切支丹物語

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1:のん:2015/04/26(日) 23:41 ID:NSs

 これは、私の大好きな本白狐魔記に影響されて書いています!ド素人です。
注:誤字があるかもしれません(汗)
  ・歴史が多少ひん曲げられております!実際にいない人とか。
  ・江戸時代の地名とか、(特に九州)教えてくだされば嬉しいです!     (地名間違ってたら指摘をお願いします)
  ・感想とか、お願いします(荒らし以外)酷い事は、言わないでください・・分かってるんで・・
  ・初めてで色々とやらかします!ご了承・・・。後、夜に書きます! 
   (完結しなかったらごめんなさい!でも頑張ります!)
  

101:のん:2015/05/21(木) 18:55 ID:NSs

益田時貞
 首から銀の十字架をさげたキリシタンの少年。武士の子。十一歳。髪は茶色だが、南蛮人ではない。姿は、戦国IXAのかんじ。←戦国IXAの時貞、超カッコいいからぜひ検索してみて!

聯柁敬斗
 キリシタンの少年。十一歳。武士の子。姿は、千と千尋のハクのような感じ。背中に妖しげな模様のはいった横笛を背負う。狐の面を頭の横につけている。

102:のん:2015/05/21(木) 23:24 ID:NSs

 島原藩の武士達は、談笑などをしながら瑠璃の家へと続く丘を進んでいた。
「これで、我らに刃向かえばどのような事になるか、キリシタン達に見せつけられようぞ。」
武士の一人が言った。
「有家のキリシタンの村は、我らの担当ではなかったからな…。」
「まぁ、今回の事で上様も少しご機嫌が良くなるだろう。」
「あの小娘はどんな顔をするかな。」
そこで、武士達はどっと笑った。
武士達が瑠璃の家の近く、あの松の木の所へ着いたときだ。
「こんにちは〜。」
「うおっ!!!?」
いきなり武士達の真上にあるから、すたっ、と少年が飛び降りてきた。しかし無様に転ぶ事もなく、片膝をついてすぐに立ち上がる。そして武士達の顔を見ては、にこっ、と笑った。
「…!!!?あっ!!お前は、あの時の笛吹きのガキか!!!」
しばらくして、我に返った武士の一人が叫んだ。
「そうさ!なぁ、なぁ、島原藩の暇人共、俺と遊ぼうよ!いいだろ?!なぁ!」
少年、敬斗は頷き、言った。
「くそが…このガキ、なめてくれる…。見たところお前は、貴族の子か?歌でもよんでればいいものを。」
「いいや!俺は、武士の子だよ!」
その答えに、武士達は少し驚いた。
「何だと?何家だ?」
敬斗は、少しいたずらっぽく笑った。
「うーん。ちょっと秘密。あんたらにはね!」
島原藩の武士達は、何か言おうとしたが、ふっと笑った。
「まぁ、よい。それが真であろうがなかろうが、非があるのは、お前達だ。我らが罰せられる事はなかろう…。」
そして、刀を抜いた。武士達は言った。
「可哀想だが、お前にはここで消えてもらう。短かったな。」
敬斗は少し興奮したように言った。
「お?何だ、俺と遊んでくれるのか?!いいのか?俺は強いぜ!!なぁ!!」
「覚悟!!!」
武士達は一斉に敬斗に突進してきた。
「じゃあ、俺も…楽しんじゃうよ?」
そして、敬斗は背中の横笛を筒から抜いて、構えた。

103:椎名:2015/05/22(金) 19:15 ID:bs6

>>のんs

小説読ませていただきましたぁ!!
なんていうかドキドキする小説でした!
玲もとても強い少女で幼いけど自分の意思をしっかり持ってて…キリシタンを貫き通して…カッコいいなと思いました!!

小説も、それぞれの登場人物が活きる書き方で読みやすいし面白かったです!!

はっ!!上からですいません!!
でも本当にほーんっとにすごいです!
私には絶対できないようなレベルの高い小説だと思います!!

これからも頑張ってください!!

104:のん:2015/05/22(金) 22:31 ID:NSs

椎名様
ありがとうございます!!私もこれからちょくちょくそちらに感想を書かせていただきます(`∀´〃)
これから、面白い歴史小説が書けるよう努力したいです(笑)
さてさて、今から更新します!

105:ゆうま◆gc:2015/05/22(金) 22:35 ID:Lig

俺が読みたかったのはこういうなんともいえない作品だぁぁぁぁのんsファンになりそうですね!!

