以前書いた作品のリメイクみたいなものです。
一応最終回までの展開は考えてあるので完結までいけると思います!
ご主人様が私のファンで??の人物もモブとして出たり……
https://ha10.net/novel/1566743418.html
☆設定☆
少し先の未来の日本。
脳に埋め込むことで計算能力や記憶力を高めることができる"エボルチップ"が98%の割合で普及。
手術を受けていない者は、ニュートラルと呼ばれている。
"令和バブル"が崩壊した直後で、経済が低迷している。
台湾は中国から独立、朝鮮戦争は終戦を迎えた。
character file
【WCI(World Central Investigation) 世界中央捜査局 日本支部】
世界の様々な陰謀や不正を取り締まる機関で、主人公達はその内の極秘部署、"特殊任務課"に所属している。
【明石 録 Akashi Roku ♂
コードネーム/ロック Rock】
"アカシックレコード"という1億人に1人の特殊能力を持つ少年。
潜在意識に入り込んで全世界のあらゆる情報を読み取ることができる、捜査に欠かせない存在。
様々な組織から狙われるため、茜子達が護衛することになる。
【右城 茜子 Migishiro Akaneko ♀
コードネーム/シャルージュ chat rouge】
ひょんなことから録の護衛として活動することになった高校1年生。
費用が足りないためにエボルチップ埋め込み手術ができず、ニュートラル。
特撮ヒーローが大好きで、武器や変身に憧れる。
【左巻 夕一 Samaki Yuichi ♂
コードネーム/ター Ta】
9つの偽名を使い分けて暗躍するスパイで、本名不詳。
左巻夕一という偽名を使って美駒学園の英語教師となり、録の護衛をしている。
クールな性格とは裏腹に、魔法少女物が好き。
【志島 美直 Shijima Misugu♀】
世界中央捜査局日本支部の管理官。
武器の開発やメンテナンスも行っており、捜査員をサポートしている。
使用者の趣味に合わせた装備を作る。
【シェイス Sheys ♂】
エボルチップをクラッキングし、人々を洗脳する謎の男。
【??】
マフィアのボスを父に持つ少女で、録や茜子達のクラスメート。
【??】
凄腕の殺し屋として名を馳せる少年。
録達のクラスメート。
【episode01】
──私、右城茜子は平凡な日々に飽き飽きしていた。
誰だって飽きていると思う。
みんな言わないだけで、心のどこかで刺激を求めてる。
それはヒーローに変身したり、スパイとして戦いに挑んでみたり。
「高2の夏休みも終わったワケだけどさ? 結局、怪人が現れてかわいい女の子に変身ベルト託されて……みたいな夏はなかったワケだよ」
「茜子は相変わらず特撮の見すぎね」
新学期の朝、夏休みロスでブルーな私を一蹴するのは隣の席の姫岡瞑(ひめおか つむり)ちゃん。
超がつくほどの現実主義(リアリズム)者の癖に、少女漫画みたいな王子様が現われるのを待っているシンデレラ症候群(シンドローム)だったりする。
「怪人だのヒーローだの現われるワケないじゃん、馬鹿らしい」
「背が高くってイケメンでイケボで頭も良くて料理もできて運動神経抜群で礼儀正しいスパダリもなかなかだと思うけど!?」
「はぁ〜? 怪人と一緒にしないでよ」
「いやぁ怪人が現われる確率より低いんじゃない?」
「ま、私だって本気でそんな男待ってるわけじゃないんだけどね」
現実に打ちのめされていた、高二の夏休み。
そんな私と瞑ちゃんの諦めていた刺激的な日々は、ある男によって現実となる──。
「ていうか茜子、テスト平気なの? あんたニュートラルでしょ」
「あ〜! 森田先生が小テストするって言ってたっけ!?」
担任は英語教師の森田先生で、新学期早々小テストをすると夏休み前に告知していた。
脳に埋め込むことで記憶力・計算力を飛躍的にアップさせる"エボルチップ"が人口の98%普及してからというものの、ほとんど学力に差は無くなった。
私はお金が無いのと新しいものが嫌いなおじいちゃんのせいで、エボルチップを埋め込んでいない"ニュートラル"と呼ばれる劣等生だ。
ニュートラルは希少価値が高いので狙われやすく、あまり大っぴらには話していない。
「私もチップ欲しいなぁ……」
「スタンダードなら容量そんな無くても1万程度でしょう? 高性能だと何千万とかするみたいだけど」
「1万なんて大金だよ……ケータイすら買ってもらえないんだからね私! おじいちゃんもチップは危ない〜とか古い考えだし……」
もうエボルチップが普及して20年になるけど、エボルチップによる事故や死亡などは無い。
むしろ様々な恩恵をもたらしているし、色んな分野の発展を手助けしてるっていうのに。
おじいちゃんは頭が固い、平成の人間だ。
そろそろ令和も終わるというのに。
「席に着いてくださーい」
そう言って教室に入ってきたのは、担任ではなく副担任の斎藤和也先生だ。
出番が全く無いので影が薄いが、一応他学年の英語やテニス部の顧問を持っているらしい。
「なんで? 森田先生は?」
「森田先生は急遽、二学期から別の学校へ行くことになりました。新担任を紹介するから騒がないでください。転入生も紹介します」
もちろんクラスはざわつく。
「なんでいきなり!? こういうの離任式とかやんねぇーの!? なんも聞いてねぇよ!」
「なんかやらかしたの?」
「転入生も来るってマジ?」
いきなりすぎる展開に、私もあまりついていけない。
とりあえず森田先生の単語テストは無くなるってことは分かった。
「新担任と転入生ね……イケメンだわ絶対!」
「けっ、瞑ちゃんこそ少女漫画の読みすぎだい!」
「黙らっしゃい!」
転入生に夢見るのも厨坊まで。
イケメンとは限らないし、期待なんてして落胆するんじゃ転入生に可哀想だ。
「先生のことについては僕も詳しく聞いてないので話せません! お二人共入ってください」
志田先生の疲れたような声の後、二人の男性が静かに入室した。
「ぅゎ」
思わず呼吸を忘れてしまうほどの、美貌──!
