____今、私がこの青く澄んだ空を見ている頃
君はどんな顔をして「今日」を送っているのだろうか。
そして今日のような雲一つもない秋のあの日。
風がぬるくて、青々とした木の陰がとても涼しかったあの日。
広い校庭を一瞬で走り抜ける君を見て恋をした。
✄--------------- キ リ ト リ ---------------✄
何回も何回も書いてるのに続かない柳葉です。
十回目ですねきっと←
「今回こそ頑張って続ける」
亀より遅い更新ですが温かい目で見守ってもらえると幸いです。
バス乗り場に着く頃には日が沈みそうで、薄暗くなりつつあった。
「お、星と月が見えるよー」
バス待ちのベンチで空を眺めて初めて見たかのように
隣に座る彼は無邪気に笑う。
私も釣られて空を見上げると橙と澄んだ青の上から
紺色が掛かったような空だった。
そんな美しい空の更にその上には瞬く星と丸い月が見える。
「……そうだ。例の写真送んなきゃね」
彼は思い出したように携帯を手に取る。
待って、と携帯を開こうとする彼を止めて
私は携帯を片手に持って夜空に掲げた。
ボタンを押すと同時に鳴るシャッター音で彼は私の意図に気づいたようだった。
「写真、交換っこしましょう?」
私がそう言うと彼は嬉しそうに、うんと頷いた。
白い電子光が私達二人を照らす。
「これでお揃いですねー」
私は嬉しさと恥ずかしさで必死に作った笑顔で誤魔化しても
赤く頬を染まらせているだろう。
彼はそんな私の気持ちを汲んでか、笑う。
「____先輩。私、先輩に惚れちゃったみたいです」
彼はそっかと言い口を左手で隠し、私から顔を背いた。
「それって告白ってことで受け取っていいのかな」
途切れ途切れに噛みながらも私に返事をする。
彼はベンチから立ち上がり、私の目の前でしゃがんだ。
今度は目と目が合うように、彼は私に背を向けなかった。
ちゃんと彼の顔を見たのはもしかしたら今が初めてかもしれない。
「好きです。俺と付き合って下さい」
私の両手が彼の両手で包まれるように握られて、そう目を見て言われた。
その真っ直ぐな視線に耐えきれなくて、か細い声で私ははいと返事をした。
返事を聞いた瞬間彼は目を丸くして、呆然とする私を抱きしめる。
抱きしめられると同時にきゅっと胸が締まるような気がした。
静かに、風を切りバスは来た。
バスの眩いライトが夜空を裂いて目に突き刺さる。
何も言わずに彼は私の手を引いて、バスに乗った。
夕方だからか私達と前方にいる客数名以外人は居なかった。
私らは適当に一番後ろの座席に座り流れる風景を眺めていた。
「……ねえ。明乃ちゃん」
何ですか、と答えると彼は首を振りその後少し間を置いて喋った。
「____月が綺麗ですね」
彼は、窓に流れる夜空を見つめてそう呟いた。
「…………死んでもいいわ」
私はただ目の前をぼうっと眺めて彼の返事に答える。
愛してるなんてひねくれ者の私らには似合わない、そう思ったから。
ただ、冷房の音が車内に響いていた。
「今日、送るわ」
彼はぽつりと、また窓を眺めてそう言う。
「……遠回りじゃないですか」
私がそう聞くと、彼は心配だからねと私の手を握った。
彼の手は、氷の様にとても冷たかった。
そっと握り返すと、彼は私の顔を横目で見て少し笑った。
「先輩は心が温かいんですね」
「明乃ちゃんは心が冷たいの? 」
案外そうかも、と答えるとそっと彼は手を離し頭を撫でた。
「俺らお似合いじゃん。冷たい同士」
彼はそう言って微笑む。今までよりずっと優しい笑みだった。
私は彼の横顔をちらりと見る。彼が何を考えてるか知りたかった。
いつも彼の心が遠くにあるような気がして、不安な自分がいる。
焦げ茶な髪に、ある程度焼けた肌、すっと通る鼻筋、長い睫毛。
血色の良い頬と唇。彼に不潔な所は一切なかった。
