思い付きのヘンテコ小説を書いていきます。
設定:中学校の生徒、教師との見えない闘い
登場人物(現時点において、随時追加)
香山怜菜……ある教師が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
怜菜はこの教師のことを信頼している。
登場人物が増えすぎてよくわからなくなったら、そのうちまとめます。
特別授業を怜菜たちが受けに来た。
違和感はない。
むしろ、今まで行きたがらなかったのは何で? と思うくらい。
まあ余計なお世話だね。
あの能無し熊センコー、今私が突撃したらどんな顔するのかしら。
嗤う?
無理だね、あれは。笑うのなら頭逝かれてる。
とにかく、私はアイツ嫌い。
嫌いってレベルじゃない。
許されるなら、地獄に叩き落してやりたい。
この手で復讐してやる。
怜菜たちを傷つけた。
私の親友を奪った。
私の心も、親友の家族も傷つけた。
それなのに、渡井は笑っていられる?
そんなの許さないから。
見てなさい、私の復讐劇を。
泣いて誤ったって許さないわ。
追い込んで、生き地獄に叩き落して、ボロボロにしてやる。
特別授業を終え、少し理解できた。
テストの点数を気にするこの時期、授業はありがたい。
特に、結衣先生に会えるし。
「このくらいでどうかな?」
「ありがとうございます、これでどうにかできそうです!」
私に、笑顔で答える結衣先生。
「別にいいよ」
愛衣は、幸せそうな顔をしている。
「もう、今日の担当が結衣先生で本当に良かった」
「お前ずっと言ってたもんな」
秋山君に言われ、
「何で言っちゃうのー!」
顔を真っ赤にしながら、慌てる愛衣。
この小説好きです!
更新、がんばってください!!
>>99
アレンさん、ありがとうございます<m(__)m>
「そう言ってもらえると、先生は嬉しいな」
結衣先生が笑う。
その言葉を聞いて、愛衣も表情を和らげる。
私も笑って、
「先生のこと、私たち大好きですから」
「あんな熊なんか絶対信用できないからな」
秋山君もそう言って笑う。
結衣先生は心配そうに、
「うーん、やっぱり渡井先生何するかわかんないもんね。
怜ちゃんは暴力振るわれてるし、愛衣ちゃんと悠太君は屁理屈を押し付ける、差別されてるし。
それでも信用しろ、自分は正しいなんて言うのはあり得ないもんね」
「別に、それは」
「できる限り、先生も協力するから」
力強くそう言って、結衣先生はにっこりとほほ笑む。
私たちが教室を出で、しばらく歩いていると
「何かいるぞ」
突然秋山君が言う。
秋山君が指さす方を見てみるが、何も見えない。
ちょっと、と言おうとしたら秋山君は走り出した。
「おい、何してくれてんだよ!」
大声で怒鳴る秋山君。
「結衣先生に、何してんだよ!?」
「……!」
結衣先生は、渡井に腕をねじ上げられ、床に倒されていた。
「結衣先生っ!」
「愛衣! ダメ!」
愛衣が駆け寄ろうとするのを、私は必死で止めた。
無言で持っていたカメラを取り出し、写真を撮る。
それからすぐに、結衣先生のもとに駆け寄る。
「怜菜!」
「怜ちゃん!」
「香山!?」
私は迷わず、渡井にタックルした。
「子どもの分際で舐めてんのか!」
よろけて、体勢を崩した渡井に私は
「証拠はあります。ちゃんと写真を撮ってあるので、訴えますよ」
渡井は慌てて「今のは違う、間違いだ!」
「へぇ、あんたサイテーだね」
「……奈月、先生」
冷たい目で、渡井を見下ろす奈月先生が、後ろにいた。
「怜菜、ちょっとどいて」
奈月先生は冷たい視線を渡井に向けながら、私に言う。
普段は怒らず、諭すように言うだけの普段の姿とはあまりにもかけ離れていて、怖い。
恐怖を感じるのは、ギャップもあるんだろう。
私の脇を通り、渡井の目の前に立つと、
「あたしは無駄な時間は省く主義なんだ。さっさとそこをどきな」
そう言って、渡井を睨みつける奈月先生。
「……」
何かを口の中でボソボソと言いながら、結衣先生から離れる渡井。
結衣先生は、渡井に押さえつけられていたにもかかわらず、そこから離れない。
「結衣先生?」
愛衣がいぶかしげに言う。
「……ねぇ」
小さい、けれどその場にいるみんなが息をのむ迫力を込めて結衣先生が言う。
「生徒を差別して、気に入らない人がいれば力ずくで追い落とそうとする。それが、本当に正しいとでも思ってんの?」
「だって、あれは香山が」
「人のせいにするなよ!」
我慢の限界だといわんばかりに、秋山君が突っかかる。
「生徒の分際で、とかそんなもん関係ねえよ。
陰で校長に媚び売ってみたり、俺たちの悪口とか散々垂れ流して。
証拠がないとでも思ってんのか、この間抜け!」
そういいながら、ボイスレコーダーとカメラを取り出す。
「俺は戦うからな。あんたの名誉とかそんなもん爪の垢以上に興味ねえよ」
まあ、と一呼吸おいてから
「どのみち恥を晒すことにはなるんだから」
ニヤリと笑って言った。
奈月先生は、秋山君を遠くで見ていたが
「ああ、その辺にしときな。あいつ、あんたの家に行くつもりだろう。今すぐ帰んな」
秋山君は無言でうなずき、走っていく。
愛衣は、さっきから結衣先生を気にしていたが、泣きそうな顔をしている。
「愛衣、休んだら?」
「……そうする。ごめんね、怜菜」
愛衣も、家に帰っていった。
残った私は、まず奈月先生にお礼を言った。
奈月先生は笑って、
「どうってことない。それより、怜菜は大丈夫?」
「はい」
そっか、と言ってから
「あたしはこれで失礼するよ」
職員室に奈月先生は歩いて行った。
私は結衣先生を見た。
落ち着いて気が抜けたのか、廊下に座り込んでいる。
「結衣先生」
私が呼びかけると、
「……怜ちゃん」
普段通り、というわけがなく、弱々しい声で
「ごめんね」
と言ってきた。
「さっき、渡井先生に捕まれてさ。後ろから抑え込まれて……。抵抗できなくて」
泣きそうな顔で続ける。
「それで、襟を閉められた。ほとんど首を絞めてるようなもの。怖かったよ……怜ちゃんがタックルをしてくれたから助かった」
ありがとうね、と目に涙をためながら笑う結衣先生。
私は結衣先生の真正面に座り、
「いつも、私は先生に助けられていますから」
かっこよく決めたいと思ったから出てきた言葉だけど……。
実際は、何だか自然にタックルしてたんだよね。
正直、怖かった。
