑顔で手を降りながらもとの仕事場に戻っていった。

魔耶「…さて、いい情報をもらえたし、早速蓬さんに会いに行きましょう!」

633:多々良:2020/08/07(金) 09:25

カルセナ「おー!」
そうして、二人は少し広い階段を降りて行く事にした。

魔耶「えーと、地下4階.....」
カルセナ「ここが1階で、次が2階だから...もう少し先だね」
魔耶「て言うか、一番最後まで降りれば良いんじゃない?蓬さんがいるところ、最深部だし」
カルセナ「あ、そっか」

やがて、降りる階段が無くなり地下4階に到着した。
大きな扉の前に立ち、魔耶がノックをする。コンコンと硬い音が二人のいる空間に響いた。
魔耶「すみません...彩色魔耶です」
カルセナ「カルセナでーす....」
8番に言われた通り、名前を述べると聞き覚えのある声が返って来た。
???「どうぞ、お入りなさい」
二人で扉をぐっと押して中に入った。

634:なかやっち:2020/08/07(金) 20:10

???「…貴女達が、わざわざ何の用ですかね?」
重い扉の先には、仮面をつけた着物っぽい和服姿の女性が立っていた。その身長は魔耶より少し低いくらいだが、なめてかかってはいけない相手だということは二人ともよく分かっていた。
魔耶「…実は、お聞きしたいことがありまして…。お話、聞いてくれますか?蓬さん」
魔耶はそう言い、蓬をまっすぐ見た。前と変わらず威圧感のようなものは感じられず、表情も見えないので彼女の感情を読み取るのは難しかった。
蓬「…あなたは、私の大嫌いな魔族です。そんな魔族と一緒にいる元人間も同様です」
カルセナ「……っ…」
蓬「……ですが、貴女達に私が救われたことに変わりはありません。魔族は今も好いてはいませんが、貴女達は別とします。私が力になれるかは分かりませんが、話だけでも聞きましょう」
魔耶「…‼あ、ありがとうございます!」
蓬「立ち話もなんでしょう、どうぞお掛けなさい」
そう言って椅子を勧めてくれた蓬は、前よりも雰囲気が和らいでいるように感じられた。蓬の協力がえられ、魔耶とカルセナは二人でそっと微笑みあった。

635:多々良:2020/08/09(日) 21:56

蓬が勧めた椅子に腰掛ける。ずっと立ったり歩いたりしていた足腰に、僅かな安らぎをもたらしてくれた様に感じた。
蓬「....それで、どの様な用件でここへ?」
魔耶「あの、実は.....」


蓬「.....成る程。つまり、貴女の中にいる悪魔への対抗法を探している...と」
魔耶から詳しく話を聞いていた蓬は、その話から本題を察した。
魔耶「はい、そう言う事です。何か...知っている事はありませんか?どんな情報でも良いんです」
蓬「そうですね......私がまだ少し幼い頃に、集落で言い伝えられていた事があるのですが、どうでしょう」
カルセナ「是非お願いします」
蓬「...分かりました、ではお話ししましょう。悪魔にも有効なのかは認知していませんが、私の集落には魔族に対するいくつかの言い伝えがありました」
魔耶「そうなんですか....一体、どんな....?」

636:なかやっち:2020/08/09(日) 22:56

蓬「例えば、『魔族は夜活発に行動する』とか、『魔族は人間の子供を好物とする』とか。全てが全て本当というわけではないかも知れませんが…」
カルセナ「えっ…魔耶、人間食べるの…?」
魔耶「人間は食べないよ‼……多分、その集落で言われてる魔族は、私よりずっと悪魔の性格が色濃く反映されてるんじゃないかな…。いや、人間らしさが薄い、って言ったほうが正しいか」
魔族一口に言っても色々な種類がいる。ほとんど悪魔の姿をしたものもいれば、魔耶のように人間に近い姿のものもいる。性格も同様で、悪魔に近いものと人間に近いものと色々いる。だから蓬の言ったような魔族がいても可笑しくはないだろう。
魔耶「あ、遮ってごめんなさい。続けて」
蓬「…全てが本当というわけではないかも知れませんが、私の集落ではこのような言い伝えが数多く存在していました。…その中の一つに、『魔族は清らかな心や物を嫌う』というものがありました。そのため、集落では清めの塩、祈りを捧げるための祭壇などがよく使われていました」
カルセナ「…!清めの塩…」
蓬「はい。魔族は悪魔と類似する、穢れを好む種族。人を堕落させることを悦びとしてると言います。そのため、親切心や信仰心、清らかな物といったものを嫌うのだとか」
魔耶「…なるほど…」
あの悪魔は愛や絆が嫌いだといっていた。愛や絆、つまり清らかな物を嫌っているのだとしたら…塩は効果があるのかもしれない。

637:多々良:2020/08/10(月) 07:51

蓬「....さて、悪魔に対抗出来るものと言えばそのくらいですかね」
魔耶「嫌いなものとかも分かったし、参考になりました。ありがとうございます」
カルセナ「ありがとうございます。....あのー、さっき話していた清めの塩?みたいなやつって、どうすれば手に入るんですか...?」
素朴な質問をすると蓬は軽く顔を俯かせ、何かを考えているような様を見せた。が、直ぐに正面を向き話し始めた。
蓬「.....私の住んでいた集落には、小さいながらも大きな信仰が集まる神社がありました。魔除けの祭典を行う日にはそこの主である神主から塩を受け取っていましたが」
カルセナ「じゃあ、そこに行けば.....」
塩が貰える。そう言おうとしたとき、蓬が差し出した掌によって言葉が食い止められた。
蓬「......もう随分昔の話です。今そこに神社があり主が居るのかは分かりません」
魔耶「そんな....」
蓬「...しかし、神社が無くなろうとも神自体はそこへ居座り続ける事が多いです。...物には八百万の神が宿ってるなんて話、聞いたことがありませんか」
魔耶「あ....あります。小さい頃に....」
蓬「それは本当の事で、神が宿る器さえあれば本当は神社など必要がないのです。神が居ると言う事はつまり、信仰者が居る筈。その信仰者から何らかの情報は得られるかもしれません。....あわよくば、清めの塩を入手出来る可能性も」
カルセナ「なるほど....でも、信仰者がどこにいるかも分からないよね....」
魔耶と顔を見つめ合う。それを見た蓬が助言した。
蓬「信仰者、と言うのであれば参拝に来たりもする筈です。参拝するには朝が適していると言います。....まぁ、殆ど関係ないでしょう。但し、夕方以降になってしまえば話は別ですが」
魔耶「参拝者からって事か....あっ、肝心の場所ってどこですか...?」

638:なかやっち:2020/08/10(月) 09:24

蓬「ここから南東にありますが、だいぶ距離があります。今から行って、ギリギリ夕方になるかならないか、ってところですね」
カルセナ「…っ…そ、そんなに遠いの⁉そしたら、帰ってる途中に魔耶が…」
悪魔になってしまう可能性がある、と言いかけたが口をつぐむカルセナ。わざわざ皆まで言う必要はない、と理解したのだろう。
魔耶「…そうだね…それだけ遠ければ、帰りは夜中になるだろうね。……でも、もし帰ってる途中で悪魔になっちゃったとしても、戦う場所が変わるだけだよ。だからそこまで心配しなくても大丈夫じゃないかな…」
カルセナ「……そ、そっか…」
蓬「…私の持っていた情報は全て話しました。先程も言ったとおり、その集落はここからだいぶ距離があります。もし行くのであればお急ぎなさい」
魔耶「…はい。ありがとうございました。今から向かわせていただきます」
カルセナ「あ、ありがとうございました…!」
蓬から今すぐに出発しろ、と言われたような気がして、お礼を言いながら立ち上がる二人。それに応じて蓬も立ち上がった。
蓬「…また何かあったら、いつでもいらっしゃい。必ずしも力になれるとは限らないけれど、私の持っている情報は可能な限り教えます。…お気を付けて」
カルセナ「はい。…失礼しました」
魔耶「失礼しました」
蓬に背を向け、部屋から出たカルセナと魔耶。二人がいなくなった部屋で、蓬は一人、ポツリと呟いた。
蓬「…魔族に手を貸すようになるなんて、私も丸くなったようですね。…これも、あの二人に救われたお陰、でしょうか」

639:多々良:2020/08/11(火) 07:40


駆け足で階段を登って行き建物の外に出た二人は、早速南東へ向かって飛び立っていた。
魔耶「良い情報を貰えて良かった....後は運に頼るのみ、かな」
カルセナ「そうだね、私たちが到着したときに参拝者が居ると良いけど.....」
ちょこちょこ話しながら、風を切って進む。蓬と話していた間にも日は昇り、急ぎ足な二人に汗をかかせる位の暑さになっていた。
魔耶「暑い.....」
カルセナ「うん...ちょっと下降ながら飛ばない?」
魔耶「そうしよう。まだ距離があるっぽいしこんな高く飛んでたら焼け焦げちゃいそう......」
二人は今まで飛んでいた高さから30m程ゆっくりと下降し、少しでも暑さを和らげる行動を徹底しようと試みた。
カルセナ「魔耶、その上着暑そうだけど良いの?」
腕捲りをしながら上着を羽織っている魔耶に問い掛ける。
魔耶「私も丁度脱ごうかな...って思ってたとこ。まあ袖口広くて通気性良いから、まだ大丈夫かな」
カルセナ「ふーん、なら良いけど.....あーあ、氷の魔法とか使えたらな〜」
陽射しは二人の事なんか気にも留めず、燦々と降り注いでいる。午後の暑い時間帯を耐えれば少しは涼しくなるだろう....。そう考え、今は飛ぶことと熱中症対策に集中する事にした。

640:なかやっち:2020/08/11(火) 15:39


しばらく飛んでいると、魔耶は背中に悪寒のようなものを感じた。まるで恐ろしいものを目視してしまったかのようにゾクッという感覚が襲ってきて、思わず後ろを振り向いた。しかし、後ろには何もいない。それもそのはず、今は上空にいるのだ。誰かが追いかけてくることなど、あるはずがない。
カルセナ「…魔耶?どうかした?」
魔耶が急に後ろを向いたため、どうしたのかとカルセナが声をかける。
魔耶「…ううん、何でもない。なんか、一瞬だけだけど悪寒がして…気のせいだとは思うんだけど…」
カルセナ「悪寒…?熱でもあるんじゃない?」
魔耶「うーん、多分そういう感じじゃないと思うんだ。なんて言えばいいか分かんないけど、そういうのじゃない。なんか、怖いものを見ちゃったときみたいな…そんな感覚だった」
カルセナ「ふーん………あっ、もしかして…悪魔化の…⁉」
ハッとした表情で問いかけてくるカルセナ。しかし、私は彼女の言葉に首を振った。
魔耶「あー…ありえなくはないけど…でも、悪魔化が進んだのなら体の部位が痛くなるはずなんだよね。いつもはそういう感じだった」
カルセナ「えー…じゃあ、なんだっていうのさ?」
魔耶「だから、きっと気のせいだよ。それか、暑さで変になったのかも」
カルセナ「うーん、そうなのかな…」
まだ割り切れなそうなカルセナの表情に、大丈夫だよ、という笑顔を向けた。



悪魔耶「…なんか、やな感じがしたな…。神聖なパワーを感じた、って言えばいいかな?」
魔耶の意識の届かない深い意識の中で、ほとんど鎖が外れかけている悪魔耶が嫌そうな声を出した。
悪魔耶「全く、あの人はどこに行こうとしてるんだろ?無駄だって分からないかな〜」
はぁ…とため息をついた後、「それに…」と言葉を紡ぐ。
悪魔耶「…あの人はもう私と同じくらい悪魔に近くなってるんだから、神聖なところなんて毒みたいなものなのにさ〜。死にはしないけど、体調を崩したり弱ったりしちゃうじゃん。私の体でもあるんだから、勘弁してほしいよ」

641:多々良:2020/08/12(水) 19:20

カルセナ「まぁ、魔耶の大丈夫なら信用出来ない事もないけど....」
少々の心配を抱えながらも、魔耶の笑顔を見たカルセナはとにかく目的地へ向かう事を最優先にした。


それから二人はちょくちょく休憩しながら飛び続けた。木々が生い茂る山を越え、底が見えない程に真っ暗な渓谷を越え、気が付けば日がどんどんと西へ傾いていっている最中だった。
魔耶「時間帯で言ったらどのくらいかな....まだ5時にはなっていない気がするけど...」
カルセナ「この辺じゃないのかな〜....結構飛んだのに」
四方八方を見渡しながら注意深く空を飛んでいると、魔耶があるものに反応した。
魔耶「.....うん?」
カルセナ「ん?もしかして見つけた?」
魔耶「何かそれっぽい感じのものはあるけど.......ッ?」
見つけたものは、小さな祠の様なものだった。その周りにいくつかの小さな灯籠も見える。それを見つけると同時に一瞬、魔耶は再び強い悪寒を感じた。
カルセナ「....どうしたの?」
魔耶「また悪寒が.....何なんだろう...でも、止まった」
カルセナ「なら...良かった。....ちょっと行ってみる?」
魔耶「....うん、そうだね。行ってみよう」
もしかしたらあの祠が、自分たちが目指していた所かもしれない。そう思って、少し探索してみる事にした。

642:なかやっち:2020/08/12(水) 20:22

ずっと飛び続けていた足をようやく地面に着ける。スタッと着地して辺りを見回すと、祠から少し離れた場所に他の建物もいくつか見えた。
カルセナ「…祠じゃない建物もいくつか見えるね」
魔耶「あ、ほんとだ…なんか住居に見えない?」
カルセナ「うん、見える…ってことは、ここが蓬さんの言ってた集落、かな…?」
魔耶「どうだろう…とりあえず、祠のとこに行ってみよっか。なにか手がかりがあるかも」
カルセナ「りょーかい」


