マフィアに殺し屋、スパイまで!?
2組3班は裏社会の住人だらけ!!
《1年2組3班》
【夏城 赤奈(なつじょう せきな)】
高等部1年新聞部の見習い記者。
学園の王子、翔斗の裏を暴こうと尾行していたところ、事件に巻き込まれてしまう。
運動神経と五感は優れているが、成績は中の下。
新聞記者の父が行方不明。
【秋山 翔斗(あきやま しょうと)】
赤奈の隣の席の男子。
成績優秀で運動神経抜群な上に容姿も整っており、人当たりもよく王子のような存在と崇められているが、本性は毒舌吐きの腹黒。
秘密組織のスパイとして活動している。
【春田 月美(はるた つきみ)】
赤奈の親友で後ろの席の少女。
イタリア人とのハーフで、世界的に有名なマフィア[ミトロジーア]のボスの娘。
ハッキングを用いた情報収集が得意で、スパイの翔斗に情報提供することも。
【冬織 鋼(ふゆおり はがね)】
月美の隣の席の男子で、その正体は[ミトロジーア]所属の殺し屋。
運動神経が高く、武器の扱いにも長けている。
【魔法使い盗 ロック(まほうつかいとう ろっく)】
世界中の美術品を壊して回る怪盗。
その正体は謎に包まれている。
「王子の裏……ですか……?」
「そうよ! 学園の王子、秋山翔斗の裏を暴き出すのよ!」
部長が見習いの私に記事を任せる、なんて言うから何事かと思えば、とんでもない案件だった。
「あなた確か席替えで秋山翔斗の隣の席になったんでしょ?」
「ゑぇっ、なんで知ってるんですか!?」
「もう学校中の噂よ? 三年にまで広まっているわ」
席替えで隣の席になっただけで噂になるとは。
さすが、学園の王子──秋山翔斗。
学年首席で、部活には所属していないものの運動神経は抜群、アイドル顔負けの容姿。
そして誰に対しても平等に接し、人当たりもいい。
そんな人物を女子が放っておくはずもなく、ファンクラブやらが作られ、クラブ外でも王子なんて呼び名が浸透している男。
「それで、秋山さんの裏ってなんですか?」
「サッカー部の部長が助っ人を頼んだ時に聞いたっていうのよ、王子の"舌打ち"!」
「舌打ち……ですか?」
「あの仏のような笑顔を振りまく王子が舌打ちなんてスキャンダルじゃない! 本性は絶対腹黒だわ! 裏を暴いて校内新聞にするの!」
「舌打ち一つで校内新聞にされるって、たまったもんじゃないですよぉ〜」
舌打ちなんて誰でもある。
でも秋山翔斗の聖人視は異常で、みんな舌打ちなんてしないと思っているらしい。
人間だしそれくらいあると思うんだけど……。
乗り気でない態度を見せても、部長は気味の悪い薄ら笑いを浮かべて記事のレイアウトを考え始めてしまっている。
「それじゃ、よろしくね!」
初めて任された記事がこんなのって〜!
──翌日。
「裏を暴くって……どうすれば……」
窓側の後ろから2番目、自席に着席しながら頬杖をついていると、ふと良い香りが鼻を掠めた。
これは──お菓子の匂いか……!?
「おはよう、夏城さん」
香りの正体は沢山の焼き菓子を抱えた秋山さんだった。
クッキー、マフィン、カヌレ、マドレーヌetc……。
恐らく女子からのプレゼントだろう。
「お、おはよ〜……今日もすごいね」
「サッカー部のマネージャーさんから、助っ人のお礼にって貰ったんだ。みんなお菓子作りが上手なんだね」
ほわぁ〜。
ほんとに天使みたいな微笑みだ〜!
今にも頭上に輪っかが見えそうなくらい神々しい。
やっぱこんな人に裏があるなんてありえないよ!
「赤奈、おはよ」
「月美ちゃ〜ん!」
春田 月美ちゃん。
私のすぐ後ろの席で、ボブカットが似合う美少女!
ものすごいお嬢様なのか、金銭感覚がちょっと……割と狂ってるとこもある。
ちなみに申し遅れましたが、私は夏城赤奈、16歳!
新聞部の見習い記者として奮闘中!
