あくまでも実験

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1:伊藤整一:2019/07/22(月) 23:56

2190年2月23日のことだった。警察官のハワード・マッケインは、久しぶりに休暇を貰ったので、一日中テレビを見て過ごそうと考えた。
彼はさっとリビングへ出ると、テレビの電源を入れた。すると、ニュース番組が出てきた。

「ニュースなんて暗くなるだけだよ……」

と彼は呟いて、チャンネルを回そうとした。しかし、その時流れたニュースのせいで、リモコンを取る手が緩んでしまった。

「アメリカの科学者ダニエル・クラーク氏のチームが未来を予知する装置の作成に成功しました……」

アナウンサーが淡々と説明をし始めた。どうやら、犯罪の未然防止に役立てる積りらしい。

「へえ、死刑執行しなくて済むなら大歓迎だけどな」

いつのまにか見入っていた彼は側の封筒を見ながら呟いた。死刑執行手当だ。こんなもので心が癒えると思っているのか。お陰でどれだけ酒を煽っても、胸が荒縄で縛られるような感情は消えない。彼はため息をついた。
しばらく画面に注目していなかったから、もうアナウンサーの説明は終わっていた。つまらなそうな先生方がつまらない討論を始めていた。奴らは、

「現実的ではない」「悪用されるに違いない」「未然防止は不可能」

と夢も希望もないことを言いやがる。こいつらは夢を叶えてしまったから、夢を見ようなんて思わないんだろうな。と彼は薄く笑った。
現実に引き戻されて、嫌になったところに、突然電話がかかってきた。胸が持ち上がった。電話の音がいつになく威圧的だ。

「はいはい、今出ますよっと」

彼は呻き声を上げながら体を起こして、ゆっくり受話器を取った。そして、すぐに取り落とした。
最悪だ。相手は上司だった。すぐに来いという事らしい。彼は椅子を蹴飛ばして、準備に取り掛かった。

43:Dreadnought:2019/08/19(月) 23:51

マッケインがケニーについて調べていることを知った署長は、事の真相を知られては困ると思い、非番の日に彼を呼び出した。マッケインは、表情こそ固かったが、武者震いして、駆け足で署長の元へ向かった。彼が挨拶すると、署長は無言で敬礼し、椅子に座ることを進めた。マッケインは、出された椅子に浅く腰掛けた。

「君は最近、ケニーという人物について、調べているね?」

と署長は尋ねた。彼ははっきりと、返事をした。彼の返事には、熱がこもっていた。署長は、彼の勢いがすごいので、何かを不安に思ったか、手汗が止まらないようだった。

「そうか。では、ケニーについて教えようか……」

署長の声は低く、ゆっくりだった。署長は、マッケインから目線をそらして、ケニーのことを説明し始めた。

「ケニーは、君と同じ、この署の警察官だったが、ある日の銃撃戦で死んだ。その銃撃戦は犯人も警官も多く、その中で彼は活躍した……だから、皆はそれを知らない君をバカにするのさ」

言い終えると、署長は彼の肩を強く叩いて、

「ま、気にするな。そのうち良くなる」

と言うと、彼を退出させた。マッケインは、どうも腑に落ちないという表情で、頭を書きながら元の場所へと戻っていった。

44:匿名:2019/08/20(火) 22:15

>>42
ありがとうございます。詳しい返信は、申し訳ありませんが後で書きます

45:Invincible:2019/08/25(日) 19:36

>>42
ちゃんと風刺になってるか心配だったので、そう言っていただけて、安心です。
ありがとうございました。

46:Invincible:2019/08/25(日) 21:05

マッケインがどうしても納得できなかった事とは、ケニーという関係のない人物のことで、自分が非難されているということだ。関係ない人のことで、執拗に攻撃するなんて、いくらなんでも短気すぎるだろう。時間が経つにつれて、その疑問は彼の脳内で膨らんでいった。