片や美しい碧眼と艶やかな髪を持つ美少年、片や背が高く脚の長いモデル体型のハンサムな青年……。
「え、めっちゃイケメン」
「先生脚なっが!」
足音一つたてることなく、彼らは教卓の前に立った。
「……ここはいつから芸能科に??」
「やっぱ転入生はイケメンの法則ってことなのかなぁ」
完全に目がハートになっている瞑ちゃんは意識がどこかに飛んでいるようで、叩いたりつねったりしても口を開けたまま動かない。
今なら何言っても怒らなさそう。
「瞑ちゃんのバーカ、厚化粧! 男好きぃ〜」
「あ゛ぁん?」
「良かった戻った」
放っておいたら魂3000光年先の宇宙にでも置いてきたまま動かなかったんじゃないのかな。
「本日付でこのクラスの担任になった左巻夕一(さまき ゆういち)だ。教科は英語。よろしく」
「左巻先生かっけええぇ!」
「……オーストラリアから留学生としてやってきた明石録(あかし ろく)です……5歳まで日本にいたので日本語できます……よろしく……」
「明石君かっけぇえぇ!」
どうやらオトナの色気がある左巻先生派と、あどけなさの残る美少年の明石君派かで意見が別れたらしい。
「ちょっ、左巻先生めっちゃイケメンメガネ男子」
「明石君って帰国子女なんだぁ〜」
美駒学園はオーストラリアに姉妹校を持っているため、その関係の留学生なのだろう。
去年もこの時期に何人か来たり行ったりしていたような気がする。
「すみません、急だったので明石さんの席用意できてなくて……」
斎藤先生は困ったように教室を見渡した。
「希望の席はある? 前の方がいいとか」
「……窓際の一番後ろ」
訊ねられた明石君が指したのは、一番窓際の後ろ──瞑ちゃんの席だ。
そして私の隣でもある……。
「でもそこは姫岡さんが……」
私がそう制止しようとするのを、
「いーです明石君に譲りまぁぁあっすぅぅ!」
「ゔぇっ、瞑ちゃん!?」
物凄く元気よく遮る瞑ちゃん。
瞑ちゃんは机の中から急いで教科書や参考書を取り出すと、慌ただしく席を離れた。
ほんっとイケメンに弱い……。
「私は不登校の石田くんの席でいいですかね?」
「もうそれでいいです……右城茜子さん、明石君のサポートをお願いしますね」
「は、はぁ……」
斎藤先生は諦めたように言うと、背を縮めて教室から出ていった。
左巻先生はそれを見届けた後、分厚い辞書を教卓に置いて言い放つ。
「では早速1時限目の英語から入る。森田先生から単語テストをやるよう言付かったから、単語テストやるぞ」
「嘘だろ森田ァァ!」
単語テストが無くなるとばかり思っていた私は、森田先生の用意周到さに感心すると同時に怨念を抱いた。
「ったく、なんで俺が教師に……」
左巻夕一(さまき ゆういち)、それが今回俺が使う偽名。
これで本名を合わせて9個目の名前を持つことになる。
美駒学園2年E組の担任で、英語教師ということになっている。
表向きは森田先生の都合による異動の引継ぎだが、教師になった真の目的は明石録(あかし ろく)の護衛をすることだった。
1億人に1人が持って生まれる能力、"アカシックレコード"。
アストラル光に蓄積された、この世の全ての事象が記録されたアカシックレコードにアクセスできる能力を持つ少年。
彼はWCI(World Central Investigation) 世界中央捜査局 オーストラリア支部の捜査線の切り札である。
その能力は悪用を目論む組織に狙われるため、彼はWCI門外不出の箱入り息子だった。
しかし本人の強い希望により、日本の学校へ通わせることになった。
そこでWCIの日本支部に派遣し、高校生活を謳歌させることになる。
その護衛としてWCIが美駒学園に根回しし、俺が教師になったわけだが……。
「記録めんどくせぇな……」
業務が思ったより多い。
「左巻先生、手伝いましょうか?」
「あ、大丈夫です」
副担任の斎藤先生のお心遣いをやんわり断り、採点記録を記入していく。
小テストはタブレットで提出し、自動採点機能で採点するのでそこまで苦ではないが、記録は手動で入力だ。
まぁ大体満点、悪くて1ミス。
エボルチップによる記憶力の向上により、それほど成績の悪い者はいないはず──。
「右城茜子……75点」
ほとんどの生徒が90台以上なのに対し、唯一70点台を叩き出した生徒がいた。
棒グラフにすると、そこだけガクンと下がっている。
隣で日誌をつけていた斎藤先生がパソコンの画面を覗き込んで言った。
「あー、右城さんはニュートラルなんですよ」
「……ニュートラル? この時代に……」
「お金無いのと、祖父の反対でチップを入れて貰えなかったそうです。危ないから絶対ダメって。考え方古いですよ! 平成……否、昭和の人間ですね」
斎藤先生は軽く嘲笑った。
日本ではエボルチップが98%普及しているため、ニュートラルは本当に珍しい。
出産時に特に申請が無ければ自動的に埋め込み手術は行われるし、よほどの理由が無い限り埋め込みを断る人もいない。
計算能力が上がる、記憶力が上がる、デメリットは今のところ無し。
そう、今のところ──。
「右城のおじい様は賢いですね」
「え、すみません、なんて言いました? 聞こえなくて……」
「いいえ、大したことじゃないんです」
近い将来、日本の人口は今の2%程に減るだろう。
その時、右城茜子は"生き残れる側"の人間だ。
生き残れるのは、そう。
──ニュートラルの2%だ。
翌日の3時限目、英語の小テストが返却された。
タブレットのメールボックスを開くと、採点結果が表示される。
「ゔあ゛〜英語のテスト爆死したァ」
「テスト爆死した、なんて死語じゃない。平成の人間かしら」
「はいはい、エボルチップが普及してからはテスト爆死なんてありえないんですものね!」
平成の学生達はテストで悪い点をとると、"爆死した"と叫んでたっておじいちゃんが言っていた。
学力に差のない今ではすっかり死語になっているらしい。
「あーでも、明石君はいきなりだったから、やっぱ私と同じくら……」
「……100点」
明石君は自慢するでもなく喜ぶでもなく、どうでもよさそうな顔でタブレットをスクロールした。
「ひゃ、100点……明石君って天才なの……?」
「何度も言うわね、茜子。それが普通でアンタが異常なの。ニュートラルは知能遅れ扱いだから」
「もうやだぁ、おじいちゃんひどい! チップ欲ーしーいぃい!」
残念ながら親の許可無くチップを入れ替えたり埋め込んだりすることはできないから、バイトしてお金を稼げたとしても手術できない。
大金積んで闇医者とかに頼めばやってくれるんだろうけど……。
ふと視線を感じて振り返ると、明石君の視線が私のペンケースにぶつかった。
恐らく、チャックに付けておいた仮面ファイタークロスゼットのストラップを見ているのだろう。
「もしかして明石君、仮面ファイタークロスゼット好きなの!?」
「……ううん」
「そ、そっか……」
毎週日曜の午前9時から放送されている特撮ヒーロー番組に出てくる、仮面ファイタークロスゼット!
子供から大人まで根強い人気を誇る2号ファイターで、主人公を喰ってしまう程のキャラの濃さ!
まぁ明石君みたいな天才が子供向け番組を見たりしないか……。
「あ、そうだ明石君! 後で校舎案内するよ!」
「……いい、地図で把握している」
「え〜、地図で見ただけじゃ分かりづらいよ! 体育館と社会科教室くらいは一緒に行こう?」
私自身、入学した直後に校内で迷子になって呼び出しを喰らうという恥ずかしすぎる思い出があるので、なんとなく心配になってお節介をしてしまう。
まぁ明石君は私よりしっかりしてそうだから多分大丈夫かな……。
「ごめん、やっぱ大丈夫なら……」
「……昼休み」
「え?」
「斎藤先生に昼休み社会科教室呼び出された。一緒に来て」
視線はタブレットに落としたままだったけど、彼は確かにそう言った。
「うん! 案内してあげる!」
「ずる〜い茜子! 私も行く!」
「瞑ちゃんも一緒に行こ!」
夏休みロスも乗り越え、なんだか楽しく過ごせそうです!