新聞記者のお父さんの影響でジャーナリストを目指してるんだ。
まぁそのお父さんは1年前から行方不明なんだけど……。
「LINE見たよ〜! 赤奈、大変な話題任されたじゃん」
「そ〜そ〜そ〜なんだよおぉ! あんなの書けるわけないよ!」
月美ちゃんに泣きついて愚痴をこぼす。
ひとしきり吐き終えてがっくりと机に項垂れていると、隣から柔らかい声がした。
「夏城さんって新聞部だったんだね。どんな記事を任されたの?」
「あ、秋山さ……! ゔぇっと……えーっと……」
隣で話を聞いていたであろう秋山さんは、天使の微笑みを崩さぬまま優しく問いかける。
そんな天使に「あなたが腹黒かもしれないので探っているんです!」なんて言えるはずもなく……。
「そ、それは〜公開されてからのお楽しみ!」
「へぇー、すごく楽しみだよ」
秋山さんの柔和な微笑みに癒されていると──。
「翔斗君、数学分からないところがあって……」
「ちょっ、ずる〜い! 私にも教えて秋山く〜ん!」
「僕で良かったら……」
「やったぁぁ〜!」
大勢の女子に勉強を迫られても嫌な顔一つせず神対応……。
ゔぁぁ!
こんないい人、腹黒なわけない!
──と思っていたんだけど……。
昼休み新聞部の部室で次号の記事をワープロに打ち込んでいると、部長に話しかけられた。
「どう? 王子の本性は暴けた?」
「先輩……! やっぱりあんないい人が腹黒なわけないですよぉ〜」
「ばっかねぇ、真に悪いやつほど隠すのが上手い! あんた絶対詐欺とか引っかかるタイプよ」
「そんなことないですよ!」
「どうだか……昼休みもうそろそろ終わるし、帰っていいわよ」
「お疲れ様でした〜」
部長の言葉に甘えて私はキリのいいところで記事の打ち込みを終了させ、パソコンをシャットダウンした。
その帰り道だ。
──チッ。
中庭を早足で通っていると、舌打ちにも似た音が聞こえ……舌打ちだ、絶対舌打ち。
まさかとは思いつつ音のした方……ゴミ捨て場へ向かうと、秋山さんがゴミ箱にクッキーやマフィンを躊躇い無く捨てるところが見えた。
「ったく、よく知らねぇやつが作ったもん食えるわけねぇだろ。気持ちわりぃ」
ゑ……?
ゑ? ゑ?
秋山翔斗さんですよね?
あの天使で神で仏な秋山さんですよね?
私は気が動転しつつもなんとか我に返り、新聞部の必需品、ボイスレコーダーの電源を入れる。
「なにが勉強教えて、だ。教師にでも訊け、ほんとうぜぇしめんどくせぇ……」
秋山さんの声はばっちり私のボイスレコーダーに録音され、重大な証拠となった。
これを部長に提出すれば私は次から色々と記事を任せてもらえるんだろうけど……。
でも秋山さんは学校で過ごしやすくするために頑張って本性隠してたんだよね。
お菓子だって女の子達が傷つかないようこっそり破棄して配慮してる。
それを私達が壊していいはずがない。
部長には、何も手に入れられなかったと言っておこう。
見なかったことにして立ち去ろうとした刹那、なぜか諜報戦隊スパイマンのオープニングテーマが流れた。
日曜午前8時30分から絶賛放送中の特撮番組だ。
私も大ファンだ。
スパイマン♪ スパイマン♪ 悪を暴けスパイマン〜♪
という軽快なメロディが中庭に流れる。
呆気に取られていると、なんと秋山さんがスマホで通話を始めたのだ!
秋山さんが毒舌吐きという事実より着信音をスパイマンにしている方が圧倒的にネタになるのではないだろうか。
「……はい、引き続きミッションを遂行します。現在手に入れたデータは全て転送しました。はい、後は四島物産の極秘情報のみです。本日午後8時より任務を開始します。目処は立っています。恐らく4階の社長室に管理されているかと……」
先程の荒い言葉遣いが嘘のように消え、なにやら神妙な面持ちで話す秋山さん。
ミッション……?
極秘情報?
任務──?
なんかカッコイイな〜と軽い気持ちで聞いていたが、これってもしかして……。
「分かりました。今度こそ必ず"レイド"に関する情報を……」
「……レイド?」
どこかで聞き覚えが見覚えがあるような〜ないような?
聞き覚え、というよりは見覚えというか割と最近なような……。
──カシャン。
レイドという単語に気を取られていると、つい手が緩んで持っていたボイスレコーダーを落としてしまった。
結構な音が辺りに響き、さすがに秋山さんも私の存在に気づいたに違いない。
「夏城……さん……?」
「う、あっあ〜っと〜ゴミを〜捨てようかなぁ〜なぁんて……」
生憎ゴミ袋のひとつも持っていなかったけど、それでも苦し紛れの言い訳を並べる。
秋山さんは地面に落ちたボイスレコーダーと動揺する私を交互に見た。
向こうも少し固まっていたがすぐに落ち着きを取り戻し、睨みを効かせてゆっくり歩み寄る。
「……おい」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
普段温厚な人がドスの効いた低い声で近づいてくる時ほど怖いものは無い。
私は脂汗をだらだら流しながら、謝罪やら言い訳やらを頭の中でぐるぐる考える。
「いつから見てた?」
「えーっと〜……お菓子を捨てるところ、から……」
「……絶対誰にも言うなよ」
「本当は女の子のお菓子も捨てちゃうような腹黒男子ってこと? それともス……スパイだってこと……です、か?」
もし見当違いなら恥ずかしすぎるけど、ミッションだとかデータ転送なんてスパイとしか思えないよ!
