「 新入生の皆さん、ようこそ。帰宅部へ 」
結局谷は何の部活にも入らなかった。
この高校の特色として生徒の部活率の高さが挙げられているだけあって、何の部活にも所属していない人はこのクラスの中で数える程しかいなかった。
四月も終わりかけた頃。
谷は教師に呼び出しを食らっていた。呼び出されていたのは複数名だったが、仲の良い田中は呼び出されておらず、その事実が谷の不安を煽った。
「 日下部、谷、内藤、和田、今日の放課後に多目的室に来てくれ 」
クラスメイトの名前と顔が未だに一致していなかった谷は、教師に言われた時には分からなかったが、多目的室に行って彼ら三人の顔を見たらすぐに分かった。
この四人はどこの部活にも所属していない人だと。
部活に所属していない人を集めてどうするのか。学校の評判のためにどこかの部活に所属するよう言われるのだろうか。谷の頭には疑問しか浮かばなかったが、呼び出し通告をされた時より不安感はなかった。
次第に多目的室に人が集まってきた。
谷の中では全員新入生なのかという疑問が湧いてきたが、谷にはそれを分かる術はなかった。だがクラスでは片手で数えられる程しかおらず異端者のように扱われていた部活動無所属者も学校全体、あるいは一学年ともなれば一つの教室が丸々埋まる程にはいるという事実に安堵感さえ覚えた。
そんな時だった。
「 おお、今年もこんなに入部希望者がいるのか 」
「 問題なのは、この中から一体どれほどの人が残るのか、っていうことだな 」
とある生徒二人が多目的室に入ってき、何の躊躇いもなく部屋の前の方に立ったのは。
>>3 ありがとうございます! そう言って頂けると嬉しいです。
>>4 理解しています。ですがこの小説は私の想像で書きますので、何でも許せるような広い心持ちで読んで頂ければと思います。
少しざわついていた多目的室は二人の生徒の登場により静まり返った。
多目的室にいる他の生徒は、状況が全く掴めず戸惑っている様子。谷も勿論その一人であった。
「 新入生の皆さん、ようこそ 」
よく通る声の持ち主は先程入ってきた二人の生徒のうちの一人。
その生徒はぐるっと部屋中を見渡すと、また良く通る声でこう言った。
「 帰宅部へ 」
帰宅部というものは部活動に所属していない人達の俗称だと谷は思い込んでいた。否、ここにいる殆どの人がそう思い込んでいたであろう。
帰宅部という部活動が本当に存在し、そして自分が知らぬ間に帰宅部に属していたと知って驚かない者は粗居ない。多目的室は騒々しさを取り戻しつつあった。
「 静粛に。俺は帰宅部部長の山辺千紘だ 」
「 副部長の道島拓海です 」
「 では早速だが、君達新入部員には七月の夏季大会予選に向けて練習に励んでもらいたい 」
夏季大会? 帰宅部の?
谷の頭の中は疑問符で一杯だった。衝撃の新事実に頭が追いつかない。パンクしそうだ。
「 ……あの、私、塾があるんですけど…… 」
そんな時に一人の生徒から声が上がった。私も、等と言う声も聞こえてくる。
「 ……帰宅部は楽そうだと思ったというわけか? 」
山辺の声がざわつき出した新入生を制するように這う。
先程までの声とは違う。良く通る声なのは同じだが、声の高さやトーンが全く違った。その声からは怒りを読み取れる。
そんな山辺を宥めたのは道島。
「 山辺、そんなに熱くなるな。ちゃんと説明しなかったのはお前だろ。今から帰宅部について説明する 」
そして後に、新入部員達に地獄を見せるのも道島であるということはまだ誰も知らない。