はじめまして。ゆうと申します
ファンタジーものを書こうと思っています
ぜひ読んでくれると嬉しいです
キャラ紹介その2
これから出る予定のキャラクターたち
ファル 『ロキ』の神器使い。クールな性格で、非常に美しい顔をしている。トーヤに神器の使い方を教える。
ミアハ 『フレイヤ』の神器使い。貴族の娘で、かなりのお嬢様。トーヤに惚れて付きまとうようになる。
ケディン 『トール』の神器使いで、フィンドラン王国の国王。がっしりとした体格の温厚な男で、国民からの信頼も厚い。
この小説は『小説家になろう』というサイトと重複連載することになりました
※『小説家になろう』版では一部追加シーン、文章の加筆・修正があります
>>13-14にキャラ紹介有り
ここで一旦感想や評価を受け付けます
感想、評価のレスは10/4まででお願いします
約二週間振りの投稿。
大きな冒険が始まる前の準備期間です……。
家に着くと、エルは真っ先に僕のベッドに飛び込んだ。そのあまりに豪快なダイブに、僕は思わず苦笑を漏らした。
疲れちゃったんだろうな、とベッドにゴロンと横になるエルを見て思う。今日は農作業を殆ど彼女にやらせちゃったからな〜。
「エル、ご飯作るから待っててよ……」
料理の準備を始めながら言うと、エルはもう眠ってしまったようで、返事の代わりにすうすうと可愛らしい寝息の音が返ってきた。
僕はその夜、今日狩ってきた大鹿の肉を切り分け、一人でゆっくりと噛み締めて食べた。
この肉の量なら一週間分くらいありそうだ。さらに、この前町に出て手に入れた特殊な塩を振れば、かなり長く持つようになるだろう。
その塩は『ソノル』といい、東南の魔導国家【マギア】から輸入される、魔法の塩だ。この塩を振った食品は、普通のものより格段に長持ちするようになるので、不作が続き、食料に困っているこの国、ルノウェルス国の人達には重宝されている。
その分、値段も高いのだが、そこは父さんの知り合いだった街の宿屋の主からご厚意で少し譲り受けたもので済んでいるから、今のところ心配はいらない。
僕は宿屋の主に感謝しながら、残った鹿肉に『ソノル』を振りかけ、煙で燻し、燻製作りの作業に取り掛かった。
翌朝。僕はまだ眠っているエルを家に残し、街へ買い出しに出掛けた。
本当はエルも誘いたかったのだけれど、彼女は僕がいくら叫んでも起きてくれなかったので、結局一人で行くことにしたのだった。
僕の住んでいるツッキ村から歩いて一時間ほどのところにある港街エールブルーは、ルノウェルス国最大の貿易都市であり、【マギア】など南の国々からの商人達が、ミトガルド地方の大半を占めるスカナディア半島にやって来る。
南側に海、東、西、北に門が三つあり、僕は東の門から街へ足を踏み入れた。
街は、潮の香りが漂い、村とは打って変わって人でごった返していて、喧騒に包まれていた。
僕は押し寄せる人の波に怯みながらも、いつもは立ち寄らない武具屋の前で足を止め、ガラス窓から中を覗いてみた。
店では、様々な形状の剣や槍、盾、鎧など、戦士なら誰もが憧れるような武具たちが棚に飾られ、輝きを放っていた。
僕は、ドキドキと少々興奮気味に店のドアを押し開ける。ドアに付いていたベルがチリンチリンと鳴り、客の来店を知らせた。
「いらっしゃい」
白い髭を蓄え、がっしりとした体格の初老の男が、ニコリともせずに僕に一瞥をくれる。この店の店主だろうか。
「すみません、短剣と盾一式、僕に合いそうなのありませんか?」
僕がこの店に来た理由はもちろん、【神器】があると言われる【神殿】攻略に備え、装備を新調するためだ。
今の僕の装備は、父さんに貰った【ジャックナイフ】と狩猟用の弓矢と短刀のみで、命を懸けて挑む【神殿】で戦い抜き、生き残るにはどう考えても不十分なものしかない。
戦いにおいて準備を決して怠るな……備えを怠った者は死ぬ。
父さんは常にそう言っていた。
「短剣と盾か……こんなもんがあるが、どうだ?」
店主が僕に見せてきたのは、刃渡り五十センチ程の切っ先が非常に尖った短剣と、僕でも軽々と持ち運べそうな小さめの盾だった。
「どうだ? これだけで5金貨[リュー]だ。お買い得だろ?」
「ご、5金貨!!?」
