いつもと変わらない街並み。
いつもと変わらない人々。
いつもと変わらない日常。
……変わらないまま、時が過ぎていた。
と、言うより、過ぎる時すらその場所には存在しないのである。
全ての時が、止まっているのだから。
「……はあっ、はあっ!」
全てが止まった世界で、ただ一人動いている少女がいた。
その少女は、腰にバックルを巻き、肩や脚に防具のついた青色の戦闘服に身を包んでいる。
「誰か、誰かいないの?誰か、止まっていない人は……!」
その少女は、探していた。
手に持ったもう一つの同じバックル……タイムドライバーを託せる人間を。
「居るはずないだろ?俺らが全部止めてんだから」
「くっ……また、あなた!」
少女を嘲笑い、立ちはだかる若い青年。
長丈の服を着た青年の隣には、怪獣をそのまま小型化したような異形の怪物が従えられていた。
「ぐるるるる……」
「ま、負けないんだからっ……勝って、明日を取り戻してみせるんだから!」
少女は、戦闘用手袋で覆われた両手をしっかりと構え、戦闘態勢を取る。
「やれ」
青年の合図で、怪人が少女に襲いかかった。
そして少女も、怪人に向かって飛びかかり、そして………!
光が、彼女たちを包んだ。
「はああっ!」
「たあっ!」
あすかを守りながら、2人は戦い続ける。
雪崩れるように襲いかかる怪人たちは、一向に数を減らさない。
「はっはっは!アンナチュラを倒した力はそんなものか!」
怪人に指示を送りつつ、パラドックスは屋根の上で静観している。
そんな彼にサキミラはキレ気味になり……
「うっさいなあっ!」
ギュン!と、光弾を放つ。
パラドックスに怒りを向けて。
「くっ!……面白い。俺も出よう。はああああああっ!」
光弾を受けたパラドックスは、どこかスイッチが入ったらしく、
自らも臨戦体制になり襲いかかってきた。
「咲ちゃん!ここは私が!」
「わかった!」
その相手は、玲奈が務めることとなる。
「ふんっ!」
下側からの、鋭いアッパー攻撃。
玲奈はそれを、ガードで受ける。
「今川あすかは目覚めんぞ?二度とな!」
「何を……うわっ!」
玲奈は、パラドックスの言葉に一瞬動揺を見せる。
そこで力が抜け、もう1発拳を命中させられた。
バイザーを持ってしても、顔面への強烈な一撃は、
彼女を吹き飛ばすには十分な攻撃だった。
「お前にも教えてやろう!
……そこの少女は、二度と起きない!俺たちを倒したとしても!」
「何ですって……!パラドックス、詳しく教えなさい!」
玲奈が吹っ飛ばされたのを見て、サキミラもパラドックスに攻撃を仕掛ける。
「だあああっ!」
一呼吸いてからの、強烈な回し蹴り。
遠心力のついた非常に重い攻撃。
「はあっ!」
パラドックスはそれを受け止めると、足首をギリギリと締め付ける。
「ふ……あいつはこの時間でも、何度も変身した。その蓄積ダメージは、
巻き戻さなければ絶対に消えない!
だがな、それをするとどうなるか……」
「どう、なるの!」
拘束を解き、サキミラの右ストレートが炸裂。
パラドックスはそれすらも避け、言い放った。
「俺たちとの戦いは、永遠に終わらんぞッ!」
「えっ……」
追撃しようとするサキミラだったが、パラドックスの言葉に手が止まる。
「つまり……この戦いも無意味ということだ。残念だったな」
止まったサキミラを、怪人達が取り囲んだ。
なす術もなく、捕まり……組みつかれていく。
「咲ちゃん、振り解いて!咲ちゃ……え、何で?」
助けようとする玲奈だったが、サキミラの表情がそれを拒む。
なぜ?理由が全くわからない。
「もう、いい……疲れちゃった。あすかを助けられないなら、もう死んじゃってもいい」
「そんな、それじゃ私たちの頑張りは」
「無駄、だったんだよ……」
ベルトに、怪人の腕が迫る。
このままでは、破壊されてしまう。
だがサキミラは、もう抵抗しなかった。死ぬ気であった。
絶望していた。あすかを助けられないことに。
助けても、戦いから逃れることはもうできないということに、気付いてしまったのだ。
「このっ、早く、離れなさい……!」
サキミラを助けるために、玲奈が向かう。
しかし間に合わない。本当に、終わり______
「___ぐあっ!なぜ、お前が……」
「え……?」
怪人達の動きが、止まった。
パラドックスがふらつき、倒れた。
急に何が起こったのか、理解できない2人。
その背後にいた人物を見て、驚く。
「あすか……!」
変身したあすかが、パラドックスを攻撃したのだ。
そもそも意識は戻らないはずだ。そう思っていたサキミラは、
あすかに急いで駆け寄った。
「お姉ちゃん……いいよ。私のことは、もう」
「あすか、それって……」
「______へえ、パラドックスまで倒したなんて」
2人の会話を遮るように、低い声が響き渡った。
「え、あなた……ラノーマなの?」
「そうさ。ラノーマだ。怪人になったけど」
ラノーマを名乗る怪人は、怪鳥とも呼ぶべき醜い姿になっており、
本人の面影は一切なかった。
「……よくも、よくもアンナチュラをぉぉぉぉぉ!」
ラノーマは翼を広げると、叫びながら光弾を屋上にぶっ放した。
「う、うわっ!」
「いきなり何よー!」
怪人達すら爆風に巻き込んでいき、辺りは火と煙に包まれていく。
怪人が全て消え去り、パラドックスも消えた。
残ったのは、あすか達と、ラノーマのみであった。
「ごほっ、あすか。あいつ、仲間のパラドックスまで……」
「あの人、アンナチュラのことを言ってたから、もしかして」