そして、ある日、ついに疑問を溜め込んでいることに堪え兼ねた彼は、署長に尋ねることにした。すると、署長は顔を蒼くして、少し頭を抱えた後に、端末をいじり始めた。署長は、「よし……あったあった」と言うと、表示されたページをマッケインに見せた。そのページには、

『携帯端末が原因か。脳過労の増加』

と書いてあった。日付は数ヶ月前のものだった。だが、マッケインは最新の記事だと思っていた。

「つまり、脳過労の増加によって、感情を抑える機能が弱まる。だからみんな、君へ過剰に怒っている……」

と署長が落ち着いた様子で言った。マッケインは一度深く頷いたが、すぐに顎に手を当てた。周囲の対応が過剰であることについては、合点が行った。しかし、彼らが感情が抑えられないなら、なぜ自分は強い感情を抱くことがないのかという疑問が生じたからである。だが、二つ目の疑問が解消されることはなかった。

47:Invincible:2019/08/26(月) 00:42

時間の流れとは非情なもので、彼の疑問に答えてくれる者が異動となってしまったのだ。それは、署長であった。任期満了による異動であった。署長は、延長を要請したが、一署長の言い分など到底認められるわけがなく、後任のアーネスト・ハウとの交代が決められた。そのため、署長は引き継ぎの際に、後任の目を見つめ、やや険しい表情で署内のややこしい事情を説明した。後任が署内の事情を把握し、うまくまとめることを期待したのである。しかし、肝心の後任は表情こそ真剣そのものでメモもとっていたが、引き継ぎが終わると、悪い冗談だと言って、せせら嗤っていた。

そして、信任のハウ署長は、署内の特別な事情のメモのうち、未来予知のメモ以外は、破り、丸めてゴミ箱へ投げ捨てた。

ハウ署長は早速、未来予知装置を積極的に活用することを決めた。そして、彼は未来予知装置を用いた捜査の経験がある警察官を探した。経験者にやらせた方が、遥かに確実だからである。そして彼は、ある一人の警察官に目を止めた。彼はこの捜査を二度も経験した大ベテランであったのだ。署長は即座に、メモ帳に「ハワード・マッケイン」と記した。

48:Invincible:2019/08/26(月) 22:52

ハウ署長は、着任して間もないうちから、未来予知捜査を行うことを決定した。これは、彼がせっかちであることと、自己の功績を求めた事による判断である。さらに、彼はできるだけ大きな事件を捜査させようと思った。また、現場の人間に事件まで選ばせるときっと楽な方に走るだろうと思ったのか、自分で事件を探した。しかしながら、ハウ署長は前任者から説明を受けたとはいえ、素人である。事件の選び方も杜撰なものであった。事件の規模と犯行人数、被害者数、場所、時間などの基本的な事項の調べ方は理解していたが、より踏み込んだ事項については調べ方を知らなかった。早速彼は説明書を引っ張り出したが、辞書のような分厚さと読みにくさからさっさと閉じて放り投げる。こんなものを読んでいたら先を越されると思ったのだろうか。彼はやむなくできる範囲で機械を操作することにした。

そして、一時間ほど経ったときであった。彼は突然手を叩いて歓声を上げた。他の事件とは比較にならない大事件を発見したのだ。被害者数は2名死亡、負傷者多数。犯行人数も多数、事件発生までそれほど日数もなく、発生場所も近くの病院であり、問題ない。まさに最良の事件であった。

そして、捜査にはマッケインが当てられた。ハウ署長は前任者から、マッケインは精神的ダメージを負っているからなるべく選ばないように忠告されていたが、冗談にしか聞こえなかったので無視した。
尤も、ハウ署長が忠告を無視した理由は、「忠告を悪い冗談だと感じたから」だけではない。他の警察官はケニーのことを殆ど覚えていないから、マッケインも思い出すことはないだろうと判断したという事も理由の一つだ。署長が、他の者はケニーのことを忘れたと判断した根拠は、周囲のマッケインへの攻撃が止んだことである。マッケインへの攻撃が止んだ本当の理由は、興味の対象が「ケニーの死」から「政府の緊急発表」へと変わったからなのだが。