カルセナ「近くまできてみたけど…特に怪しいものはないね。ただの祠……って、大丈夫?魔耶」
魔耶「う、うん……なんか、祠の近くに来てから変な感じがあって…」
祠の前まで来た二人だったが、そこに来てから魔耶の調子が悪かった。
悪寒があり、祠を見るとまるで幽霊を見てしまったかのように恐ろしく感じ、それは祠に近づけば近づくほど強くなっているような気がした。
魔耶「なんか…祠が怖い、って感じてるのかも…」

643:多々良:2020/08/13(木) 20:29

カルセナ「怖い....?」
魔耶の様子をよく見ると、若干足が震えている様に見えた。こんな魔耶を見るのは初めてだった。
カルセナ「....良く分からないけど、あんまり無理しないで」
魔耶「うん、勿論.....それにしても....」
辺りをキョロキョロと見回す。祠の周りには自分たち以外の人がいる気配は無く、陽に照らされながらひっそりと静まり返っている。
魔耶「....誰も居ないね」
カルセナ「そうだね.....もうちょっと待ってみれば、もしかしたら参拝者か誰かが来るかも。....魔耶、まだ大丈夫そう?」
少し心配そうな顔をして魔耶の顔を覗き込む。
魔耶「あまり祠の近くに居なければ大丈夫....かな。待ってみよっか」
カルセナ「そっか....んじゃあ、もう少しあっち行こ」
そう言って祠と離れ、日陰になっている木の下を指差した。
魔耶「うん、ありがとう」
そうして二人は参拝者が祠目当てで来る事に期待し、大きな木の下で待つことにした。

644:なかやっち:2020/08/13(木) 21:34


魔耶「…カルセナは、祠に何か感じたりしないの?」
木陰で参拝者が来るのを待っている間、魔耶は祠の謎を突き止めようとカルセナに声をかけた。
カルセナ「う、うん…特に何も感じないよ」
魔耶「…そっか…」
カルセナから帰ってきた答えは『特に何も感じない』。では自分のこれはなんなのだろう。祠から少し離れたからなのか、さっきよりは恐ろしさを感じないが、まだ祠に視線を向けると悪寒が走る。
魔耶「なんなんだろ、これ……これも悪魔化の影響なのかな」
カルセナ「悪魔化が進んだせいで祠が怖い…ってこと?」
魔耶「もしかしたらね。それくらいしか思い当たるのなんてないし…」
そういうと、カルセナは少しだけ俯いて、何かを考えているような態度を見せた。
カルセナ「…悪魔化が進んで…祠に恐怖を感じる………悪魔は、神聖なものが嫌い………あっ、もしかして…」
魔耶「……?何か思い当たるの?」
カルセナ「うーん、あくまで予想なんだけど…悪魔は神聖なものが嫌いっていう仮説がたってるじゃない。もしそれが本当なら、悪魔化が進んできてる魔耶も神聖なものが無意識のうちに嫌いになってるんじゃないかなって。いや、嫌いっていうよりも、苦手とか恐ろしいとかの方が正しいか」

645:多々良:2020/08/14(金) 14:52

魔耶「.....そう言う事か」
カルセナ「でも、ほんとにそうかは分からないからね?」
魔耶「...いや、多分そうだと思う。そうでなければ、私が祠に恐怖を感じる意味が分からないし」
両方とも紅く染まってしまった目のうちの、右目を手でそっと押さえる。少しずつ夕陽に変わって行く陽の光を浴びている大地が、更に濃い橙色に見えた。
カルセナ「.....早く来ないかな、参拝者」
待っている暇があるのならば、少しでも解決策を探り出したい。そうは思っているのだが....。この場所では、何をどうすれば良いのか分からなかった。
小さく細い声で鳴く蜩の声が、不安定な心を締め付けてくるように感じた。二人の間では、暫くの無言が続いた。

気が付いたら蜩の声が止み、辺りは先程よりも薄暗くなっていた。
二人は疲労のあまり、無意識の内に木に寄り掛かってうたた寝をしてしまっていた。
魔耶「う...ん.......」
眠い目を擦り、辺りを確認する。当然祠の辺りも見た。すると、魔耶の目に人影らしき、動くものが映った。
魔耶「...あ、あれってもしかして....参拝者?カルセナ、起きて!」
カルセナ「ん〜.....あ、ごめん....」
魔耶「良いよ、私もうたた寝してたし....それよりもほら!誰か来たよ!」
カルセナ「....?あっ、ほんとだ!」

646:なかやっち:2020/08/14(金) 20:50

少し遠いことと辺りが薄暗いことも相まって、人影らしき影はぼんやりとしかその形が分からなかった。
カルセナ「参拝客なのかな?」
魔耶「分かんないけど…とりあえず行ってみよ!なにか情報もらえるかもしれないし…」
カルセナ「うん、わかった!」

軽く小走りして、人影の方へと歩みを進める。近づいていくうちに輪郭が少しずつはっきりとしてきて、人間らしきフォルムが確認できた。その人物はなかなか歩みが早かったので、魔耶とカルセナも急いで追いかける。
魔耶「はぁ、はぁ…あの、すみません…ここの参拝客の方ですか?」
カルセナ「ちょっとお聞きしたいことが…あるんですけど…」
魔耶とカルセナが若干距離をおいて話しかけると、前を歩いていた人物がこちらを振り返った。

647:多々良:2020/08/15(土) 22:42

???「....?どうかされましたか?」
振り返った人物は、50歳後半くらいの男性だった。竹製の大きな籠を背負っている。
魔耶「もしかして、その祠目当てでここへ?」
???「そうです。毎週この曜日に、祠まで来ているんです」
カルセナ「何で来てるんですか?」
???「ここには昔、小さな集落と神社がありまして。私の祖父、父は共にその神社の管理人だったんです」
魔耶「成る程....じゃあ、跡を継いでここを管理しに来てるって事ですか」
管理人「そう言う事です。....それで、本題の聞きたい事とは....?」
二人を見つめ、首を傾げる。
魔耶「あっ、そうだ....あの、ここの集落では魔族を嫌っていたと言う情報があったのですが....」
管理人「そうですね、結構な頻度で魔除けの儀式も行われていましたし」
魔耶「それならば、魔族に関する情報を何か持っていませんか?例えば、悪魔を払える方法とか....」

648:なかやっち:2020/08/15(土) 23:20

管理人「悪魔、ですか…」
ボソリと悪魔という単語を呟くと、顎に手をおいて考えるような仕草をとった。
管理人「…やはり、魔除けの塩が必要なのではないでしょうか…」
カルセナ「…蓬さんと同じ…そ、その魔除けの塩って、ここにありますか?もしあるなら、少し分けてもらいたいんですけど…」
魔除けの塩と聞き、少々切羽詰まった様子で尋ねるカルセナ。まぁ、無理もないだろう。もう日は落ちかかってるし、ここになかったらもう対処法はないのだから。魔耶も心の中で手を合わせる。神様、どうか……
管理人「…えぇ、まだ祠に少し残っていたはずです。もうすぐ新しい塩をつくらなければいけないと思っていたので、古いものはお譲りしますよ」
ハッと顔を上げて、二人で顔を見合わせる。二人とも満面の笑みで、少し泣きそうな表情になっていた。
管理人「では、着いてきてください。祠の中に塩が保存してあるので」
カルセナ「分かりました!ありがとうございます!いこう、ま………って、魔耶は祠に行けないのか」
魔耶「えっ……あ、あぁ、そうだったね…ごめん、私はここで待たせてもらってもいいかな?」
管理人「…??あなたはここで待つんですか?」
魔耶「はい、すみません……」
カルセナ「あ、あの…この子は体調が優れなくて…私一人で十分ですからっ!」
管理人「…そういうことなら、まぁ…分かりました。では、いきましょう」

649:多々良:2020/08/18(火) 07:32

管理人と祠へ向かう際、魔耶に掌を軽く向けて「ちょっと行ってくるね」とサインを出した。
魔耶「....行ってらっしゃい」
送り出す言葉を添え、魔耶も掌を向けてサインを返した。

管理人「....余談なのですが、何故魔除けの塩が必要なんですか?」
カルセナ「え?あ、えーっと......それは....」
管理人「あぁ、すみません。言いたくない内容ならば言わなくて大丈夫です。...物が物なので、恐らく魔族関係の事と思われますが」
カルセナ「あっ....まぁ、そんな感じです」
管理人「やはりそうでしたか。だったらきっと、ここの塩は役に立ちますよ」
そう言って祠の前に立つと、小さな鍵を外して戸を開けた。薄暗い祠の中には色褪せた包み紙が1つ入っていた。
管理人「よっと....こちらが魔除けの塩です。量はそこまで多くありませんが、魔族や悪魔を祓うのには十分でしょう。どうぞ、お受け取り下さい」
身を屈めてその包み紙を取り出し、カルセナへ手渡した。

650:なかやっち:2020/08/18(火) 10:09


魔耶「…よかった…これで、悪魔を迎え撃つ準備はできたよね…」
ホッと一息つき、悪魔への対処法を手に入れられて安心する魔耶。あとは悪魔を外に出して、カルセナに任せて……
魔耶「…なんか、カルセナを巻き込んじゃって悪いな…自分の問題なのに…」
カルセナに任せて、と考えたときに、胸にチクリと罪悪感が刺さった。
それもそのはず、これから魔耶はカルセナに戦いを強いらなければならないのだ。しかも、人間などとは比べものにならないほどの力を持つ、悪魔。負ければ魔耶とカルセナ、共に無事ではいられない。二人の命運…いや、下手したらこの世界の命運をカルセナ一人に任せなければいけない…
魔耶「………カルセナが悪魔に勝ったら、ちゃんとお礼を言わなきゃね………あ、帰ってきた」
ぼんやりと考え事をしておると、祠から出てきたカルセナの姿が見えた。包み紙のようなものを持っている…あれが魔除けの塩というやつだろうか。

651:多々良:2020/08/19(水) 19:34

カルセナ「(結構軽い.....折角貰ったものだし、無駄にしないようにしないとなぁ)」
魔除けの塩が入った包み紙を掌に乗せ、重さを確かめる為に手を上下する。
管理人「では、私はもう暫く祠に用事があるのでここで....」
カルセナ「あ、魔除けの塩、ありがとうございました!」
管理人「いえいえ、貴女方のご健闘をお祈りします」
胸の前で合掌をし、カルセナを見送った。
カルセナ「.....さて、この塩をどうやって使うんだっけ〜......あれ、待てよ...どうやって使うんだ....??」
効き目のありそうな魔除けの塩を貰ったは良いが、肝心の使い方がいまいち分かっていない事に気が付いた。
カルセナ「塩と言えば、アニメや漫画で悪霊退散!とか言って投げ付けるイメージだけど....魔耶に聞いてみよっと」
駆け足気味に魔耶のいる所へ戻る。その途中、ふと疑問を抱き走るのを止めた。
カルセナ「魔耶って、この塩を近くに持ってこられても大丈夫なのかな.....」
魔耶が嫌がってしまったら....そう思って躊躇していたが、結局本人に聞かないとどうしようもない。包み紙を開け塩が溢れないように用心しながら、今居る場所から大声で魔耶に問い掛けた。

カルセナ「「 魔耶ーーっ!この塩怖くないーーーっ? 」」

652:なかやっち:2020/08/19(水) 20:30

魔耶「…?…カルセナ、なにしてるんだろ」
祠から出てきたカルセナは、最初小走りでこちらに向かってきていたものの、いきなり立ち止まって手に持っている包みを開け始めた。
そして、中にあった小さな塩の山があらわになったかと思えば、大きな声でこちらに問いかけてきた。
カルセナ「「魔耶ーーっ!この塩怖くないーーーっ?」」
その言葉を聞き、カルセナが途中で立ち止まった理由が分かった。私が塩を嫌がるのではないかと考え、わざわざ遠くから聞いてくれたのだ。
魔耶「(…そう言われてみれば…祠は怖かったけど、塩はなにも感じないな…)」
祠は視線を合わせるだけでも恐怖を感じたのに、塩には特になにも感じなかった。もしかしたら触れなければ効果はないのかも…そう思い、カルセナに同じくらい大きな声で返事を返す。
魔耶「「多分大丈夫だよーーーっ‼」」
そう言うと、カルセナはホッとしたような顔でこちらに向かって再び走ってきた。

653:多々良:2020/08/20(木) 19:40

カルセナ「....ふぅ...良かった〜、もしかしたらこれも苦手かと思ってさ」
帽子の鍔を掴んで角度を調整し、魔耶の顔を見て微笑む。
魔耶「ありがと。多分、触らなければ大丈夫って感じかも」
カルセナ「そっかー....じゃあ、どうする...?また戻る?」
魔耶「....うん、そうだね。移動しよっか」
もう日が落ちかけている時間帯なようで、魔耶の悪魔化も容赦なく、刻一刻と近付いている。この場所で戦うなんていう事態を避ける為、二人は元来た道を戻る事にした。

昼間より気温が僅かに下がった空を飛びながらカルセナは、ふと、ある事を思い出した。
カルセナ「.....あ、そうだ」
魔耶「?」
カルセナ「この魔除けの塩って、どうやって使うと思う?」
魔耶「あー.....そう言えば、確かに....うーんと」

654:なかやっち:2020/08/20(木) 20:16

魔耶「…多分だけど、普通に投げつければいいんじゃない?今私が近くにいても効果ないっぽいし…きっと直接当てれば効くと思うから」
今の自分の状態を踏まえ、塩の使い方を考察する。
カルセナ「そっか、やっぱりそうだよね。ありがと」
魔耶「いえいえ。……って、カルセナ管理人さんに使い方聞かなかったの?」
魔耶がそう訪ねると、カルセナはばつの悪そうな顔で「すみません…」と謝ってきた。
魔耶「…まぁ、私も使い方なんて気にしてなかったし、別にいいけどさ。でももし私の推測があってなかったらどうしよ……」
カルセナ「きっと大丈夫だよ。アニメとか漫画とかでもそんな感じじゃん?それに、それ以外の方法なんて思い付かないし」
魔耶「…まぁそうね。ところで、塩を当てたら悪魔はどうなるんだろ?効果があるとは言われたけど…弱ったりするのかな?」