いくら何でも、力ずくでどうにかしよう、と渡井が考えるわけがない。
そんな風に思い込んではいけなかった。
思い込みって、怖い。
「結衣先生!」
愛衣と秋山君が走ってくる。
私はブイサインを見せて、大丈夫だと示した。
「よかった、怪我無くて……」
秋山君は
「いつかぶっ飛ばしてやる!」
なんて息巻いてる。
「ぶっ飛ばさなくてもいいよ……大丈夫、だから」
涙は止まっているけれど、恐怖心はまだ消えていないだろう。
私はすぐに感じ取った。
結衣先生のそばに、寄り添うように座る。
「渡井、あれでも自分は正しいって思いこんでるのかな」
愛衣がぼそりとつぶやく。
ああ、そうだった。
渡井は自分大好き熊だった。
「だろうな、一度脳病院に連れていくべきだと思うぜ」
いや、無理でしょと私はツッコミを入れる。
「だって、他の人から見たら正常だもん。どうにもなんない」
みんな、そうは思いたくなかった。
でも、それは現実だ。受け入れるしかない。
「とにかく、結衣先生のことは守って見せる」
私は力強くつぶやく。
「そんな、先生は大丈夫だから」
気にしないで、とでも言おうとしたのだろうか。
先生の言葉が出てくる前に、
「そんなことないです。それに、何かあってから、じゃもう遅いですし」
私は結衣先生のことだけを、先生の中では信頼してる。
だから、絶対に傷つけたくない。
それがたとえ、私のエゴだったとしても。
私は、絶対に守り抜く。
異性であろうと、同性であろうと。
大切な人の笑顔だけを見ていたい。
くすくすと笑う声が聞こえてきて、隣を見ると
「怜ちゃんは、いつも気丈に振舞うよね」
結衣先生が笑っていた。
渡井と違う。
バカにして、蔑んで嗤う渡井。その笑顔の卑しいこと!
でも、結衣先生はクスクスと笑っていても、それが厭味ったらしいものではないってわかる。
むしろ、誰かを気遣う優しさが滲み出ている。
だから、私は結衣先生が好き。一緒にいて、安心するし、人間として尊敬する。
「気丈っていうか……思い付きで行動しているんですよね」
「衝動的ってこと?」
一瞬、キョトンとしてから
「でも、とっさの判断で、その時に必要なことをどうにかできるってすごいよ」
「すごいですか?」
何だか恥ずかしい。
というより、アホか私は。
「たまに、怜ちゃん、表情に出てるからね」
何を考えているのかわかるよ、と結衣先生は言う。
ええ、顔に出てたのか……。
なんかショックだなあ。
「ううん、ちゃんと理解できるから、私はその方がいいな」
笑う。無垢な笑顔、と言える。
そのあと、しばらく結衣先生と一緒にいた。
でも、変える時間になったので、帰ることにした。
廊下を曲がった時、何かが視界をかすめた。
……何かいるの? この先に。
intermission
わたしの姿、彼女は見ちゃったのかな?
まあいいや。
どうせいつかはバレる。ばれないようにするってこと自体が違うかもしれないし。
わたしのことをどう思うのかは知らない。
悪いことって思うかもね。
だから何?
だって、彼女に何ができた?
この現状を打開するには、非現実的なことをしないと無理。
そんなこと、きっと考えなくてもわかる。
所詮はきれいごと。
自分の目的の達成のためだもの。
intermission out
私はそのあと、一人で帰った。
もともと、杏奈と一緒に帰ることはなかったから、愛衣、秋山君と一緒に帰るようになるまでは
必然的に一人だった。
歩きながら、私はずっと考えていた。
さっきの影は、何なんだろう。
多分、知らない人だ。だって、ちらっと見ただけとはいえ、着ている服くらいはわかった。
その服を持っている知り合いはいない。その影の背格好の人物で。
まさかストーカー……。
なわけがない。
私の顔は、どう考えても平凡並だし、女子らしい体つきでもない。
ショートヘアだから女子だとみられるけれど、もっと短いと男子と間違われる。
全く知らない人、とも考えにくい。
私は割と、顔が広い方だ。
小さい子とはよく遊ぶから、自分より小さい子どもの知り合いも多い。
でも、私の知っている子にあんな子はいなかった気がする。
流石に顔までは見えないし、背格好が似ている子なら何人もいる。
何だかモヤモヤする。とりあえず、似ている子に学校に来たのか聞いてみようかな。
そうしよう。さすがに中学校の人ではなく、知り合いでもないと思うと怖い。
とりあえず、今はもう考えないようにしよう。
家に帰ってからも、さっきのことを思い出してしまい、落ち着かなかった。
妹には笑われてしまう。
自分の部屋にずっといる。
何故かそのことが夢に出てきて、うなされて起きた。
思わず、笑いが込み上げてきた。
私の神経って、こんなに弱かったっけ、と考えると自然と笑えて来て仕方がなかった。
目を覚ました。
頬に水分を感じて、触ってみるとかなりべたべたした。
どうやら、眠りながら泣いていたらしい。
「……ははっ、情けないなあ」
自嘲気味につぶやいて、布団を剥いだ。
学校に行ってまで、昨日のことを引きずるのも格好が悪い。
せめて、クラスメイトの前では笑っていないと。
だって、昨日のことを説明できないから。
そんな些細な事を気にする性格じゃないし。
「おはよう!」
元気に声をかけてきたのは、愛衣だ。
「おはよう、愛衣。今日は早いね」
まあね、と愛衣は言う。
「朝早ければ、多分他のクラスメイトがいないし、話しやすいと思って」
「ん、誰と?」
「杏奈」
愛衣が答えた瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。
「あれ、怜菜もいたの」
杏奈はゆっくりと歩いてきて
「ま、その方が都合がいいか。とりあえず、ちょっと来て」
指さす方向を見ると、資料室があった。
「怜菜には悪いけど、ここは誰も来ないから」
杏奈はそう言いながら、内側から鍵をかけた。
「ああ、渡井に引きずられた時のことは気にしないで。それより、話って?」
促すと、杏奈は一度深呼吸して
「昨日、秋山君の家に渡井が現れた。それで、秋山君はケガ。今日は休み」
端的に言う杏奈。
「ちょっと待って、どういうこと?」
「どういうもクソもない。秋山君は、急に家に来た渡井を追い返そうとして、逆に渡井から襲撃された」
ええ、と私たちは驚きと呆れが混じった声をあげる。
