「マフィアのボスです」
進路は? という質問に対する少女の率直な回答である。
なんて、険しい顔をしている進路指導の先生に言えるはずもなく──少女はその言葉を喉奥で潰して黙り込んだ。
少女と対面している女教師はメガネのブリッジを押し上げ、紅の引かれた唇を固く結んだ。
沈黙が重い。
時計の針が規則正しく時を刻む音と蝉の歌が、少女の救いだった。
「早いところ進路を決めてしまいなさい。もう夏休みにも入るんだし」
「……そうですね」
皺だらけの指は、進路希望欄の大きな空白を指している。
少女はとりあえず上辺だけの空返事をしたが、彼女の心に真剣に考える気は微塵も生じなかった。
シマウマ並の広い視野を持っていながら、マフィアの頂点しか見ていない。
「まぁ貴方の学力ならどこの大学でも問題なく入れるから選り取りみどりだものねぇ。迷うのも仕方ないわ」
女教師は少女の思惑からズレた見当違いなことを述べながら、名簿に面談終了と印字された欄にチェックを付けた。
印の埋まっていない欄は、残り一つ。
「じゃあ宇筒(うつつ)さんはこれで面談終わり。夢島さん呼んできてくれる? 彼女、進路希望に総理大臣! とか書いちゃってて……もう一回面談しないと」
「……そうですか」
人の進路を軽々しく言いふらす女教師に嫌悪感を覚えた少女──宇筒(うつつ)は、やはり先程の言葉は飲み込んでおいて正解だったと改めて思った。
これは二人の少女の物語。
マフィアの幹部か、総理大臣か。
夢(ゆめ)か。現(うつつ)か──。