655:多々良:2020/08/21(金) 20:17

塩を投げ付けたときの反応を頭の中で想像する。
カルセナ「怯んだりとかしそうだけど....撃退まではいかないくらいだろうなー.....」
魔耶「んー....じゃあ、隙を突くしかないって事だね」
カルセナ「だねー。ちょっと緊張してきたな....」
日がかなり暮れても魔耶が悪魔化しない事に対し、もしかしたらこのままで居てくれるのではないかと期待してしまったりしていた。寧ろその方が嬉しいが....きっとそうはいかないのだろう。魔耶の体が確実に、悪魔に蝕まれていっていたからだ。そんな心境の中で唯一、魔耶の意識がまだ「魔耶」であることが幸いに思えた。
魔耶「.....カルセナ」
カルセナ「....ん?」
魔耶「....私の中の悪魔を、お願いね。...頑張って」
カルセナ「いきなりそんな事........うん、分かった...」
急な励ましに少し驚いたが、すぐに平静さを取り戻して返事をした。
カルセナ「....魔耶も、完全に悪魔に取り込まれないように頑張ってね」

656:なかやっち:2020/08/21(金) 20:59

魔耶「ふふっ、魔耶さんはそう簡単に悪魔になったりしないよ」
カルセナ「…そっか…」
もし悪魔が表に出てきたら自分はどうなるのかなんて分からなかったが、出来る限りの抵抗はしようと心に刻む魔耶。…そう簡単に体を渡してなるものか。
カルセナ「…今のところはなんともなさそう?」
魔耶「うん…まぁ祠が怖かったりはしたけど、特になんともないかな………ッ⁉」
カルセナ「⁉…ま、魔耶…‼」
なんともないから大丈夫、そう言おうとした正にその瞬間、魔耶は頭にズキッとした痛みを感じた。一瞬意識が朦朧として地面に落ちそうになったが、すぐに立て直す。
魔耶「…なんか…一瞬すごい頭痛が…」

657:多々良:2020/08/22(土) 21:51

カルセナ「....!!...一回降りよう、魔耶」
魔耶「う、うん....」
塩の入った包み紙をポケットに仕舞う。魔耶の身を案じ、近くにあった少し広い草原へ降下する事にした。急に起こった頭痛が、今最も二人にとって起こって欲しくない事が起きようとしている前兆に感じられたからだ。

魔耶は短い草が生い茂る地面に降り立つや否や、その場に座り込んでしまった。
カルセナ「魔耶....大丈夫?...じゃないよね.....」
魔耶「うーん....今はさっきよりも安定してるけどまた....定期的に来そう...かな....」
カルセナはどういった言葉を掛ければ良いか分からなかった。こんなにも不安と恐怖に襲われる事はそうそうない。さっきからずっと心が抉られるかのような感覚を味わっていた。しかし、誰よりも大変なのは魔耶の方だ。自分が弱気になってしまったらもうどうしようもない。出来るだけ顔に出さないよう、魔耶の前では強くいられるようにした。
カルセナ「魔耶.....頑張れ......」

658:なかやっち:2020/08/23(日) 14:18

魔耶「…うん……ッ…」
再び襲ってくる頭痛に、反射的に頭を押さえる魔耶。頭痛は一瞬痛くなっては何事もなかったかのようにフッと消えるのを繰り返しており、それが二人の不安を煽っていた。

魔耶「……カルセナ…」
カルセナ「ん…?な、なに…?」
魔耶は親友の名をつぶやくと、重い頭を上げて無理矢理カルセナと視線を合わせた。
魔耶「…相手は悪魔だから、人間とは全てにおいて根本的に違う。身体能力も、考え方も……だから、戦い方もきっと違う。卑怯な手を使ってくるかもしれない」
カルセナ「…うん…わかってる…」
魔耶「…だからね、無理だけはしてほしくないんだ。もし自分の身が危ないと思ったら、すぐに逃げてほしい。カルセナがそんな行動をとっても、私は、絶対…カルセナを恨んだりしないから」
カルセナ「…でも…!そんなことしたら魔耶が…‼」
魔耶「いやまぁ…そうなんだけどさ…何度も言ってるけど、私は自分なんかよりも、カルセナ達…みんなの方が大切だから。もしカルセナが自分を犠牲にして私を助けたとしても、カルセナがいない世界で私が暮らしていけるとは思えないし」
カルセナ「でも…そんなの私だって同じだよ…!それに、魔耶がいなくなっちゃったら…また一人になっちゃうじゃん…」
魔耶「……大丈夫、私がいなくても、ひまりやみお達がいるでしょ?」
カルセナが悲しそうに反論するのを見て、魔耶は軽く笑いながら言い返した。…が、まだ言いたい言葉が残っていたようで、魔耶は俯いて言葉を続ける。

魔耶「………ただ、これは独り言ね。ただの独り言。……できることなら、私もまだ生きていたい…もちろんカルセナと、みおと、ひまりと…みんなで。だから、できたらでいいから…本当に、できたらでいいから…」
そこまで言ってスゥと息を吸うと、言葉を吐き出すようにこう言った。
魔耶「…全員、救ってほしいの…!」
魔耶は、カルセナさえ無事なら自分は犠牲になってもいいと考えていた。もちろん嘘偽りのない本心である。…しかし、この後に及んで、魔耶は自分も生きていたいと思ってしまっているのも事実だった。矛盾しているというのもわかっている。大変な我儘だっていうのも分かってるけど…魔耶は、自分の心を隠し通す事など出来なかった。気づけば、自分の頬を温かい液体が伝っていた。もう、泣かないって決めてたのに…自分の弱い心を恨めしく思う。

659:多々良:2020/08/24(月) 21:14

カルセナ「......救うよ」
ポツリとそう呟く。
カルセナ「魔耶が...私たちが想っている人たち....皆みんな救うから.....!」
その言葉は端から聞けば、とても無責任な言葉だったかもしれない。勿論、悪魔に勝てる確信だってない。でも、皆を救う。その思いだけは濁りのない本物の想いだった。その証拠に、カルセナの眼には覚悟と勇気の光が灯っていた。
魔耶「...カルセナ.....」
カルセナ「.....今のは私の独り言、だからね」
僅かに顔を上げた魔耶と向き合う。
カルセナ「魔耶....魔耶が悪魔に変わっちゃったとしても、安心して。二人でこれまで、色んな事を乗り越えて来たんだもん。『私たち』で悪魔を倒そう!」
魔耶の濡れた顔に向かって柔らかく微笑む。そのときには、先程まで感じていた不安感や恐怖心は薄れていた。
魔耶「!......うん...ありがとう....ッ」
ボロボロと頬を伝う涙を手で拭いながらお礼を言う。
カルセナ「もう、お礼はこの事件が解決してから言ってよ〜」

660:なかやっち:2020/08/25(火) 20:25

魔耶「うん……よろしく頼んだよ、カルセナ…」
カルセナ「任せておいて!きっとみんな救ってみせるから…!」
カルセナの強く真っ直ぐな瞳を見て柔らかく微笑む。
わざわざ忠告する必要もなかったな…この人なら、きっとやってくれるだろう。直感的にそんな事を考えた。



痛みが出てから一時間は経っただろうか。
魔耶の頭痛は時間が経つごとに痛みを増し、いよいよ痛みが酷くなってきた。
魔耶「……はぁ、はぁ…」
カルセナ「…魔耶…大丈夫…?」
魔耶「ッ……そろそろ、キツイかな…気を抜いたら意識が飛んじゃいそう…」

661:多々良:2020/08/27(木) 21:26

カルセナ「...無理しないで....」
魔耶「う、うん......」
カルセナ「.....早く悪魔になっても、いいよ」
魔耶「....えっ?」
一瞬カルセナが何を言っているか、魔耶には分からなかった。悪魔に蝕まれてしまう事を、一番恐れていた筈なのに。
魔耶「それって...どういう....ッ」
カルセナ「....もう、あんまり魔耶に苦しんで欲しくないの。...私も戦う準備は出来てるし、このままずっと苦しんで、結局悪魔になっちゃうなんて辛いに決まってるし.....」
魔耶は、痛む頭を抱えながらカルセナの話をじっと聞いていた。定期的に歪む顔は、意識を悪魔に脅かされているかのような表情を見せていた。
カルセナ「...だから、安心して意識を飛ばしてもいいよ。それこそ、魔耶の判断によるけど....」

662:なかやっち:2020/08/28(金) 20:32

魔耶「……っ……」
カルセナから発せられた言葉を理解しようとするが、頭の痛みといきなりの発言に頭が回らなかった。
カルセナは自分の苦しむ顔が見たくないんだろう。たくさん苦しんで悪魔になるのなら、今悪魔になってしまえばあまり苦しまなくてすむから、と。そう言っている。…しかし、魔耶は怖かった。自分が悪魔になってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう?カルセナはどうなってしまうのだろう?確かに今は苦しいが、ずっと耐え続ければ悪魔は自分に身体を乗っ取るのをやめてくれるのではないか……そんな考えが、魔耶の中にはあった。
…しかし、本当はわかっていた。どんなに耐えても悪魔になることは変わらないのだということを。そして、自分が身体を乗っ取られたら、あとはカルセナに任せるしかないのだと。…なら、そんな未来しかないのなら…

魔耶「……わかった…………あとは任せたよ、カル…私も、がんば…る…」

カルセナの言葉を受け入れ、意識の薄れゆくままに身を任せると、だんだんとまぶたが閉じていくのがわかった。思ったよりも限界は近かったようだ。
だんだんと視界が暗くなり、聴覚がシャットダウンされていく中、カルセナの言葉が聞こえた気がした。

カルセナ「うん…!一緒に、頑張ろう…!」

663:多々良:2020/08/30(日) 19:56


ガクンと頭を垂らした魔耶から、念のため少し離れる。悪魔が飛び出して急に襲ってくる...なんて事があるかもしれないからだ。
カルセナ「.....魔耶...」
魔耶が意識を失い、太陽が顔を殆ど隠した暗く広い草原にポツンと一人佇む。これまで僅かに吹いていた風が急に止み、辺りには静寂が訪れた。それはまるで、これから悪い事が起きようとしているかのような雰囲気だった。
そんな事を考えながら周りを見渡した後、言葉を発しないまま胸に手を当てる。久々の孤独に小さな恐怖を感じた故にした行動だった。そのとき、カルセナの手にコツンと何か固いものが当たった。
カルセナ「.....あ、そう言えば預かってたな....」
おもむろに胸ポケットから取り出したペンダントは、事前に魔耶から預かっていたものだった。辺りが暗くなってもなお、紅い輝きを放っている。
カルセナ「.......」
静かにそのペンダントを握り締める。そうする事によって、何故かいつも感じている安心感を得られる気がしたのだ。

カルセナ「....どんと来い!」

664:なかやっち:2020/08/31(月) 20:50



魔耶「…んぅ……ん…?」

悪魔耶「…あ、目が覚めた?おはよー…いや、もう外は夜だからおはようはおかしいか?」
うっすら目を開けると、自分と全く同じ顔が魔耶を覗き込んでいた。
いきなりの光景にびっくりして後ずさりしようとするが、なぜか動くことが出来ない。そのかわりに、ジャラジャラという重いものが動く音が聞こえた。
…これは…鎖…?私は今、鎖に繋がれている…?
魔耶「…ッ…⁉な、なにこれ…どうなって……」
魔耶は混乱しきった声を出し、鎖から逃れようと体を動かす。しかし、魔耶の体にしっかりと絡みついた鎖は彼女を離そうとしなかった。その光景を見た悪魔耶は軽く微笑んで説明をしてくれた。
悪魔耶「あはは、この状況に混乱してるみたいだね?…じゃあ、大サービスで説明してあげましょう。君は現実世界で意識を手放したよね?そこまでは覚えてる?」
魔耶「……うん」
悪魔耶「よしよし。それで、意識を手放した君はこの空間にいるわけだ。んで、今は君と私が入れ替わる直前?みたいな状態。君が鎖に繋がれてるのは、私が鎖から外れたからだね。私が寝ちゃえば、もう君と私は入れ替わり完了!もう会うことはない!って感じよ。感謝してよね?最後に話す時間あげてるんだからさ〜」
魔耶「……」
つまり、今私は現実世界から離れてこの空間にいるということか。
さっきまで混乱していたはずだったが、悪魔耶の説明を受けて妙に納得できた。そして、少しだけ冷静さが戻ってきた。この状況を飲み込めたからかもしれない。
魔耶「…なら、今これは私と君の最後の会話、だよね…」
悪魔耶「…うん。そうだね」
魔耶「…ならさ、教えてくれない?君の目的。わざわざ私と入れ替わって、なにをするつもりなの?カルセナに、何かするつもりなの?」
これは、魔耶の単純な疑問だった。最後の会話なら、教えてくれるかもしれないと思っていたのもあった。
魔耶の質問に最初は驚いたような表情をしていたが、やがてゆっくりと語り始めた。

665:多々良:2020/08/31(月) 21:40


魔耶が意識を落として数分経ったが、何も起こる気配がない。そんな状況に、少しだけ困惑した。
カルセナ「ほんとに入れ替わっちゃうのかな....魔耶、大丈夫...なのかな」
まだ悪魔になるような予兆はない....カルセナは少し、魔耶に近付いてみる事にした。
すぐ目の前まで近付き、顔を覗き込む。眠っているかのような表情を見せているが、寝息は聞こえない。不思議な感じだ。
カルセナ「.....あいつはまだ寝てるのかな....」
あいつとはすなわち、ブラッカルのこと。前まで魔耶の中の悪魔に、敏感に反応していた事が記憶に残っている。似た者同士とでも言うからなのだろうか。
カルセナ「...『私たち』で、魔耶をしっかりサポートしないとね」