106:のん:2015/05/22(金) 23:11 ID:NSs

「おっと」
武士達の刀を、敬斗は笛を構えたままひらりと避けた。武士達は少し驚いて言った。
「これを避けられるとは…やはり、お前はただのガキではないのか…。」
「まぁね!…ちょっと失礼!」
敬斗はにいっと笑って、あの高い松の木の枝にひょいと飛び乗った。
「?!!!!!!!」
人間ではとても飛び上がれないような高さの所へ飛び乗ったのだ。武士達は目を見開いて、言葉を失った。
武士達がぽかんとしている間に、敬斗は松の木の枝の上に立って、遠くを見つめた。
「なぁ、時貞…。今どっかで見えてるんだろ?じゃあさ、雑魚は俺に任せてよ。時貞は、例の準備を頼むぜ!」
「おい、卑怯だぞ!!降りてきて、正々堂々と勝負だ!!」
下から、武士達が叫んだ。
「はいはーい!今行くよ!でもその前に…」
敬斗は構えた笛を吹き始めた。
ピロリーフーフー、ピロリー……
「?!何だ?!今度は体が勝手に…!やめろ!この!!おい!!!」
武士達が躍り始めた。三回回って手を叩く。それは、彼らの意思と関係無く、敬斗が操っているのだ。
敬斗はたまらず、松の木の上から武士達を指さして大笑いをした。
「ははははははっ!!何て間抜け面だよ!!なぁ、時貞、見てるか?!なぁ?!」
しかしそのせいで、笛を止めてしまったのだ。
「…はあっ…はあ…。このガキめ…目にものを見せてくれる……。」
武士達はやや殺気のこもった目で、敬斗を見上げた。
「あ……」
敬斗は少し焦ってもう一度笛を構える。
ピー、フーフー……
「のるか!!!」
しかし、武士達はすぐさま両手でみみをふさいでしまった。
「あーあー…またやらかした…。」
敬斗は自分に呆れたように呟いた。
「よっと…!」
そして、一気に木の上から飛び下りる。武士達は、敬斗に刀を向けた。
「うーん…。ちょっと怖いけど、影丸で勝負だな!すっごく怖がらせて、コイツらが逃げれば問題ないさ!」
敬斗は独り言をぶつぶつと言った。そして決意したように腰の小刀、脇ざしを抜いて、体の前で構える。
「ふん…剣で、我らに勝てるはずもなかろうに…。ましてや、そんなちっぽけな脇ざしならな!」
「うん!!頑張るよ!!」
敬斗は、頭の横につけた、狐の面を顔の前に移動させた。
「面、装着!!よし!いくぜ!!!」

107:椎名:2015/05/22(金) 23:23 ID:bs6

>>のんs

なぁ〜!!!
そこで終わるってズルいですよ〜ww
めっちゃ続きが気になる〜!!

頑張ってください!!

108:のん:2015/05/22(金) 23:50 ID:NSs

うおっ、風呂上がりで!いきなり嬉しいです!!
いや、敬斗は個人的にも気に入っているキャラなので、ここで存分に暴れさせたいです!(笑)
裏切りと小さな光、更新楽しみにしてます!!

109:のん:2015/05/23(土) 18:10 ID:NSs

ゆうまさん、ありがとうございます!!
これからも頑張りますので、よろしくお願いしますね!!

110:のん:2015/05/23(土) 19:07 ID:NSs

十四
 島原藩の武士達は、訳が分からなそうな顔をした。
「…?このガキ、何のつもりだ?面など顔に着けたら、前が見えないはずだが………。」
武士達の一人が、少しかっ、となって言った。
「お前、さては我らを見くびっているのだろう!!!ただでさえお前の武器は脇差だというのにな!もういい、思い知らせてくれる!!!」
それが合図だったかのように、武士達は敬斗に刀をふりかぶった。
「よし!影丸、いくぜ!!!」
敬斗は、その場から武士達の背後へ、ばっ、と中返りをして避けた。
「……!!くそ!!!!」
武士達は後ろを振り返る。敬斗は、一人の武士まで一気に距離を詰めた。
「ぐっ……!!!」
武士は慌て脇差『影丸』を、刀の刀身で受け止めた。
「なぁ、なぁ、もっと、俺と遊ぼうよ!!!なぁ!!」
敬斗は今度は他の武士も狙って、そのような事を繰り返した。そして、武士達の攻撃は中返りで避ける。
「は、ははははははっ!!!なんだよ、あんたらつまんなくはないな!!」
敬斗は、狐の面の下、不気味に笑っていた。武士達は後退しながら、焦りの表情を浮かべた。
「こ、こいつ!!速すぎる!先ほどから、不気味な笛は吹くし…!!本当に人間なのか?!!!」
その言葉に反応して、敬斗はぴたりと動きを止めた。
「いいや…。俺はさ、化け物なんだ…。俺、は…もう嫌だ。」
狐の面の下で、悲しそうな顔。敬斗はそれっきり黙った。
「…?何だ?!こいつ…。」
武士達が恐る恐る近づいても、少しも動かない。
「…何だ?我らを恐れたのか?!…おい!!返事ぐらいしろ!!」
武士の一人が、敬斗の面を取ろうと手を振り上げた。
「うわっ!!」
武士が手を振り上げたのと、敬斗が我に返ったように、影丸を前につき出すのは同時だった。
「!!!………っ!!」
武士は、敬斗の面を顔から外し、手で持ったが、影丸の刃に手を少し斬ってしまったのだ。武士の手の甲から、赤い血がどくどくと溢れでる。
「おい、大丈夫か?!!」
慌てて数人の武士達が、その武士に駆け寄った。
「ああ、たいした事のない…擦り傷だ……。……っ!!」
しかし痛むのだろう。たまらず、武士は手から狐の面を落とした。
ガコン。
面の落ちた音がする。