ちなみに時代設定は2068年。
ジオウ大好きだってはっきりわかんだね
明石君は、授業中ほとんど寝ていた。
最初の5分はちゃんと聞いていたけれど、つまらないと判断したのか机に突っ伏して寝息を立てる。
「傍線の"それ"とは何を指すか答えなさい、明石君。寝てたから分からないでしょう?」
「……本文20行目の『資本主義者と社会主義者のイデオロギー闘争が勃発したことによる……」
「ここのXが3の時、Yの最小値は? 明石君」
「……-13」
それでも当てられれば答えられるし──。
「隣の人と交換採点して〜」
「……明石君、満点……」
──いきなりの小テストも満点。
体育のサッカーで、キーパーとして立ったまま寝てボールが顔面に当たってなければ完璧だった。
それに比べて私は──。
「23行目の傍線Aを──右城、訳せ」
「はい! えーっと……He is human……彼は不満です……?」
見たことの無い単語に首を傾げながら答えると、周囲からクスクスと声を殺した笑いが漏れる。
「"human"(ヒューマン)を"不満"と訳すローマ字読み馬鹿がいたとはな。28年間生きてた中で1番びっくりしてるよ、これでも。ツチノコにでも遭遇した気分だよ。正しくは"彼は人間です"」
「はえー……すっごく平坦な28年間ですね……」
「皮肉だ馬鹿」
「はははははっ! 右城ヤバすぎだろ!」
ついに笑いが抑えきれなくなったのか、どっと爆発したように爆笑が渦巻く。
訳し間違えた上に左巻先生の嫌味もまともに受け取る……。
左巻先生初回の授業でクラス中の笑いの的となり、最悪な二学期スタートだ……。
「やっと昼休みだぁあぁ」
3時限目の体育が終わり、社会科教室へ行こうとすると瞑ちゃんが思い出したように言った。
「私今日図書委員の当番だったの忘れてた……悪いけど2人で行ってくれない?」
「え、それはいいけど……」
「せっかく明石君とお近付きになれると思ったのに残念だわ……まずい、田先生に怒られる〜」
図書室の貸し出しカウンターは図書委員が対応しており、三週間に一回当番があると聞いていた。
瞑ちゃんは早口でそう告げると、北棟の方へと走って行った。
「仕方ないな……そんじゃ行こっか、明石君!」
「……ん」
二人で教室を出て、静かな階段を下る。
コミュ力が高いわけでもなく、明石君も寡黙な人だからただただ無言だ。
なんとか気まずい雰囲気を拭おうと、話題を探す。
「そういえば自己紹介してなかったっけ! 私は……」
「右城茜子、17歳。誕生日が2月22日で猫の日のため茜子(あか"ねこ")と名付けられた。母親は中国人、父親は自衛隊員。スーツアクター志望
で、父親にロシアの格闘技、システマを習っている……視力は両目3.0で学園一……趣味は……特撮、笑点鑑賞……特技はDIYとポケベル暗号解読……」
「えっ? えっ? えっ?」
私が名乗ろうとすると、それを遮るように淡々たたたんと個人情報を告げる明石君。
それはなんかもう、伝統的なWebサイト、Wikipediaの概要欄を読み上げるような口調。
「瞑ちゃんから聞いたとか……? いやでも視力は誰にも言ってないんだけど!?」
「顔をみれば……分かる……」
「いくら私が顔に出やすいからってそんなことまで書いてないでしょ! えっ、なに、もしかして私のWikipediaあるの? ねぇそうなの??? 頭にWikipedia入ってるの??」
頭の中にWikipediaが入っていれば、あれだけ寝ててノー勉でも小テストが満点なのも頷けるというか……。
「……まぁ、そんな感じ」
「はえー、すっごい! ……立てば辞典、座れば電卓、歩く姿はアルキメデス……!」
「……着いた」
「あ」
興奮気味に話していたら、いつの間にか社会科教室に到着していた。
明石君は扉を軽く二回ノックしたが、返事がない。
とりあえず開けてみると──。
「死ぃねぇぇええ゛ぇ!」
「ぎゃああぁあ! え、えっ、なになになにぃいぃい〜!?」
斎藤先生が、いきなり果物ナイフを持ったまま突進してきた──!?
「わ……」
明石君は特に驚くことも無く、小さく声をあげただけだ。
彼は間一髪でかわすと、ぼーっと斎藤先生を眺めている。
明石君の異様なまでの落ち着きように不気味さを感じた。
「なに、斎藤先生どうしたんですか!? ナイフ下ろしてください!」
「またか……」
明石君がめんどくさそうにため息をこぼす。
「え、なに、またって!?」
「慣れてる」
「人に刺されるのが!?」
私はパニックで、なんとか逃げようと窓に視線を向けたがここは2階、飛び降りるわけには行かない。
とにかくその辺にあったゴミ箱の蓋を盾に身を守る。
「斎藤先生どーしちゃったんですか!?」
「……アカシック……アカシック……!」
「へぇ? なに? 明石君(あかしくん)がなんなんですか〜!?」
斎藤先生はナイフをこちらに向けたまま、執拗にアカシック、アカシック……と呟いている。
目は虚ろで鼻息は荒く、自我を失ったゾンビのようだ。
「助けてえぇぇー! 誰かぁあ゛〜」
「……社会科教室はビデオ鑑賞ができるよう防音になっている」
「なんで私が知らないのに転入したばっかの明石君がそれ知ってんのぉ〜!? もう無理無理無理ぃ〜! 斎藤先生どうしたのほんと!」
呼びかけても私なんか存在しないみたいに無視をして、ナイフを向けたまま明石君の方へと歩み寄る。
「アカシック……アカシック……」
「明石君、危ないっ!」
斎藤先生は躊躇なく明石君へとナイフを振り上げた。
「っ……明石君! なにぼーっとしてるの!」
間一髪ゴミ箱の蓋でナイフを防ぎ、斎藤先生を押し退けた。
ゴミ箱の蓋は案外頑丈なもんで、傷は付いたけど穴は開いていない。
「……多分エボルチップに異常がある。仮面の男の仕業だ」
「仮面の男……? 明石君、どういうこと? さっきから明石君なんか知ってるみたいだけど……」
「上」
「えっ、わっ!」
気を抜いていると、すかさず斎藤先生が頭上を狙う。
間一髪で私が避けると、ナイフが黒板に突き刺さった。
斎藤先生はそのままギィィッとナイフをたてて黒板をひっかき、嫌な音が響いた。
「……アカシック……アカシック……」
光の無い目で、明石君の方を睨みつける。
明らかに明石君を狙っているようだった。
「斎藤先生、斎藤先生!」
「……無駄。エボルチップを正常に戻さない限り……」
「そんなぁ! ね、どうしたらいい!? 明石君なんか知ってるんでしょ!?」
「……もうすぐ解決する」
「え? それどーゆー……うわぁぁ!」
斎藤先生は先程よりも更に攻撃的になり、間髪入れずに私と明石君に向かって突き刺してくる。
それをなんとかゴミ箱の蓋で防ぐのが精一杯で、逃げられそうにない。
斎藤先生の重い一撃を受け、ゴミ箱の蓋に亀裂が入った。
「あああ明石君どうしよう割れる! 割れる! 勇者の盾割れる! 死んじゃう!」
「……それはゴミ箱の蓋で、勇者の盾じゃない……簡単に割れる……」
「そんくらい分かっとるわあ゛あ゛! ていうか、守られてばっかりじゃなくて抵抗してよ明石君もぉぉ! 特撮ヒーローのヒロインだってもっと抵抗するよぉ!?」
ゴミ箱の蓋を盾にするのも限界がきて、大きな亀裂が入ると同時にバキッとあっけなく割れた。
「あ゛〜割れたぁ!」
「……アカシック……アカシック……」
「どーしよう、なんか盾に使えそーなの……」
地球儀、教科書、パンダのぬいぐるみ!?
藁にもすがる思いで、とにかくなんでもいいから盾にしたかった。
明石君の言う『もうすぐ解決する』がいつになるのかは分からないけど、それまで時間稼ぎしなきゃ!
パンダのぬいぐるみを掲げて、顔を隠す。
たぶん防御力10にもならないような雑魚装備だろうけど……。
「アカシック……」
「ぎゃぁあああああぁ! 斎藤先生めぇ覚ましてぇえぇえお願いぃいぃ!」
斎藤先生がナイフを持った手を大きく振りかざした、その刹那だった。
──PON!
ポップコーンが弾けるような、可愛らしい爆発音。
そして直後にガチャンと鈍い金属音。
いつまで待っても襲ってこない痛みに、どうやら刺されずに済んだらしいとようやく理解した。
一体何が起きたのか、パンダのぬいぐるみを抱きしめたまま顔を上げる。
「えっ、なっ……なに……!?」
固く閉じていた瞼を、恐る恐る開く。
そこには、険しい顔で仁王立ちしている──
「ロック……また1人で出歩きやがって……!」
「さっ……左巻先生!?」
英語教師なのに何故か白衣を纏っており、白い裾をはためかせていた。
そして片手にピンク色を基調にした、ハートや羽のあしらわれた可愛らしいメガホン。
メルヘンチックというか、プイキュアとか魔法少女が使っていそうなメガホンだ。
クールでオトナなイメージの左巻先生とのミスマッチさに、思わず二度見三度見してしまう。
「勝手にうろつくなって言っただろ。お前を狙う輩は多いんだ、自覚しろ」
「……斎藤先生の呼び出しは……大丈夫だと思った……」
「あ、そうだ斎藤先生っ!」
私と左巻先生は、斎藤先生の方に視線を向けた。
床には斎藤先生が握っていたナイフが転がっており、斎藤先生は腰を曲げてそれを拾おうとする。
それを阻止するべく、すかさず左巻先生がメガホンを向けて発射すると、ポンッと軽快な音がしてナイフが弾き飛んだ。
メガホンの穴から赤いハートの銃弾が発射され、ピンク色の薬莢がチャリンと落ちる。
さっき聞いたポンッて音は発砲音で、金属音は、薬莢が落ちた音だったんだ!