666:なかやっち:2020/09/01(火) 20:40


悪魔耶「…そうだね…今の君は何にもできないんだし、最後の会話サービスで教えてあげてもいいかな。私の目的はね……私達の同類…悪魔を、生き物のトップに立てることだよ」
魔耶「…悪魔を、トップに…?」
悪魔耶「うん。今この世の中は人間が牛耳ってるじゃない。人間なんて、己の幸福しか考えてないような愚かな生き物なのに、なんで人間なんかがトップにたってるのかな…なんて思った私は、悪魔の地位をあげようと思ってるんだ」
魔耶「……なるほどね…その計画では、どんなことを…」
悪魔耶「ストップ!これ以上は言わないよ?目的は言ったもの。方法とかは話してあげるなんて言ってないでしょ?」
魔耶「……狡いなぁ」
魔耶がボソリと不満気に呟くと、悪魔耶は「悪魔ですから」と明るく笑った。自分は笑ってないのに自分の笑顔を見るなんて、変な感じだ。
悪魔耶「……ふぅ。じゃあ、私はそろそろ行かせてもらうよ。最後に目的まで話したんだし、これでいいでしょ?この空間は辛いだろうけど、私が死ななければ死にはしないから大丈夫だよ〜」
魔耶「…⁉ちょ、そんな…いきなり…」
唐突に別れを切り上げられ戸惑う魔耶。まだ聞きたいことがたくさんあったのに…心の準備も、できていない。なのに、この悪魔は私と別れを告げようとしている。唐突に別れを言うことで私に引き止めさせないつもりなのだろうか?もしそうなのだとしたら、本当に狡い悪魔だ。
悪魔耶「あはは!ばいばい、魔耶!元気でね〜」
魔耶「待って‼まだ……」
魔耶の叫びにも近い言葉は、悪魔の耳には届かない。私が言葉をかけたにも関わらず、悪魔耶はその場に座って目を瞑った。そして、魔耶が瞬きをした次の瞬間には、悪魔の姿はきえていたのだった。

魔耶「……っ……カルセナ…」

667:多々良:2020/09/02(水) 23:18


カルセナ「....何か今、一瞬動いたような....」
ピクッ、と体を震わせたように見えた魔耶の顔を改めて覗き込む。
カルセナ「いつ悪魔化してもおかしくないとはいえ、これだけ時間が空くと怪しくなるな〜......」
と、そのとき、ずっと閉じていた魔耶の目がゆっくりと開いた。
カルセナ「魔耶!!......ッ?!」
一瞬、いつもの魔耶だと感じ、思わず喜んだが....何か異様な雰囲気を感じ取った。いつもの魔耶にはない、威圧するかのような気配。それを警戒し、後ずさった。
悪魔耶「ふぅ.....やっとこのときが来たよ」
垂らしていた頭を上げ、軽く背伸びをする。それを見て、確信した。あれは魔耶ではない。本当の「悪魔」だと。
カルセナ「........」
悪魔耶「....君がカルセナだね?私と君は、初めまして..かな?」
カルセナ「.....そうだよ...」
初めて見る本当の悪魔に、顔が強張る。
悪魔耶「まぁまぁ、そんな怖い顔しないでよ。...折角頼りにされてるみたいなんだしさ」
カルセナ「...そこまで知ってるんだね」

668:なかやっち:2020/09/03(木) 19:41

悪魔耶「ふふ、一応外の様子は把握してるからね。特に君は私(魔耶)との交流が深かったから、よく知ってるよ」
カルセナ「…魔耶は、今どうなってるの?無事なの?」
悪魔耶「………無事っちゃあ無事だけど…そんなの気にしてどうするのさ。もうあの人は外に出てこれないんだよ?無事かどうかなんてどうでもいいじゃん」
そう言い切ると、パッと身体を起こしてカルセナに視線を向けた。
悪魔耶「…今から私が【魔耶】なんだしね」
カルセナ「…ッ」
悪魔耶の発言にザワッとするカルセナ。悪魔耶の発言から、もう魔耶に身体を返すつもりはないのだと理解できた。
カルセナ「……残念だけど、そうはいかないよ。力づくでも魔耶を返してもらうから…!」
悪魔耶「…あぁ、やっぱり戦う気なんだ?まぁその方がこっちとしても都合はいいし、別にいいけどね〜」
カルセナ「…都合がいい…?」
悪魔耶「うぅん、こっちの話だよ。……じゃあ、始めよっか」

669:多々良:2020/09/03(木) 22:19

悪魔耶の不可解な発言に疑問を持ちながらも、カルセナは能力を発揮して構える。
悪魔耶「君に私の動きが読み取れるかな?...肩慣らしのつもりで、最初だけ軽く遊んであげるよ」
余裕な表情を浮かべながら、スタスタと歩み寄って来る。
カルセナ「(........来る..っ?!)」
数秒先の未来を読み、とっさに右へ避けた。悪魔耶の動きはとても素早く、先読みして避けても頬に傷を付けられてしまった。
横を通り過ぎた悪魔耶の手には、小さな果物ナイフのようなものが握られている。恐らく能力でつくり出したものなのだろう。
悪魔耶「お、避けたね。やっぱりただの人間じゃないだけあるのかな?」
ナイフをくるくる回し、ポンッと消した。その間に頬を伝う、細く温かく赤い筋から伝わる感覚が涙と似ていて少し嫌気が刺した。
カルセナ「..褒め言葉なんて結構だよ....」
悪魔耶「はは、冷たいな〜。...あ、あと君の横を通り過ぎたときに感じたけど....変なもの持ってるよね?」
カルセナ「...?何のこと?」

670:なかやっち:2020/09/04(金) 17:26

カルセナがそう言うと、悪魔耶はうーんと考え込む。
悪魔耶「ん〜、なんて言えばいいんだろ…私と似て非なるもの…と言うのかな……」
カルセナ「(……ブラッカルのことかな…もしかして、悪魔耶はブラッカルのことを知らない…?)」
悪魔耶は自分の第2の人格であるブラッカルのことを言っているのだろうか…まぁ、魔耶がブラッカルと過ごした時間は少ないだろうし、知らなくとも不思議ではない。第2の人格であるブラッカルは、確かに悪魔耶と似ているが異なる存在だろう。
悪魔耶「あ、教えてくれないの?まぁいいけど」
カルセナの沈黙を教える気がないのだと勝手に解釈し、独り言を進める悪魔耶。
悪魔耶「……んじゃあ、お喋りはほどほどにして…ちょっと本気でいくよ〜?今度はついてこれるかな?」
そう言い放つと、悪魔耶は右手に太刀らしき剣を持ち、再びカルセナに向かってきた。

671:多々良:2020/09/07(月) 18:47

カルセナ「...!!速ッ......」
悪魔耶のスピードに戦き、判断が僅かに遅れた。悪魔耶が凪ぎ払った一太刀目は何とかかわし、次の攻撃に備える為に悪魔耶の横に回り込む。しかし、その判断が大きな仇となった。
横に回り込もうとしたカルセナに気付いた悪魔耶は、重そうな太刀をいとも簡単に持ち変え、カルセナを狙って突いた。
カルセナ「「 うわぁあッ!!! 」」
その鋭い太刀先はカルセナの右肩を易々と貫いてしまった。感じたことのない激痛に思わず後ずさる。その拍子に、肩を貫いた太刀は鮮血を纏いながらズポッと抜けた。
カルセナ「.....ッ〜〜!!」
ズキズキと痛む傷口を手で押さえながら悪魔耶の追撃を警戒する。しかし、悪魔耶は襲ってこなかった。太刀を地面に突き刺し、狂気を纏った笑みを浮かべながらこちらを見ている。魔耶に似ているせいか、その笑みがとても恐ろしく感じた。
悪魔耶「一発目を避けた事は褒めてあげるよ〜。次も頑張って避けれるかな?....まぁ、その感じじゃ無理だと思うけどね...」
軽く背伸びをし、僅かにずれた帽子を整えながら言葉を続ける。
悪魔耶「君ならもっとやれると思ったんだけど...意外と期待外れ..だったかな?まぁ私の...悪魔のスピードに着いてこれないのは当然っちゃ当然か。...やっぱり、あっちの私が言ってた事は間違いだね。愛とか絆?ってやつとかに感化されなくて正解だったよ」

672:なかやっち:2020/09/07(月) 19:52

カルセナ「ーー〜っ……」
悪魔耶の言葉になにか言い返そうとするが、肩の痛みのせいでうまく頭が回らず、何も言い返せなかった。魔耶の姿でそんな言葉を言われたことに、少なからずショックを受けてしまったのもあったかもしれない。そんなカルセナとは裏腹に悪魔耶は淡々と言葉を続ける。
悪魔耶「あっちの私ったら、愛と絆は存在する〜とか言って…なんで同じ私なのに考え方が違うんだろ?そりゃあ、多少は種族間の考え方の違いってのもあるとは思うけど……」
カルセナ「…………」
悪魔耶「どんな善人だって、いざ自分が危なくなったら自分のことを一番に考えるに決まってるのにね〜。ほんと、戯言はいい加減にしろ?って感じ」
カルセナ「………ちがう…」
悪魔耶「ずっと信じていた相手にも、いつかは裏切られる。それはもう道理のようなものでしょ。私達(悪魔)は、そんな人間をずっと見てきた。だからこそ、愛とか絆なんて存在しないって知って……」
カルセナ「「違うッ‼」」
悪魔耶「……!」
魔耶の口からそんな言葉が流れてくることが耐えきれなかったのか、それ以上悪魔耶の言葉を聞きたくなかったのか…気づいたら、カルセナは自分でも驚くくらい大きな声で悪魔耶の言葉を否定していた。感情に流されるまま、カルセナは次の言葉を繋げる。
カルセナ「愛も絆も!確かに存在してる‼じゃなきゃ、私は魔耶を助けようとなんてしてない!私と魔耶の間には絆が…愛があるから、私は魔耶を助けようとしてる!私が魔耶を助けたいって気持ちは、確かに存在してるんだからッ‼だから…だから……」
悪魔耶「…………あー…もういいよ。分かった分かった」
カルセナが更に言葉を続けようとしたが、悪魔耶の制止に遮られ、それ以上言葉を続けられなかった。…悪魔耶は、自分の言ったことを理解してくれたのだろうか…?微かな期待を含めて悪魔耶を見る。
…しかし、悪魔耶への期待は無残に散ることとなる。
悪魔耶「…君の言いたいことはよく分かったよ。愛、絆は本物…そう言いたいんだね。でも、私は言葉なんかじゃ理解できないからさ…ちょっと、取引してみない?」
カルセナ「…取引…?」
悪魔耶「そう。今君は、肩に怪我を負ってるね?そして、君はもう私の攻撃を避けられないだろうね。だから、次私が攻撃すれば、簡単に君を倒せる」
カルセナ「…だから…なに…?」
悪魔耶「君はまだ死にたくないよね?もっと生きてたいよね?…だからさ、こんな取引はどう?」

悪魔耶「私は、君を逃がしてあげる。そのかわり、君は私を封印しない。…自分の命と魔耶の人格…君は、どっちを取る?」

673:多々良:2020/09/09(水) 07:22

カルセナ「.....ッ!!?」
悪魔耶が提示した取引内容を聞いて、背筋にぞわっとした寒気を覚えた。
悪魔耶「簡単な話だよ。君がこの場から逃げるか、逃げないか。...今君が逃げて、どこかに行ったって私は追いかけないよ」
まるで、カルセナに逃げる事を催促するかのような語りを見せる。
悪魔耶「命なんて一つしかないんだから。幽霊の君なら分かるでしょ?命の大切さが....さぁ、どうする?」
カルセナ「......ない」
悪魔耶「...?」
カルセナ「私は、逃げない.....!!...だって、魔耶と約束したんだから....ッ!」
振り絞るような声で宣言すると、悪魔耶は溜め息を吐いて体制を立て直す。
悪魔耶「そっか。.....まぁそう言うと思ったよ。...そんなに私に終わらせて欲しいんだね」
地面に突き刺していた太刀を抜き、ヒュンヒュンと目の前で回す。
悪魔耶「人間...いや、幽霊の愛なんかが見れて良かったよ。...それが戯言だって事を、あの世でよーく見ておいてね」
狂気の光を目に宿すと、カルセナの元へまっしぐらに向かってきた。
カルセナ「......ッ!!」

カルセナ「.....やっぱ無理かも...」
ブラッカル「おいおい....大口叩いといてこんな結果かよ」
カルセナ「ごめん....」
ブラッカル「....終わったら、お前には死ぬほど反省してもらうからな」
カルセナ「...ありがとう」

カルセナの体に、悪魔耶が太刀を思い切り振りかざした。
悪魔耶「......!!」
ブラッカル「...もう終わらせちまうのか?もっと楽しもうぜ」
そこには、悪魔耶が振りかざした太刀を素手で掴んでいるブラッカルの姿があった。

674:なかやっち:2020/09/09(水) 15:47

悪魔耶「……へぇ…君、さっきとは違うね…誰かな?」
冷静な表情をしながらも、カルセナの急な変化に違和感を感じる悪魔耶。初めてカルセナ(?)に対して警戒を見せ、太刀を消して距離をとった。
ブラッカル「私は、コイツの心の住民ってやつだ。お前は悪魔耶…とか呼ばれてたっけか」
悪魔耶「……うん、私は確かに悪魔耶なんて呼ばれてたねぇ。ま、魔耶って呼んでくれてもいいけど」
ブラッカル「バカ言うな。魔耶は魔耶だけだろ」
悪魔耶「もう私が魔耶だよ?」
ブラッカル「…まだ魔耶は救えるってのに、なんで魔耶の存在を消さなきゃいけないんだよ。魔耶は魔耶、お前はお前だろ」
悪魔耶「…あと数時間でこの体は私の体になるんだよ?魔耶を救うってことは、その前に私を倒して封印するってことだね。………その前に私を倒せるとでも?」
ブラッカル「……あぁ。約束、したからな」
悪魔耶「………ふぅん…じゃあ、もう少し楽しもっか」

