≪はじめに≫
まったりと更新していきます。
ご質問等は、ネタバレの関係でお答えできないことがあります。
ご了承ください。
>>2 人物紹介
主要人物
山村 風香(やまむら ふうか)
本作の主人公で20歳。大学を2年の秋に退学し現在引きこもり気味のニート。
対人恐怖症。特技は「嘘をつくこと」。ノートパソコンと500冊の漫画が友達。
天邪鬼な性格であり、他人とは違った行動を取りたくなる。しかし、目立つのはあまり好きではない。
裸眼ではほとんど何も見えず、常に眼鏡をかけている。
好きな食べ物はガム(安くて腹持ちもいいから)。
吉田 亜香里(よしだ あかり)
風香の唯一の親友。中学三年生からの付き合い。風香からは「よっしー」というあだ名で呼ばれている。
風香のよき理解者。おっとりとした性格で天然。風香が外出する時は亜香里と遊ぶときだけ。
山村 真知子(やまむら まちこ)
風香の母。人格者であり、すぐ他人に好かれる。調理師の免許を持っており、料理が得意。
得意料理は卵焼き。夫の義春とは2年前に離婚をした。女手一つで子供を養っている。
山村 陽太(やまむら ようた)
風香の弟。県内の高校に通う17歳。姉とは対照的に人懐っこい性格で、友達も多い。
姉の風香を酷く嫌っている。
波根 光洋(はね みつひろ)
真知子の元同僚。現在は自分で会社を立ち上げ、年収1200万を稼いでいる。
ぶっとんだ性格で、日々何かに挑戦しないと気が済まない。座右の銘は「失敗は学びのチャンス」
真知子に風香のことを相談されている。
すーーーーーー・・・・・・
はぁーーーーーー・・・・・・
現在深夜3時。部屋中にタバコの煙がモクモクとたまる。
聞こえる音は、タバコを吸って吐く音と、パソコンのキーボードーを叩く音だけ。
風香「すぅーーー・・・」
部屋は物の位置が把握できないほど真っ暗で、
把握できることは、パソコンの明かりに照らされた女の子の顔と、タバコについた火だけである。
風香「・・・実況動画あがってないなあ。なにしてんの。あたしが暇じゃん。」
そう呟くと、悲しげにパソコンの電源を落とす。吸っていたタバコの火を消し、ベットに倒れこむ。
小学生の頃はぬいぐるみが側にないと眠れなかったが、今はもう必要ない。
もう一人だけで眠れるのだ。
風香「・・・ハァ」
タバコを吸っていた時とはまた違った息を漏らす。
大学二年生の秋に大学を中退し、晴れてニートの仲間入りを果たした。
特にいじめられたり、部活がきつかったりということはない。
ただ単に、学校に行くのが「面倒くさかった」のである。
元々人見知りな性格で、人と会話することが大の苦手だった。そんな人付き合いからも解放されたのだ。
このままじゃいけない…とは少し思うが、今の生活が楽すぎる。今を失いたくない。
風香「みんな明るすぎるんだよ。みんなが異常なんだよ。あたしは悪くないもん。あたしは・・・」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
一粒の涙を流しながら、風香はそのまま眠りについた。
翌日
・・・・・・〜♪
・・・・・・・
・・・〜♪♪♪♪♪♪♪♪
・・・・・・・・・・・・・
〜♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
風香「あー!もううっさいな!なんだよー!」
眠りを邪魔され憤怒した風香がスマホを手に取る。
あっ
風香「・・・よっしーか」
中学からの同級生で唯一の親友、吉田亜香里からの電話だった。
ピッ
亜香里「あ、ふーちゃん、もしもし?」
亜香里からはふーちゃんと呼ばれている。このあだ名は子供っぽくて苦手だ。
風香「そのあだ名やめて・・・笑 んでー、どした?」
亜香里「あ、ゴメンゴメン。 あのね、私の近所に喫茶店がオープンしたの。そこのパンケーキがもう美味しそうでさー・・・。値段もお手頃だし、どう?一回行ってみない?」
風香「ん、あ、あー喫茶店ね〜」
…正直、行きたくはなかった。
亜香里の近所となると、自転車で15分…往復30分もチャリンコを漕がなくてはいけないからだ。
しかも、亜香里の家は長い坂を上がった場所にある。
普段運動をしていない風香からすれば、地獄のような道だ。パンケーキという対価を貰っても、それでは割に合わない。
……しかし。
風香「行き……行きたいね、うん。あたしもパンケーキ食べたい」
唯一の親友、亜香里からは嫌われたくない。
その一心だった。
嫌われないためには自分の気持ちを押し殺し、相手の意見に賛同する。
それしか今の風香にはできない。
亜香里「わかった!ありがとー。じゃあー、私の家に着きそうになったら連絡してー」
風香「う、うん」
…ピッ
風香「・・・はぁぁぁ」
ひとつ、大きなため息を漏らす。親友でさえ、言いたいことが言えない。