敬斗は、黙ってその場に、立っていた。

111:のん:2015/05/24(日) 23:08 ID:NSs

 敬斗は手から、影丸を落とした。
その音で、武士達は敬斗の方を見た。
敬斗の体は、がくがくと震えている。
「…?本当に臆したのか…?」
武士がそう言った時。
「あなたたちは…ケホッ!!だれ?!」
不気味な静寂の中、少女のかすれた声が響きわたった。
声がしたのは、家の側。武士達はそちらを見上げた。瑠璃だ。長く休んで、体力が少し回復したのだ。またよろよろとしてはいるが、家の壁に片手をついてなんとか立っている。
「おい、あれは例の小娘ではないのか?」
「よせ!今はこのガキから目を離しては危険だ!!」
武士の一人が瑠璃を指さし、そう言ったが、他の武士に止められた。
「…コイツ、意識はあるのか?」
敬斗が何も言わず、ぴくりとも動かないので、武士の一人が恐る恐る敬斗の顔を覗きこんだ。
敬斗は、ただ一点を見つめ続けていた。その視線の先には、先程の手に怪我をした武士がいた。敬斗は、血が流れる彼の手の甲を、ただ、ただ見つめている。
敬斗は、大量の涙を流れてしているように武士には見えた。だが、よく見るとあれは涙ではない。血だ。大量の血が、敬斗の目から流れ出ているのだ。
「………ひ…ひいっ!!!」
思わずその武士は後ずさりをした。
「ああっ!!お、思い出したぞ!!!このガキは……!!」
突然、武士の一人は叫んだ。
「……何だというのだ……?」
仲間の武士がたずねる。彼は、続けた。
「れ…聯柁の鬼子じゃないか……」
「は?」
武士達が、訳の分からなそうな顔をしたので、その武士は震える声で言った。
「お前達も、その名を聞いた事くらいあるだろう。京の都近くに住み着く武士の家、聯柁家だ。妖しい笛を吹き、人間を意のままにさせる能力。並み外れた身体能力。これらを合わせ持ち、主にも重宝されていたのだが……。」
武士は一度、言葉をとぎらせた。
「全員キリシタンだった事。それと…不気味な噂が幾つもあったので、同じ主に仕える者同士嫉妬していた家臣数名に、家を燃やされたそうだ。」
別の武士が言った。
「鬼子…そうか!その後、唯一猛火をくぐり生き残った聯柁の末子。奴を仕留めにきた数名の武士を次々と殺したそうだな…。そ、その血を飲んだ…とか……。」
ぞっとして彼らは、一斉に敬斗を見た。

112:のん:2015/05/26(火) 00:54 ID:NSs

 敬斗は、大量の涙の様な血を目から流し続けていた。
「コイツ…目からち、血が!!」
敬斗の顔を覗きこんだ武士が、声をあげた。敬斗は、ただ武士の手の甲から流れる血を見つめていた。
が、次の瞬間。
「!!?ひ、ひいいぃっ!!?」
手に怪我をした武士が悲鳴をあげた。
「どうした?!!」
他の武士も、一斉にそちらを向く。
「!!!!?なっ!!!」
手に怪我をした武士が、地面に仰向けに倒されていた。武士を押さえつけているのは、敬斗ではないか。敬斗は、武士の額に自分の額を押しつけた。そして、怯えきったその目を合わせる。
敬斗が声を出した。
「血………血だ!!!…お前……の血を…俺……に……」
その開いた口からは、異様に尖った牙のような歯が見えた。大量の唾液と涙の様な血が混じりあい、武士の顔面に垂れた。
「ひ……ひいいいぃぃっ!!!」
周りの武士達は、あまりの出来事に声すら出す事ができないでいた。
その様子を見ていた瑠璃が、とうとう泣き出した。
「うあああああぁぁぁん…ケホッ!!」
敬斗は、突然その武士の顔面近くで吠えた。
「ガアアアアアアァァァッ!!!」
その吠え声は、人とは思えぬ、化け物の様なものだった。
ドサッ…ドサッ…ドサッ……
その吠え声の凄まじさに、その武士はもちろん、周りにいた武士達まで全員、次々と気を失った。
敬斗は押さえつけた武士の首筋に、不気味に笑った顔を近づけた。そして牙の様な歯で、噛みつこうと口を開ける。
「ああああああぁぁぁ!!おかあさぁぁん!!!」
辺りには、化け物の低いうなり声と、瑠璃の泣き声が響いていた。

113:のん:2015/05/27(水) 00:54 ID:NSs

十五
 玲は、『光』を夢でみた事がある。
それはとても明るく、あまりにも眩しくて、目をつぶっている内にその夢は覚めてしまった。玲の世界は、いつも通り真っ暗。真っ暗なのだった。
『光』は、夢でも一度しか見た事がない。
見えなくても、感じた事なら何度もある。百合や瑠璃、時貞、敬斗と一緒にいる時だ。玲の心には、はっきりとした『光』があった。
瑠璃は、玲の心を照らす『光』だったのだ。その瑠璃が今、玲のせいで島原藩の武士達に殺されようとしている。百合が必死の思いで、もうすぐ戻ってくるというのに。
時貞と敬斗は、瑠璃を助けに行ってしまった。確かに敬斗の実力は知ったが、まだ十一歳の子供が大人の武士達相手に勝てるはずがない。二人とも相手が全力で戦えば殺されるだろう。
それもこれも、玲のせいだ。
「…………。」
玲はよろよろと立ち上がった。
今から行けば、間に合うかもしれない。自分を殺せば、武士達の気が収まるかもしれない。そう思ったのだ。
玲はあの丘を目指して、駆けだした。