僕は驚きのあまり、目を回して倒れそうになってしまった。
5金貨なんて、そんな大金僕なんかが持っているわけがない。父さんたちが遺してくれた今の僕の財産全て引っ張り出しても、50銀貨[アルス]だ。5金貨もの買い物などしてしまったら、この先何十年も借金を背負って暮らしていかなければならなくなる。
ならば……やるべきことは一つ。
「もう少し、安くしてもらえませんか?」
僕は値切りに打って出た。
1金貨[リュー]……銀貨10枚分。現実の日本円に換算すると約10万円相当。
1銀貨[アルス]……銅貨100枚分。約1万円相当。1銅貨は約10円。
>>16
訂正
訂正前
1金貨…銀貨10枚分、約10万円
1銅貨…約10円
正しくは、
1金貨…銀貨100枚分、約100万円
1銅貨…約100円
です。
今後はミスの無いよう気を付けます
「ダメだ」
「そこをなんとか!」
「いや、ダメだ」
「お願いします!」
「だから、ダメだといってるだろうが!」
「そこをどうか! お願いします!」
こうしたやり取りを続けること三十分。ついに、店主が折れた。
「ったく、しょうがないガキだな。もういい、そこにあるの全部で1金貨[リュー]。それでいいだろ?」
店主が僕の目の前にドンと出した武具は、さっきの短剣と盾、おまけに胸や肘、膝などを守るプロテクタータイプの軽めの防具。
僕は、顔を思いっきり緩めると、勢いよく頷いてみせた。
まだ高いけど、ハードルは下がった。これなら……。
「でも、坊主。お前、1金貨なんて払えるのか?」
店主は怪訝そうな顔で訊く。
「僕、【神殿】攻略に行って、それだけのお金を稼げる、力を手に入れてきます」
僕が言うと、店主は暫く硬直したまま、目を見開いて僕のことを見ていたが、やがて思い出したように頭を振ると、大声で笑い飛ばした。
「ガハハハハハッッ!!! 坊主、そりゃ本気かい!? いいねえ、やってみせろよ、【神殿】攻略!」
「はい!!」
店主に僕の肩をバンと叩かれ、僕は痛みに顔を一瞬しかめるも、すぐに店主と一緒になって笑い出した。
今の僕なら、やれるかも……いや、やってやる。
エルのために、父さんたちのために。世界のために。……そして、何より僕自身のために。
「行ってこい、坊主。……装備代、払わなかったら許さねえからな」
「はい。でも今日は準備に時間を使って、出立は明日にするつもりです」
僕は微笑み、新しい剣を手にとって、その刃に指を沿わせた。
まるで鏡のような光沢を放つその剣は、軽く振ってみるとすぐに僕の腕に馴染んでいくのがわかった。
「この装備、試しに着けてみてもいいですか?」
僕は店主に了承をもらい、その場で防具と盾、短剣を身に着けた。
防具は着けてみても特に違和感を感じないし、盾も持っていて気にならない重さだ。
「おじさん、僕のこと全部わかってたの?」
僕は店主の眼力に驚き、訊く。
「ああ。これが俺の仕事だからな。客に最も合った武具を提供する。武具商人の務めよ」
店主は白い髭をもしゃもしゃといじりながら、照れくさそうに言った。
僕は、店主に深く頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます。【神殿】を攻略して、必ずこの代金は払いますので……その時まで待っていて下さい」
店主は、僕の肩をさっきよりも強く、気持ちを込めて叩いた。
「ああ。もう一度言うが、戻って来なかったら絶対に許さねえからな」
「はい! 必ず戻ります」
僕は最後にもう一度店主に礼を言い、武具屋を後にした。
武具屋を出た後、僕は携帯食糧など冒険に必要なものを、ありったけのお金を使って買った。
愛用のトナカイ革の袋にそれらを詰め込み、僕は港町エールブルーを後にした。
「ふぅ。いっぱい買っちゃったな」
武器を装備し、冒険用具の入った袋を背負った僕は、額に浮かんだ汗を手のひらで拭った。
僕のこの姿を見たらエルはなんて言ってくれるかな。
剣を持った僕を見て、
「トーヤくん、すごい、かっこいい」
とか言ってくれたりして。いや、それは無いか。僕の見た目じゃあ強そうには見られないからなぁ……。
僕はエルの反応を色々考えながら、重い荷物に汗を流して村への道を戻る。