「怪我の様子は?」
「腕から出血、顔に痣。それと、渡井からの襲撃をよけようとして転んで、足を怪我したらしい。症状は知らない」
何だか、思ったよりも派手……。
「大丈夫。それより、これからの作戦を伝える」
私と愛衣はうなずき合い、視線を杏奈に戻した。
「これからすぐに、私と一緒に動いて」
どうしたらいいのか、何も言わせない迫力で言う杏奈に、私たちは頷くしかない。
杏奈についていくと、職員室の目の前に着いた。
それまでは早歩きで進んでいた杏奈が、急停止して私たちを振り返る。
「これから、渡井に突撃するよ」
ひそひそと杏奈は言う。
「は、今から!?」
驚いたけれど、声を大きくしすぎないように気を付けながら私と愛衣は言う。
杏奈は頷く。
「ま、賭けだから」
賭けって言われても……。
それ、ハイリスクハイリターンでしょ。
と言おうとしたその瞬間、
「失礼しますっ」
杏奈は大きな声で言い、職員室の扉を勢い良く開けた。
唐沢先生は驚き、奈月先生は見て、結衣先生は小さくうなずいた。
金森先生は青筋を顔に浮かべている。
それを見て、渡井はニヤリと笑った。
私は隠し持っていたカメラで録画をしている。
渡井は杏奈を見て
「今は職員会議中ってことは、馬鹿でもわかるだろ」
と嘲笑う。
それを聞いて、杏奈は怒りを爆発させたのだろうか。
「フン、所詮一人じゃ何もできない粋がりクソ教師の癖に、生徒を馬鹿にするとか頭逝っちゃってるんですか?」
売り言葉に買い言葉、これじゃ何もできない。
「大人に向かってそんな口の利き方はないんじゃない?」
「あ? 誰が熊に敬語なんか使うんだよ?」
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!」
「それはこっちのセリフだ、このクズ!」
杏奈はさらに一歩歩み出た。
愛衣が、杏奈の後ろから顔を出す。
「先生……最低です。私と秋山君を差別しているくせに」
「どこに証拠がある?」
「お前ら、話はあとで聞く。教室にすぐに戻れ」
「それが先生のすることなんですか?」
「いいから戻れって言ってんだろ!」
私は廊下で頭を抱えた。
こんなんで、本当に何か効果があるのだろうか?
廊下に出るなり、杏奈は大声で
「あんたらには失望したよ、能無し熊野郎の仲間はやっぱり能無しだな! この間抜け!」
「ちょっと杏奈!」
私たちは慌てて杏奈を制する。
愛衣は、杏奈の指示であの時に口を出したらしい。
でも、今の怒り狂ったようにしか見えない杏奈を見て、慌てるというレベルではないほど慌てている。
私はとにかく、杏奈を引きはがそうとした。
この場に私と愛衣がいるという事は、後で勘違いされる可能性が高い。
まあそれはまだいいけど、杏奈がボロクソに罵倒しているから、親を呼ばれる。
後から土下座させられるとか一番勘弁してほしい。
まあ、実際一度火が付いた杏奈をどうにかするのは難しい。
一緒にいることが多い人間ですらそう思う。
「お、怜菜おはよ」
階段を上ると、秋山君がいた。
「あ、おはよー……」
何だ、元気ないなという秋山君に、私は後ろでイラついている杏奈を手で示した。
「ああ、何かやらかしたんだろ?」
合ってるだろ、と言いたげな顔で私を見つめる秋山君。
「うん、何で分かったの?」
「顔がやばいぞ、朝から疲れ切ってるし、教師どもが来るの遅いし」
ああ、なるほど。
まあさっきのあの騒ぎがあったのに、すぐに上がってくるわけないよ。
生徒が反抗的な態度をとる、罵倒するなんて数十年前じゃあるまいし。
校内暴力のあらしが吹き荒れた時代でもない限り、大体は適当に意見を押し付けて
ゲームで生かされているような向上心のない生徒をつくる。
「ま、所詮は自分の利益しか考えないししょうがない」
「しょうがない、か……」
諦めたくないけど、あきらめようかな。
秋山君はそんな私を見て、ニヤッとした。
「革命でも起こそうぜ」
革命?
意味が変わらず、ポカンとした私を見て
「決まってんだろ、あいつをぶっ飛ばすんだよ」
「渡井を?」
「他に誰がいるんだよ」
秋山君は真顔で
「はっきり言やあ、これは正当防衛だろ」
そうかなあ……。
「また渡井に引きずられて、殴られてもいいのか?」
「それを、どうして」
「俺が知らないと思うか? ちゃんと知ってるし、その辺は本気で考えろ」
いつもの飄々とした雰囲気はどこにもなく、肉食獣のような眼をしていた。
私はそれに気が付き、おびえた顔をしたのだろう。
すぐに目を戻し、ふっと笑う。
「俺は本気であいつをぶっ飛ばす。もう、怜菜も杏奈も俺も愛衣も、誰も傷つかないようにするんだ」
「……」
私は何かを言おうとした。
しかし、言葉にならなかった。
それは緊張からか、それとも本気の目を見てかはわからない。
「革命、つまりこのことだ」
私が何かを言おうとした瞬間、
「何やってんの、怜菜?」
杏奈が歩いてきた。
「ああ、秋山君と革命の話をしてて」
ふうん、と杏奈。
「まだその話、途中だったんだけどね」
「途中?」
首をかしげる、私と愛衣に杏奈は
「うん、途中。どうしようか、計画途中だったけど……」
私たちの顔を一度見まわしてから
「いっちょやって見るか」
とひとり呟く。
「は? 何を?」
私は間抜けな声を出す。
杏奈はニヤリと笑って
「決まってるじゃん。渡井をぶっ潰すんだよ」
怖いよ、杏奈……。
杏奈が秋山君と一緒に行ったのを確認して、
「何考えてるのかな、杏奈」
と愛衣が言う。
そんなの、私だって知りたい。
一方で、怖くて聞けない。
愛衣も同じなのだろう。
少し、怯えた顔をして
「私は、怖い。杏奈がどこか遠くに行っちゃったみたいで……」
悲しそうな声が響く。
私は何も言えずに、ただ黙っていた。
愛衣の悲しげな視線が、杏奈と秋山君をとらえていた。
休み時間、秋山君は私のもとに来た。
「ちょっといい?」
「いいよ、何?」
席を立つと、廊下の隅に行く秋山君。
そして、制服をまくって見せた。
「――!」
私は声にならない声で叫んだ。
制服の下の足は痛々しいほどの痣があり、腕には包帯が巻かれている。
顔も、よく見ると青あざができている。
「これ、聞いたか?」
「あの、渡井にやられたっていう……?」
「ああ、そうだよ」
あっけらかんという秋山君。
何でもないよって顔をしてるけど、そんなことないでしょう?