「えええええええええ!? そのメルヘン♡メガホンって拳銃だったんですか!?」
「なっ、お前もいたのか馬鹿ネコ……! つーかメルヘン言うな! お、俺だって好きで使ってるんじゃないんだかんな!」
「ば、馬鹿ネコじゃなくて茜子(あかねこ)です……」
頬を紅潮させてツンデレのテンプレみたいな反応をする左巻先生は、ムカつくけどクッソ可愛かった。
そのヒロインっぷりときたら、女子のはずである私が霞んで見えるほど……。
「……初めてそれ貰った時……プイキュアの武器みたいだって、ター喜んでた……」
「ロックは黙ってろ!」
「あの、さっきからロックとかターって、一体……」
明石録だからロックって呼んでるのかな?
ていうかお互いに色々知ってるみたいで仲良いし……。
「詳しくは後だ。今は斎藤先生のエボルチップを元に戻す」
「そういえば、そんなことを言っていたような……」
斎藤先生がゾンビみたいになってしまったのは、エボルチップに異常があるとか言ってたっけ。
でもエボルチップなんて脳内に埋め込まれてるし、私たちにできるのは脳外科のある病院に運ぶくらいしか──。
左巻先生は斎藤先生の方へやおら歩み寄ると、拳を握った。
「……すみません、斎藤先生。少し眠って頂きますぜ」
「ヴェッ!」
あろうことか、左巻先生は拳を軽く突き上げ、斎藤先生の腹へと決め込んだのだ。
「え、ちょっ、ちょっ、ちょ!? 左巻先生なに腹パンして……!?」
斎藤先生は潰れた声をあげながら、ゆっくりと瞼を閉じて崩れ落ちる。
左巻先生は気絶した斎藤先生を起こすと、額にあのメルヘン♡メガホンを突きつけた。
「ななな何してるんでぃす!? それ拳銃でしょ!? 斎藤先生死んじゃいますよ!」
「落ち着け馬鹿ネコ。発砲はしない」
「へぃ?」
左巻先生がメガホンの柄についているハートのボタンを押すと、音楽が流れ始めた。
ゆったりとしたピアノ伴奏のイントロから始まり、幼い少年の声……。
〜♪
い〜い〜な、い〜い〜なぁ〜、にーんげんってい〜い〜なぁ〜
「って……人間っていいな、じゃないですか! なんでこの曲!?」
「どういうわけか、この曲がエボルチップの洗脳状態を解くワクチン音波を引き出すのに最も適した曲らしい」
「はえー、人間っていいじゃん、いいじゃんすげーじゃん……」
昭和の時代から今に至るまで歌われた童謡に、まさかそんな力が秘められていたとは……。
斎藤先生は落ち着いたのか、規則正しい寝息を立てながら眠りっている。
もう古典の授業はないはずだから、このまま保健室に連れていくことになった。
「恐らくこれで斎藤先生の洗脳も解除されて……」
「あーあ、よくも俺のマリオネットの糸を切ってくれたねぇ」
左巻先生でも明石君でもない男性の声に、びくりと肩が震える。
「はえーっ、今度は何〜!?」
声のした方を探せば、窓の際にキツネの仮面をかぶった少年が腰掛けていた。
風でカーテンがはためき、その隙間から黒い影がチラつく。
左巻先生と同じような、黒いメガホンを手にしている。
「……仮面の男……敵……」
「お前か……斎藤先生のエボルチップをクラッキングしたのは」
左巻先生と明石君は、そのキツネ面の男を睨みつけた。
「誰!? ていうか、ここ2階なんですけど!?」
学校の壁にはハシゴなんてかかってないし、一体どうやって侵入してきたんだろうこの人……。
「アカシックと……邪魔なネコが二匹か。めんどくさいなぁ」
「ネコはこいつだけだ」
「だから左巻先生、私は猫じゃなくて茜子(あかねこ)〜! あとキツネにネコとか言われたくないし!」
「赤猫でも黒猫でもどっちでもいいよ……ったく」
彼は耳をほじって面倒くさそうにため息を零した。
自分から言ったくせにこの男……窓から落ちればいいのに!
「もういいや、そこの……マヌケなメス猫」
キツネ男はひょいっとアルミサッシから降りたかと思うと、すっと背後に回り込まれる。
咄嗟に逃げようとしたが時すでに遅し、黒いメガホンをこめかみにグリグリ突きつけられた。
「なっ、いつの間に!? ぎゃああぁ、やめてやめて! せっかく上手くできた前髪が……」
「おい馬鹿ネコ! なに捕まってんだ!」
「馬鹿ネコじゃなくて茜子です……ってそれどころじゃない! 離してよ! どこ触ってんの変態キツネ仮面!」
「お腹柔らかいね」
「きえゑぇぇえい! 耳元で喋らないでぇぇ!」
仮面のおかげで吐息がかかることはないけど、腰がゾクッとする。
しかもタチの悪いことにイケボなのが悔しい。
「暴れられるのも今の内。アンタは今日から俺のマリオネットさ。俺に操られてみる……?」
「うーんどっかで聞いたセリフ!」
変態キツネ仮面は某特撮の亀みたいなセリフをウィスパーボイスで囁くと、メガホンのボタンに親指を乗せた。
恐らく斎藤先生も、あの黒いメガホンの音で変に操られてしまったんだ……。
「5秒後にアンタは、明石録を殺したいと思うようになる……」
「ぎゃああぁやだやだ離して! 変態キツネ仮面〜!」
なんとか必死に振りほどこうとするも、相手が中々に強い力で押さえつけるので手も足も出ない。
左巻先生の方へ助けを求めように視線を投げると、ゆっくりと私の方へ近づいた。
助けて先生──!
