私立白峰学園高校
ここは日本中の問題児が集まる、全寮制の高校。
何らかの事件を起こした者、引きこもり・不登校、親から邪魔者扱いされて無理矢理入学させられた者……
様々な環境の人間がこの学園に集まり、同じ時を過ごしている。
だがこの学園は荒れに荒れており、まともに機能していない。
教師もやる気がなく、授業はほぼ自習。
これは、このイカれた学校・私立白峰学園高校の日常物語である。
「奏、もうちょっとで着くからね」
「…………」
車に揺られ窓の外を見ていた少女・桜木奏はとっても憂鬱だった。
理由は今日から白峰学園に転校することになり、今その寮に向かっている最中だからだ。
「また無視?まったくもう…朝日と違ってどうしてあなたはこうなのかしら」
奏の母が呆れたように溜息をつく。朝日とは奏の4つ上の兄のことだ。
そんなことを言っていると、学園の寮についた。
レンガ造りのそこそこキレイな寮だ。
車を止め、トランクに置いてある荷物を取る。
「次会えるのはお盆ね。ま、元気でやんなさい」
奏の母はそれだけ言い残してさっさと帰っていった。
(お母さんは私のこと、本当にどうでもいいんだね)
奏は生気のない目で母の車をずっと見ていた。
「うわ…汚いな…」
外観とは違い中は酷いものだった。
落書きやゴミ、異臭まで漂っている。
「えーっと、私の部屋は307号室ね」
エレベーターに乗り部屋まで向かう。
エレベーターを降りたら、307号室と書かれた部屋に入った。
6畳ほどの部屋でベッドと机、そして家から送られてきたダンボールがあった。
(今日から約3年間…ここで暮らすのね…)
奏は荷物を置いてから部屋を出て、寮を見回ることにした。
寮生は今授業を受けているため誰もいない。
(ここが食堂…意外と大きい…えーっと次は大浴場ね)
パンフレットの案内図を見ながら大浴場へ向かう。
しばらく歩くと『つぼみの湯』と書かれた浴場についた。
(ザ・普通って感じね…)
扉を開け、中を見るとごく普通のお風呂だった。
寮内のように浴場も汚いのか?と思ったがそうでもなかったようだ。
大浴場を見た後、奏は部屋に戻り大の字になって寝そべった。
真っ白い天井が奏を見下ろしている。
「はー…やだなぁ…」
目を瞑り、これからのことを考える。
(ここはお盆・正月以外、外に出してもらえない。必要なものは学校側が用意してくれるらしいからね…)
ありがた迷惑にも程がある。
そんなことを考えていると、時計の針は5時を指していた。
(そろそろ他の寮生が帰ってくる頃ね…)
奏は悪名高き白峰学園の生徒がどんなものか、不安で心がいっぱいだった。
不安という気持ちもあったが、[どういう人達なんだろう]という気持ちも湧いてきた。
「どんな人達なのかしら…こっそり見に行こっと」
奏は起き上がり部屋を出た。
1階の柱に隠れ、寮生が帰ってくるのを待った。
しばらくすると、2人の女子が入ってきた。
「もーまじだるーい。どーせ授業しないんだから教室行く意味なくね!?ずっと寮にいたいよー」
「ほんとそれ。男子はうるさいし…」
「てゆーかアイツさぁ……」
どうやら愚痴を言い合っているようだ。
愚痴のレベルが小学生のようで、吹き出しそうになる。
「栞さん、雅さん、なんですかその言葉遣いは」
「ゆ、百合子様…」
もう1人出てきた。2人の反応からして恐らくこの2人のボス的存在だろう。
「まったく…わたくし達は良家の子女なのですよ?回りに影響されてはいけません。そのように下品な言葉遣いはおやめなさい」
「申し訳ありません百合子様…」
「ですが辛くて辛くて…もう家に帰りたい…」
栞と呼ばれる女子は目に涙をいっぱ溜めて百合子を見た。
それを見た百合子は目を瞑り、
「栞さん、あと2年です。2年耐えれば解放されるのです。わたくし達は他の者共とは違います。気を強くお持ちなさい」
「……………はい!お心遣い感謝します、百合子様!!」
栞が笑顔で返事をした。
それを聞いた百合子と呼ばれる人物は少し微笑み、寮の奥へ去っていった。
「アイツまじうぜー。こっちがちょっと下手に出たら調子乗りやがって」
「『下品な言葉遣いは、おやめなさぁ〜い』」
雅と呼ばれる少女が百合子の物真似をする。明らかにバカにしている。
「ぷくく、似てる〜。なんなのあいつのしゃべり方」
「エセお嬢様って感じ。ていうか盗み聞きとかきもくなーい?」
2人は百合子の悪口を言いながら寮の奥へ去っていった。
(うわぁ…今の見ると普通に頭悪い女子高生って感じ…)
奏は白峰学園の生徒はこんなのかと、少しびっくりした。
(もっとヤバそうな人達だと思ったのに…)
続々と帰ってくる寮生は、普通の子達だった。
(ま、問題児って言っても、所詮高校生だもんね…)
奏は寮生を見るのに飽きたので、見つからないよう、ひっそりと部屋へ戻った。
面白いデス!頑張ってください!
7:桃子:2018/08/21(火) 01:39 部屋に戻り荷物を整理していると、コンコンと誰かが扉を叩いた。
(誰…?)
恐る恐る扉を開くと、そこには美少女が立っていた。
長いまつ毛に大きな瞳、甘いピンク色の髪は柔らかく三つ編みに束ねられている。
だが…よく見てみると顔にあざや切り傷があった。頭には包帯が巻かれている。
「転校生の桜木さんだよね?寮長が呼んでるからあなたを迎えにきたの」
「あ、はい、ありがとうございます」
「一緒に行こっか」
美少女はにこりと微笑み歩き出した。
廊下はゴミやら投げ出された机・椅子やらで凄く汚い。
それをこの美少女が悠々と歩く姿はまるで、天使が地獄に迷いこんでしまったようだ。
しばらく沈黙が続いたが、それを破ったのは美少女のほうだった。
「私の自己紹介まだだったよね。私は小林蜜柑。あなたと同じ高1、よろしくね」
「私は桜木奏です。よろしくお願いします」
「奏って言うんだ。いい名前だね」
「あ、ありがとう…」
顔を近づけられ、奏は顔が赤くなった。
互いの自己紹介が終わった後、私達は再び食堂に向かって歩き始めた。
「奏ちゃんはさあ、どうしてこんなとこ来たの?」
「え…?」
「いやさぁ、転校生ってことは普通の高校いたんでしょ?ならなんでかなぁって。」
美少女は小首を傾げ、笑顔で問う。
奏は少し間を置いた後、
「別に、理由なんて、ないですよ」
奏は下を向いて少し自嘲気味に笑った。
「ふーん…ま、ここに来たんだからなんかやらかしたんでしょ」
小林は興味なさそうに言った。
「あ、食堂ついたよ。じゃあね」
「うん、案内ありがとう」
どういたしましてと微笑むと小林は戻っていった。
(ふう…1人になると急に不安になってきた)
一体何をされるんだろう、怖い、そんな思いばかりが心を支配する。
だが覚悟を決め、扉を開けた。