「おい、そんな大ごとじゃねえんだから気にすんな」
「で、でも……」
私は思わず、声を大きくしていた。
「だって、こんな酷い……! 自分の思い通りにいかないからって、生徒を徹底的に差別して、それを指摘した秋山君が怪我しなきゃいけないなんて……っ」
「落ち着け」
冷静な声。私を見て、静かにはっきりと断言した。
「俺は自分が変だとは、今回のことでは思わない。怜菜もそう、それが普通だ。
だけど認めてもらえず、いっぱいいっぱいになっちゃってるんだ」
私はハッとして、秋山君を見上げた。
そうなんだろ? と言いたげな顔をして秋山君はじっと見ている。
intermission
流石。
あの男の子は、彼女にとっていい意味で刺激になるね。
わたし?
わたしは何にもならないよ。
しいて言えば、護衛。
そうそう、わたしはこっそり、賭けに出てみたんだ。
さて、どうなるかなあ?
intermission out
――認めてもらえないから、いっぱいいっぱいになってる。
秋山君……。
「だけど、大丈夫だ」
本当に、大丈夫かな?
なんて、信じたいのに疑ってしまう。
「……トモダチ、だろ?」
そうだ。
私は一人で、あんな悪魔と戦ってるわけじゃない。
杏奈、愛衣、秋山君がいる。
「だから大丈夫だ。俺は絶対、あいつからお前を守る」
「ちょ、自分の心配はしなくてもいいの?」
「俺がやられるわけないだろ」
真っ白な歯を見せて、ニッと笑う。
でも、昨日熊にやられた人がそんなに自信満々だなんて。
「あれは不意打ちだ、汚ねぇ手使いやがってあの野郎!」
「怒らないで」
ここで怒っても、あいつの思うつぼだ。
「こちらのペースに巻き込んでやろうよ」
「そうだな。……じゃ、怜菜やって見るか?」
「は?」
どうして私なのか、何度も聞いてみたけれど、何となくだって。
意味わかんない!
何で私がおとりなの?
「じゃあ、廊下で熊の悪口言いまくって」
「ええ、何でよ?」
「あとは俺と愛衣がどうにかするから」
強引に決められた。
「ねぇみんな、聞いて聞いて!」
何々?とみんな不思議そうに集まってくる。
「何、どうしたの怜菜?」
私はここぞとばかりに大声で叫ぶ。
「渡井先生ってねぇ、生徒を差別するんだよお!」
は、何言ってんのこいつ、気が狂ったのか……?
戸惑うみんなを、私は真顔で見つめ返す。
「何、怜菜大丈夫頭?」
「何なのマジで!?」
私はみんなを見てた。
無表情に、何も言わずに。
「何やってるんですか!?」
渡井が血相を変えて走ってくる。
「おい怜菜、こっちだ!」
同時に、秋山君が私を呼んでいる。
秋山君の指さす方向に向かって走った。
「杏奈!」
「怜菜?」
杏奈がそこに立っていた。「よくやったじゃない、ほら見て」
杏奈は、さっきまで私がいた場所を指さしている。
「私は差別などしていません! 香山怜菜、いい加減にしなさい!」
「みんな落ち着けー! 俺たちの経験談とボイスレコーダーが何よりの証拠だ!」
「そうよ、あなた散々差別して、たまに私にド変態発言しておいて、許されると思わないでよ、この幼女好き変態!」
少し聞いているだけで、お互いに罵倒し合っているのがわかる。
「うわぁ……すごい」
「まあ、そんくらいされて当たり前ね。やられたらやり返す。……私の親友を傷つけといて、ただで済むと思うんじゃねえよ」
いつになく低い声で言う杏奈に怯えて、私が距離を置くと
「ああ、ごめんごめん。いつもこんな声出さないもんね」
いつも通り、元気な杏奈がにっこりと笑って立っていた。
杏奈ちゃん怖いけどかっこいい!
スレ主さん頑張ってください!!