エールブルーの東門から続くこの道はそこそこ広く、途中何度か馬車ともすれちがうくらいには人通りがあった。
僕は真っ直ぐ続く道を逸れ、森の中にある小道へと入り込んだ。この小道は広大な『精霊樹の森』の中を村人達が通るうちに出来た道で、僕もたまに街へ出るときに使ったりする。……普段はあまり人に会いたくないから使わないのだけれど。
「おい、お前」
僕がうつ向きがちに森の小道を歩いていると、突然、僕の良く知った人物に声を掛けられた。
恐る恐る顔を上げると、そこにいたのはマティアスだった。
彼はいじっめっ子軍団のリーダー的存在で、村長の息子だ。村の少年たちは誰も彼に逆らえやしない。彼にはそれだけの力があった。
「……な、何だい? マティアス」
僕は震える声で言う。マティアスはそんな僕をゴミを見るような目で見下ろすと、舌打ちをした。
「チッ……お前、どういうことだ?」
僕は体をできるだけ小さくした。マティアスの後ろには五人くらい子分が控えている。
今日も、殴られるのだろうか。胸が苦しくなってきた。
「おい、聞いてんのかよ?」
マティアスが僕の胸ぐらを掴み、揺すった。
「どういうことだって聞いてんだ」
「ど、どういうことって、な、何が?」
僕は訳が分からずに訊く。まぁ、どうせ理由なんかないのだろうけれど……。
マティアスはいつも以上に恐ろしい顔をしている。僕は目を閉じ、おとなしく拳が飛んで来るのを待った。
しかし、マティアスは僕のことを殴ることはなく、刺々しい声で言った。
「お前、何のつもりだ? お前ごときが、そんな上質な装備……。その荷物も、あの女の子も……移民のくせに、一体何をしようとしてるんだ?」
マティアスはいつもと少し態度が違った。いつもなら、もう三発は殴られているところだ。
僕は勇気を振り絞って胸ぐらを掴む彼の手を離し、宣言した。
「ぼ、僕は、【神殿】を攻略するんだ!」
数秒の間の後、マティアスは腹を抱えて笑いだした。
「ハハハハッッ!! お前が神に挑むって? バーカ、お前なんかが生きて戻って来れるとでもいうのか? ハハッ、傑作だな!」
頬を赤く染め、僕は言い返した。
「僕だって、強くなれるんだ! 【神器】を手に入れて、君たちを見返してやるよ!」
次の瞬間、マティアスの強烈なブローが僕の腹に叩き込まれた。
激しい痛みにうめきながらも、僕は地面に膝をつかなかった。
「へぇ、本気なんだ? まぁ弱いなりに精々頑張りな」
マティアスは嘲り笑うように言うと、「どけよ」と僕を押し退け、子分たちを連れて街の方の道へと去って行った。
僕は殴られた腹をさすり、トボトボと歩き出した。
家に戻ると、エルがふてくされた顔でベッドに横になっていた。
「ただいま!」
僕は大きな声で言った。僕の沈んだ気分はエルを見て吹っ飛んでいた。
「どこに行ってたんだい? 私を置いていくなんて酷いじゃないか」
エルはのっそりと起き上がり、口を尖らせた。
エルの言葉をさらりとかわし、僕は彼女に剣や防具を見せる。
「まあまあ、見てよ僕の装備」
エルは僕の装備を見ると、驚いたように目を見張り、口を小さく開けた。
「トーヤくん、それだけの武器を買えるお金、持ってたんだ……」
そこかよっ。僕は心の中で呟く。
「父さんたちが遺してくれたお金があったから、普通よりはお金持ちだったんだ。……でもこの買い物でもうなくなっちゃったけど」
エルは納得した様子で頷いていた。
僕はベッドに腰掛け、防具を脱ぎ始める。
「かっこいい!」とか言って貰いたかったんだけどなぁ……。僕がそんなことを考えていると、エルの顔がいつの間にか目と鼻の先にあった。
彼女の流れるような美しい緑色の髪からは、森の木々の香りがした。髪と同じエメラルドグリーンの瞳は静かに輝いている。
僕は突然の出来事に頬を赤く染めた。……こんな近くから見つめないでよっ……。
「トーヤくん」
「な、何?」
エルは微笑んだ。その笑みはまるで聖母のような慈愛の心がこもった笑みだった。
「可愛いね」
「は、はぁ……?」
僕は返答に困ってしまった。
エルを見上げると、彼女は何もなかったかのような顔でキッチンに向かい、昼食の準備を始めていた。
からかわれたの、かな……?