整い過ぎた彼の顔立ちは私には勿体無いとそう思える。
「人の顔じろじろと見てどうしたの? 」
彼は私の視線に気づき、笑った。
「綺麗な顔立ちで、よく笑うなーって」
彼に釣られて私は笑ってそう言うと、照れくさそうだった。
「改めて、好きだよ」
彼は小さな声で言う。散々聞いた言葉なのにそれでも嬉しかった。
「知ってますって」
私は、出来るだけ悟られないようしっかりと答えた。
バスが目的地に着いて私たちは降りる。
握りあっている手には汗が滲んで隙間に風が入った。
もう目的地に着く頃には夜を既に迎えていて、暗かった。
「明乃ちゃんこっちだったよね」
そう曲がり角を指差した。以前彼が私の自宅に来たのを思い出す。
「そうですが……何で家知ってたんですか? 」
前々から思っていた疑問をぶつけると彼は小首を傾げ話し始めた。
「あれ、言ってなかったっけ? 明乃ちゃんの家の近くだからさ
婆ちゃんの家が。実家自体は真反対だけどね」
その後彼はつらつらと、私のことを祖母がよく褒めていたとか
色々“彼の環境の話”をしてくれた。
今まで自分のことを打ち明けてこなかったから正直驚きはした。
だが私は、彼がやっと心開いたのだと思って追求はしなかった。
「____明乃ちゃん聞いてる? 」
ぼんやりとしていると彼は私の顔を覗き込んでそう聞いた。
「ああすみません……ぼんやりとしてました」
そう言って私が笑おうとすると頬を抓られた。
「顔色悪い。貧血とかじゃないの? 食事取ってる? 」
彼は物凄い勢いで話し始めて、私を叱る。
電灯の下だったからか顔がはっきり見えたようだった。
彼の顔もはっきりと見え、心配そうな顔をしている。
「可愛いんだから血色悪いのは勿体無い」
彼はそう言って、話を戻しいつも通りになった。
「な、何で心配するんですか?
何で私のこと好きになってくれたんですか? 」
叱られるという行動に慣れ無さすぎて私は彼に問う。
「明乃ちゃんだから心配だし
明乃ちゃんだから好きになった。これが答え」
彼はそうしれっとした顔で言い、私の手を取った。
ずっと私は一人だった。
幼い時から“お姉ちゃんなんだから”の言葉を何回聞いただろう。
中学に上がっても変わらなかった。
「妹は部活で優勝したのにお前はなんで出来ない。
どうしてテストの結果が悪い」
追い詰められて精神が潰れてしまいそうなくらい家が嫌いだった。
姉なんて好きでなったわけではないのに、姉としての
義務を押し付けられるのは違うと思う。
妹と比べて私はあまり可愛くはないけれど、そこそこ頑張った。
けれど頑張っても頑張っても頭ごなしに否定される。
「全然頑張ってない。その程度の頭なのか」
父親の言葉がどんなにやる気を削いでいくかきっと分かってない。
「お姉ちゃん……大丈__」
「大丈夫なわけ…………ないじゃん。
千代乃のせいだよ千代乃が出来が良すぎたんだよ」
妹に八つ当たりしたことなんて何回あったんだろう。
深夜まで勉強していたのを横目で見て、頑張りを知っていた筈なのに
「その程度」で済まされるのは何度目だろうか。
悔しくて、泣いても喚いても私が悪い扱いを受けて、
妹はただ気まずそうに怯えきった目で私を見るんだ。
一個しか変わらないけど妹は可愛い。でも
それが私には辛すぎたんだ。
だから、私を褒める君を見てとても驚いた。
「明乃ちゃんは可愛いよ」
なんて頭を撫でて言われたこと一度もなかったんだから。
きっと君に恋に落ちたのは、体育祭のあの沸き上がる様な
わくわくと、君に褒められたことから始まったんだと思う。
今見上げている空はどんな色だろう。私の目に写るモノと同じ青色なのかな。
「____明乃ちゃん。空が綺麗だよ」
ああ、そっか。隣に居るから見える景色も同じだったね。
「素敵な青空を圭先輩にもっと見せたいです」