「おい、馬鹿ネコから離れろ! 一応生徒だから何かあると困るんだよ!」
「い、一応って……」
瞑ちゃんのように、少女漫画のヒーローみたいな救出劇を期待していなかったと言えば嘘になるけど、まぁこんなもんですよ現実は。
左巻先生がメルヘン♡メガホンを向けて応戦しようとするも、間に合わない。
「もう遅いよ──エボルクラッキング!」
変態キツネ仮面がメガホンのボタンを押した瞬間、キーンと甲高い機械音が耳をつんざいた。
「ゔっ……何この音、耳が痛い……!」
黒板を爪で引っ掻いた時のような、不快な音が耳を襲う。
「ヴェァッハッハッハ! この音波でアンタに糸をつけてあげるよ!」
キツネ仮面は、勝ち誇ったように高らかに笑った。
「おいキツネ! そいつに催眠なんかかけても無駄だぞ!」
「あ゛ーうるさいよ、先生は黙ってな」
左巻先生が制止するも、彼は聞く耳を持たない。
耳を塞ぎたくても、変態キツネ仮面に拘束されて身動きがとれず、私はされるがままだ。
「はははっ! 俺の新しいマリオネットよ……明石録を殺してこい!」
臭いセリフを吐いて、私の拘束を解くキツネ仮面。
「……」
「……あれ? どうした。早く行けメス猫!」
──顔は見えずとも、その焦った声で動揺しているのが丸分かりだ。
焦燥に駆られるキツネ仮面を見上げ、キッと睨みつけた。
「……私は……私は──!」
ゆっくりキツネ仮面からクルッと背を向け、片足を上げて──
「アンタのポ〇モンじゃねぇんだよぉおぉおおおぉぉおおお!」
「がはっ」
渾身の回し蹴りを、キツネ仮面の鳩尾めがけてお見舞いしてやる。
回し蹴りは見事キツネ仮面の鳩尾にクリーンヒットし、彼は勢いよく壁に叩きつけられた。
「……さすが……システマ習得者……スーツアクター志望……自衛隊員の娘……」
「馬鹿ネコ、そんな攻撃力あったのかよ……」
いつか仮面ファイターのスーツアクターになった時に披露しようと練習していた回し蹴りが綺麗に決まり、ほっと胸をなでおろした。
心做しか左巻先生と明石君が遠い目をして少し引き気味だけど……。
キツネ仮面は苦しげに数回咳き込み、フラフラと力なく立ち上がった。
「アンタまさか……ニュートラル……!」
「そーそー、私エボルチップ無いんだった! そりゃエボルチップをクラッキングできないわ。考えてみれば、全然焦ること無かったよね……」
左巻先生もメガネのブリッジを押し上げてため息をついた。
「だから言ったろ。そいつに催眠は無駄だって」
「はぁ……そういう意味……」
キツネ仮面もなんだか怒りを通り越して呆れているようで、激しく頭をかいた。
あの、すごく面白いです…!!これからも応援してます、頑張ってください💪✨いきなり乱入すみません🙏
19:(´・д・`):2019/09/07(土) 12:31 >>18
ありがとうございます、コメント大歓迎です!
そう言って頂けるとこちらも描きがいがあります……!
赤い糸読ませて頂いていますm(_ _)m
https://i.imgur.com/PuKCyRL.png
茜子のビジュアル描きました
未来っぽい制服ってどんな感じかなーと少し苦戦しましたが……
セーラー服の襟はポンチョになっていて脱ぎ着可能です
靴は管理官の開発したもの
チョーカーは方位磁針の針がモチーフです
「おじいちゃんが新しい物嫌いで、病院に無理言って手術受けさせないで貰ったんだよね。人生で初めておじいちゃんに感謝してる」
エボルチップが無いから授業にはついていけないし押し潰されそうな劣等感ばかりだし……。
おじいちゃんに悪気はないんだろうけど、この17年間苦しい思いばかりしてきた。
頑固で気難しくて衝突ばかりして、昨日も喧嘩した。
帰ったらありがとうって、言おう……。
「へぇ……アンタのじいさんは賢いね」
「そんなことより、なんで明石君を狙って……」
──パァン。
まつ毛の先を、"なにか"が掠めた。
その数秒後にすぐ横の黒板に亀裂が入り、チョークの粉が宙を舞った。
キツネ仮面を見れば、私に黒いメガホンを向けている。
メガホンからはまだ青白い煙が立ち上っていた。
「は……?」
チャリン、と薬莢が落ちる。
私のまつ毛を掠めたのが銃弾であると気づいた時には、2発目がまつ毛の先を掠めていた。
黒板消しに、穴があく。
「洗脳が効かないんじゃ、実力行使だね」
「いや……いやいやいやいや! 明石君が狙いなら私関係ないじゃん!?」
「腹パンのお返し。すごい痛かったし。2発当ててもお釣りがくるくらいだ」
「腹パンの報復に銃撃はお釣りきませんんんん〜!!」
そういえばそのメガホンは左巻先生と同じタイプだから拳銃になってるんだった……。
そんな大事なことをすっかり忘れているなんて、私、馬鹿ネコだ……。
「馬鹿ネコ、ロックを連れて逃げてろ!」
「で、でも左巻先生は……!」
「俺の任務はロックの護衛だからいいんだよ! もたもたすんな!」
先生もすかさずメルヘン♡メガホンで数発撃ち込み、キツネ仮面を目がける。
キツネ仮面も無抵抗なはずもなく、すぐさま銃撃戦が始まった。
花が咲くように壁に亀裂が入り、地球儀は割れた。
ちょうど日本列島にハート型の銃弾がめり込む。
「まどろっこしいな、さっさとアカシックチップを寄越せ」
「明石君危ない!」
キツネ仮面が明石君の方へ撃とうとしたのにいち早く気づいた私は、明石君の腕を引っ張り、本棚の裏へ隠した。
広辞苑や地図帳がドサドサっと落ちていく。
お祭りの射的だったら大漁だ。
「明石君、とにかくここから出よ──って開かないぃい!」
「なに、どうした馬鹿ネコ! ……っ」
左巻先生がなぜかあった鉄板で銃撃を防ぎながら尋ねる。
何度も扉を押したり引いたりしてみるが、全くビクともしない。
「開かないんです! ドアの鍵が壊れてて内側からじゃ……」
「くそっ、やりやがったなキツネ野郎……!」
「おい、扉から離れてろ!」
「ひえぇぇ!」
左巻先生が扉に向かって何度か撃ち込むも、小さい穴があいただけ。
無駄に頑丈な扉だったのが災いした。
「ちっ……」
「君らはいわば池袋のネズミ! もう逃げられないんだよ」
「それを言うなら……袋のネズミ……くくっ……」
「あ、明石君が笑ったぁ!?」
呆れるほど低レベルなギャグ(本気で間違えたかもしれないが)に、ずっと無表情だった明石君が口角を釣り上げている。
明石君が笑った顔を初めてみたけど、笑いの沸点が低すぎる。
ていうかこの緊迫した状況で笑えるって何者なの……。
「おい馬鹿ネコ、ロック! 笑ってねーでどっか隠れてろ!」
「明石君、教卓の陰に隠れてっ」
「どこに隠れててもあぶり出してあげるよ!」
再び撃ち合いが始まり、私と明石君は教卓の下へ潜って様子を伺う。
左巻先生も本棚の裏から身を隠しながらキツネ仮面を狙い、キツネ仮面の方は乱射しながら社会科教室を駆けずり回る。
どちらか分からないくらい薬莢が飛び散り、弾丸がめり込んでいく。
防音壁があるせいで、私たち以外は誰もこの地獄絵図に気がついていない。
「これで終わりだ!」
「なっ……」
左巻先生が狙いを定め、2発撃ち込んだ。
2発とも見事黒いメガホンに命中し、メガホンは煙を上げて軽く爆発した。
教卓の陰から覗き込み、小さくガッツポーズをする。
「やったぁ! 左巻先生強い!」
「……武器がメガホンだけだと思ったかい?」
キツネ仮面は部品がバラバラに外れたメガホンを放り投げて捨てると、床に落ちていたナイフを拾い上げた。
先程、斎藤先生が振り回していた小型のナイフだ。
恐らく家庭科室から持ち出した物だろう。
「ふんっ、こっちには拳銃があるもん! ね、左巻先生!」
左巻先生の方に同意を求める視線を投げかけたが──。
「まずい弾切れだ」
「うそ〜ん!」
あーもしかしなくてもコレ、私達すっごいピンチじゃない?