675:多々良:2020/09/11(金) 19:45

先程太刀を仕舞った悪魔耶は、今度は大きな斧を出した。斧の刃はギラギラと光っていて、触れるもの全てを傷付ける事が出来る、と自ら主張しているかのようだった。
悪魔耶「そう言えばさぁ....」
ブラッカル「何だよ」
悪魔耶「君の気配も感じ取ってたけど、もう一つ何か違うもの持ってるよね〜....何て言うんだろう....」
それを聞いたブラッカルは、魔除けの塩の事だろうとすぐに察した。
ブラッカル「さーな。自分の体で確かめてみるか?」
悪魔耶「どうしよっかな〜。....いや。君が、私に勝てないって思ったときにでも使いなよ。きっと最終手段みたいなものなんでしょ」
ブラッカル「....半分正解って感じだな」
悪魔耶「そっか、まぁいつか正体が分かるかな。遊んでれば..ね」
右手に斧を持ち、地を蹴って再びブラッカルの元へ迫ってきた。
ブラッカル「っしゃあ、何でも来やがれ!」
手をポキポキと鳴らすと、悪魔耶が振りかざした斧の刃を躊躇いなく受け止めた。
悪魔耶「....ふぅん、結構強いね。もしかしたら期待以上かも。...無傷ではなさそうだけど」
止めていた斧を突き放す。ブラッカルの手には、うっすらと切れたような後が残っていた。
ブラッカル「ふん、こんなの無傷に等しいよ」

676:なかやっち:2020/09/12(土) 09:46

悪魔耶「そっか。……まぁ、このくらいで喚いてたりしたら、とんだ期待はずれものだもんね」
悪魔耶はあははっと笑いながら斧をクルクルと回す。斧が悪魔耶の手を離れるたびに月明かりで光る様がなんとも不気味だった。
ブラッカル「こんなんで喚くような私じゃねぇよ。………さて、そろそろ私も攻撃させてもらおうか。ずっとお前と遊ぶのも楽しそうだが、ちんたらしてたらあいつに怒られちまうからな」
悪魔耶「あいつ……君のもう一つの人格かな?」
ブラッカル「さぁ、どーだかね…」
準備運動代わりに地面をトントンと軽く叩くと、悪魔にも負けず劣らずのスピードで悪魔耶に向かっていくブラッカル。そのままの勢いで、悪魔耶に猛烈な蹴りを繰り出した。
悪魔耶「わぉ」
悪魔耶はその蹴りを持っていた斧で受け止める。
悪魔耶「凄いね〜。君、ほんとに元人間?」
ブラッカル「はは、さぁな。…あと、一つお前に教えておいてやる…」
斧で蹴りを受け止められたブラッカルはそのまま斧を足で蹴って空中で一回転すると、地面に着地して再び蹴りを繰り出した。
ブラッカル「「私の名前は…ブラッカルだッ‼」」
悪魔耶「…!」

677:多々良:2020/09/14(月) 07:10

その強力な蹴りは悪魔耶の腹部に当たり、流石に耐久性のある悪魔耶も後ろに退いた。
悪魔耶「ッ.....はぁ〜、なかなか良い蹴りだね.....」
ブラッカル「思い知ったか?悪魔耶...いや、悪魔!」
そう言い直して、睨み付ける。
悪魔耶「うん...良かったよ、君に....ブラッカルに出会えて」
ブラッカル「どうだ、素直に封印される気になったか?」
悪魔耶「封印か....またあんなつまらない所に行くのはゴメンだな〜.....」
ブラッカル「....まぁ、封印しようがしまいが、取り敢えず私はお前をぶっ飛ばすけどな」
悪魔耶が屈めていた体を起き上がらせ始めたため、警戒して構える。
悪魔耶「ふふ....あははっ」
ブラッカル「.....?何笑ってやがる」
悪魔耶「ごめんごめん...面白い絵空事だって思ったから。...ほんとに倒されるのは君の方だろうに」
体を立たせ、鋭い瞳でブラッカルを見つめる。
悪魔耶「知らないよね...?本物の『悪魔』の本領....」
ブラッカル「.....あぁ」
悪魔耶「やっぱり。....特別に見せてあげるよ」

678:なかやっち:2020/09/14(月) 20:03

悪魔耶「…とりあえず、これは邪魔だから脱がせてもらうよ」
そう言うと、悪魔耶は着ていた上着と猫耳付きの帽子を地面に投げ捨てた。地面に叩きつけられた服達は、くたっとして地面に横たわる。
ブラッカル「…何をするつもりだ?」
悪魔耶「さて、私はこれからなにをするんでしょうね〜。……今の私のまま倒されてれば、痛い目をみることはなかっただろうにね…いや、むしろ瞬殺されたほうが痛くなくていいかな……ま、どっちにしても命が無くなることに変わりはないし、どうでもいいか……」
ブラッカル「何をブツブツ言ってやがる。この間は、お前に攻撃してもいいですよっていう意味なのか?」
悪魔耶「わ、好戦的だねぇ…怖いなぁ…。別に攻撃してもいいけど、多分君の攻撃は当たらないしおとなしく見てたほうがいいと思うけど?」
ブラッカル「…寝言は寝て言ってくれ。隙だらけの相手がなにかしようとしてるのに、それをおとなしく見てろって?…そんなことを私がすると、本気で思ってるのか?」
悪魔耶「……はは、だよね〜。じゃ、攻撃してみなよ。吹き飛ばされても知らないよ?」
ブラッカル「ぬかせ…‼」
隙だらけの悪魔をめがけて再び走り出すカルセナ。悪魔耶が何かしようとしていることは一目瞭然……なら、その『なにか』をする前に阻止してしまえば良い話……‼
ブラッカル「くらえっ‼」
今度は蹴りではなくパンチを繰り出そうと、右の拳を前につきだす。
…すると、悪魔耶は身を守ろうとしているのか、己の蝙蝠のような漆黒の翼を使って自分の身体を包み込んだ。…しかし、あんな柔らかそうな翼に攻撃が通らないはずがない。翼ごと殴り飛ばしてやる……そう思ったブラッカルだったが……
悪魔耶「…ーーー。」
ブラッカル「……ッ⁉」
次の瞬間、ブラッカルの体は大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。


悪魔耶「…ハァ、だから言ったのに…。…この姿になったばっかりなんだし、もう少しくらい遊べるよね?…ブラッカルさん」
大きな風圧で巻き散らかされた塵や砂埃が晴れ、悪魔耶の姿が確認できた。しかし、その姿は先程とは大きく違っていた。
茶髪の頭には黒く細長い二本の角がたち、背中には先程よりも一回り大きな翼が付き、スカートの下からはライオンを思い出させるような尻尾を生やしている。
その姿は、正に悪魔そのものだった。

679:多々良:2020/09/17(木) 00:06

先程吹き飛ばされたブラッカルは、辛うじて受け身を取り、体勢を立て直していた。
ブラッカル「ゲホッ...くそ、何だ....?あんな姿じゃあまるで、本物の悪魔じゃねぇか」
悪魔耶「いや、本物の悪魔だって言ってるじゃん」
ブラッカル「あぁ....そうだったな。今のところ、姿が変わっただけか」
悪魔耶が見せた変化を、まじまじと見つめる。
悪魔耶「ふふ....見かけ倒しだと思う?」
ブラッカル「どうだかね。ま、今のところ、見かけを恐ろしくしただけで動かずとも敵が退く...って事を主張してるように見えるな」
悪魔耶「つまり見かけ倒しだって思ってるんだね。...良いよ、そうしてても」
掌を下に向け、その中にパッと鎌をつくり出す。その刃は相変わらず大きく、威圧感を演出していた。
悪魔耶「その内、そうじゃない事に気が付くだろうから」
次の瞬間、斧を持っていたときとは段違いの速度でブラッカルに向かってきた。
ブラッカル「(速くたって関係ねぇ...!受け止めさえすれば....ッ!?)」
鎌の刃を再び素手で受け止めようとしたとき、何かを感じ取りとっさに横へ避けた。鎌は空振ったが、その斬撃のせいか奥にあった岩に大きな切れ込みが入った。
悪魔耶「....よく瞬時に避けたね。あのまま受け止めてれば、楽に逝けてたんじゃない?」
ブラッカル「......既に一回逝ってるさ。...成る程、見かけ倒しじゃねぇことはよーく分かった」

680:なかやっち:2020/09/18(金) 20:17

悪魔耶「あはは、わかってくれたようで良かったよ。…さて、君はこの力を見ても、まだ私に勝てると思ってるの?」
ブラッカルの動きに注目しながらも、挑発するような言葉をかけて反応を伺う。
ブラッカル「…さぁな。私はお前の力をしっかりと見れてねぇし、お互い探り合いを続けてる……勝敗なんて予想できないな」
悪魔耶「…そっか、君らしい答えだね。…確かに、多少は探り合いもしてたかも。…でも、もう必要ないんじゃない?私のスピードだって見せたし、君の戦闘スタイルも分かったから…」
ブラッカル「…つまり、何が言いたいんだ?」
悪魔耶「簡単なことだよ。…そろそろ、探り合いなんてしてないで、真っ向からぶつかろうよ。君はまだ私に一撃しかいれられてないし、このままだと防戦一方になっちゃうよ?」
ブラッカル「……なるほど…」
確かに、今ブラッカルは一撃しか攻撃を入れられていない。このまま観察ばっかりしてれば、悪魔耶の言う通り防戦一方になってしまう。耐久戦では勝てないだろうし、ここは……
そこまで考え、ブラッカルはニヤリと笑った。そして、悪魔耶に向かってこう言った。
ブラッカル「…よし、のってやる。様子見なんてまどろっこしいことやってらんないからな。…後悔…するなよ?」
悪魔耶「はは、そっちこそ」

681:多々良:2020/09/19(土) 22:23

悪魔耶は不吉な笑みを浮かべた。それはまるでブラッカルに対しての余裕、もしくは力の差を見せつけているかのように思えた。
ブラッカルはその笑みを頭から掻き消し、悪魔耶に向かって走った。
悪魔耶「そうそう、最初から君がそうやって攻撃して来ればよかったのに」
ブラッカル「馬鹿野郎、最初が肝心なんだよ...喧嘩ってのはな!」
悪魔耶の懐に素早く潜り込み、再び拳を繰り出す。またそれに素早く反応した悪魔耶は、腕で自分の顔を守った。それで出来た一瞬の隙に、ブラッカルの背後に鎌を構える。先程の、岩をも斬った鎌だ。食らってしまえばひとたまりもない。
ブラッカル「食らうかよ...っ!!」
殺意を感じ取り、柔らかい体で足を後ろに蹴り上げる。足は鎌の刃に当たり、鎌の切っ先が逸れた。
悪魔耶「へぇ....」
声を漏らした悪魔耶をギロッと睨み、残っていたもう片方の足で地面を蹴る。懐に潜り込めていたのが良かったのだろう。ブラッカルの繰り出した頭突きは見事に悪魔耶の額に直撃した。双方、後ろに後ずさる。
悪魔耶「ッ.....う〜、結構効くなぁ....そんな下らない技なのに....」
ブラッカル「どっかでも言われたぜ、その言葉....」
額を擦る悪魔耶が、急に話を始めた。
悪魔耶「...君はさぁ、そのままで居ようって思わないの?」
ブラッカル「あ?どう言う事だ?」
悪魔耶「簡単に言えば私みたいに、外と中の役割を交代しないのかなって。もし君が強いんだったら、外にずっと出てないと意味が無いよ?」
ブラッカル「うるせぇな。私はお前みてぇに悪い事しようとする気にはなんねぇんだ。それに、ずっと外に出てても意味ねぇだろ」
悪魔耶「そうかなぁ....やっぱ価値観の違いなのかな。私と君の」
ブラッカル「そうだな。生憎、テメェとは考えが合わねぇようで」
悪魔耶「ふふ.....じゃあ、考えが合わない人とは仲良くしないようにしないとね....」
ブラッカル「...最初から仲良くしようなんて思ってねぇよ」
もう一度立ち向かおうとすると、今度は悪魔耶から向かってきた。

682:なかやっち:2020/09/19(土) 23:04

悪魔耶「酷いなぁ。ま、別にいいけどさ」
そうすねたように呟くと、先程と同じように物凄いスピードでブラッカルに向かっていく悪魔耶。その両の手には鎌の柄が握られていたため、鎌で攻撃されるのだと考えたブラッカルは反射的に横に避ける……が
ブラッカル「…‼」
悪魔耶「フェイントってやつだよ、ブラッカルさん」
悪魔耶は鎌でブラッカルを斬りつけるのかと思いきや、走っていったままの勢いで跳んだあと空中で一回転して方向転換し、瞬時にブラッカルの背後をとったのだ。どうやら走ってきて斬りつけようとしていたのはフェイントだったらしい。
そして、ブラッカルの隙だらけの背中にヒュッと鋭い鎌の刃が降り下ろされる。
悪魔耶「…ははっ、じゃーね‼」
ブラッカル「……ッ‼‼」
あんなに鋭い鎌で斬りつけられたら一たまりもない。悪魔耶の急な攻撃転換に頭が追い付けず、避けきれないと思った。このままでは攻撃を喰らってしま……


「(やらせないッ‼‼)」
悪魔耶「…ッ⁉」


ブラッカル「…うおっ‼」
間一髪、攻撃はブラッカルのすぐ隣を掠めた。ギリギリ避けることができたようだ。
ブラッカル「(……今…悪魔耶の攻撃が一瞬だけ止まったような…)」
悪魔耶「〜〜ッ……いいとこだったのに…邪魔してほしくないな、魔耶…」