私がそう言ったら君は、笑った。
第一話 君と私の話 end(タイトル忘れたまま進行してました)
第二話 日向と影
私の好きな人は明るくて弱い所を見た事が無い。
「____でさーあいつがさー」
けらけらと笑顔を零す彼は素敵だと思う。
でも時折何故か、彼を見ると分からなくなる。
二人でいるとき、ふと見ると凄く寂しそうな目をするんだ。
__今もそう。
「どうしたの? 」
私がそう聞くと一瞬驚き、また笑う。
「何そっちこそどうしたのー」
「私、圭先輩のこと何も知らないですよ」
曇った表情を浮かべて彼は、ごめんねと言う。
「先輩。私…………彼女ですよね? 」
声にするとじわじわと涙が溢れていく。
彼は屈み、困ったような顔で私の顔を覗き込む。
頬に流れる涙は彼の親指で拭われた。
「泣かないで笑ってよ」
宥められる度にまた涙が溢れて、きっと私は重く面倒臭い女だ。
「……先輩のことをもっと知っちゃ駄目なんですか?」
そう問うと彼は、駄目じゃないよと微笑んだ。
「ただ、今は話せないんだよごめんね。絶対いつか話すよ」
少しの沈黙が流れ、風がざわめき髪を揺らす。
「約束。しよ」
「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます」
彼は小指を差し出して私の小指に絡ませて歌う。
聞いたことにはなんでも答える彼が言葉を濁したのは
今までなかった。
でもそれを探った今、私は嫌な予感がする。
「今の関係が崩れませんように」
私は立ち上がって彼に聞こえない程度の声で呟いた。
強い風が吹き、木の葉がガサガサと擦れるような音がした。
「寒くない? 」
そう問うのは“彼”じゃなくて、同窓生の上城という少女だった。
「ほんと寒いよねー」
受け答えながら私はタイマーを横目で見ていた。
今は体育の授業で、あと二十分位で鐘が鳴る所だった。
「あーあ早く終わんないかな。見学寒いし」
上城は溜め息をついて、自分の体をさすっていた。
確かにもう冬は近いと実感をさせられるような寒さだった。
ふと、朝見慣れたテレビ番組の天気予報士の言っていた、
“今年一番の寒さ”という言葉を思い出す。
空を見上げると、暖かさの欠片もない曇り空だった。
「見学ー喋ってないでちゃんと記録しろよー」
走り終わった男子達は赤く頬を染めて、息を荒げながらそう言う。
「記録してますー」
頬を膨らませながら上城は答えた。
走ってもいないのに上城の頬は少し、赤くなっていて
彼らが少し離れた後両手を頬に当てていた。
彼女は恋をしている少女、の典型的な子だった。
「好きな人あの中にいるんでしょ」
私がそう聞くと、彼女は少しぴくりと動き驚いた顔で私に尋ねた。
「何で、生瀬さん分かる……の? 」
「分かるから」
彼女は嬉しそうに微笑んで、仲間がいたと呟いていた。
「生瀬さんは好きな人誰? 」
思い出した様に私を問い詰めて、目を輝かせる。
「…………三年の先輩」
私がそう言うと、そうなんだと満足そうにまた笑った。
体育座りをする彼女とタイマーを片手に恋愛の話をするのは
どこか新鮮で、嬉しいような気がした。
今まで隣にいるのはずっと、あの人だったから。
淡い水の泡がぱちぱちと弾けた。
ずっと暗い、海の中で藻掻くこともせず体はただ沈んでいく。
少しずつ遠くなっていく陽の光を私は呆然と眺めていた。
「____きて。起きて、お姉ちゃん」
だんだん鮮明になっていく声と視界。
「……ごめんね。千代乃、今何時? 」
「九時。お風呂も入らないで寝ちゃったから……」
どうやら家に帰ったあとに眠りこけていたようだった。
「……うーん。先入ってていいよ。
ぼんやりしていたいし」
私はそう答え、妹は心配そうな顔で部屋を出ていった。
ここのところいい夢、というのを見ていない。