便利なアプリがありますねぇ
茜子です
https://i.imgur.com/XJqiJvg.png
「大人しくアカシックをよこせばいいんだよ!」
「うひゃぁぁあ! 左巻先生危ない!」
彼は左巻先生に向かってナイフを振りかざす。
先生は間一髪でナイフを避けたが、たたらを踏んでバランスを崩した。
「あっぶねぇ……」
「左巻先生!」
間髪入れず攻撃を仕掛けるキツネ仮面。
先生は落ちていた広辞苑を拾うと、咄嗟にそれで防御した。
分厚い広辞苑に鋭利なナイフが突き刺さる。
「っ……」
キツネ仮面は広辞苑に突き刺したナイフを抜くのに手間どい、その隙に左巻先生が手首を掴んで彼の動きを封じた。
「離せっ……」
「窓だ! お前らは今の内に窓から逃げろ! サスペンションメジャー使え!」
「はぁ?!」
左巻先生が視線を向けたのは、キツネ仮面が先程侵入した窓だ。
アイボリーのカーテンが激しく揺らめいている。
「いやココ2階なんですけど」
「下の花壇までおよそ4m……いける……了解した……」
「ゑ」
明石君はスラックスのポケットから、これまたメルヘン♡なメジャーを取り出すと、巻尺を伸ばしていく。
そしてフックのようなものを窓のアルミサッシに引っ掛け、巻尺の部分握って躊躇なく飛び降りた。
「あ、明石君!? 」
巻尺がシュルッと伸びていき、明石君は中庭の花壇へシュタッと降り立った。
まるでスパイ映画のワンシーンだ。
道具がメジャーじゃなければ……。
「ちっ、逃げたか……」
明石君が逃げたので、キツネ仮面は興味を無くしたのか、あっさりナイフを放り捨てた。
よかった、なんとか諦めてくれたみたい──。
「ねぇ、もうやり合う気はないから離してくんない? サマキ先生」
「……お前はWCI指名手配犯、みすみす逃がすわけにはいかない。ロックも安全な場所へ避難させたし、これで心置き無く戦える」
左巻先生はキツネ仮面の手首を、血管が浮き出るほど強く握りしめた。
「さっ、左巻先生!? もういいじゃないですか! 逃げましょうよ!」
「指名手配犯つったろうが! ここで取り逃がすわけにはいかないんだよ……っ」
「ケッ、めんどくさい先生だ」
キツネ仮面はイラついた声で叫ぶと、左巻先生の腹をめがけて蹴りを入れた。
その衝撃で左巻先生が後方へ飛ばされる。
本棚が倒れ、辞典や分厚い本が左巻先生の頭上から降り注いだ。
「ゔっ……!」
「拳銃の腕は良くても、肉弾戦は少し劣るみたいだね。大人しくボコられて貰おうか」
キツネ仮面はパーカーのポケットから鋭利な刃物のついたメリケンサックを取り出すと、ゆっくり装着した。
あんなの拳一発でも受けたら、ただじゃ済まない──!
「左巻先生!」
左巻先生は腹を抑えて、のろのろと立ち上がった。
荒い呼吸を整え、キツネ仮面を睨みつける。
私が駆け寄ろうとすると、左巻先生は吐き捨てるように叫んだ。
「来るな馬鹿ネコ! ……ロックが窓にサスペンションメジャーを残してくれている。お前はそれを使って逃げろ!」
「でも……」
「いーから逃げろ、さっさと逃げろ!」
左巻先生の剣幕に気圧されて、逃げようと窓へ向かった。
こちらを見上げる明石君と目が合う。
「……来ないの?」
「……っ」
すぐに行く、と素直に返事できなかった。
足首を掴まれたみたいに、動けない。
ここで逃げたら、私モブのままでは──!?
ふと思う、私。
仮面ファイターもハイパー戦隊も、敵に立ち向かえた人たちがなれる。
敵に立ち向かう勇気があったから、ヒロインに変身アイテムをもらえた。
主人公が安全なところへ逃げてしまえば、物語はそこで終わってしまう。
ここで逃げてしまったら、私は平凡な日々から抜け出せないんじゃないか?
なんだかそんな気がしてしまって、私は動けずにいた。
「さっきから防御ばかりだねェ、サマキ先生。煽った割には弱いじゃん。最初っから肉弾戦に持ち込めば良かったよ」
「っ……」
拳をスレスレで避ける左巻先生は、今にも当たりそうで。
案の定、針山のようなメリケンサックが。避けきれなかった左巻先生の頬を掠った。
ぽたりと一筋の血が、頬を伝って、落ちた。
──怖い、怖いよ?
死ぬのは嫌だし、痛い思いもしたくない。
まだ仮面ファイターの最終回も見てないし、スーツアクターになるっていう夢もある。
でも──。
平凡な人生で、死んだみたいに生きるのは──もっと嫌だ!
「ごめん明石君……そっちに行かない……」
「おい、馬鹿ネコ……?」
「……逃げない。私も戦う……!」
一歩、一歩とキツネ仮面の方へやおら歩み寄る。
その不気味な仮面の下は、きっと私を嘲笑っていることだろう。
「はぁあ? 逃げていいつってんだろうが! 日本語通じねーのか!? Escape!! 逃掉! ಓಡಿಹೋಗು!! الهروب! 도망쳐!!」
「にっ、逃げない! Don't escape!! 不逃掉! ホニャララ! ナントカカントカ……ナントカ!」
「中国語は訳せてるの何なんだよ……」
イマイチかっこよく決まらなくてキツネ仮面にも呆れられたけど、私はなんとか立ち向かった。
こんなに啖呵切った手前、もう後戻りはできない。
多分今、人生で一番鼓動が早くなってる。
合格発表だとか、面接だとか、そんなもの比べ物にならないほど心臓が暴れている。
「選ばれたい、選ばれていたい! 私は主人公になりたい! 非凡になりたい……だから戦う!」
震える声で言い放つ。
「馬鹿ネコ! 命懸かってんだぞ! んなこと言ってる場合か!」
「……命懸けなきゃ、ヒーローにはなれない」
怪人が現れてかわいい女の子に変身ベルト託されて、タダでヒーローになれるなんて、甘い、甘すぎるんだ。
自分から危険に突っ込んで、身を捨てなきゃ非凡は掴めないから──!
女の子しか作れない……
姫岡瞑、後の重要キャラクターです
https://i.imgur.com/vqZUiV5.jpg
左巻先生は、脇腹を抑えながら苦しげに言った。
随分と余裕が無いみたいだ。
「やめろ……お前に何かあったら俺は──」
「左巻先生……!」
──もしお前に何かあったら、俺は生きていけない。
瞑ちゃんに貸してもらった少女漫画のイケメンが、そんな感じのセリフを言っていたのを思い出す。
左巻先生そんなに私のことを!?