僕は戸惑いながらも、エルの隣に立って彼女を手伝うのだった。
第一章 二節 <冒険>
準備は整った。エールブルーの武具屋で買った武器に防具。食糧や携帯ランプの入った袋。そして、父さんに貰った【ジャックナイフ】。
僕らは荷物を確かめ、最後に二人で顔を見合わせた。
「トーヤくん、覚悟は出来ているな!?」
エルが辺り一帯に聞こえてしまうような大きな声で言った。
僕は静かに頷いた。威勢よく言って士気を高める。
「うん。……覚悟は、出来てるよ! 僕が、英雄になる!」
「オーディン様の【神殿】がある、『古の森』はここから北に進んだ先だ! さあ、行こう!!」
エルは緑髪を風になびかせ、僕の手を引いて走り出した。
僕は彼女の手の感触に少し顔を赤らめ、エルに負けないように逆に手を引き返してやった。僕に引っ張られるエルは何故かとても嬉しそうな顔をしていた。
村人たちが起き出す前の静寂の中を僕らは突っ切っていった。
まだ誰もいない森は僕たちの鼓動と息の音で満たされる。僕は高まった気分を発散させるように、走る速度を加速していった。
『頑張ってね、トーヤ!』
『必ず成功させてこいよ!』
森の精霊たちが僕らに応援の言葉を送ってくれた。
僕とエルは笑顔で彼らに言葉に応えた。
「ありがとう! 頑張るから!」
「おい!」
木陰から声が飛んできた。その声は、マティアスのものだった。
「なんだトーヤ? 朝から女の子を引き連れてランニングかい? つまらない趣味だな」
マティアスの嘲るような口調に、エルはムッとして言い返した。
「違うね! 私たちこれから【神殿】攻略に行くところなんだ、邪魔しないでおくれ!」
マティアスは服の袖口で口元を押さえ、こみ上げる笑いを堪えながら言った。
「ハハッ……! 君たちが【神殿】攻略だって? 無理無理、諦めな! どうせモンスターに喰われて命を落とすだけさ!」
僕は、マティアスを睨み付けた。
僕にだって出来るんだ。やる前から諦められるかっ!
「もう、君になんか負けないよ! 僕は強くなるんだ! 英雄に、なるんだ!!」
マティアスの顔から笑いが消えていた。彼は手の中で持っていた小刀をくるくる回し、視線は僕だけを見ていた。
「そうか……。本気なのか。良かったな」
僕は訝しく思い、マティアスを見つめた。彼にこんなことを言われたのは初めてだった。
「ほら、行けよ。『英雄』に、なるんだろ?」
「トーヤくん、行こう」
エルに無理矢理引っ張られ、僕らはその場から移動した。ある程度離れた
ところでエルが立ち止まり、僕が後ろを振り返ると、さっきまでマティアスがいた木陰には何もなかった。
僕たちは、一週間くらいかけて森や川や谷を越え、ようやくスカナディア山脈の麓にある『古の森』の前に辿り着いた。
「はぁ……つ、着いた……!」
僕らは肩で息をしながら、『古の森』の木々を見た。
『古の森』の樹木は、普通の森とは違って見えた。全体的にくすんだ感じ。何百年も人も動物も鳥も立ち入っていなかったような、そんな感じだ。
「不気味な森だね」
僕は小さく呟いた。エルは、何も言わなかった。
「ここに来るまでにも、色々あったけど……ここからはもっと厳しい試練が待っているんだよね」
ここに来るまで、本当に色々あった。でっかいクマに追い回されたり、猛毒を持つハチから逃げ回ったり……追いかけられてばっかだな僕たち。よっぽど運が悪かったのだろうか。
空はオレンジ色に染まろうとしていた。森に入るのは明日にしようかな。「ねえ、エル。今日はここで休もう。森を冒険するのは明日でいいよね?」
僕が言うと、エルは「へあっ!?」と間の抜けた声を上げた。僕はちょっと驚く。
「ど、どうしたの?」
「いや、少し考え事をしていてね。君の意見には賛成だよ。……それと私からも言いたいことがあるんだ」
エルは僕の肩に手を置き、エメラルドグリーンの瞳で見上げてきた。
「ここからは、今までとは比べ物にならないほど厳しくなるよ。私も魔法で出来る限りのサポートはする。でも、神様の試練に挑むのはトーヤくんだ。決して、気を抜くなよ」
僕は、ニコリと笑ってみせた。
「うん、わかってるって」
「ほんとに、大丈夫なんだね? ヘマしたら死ぬんだよ?」
エルはまだ不安そうだった。
僕は寝袋を用意し、するりと潜り込んだ。
「大丈夫だって。僕は負けないよ。……ちょっと早いけど、疲れたから少し眠らせてもらうよ。エル、君はどうする?」
「私は、まだ起きているつもりだよ。森に入る前に魔法の試し打ちもしておきたいし」