>>117
ありがとうございます<m(__)m>
杏奈は、秋山君と愛衣を見て
「なんなら、ボイスレコーダー再生しちゃえばいいんじゃない?」
と大声で言った。
私たち四人と、結衣先生が持っていたボイスレコーダー。
それらを、愛衣はみんなにしっかり見えるように持って
「これが証拠だよ!」
と言いながら再生した。
渡井は、
「違う、違う、私はそんなことはしていない」
と必死に繰り返している。
それを聞いた結衣先生が
「いい加減に認めたらどうなの、怜ちゃんたちを苦しめたこと」
さっきの杏奈みたいに低く、冷たい声で言う。
「だって、あれは香山怜菜が」
「杏奈ちゃんが考えていたことを知らなかった、そう素直に言った怜ちゃんが悪いの? どこが!?」
普段の優しいまなざしはどこへやら、と誰かがつぶやいた。
私は遠くから、杏奈と一緒に見ている。
「ねぇ、この後どうするの?」
「決まってんじゃんよ。怜菜がビシッとあの能無し熊に文句を言うんだよ」
えー……。
流石に、私の言葉じゃ……ともじもじしながら言う私に、
「いいんだよ。ダメなことを教える教師から、ダメなことを学ぶ生徒は増やしちゃいけない。
それに、わたしからもあいつに言いたいことはある」
そういうと、杏奈は私の前に進み出た。
怯えたように杏奈を見上げて、
「何をするつもりだ?」
と聞く渡井に対し、
「もう我慢できないから言う。……この人殺しっ!」
私はもちろん、周りのみんなも、秋山君も、愛衣も、結衣先生も、みんなが驚いた。
ポカンとする私たちに構わず、杏奈は叫んだ。
「わたしの、大事な幼馴染を追い詰めた最低熊野郎!」
私は杏奈の悲痛な叫びを、黙って聞くしかない。
「まさか、佐山凜のことか?」
「そうだ! あの子は、つい最近死んだんだよ、あんたのせいで!」
言葉の途中からあふれてくる涙を拭うこともせず、ただ叫ぶ杏奈。
「あんたが! 嘘を広めて、凜と凜の両親を壊した! 凜の両親はあんたを信じて疑わなかった!
あの後どうなったか知ってるのかよ?」
「……知るわけないだろ」
「凜は人形みたいになっちゃったんだよ! 凜の両親は凜のことを責めて、耐え切れずに凜は死んだ!
だけどあんたは、そんなの俺のせいじゃないって顔して、今もわたしの、親友である怜菜を
壊そうとしたし、秋山君と愛衣を差別したんだ!」
それまで、聞いたことのなかった杏奈の過去に、私は絶句した。
それでは渡井は、間接的に人を殺したのだ。
杏奈はさらに、
「同じ名字でさ、いつも一緒にいて、本当に楽しかったんだよ!
なのに、あの子の人生を奪いやがった!」
そこまで言うと、膝から崩れ落ちた。
杏奈は大声で泣いていた。
結衣先生は、茫然として杏奈を見つめている。
杏奈がもともと、渡井を病的に嫌っているのはわかってた。
でも、まさか幼馴染が奪われたという理由だなんて思ってもいなかったはずだ。
「……そんな」
私は思わず、言っていた。
「そんなの、酷い……!」
杏奈のもとへ走っていき、震えている杏奈の肩を抱きしめた。
「……怜、菜…………」
杏奈がこっちを見ているのがわかる。
「杏奈……よく、頑張ったね」
また、杏奈の肩が震えた。
顔を見ると、目を大きく見開いている。
そして、
「う……うわあぁぁぁ!」
我慢の限界だといわんばかりに、叫んで、大粒の涙をボタボタとこぼした。
頑張って
123:さくら◆aI:2018/07/14(土) 19:38 >>122
萌夏さんありがとうございます<m(__)m>私もよく、萌夏さんの小説を読ませていただいています!
今まで杏奈が背負ってきたものは、きっと私たちが想像している以上に大きいものだ。
わかるわけがないんだ、と私は思った。
冷たいことを考えてしまう。
だって、自分の気持ちは、自分にしかわからないから。
それでも私は、杏奈を強く抱きしめた。
例え他人でも、痛みを共有することはできる。
「怜菜ぁ……」
杏奈が、弱々しい声で私の名前を呼ぶ。
「杏奈」
私は優しく返す。
今の杏奈に、何をどう言えばいいのか、私にはわからない。
だけど、いや、だからこそ、寄り添うんだ。
私も、渡井から受けた痛みはいくつもある。
別に杏奈のように、知り合いを間接的にも直接的にも壊された、というわけではない。
そこまで重くはない。
私は杏奈を抱きしめたまま、渡井を強く睨みつけた。
「何ですか、香山さん。その反抗的な目は!」
私は冷たく言う。
「反抗的? そりゃそうでしょう。
私も、あなたのせいで家族を壊されたんですから。
常に周りに怯えて暮らす、私の母を見ても、きっとあなたは何も感じないでしょう。
理由もわからず、突然壊れた母を見て、単身赴任中だった父が帰ってきて、それを嘆く姿が浮かびます?」
本当は怒鳴りたいし、感情に任せて報復したい。
でも、私は嫌だった。そんな気力すらわかない。
「……それは、私が悪いっていうんですか? 香山さんがそんなだから」
「いい加減にしてください!」
結衣先生が強く言うのを聞き、慌てて黙る渡井。
「この期に及んでまだそんな戯言言うつもり?
怜ちゃんが何をしたのよ? 逆に自分が生徒を差別しておいて、その態度なの!?
それ見なさい、今だって私が怒鳴った瞬間だんまり。何逃げてるの!」
私は、結衣先生を見て、軽くうなずいた。
「母がおかしくなったせいで、妹も壊れてしまいました。父も、結構必死に耐えてます……」
感情を押し殺していたけれど、体は素直だ。
涙があふれてきて、どうしようもない。
「責任とってくださいよ。私の大好きだった家庭を、返してくださいよっ!」
もう我慢できない。
気が付けば私は、渡井の肩をつかみ、激しく揺さぶりながら訴えていた。
123さん
あ、そうなんですか?!嬉しいです。良かったらあっちのコメントで感想など書いてくれたら嬉しいです❤応援してます!
この日、渡井は早退した。
私が落ち着いて、教室に行くと
「怜菜、大丈夫?」
と何人か声をかけてくれた。
「うん、大丈夫だよ」
本当は、すごく怖いよ、不安だよ。
でも、『大丈夫?』って聞かれたら『大丈夫』って返すしかなくない?
だって、知らない人に話すといろいろ勘違いされるし。
「怜菜さん、奈月先生が呼んでるよ」
私が買えり支度をしていると、クラスメイトの御月さんが近くに来て、そういった。
「え、本当? ありがとう」
御月さんはうっすらと笑いを浮かべて、私を見つめ返した。
廊下に行くと、
「お、怜菜」
いつも通り、クールな奈月先生と、何故か大毅君がいた。
「何つーか、お前スゲーことしてんな……」
「つい、抑えきれなかったの……」
まずいよな、と思って下を向いて答えると、
「気にするな」
奈月先生が笑って、私の頭をグシャグシャと撫でた。
「あーあ、怜菜いいなあ」
いつのまにか隣にいた秋山君がボソッという。
「え、何が?」
秋山君が私をうらやましがる要素なんかあるのか?