「お前になんかあったら…………教師退職しなきゃいけねぇだろーがよおおおぉぉ! マジでやめるぉぉ!」
「そんなことだろーと思ったよ! 迷惑かけまくってやるんだからぁぁあ゛!!!」
少女漫画みたいなセリフを期待していなかったと言えば嘘になるけど、左巻先生がこんなことを言うわけないよね。
「ゔぉ゛らあ゛ぁ! くたばっちまえ変態キツネ仮面!」
助走をつけて机を踏み台にし、高く飛び上がる。
上からかかと落としを決めようとキツネ仮面に攻め込むも、ギリギリのところで避けられてしまう。
やはり一筋縄ではいかない。
続けて蹴りを入れるが、軽くかわされる。
「へぇ、なかなかいい動きするじゃん。少なくともそこの先生よりは動けてるよ」
「ずっと……あんたみたいなのを始末するために練習してきたんだから! スーツアクター志望なめんな!」
正確には特撮ヒーローの敵役だけど……。
お父さんから幼い頃に護身術として鍛えこまれた武術が活きている。
メリケンサックをその辺の本で防御しつつ、転ばせられるよう足元を虎視眈々と狙う。
「だぁぁ! もう! やるからには叩き潰せよ!」
「あったり前田のクラッカーですよ!」
「昭和のネタ入れんな」
いくらか回復してきた左巻先生も、蹴り技を中心とした援護で畳み掛ける。
さすがに2対1で余裕が無くなってきているキツネ仮面に、隙が生まれる。
3人のビジュアル完成です
茜子は安直に猫型ヘッドホンです
https://i.imgur.com/aAYsc9L.png
「うぉらあ゛っ! 」
キツネ仮面の拳をバク転で避け、からの回し蹴りを腹部へ叩き込む。
スパッツを履いているのをいいことに、躊躇いなく動ける。
キツネ仮面は攻撃をもろに受け、体勢を崩した。
「やった当たった!」
「二度も鳩尾を殴りやがって……!」
「気を抜くな馬鹿ネコ!」
「ゔぁ!?」
持ちこたえたキツネ仮面が間髪入れずに反撃し、左巻先生がそれを机で防御する。
メリケンサックが机に食い込み、亀裂の花が開いた。
「うぎゃぁあ!」
「たかが凡人のくせに二度も俺に……!」
キツネ仮面は素早く回し蹴りを仕掛ける。
咄嗟に反応した私は腕をクロスさせ、衝撃を逃がしてダメージを最小限に抑える。
「いっ……た! はぁ、はっ……!」
腹部は守れたものの、ダメージはダメージ。
腕が赤く腫れていく。
硬いブーツの踵で蹴られれば痛みがないはずもなく、呼吸が乱れた。
ロシアの軍事格闘技、システマの真髄は呼吸法にある。
呼吸を整えることによって痛みを軽減し、平常を保つ。
深呼吸して再度蹴りを喰らわそうとするも、ディフェンスをかけられて拳を食らった。
「ほらほら、お腹がガラ空きだよ!」
「しまっ……ゔっ! ……がはっ!」
「馬鹿ネコ!」
メリケンサックをした方の手で、腹部を殴られる。
制服に穴が開き、鋭利なトゲがグサリと突き刺さった。
──が、血は一滴も垂れない。
「なんだこの感触。肉じゃないな……」
「残念でした……お腹に英語の教科書入れてたんですよ」
「ちっ」
制服から穴だらけになった教科書を取り出して見せ、ほいっと放り投げる。
「馬鹿ネコそれ……俺の教科書じゃねーか! ざけんな、穴だらけにしやがって!」
「ごめん左巻先生……」
社会科教室に左巻先生が受け取るはずだった新品の教科書が置かれていて、ついそれをお腹に仕込んでしまった。
綺麗だった先生の教科書は見事穴だらけになり、クシャクシャだ。
「けっ、アカシックがいねぇのにやってられるか! 駒の洗脳解かれたのは予想外だったし出直すか……」
キツネ仮面は軽やかにスキップすると、窓のアルミサッシに足をかけた。
「……明石録は破滅をもたらす。それだけは覚えておきな」
「は……? あぁ、ちょっと!」
「おい待て!」
引き止める間もなく、キツネ仮面は窓からひょいっと飛び降りる。
明石君が下ろしておいたメジャーを伝う様子もなく、勢いよく宙を舞う。
「ちょっ、ここ2階……!」
急いで下を俯瞰するもキツネ仮面の姿はなく、野球部が走り込みしているだけだった。
「ちっ、逃がしたか……」
「明石君が破滅をもたらすってどういうことだろ……ってあ゛〜! 昼休み終わっちゃう! 教室戻らないと……」
キーンコーンと昼休み終了5分前の予鈴が鳴り、チャイムに急かされて社会科教室を出ようとしたのだが──。
「そこは開かないって言っただろ」
「あ、そっか……」
「この惨状だ。片す前に入られたら困るし、ドアはそのままにしておく」
社会科教室を見渡せば、弾痕、傷跡、薬莢の山。
火薬の臭いが充満し、ここで銃撃戦があったことが一目瞭然だ。
とりあえず閉鎖しておくのが懸命だろう。
左巻先生は着ていた白衣のボタンを外すと、パサリと脱ぎ捨てる。
「返り血と発車残渣がスーツに付かないよう白衣を着ておいてよかったが、火薬の臭いがキツいな。次は授業無いのが救いだ」
「私もこの格好じゃ授業出られないや……」
先程キツネ仮面にメリケンサックで攻撃され、お腹は無事だが制服はビリビリだ。
糸がほつれて穴だらけだし、とてもすぐ直せるような損傷じゃない。
「とりあえず下の教室……英語準備室に行くぞ。ロックもそこにいるはずだ」
「え、でもドア閉まって……」
先生が視線を向けたのは、あの窓だった。
「なんの為にサスペンションメジャーを残したと思っている」
「えええええぇゑゑぇ!? 無理無理無理無理無理無理ぃいぃゐ!」
他3人のビジュアルです
シェイスは黒パーカーが無かったので緑になっていますが……
https://i.imgur.com/9B2XE47.png
窓から下を見れば、明石君が下の階のベランダからひょっこり顔を出していた。
「ロック、無事か?」
「……終わった……?」
「あぁ、あれは取り逃したがな」
左巻先生は悔しそうに唇を歪めた。
「もたもたすんな、降りるぞ」
「いや……結構高いですって! 明石君は事も無げに降りてたけどこんなメジャー信じられませんんん! 無理ィ!」
一応アルミサッシに引っかかってはいるが、メジャーはメジャーだ。
綱にする物じゃない、長さを測るものだ。
そんなもの信用しろというのが無理がある。
「手間のかかるやつだな……」
突然腰に暖かい感触がしたかと思うと、体がふわっと宙に浮く。
「えっ、お……ぅお姫様抱っこぉ!?」
見上げればすぐ近くに左巻先生の端正な横顔があって、思わず赤面してしまう。
少女漫画みたいな展開って本当にあったんだ!?
お姫様抱っことか都市伝説じゃないの……!?
「捕まってろ!」
「ゑ、あ、あぁあ゛ぁあ゛〜7/&@\€^%!?」
「うわ馬鹿、暴れんな!」
そんなトキメキもつかの間、いきなり急降下する身体に追いつけずに悲鳴をあげた。
思わず足をバタつかせめ暴れてしまう。
先生はスタッとスタイリッシュに着地すると、ゆっくり私をおろした。
明石君がベランダに出て迎え出る。
「……無事で……なにより……」
「ロックも無事で良かった」
「あぁそうでした、ヒロインは明石君でしたね!!」
左巻先生がどんなことより優先して守っている存在である明石君が、至極羨ましかった。
絶対守ってくれる、絶対逃げおおせてくれる。二人の互いに信頼しきったような、そんな関係も。
──羨ましい? あれ、なんでだろ……。
「…………って、そんなことより!」
私は声を上げて、二人を睨みつけた。
「おいロック、部外者にあんまベラベラしゃべんな」
「巻き込まれたんだから関係者ですぅ! 知る権利あり!」
「お前絶対口軽いだろ! 情報が漏れる!」
「軽くないですよ! 漬物石よりは重いです!」
「なんだよそれ……はぁ……」
左巻先生は事情をなかなか教えたがらないようで、険しい顔をして粘っていた。
「ター、この人は大丈夫……仮面ファイターが好きだから……話しても平気……ヒーロー好きに悪い人はいないって……ター言ってた……」
「あれは言葉の綾だ!」
険しい顔から一変、焦る左巻先生。
どうやら左巻先生も明石君には弱いようで、それがなんだか少しモヤっとした。
「明石君があの時私の仮面ファイターのストラップ見てたのって……」
「……ターがいつも見てる時間戦士アシタ☆ガールズの前番組……」
「べつにいつも見てるわけじゃない! たまたまテレビを付けた時にやってたから眺めていただけだ、断じてファンとかじゃないからな!」
ツンデレかよ!
なんか二人共、女子の私よりヒロイン度が高いんじゃ……?
遅ばせながら読ませて頂きましたが、とても面白いです!ふたばさんの小説のネタが出て来たのは驚きましたッス....期待です!
36:(´・д・`):2019/09/11(水) 22:08 >>35
ダラダラと長いのに読んで頂けてありがたいです!
アシタ☆ガールズはちょくちょく小ネタに挟んでいこうかなと思っています(^^)
!?って感じの
38:新見川 すみれ◆96:2019/09/11(水) 22:15 ネタの挟み方も上手なのでシナリオ上での違和感を感じませんでしたし、日常ラブコメ度が高くなってきて思わずキュンキュンしちゃうッスね!(●´ω`●)
期待って言葉では表せない程期待ッス!
>>37
先生はああ言ってますがサキミラちゃんの大ファンですよ
多分タイムドライバー買ってますね
>>39
ありがとうございます!