「うああああああぁぁん!!おかあさぁぁん!!!」
瑠璃は泣き叫んだ。敬斗の目は、黒から赤へと変化していた。敬斗は牙で武士の首筋に噛みつこうと口を開けた。
「はぁっ、はあっ、はあっ…!!」
丘を、風の様な速さで走ってこちらに来る少年が一人。頭の後ろ、下で縛った珍しい茶色の髪を揺らしながら、敬斗の所へ向かっている。
「…!?ガアアアアァァッ!!」
それに気付いた敬斗は、獲物を横取りされるのを警戒する様に時貞に吠えた。空気がビリッとうなる。だが時貞は少しも反応せず、ただ敬斗の近くまで走ってきた。
「……こ、のっっ!!!」
そしてしゃがんでいる敬斗の頭に、強烈な飛び蹴りをくらわした。
「!!!ガアァッ!!!」
敬斗の首の骨が、鈍い音をたてて折れた。敬斗は倒れた。そのままぴくりとも動かなくなった。とたん、瑠璃が泣き止んだ。
「……ふぅっ」
時貞は呼吸を整えながら、少し離れた所にいる瑠璃を見た。
「…大丈夫か?」
そして、にっこりと笑ってみせた。
「……うん。ケホッ、ケホッ!!お兄ちゃん。ケホッ!!ありがとう。」
瑠璃は咳き込んだが、なんとか言った。そして、もう一言。
「……でも、そっちの化け物お兄ちゃんが、首の骨が折れたの。死んじゃったのかな?」
「いや、コイツは大丈夫だ。」
ぴくりとも動かない敬斗を見下ろしてそう答えた時貞は、少し悲しそうに聞いた。
「敬斗は…やはり、化け物かい?」
「え?」
瑠璃が言った時だ。
「…ウエッ!!ゲホッ、…ゲホッ!!」
敬斗がむせりながら起き上がった。
「ひっ!!!」
瑠璃が、怯えて時貞の後ろに隠れた。
敬斗は、まず時貞を見た。

114:のん:2015/05/28(木) 22:45 ID:NSs

テストなので、明日から再開しますね
('∀'〃)

115:のん:2015/05/29(金) 22:24 ID:NSs

今から書きます。

116:のん:2015/05/30(土) 14:00 ID:NSs

ごめんなさい、昨日時間無くて!
今日の内に本当に書きます!今まで毎日更新てたのに〜(´^`〃)

117:のん:2015/05/30(土) 18:13 ID:NSs

あれ、全部消えてる?!!!

118:のん:2015/05/30(土) 19:02 ID:NSs

 見れば、首の骨が折れた様子などない。
敬斗は時貞を、むせりながら、訳が分からないという顔で見た。
「ゲホッ!…?時貞?…何で、俺…はここにい…る…の…?」
時貞は、言った。
「これだから、お前一人に任せるのは不安だなのだ。…。」
敬斗は、気持ちを落ち着かせるように辺りを見回す。
「思い出したか?」
時貞がたずねた。それと同時に気絶して転がっている島原藩の武士達に気付くと、敬斗の顔は一気に蒼白になった。敬斗は叫んだ。
「!!!そんな!もしかして…俺…は…また?!!」
時貞が何か言うより早く、敬斗は頭をかかえてしゃがみこんだ。その脳裏に様々な声がよみがえる。

ある声が言った。
『いいか?敬斗。我ら聯柁家は、”化け物なのだ。こころして聞けよ。』
別の声は喋る。
『血だけは、見てはいけぬぞ。』
それからは、一言ずつ違う声が聞こえた。
『鬼笛、か。人とはなんとも単純なものだ。あの事に気付いたのは、この世に聯柁家が一つ。』
『ここ、までか。 』
『お前だけは生きろよ。』
『これ…で、パライソ…に……』
『敬斗…あ、兄…か…らの、最後…の頼…み……だ……』
『探せ探せ!!聯柁の鬼子を探せ!!』
『…ひっ!!…ば、化け物!!』
『都を騒がす悪党め!!俺が討ち取ってくれる!!』
『地獄へ落ちろ。』
『血は、うまいか?』
そこで、脳裏の敬斗は絶叫した。
『ガアアアアアアアアアァァァッ!!』

