小説を書いてください!
読みます!
http://ha10.net/novel/1498832274.html
拙いですがこんなので良ければ(
9cさんへ
越後くんやっほ
「戦場に花が溶ける」
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕たちのふるさと、イグ村は、清らかな空気に包まれていて、
涼しいところだった。だけど同時に暖かいところでもある。
朝は真っ白な霧が出る。息は白くなる。冬は雪が積もる。どれも白いね。
そうだ、イリアの肌も、とても白かった。白く霞んでいるように見える。太陽が強く
ないから、日焼けしないのだ。そういえば、彼女はとくに、白い花を愛してた。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
彼女は、「誰のものでもない場所」を見つけては、そこに花を植えた。
「本当は、すべての場所に、花を植えたいのだけどね」
と彼女は言った。
誰かの土地には、勝手に植えてはいけない。
誰にも必要とされない土地こそ、彼女には必要だったんだね。
カタスミ。そうだ、彼女は、いつも片すみばかりを眺めてた。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕たちのふるさとには、一年に数回台風が通過する。
大人たちは自分たちに必要なものだけを、台風から守ろうとするのだけだった。
片すみの花なんかよりも、米の蔵の方が大事である。畑の作物の方が大事である。その気持ちは、イリアにだって
よくわかっていたんだよ。
イリアはただ、花の気持ちもわかっていただけだ。
台風の夜。
外がゴウゴウ言っているのを聞きながら、イリアは眠れなかっただろうね。
次の朝。
外がとても静かなので、イリアは起き上がりたくなかっただろうね。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕は台風の夜に、なぜか興奮していた。
僕は強いものが好きだ。
何かが壊れるのが好きだ。
大きな音が好きだ。
男は、そういうのが好きなんだぜ。
朝めちゃくちゃに荒れた外の景色を見て、嬉しくなって、僕は泥を蹴散らしながら、村を走りまわった。
その時ゆっくり歩くイリアに会った。
イリアは花束を持っていた。泥まみれの花束。
「また植える」
と言った。
「…僕も手伝う」
僕の大好きな台風は、大切なものごと、綺麗にさせる。
大切なものだけを、僕は手伝う。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕は物理学者になりたかった。いや、工学者になりたかったのだ。僕は学園で、熱心に学んだ。
イリアは、特になりたいものはなかったらしいが、勉強が好きだった。お前は、何にもならなくたっていい、
と僕は思っていた。彼女に話したことは一度もないが、いつか結婚したいと願っていた。
戦争が始まったらしい。徴兵で、勉強させてもらえなくなった。
毎日の厳しい訓練で、僕の個性は無くなった。
「右を向け!」
と言われたら、右を向いた。殴られたら、黙って、立ち上がった。
イリアのことはなんとも思わなくなった。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
戦争だ!戦争だ!
僕は殺人マシンだ!
敵の国の人を、ただひたすらに殺すんだ!
もし敵の兵士に殺されそうになったとしても、ただで死んではいけない!
手榴弾で相討ちだ!
憎しみでもなんでもない、赤い砂漠のような心で、ただ殺せ!
僕は何もわからなくなった。
動物になった気分。
理性がなく、殺すことがあるだけだ。
僕は何を見ているのだろう。
赤黒い、ぐにゃぐにゃしたものばかりが、目の前をチラチラしている。
イリアは花が好きだった。僕は台風が好きだった。
僕は血まみれの、荒れ果てたイグ村で、自分が自分であることに気がついた。
イリアが僕のことを覗き込んでいた。
イリアは泣いている。僕は言った。
「殺さなきゃ」
「戦争は、終わったのよ」
「じゃあ、もう殺さなくていいのか…」
僕の中に、ふっと心がよみがえって、そして涙が止まらなくなった。
「ああ、怖かった!怖かったよう!」
僕は、イリアにすがりついて泣いた。僕の軍服についた生臭い血が、
イリアの真っ白な服について、汚れてしまった。だけどイリアは
「ちょっと、心の中に台風が通っただけです。大丈夫、また植え直しましょう」
と言って、僕を抱きしめた。
僕たちの上に、雪が降り始めた。
それは戦争が置いて行った醜いものを、優しく隠していくようだ。
僕の話はこれでおしまい。