日常物はあんまり描いたことがなかったので違和感ないかなって心配してました
そう言って頂けて安心しました……
そろそろepisode1も終わりますが、気が向いた時にでも読んで頂ければ幸いです
格闘の描写が素敵だ……
41:(´・д・`):2019/09/12(木) 01:26 >>40
アシタ☆ガールズのふたばさんに言われるなんて光栄すぎて……!!
ありがとうございます!
「そういえば二人ともターとかロックとかって呼びあってるけど、あだ名?」
ロックは明石録(ろく)からだとして、ターってなんだろう……。
「WCI……WCI(World Central Investigation) 世界中央捜査局のコードネーム……」
「WCIって、FBIとかCIAと並ぶ情報機関の!?」
WCIとは20年前──2048年に設立された、世界中の事件やテロなどを捜査する国際情報局だ。
諜報員としてスパイ活動をしたり、時には凶悪犯と戦うこともある。
WCIを題材にした映画も多く、私もスパイに憧れていた。
「録のロック、ターは夕一(ゆういち)がカタカナのター見えるから、ター……」
「ターってそういうことだったんだ!?」
左巻夕一……たしかにカタカナのターと読める。
WCIのコードネームって案外安直な感じで決められるんだ!?
「極秘だ、絶対話すなよ」
「はい……」
左巻先生の威圧感ある睨みに、はいとしか言えなくなる。
口止めに殺されたりしないか心配だ……。
「でもどうして明石君がWCIに? 高校生でしょ?」
「録は、潜在意識にアクセスして"アカシック・レコード"という世界の全事象の記録媒体を見れる力がある。それこそ、お前が昨日食った夕飯のおかずから、お前の食った今日の朝食までなんでもお見通しだ」
「そんなまさかぁ」
半信半疑で明石君の方を見ると、彼は突然眠り出した。
そして数秒経つと、彼はふっと目を見開いて私を見た。
「……昨日の夕飯は焼き鳥、今日の朝食も……焼き鳥……ちょうちん、ねぎま、もも……」
「そんな! あ、当たってる……種類まで……!」
「焼き鳥多いな!」
おじいちゃんが経営している焼き鳥屋さんの売れ残りが、大体夜や朝のおかずになることが多い。
実家が焼き鳥屋を営んでいることは、なんとなく恥ずかしくて瞑ちゃんにも言っていないのだが──。
「なるほど、授業中寝てたのはアカシックレコードにアクセスするため……!」
「この能力は捜査に必要不可欠だが潜在意識にアクセスしてる時は無防備になるからな。さっきのキツネ仮面みたく狙われることも多い」
キツネ仮面も、操られた斉藤先生もアカシックと言っていたけど、明石君のアカシックレコードの能力を狙っていたってことか。
「長年WCIで保護していたが、学校に行きたいって言い出して……だから俺が教師になって護衛としてついてるってワケだ」
「ターが見てた魔法少女アニメ……学校……面白そうだった……」
「だから見てない! た・ま・た・ま! やっていただけだ!」
それって地球の本棚……
44:(´・д・`):2019/09/12(木) 08:41 >>43
よく分かりましたね!
そうなんです地球の本棚の元ネタはアカシックレコードなんです
元ネタの元ネタの元ネタの……
46:(´・д・`):2019/09/12(木) 23:06 >>45 そんな感じです()
元ネタの元ネタの元ネタ……
左巻先生と明石君には、なんだか侵しがたい領域というか──間に入れないような気がして。
私に話したことも多分一部で、二人には別の世界があって、それはもう固い秘密を共有しているんだろう。
二人とは今日会ったばかりで深い関係でもないのに、なんだか仲間外れにされた気分だった。
私が勝手にそんな風に感じてるだけだけれど……。
「明日の任務も警戒を怠るなよ。つーかもう1人で出歩くな」
「……ん。今日の任務は?」
「6時から潜入捜査だ」
目の前に、平凡な日々から抜け出せるチャンスがあるのだ。
みすみすと二人を逃すわけないでしょ。
──私、モブで終わる気はさらさら無い。
「あの……私も! 私もWCIに入りたい! どうやったらなれる?」
無理矢理二人の間に入り、懇願するように訴えた。
明石君は相変わらず無表情で、左巻先生は盛大にため息を吐いて呆れ返っていた。
「ダメだダメだ、お前みたいな馬鹿ネコに務まるわけない」
「任務、危険……」
もちろん簡単に二人が首を縦に振るはずもないことは分かっている。
でも、だからって引き下がるわけないじゃん?
激しい銃撃戦、飛んだり跳ねたり自由に戦えた格闘、明石君を巡る攻防戦。
危険と隣り合わせなシチュエーションだったけど、戦っている時の高揚感が忘れられずにいた。
私は戦っている、普通の女子高生とは違う、特別だって思えた、唯一の、瞬間。
「こっちは遊びじゃなくて命懸けなんだよ。お前みたいにヒーローに憧れてやってるんじゃない」
「動機が不純で何が悪い! WCIだって正義感で捜査官やってるやつなんか、ほんのひと握りでしょ! それに先生だって私がいなければお陀仏だったじゃん!」
「……確かに、ターのピンチ、救った……」
「ゔっ」
左巻先生の痛いところを突くと、彼は苦虫を噛み潰したよう顔で返した。
「俺はお前と違って死ぬ覚悟できてんだ。お前みたいな女子高生は未練タラタラだろ」
「命懸ける覚悟できてる! 死んだって文句言わない!」
「高校生の戯言なんか聞いてられるか」
左巻先生は、ポケットから取り出した電子タバコをふかした。
年齢差を見せつけられたようで、悔しい。
「──命って、そんな大事でもなくないですか?」
ぽつりと出た一言に、左巻先生は目を見開き、無表情だった明石君は眉をピクリと少し釣り上げた。
大きい事を成し遂げようとなると、命懸けでなきゃできない。
革命も、戦争も、ヒーローになるのも、命を懸けてこそ成立する。
命を大切にするとは程遠い行為だが、私には、それが"正しい命の使い方"のように見えてしまうのだ。
「平凡な人生に未練もありません。命に執着もありません。ただ、平凡な日々から抜け出したい」
未練がない人間は、死を恐れるより、死に至るまでの痛みを恐れる。
刺されるのが嫌なのは、命を落とすのが嫌というより、刺された時の痛みが嫌だから人は刺されたくないと思うのだ。
「命はかけがえのない宝物、だろ。粗末にするなよ」
「命の価値くらい、私にも分かります。命は平等とか綺麗事で……私の命と明石君の命なら、明石君の命の方が圧倒的に重い。左巻先生も、それが分かってるから自分の命を捨てられるんんですよね?」
「……高校生のくせに」
明石君の命は、私の命を10個積んだところで天秤が傾かないような価値がある。
平凡な人間と、アカシックレコードを使える人間とじゃN(ノーマル)とUR(ウルトラレア)くらいの差がある。
「お願いします、お願いします! WCIの捜査官にして下さい!」
どうせ死ぬなら、老いて自分が自分だと認識できないくらいの認知症になって弱るより、価値あるものを守って死んでいきたい。
ミステリーとサスペンスに満ちた背徳的な日々に足を突っ込んで死んでいきたい。
その時だった。
──キーンコーン……
5時限目終了のチャイムが鳴り、廊下が少しずつ騒がしくなる。
「もう放課後か……後でWCIに連絡して社会科教室の後片付けさせるか」
先生は電子タバコをポケットにしまうと、明石君の肩を抱いて教室の扉を開けた。
私への返事を曖昧にしたまま。
「俺らはもう行くからな」
明石君と左巻先生は、最後に私の方を振り返って同時に言った。
「「放課後は、任務があるんで」」
教室に一人取り残された私は、悔しさに唇を歪めながら強く誓ったのだ。
──そのカッコイイ台詞を、いつか私も絶対に言ってやる。
〜episode01 complete〜