序
「進めぇぇぇぇぇ! 」
そのかけ声と同時に数多の者たちが走りだした。そして走り出した瞬間に倒れていく者もまた数多なのである。
尚も倒れない者たちの目標は、前方に広がる蠢くカメムシ共の群れなのだ。
決して勝つことのない戦であることを各々理解しながら……。
―――我らの駆けていく音、世界に響く。
我らは逝く、尿臭の充満する地へと向かって。
この銃剣突撃こそは、世界を守る。
我らは逝く、この最期の攻撃を誇って。―――
第1話 二等兵ア・リアの報告
二等兵のア・リアは急いでいた。
「なんてこった! あんなものが世界中にばらまかれたら人類は終わってしまう」
彼は密林での訓練中に、便意を感じ漏らしてしまったがためにこっそりと訓練から抜け出して近くの沢で衣服を洗い流しにいったのである。完全に汚れがとれるわけではないが、ある程度はマシになると判断したのだ。
そして、その帰りに彼は偶然にも黒装束の不審な一団を発見し後をつけてみたのである。その一団は謎の建造物の中へと入り、彼もまた偶然にも侵入に成功し中を徘徊していたところ「ガラス張りの部屋の中で絶賛繁殖中」のカメムシらしき生物を見つけてしまった。
彼はそのカメムシらしきものを見て、驚きをかくせなかった。
何故ならばそのカメムシは数秒に一度卵を産み、その卵は極めて短時間のうちに幼虫・蛹・成虫へと進化しているのである。そして何よりもそのカメムシらしき生物の大きさは軽自動車程度にはあるのだ。
それを見た彼は急いでその建造物を抜け出し部隊が休憩している場所まで走り出し、今に至る。
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