「そっか。食糧はまだ残ってるでしょ? 食べていいからね」
僕は目を閉じた。少し離れた所から、エルが何やら呟く声が聞こえてきた。
エルは足元に短めの手頃な枝を見つけると、それを拾い上げ、軽く振ってみた。
効率よく体内の魔力【マナ】を魔法に変換するためには、杖のような棒状の道具が不可欠だ。杖を用いないで魔法を使うと魔力【マナ】が分散されてしまい、うまく魔法を使うことが出来ない。
「光魔法」
エルが持った枝の先から白い光が放たれた。光は、薄暗くなってきた森を明るく照らした。
天界にいたときと同じように魔法が使えて、エルは満足した様子で杖を懐にしまった。
エルは、トーヤが起きてしまわないか気になって振り向いたが、彼は寝袋にくるまってぐっすり眠っていた。
よっぽど疲れていたんだろうなと、エルは微笑む。
「オーディン様。私は、この少年を選んだ。選んだからには、なんとしてでもあなたに彼が認められるよう、全力を尽くすつもりです」
エルは天界での主に向け、自分の覚悟を言葉にした。
彼女は、それからしばらく、群青色に染まっていく空を見上げていた。
一晩ぐっすり眠って、僕の体力はすっかり回復した。
【ジャックナイフ】をぐっと握り、振ってみる。いつもより、力がみなぎってきている気がした。
「さあ、行こう。エル」
僕はエルの手を引き、『古の森』に足を踏み入れた。
不気味な森だ。風も、動きも、音も無い。
全ての時が止まってしまっているような……。
僕らの足音さえも、消えて無くなっていた。
灰色の世界を、僕らは歩み始める。
不安を紛らわそうと、僕はエルに話しかけた。
「ねえ、エル……天界ってどんなところなの?」
少し考えた後、エルは答えた。
「つまらないところだよ」
エルは、悲しそうな顔だった。
「そ、それはどういう……?」
「退屈なところ。人間たちは天国に夢を見るけど、本当は何もない。つまらない場所さ」
気まずい沈黙。あまり訊いちゃいけない話だったんだな……僕のバカッ。
「ご、ごめんね。ぼ、僕女の子とあんまり話し慣れていないから……」
「い、いやトーヤくんが謝ること無いよ! 気にしない、気にしない! さっき言ったことは忘れておくれ」
エルは明るく笑う。空元気だろうか? 僕にはまだ、わからなかった。
彼女は呪文を呟き、杖の先に小さな光を灯した。
「ちょっと暗いからね、これで安心だろ?」
獣道のような、一直線に続いている道筋を、エルの光が照らした。
魔法を使えない僕は、エルが魔法を使ったのを見て感嘆した。
「すごいね、エルの魔法。僕も使えたらいいのに」
「フフッ、そうだろ? 君もいつかは使えるようになるさ。この私が保証するよ」
エルは嬉しそうに笑った。
僕も、彼女と一緒に微笑んだ。
「小説家になろう」の方でタイトル変更しました
新しいタイトルは『英雄冒険記』です
感想・評価、ブクマお待ちしています
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「小説家になろう」の方でタイトル変更しました
新しいタイトルは『英雄冒険記』です
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突如、時の止まった世界に動きが生じた。それは、一瞬のうちに僕たちとの距離を詰める。
牙を剥く怪物は、普通よりふた回りくらい大きな犬の姿をしていた。
「『ブラックドッグ!?』」
エルが叫んだ。怪物は、今にもエルに襲いかかろうとしている。
僕は『ブラックドッグ』の前に飛び出し、【ジャックナイフ】を大きく薙ぐように振った。
手応えを感じ、地面に倒れ伏したそれを見ると、怪物は絶命していた。
僕は浅く息をつきながら、地面に座り込んだ。
「はぁ……びっくりした……」
心臓がドンドンと激しく鳴っている。
正面から来たから迎え討てたけど、後ろから来られたら危なかったな……。
僕は、水筒の水を一口含むと、立ち上がった。
こんなところで立ち止まってはいられない。もっと、もっと前に進まなければ。
「トーヤくん、出来ればモンスターは君が処理しておくれ。君が討ちもらしたのは私がやるから」
エルが僕の肩に手を置き、見上げて言った。彼女の緑色の瞳は鋭かった。
僕は頷いて彼女の意思に答える。
「大丈夫。僕だってやれる」
僕は自分に言い聞かせるように言った。
さっきの『ブラックドッグ』程度の相手ならなんとか戦える。大丈夫さ。
僕は前を歩き、エルが僕の後ろをついてくる。僕は何度も振り返り、エルがちゃんとついてきているか確かめていた。