かつて匿名板で名を轟かせた宣伝やしこしこあっさん、そして今現在人気急上昇中の人狼スレのみんなを 匿名民のみんなで CPを作っていこう。 なお本人の登場はやめてくださいね!ややこしくなるので
【http://go.ascii.jp/hx3】人狼スレ支部(百科)のURLです。暇な人は編集してね!
暗めのしゅしゅ聖書?聖書しゅしゅ?の話です。おっちゃんな、教会組がな、好きなんやで…
手に取った果実は、網膜に焼き付くほど鮮やかな紅さを持している。鼻に近づけば爽やかなで甘い香りがして、期待を抱きつつしゃくりと一口噛んでみたが、口内に広がるのは鼻を突き上げるエグみのみだった。
「美味しいですか?」
左側から声がする。振り向けば、いつの間にか本から顔を上げている聖書がこちらを見つめていた。自分から数メートル離れたデスクに居るせいか、彼の顔はなんだかぼやけているような気がした。金色の髪は読書灯のオレンジ色の光に照らされて闇の中でぽっかり浮かび上がっている。柔らかな月光を散らす月にも見えれば、それは罪人を晒す太陽にも見えた。
「ええ、美味しいですよ」
嘘が口をついて出たのは、きっと自分には彼が太陽にも見えてしまったからだろう。そうして聖書がにこっと笑って再び読書に戻るので、しゅしゅも苹果と向き直って、また一口噛んだ。相変わらずの苦味がそこにある。そう、苹果はこの味なのだ。甘くもなければ酸っぱくもない、外面の良い香りで騙される人の数は知れない。原罪を秘めた、どこまでも度し難い果実である。
聖なる教会の書庫、狭いカビと埃の苗床に罪人と太陽は今日も共に過ごす。
*
なぜかと問われれば、なぜだろうと返すのだろう。
本のページは先ほどから一向に進まない。それでも無理して同じ文に目線を度々走らせるが、ついには徒労を悟り、優しい手つきでそっと分厚い本を閉じた。本が合わさる瞬間に紙に押し出された空気は、カビの匂いとそれに混じる仄かな甘い香りがした。古く変色した表紙に労わるように手をおき、向こうのソファーで眠っているしゅしゅ殿に視線を向けた。
膝の上に開かれた本を乗せたまま彼は寝息を立てている。目の前まで近付いて「しゅしゅ殿」と小さく声をかけても起きはしなかった。相当深い眠りについているのだろう。何か夢を見ているのかもしれない。寒くも暖かくもなく、かつ静けさと闇に包まれたここなら、きっと寝心地はかなり上等だろう。もう遅い時間だが、起こすのはなかなかに忍びないものだと少し困った。
不意に、視界の端を紅いものがよぎった気がした。しゅしゅ殿と向き合う姿勢のまま目だけ向けると、赤く熟れた食べかけの苹果が、ソファー横のサイドテーブルに置かれてあった。おそらく彼が先ほど食べていたものだろう。美味しいと確かに答えていたが、なぜ食べずにこのまま置いてあるのだろうか。物音を立てないよう慎重にそれを掴み取り、目の前まで持ってくる。そうして一瞬躊躇ってから歯型がついた部分と少しずれた場所に歯を立てた。
シャクリ。
予想よりやや萎えた歯応え。
だがそれ以前に、とてつもないエグみが一瞬にして口の中に広がって思わず「うっ」と声を漏らした。美味しいと言っていたのは嘘だったのか。こんなにも美味しくない苹果なら残すのも頷けた。
苹果を元の位置に戻すついでに、しゅしゅ殿の仮面を慣れた手つきで外して、苹果の側に置いた。閉じられた瞼はピクリと動いたが開かれない。鼻呼吸ゆえぴたりと閉じられた唇は薄くも厚くも無く、なのに苹果と同じ程目を引く色艶を放っているような気がした。呼吸を整え、そっと自分の唇をそこに重ねる。何度繰り返そうといつも驚かされるこの柔らかさに、今日も夢中になって味わう。舌を入れることは決してしない。その一歩は、まだ踏み込めない。もし自分がこうして接吻することを知ったら、彼は果たしてどんな表情をするのだろう。
驚き、怒り、拒絶。
拒まれてしまったらどうしようか。
行き着く果ての無い疑問は胸の中を凍えさせ、口の中の苦味がより深く変質していくような気がした。
*
目を覚ました頃、すっかり外は朝を迎えていた。書斎の天窓から微かに差し込む朝日の光の束で埃が舞っているのが見える。これはいい加減掃除しなくては自分と聖書の健康を害してしまうかもしれないと、しゅしゅは密かに大掃除のプランを頭の中で組み立てた。
デスクに目を向けてみると、当たり前のことだが聖書の姿はもうなかった。それに一抹の悲しさに似た感情を抱くが、不安定な姿勢で寝たゆえ固くこわばった体を抱えながらしゅしゅは起き上がり、ぐっと大きく伸びをした。激しい音が体の節々から鳴る。眠りは深かったが、ソファーで座ったまま一晩を過ごすのはもうやめようと心に決めた。
と、部屋を出ようとしたところで、昨日食べかけて諦めた苦い苹果を思い出してもう一度ソファーの近くに歩み寄る。ここには残しておけないから持って行ってどこかに捨てなくては。そして持ち上げた苹果の幾つか齧られた跡で、自分のものでは無いはずの箇所が一つあったことに気付く。纏まったかじり跡からやや外れたところにあった。その様はまるで群れから外れた羊のようだ。控えめで、どことなく物悲しい。齧ったと思われる人物は、聖書しかいない。
一拍おいてその跡の上を覆うようにして、もう一度噛んだ。
苦くエグい。それにすっかり水分の抜けたもそもそした食感で、昨日よりも一層不味い。
だが、昨日の接吻に比べれば大したことの無い味だ。
自分が起きていることに聖書は気付いてないのだろう。
あの時も、そしてそれ以前から。
なんとか苹果を嚥下しながら書斎を後にした。カラカラの苹果にもう用は無い。聖書にあいさつするよりも先にゴミ箱を探すべきだと、光に照らされた廊下を軽い足取りで進んでいった。でも、聖書に会ったら言いたいことがあった。
禁断の果実をつまみ食いするような真似は、もうよしたほうがいい、と。