683:多々良:2020/09/20(日) 07:42

ブラッカル「(魔耶....?まさか、内側にいる魔耶が直接肉体を制御したのか?そんな事....)」
顔を強張らせる悪魔耶から距離を取って考える。
ブラッカル「......まぁいい、よく分からねぇけど助かったぜ」
悪魔耶「全く、根性だけは強くて困るよ....人の戦いに手を出さないでほしいね」
愚痴を溢しながら肩をグルグルと回し、体を解す。
ブラッカル「....そうか。お前は一人で戦う派の奴なんだな。....ま、当然っちゃ当然か」
何かを思い付いたかのように間を開けた後、言葉を続ける。
悪魔耶「...?まぁ、一緒に戦う人もいないしね」
ブラッカル「可哀想な奴だな」
悪魔耶「そりゃどうも。...でも、君だって一人じゃない」
ブラッカル「あぁ、これまではな。....お前、攻撃を魔耶に止められたんだよな。魔耶は内側に居るってのに....つまり、人によっちゃ内側とコンタクトを取ることも可能って事になる」
悪魔耶「確かにね....それがどうしたの?今更君になす術があるとは思えないけど」
そう言うと、ブラッカルは悪魔耶と同じような薄ら笑いを浮かべた。
ブラッカル「....戦ってるとき、何でいちいち距離を取ってたか分かるか?」
悪魔耶「さぁ?私は反撃に備えてたように見えたけど」
ブラッカル「それもある。.....私はその間、あいつを起こしてたんだ」
悪魔耶「.....あいつ?」
ブラッカル「...もう一人の、私をな....!」
言葉を言い放った瞬間、ブラッカルの両手両足が黒い炎のような、光のようなものに包まれた。これまで受けた傷もじわじわと癒えていっているように見えた。
ブラッカル「外と中の役割を交代するんじゃなくて、協力しねぇと意味がねぇ。お前の考えが間違ってること、思い知らせてやるぜ」
悪魔耶「へぇ.....協力なんてもので、そんな大きく変わるとは思えないけどね」
ブラッカル「戦ってみれば分かるだろ」

684:なかやっち:2020/09/20(日) 12:39


??「ーー攻撃を、阻止…できた…‼」
壁と床の境界線も分からないような、果てしない空間……その中で、「やったぁ!」と嬉しそうに叫ぶ少女の声が響いた。
少女は鎖によって身体の自由を奪われており、身動き一つできそうにない状態であった。
??「つまり、まだ完璧に身体の主導権を奪われたってわけじゃない…ってことだよね…!頑張れば内側からブラッカルの援護が出来るかも……!」
そんな状況下でも、少女……いや、彩色魔耶は前向きになっていた。なぜなら、彼女は、先程自分の身体の自由を奪った犯人である悪魔耶の動きをとめ、ブラッカルへの攻撃を一瞬だけ中断させてみせたのだ。そしてその結果、悪魔耶の攻撃は不発に終わった。
魔耶自信もそんなことが可能とは思っていなかったので、成功したときは大きく驚いた。そして、同時に喜んだ。
この空間では、外界の様子は大体伝わってくるものの、そこに内側から干渉する術がなかった。しかし、外側からは干渉できるようで、ブラッカルが悪魔耶を攻撃したときには、魔耶にも多少のダメージがあった。そこで、魔耶は「外側のダメージがこっちにもくるなら、私がなにかをすれば悪魔耶にも影響が出るハズ」と思い、悪魔耶の攻撃がブラッカルに届こうとしたその瞬間、身を強張らせてみたのだ。それが項をなしたのだろう、悪魔耶の動きを止めることに成功した。
魔耶「…でも、今身体を強張らせてもなんも起きないなぁ……悪魔耶の意識が薄れるとき…ダメージを食らったあととかじゃないとダメなのかな…?」

魔耶「ーーま、なんにせよ、私もサポートができそうなことは分かった‼カルセナ、ブラッカル…頑張れッ‼」

685:多々良:2020/09/23(水) 20:25


悪魔耶「.....ッ!」
鎌での強烈な一撃が拳で弾かれ、大きく逸れた。
ブラッカル「食らえっ!!」
隙が出来た悪魔耶の脇に蹴りを入れる。倒れることはなかったが、パワーアップしたブラッカルに思いの外圧倒されているようだった。
悪魔耶「ケホッ....驚いたよ...まさか本当にパワーアップしてるなんてね」
ブラッカル「悪魔に嘘なんか吐いても意味ねぇだろうしな。しっかり注意しただろ?」
悪魔耶「...うん、そう言えばそうだったね」
ブラッカル「このままテメェを追い込んで、ちゃちゃっと封印してやるよ!」
悪魔耶に殴りかかろうと走ったそのとき、悪魔耶が言葉を発した。
悪魔耶「あ、そうそう。君は知らないだろうけど....君が私に与えたダメージは魔耶にも行くシステムになってるんだ。さっきの蹴りもそう。....これは私の命乞いなんかじゃない。....『注意』かな」
しかしブラッカルは勢いを止めず、そのまま悪魔耶を殴った。悪魔耶は腕で庇い、結局この攻撃は失敗に終わった。
ブラッカル「チッ、入らなかったか....まぁいい、次は殴る」
悪魔耶「....魔耶の事を想って止まるかと思ったよ、君なら」
ブラッカル「バーカ、想ってるから止まらねぇんだ。あいつの為だったら、私は何発でも殴ってやるぜ」
右手をパキパキと鳴らしながら悪魔耶を睨んだ。

686:なかやっち:2020/09/23(水) 22:44

悪魔耶「…へぇ…仲間想いだねぇ…」
ブラッカル「当たり前だろ。魔耶とは少しの間だったが一緒に過ごしてきたんだ。たとえこれが魔耶を傷つけることでも、それで結果的に魔耶を救えるんだったら、別にいい。迷って救えずに終わるよりかはましだろ?」
悪魔耶「…思ってたより利口だね」
ブラッカル「そりゃどーも」
悪魔耶は苦虫を噛み潰したような顔で、負けじとブラッカルを睨み返す。
ブラッカル「…あぁ、そういやお前、そういうの嫌いなんだっけ?明らかに嫌そうな顔だな?」
悪魔耶「……うん。大っ嫌いだよ」
吐き捨てるように言い放つと、悪魔耶は自分の回りに剣をつくりだした。その数は…3本だ。
ブラッカル「…なにをしてるんだ?」
悪魔耶「…攻撃の準備。…覚えてるかな?私は、能力でつくったものを操れる。それがぬいぐるみだろうが、剣だろうが関係ない」
ブラッカル「………まさか…」
悪魔耶「ふふ、そのまさかだよ。これから、この剣達で君に攻撃する。いくら君でも、この量をかわしながら私を攻撃するのは難しいんじゃないかな?」

悪魔耶「「さぁ、切り刻まれてしまえ‼」」
悪魔耶がそう言い放つと同時に、3本の剣がブラッカル目掛けて飛んできた。

687:多々良:2020/09/24(木) 23:26

ブラッカル「ッ...!!こんなもの....!」
始めに飛んできた剣を手で弾き、残りの2本を何事もなくかわして悪魔耶の元へ向かう。しかし、避けきった筈の剣が全て立ち直り、再びブラッカルに刃先を向けて飛んできていた。
悪魔耶「つくったものは自由自在。どんなに逃げても弾いても、逃がさないよ」
剣に対する反応が僅かに遅れたのが悪かったのか、3本の内の1本がブラッカルの左足をかすってしまった。
ブラッカル「....くそっ」
剣の切れ味は抜群で、少しかすっただけでも鮮血がじわりと滲み出てくる。だが怯むブラッカルに容赦などなく、剣はまた向かってきた。
ブラッカル「(....ここからあいつまで大した距離はねぇ...あの操れる剣に隙が出来れば....!)」
頭の中で大雑把な作戦を考え、向かってくる剣に立ちはだかる。
悪魔耶「ずっと追いかけっこしても意味ないよ。...さ、どうするつもりかな?」
頭を一瞬だけ冷やすため、大きく息を吸う。
ブラッカル「そんなに怪我して欲しいんだったら...この体くれてやるよ!!」
勢いよく飛んできた剣に突っ込み、なんと全ての剣を左半身に食らった....いや、食らわせたのだ。
悪魔耶「!?何を...!!」
ブラッカル「〜〜ッ....!!へへ...これで隙が出来ただろ!」
剣が貫通した体を走らせ、悪魔耶を渾身の一撃と言えるくらいの力で殴った。その結果、悪魔耶は大きく後ろに吹き飛ばされた。
悪魔耶「ぐっ....!!」
ブラッカル「ハァ、ハァ....う...くっそ....やっぱ痛ぇ.....もっとやり方あったかもな」
激痛が走る腹部や左足に刺さった剣を抜く。地面に放った血塗れの剣は悪魔耶がかなり怯んだせいか、フッと消えてしまった。

688:なかやっち:2020/09/25(金) 18:45

悪魔耶「…ッ…」
吹き飛ばされた悪魔耶は、そのまま後ろにバク転して威力を殺し、なんとか体制を立て直す。…しかし、相当ブラッカルの一撃が効いたようで、フラフラとおぼつかない足取りだった。
先程よりも弱々しい声で、ブラッカルに話しかける。
悪魔耶「…ゲホッ…今のは、だいぶ効いたよ…」
ブラッカル「……はは、効いてないなんて言われたらショックだったよ…ここまでしたんだもんな…」
悪魔耶「……なんで、そこまでして…自分を犠牲にしてまで……?」
ブラッカル「お前を殴るために決まってんだろ…?こうでもしなきゃ、殴れなかったもんな…」
悪魔耶「……違う」
ブラッカルの返事を聞くと、悪魔耶はうつむいてブラッカルの言葉を否定した。
悪魔耶「なんでそこまでして……魔耶を救おうとするの…?」
ブラッカル「はぁ…?」
悪魔耶「だって……君達人間は、いっつも自分の損得しか考えてないじゃない…!自分のために、他人を平気で裏切るような、そんな愚かな種族……のハズなのに…君は、文字通り自分を犠牲にしてまで魔耶を救おうとしてる…‼なんでそこまでするの⁉人間なのに…!人間なら、人間らしくさっさと見捨てちゃえばいいじゃない!」
声を荒げ、そんな言葉を言う悪魔耶。
悪魔耶は、ブラッカルが自分を犠牲にしてまで魔耶を救おうとする行動が納得できないらしい。…きっと、悪魔としての本能と自分の見た光景が矛盾しているからであろう。

689:多々良 くっそ遅れてすまぬ。:2020/09/28(月) 21:16

ブラッカル「....うるっせえなぁ。...もしかしてお前..そんな奴らしか見てこなかったのか....?」
悪魔耶「.....!」
図星を突かれたかのように、ブラッカルの言葉に反応する。
ブラッカル「人間をそう評価するって事はそう言う事だよな....確かに、そう言うモンだよな。人間は...」
血が止まることのない痛む腹を押さえながら話を続ける。
ブラッカル「実質私だって、こんな状況に置かれたら見捨てて逃げるに決まってんだろ....あんな約束しなけりゃ」
悪魔耶「....約束...」
ブラッカル「あぁ。....『必ず魔耶を救おう』って、あいつに言われた。....言っちまえばあいつの強い意志が、私の体を動かしてる...のかもな」
悪魔耶「...だから.....何で、そんなに....」
拳をぎゅっと握り締め、大きな疑問を投げかける。
ブラッカル「そう言えばそんな質問だったな.....寂しいんだろ。あいつも」
悪魔耶「寂しい...?そんな事で、ここまで出来る訳ないじゃない....!」
ブラッカル「.....知らねぇよ、あいつの本当の気持ちなんか。...でも、あいつからしたら正真正銘最後の命よりも....魔耶を見捨てたときの後悔の方が大きいんだろ。.....一人で寂しく暮らす生活を知ってるからこそ、な...」
悪魔耶「......」
目を細め、睨むような表情でじっと前を見る。相変わらず拳は握られたままだった。
ブラッカル「....ま、お前を説得でねじ伏せる事なんて考えてねぇ...体をあいつに動かされてようが、私は私のやり方でやってやる....!」
曲げていた背を伸ばし、悪魔耶と対面する。

690:なかやっち 大丈夫よ〜。暇なときに書いてくれればオケオケ:2020/09/28(月) 22:29

悪魔耶「……ッ…そんな体で、まだやる気満々みたいだけど…流石にそれじゃあ、心はよくても体がついていけないんじゃない…?」
ブラッカル「…そんなの、今は気にしたってしょうがねぇだろ。やらなきゃやられる、だからお前を殴る!それだけだ!」
そう言って、斬りつけられて痛む左半体に鞭をいれ、悪魔耶に向かっていくブラッカル。
一歩地面に足をつけるたびに、重力によって傷に負担がかかり、新たな鮮血が滲み出る。しかし、ブラッカルはそれを気にも留めなかった。
悪魔耶「ッ…」
悪魔耶「(いくら戦闘中でアドレナリンが出てるっていっても、流石に少しくらいは痛み感じるでしょ…⁉こんなに深手なのに…なのに、まるで傷なんて負ってないかのようにこっちに向かってくるなんて……無茶しすぎ……)」
ブラッカル「考え事してる余裕があんのか?」
悪魔耶「‼」
ブラッカルは棒立ちになっていた悪魔耶に、思いっきりパンチを繰り出した。ハッとした悪魔耶は、それを右手で受け止める。両者共に衝撃で後ろに下がったが、目はしっかりと相手を見すえていた。
悪魔耶「……ははっ…君は、ほんとに末恐ろしいよ…。約束したなんていったって、そんな無茶をしてたら果たせる約束も果たせないんじゃない…?深手なんだし、もう少しセーブしないと、ほんとに死ぬよ…?」

691:多々良:2020/10/02(金) 19:12

ブラッカル「うるせぇ!!私は私のやりてぇようにやる!...邪魔すんじゃねぇ....!!」
退いてもなお、再び悪魔耶に向かって攻撃を繰り出す。その言動からは、勢いで痛みを吹き飛ばしているかのように思えた。
悪魔耶「邪魔...勢いを止めるなってこと?じゃあ、君のその気力はやっぱり無茶なんだね」
攻撃を受け止めながら核心をつく言葉を放つ。ブラッカルが戦闘を重ねていくにつれ、息遣いが荒くなっている事にも気付いていた。双方が再び後ろに下がる。土埃が舞うその戦場には深手を負い、血が足りず意識朦朧とするブラッカルと、多少の攻撃は食らったもののまだ余裕がありそうな悪魔耶が立っていた。
悪魔耶「....もう随分弱ってきてるみたいだね」
ブラッカル「ハァ......ハァ....ッくそっ...!!」
重傷とも言える傷がブラッカルの動きに着いていける筈がなく、もはや勢いだけでは悪化を食い止めることが出来なくなっていた。
悪魔耶「そりゃあそうだよ。君が耐えられると言っても、体のベースはもう一人の方でしょ?...そんなんじゃ、耐えられる訳がない」
ブラッカル「......」
悪魔耶「...魔耶だって、君が傷付くことなんか期待してない筈だよ?そんなの、ある意味約束を守れてないんじゃない?」
言い返す言葉が思い当たらず、ただただズキズキと痛む傷を押さえる。特に足は既に限界を超えていたようでガクガクと震えていた。