「にいさまは…?に…い…さま…が…い…ないよ…」
うわ言のように呟く敬斗に、時貞は怒鳴って聞かせた。
「敬斗!!!落ち着け!!それは、ずっと昔の話だ!お前の兄は、死んだのだろう?!」
敬斗は頭をおさえたままだ。
「…にいさまは、死んだのか………そうか……」
時貞は続けた。
「大丈夫だ。その武士達は、死んではいない。」
「…え?」
ふり向いた敬斗に、時貞は繰り返した。
「大丈夫だ。」
「……俺は…化け物なんだ…」
敬斗は悲しそうに呟いて、涙のような血のあとを腕でごしごしと擦る。そして顔をあげると、瑠璃に気付いて、瑠璃と時貞ににこっ、と笑ってみせた。
「ありがとう」
敬斗は、嬉しそうに言った。

119:のん:2015/05/31(日) 18:44 ID:NSs

「うえぇぇぇぇぇぇ…ん!」
突然瑠璃が泣き出した。どうしたのかと時貞が訊ねると、瑠璃は言った。
「うぅっ…ひっく、化け物のお兄ちゃんが笑ったー…怖いよぉ…うえぇぇぇん!!」
敬斗は慌てて言った。
「えぇっ?!あ、あっ!!ごめんな、泣かないでよ!!…あっ、そうだ!!」
敬斗は、何か思いついた様な顔をして、瑠璃に言った。
「なぁ、なぁ、悪かったよ!謝るからさ、聴いてくれない?」
敬斗は、横笛を構えて吹き始めた。
フー、フー、ピーピー…
するとどうだろう。明るい笛の節と共に、辺りには綺麗なすみれなどの花達がたくさん咲き出した。もう季節が終わったはずのホトトギスまで鳴き始めた。そのさえずりで、瑠璃は顔をあげた。
「わあぁ!」
瑠璃は花達に気付くと、泣き止んで歓喜の声を小さくもらした。
敬斗はそこで吹くのを止めた。
「…あ、ああよかった!」
敬斗はほっとした様に言った。敬斗を振り向いた瑠璃は、笑顔になった。
「すごいなぁ…!やっぱりお兄ちゃんは化け物じゃあなかったよ!こんなすごい事ができるなんて!」
瑠璃はそう言って、目を閉じ歌い出した。
「す〜み〜れ〜、地にさけば〜春が〜くる〜。富〜岡、城下に、ひ〜ばり、鳴くー…」
時貞は瑠璃に言った。
「咳は、大丈夫かい?」
瑠璃は歌を止めて、時貞を見る。
「あれー?おかしいな、さっきまでとっても体が熱かったのに!!」
瑠璃は不思議そうに首をかしげる。だが、すみれを見つめながら言った。
「まぁ、いいや!!茶色のお兄ちゃん、助けてくれて、ありがとうございました!!」
時貞はうん、と頷いて笑った。そして敬斗を向く。
「では敬斗。さっき見たお前の事、私達の事、玲やこの子の事。それらをこの者達の記憶から消すぞ。」
「うん!…ごめんね、時貞も。」
時貞はのびている島原藩の武士達に歩みよった。そして片手を彼らに向けてあげる。
「主よ。私にお力を与えたもうて。Eli…」
そのあと時貞は目を閉じ、何かを呟いて祈る様な仕草をする。
しばらくして、時貞は言った。
「………。よし。もういい。敬斗、頼む。」
「ああ!」
敬斗は再び横笛を吹き始めた。
ピロリロリー!ピー!!
音の強い節だ。
「うっ…ううーん?……」
武士達がうめきながら起き上がり出した。そして、時貞と敬斗、瑠璃に気付く。
「あ…れ?俺は何を…?」
武士達は呆けた様な顔で、周りを見回した。時貞は静かに言った。
「そなた達に、少し見せてやらなければいけない事がある。」
その声に、武士達は皆時貞を向いた。敬斗は横笛を吹くのを止めた。にいっと笑って時貞に言う。
「なぁ時貞!例のアレを頼むよ!!」
時貞は頷き、呆然とする武士達に向けて、大きく両手を真横に広げた。そして叫ぶ。
「くらえよ!!!轟震天!!!」
時貞の頭上に、とてつもなく大きな水の玉が、荒れ狂う稲妻と共に浮かんだ。
「…う、…ああっ?!!!!」
武士達は完全に腰を抜かして、その場にへたりこんでいる。瑠璃は大きく目を見開いた。時貞は武士達に、にこっ、と笑って、一言。
「punish.」
稲妻と、巨大な水の玉がゆらりと揺れる。武士達は絶叫した。
「うああああああぁぁぁ………っ!!!」
ドッゴーンッ!!!!!!!
次の瞬間、大量の水と稲妻が轟音と共に、武士達に降り注いだ。