普通の人なら、えーめんどくせー、とか言えるんだろうか。
言えるよな。親友だもん。みんなあたしとは違うんだ。
こんな些細な事でも落ち込んでしまう性格が、風香は大嫌いだった。
自分を変えたい。でも変え方が分からない。
…そもそも
変えるまでの道のりが面倒くさい。
風香「なんかこー、スパッと性格変わらないかなぁ。そんな手術があったらすぐ受けてー…」
そんな手術あるわけないし、あったとしてもお金のないニートの私には無理だ。
さらに悲観的になる。
・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・着がえよ
重い腰をあげ、トテトテと歩きクローゼットを開ける。
これも、自分を変えるためだ・・・
そう自分に言い聞かせ、亜香里の家へと向かう風香であった。
第2話 『二人のオモイデ』
今日は温度、湿度共に最悪だ。指先の感覚が無くなるほど寒く、リップを塗らないと唇がざらざらになってしまうほど乾燥している。
こんな日になにをやっているんだ、あたしは。
季節は冬、この地方は雪があまり降らない。
外出が少ない風香からしてみれば、降っても降らなくてもどちらでもいい。
しかしまあ、通り過ぎる人は、みな幸せそうだ。あたしには分かる。
こんな寒いのにランニングをしているスポーツマン、はぐれないようにお母さんと手をつなぐ子供、お揃いのマフラーをして闊歩するカップル、みんな何かしらの目標があって、それに向かって真っすぐで、やりたいこと、やらなくてはいけないことがある。
あたしにはそれがない。いや、正確に言えば「やらなくてはいけないこと」はあるのだが、それをも面倒くさがり逃げている。
戦う勇気が湧かないのだ。それ以前に、これといって戦う理由がない。
あたしは何と戦って、どこへ向かうのか。それすらも分からない。
…分からないというより、現実を見たくない。
風香「…………………はあ」
取り敢えず今は考えないようにしよう。
テンションが低いまま亜香里と接したら、間違いなく亜香里を傷つけてしまう。
楽しい事…楽しい事…。
風香「……………………………………ん?あれ」
どこだここは。
完全に道に迷った。
………
…路頭に迷うとはまさにこういうことだ。
溜息を漏らすつつスマホを起動し、アプリを開いて地図を出す。
風香「急ご」
息が切れる程に全力で自転車を漕ぐ。
今のあたしの目標は、亜香里と喫茶店に行って相手に嫌な思いをさせないことだ。
………
…………………
……………………………………
ピンポーン
チャイムと同時に犬が鳴く。
階段を下りる音が聞こえる。おそらく亜香里だ。
ガチャ
亜香里「ふーちゃんー!ごめんね、こんな寒いのに…」
風香「いや全然いいよ。漕いでたら身体あったまってそんなに寒くなかった。」
嘘だ。本当は鼻水がでるほど寒かった。
亜香里「そっかそっかー、でもごめんね…。ちょっとカイロとってくるから少しだけ待っててー」
風香「うん。」
ガチャ
亜香里は楽しそうだ。自分とは違い、澄んだ目をしている。
そんな人間に…あたしもなりたい。
チャリンチャリン
お互い免許は持っていない。移動は大体自転車だ。
亜香里の自転車は白一色。亜香里にぴったりだ。
あ、色がないという意味ではない。どの色と交わっても明るくすることができる。
白は主張が激しくない。どんなものでも優しく包み込む良い色だと思っている。
まさに亜香里みたいだ。
…それに比べてあたしの自転車は、赤だ。
持ち主に相反して主張が激しい自転車だこと。
亜香里「あ、ここー」
案外近かった。ほんとに近所なんだな。
カランコロン
モダン風の喫茶店には、すでに大勢の客がいた。
店員「いらっしゃいませー」
亜香里が店員とやりとりをしていたが、どうやら席は満席らしく、店内のベンチに腰掛け待つことにした。
亜香里「ごめんね、急に行きたいなんて言っちゃって」
風香「え、いやー、あたしは全然大丈夫だよ?」
亜香里「………………ありがとう」
?
どことなく、いつもの亜香里とは違う。
いつもより…暗い。
風香「よっしー、大丈夫?」
亜香里「ん、あ、大丈夫だよ!」
あたしは、対人恐怖症のくせに人の心を読むのは上手い。
何をもって上手いと言えるかは謎だが、なんとなく自信があるのだ。
亜香里は、恐らく落ち込んでいる。
風香「なにか…隠してる?」
亜香里「…………………」
風香の問いかけに亜香里は黙ってしまった。
二人の間に重い空気が流れる。
店員「お席の方が空きましたのでご案内させていただきますー」
店員さんの明るい声に助けられた。
亜香里「あ、はいー!」
我に返ったかのように明るく対応する亜香里。
やっぱり、なにかおかしい。
亜香里「なに頼むー?」
風香「あたしはー…ミルクティー」
亜香里「じゃあ私も一緒のにしよー」
メニューを畳もうとする亜香里
ん?