どこか嫌な予感しかしないのだ。
嵐がくる寸前の曇りがかった空、という心境だ。
体調は良いのに気分がどこか盛り上がらない。
「……何も起きませんように」
携帯を片手に起こした体を仰向けに倒して、天井を見る。
真っ暗な部屋で夢で見た光景と少し似ていた。
手を天井に伸ばして掴む仕草をしてみる。
その行為に何かがあるわけでもなく、意味はない。
「私は彼の何を知っているのだろう」
言葉にすると、悲しみと虚しさが込み上がって視界が涙で滲んだ。
____足が浸かるほどの雪が降った。
余りにも白すぎる世界に目が眩んでしまいそうだった。
ほんのりと赤くなる耳と頬、鼻先を見ると冬が来たと感じる。
「寒いなー」
当然の様に彼は隣にいてそう零した。
雪のせいか田舎なせいか周りに人はいない。
冷ややかな手と手が絡み合う感覚に私は、
春が来ないで欲しいと願ってしまった。
九時に駅のホームで待ち合わせ、と彼から連絡を受けたのは
昨日のことだった。
新作の映画を見に行こうという内容だったので承諾した。
遠出というのは彼としたことはなかったので、わくわくして私はその日眠りについた。
朝、身支度をしていつもより気合を入れて服を選んだ。
時折部屋を訪ねてくる妹に確認しながら、一時間くらい悩んだ。
結局妹に選んでもらい、家を出た。
降り積もった雪は、近所の人により端に寄せられていて
歩けるようにはなっていた。
待ち合わせの駅まで学校で使うバスとは反対のバスに乗る。
「……大丈夫かな先輩」
そう呟きながら人気のないバスの窓をぼんやりと眺めていた。
ある日の空は随分と曇っていた。
あの日あの時までは雨はふっていなかったんだ。
同級生と私の好きな人が当然のように手を繋いでいるあの瞬間を見るまでは。
「____優希ちゃん……?」
私に気づいたあの娘のか細い声が耳を劈くんだ。
うるさいな声をかけないで、耳を塞ぎたかった。
「優希? 久しぶり」
そう平然と、あの娘こ隣にいる私の元彼というやつは
笑って手を振っていた。
どうしたの、なんで泣いているの、優しい声色で私を
拾ったあの日の記憶が蘇る。
別に今は幸せだよ過去なんて気にしてないよ、なんて言えなかった。
もう既にあの二人は呆然と立ちつくす私を置いて去っていったのだから。
「__報われないことくらい分かってる」
そう言い聞かせないと何だか泣きそうだった。
雨が降った。高いビルに囲まれた狭い空から。
「……どうせ、ね。隣にいれないことくらい
最初から知ってたのにね。期待してしまったみたい」
私はにげるように人通りが少ない路地裏にうずくまった。
ああ、見られたくない。
「さあ行こう? 映画間に合わないし」
あんな怒りで満ちた目で級友から睨まれるなんて死んでも御免なのに。
どうして隣にいる彼はあんなに余裕があるのだろう。
冷えた真冬の風が首元の隙間から入り込んで、
物理的にも、精神的にも凍ってしまいそうだった。
私の彼はきっと鈍いんじゃなくて、全部計算し尽くしているのだろう。
「飲み物、何がいい? 」
そう私に好みを聞いて、私に合わせてしまうところも、
きっと全部計算し尽くしてでの行動なのだと思う。
映画館の受付の人は業務用の笑顔を浮かべ、ごゆっくりと私たちを見送る。
「あと何分? 」
「七分ですよ。間に合いましたね」
私がそう答えると、彼は安堵の表情を浮かべた。
座席に座り、ただ映画が始まるのを待っていた。
「さっきの子さ____」
彼が少し居心地が悪そうに話を切り出した。
「元カノ、ですよね? 」
そういうと、ああと頷いて一口飲み物を飲んだ。
「別に、怒りませんよ私は。
ただ、優希ちゃんのあの目が怖かっただけです」
彼の言いたいことはなんとなく分かっていた。
「ごめんね」
彼は自分が悪くなくても謝る癖があるのをきっと自覚していない。