なんて不思議に思っていると、
「だってさ……」
何かを言おうとして、口を開いた秋山君を遮って
「そうだ! 秋山、お前親に『いらない』って言われてたもんなァ!」
まだあきらめていなかったのか、渡井が嗤いながら言う。
「……はぁ!?」
私が怒り交じりの怒鳴り声を出すと、
「香山だって、ただのいい子ぶりっこじゃねえか、なぁ?」
周りに呼びかける。
どうしてそんなこと言うの?
っていう悲しい気持ちと、
何で、そんな情報を――秋山君の家庭の問題を――渡井が知っているの?
っていう驚きとで、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
驚きの方が強かったからか、何も言えない私に
「香山、秋山、佐山! お前ら全員に復讐してやる! まずは秋山からな!」
唐突な宣戦布告とともに、渡井は走り去っていった。
しばらく驚いて、ポカンとしていた。
「なあ」
唐突に秋山君が口を開く。
「なんで、愛衣の名前は言わなかったんだアイツ」
「そんなの、知らないよ……きっと、言い忘れだよ。わたしのことも、きっと渡井潰すつもりだよ」
弱気な愛衣に、
「なわけ。愛衣は可愛いでしょ。だから」
杏奈がぴしゃりという。
ああ、そっか。
アイツ、面食いかー。って、ロリコンじゃないの?
「おい、怜菜」
急に名前を呼ばれ、後ろを振り向くと大毅君がいた。
「お前さ、何考えてんの? すげー不気味」
「あ、そうか。大毅君渡井のこと大好きだもんねー。そりゃそう言いたくなるでしょうね。
それとも、それは渡井からのお願いかな?」
あえて意地悪に言ってみる。
すると、
「ん、んなわけねーだろ!」
顔を真っ赤にして必死に反論してくる。
「説得力ないね。どうでもいいけど邪魔だけはしないでね?」
「何でだよ!」
何で、って……まったく、大毅君ったら。
「ま、アイツの肩持つなら勝手にしてね? でもそれは、差別を認めないことと同じだからね?」
「だってよお、美咲だって信じてないぜ?」
「ほらやっぱり。可愛くて聞き分けのいい子にはすごーく甘い顔。
要はご都合主義なんでしょ?」
さらに詰め寄る。
正直、こんな言葉がさらっと出てくるわけじゃないんだ。
ここで引き下がったら、きっと納得できないから。
ごめんね、大毅君。
でも、そんな私の気持ちは通じていなかった。
「怜菜……お前、そんなコロッと変わっちまうほどのショックがあったのか?
それがあいつのせいだって言いたいのか?
でも、だからってやり返していいのかよ……」
大毅君の気持ちもわかる。
わかりすぎるってくらいにわかる。だからこそ、つらい。
「…………ごめんね」
さんざん迷った。
もうここで、大毅君にすべてぶちまけてやろうか。
それとも、振り切って逃げるか。
でも意味はない。謝ることしかできない。
「怜菜……」
何か言いたげな大毅君を無視して、私は走り出した。
走ったところが廊下だった。
目の前にいた人にも気づかず、思い切り正面衝突してしまった。
「いったー」
何か聞いたことある声だなあ、と思っていると、亜依だった。
「わ、ごめん亜依ちゃん」
「怜菜先輩が前方不注意? 何かしたんですか?」
迷ったが、亜依ちゃんも渡井のことが嫌いだという。
すべてを話すことにした。
聞き終えた後「渡井サイッテー!」
と怒鳴る。
「怜菜先輩、実は私の友達も渡井に差別されてるんです!」
「え、そうなの!?」
「なので呼んできました。怜菜先輩のことを気にしていましたし」
亜依ちゃんの友達は、陽子というらしい。
「えっと、陽子ちゃんだっけ?」
「はい。初めまして、怜菜先輩」
大人しそうな陽子ちゃんを見て、一瞬迷ったが聞くことにした。
「渡井のこと苦手って、亜依ちゃんから聞いたんだけど……」
すると、それまで黙っていた陽子ちゃんは
「そうです。私はあの悪魔に壊されたんです」
と叫んだ。
聞いているこっちが悲しくなるような声。
私は思わず、
「アイツに何をされたの?」
と聞き返した。
どう言うべきか、と迷っている陽子ちゃんを見て
「私は、友達のこと聞かれたときに、引きずられたの。途中で一発殴られたし」
「え、何でそんな」
亜依ちゃんが驚くのも無理はない。
「きっと、私の答えが気に入らなかったのよ」
「それだけで……ひどい」
陽子ちゃんはこのやり取りを黙って聞いていた。
そして、
「私は、渡井に、体育の時間に差別されます」
とはっきりと言い切った。
「体育の時間? あれ、奈月先生が担当じゃないの?」
「違うんです」
陽子ちゃんはただ、首を横に激しく降る。「奈月先生がいないときです」
「どういうこと?」
詳しく聞くため、私はさらに聞いてみる。
「そうですね……渡井は、私が体育が苦手なことをネタにして、みんなの前でからかうんです。
私、長距離走は喘息持ちで無理で……なのに、渡井は
『サボり』だのなんだの難癖付けてきました。『どうせできないから言い訳してる』と」
う、うわ……流石にひどいな。
「それで? ほかに何かある?」
「その時ではないんですけど、走り幅跳びとかって砂ぼこりがすごいじゃないですか。
それでできないって説明したのに……」
一呼吸おいて、陽子ちゃんはきっぱりと言い切る。「頬をぶたれたんです」
驚きで、しばらく何も言えなかった。
「……アイツ、そんなことを」
私のつぶやきに、陽子ちゃんは一度首をかしげて聞いてくる。
「あ、あの……私の話、信じてくれるんですか?」
「うん」
私は優しく微笑む。
「陽子ちゃんの顔は、嘘を言っている顔じゃない。……それに、足の傷も、渡井がつけたんでしょ?