早速、ハウ署長はマッケインを呼び出した。ハウ署長は、マッケインが来るや否や、早口で説明を始めた。マッケインは、もう三ヶ月以上も前に一度経験しただけだから、最近経験した者に回した方がいいと言ったが、そんなことは無視された。仕方なく、彼は捜査を承ったが、事件発生日を言ったところで、やや表情を曇らせた。ハウ署長は、この微妙な表情の変化を見逃さなかった。

「何か不服か?」

と問い詰めるように言った。

「いいえ。ただその日は政府の緊急発表の日ですから、万が一があればと思っただけです。すみません」

とマッケインが頭を下げると、

「お前にとっては数日後の事件よりも大昔のミサイルの方が大事なのか。そんなものは端末で見ればいいだろう。……呆れた」

と、ハウ署長はマッケインを睨みつけ、嫌味ったらしく言った。彼のマッケインへの評価は落ちたが、それでも時間がかかるから担当者を変えようとは考えなかった。

49:Invincible:2019/08/27(火) 07:36

なんか気持ち悪い構成になってるなあ

50:Invincible:2019/08/29(木) 20:17

事件当日、マッケインは、端末に政府発表のライブ動画のページを表示させると、イヤホンを両耳に入れて、動画を再生した。そして、端末をポケットに入れた。今から担当している犯行時間も場所もわかっているのだから、病院前でベンチにでも腰掛けてゆったり聞いても良いのだが、せっかちなハウ署長が、現行犯逮捕に見せかけてほしいと言ってきたので、あくまで巡回として動いているということになっている。

いつも通り、巡回をこなしていくうちに、病院がうっすら見えるようになった。時間も、丁度いいぐらいになっている。だが、マッケインは足を早める。病院での大事件の防止を任されているため、不安が隠せないのだ。少しでもタイミングを逃せばどうしようもなくなってしまう。もうすぐ本番なのだと思うと、体が硬直して、手慣れたはずの巡回も少し手間取るようになってしまった。

病院が目の前に見えるようになったところで、マッケインはイヤホンをさらに押し込んだ。先ほどまで、結論に関係のない事か、専門的すぎる内容ばかりだった政府発表が、核心をついた内容になったからだ。耳に少し力が入る。ここを聞き逃しては損をすると思ったのだ。すぐに、政府の高官が話し始めた。騒いでいた記者たちは一人残らず静かになり、張り詰めた空気が立ち込めた。

「それでは、第三次太平洋戦争において、合衆国本土上空で撃墜されたミサイルの詳細とその影響ついて発表します」

と高官が一言言っただけで、シャッター音が沢山鳴った。一度は静まり返ってた会場も、再び喧騒に包まれた。

「k国から発射されたミサイルには核弾頭は搭載されておりませんでした。よって、放射能汚染の可能性はありません……しかし」

今度は静寂に包まれた。核弾頭は搭載されていないと聞いて、記者たちは一瞬、歓喜に沸いた。だが、「しかし」という不穏な単語を聞いて、話すことはおろか、呼吸すら止めた。誰もが早く続きを言うことを望んだ。しかし、高官はもったいぶって、すぐに話そうとしない。

「おい! 早くいえよ!」

記者たちと同じく、興奮と不安に脳内を締められていたマッケインも、ポケット内の端末に向かって怒鳴った。すると、怒りが通じたのか、強く息を吸う音が聞こえた。すかさずマッケインはイヤホンに手を当てた。その時だった。突然、向かいから走ってきた男にぶつかられたのだ。イヤホンが耳から抜け、マッケインは転倒した。相手の男は、振り向いて、マッケインを睨み付けると、