692:なかやっち:2020/10/02(金) 20:16

悪魔耶「…辛そうだね………ブラッカル、カルセナ。…そろそろ、終わらせてあげる」
ブラッカル「…‼」
悪魔耶はニヤリと笑うと、大きな翼をはためかせて宙に浮いた。
満月をバックにし、真っ暗な夜空に向けて右手を上げる。
悪魔耶「楽しい一時だったよ。ありがとう。…お礼に、とっておきを見せてあげるね」
そう言い放つと、悪魔耶は右手から光の玉のようなものを出した。最初はピンポン玉くらいの大きさだったが、徐々に、しかし確実にだんだんと大きくなっていく。
初めて見る技に、ブラッカルが警戒を示す。
ブラッカル「……なんだそれ」
悪魔耶「これは、私の魔力をエネルギーに変換したもの…とでもいうのかな。ま、エネルギー弾だね。私の残りの全魔力を入れたから威力は凄いだろうね」
ブラッカル「……いいのか…?全魔力なんか使っちまって…私がこれを避けたら、お前はもうなんもできない…ぞ?」
悪魔耶「ははっ、そうだねぇ。……でも、君が避けれるとは到底思えないなぁ。今は立つこともままならないような状況でしょ?そんな人が、この攻撃を避けて、しかも私を攻撃するなんて出来るわけないだろうし」
クスクスと笑いながら大きなエネルギー弾を持つ悪魔耶。それは、もうすでにバックの月を覆い隠すほどの大きさになっていた。
悪魔耶「……さよなら、ブラッカル、カルセナ」
そして、エネルギー弾は真っ直ぐにブラッカルの元へと投げられた。

693:多々良:2020/10/05(月) 20:48


『...て....早く...』
カルセナ「...!!?な、なに...!?」
ブラッカルの戦いをサポートしていたカルセナは、自分に何かを呼びかける声に気が付いた。
『早く....走って...!!』
カルセナ「走って....?だ、誰なの?どこに走れば良いの!?」
『真っ直ぐ....早く....』
カルセナ「で、でも今は手が離せないよ....!」

『『 ーー走れッ!! 』』

ふと気が付くと、真っ正面に向かって一目散に走る自分がいた。止まろうとしても、別の意志に勝手に体が動かされているかのように止まることは出来なかった。息を切らし辿り着いた場所には、前に見た覚えのある白い光の玉が微動だにせず浮いていた。
カルセナ「ハァ...ハァ.....!これって....」
それを見た瞬間、ブラッカルの忠告と表情を思い出した。「絶対に触るな」と、焦っているかのような表情でそう言われたのだ。
『触れて....早く...!』
聞き覚えのあるような声がかの脳内に響く。
カルセナ「ッ....!!だけど、触っちゃいけないって....きっと、いけないものだよね...!?だから....」
『早く!!!』
カルセナ「...!!?うぁっ...!!」
瞬間、のたうち回るような強い頭痛が走り、無意識の内に手を伸ばし、その白い光に触れていた。

悪魔耶「.....ふぅ...流石に起き上がって来ないよね」
先程放ったエネルギー弾は物凄い爆風と共に地面を抉り、景色を一変させた。硬い地盤には大きな穴が空いてしまっていた。
悪魔耶「.......ちょっと休まないと...私も過労死しちゃうね.....」
地面に降り立ち、その場に座り込もうとしたそのとき、何かを感じ取り再び視線を穴に向けた。
悪魔耶「...そんな馬鹿な...!?あの弾を受けて生きてる筈が......ッ!!」
夜空に吹く冷たい風で、少しずつ土埃が晴れて行く。その中に感じる強い気配の主は、紛れもなくカルセナーーいや、その姿は土埃の中に居ようとも汚れることのない、髪まで真っ白なカルセナだった。悪魔耶を見るなり、カルセナとブラッカルが混じったような声で宣戦布告した。
カルセナ「....まだまだやってやんよ!!」

694:なかやっち:2020/10/05(月) 22:17

悪魔耶「ど、どういうこと…⁉私の全魔力を喰らったのにまだ生きてるなんて……それに、姿が変わってる…⁉」
自分の予想していた結末の遥か上をいく事実に混乱する悪魔耶。

…それは悪魔耶だけでなく、中にいる魔耶も同様だった。

魔耶「ーーッ⁉………か…カル、セナ…?」
悪魔耶を制御することができず、エネルギー玉を飛ばされたときはもうだめだと思った。なのに、カルセナは吹き飛ぶことはおろか、怪我一つさえおっていない。それに、カルセナのあんな姿は見たことがない。
いつものカルセナの姿、黒くなったブラッカルの姿が脳裏に浮かぶが、それともまた違う姿。
…もしかしてまた別の人格…⁉突拍子もない考えだが、あり得なくもないな…なんて、混乱した頭で考えを巡らせる。
魔耶「…カル…」

695:多々良:2020/10/08(木) 20:48

カルセナ「本当はこの姿になりたくなかったけどなぁ....こればっかりは仕方無いか」
真っ直ぐな瞳で視線を悪魔耶に向ける。
悪魔耶「...これは油断したよ、まだ手段があるなんてね。...でも、それも『完璧』ではない。何か欠点があるでしょ?」
カルセナ「ありゃ、バレたか....そうなんだよね〜....まぁ、ハイリスクハイリターンなんで!」
そう言って隙のない構えを見せる。
悪魔耶「そっか....だけど、いくらパワーアップしようと私に...本物の悪魔に敵う筈がない!」
大きく羽を広げ、僅かに残っていた本当の最後の力を振り絞る。
カルセナ「うげ、まだ戦えるの....?..よし、上等だ!」
意気込んだ直後、悪魔耶がカルセナに向かって一直線に飛んできた。右手には魔力の節約の為なのか、小型のナイフが光っている。その刃をかわし、右手首を掴んで悪魔耶の顔を狙う。しかし、悪魔耶もそれをもう片方の腕で防ぐ。
そんな攻防が暫く続いた後、戦いに変化が現れた。魔力を全て使いきったと言っても過言ではなかった状態の悪魔耶が、パワーアップした白いカルセナを圧倒し始めていた。
悪魔耶「...かなり息が乱れて来てるけど、最後のパワーアップはそんな温いものなの?」
カルセナ「ッ....!!..まだまだ....!」
戦いの土壇場で、悪魔の本性を見せつけられている気がしてならなかった。そのとき、腕での防御が弾かれたカルセナの真上にナイフの刃が光った。
悪魔耶「今度こそ、さよならッ....!!」
カルセナ「....!!....まだまだって言ったでしょ!」
咄嗟に胸ポケットに手を突っ込み、そこに入っていた小さな紙包みの中身を悪魔耶めがけて放った。

696:なかやっち:2020/10/08(木) 22:43

悪魔耶「…ッ⁉こ、粉…⁉」
驚いた悪魔耶は後ろに後退し、自分の状態を伺う。
悪魔耶「……これ…塩、みたいだけど……目眩まし…?」
カルセナ「どうだと思う?」
悪魔耶「は?何をいって…………ッ⁉」
カルセナの言葉に嘲笑しようとしたその時、悪魔耶がガクンと崩れるように地面に膝をついた。
急に自分の身体に力が入らなくなり、困惑する。
悪魔耶「………な…力が、抜ける…」
カルセナ「清めの塩だよ。君と戦うまでに私と魔耶で色々準備したんだよ」
悪魔耶「……ぐッ…」
カルセナ「…形勢逆転、だね」
悪魔耶は負けるものかと無理矢理立ち上がるが、もう戦うどころか歩くことも辛そうな状態になってしまっていた。
これは塩の効果もあるだろうが、なにより今までの疲労や魔力切れの反動なども重なっているだろう。

697:多々良:2020/10/09(金) 23:40

カルセナは塩を仕舞っていた胸ポケットに再び手を突っ込むと、今度は深紅に輝くペンダントを取り出した。
悪魔耶「....!!それは.....」
カルセナ「...魔耶の大事なペンダントだよ」
弱々しく立つ悪魔耶に近づくと、肩を下に押した。すると悪魔耶は力が抜けたかのように呆気なく地面に膝をついた。その顔にペンダントを向ける。
悪魔耶「ぐっ.....こんな所で...封印なんか....!」
伸ばされたカルセナの腕を掴み、有り余る僅かな力を込める。しかし魔力を消費し切ってしまった悪魔耶にカルセナの腕を痛める力はなかった。
悪魔耶「........ッ」
カルセナ「....もう、終わりにしよ。私ももうすぐしたら...動けなくなっちゃうから....」
悪魔耶「....君を...君たちを勝たせたのは.....一体何なの...?」
額にペンダントを当てようとしているカルセナに、消え入りそうな声で問い掛ける。
カルセナ「......『絆』だよ。魔耶と私...ううん、もっと色んな絆。...悪魔に言っても、そんなの信じないだろうけど...」
悪魔耶「.....絆....か...相変わらず...意味が分からないなぁ.....」
カルセナ「いいよ、まだ分からなくて。きっと、そのうち....ね、魔耶....」
そう呟いて、ペンダントを額に当てる。大きく広げられていた羽は縮み、頭から生えていた角は跡形もなく消え始める。悪魔耶の体は眩く光を放ち、悪気のような暗い光がペンダントに吸い込まれていった。その光景は悪魔から感じられる悪意とは裏腹に、心が清められるくらい輝かしいものだった。

カルセナ「......終わっ...たのか...な....」
頭をガクンと垂らしている魔耶を前に、悪魔を封印したからか、更に深紅に染まったように見えるペンダントを地面に転がす。それとほぼ同時に、カルセナは眠りに就いたかのように地面に倒れ込んだ。

698:なかやっち:2020/10/10(土) 13:13


悪魔耶の封印が終わったと同時に、魔耶のいた空間にも変化が起きていた。
魔耶「…あっ!鎖が…」
魔耶を頑丈に封じていた鎖が、次の瞬間『パリン』と音を立てて崩れ去り、ほぼ同時に鎖に繋がれた悪魔耶がこの空間に連れてこられた。
魔耶「…!悪魔耶…」
悪魔耶「……」
魔耶「……また会ったね」
魔耶が多少の皮肉を込めて言うと、悪魔耶はゆっくりと視線をこちらに向けた。
悪魔耶「…そうだね。もう会わないと思ってたのに…残念だなぁ」
魔耶「誰かさんが封印されちゃったからね」
悪魔耶「……ほんと、最悪だよもう………」
そういって項垂れる。魔耶はその様子を伺っていたが、ふと悪魔耶は言葉を続けた。
悪魔耶「…だけど、なんでだろ…ちょっと、楽しかったな」
魔耶「…そっか…」
悪魔耶「……君は、きっとまた戦うよね。この世界から出るために」
魔耶「うん。そのつもりだけど…」
悪魔耶のいきなりの質問に首をかしげる。
悪魔耶「…そしたら、きっと高い壁も待ち受ける。私より強い奴等だっているかもしれない」
魔耶「…だから?」
悪魔耶「……カルセナと、二人で…頑張ってね、魔耶」
魔耶「!………言われなくたって、二人で頑張るよ」
悪戯っぽくニヤリと笑って返すと、彼女はうんうんと頷いた。
悪魔耶「ふふっ、そうだろうね。……じゃあ、早く行ってあげなよ。カルセナのところへ」
魔耶「…うん」
魔耶が返事を返すと、いつものように空間が歪みはじめた。白い空間と悪魔耶の青や茶色、色んな色が混ざって、濁って、黒くなっていって…

そして、魔耶は目を開けた。

699:多々良:2020/10/13(火) 19:53

魔耶「......」
意識が現実へ引き戻されたばかりだったからか、暫く空間を見つめながら上の空でいた。その内意識が段々はっきりとしてきて、視界に入る景色はより鮮明に映し出された。
魔耶「....!!カルセナ!」
ふと地面に視線を移すと、さっきまで一生懸命戦ってくれていたカルセナが紅く輝くペンダントの隣で倒れていた。急いで側に寄り、意識があるかを確認する。
魔耶「ねぇ、カルセナ!大丈夫!?」
カルセナ「......う〜ん...」
寝起きを思わせるような重たい声を出すカルセナに、一安心した。
カルセナ「...あっ、魔耶......?」
魔耶「...うん。そうだよ、私だよ...!」
自分が自分であることを噛み締めるかのように、カルセナに訴えかける。
カルセナ「...!!お帰り、魔耶....」
魔耶「...ただいま、カルセナ.........ありがとう」
双方とも瞼が熱くなり、思わず零れそうになった涙を堪えて笑った。月は沈みかけて東の空は青碧色になり、間もなく夜明けを迎えようとしていた。
魔耶「....帰ろ、カルセナ。...立てる?」
北街へ帰ろうとカルセナに促す。が、カルセナは1ミリも動く気配がない。
カルセナ「いやーそれが....」

ブラッカル「だから触んなって言ったんだ....!これじゃあ体は1日使い物にならねぇし...私も丸1日寝ないといけねぇし.....」

カルセナ「....って言われて...つまり全然動けないの.....」
申し訳なさそうに言葉だけを発する。

700:なかやっち:2020/10/15(木) 18:13

魔耶「そっか…ま、あんな力を使っておいてまだ全然動けたらそれはそれで怖いしね。…よっと」
カルセナ「わっ」
魔耶はカルセナをヒョイと背負い、北街まで戻ろうとする。
カルセナ「ちょ、魔耶……魔耶、大丈夫?歩けるの…?」
魔耶「一応……まぁ調子がいいとは言えないけど、人一人背負うくらいなら大丈夫」
カルセナ「う、うぅむ……でも、体動かないしなぁ……重くない…?」
魔耶「魔族をなめないでほしいね。このくらい余裕よ余裕」
カルセナ「…なら、いいけど…」
そうして、二人は街に向かって進み始めた。
魔耶達が街への道を歩いているうちに大陽がだんだんと昇り始め、薄暗かった空が光を纏う。