120:のん:2015/06/01(月) 23:05 ID:NSs

十六
 「ぐ…あ、あ…ああっ……」
武士達は、その直撃を受けてひっくり返っていた。中には再び気絶している者もいる。時貞はその様子を見下ろしていた。敬斗はといえば、黙って肩を震わせている。瑠璃は、雷が落ちた辺りの砂に興味がいったようで、そこをぺたぺたと小さな手でたたいていた。
少しして、時貞は静かに言った。
「………去れ。」
その声に、武士達は我に返って後ずさりした。恐れの表情で時貞を見上げる。
「……ひ、ひぃぃっ…!!」
なんとか起き上がれる武士達がいた。そして、どこにそんな余力があったのかという力で、気絶している武士達を背負うと、一目散にその場から逃げ出していってしまった。
「…くっ。は、ははははははっ!!」
武士達が見えなくなると、急に敬斗はこらえていたのか、けたけたと笑い出した。
「なぁ、なぁ、見たかよ?アイツらの怯え様!!あれは見ものだぜ!!」
時貞は少し呆れ気味に言った。
「誰かのせいでうまくいくか不安だったけどな。」
敬斗は、またにいっと笑う。
「まぁ、うまくいったから問題ないさ!!なぁ、なぁ、時貞!!」
そう言って、時貞に片手をつき出してきた。
「………まったく。」
時貞は、ぱしっ、とその手を片手で叩いた。

丘を、音を頼りにかけ上がってくる。首からは木の十字架をさげ、顔の上半分には目隠しのような包帯を巻き付けて、結び目がうなじから二本に別れている。キリシタンの少女が一人、玲であった。

121:のん:2015/06/02(火) 23:54 ID:NSs

 音を頼りに丘をかけ上がる途中、数人の丘を下る足音と声が玲には聞こえた。
「だ、だ、誰か、助けてくれぇぇぇ!!!」
その声は、島原藩の武士のものではないか。
「!?」
咄嗟に玲は警戒したが、武士達は玲になど目もくれず、一目散に丘を下って行ってしまった。
「・・・あれ?」
玲は立ち止まって首を傾げたが、それどころではないと思い直して丘を登っていった。

「はあっ、はぁっ、はぁっ・・・・・・」
玲は丘を登りきり、今はあの松の木より少し離れた所に立っている。荒い呼吸を整えていると、幼い子の声が聞こえた。
「・・・れい姉ちゃん?」
「!?えっ?」
ばっと顔を上げて、玲はその声が聞こえた辺りに走った。
「お!玲、来たのか!」
少年の声がした。敬斗ではないか。
「敬斗!る、瑠璃ちゃんは?!」
気持ちばかりが焦って、玲は気が気ではない。もう一人の少年の声が答えた。
「玲。この子の事か?無事だよ、大丈夫。」
時貞の声だ。
ぽん、と瑠璃が玲の腰に抱きついた。
「れい姉ちゃん・・・怖かったよー!」
玲は聞いた。
「瑠璃ちゃん?怪我は?具合は?」
瑠璃は元気良く答えた。
「うーんとね!どこも痛くないよ!体は、茶色のお兄ちゃんが来てからは苦しくも熱くもなくなったの!何でかなー?」
玲はへなへなとその場に膝をついて、声を漏らした。
「・・・よ・・良かったぁ〜・・・。」
玲は安堵のあまり、涙がこぼれてきたのを感じた。
「あはは!玲は泣き虫なんだな!」
敬斗が言った。玲は少し笑って訊ねた。
「時貞と敬斗が、瑠璃ちゃんを守ってくれたの・・・?」
敬斗が、少し誇らしげにうなずいた。
「そうさ!」
時貞が、瑠璃に言った。
「お前は瑠璃というのだな。玲が、この事を私達に教えてくれたんだよ。だから、お前は玲にお礼を言わなくてはいけないよ。」
瑠璃は笑顔で言った。
「そっか!れい姉ちゃん、いつもるりを守ってくれてありがとうございます!どんなにひどい事をされても、ずっと笑顔なれい姉ちゃんが、るりはだーい好き!!!」
玲は、見えない目で、瑠璃を見つめた。そして、涙で濡れた包帯を擦って言った。
「時貞も、敬斗も、瑠璃ちゃんも、百合さんも・・・本当にありがとう。」
そして、少し照れくさそうな笑顔で付け加える。
「・・・わたしの、光。」

122:のん:2015/06/03(水) 23:15 ID:NSs

「お前の母様が帰ってくるのだろう?心配するといけないから、お前はもう家にお入り。」
時貞が、瑠璃に言った。
「うん!…お兄ちゃん達。また、るりの所にきてくれますか?」
瑠璃は、時貞と敬斗に聞いた。
「もちろんさ!なぁ、時貞?!」
「ああ。」
敬斗が嬉しそうに答え、時貞も頷いた。瑠璃がぱあっと笑顔になる。
「じゃあね!」
瑠璃は家の中に入っていった。

「なぁ、なぁ、時貞。お前あの子の病気を治してやったんだろ?」
敬斗が時貞にたずねた。
「…さあな。」
時貞は少し笑って答えた。
「玲ももう帰れ。」
時貞が玲に言った。玲は我に返った様にうなずく。
「あ、うん。」
そして、最後に時貞と敬斗に深々と頭を下げた。
「時貞、敬斗。本当に、本当に、瑠璃ちゃんを守ってくれてありがとう!このご恩は一生忘れません!」
敬斗は慌てて言った。
「そんな!俺は、足引っ張ったんだよ?時貞さ!」
「敬斗も、玲のために一生懸命戦ったさ。私は、少し助けてやっただけだ。」
玲は、顔をあげて笑った。そしてもう一度繰り返した。
「ありがとう!」
時貞と敬斗は顔を見合わせて、お互いに頷いた。
「玲。」
時貞は、戻ろうとしていた玲に話しかけた。
「ん?」
玲は振り向く。時貞は続けた。
「明日、『花畑』へおいで。」