「邪魔だ! 馬鹿野郎!」

と怒鳴り散らした。相手の剣幕はすごかったが、マッケインは怯まず、ただじっと相手の顔を見ていた。

51:Invincible:2019/08/30(金) 21:22

どうもその男の顔を見ていると、不思議にムカムカしてくる。そして、初めて会うはずなのに、どこか見覚えがあるからである。だが、転んで頭がぼんやりしているのと、近くではっきりと顔を見れないせいで、よくわからないでいた。
余りにもマッケインがジロジロと見てくるので、相手の男は首を傾げて、マッケインに顔を近づけた。すると、突然、呻き声あげ、顔を蒼白にして、冷や汗を垂らし、脱兎のごとくあちらの方へ駆け出した。その時、マッケインはゆっくりと立ち上がり、警棒を片手に握りしめた。そして、彼は眉間に皺を寄せ、男を凝視した。彼の脳内の、書き換えられていた記憶が元に戻ったのである。

男の足は、長い入院のせいか遅く、すぐに追いつくことができた。そして、マッケインは、男の後頭部に警棒を振り下ろす。男は悶絶し、頭を抱えて、這いつくばった。それでもマッケインは容赦せず警棒で何度も殴りつける。殴られるたびに、男は悲鳴を上げていたが、それもどんどん弱々しくなっていった。

「警官が民間人を殺そうとしているぞ!」

野次馬の一人が叫ぶ。すぐに、端末を片手に歩いていた通行人たちが一斉にマッケイン達の方をみた。そして、端末のカメラを一斉にマッケインたちの方へ向けた。しかし、マッケインは全く気にする素振りを見せず警棒を振り下ろし続けた。狙いは男の手である。男は、頭を手で覆って、必死に守っている。だから手を叩き潰して頭を直接殴ろうとしているのだ。二、三度殴りつけると、男の手は真っ赤に腫れ上がった。さらに何度か叩きつけると、鈍い音と共に男が悲鳴を上げ、手を頭から離した。このすきに、マッケインは無防備になった後頭部を、警棒が凹みそうになる程、殴りつけた。そして、男が一際大きい悲鳴を上げたところで、男は動かなくなった。マッケインは血まみれになった警棒を投げ捨てて、目を瞑った。殺された友人の為に黙祷を捧げたのだ。だが、それは長くは続かなかった。マッケインは突然殴られ、地面に打ち付けられることになったからである。マッケインを殴りつけたのは、警察官でも保安官でもなかった。どこにでもいそうな、一般人であった。彼らはマッケインを口々に罵り、リンチした。

マッケインの意識が遠のく中、政府発表をしていた高官は、一通りの発表をリピートしていた。

「……よって放射能汚染の可能性はありません。しかし……K国の開発したものと思われるウイルスが搭載されており、合衆国本土に散布されました。そのウイルスは、呼吸することにより、体内に入ると、すぐに脳内に至り、大脳辺縁系を活発化させることがわかっております。これは、人の感情、特に怒りの感情を増幅させる効果があります。また、21世紀より問題になっている脳過労の影響もあり、ウイルス本来の増幅効果以上の効果が出ていることが判明しました。今後も脳過労が進む場合は、全ての国民が感情に振り回されることになる事と思われます……」

52:Invincible:2019/08/30(金) 21:23

完。

この後、後書き的なものがあります

53:Invincible:2019/08/30(金) 21:29

後書きです。多分つまんないんで飛ばしてください。

本作は、元々ふつうのSF作品にする予定でした。未来予知装置が完成し、最初は犯罪防止に役立っても、次第に悪用される。というストーリーです。話も長編です。
ですが、後々になって、同じような作品があったような気がしたので、大幅に作風を変えることにしました。その結果が本作です。本作をご覧になって、色々考えてくださればと思います。

余談ですが、初期案から配役が変わっていないのは、主人公とケニー、初代署長、ダニエル博士だけです。また、ケニーはもっと長生きする予定でした。


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