魔耶「…そういえば、あの白いカルセナ…?はなんだったの?…また別の人格とかではなさそうだったけど…」

701:多々良:2020/10/17(土) 06:45

カルセナ「あーあれね....う〜ん....よく分かんない」
背中の上で首を傾げる。
魔耶「えぇ...?私はてっきりカルセナが意図して変身したものかと.....」
カルセナ「いや...確かにあの状態にしたのは私なんだろうけどさ。何て言うんだろ.....強制的に変身させられたって言うか....知らない声が聞こえて...それで、その声に導かれて.....」
あやふやな説明が魔耶の疑問を更に深める。
魔耶「知らない声....?ほんとに、聞き覚えなかったの?」
カルセナ「んー.....知ってるような知らないような....多分、女の人の声だと思うけど。で、言われるがままに白い光を触ったらあんなんになった......のかな?」
魔耶「ふ〜ん....ま、私はカルセナが無事ならそれで良いんだけどね」
カルセナ「ほんとほんと....ギリギリなところがいっぱいあったんですからね〜....」
小さな不満を溢すその顔は、喜びと嬉しさに満ち溢れていた。
魔耶「あはは、ありがと。お疲れ様」

702:なかやっち:2020/10/17(土) 08:51



それからしばらく歩くと、見覚えのある大きな壁が見えてきた。辺りの草木がすっかり日の光を浴び、緑々しい色に染まった頃だった。
魔耶「…ふぅ、やっと着いた…」
安堵と疲れのため息を一つ溢し、ようやく見えてきた北街に向かってサクサクと進んでいく。
カルセナ「ごめん、お疲れさま…」
魔耶「はは、いーのいーの。カルセナには命救ってもらったんだから、これくらいはさせてもらわないと」
カルセナ「命救ったって…そんな大袈裟な…」
魔耶「大袈裟かな…?少なくとも私という人格は守ってもらえたんだから、命の恩人ですよカルセナさんは」
カルセナ「そ、そうかな…?よくわかんないや」
自分の背中にいるカルセナがなんとなく赤面したんじゃないかと思った魔耶だったが、さすがに後ろを振り返るのは野暮だと思い、先を急いだ。北街に帰ったら、まずは休むべきだろうか、病院に行ってみるべきだろうか、ご飯を食べるべきだろうか……選択肢が多すぎて、最初に何をすればいいか分からないな、なんて考えながら。

703:多々良:2020/10/18(日) 20:00

門番A「....ん?あれは...」
二人いる門番の内の一人が、カルセナを背負う魔耶に気が付いた。それに続き、もう一人も目を凝らして気が付いたようだった。
門番B「あー....この前話題になってた二人だな。こんな朝っぱらに帰ってくるなんて....依頼でもこなしに行ってたのか...?」
暫くして、魔耶が大きく開く門の前まで辿り着いた。
魔耶「おはようございます」
門番A「あぁ、おはよう。どうしたんだ、朝帰りなんて」
魔耶「えっと....まぁ、二人でクエストみたいなものを...」
チラッとカルセナの顔を覗く。疲労からか、いつの間にかすやすやと寝息を立てて眠っていた。
門番B「...見る限り二人とも怪我を負ってるな。病院にでも行った方が良いんじゃないか?」
魔耶「そうですね....検討しときます」
門番A「そうしときな。んじゃあ、お疲れ。良く休めよ」
そう言って門の奥へと通してくれた。大して時間は経っていないのにどこか懐かしく感じる北街は、まだ早い時間だったからか人気が少なかった。魔耶は大きく息を吸い、カルセナを背負い直した。
魔耶「....さて、どうしよっかな」

704:なかやっち:2020/10/19(月) 22:33

とりあえず、病院に行くにしてもご飯を買うにしても今はお金を持っていないため、まずは宿屋に向かったほうがいいだろう。それから先については宿屋に着いてから考えよう…
そう思った魔耶はいつも通り宿屋に行く道を歩き出した。行き慣れた道なので、意識しなくても勝手に足がその方向へと導いてくれる。

魔耶「……もうこの街にもすっかり慣れたね…」
宿屋に向かいながら、ふとそんなことを思う魔耶。
……今はこの世界にきてどのくらいたったのであろう…なんだか、生まれたときからずっとこの世界で暮らしているような気持ちだ。でも、ちゃんと自分の世界の記憶もあるのだから、なんだか故郷が二つになったような変な気分だ。
きっと、この世界で色んなことが起こり過ぎて、時間の感覚が麻痺してしまっているのだろう…
魔耶「…問題も解決できたし、あとは帰る方法を探すだけ…だね」
…そう呟いた自分の声が、どこか寂しげに聞こえたのはきっと気のせいだろう…

705:多々良:2020/10/21(水) 20:31

人々が着々と開店準備を進める商店街を通り、途中に差し掛かるまだ子供たちのいない広場を横目に見ながら歩き、ようやく宿へと戻って来る事が出来た。
自分たちの部屋へ向かい、鍵が開いたままの無用心なドアをそっと開けた。
魔耶「ただいま〜.....」
中には当然返事をするものは居らず、前の世界で一人暮らしをしていた頃を思い出した。
魔耶「とりあえずカルセナは....ベッドでいいかな」
何とか靴を脱ぎ、安眠しているカルセナの帽子を取りベッドに寝かせた。帽子はそのすぐ側、枕元に置いておくことにした。
疲弊した体を伸ばし、ベッドに仰向けに倒れ込む。薄く降り注ぐ日の光が僅かに反射した天井を見ていると、事が一段落した安心感がどっと押し寄せてきた。
魔耶「ふぅ......私も、眠くなってきたな....」
内側にいたものの、一夜漬けで戦ったのだ。眠くない筈がなく、今目を閉じたら一瞬で眠りに落ちてしまいそうだった。

706:なかやっち:2020/10/21(水) 22:10

魔耶「…でも、先に病院に行って怪我を治してもらわないと……」
そう思い直し、疲弊しきった体に鞭を打って体を起こす。スヤスヤと寝ているカルセナを少し羨ましく思った。
愛しいベッドから体を浮かせ、病院にいくためにお金の入った財布を探す。…案の定、いつもと同じテーブルの上に置いてあった。一応のため中身も確認しておく。
魔耶「……うん、このくらいあれば多分大丈夫だね。ちょっと休みたいところだけど……怪我が化膿なんかしたら大変だし、早く行かなきゃ……」
これ以上の事態を防ぐため、まず病院にいくことが優先だ。カルセナがたくさん戦ってくれたんだし、もう少しくらいは私が頑張らないと……

707:多々良:2020/10/25(日) 08:34

魔耶「よいしょ.....っ」
財布をポケットに入れ、寝ているカルセナを再び背負う。そのままふらふらと覚束ない足取りで宿を出た。
朝の気温の移り変わりは早いもので、帰って来ているときよりもいくらか暖かくなっていた。人々が活動を始めようとする中、魔耶は最寄りの病院へと足を運び始めた。
魔耶「はぁ.....はぁ........」
夜間を通して戦い、北街までの長い距離を歩いた魔耶は今にも倒れてしまいそうな程疲労困憊しきっていた。どんどん足が重くなっていくのを感じる度に自分を奮い立たせ、一歩一歩をしっかりと踏みしめるように歩いた。

ーーしかし、そう長く持つものではなかった。
倦怠感と眠気、足の痛みに段々耐えられなくなってきたのだ。その証拠に、冷や汗が体を伝っているのが分かる。
魔耶「う.....こんな所で...倒れる訳には.....」
あと数歩歩いたら倒れるかもしれない。そんなことを感じてしまっている。もう駄目かもしれない.....そう思って立ち止まったとき、近くに慣れたような気配を感じた。
???「....魔耶?」
魔耶「...ひま..り....!?」

708:なかやっち:2020/10/25(日) 12:55

ひまり「魔耶…ッ!」
限界だった足の力が抜けてフラリと前に倒れこみ、ひまりにもたれかかる形になった。
魔耶「…ひまり……なんで、ここに…」
ひまり「イベントの打ち合わせがあって、これから行くとこだったんだけど……そしたら、カルセナを背負ってる魔耶が見えて…なにがあったの、魔耶…?」
明らかに疲れきった魔耶と、後ろのカルセナをみてうろたえるひまり。
なにかあったのかと魔耶に質問をするが、今の魔耶には質問に答えられるだけの体力が残っていなかった。なので、今最も伝えるべき重要な事柄をひまりに伝える。
魔耶「……ひまり、お願い…カルセナを病院に連れていってくれない……?私、ちょっと……疲れちゃって…」
ひまり「病院………べ、別に構わないけれど…魔耶は…?」
魔耶「私は…ちょっと休めば大丈夫…だから、先にカルセナを…」
ひまり「大丈夫って……でも、魔耶を置いてったりなんて…」
カルセナを病院に連れていけと言われても、流石にこのまま魔耶を置いていくわけにはいかない。しかし、ひまりが二人を同時に背負うことなんてできない…。
ひまりが選択肢に迷っていると、不意に少女の声が聞こえてきた。
??「…魔耶さんも病院に行くべきですよ。私がカルセナさんを運びます。お姉ちゃんは魔耶さんをお願いします」
ひまりとは違う声に驚いた矢先、フッと背中が軽くなった。
ひまり「みお……!ありがと、助かったわ。早く病院に連れていきましょう‼」

709:多々良:2020/10/30(金) 20:35

魔耶「......ありがとう....」
担がれた矢先体の力が抜け、眠りに落ちるように次第に意識も闇に沈んでいった。



魔耶「........」
最初に見えたものは少し薄暗い世界だった。しかし段々と視界にかかっていた靄が晴れ、見えているものが橙色の光を浴びた天井だという事が分かった。何故橙の光が反射しているのか....カチコチと音が聞こえる方向へ、ゆっくり顔を傾けた先にあった壁掛け時計でその理由が判明する。二人が北街に帰ってきた時間帯からおよそ半日過ぎた、夕刻だからであった。
ひまり「...魔耶!!」
隣で椅子に座り、眠たげに首を傾げていたひまりが跳ね起きる。
魔耶「ひまり......」
ひまり「良かった〜.....ずっと寝てるから心配してたのよ!ね、カルセナ!魔耶が起きたよ!!」
魔耶の奥の方面に視線を合わせ、そう嬉しがる。
カルセナ「魔耶...!ほんとに起きてる....!?」
左隣から聞こえた声に思わず目が冴える。ぐるっと首を動かして見た隣のベッドには、体をピクリとも動かしていなかったが確かにカルセナがいた。意識はしっかりあるようだった。

710:なかやっち:2020/10/30(金) 22:14

魔耶「…!…うん、起きてるよ」
動かずとも元気そうな声を発するカルセナを見て安堵した魔耶。その拍子に自然と表情がほころぶ。
カルセナ「よかった…ごめん、無理させちゃったかな…」
魔耶「いやいや、カルセナは動けなかったんだし、私がやるって言ってやったんだから…カルセナが謝ることじゃないよ」
そう告げると、ふっと表情を和らげるカルセナ。
カルセナ「…そう言ってもらえると安心できるよ」
魔耶「…どういたしまして。まぁ、ほんとのことなんだからカルセナが気にすることでもないけど……」
ボソリと付け加えたあと、「それに…」と言葉を足す。
魔耶「結局、病院まで連れていってくれたのはひまりだよ。……ひまり、ほんとに助かった……ありがとう」

711:多々良:2020/11/05(木) 20:42

カルセナ「え、そうだったの?んー、だけど、どっちもありがとうね」
二人に素直にお礼を言われ、少し照れた素振りをひまりが見せる。
ひまり「いやいや、別に良いのよあんな簡単な事で....でも、何であんなになってたかは、後できっちり聞かせて貰おうかな〜....なんて」
魔耶「あはは...考えとこうかな。.....でも、助かったのは本当だからね」
ひまり「お役に立てて何よりでーす。...っと、そろそろ夕飯の準備しないとかな?じゃあ、私は帰るからお大事にね」
魔耶「うん、じゃあね」
壁掛け時計を見るなり、照れ隠しをするかのようにそそくさと病室から帰っていった。

魔耶「....ふぅ、いつ退院出来るのかな〜」
カルセナ「魔耶ならすぐ退院出来るよ。だって、魔族の回復速度は尋常じゃないんでしょ?」
魔耶「まぁ...でも、悪魔戦の直後で疲労もかなり溜まってるし.....いつもよりは時間かかるかも」
溜め息を一つ吐いて、薄暗くなった天井を見上げる。そろそろ照明をつけようか...そう思い、枕元のリモコンを取ろうとしたとき、カルセナが口を開いた。
カルセナ「.....温泉」
魔耶「ん?」
カルセナ「退院したら、温泉行きたいなぁ....この街にあるかは分からないけど....」

712:なかやっち:2020/11/05(木) 21:46

魔耶「…そうだね」
前にした会話を思い浮かべ、微笑みながらうなずく。
魔耶「今度ひまり達が来たら、温泉のこと聞いてみよっか」
カルセナ「うん!……あ、でも…温泉って何?とか言われないかな…?」
魔耶「え、そんなことあるかな…………まぁ、きっと大丈夫でしょ。今のところ、前の世界とそんなに違いはないし」
カルセナ「そういえばそうだね…なら大丈夫か」
魔耶の言葉に安堵したような表情を浮かべるカルセナだったが、ふと何かに気付いたようにこちらを見る。
カルセナ「…言われてみれば、この世界って前の世界とほとんど同じって言ってもいいくらい似てるよね。もちろん文化とか環境とかの違いはあるけどさ」
その言葉に、魔耶も今までの生活を思い返す。
魔耶「…確かに…ちょっと古いけど、乗り物とかは同じだったよね」
カルセナ「うんうん。…もしかしてだけど、私達の世界とちょっとした関わりがあったり…?」
魔耶「うむむ……そうだったらいいけどねぇ…」


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