傷跡が残ってるよ……」
陽子ちゃんは、はっと自分の足を見る。
明らかに誰かが転ばせることでできた傷。
私は、それを秋山君を見た時に見つけてしまった。
「あのね、私のクラスメイトに、同じことされた男の子がいるの。その子と同じ傷。それが証拠」
「っ、あ、ありがとうございます……!」
陽子ちゃんは、今までで一番うれしそうな顔をしている。
こんな荒唐無稽な話、きっと亜依ちゃん意外に信じなかったに違いない。
陽子ちゃんの話を、私はボイスレコーダーに記録した。
陽子ちゃんと私を交互に見て、亜依ちゃんは
「あ、あの……私にも、何かできることってありますか?」
わたしたちを心配して、気遣うそぶりを見せた。
私は迷った。
亜依ちゃんを巻き込むのは嫌だ。
しかし、亜依ちゃんも渡井のことは嫌い。
そこだ。
嫌いならば、それなりの理由があるだろう、きっと。
だって、亜依ちゃんは周りをよく見て判断する。
単に見た目が無理とか、そういう理由で嫌うことはないから。
わたしはきくことにした。
「亜依ちゃんが、渡井を嫌いな理由って?」
『渡井』という言葉を聞いただけで、誰が見てもわかるというレベルで顔を歪ませる亜依ちゃん。
そうですね、と一度区切ってから
「アイツ、陽子にもそうですけど、とにかく差別するんです。例えば怜菜先輩のクラスにいる美咲先輩とか、かわいい子には甘い顔」
そう、確かにその通り。
「自分のこと責める子には差別」
それもそう。
「私が陽子にしたことを言ったら、渡井とにかく怒鳴って否定して、吐くほど殴られました」
…………!
「もうこれ体罰として訴えられませんか?」
陽子ちゃんは必死だ。
亜依ちゃんも、
「どうにか……」
二人とも泣きそうだ。
私だって泣きたい。
こんな教師がいるのに許す校長が一番嫌い。
「結衣先生なら聞いてくれるよね……」
「怜菜先輩庇って啖呵切っててかっこよかった」
「あーあれか……」
今のところ、教師軍の中で完全な味方と取っていいのは結衣先生だけ。
他の教師は……。
「あてにしないこと」
「うわっ、杏奈!」
いつの間にか、杏奈がいた。
「陽子ちゃんと亜依ちゃんだね。わたし、杏奈。よろしく」
杏奈は
「渡井が証拠を出せってやかましい」
と開口一番に言った。
「つまり、陽子ちゃんたちから証言を集めようと?」
「そう思ってる」
さらっと返された。
「でもどうやって……」
「そう、問題はそこなんだ」
「まあ、どうせあいつはもう逃げられないよ」
証拠を出せ、という割に味方は全然いない、と杏奈は言う。
「うそ」
「だって私だよ?ちゃんとアイツの見方をこっちの味方か中立にしたし」
……杏奈が起こると怖いんだ。忘れてた。
「わたし、何かするべきことありますか?」
陽子ちゃんの必死な姿。
「わたしも何かしたいです!」
亜依ちゃんまで!?
「じゃあさ」杏奈はにやり、と笑って言った。
「校長先生たち丸め込みに行こうか」
「校長先生を丸め込みに行くって……」
ピンとこなかったのか、亜依ちゃん、陽子ちゃんはポカンとした。
私は一応、なんとなくだけど分かった。
「ほらほら、ポカンとしない」
「よくわかりません……」
そりゃそうだ。
私だって全部わかったわけじゃない。
たぶん一割もわかっていない。杏奈の考えていることはそれくらいしっかりしてる。
「じゃ、ざっくり話すからざっくり覚えて」
杏奈はそういうと、にっこり笑った。
「まずさー、校長先生たちって絶対権力にしがみつくのよ。あ、あと世間体に。
それってつまり、逆手に取ればそれらを壊せるほどの材料があれば
校長先生あたりもサクッと味方につけられるんだよね。
ついでにこの際、下手なことされたら困るから先手先手を打つ必要があるし、
やばそうなら時間稼ぎでもして、とりあえず足止めする必要もあるのよ」
うん、久しぶりに杏奈が怖いって思える話だこれ。
同じことを亜依ちゃん、陽子ちゃんも思ったのだろう。
さっきとは違って、畏怖の視線に変わっている。
「でも、足止めって……?」
陽子ちゃんの質問に、杏奈は
「まあ、何かしらの噂でも流して」
「それって……、逆上されません?」
大丈夫よ、と杏奈は笑う。
「だって本当のことを噂にするんだもの。根拠を示せばかなり焦るでしょ」
それは大丈夫なのかどうかはさておき、と杏奈は続ける。
「とりあえず、怜菜は校長先生の所に乗り込んできて。亜依ちゃん、陽子ちゃんは私と一緒に」
「ちょ、何で!?」
わ、私が校長先生の所に……?