風香「パンケーキは?」
亜香里「あ、忘れてた!そうだそうだパンケーキも頼まなきゃねー!」
これは天然だからなのか。
それを目的に来たのにメインを忘れるとは。
亜香里「ミルクティー二つと、このホイップモカパンケーキをひとつー」
店員「以上でよろしかったですか?かしこまりましたー」
そそくさと注文を終えると、亜香里が悲しそうな顔で外を見る。
亜香里「今年は雪降らないのかなあ」
風香「…亜香里は、雪好き?」
亜香里「………嫌い…かな」
風香「? じゃあなんで降ってほしいの」
亜香里「……………………………」
「なんで………………だろうね」
風香「?」
風香がきょとんとしていると、温かいミルクティーが運ばれてきた。
亜香里「あ…暗くなっちゃったね!飲も飲も!」
亜香里に少し違和感を感じながら、風香もミルクティーを口に運ぶ。
あちっ
風香「舌やけどしたー…」
亜香里「(笑) ふーちゃんはほんと猫舌だねー」
風香「あ、ばかにしたなー」
亜香里「してないしてなーい(笑)」
なんだ、いつもの亜香里だ。
杞憂だったかな。よかったよかった。
亜香里「………はあ(笑)」
風香「よっしー笑いすぎな」
亜香里は涙が出るほど笑っていた。
あたしが猫舌なのがそんなにおかしいか???
…まあ、何はともあれ亜香里に笑顔が戻ってよかった。
亜香里「…………やっぱり」
風香「?」
亜香里「…あ、ううん、なんでもない(笑)」
風香「今悪口言いかけたでしょー」
亜香里「違う違う!いや…………………やっぱりね」
風香「うん」
亜香里「…ふーちゃんといると楽しいなーって」
風香「え」
思いがけない言葉だった。風香は照れてしまい、返す言葉が思いつかない。
亜香里「(笑) そんな照れるなってー(笑)」
風香「照れてないし!失礼しちゃう」
照れ隠しに勢いよくミルクティーを飲む風香。
風香「…あっつー!」
亜香里「(笑)」
くだらない会話かもしれないけど、それがとても楽しい。
やっぱり亜香里といると明るくなれる。
本当に本当にいい友達だ。
亜香里「やっぱり…ふーちゃんが友達でよかったよ」
風香「…あたしも、そう思うよ」
亜香里「…うん、ありがと」
風香「…こちらこそ」
さっきとはまた違った重い空気が流れる。
こういうときなんて言うのが正解なんだろう。
人とあまり接してこなかった風香は、この空気を換える言葉が思いつかない。
亜香里「…ふーちゃん」
風香「ん?」
長い沈黙の後、亜香里が口を開く。
亜香里「…ずっと、友達でいてね。私のこと…忘れないでね」
風香「…あ、当ったり前よ。忘れるわけないじゃん」
亜香里「…ありがと」
本当にいい友達だ。
この先、どんなことがあろうと亜香里を忘れなんかしない。
ずっとあたしを照らしていてほしい。
そのあと運ばれてきた大き目のパンケーキを頬張りながら、また楽しく談笑した。
お腹もいっぱいになったし、楽しかったし、本当にいい思い出になった。
二人は会計を済まし、帰路に就く。
楽しい時間はあっという間だ。たまには外出もいいもんだ。
この時間が終わってしまうのは悲しいけど、日も暮れてきたし仕様がない。
風香は亜香里の家までついていった。
亜香里「今日はありがとー、いっぱい笑わせてもらいました(笑)」
風香「それはあたしもだよ!楽しかった」
本心だった。亜香里といると時間が流れるのが早く感じる。
もっと感謝の言葉を言いたかったが、照れくさいのでやめる。
風香「じゃ…またどこか…行こうね」
亜香里「うん!」
名残惜しいが、今日はもうお別れだ。
亜香里は見えなくなるまで屈託のない笑顔で手を振ってくれた。
それに風香も振り返す。
夕暮れの帰り道、寒空の下、ぽかぽかした気持ちで家路についた。
…
次の日の朝。
事件が起きる。
亜香里が
いなくなったのだ。
凄く面白いです!亜香里ちゃん、どうなってしまうんてしょう…。続き、楽しみです!
8:よみ◆Tg:2016/10/30(日) 17:00 >>7 ありがとうございます(。- -。)
読んでくれる人がいると励みになります。
第3話をお楽しみに。