123:のん:2015/06/04(木) 23:00 ID:NSs

十七
 瑠璃が、時貞と敬斗、玲に命を助けてもらった日の夕方。
すっかり元気になった瑠璃は、母の帰りを待っていた。最初は正座だったが、待ちくたびれて壁に寄りかかる。
少しうとうとし始めた頃、戸口から人の足音が聞こえた。
「はあっ、はあっ、はあっ……る、瑠璃っ!!!」
ほとんど怒鳴る様な瑠璃への呼びかけと共に、母の百合が息を荒くして家へ飛びこんできた。
「……?あ、おかあさん!!」
瑠璃は目をこすりながらむっくりと姿勢を正した。百合はたずねた。
「瑠璃、具合は?!!!」
瑠璃が呑気に答える。
「うーん、少しも悪くないの。」
「大丈夫、今薬を飲ませてあげ……」
と、百合は言いかけて、百合は言葉をと切らせる。そして、瑠璃に抱きついた。
「うあわっ、お母さんどうしたの?!」
瑠璃が驚いて叫んだ。百合は涙を流しながら聞いた。
「瑠璃?本当に大丈夫なの?!!」
「う、うん!」
百合は瑠璃の頭を何回も撫でた。
「よかったぁぁぁ〜……本当に……」
目が覚めた瑠璃は、思い出した様に一気にまくしたてた。
「あのね、茶色い髪の毛のお兄ちゃんと、笛吹きのお兄ちゃんが、よくわからないけどるりを助けてくれたの!悪いおさむらい様達から!あと、玲姉ちゃんも!!」
まだ意味を全く飲み込めていない百合は、とりあえず黙って続きを待つ。
「お兄ちゃん達、すっごく強かったよ!あ、その茶色のお兄ちゃんが来たらね、るりの具合もよくなったの!!なんでかなぁ?」
その後、百合が訊ねた。
「……玲…ちゃん?玲ちゃんは?!」
「帰っちゃったよ。」
百合はゆっくりと瑠璃を離した。
「…そう。後でお礼を言わなきゃね。」
「うん!!るりは言いました!お兄ちゃん達、また来てくれるって!!」
瑠璃は嬉しそうに言った。百合が笑って、再び瑠璃を撫でた。
「ふふ、そう。私はそのお兄さん達にもお礼を言うわ。瑠璃はいい子ね。生きててくれて、ありがとう。」

ホトトギスはいつの間にか鳴き止み、やかましい蝉の声にかわっていた。

124:うら◆zE:2015/06/05(金) 17:46 ID:BMg

Akiさんからの伝言です

549:櫻子:2015/06/05(金) 17:44 ID:/Ow
小説板に、のんちゃんがやってるスレがあるからそこに桜の専スレ見てって、書いてくれる?

=専スレ見て、との事です

125:のん:2015/06/05(金) 23:39 ID:NSs

 そして玲は、豆腐屋に戻った。六日間ほど、玲は瑠璃の家に居た。そのためここへ戻ったのは、実に六日間ぶりだ。また八兵衛に暴力を振るわれ、迫害される日々が始まるのかと思うと、豆腐屋の戸を開けるのは、玲にとって気が重い事であった。戸を開けようとしていた玲の手が一瞬止まる。が、今日瑠璃が見せたあの笑顔と言葉が、どうしても玲には忘れられなかった。
『ずっと笑顔な玲姉ちゃんが、るりはだーいすき!!』
玲は、笑顔で上を、見えない目で見上げた。そして、戸を開ける。戸は、がらがらと音をたてて開いた。
「ただいま戻りました。玲です。」
恐る恐る顔を覗かせる。
「ん?ああ、玲。戻ってこれたのか。大丈夫だったかい?」
八兵衛が、座敷に座って何かを大切そうに握っていた。金に光っている。あれは、小判ではないか。一枚の小判が、八兵衛の手に握られていた。
「はい。……八兵衛さん、それは?」
玲がたずねると、八兵衛は得意気に説明し始めた。
どうやら、この店の客で、知り合いに武士がいて、ここの豆腐が評判だからこれから調達に来るというのだ。
そのため、八兵衛はその日、一日中上機嫌だった。

こうして、玲は再び元の生活に戻るのだった。

126:のん:2015/06/06(土) 15:28 ID:NSs

『明日、お花畑においで。』
ふと、そんな言葉が玲の頭に浮かんだ。そういえば、昨日時貞から言われた気がする。
玲は今、配達の途中。これから百合の家に向かうところだった。そこで最後だ。
季節はもう本格的に夏に移り変わろうとしているのだろうか。蝉の声がやかましい。玲は、額の汗を手の甲で拭った。
「・・・・・・。」
しばらく無言で突っ立って、玲は何か考えていた。が、何かにどんっと、ぶつかった。
「いたっ!・・ちっ、この盲目が!危ねぇじゃねえか!!道の真ん中に立ちやがって!!」
知らない男の罵声が聞こえ、我に返って玲は百合の家へと駆け出した。