「だって怜菜は先生からの信頼も厚いし」
杏奈が言うほどじゃあないと思うけどな……。
「それに、怜菜を嫌いなのは渡井くらいでしょ」
「それは大げさだよ!?」
あ、あと生徒からの人気もあるし、とのこと。
どこまでが本気なのかわからない杏奈の提案に、私は不安になった。
「……おい、香山」
「何?」
「せめて内緒話は静かなところでやれよ?」
呆れた顔をしながら悠太君が近寄ってくる。
「つーか、お前何か考えあんの? まさかノープランってことはないよな?」
「そ、そのノープランですが何か」
何かもくそもねえだろ、とさらに渋い顔をされた。
「アイツ相手にするのに面倒じゃね? だったらせめてもうちょい考えろよな」
「じゃあ、手伝ってもらえないかな……」
思わず勢いでつぶやいてしまったが、しっかりと悠太君は聞いていたようだった。
「なら、もうちょい頑張るわ。手始めに学校の裏サイト使うぞ」
「裏サイト?」
どうやら何かしらの情報を集めるのには最適らしかった。
すぐにインターネットを開いて、ファイルを見せてきた。
「これが、今ある中で有力な情報。とりあえずコピーしてあるけど、もう一回更新してみる」
私も一緒になってサイトを全部見たが、かなり意外だった。
「生徒の人気ランキングとか勝手に作ってたんだね……」
「うちのクラス人気ランキング一位が何を言うか」
「人気も何もないって」
勝手にランク付けされるのはあまり気分がよくなかったけれど、今あるうわさもすべて見ることができた。
「生徒だけが見てるわけじゃないだろうが、連絡を取れば詳しい話が聞ける」
「え、それってもう連絡網じゃない?」
とにかく、と悠太君は画面を見せてきた。
「今仲間にできそうな先生にも目星をつけておいた」
私はありがとう、と言って悠太君と別れた。
「そう、悠太君がね」
杏奈に悠太君のことを話すと、あっさり受け入れた。
「彼も怜菜と同じように人気があるからね。情報の扱いもうまいし」
「人気とかいいんだよ……渡井が潰せれば」
「それはそうね。さっき、陽子ちゃんと亜依ちゃんから聞いたよ。アイツ、女子の着替えを覗いたんだって」
ただの犯罪者じゃん……。
「それをネタにするつもりよ」
杏奈は強いから何かあっても大丈夫だろうけど、心配だ。
「気を付けてよ? 杏奈は大事な友達なんだから」
「大丈夫。ありがとね、怜菜」
名前バグったぁぁ
141:さくら□aI:2021/08/21(土) 23:37 登場人物のおさらい(追加しました)
香山怜菜……ある教師(渡井)が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。 あだ名は熊。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
杏奈……怜菜の友人。基本静かな割に、騒ぎたいとき騒ぐ。
大毅……三年生の中でも有名ないたずらっ子。
亜依……怜菜と仲良くなった後輩。
秋山悠太……クラスメイト。割と大人しめ。
佐野愛衣(あい)……クラスメイト。普段は大人しいが、意見を言うときはしっかりとモノを言う。
美咲……クラスメイト。素直で純粋、かわいいが少しせっかち。
唐沢雪音……学年主任。渡井の味方。
金森遥……一組担任。唐沢先生と同じく渡井の味方。鈍感。
陽子……杏奈の後輩。しっかりもの。
ちなみにこの話しは私の実体験が大本になっています。
香山怜菜……ある教師(渡井)が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。 あだ名は熊。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
杏奈……怜菜の友人。基本静かな割に、騒ぎたいとき騒ぐ。
大毅……三年生の中でも有名ないたずらっ子。
亜依……怜菜と仲良くなった後輩。
秋山悠太……クラスメイト。割と大人しめ。
佐野愛衣(あい)……クラスメイト。普段は大人しいが、意見を言うときはしっかりとモノを言う。
美咲……クラスメイト。素直で純粋、かわいいが少しせっかち。
唐沢雪音……学年主任。渡井の味方。
金森遥……一組担任。唐沢先生と同じく渡井の味方。鈍感。
陽子……杏奈の後輩。しっかりもの。
(自分が忘れているので改めて書き直しました)
学校裏サイトには、渡井のことを嫌っている生徒が意外と多いということがデータで示されていた。
139:w井マジXね
140:>>139伏字の意味なくね?www
141:>>140だってしゃあないじゃん。あいつRKに差別してるし
142:もしかして香山?
143:最近w井の香山をいじめろ的な発言頭おかしすぎて草
まだまだ続いていたが、とりあえず私はこれを書き込んだと思われる人のもとに向かうことにした。
えー、文字化け解消できないかなあ……。
144:さくら■aI:2023/07/13(木) 22:43 香山怜菜……ある教師(渡井)が苦手な女子生徒。
渡井政人……体育教師。怜菜が苦手とする教師でもある。怜菜のクラスの担任の先生。 あだ名は熊。
前嶋結衣……音楽教師。温厚な性格だが、怒るとギャップが激しく、怖い。
杏奈……怜菜の友人。基本静かな割に、騒ぎたいとき騒ぐ。
大毅……三年生の中でも有名ないたずらっ子。
亜依……怜菜と仲良くなった後輩。
秋山悠太……クラスメイト。割と大人しめ。
佐野愛衣(あい)……クラスメイト。普段は大人しいが、意見を言うときはしっかりとモノを言う。
美咲……クラスメイト。素直で純粋、かわいいが少しせっかち。
唐沢雪音……学年主任。渡井の味方。
金森遥……一組担任。唐沢先生と同じく渡井の味方。鈍感。
陽子……杏奈の後輩。しっかりもの。
(自分が忘れているので改めて書き直しました)
学校裏サイトには、渡井のことを嫌っている生徒が意外と多いということがデータで示されていた。
139:w井マジXね
140:>>139伏字の意味なくね?www
141:>>140だってしゃあないじゃん。あいつRKに差別してるし
142:もしかして香山?
143:最近w井の香山をいじめろ的な発言頭おかしすぎて草
まだまだ続いていたが、とりあえず私はこれを書き込んだと思われる人のもとに向かうことにした。
陽子ちゃんでしょう?と聞くとあっさりそうですよ、と返事が来た。
「大体、前からあいつうざかったんですよ、人のこと変な目で見て」
「まあそれは否定できないねえ」
わたし、いつの間にか性格悪くなってるかも。
まあでも、あいつのせいだ。
「やつのこと嫌いだっていう子、予想以上に多いんですよ」
「陽子ちゃんの情報はどこから? やっぱり杏奈?」
はい、と陽子ちゃんは返事をした。
「一応相手は教師ですから、気を付けるに越したことないですし」
「そりゃそうだね。わたしのこと嫌いなのは知ってたけどなんでかな」
うーん、と陽子ちゃんは考えていた。
「多分ですが、前嶋先生に気に入られているのが嫌なんですよ。前嶋先生、結構人気あるから」
「……ねぇ、それ本気?」
ふざけてないですよ、と陽子ちゃんはまじめな顔をしたまま言った。
とりあえず味方を作りましょ、と陽子ちゃんは言っていたが、何をする気だろう。
下手に動いて陽子ちゃんがターゲットになったりしたら嫌だ。
杏奈に申し訳ないし。
まあ、味方と言っても唐沢先生や金森先生は味方にできない。
渡井の事信じ切ってるし。
何でこんなことになったんだろうな、わたしから何かしたわけじゃないのに。
人気だからっていう理由なら、ほかの子だって十分当てはまる。
例えば美咲。
美咲はクラスの中でも人気が高いし、何より美人だ。
あ、だからか。
ふと思った。
わたしは別にかわいいほうじゃないと思っている。
その判断が間違いないってことを、渡井自身が示してるんじゃないか?
つまり、自分の好みの女子だったら優しい顔をするんだ。
名前の文字化け消えたかな
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