煙に巻かれ咳をしながらも、サキミラはラノーマの発言を分析していた。
あすかも同じく、彼の言葉を考えていた。
「ああ、そうだよ。アンナチュラを殺したお前らを、絶対に許すもんかァ!」
ラノーマはさらに逆上し、今度はあすか達に狙いを定めて爆裂光弾を放つ。
「はあっ!」
それを次々と撃ち落としていく玲奈。変身後のサキミラでも反動を感じていたというのに、全く気にしていない精密な射撃で、光弾は消え去る。
「こっちだって、3人でまた、学校生活を送るの!だから……絶対に勝つ!」
サキミラはラノーマの方を向くと、拳銃から光弾を放った。
「はあっ!!」
放たれた光弾は、真っすぐにラノーマの方へ飛んでいく。
「アアアアアアアアア!こんなものォ!」
奇声を挙げながら、ラノーマは怪鳥の翼で弾を全てかき消していった。
……が、そこに油断が生まれていたのだ。
「こっち」
「よ!」
あすかと玲奈の連携が炸裂。
飛び上がり、左右からの連続射撃。
「なにっ……ぐああああああ!」
翼を燃やされ、ラノーマは地に伏せた。
「が……ぐうっ……! くそっ、くそっ、時間をとめて、自分たちだけの世界を作るはずだったのに……!」
ラノーマは舌を噛みながら、とても悔しい表情をしている。
それに少しばかり、涙も流していた。
サキミラは思った。怪人でも、涙を流すことがあるのかと。
あすかは思った。人を想う心があったのかと。
玲奈は思った。誰かのために力を尽くすことができるのかと。
だが……
「倒さなきゃ、いけない……」
あすかが、ラノーマに銃口を向けていた。
すぐにでも発射できるところだ。
誰も止めなかった。誰もいないのだから。
ラノーマも、命乞いをしなかった。
だから、あすかは_____
撃った。
必殺技を放ち、撃ち尽くした。
ラノーマは、弾けるように消えてなくなった。
……これで、全てが終わったのだ。
クライマックスか!?
82:ふたば◆r.:2019/09/28(土) 20:42 ……直後、変身が解除され、あすかが倒れた。
力尽きるように崩れ落ちる彼女を、サキミラが受け止める。
「あすか……」
「おねえ……ちゃん……もう、巻き戻さなくてもいいよ……わたし、
思い出したの。お姉ちゃんがお姉ちゃんだった時のこと。
もうそれだけで、わたしは十分まんぞくだから……」
あすかの呼吸が、どんどん小さくなる。
意識が戻らなくなるだけではない。死ぬことを暗示しているようだった。
パラドックスの言う通り、限界が来たのだ。
「ダメよ……それじゃあ私は、何のために戦ってきたの!あすかを、妹を助けるためだったのに……!」
サキミラはあすかの手を握り、必死に呼びかける。
彼女の目からは、涙がこぼれ落ちていた。
「お姉ちゃんは……明日に向かって、すすんで……わたしはずっと……それを願ってたから……」
「あすかちゃん……せっかく、奇跡が起きたと思ったのに……いや!死んじゃ、いや……!」
玲奈も、あすかに呼びかけた。
死なないで、死なないでと。心の中でも叫んでいた。
その願いを跳ね除けるように、あすかの目がどんどん閉じていく。
「ありがとう……わたし、みんなの明日を……守れ______」
あすかはゆっくりと目を閉じ、手からも力が抜けた。
そして完全に、動かなくなった。
「あすか……あすかぁぁぁぁぁ!うわああああああん!」
サキミラはついに、大声を出して泣いた。妹の名を呼びながら、泣いた。
時空の歪みでも何でもない、実の妹のために。
二人の変身が解けると同時に、あすかの体が光の粒子に包まれていく。
「あ……」
「ドライバーも、消えていく……」
あすかと一緒に、3人のタイムドライバーも粒子に包まれていた。
そして発光し、消え去った。
……学校の騒がしさが、二人の耳に入ってくる。
全て終わったのだ。全て。時間が止まることも、もうない。
「咲ちゃん……タイムドライバーって、あすかちゃんの願いそのものだったんじゃないかな」
「えっ?」
「みんなで生きたいって言う、願いの形だったのかもしれない。叶わなかったけど」
空を見上げながら、玲奈は呟く。
サキミラも同じように見上げながら、返事をした。
「ううん。私たちは確かに、同じ時間を生きたよ。いっぱいいっぱい。
あすかは、疲れちゃっただけなんだよ。だから……休ませて、あげようっ……!」
二人は抱き合い、しばらく涙を流した。
泣き疲れるまで、泣き尽くしたのだった。
___20年後。
「……はい、強盗容疑ね。器物破損もあるわね」
「く、くそおっ!」
白昼の街中……。
一人の女性刑事が、犯人を捕まえていた。
肩を極めつつ、軽やかに手錠を掛ける。
「お疲れ様です!今川刑事!」
「はい、しっかり取り調べしなさいよね」
駆けつけた他の警官に引き渡され、犯人は連行されていった。
今川と呼ばれたこの女性は、サキミラ……咲である。
あの戦いから、咲は警察官になることを夢見た。
あすかの守った明日を、今度は自分で守れるようになりたいと。
「みんな、あなたのことを忘れちゃったよ。あすか。
でも、私と玲奈は、ちゃんと覚えてるから……見てくれてるかな、ふふっ」
上を見上げ、独り言のように言う咲。
空は雲のない青空で、日差しも少し眩しい。
___頑張って
そんな声が、彼女に聞こえた気がした。
終わり。
泣けた…
俺もこんなふうに書いてみたいなぁ
泣けて頂けてとても嬉しいです
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