「こんにちは!玲です!配達に来ました!」
小高い丘の上、松の木の側。百合と瑠璃の家の戸口に立って、玲は呼びかけた。
「はーい!」
すぐに、百合が出てきた。玲に、入って、と促す。
「あの・・・瑠璃ちゃんの具合は・・・?」
玲が訊ねると、いきなり瑠璃が玲に抱きついてきた。
「れい姉ちゃん!!」
「わ、わぁっ?!瑠璃ちゃん?!」
玲は、豆腐を落としそうになった。百合が笑顔で言った。
「玲ちゃん。瑠璃を助けてくれたのね。」
「えっ?」
玲が瑠璃の頭を撫でながら首をかしげると、百合は、瑠璃から聞いたの、と答えた。
「そ、そんな・・。わたしは、ただ看病していただけですよ・・・」
少し照れながら言って、玲はぶんぶんと首を振った。
「いいえ。玲ちゃんは、私達の恩人よ。本当にありがとう。」
百合は、『悪いおさむらい様達』とは何の事か、とか、そういう余計な事は一切尋ねずにただ笑った。そして、代わりに玲に言う。
「玲ちゃん。これからも、私達の家に来て、瑠璃にかまってやってくれるかしら?」
玲は、瑠璃を見た。そして百合を振り返り、嬉しそうに大きく頷いた。
「うんっ!!もちろん!!」

玲は、百合と瑠璃の家を後にした。もうやる事も無い。豆腐屋に戻っても、八兵衛は今日来ている武士のご機嫌取りに大忙しだろう。
それならば、『花畑』にでも行ってみようか。

玲は、『花畑』へと続く道を歩いて行った。

127:のん:2015/06/07(日) 20:14 ID:NSs

<Eli,Eli, you are our god.>
 玲は今、花畑に立っていた。つい先程着いたのだ。じっと耳を澄ませば、ざあっ、と風が耳元を吹き抜けていったのを感じた。顔の上半分に巻いた、包帯のうなじから垂らした二本の長い余りが、風で少し上に舞い上がる。今ここには、たくさんの花達が咲いているのだろうか。玲が、そんなふうに考えていた時。
「玲。」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。玲はその声が聞こえた自分の後ろを振り向いた。
「あっ、丁度いたのか!なぁ、なぁ、すごい偶然だな!」
別の声がした。それらの声の主達は、なんと時貞と敬斗ではないか。待ち合わせる時間など、決めてはいなかったのに、二人はそこにいた。
「時貞。敬斗。」
玲は口を開いた。時貞は玲に訊ねた。
「瑠璃は、あの後だいじはなかったかい?」
玲が頷いて、もう一度二人に感謝の言葉を伝えた。敬斗が、玲に話しかけた。
「なぁ、なぁ、玲。時貞が、すっごく嬉しいものを、お前にくれるんだって!!」
「・・・え?」
玲は首を傾げた。
「玲、こちらへおいで。」
玲はよく分からずに、時貞の声がする方へ歩いてきた。
「・・・ちょっと失礼。」
「わっ?!」
時貞は、玲の顔上半分、包帯を巻き付けたその見えない目を、両方の手のひらで、そっとふれた。
「Eli,Eli,・・・」
しばらく何かをぶつぶつと呟いた後、時貞は手を離した。敬斗は、玲に言った。
「なぁ、なぁ、玲!その包帯を外してみろよ!!」
「包帯?」
意味が分からずに、玲は、包帯の結び目をほどいた。
「・・・っ?!」
急に、眩しくなった気がする。思わず玲は包帯を落として目をふさいだ。時貞は、やさしく玲に言う。
「そっと目を開けてごらん。」
玲は、手をずらして、生まれてから一度も開けたことの無かった目を、恐る恐る開けた。
「・・・・わ、わあっ・・・」
明るかった。全てに『光』がある世界が、そこには広がっていた。
「・・・これ・・・は?また、夢なのですか?」
玲は誰にともなくたずねた。
「いいや。」
時貞が答える。玲は時貞を見た。
「あなたは・・・時貞?これが・・人間なの?」
「そうさ!」
敬斗が答える。
「敬斗・・・。本当に、時貞はデウス様の御子だったの。確かに、とってもカッコいい顔!でも、敬斗だってとってもカッコいいよ!ありがとう。本当に・・ありがとう。」
「えっ!?いや・・・ほら、玲!とりあえず自分を見てみな!」
敬斗は照れ隠しのように、持っていた手鏡を玲に突き出した。玲は、そっとそれを見つめる。
「・・・これが、わたし・・・。」
時貞が、玲に言った。
「お前は、ずっと耐えてきたね。大丈夫。もう、暗くはないよ。」
玲の目から、涙が溢れ出た。
「・・・ああ、こんなにも、空って青かったんだ。青って、綺麗。人って・・こんなにも、温かいものだったなんて・・・・」
上を、澄み渡った青空を見上げて、玲は呟いた。そして、そっと十字架を握って一言。
「デウス様・・・・わたしを、救ってくださって、本当に、ありがとうございます・・・。」

<Eli,Eli,I am believe in you. Thank you, our god.>


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