スパイじゃないとしても、なにか危なそうなことに首を突っ込んでいるのは確実だ。
「その情報が漏れたら、お前の命はねぇからな」
「……はい」
否定しないあたり、本当にスパイなのか!?
高校生でスパイってなれるもんなんだ!?
それとも諜報戦隊スパイマンのスパイレッドに憧れすぎて真似してるただのスパイごっことか!?
「そのボイスレコーダーは? 俺の事を探ろうとしていたのか? どこの組織所属だ!?」
「しっ、新聞部! 新聞部の部長の命令で秋山さんについて裏を暴くことに……」
「なっ……この学校の新聞部は裏社会に精通していたというのか!? じゃあお前は新聞部のスパイだな? 通りで気配を消すのが上手いと思った……」
「いや私は普通の高校生だから! てか遠回しに私の影が薄いって言ってるの!?」
思い込みが激しいので検討外れの憶測を訂正するのに一苦労だ。
「しかも部長は俺の正体に薄々勘づいていて……!?」
「違う違う! 暴きたかったのは秋山さんの本性! 品行方正な秋山さんがサッカー部の助っ人を頼まれた時舌打ちしたってリークがあって、それで秋山さんは腹黒なんじゃないかって部長が……」
私がそう言うと、秋山さんはなにか心当たりがあるのか深くため息を零した。
「サッカー部の部長から三日連続で練習試合に出て欲しいと頼まれた時か……」
連日遅くまでやっているサッカー部の試合を三日連続で助っ人に出て欲しい。
こりゃ仏の仮面も外れるわけだ。
舌打ちの一つや二つもしたくなる。
秋山さんはもう一度ため息をつくと、呆れたように言った。
「知りすぎたお前は本来始末するべき相手」
「ヴェッ!? それってこっこここ殺……!?」
「……だが、俺の警戒が甘かったせいで偶然巻き込まれた身だ。理不尽だから生かしてはおくが、誰かに話せば容赦はしない。いいな?」
「……は、はいっ!」
救いとばかりに予鈴が鳴り、私は逃げるように教室へ走って行った。
その出来事の後から、私の目には秋山さんの微笑みが天使から死神へと移り変わって見えた。
一つ一つの挙動にも恐怖を覚え、なるべく近づかないようビクビクしながら過ごす。
ようやく放課後になり、何事もなく帰路について、盛大に安堵のため息を漏らした。
ブレザーを脱ぎ、リボンを外し、ベットにダイブ。
なんとなく今日録音したボイスレコーダーを再生してみる。
『今度こそ必ず"レイド"に関する情報を……』
「そういえば"レイド"……って単語。な〜んか引っかかるんだよな〜」
どこかでなにか読んだのかな、とぐるぐる思考を巡らせていると、ふと机上の手帳が目に入る。
私が去年父の日にお父さんにあげたものだ。
新聞記者のお父さんに使って欲しくて一生懸命選んだ、黒革の上等な手帳だ。
私がこの手帳をあげた1週間くらい後に、お父さんは行方不明になった。
「お父さん……どこにいるんだろ……」
大事に保管はしていたけど、触れる度にお父さんのことを思い出して悲しくなるからずっと放置していた。
そっと革の感触を噛み締めるように撫でて、手帳をゆっくり開くと──。
「これって……!」
"重大な事実"を目の当たりにしてしまった私はいてもたってもいられなくなり、とうとう四島物産の本社ビルに来てしまっていた。
高層ビル──というわけでもなく、4階建てのこじんまりとしたビルだ。
「来たはいいけど、ほんとに秋山さんここに来るのかな……?」
スパイとしての任務のため、今日の午後8時に四島物産の4階、社長室に入り込むとは聞いていたけど……。
残念ながら四島物産の本社ビルは社員証がないと立ち入れないし、ましてや社長室なんてセキュリティが強くて一般人にはとてもじゃないけど入れない。
それこそスパイでもなきゃ。
「やっぱ帰ろうかな……でも秋山さんにこの情報は伝えかなきゃだし……」
残念ながら私のアドレス帳に王子の名前はない。
電話が使えれば一発解決だけど事はそう甘くなく、直接秋山さんに会う必要があった。
「うーん、4階……4階……」
私はふと、ビルの壁を見てニヤリと笑った。
「ダメ元だけど、やってみますか〜!」
この四島物産への侵入が、後に私の人生を大きく変えるなんて、この時の私は思ってもいなかった。